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事件 審決取消請求事件
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裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2024/03/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
令和6年3月18日判決言渡

令和4年(行ケ)第10127号(第1事件)、第10128号(第2事件)、第1

0129号(第3事件)、第10130号(第4事件)、令和5年(行ケ)第100

27号(第5事件)審決取消請求事件

5 口頭弁論終結日 令和5年12月14日

判 決



第 1 事 件 原 告 テバ・ホールディングス合同会社



10




同訴訟代理人弁護士 長 沢 幸 男

同 笹 本 摂

15 同訴訟代理人弁理士 実 広 信 哉



第 2 事 件 原告 東 和 薬 品 株 式 会 社



同訴訟代理人弁護士 速 見 禎

20 同 溝 内 伸 治 郎



第 3 事 件 原 告 日 医 工 株 式 会 社



同訴訟代理人弁護士 ア 仁

25 同訴訟代理人弁理士 今 村 正 純

同 小 杉 達 郎


1
第 4 事 件 原 告 日本ケミファ株式会社



同訴訟代理人弁護士 牧 野 知 彦

5 同 松 村 啓

同訴訟復代理人弁護士 青 木 悠 夏

同訴訟代理人弁理士 丹 治 彰

同 大 槻 真 紀 子



10


第 5 事 件 原 告 ヘキサル・アクチェンゲゼルシャフト




同訴訟代理人弁理士 豊 岡 静 男

15 同 原 裕 子




被 告

ジー.ディー.サール、リミテッド、ライアビリティ、カンパニー

20


同訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一

同 飯 塚 卓 也

同 岡 田 淳

同訴訟代理人弁理士 今 村 玲 英 子

25 同 田 村 明 照

主 文


2
1 特許庁が、無効2016−800112号事件について令和4年11月8日に

した審決中、特許第3563036号の請求項1、2、4、5、7〜13、15、

17〜19に係る部分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

5 3 被告のため、この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を

30日と定める。

事 実 及 び 理 由

【略語】

本判決において、「本件特許」、「本件優先日」、「本件無効審判請求」、「第 1

10 次審決」、「前訴判決」、「本件訂正」、「本件審決」、「別件無効審判請求」、「別

件審決」及び「別件判決」の用語は、下記第2の1で使用している意味で用いる。

第1 請求(第1事件〜第5事件共通)

主文と同旨

第2 事案の概要

15 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)

(1) 本件特許の設定登録

被告は、発明の名称を「セレコキシブ組成物」とする発明について、平成

11年11月30日(優先日平成10年11月30日〔本件優先日〕、優先

権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願2000−584884

20 号)をし、平成16年6月11日、特許第3563036号(本件特許)の

設定登録を受けた(請求項の数19)。

(2) 本件無効審判請求及び第1次審決(請求不成立)

ア 第2事件原告は、平成28年9月30日、特許庁に対し、本件特許(請

求項1〜19に係るもの)の無効審判請求(本件無効審判請求)をし、特

25 許庁は、同請求を無効2016−800112号事件として審理を行った。

イ 下記エの第1次審決までに、第4事件原告及び第5事件原告は、請求人


3
側への参加を申請し、それぞれ参加許可の決定を受けた。

ウ 被告は、平成30年5月7日付けで本件特許の特許請求の範囲について

訂正請求をした(請求項6は削除)。

エ 特許庁は、平成30年6月26日付けで、前記ウの訂正請求を認めた上

5 で、審判の請求は成り立たない(訂正により削除された請求項6について

は審判請求却下)旨の第1次審決をした。

(3) 前訴判決による第1次審決の取消し

ア 第2事件原告は平成30年8月2日、第4事件原告は同月3日、第5事

件原告は同年11月1日、それぞれ知的財産高等裁判所に第1次審決の取

10 消しを求める審決取消訴訟を提起した(同裁判所平成30年(行ケ)第1

0110号、第10112号、第10155号)。

イ 知的財産高等裁判所は、これら3件を併合して審理の上、令和元年11

月14日、特許法36条6項1号の要件(サポート要件)違反を認定し、

第1次審決を取り消す旨の判決(前訴判決)をした。

15 ウ これに対し、被告が最高裁判所に上告及び上告受理申立てをしたが、令

和2年9月29日に上告棄却及び上告不受理の決定がされ、前訴判決が確

定した。

(4) 再度の審判手続及び本件審決(再び請求不成立)

ア 前訴判決により再び特許庁に事件が係属したところ、後記ウの本件審決

20 までに、第1事件原告及び第3事件原告は、請求人側への参加を申請し、

それぞれ参加許可の決定を受けた。

イ 被告は、令和3年6月30日付けで審決の予告を受けたことから、その

訂正請求期間内である同年10月8日、本件特許の特許請求の範囲(請求

項1〜19)を訂正(本件訂正)する旨の訂正請求をした(請求項3、6、

25 14及び16を削除するため、訂正後の請求項の数15。甲イ169)。

ウ 特許庁は、令和4年11月8日、本件訂正を認めた上、「特許第356


4
3036号の請求項1、2、4、5、7〜13、15、17〜19に係る

発明についての審判請求は成り立たない。特許第3563036号の請求

項3、6、14、16に係る発明についての審判請求は、却下する。」と

の本件審決をし、その謄本は令和4年11月18日原告らに送達された。

5 エ 本件審決の取消しを求めて、第1事件原告は令和4年12月15日、第

2事件原告、第3事件原告及び第4事件原告は同月16日、第5事件原告

は令和5年3月16日、それぞれ本件訴訟を提起した。

(5) 別件無効審判請求(甲イ169、170、乙1、弁論の全趣旨)

ア 第4事件原告外は、平成30年6月4日、本件特許(請求項1〜19に

10 係るもの)について別件無効審判請求をし、第1事件原告は請求人側に参

加した。そこでは、進歩性欠如をいう無効理由として、後掲の甲8発明が

主引用発明の一つとして援用されていた。

特許庁は、これを無効2018−800071号事件として審理を行っ

た上、令和元年9月3日、審判請求は成り立たないとの審決(別件審決)

15 をした。

イ 第4事件原告外は、別件審決の取消しを求める訴訟を提起したが(知的

財産高等裁判所令和元年(行ケ)第10137号)、同裁判所は令和2年

10月28日に請求を棄却する旨の別件判決をし、別件判決は令和4年3

月22日の上告棄却及び上告不受理の決定により確定した。

20 2 本件特許に係る発明の内容

(1) 本件訂正前の特許請求の範囲の記載

請求項1〜5を以下に、請求項6以下を別紙1に掲げる。

【請求項1】

一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10mg乃至1000

25 mgの量の微粒子セレコキシブを含み、一つ以上の個別な固体の経口運搬

可能な単位投与量を含む製薬組成物であって、粒子の最大長において、セ


5
レコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有する

製薬組成物。

【請求項2】

前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子のD90が100μm未

5 満であることを特徴とする請求項1に記載の製薬組成物。

【請求項3】

前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子のD90が40μm未満

であることを特徴とする請求項2に記載の製薬組成物。

【請求項4】

10 前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子のD90が25μm未満

であることを特徴とする請求項3に記載の製薬組成物。

【請求項5】

前記同じ投与量のセレコキシブを含有する経口運搬された溶液と比較して

最低約50%であるセレコキシブの相対的な生物学的利用能を有すること

15 を特徴とする請求項1記載の製薬組成物。

(2) 本件訂正後の特許請求の範囲の記載

請求項1、2、4、5を以下に、請求項7以下は別紙2に掲げる(下線部

が本件訂正により加えられた部分。なお、請求項3、6、14、16は削除

されている。以下、この特許請求の範囲の記載により特定される発明を、
「本

20 件訂正発明」といい、個別には請求項番号に対応して「本件訂正発明1」な

どという。)。

【請求項1】

一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10mg乃至1000

mgの量の微粒子セレコキシブを含み、一つ以上の個別な固体の経口運搬

25 可能な投与量単位を含む製薬組成物であって、

セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたもので


6
あり、

粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が30μmである粒子

サイズの分布を有し、

ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤を含む

5 製薬組成物。

(以下、請求項1に係る訂正事項〔「投与量単位」の訂正部分を除く。〕を

「訂正事項2」という。)

【請求項2】

一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10mg乃至1000

10 mgの量の微粒子セレコキシブを含み、一つ以上の個別な固体の経口運搬

可能な投与量単位を含む製薬組成物であって、

セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたもので

あり、

粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が30μm未満である

15 粒子サイズの分布を有し、

ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤を含む

製薬組成物。

(以下、請求項2に係る訂正事項を「訂正事項3」という。)

【請求項4】

20 前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子のD90が25μm未満

であることを特徴とする請求項2に記載の製薬組成物。

【請求項5】

前記同じ投与量のセレコキシブを含有する経口運搬された溶液と比較して

約50%乃至約55%であるセレコキシブの相対的な生物学的利用能を有

25 することを特徴とする請求項1記載の製薬組成物。

(3) 本件明細書(本件特許に係る明細書をいう。なお特許請求の範囲及び図面


7
を含むときは「本件明細書等」という。)の記載事項及び願書添付図面の抜

粋を、別紙3に掲げる。これによれば、本件明細書には、次のような開示が

あることが認められる。

ア シクロオキシゲナーゼ阻害剤であるセレコキシブは、炎症及び炎症関連

5 疾患の治療に活用することが期待されてきたが、水溶性媒体には異常なほ

ど溶解せず、未調合のセレコキシブがカプセル形態で経口投与された場合、

容易には溶解せず、分散もしない、また、長く凝集した針を形成する傾向

を有する結晶形態を有する未調合のセレコキシブは、通常、錠剤成形ダイ

での圧縮の際に、融合して一枚岩の塊になり、他の物質とブレンドさせた

10 ときでも、セレコキシブの結晶は、他の物質から分離する傾向があって、

組成物の混合中にセレコキシブ同士で凝集し、セレコキシブの不必要な大

きな塊を含有する、非均一なブレンド組成物になるため、所望のブレンド

均一性を有するセレコキシブ含有の製薬成分を調製することは難しいな

どの問題があったため、従来、溶解性などが改善され、生物学的利用能特

15 性を有する経口運搬可能なセレコキシブの調合の必要性が存在し、未調合

セレコキシブで可能であるよりも、急速に効き目のある薬物速度論を示す

調合を提供することは、特に有益であった(【0003】、【0008】、

【0009】)。なお、生物学的利用能とは、胃腸管を経由して血流に吸

収された活性成分の量の尺度をいう(【0044】)。

20 イ 粒子サイズは、セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメ

ータであると考えられる。粒子の最長の大きさで、粒子のD90が約200

μm以下…さらに好ましくは約40μm以下、最も好ましくは約25μm

以下である。出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約60μmから

約30μmに減少させると、組成物の生物学的利用能が非常に改良される

25 (【0022】、【0124】)。

ウ セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミルのような衝撃式


8
ミルでセレコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作成することは、改

善された生物学的利用能を提供するに際して効果があるだけでなく、セレ

コキシブ結晶の凝縮特性と関連する問題を克服するに際しても有益であ

る(【0024】)。

5 エ セレコキシブは水溶液にかなり溶解しにくい。したがって、本発明の製

薬組成物は、好ましくは、薬剤学的に許容な加湿剤を含む。ラウリル硫酸

ナトリウムは好ましい加湿剤である(【0075】、【0076】)。

3 本件審決の理由の要旨

本件審決の理由の骨子は以下のとおりであり、その詳細は別紙4「本件審決

10 の理由の要旨」のとおりである。

(1) 本件訂正は、特許請求の範囲減縮を目的とするものであり、その他法定

の要件を満たすものとして、これを認める。

(2) 本件訂正発明に関し、原告らの主張する無効理由は、以下のとおりいずれ

も理由がない。

15 ア 本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本件訂正発明は、発明

の課題を解決することができることを当業者は理解できるといえ、特許法

36条6項1号所定のサポート要件に適合する。

イ 本件訂正発明は明確であり、同条6項2号所定の明確性要件に適合する。

なお、本件訂正発明は、物の発明の特許請求の範囲製造方法が記載され

20 たいわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレーム(以下「PBPクレーム

という。)に当たるが、最高裁判所平成24年(受)第1204号同27年

6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁が、PBPクレーム

明確性要件を満たすために必要であるとする、本出願時において当該物を

その構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ

25 実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という。)が認め

られる。


9
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明の実施をする

ことができる程度に明確かつ十分に記載されており、同条4項1号所定の

実施可能要件に適合する。

エ 本件訂正発明は、甲8発明(甲イ8〔特表平9−506350号公報〕記

5 載の発明をいう。以下同じ。)に基づき、当業者が容易に発明をすることが

できたとはいえない。

4 取消事由

(1) 取消事由1:訂正要件に関する判断の誤り(第1事件原告、第2事件原告

及び第4事件原告)

10 (2) 取消事由2:サポート要件に関する判断の誤り(各事件原告共通)

(3) 取消事由3:明確性要件に関する判断の誤り(各事件原告共通)

(4) 取消事由4:実施可能要件に関する判断の誤り(第1事件原告、第2事件

原告、第4事件原告及び第5事件原告)

(5) 取消事由5:甲8発明に基づく本件訂正発明の進歩性の判断の誤り(第2

15 事件原告及び第4事件原告)

第3 当事者の主張

1 取消事由1(訂正要件に関する判断の誤り)

(1) 第1事件原告の主張

ア 訂正事項2は、「原薬(原材料)」の「粒子サイズの分布」に関する記載

20 に基づいて、「最終製剤(製薬組成物)」中の粒子の「粒子サイズの分布」

を訂正するものであり、「最終製剤」について特許請求の範囲減縮を目

的とするものでなく、新規事項を追加し、かつ、特許請求の範囲変更

るものである。

イ D90が200μm未満である粒子サイズの分布は不確定であり、D90

25 を30μm(訂正事項2)又は30μm未満(訂正事項3)に変更しても

粒子サイズの分布は限定されず、また、D90の値のみを用いて「粒子サイ


10
ズの分布」を規定することは不可能・不合理で、訂正後の特許請求の範囲

が限定されないから、特許請求の範囲減縮を目的とする訂正に当たらな

い。

(2) 第2事件原告の主張

5 以下の事情に鑑みれば、本件明細書には、@ピンミルのような衝撃式ミル

で粉砕されたものであり、A粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD

90 が30μmである粒子サイズの分布を有し、Bラウリル硫酸ナトリウムを

含有する加湿剤を含むという各構成を全て備える製薬組成物が記載されて

いないから、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書等に記載した

10 事項の範囲内のものではない。

ア 本件明細書において生物学的利用能の改善が具体的に確認された例1

1−2の組成物A(【0172】)は、粉砕手段が特定されていない上に、

粒子サイズをD90として測定したものでない。

イ 本件明細書【0024】の記載から例11−2の組成物Aの粉砕方法が

15 ピンミルのような衝撃式ミルであると特定することはできない。

ウ 本件明細書【0124】には粉砕方法の記載はない。

エ 本件明細書【0174】は、粉砕方法の一例を示すもので、組成物Aの

粉砕方法について記載したものと理解することはできない。

(3) 第4事件原告の主張

20 下記ア〜ウのとおり、本件明細書の記載からは、「ピンミルのような衝撃

式ミルで粉砕されたもの」の意味が不明確であり、その結果、本件訂正発明

の権利範囲ないしは技術的範囲が不明確であるから、このような不明確な構

成を追加する訂正後の発明の技術的範囲も不明確となる。よって、訂正事項

2及び訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするも

25 のであるとはいえず、新規事項の追加に当たる。また、特許請求の範囲の減

縮を目的とする訂正とはいえない。


11
ア 本件明細書の記載(【0024】及び【0187】)及び当該分野の技

術常識(甲イ110〜112)からは、本件明細書における「衝撃式ミル」

は、エアージェットミルのような液体(流体)エネルギーミルや振動ミル

とは異なる、回転衝撃式ミルを意味すると解される。しかし、仮に、本件

5 審決のように、本件はPBPクレームであり、ピンミルのような衝撃式ミ

ルによって粉砕したセレコキシブ粒子と他の手段による粉砕と区別が付

かないなどというのであれば、場合によっては、衝撃式ミルとは区別され

ているはずの「振動ミル」や「ジェットミル」による粉砕までが含まれか

ねないことになり、それがどのような場合なのかが本件明細書には開示が

10 ない。

結局のところ、「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで

粉砕された場合」というのがどのような状態のことを示しているのか(製

法限定する趣旨であるのか、何らかの形状などを示しているのかなど)が

本件明細書に照らしても明らかにはならない。

15 イ 「ピンミルのような衝撃式ミル」という文言について、「衝撃式ミル」

に含まれる全てのミルが技術的範囲に含まれる、又はピンミルと類似の特

性を有する衝撃式ミルのみが技術的範囲に含まれる、の2とおりの意味の

解釈が可能であり、どちらの意味であるか不明である.

ウ ミルの種類が特定されたとしても、粉砕処理の方法が不明である場合、

20 粉砕により得られた粉砕物の構造や粒度分布を特定することはできない。

本件明細書では機器名称、ピンの形状・本数、処理時間、処理量、処理温

度等の粉砕処理の方法に関する具体的な記載がされておらず、「ピンミル

のような衝撃式ミルで粉砕されたセレコキシブ粒子」が具体的にどのよう

な構造や粒度分布等の特性を備えているのか、明らかではない。

25 (4) 被告の主張

ア 第1事件原告の主張について


12
(ア) 本件明細書の【0022】及び【0124】は、製薬組成物中におけ

るD90粒子サイズの分布と原薬におけるD90粒子サイズの分布は同じ

であるとの前提で記載されていることが明らかである。したがって、訂

正事項2及び訂正事項3が、製薬組成物中のセレコキシブ粒子の「粒子

5 サイズの分布」を、原薬のセレコキシブ粒子の「粒子サイズの分布」に

差し替えるもので、新たな技術的事項を導入するものであるとの第1事

件原告の主張は、誤りである。

(イ) 訂正事項2及び訂正事項3は、いずれもD90の数値範囲を限定すると

ともに、「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕され

10 たものであり」という構成及び「ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加

湿剤を含む」という構成を直列的に付加したものであるから、減縮に当

たる。

イ 第2事件原告の主張について

(ア) 本件明細書の【0024】、【0172】及び【0174】の記載か

15 ら、当業者は、生物学的利用能の改善について確認した例11−2の「セ

レコキシブを微粉化」は、ピンミルのような衝撃式ミルでセレコキシブ

を粉砕したものであると、当然に理解する。

そして、本件明細書【0124】の「例11に例示するように、出発

材料のセレコキシブのD90 粒子サイズを約60μmから約30μmに

20 減少させると、」との記載から、例11−2の組成物AのD90粒子サイ

ズが約30μmであることは明らかである。

さらに、本件明細書【0173】表11−2Aには、「組成物A」に

加湿剤である「ラウリル硫酸ナトリウム」が添加されていることも記載

されている。

25 以上によれば、本件明細書には、例11−2の組成物Aとして訂正事

項2の構成を全て備えた製薬組成物が記載されている。


13
(イ) 第2事件原告のように本件明細書の【0172】、【0024】、【0

124】、【0174】の記載を個別に論じることは無意味であり、上

記各段落の記載の関連性を踏まえて本件明細書の記載内容を理解すべ

きである。

5 ウ 第4事件原告の主張について

訂正後の発明が明確か否かは、訂正が明細書等に記載した事項の範囲内

においてされたものであるか否かや、訂正の目的が特許請求の範囲減縮

に当たるか否かとは、関係のないことである。無効審判における訂正請求

の要件を定めた特許法134条の2第9項において、無効審判の請求がな

10 された請求項に対しては同法126条7項独立特許要件)が課されてい

ないことからも、訂正後の請求項が明確か否かについては、訂正要件では

なく無効理由の有無として判断すべきことが明らかである。

2 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)

(1) 第1事件原告の主張

15 ア 前訴判決は、本件明細書に、粒子の最大長におけるセレコキシブ粒子の

「D90」の値を用いて粒子サイズの分布を規定することの技術的意義や、

「D90」の値と生物学的利用能の関係(課題解決との関係)について具体

的に説明した明細書の記載はないことを指摘した上、D90の値を「制限し

さえすれば、90%の粒子の粒度分布がどのようなものであっても、生物

20 学的利用能が改善されるものと理解することはできない」から、本件発明

に含まれる「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90」で特定さ

れた粒子サイズの分布の数値範囲全体にわたり課題を解決できると認識

できるものとは認められず、本件特許発明はサポート要件に適合しない旨

判示している。

25 本件訂正後も、発明が「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD

90 」の構成で粒子サイズの分布(粒度分布及び粒子径分布と同義である。)


14
を規定するとの発明特定事項を特徴とすること、本件明細書が粒子の最大

長におけるセレコキシブ粒子の「D90」の値を用いて粒子サイズの分布を

規定することの技術的意義、「D90」の値と生物学的利用能との関係につ

いて一切の説明を欠くのは同様であり、再開後の無効審判合議体は、前訴

5 判決に拘束される(行政事件訴訟法33条1項)。

そして、分布の一点のみの情報にすぎない「D90」の値だけで「粒子サ

イズの分布」を規定することはおよそ不可能・不合理であり、D90の値と

生物学的利用能との関係についても不明であるから、いかなる訂正がなさ

れようとも、本件発明(訂正発明)が、「D90」の値のみを用いて「粒子

10 サイズの分布」を規定する限り、サポート要件を満たすことはない。

イ 「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」の特定は、粉

砕機や粉砕条件が何ら規定されていないから、この特定によりセレコキシ

ブ粒子の粒度分布が明らかになるわけではない。

ウ 前訴判決は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項14(「ラウリル硫

15 酸ナトリウムを含有する加湿剤をさらに含む」との発明特定事項があっ

た。)についてもサポ―ト要件に適合しないと判断していたから、本件訂

正発明1の「ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤を含む」との発明

特定事項によっても、サポート要件に適合することはない。

エ 本件訂正発明2の「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が

20 30μm未満である粒子サイズの分布」については、例11−2の、調合

する前に粉砕したセレコキシブが「平均粒子サイズが10乃至20μmで

ある」ことを要するので、本件訂正発明2で実際に取り得るD90の数値範

囲は、20〜30μm未満のみとなり、本件訂正発明2(D90が30μm

未満)のD90の数値範囲には、課題を解決できない範囲(D90が20μm

25 未満の範囲)が含まれる。

すなわち、本件明細書の例11−2における「平均粒子サイズ」は、D


15
50 (粒子の累積個数が50%に達したときの粒子径の値)に対応する数値

と考えられるが、D50に対応する「平均粒子サイズ」がD90(粒子の累積

個数が90%に達したときの粒子径の値)の値を超えることは、技術常識

に照らして、理論的にあり得ない。訂正発明2のD90の数値範囲は、「平

5 均粒子サイズ」が「10乃至20μm」であることとの関係で、技術常識

に照らして、理論上あり得ない数値範囲の部分(例11−2については、

D90が20μm未満の部分)を含んでおり、当該部分は課題を解決できな

い。

(2) 第2事件原告の主張

10 ア 前訴判決によれば、生物学的利用能の改善という課題を解決できると当

業者は認識することができるためには、単にD90の値を特定しただけで足

りず、90%の粒子の粒度分布を特定することを要する。

イ 本件訂正発明の「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたもの」との

構成によっても、90%の粒子の粒度分布は一定ではない。

15 ウ 第1事件原告の主張イと同旨。

(3) 第3事件原告の主張

ア 衝撃式ミルで粉砕するとセレコキシブ結晶の凝集性及びブレンド均一

性が他の粉砕方法と比較して改善されることを示す試験データが本件明

細書には全く記載されていない。

20 イ D90の粒子サイズを規定したり、加湿剤を配合したとしても、本件訂正

発明に含まれる数値範囲の全体にわたって生物学的利用能が改善される

とは限らない。

ウ 本件明細書の例11における組成物A及びBというわずか2つの組成

物を根拠に、具体的な粒度分布に関係なく、本件訂正発明の数値範囲全体

25 にわたって、生物学的利用能が向上するとは認識することができない。

エ 第1事件原告の主張イと同旨。


16
(4) 第4事件原告の主張

ア 本件明細書には、粒子サイズD90が生物学的利用能に与える影響が記載

されていない。

イ 本件明細書には、粒度分布を特定する記載がないから粒度分布が生物学

5 的利用能に与える影響も記載されているとはいえない。

ウ 第3事件原告の主張イと同旨。

エ 本件訂正発明1及び2の「経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物」

は、例11−2に記載されたカプセル剤についてはサポートされていると

しても、カプセル剤は他の剤型と比較して早く崩壊することが知られ(甲

10 ニ1)、錠剤等他の剤型においても生物学的利用能が向上しているかは不

明である。

オ 第1事件原告の主張ウと同旨

カ 前訴判決は、D90が30μmを含む当時の請求項3についてもサポート

要件を満たさないとしている。

15 (5) 第5事件原告の主張

ア 本件明細書の【0024】及び【0135】は、技術的なメカニズムを

示すか又は実施例において実証されているものではない。

イ 第3事件原告の主張イと同旨

ウ 第1事件原告の主張ウと同旨

20 エ 前訴判決は、「前記粒子の最大長において前記セレコキシブ粒子のD90

が40μm未満であること」や、同じく「25μm未満であること」を発

明特定事項としても、それらD90の値の数値範囲の全体にわたり本件発明

1の課題を解決できると認識できるものと認められないと判示している。

(6) 被告の主張

25 ア 前訴判決は、@請求項 1 について、「粒子の最大長において、セレコキ

シブ粒子のD90が200μm未満」という広範な数値範囲を特定しただけ


17
では、セレコキシブの生物学的利用能が改善されると理解できないと判断

し、A請求項2〜4については、例11及び例11−2では、加湿剤とし

て含まれるラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能の実験結果に影響

した可能性が高いから、「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD

5 90 が100μm/40μm/25μm未満」という構成を特定しただけで

は、セレコキシブの生物学的利用能が改善される(課題を解決できる)と

認識することはできないと判断して、サポート要件違反と結論づけたもの

である。

本件訂正により、「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミル

10 で粉砕されたものであり」という構成、及び「ラウリル硫酸ナトリウムを

含有する加湿剤を含む」という構成が追加された本件訂正発明1について、

前訴判決の拘束力が及ぶことはない。

イ 本件明細書には、セレコキシブの経口投与化に際し、セレコキシブが長

く凝集した針を形成する傾向を有する結晶形態を有していることを問題

15 点として認識し(【0008】)、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕す

ることにより、一次粒子の最長の大きさ(粒子サイズ)を減少させ、長い

針状からより均一な結晶形へ結晶形態を変質させることにより、生物学的

利用能を改良するとともに、凝集力を低下させてブレンド均一性を向上さ

せる(【0022】、【0024】)発明が記載されている。そして、長

20 い針状の結晶を有するセレコキシブの一次粒子の最長の大きさ(粒子サイ

ズ)を減少させた状態のセレコキシブ粒子の特性の一つとして、セレコキ

シブ粒子の最大長におけるD90の数値範囲が特定されていると理解でき

る。

また、本件明細書には、ラウリル硫酸ナトリウムのような加湿剤を添加

25 することにより、相対的生物学的利用能を改善できることも記載されてい

る(【0075】、【0076】)。


18
さらに、例11−2の組成物Aは、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕

された、粒子の最大長において、D90が約30μmであるセレコキシブ粒

子、及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリウムを含有する組成物であり

(【0024】、【0173】、【0174】)、組成物Fは未粉砕、未

5 調合セレコキシブを含有する組成物である(【0172】)ところ、表1

1−2C、表11−2Dの記載から、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕

された、粒子の最大長においてD90が約30μmであるセレコキシブ粒子、

及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリウムを含有する組成物Aは、未粉

砕セレコキシブを含有する組成物Fに比べて、生物学的利用能が改善され

10 ることが理解できる。

そうすると、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕された、粒子の最大長

において、D90が30μmであるセレコキシブ粒子、及び加湿剤としての

ラウリル硫酸ナトリウムを含有する本件訂正発明1は、発明の詳細な説明

の記載から、「未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善され

15 た固体の経口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供する」

という課題を解決できると、当業者が認識できる範囲の発明であることは、

明らかである。

例えば本件訂正発明2の「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子の

D90が30μm未満であるような粒子サイズの分布」とは、粒子の最大長

20 において30μm以上のセレコキシブ粒子の割合が10%を超えないよ

うな粒子サイズの分布を包括的に表現したものであって、特定のグラフで

示せるような単一の粒子サイズの分布のみを表現しようとするものでは

ない。

3 取消事由3(明確性要件に関する判断の誤り)

25 (1) 第1事件原告の主張

物の発明である製薬組成物を製造するまでには複数の工程が必要であ


19
るところ、本件訂正後の各請求項は、物の発明である「製薬組成物」を製

法を通じて直接特定するものではないから、PBPクレームとはいえない。

イ 粉体粒子の粒子径分布を、粒子径を横軸とし、所定の粒子径の頻度又は

積算値を縦軸とした頻度分布又は積算分布で表現することは技術常識

5 あったから、粉砕した原薬であるセレコキシブ粒子を構造ないし特性(粒

度分布)で直接特定することは可能であり、不可能・非実際的事情は存在

しない。

ウ 本件訂正発明の「粒子サイズの分布」の意味が不明確であり、D90値の

みで粒子径分布を表すこと自体が発明の範囲を不明確にしているし、D9

10 0 の特定に「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」の文

言を加えても粒度分布は明らかにならない。

エ 本件訂正発明はセレコキシブ粒子の粒径の下限値を特定していないか

ら不明確である。

(2) 第2事件原告の主張

15 ア 「ピンミルのような衝撃式ミル」として、様々な種類の粉砕機のうちの

どのようなものが含まれ、どのようなものが含まれないかを理解すること

ができない。

イ セレコキシブを粉砕しD90を30μm又は30μm未満とした場合に、

粉砕機や粉砕条件によって、粒度分布は一定にならないから、「セレコキ

20 シブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」とい

う構成では、粒度分布が一義的に特定されず、当該製造方法により製造さ

れる物が一定の構造、特性を有さず、本件訂正発明は明確性要件を満たさ

ない。

(3) 第3事件原告の主張

25 本件明細書の【0008】、【0024】に、セレコキシブを「ピンミル

のような衝撃式ミルで粉砕」することによって、凝集性及びブレンド均一


20
性という特性に粉砕方法由来の相違が現れることが記載されているから、

訂正発明1は製法によらなくても、上記特性(凝集性及びブレンド均一性)

とD90の粒子サイズを特定する技術事項により、構造及び特性を特定する

ことができた。

5 本件優先日当時、原料粉末の凝集性は、様々な測定方法が存在し、多くの

粉体の測定に用いられていたから、当業者は、適切な測定方法を適宜選択

し、粉体の凝集性の程度を特定することが可能であり、そのように特定す

ることに何の困難もないと解され、粒度分布の特定についても同様である。

以上から、本件において、不可能・非実際的事情は認められない。

10 (4) 第4事件原告の主張

ア 第2事件原告の主張アと同旨。

イ 一般に粉砕物の構造や物性の相違は、比表面積、粒度分布、アスペクト

比、結晶化度又は顕微鏡画像解析などのデータによって比較をすればよく、

試験に係る時間と費用の負担は極めて軽度で粉砕機も7〜8種類しかな

15 いから、不可能・非実際的事情は存在しない。

(5) 第5事件原告の主張

ア 第2事件原告の主張アと同旨。

なお、後記被告の主張アを前提としても、凝集力の測定・評価方法は多

数あるから「凝集力が低下」の意味は明らかでないし、「長い」「針状」

20 の具体的内容が明細書に記載されていないから、セレコキシブ粒子の「長

い針状」への該当性(あるいはその対立概念である「より均一な結晶形」

への該当性)も判断困難である。

イ 「ピンミルのような衝撃式ミル」によって粉砕されたセレコキシブ粒子

の構造又は特性を特定する上で、「理論・原理を明らか」にする必要はな

25 く、単に、粉砕後のセレコキシブの構造又は特性を直接記載すれば足りる。

請求項に記載された製造方法自体が多種多様な方法を含むということで


21
あれば、第三者はそれらの全てで製造してみなければ権利範囲を知ること

ができないから、そのような請求項はPBPクレームが許容される前提を

欠く。

(6) 被告の主張

5 ア 「ピンミルのような衝撃式ミル」とは、ピンミルのほか、ピンミルで粉

砕したものと同じ構造、特性を有するセレコキシブ粒子が得られる衝撃式

ミルがこれに含まれる。

「セレコキシブ粒子がピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたもの」

とは、「セレコキシブ粒子がピンミルで粉砕されたもの」と同じ構造、特

10 性、すなわち、本件明細書の【0024】記載の、長い針状からより均一

な結晶形へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上すると

いう、構造、特性を有するものである。

イ 特定の衝撃式ミルを用いて特定の粉砕条件で粉砕したセレコキシブ粒

子について、より具体的な構造、特性を特定する(例えば、セレコキシブ

15 粒子の粒度分布を単一のグラフで特定する等)ことが仮に可能であったと

しても、「未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固

体の経口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供する」とい

う課題を解決し、「凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上する」という

特性ないし効果を有する発明の技術的範囲としては狭すぎるものとなり、

20 発明の技術的思想を過不足なく特定したものとはいえないから、セレコキ

シブ粒子を、具体的な構造、特性で特定することは不可能というべきであ

る。

ピンミルのような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕することにより、長

い針状からより均一な結晶形へ変質された結晶形態を有し、ブレンド目的

25 により適するようになる、具体的な理論ないし原理は明らかではない。こ

れらを明らかにし、ピンミルのような衝撃粉砕によって粉砕したセレコキ


22
シブ粒子の構造、特性をより具体的に特定しようとする場合には、衝撃粉

砕とは異なる多数の粉砕方法による場合と比較して、ピンミルのような衝

撃粉砕によって様々に粉砕されたセレコキシブ粒子の構造、特性を検証し

ていく作業が必要となるが、このような作業は出願人(特許権者)に膨大

5 な時間と費用の負担を強いるものであるから、およそ実際的ではない。

したがって、本件では、不可能・非実際的事情が認められる。

4 取消事由4(実施可能要件に関する判断の誤り)

(1) 第1事件原告の主張

ア 本件訂正発明ではセレコキシブ粒子の粒径の下限値は規定されておら

10 ず、衝撃式ミルでは得ることができない微細な粒子も含まれるが、そのよ

うな粒子をどのようにして製造するのか、本件明細書には記載されておら

ず、出願時の技術常識を踏まえても不明である。

イ 本件明細書の例11−2において、ピンミルの装置名、ディスク上のピ

ンの構造(形状、本数、間隔)等、粒度分布を特定できるだけの詳細な実

15 験条件の記載はないので、セレコキシブ粒子を得るための粉砕を実施する

ことは困難である。

ウ 本件特許の出願日当時の技術水準では、製薬組成物中の原薬の粒子径分

布を正確に測定する方法は知られていなかったので、訂正発明に係る製薬

組成物中の原薬の粒子径分布を再現することは当業者には過度の試行錯

20 誤が必要であり、実施可能要件違反である。

(2) 第2事件原告の主張

本件訂正発明5の「同じ投与量のセレコキシブを含有する経口運搬された

溶液と比較して約50%乃至約55%であるセレコキシブの相対的な生物

学的利用能を有する」という構成は、例11−2の組成物AのD90のみによ

25 って実現できたものではなく、90%の粒子の粒度分布により初めて実現で

きたものであるが、本件明細書には例11−2の組成物Aの具体的な粉砕方


23
法や粉砕条件の記載がないため、上記構成を実現するには様々な粉砕機につ

いて様々な粉砕条件を試すという過度の試行錯誤が必要となるから、本件訂

正発明5、7〜13、15、17〜19は実施可能要件を満たさない。

(3) 第4事件原告の主張

5 本件明細書の【0190】には機器名称、ピンの形状・本数、処理時間、

処理量、処理温度等の粉砕条件に関する記載がない。当業者にとってその実

施には過度の負担が必要であったといえ、本件訂正発明は実施可能要件を満

たさない。

(4) 第5事件原告の主張

10 本件明細書の例11及び例11−2の「組成物A」及び「組成物B」は、

セレコキシブの粉砕方法及びD90粒子サイズについての明示の記載はなく、

【0024】には、「組成物A」及び「組成物B」が、ピンミルのような衝

撃式ミルでセレコキシブを粉砕したものであることは記載されておらず、

【0174】の記載は、「組成物A」及び「組成物B」のセレコキシブ粒子

15 サイズを小さくする粉砕機は特定する必要はないが、ピンミルを例示したに

すぎないものと解するのが相当であるか、せいぜい、「組成物A」及び「組

成物B」はピンミルにより粉砕されたと解され、ピンミルを含む広い概念で

あるピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたと解釈できるものではない

から、組成物Aに含まれるセレコキシブは、ピンミルのような衝撃式ミルで

20 粉砕したもので、 90粒子サイズは約30μmであると推認されることはな


い。

本件明細書の記載に基づいて、「粒子の最大長において、セレコキシブ粒

子のD90が30μmである粒子サイズの分布」を有する微粒子セレコキシブ

を、セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミルのような衝撃式

25 ミルでセレコキシブを粉砕することで製造できるとはいえず、また、本件明

細書に記載がなくても上記微粒子セレコキシブを製造できるという技術常


24
識はない。

(5) 被告の主張

本件明細書の例11−2には、 90が約30μmのセレコキシブ粒子及び


ラウリル硫酸が含まれる組成物Aが記載され、本件明細書【0024】及び

5 【0174】の記載によれば例11−2の組成物Aにおけるセレコキシブ粒

子は、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものである。

本件明細書【0190】からは、「ピンミルのような衝撃式ミル」を使用

すればミル速度等の厳密な条件を決定することなく、再現性をもって比較的

狭い範囲(D90が30μm又は30μm未満)の粒子サイズのセレコキシブ

10 が得られることが確認されている。

そして、表11−2C、表11−2Dの記載から、ピンミルのような衝撃

式ミルで粉砕された、粒子の最大長においてD90が約30μmであるセレコ

キシブ粒子、及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリウムを含有する組成物

Aは、同じ投与量のセレコキシブを含有する経口運搬された溶液(組成物E)

15 と比較した相対的生物学的利用能が、50%、55%であり、本件訂正発明

5に規定された数値範囲内にあることも理解できる。

このようにして得られた組成物を公知の医薬用途に使用できることは、明

らかである。

当業者が本件訂正発明1、2及び5の製薬組成物を製造しかつ使用するこ

20 とができることは明らかであり、これらの訂正発明及びこれらを直接的又は

間接的に引用する各訂正発明も実施可能要件に適合する。

5 取消事由5(甲8発明に基づく本件訂正発明の進歩性の判断の誤り)

(1) 第2事件原告の主張

ア 製剤の原薬を粉砕するときに「ピンミルのような衝撃式ミル」を使用で

25 きることは技術常識であり、生物学的利用能の改善及びブレンド均一性の

改善という周知の技術的課題を解決するためにこれを粉砕するという周


25
知の解決手段を適用するに際し、「ピンミルのような衝撃式ミル」という

周知の粉砕方法を採用することは当業者が容易に想到できることである。

イ 本件優先日当時の当業者は、技術常識に従い、セレコキシブ粒子を適宜

の粒子径まで小さくなるように粉砕することが容易に想到でき、その場合、

5 粒径のサイズは所望の生物学的利用能及びブレンド均一性となるように

適宜調整すればよい設計的事項にすぎないが、粒径を数μm〜十数μmと

することは教科書的文献にも記載されている程度のごく一般的な数値範

囲にすぎず、その場合、D90が30μm未満となる場合が多数あり得るこ

とは容易に認められる(甲イ72、104)。本件訂正発明の技術的範囲

10 に含まれる物そのものが容易に想到できた以上、本件訂正発明の進歩性

否定されるべきである。特段の技術的意味のない無意味なパラメータであ

るD90をもって特定したことを理由に、進歩性を認めるべきではない。

(2) 第4事件原告の主張

ア 「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたも

15 のであり」との発明特定事項は、せいぜい「セレコキシブ粒子が、製薬組

成物の原末の粉砕に慣用される粉砕方法にすぎないピンミルのような衝

撃式ミルで粉砕されたものであり」程度に解釈せざるを得ない。しかる

ところ、製薬組成物の有効成分の生物学的利用能の改善及びブレンド均

一性の改善のために、粒子サイズを数μm程度の微粒子とされることが

20 周知であるから(甲イ16)、仮にセレコキシブ粒子のD90が30μm

と規定したとしても、製薬組成物の有効成分の生物学的利用能の改善及

びブレンド均一性に格別の差異や効果が存するとはいえない。

イ なお、別件審決が確定したからといって、第4事件原告が、甲8発明に

基づく本件訂正発明の進歩性欠如を主張することが、特許法167条によ

25 り許されなくなるということはない。

本件無効審判請求がされたのが平成28年9月30日であるのに対し、


26
別件審決が確定したのが令和4年3月22日であるから、別件審決が確定

したとしても、それよりも前に申し立てられている本件審判における主張

立証について同条の適用はない。

また、別件審決及び別件判決は、本件訂正がされる前のものであり、本

5 件とは前提が異なる。

(3) 被告の主張

ア 第2事件原告の主張について

本件訂正発明1は、セレコキシブが長く凝集した針を形成する傾向を有

する結晶形態を有していることに着目したものであり、単に平均粒径を小

10 さくするということではなく、長い針状の結晶を減少させてより均一な結

晶形とすることが重要である。そのために、「セレコキシブ粒子がピンミ

ルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであること」、及び「粒子の最大

長において、セレコキシブ粒子のD90」、つまり、最大長が所望の大きさ

以下である粒子の粒子全体に占める割合が90%であることを特定した

15 ものである。

イ 第4事件原告の主張について

本件訂正発明1、2は、別件審決及び別件判決が判断の対象とした、特

許登録時の請求項1の誤訳訂正をした発明を、@ピンミルのような衝撃式

ミルで粉砕されたものであり、A粒子の最大長において、セレコキシブ粒

20 子のD90が30μm/30μm未満である粒子サイズの分布を有し、Bラ

ウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤を含むという点でさらに限定し

たものである。すなわち、本件訂正発明1、2は、前訴判決時の請求項に

係る発明に包含されるものであり、対象となる発明が異なるとはいえない。

別件審決及び別件判決が判断した広い数値範囲(D90が200μm未満)

25 の構成が容易でないとされた以上、これに含まれる数値範囲(D90が30

μm未満)の構成も容易でないことは明らかである。


27
したがって、別件無効審判請求人である第4事件原告は、特許法167

条により、甲8発明に基づく進歩性欠如を主張することはできない。

第4 当裁判所の判断

1 取消事由1(訂正要件に関する判断の誤り)について

5 (1) 本件訂正の訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項1において@「粒子の

最大長において、セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイ

ズの分布」とあったのを、「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD9

0 が30μmである粒子サイズの分布」と訂正してD90の数値を限定し、さら

に、 「セレコキシブ粒子が、
A ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたもの

10 であり」、B「ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤を含む」との新たな

構成を付加するものである。

訂正事項3は、上記A、Bの構成の付加は訂正事項2と共通で、上記@の数

値限定を「D90が100μm未満」から「30μm未満」と訂正するもので

ある。

15 そうすると、訂正事項2、3は、いずれも特許請求の範囲減縮を目的とす

るものである。

(2) 次に、上記訂正が本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするもの

(特許法134条の2第9項126条5項)といえるかどうか検討する。

まず、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3には、「セレコキシブのD

20 90 が40μm未満」であることが、同請求項4には、「セレコキシブのD90

が25μm未満」であることが記載され、本件明細書の【0124】には、
「セ

レコキシブのD90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させると、

組成物の生物学的利用能は非常に改善される」ことが、【0124】には「セ

レコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下、好ましくは約100μm

25 以下、より好ましくは約75μm以下、さらに好ましくは約40μm以下、最

も好ましくは25μm以下である。 との記載がある 【0022】
」 ( も同旨)。


28
また、本件明細書の【0024】には、「セレコキシブと賦形剤とを混合する

に先立ち、「ピンミル(pin mill)のような衝撃式ミルでセレコキシ

ブを粉砕」することが、【0190】には、「反対に回転するディスクによる

衝撃式ピンミルにて混合された」場合に「粒子サイズは比較的狭い範囲(D9

5 0 が30μm若しくはそれ以下)内で変化し」たことが、記載されている。そ

うすると、本件明細書等には、セレコキシブ粒子をピンミルのような衝撃式

ミルで粉砕し、D90を30μm(訂正事項2)又は30μm未満(訂正事項

3)とすることが記載されていたといえる。

また、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項14には、「ラウリル硫酸ナト

10 リウムを含有する加湿剤をさらに含む」ことが記載されており、本件明細書

の【0075】、【0076】には、セレコキシブが水溶液にかなり溶解しに

くいことに対応して、本発明の製薬組成物は、好ましくは、キャリア材料とし

て、加湿剤を含み、それは水と親和性があるようにセレコキシブを維持させ

るように選択するのが好ましく、特にラウリル硫酸ナトリウムを含むことが

15 好ましいこと、本件明細書の表11−2A 【0173】 には、
( ) 「組成物A」

に加湿剤である「ラウリル硫酸ナトリウム」が添加されていることが記載さ

れている。よって、本件明細書等には、ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加

湿剤をさらに含むことが記載されていたといえる。

以上によれば、訂正事項2、3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内に

20 おいてするものである。

(3) したがって、本件訂正(原告らが訂正の適否を争っている部分)は、特許

請求の範囲減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲拡張

し、又は変更するものには該当せず、かつ、本件明細書等に記載した事項の範

囲内においてするものであると認められる。

25 (4) 第1事件原告の主張について

ア 第1事件原告は、訂正事項2は、「原薬(原材料)」の「粒子サイズの分


29
布」に関する記載に基づいて、「最終製剤(製薬組成物)」中の粒子の「粒

子サイズの分布」を訂正するものであるから、「最終製剤」について特許

請求の範囲減縮を目的とするものでなく、新規事項を追加し、かつ、特

請求の範囲変更するものである旨主張する。

5 しかし、本件明細書の【0022】の、「本発明の組成物は微粒子の形

態のセレコキシブを包含する。セレコキシブの一次粒子は、例えば、製粉

若しくは粉砕により、又は溶液から沈殿させて生成させ、凝集して二次の

集合体粒子が形成される。本願で利用する用語「粒子サイズ」とは、特に

本願で指摘しない限り、一次粒子の最長の大きさのことをいう。粒子サイ

10 ズは、セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータである

と考えられる。よって、別の実施例では、発明の組成物は、粒子の最長の

大きさで、粒子のD90が約200μm以下、好ましくは約100μm以下、

より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは約40μm以下、最も好

ましくは約25μm以下であるように、セレコキシブの粒子分布を有す

15 る。」との記載と、【0124】の「カプセル若しくは錠剤の形で経口投

与されると、セレコキシブ粒子サイズの減少により、セレコキシブの生物

学的利用能が改善されるを発見した。したがって、セレコキシブのD90粒

子サイズは約200μm以下、好ましくは約100μm以下、より好まし

くは約75μm以下、さらに好ましくは約40μm以下、最も好ましくは

20 25μm以下である。」との記載を対照すれば、本件明細書においては原

料の粒子サイズの分布が製薬組成物の粒子サイズの分布として記載され

ているものと認められ、第1事件原告の主張は採用できない。

イ 第1事件原告は、 90が200μm未満である粒子サイズの分布は不確


定であり、 90を30μm
D (訂正事項2)又は30μm未満(訂正事項3)

25 に変更しても粒子サイズの分布は限定されず、また、D90の値のみを用い

て「粒子サイズの分布」を規定することはできず、訂正後の特許請求の範


30
囲が限定されないから、特許請求の範囲減縮を目的とする訂正に当たら

ない旨主張する。

しかし、 90とは、
D サンプル粒子の90%はD90値よりも小さいことを

意味するところ(本件明細書【0013】)、D90が200μmから30

5 μmないし30μm未満に限定されることで、数値範囲が狭くなることは

明らかであり、第1事件原告の主張は採用できない。

(5) 第2事件原告の主張について

第2事件原告は、例11−2の組成物A(【0172】)は、粉砕手段が

特定されていない上に、粒子サイズをD90として測定したものでないこと、

10 【0024】の記載から例11−2の組成物Aの粉砕方法がピンミルのよう

な衝撃式ミルであると特定することはできないこと、本件明細書【0124】

には粉砕方法の記載はないこと、本件明細書【0174】は、粉砕方法の一

例を示すものであることを理由に、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付し

た明細書等に記載した事項の範囲内のものではない旨主張する。

15 しかし、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてす

るものであることは前記(2)のとおりである。第2事件原告の主張は、訂正

事項2が一体として実施例に記載されていなければならないとするに帰す

るものであり、採用することができない。

(6) 第4事件原告の主張について

20 第4事件原告は、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたもの」の意

味、ひいては本件訂正発明の権利範囲ないしは技術的範囲が不明確であるか

ら、このような不明確な構成を追加する訂正後の発明の技術的範囲も不明確

となるとし、訂正事項2及び訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の

範囲内においてするものであるとはいえず、新規事項の追加に当たり、特許

25 請求の範囲減縮を目的とする訂正とはいえない旨主張する。

しかし、訂正事項2及び訂正事項3は、D90の数値を限定し新たな構成を


31
付加するものであるから、これにより権利範囲を狭めるものであることが論

理的に明らかである以上、特許請求の範囲減縮を目的とするものである。

また、「ピンミルのような衝撃式ミル」に対応する記載が本件明細書に存在

することは前記(2)からも明らかであり、この点に関する第4事件原告の主

5 張は、訂正後の発明が明確であるかどうかの問題として判断されるべきもの

である。

(7) 以上のとおり、訂正事項2、3につき訂正要件の不備があるという原告ら

の主張は採用できず、取消事由1は理由がない。

2 取消事由3(明確性要件に関する判断の誤り)について

10 (1) 特許法36条6項2号は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない

場合には、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能

性を奪うなど第三者の利益が不当に害されることがあり得ることから、特許

を受けようとする発明が明確であることを求めるものである。その充足性の

判断は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載

15 及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、

特許請求の範囲の記載が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である

か否かという観点から行うのが相当である。

(2) 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2は、
「セレコキシブ粒子が、

ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事項

20 (以下「本件ピンミル構成」ということがある。)を含む(削除された請求

項を除く他の請求項も、請求項1又は2を直接又は間接的に引用することで

本件ピンミル構成を含むことになっている。)ところ、本件ピンミル構成を

巡っては、そのクレーム解釈(PBPクレームといえるか否か、「ピンミル

のような」は衝撃式ミルの単なる例示か、衝撃式ミルの一部に限定する構成

25 かなど)と、当該クレーム解釈を前提とした明確性要件の適合性の議論が重

層的に争われているので、以下、順次検討していく。


32
(3) まず、本件ピンミル構成がPBPクレームに当たるかについて検討するに、

本件ピンミル構成に関する本件明細書の【0024】、【0190】の記載

が、セレコキシブ粒子を粉砕する製造工程、製造方法を開示していることは

明らかであり、したがって、本件訂正によって特許請求の範囲の発明特定事

5 項とされるに至った本件ピンミル構成についても、「ピンミルのような衝撃

式ミルで粉砕」するという製造方法をもって物の構造又は特性を特定しよう

とするもの(その意図が成功しているかどうかはともかく)と理解される。

この限度では、被告が主張し、本件審決が判断を示しているとおりである。

第1事件原告は、製薬組成物の製造には複数の工程が必要であるなどとし

10 てこれを争うが、そのような工程の全てを特定することがPBPクレーム

しての必須条件とはいえない。実質的に製造方法明確性を問題にしている

とすれば、この点からの検討は後に示すこととする。

(4) 次に、本件ピンミル構成の意味するところ(例示か限定か)を検討するに、

「ピンミルのような衝撃式ミル」との特許請求の範囲の文言自体に着目して

15 考えた場合、@ピンミルは単なる例示であって衝撃式ミル全般を意味すると

いう理解、A衝撃式ミルに含まれるミルのうち、ピンミルと類似又は同等の

特性を有する衝撃式ミルを意味するという理解のいずれにも解する余地が

あり、特許請求の範囲の記載のみから一義的に確定することはできない。

そこで、本件明細書の記載を参照するに、本件明細書の【0024】には、

20 「セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミル(pin mil

l)のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作

製することは、改善された生物学的利用能を提供するに際して効果的である

だけでなく、かかる混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性

と関連する問題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミル

25 を利用して粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネ

ルギーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ


33
よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体には容

易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が高くなり、

このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合において、非常に

重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合する際のエアージェッ

5 トミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ結果をもたらす。特

定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕により長い針状からより均一な結

晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質させ、ブレンド目的により適するよ

うになるが、長い針状の結晶はエアージェットミルでは残存する傾向が高い

と仮定される。」との記載が、【0135】には、「セレコキシブは先ず粉

10 砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕機若し

くは破砕機が利用することが可能であるが、セレコキシブのピンミリングの

ような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組成物に改善さ

れたブレンド均一性がもたらせる」との記載がある。

以上の記載に上記(3)の解釈を併せて考えると、本件ピンミル構成は、被

15 告が主張(第3の3(6)ア)するように、本件訂正発明に係る薬剤組成物の含

むセレコキシブ粒子が、ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られる

のと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下

し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するものであることを特定す

る構成であって、したがって、「ピンミルのような衝撃式ミル」とは、ピン

20 ミルに限定されるものではなく、上記のような構造、特性を有するセレコキ

シブ粒子が得られる衝撃式ミルがこれに含まれ得るものと理解するのが相

当である。

(5) 以上を前提に、本件ピンミル構成を含む本件訂正発明の特許請求の範囲

記載が明確性要件を満たすかどうかを検討する。

25 ア 衝撃式粉砕機に分類される粉砕機としては、本件審決も認定していると

おり、多種多様なものがある(ハンマーミル、ケージミル、ピンミル、デ


34
ィスインテグレータ、スクリーンミル等が知られており、ハンマーの形状

によっても、ナイフ型、アブミ型、ブレード型、ピン型等がある。甲イ1

11、112、136)ところ、上記(4)で示したクレーム解釈によると、

衝撃式粉砕機によって粉砕されたセレコキシブ粒子を含む薬剤組成物で

5 あっても、本件特許の技術的範囲に属するものと属しないものがあること

になるが、本件明細書に接した当業者において、「ピンミルで粉砕された

セレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形

へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性

を有するセレコキシブ粒子」を製造できる衝撃式粉砕機がいかなるものか

10 を理解できるとは到底認められない。すなわち、一般に、明細書に製造方

法の逐一が記載されていなくても、当業者であれば、明細書の開示に技術

常識を参照して当該製造方法の意味するところを認識できる場合も少な

くないと解されるが、本件の場合、本件明細書には、「ピンミルで粉砕さ

れたセレコキシブ粒子」の凝集力の小ささ、改善されたというブレンド均

15 一性が、ピンミルのいかなる作用によって実現されるものかの記載がない

ため、衝撃式ミル一般によって実現されるものなのか、衝撃式ミルのうち、

ピンミルと何らかの特性を共通にするものについてのみ達成されるもの

なのかも明らかとなっていない。そのため、技術常識を適用しようとして

も、いかなる特性に着目して、ある衝撃式ミルが本件ピンミル構成にいう

20 「ピンミルのような衝撃式ミル」に当たるか否かを判断すればよいのかと

いった手掛かりさえない状況といわざるを得ない。

イ そうすると、本件明細書等に加え本件出願日(明確性要件の判断の基準

時)当時の技術常識を考慮しても、「ピンミルのような衝撃式ミル」の範

囲が明らかでなく、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するというセ

25 レコキシブ粒子の製造方法は、当業者が理解できるように本件明細書等に

記載されているとはいえないから、本件訂正発明は明確であるとはいえな


35
い。

ウ ところで、PBPクレームは、物自体の構造又は特性を直接特定するこ

とに代えて、物の製造方法を記載するものであり、そのような特許請求の

範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要

5 求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する

以前の問題として、前記ア、イに示したようにそもそも特許請求の範囲

記載された製造方法自体が明確性を欠くものである。

(6) 本件審決は、「ピンミルのような衝撃式ミルは、いわゆる衝撃式粉砕機で

あり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機と

10 は異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることが理解できるから明確

である」としており、これは、「ピンミルのような」について、「いわゆる

衝撃式粉砕機」のなかでも、さらに、「粉砕された粉体は、ジェットミルの

ような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」こと

のできる装置であるとの意味づけを与えた認定であると解される。

15 そして、「ピンミルによる」粉砕が、「粉砕された粉体は、ジェットミル

のような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」も

のであることについて、本件審決は、本件明細書の、ピンミルと、エアージ

ェットミルのような他のタイプのミルとの粉砕物の凝集力の違いに関する

記載(【0024】)、及び、粉砕装置の粉砕機構が異なれば得られる粒子

20 の粒度分布が異なるという技術常識を認定したことにより、導き出している

ものと認められる。

しかし、本件明細書には、凝集力の違いが、粉砕装置の違いに基づく粒子

の粒度分布の違いに起因するものであるとの記載も示唆もない。粉砕装置の

違いが、粒度分布の違い以外の粒子特性を導くことも当然考えられるところ

25 である(これを否定する技術常識があるとは認められない。 。
) そうすると、

「ピンミルのような」が、「衝撃式ミル」に対して、さらに「粉砕された粉


36
体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の

粉体を作製する装置」であるとの意味づけを与えた本件審決の解釈は、本件

明細書等の記載及び技術常識を考慮しても、無理があるものといわざるを得

ない。

5 (7) 以上より、不可能・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の

請求項1、2、4、5、7〜13、15、17〜19の記載は明確性要件に

違反するものであり、取消事由3は理由がある。

3 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について

上記2のとおり、取消事由3が認められる以上、本件審決(原告らが取消しを

10 求めている請求項に関する部分)は既に取消しを免れないものである。しかし、

明確性要件違反の原因となった本件ピンミル構成は、前訴判決がサポート要件

違反を肯定する判断をしたことを受けて、その瑕疵を回避するために特許請求

の範囲に加えられたという本件の経過を踏まえると、本件訂正後の特許請求の

範囲を前提としたサポート要件の適合性の問題(取消事由2)についても、併せ

15 て判断を示すことが適切と考えられることから、以下に当裁判所の判断を示し

ておくこととする。

なお、その場合、本件ピンミル構成を含む特許請求の範囲明確性要件を欠

くことが前提となるから、サポート要件の判断においても、本件ピンミル構成

発明特定事項として考慮しない前提で検討することとする。

20 (1) 前訴判決がサポート要件違反を認めて第1次審決を取り消したことは前

述のとおりであるところ、本件においては、前訴判決の拘束力がいかなる範

囲に及ぶかが問題となっているので、まずこの点を検討する。

ア 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判

決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判

25 事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は

行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法3


37
3条1項の規定により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束

力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる

ものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断を

することは許されない(最高裁判所昭和63年(行ツ)第10号平成4年

5 4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。

この拘束力は、行政庁が裁判所の判断に反して同一の処分を繰り返し、

同一の案件が行政庁と裁判所の間を往復することを避けるためのもので

あり、原則として主文についてのみ生ずる既判力と異なり、判決理由中の

判断であっても、主文に直結する認定判断、すなわち主要事実の認定及び

10 その法規範への当てはめの判断にも及ぶものである。他方、判決の結論と

直接関係のない傍論の説示はもとより、主要事実を確定する過程における

間接事実の認定やその評価にまで及ぶものではなく、また、結論に至る推

論過程を基礎づける論拠、反対主張を排斥する理由等の説示についても同

様である。取消判決の理由中の説示の全てが拘束力を有するとした場合、

15 結論に影響する意味合いや程度も様々な議論が独り歩きを始め、その解

釈・適用を巡って新たな紛争を拡大させることとなり、そのような状況は、

行政事件訴訟法33条1項の想定するところではないというべきである。

イ 以上を前提に、前訴判決(甲イ86)の判断構造をみておく。

(ア) 前訴判決は、まず、サポート要件適合性について、「所定の数値範囲

20 を発明特定事項に含む発明について、特許請求の範囲の記載が同号所定

の要件(サポート要件)に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な

説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の

全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか

否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である」とし、「これ

25 を本件発明1についてみると・・・『粒子の最大長において、セレコキ

シブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有する』こ


38
とを特徴とするものであるから、所定の数値範囲を発明特定事項に含む

発明であるといえる。」としているので、「D90が200μm未満であ

る粒子サイズの分布を有する」本件発明1について、その数値範囲の全

体にわたりその課題を解決できるものであるかどうかを検討している。

5 (イ) そして、前訴判決は、(a)一方で、本件明細書の【0022】、【01

24】、【0135】の記載から、未調合のセレコキシブを粉砕し、「セ

レコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」とした場合には、セ

レコキシブの生物学的利用能が改善されること、セレコキシブのピンミ

リングのような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組

10 成物に改善されたブレンド均一性がもたらせることを示したものとい

えるとしつつ、(b)他方で、@本件発明1の請求項1には、セレコキシブ

を微細化する具体的な方法は記載されておらず、本件発明1の「微粒子

セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉砕」により粉砕された

ものに限定する旨の記載もなく、かえって、本件明細書の【0135】

15 には、さまざまな粉砕機・破砕機が利用可能とされていること、A本件

明細書の【0008】には、長く凝集した針を形成する傾向を有する結

晶形態を有する未調合のセレコシブは、錠剤成形ダイでの圧縮の際に、

融合して一枚岩の塊になり、他の物質とブレンドさせたときでも、セレ

コキシブの結晶は、他の物質から分離する傾向があり、セレコキシブ同

20 士で凝集し、セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する、非均一なブ

レンド組成物になるとの記載があること、B本件優先日当時、粉砕によ

り溶出は改善されるが、難溶性薬物は凝集して溶解速度が遅くなること

があることが周知又は技術常識であったことを踏まえると、(c)難溶性

薬物であるセレコキシブについて、「
『セレコキシブのD90粒子サイズが

25 約200μm以下(「未満」の誤記と認められる。)』の構成とするこ

とによりセレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理


39
解することはできない」(以下「説示(c)」という。)とした。

また、本件明細書には、(d)「D90」の値を用いて粒子サイズの分布

を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係

が説明されていないことを述べた上で、(e)難溶性薬物の原薬の粒子径

5 分布が化合物によって種々の形態を採ることに照らすと、「200μm

以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分布がどの

ようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解するこ

とはできない」(以下「説示(e)」という。)とした。そして、(f)本件

明細書の例11及び例11−2の実験結果の記載は、微粉化したセレコ

10 キシブを含有する「組成物A」及び「組成物B」(これらに含まれるセ

レコキシブのD90粒子サイズは約30μmと推認される。)の生物学的

利用能は、未粉砕、未調合のセレコキシブである「組成物F」の生物学

的利用能より高いことを示しているが、「組成物A」及び「組成物B」

に加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが、生物学的利用能の

15 実験結果に影響した可能性が高いものと認められ、この実験結果から、

本件発明1の「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲

の全体にわたり、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善

するものと認識することはできないとした。

(ウ) 前訴判決は、以上を踏まえた結論として、本件明細書の発明の詳細な

20 説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が、本件発明1

に含まれる「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が200

μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると

認識できるものと認められないから、本件発明1は、サポート要件に適

合するものと認めることはできないとした。

25 (エ) 前訴判決の本件発明2〜4のサポート要件の適合性に関する判断は、

以下のとおりである。


40
本件発明2は「前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子の

D90が100μm未満であること」を、本件発明3は同40μm未満で

あることを、本件発明4は同25μm未満であることをそれぞれ発明特

定事項とするものであるところ、セレコキシブ粒子のD90が200μm

5 未満である本件発明1がサポート要件に適合するものと認めることが

できないことは前記のとおりであると指摘した上で、例11及び例11

−2の実験結果も、ラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能の実験結

果に影響した可能性が高いものと認められることに照らすと、上記実験

結果から、D90が約30μmよりも小さい値とした場合において、未調

10 合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識する

ことはできないとして、本件発明2〜4はサポート要件に適合するもの

と認めることはできないとした。

(オ) 前訴判決は、本件発明5、7〜19については、請求項1記載の製薬

組成物を発明特定事項に含むものであるところ、「本件発明1がサポー

15 ト要件に適合するものと認めることができないことは前記‥のとおり

であるから」という理由により、サポート要件に適合するものと認める

ことはできないとした。

ウ 取消判決の拘束力の範囲に関し上記アで述べたところに従って、前訴判

決の拘束力の生ずる部分を検討するに、主文に直結する認定判断(主要事

20 実の認定及びその法規範への当てはめの判断)は、本件訂正前の特許請求

の範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識(主要事実

の認定に当たる。 を前提に、
) 本件訂正前の特許請求の範囲によって特定さ

れる発明(本件発明)が特許法36条6項1号の要件に適合しないとした

判断(法規範への当てはめに当たる。)にほかならず、前訴判決中、拘束力

25 が生ずるのは当該部分であると解される。

他方、前訴判決の判断過程では、結論に至る推論過程を基礎づける論拠


41
として、説示(c)、(e)等の様々な理由が示されているが、その逐一について

拘束力が生ずるものではないことは、上記アで述べたとおりである。

エ そもそも、サポート要件は、明細書の記載(特許を受けようとする発明の

開示)から見て広すぎる特許請求の範囲を防ぐ役割を果たすものであると

5 ころ、被告は、本件訂正前の本件発明につきサポート要件違反を認めた前

訴判決を受けて、特許請求の範囲減縮を目的とする本件訂正の請求をし

ており、これが訂正要件を充足することは前記1のとおりである。

その結果、本件では、本件訂正後の特許請求の範囲(ただし、本件ピンミ

ル構成は発明特定事項として考慮しない。)に基づく本件訂正発明のサポ

10 ート要件の適合性が問題となっているのであって、同じサポート要件の適

合性の問題であっても、本件訂正前の特許請求の範囲を前提とする前訴判

決とは判断対象が異なる。それにもかかわらず、「前訴判決の説示(c)、(e)

等に照らせば、本件訂正後の本件訂正発明についても、前訴判決と同様の

判断が妥当する(はずである)」といった推論を戦わせるのは、取消判決

15 拘束力の問題とは異質の議論といわざるを得ない。

オ 本件審決は、前訴判決の説示(e) 難溶性薬物の原薬の粒子径分布は ・ 、
( ・・

200μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分

布がどのようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解

することはできない旨の判示)について、これは、生物学的利用能の改善の

20 観点では、90%の粒子の粒度分布も重要であることを述べたものである

との理解を示している。そして、ピンミルのような衝撃式粉砕機(衝撃式ミ

ル)により粉砕された粉体と、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕

機により粉砕された粉体は、異なる粒度分布の粉体となるという一般的な

知見をもとに、この粒度分布の差異は粉砕機構の差異に由来するものであ

25 り、本件明細書に記載されたピンミルのような衝撃式ミルでの粉砕は、他

のタイプのミルとは異なる粒度分布を形成することにより、凝集性及びブ


42
レンド均一性の改善に寄与するとして、説示(c)、(e)を本件訂正発明1が

サポート要件に適合する理由の1つにしている。

これに対し、原告らは、D90を30μmにし、「セレコキシブ粒子が、

ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事

5 項を加えても、90%の具体的な粒度分布は明らかにならないとして、説

示(c)、(e)を本件訂正発明1がサポート要件に適合しない理由としている。

これらは、いずれも、前訴判決の説示(c)、(e)を独立して取り上げ、同判

断に拘束力が生じることを前提とするものと解されるが、失当というべき

である。

10 拘束力の問題を離れて考えても、前訴判決の当該部分の判示は、製薬組

成物の特徴が、実質的に「D90が200μm未満である粒子サイズの分布を

有する」ことで特定されていた本件発明1について、未調合のセレコキシ

ブに対して生物学的利用能が改善されるという課題を解決できるものであ

るかどうかを検討する過程において、上記特定事項で特定しさえすれば、

15 課題を解決できるものと理解することはできないと判断したものであって、

前訴判決が、本件発明1がサポート要件に適合するには、90%の粒度分

布を示すことが必須の要請であると判断しているとの趣旨まで読み込むこ

とには無理がある。

カ よって、前記ウのとおり、前訴判決の拘束力は、本件訂正前の特許請求の

20 範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識を前提に、本

件訂正前の特許請求の範囲によって特定される発明(本件発明)が特許法

36条6項1号の要件に適合しないとした判断について生じることを前提

に、サポート要件の適合性について判断する。

(2) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細

25 な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を

定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な


43
説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な

説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明

の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳

細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該

5 発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して

判断すべきものと解される。特に、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発

明について、特許請求の範囲の記載が同号の要件に適合するか否かは、当業

者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含ま

れる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認

10 識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。

ア 前記第2の2(3)の本件明細書の開示事項によれば、本件訂正発明の課題

は、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経

口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することであり、

取り分け、水溶液に溶解しにくいセレコキシブ粒子の特質から、混合中に

15 セレコキシブ同士で凝集し、非均一なブレンド組成物になるとの問題の解

決にあるものと認められる。

具体的には、本件明細書の【0008】では、「・・・セレコキシブは、

水溶性媒体には異常なほど溶解しない。例えば、カプセル形態で経口投与

させた場合、未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために、

20 容易には溶解せず、分散もしない。加えて、長く凝集した針を形成する傾

向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは、通常、錠剤成形ダイ

での圧縮の際に、融合して一枚岩の塊になる。・・・」として、セレコキシ

ブが、水溶性媒体には異常なほど溶解しないこと、未調合のセレコシブが

長く凝集した針を形成する傾向を有することを解決すべき問題として挙げ

25 ている。

イ 上記課題に関係する技術常識として、証拠(甲イ7、16、23、65〜


44
68、80、103)及び弁論の全趣旨によれば、本件出願日当時、@粉砕

によって薬物の粒子径を小さくし、比表面積(有効表面積)を増大させるこ

とにより、薬物の溶出が改善されるが、他方で、難溶性薬物については、溶

媒による濡れ性が劣る場合には、粒子径を小さくすると凝集が起こりやす

5 くなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがあるこ

と、A疎水性の難溶性物質であっても、界面活性剤が存在すると、微粒子は

凝集せずに均一に溶液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は

大きくなることは、周知又は技術常識であったものと認められる。

ウ 上記技術常識を踏まえて、本件訂正発明が上記課題を解決できると認識

10 できる記載が本件明細書に開示されているかどうかにつき、さらに検討す

る。

(ア) 本件明細書の【0022】には「本発明の組成物は微粒子の形態のセ

レコキシブを包含する。セレコキシブの一次粒子は、例えば、製粉若し

くは粉砕により、又は溶液から沈殿させて生成させ、凝集して二次の集

15 合体粒子が形成される。本願で利用する用語「粒子サイズ」とは、特に

本願で指摘しない限り、一次粒子の最長の大きさのことをいう。粒子サ

イズは、セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータで

あると考えられる。よって、別の実施例では、発明の組成物は、粒子の

最長の大きさで、粒子のD90が約200μm以下、好ましくは約100

20 μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは約40μm

以下、最も好ましくは約25μm以下であるように、セレコキシブの粒

子分布を有する。通常、本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子

サイズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改良される。 、


【0124】には「カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ

25 カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると、セレコキシブ粒子サイ

ズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見し


45
た。したがって、セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下、

好ましくは約100μm以下、より好ましくは約75μm以下、さらに

好ましくは約40μm以下、最も好ましくは25μm以下である。例え

ば、例11に例示するように、出発材料のセレコキシブのD90粒子サイ

5 ズを約60μmから約30μmに減少させると、組成物の生物学的利用

能は非常に改善される。加えて又はあるいは、セレコキシブは約1μm

から約10μmであり、好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均

粒子サイズを有する。」としており、セレコキシブの粒子サイズを減少

させることで、セレコキシブの生物学的利用能が改善されることが記載

10 されている。

(イ) また、本件明細書の【0024】の「セレコキシブと賦形剤とを混合

するに先立ち、ピンミル(pin mill)のような衝撃式ミルでセ

レコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作製することは、改善され

た生物学的利用能を提供するに際して効果的であるだけでなく、かかる

15 混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性と関連する問

題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミルを利用し

て粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネルギ

ーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ

よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体に

20 は容易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が

高くなり、このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合に

おいて、非常に重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合す

る際のエアージェットミルのような液体エネルギーミルの有用性に予

期せぬ結果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕に

25 より長い針状からより均一な結晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質

させ、ブレンド目的により適するようになるが、長い針状の結晶はエア


46
ージェットミルでは残存する傾向が高いと仮定される。 との記載から、


粉砕により粒子サイズを減少させるについて、ピンミルのような衝撃式

ミルを使用して長い針状からより均一な結晶とし、ブレンド目的により

適するものとすることが記載されている。

5 (ウ) 本件明細書の【0075】には「加湿剤 セレコキシブは水溶液にか

なり溶解しにくい。したがって、本発明の製薬組成物は、任意であるが、

好ましくは、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容

な加湿剤を含む。かかる加湿剤は、水と親和性があるようにセレコキシ

ブを維持させるように選択することが好ましく、その状態が製薬組成物

10 の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。・・・」、【00

76】には「ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在す

るならば、ラウリル硫酸ナトリウムは、組成物の全重量の対して、約0.

25%から約7%、好ましくは約0.4%から約6%、より好ましくは

約0.5%から約5%の量を含む。」として、セレコキシブは水溶液に

15 かなり溶解しにくいために、水と親和性があるようにセレコキシブを維

持させる加湿剤を含むことが好ましいこと、好ましい加湿剤はラウリル

硫酸ナトリウムであること、そのような加湿剤を添加することにより相

対的生物学的利用能を改善できることが記載されている。

(エ) 例11−2では、犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能の試験

20 がされている。

組成物A、Bは微粉化され、ラウリル硫酸ナトリウムが添加されてい

る(【0173】、【0174】、表11−2A)。本件明細書の【0

124】に「・・・例えば、例11に例示するように、出発材料のセレ

コキシブのD 90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させる

25 と、組成物の生物学的利用能は非常に改善される。・・・」と記載され

ていることから、組成物A、BのD90粒子サイズは約30μmと認めら


47
れる。他方、参考例である組成物Fは、未粉砕、未調合のセレコキシブ

である(【0172】)。

生物学的利用能は、メス犬について、組成物Fが16.9%であるの

に対し、組成物Aは31.2%、組成物Bは24.9%であり(【01

5 76】、(表11−2C)、オス犬について、組成物Fが16.9%で

あるのに対し、組成物Aは49.4%、組成物Bは54.2%である 【0


177】、表11−2D)とされ、D90粒子サイズを約30μmに減少

させた組成物A、Bにおいて生物学的利用能が明らかに高い結果が示さ

れている。

10 エ 以上を総合すると、本件訂正発明1は、粒子の最大長においてD90が3

0μmであるセレコキシブ粒子、及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリ

ウムを含有することを特定するものであるところ、これは、@セレコキシ

ブが長い針状の結晶形態を有することに対応するため、粉砕によって薬物

の粒子径を小さくし、比表面積を増大させることにより、薬物の溶出を改

15 善させるために、セレコキシブの粒子サイズを「D90が30μm」に減少

させ、また、Aセレコキシブのような難溶性薬物については、粒子径を小さ

くすると凝集が起こりやすくなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速

度が遅くなるが、界面活性剤が存在すると、微粒子は凝集せずに均一に溶

液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなることから、

20 セレコキシブに、界面活性剤同様水に親和性を持たせる湿潤剤であるラウ

リル硫酸ナトリウムを含有させることとしたものである。そして、B具体

的な実験結果においても、D90粒子サイズは約30μmとし、ラウリル硫

酸ナトリウムを含有させたセレコキシブ組成物が、未粉砕、未調合のセレ

コキシブに対して優れた生物学的利用能を示しているのであるから(例1

25 1−2) 本件訂正発明1は、
、 本件ピンミル構成を発明特定事項として考慮

しなくても、本件明細書及び技術常識から、「未調合のセレコキシブに対し


48
て生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能なセレコキシブ粒子を

含む製薬組成物を提供する」という課題を解決できると当業者が認識でき

る範囲の発明であるといえる。

本件訂正発明2は、D90が30μmよりも減少した数値範囲である「D

5 90 が30μm未満」と特定されたものであるから、上記本件訂正発明1に

ついて述べたところと同様、本件明細書及び技術常識から、上記課題を解

決できると当業者が認識できる範囲の発明であるといえる。

本件訂正発明4、5、7〜13、15、17〜19も、本件訂正発明1及

び本件訂正発明2を直接的又は間接的に引用してこれらをさらに限定する

10 発明であるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2と同様に、本件明細

書及び技術常識から、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲の

発明であるといえる。

(3) 原告らの個別の主張について

ア 第1事件原告は、分布の一点のみの情報にすぎない「D90」の値だけで

15 「粒子サイズの分布」を規定することは不可能・不合理であり、D90の値

と生物学的利用能との関係についても不明であるから、サポート要件充足

性を満たすことはない旨主張する。しかし、同主張は、前訴判決が「粒子サ

イズの分布」すなわち粒度分布(全体)が重要であり、それを具体的に特定

すべきであると判断し、かつ、その点に拘束力が生じることを前提とする

20 ものと解されるが、この前提が採用できないことは前記(1)のとおりである。

本件訂正発明におけるD90値はその定義どおり、粒度分布における一つの

値を示すものであってその全体を示すものではなく、
「粒子サイズの分布」

全体を「D90」のみで表現することも前提としていない。また、拘束力の

問題を別としても、「D90」は、その値が小さいほど、長い針状の結晶が

25 減少しているという意味で生物学的利用能の向上に資することは理解可能

と解されることから、D90のパラメータでは課題解決を認識させるに不十


49
分で粒子サイズの分布を特定することが必須の要件であると解すべき根拠

はない。

第2事件原告は、前訴判決によれば、生物学的利用能の改善という課題

を解決できると当業者は認識することができるためには、単にD90の値を

5 特定しただけで足りず、90%の粒子の粒度分布を特定することを要する

と主張するが、これは、第1事件原告同様に、前訴判決の理解を誤るもの

である。

イ 第1事件原告、第2事件原告、第3事件原告及び第5事件原告は、本件

ピンミル構成によっても、セレコキシブの粒度分布が明らかにならない、

10 あるいは実施例において実証されていない旨主張するが、本件ピンミル構

成を発明特定事項として考慮しなくてもサポート要件の充足が認められる

ことは上述のとおりである。

なお、本件ピンミル構成が、課題の解決に不可欠なものとされているか

について、念のため検討するに、本件明細書の【0024】には、「ピンミ

15 ル(pin mill)のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて、

本発明の組成物を作製することは、改善された生物学的利用能を提供する

に際して効果的であるだけでなく」、セレコキシブの「減少した凝集力」に

より製薬組成物における「ブレンド均一性の程度」を高くする点で「有益」

である旨が記載されているものの、「改善された生物学的利用能」自体は、

20 本件明細書【0022】に「セレコキシブの粒子サイズの減少により、セレ

コキシブの生物学的利用能が改良される」と記載されているところからす

れば、
「粉砕」による、一次粒子の最大の大きさである「粒子サイズの減少」

によりもたらされるものと理解される。また、ピンミルについては、本件明

細書の【0135】に、「さまざまな粉砕器若しくは破砕器が利用すること

25 が可能であるが、セレコキシブのピンミリングのような衝撃粉砕により、

他のタイプの粉砕と比較して、最終組成物に改善されたブレンド均一性が


50
もたらせる」と記載されるように、「ピンミリングのような衝撃粉砕」は、

他の粉砕器や破砕器が使用できることを前提に、改善されたブレンド均一

性をもたらすのに好ましい粉砕器として挙げるにとどまり、これが生物学

的利用能の改善に不可欠とする記載とはいえない。また、本件明細書の例

5 13(【0183】〜【0186】)には、振動式粉砕機(これが「ピンミ

ルのような衝撃式ミル」に含まれないことは明らかである。)により、D9

0 を37μm以下としたセレコキシブ粒子について、懸濁液と同程度にまで

生物学的利用能が改善されている点が示されている。したがって、上記ピ

ンミルに係る発明特定事項は、ブレンド均一性を向上させるものではある

10 が、「未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の

経口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供する」という本

件訂正発明の課題解決に対しては必須なものと理解することはできない。

ウ 第1事件原告らは、前訴判決は、セレコキシブ粒子のD90が40μm未

満(本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3)又は25μm(同請求項4)

15 の構成に加え、ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤をさらに含む同

請求項14に係る発明もサポート要件に適合しないと判示していたから、

本件訂正によってD90の値を200μmより小さくしたり、ラウリル硫酸

ナトリウムを含むことを発明特定事項としても、サポート要件に適合する

ことにはならないとの趣旨の主張をする。

20 確かに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項14(本件発明14)が、

ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤を含む発明特定事項を含み、ま

た、セレコキシブ粒子のD90の数値限定につき、同請求項1の200μm

よりもさらに限定した同請求項3(40μm未満)、同請求項4(25μm

未満)を間接的に引用していることは、上記原告らの主張するとおりであ

25 り、その意味で、本件発明14は本件訂正の内容を部分的に先取りしたも

のともいえる。


51
しかし、本件発明14は、上記数値限定につき、セレコキシブ粒子のD9

0 を200μm未満とする請求項1をも間接的に引用している以上、最も広

範な同200μm未満という数値限定を前提にサポート要件の適合性を判

断せざるを得ないことは当然である。前訴判決は、正しくこの趣旨を指摘

5 して本件発明14についてもサポート要件に適合しないと判断したもので

ある。前提となる数値限定が異なっている本件訂正発明に係るサポート要

件の適合性を認めたからといって、前訴判決の拘束力に反するものではな

い。

エ 第3事件原告は、D90の粒子サイズを規定したり、加湿剤を配合したと

10 しても、訂正発明に含まれる数値範囲の全体にわたって生物学的利用能が

改善されるとは限らないと主張するが、粉砕によって薬物の粒子径を小さ

くし、比表面積を増大させることにより、薬物の溶出が改善すること、難溶

性薬物についても、界面活性剤が存在すると、微粒子は凝集せずに均一に

溶液中に分散されることが技術常識ないし周知技術であることから(前記

15 (2)イ)、サポート要件の充足を否定する根拠として十分なものとはいえな

い。

オ 第4事件原告は、本件訂正発明1及び2の「経口運搬可能な投与量単位

を含む製薬組成物」が、例11−2に記載されたカプセル剤についてはサ

ポートされているとしても、カプセル剤は他の剤型と比較して早く崩壊す

20 るから、錠剤等他の剤型においても生物学的利用能が向上しているかは不

明である旨主張する。しかし、錠剤にした場合の崩壊性が律速(他と比べて

遅い工程)であるなら、崩壊剤の添加により、製剤の崩壊を改善することが

できることは、本件出願前に当業者にとって技術常識であり(甲イ16)、

本件明細書の【0067】、【0071】、【0078】にも、製薬組成物

25 が薬剤学的に許容な崩壊剤等をさらに含むことが記載されているから、や

はりサポート要件の充足を否定する根拠になるものとはいえない。


52
カ 第1事件原告は、例11−2の具体例のセレコキシブ粒子について、と

り得ないD90の数値範囲がある旨主張するが、一具体例ではとり得ないD

90 の数値範囲があっても、そのことが直ちに本件訂正発明の課題を解決で

きると認識できない製薬組成物があることにつながるものではない。

5 (4) 小括

以上のとおりであって、本件訂正発明がサポート要件に適合するとした本

件審決の判断は、その理由の一部として本件ピンミル構成による限定が加え

られていることを挙げている点で適切ではないが、結論において誤りはなく、

取消事由2には理由がない。

10 4 結論

以上のとおり、取消事由3は理由があるから、取消事由4,5について判断す

るまでもなく、原告らの請求は理由があるから、本件審決中、本件特許の請求項

1、2、4、5、7〜13、15、17〜19に係る部分を取り消すこととし、

主文のとおり判決する。

15 知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官

宮 坂 昌 利



20 裁判官

本 吉 弘 行



裁判官

岩 井 直 幸

25




53
別紙1 本件訂正前の特許請求の範囲(請求項6以下)

【請求項6】

前記同じ投与量のセレコキシブを含有する経口運搬された溶液と比較して最低約7

0%であるセレコキシブの相対的な生物学的利用能を有することを特徴とする請求

5 項5記載の製薬組成物。

【請求項7】

前記単位投与量は、錠剤、ピル、硬質若しくは軟質カプセル、ロゼンジ、サシェイ、

又はパステルから選択されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項記載の

製薬組成物。

10 【請求項8】

前記賦形剤は薬剤学的に許容な希釈剤、崩壊剤、結着剤、加湿剤及び潤滑剤から選択

される前記単位投与量のカプセル又は錠剤の形態であることを特徴とする請求項7

記載の製薬組成物。

【請求項9】

15 (a)前記製薬組成物の約10質量%乃至約85重量%の量の一つ以上の薬剤学的

に許容な希釈剤と、

(b)前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約10質量%の量の一つ以上の薬剤学

的に許容な崩壊剤と、及び

(c)前記製薬組成物の約0.75質量%乃至約15質量%の量の一つ以上の薬剤

20 学的に許容な結着剤とを含有することを特徴とする請求項8記載の製薬組成物。

【請求項10】

前記製薬組成物の約0.4質量%乃至約10質量%の量の一つ以上の薬剤学的に許

容な加湿剤をさらに含有することを特徴とする請求項9に記載の製薬組成物。

【請求項11】

25 前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約8質量%の量の一つ以上の薬剤学的に許容

な潤滑剤をさらに含有することを特徴とする請求項9に記載の製薬組成物。


54
【請求項12】

前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約8質量%の量の一つ以上の薬剤学的に許容

な潤滑剤をさらに含有することを特徴とする請求項10に記載の製薬組成物。

【請求項13】

5 (a)前記希釈剤はラクト−スを含み、(b)前記崩壊剤はクロスカルメロースナト

リウムを含み、(c)前記結着剤はポリビニルピロリドンを含むことを特徴とする請

求項9に記載の製薬組成物。

【請求項14】

ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤をさらに含むことを特徴とする請求項1

10 3に記載の製薬組成物。

【請求項15】

ステアリン酸マグネシウムを含有する潤滑剤をさらに含むことを特徴とする請求項

13に記載の製薬組成物。

【請求項16】

15 ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤と、ステアリン酸マグネシウムを含有す

る潤滑剤とをさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の製薬組成物。

【請求項17】

シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤による治療を必要とする被験者における病状又は

疾患を治療するために、前記製薬組成物は被験者に好ましくは1日に1回又は2回

20 経口投与することを特徴とする請求項1乃至16の何れか一項に定義される製薬組

成物。

【請求項18】

シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤による治療を必要とする被験者における病状又は

疾患の治療及び/又は予防処置での薬剤調製のための請求項1乃至16の何れか一

25 項に定義される製薬組成物の使用。

【請求項19】


55
前記状態又は疾患は、リウマチ様関節炎、骨関節炎又は痛みである請求項18によ

る使用。




5




10




15




56
別紙2 本件訂正後の特許請求の範囲(請求項7以下。下線は本件訂正によって追

加された部分。)

【請求項7】

前記投与量単位は、錠剤、ピル、硬質若しくは軟質カプセル、ロゼンジ、サシェ

5 イ、又はパステルから選択されることを特徴とする請求項1、2、4及び5の何れ

か一項記載の製薬組成物。

【請求項8】

前記賦形剤は薬剤学的に許容な希釈剤、崩壊剤、結着剤、加湿剤及び潤滑剤から選

択される単位投与量のカプセル又は錠剤の形態であることを特徴とする請求項7記

10 載の製薬組成物。

【請求項9】

(a)前記製薬組成物の約10質量%乃至約85重量%の量の一つ以上の薬剤学的

に許容な希釈剤と、

(b)前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約10質量%の量の一つ以上の薬剤学

15 的に許容な崩壊剤と、及び

(c)前記製薬組成物の約0.75質量%乃至約15質量%の量の一つ以上の薬剤

学的に許容な結着剤とを含有することを特徴とする請求項8記載の製薬組成物。

【請求項10】

前記製薬組成物の約0.4質量%乃至約10質量%の量の一つ以上の薬剤学的に許

20 容な加湿剤を含有することを特徴とする請求項9に記載の製薬組成物。

【請求項11】

前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約8質量%の量の一つ以上の薬剤学的に許容

な潤滑剤をさらに含有することを特徴とする請求項9に記載の製薬組成物。

【請求項12】

25 前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約8質量%の量の一つ以上の薬剤学的に許容

な潤滑剤をさらに含有することを特徴とする請求項10に記載の製薬組成物。


57
【請求項13】

(a)前記希釈剤はラクトースを含み、(b)前記崩壊剤はクロスカルメロースナ

トリウムを含み、(c)前記結着剤はポリビニルピロリドンを含むことを特徴とす

る請求項9に記載の製薬組成物。

5 【請求項15】

ステアリン酸マグネシウムを含有する潤滑剤をさらに含むことを特徴とする請求項

13に記載の製薬組成物。

【請求項17】

シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤による治療を必要とする被験者における病状又は

10 疾患を治療するために、前記製薬組成物は被験者に好ましくは1日に1回又は2回

経口投与することを特徴とする請求項1、2、4、5、7乃至13及び15の何れ

か一項に定義される製薬組成物。

【請求項18】

シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤による治療を必要とする被験者における病状又は

15 疾患の治療及び/又は予防処置での薬剤調製のための請求項1、2、4、5、7乃

至13及び15の何れか一項に定義される製薬組成物の使用。

【請求項19】

前記状態又は疾患は、リウマチ様関節炎、骨関節炎又は痛みである請求項18によ

る使用。

20




58
別紙3 本件明細書の記載事項及び願書添付図面(抜粋)

【0001】

発明の分野

本発明は、活性成分として、セレコキシブ(celecoxib)を含有する経口

5 運搬可能な製薬組成物と、かかる組成物の調製方法と、かかる組成物を被験者へ経

口投与することを含むシクロオキシゲナーゼ−2媒介疾患の治療方法と、医薬品製

造における、かかる組成物の使用に関する。

【0002】

発明の背景

10 4―[5―(4? メチルフェニル)―3―(トリフルオロメチル)―1H―ピラゾー

ル―1―イル]ベンゼンスルホンアミド(本願では、以下「セレコキシブ」という)

化合物は、かかる化合物の合成方法とともに、1、5―ジアリールピラゾール及びそ

れらの塩のクラスを説明し、特許請求の範囲として記載した、Talleyらへの

米国特許第5、466、823号に、以前報告した。セレコキシブは以下の構造を有

15 している。

【0003】

【化1】




米国特許第5、466、823号に報告した1、5―ジアリールピラゾール化合物

20 は、本願では炎症及び炎症関連疾患を治療する際に有用であるとして説明されてい

る。米国特許第5、466、823号では、錠剤及びカプセルのような経口運搬可能


59
な薬量を含み、上記1、5? ジアリールピラゾールの投与調合の一般的な基準が含

まれている。Talleyらの米国特許第5、466、823号では、シクロオキシ

ゲナーゼ−2の選択的阻害剤として説明し、慢性関節リウマチ及び骨関節炎と関連

した他の状態、疾患、病的状態を治療するために投与されるセレコキシブを含む1、

5 5?ジアリールピラゾールのクラスを報告している。

【0007】

1998年9月9日に公開された欧州特許出願第0863134A1号では、微結

晶性セルロース、ラクトース一水和物、ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカル

メロースナトリウム(croscarmellose sodium)及びステア

10 リン酸マグネシウムを含む賦形剤と組合わせて、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤、

具体的には、 (3、
2− 5−ジフルオロフェニル)−3−(4−メチル−スルホニル)

フェニル」−2−シクロペンテン−1−オンを含む組成物が開示されている。

【0008】

被験者への効果的な経口投与のセレコキシブの調合は、今までのところ、上記化合

15 物の独特な物理的及び化学的性質、特に、その低溶解度及びその結晶構造に関連し

た、凝集力、低バルク密度及び低圧縮性を含む要因により、複雑である。セレコキシ

ブは、水溶性媒体には異常なほど溶解しない。例えば、カプセル形態で経口投与させ

た場合、未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために、容易には溶

解せず、分散もしない。加えて、長く凝集した針を形成する傾向を有する結晶形態を

20 有する未調合のセレコシブは、通常、錠剤成形ダイでの圧縮の際に、融合して一枚岩

の塊になる。他の物質とブレンドさせたときでも、セレコキシブの結晶は、他の物質

から分離する傾向があり、組成物の混合中にセレコキシブ同士で凝集し、セレコキ

シブの不必要な大きな塊を含有する、非均一なブレンド組成物になる。したがって、

所望のブレンド均一性を有するセレコキシブ含有の製薬成分を調製することは難し

25 い。さらに、セレコキシブを含有する製薬成分の調製中に、取扱いに絡む問題に遭遇

する。例えば、セレコキシブの低バルク密度により、製薬成分の調合中に必要される


60
少量を取扱うのが難しい。したがって、特に、経口運搬可能な投与量単位のセレコキ

シブを含む適当な製薬成分及び投与形態の調製に関連した多くの問題を解決させる

必要性がある。

【0009】

5 より詳細には、未調合のセレコキシブ又は他のセレコキシブ組成物に対して、一つ

又はそれ以上の、以下の特性を有する経口運搬可能なセレコキシブ調合の必要性が

存在する:

(1) 改善された溶解性

(2) より短い崩壊時間

10 (3) より短い溶解時間

(4) 減少した錠剤破砕性

(5) 増大した錠剤硬度

(6) 改善された濡れ性

(7) 改善された圧縮性

15 (8) 液体及び微粒子固体組成物の改善された流動性

(9) 最終仕上げ組成物の改善された物理的安定性

(10) 減少した錠剤又はカプセルサイズ

(11) 改善されたブレンド均一性

(12) 改善された投与量の均一性

20 (13) カプセル化及び/又は錠剤化中での重量変動の改善された制御

(14) 湿式顆粒組成物の増大した顆粒密度

(15) 湿式顆粒化に必要な少量な水

(16) 減少した湿式顆粒化時間

(17) 湿式顆粒混合物の減少した乾燥時間

25 後述するように、セレコキシブ治療は、シクロオキシゲナーゼ−2媒介状態及び疾

患の幅広い分野でその必要性が指摘され、潜在的に指摘されている。したがって、さ


61
まざまな適応に特別に作られた生物学的利用能特性を有する、ある範囲の調合を提

供することには、非常に有益である。未調合セレコキシブで可能であるよりも、急速

に効き目のある薬物速度論を示す調合を提供することは、特に有益である。

【0010】

5 かかる調合は、シクロオキシゲナーゼ−2媒介状態及び疾患の治療において、顕著

な進歩をもたらすであろう。

【0011】

発明の要約

一つ又はそれ以上の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物を提供し、各単位

10 量は、一つ又はそれ以上の製薬的に許容な賦形剤と密に混合した約10mgから約

1000mgの量の微粒子セレコキシブを含む。

【0012】

一つの実施例では、絶食状態の被験者に経口投与すると、1回の投与量単位により、

少なくとも一つの以下のものを有するセレコキシブの血清濃度の時間経路を提供す

15 る:

(a) 投与後の約0.5時間よりも長くなく、100ng/mlに達する時間

(b)投与後の約3時間よりも長くなく、最大濃度に達する時間(Tmax)

(c)約12時間以上で、100ng/ml以上のままである濃度の持続時間

(d) 約10時間以上で、最終の半減期(T1/2)

20 (e) 約200ng/ml以上の最大濃度(Cmax)

別の実施例では、組成物は等量のセレコキシブを含有する経口運搬された溶液と比

較して、約50%以上の相対的生物学的利用能を有する。

【0013】

さらに別の実施例では、組成物は、粒子の最長の大きさで、D90が約200μm以

25 下であるように(サンプル粒子の90%はD90値よりも小さい)、セレコキシブ一

次粒子サイズの分布を有する。


62
【0014】

組成物を含む投与量単位は、錠剤、ピル、硬質又は柔質カプセル、ロゼンジ、サシェ

イ(sachet)又はパステル(pastille)のような個々の固体物品の形

であり、あるいは、組成物は、1回の投与量単位が測定可能なほどに除去される微粒

5 子若しくは顆粒固体又は液状懸濁液のような、実質的に均質可流動の塊の形である。

【0017】

発明の詳細な説明

本発明による新規な製薬組成物は、一つ又はそれ以上の経口運搬可能な投与量単位

を含み、各投与量単位は約10mg乃至約1000mgの量の微粒子セレコキシブ

10 を含み、シクロオキシゲナーゼ−2媒介疾患を患っている被験者に経口投与した際

に、シクロオキシゲナーゼ−2媒介疾患から迅速に軽減させる能力のある優れた直

接解放組成物である。

【0018】

理論に拘束されずに、上記組成物により付与された大きな臨床的有益は、改善され

15 たセレコキシブの生物学的利用能、特に、胃腸管でのセレコキシブの驚くべく程の

効果的な吸収の結果であると考える。かかる効果的吸収は、投与後の経過時間に亘

り、治療を受けた被験者のセレコキシブの血清濃度を監視することにより、当業者

には理解される。できるだけ短時間で、投与後に急速の濃度が減少させずに、セレコ

キシブの有益な効果ができるだけ長時間維持して、効果的なシクロオキシゲナーゼ

20 −2阻害と一致する、血清中のセレコキシブ濃度の閾値に達することが望ましい。

【0021】

絶対的な意味に、経口運搬されたセレコキシブの生物学的利用能は、測定すること

が難しい。なぜならば、セレコキシブでもよくあることであるが、水中にて低溶解性

を有する薬に関係して、静脈運搬(かかる生物学的利用能を決定することに対する

25 標準)はすこぶる問題があるからである。しかしながら、相対的な生物学的利用能

は、適当な溶媒中でのセレコキシブの経口投与溶液と比較して決定することが可能


63
である。本発明の経口運搬された組成物では、驚くべきほど相対的に高い生物学的

利用能が得られることが判明した。よって、本発明の一つの実施例では、経口投与さ

れると、各経口運搬可能な投与量単位は、等量のセレコキシブを含有するセレコキ

シブの経口運搬された溶液と比較して、約50%以上、好ましくは70%以上の相

5 対的な生物学的利用能を有する。後述するように、生物学的利用能は経口投与後の

ある時間に亘り、セレコキシブの血清濃度の総合測定から導かれる。

【0022】

本発明の組成物は微粒子の形態のセレコキシブを包含する。セレコキシブの一次粒

子は、例えば、製粉若しくは粉砕により、又は溶液から沈殿させて生成させ、凝集し

10 て二次の集合体粒子が形成される。本願で利用する用語「粒子サイズ」とは、特に本

願で指摘しない限り、一次粒子の最長の大きさのことをいう。粒子サイズは、セレコ

キシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータであると考えられる。よって、

別の実施例では、発明の組成物は、粒子の最長の大きさで、粒子のD90が約200

μm以下、好ましくは約100μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ま

15 しくは約40μm以下、最も好ましくは約25μm以下であるように、セレコキシ

ブの粒子分布を有する。通常、本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子サイ

ズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改良される。

【0023】

加えて、あるいは、本発明の組成物におけるセレコキシブ粒子は、約1μmから約1

20 0μm、好ましくは約5μmから約7μmの平均粒子サイズを有することが望まし

い。

【0024】

セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミル(pin mill)のよう

な衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作製することは、改

25 善された生物学的利用能を提供するに際して効果的であるだけでなく、かかる混合

若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性と関連する問題を克服するに際


64
しても有益であることを発見した。ピンミルを利用して粉砕されたセレコキシブは、

未粉砕のセレコキシブ又は液体エネルギーミルのような他のタイプのミルを利用し

て粉砕されたセレコキシブよりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子

の二次集合体には容易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程

5 度が高くなり、このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合において、

非常に重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合する際のエアージェッ

トミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ結果をもたらす。特定の理

論に拘束されることなく、衝撃粉砕により長い針状からより均一な結晶形へ、セレ

コキシブの結晶形態を変質させ、ブレンド目的により適するようになるが、長い針

10 状の結晶はエアージェットミルでは残存する傾向が高いと仮定される。

【0025】

ブレンド均一性は、セレコキシブをキャリア材料と湿式顆粒化させて製薬成分を調

製させることにより、特に、出発物質として利用したセレコキシブを衝撃式ミルで

粉砕させた際に、さらに改善されることをも発見した。セレコキシブ出発物質を前

15 述した粒子サイズになるように衝撃粉砕し、その後湿式顆粒化を行うことが特に望

ましい。

【0026】

別の実施例では、本発明の新規な製薬組成物は、希釈剤、崩壊剤、結着剤、加湿剤及

び潤滑剤から選択された一つ又はそれ以上のキャリア材料若しくは賦形剤とともに、

20 セレコキシブを含む。少なくとも一つのキャリア材料は、水溶性希釈剤又は加湿剤

であることが好ましい。かかる水溶性希釈剤若しくは加湿剤は、製薬組成物が摂取

されるときに、セレコキシブの分散及び溶解を促進させる。水溶性希釈剤と加湿剤

の双方が存在していることが好ましい。本発明の成分は、微粒子若しくは顆粒固体

又は液体のような実質的には均質な可流動な塊であり、1回の投与量単位を含む、

25 カプセル又は錠剤のような個々の物品の形態である。

【0028】


65
発明の組成物の有用性

本発明の組成物は、シクロオキシゲナーゼ−2による媒介される幅広い範囲の疾患

の治療及び予防に有効である。現在考えている組成物は、以下のものに限定されな

いが、被験者の炎症の治療に有用であり、例えば、痛み及び頭痛の治療における鎮痛

5 剤として、発熱の治療における解熱薬として有用である。例えば、かかる組成物は、

以下のものに限定されないが、慢性関節炎リウマチ、脊髄関節炎、痛風関節炎、骨関

節炎、全身性エリテマトーゼス及び若年性関節炎を含む関節疾患の治療に有用であ

る。さらに、かかる組成物は、喘息、気管支炎、月経痛、プレタームレイバー(pr

eterm labor)、腱炎、滑液包炎、アレルギー神経炎、サイトメガロウイ

10 ルス感染性、HIV誘発アポトーシスを含むアポトーシス、腰痛、肝炎を含む肝臓

病、乾癬、湿疹、アクネ、UV損傷、火傷及び皮膚炎のような皮膚関連状態、白内障

の外科手術又は屈折性外科手術のような手術後の眼科手術を含む手術後の炎症の治

療に有用である。考えている組成物は、炎症性腸に関係する病気、クローン病、胃炎、

過敏性腸症候群及び潰瘍性大腸炎のような胃腸状態を治療するのに有用である。考

15 えている組成物は、片頭痛、結節性動脈周囲炎、甲状腺炎、再生不良性貧血、ホジキ

ン病、スカレオドーマ(sclerodoma)、リウマチ熱、I型糖尿病、重症筋

無力症を含む神経筋接合病、多重硬化を含む白質病、類肉腫症、ネフローゼ症候群、

ベーチット症候群、多発筋炎、歯肉炎、腎炎、過敏症、脳水腫を含む損傷後に発生す

る腫れ、心筋虚血などの病気における炎症の治療に有用である。考えている組成物

20 は、網膜炎、結膜炎、網膜症、ブドウ膜炎、眼性光恐怖症のような眼性病や、眼組織

への急性損傷の治療において有用である。考えている組成物はウイルス感染及び嚢

胞性線維症と関連する肺炎や、骨粗しょう症に関連するような骨吸収の治療におい

て有用である。考えている組成物は、アルツハイマー病、神経退化を含む皮質痴呆の

ような特定の中枢神経システム疾患や、発作、虚血及びトラウマからの結果の中枢

25 神経システム損傷の治療に有用である。本願で利用する用語「治療」とは、アルツハ

イマー病を含む痴呆、血管痴呆、多重梗塞痴呆、初老期痴呆、アルコール性痴呆及び


66
老人性痴呆の部分的若しくは完全な抑制を含む。

【0039】

定義

本願で使用する用語「活性成分」とは、別に特記しなければセレコキシブを意味す

5 る。

【0040】

本願で使用する用語「賦形剤」とは、被験者へ活性成分を運搬するためのビヒクルと

して使用される物質のことをいい、活性成分に添加された物質は、例えば、取扱いを

改善させ、若しくはその結果生じた組成物を、所望及び一貫した経口運搬可能な単

10 位投与量に形成させることを可能にする。賦形剤には、例に示すが、それに限定され

ないが、希釈剤、崩壊剤、結着剤、接着剤、加湿剤、潤滑剤、グリンダント(gli

dant)、マスクするために添加する物質があり、悪い味若しくは臭気を打ち消

し、フレーバ、色素、投与形態の外観を改善させるために添加した物質、及び経口投

与形態の調製に従来から利用されている活性成分以外の他の物質がある。

15 【0041】

本願で利用する用語「アジュバント」とは、活性成分を含む製薬成分に存在する若し

くは添加された際に、活性成分の作用を改良させるものをいう。本願で利用する用

語「単位投与量」とは、シクロオキシゲナーゼ−2媒介状態又は疾患の治療若しくは

予防のため、被験者への1回の経口投与を意図する活性成分の量のことをいう。シ

20 クロオキシゲナーゼ−2媒介疾患の治療は、セレコキシブの単位投与が定期的に必

要であり、例えば、1回の単位投与は1日に2回以上であり、その1回の単位投与は

各食事の際に行われ、1回の単位投与は4時間おき、若しくは他の間隔で行われ、1

日に1回でもよい。

本願で利用する用語「投与量単位」とは、活性成分の1回の単位投与量を含む製薬組

25 成物の部分のことをいう。本発明の目的では、投与量単位は、錠剤又はカプセルのよ

うな個々の物品の形態であり、活性成分の単位投与量を含有する溶液、懸濁液など


67
の測定可能な体積を有している。

【0042】

本願で利用する用語「経口運搬可能な」とは、被験者の口を介して、被験者の胃腸管

に投与することを意味している。

5 【0043】

成分の組合わせを含有する製薬組成物を説明するために、本願で利用する用語「実

質的に均質」とは、成分が十分に混合されており、個々の成分が分離されて個々の層

にならない、若しくは成分内で濃度勾配が生じないことを意味する。

【0044】

10 本願で利用する用語「生物学的利用能」とは、胃腸管を経由して血流に吸収された活

性成分の量の尺度に関係している。具体的には、本願で利用する「生物学的利用能」

は、AUC(0‐∞)で表わされ、同じ投与量で静脈を介して運搬された活性成分に対す

るAUC(0‐∞)の割合として表現された、特に経口投与された成分で表わされる。

【0045】

15 本願での用語「相対的生物学的利用能」とは、同じ投与量で活性成分の経口投与され

た溶液に対するAUC(0‐∞)の割合として表現された特定経口投与成分のAUC(0‐

で表わされる。
∞)


【0046】

本願での用語「AUC(0‐24)」、「AUC(0‐48)」及び「AUC(0‐72)」とは、

20 リニアトラペゾイダルルール(linear trapezoidal rule)

を利用して決定し、(ng/ml)hの単位で表現され、血清濃度が投与後0からそ

れぞれ24時間、48時間若しくは72時間と関係する曲線下での領域を意味して

いる。

【0048】

25 本願の用語「Cmax」とは、観測された最大の血清濃度若しくは濃度/時間曲線から

計算され、あるいは見積られ、ng/mlの単位で表現された最大の血清濃度を意


68
味する。本願の用語「Tmax」とは、投与後Cmaxになり、時間(h)の単位で表現

される時間を意味する。

【0049】

本願の用語「T1/2」とは、濃度−時間曲線の最終段階でのデータポイントに対する、

5 自然対数log(ln)濃度対時間の簡単な線形回帰から決定された、血清濃度の最

終の半減期を意味する。 1/2は‐ln(2)/(‐b)として計算され、
T 時間(h)

の単位で表現される。

【0051】

本発明の組成物により提供されるセレコキシブ投与

10 本発明の製薬組成物は、約10mgから約1000mgの1日の投与量で、セレコ

キシブの投与に適する。通常、本発明の組成物の各投与量単位は、1日の投与量の1

0分の1から全体の1日の投与量のセレコキシブの量を含む。本発明の組成物は、

投与量単位につき、約10mgから約1000mg、好ましくは約50mgから約

800mg、より好ましくは75mgから約400mg、さらに好ましくは約10

15 0mgから約200mgの量のセレコキシブを含む。投与量単位が経口投与に適す

る個々の物品の形態であるときに、例えば、カプセル若しくは錠剤であるとき、夫々

のかかる物品は約10mgから約1000mg、好ましくは約50mgから約80

0mg、より好ましくは約75mgから約400mg、さらに好ましくは約100

mgから200mgのセレコキシブを含む。

20 【0054】

特定の状態及び疾患の治療

本発明の製薬組成物は、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤の投与が必要とされう場

合に有用である。上記組成物は、例えば、リウマチ様関節炎および骨関節炎の治療、

一般に、痛みの管理(特定の口腔外科手術後の痛み、一般の外科手術後の痛み、整形

25 手術後の痛み及び骨関節炎の急性拡大)に対して、アルツハイマー凝の治療及び結

腸癌化学的予防に、特に有効である。


69
【0055】

リウマチ様関節炎の治療では、本発明の組成物は、約50mgから約1000mg、

好ましくは約100mgから約600mg、より好ましくは約150mgから約5

00mg、さらに好ましくは約175mgから約400mg、例えば、200mgの

5 セレコキシブの毎日の投与量のために利用することが可能である。本発明の組成物

を投与する際に、体重当たり約0.67から13.3mg、好ましくは体重当たり約

1.33から約8.00mg、より好ましくは体重当たり約2.00から約6.67

mg、さらに好ましくは体重当たり約2.33mgから約5.33mg、例えば、体

重当たり約2.67mgのセレキコシブの1日の投与量は、通常、適当である。1日

10 の投与は、1日に1回から4回、好ましくは1日に1回若しくは2回の投与がよい。

多くの患者にとっては、1日の2回、1回100mgの割合で本発明の組成物を投

与することが好ましいが、ある患者では、1日に2回で1回200mgの投与量若

しくは1回100mgを2回の投与が有益であることもある。

【0056】

15 骨関節炎の治療では、本発明の組成物は、約50mgから約1000mg、好ましく

は約100mgから約600mg、より好ましくは約150mgから約500mg、

さらに好ましくは約175mgから約400mg、例えば、約200mg のセレ

コキシブの1日の投与量を提供するために利用可能である。本発明の組成物を投与

する際に、kg体重当たり約0.67mgから約13.3mg、好ましくはkg体重

20 当たり約1.33から約8.00mg、より好ましくは約2.00mgから約6.6

7mg、さらに好ましくはkg体重当たり約2.33から約5.33mg、例えば、

kg体重当たり約2.67mgのセレコキシブの1日の投与量は、通常、適当であ

る。1日の投与は1日1回から4回、好ましくは1日1回若しくは2回の投与が好

ましい。1日に2回の投与では1回100mg、若しくは1回で200mgの投与

25 の割合で、本発明の組成物を投与することが好ましい。

【0062】


70
本発明の組成物の形態

本発明の製薬組成物は、経口投与に適した、一つ又はそれ以上の好ましい非毒性で

あり、薬剤学的に許容なキャリア、賦形剤及びアジャバント(本願では、まとめて

「キャリア材料」又は「賦形剤」という)と組合わせたセレコキシブを含む。そのキ

5 ャリア材料は組成物の他の成分と相溶性があるという意味において、許容されなけ

ればならず、さらに、賦形剤にとって有害であってはならない。本発明の組成物は、

適当なキャリア材料の選択及び目的の治療に効果的であるセレコキシブの投与量に

より、適当な経口ルートによって投与されるのに適する。したがって、利用するキャ

リア材料は固体若しくは液体である、又はその両方であり、組成物は約1%から約

10 95%、好ましくは約10%から約90%、より好ましくは約25%から約85%、

さらに好ましくは約30から約80%重量のセレコキシブを含有する。本発明のか

かる製薬組成物は、成分を混合することを含み、何れかの周知の薬学に関する技術

により調製可能である。

【0067】

15 キャリア材料又は賦形剤

前記したように、本発明の製薬組成物は、経口投与に適する一つ又はそれ以上の薬

剤学的に許容なキャリア材料と組合わせて、投与量単位あたり治療に若しくは予防

処置的に有効な量のセレコキシブを含む。本発明の組成物は、薬剤学的に許容な希

釈剤、崩壊剤、結着剤、接着剤、加湿剤、潤滑剤及びアンチ付着剤からなる群から選

20 択された一つ又はそれ以上のキャリア材料と混合させた所望の量のセレコキシブを

含むことが好ましい。さらに好ましくは、かかる組成物は、即座に解放するカプセル

又は錠剤の形態で、従来の投与のために錠剤化又はカプセル化される。

【0068】

本発明の製薬組成物に利用されるキャリア材料の選択及び組合わせにより、組成物

25 は、効き目、生物学的利用能、クリアランス時間、安定性、セレコキシブとキャリア

材料の相溶性、安全性、溶解プロファイル、崩壊プロファイル及び/又は他の薬物速


71
度論的、化学及び/又は物理的性質に関して、改善された性能を示す。キャリア材料

は水溶性若しくは水分散性であることが好ましく、セレコキシブの低水溶液溶解性

及び疎水性を相殺する湿潤的性質を有する。組成物が錠剤として調合されると、選

択されたキャリア材料の組合わせにより、溶解及び崩壊プロファイル、硬度、破砕強

5 度及び/又は破砕性において改善される。

【0069】

希釈剤

本発明の製薬組成物は、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容

な希釈剤を任意に含む。適当な希釈剤には、個々に又は組合わせて利用され、ラクト

10 ースUSP;ラクトースUSP無水物;ラクトースUSP噴霧乾燥;スターチUS

P;直接圧縮させたスターチ;マンニトールUSP;ソルビトール;デキストローズ

一水和物;微結晶性セルロースNF;二塩基性リン酸カルシウム二水和物NF;スク

ロースベース希釈剤;粉砂糖;一塩基性硫酸カルシウム一水和物;硫酸カルシウム二

水和物NF;乳酸カルシウム三水和物顆粒NF;デキストレート、NF(例えば、エ

15 ムデックス(Emdex));セルタブ(Celutab);デキストローズ(例え

ば、セレローズ(Cerelose));イノシトール;マルトロン(Maltro

n)及びモル‐レックス(Mor−Rex)のような加水分解穀物;アミロース;レ

クセル(Rexcel);粉末セルロース(例えば、エルセマ(Elcema));

炭酸カルシウム;グリシン;ベントナイト;ポリビニルピロリドンなどがある。存在

20 するならば、かかる希釈剤は、組成物の全重量に対して、希釈剤全体で約5%から約

99%、好ましくは約10%から約85%、より好ましくは約20%から約80%

を含むことが好ましい。選択された希釈剤又は希釈剤類は、錠剤が好ましいときに

は、適当な流動性と、圧縮性を示すことが好ましい。

【0070】

25 単独で又は組合わせて利用するラクトース及び微結晶性セルロースは希釈剤として

好ましい。双方の希釈剤はセレコキシブと化学的に相溶性を有する。エクストラグ


72
ラニュラ微結晶性セルロース(つまり、乾燥工程後に湿式顆粒組成物に微結晶性セ

ルロースを添加)の使用により、(錠剤の)硬度及び/又は崩壊時間が改善される。

ラクトース、具体的にはラクトース一水和物が特に好ましい。通常、ラクトースは、

比較的低希釈剤コストで、適当なセレコキシブ放出速度、安定性、予め圧縮させるた

5 めの流動性及び/又は乾燥性質を有する製薬組成物を提供する。(湿式顆粒が利用

される場合、 顆粒化中の高密度化を促進する高密度の物質を提供し、
) したがって、

ブレンド流動性が改善される。

【0071】

崩壊剤

10 本発明の製薬組成物は、特に錠剤調合用に、キャリア材料として、一つ又はそれ以上

の薬剤学的に許容な崩壊剤を任意に含む。単独で若しくは組合わせて利用される適

当な崩壊剤には、スターチ;スターチグリコール酸ナトリウム;(ベエガン(Vee

gum)HVのような)粘度;(精製セルロース、メチルセルロース、カルボキシメ

チルセルロースナトリウムやカルボキシメチルセルロースのような)セルロース;

15 アルギン酸類;(ナショナル1551及びナショナル1550のような)予めゼラチ

ン化させたコーンスターチ;クロスポビドン(crospovidone)USP

NF;(寒天、グアラ(guar)、イナゴマメ、カラヤ(Karaya)、ペクチ

ン及びトラガカントのような)ゴムがある。崩壊剤は、製薬組成物の調製中の適当な

工程で添加することが可能であり、特に、顆粒化前若しくは圧縮前の潤滑工程中が

20 好ましい。存在するならば、かかる崩壊剤は、組成物の全重量に対して、全体の崩壊

剤で約0.2%から約30%、好ましくは約0.2%から約10%、より好ましくは

約0.2%から約5%の量を含む。

【0073】

結着剤及び接着剤

25 本発明の組成物は、特に錠剤調合用に、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬

剤学的に許容な結着剤若しくは接着剤を任意に含む。かかる結着剤及び接合剤によ


73
り、サイジング、潤滑、圧縮及びパッケージングのような通常の処理を可能にするよ

うに、錠剤化されるべきパウダーに十分な凝集力を付与することが好ましいが、錠

剤が崩壊可能であり、組成物は摂取により吸収される。単独で若しくは組合わせて

利用される適当な結着剤及び接着剤には、アラビアゴム;トラガカント;スクロー

5 ス;ゼラチン;グルコース;スターチ;以下のものに限定されないが、メチルセルロ

ース及びナトリウムカルボキシメチルセルロース(例えば、タイロース(Tylos

e))のようなセルロース材料;アルギン酸及びその塩;珪酸マグネシウムアルミニ

ウム;ポリエチレングリコール;グアラゴム(guar gum);多糖酸;ベント

ナイト;ポリビニルピロリドン;ポリメタクリレート;ヒドロキシプロピルメチルセ

10 ルロース(HPMC);ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel);エチルセ

ルロース(Ethocei)
;(ナショナル1511及びスターチ1500のような)

予めゼラチン化させたスターチがある。存在するならば、かかる結着剤及び/又は

接着剤は、組成物の全重量に対して、結着剤及び/又は接着剤全部で約0.5%から

約25%、好ましくは約0.75%から約15%、より好ましくは約1%から約1

15 0%の量を含む。

【0075】

加湿剤

セレコキシブは水溶液にかなり溶解しにくい。したがって、本発明の製薬組成物は、

任意であるが、好ましくは、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬剤学的に許

20 容な加湿剤を含む。かかる加湿剤は、水と親和性があるようにセレコキシブを維持

させるように選択することが好ましく、その状態が製薬組成物の相対的生物学的利

用能を改善させると考えられる。単独で又は組合わせて利用される適当な加湿剤に

は、オレイン酸;モノステアリン酸グリセリン;ソルビタンモノオレイン酸エステ

ル;ソルビタンモノラウリン酸エステル;トリエタノールアミンオレイン酸塩;ポリ

25 オキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタ

ンモノラウリン酸エステル;オレイン酸ナトリウム;ラウリル硫酸ナトリウムがあ


74
る。アニオン性界面活性剤である加湿剤が好ましい。存在するならば、かかる加湿剤

は、組成物の全重量に対して、全部の加湿剤で約0.25%から約15%、好ましく

は約0.4%から約10%、より好ましくは約0.5%から約5%の量を含む。

【0076】

5 ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在するならば、ラウリル硫酸

ナトリウムは、組成物の全重量の対して、約0.25%から約7%、好ましくは約0.

4%から約6%、より好ましくは約0.5%から約5%の量を含む。

【0077】

潤滑剤

10 本発明の製薬組成物は、キャリア材料として一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容な

潤滑剤及び/又はグリダント(glidant)を任意に含む。単独で或いは組合わ

せて利用する適当な潤滑剤及び/又はグリダントには、グリセリルベハペート(g

lyceryl behapate)(Compritol 888);ステアリン酸

塩類(マグネシウム、カルシウム及びナトリウム)、ステアリン酸;硬化植物油(例

15 えば、ステロテックス(Sterotex));タルク;ワックス;ステアロウェッ

ト(Stearowet);ホウ酸;安息香酸ナトリウム;酢酸ナトリウム;フマル

酸ナトリウム 塩化ナトリウム DL‐ロイシン ポリエチレングリコール
; ; ; (例えば、

カルボワックス4000及びカルボワックス6000);オレイン酸ナトリウム;ラ

ウリル硫酸ナトリウム及びラウリル硫酸マグネシウムがある。存在するならば、か

20 かる潤滑剤は、組成物の全重量に対して、潤滑剤全体で約0.1%から約10%、好

ましくは約0.2%から約8%、より好ましくは約0.25%から約5%の量を含

む。アテアリン酸マグネシウムは好ましい潤滑剤であり、例えば、錠剤調合の圧縮中

の装置と顆粒化混合物との摩擦を減少させるために利用される。(アンチ付着剤、色

剤、着香剤、甘味料及び保存剤のような)他のキャリア材料は、製薬技術の分野では

25 周知であり、本発明の組成物に含有させることが可能である。例えば、酸化鉄を組成

物に添加して色を黄色にさせることもできる。


75
【0078】

カプセル及び錠剤

本発明のある実施例では、製薬組成物は単位投与量のカプセル及び錠剤の形であり、

所望の量のセレコキシブと結着剤とを含む。好ましい組成物は、薬剤学的に許容な

5 希釈剤、崩壊剤、結着剤、加湿剤及び潤滑剤からなる群から選択された一つ又はそれ

以上のキャリア材料をさらに含む。より好ましくは、その組成物はラクトース、ラウ

リル硫酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、クロスカルメロースナトリウム、ステ

アリン酸マグネシウム及び微結晶性セルロースからなる群から選択された一つ又は

それ以上のキャリア材料を含む。さらに好ましくは、組成物はラクトース一水和物

10 及びクロスカルメロースナトリウムを含む。さらに好ましくは、組成物は一つ又は

それ以上のキャリア材料であるラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウ

ム及び微結晶性セルロースをさらに含む。

【0124】

カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ

15 カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると、セレコキシブ粒子サイズの減少に

より、セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見した。したがって、セレコ

キシブのD90粒子サイズは約200μm以下、好ましくは約100μm以下、より

好ましくは約75μm以下、さらに好ましくは約40μm以下、最も好ましくは2

5μm以下である。例えば、例11に例示するように、出発材料のセレコキシブのD

20 90 粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させると、組成物の生物学的利用

能は非常に改善される。加えて又はあるいは、セレコキシブは約1μmから約10

μmであり、好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均粒子サイズを有する。

【0125】

顆粒化二次粒子サイズ及び流動性

25 本発明の製薬組成物は、例えば、直接カプセル化させる若しくは直接圧縮させるか

により調製可能であるが、カプセル化又は圧縮に先立ち、湿式で顆粒化させること


76
が好ましい。湿式顆粒化は、他の効果の中で、粉砕組成物を高密度化させて流動性及

び圧縮特性を改善させ、カプセル化又は錠剤化させるのに組成物の測定又は重量分

散を容易にする。顆粒化から生じる二次粒子サイズ(つまり、顆粒サイズ)は、厳密

には重要ではないが、平均顆粒サイズは、錠剤化の従来のハンドリング及び加工

5 可能にすることは重要であり、薬剤学的に許容な錠剤を形成する直接圧縮可能混合

物が生成することが可能になる。

【0134】

セレコキシブ組成物の調製方法

本発明は、セレコキシブを含む製薬組成物の調製方法にも関する。特に、本発明は、

10 微粒子の形態であるセレコキシブを含む製薬組成物の調製方法に関する。より具体

的には、本発明は、別々の単位投与量の錠剤若しくはカプセル形態のセレコキシブ

組成物の調製方法に関するものであり、各錠剤若しくはカプセルは約12乃至24

時間に亘り治療効果をもたらすのに十分なセレコキシブの量を含有する。例えば、

各投与量単位には、約100mg乃至約200mgのセレコキシブを含有すること

15 が好ましい。本発明によれば、湿式顆粒化、乾式顆粒化又は直接圧縮若しくはカプセ

ル化方法が利用され、本発明の錠剤若しくはカプセル組成物を調製する。

【0135】

湿式顆粒化は、本発明の製薬組成物の好ましい調製方法である。湿式顆粒化過程に

て、(必要ならば、一つ又はそれ以上のキャリア材料とともに)セレコキシブは先ず

20 粉砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざなま粉砕器若しくは

破砕器が利用することが可能であるが、セレコキシブのピンミリングのような衝撃

粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組成物に改善されたブレンド均一

性がもたらせる。例えば、液体窒素を利用してセレコキシブを冷却することは、セレ

コキシブを不必要な温度へ加熱させることを回避するために、粉砕中に必要なこと

25 である。前記にて議論したように、上記粉砕工程中にD90粒子サイズを約200μ

m以下、好ましくは約100μm以下、より好ましくは約75μm以下、さらに好ま


77
しくは約40μm以下、最も好ましくは約25μm以下に小さくすることは、セレ

コキシブの生物学的利用能を増加させるためには重要である。

【0147】

上記最終ブレンド混合物は、その後カプセル化される(あるいは、錠剤を調製したい

5 のなら、適当なサイズの道具を利用して所望の重量及び硬度の錠剤に圧縮させる)。

当業者に公知である従来公知な圧縮及びカプセル化技術が利用される。約20mm

乃至約60mmの範囲のベッドの高さと約0乃至約5mmの範囲の圧密設定と、1

時間あたり約60、000カプセル乃至130、000カプセルの速度とを利用し

て、カプセルに対して適当な結果が得られた。投与量の重量制御は観測され、(i)

10 低速度及び高圧縮、又は(ii)高速度及び高いベッドの高さの何れかにで減少させ

る。したがって、上記パラメータの組合わせは注意深く制御される。スラグ(slu

g)形成は、カプセル重量制御が維持される最も低い圧密設定を利用することによ

り、最小化若しくは排除されることをも発見した。被覆物のある錠剤が必要ならば、

当業者には公知である従来の被覆技術を利用することが可能である。

15 【0148】

ユニット作業の組合わせにより、単位投与量レベルでセレコキシブ含有量が一様で

あり、容易に崩壊し、十分簡単に流れる顆粒が製造され、重量変動はカプセル充填又

は錠剤化中に信頼できるほどに制御され、且つ、バルク密度は十分であり、選択され

た装置にてバッチ処理可能であり、個々の投与量は特定のカプセル若しくは錠剤ダ

20 イに適合する。

【0161】

例4:200mg投与量錠剤

錠剤は以下の成分を有するように調製された。

【0162】

25 【表4】




78
調製された錠剤は、0.275インチx0.496インチ(6.6mmx11.9m

m)の変形カプセル形の錠剤であった。

【0163】

例5:崩壊試験

5 被覆させない以外は、例3及び例4と同じように、錠剤を調製した。6つの同一の錠

剤を、崩壊バスケットのワイヤーメッシュスクリーン基部を有する6つのチューブ

の一つに、別々に配置させた。水浴を37±2℃へと予め加熱させておき、崩壊試験

中は、前記温度に維持させた。1000mlビーカを水浴に置いた。ビーカには十分

な量の水で満たし、チューブのワイヤーメッシュスクリーンは試験中水面の少なく

10 とも2.5cm下に維持されるようにした。崩壊バスケットを水中に挿入し、水面の

少なくとも2.5cm下にチューブワイヤーメッシュスクリーンを維持させながら、

試験が終了するまで上昇及び降下を繰り返した。各錠剤の崩壊時間は、バスケット

の挿入時間から測定された時間であり、そのとき、錠剤のまさに最後の部分がチュ



79
ーブの基部にあるスクリーンを通過した。例3及び例4の被覆物のない錠剤の平均

結果を表5に示す。

【0164】

【表5】




5 ・・・

【0165】

【表6】




例7:粒子サイズ解析

表7Aは、カプセル化に先立ち、それぞれ例1と例2の湿式顆粒化させた製薬組成

10 物の粒子サイズのふるい解析の結果を示す。「スクリーンに保持された割合」とは、

指摘したふるいサイズよりも大きな粒子サイズを有する全バッチの重量%を意味す

る。

【0166】

【表7】



80
表7Bは、錠剤へ圧縮させる前に、それぞれ例3と例4の湿式顆粒化製薬組成物の

粒子サイズのふるい解析の結果を示す。「バッチの割合」とは、指摘したふるいサイ

5 ズと次に小さい古いサイズとの間の粒子サイズを有する全バッチの重量%を意味す

る。「蓄積されたバッチの割合」とは、指摘したふるいサイズよりも大きい粒子サイ

ズを有する全バッチの重量%を報告する。

【0167】

【表8】




81
・・・

【0170】

・・・

5 例11:犬モデルでの生物学的利用能

9乃至13ポンド(4.1乃至5.9kg)の重量のある健康なメスのビーグル犬は、

以下のセレコキシブの1回の投与を受けた:(1)kg体重当たり5.0mgのセレ

コキシブの静脈注入に続き、kg体重当たり5.0mgのセレコキシブの第二の静

脈注入;(2)経口溶液形態のkg体重当たり5mgのセレコキシブ;(3)経口カ

10 プセルの形態のkg体重当たり5.0mgのニートな未調合セレコキシブを投与す

る。静脈及び経口溶液投与のビヒクルは、体積比で2:1の比率である平均分子量4

00(PEG‐400)を有するポリエチレングリコールと水の混合物であった。各

静脈注入は、2回の注入に分け、15乃至30分で15分の間隔をおいて与えた。

【0171】

15 多くの血液サンプルを、ヘパリン化チューブへの静脈穿刺又は留置カテーテルによ


82
り各動物から集めた。血清中のセレコキシブ濃度はHPLCにて測定し、その結果

データを、以下の表11?1に示す薬物速度論パラメータを計算するために利用した。

【0172】

【表12】

5




例11?2:犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能

セレコキシブ粒子サイズ、湿潤剤の増加濃度、pH及び懸濁液としてのセレコキシ

ブの分散液のような調合パラメータの効果は、犬モデルの生物学的利用能への経口

溶液に対して評価した。調合する前にセレコキシブを微粉化(平均粒子サイズ10

10 乃至20μm)させる効果は、組成物Aにて試験した。微粉化、添加湿潤剤(ラウリ

ル硫酸ナトリウム)と増加したマイクロ環境pH(Na3PO412H2O)の組合わ

せ効果を、組成物Bにて試験した。湿潤剤(Tween80)をセレコキシブと密に

接触させる効果(単純な乾燥混合に対する共沈殿の効果)を、組成物Cにて試験し

た。

15 さらに微細化させた粒子サイズ(約1μm)と粒子を懸濁液に分散させた効果を、組

成物Dにて試験した。例11?1(組成物E)にて利用したのと同様なセレコキシブ

溶液を、参考として用いた。加えて、カプセル(組成物F)中の未粉砕、未調合セレ

コキシブの例11?1のデータも、参考として入れた。調合A、B、C、D、E及び


83
Fの特定の組成を表11?2Aにまとめる。

【0173】

【表13】




5 (1)アンチソルベントとして5%のポリソルベート80の水溶液を利用して、エタノ

ール溶液から沈殿させた。

(2)粒子が顕微鏡で評価した際に約1μm径になるまで、ポリソルベート80とポリ

ビニルピロリドンのスラリーにて、薬をボールミルさせて、懸濁液として調製した。

(3)体積比2:1のPEG‐400と水の溶液。

10 上記組成物を3つのオス犬と3つのメス犬のグループに投与した。グループ1の犬

には、選択乗換設計にて、kg体重当たり5mgのセレコキシブを含む溶液Eとカ

プセル調合A及びBを投与した。グループ2の犬には、選択乗換設計にて、kg体重

当たり5mgのセレコキシブを含むカプセル調合Cと懸濁液Dを投与した。血漿サ

ンプルを24時間かけて集め、HPLCによりセレコキシブを解析した。

15 【0174】

上記実験の結果(表11?2B、11?2Cおよび11?2C)から、粒子サイズを小

さくする(組成物A)又は湿潤剤とともにセレコキシブを共沈殿させる(組成物C)


84
は、例11? 1に示す未調合の初期の研究と比較して、セレコキシブの生物学的利

用能(AUC(0‐24)として測定)が増大した。セレコキシブの生物学的利用能は、

PEG‐400/水溶液(組成物E)から懸濁液(組成物D)へと大きくなった。約

1μmの粒子サイズを有する懸濁液からの生物学的利用能は、溶液からの生物学的

5 利用能と同様であり、湿式顆粒された固体組成物からのセレコキシブ生物学的利用

能は小さなセレコキシブ粒子サイズ(例えば、調合に先立ち、セレコキシブのピンミ

ルによるもの)、セレコキシブの増大した濡れ性(例えば、顆粒液体にラウリル硫酸

ナトリウムを含有させることによるもの)や分散改良(例えば、顆粒化にてクロスカ

ルメロースナトリウムを含有させることによる)により改善可能であることを、強

10 く示唆している。各調合に対する表11−2Cおよび11−2Dに示される生物学

的利用能は、例11?1と例11?2の研究間の掛け橋として、溶液データ(組成物

E)を利用して、セレコキシブの静脈投与に対する実験的に測定された生物学的利

用能の割合として、上記調合の生物学的利用能を表わす。

【0175】

15 【表14】




85
【0176】

【表15】




【0177】

5 【表16】




・・・

【0183】

例13

10 以下の調合を有するカプセルを調製し、評価した。

【0184】

【表20】




86
セレコキシブは、連続した小さなスクリーンサイズ(#14、#20、#40)を備

えた振動ミルを介して何回も粉砕した。上記混合物に添加したセレコキシブ粒子の

D90粒子サイズは、約37μm以下であった。セレコキシブ、ラクトース及びポリ

5 ビニルピロリドンを遊星型ミキサーボールにて混合し、水を用いて湿式顆粒化させ

た。その後顆粒を60℃でトレイにて乾燥させ、40メッシュスクリーンを通して

粉砕し、V―ブレンダーにてステアリン酸マグネシウムにより湿潤化させてドソナ

ー型カプセル化器にてカプセル化させた。カプセルのインビトロ溶解プロファイル

は、USP2法と溶解媒体として15mMのリン酸緩衝液とを利用して求めた。1

10 5分後には約50%のインビトロ溶解が達成され、約30分後には95%以上のイ

ンビトロ溶解が達成された。

【0185】

上記の100mg単位投与量カプセルの吸収、分散、代謝及び排除プロファイルは、
14
C‐セレコキシブの懸濁液プロファイルと比較した。その研究は、健康なオスの

15 被験者にて行ったオープンラベルで、ランダム交差研究であった。懸濁液は、5%の

ポリソルベート80を含むエタノールにセレコキシブを溶解させて調製し、投与に

先立ち、その混合物をアップルジュースに添加した。懸濁液を受けた被験者はセレ

コキシブの300mg投与量を摂取した。カプセル形態のセレコキシブを受けた被


87
験者は、全体でセレコキシブを300mg投与させるために、100mg投与量単

にのカプセルを3つ受け入れた。カプセルからの吸収速度は、懸濁液のそれよりも

遅かったが、AUC(0−48)にて測定した際には、懸濁液同等であった。平均結果を、

以下の表13Bに報告する。セレコキシブは尿又は大便の何れかに、約2.56%の

5 みの放射線投与にて殆ど代謝された。

【0186】

【表21】




例14

10 以下の組成物を有するカプセルを調製し、評価した。

【0187】

【表22】




88
振動ミルに代わり、衝撃タイプのピンミルを利用した以外は、例13の調合と同様

な方法で調製した。さらに、ピンミルを利用して、粒子サイズを小さくした。100

mgカプセルでは、約30%のインビトロ溶解は約15分後に達成され、約30分

5 後には85%以上のインビトロ溶解を達成した。200mgカプセルでは、約50%

のインビトロ溶解は、約15分後に達成され、約30分後には85%以上のインビ

トロ溶解を達成した。

【0188】

例15:100mg投与量のカプセルの調製

10 100mg若しくは200mgのセレコキシブを投与し、それぞれ例1若しくは例

2に示す組成物を有するカプセルは、図1若しくは図2に示す方法で、製薬的に許

容な製造に基づき調製された。100mg若しくは200mgのセレコキシブを与

え、それぞれ例3若しくは例4に示す組成物を有する錠剤は、図1若しくは図2に

示す適当な方法を変更させて調製され、組成物をカプセル化させる代わりに、錠剤

15 化させ、クロスカルメロースナトリウムおよび微結晶性セルロースの添加を利用し

た。


89
【0189】

以下に示す出発物質を利用して、100mg投与のカプセルのバルク配合を説明す

る方法では、典型的なバッチは4つの同じ顆粒化セクションからなるが、顆粒化セ

クションの数は正確には重要ではなく、装置の処理能力及び必要とされるバッチサ

5 イズに、主に依存する。

【0190】

粉砕

セレコキシブは、反対に回転するディスクによる衝撃式ピンミルにて混合された。

約8960rpm/5600rpm(回転rpm/反対回転rpm)乃至1120

10 00rpm/5600rpmの範囲にあるミル速度にて、粒子サイズは比較的狭い

範囲(D90が30μm若しくはそれ以下)内で変化し、ミル速度はバルクドラック

微粉化過程には厳密には重要でないことを示唆した。図2は好ましい実施例を示す

工程系統図を示し、セレコキシブ出発物質は、キャリア材料とのブレンドに先立ち、

衝撃式ミルにて、好ましくはピンミルにて粉砕される。

15 【0191】

乾燥混合

セレコキシブ、ラクトース、ポリビニルピロリドン及びクロスカルメロースナトリ

ウムは、1200LのニロフィールダーPMA−1200高速顆粒器に移動させ、

高速チョッパー及びインペラーで約3分間混合させた。本乾燥混合時間では、湿式

20 顆粒化工程の開始に先立ち、キャリア材料とセレコキシブの十分な混合が実現でき

た。

【0192】

湿式顆粒化

ラウリル硫酸ナトリウム(8.1kg)を精製USP水(23.7kg)に溶解させ

25 た。結果生じた溶液を、約14kg/分の速度で顆粒器へ連続的に添加した。全体の

顆粒化時間は約6.5分であった。この顆粒化中に、顆粒器の主要ブレードとチョッ


90
パーブレードは高速設定に配置させた。湿式顆粒化させた混合物には、約8.1重

量%の水を含有していた。あるいは、乾燥混合工程にて、ラルリル硫酸ナトリウムは

セレコキシブ、ラクトース、ポリビニルピロリドン及びクロスカルメロースナトリ

ウムと混合させ、精製USP水をラウリル硫酸ナトリウムを含む上記乾燥混合物に

5 添加することもできる。



【図1】




【図2】




91
92
別紙4 本件審決の理由の要旨



訂正要件に関する判断

訂正後の請求項1における「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90

5 が30μmである粒子サイズの分布」とは、訂正前のD90の数値を「200μm

未満」 「30μm」
から と限定し、訂正事項2aは、訂正前の「セレコキシブ粒子」

について新たに「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたもの」であるとの構

成を付加して限定するものであり、訂正事項2bは、「ラウリル硫酸ナトリウムを

含有する加湿剤を含む」との構成を新たに付加するものである。そうすると、訂正

10 事項2a及び2bは、いずれも特許請求の範囲減縮を目的とするものである。

本件明細書、特許請求の範囲又は図面には、訂正事項2a及び訂正事項2bが

記載されていたといえ、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内に

おいてするものである。

訂正事項2は、特許請求の範囲減縮を目的とするものであるから、特許請求

15 の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

2 サポート要件に関する判断

前訴判決では、本件発明1のサポート要件適合性に関連して、難溶性薬物の原

薬の粒子径分布は、化合物によって様々な形態を採ることに照らすと、200μ

m以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分布がどのような

20 ものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解することはできない旨

判示しており、これは、生物学的利用能の改善の観点では、90%の粒子の粒度分

布も重要であることを述べるものである。

本件優先日当時、ピンミルのような衝撃式粉砕機により粉砕された粉体と、ジ

ェットミルのような流体式(気流式)粉砕機により粉砕された粉体は異なる粒度

25 分布の粉体となること、及び、ピンミルのような衝撃式粉砕機とジェットミルの

ような流体式(気流式)粉砕機は粉砕機構が異なっており、粒度分布の差異は粉砕


93
機構の差異に由来することが技術常識となっていた。

本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、セレコキシブ粒子を、流体式

(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布を形成することが技術常識となっていた「ピ

ンミルのような衝撃式ミル」で粉砕して、D90を約30μm又はそれ以下(最も

5 好ましくは25μm以下)とし、さらに、加湿剤として好ましいとされるラウリル

硫酸ナトリウムを存在させることで、セレコキシブの生物学的利用能が改善され

ることが理解できるし、訂正発明1の発明特定事項を含むものと推認される、例

11及び例11−2の「組成物A」及び「組成物B」は、セレコキシブが未粉砕、

ラウリル硫酸ナトリウムが未調合である「組成物F」よりも、生物学的利用能が向

10 上していることが具体的に示されている。

したがって、本件訂正発明1において、「セレコキシブ粒子が、ピンミルのよう

な衝撃式ミルで粉砕されたもの」であり、「粒子の最大長において、セレコキシブ

粒子のD90が30μmである粒子サイズの分布」を有し、「ラウリル硫酸ナトリ

ウムを含有する加湿剤」を含むとしたことで、未粉砕、未調合のセレコキシブに対

15 して、セレコキシブ粒子を含む製薬組成物の生物学的利用能が改善されることが

理解できる。

明確性要件に関する判断

本件出願日当時の技術常識からすれば、「ピンミルのような衝撃式ミル」は、い

わゆる衝撃式粉砕機であり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気

20 流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることを理解できる

から明確である。

「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕された」「セレコキシブ粒子」について

は、本件明細書の記載や技術常識からすれば、ピンミルのような衝撃式粉砕機に

より粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機により粉砕

25 された粉体と異なる粒度分布の粉体となり、セレコキシブの生物学的利用能の改

善の観点で重要なセレコキシブ結晶の凝集性及びブレンド均一性の改善に寄与し


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ており、「他のタイプのミルとは異なる粒度分布」を有する粒子といえる。

しかし、上記の「他のタイプのミルとは異なる粒度分布」は単に「構造又は特性

を特定しているに過ぎない場合」に該当するとまではいえないから、発明特定事

項bの記載は、「物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されてい

5 る場合」に該当すると解され、訂正発明1は、PBPクレームである。

そして、ピンミルのような衝撃式ミルによって粉砕したセレコキシブ粒子の構

造又は特性によって直接特定することは、ピンミルのような衝撃式ミルとは異な

る多数の粉砕方法とその粉砕粒子の構造又は特性との関係についての理論・原理

を全て明らかとし、ピンミルのような衝撃式ミルによって粉砕したセレコキシブ

10 粒子と当該多数の粉砕方法によって粉砕したセレコキシブ粒子の構造又は特性を、

比較・検証していく膨大な作業が必要となり、不可能・非実際的事情が存在すると

いえる。

したがって、本件訂正発明における「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子

のD90が30μmである粒子サイズの分布を有し、」との発明特定事項は明確で

15 ある。

実施可能要件に関する判断

「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が30μmである粒子サイ

ズの分布」を有する微粒子セレコキシブについては、本件明細書の記載を踏まえ

ると、セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミルのような衝撃式ミ

20 ルでセレコキシブを粉砕することで、製造できることは、当業者であれば理解で

きる。

当業者であれば、賦形剤及び加湿剤に関する本件明細書の記載に基づいて、「一

つ以上の薬剤的に許容な賦形剤」及び「ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿

剤」とすることができるといえる。

25 本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件訂正発明1の製薬組成

物を構成する成分を製造ないし選択することは、当業者にとって可能であったか


95
ら、当業者が本件訂正発明1の製薬組成物を製造することも、本件明細書の発明

の詳細な説明の記載に基づいて、可能であった。

本件訂正発明1の製薬組成物を医薬用途に使用できることは、本件明細書の発

明の詳細な説明の記載から、当業者が理解できるものである。

5 そうすると、当業者が、訂正発明1の製薬組成物を製造し、使用することができ

る程度に、発明の詳細な説明が記載されているといえる。

5 甲8発明に基づく進歩性の判断

(1) 甲8発明の認定

本件審決は、甲イ8には、下記の甲8発明が記載されていると認定した。

10 【甲8発明】

以下の工程1〜工程2によって得られるセレコキシブ結晶を投与経路に適

切な1つ又はそれ以上の補助剤と合わせた錠剤又はカプセル剤の形態の経口

投薬単位である製薬組成物。

工程1:1−(4−メチルフェニル)−4、4、4−トリフルオロブタン−

15 1、3−ジオンの調製

4’−メチルアセトフェノン(5.26g、39.2mmol)をアルゴン

下で25mLのメタノールに溶解して、メタノール中のナトリウムメトキシ

ド12mL(52.5mmol)(25%)を添加した。この混合物を5分間

撹拌して、5.5mL(46.2mmol)のトリフルオロ酢酸エチルを添加

20 した。24時間還流後、この混合物を室温に冷却して濃縮した。100mLの

10%HClを添加して、この混合物を4×75mLの酢酸エチルで抽出し

た。この抽出物をMgSO4で乾燥し、濾過して濃縮して、 47g
8. (94%)

の褐色油状物を得て、これをさらに精製することなく次に進んだ。

工程2:セレコキシブの調製

25 75mLの無水エタノール中の工程1からのジオン(4.14g、18.0

mmol)に、4.26g(19.0mmol)の4−スルホンアミドフェニ


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ルヒドラジン塩酸塩を添加した。この反応物をアルゴン下で24時間還流し

た。室温に冷却して濾過後、この反応混合物を濃縮して、6.13gの橙色の

固体を得た。この固体を塩化メチレン/ヘキサンから再結晶して、淡黄色の

固体として3.11g(8.2mmol、46%)の生成物を得た。

5 (2) 本件訂正発明1について

ア 本件訂正発明1と甲8発明の一致点及び相違点

【一致点】

一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させたセレコキシブを含み、

一つ以上の個別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物。

10 【相違点】

[相違点8−1]製薬組成物に含まれるセレコキシブの量が、訂正発明1

では、「10mg乃至1000mgの量」とされているのに対し、甲8発

明では、かかる特定はなされていない点。

[相違点8−2]製薬組成物に含まれるセレコキシブが、訂正発明1では、

15 「微粒子セレコキシブ」であり、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕さ

れたものであり、粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が30

μmである粒子サイズの分布を有」する「セレコキシブ粒子」であるのに

対し、甲8発明では、かかる特定はなされていない点。

[相違点8−3]製薬組成物が、訂正発明1では、「ラウリル硫酸ナトリ

20 ウムを含有する加湿剤を含む」とされているのに対し、甲8発明では、か

かる特定がなされていない点。

イ 相違点の容易想到性についての判断

相違点8−2について検討する。

甲イ8には、甲8発明の製薬組成物に含まれるセレコキシブについて、ピ

25 ンミルのような衝撃式ミルでの粉砕により微細化をしたセレコキシブを用

いることや、その微細化条件を「セレコキシブのD90粒子サイズ」で規定す


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ることについての記載も示唆もない。

特定の大きさよりも小さい粒子サイズの粒子が効果を奏する粉体につい

て、その粒度分布を、平均粒子径ではなく、D90等の「所望の大きさよりも

小さい粒子サイズの粒子が粉末全体に占める割合」で特定することは、本件

5 優先日当時、医薬品の原料粉末で一般的であったとはいえない。また、甲イ

8には、粒子状のセレコキシブを得る際に、周知の粉砕手段からピンミルの

ような衝撃式ミルを選択して当該手段により粉砕されたものとすることを

動機付けるような記載はない。

甲イ8に接した当業者において、甲8発明の製薬組成物において、生物学

10 的利用能の改善及びブレンド均一性の改善のために、薬効成分のセレコキシ

ブの粒子サイズを小さくすることまでは容易に想到し得るとしても、セレコ

キシブの微細化条件として「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたもの

であり、粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が30μmである

粒子サイズの分布を有し」との構成(相違点8−2に係る訂正発明1の構成)

15 を採用することについての動機付けがあるものといえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、

甲8発明、甲イ8の記載事項及び周知又は技術常識に基づいて、当業者が容

易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 本件訂正発明2について

20 ア 本件審決が認定した本件訂正発明2と甲8発明の相違点

【一致点】

本件訂正発明1と甲8発明の一致点に同じ。

【相違点】

本件訂正発明1と甲8発明の相違点8−1、8−3のほか、以下の相違点

25 がある。

[相違点8−2’ 製薬組成物に含まれるセレコキシブが、
] 訂正発明2では、


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「微粒子セレコキシブ」であり、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕され

たものであり、粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が30μ

m未満である粒子サイズの分布を有」する「セレコキシブ粒子」であるのに

対し、甲8発明では、かかる特定はなされていない点。

5 イ 相違点の容易想到性についての判断

相違点8−2’の容易想到性について判断する。

相違点8−2’は、本件訂正発明1に係る上記相違点8−2においてD90

の値「30μm」を「30μm未満」とするものであり、前記(2)イと同様の

理由により、相違点8−2’に係る本件訂正発明2の構成を採用することに

10 ついての動機付けがあるとはいえない。

したがって、本件訂正発明2も、他の相違点について検討するまでもなく、

甲8発明、甲イ8の記載事項及び周知又は技術常識に基づいて、当業者が容

易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 本件訂正発明4、5、7〜13、15、17〜19について

15 本件訂正発明4、5、7〜13、15、17〜19は、本件訂正発明1又は

2を直接又は間接的に引用するものであり、前記(2)及び(3)のとおり、本件訂

正発明1及び2は、甲8発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることがで

きたものとはいえないのであるから、本件訂正発明4、5、7〜13、15、

17〜19についても、甲8発明、甲イ8の記載事項及び周知又は技術常識

20 基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。




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