関連審決 |
訂正2018-390075
無効2021-800067 |
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事件 |
令和
5年
(行ケ)
10055号
審決取消請求事件
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5 原告株式会社東京精密 同訴訟代理人弁護士 服部誠 同 中村閑 10 同柿本祐依 同訴訟代理人弁理士 相田義明 同 山下崇 被告 浜松ホトニクス株式会社 15 同訴訟代理人弁護士 設樂隆一 同 尾関孝彰 同 河合哲志 同 松本直樹 20 同大澤恒夫 同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 同 柴田昌聰 同 小曳満昭 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2024/02/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
25 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 1事 実 及 び 理 由【略語】本判決で用いる略語は、別紙1「略語一覧」のとおりである。なお、本件審決中で使用されている略語は、本判決でもそのまま踏襲している。 5 第1 請求特許庁が無効2021−800067号事件について令和5年4月3日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)10 (1) 被告は、平成14年3月12日に出願された特願2002−67348号に基づく優先権を主張して(この優先権の主張の効力が及ぶ範囲については争いがある。)、平成15年3月11日に国際出願された原出願(特願2003−574373号)の一部を、特許法44条1項の規定により、平成18年3月14日に発明の名称を「レーザ加工装置」とする新たな特許出願と15 し、平成19年7月27日に特許第3990711号(本件特許)の設定登録を受けた(請求項の数2)。 (2) 被告は、平成30年4月24日、本件特許について訂正審判請求をし(訂正2018−390075号) 同年7月3日に訂正を認める審決がなされ、 、 同審決は確定した。 20 (3) 原告は、令和3年8月6日、本件特許(請求項1、2に係るもの)について特許無効審判を請求し、特許庁は、同請求を無効2021−800067号事件として審理を行った。 特許庁は、令和5年4月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は同月14日原告に送達された。 25 なお、本件特許権は、同年3月11日、存続期間満了により消滅している。 (4) 原告は、令和5年5月12日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起2した。 2 本件発明の内容(1) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2を分説すると、以下のとおりである。 5 【請求項1】(本件発明1)A:半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、 B:前記半導体基板が載置される載置台と、 C:レーザ光を出射するレーザ光源と、 10 D:前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズと、 E:前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予15 定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、 F:前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照明と、 G:前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子と、 20 を備え、 H:前記切断予定ラインは、前記半導体基板の内側部分と外縁部との境界付近に始点及び終点が位置する、 I:ことを特徴とするレーザ加工装置。 【請求項2】(本件発明2)25 J:半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、 3K:前記半導体基板が載置される載置台と、 L:レーザ光を出射するレーザ光源と、 M:前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域5 を形成させる集光用レンズと、 N:前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、 O:前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照10 明と、 P:前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子と、 を備え、 Q:前記半導体基板はシリコン基板であり、 15 R:前記制御部は、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御するS:ことを特徴とするレーザ加工装置。 (2) 本件明細書の記載事項及び願書添付図面の抜粋を別紙2に掲げる(なお、 図9は便宜上90度回転させたものである。)。 20 これによれば、本件明細書には、本件発明について次のような開示があることが認められる。 ア 本件発明は、半導体基板を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する(【0001】)。 イ 従来半導体基板を切断するのに用いられた切削加工や加熱溶融加工は、 25 半導体基板上に機能素子を形成した後に行われるため、切断時に発生する熱を原因として機能素子が破壊される等のおそれがあった(【0002】4〜【0004】)。 ウ 本件発明は、半導体基板上に複数の機能素子が形成されていても、機能素子が破壊されることなく半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断するレーザ加工装置を提供することを目的とし、上記(1)の構成を5 採用した。本件発明では、レーザ光の照射により改質領域が半導体基板の内部に形成され、半導体基板の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないため、半導体基板の表面が溶融することはないし、改質領域を起点として比較的小さな力で半導体基板に割れが発生するため、切断予定ラインに沿って高い精度で半導体基板を割って切断することができる(【0005】10 〜【0007】)。 エ 本件発明に係るレーザ加工装置は、半導体基板上に複数の機能素子が形成されていても、機能素子が破壊されるのを防止して、半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にする 【0008】 。 ( )オ 半導体基板を赤外透過照明による赤外線で照明すると共に、撮像データ15 処理部により結像レンズ及び撮像素子の観察面を半導体基板の内部に合わせれば、半導体基板の内部を撮像して半導体基板の内部の撮像データを取得することもでき(【0033】)、半導体基板の内部に形成された切断起点領域を撮像して撮像データを取得し、モニタに表示させることもできる(【0048】)。 20 3 甲1発明について(1) 本件無効審判において、請求人である原告は、無効理由として本件発明の進歩性の欠如を主張し、本件発明について優先権の効果が及ばず、新規性・進歩性は原出願日を基準に判断されるべきであることを前提に、原出願日前に頒布された刊行物である甲1(特開昭53−114347号公報)を主引25 用文献として提出した。 (2) 甲1には、別紙3「甲1の記載事項(抜粋)」のとおりの記載があり、本5件審決は、そこには、下記の甲1発明が記載されていると認定した。 【甲1発明】1a: 半導体ウエハー13の素子15が形成されている面16の反対側の面18に、分割の起点となる溝23、23’を形成する半導体装置の加工5 方法に用いる装置であって、 1b: 素子15が形成された面16を下側にして前記半導体ウエハー13が載置されるXYテーブル17と、 1c: レーザ光線11を放射するレーザ発振器10と、 1d: 前記XYテーブル17に載置された前記半導体ウエハー13の前10 記反対側の面18に、前記レーザ発振器10から放射されたレーザ光線11を集光し、そのレーザ光線11の照射点の位置で前記溝23、23’を形成させる集光レンズ系14と、 1e: 前記溝23、23’を前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18に形成するために、レーザ光線11の照射点を前記半導体ウエハー1315 の前記反対側の面18に位置させた状態で、前記半導体ウエハー13の素子15の間に沿ってレーザ光線11の照射点を移動させるようにXYテーブル17を制御する制御部と、 1f: 前記XYテーブル17に載置された前記半導体ウエハー13を赤外線で照明する構成と、 20 1g: 監視装置としての赤外線イメージ変換装置と、を備える、 1i: 半導体装置の加工方法に用いる装置。 4 本件審決の理由の要旨(1) 無効理由1(甲1に基づく本件発明1の進歩性の欠如)について本件発明1は、本件特許の原出願日前(なお、本件発明1について、国内25 優先権の主張の効果が及ばず、新規性・進歩性の判断基準日が原出願日となることは争いがない。)に頒布された甲1に記載された甲1発明及び甲3の61〜5、甲4記載の技術的事項等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない(詳細は別紙4「本件審決の理由@」を参照)。 (2) 無効理由2(甲1に基づく本件発明2の進歩性の欠如)について本件発明2は、甲1発明、甲3の1〜5記載の技術的事項及び甲4の実施5 例2に係る技術的事項、並びに甲5〜9に基づいて(なお、原告は、本件発明2について国内優先権の主張の効果が及ばない旨主張するのに対し、被告は、少なくとも本件発明2の一部に部分優先の効果が認められる旨主張している。)当業者が容易に発明をすることができたものではない(詳細は別紙5「本件審決の理由A」を参照)。 10 5 取消事由(1) 甲1発明に基づく本件発明1の進歩性の判断の誤り(取消事由1)(2) 甲1発明に基づく本件発明2の進歩性の判断の誤り(取消事由2)第3 当事者の主張1 取消事由1(甲1発明に基づく本件発明1の進歩性の判断の誤り)15 (1) 原告の主張ア 相違点2の認定の誤り(ア) 本件審決は、甲1発明は改質領域を撮像可能な撮像素子(構成G)を備えていない(本件発明1との相違点2)と認定したが、以下のとおり誤りである。 20 (イ) 甲1発明の構成1f「前記XYテーブル(17)に載置された前記半導体ウエハー(13)を赤外線で照明する構成」は、本件発明1の「赤外透過照明」に相当する。 甲1発明の構成1g「監視装置としての赤外線イメージ変換装置」は、 「赤外線で照明する構成」で照明することにより、赤外線で照明された25 半導体ウエハー(13)を監視可能、すなわち、撮像可能な撮像素子であるから、本件発明1の構成1Gの「前記赤外透過照明により赤外線で7照明された前記半導体基板」「を撮像可能な撮像素子」に相当する。 また、赤外線用の撮像素子が、シリコンウエハー等の半導体ウエハーの内部に形成されたクラック(改質領域)を撮像可能であることは周知の技術であるから(甲40、41等)、周知の技術を知る当業者は、甲5 1に接したとき、加工対象であるシリコンウエハー等の半導体ウエハーの「監視装置としての赤外線イメージ変換装置」は、半導体ウエハー内部の「改質領域を撮像可能な撮像素子」であることを当然に理解する。 したがって、相違点2は存在しない。 (ウ) 本件審決は、相違点2を認定した上で、同相違点の存在を本件発明110 の進歩性が肯定されることの理由としているから、本件審決の相違点2の認定の誤りは、審決の結論に影響を及ぼす。 イ 相違点1についての判断の誤り本件審決は、本件発明1と甲1発明の相違点1(切断起点及び集光点が半導体基板の内部であるか否か)につき、甲3の1〜5等に基づく容易想15 到性を否定する判断をしたが、以下のとおり誤りである。 (ア) 原出願日において半導体基板を分割するに際し、半導体基板の内部にレーザ光線の集光点を位置づけてレーザを照射して、半導体基板内部に切断の起点となる改質領域を形成することは、甲3の1〜5、甲48により周知技術であった。 20 また、これらの文献によれば、原出願日におけるレーザ光を用いた加工技術において、半導体ウエハーの表面にレーザ光の集光点をあてて半導体ウエハーを切断する場合、発塵粉体が生じ、その飛散防止のため潤滑洗浄水が必要となってしまうことや、ダイシング傷、チッピングあるいは材料表面での不必要な割れ(クラック)等が生じてしまう課題は、 25 当業者にとって周知の課題であった。甲1発明においても、集光レンズ(14)は加工対象物である半導体ウェハー(13)の表面に面してい8ることから、上記周知の課題が依然として解決されずに残ったままである。 (イ) 基板の表面に亀裂を設けて基板を切断するのと、基板の内部に亀裂を設けて基板を切断するのとでは、後者では前者よりも強めの引張応力が5 必要となる点に違いがあるだけである。 ウエハーの表面自体に溝を形成するのと、内部に改質領域を形成するのとでは、集光点を10μm程度動かすだけの違いがあるにすぎない。 このような割断に関する技術常識に基づけば、当業者は、甲1発明に上記周知技術の発明を適用することにより強く動機付けられる。 10 (ウ) 甲1と、甲3の1〜5は、いずれも、レーザ光を用いて半導体基板を分割する技術を開示し、かつ、歩留まりや生産性を向上されることを目的(課題)としており、技術分野と課題を共通にしている。 (エ) 甲1発明及び前記周知技術の技術分野及び目的の共通性、甲1発明においても解決されていない周知の課題、並びに割断に関する技術常識を15 踏まえれば、当業者は、上記周知の課題を解決するために、甲1発明に上記周知技術を適用して、甲1発明の「切断の起点となる領域」を「半導体基板の内部」に位置する「加工変質部(改質領域)」とすることを自然に想到する。 (オ) 本件審決は、甲1発明に甲3の1〜5記載の技術的事項を適用するこ20 とを想到した場合、赤外線を照射して観察する必要がないから、本件発明1と甲1発明との間には、構成 F の赤外線透過照明に係る構成を本件発明1が有する点が、新たに相違点として生じるとするが、甲1発明に甲3の1〜5に係る周知技術を適用した場合、当業者は、赤外線によって、内部のどこの領域がレーザにより破壊されたかを確認することに動25 機づけられるから、そのような相違点が生じることはない。 ウ 相違点2についての判断の誤り9本件審決は、本件発明1と甲1発明の相違点2(改質領域を撮像可能な撮像素子を備えるか否か)に係る容易想到性を否定する判断をしたが、以下のとおり誤りである。 (ア) ウエハー状の加工対象物を切断する技術の分野において、赤外光(赤5 外線)を半導体ウエハーに照射して、半導体ウエハーを透過した赤外光を測定し、半導体ウエハー内部の状態を撮像素子で観察することは、原出願日前より普通に行われていたことである(甲40〜47)。 (イ) シリコンウエハーの内部に形成された改質領域は、外からは目視できないので、当業者であれば、どうにかして割らずに内部の様子を確認し10 たいと考える。そこで、加工対象物である半導体ウエハー内部に切断の起点となる改質領域を形成することを想到する甲1に接した当業者であれば、改質領域の様子を観察するために、上記周知・公知技術を適用することを直ちに思い付く。 原出願日において半導体基板を分割するに際し、甲46、47では、 15 加工対象物の内部に改質領域を生成させる技術において、加工対象物の内部にどのような形状の改質領域を形成することが効率的であるかが写真をもって明らかにされ、甲48では、シリコンウエハー等の加工対象物の内部にレーザによって改質領域を形成し、加工対象物を割断する技術において、改質領域のZ方向の位置が割断精度に影響を与えることが、 20 明記されている。すなわち、半導体ウエハーの内部に切断の起点となる改質領域を形成するとき、その内部の状態を観察する必要があることは、 原出願日において、技術常識であった。 そこで、加工対象物である半導体ウエハー内部に切断の起点となる改質領域を形成することを想到する甲1に接した当業者は、甲1発明に、 25 技術分野を共通にする甲40〜42号証等に開示された周知・公知技術を適用して、外部から視認し得ない改質領域(欠陥)をシリコンウエハー10を透過する赤外線により観察して、改質領域の形状や高さを確認しようとすることに自然と動機付けられる。 したがって、甲1発明において、レーザ加工時の加工状態を観察するために、上記周知・公知技術を適用して、シリコンウエハーを赤外線で照5 明する赤外透過照明を設け、シリコンウエハーを透過した赤外線が赤外線用の撮像素子121に入射するよう構成することは当業者にとって容易である。そして、内部に改質領域が形成されたシリコンウエハーを透過した赤外線は、シリコンウエハー内部の改質領域の情報を含むから、 赤外線用の撮像素子121はシリコンウエハー内部の改質領域を撮像可10 能である 。 よって、当業者が、甲1発明において相違点2に係る構成に想到することは容易である。 (ウ) 本件審決は、甲1には、基板の厚さ方向における改質領域が存在しないから、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認する必15 要性がなく、甲1に接した当業者が、相違点2に係る構成Gを採用する動機があるとはいえない旨判断する。 これは、本件審決が、本件発明1の構成F、Gに係る技術的意義を、半導体基板を赤外透過照明による赤外線で照明するとともに、改質領域を撮像素子で撮像することで、基板の厚さ方向における改質領域の位置や20 大きさを確認することができ、溶融処理領域の位置や大きさ等を調節することが可能となり、その調節により、基板の表面及び裏面に割れが到達しないように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達するように制御を行うことにあるとすることによる。 しかし、本件明細書には、このような技術的意義は記載されていない25 し、進歩性の有無は、公知技術から本件発明の構成に至るかどうかの問題であり、公知技術から本件発明の技術的意義に至るかどうかの問題で11はない。 (2) 被告の主張ア 相違点2の認定に誤りがあるとの点について本件発明1と甲1発明の間に相違点2に相当する相違点が存在すること5 は、本件特許権及び他の特許権に基づく特許権侵害訴訟の控訴審(知的財産高等裁判所令和3年(ネ)第10101号)の判決(甲23)で認定されていた。そして、同侵害訴訟の判決は、令和5年6月7日付けの上告棄却決定及び上告不受理決定により確定した(乙1)。それにもかかわらず、原告が相違点2が存在しないと主張することは、訴訟上の信義則に反する。 10 また、原告は、甲40、41を根拠に、赤外線用の撮像素子が、シリコンウエハー等の半導体ウエハーの内部に形成されたクラック(改質領域)を撮像可能であることは、周知の技術であるとし、これを知る当業者は、甲1に接したとき、加工対象である同号証のシリコンウエハー等の半導体ウエハーの「監視装置としての赤外線イメージ変換装置」は、半導体ウエハー内15 部の「改質領域を撮像可能な撮像素子」であることを理解する旨主張する。 しかしながら、そもそも甲1には半導体ウエハーの内部に改質領域が形成される旨の記載自体がない。 また、甲40に示される赤外線用の撮像素子が撮像可能とされているのは、銅を拡散してデコレートされた半導体基板内部の結晶欠陥であり、甲20 41に示される赤外線用の撮像素子が撮像可能とされているのも、半導体ウエハーの内部に潜む微小なクラックであって、いずれも半導体ウエハーの内部にレーザ光を照射することで形成される改質領域ではない。 したがって、原告の主張は失当である。 イ 相違点1についての判断に誤りがあるとの点について25 (ア) 発塵に関する課題は、甲1発明では既に解決されている。また、原告のいう「ダイシング傷、チッピングあるいは材料表面での不必要な割れ(ク12ラック)等が生じてしまう」との課題は、甲1では認識されていない。これらのことと、甲1発明が、レーザ光線により溝を形成することを前提とした課題解決手段を採用していることとを考慮すると、甲1発明において溝の形成をしない周知技術(甲3の1〜5、甲48に開示される技5 術)の採用が動機付けられることはない。 (イ) 原告が割断に関する技術常識の根拠とする甲37、38は、同じ長さの亀裂が試験片(基板)の表面に存在する場合と内部に存在する場合について、計算により求めた破壊強度を相互に比較したものにすぎず、甲1発明に前記周知技術を採用する動機付けがあったことを示すものでは10 ない。 (ウ) 甲1発明は、レーザ光で溝を形成する技術に特有の課題を、レーザ光で溝を形成するという構成を維持したままで解決した発明であるのに対し、甲3の1〜5に記載される周知技術は、溝を形成しない技術に関する発明であるから、甲1発明と上記周知技術の技術分野は相違する。 15 また、甲1発明の課題は、レーザ光線によりウエハー材が飛散蒸発することを前提に、その飛散蒸発するウエハー材が各素子の上面に付着することを防止することにあるのに対し、上記周知技術の課題は、加工対象物の表面を加工することなく加工対象物を切断できるようにすることになるから、甲1発明と上記周知技術は課題においても相違する。 20 (エ) 以上のとおりであって、相違点1に関する本件審決の判断に誤りはない。 ウ 相違点2についての判断に誤りがあるとの点について(ア) 甲1発明はそもそもシリコンウエハーの内部に改質領域を形成するものではないから、甲1発明からは、「改質領域が深さ方向(Z軸)に適切25 に形成されているか等、内部の様子を確認したい」という動機は生じ得ない。 13(イ) 甲46、47に開示されているのは、「ガラスウェハの内部に直線偏光のパルスレーザ光を照射してクラックスポットを形成した場合と、円偏光のパルスレーザ光を照射してクラックスポットを形成した場合とで、 クラックスポットの形状や寸法が異なることが、両クラックスポットを5 撮影した写真によって確認された」という程度のことであり、甲48に開示されているのは、改質領域のZ方向の位置が、表面3から遠すぎる場合にも、表面3に近すぎる場合にも、それぞれ問題が生じ得ることであって、いずれも「半導体ウエハーの内部に切断の起点となる改質領域を形成するとき、その内部の状態を観察する必要がある」という事項が10 当業者に知られていたことを何ら示すものではない。 (ウ) 甲1発明は、「加工対象物である半導体ウエハー内部に切断の起点となる改質領域を形成すること」を想到し得る発明ではない。そして、そうである以上、甲1発明には、相違点2に係る本件発明の構成を採用する動機付けは存在しない。 15 その上、甲40〜42等は、前記のとおり、半導体ウエハーの内部の改質領域の状態を検査・観察する技術を開示するものではない。 (エ) 以上のとおりであって、相違点2に関する本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(甲1発明に基づく本件発明2の進歩性の判断の誤り)20 (1) 原告の主張本件発明1の場合と同様の理由により、本件審決による相違点2の認定の誤りは、審決の結論に影響する。 また、本件発明1と同様の理由により、本件審決による相違点1、2についての判断の誤りは、審決の結論に影響する。 25 (2) 被告の主張本件審決による相違点2の認定、相違点1、2についての判断に誤りはな14いから、原告の主張には理由がない。 第4 当裁判所の判断1 取消事由1(甲1発明に基づく本件発明1の進歩性の判断の誤り)について(1) 原告は、甲1発明は改質領域を撮像可能な撮像素子を備えていない(相違5 点2)とした本件審決の認定誤りを主張するので、まずこの点について検討する。 ア 別紙3「甲1の記載事項(抜粋)」によれば、甲1には以下の開示があり、本件審決が認定するとおりの甲1発明を認めることができる。本件発明1と甲1発明の相違点も本件審決が認定するとおりと認める。 10 (ア) 甲1発明は、半導体装置の加工方法に係り、特にレーザ光線を用いて半透明な半導体ウエハーを微細なペレットに分割する加工方法に関する(1頁左下欄下から7〜5行)。 (イ) ウエハーの切断にレーザ光線を用いる場合、ウエハーの素子が形成された表面側から照射する為、レーザ光線により飛散蒸発するウエハ15 ー材が、各素子の上面に付着し、その素子の機能を低下させたり不良品とするなどの欠点がある。 甲1発明は、上記欠点に対処するためのものである(1頁左下欄最終行〜右下欄下から4行)。 (ウ) 甲1発明において、レーザ発振器(10)のレーザ光線(11)の放20 射口側には、そのレーザ光線(11)の放射方向を90°変えるダイクロイツクミラ(12)が配置され、これにより反射されたレーザ光線(11)は、ミラ(12)と半導体ウエハー(13)との間に配置された集光レンズ系(14)により集光される。半導体ウエハー(13)は、 その素子(15)が形成された面(16)を下側にしてXYテーブル(125 7)上に載置される(1頁右下欄最終行〜2頁左上欄11行)。 ダイクロイツクミラ(12)を挟んでレンズ系(14)と対向する位15置には、レンズ(20)が配置され、前記ウエハー(13)の素子(15)を観察する監視装置を構成する(2頁左上欄14〜最終行)。 監視装置で半導体ウエハー(13)の素子(15)の位置を確認しながら、その素子間(15)に対応する反対側の面(18)に溝(23)5 を形成する。すなわち、接眼レンズ(22)からのぞきながら、レンズ(20)を上下動させて、ウエハー(13)の面(16)上に焦点を合わせる(2頁右上欄1〜9行)。 集光レンズ(14)を上下動して、レーザ発振器(10)から放射されたレーザ光線(11)をウエハー(13)の反対側の面(18)上に10 照射し、素子(15)間の位置に対応する反対側の面(18)上に複数条の溝(23)(23)’(23)’を刻設する。そして、ウエハー(13)全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割する(2頁右上欄10行〜左下欄6行)。 (エ) ウエハーが赤外線で透視状態となる場合にも、甲1発明は適用可視15 となる。この場合、ウエハーを赤外線で照射し、操作者とウエハーとの間に監視装置として赤外線イメージ変換装置を設けて観察して行なう(2頁右下欄5〜11行)。 (オ) 甲1発明は、素子上に飛散物、蒸発物が付着することがなく、素子の機能を低下させることがない。また、機械的に溝を形成するものに比し20 て、歩留りが向上する(2頁右下欄下から6〜3行)。 イ 原告は、前記第3の1(1)ア(イ)のとおり、甲1発明の「監視装置としての赤外線イメージ変換装置」は、本件発明1の構成1Gの「前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板」「を撮像可能な撮像素子」に相当し、また、赤外線用の撮像素子が、シリコンウエハー等の半導体ウ25 エハーの内部に形成されたクラック(改質領域)を撮像可能であることは周知の技術であるから(甲40、41等) 当業者は、 、 甲1に接したとき、 16加工対象であるシリコンウエハー等の半導体ウエハーの「監視装置としての赤外線イメージ変換装置」は、半導体ウエハー内部の「改質領域を撮像可能な撮像素子」であることを理解するから、相違点2は存在しない旨主張する。 5 しかし、甲1発明における赤外線イメージ変換装置は、半導体ウエハー(13)の表面の素子(15)の位置を確認しながら、その素子間(15)の位置に対応する反対側のウエハーの面(18)上に溝(23)を形成するためのものであり、内部の撮像を想定したものではない。また、甲1には、半導体ウエハーの内部に改質領域を形成させること自体の記載がない。 10 なお、甲40には、半導体基板内部の結晶欠陥を銅を拡散してデコレートし、これを観察することが記載され、甲41には、半導体ウエハーの内部の不均一性や欠陥の検査を行うことが記載されているにすぎない。 したがって、本件発明1と甲1発明の間に相違点2が存在するとした本件審決の判断に誤りはない。 15 (2) 次に、相違点1(切断起点及び集光点が半導体基板の内部であるか否か)に係る容易想到性の判断について検討する。 ア 甲1発明は、従来は、レーザ光線をウエハーの素子が形成された表面側から照射するため、レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材が、各素子の上面に付着することによる問題点があったことから、素子が形成された20 面を下側にして半導体ウエハーを載置して、半導体ウエハーの素子が形成された面の反対側の面の表面に、レーザ発振器から放射されたレーザ光線を集光し、そのレーザ光線の照射点の位置で溝を形成させる構成として、 レーザ光線による飛散、蒸発物が素子の表面に付着することがなく、しかも歩留りが向上するものである(甲1の1頁右下欄14〜17行)。 25 一方、甲3の1〜5記載の技術的事項は、いずれもレーザ光線を照射することにより、加工対象物の内部に改質領域を形成する技術である。 17したがって、甲1発明と、甲3の1〜5記載の技術的事項は、レーザ光を対象物に照射して加工するという点で共通するにすぎず、加工の位置も、 切断の起点も異なるから、後者を前者に適用する動機付けがあるとはいえない。 5 イ 原告は、前記第3の1(1)イ(イ)のとおり、基板を切断する際に、基板の表面に亀裂を設けるのと、基板の内部に亀裂を設けるのとでは、後者では前者よりも強めの引張応力が必要となる点に違いがあるだけであり、ウエハーの表面自体に溝を形成するのと、内部に改質領域を形成するのとでは、 集光点を10μm程度動かすだけの違いがあるにすぎない旨主張するが、 10 割断一般についてそのような技術常識があったからといって、具体的に加工をする場面において、加工対象物の表面に溝を形成することと、内部に改質領域を形成することは技術として質的に異なることが否定されるものではない。したがって、甲1発明と、甲3の1〜5記載の技術事項が、 技術分野と課題を共通にする(前記第3の1(1)イ(ウ))ということもでき15 ない。 (3) 進んで、相違点2(改質領域を撮像可能な撮像素子を備えるか否か)に係る容易想到性の判断について検討する。 ア 甲1発明は、前記1(1)アのとおり、素子が形成された面を下側にして半導体ウエハーを載置して、半導体の表面に溝を形成する技術であり、赤20 外線は、半導体ウエハー上に形成されている半導体素子の間に溝を形成するために、半導体素子の「位置を確認するため」に照射されるものである。 そうすると、甲1発明には、半導体ウエハー内部の改質領域は存在しないのであって、存在しない改質領域を撮像するように構成すること、すなわち、相違点2に係る本件発明1の構成を採用する動機付けは存在しない25 というよりほかはない。なお、甲1発明では、加工箇所である溝の状態を観察することについても記載がない。 18付言するに、本件審決は、上記動機付けを否定する理由として、相違点1に係る本件発明1の構成F及びGの技術的意義が、「基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認し、溶融処理領域の位置や大きさ等を調節することが可能となり、その調節により、基板の表面及び裏面に割5 れが到達しないように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達するように制御を行うこと」であることを挙げるが、そのような技術的意義を示唆する記載は本件明細書にはなく、その点において本件審決の判断は相当でない。しかし、甲1には、半導体ウエハー内部の改質領域の存在自体について記載されていないことは上記のとおりであるから、本10 件審決の上記技術的意義の認定の誤りは、本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。 イ 原告は、前記第3の1(1)ウ(ア)(イ)のとおり、ウエハー状の加工対象物を切断する技術の分野において、赤外光(赤外線)を半導体ウエハーに照射して、半導体ウエハー内部の状態を撮像素子で観察することは周知ない15 し公知技術であったから、加工対象物である半導体ウエハー内部に切断の起点となる改質領域を形成することを想到する甲1に接した当業者であれば、改質領域の様子を観察するために、上記周知・公知技術を適用することを直ちに思い付く旨主張する。 しかし、甲1は、半導体ウエハーの表面に溝を形成する技術であって、 20 内部に切断の起点となる改質領域を形成することについては記載も示唆もないことは前記(1)に説示したところから明らかであり、原告の主張は前提を欠くものである。 (4) 以上のとおりであって、当業者が、原出願日において、相違点1、2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとはいえない。そうする25 と、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由19がない。 2 取消事由2(甲1発明に基づく本件発明2の進歩性の判断の誤り)について(1) 原告は、本件審決における相違点2の認定及び相違点1、2についての判断に誤りがある旨主張するが、相違点2の認定に誤りはなく、また、当業者5 が、原出願日において、相違点1、2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとはいえないことは、前記1のとおりである。 (2) したがって、本件発明2の全部又は一部について優先権主張の効果が及ばないとしても、本件発明2は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく、取消事10 由2は理由がない。 3 結論以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決について取り消されるべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 15 知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官宮 坂 昌 利20 裁判官本 吉 弘 行裁判官岩 井 直 幸2520別紙1 略語一覧(略語) (意味)・原出願日:原出願(特願2003−574373号)の実際の出願日である平成5 15年3月11日・本件特許:被告を特許権者とする特許第3990711号・本件発明:本件特許の請求項1、2に係る発明の総称個別には、請求項の番号に対応して、「本件発明1」「本件発明2」という。 ・本件明細書:本件特許に係る明細書10 ・甲1発明:甲1(特開昭53−114347号公報)記載の発明21別紙2 本件明細書の記載事項(抜粋)【技術分野】【0001】本発明は、半導体基板を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工装置5 及びレーザ加工方法に関する。 【背景技術】【0002】半導体デバイスの製造工程においては、シリコンウェハ等の半導体基板上に複数の機能素子を形成した後に、ダイヤモンドブレードにより半導体基板を機能素子毎10 に切断し(切削加工)、半導体チップを得るのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。 【0003】また、上記ダイヤモンドブレードによる切断に代えて、半導体基板に対して吸収性を有するレーザ光を半導体基板に照射し、加熱溶融により半導体基板を切断する15 こともある(加熱溶融加工)(例えば、特許文献2参照)。 【特許文献1】 特開2001−7054号公報【特許文献2】 特開平10−163780号公報【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】20 【0004】しかしながら、上述した切削加工や加熱溶融加工による半導体基板の切断は、半導体基板上に機能素子を形成した後に行われるため、例えば切断時に発生する熱を原因として機能素子が破壊されるおそれがある。 【0005】25 そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、機能素子が破壊されるのを防止22して、半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にするレーザ加工装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】【0006】5 上記目的を達成するために、本発明に係るレーザ加工装置は、半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、半導体基板が載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、載置台に載置された半導体基板の内部に、レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で改質領域を形成させる集光用レンズと、改質領域を半導体基板の内部10 に形成するために、レーザ光の集光点を半導体基板の内部に位置させた状態で、半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、載置台に載置された半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照明と、赤外透過照明により赤外線で照明された半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子と、 を備えることを特徴とする。 15 【0007】これらのレーザ加工装置によれば、レーザ光の照射により改質領域が半導体基板の内部に形成されるが、このようなレーザ光の照射においては、半導体基板の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないため、半導体基板の表面が溶融することはない。したがって、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、 20 機能素子が破壊されるのを防止することが可能となる。さらに、これらのレーザ加工装置及びレーザ加工方法よれば、改質領域が半導体基板の内部に形成される。半導体基板の内部に改質領域が形成されると、改質領域を起点として比較的小さな力で半導体基板に割れが発生するため、切断予定ラインに沿って高い精度で半導体基板を割って切断することができる。したがって、半導体基板を切断予定ラインに沿25 って精度良く切断することが可能となる。 【発明の効果】23【0008】本発明に係るレーザ加工装置は、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、機能素子が破壊されるのを防止して、半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にする。 5 【発明を実施するための最良の形態】【0012】図1及び図2に示すように、半導体基板1の表面3には、半導体基板1を切断すべき所望の切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である(半導体基板1に実際に線を引いて切断予定ライン5としてもよい) 本実施形。 10 態に係るレーザ加工は、多光子吸収が生じる条件で半導体基板1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを半導体基板1に照射して改質領域7を形成する。なお、集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。 【0013】レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的15 に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3〜図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って半導体基板1の内部にのみ形成され、この改質領域7でもって切断起点領域(切断予定部)9が形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は、半導体基板1がレーザ光Lを吸収することにより半導体基板1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。 20 半導体基板1にレーザ光Lを透過させ半導体基板1の内部に多光子吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって、半導体基板1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので、半導体基板1の表面3が溶融することはない。 【0014】半導体基板1の切断において、切断する箇所に起点があると半導体基板1はその25 起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で半導体基板1を切断することができる。よって、半導体基板1の表面3に不必要な割れを発生させることな24く半導体基板1の切断が可能となる。 【0027】上述したレーザ加工方法に使用されるレーザ加工装置について、図9を参照して説明する。図9はレーザ加工装置100の概略構成図である。 5 【0028】レーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー110 03で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される半導体基板1が載置される載置台107と、 載置台107を回転させるためのθステージ108と、載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向15 に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら4つのステージ108、109、111、113の移動を制御するステージ制御部115とを備える。 【0029】載置台107は、半導体基板1を赤外線で照明するために赤外線を発生する赤外20 透過照明116と、半導体基板1が赤外透過照明116による赤外線で照明されるよう、半導体基板1を赤外透過照明116上に支持する支持部107aとを有している。 【0033】レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラ25 ー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCDカメラがある。切25断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。なお、半導体基板1を赤外透過照明116による赤外線で照明すると共に、後述する撮像データ処理5 部125により結像レンズ123及び撮像素子121の観察面を半導体基板1の内部に合わせれば、半導体基板1の内部を撮像して半導体基板1の内部の撮像データを取得することもできる。 【0037】[半導体基板の実施例1]10 ・・・【0047】続いて、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを半導体基板1に照射する。レーザ光Lの集光点Pは半導体基板1の内部に位置しているので、 溶融処理領域は半導体基板1の内部にのみ形成される。そして、X軸ステージ1015 9やY軸ステージ111により半導体基板1を移動させて、半導体基板1の内部に、 OF15に平行な方向に延びる切断起点領域9a及びOF15に垂直な方向に延びる切断起点領域9bのそれぞれを、基準原点から所定の間隔毎に複数形成し(S119)、実施例1に係る半導体基板1が製造される。 【0048】20 なお、半導体基板1を赤外透過照明116による赤外線で照明すると共に、撮像データ処理部125により結像レンズ123及び撮像素子121の観察面を半導体基板1の内部に合わせれば、半導体基板1の内部に形成された切断起点領域9a及び切断起点領域9bを撮像して撮像データを取得し、モニタ129に表示させることもできる。 25 【0053】[半導体基板の実施例2]26・・・【0057】次に、実施例2に係る半導体基板1の製造方法について説明する。図17に示すように、半導体基板1の内側部分32と同等の形状を有する開口部35が形成され5 たマスク36を用意する。そして、内側部分32が開口部35から露出するように半導体基板1にマスク36を重ねる。これにより、半導体基板1の外縁部31がマスク36で覆われることになる。 【0058】この状態で、例えば上述のレーザ加工装置100を用いて、半導体基板1の内部10 に集光点を合わせてレーザ光を照射し、半導体基板1の内部に多光子吸収による溶融処理領域を形成することで、半導体基板1のレーザ光入射面(すなわち、マスク36の開口部35から露出する半導体基板1の表面)から所定距離内側に切断起点領域9a、9bを形成する。 【0059】15 このとき、レーザ光の走査ラインとなる切断予定ライン5を、OF15を基準として格子状に設定するが、各切断予定ライン5の始点5a及び終点5bをマスク36上に位置させれば、半導体基板1の内側部分32に対して確実に且つ同等の条件でレーザ光が照射されることになる。これにより、内側部分32の内部に形成される溶融処理領域をいずれの場所でもほぼ同等の形成状態とすることができ、精密な20 切断起点領域9a、9bを形成することが可能になる。 【0060】なお、マスク36を用いずに、半導体基板1の内側部分32と外縁部31との境界付近に各切断予定ライン5の始点5a及び終点5bを位置させて、各切断予定ライン5に沿ってレーザ光の照射を行うことにより、内側部分32の内部に切断起点25 領域9a、9bを形成することも可能である。 【0061】27以上説明したように、実施例2に係る半導体基板1によれば、実施例1に係る半導体基板1と同様の理由により、半導体デバイスの製造工程において、半導体基板1の表面に機能素子を形成することができ、且つ機能素子形成後における半導体基板1の切断による機能素子の破壊を防止することができる。 5 【0062】しかも、半導体基板1の内側部分32の内部に切断起点領域9a、9bが形成され、外縁部31には切断起点領域9a、9bが形成されていないことから、半導体基板1全体としての機械的強度が向上することになる。したがって、半導体基板1の搬送工程や機能素子形成のための加熱工程等において、半導体基板1が不測の下に10 切断されてしまうという事態を防止することができる。 【図1】 【図2】【図3】 【図4】1528【図5】 【図6】【図9】5【図17】29別紙3 甲1の記載事項(抜粋)本発明は、半導体装置の加工方法に係り、特にレーザ光線を用いて半透明な半導体ウエハーを微細なペレットに分割する加工方法に関する。(1頁左下欄下から7〜5行)5 しかし、機械的手段によると歩留りが悪い為、最近レーザ光線を用いて溝を形成することが行なわれている。すなわち、レーザ発振器を用い、この発振器からのレーザ光線を集光レンズなどからなる光学系で、ウエハー上に集光させて照射する。そして、この光学系あるいはウエハーを平面的に動かして素子間に複数条の溝を形成している。そして、従来同様に圧力を加えて微細なペレットを得ている。 10 しかしながら、レーザ光線をウエハーの素子が形成された表面側から照射する為、 レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材が、各素子の上面に付着し、その素子の機能を低下させたり不良品とするなどの欠点がある。 本発明は、上記欠点に対処してなされたもので、レーザ光線による飛散、蒸発物が素子の表面に付着することがなく、しかも歩留りが向上する半導体装置の加工方法15 を得るにある。(1頁左下欄最終行〜右下欄下から4行)第1図において、レーザ発振器(10)のレーザ光線(11)の放射口側には、そのレーザ光線(11)の放射方向を90°変えるダイクロイツクミラ(12)が配置されている。このミラ(12)により反射されたレーザ光線(11)は、実線で示すように前記ミラ(12)と半導体ウエハー(13)との間に配置された集光レンズ系20 (14)により集光される。このレンズ系(14)は、図示しない駆動機構により上下動するように構成されている。また、この半導体ウエハー(13)は、サフアイアのような可視光でかなり透明な物質で構成され、その素子(15)が形成された面(16)を下側にしてXYテーブル(17)上に載置されている。(1頁右下欄最終行〜2頁左上欄11行)25 また、前記ダイクロイツクミラ(12)を挟んで前記レンズ系(14)と対向する位置には、レンズ(20)が配置されている。このレンズ(20)は、前記ウエハー30(13)の素子(15)を観察する監視装置を構成するもので、前記レーザ光線(11)の光軸に同軸上に配置されている。また、このレンズ(20)の前記ミラ(12)と反対側には、結像板(21)及び接眼レンズ(22)が順に配置されている。(2頁左上欄14〜最終行)5 このように構成し、前記監視装置で前記半導体ウエハー(13)の素子(15)の位置を確認しながら、その素子間(15)に対応する反対側の面(18) (23)に溝を形成する。すなわち、接眼レンズ(22)からのぞきながら、前記レンズ(20)を上下動させて、前記ウエハー(13)の面(16)上に焦点を合わせる。そして、 XYテーブル(17)を左右に動かし、所望位置すなわち各素子(15)間にその焦10 点位置が合ったときに、XYテーブル(17)の動きを停止させる。(2頁右上欄1〜9行)そして、前記レーザ発振器(10)を駆動して、レーザ光線(11)を放射する。 このとき、レーザ光線(11)は、ウエハー(13)に溝(23)が形成される以前に、その熱などで素子(15)が破壊しない程度のエネルギー強度に選定する。この15 場合、レーザ光線(11)は、従来と異なり反対側の面(18)に照射するので、従来に比して大きなエネルギ強度を選定することができる。そして集光レンズ(14)を上下動して、このレーザ光線(11)を前記ウエハー(13)の反対側の面(18)上に照射する。このレーザ光線(11)の光軸と前記監視装置の光軸とは、同軸上に形成されているので、前記素子(15)間の位置に対応する反対側の面(18)上に20 溝(23)を形成することができる。このようにして、監視しながらレーザ光線(11)を照射し、前記XYテーブル(17)を左右に動かして、ウエハー(13)の反対側の面(18)上に複数条の溝(23)(23)’(23)’を刻設する。そして、 ウエハー(13)全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割する。(2頁右上欄10行〜左下欄6行)25 なお、前記実施例では、ウエハー材として、可視光で透視状態となるサファイアなどで形成されたウエハー(13)を加工する場合について説明したが、ウエハーが赤31外線で透視状態となる場合にも、本発明は適用可視となる。この場合、ウエハーを赤外線で照射し、操作者とウエハーとの間に監視装置として赤外線イメージ変換装置を設けて観察して行なう。(2頁右下欄5〜11行)本発明は、素子上に飛散物、蒸発物が付着することがなく、素子の機能を低下させ5 ることがない。また、機械的に溝を形成するものに比して、歩留りが向上するなどの効果を奏する。(2頁右下欄下から6〜3行)1032別紙4 本件審決の理由@1 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点(1) 一致点半導体基板に、切断の起点となる切断起点を形成するレーザ加工装置であ5 って、 前記半導体基板が載置される載置台と、 レーザ光を出射するレーザ光源と、 前記載置台に載置された前記半導体基板に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記切断起点を形成さ10 せる集光用レンズと、 前記切断起点を前記半導体基板に形成するために、レーザ光の集光点を前記半導体基板に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、 前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照15 明と、 半導体基板を透過した赤外線を観察可能な素子と、 を備えた、 レーザ加工装置。 (2) 相違点20 <相違点1>本件発明1は、切断起点が「半導体基板の内部」に形成された「改質領域」(構成A)であり、集光点の位置が「半導体基板の内部」(構成D及びE)であるのに対して、甲1発明は、切断起点が「半導体ウエハー13の反対側の面18」に形成された「溝23、23’」であり、集光点の位置が「前記25 ウエハー13の素子15が形成されている面16の反対側の面18」である点。 33<相違点2>半導体基板を透過した赤外線を観察可能な素子が、本件発明1は、「前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子」(構成G)であるのに対して、甲1発明は、「監5 視装置としての赤外線イメージ変換装置」である点。 <相違点3>本件発明1は、「前記切断予定ラインは、前記半導体基板の内側部分と外縁部との境界付近に始点及び終点が位置する」(構成H)のに対して、甲1発明は、切断予定ラインに相当する「半導体ウエハー13の素子15の間」10 の始点や終点がどの位置なのか不明な点。 2 相違点の容易想到性についての判断理由の要旨(1) 相違点1についてア 甲1の記載に接した当業者は、甲1発明について、半導体ウエハーに溝15 を加工することを前提として、レーザ光線で生じた飛散、蒸発物が、素子の表面に付着することを抑制するものと理解するから、レーザ光線で飛散、 蒸発物が生じること、すなわち、レーザ光線で溝を形成することは、必須の事項と理解する。 イ 甲3の1〜5は、レーザ光線で加工対象物の内部に改質領域を形成する20 技術(溝を形成しない技術)であるから、甲1発明とは技術的思想が異なり、当業者が甲1発明に甲3の1〜5記載の技術的事項を適用する動機があるとはいえない。 仮に、当業者が、甲1発明に甲3の1〜5記載の技術的事項を適用することを想到したとしても、レーザ光線で飛散物や蒸発物が生じることがな25 く、素子の上面を飛散物や蒸着物から保護する必要がないから、甲1発明の素子が形成された面16が上側となるようにXYテーブルに載置して、 34可視光線で素子の位置を観察して、素子間に改質領域や加工変質部を形成するのが自然であり、この場合においては、赤外線を照射して観察する必要がないから、本件発明1と甲1発明との間には、構成Fの赤外線透過照明に係る構成を本件発明1が有する点が、新たに相違点として生じる。 5 したがって、当業者が甲1発明に甲3の1〜5記載の技術的事項を適用する動機があるとはいえないし、仮に、当業者が、甲1発明に甲3の1〜5記載の技術的事項を適用することを想到したとしても、新たに構成Fに係る相違点が生じ、当該相違点は容易に想到し得ないから、相違点1は、甲1発明、甲3の1〜5記載の技術的事項及び甲4〜甲7に基づいて、当業者10 が容易に想到できた事項とはいえない。 ウ 甲4の実施例2に係る技術的事項は、「半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する製造方法において、溝部203における基板201の内部にYAGレーザーを照射して加工変質部を形成すること。 であり、 」 YAGレーザーの照射で溝を形成するものではないから、レーザ光線で溝を形15 成することを必須の事項とする甲1発明とは技術的思想が異なり、当業者が甲1発明に甲4の実施例2に係る技術的事項を適用する動機があるとはいえず、相違点1は、甲1発明及び甲4の実施例2に係る技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できた事項とはいえない。 (2) 相違点2について20 相違点2に係る本件発明1の構成Gの技術的意義は、改質領域を撮像素子で撮像することで、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認することができ、溶融処理領域の位置や大きさ等を調節することが可能となり、その調節により、基板の表面及び裏面に割れが到達しないように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達するように制御を行うこ25 とができる、というものである。 35甲1には、基板の厚さ方向における改質領域が存在しないから、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認する必要性がなく、甲1に接した当業者が、相違点2に係る構成Gを採用する動機があるとはいえない。 甲3の1〜5及び甲4の実施例2、甲5〜7には、改質領域を撮像するこ5 とや、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認することについて、全く記載されていない。 したがって、相違点2は、甲1発明、甲3の1〜5記載の技術的事項、甲4の実施例2に係る技術的事項及び甲5〜7に基づいて、当業者が容易に想到できた事項とはいえない。 1036別紙5 本件審決の理由A1 本件発明2と甲1発明の相違点本件発明2と甲1発明の相違点1、2のほか、次の相違点4において相違する。 5 <相違点4>半導体材料の基板が、本件発明2は「シリコン基板」である(構成Q)のに対して、甲1発明は「半導体ウエハー13」である点。 2 相違点の容易想到性についての判断理由の要旨相違点1及び2は、相違点1に関する本件審決の理由@2のとおり、甲1発10 明、甲3の1〜5記載の技術的事項及び甲4の実施例2に係る技術的事項、並びに甲5〜7に基づいて、本件特許に係る出願の原出願日当時の当業者が容易に想到できたものとはいえないし、相違点1及び2に係る技術的事項は、甲8、 9にも記載がないから、本件発明2は、仮に、本件発明2の全部又は一部について優先権の効果が及ばないとしても、甲1発明、甲3の1〜5記載の技術的事15 項又は甲4の実施例2に係る技術的事項、並びに甲5〜9に基づいて本件特許に係る出願の原出願日当時の当業者が容易に発明できたものとはいえない。 37 |
事実及び理由 | |
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全容
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