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事件 令和 5年 (ワ) 70486号 発信者情報開示請求事件
5
原告 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
原告 株式会社バンダイナムコミュージックライブ 10
上記両名訴訟代理人弁護士 林幸平
同 笠島祐輝
同 尋木浩司
同 前田哲男 15 同福田祐実
被告株式会社ハイホー
同訴訟代理人弁護士 名古屋聡介 20 同土谷一貴
同 松岡絵律子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2024/01/31
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、原告株式会社ソニー・ミュージックレーベルズに対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ。
25 2 被告は、原告株式会社バンダイナムコミュージックライブに対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報を開示せよ。
13 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨 5 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は,原告らが、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者がファイル共 有ネットワークであるBitTorrent(以下「ビットトレント」と表記す る。)を使用して、原告株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ(以下「原告ソ10 ニー」という。)がレコード製作者の権利を有する別紙CD目録記載1の音楽C D(以下「本件レコード1」という。)及び原告株式会社バンダイナムコミュージ ックライブ(以下「原告バンダイ」という。)がレコード製作者の権利を有する別 紙CD目録記載2の音楽CD(以下「本件レコード2」という。)を送信可能化し たことによって原告らの本件レコード1、2に係る送信可能化権を侵害したこと15 が明らかであるところ、上記氏名不詳者は、被告の提供する電気通信設備を経由 して前記各レコードを送信可能化し、原告らの損害賠償請求権等の行使のために 必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信 者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所 定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の通信に係る発信者情報の開示を求め20 た事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容 易に認められる事実) ア 原告らはレコード会社であり、多数のレコードを製作して発売している株 式会社である。(弁論の全趣旨)25 イ 被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っ ている株式会社である。(争いなし) 2 別紙発信者情報目録記載のIPアドレスを用いて同目録記載の時刻に行わ れた通信(以下「本件通信」という。)は、被告の電気通信設備を介して行われ ており、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。(争いな し) 5 ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有のネットワークである。
特定のファイルをダウンロードしようとするユーザー(リーチャー)は、ファ イルをダウンロードするためのビットトレントのクライアントソフトを自己 の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサ イトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載10 された「トレントファイル」を取得して自己の端末内のクライアントソフトに 読み込むと、同端末は、
「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、目 的のファイル(データ全部のみならず、ピースと呼ばれるデータの一部も含む。
以下同じ。)を保有している他のユーザーの端末のIPアドレスを取得して通 信を行い、それらの端末と接続した上で、当該ファイルのダウンロードを行う。
15 ファイルをダウンロードした端末は、自動的にピアとして「トラッカー」に登 録され、他のピアからの要求に応じて当該ファイルを提供してダウンロードさ せることになる。なお、ピアは、分割されたファイルを複数のピアから取得す るが、互換ソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再 構築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。
20 (甲10、12) 原告らは、株式会社Flow(以下「本件調査会社」という。)に対して、ビ ットトレントネットワークを介した別紙CD目録記載の各レコードの流通の 監視を依頼し、本件調査会社は、P2PFINDER(以下「本件システム」 という。本件システムは、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が25 P2P型ファイル交換ソフトを利用した権利侵害に際してその特定方法等の 信頼性が認められると認定したシステムである。)を用いてこれを行い(以下 3 「本件調査」という。、その結果、本件システムを用いて別紙発信者情報目録 ) 記載1の時刻に同記載1のIPアドレスを用いたピア(以下「本件ピア1」と いう。)から音楽ファイルの複製物に係るピースをダウンロードし、別紙発信 者情報目録記載2の時刻に同記載2のIPアドレスを用いたピア(以下「本件 5 ピア2」という。)から音楽ファイルの複製物に係るピースをダウンロードし た。(甲2、3、6、7、9、12、弁論の全趣旨) 3 主な争点に対する当事者の主張 原告らが、本件レコード1、2に音を固定したか(争点1) (原告らの主張)10 原告ソニーが本件レコード1に、原告バンダイが本件レコード2に音を固定 した。
(被告の主張) 否認する。
本件ピア1、2により送信可能化された音楽ファイルが本件レコード1、215 のものであったか(争点2) (原告らの主張) 本件調査の結果、本件調査会社は、本件システムを用いて、本件ピア1から 本件レコード1の音楽ファイルのピースをダウンロードし、本件ピア2から本 件レコード2の音楽ファイルのピースをダウンロードした。本件システムでは、
20 対象ピアが対象ファイルの一部ではなく全部保有しているときのみピースを ダウンロードし、時刻、IPアドレスを記録する仕様になっており、本件ピア 1、2は、ぞれぞれ、本件レコード1、2を送信可能化した。
(被告の主張) 否認ないし争う。
25 原告らに電話番号及び電子メールアドレスの開示を受ける正当な理由があ るか(争点3) 4 (原告らの主張) 被告は、本件ピア1、2に係る契約者の氏名及び住所を保有しているが、こ れらが虚偽である場合や、契約者が転居している場合等、これらの情報が正確 でない場合が想定され得るため、本件ピア1、2に係る電話番号及び電子メー 5 ルアドレスについても開示の必要性がある。
(被告の主張) 原告らに対し、被告が保有する本件ピア1、2に係る契約者の氏名及び住所 が開示されれば原告らの損害賠償請求には支障がないから、原告らには本件ピ ア1、2に係る契約者の電話番号及び電子メールアドレスの開示を受ける必要10 性はない。
当裁判所の判断
1 原告らが、本件レコード1、2に音を固定したか(争点1)について 原告ソニーが本件レコード1を製作した旨の記載のある陳述書(甲3)、本件 レコード1には、○マークの後に原告ソニーの社名のアルファベット表記がある P15 こと(甲13)及び弁論の全趣旨によれば、本件レコード1の音は原告ソニーに よって最初に固定され、原告ソニーは本件レコード1の送信可能化権を有してい ることが認められる。
原告バンダイが本件レコード2を製作した旨の記載のある陳述書(甲7)、本 件レコード2には、○マークの後に原告バンダイの社名のアルファベット表記が P20 あること(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、本件レコード2の音は原告バン ダイによって最初に固定され、原告バンダイが本件レコード2の送信可能化権を 有していることが認められる。
2 本件ピア1、2により送信可能化された音楽ファイルが本件レコード1、2の ものであったか(争点2)25 甲10、11号証によれば、本件システムでは、対象ファイルの全てを保有し ているピアについてのみピースのダウンロード及び時刻、IPアドレスの記録が 5 される仕様になっていることが認められる。
本件調査の過程では、本件ピア1について、当該ピアから別紙発信者情報目録 記載の時刻に同目録記載のIPアドレスからダウンロードしたピースに係る完 全な音楽ファイル(全ピースが含まれている。)もダウンロードされ(甲12。た 5 だし、全て本件ピア1からダウンロードされたものであるとは限らない。、その ) ダウンロードされた音楽ファイル(甲15)と本件レコード1(甲13)は、同 一内容であって、それらが別の音源によることをうかがわせる事情もない。よっ て本件ピア1によって送信可能化されたのは、本件レコード1であったと認めら れる。
10 同様に、本件調査の過程では、本件ピア2についても、当該ピアからダウンロ ードしたピースに係る完全な音楽ファイルもダウンロードされ(甲12)、その ダウンロードされた音楽ファイル(甲16)と本件レコード2(甲14)は同一 内容であって、それらが別の音源によることをうかがわせる事情もない。よって 本件ピア2によって送信可能化されたのは、本件レコード2であったと認められ15 る。
被告は、本件調査の過程でダウンロードしたのがファイルの一部のピースにす ぎない場合には、送信可能化されたのが当該レコードで固定化された音のうち、
創作的部分であるか分からないなどと主張して原告らの請求を争うが、レコード に固定された音が送信可能化されることによってレコード製作者の送信可能化20 権が侵害されるから、被告の主張は理由がない。
3 原告らに電話番号及び電子メールアドレスの開示を受ける正当な理由がある か(争点3)について 被告が本件ピア1、2に係る契約者の氏名又は名称及び住所を保有しているこ とは争いがないものの、被告が保有しているこれらの情報が必ずしも当該契約者25 に係る現在の正確な情報であるとは限らないことからすると、原告らには、当該 契約者に係る電話番号及び電子メールアドレスの開示を受ける正当な理由があ 6 ると認められる。
4 以上によれば、本件ピア1に係る契約者は原告ソニーが送信可能化権を有する 本件レコード1について、本件ピア2に係る契約者は原告バンダイが送信可能化 権を有する本件レコード2について、本件調査会社の端末に送信して記録するこ 5 とにより別紙発信者情報目録記載の時刻に同目録記載のIPアドレスを用いて不 特定多数の者を対象に自動公衆送信し得るようにしたものであり、原告らの送信 可能化権を侵害したといえ、これらは被告の電気通信設備を利用してされたもの であり、別紙発信者情報目録記載の各情報のいずれについても開示の必要がある といえるから、原告らの請求はいずれも理由がある。
10 被告は、ビットトレントネットワークにおいてピア間で行われる通信は1対1 の特定者間の通信であるから、プロバイダ責任制限法所定の特定電気通信に当た らないなどと主張するが、ピア間の通信は最終的には1対1で行われるものの、
ビットトレントネットワーク自体には不特定の者が参加することができ、各ピア は当該不特定の者とデータの送受信をすることからすると、本件通信はプロバイ15 ダ責任制限法所定の特定電気通信であり、被告の主張には理由がない。
結論
よって、原告らの請求はいずれも理由があるから認容することとし、主文のと おり判決する。
裁判長裁判官 柴田義明