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事件 |
令和
5年
(ネ)
10069号
職務発明対価請求控訴事件
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令和6年2月1日判決言渡 令和5年(ネ)第10069号 職務発明対価請求控訴事件(原審・東京地方裁判 所令和4年(ワ)第13408号) 口頭弁論終結日 令和5年11月27日 5判決 控訴人X 同訴訟代理人弁護士 服部謙太朗 同補佐人弁理士 藤野清規 10 同山本洋三 被控訴人 株式会社ダイセイコー 同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 15 同木村剛大 同 河部康弘 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2024/02/01 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 20 事 実 及 び 理 由第1 控訴の趣旨1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する令和4年6月23日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 25 第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。)1 本件は、被控訴人の元従業員である控訴人が、発明の名称を「吹矢の矢」と1する特許(特許第4910074号。以下「本件特許」という。)の一部は、控訴人が被控訴人の従業員として行った職務発明であって、その特許を受ける権利を被控訴人に承継させたと主張し、被控訴人に対し、特許法35条3項(平成27年法律第55号による改正前のもの。以下、同条につき同じ。)に基づく5 対価請求として、5000万円(一部請求)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年6月23日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原判決は控訴人の請求を棄却したので、控訴人が原判決を不服として控訴した。なお、控訴人は、控訴に際し、請求金額を1000万円に減縮した。 10 2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、後記3のとおり当審における控訴人の補充主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」第2の2ないし4(2頁6行目から11頁15行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。 3 当審における控訴人の補充主張15 ? 特許法35条は、発明者の利益保護と開発費等のリスク負担をした使用者の利益保護の調和を図った上で、就業規則等において使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定した場合に、発明者に法定の対価請求権を付与した規定であり、このような立法趣旨等に鑑みると、使用者が職務発明に利益を得ている場合に従業員であ20 る発明者が対価を得られる機会を広く保護すべきである。 本件では、被控訴人は本件発明を自己実施し、その実施品を販売することにより多大な利益を得ており、このような独占の利益を与えた本件発明の発明者である控訴人に対して「有益な発明考案をした」(就業規則60条?)ことに基づきクオカードを交付している。 25 このような本件の実質的な側面(被控訴人が、本件発明に基づき独占の利益を得ており、独占の利益を得たことに対して控訴人に対して金品を授与し2ていること)及び前記の特許法35条の立法趣旨を踏まえると、就業規則60条?の形式的な文言にこだわるのではなく、同条?は職務発明に関する規定であると解すべきであり、このような規定に基づいて平成24年6月末にクオカードが交付されている以上、この時点をもって消滅時効の起算点とす5 べきである。 また、原判決の判断は、職務発明規定を設けず、就業規則において表彰という名目の下、表彰内容について詳細な規定を設けず、職務発明に対して他の表彰事由と同様に簡易・一律に取り扱うという発明者にとって不利益な規定に基づいてインセンティブの支払をすれば、職務発明に対する対価の支払10 ではないとして、消滅時効の起算点が特許を受ける権利の承継時点に早まる運用を認めることになり、発明者に対するインセンティブを与えない使用者の方が消滅時効の観点からは手厚い保護がされることになってしまう。しかし、このような結論は特許法35条の立法趣旨からすると妥当ではない。本件のように控訴人が行った職務発明及びその実績に対して金員が支払われた15 ことが明白な事案においては、このような実質的な側面を重視し、規定の名称といった形式がどのようなものかという点を問わず、一律に職務発明の対価に関する規定であるとする方が、発明者保護の観点とともに、従業員に対して手厚いインセンティブを支払う企業もそうでない企業も消滅時効の点で同様の扱いとなるという点からも妥当である。 20 原判決は、就業規則60条には対価の支払時期に関する記載がないことをもって、同規定が対価の支払時期に関するものではないと述べている。しかし、実際の支払の運用を踏まえた場合に対価の支払時期が明確となっているのであれば、このような運用を踏まえて消滅時効の起算点を認定することは何ら問題がない。本件では、甲7(被控訴人の社内報)の3頁の「34期表25 彰」との記載から明らかなように、被控訴人においては、各事業年度が終了して翌事業年度に切り替わる際、具体的には毎年6月末に前年度の表彰を行3っていた運用が認められ、就業規則上の表彰に関する規定と上記運用を踏まると、被控訴人においては職務発明対価の支払時期に関する定めがあったといえる。 ? 最高裁昭和40年(行ツ)第100号昭和45年7月15日大法廷判決・5 民集24巻7号771頁は、民法166条1項(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)の権利を行使することができる時とは、単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく、権利の性質上、その権利行使が現実に期待できるものであることを必要とすると述べている。 10 最高裁平成元年(オ)第1667号平成6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁、最高裁平成4年(オ)第701号平成8年3月5日第三小法廷判決・民集50巻3号383頁、最高裁平成12年(受)第485号平成15年12月11日第一小法廷判決・民集57巻11号2196頁も、権利を行使することができる時につき、法律上の障害のみならず事実15 上の障害が無くなった場合を指すと判断しており、学説においても、法律上の障害のみならず事実上の障害が無くなった場合をもって消滅時効の起算点とすることが一般的な規範として論じられている。 原判決は、民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、 法律上の障害がなくなった時を指し、事実上の障害がある場合は含まないと20 判断しているが、この判断は上記各最高裁判例や学説(通説)に反するものである。 本件では、被控訴人と控訴人には使用者と従業員という力関係があり、控訴人が在職中に使用者に対して自由な意思表示をすることは原則として不可能であり、特に典型的なオーナー企業・ワンマン企業である被控訴人におい25 ては、従業員が使用者あるいは代表者に対して自由に意見を言える環境ではなかったのであり、このような状況において、被控訴人が控訴人に対して在4職中に職務発明対価請求権を放棄する旨の本件同意書に捺印を要求し、控訴人としてこれに応じざるを得なかったため、控訴人は職務発明対価請求権の行使は不可能であると誤信し、少なくとも在職中には対価請求権の行使を検討することは現実的に期待できなかったとの特殊な事情がある。この事情を5 踏まえると、本件において「権利を行使することができる時」とは、控訴人が被控訴人を退職した時点、あるいは、どんなに早くても、本件同意書の有効性について検討するのに必要な合理的な検討時間である捺印後6か月経過後であるといえ、本件では消滅時効は完成していない。 ? 甲6の表彰状に記載された表彰の理由に基づき、「有益な発明考案をした」10 との本件就業規則60条?に基づきクオカードが交付されたという本件の実質的な側面からすれば、上記クオカードの交付は債務の一部承認として消滅時効が中断するというべきである。 ? 権利濫用の抗弁に関し、原判決は、令和3年4月に控訴人が代理人に委任して職務発明対価請求に関する通知書を発していたことをもって、この時点15 で訴訟を提起することが可能であったと論じている。 しかし、本件のような職務発明対価請求権の放棄に関する書面の有効性は、 関連する従前の裁判例がなく、検討に時間を要する事案であり、かつ、元従業員である控訴人が使用者であった被控訴人に対して代理人に委任して権利行使をするのは物理的にも精神的にも負担が大きい事案である。 20 さらに、被控訴人は、従業員である控訴人が在職中に使用者に対して自由な意思表示をすることが原則として不可能である等の状況を利用し、被控訴人が控訴人に対して在職中に本件同意書に捺印を要求し、控訴人としてこれに応じざるを得なかったため、控訴人は職務発明対価請求権の行使は不可能と誤信等させることにより、控訴人による対価請求権の権利行使を同人が平25 成30年に退職するまで約6年間不可能とさせるという利益を得ている。 このような被控訴人の行為の悪質性や、被控訴人が得た利益と、前述の控5訴人の権利行使の困難性や、控訴人が令和3年5月に被控訴人からの回答受領後同年9月に時効が完成するまでの約4か月という短期間に権利行使を要求することの不当性を総合考慮すると、本件において被控訴人が消滅時効の完成を主張することは権利濫用に当たるというべきである。 5 第3 当裁判所の判断当裁判所も、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。 その理由は、後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第3(11頁17行目から15頁6行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 10 1 原判決の補正? 原判決11頁20行目から同頁26行目までを次のとおり改める。 「ア 勤務規則の定め等に基づき職務発明について特許を受ける権利を使用者に承継させた従業者は、特許を受ける権利を使用者に承継させたときに、 使用者に対する相当の対価の支払請求権を取得するが(法35条3項) 勤、 15 務規則等に対価の支払時期が定められているときは、当該定めによる支払時期が到来するまでの間は、相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして、その支払を求めることができないというべきであるから、勤務規則等に、使用者が従業者に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には、その支払時期が相当の対価の支20 払請求権の消滅時効の起算点となる(最高裁平成13年(受)第1256号平成15年4月22日第三小法廷判決 民集57巻4号477頁) 他方、 ・ 。 勤務規則等にこのような支払時期に関する条項がない場合には、原則として、従業者が相当の対価の支払請求権を取得したとき、すなわち、従業者が特許を受ける権利を使用者に承継させたときが相当の対価の支払請求権25 の消滅時効の起算点となると解される。」? 原判決13頁6行目から同頁11行目までを次のとおり改める。 6「また、『権利を行使することができる』(平成29年法律第44号による改正前の民法166条1項)とは、その権利の行使につき法律上の障害がないこととともに、権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要とすると解されるが(最高裁昭和40年(行ツ)第100号5 昭和45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁、最高裁平成4年(オ)第701号平成8年3月5日第三小法廷判決・民集50巻3号383頁等)、本件就業規則60条が職務発明の対価やその支払時期について定めた規定ではないとすれば、仮に、被控訴人において毎年6月末に前年度に生じた事由に関する表彰を行うとの慣行があるとしても、被控訴人の従業者10 が職務発明について特許を受ける権利を被控訴人に承継させた場合に、その承継の時点の翌年度の6月末まで、従業者が被控訴人に対して職務発明に係る相当の対価の支払請求権を行使することを現実に期待し得ないとはいえない。」? 原判決14頁17行目冒頭から同頁19行目の「ではない。 までを次のと」15 おり改める。 「この点、控訴人は、その陳述書(甲13)において、本件同意書の提出の経緯に関し、被控訴人の経理部長から本件同意書を渡され、記名捺印して提出するよう言われ、意見交換や内容に関する協議の機会は与えられず、提出が当たり前という言い方で、発明者としての報酬や権利を主張してはならな20 い理由についての説明はなかったと述べるが、本件同意書の作成を強制されたとは述べておらず、そのような強制がされたとは認められない。控訴人は、 上記陳述書において、控訴人が被控訴人に在籍していた当時、被控訴人の社内では、会長や社長を常に立て、功績は全て会長や社長のものとしなければならない風潮があり、被控訴人は典型的なオーナー企業であって、従業員が25 会社に自由な意見を言うことができなかった旨も述べているが、この陳述する内容について客観的な裏付けはなく、上記陳述の内容を採用することはで7きない。」2 当審における控訴人の補充主張に対する判断? 前記第2の3?の主張について控訴人は、本件就業規則60条?は職務発明に関する規定であると解すべ5 きであり、このような規定に基づいて平成24年6月末にクオカードが交付されている以上、この時点をもって消滅時効の起算点とすべきであると主張する。 しかし、本件就業規則60条は、 「表彰」に関する規定であると明示され、 その表彰事由は職務発明に関するものだけでなく業務上の功績と認められる10 事情が広範に表彰の対象とされており、表彰として経済的利益を供与すると決められていることはなく、表彰の内容や時期についても同条その他本件就業規則において定められていないことからすれば、同条?が職務発明の対価に関する規定であると解することができないのは、補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の1?ウの説示のとおりであり、被控訴人が本件発15 明に基づく利益を得たこと及び被控訴人が控訴人に対して金銭的価値を有するプリペイドカードの一つであるクオカードを支給したことをもって、同条?を職務発明の対価に関する規定であると解することはできない。 勤務規則等において職務発明に係る対価の支払に関する規定が存在する場合でも、支払時期の定めがなければ、職務発明について特許を受ける権利20 を使用者に承継させた従業者は、権利の承継の時点から使用者に対して職務発明対価請求権を行使することができるから、原則として同時点が消滅時効の起算点となる。勤務規則等において支払時期の定めがあるときに、上記支払請求権の消滅時効の起算点が当該支払時期となるのは、同支払時期までは権利行使について法律上の障害があり、上記支払請求権を行使することがで25 きないことによる(補正後の原判決第3の1?ア) これらの事情からすれば、 。 本件において控訴人の被控訴人に対する相当の対価の支払請求権の消滅時効8が特許を受ける権利の承継の時点から進行すると解することが、発明者に対するインセンティブを与えるために職務発明対価請求に関する規定を定めた使用者に比べ、発明者に対するインセンティブを与えない使用者である被控訴人に対して消滅時効の起算点に関して手厚い保護を与える結果となって不5 当であるとはいえない。 被控訴人において、本件就業規則60条に基づく表彰を毎年6月末に行う運用又は慣行があったとして、そのことは、同条?の規定が職務発明に係る対価の支払に関する規定であると解する根拠とはならない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 10 ? 前記第2の3?の主張について控訴人は、本件において「権利を行使することができる時」(民法166条1項)とは、控訴人が被控訴人を退職した時点、あるいは、どんなに早くても、本件同意書の有効性について検討するのに必要な合理的な検討時間である捺印後6か月経過後であるから、本件では消滅時効は完成していないと主15 張する。 しかし、 「権利を行使することができる」とは、その権利の行使につき法律上の障害がないこととともに、権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要とすると解されるが(補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の1?ウ)、権利行使について事実上の障害がある20 場合に常に「権利を行使することができる時」に当たらないことにはならない。 控訴人が被控訴人の従業員であったことをもって直ちに退職前に職務発明対価請求権の行使が現実に期待できなかったとはいえない。控訴人の陳述書(甲13)には、被控訴人は典型的なオーナー企業であって、従業員が会25 社に自由な意見を言うことができなかった旨の陳述があるが、客観的裏付けがなくこの陳述を採用することはできないことは、補正の上で引用した原判9決「事実及び理由」第3の1?の説示のとおりである。 したがって、控訴人が主張する内容を考慮しても、控訴人が被控訴人を退職するまで、被控訴人に対して職務発明対価請求権を行使することが現実に期待できなかったと解することはできない。 5 また、本件同意書の有効性について検討する必要があるために、本件同意書に控訴人が捺印した後6か月が経過するまで、職務発明対価請求権の行使が現実に期待できなかったと解すべき根拠となる事情は認められない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ? 前記第2の3?の主張について10 控訴人は、被控訴人の控訴人に対するクオカードの交付は、職務発明対価の支払債務の一部承認であり、消滅時効が中断すると主張する。 しかし、本件就業規則60条が表彰制度について定めた規定であり、クオカードはこの規定に基づき交付されたものであること、及び、このクオカードの交付に先立って控訴人が被控訴人に本件同意書を提出しており、控訴人15 及び被控訴人のいずれも、控訴人が職務発明対価請求権を放棄したと認識していたのであり、その状況の下でクオカードの交付がされたことからすれば、 クオカードの交付を職務発明の対価の支払であると認めることはできず、職務発明対価の支払債務の一部承認であると解することもできない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 20 ? 前記第2の3?の主張について控訴人は、被控訴人が消滅時効の完成を主張することは権利濫用に当たると主張する。 しかし、本件同意書の作成に当たり、控訴人が、被控訴人の代表者又は従業員から、同意書の作成を強制された事実が認められないこと、控訴人の陳25 述書(甲13)には、被控訴人は典型的なオーナー企業であって、従業員が会社に自由な意見を言うことができなかった旨の陳述があるものの、この陳10述内容について客観的な裏付けはなく、上記陳述の内容を採用することはできないことは、補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の1?の説示のとおりであり、被控訴人が従業員である控訴人が在職中に使用者に対して自由な意思表示をすることが不可能である等の状況を利用し、被控訴人が5 控訴人に対して在職中に本件同意書に捺印させたとは認められない。 控訴人が、被控訴人の従業員であることにより、心理的・精神的に職務発明対価請求権の行使が困難であると感じていたとしても、そのことをもって、 被控訴人による消滅時効の援用が権利濫用であるとはいえない。 まして、控訴人は、被控訴人を退職した後に被控訴人に対して内容証明郵10 便により本件各発明に係る相当の対価の支払を求めており、この支払請求は被控訴人の令和3年5月14日付け回答書により拒絶されたが(前提事実?)、 控訴人が上記回答書を受領した時点では、遅くとも控訴人が本件各発明に係る特許を受ける権利を被控訴人に承継したと認められる平成23年9月13日から10年を経過していなかったから、控訴人の被控訴人に対する職務発15 明対価請求権の消滅時効が完成していたとは認められない。それにもかかわらず、控訴人は、令和4年6月1日まで本件訴訟を提起しなかった(当裁判所に顕著な事実) 上記内容証明郵便は弁護士。 (本件の控訴人訴訟代理人弁護士)が控訴人の代理人として送付しており(甲3の1)、控訴人が、上記内容証明郵便の送付の時点までに、被控訴人に対する職務発明対価請求に関して20 弁護士に相談していたと認められるのであって、これらの事情によれば、控訴人が、弁護士にも相談した上で、自らの判断で、前記回答書の送付から約1年後に本件訴訟を提起したものと認められる。控訴人は、陳述書(甲15)において、本件同意書が無効であるといえるのか自信をもてず、弁護士費用を払って訴訟を提起することを躊躇していたため、令和4年6月まで訴訟を25 提起することができなかったと陳述するが、仮にこの陳述どおりであったとしても、そのことをもって、被控訴人による消滅時効の援用が権利濫用に当11たるとはいえない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ? その他、控訴人が縷々主張する内容を検討しても、当審における上記認定判断(原判決引用部分を含む。)は左右されない。 5 3 結論以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、 本件控訴は理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 10 知的財産高等裁判所第3部15 裁判長裁判官東 海 林 保20裁判官今 井 弘 晃2512裁判官水 野 正 則13 |
事実及び理由 | |
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全容
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