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関連審決 訂正2018-390075 無効2021-800045
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事件 令和 5年 (行ケ) 10039号 審決取消請求事件
5
原告株式会社東京精密
同訴訟代理人弁護士 服部誠
同 中村閑 10 同柿本祐依
同訴訟代理人弁理士 相田義明
同 山下崇
被告 浜松ホトニクス株式会社 15
同訴訟代理人弁護士 設樂隆一
同 尾関孝彰
同 河合哲志
同 松本直樹 20 同大澤恒夫
同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹
同 柴田昌聰
同 小曳満昭
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2024/02/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 25 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1事 実 及 び 理 由【略語】本判決で用いる略語は、別紙1「略語一覧」のとおりである。なお、本件審決中で使用されている略語は、本判決でもそのまま踏襲している。
5 第1 請求特許庁が無効2021−800045号事件について令和5年3月10日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)10 (1) 被告は、平成14年3月12日に出願された特願2002−67348号に基づく優先権を主張して(この優先権の主張の効力が及ぶ範囲については争いがある。)、平成15年3月11日に国際出願された原出願(特願2003−574373号)の一部を、特許法44条1項の規定により、平成18年3月14日に発明の名称を「レーザ加工装置」とする新たな特許出願と15 し、平成19年7月27日に特許第3990711号(本件特許)の設定登録を受けた(請求項の数2)。
(2) 被告は、平成30年4月24日、本件特許について訂正審判請求をし(訂正2018−390075号) 同年7月3日に訂正を認める審決がなされ、

同審決は確定した。
20 (3) 原告は、令和3年5月25日、本件特許(請求項1、2に係るもの)について特許無効審判を請求し、特許庁は、同請求を無効2021−800045号事件として審理を行った。
特許庁は、令和5年3月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は同月22日原告に送達された。
25 なお、本件特許権は、同月11日、存続期間満了により消滅している。
(4) 原告は、令和5年4月20日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起2した。
2 本件発明の内容(1) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2を分説すると、以下のとおりである。
5 【請求項1】(本件発明1)A:半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
B:前記半導体基板が載置される載置台と、
C:レーザ光を出射するレーザ光源と、
10 D:前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズと、
E:前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予15 定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、
F:前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照明と、
G:前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子と、
20 を備え、
H:前記切断予定ラインは、前記半導体基板の内側部分と外縁部との境界付近に始点及び終点が位置する、
I:ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】(本件発明2)25 J:半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
3K:前記半導体基板が載置される載置台と、
L:レーザ光を出射するレーザ光源と、
M:前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域5 を形成させる集光用レンズと、
N:前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、
O:前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照10 明と、
P:前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子と、
を備え、
Q:前記半導体基板はシリコン基板であり、
15 R:前記制御部は、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御するS:ことを特徴とするレーザ加工装置。
(2) 本件明細書の記載事項及び願書添付図面の抜粋を別紙2に掲げる(なお、
図9は、便宜上90度回転させたものである。)。
20 これによれば、本件明細書には、本件発明について次のような開示があることが認められる。
ア 本件発明は、半導体基板を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する(【0001】)。
イ 従来半導体基板を切断するのに用いられた切削加工や加熱溶融加工は、
25 半導体基板上に機能素子を形成した後に行われるため、切断時に発生する熱を原因として機能素子が破壊される等のおそれがあった(【0002】4〜【0004】)。
ウ 本件発明は、半導体基板上に複数の機能素子が形成されていても、機能素子が破壊されることなく半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断するレーザ加工装置を提供することを目的とし、上記(1)の構成を5 採用した。本件発明では、レーザ光の照射により改質領域が半導体基板の内部に形成され、半導体基板の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないため、半導体基板の表面が溶融することはないし、改質領域を起点として比較的小さな力で半導体基板に割れが発生するため、切断予定ラインに沿って高い精度で半導体基板を割って切断することができる(【0005】10 〜【0007】)。
エ 本件発明に係るレーザ加工装置は、半導体基板上に複数の機能素子が形成されていても、機能素子が破壊されるのを防止して、半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にする 【0008】 。
( )オ 半導体基板を赤外透過照明による赤外線で照明すると共に、撮像データ15 処理部により結像レンズ及び撮像素子の観察面を半導体基板の内部に合わせれば、半導体基板の内部を撮像して半導体基板の内部の撮像データを取得することもでき(【0033】)、半導体基板の内部に形成された切断起点領域を撮像して撮像データを取得し、モニタに表示させることもできる(【0048】)。
20 3 甲1発明について(1) 本件無効審判において、請求人である原告は、無効理由として本件発明の進歩性の欠如を主張し、原出願について優先権の効果が及ばず、新規性進歩性原出願日を基準に判断されるべきであることを前提に、原出願日前に頒布された刊行物である甲1(特開2002−192370号公報)を主引25 用文献として提出した。
(2) 甲1には、別紙3「甲1の記載事項(抜粋)」のとおりの記載があり、本5件審決は、そこには、下記の甲1発明が記載されていると認定した。
【甲1発明】1a: 加工対象物1の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
5 1b: 前記加工対象物1が載置される載置台107と、
1c: レーザ光Lを出射するレーザ光源101と、
1d: 前記載置台107に載置された前記加工対象物1の内部に、前記レーザ光源101から出射されたレーザ光Lを集光し、そのレーザ光Lの集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズ105と、
10 1e: 前記改質領域を前記加工対象物1の内部に形成するために、レーザ光Lの集光点を前記加工対象物1の内部に位置させた状態で、前記加工対象物1の切断予定ライン5に沿ってレーザ光Lの集光点を移動させるステージ制御部115と、
1g: 前記加工対象物1の表面を撮像する赤外線用の撮像素子12115 と、を備える、
1i: レーザ加工装置100。
4 本件審決の理由の要旨(1) 無効理由1(甲1に基づく本件発明1の進歩性の欠如)について本件発明1は、本件特許の原出願日前(なお、本件発明1について、国内20 優先権の主張の効果が及ばず、新規性進歩性の判断基準日が原出願日となることは争いがない。)に頒布された甲1に記載された甲1発明及び周知・公知技術(甲4〜10、甲21、22等)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない(詳細は別紙4「本件審決の理由@」を参照。 。
)(2) 無効理由2(甲1に基づく本件発明2の進歩性の欠如)について25 本件発明2は、甲1発明及び周知・公知技術(甲4〜10、甲21、22)に基づいて(なお、原告は、本件発明2について国内優先権の主張の効果が6及ばない旨主張するのに対し、被告は、少なくとも本件発明2の一部に部分優先の効果が認められる旨主張している。)当業者が容易に発明をすることができたものではない(詳細は別紙5「本件審決の理由A」を参照)。
5 取消事由5 (1) 甲1発明に基づく本件発明1の進歩性の判断の誤り(取消事由1)(2) 甲1発明に基づく本件発明2の進歩性の判断の誤り(取消事由2)第3 当事者の主張1 取消事由1(甲1発明に基づく本件発明1の進歩性の判断の誤り)(1) 原告の主張10 ア 甲1発明及び相違点1の認定の誤り(ア) 本件審決は、甲1発明は赤外線と撮像素子による改質領域を撮像する構成F、Gを備えていない(本件発明との相違点1)と認定したが、以下のとおり誤りである。
(イ) 甲1発明は、「加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることな15 くかつその表面が溶融しないレーザ加工方法を提供すること」を課題とし(【0006】)、かかる課題を、加工対象物の内部に改質領域を形成することにより解決する発明である(請求項1、【0008】)。
原出願日において、加工対象物の内部に改質領域を形成して加工対象物を割断する技術で、改質領域の形状や位置を確認することは、当業者20 の技術常識であった(甲21、22、47等)。
また、加工対象物がシリコンウェハである場合、可視光では内部の状態を視認できないが、赤外線であれば内部の状態を視認することが可能であることも、原出願日における技術常識であり(甲4〜6等) 特に、

甲4、5には、赤外線用の撮像素子が、シリコンウェハの内部に形成さ25 れたクラック(改質領域)を撮像可能であることも記載されている。
そして、甲1には、赤外光の波長を調整することで、赤外光の内部透7過率が上昇すること(図13)、赤外線用の撮像素子(【0091】)が記載されているから、上記周知技術ないし公知技術を知る当業者は、
甲1発明に接したとき、赤外線と撮像素子を用いて、加工対象物であるシリコン基板内部に形成される改質領域の形成状況を観察することに5 想到するということができ、「赤外線と撮像素子により改質領域を撮像する」構成である構成F及びGは、甲1に実質的に開示されている。
そうすると、本件審決認定の相違点1は存在しないことになる。
(ウ) なお、相違点2は存在しないか、仮に存在したとしても容易に相到することができるから、上記引用発明及び相違点1の認定の誤りは、審決10 の結論に影響を及ぼす。
イ 相違点1についての判断の誤り本件審決は、相違点1に係る構成は当業者が容易に想到し得るものではないと判断したが、以下のとおり誤りである。
(ア) 甲1発明のシリコンウェハの内部に形成された改質領域は、外からは15 目視できないので、当業者であれば、割らずに内部の様子を確認したいと考える。一方、シリコンウェハの内部の状態を観察するために、その表面から赤外線を当てて、映像を撮像素子に映す技術は、甲1に関連する技術分野の技術手段であるとともに、前記のとおり周知・公知の技術であるから、通常の創作能力を有する当業者であれば、改質領域の様子を20 観察するために、上記周知・公知技術を甲1発明に適用することを直ちに思い付く。
甲1の【0045】、【0053】、【0072】等には、レーザ光の集光点の位置に応じてレーザ光を調整することが記載されているから、
レーザ光の集光点の位置すなわち改質領域の配置を確認しつつ、レーザ25 光や光学系を調整する必要があることが開示ないし示唆されている。
そして、甲21、22では、加工対象物の内部に改質領域を生成させる8技術において、加工対象物の内部にどのような形状の改質領域を形成することが効率的であるかが写真をもって明らかにされ、甲47では、シリコンウェハ等の加工対象物の内部にレーザによって改質領域を形成し、
加工対象物を割断する技術(請求項1等)において、改質領域のZ軸方向5 の位置が割断精度に影響を与えることが、明記されている。すなわち、半導体ウェハの内部に切断の起点となる改質領域を形成するとき、その内部の状態を観察する必要があることは、原出願日において、技術常識であった。
甲1に接した当業者は、このような技術常識を知る者であるから、甲10 1発明に、技術分野を共通にする甲4〜6等に開示された周知・公知技術を適用して、外部から視認し得ない改質領域を、シリコンウェハを透過する赤外線により観察して、改質領域の形状や高さを確認しようとすることに自然と動機付けられる。
したがって、甲1発明において、レーザ加工時の加工状態を観察する15 ために、上記周知・公知技術を適用して、シリコンウェハを赤外線で照明する赤外透過照明を設け、シリコンウェハを透過した赤外線が赤外線用の撮像素子121に入射するよう構成することは当業者にとって容易である。そして、内部に改質領域が形成されたシリコンウェハを透過した赤外線は、シリコンウェハ内部の改質領域の情報を含むから、赤外線用20 の撮像素子121はシリコンウェハ内部の改質領域を撮像可能である。
よって、当業者が、甲1発明において相違点1に係る構成に想到することは容易である。
(イ) 本件審決は、甲1には、相違点1に係る構成を採用する動機が示されてない旨判断する。
25 これは、本件審決が、本件発明1の構成F、Gに係る技術的意義を、半導体基板を赤外透過照明による赤外線で照明するとともに、改質領域を撮9像素子で撮像することで、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認することができ、溶融処理領域の位置や大きさ等を調節することが可能となり、その調節により、基板の表面及び裏面に割れが到達しないように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達するよう5 に制御を行うことにあるとすることによる。
しかし、本件明細書には、このような技術的意義は記載されていないし、
進歩性の有無は、公知技術から本件発明の構成に至るかどうかの問題であり、公知技術から本件発明の技術的意義に至るかどうかの問題ではない。
仮に本件明細書の記載から上記技術的事項を当業者が読み取ることがで10 きるというのであれば、前記の周知・公知技術を知る当業者は、甲1の記載からも、同様の技術的事項を読み取ることができる。
(ウ) 本件審決は、甲4〜10には改質領域を撮像することについて明示的には全く記載されていないとするが、甲4、5には改質領域に相当するクラック等の欠陥を観察することが記載されている。
15 (エ) 本件審決は、甲21及び甲22には、写真によって、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認することまでは示されていないから、当業者が、これらに記載された技術的事項について、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認するための手段として認識するとはいえないと判断するが、本件発明1は、「基板の厚さ方向における改20 質領域の位置や大きさを確認するための手段として赤外透過照明及び撮像素子を発明特定事項として」規定しているわけではない。
また、本件審決は、甲21及び甲22に接した当業者は、これらに記載された技術的事項について、レーザ加工装置に常設して、定常的に撮影を行う手段として認識するとはいえないとするが、「レーザ加工装置に常設25 して、定常的に撮影を行う手段」が甲21、22に開示されていないとしても、甲1、4〜6に開示されているのであり、本件審決の指摘する点は、
10本件発明1の進歩性を肯定する理由とはならない。
(2) 被告の主張ア 甲1発明の認定に誤りがあるとの点について(ア) 甲1発明が、原告がいう構成F、Gを備えておらず、本件発明1と甲5 1発明との間に本件審決が認定した相違点1に相当する相違点が存在することは、審判請求書で、原告自身が主張していたことであり、相違点1が存在しないとする原告の主張は禁反言の法理に反する。
また、本件発明1と甲1発明の間に相違点1に相当する相違点が存在することは、本件特許権及び他の特許権に基づく特許権侵害訴訟の控訴審10 (知的財産高等裁判所令和3年(ネ)第10101号)の判決(甲33)で認定されていた。そして、同侵害訴訟の判決は、令和5年6月7日付けの上告棄却決定及び上告不受理決定により確定した(乙2)。それにもかかわらず、原告が相違点1が存在しないと主張することは、訴訟上の信義則に反する。
15 さらに、原告は、原出願日において、「加工対象物の内部に改質領域を形成して加工対象物を割断する技術において、改質領域の形状や位置を確認すること」及び「加工対象物がシリコンウェハである場合、可視光では内部の状態を視認できないが、赤外線であれば内部の状態を視認することが可能であること」が原出願日における技術常識であった旨主張するが、
20 そのような技術常識があったとしても、そのことは、相違点1に係る本件発明1の構成に相当する構成(構成F、G)が開示されていたことを意味せず、相違点1が存在しないことの理由にはならないし、原告が主張するような技術常識の存在も認められない。
(イ) したがって、相違点1は存在しない旨の原告の主張は失当である。
25 イ 相違点1についての判断に誤りがあるとの点について(ア) 原告は、甲1発明のシリコンウェハの内部に形成された改質領域は、外11からは目視できないので、当業者であれば、割らずに内部の様子を確認したいと考える旨主張するが、シリコンウェハ内部に形成された改質領域の状態を観察することの意義もそれを観察するための手法も何も知られていなかった本件出願時に、当業者が原告主張のように考えたはずであると5 いえる根拠は存在しない。
また、原告が、半導体ウェハの内部に切断の起点となる改質領域を形成するとき、その内部の状態を観察する必要があることが、原出願日において、技術常識だったとの主張の根拠とする甲21、22の図14、15に示される改質領域の写真は、直線偏光のレーザ光により切断予定ラインに10 沿った方向の改質領域の寸法を大きくできることを明らかにするための写真にすぎない。
原告の主張する技術常識が存在しない以上、当業者が、甲1発明に、甲4〜6等に開示された周知・公知技術を適用しようと動機づけられることもない。
15 (イ) 原告は、甲4、5に「クラック等の欠陥」を観察することが記載されていることを根拠に、甲4〜10に改質領域を撮像することについて明示的には全く記載されていないとの認定が誤りである旨主張する。
しかし、甲4、5で観察対象とされている「クラック等の欠陥」は、半導体ウェハの内部に不可避的に生じるクラック等の欠陥であるのに対し、甲20 1発明で形成される「改質領域」は、切断の起点となるようにレーザ照射により人為的に形成されるものであり、加工対象物が半導体ウェハの場合には、「溶融処理領域」となるものである(甲1【0037】)から、両者は相互に全く異なるものである。
2 取消事由2(甲1発明に基づく本件発明2の進歩性の判断の誤り)25 (1) 原告の主張本件発明1の場合と同様の理由により、本件審決による相違点1の認定の12誤りは、審決の結論に影響する。
また、本件発明1と同様の理由により、本件審決による相違点1についての判断の誤りは、審決の結論に影響する。
(2) 被告の主張5 本件審決による相違点1の認定、その容易想到性に係る判断に誤りはないから、原告の主張には理由がない。
第4 当裁判所の判断1 取消事由1(甲1発明に基づく本件発明1の進歩性の判断の誤り)について(1) 原告は、甲1発明は赤外線と撮像素子による改質領域を撮像する構成F、
10 Gを備えていない(相違点1)とした本件審決の認定の誤りを主張するので、
まずこの点について検討する。
ア 別紙3「甲1の記載事項(抜粋)」によれば、甲1には以下の開示があり、本件審決が認定するとおりの甲1発明を認めることができる。本件発明1と甲1発明との相違点も本件審決が認定するとおりであると認める。
15 (ア) 甲1発明は、半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工対象物の切断に使用されるレーザ加工方法に関する(【0002】)。
(イ) レーザを切断に用いる場合、加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融されるため、加工対象物が半導体ウェハの場合、
表面に形成された半導体素子のうち、上記領域付近に位置する半導体20 素子が溶融するおそれがある。これに対応するため、加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、加工対象物を冷却することにより、
切断する箇所に熱衝撃を生じさせて切断する方法もあったが、加工対象物に生じる熱衝撃が大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから外れた割れ等の不必要な割れが発生し、加工対象物が半導体ウェ25 ハである場合は、半導体チップが損傷する等の問題があった 【000(3】〜【0005】)。
13(ウ) 甲1発明は、半導体基板上に複数の機能素子が形成されていても、
機能素子が破壊されることなく半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断するレーザ加工装置を提供することを目的とし、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の切断5 予定ラインに沿って加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成する工程を備えることを特徴とする構成を採用した。甲1発明では、レーザ光の照射により加工対象物の内部に形成された改質領域を起点として比較的小さな力で加工対象物を切断することができるので、
切断予定ラインから離れた不必要な割れが発生することはなく、加工10 対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないため、加工対象物の表面が溶融することはない(【0006】〜【0009】)。
(エ) 甲1発明では、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく加工対象物を切断することができるので、加工対象物を切断することにより作製される製品の歩留まりや生産性を向15 上させることができる(【0118】)。
イ 原告は、前記第3の1(1)ア(イ)のとおり、原出願日において、加工対象物の内部に改質領域を形成して加工対象物を割断する技術で、改質領域の形状や位置を確認すること、加工対象物がシリコンウェハである場合、可視光では内部の状態を視認できないが、赤外線であれば内部の状態を視認20 することが可能であることが技術常識であり、甲1には、赤外光の波長を調整することで、赤外光の内部透過率が上昇すること(図13)、赤外線用の撮像素子(【0091】)が記載されているから、本件発明1の構成F、Gに係る構成は甲1に記載されているに等しく、相違点1は存在しない旨主張する。
25 しかし、甲1の図13は、溶融処理領域13が多光子吸収により形成されたことを説明する文脈でレーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過14率との関係を開示するにすぎず(【0040】)、また、甲1の【0091】は、撮像素子として赤外線用のものを用いることにより、赤外線(レーザ光)Lが加工対象物の表面で反射することを利用してフォーカス調整を行い、加工対象物の表面を撮像することを示唆するにすぎない。仮に原5 告が上記に主張するような技術常識が存在したとしても、甲1に上記のとおり開示ないし示唆されているところを超えて、本件発明1の構成F、Gに係る構成が記載されているに等しいとはいえず、本件審決の甲1発明の認定や相違点1の認定に誤りはない。
(2) 次に、相違点1に係る容易想到性の判断について検討する。
10 ア 甲1には、改質領域の加工領域の主面からの位置や大きさを確認する必要があることについて記載されていない。甲1の【0091】が、撮像素子として赤外線用のものを用いることにより、赤外線(レーザ光)の反射光を利用してフォーカス調整を行い、加工対象物の表面を撮像することを示唆するにすぎないことは前記(1)イのとおりである。上記のような必要15 性があることが周知又は技術常識であるとも認められない。したがって、
甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成すなわち構成F、Gを採用する動機付けが認められない。
よって、甲1の記載に接した当業者において、相違点1に係る構成を容易に想到することができたものとは認められない。
20 なお、本件審決は、上記動機付けを否定する理由として、相違点1に係る本件発明1の構成F及びGの技術的意義が、「基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認し、溶融処理領域の位置や大きさ等を調節することが可能となり、その調節により、基板の表面及び裏面に割れが到達しないように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達25 するように制御を行うこと」を挙げるが、そのような技術的意義を示唆する記載は本件明細書にはなく、その点において本件審決の判断は相当でな15い。しかし、甲1には、改質領域の加工領域の主面からの位置や大きさを確認する必要があること自体について記載されていないことは上記のとおりであるから、本件審決の上記技術的意義の認定の誤りは、本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
5 イ 原告は、前記第3の1(1)イ(ア)のとおり、甲1の【0045】、【0053】、【0072】等の記載から、レーザ光の集光点の位置すなわち改質領域の配置を確認しつつ、レーザ光や光学系を調整する必要があることが開示ないし示唆されている旨主張するが、甲1に、レーザ光の集光点の位置に応じてレーザ光を調整することが記載されているからといって、レ10 ーザ光の集光点の位置を確認する必要性まで記載ないし示唆されているとはいえない。
また、原告は、甲21、22では、加工対象物の内部に改質領域を生成させる技術において、加工対象物の内部にどのような形状の改質領域を形成することが効率的であるかが写真をもって明らかにされている旨主張15 するが、甲21、22の各【図14】は直線偏光のパルスレーザ光を照射することにより内部に「クラック領域が」形成された「サンプル」の写真を表した図であり、同じく【図15】は、円偏光のパルスレーザ光を照射することにより内部に「クラック領域が」形成された「サンプル」の写真を表したものであって(甲21の【0054】、甲22の【0031】)、
20 実験的な作業において、クラック領域について確認するものにすぎず、加工対象物の内部に改質領域を生成させる過程において、改質領域の加工対象物の主面からの位置(加工対象の深さ)を確認することを示すものではない。
また、甲47は、「表面3に近すぎる箇所にクラック領域9を形成する25 とクラック領域9が表面3に形成される。」と記載するだけで、このような記載が、半導体ウェハの内部に改質領域を形成する際、内部の状態を観16察する必要があることに直ちに結びつくものではない。
したがって、当業者が甲1発明に甲4〜6等に開示された周知・公知技術を適用して、外部から視認し得ない改質領域を、シリコンウェハを透過する赤外線により観察して、改質領域の形状や高さを確認しようとする動5 機付けがあるとの原告の主張は採用できない。
そもそも甲4は半導体ウエハの結晶欠陥を観察する試料観察装置、甲5は半導体ウエハ等の欠陥を検査する装置、甲6は半導体ウェーハの内部に検出すべき回路面が形成されている場合に切削すべき領域を検出する方法、甲9はプロービング装置に関するものであり、レーザ加工装置に常設10 したものではない(これに反する原告の主張〔前記第3の1(1)イ(エ)〕は採用することができない。)。甲7、8は、ウェハの裏面からスクライブするに際し、表面に形成された回路パターン(甲7【0004】)や半導体素子(甲8【0007】)の認識に赤外線を用いるものにすぎない。そして、甲10は、基板に半導体素子を搭載する際の位置合わせのために15 (【0001】)赤外線を用いるものである。したがって、これらの技術を適用しても、甲1におけるレーザ光Lの反射光を利用してフォーカス調整を行う赤外線撮像装置を、赤外線で照明された半導体基板における改質領域を撮像可能な撮像素子とすることはできないというべきである。
ウ 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)のとおり、甲4、5に「クラック等の欠20 陥」を観察することが記載されていることを根拠に、改質領域を撮像することについての明示的な記載がある旨主張する。
しかし、甲4、5においては結晶欠陥の観察(甲4、1欄14行)や、
微小なクラックなどの欠陥の有無の検査(甲5、【0005】)が想定されているものである。甲1において、クラックは改質領域に含まれるが25 (【0010】等)、改質領域は切断の起点となるものであって(【0008】等)、甲1発明を構成するものであるから、甲4、5における欠陥17としてのクラックとは位置づけが全く異なるものであることが明らかである。
エ 小括以上のとおりであって、当業者が、原出願日において、相違点1に係る5 本件発明1の構成を容易に想到することができたとはいえない。
(3) そうすると、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(甲1発明に基づく本件発明2の進歩性の判断の誤り)について10 (1) 原告は、本件審決における相違点1の認定判断に誤りがある旨主張するが、
相違点1の認定に誤りはなく、また、当業者が、原出願日において、相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとはいえないことは、上記1(1)〜(3)のとおりである。
(2) したがって、本件発明2の全部又は一部について優先権主張の効果が及ば15 ないとしても、本件発明2は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。
3 結論以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決につい20 て取り消されるべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官25 宮 坂 昌 利18裁判官本 吉 弘 行5 裁判官岩 井 直 幸19別紙1 略語一覧(略語) (意味)・原出願日:原出願(特願2003−574373号)の実際の出願日である平成5 15年3月11日・本件特許:被告を特許権者とする特許第3990711号・本件発明:本件特許の請求項1、2に係る発明の総称個別には、請求項の番号に対応して、「本件発明1」「本件発明2」という。
・本件明細書:本件特許に係る明細書10 ・甲1発明:甲1(特開2002−192370号公報)記載の発明20別紙2 本件明細書の記載事項及び願書添付図面(抜粋)【技術分野】【0001】本発明は、半導体基板を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工装置5 及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】【0002】半導体デバイスの製造工程においては、シリコンウェハ等の半導体基板上に複数の機能素子を形成した後に、ダイヤモンドブレードにより半導体基板を機能素子毎10 に切断し(切削加工)、半導体チップを得るのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】また、上記ダイヤモンドブレードによる切断に代えて、半導体基板に対して吸収性を有するレーザ光を半導体基板に照射し、加熱溶融により半導体基板を切断する15 こともある(加熱溶融加工)(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】 特開2001−7054号公報【特許文献2】 特開平10−163780号公報【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】20 【0004】しかしながら、上述した切削加工や加熱溶融加工による半導体基板の切断は、半導体基板上に機能素子を形成した後に行われるため、例えば切断時に発生する熱を原因として機能素子が破壊されるおそれがある。
【0005】25 そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、機能素子が破壊されるのを防止21して、半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にするレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】【0006】5 上記目的を達成するために、本発明に係るレーザ加工装置は、半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、半導体基板が載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、載置台に載置された半導体基板の内部に、レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で改質領域を形成させる集光用レンズと、改質領域を半導体基板の内部10 に形成するために、レーザ光の集光点を半導体基板の内部に位置させた状態で、半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、載置台に載置された半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照明と、赤外透過照明により赤外線で照明された半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子と、
を備えることを特徴とする。
15 【0007】これらのレーザ加工装置によれば、レーザ光の照射により改質領域が半導体基板の内部に形成されるが、このようなレーザ光の照射においては、半導体基板の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないため、半導体基板の表面が溶融することはない。したがって、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、
20 機能素子が破壊されるのを防止することが可能となる。さらに、これらのレーザ加工装置及びレーザ加工方法よれば、改質領域が半導体基板の内部に形成される。半導体基板の内部に改質領域が形成されると、改質領域を起点として比較的小さな力で半導体基板に割れが発生するため、切断予定ラインに沿って高い精度で半導体基板を割って切断することができる。したがって、半導体基板を切断予定ラインに沿25 って精度良く切断することが可能となる。
【発明の効果】22【0008】本発明に係るレーザ加工装置は、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、機能素子が破壊されるのを防止して、半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にする。
5 【発明を実施するための最良の形態】【0012】図1及び図2に示すように、半導体基板1の表面3には、半導体基板1を切断すべき所望の切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である(半導体基板1に実際に線を引いて切断予定ライン5としてもよい) 本実施形。
10 態に係るレーザ加工は、多光子吸収が生じる条件で半導体基板1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを半導体基板1に照射して改質領域7を形成する。なお、集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
【0013】レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的15 に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3〜図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って半導体基板1の内部にのみ形成され、この改質領域7でもって切断起点領域(切断予定部)9が形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は、半導体基板1がレーザ光Lを吸収することにより半導体基板1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。
20 半導体基板1にレーザ光Lを透過させ半導体基板1の内部に多光子吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって、半導体基板1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので、半導体基板1の表面3が溶融することはない。
【0014】半導体基板1の切断において、切断する箇所に起点があると半導体基板1はその25 起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で半導体基板1を切断することができる。よって、半導体基板1の表面3に不必要な割れを発生させることな23く半導体基板1の切断が可能となる。
【0027】上述したレーザ加工方法に使用されるレーザ加工装置について、図9を参照して説明する。図9はレーザ加工装置100の概略構成図である。
5 【0028】レーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー110 03で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される半導体基板1が載置される載置台107と、
載置台107を回転させるためのθステージ108と、載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向15 に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら4つのステージ108、109、111、113の移動を制御するステージ制御部115とを備える。
【0029】載置台107は、半導体基板1を赤外線で照明するために赤外線を発生する赤外20 透過照明116と、半導体基板1が赤外透過照明116による赤外線で照明されるよう、半導体基板1を赤外透過照明116上に支持する支持部107aとを有している。
【0033】レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラ25 ー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCDカメラがある。切24断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。なお、半導体基板1を赤外透過照明116による赤外線で照明すると共に、後述する撮像データ処理5 部125により結像レンズ123及び撮像素子121の観察面を半導体基板1の内部に合わせれば、半導体基板1の内部を撮像して半導体基板1の内部の撮像データを取得することもできる。
【0037】[半導体基板の実施例1]10 ・・・【0047】続いて、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを半導体基板1に照射する。レーザ光Lの集光点Pは半導体基板1の内部に位置しているので、
溶融処理領域は半導体基板1の内部にのみ形成される。そして、X軸ステージ1015 9やY軸ステージ111により半導体基板1を移動させて、半導体基板1の内部に、
OF15に平行な方向に延びる切断起点領域9a及びOF15に垂直な方向に延びる切断起点領域9bのそれぞれを、基準原点から所定の間隔毎に複数形成し(S119)、実施例1に係る半導体基板1が製造される。
【0048】20 なお、半導体基板1を赤外透過照明116による赤外線で照明すると共に、撮像データ処理部125により結像レンズ123及び撮像素子121の観察面を半導体基板1の内部に合わせれば、半導体基板1の内部に形成された切断起点領域9a及び切断起点領域9bを撮像して撮像データを取得し、モニタ129に表示させることもできる。
25 【0053】[半導体基板の実施例2]25【0057】次に、実施例2に係る半導体基板1の製造方法について説明する。図17に示すように、半導体基板1の内側部分32と同等の形状を有する開口部35が形成されたマスク36を用意する。そして、内側部分32が開口部35から露出するように5 半導体基板1にマスク36を重ねる。これにより、半導体基板1の外縁部31がマスク36で覆われることになる。
【0058】この状態で、例えば上述のレーザ加工装置100を用いて、半導体基板1の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、半導体基板1の内部に多光子吸収による溶10 融処理領域を形成することで、半導体基板1のレーザ光入射面(すなわち、マスク36の開口部35から露出する半導体基板1の表面)から所定距離内側に切断起点領域9a、9bを形成する。
【0059】このとき、レーザ光の走査ラインとなる切断予定ライン5を、OF15を基準と15 して格子状に設定するが、各切断予定ライン5の始点5a及び終点5bをマスク36上に位置させれば、半導体基板1の内側部分32に対して確実に且つ同等の条件でレーザ光が照射されることになる。これにより、内側部分32の内部に形成される溶融処理領域をいずれの場所でもほぼ同等の形成状態とすることができ、精密な切断起点領域9a、9bを形成することが可能になる。
20 【0060】なお、マスク36を用いずに、半導体基板1の内側部分32と外縁部31との境界付近に各切断予定ライン5の始点5a及び終点5bを位置させて、各切断予定ライン5に沿ってレーザ光の照射を行うことにより、内側部分32の内部に切断起点領域9a、9bを形成することも可能である。
25 【0061】以上説明したように、実施例2に係る半導体基板1によれば、実施例1に係る半26導体基板1と同様の理由により、半導体デバイスの製造工程において、半導体基板1の表面に機能素子を形成することができ、且つ機能素子形成後における半導体基板1の切断による機能素子の破壊を防止することができる。
【0062】5 しかも、半導体基板1の内側部分32の内部に切断起点領域9a、9bが形成され、外縁部31には切断起点領域9a、9bが形成されていないことから、半導体基板1全体としての機械的強度が向上することになる。したがって、半導体基板1の搬送工程や機能素子形成のための加熱工程等において、半導体基板1が不測の下に切断されてしまうという事態を防止することができる。
10【図1】 【図2】【図3】 【図4】27【図5】 【図6】【図9】5【図17】28別紙3 甲1の記載事項(抜粋)【発明の属する技術分野】【0002】本発明は、半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工対象物の切断に使用されるレーザ加工方法に関する。
5 【0003】【従来の技術】レーザ応用の一つに切断があり、レーザによる一般的な切断は次の通りである。例えば半導体ウェハやガラス基板のような加工対象物の切断する箇所に、加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し、レーザ光の吸収により切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象10 物を切断する。しかし、この方法では加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融される。よって、加工対象物が半導体ウェハの場合、半導体ウェハの表面に形成された半導体素子のうち、上記領域付近に位置する半導体素子が溶融する恐れがある。
【0004】15 【発明が解決しようとする課題】加工対象物の表面の溶融を防止する方法として、
例えば、特開2000−219528号公報や特開2000−15467号公報に開示されたレーザによる切断方法がある。これらの公報の切断方法では、加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、そして加工対象物を冷却することにより、加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断する。
20 【0005】しかし、これらの公報の切断方法では、加工対象物に生じる熱衝撃が大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射していない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生することがある。よって、これらの切断方法では精密切断をすることができない。特に、加工対象物が半導体ウェハ、
液晶表示装置が形成されたガラス基板や電極パターンが形成されたガラス基板の場25 合、この不必要な割れにより半導体チップ、液晶表示装置や電極パターンが損傷することがある。また、これらの切断方法では平均入力エネルギーが大きいので、半導29体チップ等に与える熱的ダメージも大きい。
【0006】本発明の目的は、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工方法を提供することである。
【0007】5 【課題を解決するための手段】本発明に係るレーザ加工方法は、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成する工程を備えることを特徴とする。
【0008】本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に集光点を10 合わせてレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工対象物の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係るレーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的15 小さな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。
【0009】また、本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に局所的に多光子吸収を発生させて改質領域を形成している。よって、加工対象物の表面20 ではレーザ光がほとんど吸収されないので、加工対象物の表面が溶融することはない。なお、集光点とはレーザ光が集光した箇所のことである。切断予定ラインは加工対象物の表面や内部に実際に引かれた線でもよいし、仮想の線でもよい。
【0010】本発明に係るレーザ加工方法は、加工対象物の内部に集光点を合わせて、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅25 が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物の内部にクラック領域を含む改質領域を形成する工程を備えることを特徴30とする。
【0033】さて、本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域として、次の(1)〜(3)がある。
(1)改質領域が一つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合・・・5 【0037】(2)改質領域が溶融処理領域の場合・・・【0040】溶融処理領域13が多光子吸収により形成されたことを説明する。図13は、レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。ただし、シリコン基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみの透過率を示している。シリコン基板の厚みtが50μm、100μm、200μ10 m、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。
【0043】(3)改質領域が屈折率変化領域の場合・・・【0044】次に、本実施形態の具体例を説明する。
[第1例]本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法について説明する。図14はこの方法に使用できるレーザ加工装置100の概略構成図である。レーザ加工装置15 100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレ20 ーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら三つのステージ109、111、113の移動を制御するステージ制御部115と、
25 を備える。
【0045】Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので、加工対象物311に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。また、この集光点PのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることに5 より行う。X(Y)軸ステージ109(111)が移動手段の一例となる。
【0048】レーザ加工装置100はさらに、載置台107に載置された加工対象物1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119と、を備える。・・・観察用光源117から発生した10 可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。
【0049】レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子1215 1及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCD(charge−coupled device)カメラがある。切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。
20 【0050】レーザ加工装置100はさらに、撮像素子121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置100全体を制御する全体制御部127と、モニタ129と、を備える。撮像データ処理部125は、
撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点が表面3上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部1125 5がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が表面3に合うようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして32機能する。・・・【0051】全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することによ5 り、レーザ加工装置100全体を制御する。よって、全体制御部127はコンピュータユニットとして機能する。
【0052】次に、図14及び図15を用いて、本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法を説明する。図15は、このレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。加工対象物1はシリコンウェハである。
10 【0053】まず、加工対象物1の光吸収特性を図示しない分光光度計等により測定する。この測定結果に基づいて、加工対象物1に対して透明な波長又は吸収の少ない波長のレーザ光Lを発生するレーザ光源101を選定する(S101) 次に、

加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基にして、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。これは、レーザ光15 Lの集光点Pが加工対象物1の内部に位置させるために、加工対象物1の表面3に位置するレーザ光Lの集光点を基準とした加工対象物1のZ軸方向の移動量である。
この移動量を全体制御部127に入力される。
【0054】加工対象物1をレーザ加工装置100の載置台107に載置する。そして、観察用光源117から可視光を発生させて加工対象物1を照明する(S1020 5)。照明された切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3を撮像素子121により撮像する。この撮像データは撮像データ処理部125に送られる。この撮像データに基づいて撮像データ処理部125は観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置するような焦点データを演算する(S107)。
【0055】この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部25 115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向の移動させる(S109) これにより、
。 観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置する。
33なお、撮像データ処理部125は撮像データに基づいて、切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制御部127を介してモニタ129に送られ、これによりモニタ129に切断予定ライン5付近の拡大画像が表示される。
5 【0056】全体制御部127には予めステップS103で決定された移動量データが入力されており、この移動量データがステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115はこの移動量データに基づいて、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S111)。
10 【0057】次に、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加工対象物1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Pは加工対象物1の内部に位置しているので、溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、溶融処理領域を切断予定ライン5に沿うように加工対象15 物1の内部に形成する(S113)。そして、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って曲げることにより、加工対象物1を切断する(S115)。これにより、加工対象物1をシリコンチップに分割する。
【0058】第1例の効果を説明する。これによれば、多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ラ20 イン5に照射している。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させている。これにより、改質領域(例えばクラック領域、溶融処理領域、屈折率変化領域)を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断すること25 ができる。よって、改質領域を起点として切断予定ライン5に沿って加工対象物1を割ることにより、比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。これ34により、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物1を切断することができる。
【0066】第2例に係る切断装置は、図14に示すレーザ加工装置100及び図19、図20に示す装置から構成される。図19及び図20に示す装置について説5 明する。圧電素子ウェハ31は、保持手段としてのウェハシート(フィルム)33に保持されている。このウェハシート33は、圧電素子ウェハ31を保持する側の面が粘着性を有する樹脂製テープ等からなり、弾性を有している。ウェハシート33は、サンプルホルダ35に挟持されて、載置台107上にセットされる。なお、圧電素子ウェハ31は、図19に示されるように、後に切断分離される多数個の圧電デ10 バイスチップ37を含んでいる。各圧電デバイスチップ37は回路部39を有している。この回路部39は、圧電素子ウェハ31の表面に各圧電デバイスチップ37毎に形成されており、隣接する回路部39の間には所定の間隙α(80μm程度)が形成されている。なお、図20は、圧電素子ウェハ31の内部のみに改質部としての微小なクラック領域9が形成された状態を示している。
15 【0072】ここで、切断対象材料に照射されるレーザ光Lは、集光用レンズ105により、図22に示されるように、圧電素子ウェハ31の表面(レーザ光Lが入射する面)に形成された回路部39にレーザ光Lが照射されない角度で集光される。このように、回路部39にレーザ光Lが照射されない角度でレーザ光Lを集光することにより、レーザ光Lが回路部39に入射するのを防ぐことができ、回路部39を20 レーザ光Lから保護することができる。
【0091】また、撮像素子121として赤外線用のものを用いることにより、レーザ光Lの反射光を利用してフォーカス調整を行うことができる。
この場合には、ダイクロイックミラー103を用いる代わりにハーフミラーを用い、
このハーフミラーとレーザ光源101との間にレーザ光源101への戻り光を抑制25 するような光学素子を配設する必要がある。なお、このとき、フォーカス調整を行うためのレーザ光Lにより切断対象材料にダメージが生じないように、フォーカス調35整時にレーザ光源101から照射されるレーザ光Lの出力は、クラック形成のための出力よりも低いエネルギー値に設定ことが好ましい。
【発明の効果】【0118】本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切5 断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させることができる。
10 【図13】【図14】365 【図15】【図19】37【図20】5 【図22】38別紙4 本件審決の理由@1 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点(1) 一致点半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装5 置であって、
前記半導体基板が載置される載置台と、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を10 形成させる集光用レンズと、
前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、
前記半導体基板の赤外線を撮像可能な撮像素子と、
15 を備えた、
レーザ加工装置。
(2) 相違点<相違点1>本件発明1は、「前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明20 する赤外透過照明と、前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子」(構成F及びG)を備えているのに対して、甲1発明は、「前記加工対象物1の表面を撮像する赤外線用の撮像素子121」(構成1g)を備えているものの本件発明1の構成F及びGを備えていない点。
25 <相違点2>本件発明1は、「前記切断予定ラインは、前記半導体基板の内側部分と外39縁部との境界付近に始点及び終点が位置する」(構成H)のに対して、甲1発明は、切断予定ライン5の始点や終点がどの位置なのか不明な点。
2 相違点の容易想到性についての判断理由の要旨(1) 相違点1に係る本件発明1の構成F及びGの技術的意義は、当該構成に5 より、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認し、溶融処理領域の位置や大きさ等を調節することが可能となり、その調節により、
基板の表面及び裏面に割れが到達しないように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達するように制御を行うことにある。
一方、甲1には、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認10 する必要性について、明示的には全く記載されておらず、相違点1に係る構成F及びGを採用する動機があるとはいえない。
(2) 甲4〜10には、改質領域を撮像することや、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認することについて、明示的には全く記載されておらず、当該確認に基づき基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさ15 を調節することにより、基板の表面及び裏面に割れが到達しないように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達するように制御を行うことについては記載も示唆もないから、甲4〜10に接した当業者が、これらに記載された技術的事項について、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認するための手段として認識するとはいえない。
20 したがって、仮に、甲1に基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認する動機があったとしても、当業者が、そのための手段として、甲4〜10に記載された技術的事項を採用することを想到するとはいえない。
(3) 甲21及び22には、改質領域を写真で撮影することが示されているが、
これらの写真は、切断予定ラインに沿った平面的な方向の改質領域の長さ25 を確認するためのものであって、当該写真によって、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認することまでは示されていないから、
40甲21、22に接した当業者が、これらに記載された技術的事項について、
基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認するための手段として認識するとはいえない。
また、甲21及び22の写真は、直線偏光のレーザ光による加工と、その5 加工により生じる切断予定ラインに沿った方向の改質領域の寸法の関係を「実験的」に明らかにすることを目的として撮影されたものであるから、
直線偏光のレーザ光により切断予定ラインに沿った方向の改質領域の寸法を大きくできることが明らかになれば、繰り返して写真を撮影する必要はなく、甲21及び22に接した当業者は、これらに記載された技術的事項10 について、レーザ加工装置に常設して、定常的に撮影を行う手段として認識するとはいえない。
(4) 以上から、相違点1は、甲1発明、甲4〜10、甲21及び22並びにその他の甲号証に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえないから、
本件発明1は、甲1発明及び上記各甲号証に基づき当業者(本件特許に係15 る出願の原出願日当時の当業者。本件発明1に優先権の効果が及ばないことは争いがない。)が容易に発明することができたとはいえない。
41別紙5 本件審決の理由A1 本件発明2と甲1発明の一致点及び相違点(1) 一致点半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装5 置であって、
前記半導体基板が載置される載置台と、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を10 形成させる集光用レンズと、
前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、
前記半導体基板の赤外線を撮像可能な撮像素子と、
15 を備え、
前記半導体基板はシリコン基板であり、
前記制御部は、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御するレーザ加工装置。
20 (2) 相違点<相違点3>本件発明1と甲1発明の相違点1に同じ。
2 相違点の容易想到性についての判断理由の要旨相違点3は、相違点1に関する本件審決の理由@2のとおり、甲1発明、甲425 〜10、甲21及び22並びにその他の甲号証に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。
42本件発明2は、仮に、本件発明2の全部又は一部について優先権の効果が及ばないとしても、甲1発明及び上記各甲号証に基づいて本件特許に係る出願の原出願日当時の当業者が容易に発明できたものとはいえない。
543
事実及び理由
全容