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事件 令和 5年 (ネ) 10063号 特許権侵害差止等請求控訴事件
令和6年5月15日判決言渡 令和5年(ネ)第10063号 特許権侵害差止等請求控訴事件 (原審・大阪地方裁判所令和2年(ワ)第4913号) 口頭弁論終結日 令和6年1月24日 5判決 当事者の表示 本判決別紙1当事者目録記載のとおり
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2024/05/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告の控訴に基づき、原判決主文第1項及び第3項を取り消す。
2 原判決主文第1項及び第3項に係る原告の請求をいずれも棄却する。
10 3 原告の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第1、2審とも原告の負担とする。
5 なお、原判決主文第2項及び第4項(除却請求に係る部分と本判決別紙2記載の金員の支払を求める損害賠償請求に係る部分に限る。)は、
原告の訴えの取下げ又は請求の減縮により、いずれも失効している。
15 事 実 及 び 理 由第1 控訴の趣旨1 原告(1) 原判決主文第3項及び第4項(除却請求に係る部分と本判決別紙2記載の金員の支払を求める損害賠償請求に係る部分を除く。)を次のとおり変更する。
20 被告は、原告に対し、4億6956万1281円並びにうち2億8810万4179円に対する令和2年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員及びうち1億8145万7102円に対する令和3年11月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は第1、2審とも被告の負担とする。
25 (3) 仮執行宣言(4) なお、原告は、当審において、第1審において求めていた廃棄請求及び除- 1 -却請求に係る訴えをいずれも取り下げ、損害賠償請求(11億円及びこれに対する令和2年6月16日から支払済みまで年5%の割合による金員の支払を求めるもの)を前記(1)のとおりに減縮した。
2 被告5 本判決主文第1項、第2項及び第4項と同旨第2 事案の概要1 本件は、発明の名称を「電動式衝撃締め付け工具」とする特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、
被告が輸入・販売等をする原判決別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」とい10 う。)は本件特許に係る特許発明(本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1記載の発明。以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属し、被告による被告製品の輸入・販売等は本件特許権を侵害すると主張し、被告に対して、@特許法100条1項に基づき、被告製品の輸入・販売等の差止めを求め、A同条2項に基づき、被告製品の廃棄及び被告製品の製造に必要な金型の除却を求め、B被告及び被告製品15 の製造者等による共同不法行為又は被告による単独の不法行為に基づく損害賠償として、11億円及びこれに対する不法行為の日(被告製品の販売がされた期間内の日)である令和2年6月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号附則17条3項の規定によりなお従前の例によることとされる場合における同法による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求20 めた事案である。
原審は、前記@の請求を認容し、前記Aのうち廃棄請求を認容し、除却請求を棄却し、前記Bの請求を元本4486万7903円及び前記改正前の民法所定(年5%の割合)又は民法所定(年3%の割合)の遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却した。
25 原告は、原判決のうち損害賠償請求の一部を棄却した部分を不服として控訴を提起し、被告は、原判決のうち自己の敗訴部分を不服として控訴を提起した。原告は、
- 2 -当審において、前記Aの請求に係る訴えをいずれも取り下げ、前記Bの請求を前記第1の1(1)のとおりに減縮した。
2 前提事実、争点及び争点についての当事者の主張(原判決の引用)5 前提事実、争点及び争点についての当事者の主張は、後記(原判決の補正)のとおり原判決を補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の1及び2並びに第3(3頁2行目から56頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、引用文中「別紙」とあるのは「原判決別紙」と読み替える(以下同じ。)。
10 (原判決の補正)(1) 4頁2行目末尾に「(甲64)」を加える。
(2) 4頁8行目の「参考例2とする」を「参考例2とするなどする」と改める。
(3) 4頁11行目の「以下」の次に「、本件訂正後の請求項1に係る発明を」を加える。
15 (4) 6頁2行目の「公開」の次に「。乙6」を加える。
(5) 8頁12行目の「電動モータの」の次に「出力部の」を加える。
(6) 9頁7行目から10行目までを以下のとおり改める。
「 被告製品は、ピストン方式の油圧パルス発生装置によって衝撃を発生させ、
締め付けを実現する工具である。」20 (7) 10頁24行目の「本件特許」の次に「(本件発明に係るもの。以下同じ。)」を加える。
(8) 19頁24・25行目の「2つの磁極部を持つステータを備える」を「2種類の」と改める。
(9) 25頁14行目の「被告」から15行目末尾までを「被告は、本件発明の25 構成要件B2のみを独立の相違点として抽出している。」と改める。
(10) 28頁1行目及び7行目の各「乙16発明」並びに8行目の「乙16文献」- 3 -をいずれも「乙16公報」と改める。
(11) 30頁26行目の「乙8発明」を「乙8公報」と改める。
(12) 31頁18行目の「認められない」を「認められないし、阻害要因があるとすらいえる」と改める。
5 (13) 32頁2行目及び3行目を以下のとおり改める。
「 仮に、本件特許に本件発明の進歩性欠如の無効理由(乙7発明に基づくもの)があるとしても、以下のとおり、本件訂正により当該無効理由は解消し、被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属する。」(14) 33頁16行目の「乙7発明」を「乙7公報」と改める。
10 (15) 34頁1行目の「被告が」から3行目末尾までを「後記乙93発明等の課題は、乙7発明のそれと全く異なる。」と改める。
(16) 34頁9行目及び20行目の各「本件訂正発明」の次にいずれも「に係る特許請求の範囲の記載」と改める。
(17) 37頁7行目の「作用効果」から8行目の「技術常識」までを「作用及び15 機能の共通性並びに技術常識」と改める。
(18) 39頁18行目の「構成要件C」を「構成要件A2及びC」と改める。
(19) 40頁22行目の「特許」を「特許発明」と改める。
(20) 41頁1行目の「AB」を「ABら」と改める。
(21) 46頁7行目及び8行目並びに48頁8・9行目の各「本件訂正発明」を20 いずれも「本件発明」と改める。
(22) 48頁14行目の「被告製品における」の次に「本件発明及び」を加える。
(23) 55頁1行目の「本件特許」を「本件訂正発明」と改める。
(24) 55頁2行目の「理由する」を「理由とする」と改める。
第3 当裁判所の判断25 1 当裁判所は、本件発明又は本件訂正発明(以下「本件発明等」と総称する。)はいずれも本件優先日当時の当業者が乙15発明に基づいて容易に発明をすること- 4 -ができたものであり、したがって、本件特許に無効理由(乙15発明を主引用発明とする本件発明の進歩性欠如)がある旨をいう被告の抗弁は理由があり、他方、本件訂正によっても当該無効理由は解消されないから、結局、原告の請求は全部理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
5 2 本件各発明に関する認定本件各発明に関する認定は、次のとおり原判決を補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第4の1(56頁6行目から62頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)10 (1) 56頁7行目の「、前提事実(2)ウ」から9行目の「また」までを削る。
(2) 59頁10行目の「…」を削る。
(3) 61頁10行目の「(【0039】)」を「この電動式ハンマレンチR2においても、実施例1と同様にアウタロータ型電動モータMを使用しているので、同様に優れた機能を有していることが明らかである。(【0039】、【0042】)」15 と改める。
(4) 61頁14行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「(2) 本件訂正により変更された明細書の記載(段落【0045】を除く。下線部は訂正箇所である。)【0035】20 この欄に示した内容については以下の参考例1、2においても同様に適用できる。
【参考例1】【0036】この参考例1は、この発明の電動式衝撃締め付け工具のうちハンマ式衝撃機構部8を有する電動式ハンマレンチR1に関するものである。
25 【参考例2】【0039】- 5 -この参考例2は、この発明の電動式衝撃締め付け工具のうちクラッチ式衝撃発生部9を有する電動式クラッチレンチR2に関するものである。
【0042】この電動式ハンマレンチR2においても、実施例1と同様にアウタロータ型電動5 モータMを使用しているので、同様に優れた機能を有していることが明らかである。
(その他)上記実施例1における電動式衝撃締め付け工具は一例であり、アウタロータ型電動モータの出力部の回転を衝撃発生部に伝達し、前記衝撃発生部において発生する衝撃力によりメインシャフトに強力なトルクを発生させる形態であれば、この発明10 の技術的範囲に属するものである。」(4) 61頁15行目の「(2)」を「(3)」と改める。
(5) 61頁19行目の「トルクを上げるために」を「ブラシレスのモータを用いた小型サイズのものでは、トルクを上げるために比較的大きな」と改める。
(6) 61頁24行目の「インナロータ型」を「インナロータ型電動モータを採15 用した場合」と改める。
3 本件特許の無効理由の存否(乙15発明を主引用発明とする本件発明の進歩性欠如(争点2−4))及び本件訂正による無効理由の解消の成否について事案に鑑み、争点2−4に係る被告の抗弁及びこれに対する原告の再抗弁から判断する。なお、原告の再抗弁(本件訂正を理由とする訂正の再抗弁)は、争点2−20 2に係る被告の抗弁(乙7発明を主引用発明とする本件発明の進歩性欠如)に対して提出されたものであるが(争点3参照)、当裁判所は、原告が争点2−4に係る被告の抗弁に対しても本件訂正を理由とする訂正の再抗弁を提出しているものと善解した。
(1) 乙15公報の記載25 乙15公報には、次の記載がある。
【請求項1】 ケーシングに、回転駆動源としての電動モータと、この電動モータ- 6 -によって駆動されるパルス力発生手段と、このパルス力発生手段により発生されてツール出力軸に伝達されるトルクを検知するトルク検知手段と、このトルク検知手段の出力にもとづいて前記電動モータを制御する制御手段とを収容したことを特徴とするトルク制御式パルスツール。
5 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、ねじ締めツールなどのトルク制御式パルスツールに関する。
【0002】【従来の技術】パルス力を発生させる従来のねじ締めツールとして、回転駆動源に10 エアモータを使用したエアツールや、回転駆動源に電動モータを使用した電動ツールなどが知られている。この種のねじ締め用のツールでは、締め付け対象物としてのねじが所定のトルクで締め付けられるように、対象物へ付与するトルクを一定値に設定しかつ制御するようにしたものが知られている。その場合にはトルク制御のためのコントローラが必要になるが、このコントローラは、電源ユニットと、各対15 象物に付与するトルクをそれぞれ制御するためのトルク制御ユニットと、複数の対象物についてのトルクデータを保管しかつ統計的に解析する計測管理ユニットとを併せ持つのが通例である。したがって、一般に大形になることが多く、外置き式とするのが通例である。
【0004】20 【発明が解決しようとする課題】しかし、このような別置のコントローラを用いたものでは、下記のような問題点があった。
1.歪ゲージによる微弱なトルク出力信号を別置のコントローラまで伝送する必要があるため、ノイズに弱い。
2.トルク検出手段が含まれているツール本体と、トルク検出信号の増幅および制25 御を担当するコントローラとが別置きであることから、ツールを連続運転した場合にはツールだけが目立って発熱するということがよくあり、その場合には、ツール- 7 -の周囲温度とコントローラの周囲温度とが異なってトルクの制御精度が悪くなる。
3.一般にコントローラはスペースの関係もあって据置き式とされることが多いが、
その場合は、ねじ締め目標トルクを設定する場所と実際にツールでねじ締め作業を行う場所とが異なる。このため、コントローラで行うねじ締め目標トルクの設定作5 業と、ツールで行うねじ締め作業と、コントローラで行うねじ締めされたトルクの確認作業とで、作業場所を異ならせる必要があり、作業効率が悪い。
4.ねじ締めシステムが故障したときに、ツールが故障したのか、コントローラが故障したのか、区別がつかないことがある。この場合に、修理のためにはツールとコントローラとを別々に調査しなければならず、サービスが非効率的になる。
10 【0005】一方、コントローラは多くの型式のツールを制御できるように汎用性を持っていることが多く、たとえば1台のコントローラが5台のツールをセットで備えているというようなことが推奨される。しかし、実際の流れ生産ラインでは、
段取代えを敬遠するために、実際には非常に高価な1台のコントローラに1台のツールしか付属しない状態で固定されて使用されるのが現状である。
15 【0006】そこで本発明はこのような問題点を解決し、簡単な構成で所要の締め付けトルクの制御を行えるようにすることを目的とする。
【0007】【課題を解決するための手段】この目的を達成するため本発明は、ケーシングに、
回転駆動源としての電動モータと、この電動モータによって駆動されるパルス力発20 生手段と、このパルス力発生手段により発生されてツール出力軸に伝達されるトルクを検知するトルク検知手段と、このトルク検知手段の出力にもとづいて前記電動モータを制御する制御手段とを収容したものである。
【0008】【作用】このような構成によれば、パルスツールを構成するケーシングに、ツール25 の出力軸に伝達されるトルクを検知するトルク検知手段と、このトルク検知手段の出力にもとづいて電動モータを制御する制御手段とを収容したため、目標トルクの- 8 -設定や制御をケーシングの内部で行うことができて、外置きの制御装置を必要とせずに対象物に設定トルクを付与させることができ、自己完結型のトルク制御式パルスツールが得られる。
【0011】5 【実施例】図1〜図3は、パルスツールの一例としてのねじ締めツール11を示す。
このねじ締めツール11は手持ち式のツールとして構成され、そのケーシング12は本体部13とハンドル部14とを備えている。本体部13の内部には、回転駆動源としての電動モータ15と、この電動モータ15によって駆動される油圧式のパルス力発生装置16とが設けられている。
10 【0012】パルス力発生装置16は、電動モータ15から供給される連続的なトルクをインパルス状のトルクに変換するもので、電動モータ15からのトルクをピーク値で50〜100倍に増幅可能である。このような油圧式のパルス力発生装置16の詳細は、たとえば実開昭59−140173号公報や特開昭62−246481号公報に示されている。あるいは、パルス力発生装置16として、上述の油圧15 式のものに代えて、機械的な衝撃力を発生させるものを利用することもできる。
【0013】電動モータ15には発生トルクの大きいDCモータを使用することが多いが、高速のACサーボモータまたはDCサーボモータを使用することができる。
また、小容量のモータを使用可能とするとともに、それによってツールを小形化可能とするために、トルクを増幅するための減速機構を設置することもできる。電動20 モータ15には、角度センサ17が機械的に接続されている。
【0014】パルス力発生装置16の出力側には非接触の磁歪式のトルクセンサ軸18が同軸に接続され、このトルクセンサ軸18の先端にさらにツール出力軸19が同軸に接続されている。このツール出力軸19は、その先端がケーシング12から突出することで、所要のねじ締め操作に供することが可能である。
25 【0025】…オンオフスイッチ34を操作して電動モータ15を作動させると、
それに対応してパルス力発生装置16にてインパルス力が発生され、このインパル- 9 -ス力によって出力軸19が回転されるので、所定のねじ締め作業を行うことが可能になる。そのときの付与トルクは、トルクセンサ21によって検知される。
【図1】5 (2) 乙15発明の認定前記(1)の乙15公報の記載及び弁論の全趣旨によると、乙15公報には、次の乙15発明が記載されているものと認めるのが相当である(なお、当事者双方とも、
当該認定を争うものではない。)。
(乙15発明)10 a 電動モータ15の出力軸の連続的な回転を油圧式のベーン方式のパルス力発生装置16に供給し、パルス力発生装置16が増幅されたインパルス状のトルクを発生し、パルス力発生装置16の出力と同軸に接続されたツール出力軸19にねじ締付用のトルクを発生させる電動モータ付きトルク制御式パルスツールにおいて、
- 10 -b 電動モータは、
b1 中空円筒状のステータと、
b2 ステータ又はロータの一方に固定された永久磁石であって、ステータ又はロータの他方との間に隙間を開けて固定された永久磁石と、
5 b3 円柱状のロータとを備えるb4 インナロータ型のDCモータであることを特徴とするc 電動モータ付きトルク制御式パルスツール(3) 本件発明等と乙15発明との相違点の認定ア 本件発明の構成(補正して引用した原判決第2の1(2)ア及びイ)又は本件10 訂正発明の構成(補正して引用した原判決第2の1(3)ア及びイ)と乙15発明の構成(前記(2))とを対比し、弁論の全趣旨も考慮すると、本件発明等と乙15発明との間には、次の相違点A及び相違点Bが存在するものと認めるのが相当である。
(相違点A)電動モータに関し、本件発明等は、磁極部を持つステータと磁石を内周面に保持15 する筒缶部を有するロータとを備えるアウタロータ型であるのに対し、乙15発明は、インナロータ型であってアウタロータ型でない点(相違点B)磁石の保持の態様に関し、本件発明等は、磁石が「前記ステータの外周側に隙間を設けて貼設され」ているのに対し、乙15発明は、磁石を保持する態様が明示さ20 れていない点イ 前記アの認定に関し、原告は、「本件発明等と乙15発明との相違点に係る本件発明等の構成は、構成要件B1からB4までに係るものであり、これらは、技術的思想としてひとまとまりのものであるから、当該相違点の認定に当たり、相違点A(構成要件B1、B3及びB4)と相違点B(構成要件B2)とに分けて認定25 するのは相当でない」と主張する。
しかしながら、本件発明等や乙15発明のように電動式衝撃締め付け工具を構成- 11 -する部材や機械を発明特定事項(本件発明等については構成要件B1からB4まで)とする特許発明が備える各部材や機械それ自体は個別に分析することが可能なものであって、各部材や機械ごとに本件発明等と乙15発明との相違点を分析的に認定し、当該各相違点に係る本件発明等の構成の容易想到性について個別の検討をした5 からといって、本件発明等がひとまとまりの技術的思想として構成要件B1からB4までを備えたものであることを否定するものではない。
したがって、原告の主張を採用することはできない。
(4) 相違点Aに係る本件発明等の構成の容易想到性ア 公知発明の認定10 (ア) 乙6文献の記載乙6文献(なお、乙142は、乙6文献の追加訳文である。)には、次の記載がある。
a 表題「電動手工具(パワーハンドツール)への応用のための高トルク機械」(64415 頁表題)b 序論「電動手工具(パワーハンドツール)への応用には、概して適度な速度で高い出力のトルクが必要である。製品は、軽量、小型、かつ、人間工学的なデザインでなければならない。必要なトルクを達成するために、強制空冷式直流モータ又はユニ20 バーサルモータをステップダウンギアボックスと共に用いるのが通常である。
上述のシステムは、頑丈で費用対効果が高いが、主要な3つの問題がある。
1.音響騒音のレベルが比較的高い。換気ファンとギアボックスによって生まれた雑音が組み合わされるためである。これは、音響騒音規制法令の規制レベル及び人々の騒音に対する許容度が低下するにつれ、消費者にも製造業者にも重要な問題に25 なってきている。
2.ギアボックスにより生じる人間工学的なレイアウトにおける制限。限られた空- 12 -間での操作や隅まで届くことが必要になる電動工具では、これは、特に繊細な事項である。
3.効率が低い。モータは、電気装荷が高いので、銅損失が高い。さらに、ギアボックスからの損失によりシステム効率が低くなる。
5 この論文は、トルク密度が非常に高い電気機械を製造することによって、良好なシステムの製造を目指した研究に関して報告するものである。…2つの機械が作られた。その1つは、従来の積層構造を用いた径方向界磁型機であ…る。」(644頁左欄1〜32行目)c 仕様10 「この仕様では、機械は、以下の事項を満たすことが求められた。
表1機械的配置 アウタロータ外径 50mm軸長(コイル端を含む。) <65mm冷却 外面ファン換気定常状態定格 1.5Nm速度 毎分1500回転」(644頁左欄38〜39行目、左欄の表1)d 積層型機「作製されたアウタロータ型の積層構造機は、三相ブラシレス設計であり、磁気15 装荷を最大化するために、焼結希土類磁石が使用されている。この機械は、以下の設計特徴を有する。
極数コアバック部の奥行き及びコイル端の突き出しを最小限にするために、極数を多くする必要がある。…速度が比較的緩やかであるため、16極設計が選択され…た。
20 極対当たりの歯数- 13 -焼結希土類磁石を用いたアウタロータ型機は、全エアギャップ磁束が大きいので、
設計が難しい。…この問題を、通常とは異なる設計を採用することで克服する。この設計では、各歯のスパンが240度、すなわち、2つ以上の極にわたる。したがって、図2に示す5 ように、この16極機には、12歯しかない。…図2より広いスロット面積が得られる16極12歯設計巻線配置10 …単純化するために、代替的な配置が選択された。この配置では、1つおきにしか歯に巻線を配置していないので、16極機にコイルが6つしかない。…図5は、この機械の写真であり、巻線及びロータ構成を示している。主な寸法は、
表2にある。
15- 14 -図5積層型機表2積層型モータ極数 16相数 3ステータ歯数 12外径 50mm積層スタック長 50mm全軸長 65mm磁石の種類 焼結NeBFe磁石径方向奥行き 2.5mmエアギャップ長 0.5mmステータ外径 40mm歯幅 3.0mm相当たりのコイル 2相当たりのターン 190- 15 -巻線径 0.3mmスキュー 1/2スロットピッチ」(644頁右欄1行目〜645頁右欄本文22行目、左欄中段の図2、646頁左欄の図5、表2)e 結論「高トルクの用途のために、2つの根本的に異なる種類の機械を設計・製作して5 試験を行った。いずれの機械も、強制冷却なしで著しく高い比出力を発生する。…いずれの機械も、課されていた意欲的(ambitious)な仕様を満たすことはできないが、磁気設計がより洗練されれば、クローポール型機は、この仕様を満たすことができると予想される。」(649頁左欄下から15〜3行目)(イ) 乙6文献記載の発明の認定等10 a 前記(ア)の乙6文献の記載及び弁論の全趣旨によると、乙6文献には、次の乙6発明Aが記載されているものと認めるのが相当である。
(乙6発明A)それぞれの歯にコイルを配置するステータと、前記ステータの外周側に隙間を設けて配置された焼結希土類磁石と、前記焼結希土類磁石を内周面に保持する筒状の15 ロータとを備え、パワーハンドツールに応用されるアウタロータ型電動モータb 本件発明等と乙6発明Aとを比較すると、乙6発明Aは、相違点Aに係る本件発明等の構成(磁極部を持つステータと磁石を内周面に保持する筒缶部を有するロータとを備えるアウタロータ型であること)を全て備えるものと認められる。以下、本件優先日当時の当業者において、乙15発明に乙6発明Aを適用し(以下、
20 この適用を「本件適用1」ということがある。)、相違点Aに係る本件発明等の構成に容易に想到し得たか否かについて検討する。
なお、原告は、乙6文献記載の電動モータは未完成であるから、これを公知発明として乙15発明に適用することはできないと主張する。
確かに、乙6文献には、「いずれの機械も、課されていた意欲的な仕様を満たす- 16 -ことはできない」との記載(前記(ア)e)がある。しかしながら、当該記載は、乙6文献記載の電動モータが研究者らにより課された意欲的(ambitious)な仕様を満たさなかったことをいうものにすぎず、当該電動モータが電動モータとして機能しないことをいうものではないから、乙6文献記載の電動モータが、およそ引用発5 明に対する適用可能性を否定されるような未完成なものということはできない(乙6文献記載の電動モータは、「強制冷却なしで著しく高い比出力を発生する」ものである(前記(ア)e)。)。そして、本件発明等及び乙15発明は、いずれも回転駆動源として電動モータを使用することを前提とするものであるから、相違点Aに係る本件発明等の構成の容易想到性の判断に当たり、本件適用1の可否を検討する10 ことが許されないとする理由はない。
以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
イ 本件適用1に係る動機付けの有無(ア) 技術分野前記(1)及び(2)によると、乙15発明は、回転駆動源に電動モータを使用したト15 ルク制御式パルスツール(ねじ締めツール等)の技術分野に属するものと認められ、
前記アによると、乙6発明Aは、パワーハンドツール(電動手工具)に応用される電動モータの技術分野に属するものと認められる。
そして、回転駆動源に電動モータを使用したトルク制御式パルスツール(ねじ締めツール等)は、その内容に照らし、パワーハンドツール(電動手工具)の一種で20 あると認められるから(乙15公報の【図1】等参照)、乙15発明(電動モータに係る部分)と乙6発明Aは、いずれもパワーハンドツール(電動手工具)に使用可能な電動モータに関する技術として、その属する技術分野を共通にするものと認めるのが相当である。
原告は、トルク制御式パルスツール(乙15発明)と電動モータ(乙6文献記載25 の発明)とはその属する技術分野を異にする旨主張するが、前記説示したところに照らすと、原告の主張を採用することはできない。
- 17 -(イ) 乙15発明が有する課題a 刊行物の記載以下の各刊行物には、次の各記載がある。
(a) 乙33(電動式締め付け工具(パルスツールを含む。)に係る被告作成の5 商品カタログ(2004年))@ 「トルクの推奨 トルクは、必要な型締力を確実にするために重要である。」(9頁左欄1〜2行目)A 「ErgoPulseの範囲は、2〜450Nmのトルクをカバーする。これは、M4からM20までのねじを締めることができることを意味する。」(1810 頁右下欄2〜4行目)(b) 乙119(「電設資材」32巻4号(平成15年)の29〜36頁に掲載された「最近の電動工具の動向」(服部憲靖著))「…コンプレッサーを使用して締め付け作業の多い工場でのコードレスツール(バッテリー電動工具)の需要が高まってきている。…しかし、バッテリー工具で15 は空気工具の持つ精度の出る締め付けトルクに追いつけない弱点もあると聞いている。」(30頁左欄13〜24行目)(c) 乙120(「応用機械工学」34巻11号(平成5年)の30〜31頁に掲載された「独自の機能を製品化したドイツ製電動工具」)「ねじ締め用工具 手工具(レンチ)では、締めることができない(締められな20 い)ねじを締付るために電動工具(インパクト・レンチ)が組立工程で使用される。
ファイン社の機械組立用として使用されるスクリュ・ドライバは、M5〜M10までのねじを締め付ける場合に用いられる。M5の小ねじやナット用のASsde630(締め付けトルクが6〜65kg・cm/150W)、M6の小ねじやナット用のASse636(最大締付トルク:120kg・cm/230W)、M8ねじ25 用のDSse642(最大締付トルク:300kg・cm/600W)、M10ねじ用のASs648−1(最大締付トルク:500kg・cm/400W)などの- 18 -4種類がある。」(31頁中欄4〜21行目)(d) 乙6文献に「電動手工具(パワーハンドツール)への応用には、概して適度な速度で高い出力のトルクが必要である。」との記載があることは、前記ア(ア)bのとおりである。
5 (e) 乙15公報に「【0013】電動モータ15には発生トルクの大きいDCモータを使用することが多いが、高速のACサーボモータまたはDCサーボモータを使用することができる。また、小容量のモータを使用可能とするとともに、それによってツールを小形化可能とするために、トルクを増幅するための減速機構を設置することもできる。」との記載があることは、前記(1)のとおりである。
10 b 前記aの各記載及び弁論の全趣旨によると、電動式衝撃締め付け工具によりねじの締め付けを行うためには、ねじの外径(なお、前記aの各記載中にある「M」の後の数字は、ねじの外径(mm)を表す。)に相応した大きさの出力トルクを要するところ、本件優先日当時、電動式の衝撃締め付け工具が出力するトルクは、空気式のそれが出力するトルクよりも小さいものであったと認められる。もっとも、
15 証拠(乙31)及び弁論の全趣旨によると、一定の外径を有するねじの締め付けのためには、当該外径にふさわしい出力トルクの範囲が存在するものと認められるが、
小さい外径のねじに対しては、電動モータから出力されるトルクを調整することにより対応することが可能である一方、電動モータから出力可能なトルクを超えるトルクを要する外径の大きなねじについては、工具から出力されるトルクを増幅する20 ための機構(ギヤボックス等)を必要とするから、本件優先日当時、電動式衝撃締め付け工具においては、電動モータの出力トルク自体を大きくすることが一般的に要請されていたものと認めるのが相当である。
また、パワーハンドツール(電動手工具)においては、その性質上、小型化及び軽量化が求められているものと認められるところ(前記ア(ア)b等)、弁論の全趣25 旨によると、同一磁力で駆動する二つのモータを比較した場合に出力トルクがより大きい電動モータは、同一のトルクを出力する場合には、より小型・軽量化を図る- 19 -ことができると認められるから(なお、補正して引用する本件明細書の段落【0026】、【0027】等参照)、工具の小型化及び軽量化を図るとの観点からも、
パワーハンドツール(電動手工具)である電動式衝撃締め付け工具においては、電動モータの出力トルクを大きくすることが一般的に要請されていたものと認められ5 る。
以上によると、パワーハンドツール(電動手工具)である電動式衝撃締め付け工具に該当する乙15発明(乙15公報の【図1】等参照)は、本件優先日当時、電動モータの出力トルクを大きくするとの課題(以下「本件課題」という。)を有していたものと認めるのが相当である。
10 c 原告は、電動式衝撃締め付け工具における出力トルクにはねじのサイズ等との関係で適正な値があり、出力トルクが高ければ高いほどよいというものではないと主張する。しかし、本件では、同一の適正な出力トルクを達成し、かつ、電動式締め付け工具の小型・軽量化を可能にするという観点から、電動モータの構造・出力トルクが問題となっているのであり、この場合には、相対的に出力トルクが大き15 くなる電動モータを利用したときは、トルクを増幅するための機構を不要とするとの意味において、より小型・軽量化が可能になるはずである。原告の主張は、一般論を述べるにすぎず、電動式締め付け工具に利用される電動モータの技術分野において、出力トルクを大きくするという課題が存在することを否定するに足りるものではない。
20 また、原告は、乙15公報の段落【0013】の記載を根拠に、乙15発明は出力トルクが小さい電動モータの使用を可能としているから、出力トルクを大きくすることは乙15発明の課題ではないと主張する。確かに、段落【0013】には、
「電動モータ15には発生トルクの大きいDCモータを使用することが多いが、高速のACサーボモータまたはDCサーボモータを使用することができる」との記載25 がある。しかしながら、同段落には、これに続いて「小容量のモータを使用可能とするとともに、それによってツールを小形化可能とするために、トルクを増幅する- 20 -ための減速機構を設置することもできる」との記載がされており、「小容量のモータ」、すなわち、出力トルクが小さい電動モータが使用される場合には、減速機構(ギアボックス等)によって工具の出力トルクを増幅することが想定されているとみられるのであるし、そもそも、同段落の冒頭には、「電動モータ15には発生ト5 ルクの大きいDCモータを使用することが多い」との記載があるのであるから、同段落の記載をもって、乙15発明が電動モータの出力トルクを大きくするとの本件課題を有していないということはできない。原告の主張を採用することはできない。
(ウ) 本件課題の解決手段a 刊行物の記載10 以下の各刊行物には、次の各記載がある。
(a) 乙21(「シャープ技報」82号(平成14年)の34〜39頁に掲載された「モータの最新技術動向」(池防泰裕著))「インナーロータ型の課題は、アウターロータ型と比較し同一外形ではロータの大径化が困難であり、その結果、大トルクを要するときに高い駆動電流を必要とす15 る点である。」(38頁本文3〜6行目)(b) 乙22(「平成16年度電気関係学会東北支部連合大会予稿集」(平成16年)の115頁に掲載された「アウターロータ型ブラシレスDCモータの駆動方式の検討とその応用(第1報)」(櫻井隆憲ら著))「本研究では、インナーロータ型より高トルクであるアウターロータ型のBLD20 Cモータを研究対象として、より低速度を実現できる駆動方式を検討し、事務機等に応用することを目的としている。」(115頁左欄7〜10行目)(c) 乙6文献に「電動手工具(パワーハンドツール)への応用のための高トルク機械」、「この論文は、トルク密度が非常に高い電気機械を製造することによって、良好なシステムの製造を目指した研究に関して報告するものである」及び「作25 製されたアウタロータ型の積層構造機は、三相ブラシレス設計であり、磁気装荷を最大化するために、焼結希土類磁石が使用されている」との記載があることは、前- 21 -記ア(ア)a、b及びdのとおりである。
(d) なお、本件優先日前に頒布された刊行物であるか否かが判然としない乙23(「仙台電波工業高等専門学校研究紀要」35号(平成17年)の37〜42頁に掲載された「アウターロータ型ブラシレスDCモータの駆動方式による特性比較」5 (櫻井隆憲ら著)(平成17年8月22日原稿受理))には、「アウターロータ型のモータは、インナーロータ型のモータよりも高トルク化が容易である。」(37頁左欄2〜3行目)、「アウターロータ型のモータは、回転子が外側に位置しているため、同じサイズのインナーロータ型のモータよりも回転子の半径を大きくする事ができる。回転子の半径が大きいと発生モーメントが大きくなるので、アウター10 ロータ型のモータは高トルク化が容易である。」(37頁右欄9〜14行目)及び「動力に大きいトルクが必要な事務機や電気自動車等の場合は、インナーロータ型よりもアウターロータ型のモータの方が動力として適している。」(38頁左欄1〜3行目)との記載がある。
b 前記aの各記載及び弁論の全趣旨によると、乙15発明が備えるインナロー15 タ型の電動モータをアウタロータ型のものに置き換えることにより、電動モータの出力トルクを大きくするとの本件課題を解決することができるといえるから、アウタロータ型の電動モータである乙6発明Aは、乙15発明が有する本件課題の解決手段であると認めるのが相当である。
(エ) 乙6文献における示唆20 乙6文献には、「電動手工具(パワーハンドツール)への応用のための高トルク機械」及び「電気手工具(パワーハンドツール)への応用には、概して適度な速度で高い出力のトルクが必要である」との記載があるところ(前記ア(ア)a及びb)、
これらの記載は、乙6発明Aの電気手工具(パワーハンドツール)への適用を明示するものである。
25 そして、乙15発明も、電気手工具(パワーハンドツール)の一種であると認められる以上(乙15公報の【図1】等参照)、乙6発明Aの乙15発明への適用は、
- 22 -乙6文献において、少なくとも示唆されているといえる。
(オ) 本件適用1に係る動機付けの有無についての小括以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、乙15発明に乙6発明Aを適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
5 ウ 本件適用1に係る阻害要因の有無原告は、乙15発明において電動モータの出力トルクを大きくすることは乙15発明と対立することであると主張するが、前記イ(イ)b及びcにおいて説示したとおり、電動モータの出力トルクを大きくすることは、本件優先日当時に乙15発明が有していた課題(本件課題)であると認められるから、本件課題を解決する手段10 を講じることが乙15発明と対立するということはできない。原告の主張を採用することはできない。
その他、本件適用1に阻害要因があるものと認めるに足りる証拠はない。
エ 相違点Aに係る本件発明等の構成の容易想到性についての小括以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、乙15発明に乙6発明A15 を適用することにより、相違点Aに係る本件発明等の構成に容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(5) 相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性周知技術の認定(ア) 刊行物の記載20 以下の各刊行物には、次の各記載がある。
a 乙27(特開2001−78377号公報)【請求項1】 モーターのヨーク側面に複数の永久磁石が固定されてなるモーターにおいて、磁石とヨーク側面が、光硬化型粘接着剤で固定されていることを特徴とするモーターの磁石の固定構造。
25 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、永久磁石の接着方法、特にモーターなどの永- 23 -久磁石を使用する機器、部品などにおける永久磁石の接着方法に関する。
【0007】【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、モーターのヨーク側面に複数の永久磁石が固定されてなるモーターにおいて、磁石とヨーク側面が、光硬化型5 粘接着剤で固定されているモーターの磁石の固定構造である。
【0018】〔磁石の固定〕図1は本発明のモーターのヨーク側面への磁石の固定状態を示したものである。本実施例で用いたモーター用のローター部(40mmφ×50mmL)はSS400製のものでその表面にNiを施した。このヨークの側面に上記光硬化型粘接着シートを貼付した。
10 【図面の簡単な説明】【図1】本発明のモーターのヨークと磁石の固定構造を示す概念図。
【記号の説明】1 モーター回転軸2 ヨーク15 3 磁石4 光硬化型粘接着剤【図1】b 乙28(特開2002−78257号公報)- 24 -【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ローターに永久磁石を用いたモーターに関するものである。
【0019】5 【発明の実施の形態】実施の形態1.本発明によるモーターが有するローターの一実施形態について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態1のモーターが有するローターの斜視図である。図1において、1は永久磁石である。2は回転子であるローターヨークである。永久磁石1は、ローターヨーク2の外周側表面に設けられる。この永久磁石1は、例えば接着剤を用いてローターヨーク2に接着10 される。3は隣り合う永久磁石1間の隙間である。本実施形態のモーターでは、例えば、ローターヨーク2の回転軸の軸方向に隣り合う永久磁石1の間に、隙間3が設けられる。
【図1】15 c 乙29(特開2003−264963号公報)【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ロータおよびその製造方法に関し、特に、ロータ軸に接着剤を用いて焼結磁石を固定したロータおよびその製造方法に関する。
【0002】20 【従来の技術】従来から、弓形(「アーチ状」または「瓦形」ともいう。)の磁石片をロータ軸の外周面に接着したロータを用いたモータが利用されている。ロータ用の磁石片としては、フェライト磁石や希土類・コバルト系の焼結磁石が多く用い- 25 -られて来たが、産業用・弱電用モータの高性能化、小型化の進展に伴い、フェライト磁石や希土類・コバルト系焼結磁石よりも磁気特性に優れる希土類・鉄・ボロン系焼結磁石(以下、「R−Fe−B系焼結磁石」と称する。RはYを含む希土類元素、Feは鉄、Bはボロンである。)の利用が広まりつつある。
5 【0021】図1(a)および(b)に示したように、ロータ10は、曲面で構成された外周面を有する軟磁性体で形成されたロータ軸12と、ロータ軸12の外周面上に周方向に沿って配列された複数の磁石片20と、複数の磁石片20を外周面に固定する接着剤層14とを備える。ロータ10は、いわゆる分割型磁石を有するロータであり、磁石片20は回転軸に対して約90°の分割角(図1(b)中のD)10 を有し、回転軸に対して対称に配置されている。
【図1】(イ) 乙27から29までに記載の技術の認定前記(ア)の乙27から29までの各記載及び弁論の全趣旨によると、電動モータ15 において、接着剤を用いて磁石をロータに隙間を設けて貼設するとの技術は、本件優先日当時の周知技術(以下「本件周知技術」という。)であったものと認めるのが相当である。
そして、本件発明等と本件周知技術とを比較すると、本件周知技術は、相違点B- 26 -に係る本件発明等の構成(磁石の保持の態様に関し、磁石が前記ステータの外周側に隙間を設けて貼設されているとする構成。ただし、このうち磁石を「ステータの外周側」に保持するとの構成部分を除く。以下、この(イ)及び後記イにおいて同じ。
当該構成部分は、乙6発明Aが備える構成であり、乙15発明に乙6発明Aを適用5 することにより、本件優先日当時の当業者が容易に想到し得たものである。)を備えるものと認められるから、以下、本件優先日当時の当業者において、乙15発明に本件周知技術を適用し(以下、この適用を「本件適用2」ということがある。)、
相違点Bに係る本件発明等の構成に容易に想到し得たか否かについて検討する。
イ 本件適用2に係る動機付けと阻害要因の有無10 前記(4)イ(ア)のとおり、乙15発明は、回転駆動源に電動モータを使用したトルク制御式パルスツール(ねじ締めツール等)の技術分野に属するものである。また、
前記アによると、本件周知技術は、電動モータに使用される磁石の固定方法に関するものであるから、電動モータの技術分野に属するものである。そして、相違点Bに係る本件発明等の構成の内容は、磁石がステータに隙間を設けて貼設されている15 ことであるから、本件適用2との関係では、乙15発明(電動モータに係る部分)と本件周知技術は、その属する技術分野を共通にするものである。さらに、乙15発明(乙6発明Aを適用したもの)に接した本件優先日当時の当業者は、磁石をどのようにして筒状のロータの内周面に保持するかという課題に直面することになるところ、接着剤を用いて磁石をロータに隙間を設けて貼設する技術である本件周知20 技術は、当該課題を解決することのできる手段(技術)となる。したがって、本件優先日当時の当業者において、乙15発明(乙6発明Aを適用したもの)に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
本件適用2をするに当たり、阻害要因があることを認めるに足りる証拠はない。
ウ 相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性についての小括25 (ア) 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、乙15発明に乙6発明A及び本件周知技術を適用することにより、相違点Bに係る本件発明等の構成- 27 -に容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(イ) この点、原告は、乙15発明に乙6文献記載の発明を適用し、その後に周知技術を適用して相違点Bに係る本件発明等の構成を導出することは「容易の容易」に当たるから、本件優先日当時の当業者において、相違点Bに係る本件発明等の構5 成に容易に想到し得たとはいえないと主張する。
確かに、前記イのとおり、本件適用2は、乙6発明Aを適用した乙15発明を前提とするものである。しかしながら、電動式衝撃締め付け工具において、電動モータをアウタロータ型のものとすること(相違点A関係)と当該電動モータにおいて磁石を筒状のロータの内周面に隙間を設けて貼設すること(相違点B関係)は、そ10 れらの内容に照らし、相互に関連する技術ではなく、互いに独立した別個の技術であるといえるから、原告の主張は、相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性を左右するものではない。
(6) 本件発明等の進歩性についての結論以上のとおりであるから、本件発明等は、乙15発明、乙6発明A及び本件周知15 技術に基づいて、本件優先日当時の当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を欠くものである。
(7) まとめ以上によれば、本件特許に無効理由(乙15発明を主引用発明とする本件発明の進歩性欠如)がある旨をいう被告の抗弁(争点2−4)は理由があり、当該抗弁に20 対する訂正の再抗弁は、本件訂正発明が進歩性を欠く以上、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
4 結論そうすると、当裁判所の判断と異なる原判決は一部不当であるから、被告の控訴に基づき、原判決主文第1項及び第3項を取り消した上、原判決主文第1項及び第25 3項に係る原告の請求をいずれも棄却し、原告の控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。なお、原告は、当審において、第1審で求めていた廃棄請求及び除- 28 -却請求に係る訴えをいずれも取り下げたから、原判決主文第2項及び第4項(除却請求に係る部分)は、いずれも当然にその効力を失っており、また、原告は、当審において、第1審で求めていた損害賠償請求(元本11億円及びこれに対する令和2年6月16日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求めるも5 の)を控訴の趣旨(1)のとおりに減縮したから、原判決主文第4項(本判決別紙2記載の金員の支払を求める損害賠償請求に係る部分に限る。)も、当然にその効力を失っている。したがって、これらを明らかにすることとして、主文のとおり判決する。
10 知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官清 水 響15裁判官浅 井 憲20裁判官勝 又 来 未 子25- 29 -(別紙1)当 事 者 目 録5控訴人兼被控訴人 ヨ コ タ 工 業 株 式 会 社(以下「原告」という。)同訴訟代理人弁護士 辻? 本 希 世 士10 辻? 本 良 知松 田 さ と み同補佐人弁理士 丸 山 英 之被控訴人兼控訴人 アトラスコプコ株式会社15 (以下「被告」という。)同訴訟代理人弁護士 末 吉 剛高 橋 聖 史同補佐人弁理士 松 尾 淳 一20 藤 木 依 子以 上- 30 -(別紙2)下記1記載の金員から下記2記載の金員を控除した残金5 記1 11億円及びこれに対する令和2年6月16日から支払済みまで年5%の割合による金員2 4億6956万1281円並びにうち2億8810万4179円に対する令和10 2年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員及びうち1億8145万7102円に対する令和3年11月1日から支払済みまで年3%の割合による金員以 上- 31 -
事実及び理由
全容