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事件 令和 5年 (ワ) 70454号 特許権侵害等請求事件
5
原告X
被告 株式会社AbemaTV
同訴訟代理人弁護士 奥田洋一10 飯塚卓也佐々木奏
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2024/02/09
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
15 事 実 及 び 理 由第1 請求被告は、原告に対し、160万円を支払え。
第2 事案の概要本件は、発明の名称を「検査分析のサービスを提供するシステムおよび方法」20 とする特許第4253793号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告に対し、動画配信サービスであるYouTubeに動画広告を掲載する等の方法(以下「被告方法」という。)が、本件特許の特許請求の範囲の請求項5記載の発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属するから、被告方法の使用は本件特25 許権を侵害すると主張して、民法709条不法行為による損害賠償請求権に基づき、同不法行為によって被った損害の一部である160万円の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によ1り容易に認められる事実)(1) 当事者ア 原告は、本件特許権を有していたが、本件特許権は、令和5年7月23日に存続期間満了により、消滅した(甲1)。
5 イ 被告は、動画配信事業を営んでいる株式会社である。
(2) 本件特許原告は、平成15年7月23日、本件特許に係る特許出願をし、平成21年2月6日、本件特許権の設定登録(請求項の数12)を受けた(甲1。以下、本件特許の特許出願の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明10 細書」という。また、明細書の発明の詳細な説明中の段落番号を【0001】などという。。
)(3) 本件発明ア 本件特許の特許請求の範囲の請求項5(本件発明)の記載は、次のとおりである(甲1)。
15 「ネットワークに接続可能なユーザ端末からの、地理的に離れて設置された検査分析装置に対するリモート操作による検査分析のサービスを提供する方法であって、
前記ネットワークに接続されたユーザガイドサーバが、前記ネットワークに接続されたユーザ端末に対して、前記検査分析の処理内容および処20 理費用を含む案内情報を提示するステップと、
前記ユーザガイドサーバが、前記ユーザ端末を介してユーザからの検査分析要求を受けたときに、仮のユーザID およびパスワードを発行するステップと、
前記ユーザガイドサーバが、前記仮のユーザID およびパスワードを25 取得したユーザに対して、当該ユーザ端末を用いた前記検査分析装置のリモート制御の可否をユーザが評価できるように、前記検査分析装置の模擬操作を実行する、当該ユーザガイドサーバが有する模擬操作プログラムの、前記仮のユーザID およびパスワードを用いた起動を許容する2ステップと、
前記ユーザガイドサーバが、前記ユーザ評価の結果、当該ユーザ端末を介して正式検査分析の要求がユーザからなされた時に、当該正式要求を受けて、ユーザ認証のための認証用のユーザID およびパスワードを発5 行するステップと、
前記ネットワークに接続されたユーザ認証サーバは、前記認証用のユーザID およびパスワードを用いて当該ユーザ認証サーバにアクセスしたユーザに対し、当該ユーザ端末と前記検査分析装置との通信を可能とするステップと、
10 前記検査分析装置は、前記ユーザ認証サーバを介して接続されたユーザ端末によってリモート操作されるステップと、
を含むことを特徴とする検査分析のサービスを提供する方法。」イ 本件発明は、次のとおり、構成要件に分説することができる(以下「構成要件A」などという。。
)15 A ネットワークに接続可能なユーザ端末からの、地理的に離れて設置された検査分析装置に対するリモート操作による検査分析のサービスを提供する方法であって、
B 前記ネットワークに接続されたユーザガイドサーバが、前記ネットワークに接続されたユーザ端末に対して、前記検査分析の処理内容お20 よび処理費用を含む案内情報を提示するステップと、
C 前記ユーザガイドサーバが、前記ユーザ端末を介してユーザからの検査分析要求を受けたときに、仮のユーザIDおよびパスワードを発行するステップと、
D 前記ユーザガイドサーバが、前記仮のユーザIDおよびパスワード25 を取得したユーザに対して、当該ユーザ端末を用いた前記検査分析装置のリモート制御の可否をユーザが評価できるように、前記検査分析装置の模擬操作を実行する、当該ユーザガイドサーバが有する模擬操作プログラムの、前記仮のユーザIDおよびパスワードを用いた起動3を許容するステップと、
E 前記ユーザガイドサーバが、前記ユーザ評価の結果、当該ユーザ端末を介して正式検査分析の要求がユーザからなされた時に、当該正式要求を受けて、ユーザ認証のための認証用のユーザIDおよびパス5 ワードを発行するステップと、
F 前記ネットワークに接続されたユーザ認証サーバは、前記認証用のユーザIDおよびパスワードを用いて当該ユーザ認証サーバにアクセスしたユーザに対し、当該ユーザ端末と前記検査分析装置との通信を可能とするステップと、
10 G 前記検査分析装置は、前記ユーザ認証サーバを介して接続されたユーザ端末によってリモート操作されるステップと、
H を含むことを特徴とする検査分析のサービスを提供する方法。
(4) 被告の行為被告は、YouTubeなどの動画配信サイトにおいて動画広告を投稿す15 るとともに、被告が管理運営する動画配信サイトAbemaTV(以下「被告サイト」という。)において動画を配信している。
2 争点(1) 被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)(2) 損害の発生の有無及び損害額(争点2)20 第3 争点に関する当事者の主張1 争点1(被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか)について(原告の主張)(1) 「検査分析装置」及び「検査分析」の文言は、本件明細書の図面(別紙図面目録1ないし8参照)の記載を考慮して解釈されるべきである。そうする25 と、「検査分析装置」は、「インターネットを介したリモート操作が検査分析の対象となるコンピュータ装置であり、当該検査分析に異常がないことを条件とし、リモート操作した情報を提供するコンピュータ装置」であり、「検査分析」は、「インターネットを介した検査分析装置に対するリモート操作4に異常がないかの検査分析」であると解すべきである。
(2) 被告方法すなわち被告サイトに係る動画広告及び正規動画を提供する方法は、次のとおり、本件発明の技術的範囲に属する。
@被告がYouTubeにおいて投稿した動画広告には、被告の提供す5 る有料動画視聴サービスであるAbemaプレミアムの費用等の案内情報が提示され(構成要件A及びBに相当)、A動画広告の視聴者(以下、被告方法に係る動画広告又は正規動画の視聴者を「視聴者」又は「ユーザ」と呼ぶことがある。)は、「ユーザガイドサーバ」に相当するYouTubeサーバから、仮のユーザID及びパスワードを発行され(構成要件Cに相当)、B10 同仮のユーザID及びパスワードを入力することにより、検査分析装置の模擬操作プログラムを起動し、動画広告に異常がないかどうかをコメントすることにより検査分析を行い(構成要件Dに相当)、C動画広告には、被告サイトをリンク先とするリンクが投稿されており、ユーザが同リンクを押下すると、被告サイトに遷移し、Abemaプレミアムへの会員登録ができるよ15 うになり、ユーザが同会員登録の申込みをすると、認証用のユーザIDとパスワードが発行され(構成要件Eに相当)、DAbemaプレミアムのユーザ認証サーバは、上記CのIDとパスワードを入力したユーザ端末と、被告の管理するコンピュータ装置との通信を可能にし(構成要件Fに相当)、E被告のコンピュータ装置は、リモート操作(動画配信)を検査分析対象とし、
20 F上記@ないしEの特徴を有する動画配信サービスを提供する(構成要件Hに相当)。
(3) 以上によれば、被告方法は、「検査分析装置」及び「検査分析」の構成を備え、構成要件AないしHをいずれも充足する。
(被告の主張)25 (1) 被告方法が「検査分析のサービスを提供する方法」(構成要件A及びH)ではないことについて本件明細書の記載によれば、本件発明の技術分野は、「半導体集積回路装置、撮像素子、および表示デバイスの開発、製造などの検査分析工程で用い5られる走査型電子顕微鏡(SEM)、共焦点レーザ顕微鏡などの検査分析装置の利用方法に関し、特に、地理的に離れた複数ユーザ側に対し、セキュリティを確保し、ユーザへユーザ試料の検査分析データを効率よく提供する検査分析技術に関する」 【0001】( )ものであって、本件発明の目的は、「半5 導体集積回路装置などの開発、製造を効率的に行うために用いられる検査分析工程において、低コストで効率的に検査分析が行える技術を提供すること」(【0015】)である。そして、本件明細書には、検査分析装置や検査分析工程について、半導体集積回路装置などの開発、製造を効率的に行うために用いられる、リモート操作でデバイスの検査分析装置を使用できるサービス10 やシステムに関する記載しか存在しない。
これに対し、被告方法は、一般視聴者に何らかの検査分析を低コストで行うことができるような「検査分析のサービスを提供する方法」を提供するものではないから、構成要件A及びHを充足しない。
(2) 被告方法が「検査分析装置」(構成要件A、D、F及びG)や「検査分析」15 (構成要件A、B、C、E及びH)の構成を備えないことについてア 本件発明の「検査分析装置」や「検査分析」とは、走査型電子顕微鏡などの検査分析対象となる試料を装填等して検査分析を行う検査分析ユニットを有する装置や同検査分析工程を意味するところ、被告が提供するサービスには、このような装置や工程は一切存在しない。
20 したがって、この意味でも、被告方法は構成要件AないしHを充足しない。
イ 原告は、何かしらの装置に対するリモート操作自体が、構成要件A、B、
C、E及びHの「検査分析」の対象であって、「検査分析」は、「検査分析装置」を使用して行われる検査分析とは異なるという解釈をしようとして25 いるものと解される。
しかし、構成要件Aは、「…検査分析装置に対するリモート操作による検査分析のサービスを提供する方法」と規定しており、「リモート操作」自体が検査分析の対象であるという解釈は採用できず、原告の主張は理6由がない。
(3) 被告方法が、2段階でID及びパスワードを発行するものではなく、構成要件C及びEを充足しないことについて動画広告はYouTubeなどの被告以外の配信事業者が、正規動画は被5 告が、それぞれの配信主体となって、ユーザに動画を提供するものであり、
両者は、別個独立の事業者により運営されているサービスであって、被告は、
動画広告をYouTube等に投稿しているにすぎない。
そして、動画広告はYouTubeなどの被告以外の配信事業者のサーバに格納され、正規動画は被告のサーバに格納されており、動画広告と正規動10 画は、一体ではなく、連動するものでもない。
また、被告の正規動画を視聴するためには、契約を締結する必要はなく、
ブラウザやアプリから特定のURLに接続すれば足りる。
そのため、被告方法には、ユーザガイドサーバが、「仮のユーザIDおよびパスワードを発行するステップ」(構成要件C)と、「ユーザ認証のための15 認証用のユーザIDおよびパスワードを発行するステップ」(構成要件E)という2段階でユーザID及びパスワードを発行するステップは存在しない。
したがって、被告方法は、構成要件C及びEも充足しない。
2 争点2(損害の発生の有無及び損害額)について(原告の主張)20 被告が、被告方法を使用することにより、初めてユーザの信頼を得ることができたといった事情等を考慮すると、本件発明の実施料率を10%と算定するのが相当である。
よって、被告は、原告に対し、令和2年から令和4年までの間に被告が得た売上げの額と令和5年に被告が得た売上げを日割計算した額とを合計した額の25 10%を支払う義務を負う。
(被告の主張)争う。
第4 当裁判所の判断71 本件明細書の記載事項等(1) 本件明細書(甲1)には、次のような記載がある(ただし、引用されている図面1、3、4及び5は、別紙図面目録記載のとおりである。。
)ア 【技術分野】5 【0001】半導体集積回路装置、撮像素子、および表示デバイスの開発、製造などの検査分析工程で用いられる走査型電子顕微鏡(SEM)、共焦点レーザ顕微鏡などの検査分析装置の利用方法に関し、特に、地理的に離れた複数ユーザ側に対し、セキュリティを確保し、ユーザへユーザ試料の検10 査分析データを効率よく提供する検査分析技術に関する。
【背景技術】【0004】半導体ウェハ、半導体チップなどの検査分析においては、検査分析対象となる試料と検査分析装置の性能が合致しないと全く有効な検査分析15 とならない。このため、これらのレーザビーム、電子ビームなどを用いた検査分析装置は、検査分析対象である半導体集積回路の微細化、高集積化に相応して、検査分析の高性能化が要求されてきた。
また、半導体ウェハ、半導体チップの検査分析においては、分析結果だけでなく、何を分析しようとしているか、分析対象を含めて、競合す20 る半導体メーカに対して重要な機密事項になる。このため、半導体メーカにおいては、半導体デバイス世代に合せて、個々に検査分析装置を買い揃えることが行われてきた。
【0005】検査分析装置は、より高い検査分析性能を得るための技術開発、装置25 製造コストを回収するため、検査分析装置自体が益々高額になってきた。
目的に応じて多種に分かれた検査分析装置の操作ができるだけでなく、
検査分析対象である半導体集積回路装置は微細化と高集積化が進展し、
半導体製造プロセス材料にも熟知したエキスパートが必要となったため、
8人件費コストも増加している。
このようなことから、半導体ウェハ、半導体チップの検査分析においては、そのコスト増が著しく、半導体集積回路装置の開発、製造コストの増大の要因になっている。
5 イ 【発明が解決しようとする課題】【0013】半導体集積回路の開発、製造を効率よく進めるには、集積回路を形成した半導体チップや半導体ウェハの検査分析において、回路パターンの微細化および高集積化に伴って以下のような問題を生ずることを本発明者10 は見出した。
すなわち、回路パターンの微細化および高集積化の進展が早いため、先端半導体集積回路装置の開発では、最小パターン寸法が0.1ミクロン以下となり、例えば、それに合う高分解能の性能を有するSEMが必要となるが、量産時に比べ、使用頻度は多くならない。
15 これは、開発時点で当該性能のSEMを導入したとすれば、装置の利用効率よくないことになる。結果として、新規の半導体集積回路の開発コストが増加することになる。
【0014】また、検査分析装置の市場規模が小さいために、検査分析装置開発費20 用がかさみ、その結果、SEMなどの検査分析装置は高価となっている。
このような検査分析装置を持てない一般の研究者、開発技術者、中小企業メーカにおいても、検査分析装置を使うことができないユーザは、ますます使うことができなくなるという問題があった。
【0015】25 本発明の目的は、半導体集積回路装置などの開発、製造を効率的に行うために用いられる検査分析工程において、低コストで効率的に検査分析が行える技術を提供することである。
また、本発明の他の目的は、効率的に検査分析するための検査分析装9置を提供することである。
また、本発明の他の目的は、検査分析装置を持てない研究者、開発技術者、中小企業メーカが他と関係なく、契約を基にして、コンピュータネットワークを用いて、検査分析装置を個々のユーザの秘密裏に個別使5 用を可能とする技術を提供することにある。
ウ 【課題を解決するための手段】【0016】本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
10 すなわち、本発明は、検査分析を希望するユーザの検査分析をユーザがリモート操作して行うか、またはユーザが作成した検査分析のための操作レシピーデータに従って行い、検査分析データは通信ネットワーク手段を用いて早くユーザへ提供するものである。例えば、競合関係にある複数半導体メーカの半導体ウェハの検査分析を請負い、従来、集積回15 路の微細化の進展、新規プロセスの導入に伴って、各半導体メーカそれぞれが個別に装置導入を図る必要がなくなり、検査分析に要するコストを下げるものである。すなわち、有料となるにしても、従来より、大幅に検査分析コストを下げたオープンラボを実現するものである。
【0017】20 上記の検査分析には、検査分析装置の管理者側と検査分析ユーザ側のそれぞれに、セキュリティ確保手段を講じている。従来は、ある特定の検査分析装置の導入情報が分かると競合するメーカの技術開発動向がある程度予想することができた。前記のセキュリティ確保により、本発明の検査分析を実施したこと自体も競合メーカに知れることはない。また、
25 使用頻度が少なければ、個々のユーザ毎に、特別な検査分析装置の導入が不要となる。
【0018】検査分析装置の管理者側は、インターネットに接続されたユーザガイ10ドサーバにて、検査分析を希望するユーザに対し、検査分析費用の処理方法を含めてユーザと確認し合い、その後に、ユーザID登録し、パスワードを発行する。ユーザガイドサーバとは別のユーザ認証サーバにて、
このユーザID、パスワードによりユーザ認証を行う。ユーザ認証サー5 バとユーザガイドサーバとを完全分離することで、第三者からの本システムへの攻撃を防ぐようにした。ユーザ認証をパスしなければ真のユーザにならなく、ユーザ認証サーバに接続された検査分析装置は、その存在も分からない。
ユーザ認証でOKとなったユーザは、指定された検査分析装置のユー10 ザのリモート操作によるリアルタイム制御、またはユーザ作成の操作レシピーデータに従った制御が可能となる。
【0019】本発明の検査分析装置は、ネットワーク接続された別のコンピュータから、制御できることの他、自動的に暗号付加されたデータに対し、ユー15 ザが復号の鍵を持つ機能を設けたものである。ここで、暗号化は、検査分析の出力データを何らかの規則に従って変換し、そのままでは第3者にとって何を意味しているかわからないデータに変換することを示す。
また復号は、何らかの規則(最初の規則と同一でなくてもよい)によって元の暗号化前の出力データに復元できることを示す。
20 【0020】検査分析ユーザは、検査分析の際に、検査分析試料の他、検査分析の出力データに付加される暗号指定した検査分析のための操作レシピーデータを検査分析装置へ入力する。
検査分析装置の管理者側は、個々の検査分析データについては、関与25 しないで、検査分析装置が所定の性能を維持するように管理を行う。これにより、検査分析装置の管理者は、検査分析装置の性能維持管理ができればよく、例えば、検査分析対象であった半導体集積回路の製造プロセスに熟知したエキスパートでなくてよくなり、人件費コストが削減で11きる。
【0021】本件発明を円滑に進めるには、検査分析サービス内容とそれに対応した処理費用を含む案内をインターネットなどで提示し、ユーザによく知ら5 せる必要がある。また、前記検査分析装置の管理者側は、検査分析ユーザが通信ネットワークを介して検査分析装置をリモート操作することに伴うセキュリティ確保のため、ユーザ認証を行うことをユーザに知らせる必要がある。
また、ユーザ側より受け取った検査分析試料が検査分析装置へ装填され、
10 所望の検査分析ができるようユーザ側へ検査分析条件を通知する必要がある。
【0023】ユーザは、本件の検査分析装置に対し、暗号化指定を含むユーザ側コンピュータによるリアルタイムでリモート操作するか、または暗号化指定15 を含む事前作成した操作レシピーデータを検査分析装置へ送付しておく必要がある。前記の暗号化指定は、ユーザ側が暗号化データを復元させるための鍵であり、検査分析処理の結果得られた検査分析データのセキュリティ確保するために必要である。
【0024】20 本件発明の検査分析は、細く絞ったレーザビームを試料面へ照射してその反射光、散乱光、透過光の少なくとも一つを検出すること、または電子ビームを照射して二次電子、散乱電子、透過電子の内の少なくとも一つを検出することにより、試料上の所望の箇所を分析するものである。
【0025】25 本件発明の検査分析方法は、複数ユーザに対し、離れた場所にある検査分析装置を共用して利用可能とし、検査分析試料を検査分析装置に装着した際に、検査分析箇所が容易に判断できるように、検査分析試料の光学画像、または検査分析試料上の分析位置座標情報(分析試料を保持12する駆動ステージ座標系の位置情報)をユーザ側へ提供するものである。
エ 【発明の効果】【0026】本件発明により、検査分析を所望する複数ユーザに対し、ユーザは個別5 に検査分析装置の導入のための投資することなく、ユーザ試料の検査分析が効率よく行うことが可能となった。
また、半導体集積回路を形成した試料などの検査分析を希望するユーザは、セキュリティの確保が重要であり、本発明により、これが実現できた。
10 また、検査分析装置の管理エキスパートと、検査分析の対象である試料、
例えば半導体集積回路の製造プロセスに熟知したエキスパートとを役割分担することで、人件費コストの削減を可能とした。
公共施設にある検査分析設備などの国有財産が広く国民に開放され、共有使用が行え、大学などの検査分析設備の投資効率を向上させることが15 できる。
オ 【発明を実施するための最良の形態】【0027】…なお、本発明の実施の形態において、半導体ウェハとは半導体集積回20 路装置の製造に用いるシリコンその他の半導体単結晶基板(一般にほぼ円形)、サファイア基板、ガラス基板その他の絶縁、反絶縁または半導体基板等、並びにそれらの複合的基板であり、絶縁層、エピタキシャル半導体層、その他の半導体層および配線層などを形成して集積回路を形成しているものとする。また、半導体チップとは、半導体ウェハから個25 別の半導体集積回路装置に分割されたもの、パッケージに搭載されたものも含むとする。本件の検査分析の対象は、半導体ウェハ、半導体チップに限定されるものでないが、以下説明の都合により、検査分析対象が半導体ウェハとして説明する。
13【0028】(実施の形態1)本発明者は、半導体集積回路の微細化および高集積化に伴い、半導体集積回路装置の開発、製造などに用いる検査分析を低コストで効率良く実5 施することを目的として、次のような観点で解決手段を検討した。
前提として、不特定多数のユーザ(顧客)より検査分析試料を受け取り、
効率的に検査分析を行う。ここで、検査分析は、半導体製造に合せた検査分析の条件設定をユーザ側が決め、ユーザの検査分析のための操作レシピーデータとして提供を受ける。すなわち、検査分析装置の管理者側10 は、これまでに確立された検査分析技術の事例は、これを熟知していないユーザ側に提示するが、ユーザの個別試料の内容について熟知する必要がないことを前提とした。これにより、検査分析装置の効率的な運用が行える。また、検査分析を希望するユーザに対しては、インターネット等のような通信回線を介し、検査分析結果の出力データを短時間で提15 供するものである。」【0030】ユーザガイド用サーバは、図1に示すように、インターネットなどの通信手段を介して、ユーザのワークステーション、PC(パソコン)などと接続され、本発明の検査分析の準備作業であるセキュリティ確保とリ20 モート操作を円滑に進めるために設けた。…【0031】第一段階として、図3の1に示すように、ユーザガイド用サーバにより、
本件の検査分析の処理内容と処理費用を含む案内を提示した。
以下は、図3の2に示す段階で、本件によりユーザに提供されるサービ25 スが、ユーザに受け入れられることを前提として説明する。ユーザにとっては、高価な検査分析装置を所有することにメリットがあるのでなく、
ユーザの試料を低コストで検査分析を早くすることにメリットがあるからである。
14【0032】本件の検査分析サービスに対し、ユーザがメリットを認め、図3の3に示すように、ユーザがユーザガイド用サーバにアクセスし、ユーザが検査分析要求することで第二段階になる。
5 【0033】第三段階として、図3の4に示すように、ユーザのアクセスにより、ユーザガイド用サーバにて、ユーザ認証のための、仮のユーザID登録とパスワードを発行した。
【0034】10 第四段階として、ユーザが、仮のユーザ名と仮のパスワードを用いて、
図3の5、6に示すように、ユーザガイド用サーバに構築された検査分析装置の模擬操作プログラムを起動させ、ユーザ自身でユーザのワークステーションまたはパソコンを用いて、検査分析装置のリモート制御できるか、否か、確認できるようにした。ユーザのワークステーションま15 たはパソコンは、個人所有の検査分析装置を操作しているように動く。
また、ユーザ自身が検査分析のための操作レシピーデータを作成し、作成した操作レシピーデータに問題がないかチェックできるようにし、さらに、後で、前記作成した操作レシピーデータによる検査分析が実際に使えるようにした。
20 【0035】第五段階としては、図3の7、8、9に示すように、上記の模擬操作プログラムにより、検査分析結果のユーザ評価がOKとして、以下の処理を行った。
ユーザより検査分析の正式要求を受け、ユーザ認証のための、ユーザに25 対して、ユーザIDとワンタイムパスワードを発行した。その際に、ユーザと検査分析装置の管理者側の請負者と守秘契約、費用支払い方法などを取り決めた。ワンタイムパスワードは、指定した日時のみ有効パスワードとなるようにしたものである。
15図4に示したように、上記第一段階から第五段階までの主な処理は、ユーザガイドサーバにより、行った。リピートオーダー処理の場合は、ユーザと検査分析装置の管理者側の請負者と守秘契約、費用支払い方法などは簡略化することが可能である。
5 【0036】第六段階として、ユーザIDとワンタイムパスワードを得たユーザに対し、図5に示したように、ユーザ認証サーバを介して、検査分析装置のワークステーション1との通信が可能とした。
ユーザIDとパスワードを得たユーザに対し、図3の10、11、12、
10 13に示すフローの処理が行われるのであるが、検査分析装置側が提供できるスケジュールに従って、ユーザが使用登録することで、ユーザと検査分析装置の使用可能時間とのすり合せを行った。ユーザと検査分析装置側とのすり合せは、共同設備の利用予約などと同じように、検査分析装置側のサービス提供可能なスケジュールが、検査分析装置毎にコン15 ピュータ上に構築されており、これにユーザの都合がいい時間をユーザが決めるようにするスケジュール登録システムを構築して行った。スケジュール登録された段階で、検査分析装置側の検査分析請負者は、ユーザから検査分析試料を受け取り処理した。
【0037】20 装置管理者側の請負者は、登録されたスケジュールに従い、検査分析装置へ試料を装着した。上記の第六段階で、図5に示すように、ユーザ側のワークステーションまたはパソコンにより、ユーザ認証サーバを介して、検査分析装置の制御用ワークステーションにアクセス可能となり、
検査分析装置の制御が可能とした。すなわち、検査分析装置の制御用ワ25 ークステーションとインターネットなどの一般ネットワークの間に、ユーザ認証用サーバを設け、これにより、第三者から、検査分析装置の制御用ワークステーションの存在が分からなく、検査分析装置の制御用ワークステーションへの攻撃を防ぐために設けた。
16【0038】第七段階では、ユーザガイドサーバから提供された検査分析装置の操作レシピーデータ作成のためのプログラムを用いることで、ユーザが操作レシピーデータを作成することを容易にした。ユーザが作成した検査5 分析装置を制御するための操作レシピーデータを受け取り、検査分析装置をリモート制御可能とした。その際に、図3の14、15、16に示すように、ユーザしか復元できないように、検査分析の出力データの暗号化指示を受け、検査分析の出力データは、暗号付加されて検査分析装置に一次的保管した。暗号化直前にデータ圧縮させることで、その後の10 データ保管、通信、暗号復元などのデータ処理を容易にすることができた。ユーザは、上記の一次保管された検査分析の出力データをユーザのワークステーションまたはパソコンへ取り込み、ユーザの鍵を用いて復元させることができた。
【0039】15 第八段階は、以上の検査分析が問題なく完了した段階であり、図3の17、18、19、20に示すように、検査分析装置側の請負者は、ユーザから検査分析の完了通知を受けた。検査分析装置側の請負者は、試料を装置から取り出して、ユーザへ返却し、検査分析費用請求を含む後処理について、ユーザへ連絡した。
20 (2) 前記(1)の記載事項によれば、本件明細書には、本件発明に関し、以下のとおりの開示があると認められる。
ア 半導体ウェハ、半導体チップなどの検査分析において、検査分析装置は、
検査分析対象である半導体集積回路の微細化、高集積化に相応して、検査分析の高性能化が要求されてきており、また、半導体メーカにおいては、
25 半導体デバイス世代に合せて、個々に検査分析装置を買い揃えることが行われてきたところ、検査分析装置自体が益々高額になってきており、人件費コストも増加していることから、半導体ウェハ、半導体チップの検査分析においては、そのコスト増が著しく、半導体集積回路装置の開発、製造17コストの増大の要因になっている(【0001】 【0004】 【000、 、
5】。
)しかも、半導体集積回路の検査分析においては、回路パターンの微細化及び高集積化の進展が早いため、高分解能の性能を有する検査分析装置5 が必要となるが、使用頻度が多くなく、利用効率がよくないため、開発コストが増加するという課題や、市場規模が小さいため検査分析装置が高価となるという問題があった(【0013】 【0014】。
、 )イ 本件発明は、半導体集積回路装置などの開発、製造を効率的に行うために用いられる検査分析工程において、低コストで効率的に検査分析が行10 える技術を提供すること、効率的に検査分析するための検査分析装置を提供すること、そして、検査分析装置を持てない研究者、開発技術者、
中小企業メーカが他と関係なく、契約を基にして、コンピュータネットワークを用いて、検査分析装置を個々のユーザの秘密裏に個別使用を可能とする技術を提供することを目的として、検査分析装置の管理者側と15 検査分析を希望するユーザ側のそれぞれにセキュリティ確保手段を講じた上、ユーザが、離れた場所にある検査分析装置をリモート操作することにより、検査分析を行うことを実現するサービスを提供する方法であり、本件発明により、ユーザが個別に検査分析装置を導入する必要がなくなり、低コストで効率よく検査分析を行うことを可能とする効果を奏20 する(【0015】ないし【0021】【0023】 【0026】 。
、 、 )2 争点1(被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか)について(1) 「検査分析装置」及び「検査分析」の意義について本件発明に係る特許請求の範囲においては、構成要件A、D、F及びGに「検査分析装置」との記載があり、構成要件A、B、C、E及びHに「検査25 分析」との記載があるものの、それらの意義は、当該特許請求の範囲の記載からは明らかではない。
そして、本件明細書には、技術分野に関し、「半導体集積回路装置…の開発、製造などの検査分析工程で用いられる走査型電子顕微鏡(SEM)、共18焦点レーザ顕微鏡などの検査分析装置の利用方法に関」する(【0001】)との記載が、背景技術に関し、「半導体ウェハ、半導体チップなどの検査分析においては、検査分析対象となる試料と検査分析装置の性能が合致しないと全く有効な検査分析とならない。 (」【0004】)及び「半導体ウェハ、半5 導体チップの検査分析においては、そのコスト増が著しく、半導体集積回路装置の開発、製造コストの増大の要因になっている。(」 【0005】)との記載が、課題に関し、「本発明の目的は、半導体集積回路装置などの開発、製造を効率的に行うために用いられる検査分析工程において、低コストで効率的に検査分析が行える技術を提供することである。 (」 【0015】)との記載10 が、課題を解決するための手段に関し、本件発明は、検査分析装置の管理者側と検査分析を希望するユーザ側のそれぞれにセキュリティ確保手段を講じた上、ユーザが、離れた場所にある検査分析装置を、リアルタイムでリモート操作する、又は、ユーザが事前に作成した操作レシピーデータに基づいて検査分析を行う旨(【0016】ないし【0019】)の記載に加え、「本件15 発明の検査分析は、細く絞ったレーザビームを試料面へ照射してその反射光、
散乱光、透過光の少なくとも一つを検出すること、または電子ビームを照射して二次電子、散乱電子、透過電子の内の少なくとも一つを検出することにより、試料上の所望の箇所を分析するものである。(」【0024】)との記載が、発明の効果に関し、「本件発明により、検査分析を所望する複数ユーザ20 に対し、ユーザは個別に検査分析装置の導入のための投資することなく、ユーザ試料の検査分析が効率よく行うことが可能となった。 (」【0026】)との記載が、それぞれある。これらの記載に照らすと、「検査分析装置」とは、
試料を装填等して、ユーザのリモート操作によりその試料を分析し、検査する検査分析ユニットを有する装置を意味し、「検査分析」とは、試料を装填25 等して、ユーザのリモート操作によりその試料を分析し、検査する工程を意味すると理解することができる。
これに対し、原告は、「検査分析装置」について、「インターネットを介したリモート操作が検査分析の対象となるコンピュータ装置であり、当該検査19分析に異常がないことを条件とし、リモート操作した情報を提供するコンピュータ装置」と、「検査分析」について、「インターネットを介した検査分析装置に対するリモート操作に異常がないかの検査分析」と、それぞれ解すべきである旨主張し、検査の対象が「リモート操作」であることを前提として5 いるものと解されるが、本件明細書には、原告が主張する解釈の根拠となる記載はないから、同主張は理由がない。
(2) 被告方法の構成要件充足性について原告の主張は明確ではないものの、被告の動画配信サービスを提供するサーバが、「検査分析装置」に該当し、同サービスにおいて、視聴者が動画配10 信の内容についてコメントを付したり、高評価ボタンを押下したりすることが、「検査分析」であると主張するものと理解することができる。
しかし、被告の動画配信サービスを提供するサーバは、検査分析の対象となる試料の装填等を想定したものではなく、ユーザからリモート操作されることによりその情報等を分析し、検査する検査分析ユニットを備えているも15 のと認めることはできないから(弁論の全趣旨)、同サーバは、構成要件A、
D、F及びGの「検査分析装置」に該当しない。
同様に、被告の動画配信サービスにおいて、視聴者が、動画配信の内容についてコメントを付したり、高評価ボタンを押下したりすることは、試料を装填等することを前提とするものではなく、ユーザが同試料について情報等20 を分析し、検査するものでもないから、構成要件A、B、C、E及びHの「検査分析」に該当しない。
その他、原告の主張する被告方法の内容に照らし、被告方法が「検査分析装置」又は「検査分析」に該当する装置又は工程を備えるものとは認められない。
25 以上のとおり、被告方法が構成要件AないしHを充足すると認めることはできない。
3 結論以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由20がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部5 裁判長裁判官國 分 隆 文10 裁判官間 明 宏 充15 裁判官バ ヒ ス バ ラ ン 薫21(別紙)図 面 目 録1 図面12 図面25223 図面34 図面4235 図面56 図面65247 図面78 図面85 以上25
事実及び理由
全容