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関連審決 無効2000-35308
関連ワード 技術的思想 /  新規性 /  公然知られ(29条1項1号) /  秘密保持義務 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  情報性 /  複写物 /  新規性喪失(新規性の喪失) /  容易に発明 /  出願公開 /  技術情報 /  優先権 /  国内優先権 /  優先日 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  社会通念 /  設定登録 /  混同 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 466号 審決取消請求事件
原告 株式会社アステツクコーポレーシヨン
原告 株式会社タスト
両名訴訟代理人弁護士 大野幹憲
同 窪木 登志子
同 塩谷崇之
同 千代田 有子
同 水津正臣
同 清水和彦
同 江口和幸
同 若杉千秋
被告 株式会社テクノメディカ
被告 株式会社オートニクス
両名訴訟代理人弁護士 田中成志
同 平出貴和
同 板井典子
同 弁理士 八木田 茂
同 平井輝一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2000-35308号事件について平成13年9月3日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告らは,名称を「検体採取用試験管準備方法及び装置」とする特許第2834595号発明(平成3年5月15日出願〔国内優先権主張・平成2年10月24日(以下「本件優先日」という。)〕,平成10年10月2日設定登録,以下「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
原告らは,平成12年6月9日,被告らを被請求人として,本件特許について無効審判(以下「本件審判」という。)の請求をし,無効2000-35308号事件として特許庁に係属した。
特許庁は,同事件について審理した上,平成13年9月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月17日,原告らに送達された。
2 本件発明の要旨 【請求項1】 患者に関する情報に基づいて,検査項目別に少なくとも2種類の試験管を収容した試験管収容部から,試験管移送手段で患者の検査に必要な試験管を自動的に選択してラベル貼付位置に移送すると共に,前記患者に関する情報に基づいて患者情報をラベル印字手段で自動的に印字し,ラベル貼付位置に移送された試験管に前記患者情報が印字されたラベルをラベル貼付手段で自動的に貼り付け,ラベル貼付後の試験管を試験管移送手段で患者別に収納可能な収納部へ自動的に移送することを特徴とする検体採取用試験管準備方法。
【請求項2】 検査項目別に少なくとも2種類の試験管を収容する第1収容部と,ラベルに患者に関する情報に基づいて患者情報を印字して試験管に貼り付けるラベル印字・貼付装置と,ラベル貼付後の試験管を収容する第2収容部と,前記第1収容部からラベル印字・貼付装置へ,また,ラベル印字・貼付装置から前記第2収容部へ試験管を移送する移送手段と,患者に関する情報に基づいて,前記移送手段に患者の検査に必要な試験管を自動的に選択させてラベル印字・貼付装置のラベル貼付位置に移送させると共に,前記ラベル印字・貼付装置に,前記患者に関する情報に基づいて患者情報をラベル印字させ,かつ,ラベル貼付位置に移送された試験管に対応する患者情報が印字されたラベルを貼り付けさせ,さらに,前記移送手段に,ラベル貼付後の試験管をラベル印字・貼付装置から前記第2収容部へ移送させ,前記第2収容部でラベル貼付後の試験管を患者別に収容させるよう少なくとも移送手段及びラベル印字・貼付装置を制御する制御手段とを有することを特徴とする検査用試験管準備装置。
【請求項3】 前記移送手段が,X軸方向,Y軸方向及びZ軸方向に移動可能な試験管把持具を有することを特徴とする請求項2に記載の検査用試験管準備装置。
【請求項4】 前記移送手段が,一つ又はそれ以上の無端コンベアを有することを特徴とする請求項2に記載の検査用試験管準備装置。
【請求項5】 前記第1収容部が検査項目別に試験管を収容可能な少なくとも二つの収容部を有することを特徴とする請求項4に記載の検査用試験管準備装置。
(上記【請求項1】〜【請求項5】に係る発明を「本件発明1」〜「本件発明5」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,請求人ら(注,原告ら)の主張する本件特許の無効理由,すなわち,@「採血管自動準備システムご提案仕様書」(審判甲2-1・本訴甲3-1,以下「本件仕様書」という。)に記載されたものが,特許出願前(注,本件優先日前を指す。以下同じ。)に日本国内において公然と知られた状態にあったものであり,また,本件仕様書は特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である,A本件発明1,2は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明あるいは特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明であるから,本件特許は,特許法29条1項1号(注,審決謄本4頁12行目に「第29条第1項」とあるのは誤記と認める。)の規定あるいは同条1項3号(注,同頁13行目に「第29条第3項」とあるのは誤記と認める。)の規定に違反してされたものとして,無効とされるべきである,B本件発明1〜5は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明あるいは特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は同条2項の規定に違反してされたものとして,無効とされるべきである,との主張に対し,本件発明1〜5は本件仕様書に記載されているものであるとした上,@本件仕様書に記載されたものが特許出願前に日本国内において公然と知られる状態にあったとはいえず,A本件仕様書は公開を目的として作成された文書ではなく,内容自体が広く第三者に情報として流通されるべき性質のものでもないとして,本件発明1〜5に係る本件特許は,請求人らの主張する理由によって無効にすることができないとした。
原告ら主張の審決取消事由
本件発明1〜5が本件仕様書に記載されているものであることは認めるが,審決は,特許出願前に日本国内において公然と知られる状態にあった本件仕様書の記載内容の公知性を誤って否定し(取消事由1),また,特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である本件仕様書の刊行物性も誤って否定した(取消事由2)結果,本件特許について原告ら主張の無効理由を理由がないとしたものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件仕様書の記載内容の出願前公知性に関する認定判断の誤り) (1) 審決は,原告らが本件仕様書の記載内容の出願前公知の根拠として主張した,「株式会社アイディエス(注,以下,単に「アイディエス」と読み替える。)の取締役営業部長であったAが,AL-500を2台一組にして製造した採血管自動準備システムを横浜労災病院に納入するに際して,横浜労災病院の臨床検査業務委託先である株式会社ランス(注,以下,単に「ランス」と読み替える。)に甲第2号証の1の仕様書(注,以下,単に「本件仕様書」と読み替える。)を交付しており,かつ,ランスとの間には秘密保持の取り決めや義務等は一切なかった。 また,AL-500を2台一組にして製造した採血管自動準備システムは,販売仲介業者である高園産業株式会社(注,以下,単に「高園産業」と読み替える。)から横浜労災病院の臨床検査業務委託先であるランスを通して横浜労災病院に納入されており,かつ,高園産業との間には秘密保持の取り決めや義務等は一切なかった」(審決謄本7頁5(1)の(根拠1))との点について,「ランスと高園産業はいずれも,アイディエスが開発した『採血管自動準備システム』を横浜労災病院に納入する際の当事者であり,・・・アイディエスとランス,高園産業との間に秘密保持契約がないからといって,・・・商慣習上,ランスあるいは高園産業がアイディエスが提案した本件仕様書の内容を,当事者以外の者に開示するとは考えられず,本件仕様書に記載されたものが公然と知られる状態にあったとする根拠にはなり得ない」(同8頁第3段落)としたが,誤りである。
文書情報が流通する場合において,それを情報授受の当事者以外の者に開示することは,明示又は黙示の秘密保持契約がない限り,商慣習上,何ら妨げられないはずであり,殊に,当該文書が新製品の仕様に関するものである場合には,新製品を大々的に売り出そうとする開発当事者ないし流通の当事者にとって,文書の内容が広く流通することは,むしろ有利なことである。アイディエスは,採血管自動準備システムが人手を介さずに患者ごとに採血管を準備するという誠に画期的なものであり,まだ医療関係者に知られていないため,啓もうする必要があったこと,多くの病院や検査センターに採用してもらうためには,現に採用話が進行している横浜労災病院の例を示す必要があったこと,自己の開発資金を回収する必要に迫られていたことなどの事情から,高園産業及びランスに対して,積極的に公開し,徹底した売り込み戦略をとり,高園産業もまた,新規顧客の開拓のため広く情報を流していたのであるから,本件仕様書に記載された情報を秘密にしておくべき理由はない。
また,一般に,特許製品が納入先に納入されると,その修理,点検等のため外部へ委託されることがあり得るため,通常は,納入時点で秘密保持義務は解除されたものとして取り扱われ,発明は公然と知られ得る状態となる。ランスは,納入先である横浜労災病院において,その検体検査業務を一手に引き受け,納品された機器の設置管理に携わる会社であり,採血管自動準備システムの納入に関する限り,同病院と同一視すべき立場にあるから,遅くとも,本件仕様書がランスの手に渡った時点において,その記載内容は公知となったというべきである。
(2) 審決は,原告らが同じく出願前公知の根拠として主張した,「本件仕様書は,『株式会社ランス殿』と書いてある宛先だけを変更して,他の大学病院や検査機関に対して『採血管自動準備システム』を販売するための説明資料として用いられたことや,高園産業内においては,仕様書のコピーを行うことが自由に行えたはずである」(審決謄本7頁5(1)の(根拠2))との点について,「藤沢臨床及び福岡臨床に対して採血管自動準備システムの売り込みが行われ,本件仕様書を用いてシステムの説明が行われていたとしても,藤沢臨床及び福岡臨床はシステムの売り込み対象であって不特定の者に対して説明されたものとはいえず,また,本件仕様書を用いての売り込みが,平成2年10月24日(注,本件優先日)よりも前に多数の検査機関あるいは病院に対して行われていたとも云えないので,本件仕様書に記載されたものが公然と知られた状態にあったものとすることはできない」(同8頁最終段落)としたが,誤りである。
アイディエスは,上記の諸々の必要に迫られて,高園産業及びランスのほかにも,審決の指摘する藤沢臨床及び福岡臨床を含む大学病院や検査機関に対し,本件仕様書の表紙の宛先だけを変更して,積極的かつ無制約的に,その内容を説明し頒布していた。高園産業でも,本件仕様書の複写をすることが自由に行われ,本件優先日前に,本件仕様書の「株式会社ランス殿」と表示された宛先だけを変更した複写物を営業活動に使用し,10箇所を超える病院や検査機関に対してこれを頒布したから,上記複写物が高園産業に交付された時点で,本件仕様書の記載内容が公知となったということもできるし,少なくとも,アイディエスや高園産業において,これが秘密として管理されておらず,他の交付先においても同様であったことが明らかである。
藤沢臨床や福岡臨床に対して本件仕様書と同一内容の文書を用いて売り込みを行っていた事実からは,本件仕様書に記載された採血管自動準備システムは,専らランス及び横浜労災病院のためだけに開発されたものではないことが推察される。藤沢臨床や福岡臨床とは販売契約に至らなかったのであるが,売り込みに際し,結果として成約に至らないことを覚悟して,秘密保持契約も締結することなく本件仕様書を用いて採血管自動準備システムの説明をしたという事実は,本件優先日前に,本件仕様書の記載内容が不特定の者に開示され,公知であったことを示している。
(3) 審決は,原告らが同じく出願前公知の根拠として主張した,「採血管自動準備システムを販売するための営業活動は,平成2年以前(昭和63年頃から平成元年にかけて)から行われてきたものであり,本件仕様書自体は平成2年4月以降に使用されたものであるが,そこに記載されている内容については,それ以前から横浜労災病院,岡山県医学センター,島根医大の複数の大病院やその関係者に対して,販売仲介業者である高園産業を通じて,提案されてきたものである」(審決謄本7頁5(1)の(根拠3))との点について,「証人Aの証言によれば,本件仕様書の仕様内容はランス社とのやり取りの中で最終的に定まった旨の証言がなされており,仕様書ができる前に営業活動を行っていた対象の検査システムが,本件仕様書に記載された内容のものであるとは認め難い」(同9頁第2段落),「島根医大に納入されていたものは,『ラベル貼付後の試験管を試験管移送手段で患者別に収納可能な収納部へ自動的に移送する』ものを有しておらず,本件特許の請求項1乃至5に係る発明(注,本件発明1〜5)ではない」(同第3段落)としたが,誤りである。
アイディエスは,採血管自動準備システムを販売するための営業活動は平成2年以前から行ってきており,本件仕様書の記載内容も,本件優先日前から,横浜労災病院のほか,複数の病院や検査機関に対して,積極的かつ流布無制約的に,その内容を説明し公開していたものである。すなわち,アイディエスは,昭和63年ころ,患者情報をしるしたバーコードを試験管に貼付して自動的に搬送処理する全自動検体前処理搬送システムを開発し,平成元年ころ,これを島根医科大学附属病院に納入したが,同システムは,本件仕様書に記載されたものと技術的思想が同一であるか,そうでないとしても,単なる設計変更にすぎず,容易想到であった。
アイディエスは,また,平成元年4月13日開催の第36回臨床検査化カンファレンスにおいて,全自動検体前処理搬送システム開発担当者であるAが「臨床検体検査前処理システム」について発表した際に,採血管自動準備システムに関する情報を広く開示し,同年9月8日〜9日開催の日本臨床検査自動化学会第21回大会においても,同様に上記情報を広く開示し,同年11月ころ,当時の販売代理店であった東芝メディカル株式会社とともに,国立がんセンターに対して,全自動検体前処理搬送システムについての資料を交付し,販売活動を行った。さらに,高園産業は,同年4月,採血管自動準備システムを機能的に内包する「分注・搬送システム」に関心を抱いて製品説明会に出席し,同年10月には倉敷中央病院,広島赤十字病院等を相次いで訪問し,同年12月には株式会社岡山医学検査センターを訪問して,これらに関する説明を行った。同センターとの間では,平成2年1月から3月にかけて説明及び打合せを行い,同年3月末ころ,採血管自動準備システムを機能的に内包する「分注・搬送システム」についてのアイディエスの提案書を完成し,同年4月ころ,これを交付した後,平成3年8月ころ,同製品を納入した。
A証人が,「ランス社とのやりとりの中で最終的に定まった」と述べたのは,異種類の採血管を取り出すところから始まって,最後は患者別に収容して排出するまでの,製品としての基本機能に関するところではなく,単に枝葉末節の設計事項に関する部分にすぎない。すなわち,アイディエスは,横浜労災病院に採血管自動準備システムの売り込みを行う以前から,同システムの基本構造,機能についてはほとんど確立していたが,付加部分についての細かな設計事項に関しては,納入先であるランスや横浜労災病院とのやり取りを通して最終的に決定されたということにすぎず,審決は,その趣旨を誤解したものといわざるを得ない。 2 取消事由2(本件仕様書の刊行物性に関する判断の誤り) 審決は,本件仕様書は,「ランス宛てに配布する目的で作成されたものであるものの,公開を目的として作成された文書ではない」(審決謄本9頁下から第2段落),「そのものが情報として流通されることを目的として作成されたものではない」(同頁最終段落),「表紙だけを代えて配布していたとしても,それが,『採血管自動準備システム』の売り込みに用いられるために作成されたものであり,内容自体が広く第三者に情報として流通されるべき性質,すなわち,情報性を有するものではなく,公開を目的としたものではない」(同10頁第1段落)として,その刊行物性を否定したが,誤りである。
本件仕様書は,ランス宛の仕様書ではあるが,ワープロ印刷により少なくとも3部作成されており,その宛先を変えて他の病院や検査機関に頒布することが予定され,現にそのとおり頒布されたことは,上記のとおりであって,そのものが情報として流通されることを目的として作成されたものにほかならない。
また,新商品や新システムを多方面で広く販売しようと営業している際に,秘密保持契約書も交わさずに交付された様々な説明書面は,正に「内容自体が広く第三者に情報として流通されるべき性質,すなわち,情報性を有するもの」であり,公開を目的としたものにほかならない。アイディエスにとっては,開発資金をいかに早く,いかに多く回収するかが最大限追求されるべきメリットであり,そのためには新製品や新システムの情報を早く,多くに公開していく必要があったから,特許権独占のメリットに配慮して,情報流通性を否定することは,誤りである。
被告らの反論
審決の認定判断は正当であり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本件仕様書の記載内容の出願前公知性に関する認定判断の誤り)について (1) 本件発明1〜5は本件仕様書に記載されているものであるが,本件仕様書は,アイディエスが横浜労災病院という特定の顧客向けに作成した採血管自動準備システムの仕様書であり,アイディエス,高園産業及びランスの3社は,通常の販売者と購入者の関係ではなく,設計,企画,製造及び販売において,共同して上記顧客に対する売り込みを行う関係にあった。新しい装置の企画開発に当たっては,他の業者が参入してくることを防ぐために,その装置の内容については秘密に扱うことが,社会通念上又は商慣習上,求められるものであり,少なくともランス及び高園産業はアイディエスがこれを暗黙のうちに求めた関係にあったから,このように秘密保持義務を負う特定人の間で取り交わされた文書である本件仕様書の記載内容が,本件優先日前に,公然と知られる状態にあったということはできない。
(2) 本件仕様書の記載内容は横浜労災病院に納入設置された装置とは仕様が異なっており,いまだ開発途中の第1号機についてのものであって,広く第三者に対して情報として流通されるべき性質の書面であるとはいえない。採血管自動準備システムについて,アイディエスの営業活動が実際に開始されたのは,横浜労災病院で同システムが稼働し始めた平成3年6月以降のことであり,本件仕様書の宛先を変えた複写物は,その営業の際に用いられたものであって,高園産業が検体前処理システムの販売を行っていた平成2年当時に,本件仕様書の上記複写物が他に頒布されたことは考えられない。
(3) 原告らは,本件優先日前に,本件仕様書の「株式会社ランス殿」と書いてある宛先だけを変えた複写物が他の病院や検査機関に対して採血管自動準備システムを販売するための説明資料として頒布されたと主張するが,特定の顧客名の宛先を除く記載内容が他の顧客にも利用されるものであれば,本来,仕様書そのものに宛先を付す必要はなく,カバーレターなり送付書を用意したり,装置の全体の構成や作用効果等を一目で分かるように記載するのが通常であり,また,装置についての専門的知識を必要とする以上,顧客からの問い合わせ先の電話番号等の記載も不可欠であるから,これらの記載を欠く文書が,顧客開拓のための宣伝広告用の資料として頒布,使用されるはずはない。本件仕様書の上記複写物は,頒布先とされるだれからも写しが証拠として提出されておらず,その頒布の事実に関する原告ら提出の確認書は,そもそも島根医科大学附属病院に平成元年3月に導入された全自動検体前処理搬送システムの1号機に,採血管準備システムと同じ構成を有している「バーコード自動貼付,試験管供給」の装置が存在したという原告らの誤った説明に誤導されたものである。
(4) アイディエスの代表者であるBは,平成2年11月22日に名称を「試験管ラベル自動貼付装置」とする考案の実用新案登録出願(実願平2-122689号)をし,平成5年9月9日に名称を「自動容器供給及びラベル貼付装置」とする発明の米国特許出願(08 118298)をしたが,これらは本件仕様書に開示されている技術的思想に関するものである。同人は,昭和50年から平成9年にかけて日本国内だけで52件もの特許出願及び実用新案登録出願をした経験を有し,自ら公開してしまった発明については特許又は実用新案登録を受けることができないことは熟知していた。そうすると,少なくとも,上記実用新案登録出願の出願日より前,及び上記米国特許出願の出願日より1年前の日である平成4年9月9日より前に,Bはもとより,同人が代表者を務めるアイディエスの従業員であったAが,本件仕様書の記載内容を,何ら秘密保持義務を負わない第三者に公表することは到底考えられない。
2 取消事由2(本件仕様書の刊行物性に関する判断の誤り)について 本件仕様書が頒布により公開することを目的として作成された文書ではなく,その記載内容自体が情報として流通されることを目的として作成された文書でもないことは,上記1のとおりであるから,その刊行物性を否定した審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件仕様書の記載内容の出願前公知性に関する認定判断の誤り)について (1) 本件発明1〜5が本件仕様書に記載されているものであることは当事者間に争いがなく,証拠(甲4,5,6-1〜3,甲7〜9,11,12,14,27,45,46)及び弁論の全趣旨を総合すれば,アイディエスは,昭和59年ころ,患者から採血を行った検体を分析するための前処理を行う「全自動検体前処理システム」を開発し,その後,オンラインによる患者属性情報に基づいて,必要な採血管に自動的にラベルの印字,貼付けを行い,患者別に分類して採血管を準備供給する「採血管自動準備システム」を開発して,その販売活動を始めたこと,横浜労災病院は,平成3年6月の開業予定を控え,「採血管自動準備システム」の導入に関心を示し,同病院の臨床検査業務の委託先であるランスにおいてその契約交渉に当たることとなり,販売仲介業者である高園産業を交えて,アイディエスとの間で交渉を進めたこと,アイディエスは,平成2年4月23日,ランス宛の本件仕様書を作成し,これを高園産業を経てランスに交付したこと,次いで,アイディエスは,同年5月16日に「採血管用オートラベラーシステム」の見積書(甲27)を,同年6月28日に「採血管自動準備システム」の基本通信仕様(甲4)をそれぞれランスに交付して,同年7月12日,ランスから「採血管自動準備システム」の仮注文書(甲5)を受領し,同年9月ころ,製品名を「採血管自動準備システム“AL-500”」と称する自社製品の整備計画機器等説明書(甲6-2)及び他社製品との性能比較表(甲6-3)を同病院に交付し,また,同病院のホストシステムを提供している株式会社日立製作所から,同社のホストコンピュータと採血管自動準備システムとの通信仕様に関する説明書(甲7)を徴したこと,その後,アイディエスは,平成3年2月18日に技術資料(甲9)を,同年4月ころ取扱い説明書(甲11)をそれぞれ同病院に交付し,同年6月1日,採血管自動準備システムとして第1号機となる自社製品を,高園産業及びランスを通じて,同病院に最終的に納入したことが認められる。
(2) 原告らは,本件仕様書に記載されたものが,本件優先日である平成2年10月24日前に,日本国内において公然と知られる状態にあったとはいえないとした審決の認定判断の誤りを主張し,その根拠として,アイディエスとランス及び高園産業との間には秘密保持の取り決めや義務等は一切なく,本件優先日前に,アイディエスは,本件仕様書の表紙の宛先だけを変更して,積極的かつ無制約的に,大学病院や検査機関に対し,採血管自動準備システムを販売するための説明資料として用いて頒布し,高園産業でも,本件仕様書の複写をすることが自由に行われ,本件仕様書の「株式会社ランス殿」と表示された宛先だけを変更した複写物を営業活動に使用し,同様に広く頒布した旨主張するので,検討する。
ア 証拠(甲3-1,甲45)によれば,本件仕様書は,左上部に「株式会社ランス殿」,中央部に「採血管自動準備システムご提案仕様書」「平成2年4月」「株式会社アイディエス」,右下部に「S-20423-b」と表示された表紙1枚と,採血管自動準備システムの概要,構成等を記載した本文6頁,付図3頁及び外形図1頁とから成る文書であり,アイディエスの取締役営業部長であったAが,ワープロ印刷して作成したもの(表紙右下部の「S-20423-b」の表示は作成日である「平成2年4月23日」を表す。)であることが認められる。仕様書は,本来,「複雑な設計を要する注文品の内容や図をしるした書類」(広辞苑第5版)を指す,特定の取引当事者間で授受される性質の文書であり,本件仕様書も,表紙に宛先として「株式会社ランス殿」,文書の表題として「採血管自動準備システムご提案仕様書」と表示してあるとおり,横浜労災病院という特定の顧客に対して,採血管自動準備システムの売り込みを図るため,その概要,構成等の具体的な仕様を,同病院のために契約交渉に当たっていたランスに提案して検討にゆだねるという内容のものであって,見積り及び仮発注の前の段階における,いわば注文を確定させるための提案書であるから,文書の性質,記載様式それ自体からしても,広く第三者に流通することを予定したものであるとはいえない。
原告らは,アイディエス及び高園産業が,本件仕様書の表紙の宛先だけを変更して複写物を大学病院や検査機関に対して頒布したと主張するが,特定の顧客名の宛先を除く記載内容が他の顧客にも利用されることを当初から予定するのであれば,被告らも主張するように,仕様書そのものに宛先を付すことなく,カバーレターや送付書を付すなどし,また,専門的知識を要する医療装置である以上,その全体の構成や作用効果等を一目で分かるように表示したり,顧客からの問い合わせの便宜のために電話番号の記載をするなどの工夫をするのが,取引の通例ではないかと考えられる。現に,アイディエスが,横浜労災病院に対する納品後に作成,頒布した「採血管用ラベル発行貼付装置AL-500」の販売促進用パンフレット(甲10,以下「甲10パンフレット」という。)には,同装置の概要,特長が記載され,同社の社名が住所,電話番号とともに明記されている。そればかりでなく,本件仕様書の本文の内容を子細に見ると,採血管自動準備システムの装置本体の外形寸法が,「約950(W)×580(D)×1300(H)」と表示され,「装置の改良などにより,外形寸法等が変更になる事があります」と注記されており,外形寸法は,本件優先日より後の,本件仕様書の作成交付時から約10か月後に作成された技術資料では,「1000(W)×950(D)×1300(H)」と,納品時の取扱い説明書では,「1259(W)×940(D)×1430(H)mm」と順次変更されている。また,構成部品の中でも一番大きな幅を占めるカセットの数は,本件仕様書では6個であるが,取扱い説明書では5個に減少しており,採血管同時架設数も,本件仕様書では600本であるのに対し,技術資料及び取扱い説明書では500本に減少しており,以上のような仕様の変更に伴い,内部的な機構の設計変更がされたことも十分想定されるところである。さらに,本件仕様書には,具体的な製品名の記載はなく,約5か月後に作成された整備計画機器等説明書に上記のとおり「採血管自動準備システム“AL-500”」という製品名が表示され,これが技術資料及び取扱い説明書に引き継がれ,アイディエス製の採血管自動準備システム第1号機として納品されるに至っている。このように,本件仕様書は,まだ製品名が決まっておらず,装置本体の内部的な機構の設計も確定していない新製品第1号機の初期段階における採血管自動準備システムの概要,構成等の具体的な仕様を,納入先である横浜労災病院の契約交渉担当者であるランスに提案して検討にゆだね,注文を確定するための提案書である。アイディエスは,平成3年の横浜労災病院に対する上記納品後,「採血管用ラベル発行貼付装置AL-500」の販売促進用パンフレット(甲10パンフレット)を作成,頒布して,大々的に販売活動を展開していることからしても,これに先立って本件仕様書が当初から甲10パンフレットと同様の目的で頒布されたものとはにわかに考え難い。
イ アイディエスは,上記のとおり,オンラインによる患者属性情報に基づいて,必要な採血管に自動的にラベルの印字,貼付けを行い,患者別に分類して採血管を準備供給する「採血管自動準備システム」の販売活動を始める一方で,その代表者であるBは,本件優先日より約1か月後の平成2年11月22日,名称を「試験管ラベル自動貼付装置」とする考案について実用新案登録出願(実願平2-122689号,乙1,以下,その考案を「乙1考案」という。)をしており,その実用新案登録請求の範囲には,「各種試験管を共通に収容可能な収容部をマトリクス状に配設してなる供給カセットと,この供給カセットから所要の試験管を押し出す試験管押し出し機構と,この試験管押し出し機構により押し出された試験管を受け取って搬出する機構とを有する試験管供給手段と,上記試験管供給手段により供給される試験管を挟持して回転保持する3本以上のローラからなるローラ機構と,このローラ機構により回転保持される試験管に識別ラベルを自動貼付する機構と,を有するラベル貼付手段と,このラベル貼付手段により貼付された識別ラベルの接着状態および読み取り状態の良否を判別して仕分けを行なうラベル状態判別仕分け手段と,を備えた事を特徴とする試験管ラベル自動貼付装置」が記載されている。これを本件仕様書の記載内容と対比すると,乙1考案に係る構成は,すべて本件仕様書に記載されているが,同考案では,収容カセットの具体的構成が特定されている点及び患者情報に基づく印字であるとの構成を有しない点で相違する。
Bは,また,平成5年9月9日,名称を「自動容器供給及びラベル貼付装置」とする発明について米国特許出願(08 118298,乙2,以下,その発明を「乙2発明」という。)をしており,その特許請求の範囲1には,「予め決められた方法で分類された様々な容器を収容する容器分類収容手段と,所望の容器を容器分類収容手段から取り出し,それを該手段の外にある予め決められた位置に供給するための容器取出/供給手段と,表面に情報が表示されている様々なラベルを準備し,これらのラベルの中から所望の容器に対応する所望のラベルを所定の位置に供給するラベル供給手段と,ラベル供給手段によって所定の位置に所定のラベルが供給されたことを検知するラベル供給検知手段と,ラベル供給検知手段が,所望のラベルが所定の位置に供給されたことを検知した後に,容器取出/供給手段によって所定の位置に供給された所定の容器に所定のラベルを貼付けるラベル貼付け手段と,所望の容器に貼り付けられた所望のラベル上の情報をチェックし,所望のラベルが所望の容器に正確に貼り付けられているか否かを判断するラベル貼付判定手段と,ラベル貼付判定手段の判定結果に従って,所望のラベルが貼り付けられた所望の容器を,ラベルが正確に貼り付けられた容器を収容する一つの場所と,ラベルが正確に貼り付けられていない容器を収容する他の場所とからなる二つの場所のうちの一方の場所に収容する容器収容手段とを備えていることを特徴とする自動容器供給及びラベル貼付装置」が記載されている。これを本件仕様書の記載内容と対比すると,乙2発明に係る構成は,すべて本件仕様書に記載されているが,同発明では,不良貼付の容器を排除する手段を有する点及び患者情報に基づく印字であるとの構成を有しない点で相違する。米国特許法102条(b)は,出願前1年を超えて前の刊行物記載の発明が新規性喪失事由となることを定めているところ,Bは,その特許出願書類中の「宣誓書及び委任状」中において,乙2発明には上記新規性喪失事由が存在せず,平成4年9月9日前にどの国において印刷された刊行物にも記載されていない旨の宣誓供述をしている。
さらに,Bは,米国特許に係る乙2発明のほかに,昭和50年から平成9年にかけて,日本国内だけで,乙1考案を含め,53件もの特許及び実用新案の登録出願をし,そのうち29件について登録されており,本件発明と技術分野を共通にするものとしては,乙1考案のほか,本件優先日(平成2年10月24日)と同一日に出願公開された,名称を「試験管ラベル自動貼付機」とする考案(実願平1-39097号,平成元年3月31日出願,平成8年9月10日設定登録,甲8,以下「甲8考案」という。)があるが,甲8考案は,本件仕様書が多種類の採血管にラベルを自動的に貼付する構成であるのに対し,一種類の試験管にラベルを自動的に貼付する構成を採るものである。
アイディエスの代表者が,以上のように豊富な特許・実用新案の出願経験と実績を有し,現に,本件仕様書の交付と相前後して,その記載内容の構成と同一ではないが技術分野を共通にする出願をしていたことを併せ考えると,アイディエスが,新製品1号機の正式受注前の初期段階における採血管自動準備システムの仕様を記載した本件仕様書の情報について,何ら秘密義務を負わない不特定人に対してこれを不用意に開示することは,にわかに考え難いというべきである。
ウ アイディエスの取締役営業部長であったAは,証明書(甲14,16-4)及び本件審判における証言(甲45)中で,アイディエスとランス及び高園産業との間では,本件仕様書の記載内容について秘密保持の取り決めや義務等は一切なかった旨の記載及び証言をし,さらに,同証言中では,アイディエスは,当時,経済的に大変窮屈であり,採血管自動準備システムを早く売って資金を回収する必要に迫られていたため,本件仕様書の記載内容をわざわざ秘密にすることはせず,「株式会社ランス殿」とある表紙の宛先を変更してワープロ印刷し,これを提案書として積極的に営業活動に用いていたと供述し,具体的に訪問した大学病院のある多くの大学名や病院ないし検査機関名を挙げている。
しかしながら,甲45中においてAが挙示する大学名等は,平成元年ころから同人がアイディエスを退社した平成7年末までの間における訪問先であることが明らかであって,本件優先日である平成2年10月24日よりも前に上記方法により売り込みを行った相手先として具体名を挙げているのは,九州にある藤沢臨床と福岡臨床の2検査機関にとどまるばかりでなく,これらの機関宛の提案書の写しなど客観的な裏付けとなる証拠も何ら提出されていないし,その頒布時期については,同証言によっても,必ずしも明確であるとはいえず,アイディエスが甲10パンフレットの頒布により大々的に販売活動の展開を始めた平成3年以降のことと混同している可能性も否定し難い。もっとも,甲45によれば,アイディエスは,昭和62年1月設立,従業員十五,六人のいわゆる小規模ベンチャー企業であることが認められ,このような企業にあっては,新製品の内容情報の秘密保持よりも,早く新製品を売り込んで開発資金を回収する必要性の方が優先する場合もあり得ることは,一般論として,これを否定することはできないし,アイディエスは,採血管自動準備システム第1号機の開発資金を高園産業からの前渡金によって調達したこと(甲46)からみて,相当の資金需要に迫られていたとも考えられるが,それが新製品に係る技術情報の秘密保持の要請をしのぐほどのものであったことを認めるに足りる的確な証拠はない。また,医療装置の新製品の開発,製品化に当たっては,納入を希望する個々の医療機関との打合せを通じ,その人的・物的な規模や程度,医療分野等に応じて,製品が備えるべき仕様が具体化され,最終的な契約の成立と納品に至るのが通常であると考えられるところ,本件仕様書は,新製品1号機の初期段階における採血管自動準備システムの概要,構成等の具体的な仕様を記載した,注文を確定させるための提案書であって,その後,最終納品時までに,仕様の変更や内部的な機構の設計変更があったものと想定されることは,上記のとおりである。原告らは,アイディエスが,本件仕様書の記載内容を高園産業及びランスに対して積極的に公開し徹底した売り込み戦略を採ったことの根拠として,採血管自動準備システムが人手を介さずに患者ごとに採血管を準備するという誠に画期的なものであり,まだ医療関係者に知られていないため,啓もうする必要があったこと,多くの病院や検査センターに採用してもらうためには,現に採用話が進行している横浜労災病院の例を示す必要があったことなどの点も挙げるが,その主張のような啓もうの必要性があったとしても,他方で,誠に画期的でまだ医療関係者に知られていないような新製品に係る技術情報を,何ら秘密保持義務を負わない不特定人に対して不用意に開示することは,それなりの資本投下をして製品の開発,販売を行う者にとって大きなリスクとなるはずであり,また,本件仕様書の性格やその交付時期等が上記のようなものであってみれば,主張それ自体として合理性に乏しいといわざるを得ない。
そうとすれば,甲14,16-4,甲45の信用性については,なお吟味の余地があるというべきであり,これを直ちに採用することは困難である。
エ 原告らは,上記のとおり,高園産業において,本件仕様書の複写をすることが自由に行われ,本件優先日前に,本件仕様書の表紙の「株式会社ランス殿」と表示されている宛先だけを変更した複写物が営業活動に使用され,10箇所を超える病院や検査機関に対して頒布された旨主張し,高園産業の代表者Cの確認書(甲64),同社東京支店長であったDの本件審判における証言(甲46),同社病専部課長であったEの確認書(甲47),同社病専部広島支店課長であったFの確認書(甲48,56)及び同人の手帳(甲52〜54),大阪市立住吉市民病院臨床検査技師長であったGの確認書(甲55)中には,上記主張に沿う記載及び証言がある。
しかしながら,本件仕様書が,その文書の性質,記載様式それ自体及び内容に照らし,広く第三者に流通することを予定したものであるとはいえないことは,上記アのとおりである。また,本件審判におけるD証言(甲46)によっても,高園産業において本件仕様書の複写をしたか否かについてさえ,あいまいなところがあり,甲48によれば同社病専部に保管されているという本件仕様書の写しを含め,原告らの主張する上記頒布先に対する複写物の写し等が客観的な裏付け証拠として提出されているわけではなく,上記確認書の作成者らにおいて,アイディエスが甲10パンフレットの頒布により大々的に販売活動の展開を始めた平成3年以降のことと混同している可能性も否定し難いところであって,以下のとおり,いずれも採用することができない。
(株式会社岡山医学検査センターについて) 原告らは,高園産業のFが,平成元年4月,採血管自動準備システムを機能的に内包する「分注・搬送システム」の製品説明会に出席し,同センターとの間で平成2年1月から3月にかけて説明及び打合せを行い,同年4月ころ,上記「分注・搬送システム」についてのアイディエスの提案書を交付した後,平成3年8月ころ同製品を納入したと主張し,甲48,52〜54,64を提出する。しかしながら,アイディエス作成名義の平成2年4月付け同センター宛「分注,搬送システム御提案書」(甲64,乙12各添付)による同システムの概要は,「本システムは,バーコードによる検体管理を主眼とし,検体受付から各種分類(エラー搬出等),分注データー報告,及び再検査の為の検体仕分け等までの一連の流れをコンピューターにより管理」(1頁)するというものであって,同記載及び証拠(乙6,8,9,12,14)に照らせば,同センターに納入された製品は採血管自動準備システムの構成を有するものではないことが明らかであり,この間に同システムに関する説明や提案が同センターに対してされたことはないこと,甲64,乙12に各添付されている「採血管用オートラベラー概要書」は上記「分注,搬送システム御提案書」には添付されていなかったことがうかがわれる。また,甲48には,高園産業のFが本件仕様書の複写物を同センターに頒布したとの記載があるが,本件仕様書の本文と上記「分注,搬送システム御提案書」とが,文書の体裁及び内容において全く異なるものであることは明らかである。
(大阪市立住吉市民病院について) 甲55,56には,高園産業のEが本件仕様書の複写物を本件優先日前に同病院に頒布した旨の記載があるが,アイディエスが検体前処理搬送システムの販売の申出をした際に,採血管自動準備システムに係る同複写物を交付したというのであり,その裏付けを欠くばかりでなく,まだ採血管自動準備システムが一般に理解されていなかったと考えられる平成2年当時に,甲10パンフレットではなく,本件仕様書のような資料を顧客に頒布するということも不自然である。
(広島県立病院,倉敷中央病院及び岡山大学医学部附属病院について) 甲48,52〜54には,高園産業のFが本件仕様書の複写物を本件優先日前に上記各病院に頒布した旨の記載があるが,その裏付けを欠くばかりでなく,全自動検体前処理搬送システムに係る売り込みであることがうかがわれる。
(大阪市立十三市民病院,株式会社フジモトバイオメディカルラボラトリーズ,株式会社日本医学臨床検査研究所,株式会社ファルコバイオシステムズ及び株式会社中央微生物研究所について) 甲47には,高園産業のEが本件仕様書の複写物を本件優先日前に上記各病院等に頒布した旨の記載があるが,その裏付けを欠く。
オ 本件発明1〜5が本件仕様書に記載されているものであることは,上記のとおりであるが,本件仕様書に記載された発明について,アイディエスとランス及び高園産業との間において,秘密保持に関する格別の明示的な合意が存在したことを認めるに足りる証拠はない。しかしながら,一般に,発明の実施品である新製品の開発及び製品販売にかかわる製造販売者と販売仲介業者及び需要者側との間においては,秘密保持に関する格別の明示的な合意や明示的な指示又は要求がなくとも,販売仲介業者及び需要者側が当該新技術を第三者に開示しないことが暗黙のうちに求められ,製造販売者もそうすることを期待し信頼して当該新技術を販売仲介業者及び需要者側に開示することは,十分あり得ることであるから,このような場合には,社会通念上又は商慣習上,販売仲介業者及び需要者側は,当該新技術につき製造販売者のために秘密に保つべき関係に立つものというべきである(東京高裁平成11年(行ケ)第368号・同12年12月25日判決参照)。本件仕様書の記載内容に係る新製品第1号機である採血管自動準備システムの開発及び製品販売についてこれをみると,アイディエスは製造販売者であり,かつ,その代表者は豊富な特許・実用新案の出願経験と実績を有し,現に本件仕様書の交付と相前後してその記載内容の構成と同一ではないが技術分野を共通にする出願をしていた者であり,また,高園産業は販売仲介業者であるとともにアイディエスに対する開発資金の協力者であり,ランスは需要者である横浜労災病院の契約交渉担当者であって,これらの3社は相互に密接な協力関係にあったことが明らかである。そうすると,以上の認定及び判断を総合考慮すれば,遅くとも本件優先日前においては,高園産業及びランスは,本件仕様書の記載内容を第三者に開示しないことが暗黙のうちに求められ,アイディエスもそうすることを期待し信頼して本件仕様書を高園産業及びランスに開示したものであって,高園産業及びランスは,アイディエスのために本件仕様書の記載内容について秘密に保つべき関係に立っていたものと認めるのが相当である。
原告らは,文書情報が流通する場合において,それを情報授受の当事者以外の者に開示することは,明示又は黙示の秘密保持契約がない限り,商慣習上,何ら妨げられないはずであり,殊に,当該文書が新製品の仕様に関するものである場合には,新製品を大々的に売り出そうとする開発当事者ないし流通の当事者にとって,文書の内容が広く流通することは,むしろ有利なことであると主張するが,本件の事実関係の下においては,妥当しないものというべきである。また,原告らは,特許製品が納入先に納入されると,通常は,納入時点で秘密保持義務は解除されたものとして取り扱われ,発明は公然と知られ得る状態となるところ,採血管自動準備システムの納入に関する限り,ランスは横浜労災病院と同一視すべき立場にあるから,遅くとも,本件仕様書がランスの手に渡った時点において,その記載内容は公知となったと主張するが,ランスは,需要者である同病院の契約交渉担当者であり,秘密保持の関係において,需要者と同一視することはできないし,同病院に対する最終的な納品が行われたのは本件優先日より後のことであるから,上記主張は採用の限りではない。さらに,原告らは,高園産業では,本件仕様書の複写をすることが自由に行われ,本件優先日前に,本件仕様書の宛先だけを変更した複写物を営業活動に使用し,これを広く頒布したから,上記複写物が高園産業に交付された時点で,本件仕様書の記載内容が公知となったとも主張するが,その前提において失当であることは,上記判示のとおりである。
(3) 原告らは,本件仕様書の記載内容の出願前公知性の根拠として,さらに,アイディエスが,採血管自動準備システムを販売するための営業活動を平成2年以前(昭和63年ころから平成元年にかけて)から行ってきており,本件仕様書の記載内容も,本件優先日前から,横浜労災病院のほか,複数の病院や検査機関に対して,積極的かつ無制約的に,その内容を説明し公開していたと主張する。
ア しかしながら,アイディエス製の採血管自動準備システムとしては,平成3年に横浜労災病院に納入された本件仕様書に係るものが第1号機であり,甲10パンフレットの頒布により大々的に販売活動の展開を始めたのも同年以降であって,少なくとも本件優先日前に本件仕様書の記載内容それ自体を上記取引の関係者以外の病院等に対して説明し公開していたものとはいえないことは,上記判示のとおりである。
イ 原告らは,「島根医大に納入されていたものは,『ラベル貼付後の試験管を試験管移送手段で患者別に収納可能な収納部へ自動的に移送する』ものを有しておらず,本件特許の請求項1乃至5に係る発明(注,本件発明1〜5)ではない」(審決謄本9頁第3段落)とした審決の認定判断は,誤りであり,島根医科大学附属病院に納入した全自動検体前処理搬送システムは,本件仕様書に記載されたものと技術的思想が同一であるか,そうでないとしても容易想到であったと主張するので,更に検討する。
アイディエスは,昭和63年ないし平成元年ころ,自社製品の全自動検体前処理搬送システムを島根医科大学附属病院に納入した(甲10,26,43,45)ところ,同システムの構成について,同病院長であったHの確認書(甲43)には,「患者に関する情報に基づいて,検査項目別に複数種類の試験管を収容した試験管収容部から,試験管移送手段で患者の検査に必要な試験管を自動的に選択してラベル貼付位置に移送すると共に,前記患者に関する情報に基づいて患者情報をラベル印字手段で自動的に印字し,ラベル貼付位置に移送された試験管に前記患者情報等が印字されたラベルをラベル貼付手段で自動的に貼り付け,ラベル貼付後の試験管を試験管移送手段で,検査項目別に全自動検体前処理搬送システムの搬送部に自動的に移送する装置が組み込まれており,採血管自動準備装置に転用,応用することが容易に実現できる」との記載がある。
しかしながら,平成4年9月1日エム・イー振興協会発行「月間新医療データブックシリーズ3『’92臨床検査機器とシステム』」(乙5)によれば,H自ら,「島根医大病院における検体自動化システムと情報システム」中の「図1 生化学自動分析システム」及びその下欄(43頁)の記述において,同病院に納入された上記システムの構成を具体的に説明しており,その中で,「バーコード標識された検体はキャリアヴィークル@にのってベルトライン上を移動する」(同頁左側第1段落),「子検体用試験管には,最初の採血管(親検体とよぶ)に標識したものと同じ内容のバーコードを発行させたJラベルを自動的に貼りつけて,ライン上のキャリアヴイークルに供給する。バーコード内容の一致した親検体と子検体の間で試料授受がEで行われるわけである」(同頁左欄最終段落〜右欄第1段落),「子検体は第2次分注ユニットKに移動する。ここには9種類の分析機用又は用手法用ラックが定置されている。検体毎に指示された項目に対応するサンプルカップ又は試験管に指示された量の分注が行われる」(同頁右欄第2段落),「2次分注ユニットに定置するラックの一部には,ラック用バーコードを作成し,これを標識することとしたので,ラックを移動するときに起こりうる誤りを防止できる」(同欄第3段落),「小分け分注の終了した子検体は収納ラックNに移送される」(同欄最終段落)と記載している。これによれば,同システムは,まず,採血した血液を入れた親検体から決められた子検体に検体を移し(一次分注),子検体試験管に親検体と同じバーコードを自動的に貼り付け,子検体試験管から二次分注ユニットにおいて定置された9種類のサンプルカップや試験管のいずれかに検体を移し替える(二次分注)ものである。すなわち,子検体用試験管にバーコードを自動的に貼り付ける装置は備えているが,このバーコードが貼り付けられた子検体は,親検体から一次分注された後,二次分注ユニットにおいて定置された9種類のサンプルカップや試験管のいずれかに二次分注を行い,最後に,子検体収納部Nに収納されてしまうものであり,この構成からみて,一つの親検体に対して子検体用試験管を複数本用いる必要はなく,子検体の数は親検体1本に対して1本であると考えられる。したがって,同システムは,甲43に記載されているような,「ラベル貼付後の試験管を試験管移送手段で,検査項目別に複数種類の試験管を収容した試験管収容部から,試験管移送手段で患者の検査に必要な試験管を自動的に選択してラベル貼付位置に移送する」との構成は採っておらず,本件発明1に係る採血管自動準備システムの構成中,「ラベル貼付後の試験管を試験管移送手段で,検査項目別に全自動検体前処理搬送システムの搬送部に自動的に移送する装置」を備えていないことは明らかである。甲43は,Hが自ら文面を記載したものではなく,原告らが作成したものに同人が署名押印したものであることが,文書の体裁からうかがわれるところであって,上記装置が組み込まれているとする当該記載部分は,全自動検体前処理搬送システムと採血管自動準備システムとを誤認混同するものというほかはなく,信用することができない。
したがって,「島根医大に納入されていたものは,『ラベル貼付後の試験管を試験管移送手段で患者別に収納可能な収納部へ自動的に移送する』ものを有しておらず,本件特許の請求項1乃至5に係る発明ではない」とした審決の上記認定判断に誤りがあるということはできず,両システムの同一性をいう原告らの主張は失当である。また,原告らが主張する,島根医科大学附属病院に納入した全自動検体前処理搬送システムに基づく容易想到性についても,審決の審理判断していない無効理由に係るものであり,それ自体失当というほかない。
ウ 原告らは,アイディエスが,平成元年4月13日開催の第36回臨床検査化カンファレンスにおいて,全自動検体前処理搬送システム開発担当者であるAが「臨床検体検査前処理システム」について発表した際に,採血管自動準備システムに関する情報を広く開示した,同年11月ころ,当時の販売代理店であった東芝メディカル株式会社とともに,国立がんセンターに対して,全自動検体前処理搬送システムについての資料を交付し,販売活動を行った,とも主張するが,これらの事実を認めるに足りる証拠はない。
また,原告らは,同年9月8日〜9日開催の日本臨床検査自動化学会第21回大会(同年8月1日日本臨床検査自動化学会発行「日本臨床検査自動化学会会誌14巻4号〔甲26〕)においても,採血管自動準備システムに関する情報を広く開示したと主張し,上記H(甲43),鳥取大学医学部附属ステロイド医学研究施設化学部門教授であったI(甲44),国立南福岡病院臨床検査技師であったJ(甲49)及び熊本赤十字病院臨床検査課長であったK(甲50)の各確認書には,上記学会において,アイディエスが甲10パンフレットと内容的には同じような採血管準備装置のパンフレットを頒布した旨の記載がある。しかしながら,そもそも上記各確認書にいう「甲10パンフレットと内容的には同じような採血管自動準備装置のパンフレット」なるものは,本件において,証拠として提出されておらず,これを確認するすべはないのみならず,Hの確認書(甲43)は,同人が自ら文面を記載したものではなく,原告らが作成したものに同人が署名押印したものであることがうかがわれること,内容的にも,全自動検体前処理搬送システムの構成に関する重要な記載部分について,採血管自動準備システムの構成との誤認混同がみられ,信用することができないことは,上記のとおりである。甲44,49,50の各確認書も,各人が自ら文面を記載したものではなく,原告らが作成したものに各人が署名押印したものであることは,文書の体裁からうかがわれるところであり(文書末尾の「添付:甲第10号証と押印のある書類 甲第26号証と押印のある書類」との記載は甲43,44,49,50全部に共通している。),Jの確認書(甲49)については,被告株式会社テクノメディカ代表者Lの報告書(乙7)の記載に照らし,Jが上記学会に出席したことすら疑わせるものである。全自動検体前処理搬送システムの専門家と目されるHにおいても上記のとおり採血管自動準備システムと誤認混同していたことにかんがみると,その余の上記3名も両システムの構成の差異を正確に認識した上で確認書に署名押印したものか疑いを差し挟む余地がある。
そうすると,原告ら提出の上記証拠は採用することができず,他に,原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上によれば,本件仕様書に記載されたものが特許出願前に日本国内において公然と知られる状態にあったとはいえないとして,その出願前公知性を否定した審決の認定判断に誤りがあるということはできないから,原告らの取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(本件仕様書の刊行物性に関する判断の誤り)について 原告らは,本件仕様書が,「ランス宛てに配布する目的で作成されたものであるものの,公開を目的として作成された文書ではない」(審決謄本9頁下から第2段落),「そのものが情報として流通されることを目的として作成されたものではない」(同頁最終段落),「表紙だけを代えて配布していたとしても,それが,『採血管自動準備システム』の売り込みに用いられるために作成されたものであり,内容自体が広く第三者に情報として流通されるべき性質,すなわち,情報性を有するものではなく,公開を目的としたものではない」(同10頁第1段落)として,その刊行物性を否定した審決の判断の誤りを主張する。
しかしながら,特許法29条1項3号(平成11年法律第41号附則2条12項により,同法施行前にした特許出願についての無効の理由についてはなお従前の例によるとされる,同法改正前のもの)にいう刊行物とは,公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体をいう(最高裁昭和55年7月4日第二小法廷判決・民集34巻4号570頁参照)ところ,本件仕様書がこのようなものに当たらないことは,上記1の認定及び判断に照らして明らかである。
原告らは,新商品や新システムを多方面で広く販売しようと営業している際に,秘密保持契約書も交わさずに交付された様々な説明書面は公開を目的としたものであり,アイディエスにとっては,開発資金を早く多く回収するために,新製品や新システムの情報を早く,かつ,多く公開していく必要があったから,特許権独占のメリットに配慮して,本件仕様書の情報流通性を否定すべきではない旨主張するが,本件仕様書の性格や位置付け等に関する上記認定判断と異なる前提に立ち,又は独自の見解に基づいて審決の判断を論難するものにすぎず,採用の限りではない。
したがって,本件仕様書の刊行物性に関する審決の判断に誤りはなく,原告らの取消事由2の主張は理由がない。
3 以上のとおり,原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告らの請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴
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