関連審決 | 無効2002-35238 |
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関連ワード | 産業上利用(29条1項柱書) / 確実性 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の判断 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 訂正要件 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
294号
審決取消請求事件
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原告 第一工業製薬株式会社 訴訟代理人弁理士 朝日奈 宗太 同 佐木啓二 被告 東海ゴム工業株式会社 訴訟代理人弁護士 鳥海哲郎 同 山岸和彦 同 金子憲康 同 弁理士 西藤征彦 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/02/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が無効2002−35238号事件について平成15年5月23日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,名称を「地山固結工法」とする特許第2056106号発明(平成元年2月22日特許出願〔以下「本件特許出願」という。〕,平成8年5月23日設定登録,以下,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。 原告は,平成14年6月5日,本件特許を無効にすることについて審判の請求をし,無効2002-35238号事件として特許庁に係属したところ,被告は,平成15年2月6日付け訂正請求書により,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等を訂正(以下「本件訂正」といい,訂正後の明細書と願書に添付した図面を併せて「本件明細書」という。)する旨の訂正請求をした。 特許庁は,上記事件について審理した上,同年5月23日に「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年6月4日,原告に送達された。 2 本件明細書の特許請求の範囲の記載 【請求項1】地山に穿設した長孔内に,周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し,上記長尺管の内部を,長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態にし,上記複数の吐出管の先端開口から速硬性の固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち,さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを特徴とする地山固結工法。 【請求項2】地山に穿設した長孔内に,長手方向に所定間隔に設けた隔壁により内部が複数の空間に区切られ,それぞれ先端が上記複数の空間に開口していて全体が長手方向に延びている複数の吐出管により上記複数の空間が外部と連通した状態になっている周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し,上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち,さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを特徴とする地山固結工法。 (以下,【請求項1】,【請求項2】記載の発明を「本件発明1」,「本件発明2という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,請求人(注,原告)の主張する無効理由,すなわち,本件発明1,2は,@本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の記載(以下「【請求項1】の記載」という。)が,発明の詳細な説明に実施例として記載したものではない発明を記載し,また,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されておらず,同【請求項2】の記載も,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないから,平成2年法律第30号による改正前の特許法36条(以下「旧36条」という。)4項1号,2号に違反し,A本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,本件発明の構成を記載していないから,同条3項の規定に違反し,B本件明細書の記載のみでは実施(実現)不可能な技術で,未完成であるから,同法29条1項柱書きに違反し,C特開昭61-186613号公報(本訴甲4-1,審判甲1,以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)であるから,同項3号の規定に違反し,D刊行物1発明及び実願昭57-88803号(実開昭58-194299号)のマイクロフィルム(本訴甲4-2,審判甲2,以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「刊行物2発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許は,同法123条1項の規定により無効とされるべきであるとの主張に対し,上記@ないしBの無効理由はいずれも失当であり,上記C及びDの無効理由について,本件発明1は,刊行物1発明であるとも,刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできず,本件発明2は,あらかじめ隔壁・吐出管がセットされ,複数の空間も形成された周壁孔開き長尺管を用いることにより,固結用薬液に速硬性という限定がない以外は本件発明1と同様な地山固結工法であるから,本件発明1の判断と同様であり,請求人の主張及び証拠方法によっては本件特許を無効とすることはできないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,特許法126条2項所定の訂正要件の判断を誤り(取消事由1),旧36条4項1号,2号所定の記載要件の充足性の判断を誤り(取消事由2),同条3項所定の記載要件の充足性の判断を誤り(取消事由3),本件発明1,2が未完成であることを看過した(取消事由4)結果,同法29条柱書き該当性の判断を誤り,本件発明1,2の進歩性の判断を誤った(取消事由5)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(特許法126条2項所定の訂正要件の判断の誤り) 本件訂正は,【請求項1】における「地山に穿設した長孔内に,周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し,上記長尺管の内部を長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切り,複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させ」を「地山に穿設した長孔内に,周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し,上記長尺管の内部を,長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態にし」に訂正するものであるが,本件訂正前においては,「隔壁による複数の空間の形成」と「空間内への吐出管先端の開口」とがこの順序で経時的に行われることになっているのに対し,本件訂正後の記載では,上記経時的な場合以外に,同時に行われる場合も含まれることになり,明らかに特許請求の範囲を拡張するものであるから,平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書及び同法134条5項において準用する同法126条2項の規定に違反するものである。 2 取消事由2(旧36条4項1号,2号所定の記載要件の充足性の判断の誤り) (1) 審決は,【請求項1】の「上記長尺管の内部を,長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態にし」との記載は,長尺管の内部を,「長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切る」ことと「複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させ」ることが「同時に行われる場合を排除する趣旨とは解されない」とした上,本件明細書には,上記「同時に行われる場合」が記載されているとして旧36条4項1号,2号所定の記載要件の充足性を肯定した(審決謄本5頁最終段落〜6頁第1段落)が,誤りである。 「同時に行われる場合を排除する趣旨とは解されない」ということは,「同時に行われない場合も含み得る」ということであり,そうすると,訂正後の【請求項1】には,本件明細書に記載されていない発明を含むことになる。 また,本件訂正において,【請求項1】の「固結用薬液」を「速硬性の固結用薬液」に訂正しているが,この「速硬性」という記載は,「高温」,「低圧」などと同様に比較の基準又は程度が不明りょうであり,かつ,本件明細書中には「速硬性」について何の定義規定もないので,【請求項1】の記載は不明りょうである。 (2) さらに,審決は,【請求項2】について,「隔壁と吐出管の組み合わせ構造体を長尺管に挿入する」との構成はないと認定した(審決謄本6頁第1段落)が,誤りである。 【請求項2】では,内部に隔壁と吐出管が所定の状態にセットされている長尺管を地山に穿設した長孔内に挿嵌固定するものであるが,長尺管内に隔壁と吐出管を所定の状態にセットする方法として,「隔壁と吐出管の組み合わせ構造体を長尺管内に挿入する」ことが考えられ,かつ,本件明細書において唯一の実施例として記載されているところ,そのような方法を採用する場合には,挿入に際して隔壁に大きな抵抗力が働くので,隔壁を吐出管に固定しておく手段が必須である。 3 取消事由3(旧36条3項所定の記載要件の充足性の判断の誤り) 審決は,本件明細書には,「長尺管5内に,隔壁板6と吐出管7の組み合わせ体を挿嵌する」ことについて,「シール性を保ちつつ所定間隔で長尺管内に配設する」とは記載されておらず,長尺管5の内周面若しくは隔壁板6の外周面に対する潤滑油の塗布等が行われることにより,また,シール機能を奏する構成を付加することにより,実施不可能とはいえない(審決謄本6頁最終段落)と判断したが,誤りである。 上記判断には,明確かつ具体的な理由が示されていないところ,実際の現場において,単に潤滑油の塗布だけで,内径がわずか10cmで長さ30mもの長尺管内に上記組み合わせ体を挿嵌することが不可能であることは,明らかである 4 取消事由4(本件発明1,2が未完成であることの看過) 審決は,明確かつ具体的な理由を示すことなく,本件発明1,2は,実施(実現)不可能とはいえず,未完成発明とは認められない(審決謄本7頁第2段落)と判断したが,誤りである。上記のとおり,本件発明1,2は,少なくとも,隔壁と吐出管の組合せ体を長尺管内に挿嵌することができないという点において,実施不可能な発明である。 5 取消事由5(本件発明1,2の進歩性の判断の誤り) (1) 審決は,本件発明1の進歩性を判断するに際し,刊行物1発明及び刊行物2発明と本件発明1とを個別に対比した上で,「上記相違点における本件特許発明1の『吐出管から吐出された速硬性の固結用薬液を各空間内に充満させたのち,さらに長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成する』という構成(注,以下「構成A」という。)は,甲第2号証(注,刊行物2)にも記載されていない。そして,本件特許発明1は当該構成によって,明細書記載の作用効果を奏するものであるから,本件特許発明1は,上記甲第1号証(注,刊行物1)に記載された発明であるとも,また,甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしうる発明であるともいえない」(審決謄本11頁第2段落〜第3段落)と判断した。 しかしながら,審決は,本件発明1と刊行物1発明との一致点の認定において,刊行物1発明の「注入口」,「外管」,「内管」,「パッカー部」,「注出室」,「内管の注出口」,「グラウト」,「グラウト注入工法」は,それぞれ本件発明1の「(周壁)孔」,「長尺管」,「吐出管」,「隔壁」,「空間」,「吐出管の先端開口」,「固結用薬液」,「固結工法」に相当する(同9頁最終段落)と認定し,さらに,相違点の判断において,本件発明1は,吐出管が長尺管内を移動自在で,ステップアップして吐出作業を行うものではなく,また,後に吐出管は引き抜かれるものではなく,残置されるものである(以下「構成B」という。)のに対し,刊行物1発明は,内管部材を外管内の軸心方向に移動させてゾーンごとにステップアップしながら注入を行うものであり,内管とパッカー部を有する内管部材を地山内に残置したままとするとは考えられない(同10頁)と説示している。これによれば,審決は,@本件発明1は,吐出管を長尺管内に配設したままで吐出作業を行うのに対し,刊行物1発明は,内管が外管内を移動し,ステップアップして吐出作業を行う点,A本件発明1は,吐出作業終了後も吐出管は長尺管内に残置されるのに対し,刊行物1発明は,吐出作業終了後に内管を外管から引き抜く点を相違点として認定していることが明らかである。ところで,本件発明1の進歩性を判断するに当たっては,上記2相違点について,他の公知文献である刊行物2(甲4-2)が開示しているか否か,そして開示されている場合には,刊行物2発明を刊行物1発明に適用する論理付けが存在するか否かについて判断すべきところ,審決は,これらについて検討していない。刊行物2の「トンネル構築に際し岩盤に多数穿設した削孔内に挿入された後モルタル等の凝結材を注入囲燒されて固結埋設され,アンカーとしてトンネル保持に供されるロックボルト構造」(1頁最終段落),「該アンカボルトの内外に凝結材が凝固され,ロックボルトの固定作用が瞬結的に確実にされる」(9頁第3段落)との記載及び第3図の図示には,吐出管であるロックボルトを孔内に配設したままで薬液の注入を行い(上記相違点@),このロックボルト内と岩盤の双方に固結領域を形成すること,及び上記薬液注入に用いたロックボルトを孔内に残置すること(上記相違点A)が開示されている。そして,刊行物2発明は刊行物1発明と同じ技術分野に属するから,刊行物1発明において,長尺管内及び地山の双方に固結領域を形成するために,刊行物2発明を刊行物1発明に適用することは,当業者が容易に想到し得るものである。 (2) 審決は,本件発明2は,あらかじめ隔壁・吐出管がセットされ,複数の空間も形成された周壁孔開き長尺管を用いることにより,固結用薬液に速硬性という限定がない以外は本件発明1と同様な地山固結工法であるから,本件発明1の判断と同様であるとした(審決謄本11頁第4段落)が,本件発明1についての進歩性の判断は上記のとおり誤りであるから,本件発明2についての進歩性の判断も誤りである。 |
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被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(特許法126条2項所定の訂正要件の判断の誤り)について 本件訂正前の【請求項1】の発明(以下「訂正前発明1」という)は「地山に穿設した長孔内に,周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し,上記長尺管の内部を長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切り,複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させ,上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち,さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを特徴とする地山固結工法」であり,上記文言中には,「長尺管の内部を長手方向に所定間隔に設けた隔壁により区切り」と「複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させ」との間等に,「次に」とか「その後に」といった経時的に限定する文言は一切存在しない。そして,本件訂正前の本件明細書(甲2)には,訂正前発明1の実施例として,隔壁板6と吐出管7との組合せ構造体を長尺管5内に挿嵌する(3頁5欄)ことにより「長尺管の内部に長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切る」ことと「複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させる」ことを,同時に行うことが記載されている。したがって,訂正前発明1は,「長尺管の内部を複数の空間に区切る」ことと「複数の吐出管を配設して複数の吐出管の先端を複数の空間に開口させる」ことが「経時」であることに加え,「同時」であることも含むことは明らかである。本件訂正は,これを「同時」に限定したもので,特許請求の範囲の減縮に該当し,訂正要件を満足する。 2 取消事由2(旧36条4項1号,2号所定の記載要件の充足性の判断の誤り)について (1) 【請求項1】記載の「上記長尺管の内部を,長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態にし」という文言中の「ともに」の語は,「いっしょに」あるいは「同時に」の意味を表わすことは,「広辞苑第四版」(乙2)の記載からも明らかであり,経時的な解釈が生じる余地はない。したがって,本件発明1では,「上記長尺管の内部を複数の空間に区切る」ことと「複数の吐出管を配設して複数の吐出管の先端を複数の空間に開口させる」ことが同時となり,その一実施例も同時であることから,本件発明1の特許請求の範囲の記載と実施例とが対応しており,旧36条4項1号,2号所定の記載要件を充足する。 速硬性の固結用薬液について,本件明細書(甲3添付)の一実施例で「ウレタン樹脂からなる速硬性の固結薬液」(5頁第1段落),「固結用薬液として,ウレタン樹脂からなる速硬性のものを使用しているが,これに限定するものではない」(同下から第2段落)との記載があり,「速硬性の固結用薬液」としては,ウレタン樹脂類を示すことは明らかであるから,不明りょうではない。 (2) 本件発明2は,要するに,「隔壁と吐出管との組み合わせ構造体が予め組み込まれた長尺管を,地山の長孔に挿嵌固定する」工法を示しているのであり,この工法自体には,原告の主張するような,「組み合わせ構造体を長尺管内に挿入する」という構成は含まれていない。そして,長尺管内に,上記組合せ構造体を組み込むことについては,本件明細書(甲3添付)に,他の実施例として,「第6図は他の実施例に用いる長尺管を示している。すなわち,この長尺管5には,予め,第2図に示す組み付け構造体が挿嵌されている」(5頁第2段落)と明記されている。 3 取消事由3(旧36条3項所定の記載要件の充足性の判断の誤り)について 本件明細書(甲3添付)の実施例1では,組み付け構造体の挿嵌に関し,「長尺管5内に,隔壁板6と吐出管7の組み合わせ体を挿嵌する。この挿嵌に際しては,長尺管5の内周面もしくは隔壁板6の外周面に対する潤滑油の塗布等が行われる」(4頁最終段落)と記載され,実施例2では,「長尺管5には,予め,第2図に示す組み付け構造体が挿嵌されている」(5頁第2段落)と記載され,実施例2について,「補強現場ではなく,工場で長尺管5内に組み付け構造体を挿嵌できるため,作業環境の点で優れており」(同頁第3段落)と明記されており,足場等の悪い現場施工に比べ,工場で行う方がより実施しやすいことは当業者に自明である。さらに,「長尺管5内に,隔壁板6と吐出管7の組み付け構造体を挿嵌する」に際し,上記隔壁板6をスポンジ材等で構成すれば,挿嵌の容易性とシール機能とを満足させ得ることは,当業者の技術常識であり,「後にシール機能を奏する構成を付加する等を行うことは当業者に自明である」との審決の判断にも誤りはない。 4 取消事由4(本件発明1,2が未完成であることの看過)について 本件発明1,2が実施可能であることは上記のとおりであり,本件発明1,2は未完成発明とは認められない(審決謄本7頁第2段落)とした審決の判断に誤りはない。 5 取消事由5(本件発明1,2の進歩性の判断の誤り)について (1) 本件発明の構成Aについての容易想到性をいう原告の主張は失当である。 すなわち,刊行物1(甲4-1)に記載されたグラウト注入装置は,ソレタンシュ工法に係るものであり,この装置は,地盤内に埋設された外管10内に,固結用薬液注入用の内管部材20,50(パッカー31,32,33を備え外管内壁に対し液密になっている。)を軸方向に移動自在に挿入し,内管部材20,50を外管10内の軸方向に移動させ,ゾーンごとにステップアップしながらグラウト(固結用薬液)を,内管部材20,50から外管10の注入口11A,11Bを経て周辺地盤へ注入する。そして,@内管部材をゾーンごとにステップアップする際,そのゾーンでの注入を終え,次のゾーンヘと内管部材をステップアップさせた後の外管の部分には,固結用薬液は存在せず,その結果,すべての注入を終えた後の外管全体は空のまま地盤内に残される。また,このとき,A内管部材は外管から引き抜かれており外管内に残置されない。ソレタンシュ工法においては,上記@,Aは技術常識である。このようなソレタンシュ工法に係る刊行物1発明において,内管部材20,50が,外管10内を移動自在でステップアップさせなければ固結用薬液の注入施工は,不可能であり,また,内管部材20,50を外管内に残すと,残したところから上側に位置するゾーンには,固結用薬液の注入ができなくなること,及び内管部材20,50は極めて高価なことから外管内に内管部材20,50を残置し,内管部材20,50の繰り返し使用ができないとすると,施工コストが莫大なものとなることから,内管部材20,50を外管内に残置することは,技術的にも経済的にも不可能である。 (2) 本件発明の構成Bについても容易想到ということはできない。すなわち,刊行物2(甲4-2)には,短尺のロックボルト(刊行物1発明の内管部材に相当する)にモルタル等の凝結剤を充填し,ロックボルトと地山に設けられた掘削孔との間にモルタル等を充填すること及びロックボルトをそのまま孔内に残置させることが記載されている。しかし,刊行物1発明では,内管部材20,50を,外管10内を移動自在にし,ステップアップさせるようにしなければ,施工は不可能であり,このことはソレタンシュ工法の技術常識である。また,グラウト注入後,内管部材20,50を外管から引き抜き外管内に残さないようにしないと,施工は技術的にも経済的にも不可能であり,このこともソレタンシュ工法の技術常識である。 したがって,刊行物2にロックボルトを孔内に残置させることが記載されていても,当業者が,上記ソレタンシュ工法の上記技術常識等を打破して,刊行物1発明の空のまま残置させる外管10内に内管部材20,50を残置させることを想到することはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由5(本件発明1,2の進歩性の判断の誤り)について (1) 審決は,刊行物1発明を,「地盤にボーリング機を用いてケーシングを建込み,そこにいわゆるスリーブグラウトを注入し,その後ケーシング内に,長手方向にゾーンごと区画して注入口が形成された外管と,この外管内をその軸心方向に移動自在とされた内管部材とを備え,前記内管部材は,複数の独立した流路を有する内管と,長手方向に間隔を置いて外管の内面にそれぞれ内接してグラウトの液密を図るべく設けられた3以上のパッカー部とを有し,前記パッカー部間における外管と内管との間隙たる相互に異なる注出室に,前記内管の各流路が1対1で独立的に連通しているグラウト注入装置を挿入し,次いでケーシングを引き抜く,前施工後,複数の独立した流路を有する内管の注出口からグラウトを,相互に異なる注出室内に注出し,外管の注入口からスリーブグラウトを破りながら周辺地盤へと注入することを,内管部材を外管内の軸心方向に移動させてゾーンごとにステップアップしながら行う地盤へのグラウト注入工法」(審決謄本8頁第2段落)と認定した上,本件発明1と刊行物1発明との相違点として認定した,「本件特許発明1では,地山に穿設した長孔内に,周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し,吐出管から吐出された速硬性の固結用薬液を各空間内に充満させたのち,さらに長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成する(注,構成A)のに対し,甲第1号証(注,刊行物1〔本訴甲4-1〕)に記載された発明では,地盤に建込みスリーブグラウトを注入したケーシング内に長手方向にゾーンごと区画して注入口が形成された外管を備えるグラウト注入装置を挿入し,次いでケーシングを引き抜く前施工後,速硬性との限定のないグラウトを,内管から相互に異なる注出室内に注出し,外管の注入口からスリーブグラウトを破りながら周辺地盤へと注入することを,内管部材を外管内の軸心方向に移動させてゾーンごとにステップアップしながら行う点」(同10頁第1段落の相違点の項)について,「本件特許発明1(注,本件発明1)は,作用において・・・本件特許発明に関する実施例において・・・と記載されているように,吐出管が長尺管内を移動自在で,ステップアップして吐出作業を行うものではなく,また,後に吐出管は引き抜かれるものではなく,残置されるものである。一方,甲第1号証に記載された発明は,内管とパッカー部を有する内管部材が,外管内をその軸心方向に移動自在とされており,内管部材を外管内の軸心方向に移動させてゾーンごとにステップアップしながら注入を行うものであり,甲第1号証に記載された発明において,また,甲第1号証に記載された発明の従来例としてあげられている,外管の注入口間隔たる1ステップごと内管をスライドさせながら注入する,ソレタンシュ工法(乙第1〜4号証〔注,本訴乙5〜8〕参照)において,内管とパッカー部を有する内管部材を地山内に残置したままとするとは考えられない。したがって,『吐出管から吐出された速硬性の固結用薬液を各空間内に充満させたのち,さらに長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成する』という,相違点における本件特許発明1に係る構成(注,構成A)は有し得ない」(同頁最終段落〜11頁第1段落)と判断した。 上記説示によれば,審決は,刊行物1発明から「吐出管が長尺管内を移動自在で,ステップアップして吐出作業を行うものではなく,また,後に吐出管は引き抜かれるものではなく,残置されるものである」という構成Bを想到できないから,相違点に係る本件発明1の構成Aを想到できないと判断しているものであり,審決の認定した相違点に係る本件発明1の構成Bは,実質的には,原告の主張するとおり,@「吐出管が長尺管内をステップアップして吐出作業を行うものではなく(吐出管を配設したままで吐出作業を行う)」との構成,及びA「後に吐出管は引き抜かれるものではなく,残置されるものである(吐出作業終了後も吐出管は長尺管内に残置される)」との構成であるということができる。 (2) 原告の主張は,本件発明1と刊行物1発明との相違点は,刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて,当業者が容易に想到し得るというものと解されるので,まず,審決の認定した,本件発明1の構成Aに係る刊行物1発明との相違点について検討する。 昭和57年3月20日鹿島出版会発行,坪井直道著「薬液注入工法の実際」236頁〜238頁(乙6)によれば,ソレタンシュ工法は,@削孔機(掘削機)を用いて直径100mm前後の孔を設けケーシングを建て込み,Aこの孔の中に約30cm間隔に注入孔が開けられバルブとして作用する短いゴムスリーブで覆われた内径40mmのマンシェットチューブを建て込み,Bマンシェットチューブとケーシングとの間に,スリーブグラウトと呼ばれる特殊注入を行い,その後にケーシングを引き抜き,C注入予定箇所の上下にダブルパッカーを設置できる仕組みの注入パイプをマンシェットチューブの中にセットして注入する,という工程の薬液注入工法である。 ところで,刊行物1(甲4-1)には,「長手方向にゾーンごと区画して注入口が形成された外管と,この外管内をその軸心方向に移動自在とされた内管部材とを備えた注入装置において;前記内管部材は,複数の独立した流路を有する内管と,その長手方向に間隔を置いて外管の内面にそれぞれ内接してグラウトの液密を図るべく設けられた3以上のパッカー部とを有し;前記パッカー部間における外管と内管との間隙たる相互に異なる注出室に,前記内管の各流路が1対1で独立的に連通していることを特徴とするグラウト注入装置」(1頁左下欄特許請求の範囲),「〔従来の技術〕この種のグラウト注入工法として,いわゆるソレタンシュ注入工法は,注入位置を適確に定めることができるなどの利点から,汎く用いられている。・・・注入装置の流路は1つである。また,同工法に使用されるグラウトは1種のみで,もし異種グラウトを注入するのであれば,先行注入グラウトを注入した後,他の種のグラウトで流路を置換する必要がある」(1頁左下欄末行〜右下欄第3段落),「〔発明が解決しようとする問題点〕・・・本発明は,注入の確実性を損うことなく施工能率を向上させることができ,異種グラウトの同時注入を行うことができるグラウト注入装置を提供することを主たる目的としている」(1頁右欄最終段落〜2頁左上欄第2段落),「〔作用〕本発明(注,刊行物1発明)は,内管に複数の流路を独立的に構成していること,パッカー部を3以上設けていること,前記各流路の注出口がパッカー部間において開口しており,各流路と相互に異なる注出室とが1対1で対応していることを主要点としている。したがって,内管の第1流路に第1グラウトを供給し,注出口から注出室に注出させ,さらに注入口から直接に,またはスリーブを撓せながら周辺地盤へ注入しているときに,内管の他の第2流路に第2グラウトを供給し,同様にして別の注入口から周辺地盤に注入できる。したがって,同時にゾーンごと区画された注入口から各グラウトを注入できる。その結果,各注入口からの注入量が従来例と同じであっても,時間当りの注入量は2倍となり,施工手間は1/2となる。そして,第1グラウトと第2グラウトとの種別を異らせておくと,異種グラウトを同時注入できる」(2頁右上欄第2段落〜左下欄第2段落),「(基本例の作用)かかる装置においては,まずボーリング機を用いてケーシングを建込み,そこにいわゆるスリーブグラウトを注入し,その後ケーシング内に本装置を挿入し,次いでケーシングを引き抜く。この前施工後,本体内管部材50の内側管にAグラウト(A液)を供給する。その結果,A液は,ソケット60,接手61および第2内側管22Bを通り,第2パッカー部32を抜け第1内側管22A内に入り,その注出口22aから注出室71内に注出され,さらにそれ自体の圧力で,注入口11Aからスリーブ12を撓せながらその両端部から注入され,続いてスリーブグラウトを破りながら周辺地盤へと注入される。これに対して,本体内管部材50の外側管51と内側管との間にBグラウト(B液)を圧送すると,B液はソケット60の貫通孔60cを抜け,継手33Cおよび33Eと接手61との間隙を通り,第1外側管21Aと第2内側管22Bとの間に入った後,注出口21a,注出室72および注入口11Bを通り,スリーブ12を撓せながら,周辺地盤へと注入される。前述の説明からも明らかなように,A液およびB液の流路(A液路,B液路)は,内管部材20内において独立しており,また注出口21a,22a,換言すれば注入口11B,11Aが装置の長手方向において間隔を置いて区分されている。(施工例)したがって,A,B両流路に異種のA,B両液を同時に供給して,注入することができる。またA,B両流路を通して同種グラウトを長手方向に異なる注入口11A,11Bから同時に注入することができる。その結果,改造ゾーン当りの施工時間は実質的に1/2となる。勿論,注入口12A,12Bからの注入タイミングを適宜ずらすことも可能である。 同種グラウトを同時注入する場合,第3図のように,注入口11A,11Bの間隔長の2倍のステップごとステップアップしながら注入することができる」(3頁右上欄最終段落〜右下欄最終段落),「上記例は2重内管例であるが,第7図のような3重管以上の流路構成にて3個所以上からの同時注入を行うこともできる。なお,第7図の左方には第4パッカーが設けられるが,図示されていない」(4頁左上欄第3段落)との記載がある。 上記記載によれば,刊行物1には,審決が認定した刊行物1発明であるソレタンシュ注入工法の改良工法が開示されていると認められるが,内管に複数の流路を独立的に構成していること,パッカー部を3以上設けていること,上記各流路の注出口がパッカー部間において開口し,各流路と相互に異なる注出室とが1対1で対応していることを主要点としており,「3重管以上の流路構成にて3個所以上からの同時注入を行うこともできる」との記載から,内管の独立的に構成した複数の流路の数を,周辺地盤へグラウトを注入させるべき外管の注入口の数と同数とし,当該流路の注出口に対応する注出室をパッカー部間により形成し,各注出口から同時に注出室に注出させ,さらに,スリーブをたわませながら周辺地盤へグラウトを注入する工法(以下「刊行物1開示工法」という。)も開示されているものと認めることができる。そして,刊行物1の上記記載によれば,刊行物1開示工法は,内管を移動させる必要がなく,また,「内管(本件発明の吐出管に相当する。 以下,同様に相当する構成を記載する。)から吐出されたグラウト(固結用薬液)を各注出室(空間)内に注出させ,さらに,スリーブをたわませながら(充満させたのち),外管(長尺管)の注入口(周壁孔)から外管(長尺管)外周の地盤(地山)内に浸透硬化させ,上記外管(長尺管)内及び外管(長尺管)外周の地盤(地山)に固結領域を形成する」ものであることが明らかである。 次に,速硬性の固結用薬液の使用の点についてみると,刊行物2(甲4-2)には,グラウトが速硬性か否かについての明示はなく,ソレタンシュ工法であれば速硬性の固結用薬液を使用することに支障があるとしても,速硬性の固結用薬液を使用すること自体は,本件明細書(甲3添付)に「最近では,硬化が早く,高強度を有することからウレタン樹脂等の薬液用いた工法も行われている」(2頁〔発明が解決しようとする問題点〕欄)と記載されているように,本件特許出願前から周知であると認められるところ,刊行物1開示工法においては,速硬性の固結用薬液を使用することに何ら支障は認められない。そして,本件明細書に,「〔発明の効果〕この発明は以上のように地山の固結補強を行うため,補強作業を極めて容易にできるとともに,速硬性の固結用薬液の使用により作業時間の短縮化も実現できる」(5頁最終段落〜6頁第1段落)と記載されているように,本件発明1や刊行物1発明のような地山固結工法において,速硬性の固結用薬液を使用すれば作業時間を短縮することができることは明らかであり,かつ,作業時間の短縮は自明の課題であるということができる。 刊行物1開示工法は,刊行物1に開示された工法であるから,これを刊行物1発明に適用できないとする理由はなく,刊行物1発明に刊行物1開示工法を適用し,その際,自明の課題である作業時間の短縮を図るために周知の速硬性の固結用薬液を使用することは,当業者が容易に想到し得ることである。したがって,本件発明の構成Aに係る刊行物1発明との相違点である「吐出管から吐出された速硬性の固結用薬液を各空間内に充満させたのち,さらに長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成する」との構成は,刊行物1発明,刊行物1開示工法及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることというべきである。 (3) 次に,本件発明1の構成Bに係る刊行物1発明との相違点として原告の主張する上記相違点@,Aについて検討する。 審決は,本件発明1は,吐出管を長尺管内でステップアップして吐出作業を行うものではなく,また,後に吐出管は残置されるものであるのに対し,刊行物1発明及びソレタンシュ工法は,内管部材をステップアップしながら注入を行うものであり,内管部材を地山内に残置したままとするとは考えられない(審決謄本10頁最終段落)とし,被告は,刊行物1発明は,ソレタンシュ工法に関するものであり,ソレタンシュ工法では,内管部材は,全注入作業終了後引き抜かれることが当業者の技術常識であるから,これを外管内に残置することを当業者が想到することは困難であり,実際上も,内管部材を外管内に残置することは,技術的,経済的に不可能であると主張する。 審決が認定した,本件発明1が,吐出管を長尺管内でステップアップして吐出作業を行うものではなく,また,後に吐出管は残置されるものであるとの点については,【請求項1】に明示的に記載されてはいないが,「速硬性の固結用薬液」を使用すると規定する以上,速硬性であればステップアップしたり,引き抜くことは困難であると認められるから,これを前提とした審決の上記認定に妥当性はあるということができる。一方,刊行物1発明に刊行物1開示工法を適用し,その際,周知の速硬性の固結用薬液を使用することは,当業者が容易に想到し得ることは上記のとおりである。そして,特公昭63-63688号公報(乙3)には,「該パイプ部材を前記孔内に固定せしめる一方,かかるパイプ部材の中空部を通じてパイプ部材他端側より所定の固結薬液を前記孔内奥部に注入せしめ,更に岩盤に浸透せしめて反応,固化させることにより,該孔内に前記パイプ部材を残置させつつ,該孔周囲の岩盤を固結せしめるようにすることを特徴とする岩盤固結工法」(1頁左欄特許請求の範囲の請求項1)と記載され,刊行物2(甲4-2)には,「トンネル内岩盤削孔に挿入され凝結材を注入囲繞されて埋設されるトンネル施工用ロックボルト構造において,アンカボルトが中空パイプにされ,その中途に差圧バルブが設けられ,而して該差圧バルブの基部寄りにノズルが設けられて該アンカボルトに外設したパッカに接続しており,一方該アンカボルト前部に他のノズルが設けられていることを特徴とするトンネル施工用ロックボルト構造」(1頁実用新案登録請求の範囲)と記載されているように,地山固結工法において吐出管を残置させることは,従来周知の技術であったものと認めることができる。そうすると,刊行物1開示工法を刊行物1発明に適用し,速硬性の固結用薬液を使用した場合において,ステップアップしたり,引き抜くことは困難であり,かつ,そのようにする必要性はなく,上記周知の技術を参酌して,構成Bに係る「吐出管を長尺管内でステップアップして吐出作業を行うものではなく,また,後に吐出管は残置されるものである」とすることは,当業者が当然選択し得ることである。したがって,原告の主張する上記相違点@,Aに係る構成も,刊行物1発明,刊行物1開示工法及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることというべきである。 そして,刊行物1開示工法を適用し,速硬性の固結用薬液を使用した刊行物1発明が容易想到であること,及びこの発明において,「後に吐出管は残置されるものである」とすることは,当業者の当然選択し得ることであるから,被告主張のように,これが技術的に不可能であるということはできず,また,極めて高価な内管部材の繰り返し使用ができないと施工コストがばく大なものとなるとする被告主張の経済的問題についても,内管部材が高価か否かは,内管部材を外管内に残置することの容易想到性の判断とは関係のない事項であって,本件発明1と同様の,隔壁板と吐出管の組合せ構造体を採用することにより対応が可能であるから,被告の上記主張は,上記容易想到性の判断を左右するものではなく,採用することができない。 (4) したがって,本件発明1と刊行物1発明との相違点に係る構成は,刊行物1開示工法及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得るというべきである。 (5) 審決は,本件発明2は,あらかじめ隔壁・吐出管がセットされ,複数の空間も形成された周壁孔開き長尺管を用いることにより,固結用薬液に速硬性という限定がない以外は本件発明1と同様な地山固結工法であるから,本件発明1の判断と同様であるとした(審決謄本11頁第4段落)が,本件発明1についての進歩性の判断は上記のとおり誤りであるから,本件発明2についての進歩性の判断も誤りというほかない。 (6) 以上のとおり,本件発明1,2の刊行物1発明及び刊行物2発明に基づく容易想到性を否定した審決の判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告の取消事由5の主張は理由がある。 2 よって,その余の点について判断するまでもなく,審決は取消しを免れず,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 早田尚貴 |