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事件 令和 5年 (ネ) 10051号 特許権侵害差止等請求控訴事件
令和6年1月17日判決言渡 令和5年(ネ)第10051号 特許権侵害差止等請求控訴事件 (原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)第6147号) 口頭弁論終結日 令和5年9月19日 5判決
控訴人(第1審原告) 帝國繊維株式会社
同訴訟代理人弁護士 木村和也 10 同坂本哲也
同 水沼淳
同訴訟代理人弁理士 境澤正夫
被控訴人(第1審被告) 日本機械工業株式会社 15
同訴訟代理人弁護士 堀籠佳典
同 服部謙太朗
同 岡田健太郎
同訴訟代理人弁理士 福田伸一 20 同水ア慎
同補佐人弁理士 高橋克宗
同 伊藤表
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2024/01/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
25 2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
事案の要旨
発明の名称を「大容量送水システム」とする本件特許(特許第569579 0号)の特許権者である控訴人が、被控訴人による特許権侵害を主張している。
5 第2 当事者の求めた裁判 1 控訴人の原審における請求 (1) 被控訴人は、被控訴人各製品を製造し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸 出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
(2) 被控訴人は、被控訴人各製品及びその半製品を廃棄せよ。
10 (3) 被控訴人は、控訴人に対し、7億8705万円及びこれに対する令和3 年4月8日から支払済みまで年3%の割合による金銭を支払え。
【請求の法的根拠】 (1):法100条1項に基づく差止請求 (2):法100条2項に基づく廃棄請求15 (3)の主請求:不法行為に基づく損害賠償請求 同附帯請求:遅延損害金請求(起算日は訴状送達日の翌日、利率は民法所定) 2 原審の判断及び控訴の提起 原審は控訴人の請求を全部棄却する判決をした。これに対し、控訴人が、
被控訴人製品1に関する差止め及び廃棄請求並びに損害賠償請求に関する部20 分に不服の対象を限定して、下記のとおり控訴を提起した。なお、下記(4)の 請求元金は、被控訴人製品1関係の逸失利益4億5140万円と弁護士費用 4514万円の合計金額である。以上の結果、被控訴人製品2については、
当審の審理判断の対象から外れることとなった。
【控訴の趣旨】25 (1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人は、被控訴人製品1の物件を製造し、譲渡し、貸し渡し、若し 2 くは輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
(3) 被控訴人は、前項記載の製品及びその半製品を廃棄せよ。
(4) 被控訴人は、控訴人に対し、4億9654万円及びこれに対する令和3 年4月8日から支払済みまで年3%の割合による金銭を支払え。
5 第3 前提事実等 1 前提事実は、原判決の第2の2(1)〜(6)(2頁〜)に記載するとおりであ るから、これを引用する。
2 本件発明及び被控訴人製品1の概要 (1) 本件発明の構成要件(特許請求の範囲)を分説すると、別表の「本件発10 明」欄記載のとおりである。
(2) 本件明細書の記載は、原判決の第4の1(1)(28頁〜)のとおりであ り、これによれば、本件発明は、次のような技術的特徴を有するものと認め られる。
ア 本件発明は、大容量送水システムに関するものである(【0001】 。
)15 イ 近年、大型機器・設備の冷却をするため、あるいは消火活動等のために 必要な大量の水を、川や海、湖沼などの無限水利ポイントから所望の地 点に送水することが要請される場合があり、そうした送水装置を稼働さ せる場合、特に長期間にわたり稼働させて長期にわたる連続的な送水を 行うような場合、たとえ短時間であってもその送水が途切れないことが20 要請されるケースがある(【0003】 【0004】 。
、 ) ウ 本件発明の目的は、上述したような点に鑑み、大型機器・設備の冷却や あるいは消火活動等のために必要な大量の水を、たとえ短時間でも途切 れることなく、確実に連続的に大量に送水することを実現する大容量送 水システムを提供することにあり、特に、取水用のポンプの稼働を短時25 間でも途切れることなく、確実に継続して実現する大容量送水システム と、該システムを使用した具体的な大容量送水方法を提供することにあ 3 る(【0008】 。
) エ そこで、本件発明の構成とすることにより、無限水利ポイントなどから 取水を行う取水用水中ポンプの駆動を行うディーゼルエンジンへの燃料 供給を、たとえ短時間であっても途絶えることなく、確実に連続無人運 5 転を行うことができ、大型機器・設備の冷却やあるいは消火活動等のた めに必要な大量の水を、たとえ短時間でも途切れることなく、確実に連 続的に大量に送水することを実現する大容量送水システムが提供される (【0012】 。
) オ 本件発明によれば、取水用水中ポンプを油圧駆動させるディーゼルエン10 ジンの燃料がなくなるという事態に起因する取水・送水の停止という事 態発生を確実になくすことができ、途切れることなく、連続的に大量に 送水することを実現できる(【0013】 。
) (3) 控訴人の主張に係る被控訴人製品1の構成を、本件発明に対応して分説 すると、別表の「被控訴人製品1(控訴人の主張)」欄のとおりである。
15 第4 争点及び争点に関する当事者の主張 1 当審における本件の主な争点は、原判決の第2の3(5頁〜)記載の争点 のうち、被控訴人製品1の構成要件Cの充足性(争点1-2)である。これ に関する当事者双方の主張は、当審における控訴人の補充的主張を以下のと おり加えるほか、原判決の第3の2(8頁〜)に記載のとおりであるから、
20 これを引用する。
2 当審における控訴人の補充的主張 (1) 原判決は、被控訴人製品1の燃料供給装置の圧力スイッチPS01(P S-01)は、燃料タンクの燃料残量レベルをそのまま反映したものとはい えないとしたが、これは本件発明の構成要件Cの解釈を誤り、不当に狭く捉25 えたものである。本件発明においては、具体的な燃料の残量を定量的かつ具 体的に常時検出することは求められていない。このことは、本件明細書【0 4 032】 【0037】に、燃料残量が予め設定されたレベルまで減少し、あ 、
るいは予め設定されたレベル以上に増加したことを示したときに燃料の供給 を開始又は停止すると記載されていることからも明らかである。
(2) また、原判決は、被控訴人製品1の燃料供給装置が燃料タンクに関する 5 信号を送る構成を有しているとは認められないとして、被控訴人製品1は構 成要件Cを充足しないとしたが、構成要件Cでは「燃料残量レベル信号に基 づいて」という文言が用いられていることから明らかなように、「燃料残量 レベル信号」の存在と、当該燃料残量レベル信号に「基づいて(起因して) 、
」 燃料タンクへの燃料の供給をオン・オフ制御することが求められているにす10 ぎない。燃料残量レベル信号がそのまま直接燃料供給装置まで伝達されるこ とは、構成要件Cにおいては一切要求されていない。
当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の本訴請求は棄却するべきものと判断する。
その理由は、下表のとおり補正し、後記2のとおり、当審における控訴人15 の補充的主張に対する判断を加えるほかは、原判決の第4の1(2)〜(4)(3 2頁〜)に記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決該当部分 補正内容及びその理由 被控訴人燃料供給装置 「(乙1、3)」→「(乙1、3、47)」 1に関する認定証拠(3 * 当審における証拠の追加 3頁1行目) 被控訴人製品1の燃料 「補給管路内の・・・再開する」 補 給 ポ ン プ の 動 作 説 明 →「補給管路内の圧力が上限設定値(0.32Mp (34頁11行目〜13 a)になったことを検知し、その後5分以内に燃料受 行目) 入れバルブが『開』となって圧力が下限設定値(0. 04Mpa)に達したことを検知しない場合に燃料補 5 給ポンプの動作を停止し、燃料補給ポンプの動作の停 止後、同圧力が下限設定値(0.04Mpa)に達し たことを検知すると、燃料補給ポンプの動作を再開す る」 * 控訴理由での指摘等に基づく補正。ただし、原判 決の判断に影響を及ぼすものではない。
2 当審における控訴人の補充的主張に対する判断 (1) 控訴人は、本件発明の構成要件Cについて、「燃料残量レベル信号」の 存在と、当該燃料残量レベル信号に「基づいて(起因して) 、燃料タンクへ 」 の燃料の供給をオン・オフ制御することが求められているにすぎないと主張 5 する。
(2) しかし、本件特許の構成要件Cは、「該燃料備蓄タンクと前記大容量送 水車輌の間に設けられ、かつ、前記燃料残量計センサーによって常時検知さ れて送られる燃料残量レベル信号に基づいて、前記燃料備蓄タンク内に備蓄 されている燃料の前記燃料タンクへの供給と停止をオン・オフ制御により自10 動的に行う自動供給ポンプ機構」というものである。この「燃料残量レベル 信号に基づいて」の文言に鑑みれば、大容量送水車両の燃料タンクに付設さ れている燃料残量計センサーの「燃料残量レベル信号」は、「自動供給ポン プ機構」に送られ、当該信号をもって、燃料の供給と停止のオン・オフ制御 が自動で行われるものと理解される。このことは、本件発明に係る図面の図15 1において、大容量送水車輌の燃料タンクの燃料残量レベル信号を自動供給 ポンプ機構に直接送るためのケーブル14が設置されていることからも裏付 けられる。
(3) 他方、被控訴人製品1においては、燃料供給装置の圧力スイッチPS0 1(PS-01)が、車両燃料タンクと燃料補給ポンプ」との間の補給管路20 内の圧力を検知し、その検知信号に基づいて、燃料備蓄タンクから車両燃料 6 タンクへの燃料の供給と停止のオン・オフ制御を自動的に行うものであって、
車両燃料タンクに付設されている燃料残量計センサーの燃料残量レベル信号 が燃料供給装置に送られて、同信号に基づく燃料の供給と停止のオン・オフ 制御を自動的に行うものとはいえない。
5 (4) なお、被控訴人製品1の燃料残量計が検知する燃料残量レベル信号は、
車両燃料タンクの燃料受入口バルブの開閉制御に使われるものであるところ、
同バルブの開閉の結果、補給管路内の圧力が変化し、間接的に圧力スイッチ に作用し、燃料の供給と停止のオン・オフ制御につながっていくという関係 も一応は考えられるが、このような関係をもって、構成要件Cの「燃料残量10 レベル信号に基づいて」の充足を読み込むのは不自然な拡張解釈といわざる を得ない。
また、「燃料残量レベル信号に基づいて」、補給管路内の圧力の変化等 を介在して燃料供給のオン・オフを制御したのでは、レベルスイッチとの間 に間接的な要素が入ることになり、レベルスイッチの信号は正常なのに、燃15 料注入口のバルブの開閉の不具合、燃料補給管路内の圧力を検出するセンサ の不具合などにより最終的に燃料供給の停止や再開の制御に不確実性がもた らされる可能性が高まることとなり、必要な大量の水を、たとえ短時間で あっても送水が途切れることなく、確実に連続的に対象に送水することがで きないこととなるから、本件発明の「燃料残量計センサーによって常時検知20 されて送られる燃料残量レベル信号に基づいて、前記燃料備蓄タンク内に備 蓄されている燃料の前記燃料タンクへの供給と停止をオン・オフ制御により 自動的に行う」ことを同一視することはできない。
結論
以上によれば、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきであり、主文の25 とおり判決する。
追加
7 裁判長裁判官宮坂昌利5裁判官岩井直幸裁判官頼晋一108 別表本件発明被控訴人製品1(控訴人の主張)〇A1取水用水中ポンプa1取水用の水中ポンプ〇A2油圧ホースを介して該取水用水a2油圧ホースを介して、取水用の中ポンプを駆動するディーゼルエ水中ポンプを駆動する車両エンジンジンン(ディーゼルエンジン)?A3該ディーゼルエンジンの燃料をa3-1車両エンジンの燃料を貯蔵す貯蔵するタンクでありかつ該タンる燃料タンクであり、かつ、該タク内の燃料残量レベルを常時検知ンク内の燃料量がLowになったとする燃料残量計センサーが付設さきの液面レベルとFullになったとれた燃料タンクきの液面レベルを常時検知し、それぞれ所定の回路を閉じる(電流を流す)レベルスイッチ(フロートスイッチ)が付設された車両燃料タンクa3-2前記車両燃料タンク内の燃料量がLowになり、前記レベルスイッチが燃料タンクへの燃料補給管路に設けられた燃料受入口バルブを「開」にする回路に電流を流すと、燃料受入口バルブは開弁し、燃料タンクへの燃料注入が許容されると共に、燃料供給装置か9 らの燃料の補給(注入)を開始し、
前記車両燃料タンク内の燃料量がFullになり、燃料タンクへの燃料補給管路に設けられた燃料受入口バルブを「閉」にする回路に電流を流すと、燃料受入口バルブは閉弁し、燃料タンクへの燃料注入が拒絶されると共に、燃料供給装置からの燃料の供給(注入)を停止する〇A4および前記取水用水中ポンプにa4前記取水用の水中ポンプによりより取水した水を吐水する吐水機取水した水を吐水する送水ポンプ構〇A5を少なくとも積載した大容量送a5を積載した大容量送水車両水車輌〇B該大容量送水車輌と別個に設けb被告送水車1と別個に設けられたられた燃料備蓄タンク900リットルの燃料備蓄タンクを2つ備えている?C該燃料備蓄タンクと前記大容量c前記備蓄燃料タンクと大容量送水送水車輌の間に設けられ、かつ、車の間に設けられ、最大4つの送前記燃料残量計センサーによって水車両の燃料タンクに接続が可能常時検知されて送られる燃料残量であり、全ての燃料タンクにおいレベル信号に基づいて、前記燃料て前記フロートスイッチによって備蓄タンク内に備蓄されている燃常時検知されて送られてくる燃料10 料の前記燃料タンクへの供給と停の残量がFullとなったとき、その止をオン・オフ制御により自動的燃料受入口バルブが開となることに行う自動供給ポンプ機構によって補給管路内の圧力が上昇し、一定時間(5分間)継続したことを検知すると、燃料供給を停止し、いずれかの燃料タンクにおいて前記フロートスイッチによって常時検知されて送られる燃料の残量がLowとなったとき、その燃料受入口バルブが閉となることにより生じる同圧力の低下を検知すると、燃料供給を再開する燃料供給装置?Dを少なくとも有して構成されてdを少なくとも有して構成されてなることを特徴とする大容量送水なることを特徴とする大容量送水システム。システム「〇」は充足性に争いのない構成、「?」は争いのある構成である。
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