関連審決 | 異議2003-70562 |
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関連ワード | 物の発明 / 方法の発明 / 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 技術常識 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
464号
特許取消決定取消請求事件
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原告 ハリソン東芝ライティング株式会社 同訴訟代理人弁理士 竹花 喜久男 同 宇治弘 被告 特許庁長官今井康夫 同指定代理人 三輪學 同 荒巻慎哉 同 江藤保子 同 高橋泰史 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/03/03 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が異議2003-70562号事件について、平成15年9月5日にした異議の決定を取り消す。 |
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事案の概要
1 争いのない事実 (1) 原告は、発明の名称を「ランプおよびランプの製造方法ならびに照明装置」とする特許第3320959号(平成7年10月30日特許出願、特願平7-281440号、平成14年6月21日設定登録、以下「本件特許」という。)の特許権者である。 その後、訴外Aから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許に対し、特許異議の申立てがなされ、原告は、平成15年8月5日、訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。 特許庁は、上記申立てを異議2003-70562号事件として審理した結果、平成15年9月5日、「訂正を認める。特許第3320959号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。」との異議の決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同月22日、原告に送達された。 (2) 本件訂正により訂正された本件特許の各請求項記載の発明の要旨は、本件決定に記載された、以下のとおりである。 【請求項1】ガラスバルブの同一円周面上に離隔して内方側に局部的に突出してほぼ等間隔で3か所以上の凸部を形成する工程と; 電極を有するリード線をガラスビードに固定して形成したビードマウントを上記ガラスバルブ内に挿入するとともに、このガラスビード部を局部的に突出した複数個の凸部上に載置する工程と; 上記バルブの開口部側端部を排気ヘッドに接続して、上記の複数個の凸部およびガラスビード間に形成される隙間を介してバルブ内を排気する工程と; ついで内部にガラスビードが位置するバルブ部分を外方から加熱して、バルブとビードマウントのガラスビードとを溶着して封止する工程と; を備えたことを特徴とするランプの製造方法(以下「本件発明1」という。)。 【請求項2】バルブ内を排気した後、バルブ内に希ガスを封入する工程を備えていることを特徴とする請求項1に記載のランプの製造方法(以下「本件発明2」という。)。 (3) 本件決定は、別紙異議の決定書写し記載のとおり、本件発明1及び2が、 刊行物1(特開平3-64853号公報、甲3、以下「引用例1」という。)及び刊行物2(特開昭56-162471号公報、甲4、以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)並びに慣用手段及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。 2 原告主張の本件決定の取消事由の要点 本件決定は、引用例2の記載内容の認定を誤った結果、本件発明1と引用発明1との相違点の判断を誤ったものであり(取消事由)、同様に、本件発明1に従属する本件発明2についても、相違点の判断を誤ったものである(ただし、本件発明2独自の取消事由を主張するものではない。)から、違法として取り消されるべきである。 (1) 本件発明1と引用発明1との相違点が、本件決定認定のとおり、「前記凸部の形成について、本件発明1では、「離隔して・・・局部的に突出してほぼ等間隔で3か所以上」としているのに対して、引用発明では、単に「絞り形成」とされているだけで、そのような3か所以上に形成する点については言及されていない点」(6頁)であることは認める。 しかし、その相違点の検討において、「刊行物2に記載の「突出して形成された3箇所のバルブ部分1a」は、本件発明1における「ガラスバルブの同一円周上に離隔して内方側に局部的に突出してほぼ等間隔に形成された3か所の凸部」に相当するものである」(7頁)と認定したこと、「ビードマウントの位置決めとして、引用発明のように凸部に載置するか、刊行物2記載の発明のように、仮固定するかは適宜選択しうる事項にすぎず、いずれの場合も、ビードとガラスバルブに形成された隙間から排気するものである。そして、刊行物1には、該フォーミング部と該ビード部との僅かな隙間の通気による排気では真空排気に課題があるため、 該フォーミング部と該ビード部とを離間させて、この間の隙間を広くする必要があることが記載されており、一方、刊行物2には、「排気の際に、・・・ビード3aとバルブ1aとの隙間Sから排気が完全になされ」という記載がある以上、当業者であれば、ガラスバルブの同一内周面に離隔して局部的に突出してほぼ等間隔で形成した3か所以上の凸部を設けることにより、刊行物1に記載された排気における課題を解決する程度のことは、刊行物2に記載された発明に基づいて容易に成し得る事項にすぎない。」(同頁)と判断したことは、以下のとおり、いずれも誤りである。 (2) まず、引用発明2における「突出して形成された3箇所のバルブ部分1a」は、本件発明1における「ガラスバルブの同一円周上に離隔して内方側に局部的に突出してほぼ等間隔に形成された3か所の凸部」に相当するものではない。 すなわち、引用例2には、ビード3aに溶着するバルブ部分1aが、ピンチャー5’の内側湾曲面5’aに形成された突起部5’bの数に対応して3箇所となると記載されてはいるが、「3箇所のバルブ部分1a」が「突出して形成された」とは記載されていない。また、「ビード3aに溶着するバルブ部分1a」は、 引用例2の第4及び第6図の断面図に示されるように、仮溶着後の製品を見る限りでは、「凸部」のように見えるが、その製造プロセスにおける「凸部」の形成は、 ビード3aとバルブ部分1aとの溶着工程と同時に行われる。これに対して、本件発明1においては、「凸部」の形成工程と、ビードとバルブとの溶着工程とは別の工程により行われ、あらかじめ形成された複数個の凸部上にビードが載置され、その後に排気工程、溶着工程が行われる。 本件発明1は物の発明ではなく製造方法の発明であるから、このような本件発明1と引用発明2との対比判断においては、完成された製品の形状ではなく、 あくまでも製造プロセスの一致、不一致を論ずべきものである。そうすると、引用発明2において、「複数個の凸部」は、あくまでも仮固定の結果として形成されるものであり、本件発明1におけるビードの載置を目的とした「複数個の凸部」とは、その目的あるいは具体的な構成を全く異にするものであるから、両者を同一視することはできない。 (3) また、引用発明2における「3か所のバルブ部分1a」は、引用発明1のようにガラスビード部を載置するための凸部ではなく、垂直に配置されたバルブ1内の所定の位置にビードマウント3を配置し、ビード3aに対応するバルブ1の外周をバーナー4で加熱するとともに、内側湾曲面5’aに突起部5’bが設けられたピンチャー5’を押し当てることにより、バルブの一部をビード3aに溶着し、 ビードマウント3を仮固定するものである。 この引用発明2のような仮固定方式によるランプあるいは電球の製造方法においては、ビードマウント3が、そのリード線によりバルブ内に吊り下げられた状態で位置決めされるため、その中心軸がガラスバルブの中心軸と一致するように配置することが難しく、また、仮にそのように配置した場合であっても、ピンチャー5’を押し当てることにより、ビードマウントの中心軸がガラスバルブの中心軸からずれてしまうので、ビードマウント3をバルブ1内の中心軸上に正確に配置する、いわゆるセンタリングが極めて困難であるという重大な欠点がある。また、このような偏芯状態でバルブ1の外周をバーナー4で加熱すると、その熱はバルブ内に配置されたビードマウント3を介して外部に放出されるため、バルブ1の外周において温度ムラが発生し、完全に溶融される部分とされない部分が生じ、バルブ1の外周にピンチャー5’を押し当てた場合、バルブ1の内周面に凸部が形成されたり、形成されなかったりすることから、ビード3aの外周とバルブ1の内周間に形成される隙間も一様でないという問題点が存在する。さらに、ガラスバルブ1内を真空排気する場合、バルブ内外に大きな圧力差を発生し、ビードマウント3にも大きな吸引力が作用するが、ビードマウント3がガラスバルブ1の内壁に仮固定されているため、溶着により薄肉化された内壁にクラックを発生するおそれがあるという欠点がある。 このように重大な欠点を有する仮固定方式を、引用発明1の凸部に載置する方式に替えて選択することは、当業者にとっては不可能である。また、当業者は、仮固定方式である引用発明2の技術を載置方式の引用発明1に適用することができないのである。 (4) さらに、引用発明2においては、前述したように、「凸部」の形成は、ビード3aとバルブ部分1aとの溶着工程と同時に行われ、これらを別の工程により分離して行うことについては何ら開示されていない。これに対して、本件発明1においては、「凸部」の形成工程と、ビードとバルブとの溶着工程とは別の工程により行われ、あらかじめ形成された複数個の凸部上にビードが載置され、その後に排気工程、溶着工程が行われる。「凸部」の形成工程において、ガラスバルブ内にガラスビード部が存在しないから、ガラスバルブの外周面に温度ムラが生ずることなく一様に溶融するため、複数の凸部が一様に形成され、それら相互間には十分な隙間が形成される。そして、このように形成され、冷却された複数個の凸部上にガラスビードを載置した場合、両者の間には十分な間隙が確保できる。本件発明1は、このような構成により、引用発明1のように複雑な設備を用いることなく、ビードとバルブ間に十分な隙間を形成することができ、また、引用発明2では得られない、 ガラスビードとガラス管との軸合わせを正確に行うことができ、生産効率を大幅に向上し得るという顕著な効果を奏するものである(本件明細書段落【0027】及び【0028】参照)。 本件発明1のこのような顕著な効果は、仮に、引用発明1に引用発明2における仮固定方式を適用しても得られるものではなく、予測できるものでもない。 なぜならば、仮固定方式には、あらかじめガラスバルブの内周面に複数個の離隔した凸部を形成し、これらの凸部上にビード部を載置することによって、ビードマウントの中心軸をガラスバルブの中心軸に合致させるという思想は全く存在しないからである。 3 被告の反論の要点 本件決定の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 (1) 引用例2(甲4)には、「3箇所のバルブ部分1aが突出して形成された」という直接の文言は記載されていないものの、明細書の各記載(1頁右下欄15〜20行、2頁左上欄5〜9行、2頁左上欄15行〜右上欄5行)並びに第5及び第6図からみて、3箇所のバルブ部分1aは、ピンチャー5’の突起部5’bによって形成されたものであって、ピンチャー5’の突起部5’bに対応する「3箇所のバルブ部分1a」が、バルブのその他の部分より内側に「突出して形成されている」ことは明らかである。また、上記の各記載から明らかなように、引用発明2では、ビードをバルブに仮固定する際、バルブの一部である「バルブ部分1a」がビードに溶着されるために、凸部の形成と溶着とが同時に行われるものではあるが、その溶着は、「仮固定」のための溶着であり、該仮固定工程の後に、排気工程及び溶着工程が行われている。 そうすると、あらかじめ形成したバルブの複数個の凸部にビードを載置するか、あるいは、凸部の形成と同時にビードを仮固定するかの違いがあるものの、 バルブに複数個の凸部を形成する工程の後に、排気工程及び溶着工程が行われる点においては、本件発明1と何ら相違していない。 したがって、引用発明2における「突出して形成された3箇所のバルブ部分1a」は、本件発明1における「ガラスバルブの同一円周面上に離隔して内方側に局部的に突出してほぼ等間隔に形成された3か所の凸部」に相当するものであるとの認定に誤りはない。 (2) 本件決定は、引用発明1の凸部に載置する方式に替えて仮固定方式を選択すると認定判断したものでなく、原告は、本件決定の趣旨を誤って認識している。 すなわち、本件決定は、相違点の判断において、引用発明2の「突出して形成された3箇所のバルブ部分1a」が、「ガラスバルブの同一内周面に離隔して局部的に突出してほぼ等間隔で形成した3か所以上の凸部」という形状・構造を有していることに基づいて、引用発明1のガラスバルブの同一内周面に、離隔して局部的に突出してほぼ等間隔で形成された3か所以上の凸部を設けることは当業者が容易になし得ることであると述べているのであって、引用発明2における仮固定方式を、引用発明1の凸部に載置する方式に替えて選択するというものではない。 (3) 特開昭51-51179号公報(甲5)に記載されているように、「載置方式」と「仮固定方式」とは、いずれもランプ製造の技術分野において従来から用いられてきたものである。 したがって、引用発明2は、仮固定方式に関する発明であって、引用発明1のような載置方式とは異なるものであるが、引用発明2における突出した3箇所のバルブ部分1aを設けるという技術手段を、引用発明1に適用し、複数個の凸部とガラスビード間に形成される隙間を介して排気するようにすることは、当業者であれば容易であるとした本件決定の判断に誤りはない。 (4) 「ビードとバルブ間に十分な間隙を形成することができる」という効果は、本件発明1と引用発明1の相違点によって奏される効果であるが、本件決定においても述べたとおり、引用例2には「排気の際に、・・・ビード3aとバルブ1aとの隙間Sから排気が完全になされ」と記載されており、引用発明2から容易に予測し得る効果にすぎない。 また、「ガラスビードとガラス管との軸合わせを正確に行うことができ、 生産効率を大幅に向上しうる」という効果は、あらかじめ形成された凸部上にビードを載置する方式である引用発明1が有している効果である。そして、載置する方式を採用することにより、仮固定方式におけるビードマウントの偏芯という問題が解消されることは、よく知られているところであって、引用発明1において、「ガラスビードとガラス管との軸合わせを正確に行うことができる」ことは明らかであり、その結果、「生産効率を大幅に向上しうる」ことも当然である。 したがって、原告が主張する本件発明1の効果は、引用発明1及び2に基づいて、当業者が予測することができる程度のものにすぎず、格別顕著な効果ではない。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明1と引用発明1との相違点が、本件決定認定のとおり、「前記凸部の形成について、本件発明1では、「離隔して・・・局部的に突出してほぼ等間隔で3か所以上」としているのに対して、引用発明では、単に「絞り形成」とされているだけで、そのような3か所以上に形成する点については言及されていない点」(6頁)であることは、当事者間に争いがない。 2 原告は、引用発明2における「突出して形成された3箇所のバルブ部分1a」が、本件発明1における「ガラスバルブの同一円周上に離隔して内方側に局部的に突出してほぼ等間隔に形成された3か所の凸部」に相当するものではないと主張するので検討する。 (1) 引用例2(甲4)には、「ビードマウントを仮止めする際に突起部を設けたピンチャーで押え付け、該突起部に対応するバルブ部分をビードに固定することを要旨とし、これによりビードマウントを一定の状態で仮固定し、かつ完全なる排気作業を確保するものである。」(1頁右下欄)、「ビード3aに対応するバルブ1の外周をバーナー4で加熱すると共に、ピンチャー5を押し当てることによりバルブの一部をビード3aに溶着し、ビードマウント3を仮固定する。」(2頁左上欄)、「第5図はチャック状の3片からなるピンチャー5’を示し、各片の内側湾曲面5’aには突起部5’bがそれぞれ形成されており、このピンチャー5’を用いて実施すると第6図に示すように、ビード3aに溶着するバルブ部分1aは突起部5’bの数に対応して3箇所となる。このようにしてビードマウント3がバルブ1に仮止めされた後に、第1図(ハ)に示すようにバルブ1を排気用ゴム管6に挿入し、バルブ1内を排気しながらバーナーで再度加熱し、バルブ1とビード3aとを完全に溶着させて電球を製造する。」(2頁左上欄〜右上欄)と記載されており、また、第6図は、第5図の3片からなるピンチャーにより形成される仮固定部の横断面図であって、バルブ部分1aが、ほぼ等間隔で3箇所に形成され、バルブ内面方向に突出した形状であることが図示されている。 上記の記載等によれば、引用発明2における「3箇所のバルブ部分1a」は、ビードマウントをバルブに仮止めするとともに隙間を設けて排気作業を確保するために、突起部を設けた3片のピンチャーでバルブを押え付けて形成されるものであり、その形状は、本件発明1の「ガラスバルブの同一円周上に離隔して内方側に局部的に突出してほぼ等間隔に形成された3か所の凸部」と同様のものであると認められる。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (2) 原告は、本件発明1は物の発明ではなく製造方法の発明であるから、このような本件発明1と引用発明2との対比判断においては、完成された製品の形状ではなく、製造プロセスの一致、不一致を論ずべきものであり、引用発明2の「複数個の凸部」は、仮固定の結果として形成されるものであって、本件発明1におけるビードの載置を目的とした「複数個の凸部」とは、その目的あるいは具体的な構成を全く異にするものであるから、両者を同一視することはできないと主張する。 しかしながら、本件決定は、本件発明1と引用発明1とが、ランプの製造方法の発明としてその製造のプロセスがほぼ一致しており、前記相違点認定のとおり、凸部の形成の点のみで相違することを明らかにした上、この凸部の形成に関して、引用例2を引用し、そこに開示された「突出して形成された3箇所のバルブ部分」が、本件発明1の「局部的に突出してほぼ等間隔に形成された3か所の凸部」に相当すると認定したものである。しかも、この認定に加えて、「刊行物2記載の発明では、該「突出して形成3された(注:「形成された」の誤記)箇所のバルブ部分1a」は、ビード3aと仮固定されるものであって、引用発明のようにガラスビード部を載置するための凸部ではない。」(7頁)と説示し、引用発明2と本件発明1とにおいて、ガラスバルブの同一円周上に複数個の凸部を形成した目的が相違することをも明確に認定している。 原告の上記主張は、本件決定が、引用発明2を製造工程の一部として引用したものでなく、しかも、引用発明2と本件発明1との複数個の凸部の形成目的が相違することを認定している点を、いずれも正解せずに非難するものであって、これを採用する余地はない。 3(1) 原告は、引用発明2における「3か所のバルブ部分1a」が、引用発明1のようにガラスビード部を載置するための凸部ではなく、ビードマウント3を仮固定するものであり、このような仮固定方式によるランプあるいは電球の製造方法は、ビードマウントをバルブ内の中心軸上に正確に配置する、いわゆるセンタリングが極めて困難であるという重大な欠点や、ビードの外周とバルブの内周間に形成される隙間も一様でないという問題点、ビードマウントがガラスバルブの内壁に仮固定されているため溶着により薄肉化された内壁にクラックを発生するおそれがあるという欠点などが存在するから、このような欠点を有する仮固定方式を、引用発明1の凸部に載置する方式に替えて選択することは、当業者にとって不可能であると主張する。 しかしながら、本件決定は、「刊行物1には、該フォーミング部と該ビード部との僅かな隙間の通気による排気では真空排気に課題があるため、該フォーミング部と該ビード部とを離間させて、この間の隙間を広くする必要があることが記載されており、一方、刊行物2には、「排気の際に、・・・ビード3aとバルブ1aとの隙間Sから排気が完全になされ」という記載がある以上、当業者であれば、 ガラスバルブの同一内周面に離隔して局部的に突出してほぼ等間隔で形成した3か所以上の凸部を設けることにより、刊行物1に記載された排気における課題を解決する程度のことは、刊行物2に記載された発明に基づいて容易に成し得る事項にすぎない。」(7頁)と説示しているところ、この説示は、引用発明1に、フォーミング部とビード部との間の隙間を排気のために広くするという課題が示されており、この技術課題を解決するために、引用発明2に開示された、ビード3aとバルブ1aとの隙間Sからの排気を完全に行うための、「バルブの複数個の凸部」という形状を形成する工程を、引用発明1のフォーミング部を形成する工程に適用することが容易であると判断しているものであり、その内容に誤りはない。 なお、本件決定の上記説示は、原告主張のように、引用発明1の載置方式を引用発明2の仮固定方式に替えると、本件発明1の相違点に係る構成要件になると判断したものではないことが明らかである。 このように、本件決定が、引用発明2の仮固定方式を引用発明1の載置方式に替えて選択すると判断するものでない以上、仮固定方式が重大な欠点を有することを理由に、これを選択することが当業者にとって不可能であるとする原告の主張は、前記同様に、本件決定の判断を正解せずに論難するものであって、到底採用することができない。 (2) また、原告は、当業者が、仮固定方式である引用発明2の技術を載置方式の引用発明1に適用することができないと主張する。 しかしながら、引用発明2と引用発明1とは、上記(1)説示のとおり、ビードを溶着する際に、ビードとバルブとの隙間から排気を完全に行うという技術課題において共通している。そして、引用発明2は、溶着すべきバルブ部分を加熱してその一部をビードに仮固定すると、バルブとビード間の隙間の割合が一定とならず、排気工程に支障を来すことから、前示のとおり、バルブの複数個の凸部で仮固定する構成を採用し、複数個の凸部の間の隙間をほぼ一定に保つことにより、完全な排気作業を確保したものである(甲4)。そうすると、引用発明1の載置方式において、フォーミング部を全周に設けるとビードを載置したときに部分的に僅かな隙間しかできないという課題は、当業者が、引用発明2の複数個の凸部の形状をみれば、フォーミング部に複数個の凸部を設けることにより、隙間がほぼ一定に保持されて解決できると容易に想到し得るものと認められる。 したがって、原告の上記主張も採用することができない。 4 さらに、原告は、本件発明1においては、「凸部」の形成工程で、ガラスバルブ内にガラスビード部が存在しないから、ガラスバルブの外周面において温度ムラが生ずることなく一様に溶融するため、複数の凸部が一様に形成されてそれら相互間には十分な隙間が形成され、このように形成された複数個の凸部上にガラスビードを載置した場合、両者の間には十分な間隙が確保できるとともに、引用発明2では得られない、ガラスビードとガラス管との軸合わせを正確に行うことができるのであって、本件発明1のこのような顕著な効果は、仮に、引用発明1に引用発明2における仮固定方式を適用しても得られるものではなく、予測できるものでもないと主張する。 しかしながら、本件決定が、引用発明1の載置方式を引用発明2の仮固定方式に替える旨の判断をしているものではないことは、前示のとおりであるから、原告の主張はその前提において誤りといわなければならない。そして、載置方式である引用発明1において、ビードをフォーミング部の上に載置する工程に先立って行われる、フォーミング部の絞り形成の工程において、引用発明2における3か所以上の凸部を形成し、それら相互間には十分な隙間を設けることにより、原告の主張する本件発明1の効果を奏するものとなることは明らかである。 したがって、いずれにしても原告の上記主張を採用することはできない。 5 結論 以上のとおり、本件発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、これに従属する本件発明2も、同様に特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである(原告は、本件発明2独自の取消事由を主張するものではない。)から、これと同旨の本件決定には誤りがなく、その他本件決定に取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 青柳馨 |
裁判官 | 清水節 |