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関連審決 異議2022-701191
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事件 令和 5年 (行ケ) 10092号 特許取消決定取消請求事件
5
原告 PACRAFT株式会社
同訴訟代理人弁護士 宮嶋学 田泰彦 10 柏延之 二枝翔司
同訴訟代理人弁理士 堀田幸裕 村越卓 金川良樹 15
被告特許庁長官
同指定代理人 稲葉大紀 金丸治之 後藤亮治20 冨澤武志
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2024/05/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
25 第1 請求 特許庁が異議2022-701191号事件について令和5年7月7日にした決 定を取り消す。
第2 事案の概要 本件は、特許異議の申立てに対する特許取消決定の取消訴訟である。争点は、先 願発明との同一性についての認定判断の誤りの有無である。
5 1 特許庁における手続の経緯等 原告は、平成30年1月31日(以下「本件出願日」という。、発明の名称を「袋 ) 体処理機」とする発明について特許出願をし、令和4年7月14日、特許権の設定 登録(特許第7105571号。請求項の数11。以下、この特許を「本件特許」 という。 を受けた。
) 本件特許に係る明細書、特許請求の範囲及び図面は、別紙1(本10 件特許に係る特許公報。甲1)に記載のとおりである(以下、上記明細書及び図面 を併せて「本件明細書」という。また、以下、
【】の記号を用いたものは、本件明細 書の発明の詳細な説明の段落番号及び図面番号を示す。。
) 令和4年11月30日付けで、本件特許のうち請求項1及び5に係る特許につき 特許異議の申立てがされた(甲2。異議2022-701191号事件)。原告は、
15 令和5年4月5日付けで取消理由通知(甲3。以下「本件取消理由通知」という。) を受けたが、これに応答しなかった。特許庁は、同年7月7日、
「特許第71055 71号の請求項1、5に係る特許を取り消す。」との異議の決定(以下「本件決定」 という。)をし、その謄本は、同月19日、原告に送達された。
原告は、令和5年8月17日、本件決定の取消しを求めて本件訴えを提起した。
20 2 特許請求の範囲の記載 本件特許に係る特許請求の範囲の記載は、別紙1の【特許請求の範囲】に各記載 のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」、請求項5に係る発明 を「本件発明5」といい、本件発明1及び5を併せて「本件各発明」という。。
) 3 本件決定の理由の要旨等25 本件決定は、本件取消理由通知に記載された取消理由により、本件各発明に係る 特許を取り消すべきものとした。本件取消理由通知の内容は別紙2(取消理由通知 書。甲3)のとおりであり、その理由の要旨は次のとおりである(以下、
「本件決定」 というときは、この理由を含むものとして扱う。。
) (1) 先願発明について 本件出願日前にされた他の特許出願(特願2017-91671号)の願書に最5 初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「先願明細書」といい、その 内容は別紙3(公開特許公報。甲4)のとおりである。また、以下、
〔〕の記号を用 いたものは、先願明細書の発明の詳細な説明の段落番号及び図面番号を示す。)に は、次の発明(以下「先願発明」という。なお、本判決において構成要件に分説し、
a〜gの符号を付した。)が記載されている。
10 「a 水平面上に無端状の循環経路をなすガイドレール13と、前記ガイドレー ル13に沿って走行する、グリッパ15を備える複数の搬送体11とを有し、前記 搬送体11のグリッパ15が袋状の容器70を把持しつつ移動されるリニア搬送部 10と、
b 前記搬送体11に袋状の容器70を受け渡す供給装置Sと、
15 c 前記ガイドレール13による前記循環経路上に備えられる、前記供給装置S よりも袋状の容器70の走行方向で下流側に位置し、第一充填領域18A、第二充 填領域18B及び第三充填領域18C並びに密閉領域19Aに順に間欠的に搬送さ れる袋状の容器70に対し充填及び熱融着による閉口を行う、充填ノズル31、本 体34、供給タンク32及び供給管33を備える充填部30並びに容器密閉部4020 と、を備え、
d 前記ガイドレール13には、前記循環経路に沿って電磁コイル14が設けら れるとともに、前記搬送体11には永久磁石12が設けられ、前記搬送体11はそ れぞれリニアモータにより搬送され、制御部60の指示により移動と停止が制御さ れるようになっており、
25 e 前記充填部30と、前記充填部30よりも搬送方向において下流側に配置さ れる前記容器密閉部40とを備え、前記搬送体11は、前記充填部30の充填後の 袋状の容器70を、前記充填部30の第一充填領域18A、第二充填領域18B及 び第三充填領域18Cから前記容器密閉部40の密閉領域19Aまで搬送し、
f 前記充填部30の充填1回当たりの時間T2は、前記容器密閉部40の閉口 1回当たりの時間T1よりも長いとともに、前記充填部30の1回の充填における5 前記袋状の容器70の充填個数は2つの袋状の容器70A、70Bを1グループG として2グループである一方で、前記容器密閉部40の1回の閉口における前記袋 状の容器70の閉口個数は1グループであり、
g 閉口1回当たりの時間T1よりも長い、充填1回当たりの時間T2において 前記容器密閉部40が閉口する前記袋状の容器70の閉口個数が、前記充填部3010 の1回の充填における袋状の容器70の充填個数と同じであり、前記容器密閉部4 0が閉口を行っている間に、前記容器密閉部40の1回の閉口における袋状の容器 70の閉口個数以上の前記充填部30による充填済みの袋状の容器70が前記容器 密閉部40の上流側の第三充填領域18Cに搬送されるように、前記充填部30及 び前記容器密閉部40を制御するとともに、前記リニア搬送部10によって搬送体15 11の走行及び停止を制御する、充填システム1。」 (2) 本件発明1について ア 本件発明と先願発明の相違点 本件発明1と先願発明は、次の点において一応相違する。
(相違点1)20 本件発明1は、レール部材に、無端状の移送経路に沿って並んだ複数の「電磁石」 が設けられて「前記電磁石に供給される電流に応じて移送速度を調節される」のに 対し、先願発明は、ガイドレール13に、前記循環経路に沿って電磁コイル14が 設けられて制御部60の指示により移動と停止が制御される点。
(相違点2)25 「前記第2袋体処理装置が袋体処理を行っている間に、前記第2袋体処理装置の 1回の袋体処理における前記袋の処理個数以上の前記第1袋体処理装置による袋体 処理済みの前記袋が前記第2袋体処理装置の上流側に移送される」ことについて、
本件発明1は、第2袋体処理装置の上流側にストックされるのに対し、先願発明は、
容器密閉部40の上流側の第三充填領域18Cに搬送される点。
イ 相違点1について5 電磁コイルを電磁石としてリニアモータ駆動の速度を調整することは技術常識で あるから、先願発明において、電磁石に供給される電流に応じて移送速度を調節す ることは慣用技術の付加であって、相違点1に係る構成は課題解決のための具体化 手段における微差にすぎない。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
10 ウ 相違点2について 先願発明の第三充填領域18Cは充填に関する領域であるが、充填がされないタ イミングがあり(〔0052〕〔図2〕の(e)(g)、その後、袋状の容器70の 、 、 ) グループは第三充填領域18Cから次の密閉領域19Aに搬送される〔0054〕 ( 、
〔図2〕の(f)。ここで、第三充填領域18Cから次の密閉領域19Aへ搬送さ )15 れた容器70のグループは所定時間だけ停止する(〔0054〕〔図3〕 、 )から、当 該密閉領域19Aに搬送される前に第三充填領域18Cでも停止する(〔図3〕。
) 装置が稼働しない時間が生じないように充填ラインを効率化することは慣用技術 である。そして「ストック」には、
「貯めておくこと。(広辞苑第六版)との意味も 」 あるから、当該慣用技術に照らせば、第三充填領域18Cにおいて充填されること20 なく停止している容器70のグループは、密閉領域19Aに搬送されるためにスト ックされているといえる。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。
エ 小括 以上によると、本件発明1は、先願発明と実質的に同一である。
25 (3) 本件発明5について 本件発明5と先願発明は、前記相違点1及び2において一応相違するが、前記(2) イ及びウのとおり、これらはいずれも実質的な相違点ではないから、本件発明5は、
先願発明と実質的に同一である。
(4) 結論 以上のとおり、本件各発明はいずれも先願発明と同一であるから、特許法29条5 の2の規定により、特許を受けることができない。
第3 原告主張の取消事由(先願発明との同一性判断の誤り) 本件決定は、次に述べるとおり、先願発明の認定を誤ったことに由来して本件発 明1と先願発明との相違点を看過したほか、相違点に係る同一性の判断を誤ってい る。これらの誤りは、本件発明5についても妥当する。したがって、本件決定は、
10 本件各発明と先願発明の同一性の判断を誤っており、これは異議の決定の結論に影 響を及ぼすものであるから、本件決定は取り消されるべきである。
1 本件発明1と先願発明との一致点、相違点の認定の誤り (1) 先願発明の認定の誤り 本件決定は、先願発明につき、
「閉口1回当たりの時間T1よりも長い、充填1回15 当たりの時間T2において前記容器密閉部40が閉口する前記袋状の容器70の閉 口個数が、前記充填部30の1回の充填における袋状の容器70の充填個数と同じ であり」との構成を認定したが(構成要件g)、このような構成は、先願明細書には 記載されていない。
すなわち、先願明細書の〔図1〕〔図2〕の(e)(f)によると、処理時間が 、 、
20 長い方の装置である充填部30の1回の充填処理中に、処理時間が短い方の装置で ある容器密閉部40による閉口処理の1回目が終わることは読み取れるが、同処理 の2回目まで終わっているかについては、先願明細書には何ら記載がないから不明 というほかない。
そうすると、本件決定が先願発明を上記のとおり認定した点は誤りである。
25 (2) 看過相違点(相違点3) 先願発明を正しく認定すると、本件発明1と先願発明との相違点として、本件決 定が認定した相違点1及び2に加えて、次の相違点3が認定されることとなる。
(相違点3) 「本件発明においては閉口1回当たりの時間T1よりも長い、充填1回当たりの 時間T2において前記容器密閉部40が閉口する前記袋状の容器70の閉口個数5 が、前記充填部30の1回の充填における袋状の容器70の充填個数と同じである ことが明示的に記載されているが、引用発明においてはこの点について明示の記載 がなく、満たすかどうか不明な点。」 本件決定は、この相違点3の検討を行わないまま本件発明1が先願発明と同一で あると判断している。したがって、相違点3を看過したことは、本件決定の結論に10 影響を及ぼす誤りであるから、本件決定は取り消されるべきである。
2 相違点1に係る同一性判断の誤り 先願明細書の〔0057〕〔0092〕及び〔図3〕によると、先願発明におけ 、
る容器等の搬送速度は、目標速度に到達するための加速に伴う速度変化が想定され てはいるが、同一工程の中では一定であることが想定されている。
15 これに対し、本件発明1は、
「機器全体の簡素化または小型化、あるいは袋体処理 装置の数を抑制しながら、効率的に袋詰め製品を生産することができる袋体処理機 を提供することを目的とする」ところ 【0013】、
( ) その課題解決手段として、袋、
スパウト又はスパウト付きの袋(以下「袋等」ということがある。)を把持する保持 部材の移送速度を任意に調節できる構成を採用した。
20 これにより、例えば装置間の移送速度を高め、下流に位置する装置が処理完了後 直ちに次の処理に移行できるように袋等をストックさせて「効率的に袋詰め製品を 生産する」ことや、逆に速度を低くし、袋体処理に時間のかかる装置の袋等に対す る追従距離を短くするなどして「機器全体の簡素化または小型化、あるいは袋体処 理装置の数を抑制」することが可能となる(【0063】〜【0066】。
)25 このように、相違点1は、本件発明1の課題解決原理の根幹をなす構成に関する 相違点であるから、これを課題解決の具体化手段にすぎないとして実質的な相違点 でないとした本件決定は誤りである。
3 相違点2に係る同一性判断の誤り 本件発明1は、前記2のとおり、機器全体の簡素化、小型化又は効率的な袋詰め 製品の生産を目的としているところ、その課題解決手段として、第2袋体処理装置5 が袋体処理を行っている間に、第1袋体処理装置による袋体処理済みの袋等が第2 袋体処理装置の上流側にストックされるように、これらの袋体処理装置や保持部材 の移送状態を制御する構成を採用した。
ここで、本件発明1の上記課題及びその解決手段や、本件明細書の記載、とりわ け「下流側の装置が袋体処理を行っている間に、下流側の装置の1回の袋体処理に10 おける袋の処理個数以上の上流側の装置による袋体処理済みの袋100が下流側の 装置の上流側にストックされる関係が成り立つように、各袋体処理装置を制御する」 (【0058】、
)「液体充填装置25が充填処理を終了するまでの間に液体充填装置 25の上流側に6個の袋100がストックされると、液体充填装置25は充填処理 を完了した後、直ちに次の充填処理を行うことができる」【0063】 ( )等の記載に15 照らすと、本件発明1における「ストックされる」とは、単に処理が終了した状態 を指すのではなく、「下流側の第2袋体処理装置がすぐに処理に移行できるような 状態に置かれる」ことを意味すると解すべきである。
これに対し、先願明細書の〔図1〕〔図2〕の(e)によると、そもそも先願発 、
明は、処理時間が短い方の装置が同長い方の装置よりも下流にある構成に限定され20 ている上、処理時間が短い方の装置である容器密閉部40の上流にある容器70(G 2)は、容器密閉部40が1回目の処理を行っている間には、単に停止しているの みであって、容器密閉部40がすぐに処理に移行できるような状態に置かれるとい う動作は生じていない。
したがって、先願発明には、本件発明1の「ストックされる」との構成を有して25 おらず、この相違点(相違点2)は、本件発明1の課題解決に影響する構成の差異 であるから、これを実質的な相違点ではないとした本件決定は誤りである。
なお、本件決定は、
「装置が稼働しない時間が生じないように充填ラインを効率化 することは慣用技術である。…当該慣用技術に照らせば、…充填されることなく停 止している容器70のグループは、密閉領域19Aに搬送されるためにストックさ れているともいえる。」と判断したが、その慣用技術を具体的に示していない。本件5 各発明は、従来にはない極めて効率的なラインの具体的構成を開示しており、これ は慣用技術の範囲を超えるものである。本件決定が、先願明細書に記載のない点に つき、具体的な構成を示さないまま、慣用技術に照らして実質同一と判断したこと は誤りである。
第4 被告の反論10 1 本件発明1と先願発明との一致点、相違点の認定の誤りとの点について 原告は、先願明細書には、
「閉口1回当たりの時間T1よりも長い、充填1回当た りの時間T2において前記容器密閉部40が閉口する前記袋状の容器70の閉口個 数が、前記充填部30の1回の充填における袋状の容器70の充填個数と同じであ り」との構成は記載されておらず、先願発明ではこの点は不明であると主張する。
15 しかし、次のとおり、先願明細書には上記構成が記載されている。
すなわち、〔0046〕には、「供給工程、開口工程、密閉行程、冷却工程及び排 出工程は、同じ時間T1で行われる。これに対して、充填工程において製品液Lを 充填は、他の工程よりも長い時間T2で行われる。 との記載があり、
」 1回の密閉(閉 口)工程の所要時間が、供給・開口・冷却・排出の各工程の各所要時間と同じ時間20 T1であること、他方、1回の充填工程の所要時間である時間T2は時間T1より も長いことが示されている。
次に、
〔図3〕の最下部には「時間」との記載があり、同図の横軸は時間を示すと ころ、上記のとおり、供給・開口・密閉(密封) ・冷却・排出の各工程の所要時間は いずれも時間T1であるから、
〔図3〕の1列分が、それぞれ時間T1を示すといえ25 る。他方、充填工程は、3つの充填領域のうち2つの領域を用いて行われ、これは 〔図3〕の2列分として示されているから、充填工程の所要時間である時間T2は、
時間T1を2倍したものとなる。
そして、
〔図2〕において「G1」及び「G2」と記載されている各グループの容 器は、充填工程の所要時間である時間T2をかけて充填される。その後、まずグル ープG1の容器が密封(密閉)工程の所要時間である時間T1をかけて密封され、
5 次にグループG2の容器が同様に時間T1をかけて密封される。そうすると、上記 のとおり時間T1の2倍である時間T2をかけて密封(閉口)される容器の個数は 2グループ分であり、これは時間T2をかけて充填される容器の個数である2グル ープ分と同じである。
したがって、先願明細書には、
「閉口1回当たりの時間T1よりも長い、充填1回10 当たりの時間T2において前記容器密閉部40が閉口する前記袋状の容器70の閉 口個数が、前記充填部30の1回の充填における袋状の容器70の充填個数と同じ であり」との構成が記載されているから、先願発明が同構成を備えるものと認定し た本件決定に誤りはない。
2 相違点1に係る同一性判断の誤りとの点について15 本件決定は、先願明細書の〔0028〕〔0030〕の記載等に基づき、先願発 、
明の構成を「電磁コイル…が設けられて…移動と停止が制御される」と認定し、こ れを本件発明1との一応の相違点とした。
ここで、先願明細書には、
「搬送部は、複数の容器のそれぞれの搬送速度を独立し て制御することが好ましい。( 」〔0010〕、
)「搬送体11を搬送する手段としてリ20 ニア搬送部10を採用するので、間欠搬送と連続搬送が混在する搬送を実現すると ともに、間欠搬送と連続搬送の搬送速度を任意に設定できる。…上流領域17及び 下流領域19においては、…搬送速度V1で間欠搬送されるが、…製品液Lを充填 している間は、…搬送速度V1よりも遅い搬送速度V2で連続搬送される。 〔00 」 ( 61〕)との記載があるから、先願発明においても、電磁石に相当する「電磁コイル25 14」に供給される電流に応じて移送速度が調整されることが明らかである。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではなく、本件決定の判断に誤りはない。
3 相違点2に係る同一性判断の誤りとの点について 先願明細書の〔図1〕及び〔図2〕によると、充填工程を終えたグループG1及 びG2の各容器70のうち、グループG1の容器70に対して密封(密閉)工程が 行われている間に、グループG2の容器70は、同密封(密閉)工程に係る領域(密5 閉領域19A)の上流にある「第三充填領域18C」において停止している 〔図2〕 ( の(e)参照)。
ここで、
「ストック」には「貯めておくこと」という意味があるから、上記のとお り第三充填領域18Cにおいて停止しているグループG2の容器70は、密閉領域 19Aの上流側に「ストック」されているといえる。
10 したがって、相違点2は実質的な相違点ではなく、本件決定の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断 1 本件各発明の概要 本件特許に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載は別紙1のとおりであり、
これらによると、本件各発明の概要は、次のとおりと認められる。
15 (1) 本件各発明は袋体処理機に関する。代表的な袋体処理機は、口部を上方に向 けた状態の袋をグリッパーで挟持し、このグリッパーを移送経路(円形型、レース トラック型等)に沿って移送しながら複数の袋体処理装置によって種々の袋体処理 を行う。袋体処理装置を袋に追従させることにより、袋を停止させることなく連続 的に袋体処理を行うことができることが知られている。移送経路を形成するレール20 部材に電磁石を、グリッパーに永久磁石をそれぞれ設け、リニアモータ駆動により グリッパーの移送速度やグリッパー間の距離を調節できることが知られている。
(【0001】〜【0006】) (2) 従来の袋体処理機において、グリッパーを常に一定の速度で移送させる場合 には、充填処理等の時間がかかる処理を行う処理装置を袋に追従させる距離を長く25 する必要があり、追従機構等が複雑化、大型化するなどコスト面の問題が生じてい た。また、リニアモータ駆動による移送速度等の調節に関しては、機器全体の簡素 化、小型化、装置の数の抑制等を目的とした具体的な工夫が十分には開示されてい ない。本件各発明は、このような課題に鑑み、機器全体を簡素化、小型化し、ある いは袋体処理装置の数を抑制しながら、効率的に袋詰め製品を生産できる袋体処理 機を提供することを目的とする。【0010】〜【0013】 ( )5 (3) 上記課題を解決するため、本件発明1に係る構成を採用した。袋をその口部 をシールされることで内容物を封止するタイプの袋とし、第1袋体処理装置を袋に 内容物を充填する充填装置とし、第2袋体処理装置を袋の口部をシールする第1袋 口シール装置としてよい(本件発明5)。これらの構成により、機器全体を簡素化、
小型化し、あるいは袋体処理装置の数を抑制しながら、効率的に袋詰め製品を生産10 できる。(請求項1、5、【0014】【0018】【0025】 、 、 ) 2 本件各発明と先願発明の一致点、相違点について (1) 先願発明 ア 先願発明の認定 先願明細書の特許請求の範囲発明の詳細な説明(とりわけ〔0022〕〜〔015 062〕)及び図面によると、先願明細書には、本件決定が認定したとおりの先願発 明(前記第2の3(1)参照)が記載されていると認められる。
イ 原告の主張について 原告は、先願発明の構成要件gにつき、先願明細書には「閉口1回当たりの時間 T1よりも長い、充填1回当たりの時間T2において前記容器密閉部40が閉口す20 る前記袋状の容器70の閉口個数が、前記充填部30の1回の充填における袋状の 容器70の充填個数と同じであり」との構成は記載されていないから、この点は本 件各発明と先願発明との相違点(相違点3)として認定されるべきと主張する。
そこで検討すると、先願明細書には、時間T1と時間T2の関係につき、
「図3の 行(G1)及び行(G2)に示すように、供給工程、開口工程、密閉行程、冷却工25 程及び排出工程は、同じ時間T1で行われる。これに対して、充填工程において製 品液Lを充填は、他の工程よりも長い時間T2で行われる。( 」〔0046〕)と記載 され、供給・開口・密閉(「密封」又は「閉口」と同義と解される。・冷却・排出の ) 各工程の所要時間が同じ時間T1であり、
〔図3〕に図示されていること、充填工程 の所要時間T2は時間T1より長いことが示されている。
〔図3〕の横軸名は「時間」 であり、各列の幅は時間の長さであると認められる。ここで、上記のとおり、供給・5 開口・密閉・冷却・排出の各工程の所要時間は同じ時間T1であるところ、〔図3〕 の列(c)では、行(G1)の「充填工程」と行(G2)の「開口工程」とが同じ 列に位置付けられているから、
〔図3〕における(a)〜(h)の各列の幅は、いず れも時間T1を示すものと理解できる。
10 次に、先願明細書の〔0050〕〜〔0052〕〔図2〕及び〔図3〕によると、

グループG1の容器70は、開口領域17Bにて開口工程を経た後に、第一充填領 域18A、第二充填領域18B及び第三充填領域18Cへ順次搬送されていくが、
このうち第一充填領域18Aに位置する時点では充填ノズル31による充填作業が 行われず(〔図2〕の(b) 、第二充填領域18Bに達すると充填が開始され(同 )15 (c)、第三充填領域18Cにおいて充填が終了する(同(d)。
) )〔図2〕の(b) 〜(d)は、それぞれ〔図3〕の(c)〜(e)に対応しているから、第二充填領 域18Bと第三充填領域18CにおけるグループG1の容器70への充填工程に要 する時間T2は、
〔図3〕の2列分、すなわち時間T1の2倍の時間であるといえる。
そして、グループG1の容器70が第二充填領域18Bに達した時には、グルー プG2の容器70が第一充填領域18Aに達し、充填ノズル31からグループG15 及びG2の各容器70に対して時間T2をかけて充填工程を実施するのであるか ら、充填1回当たりの時間T2において充填される容器70の個数は2グループ分 である。
他方、先願明細書の〔0054〕によると、グループG1の容器70は、第三充 填領域18Cから密閉領域19Aに搬送されて密封工程がされ、その後、グループ10 G2の容器70が第三充填領域18Cから密閉領域19Aに搬送されて密封工程が される。ここで、前記のとおり、密封工程の所要時間はそれぞれ時間T1であるか ら、その2倍である時間T2において密封(閉口)される容器70の個数は2グル ープ分となる。
以上によると、先願発明は、
「閉口1回当たりの時間T1よりも長い、充填1回当 たりの時間T2において前記容器密閉部40が閉口する前記袋状の容器70の閉口5 個数が、前記充填部30の1回の充填における袋状の容器70の充填個数と同じで あり」との構成を備えているといえる。原告主張に係る相違点(相違点3)を認定 することはできず、看過相違点があるとの原告の主張は採用することができない。
(2) 本件各発明と先願発明との対比 本件各発明を先願発明と対比すると、本件取消理由通知(別紙2)記載の理由の10 うち、第2の2(1)(本件発明1との対比)及び3(本件発明5との対比)のとおり と認められる。
したがって、本件決定による本件各発明と先願発明との一致点、相違点の認定に 誤りはない。
3 相違点1に係る同一性について15 (1) 相違点1 相違点1は、
「本件発明1は、レール部材に、無端状の移送経路に沿って並んだ複 数の「電磁石」が設けられて「前記電磁石に供給される電流に応じて移送速度を調 節される」のに対し、先願発明は、ガイドレール13に、前記循環経路に沿って電 磁コイル14が設けられて制御部60の指示により移動と停止が制御される点。」20 である。(本件発明5と先願発明との相違点1も同様である。) (2) 検討 先願明細書の〔0061〕には「充填システム1は、搬送体11を搬送する手段 としてリニア搬送部10を採用するので、間欠搬送と連続搬送が混在する搬送を実 現するとともに、間欠搬送と連続搬送の搬送速度を任意に設定できる。 との記載が 」25 あるから、電磁コイル14を電磁石として使用し、これに供給される電流に応じて 移送速度を調節することは、先願発明において当然の前提になっているものと認め られる。
したがって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
(3) 原告の主張について 原告は、先願発明においては、同一工程内では一定の移送速度が想定されている5 のに対し、本件各発明ではこれを任意に調節できるところ、装置間での速度を上下 させる等の方法により、本件各発明の課題である生産の効率化、機器の簡素化等を 実現できるのであるから、相違点1は、課題解決原理の根幹をなす構成に係るもの であって、これを実質的な相違点でないとした本件決定は誤りであると主張する。
しかし、本件各発明に係る特許請求の範囲(請求項1、5)の記載は、単に「前10 記保持部材はそれぞれリニアモータ駆動により移送され、前記電磁石に供給される 電流に応じて移送速度を調節されるようになっており」とあるのみで、この記載に、
原告が主張するような、装置間での速度を上下させることによる生産の効率化、機 器の簡素化等の技術思想を読み込むことは困難である。原告の主張は採用すること ができない。
15 4 相違点2に係る同一性について (1) 相違点2 相違点2は、「前記第2袋体処理装置が袋体処理を行っている間に、前記第2袋 「 体処理装置の1回の袋体処理における前記袋の処理個数以上の前記第1袋体処理装 置による袋体処理済みの前記袋が前記第2袋体処理装置の上流側に移送される」こ20 とについて、本件発明1は、第2袋体処理装置の上流側にストックされるのに対し、
先願発明は、容器密閉部40の上流側の第三充填領域18Cに搬送される点。 であ 」 る。(本件発明5と先願発明との相違点2も同様である。) (2) 検討 本件各発明における「ストック」の意義について、
「ストック」という語が一般に25 「貯めておくこと。 の意義を有すること 」 (広辞苑第六版)に加え、本件明細書に「液 体充填装置25が6個の袋100に内容物を充填する間に、袋開口装置24が3回 の処理を繰り返して6個の袋100の開口処理を行う。これにより、液体充填装置 25が充填処理を終了するまでの間に、液体充填装置25の上流側に開口処理済み の6個の袋100がストックされることになる。 ( 」【0062】、
)「以上のように、
液体充填装置25が充填処理を終了するまでの間に液体充填装置25の上流側に65 個の袋100がストックされると、液体充填装置25は充填処理を完了した後、直 ちに次の充填処理を行うことができる。( 」【0063】)等の記載があることに照ら すと、(下流側に位置する袋体処理装置が、先行する処理を終了した直後に次の処 「 理に着手できるように、次の処理の対象となる袋等を当該袋体処理装置の上流側に) 待機させておくこと」と解するのが相当である。
10 そして、先願明細書の〔0052〕には「第三充填領域18Cを通過したグルー プG1は、密閉領域19Aに搬送される…。グループG2は、グループG1が密閉 領域19Aに搬送されたのに伴い、第三充填領域18Cに搬送される…。第三充填 領域18Cにおいて、グループG2には、製品液Lが充填されない」との記載があ るから、先願発明では、グループG1が密閉領域19Aに搬送されて容器密閉部415 0による密封工程が行われている間、グループG2は、容器密閉部40の上流側に 位置する第三充填領域18Cに、何らの処理を受けることなく待機しており、グル ープG1に対する密封工程が終了した直後に、直ちにグループG2に対する密封工 程に移ることが可能となっているといえる。
したがって、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
20 (3) 原告の主張について 原告は、@先願発明は処理時間が短い方の装置が同長い方の装置よりも下流にあ る構成に限定されている、A容器密閉部40の上流にあるグループG2の容器70 は、容器密閉部40による1回目の処理(グループG1に対する処理)の実行中は 単に停止しているのみであり、容器密閉部40がすぐに処理に移行できるような状25 態に置かれるという動作は生じていないなどと主張する。
しかし、@について、確かに先願発明では、処理時間が長い装置が上流、短い装 置が下流という構成となっているが、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は、
先願発明と同一の、処理時間が長い装置が上流、短い装置が下流という構成も含ま れる選択的な記載となっているから、本件発明1は、先願発明と同一の構成を含む ものである(本件発明5は、正に処理時間が長い装置が上流、短い装置が下流の構5 成であり、これが先願発明と同一であることは明白である。 。Aについて、本件各 ) 発明における「ストックされる」の意義を、第2袋体処理装置が袋体処理を行って いる時間中に、次の処理を待つ袋等が上流側で停止している場合を除くものと解釈 することは、特許請求の範囲の記載の字義解釈としても、本件明細書の記載(とり わけ【0062】【0063】 、 )を斟酌したとしても困難であり、本件明細書の記載10 に基づかないものといわざるを得ない。原告の主張はいずれも採用することができ ない。
5 結論 以上のとおりであるから、本件各発明は、先願発明と同一である。原告は、その 他にも、本件各発明が先願発明と同一ではないとする理由を主張するが、いずれも15 上記結論に影響を及ぼすものとはいえない。したがって、本件各発明が先願発明と 同一であるとして本件特許を取り消した本件決定に誤りはない。
よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。