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事件 特許権侵害行為差止等、損害賠償等
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2024/01/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
令和6年1月18日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和3年(ワ)第10586号 特許権侵害行為差止等請求事件(甲事件)

同第10587号 損害賠償等請求事件(乙事件)

令和4年(ワ)第2853号 特許権侵害行為差止等請求事件(丙事件)

5 同第2854号 損害賠償請求事件(丁事件)

口頭弁論終結日 令和5年10月13日

判 決



甲・乙・丙・丁事件原告 東洋ライス株式会社

10 (以下「原告」という。)

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士 平野和宏

同補佐人弁理士 藤井淳



15 甲・乙事件被告 幸南食糧株式会社

(以下「被告幸南」という。)

同代表者代表取締役



丙・丁事件被告 株式会社米匠庵

20 (以下「被告米匠庵」という。)

同代表者代表取締役

被告ら訴訟代理人弁護士 横清貴

同 横大貴

同訴訟代理人弁理士 井内龍二

25 同補佐人弁理士 高田一

主 文


1
1 原告の請求をいずれも棄却する(全事件)。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

5 1 甲事件に係る請求

(1) 被告幸南は、別紙被告製品目録記載の無洗米(以下「被告製品」という。)

を製造し、販売し又は販売の申出(販売のための展示を含む)をしてはならな

い。

(2) 被告幸南は、被告製品を廃棄せよ。

10 2 乙事件に係る請求

(1) 被告幸南は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和2年3月31

日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2) 被告幸南は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和3年11月1

7日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

15 (3) ア 主位的請求

被告幸南は、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成30年1

1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

イ 予備的請求

被告幸南は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和3年12

20 月8日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

3 丙事件に係る請求

(1) 被告米匠庵は、被告製品を販売し又は販売の申出(販売のための展示を含む)

をしてはならない。

(2) 被告米匠庵は、被告製品を廃棄せよ。

25 4 丁事件に係る請求

(1) 被告米匠庵は、原告に対し、2000万円及びこれに対する令和2年3月3


2
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2) 被告米匠庵は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和4年3月3

1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

5 1 本件は、発明の名称を「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」とする特許(以

下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する

原告が、被告らが本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発

明」という。)の技術的範囲に属する被告製品を製造し、販売等することは本件特

許権の侵害に当たると主張して、次の各請求をする事案である。

10 (1) 甲事件及び丙事件に係る請求

被告らに対する、特許法100条1項及び2項に基づく、被告製品の販売等

差止め及び廃棄請求

(2) 乙事件に係る請求

ア 被告幸南に対する、不法行為(民法709条)に基づく、平成30年11

15 月18日から令和2年3月31日までの損害賠償金3695万1098円

のうち1000万円及びこれに対する不法行為の日の末日から支払済みま

での遅延損害金の支払請求

イ 被告幸南に対する、不法行為(民法709条)に基づく、令和2年4月1

日から令和3年11月17日までの損害賠償金4465万9737円のう

20 ち1000万円及びこれに対する不法行為の日の末日から支払済みまでの

遅延損害金の支払請求

ウ 被告幸南に対する、主位的に、民法704条に基づく、平成27年1月1

8日から平成30年11月17日までの不当利得金6747万3961円

のうち1000万円及びこれに対する受益の日の末日から支払済みまでの

25 利息の支払請求。予備的に、民法703条に基づく、同不当利得金6747

万3961円のうち1000万円及びこれに対する乙事件に係る訴状送達


3
の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払請求

(3) 丁事件に係る請求

ア 被告米匠庵に対する、不法行為(民法709条)に基づく、平成27年1

月18日から令和2年3月31日までの損害賠償金1億4041万519

5 4円のうち2000万円及びこれに対する不法行為の日の末日から支払済

みまでの遅延損害金の支払請求

イ 被告米匠庵に対する、不法行為(民法709条)に基づく、令和2年4月

1日から令和4年3月31日までの損害賠償金5409万5709円のう

ち1000万円及びこれに対する不法行為の日の末日から支払済みまでの

10 遅延損害金の支払請求

2 前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠(特に明示する場合を除き、枝番

号があるものは各枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認

定できる事実)

(1) 当事者

15 ア 原告は、食品加工機の製造、販売等、米穀の加工、生産、販売等を目的と

する株式会社である。

イ 被告幸南は、米穀の加工、販売等を目的とする株式会社である。

ウ 被告米匠庵は、圃場の経営、農産物の生産、仕入、販売等を目的とする株

式会社であり、被告幸南と同一のグループに属している。

20 (2) 本件特許権

原告は、次の本件特許権を有している。

ア 発明の名称 旨み成分と栄養成分を保持した無洗米

イ 出願日 平成17年3月28日

ウ 登録日 平成23年3月25日

25 エ 特許番号 特許第4708059号

(3) 原告及び被告らの行為等


4
原告は、平成17年7月下旬頃から、「金芽米」という名称の無洗米(以下

「原告製品」という。)を製造販売等している。

原告は、被告幸南との間で、平成18年3月3日付けで、原告が製造した原

告製品に係る販売代理店契約を締結した後、平成24年1月17日付けで、被

5 告幸南に対しP1式精米法の使用を許諾する契約(以下「P1式精米法使用契

約」という。)を締結した(甲17、18)
。P1式精米法使用契約は、平成2

7年1月17日をもって終了した。

被告幸南は、遅くとも平成26年4月頃から、被告製品を製造販売等してお

り、被告米匠庵は、その頃から、被告幸南より被告製品を購入し、これを販売

10 等している。

(4) 本件訂正

原告は、被告幸南による特許無効審判請求(無効2015−800173号)

に対し、平成28年11月21日付けで、本件特許に係る特許請求の範囲及び

明細書を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。)を行ったところ、

15 その後、特許庁による審決、知的財産高等裁判所による審決取消訴訟に係る判

決等を経て、特許庁は、平成31年1月18日、本件訂正を認めるなどの審決

をし、同審決はその後確定した(甲3ないし5)。

(5) 本件訂正後の本件発明の構成要件

本件訂正後の本件発明の構成要件は、次のとおり分説される(以下、各構成

20 要件を「構成要件A」などという。。なお、本件訂正前の本件特許権の特許請


求の範囲、明細書及び図面(以下、明細書及び図面を「本件明細書」という。)

の記載は、別紙「特許公報」のとおりである(甲2)。

A 外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱

粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該

25 表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄

色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純


5
白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、前記玄米粒を構

成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、

摩擦式精米機により搗精され、表層部から糊粉細胞層(4)までが除去され

た、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞

5 層(5)が米粒の表面に露出しており、

B 且つ米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』

または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底

部である胚盤(9)』が残っており、

C 更に無洗米機(21)にて、前記糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破ら

10 れ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着して

いる『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる

D ことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米。

(6) 前件取消訴訟

被告幸南は、本件特許の請求項1ないし3について特許無効審判請求(無効

15 2019−800036号)をしたが、特許庁が本件審判の請求は成り立たな

い旨の審決をしたことから、令和2年3月4日、前記審決の取消しを求める訴

訟(知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10029号審決取消請求事件。

以下「前件取消訴訟」という。 を提起した。
) 同裁判所は、令和3年2月18日、

被告幸南の請求を棄却する旨の判決を言い渡し、その後、被告幸南が申し立て

20 た上告兼上告受理申立てについて、これらを棄却等する決定がされて、前記審

決は確定した(甲6)。

3 争点

(1) 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)

(2) 本件発明に無効理由があるか(争点2)

25 ア 産業上利用することができない発明であるか(争点2−1)

イ 未完成発明であるか(争点2−2)


6
ウ サポート要件違反があるか(争点2−3)

明確性要件違反があるか(争点2−4)

(3) 損害等の発生及びその額(争点3)

第3 争点に関する当事者の主張

5 1 争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について

【原告の主張】

(1) 被告製品の構成

被告製品の構成は、本件発明の構成要件に対応して分説すれば次のとおりと

なる(以下、各構成を「構成a」などという。。


10 a 玄米粒において、表層部から糊粉細胞層までが除去され、亜糊粉細胞層が

米粒の表面に露出し、

b 且つ米粒の50%以上に『胚芽の表面部を削りとられた胚芽』または『舌

触りの良くない胚芽の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤』が

残っており、

15 c 糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に

付着している『肌ヌカ』のみが分離除去された

d ことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米。

(2) 構成要件A(「亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており」)の充足性

構成要件Aの「亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており」とは、そ

20 の字義どおり、亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出していることを特定するもの

である。

次の各試験を実施したところ、個別の試験結果をみても、また、各試験結果

を総合的にみても、被告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していることが

確認される。

25 したがって、被告製品は、構成aを有し、構成要件Aを充足する。

ア デンプン染色試験及び脂質染色試験(甲7、30。以下、順に「甲7試験」


7
等という。)

亜糊粉細胞層は、デンプンと脂質をいずれも含有しているのに対し、糊粉

細胞層は脂質を多く含有するがデンプンを含有しておらず、澱粉細胞層はデ

ンプンを含有するが脂質をほとんど含有していない。

5 甲7試験及び甲30試験において、被告製品(令和2年及び令和3年産宮

城県産つや姫胚芽一番)に対し、デンプン染色及び脂質染色を実施した結果、

被告製品の米粒の表面の層にデンプンが含有されていると共に脂質が多く

含有されている層、すなわち亜糊粉細胞層が存在することが判明した。

イ 白度、黄色度試験及び脂質の定量分析試験(甲61ないし64。以下、順

10 に「甲61試験」等という。)

本件明細書の段落【0041】ないし【0043】には、本件発明に係る

無洗米、すなわち、各構成要件を充足する無洗米は、白度は41ないし45

であり、黄色度は13ないし18であると記載されており、また、段落【0

045】には、
「黄色度13〜18は炊飯前の米粒表面に亜糊粉細胞層5が露

15 出していること、同11以下は澱粉細胞層6が露出していること、同22以

上が糊粉細胞層4等の糠成分が露出していることを示すものである」と記載

されている。

(ア) 白度、黄色度試験(甲61試験及び甲62試験)

胚芽残存率85%の被告製品(令和4年産宮城県産つや姫胚芽一番)、

20 本件発明の実施品であり胚芽残存率72%の原告製品及び精白米の各米

粒の白度及び黄色度を測定した結果、別紙図表一覧の表1記載のとおりと

なった。これによれば、被告製品の米粒の白度及び黄色度は、原告製品の

米粒と同程度であり、本件発明に係る無洗米の白度41ないし45及び黄

色度13ないし18の範囲内であることが確認された。

25 (イ) 白度、黄色度試験(甲63試験)

被告製品(令和4年産宮城県産つや姫胚芽一番)及び原告製品の各胚芽


8
及び胚盤を削り取った米粒の白度及び黄色度を計測した結果、別紙図表一

覧の表1記載のとおりとなった。これによれば、胚芽及び胚盤のない被告

製品の米粒の白度及び黄色度は、同原告製品の米粒の白度及び黄色度と同

程度である一方、精白米の米粒の白度及び黄色度とは大きく異なることが

5 確認された。

(ウ) 脂質の定量分析試験(甲64試験)

精白米、被告製品(令和4年産宮城県産つや姫胚芽一番)及び原告製品

の「胚芽及び胚盤を選別除去した米粒表面の粉」を対象として、脂質含有

量を測定した結果、別紙図表一覧の表1記載のとおりとなった。これによ

10 れば、被告製品の胚芽及び胚盤のない表面と精白米の表面とは脂質含有量

が明らかに異なる一方、被告製品の胚芽及び胚盤のない表面には同原告製

品と同程度の脂質を含有することが確認された。

ウ CBB染色試験、NMG染色試験、脂質染色試験及びデンプン染色試験(甲

82。以下「甲82試験」という。)

15 (ア) CBB染色試験

クマシーブリリアントブルー(CBB)染色液はタンパク質を青色に染

色し、タンパク質が密集している(多い)と濃く染色されるところ、亜糊粉

細胞層は、特にタンパク質を多く含有することが知られている。

完全精白米、被告製品(令和4年産宮城県産つや姫胚芽一番。甲82試

20 験において同じ。)及び原告製品の米粒に対し、CBB(1倍希釈)染色

実施し、染色濃度を確認した結果、別紙図表一覧の表2記載のとおりと

なった(なお、同表2中、L*は明度、a*及びb*は(色相と彩度を示す)

色度、C*は彩度、凾d*は色差を表す。。これによれば、@完全精白米の


米粒のタンパク質染色と比較し、被告製品の米粒は、色差、明度、色度及

25 び彩度において明らかな差異があり、被告製品の米粒表面にはタンパク質

を多く含有する(密集する)層が存在すること、A原告製品の米粒のタンパ


9
ク質染色と比較し、被告製品の米粒の染色色調は目視でもほぼ同じ程度に

青色が濃く染色され、かつ、明度、色度及び彩度がかなり近似しているこ

と、BCBB染色による被告製品の米粒と原告製品の米粒の色差は、「色

の隣接比較で、わずかに色差が感じられるレベル」であり、明度、色度及

5 び彩度はかなり接近しており、被告製品の米粒表面には原告製品とかなり

近似した色調の染色層が存在することが確認された。

(イ) NMG染色試験

ニューMG(NMG)試薬は、果皮、種皮部を緑色に、糊粉層を青色に、

胚乳部(澱粉細胞層)をピンク色(桃色)に染色するところ、亜糊粉細胞層

10 は、糊粉細胞層と澱粉細胞層の間に位置し、両者の中間的な性質をもって

いる。

完全精白米、被告製品、原告製品の米粒について、NMG(1倍希釈)

染色を施し、搗精度の色調を確認し比較した結果、別紙図表一覧の表3記

載のとおりとなった。これによれば、@完全精白米の米粒はピンク色に強

15 く染色されるが、被告製品の米粒はピンク色と青色が混ざった濃い紫色に

染色され、被告製品の米粒は、完全精白米と比べ目視でも明らかに差異が

あり、かつ、完全精白米を基準とした色差は「細分化された系統色名で区

別ができる程度の色の差」 明らかに明度、
で、 色度及び彩度に差異があり、

青色を呈する糊粉層とピンク色を呈する胚乳部の中間的な染色層が存在

20 すること、A原告製品の米粒の色調と比較し、被告製品の米粒の色調は目

視でもほぼ同じに濃い紫色に染色され、色差は「色の隣接比較で、わずか

に色差が感じられるレベル」であり、かつ、明度、色度及び彩度がかなり

近似していることから、被告製品の米粒表面には原告製品とかなり近い色

調の染色層が存在し、被告製品の米粒には原告製品と近似した「『青色を

25 呈する糊粉層とピンク色を呈する胚乳部』の中間的な染色層」が存在する

と推認できることが確認された。


10
(ウ) 脂質染色試験

スダン IV 染色液は、脂質を橙赤色に染色し、脂質が密集している(多い)

と濃く染色されるところ、亜糊粉細胞層はデンプン貯蔵細胞に比べ特に脂

質を多く含有している。

5 完全精白米、被告製品、原告製品の米粒について、脂質(スダン IV1倍

希釈)染色を施し、脂質染色の濃度を確認した結果、別紙図表一覧の表4

記載のとおりとなった。これによれば、@完全精白米の米粒と比較し、被

告製品の米粒の色差は「細分化された系統色名で区別ができる程度の色の

差」で、明度、色度及び彩度にも差異があり、被告製品の米粒表面には脂

10 質を多く含有する(密集する)層が存在すること、A原告製品の米粒と比較

し、被告製品の米粒は目視でもほぼ同じに橙赤色が濃く染色されており、

色差は「色の隣接比較で、わずかに色差が感じられるレベル」であり、明

度、色度及び彩度は近似していることから、被告製品の米粒表面には原告

製品とかなり近似した色調の染色層が存在することが確認された。

15 (エ) デンプン染色試験

ヨウ素染色液はデンプンを深紫色に染色するところ、糊粉層はデンプン

を含有せず、デンプン貯蔵層や亜糊粉細胞層はデンプンを含有する。

完全精白米、被告製品、原告製品の米粒について、デンプン(ヨウ素2

倍希釈)染色を施し、米粒表面にデンプンを含有する層が露出しているこ

20 とを確認し、その染色濃度を測定した結果、別紙図表一覧の表5記載のと

おりとなった。これによれば、@被告製品、完全精白米及び原告製品のい

ずれも、米粒表面が深紫色に染色され、その染色色調は、明度、色度及び

彩度がかなり近似しており、かつ、完全精白米を基準とした被告製品及び

原告製品の米粒の色差は小さく、「色の隣接比較で、わずかに色差が感じ

25 られるレベル」であり、かなり近似していること、A被告製品の米粒と原

告製品の米粒の色差は、「目視判定の再現性からみて、厳格な許容色差の


11
規格を設定できる限界」であり、かなり近似していることから、被告製品

の米粒表面には原告製品と極めて近似した色調の染色層が存在すること

が確認された。

エ 各試験の総合評価

5 表皮から種皮までを除いた玄米の米粒は、外側から糊粉細胞層、亜糊粉細

胞層、澱粉細胞層の順で積層されている。そして、糊粉細胞層にはデンプン

が含有されていない一方、亜糊粉細胞層及び澱粉細胞層にはデンプンが含有

されているところ、デンプン染色試験(甲7試験及び甲82試験)の結果、

被告製品の米粒表面にはデンプンが含有していることが確認された。これら

10 の玄米の構造や試験結果から、被告製品の米粒表面に露出しているのは亜糊

粉細胞層又は澱粉細胞層であることになる。しかし、仮に、被告製品の米粒

表面に澱粉細胞層が露出しているとした場合、デンプン染色試験を除く甲8

2試験や白度、黄色度試験(甲61試験及び甲62試験)の結果、すなわち、

被告製品が本件発明の実施品である原告製品に近似した色調や白度を示す

15 一方、澱粉細胞層が表面に露出した完全精白米に近似した色調や白度を示す

ものとはならなかったことと矛盾が生じる。したがって、被告製品の米粒表

面には亜糊粉細胞層が露出していることになる。

(3) 構成要件B(「米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽

(8)』または『…胚盤(9)』が残っており」)の充足性

20 構成要件Bは、その字義どおり、米粒の50%以上に『胚芽の表面部を削り

とられた胚芽』又は『胚盤』が残っていることを特定するものである。

原告は、精米時期や産年の異なる被告製品の米粒100粒を対象として、合

計4回、胚芽残存率を確認したところ、その50%以上に『胚芽(7)の表面

部を削りとられた胚芽(8)』又は『胚盤』が残っていることが確認された。

25 したがって、被告製品は、構成bを有し、構成要件Bを充足する。

(4) 構成要件C(『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる」
「 )の充足性


12
構成要件Cは、その字義どおり、
『肌ヌカ』のみが分離除去されていることを

特定するものである。

肌ヌカは、デンプンを含まない糊粉細胞層の細胞壁が破られその中の糊粉顆

粒が米粒表面に粘りつけられたものであるところ、被告製品の米粒の濁度を測

5 定した結果(甲7試験等)、特定非営利活動法人全国無洗米協会が定める無洗

米検査基準である「28ppm以下」
(ほぼ完全に糠が取り除かれていること)

を大きく下回る「10.2ppm」前後であることが確認された。

したがって、被告製品は、構成cを有し、構成要件Cを充足する。

【被告らの主張】

10 (1) 被告製品の構成

原告が主張する被告製品の構成はいずれも否認する。

被告製品は、可及的に胚芽を残すために摩擦式精米機で緩やかに搗精し、

無洗米機でうま味成分を残しながら糠分を除去したものである。技術的観点か

らいえば、既存の胚芽米の製造技術と無洗米技術を組み合わせて胚芽米を無洗

15 米にしたものであり、胚乳と胚芽で構成されているが、全ての米粒に胚芽が残

っているわけではない。

(2) 構成要件A(「亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており」)の非充足



ア 亜糊粉細胞は、最終的にデンプン貯蔵細胞となり、完熟時の玄米粒には亜

20 糊粉細胞層は存在しないから、被告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出す

ることはあり得ない。仮に、完熟時の玄米粒に亜糊粉細胞層が存在するとし

ても、被告らでは、胚芽を残すために精米機で玄米粒を穏やかに搗精し、無

洗米機で無洗米化しているだけで、別段、亜糊粉細胞層を米粒の表面に露出

させようとはしていない。

25 したがって、亜糊粉細胞層は搗精と無洗米にする工程で脱落し、被告製品

の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出することはないから、被告製品は、構成a


13
を有さず、構成要件Aを充足しない。

イ 原告が実施した各試験に関する主張について

(ア) デンプン染色試験及び脂質染色試験(甲7試験及び甲30試験)

デンプン貯蔵細胞(澱粉細胞層)はデンプンと脂質を含有していること

5 から、デンプン染色試験及び脂質染色試験(甲7試験及び甲30試験)に

より被告製品の米粒のデンプンと脂質を染色しても、亜糊粉細胞層とデン

プン貯蔵細胞の区別はつかないため、亜糊粉細胞層が露出していることの

証明にはならない。

なお、亜糊粉細胞層は無色透明ないし乳白色透明の一層の細胞層であり、

10 厚みは僅か数ミクロンであって、目視することは不可能であるから、亜糊

粉細胞層が被告製品の米粒の表面に露出していることを証明するために

は、電子顕微鏡写真又はX線写真を用いて直接的に立証しなければならな

い。

(イ) 白度、黄色度試験(甲61試験等)

15 本件明細書の記載において、本件発明に係る無洗米の米粒表面に亜糊粉

細胞層が露出して米粒表面を覆っている状態や亜糊粉細胞層が本件発明

に係る無洗米の表面を覆っているために炊飯後の米粒表面の黄色度が1

3〜18になることは何ら実証されていない。

(ウ) 脂質の定量分析試験(甲64試験)

20 甲64試験は、被告製品の米粒表層に脂質が存在することを証明するだ

けの意味しかない。

(エ) 甲82試験(CBB染色試験等)

a 時機に後れた攻撃方法に当たること

甲82試験に係る主張及び証拠は、裁判所が、侵害論に関する実質的

25 な審理を打ち切り、当事者双方に心証を開示した後に提出されたもので

あり、審理を蒸し返すことは明らかであって、時機に後れ、訴訟上の信


14
義則にも反する。

b CBB染色試験

亜糊粉細胞層にタンパク質が多いのは発達の初期段階に限られ、特殊

な機能分化を起こしてデンプン貯蔵組織(澱粉細胞層)になった後の含

5 有成分はデンプンと少量のタンパク顆粒である。

また、CBB染色の結果、被告製品と原告製品の大半の米粒が青色に

染色され、その明度と彩度が近似しているのは、ともに米粒表面が糊粉

細胞層に覆われているからであり、また、完全精白米が淡い青色に染色

されたのは、被告製品と比べ、完全精白米の搗精度と白度がともに高い

10 からである。

c NMG染色試験

NMG染色により完全精白米の米粒がピンク色に染まるのは残存糠

(搗精により除去されずに米粒表面に残存した糊粉細胞層)がないから

であり、被告製品の米粒表面がピンク色と青色の中間色になるのは、胚

15 乳部がピンク色に、糊粉細胞層が青色に染色されているからである。

d 脂質染色試験

脂質染色により完全精白米の米粒が橙赤色に染色されるのは、完全精

白米には残存糠(搗精により除去されずに米粒表面に残存した糊粉細胞

層)がなく、胚乳細胞群に含まれる脂質が染色されるからであり、被告

20 製品と原告製品の米粒が濃く染色されるのは、被告製品及び原告製品に

は糊粉細胞層があり、糊粉細胞層に含まれる脂質が濃く染色されるから

である。

e デンプン染色試験

前記cのとおり、NMG染色試験の結果、被告製品と原告製品の米粒

25 表面の細胞層はいずれも糊粉細胞層であることが確認されたから、デン

プン染色の結果、被告製品と原告製品の米粒の明度や彩度、染色色調が


15
近似することは当然である。

(オ) 各試験を総合考慮することについて

NMG染色試験(甲82試験)により、被告製品の米粒表面の細胞層は

糊粉細胞層であることが判明している。また、本件明細書において、本件

5 発明に係る無洗米の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していることは何ら

実証されておらず、原告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出しているこ

とも実証されていない。

したがって、被告製品の米粒表面に露出している層が、亜糊粉細胞層又

は澱粉細胞層のいずれかであるとの前提が成り立たない。

10 ウ 構成要件B(「米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚

芽(8)』または『…胚盤(9)』が残っており」)の非充足性

原告が行った各試験は、写真が不鮮明であったり、公証人が関与していな

いものであるなど、いずれも信用できるものではない。

したがって、被告製品は、構成bを有さず、構成要件Bを充足しない。

15 エ 構成要件C(『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる」
「 )の非充足性

肌ヌカのみが除去されているというためには、無洗米機にかける前後の糖

類等の栄養成分の測定及び無洗米機にかける前後の濁度の測定(糠成分の変

化の測定)が不可欠であり、無洗米化された後の米粒の濁度を測定しても、

肌ヌカのみが分離除去されていることを証明することにはならない。

20 したがって、被告製品は、構成cを有さず、構成要件Cを充足しない。

2 争点2−1(産業上利用することができない発明であるか)について

【被告らの主張】

本件発明は、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊

粉細胞層が米粒の表面に露出していることを最大の特徴としている。しかし、前

25 記1【被告らの主張】(2)アのとおり、亜糊粉細胞は、最終的にデンプン貯蔵細胞

となり、完熟時の玄米粒には亜糊粉細胞層は存在しないから、完熟した玄米粒の


16
表面に亜糊粉細胞層を露出させることは自然の摂理に反し、不可能である。

したがって、本件特許は、自然法則を利用した技術的思想創作として成立し

得ず、産業上利用することができない発明である。

【原告の主張】

5 被告らは、玄米の完熟時に「亜糊粉細胞層」が「デンプン貯蔵組織」になると

の文献(乙5)の記載に基づき主張をしているが、同記載は、貯蔵物質であるデ

ンプンの輸送経路としての役を果たしていた「亜糊粉細胞」が、玄米の完熟時に

デンプンを蓄積する働きをするにようになることを示すものであって、亜糊粉細

胞層が消滅してなくなるわけではない。前記文献の他の記載等からも、完熟した

10 玄米粒に亜糊粉細胞層が存在することは明らかである。

したがって、本件特許は産業上利用することができないものではない。

3 争点2−2(未完成発明であるか)について

【被告らの主張】

仮に、完熟した玄米粒に亜糊粉細胞層が存在するとしても、本件特許の実施

15 である原告製品の電子顕微鏡写真(乙1。以下「乙1写真」という。)によれば、

原告製品の米粒表面は除去されているはずの糊粉細胞層で覆われており、糊粉細

胞層の表面には、除去されているはずの糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で

米粒の表面に付着している肌ヌカが、べったりとへばりついて残っていることが

明らかとなっている。したがって、本件発明を特徴づける重要箇所の記載がすべ

20 て実現されていない。

また、本件発明に係る無洗米における「表層部から糊粉細胞層(4)までが除

去され」との状態、
「亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており」との状態

及び「肌ヌカのみが分離除去されてなる」状態は、本件明細書において全く証明

されていない。

25 以上から、本件特許は、発明として未完成である。

【原告の主張】


17
発明が完成したというためには、当業者が反復実施することができる程度まで

具体化・客観化されていれば足り、100%の反復可能性は要求されていない。

本件明細書は、玄米粒において、摩擦式精米機による搗精により、マルトオリゴ

糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層を米粒の表面に露出させ、また、

5 胚芽及び胚盤を残せばよいこと、そのためには「むら剥離」をなくすことと亜糊

粉細胞層が露出した時に搗精を終わらせることが必要であること等を開示する

ものであり、本件発明は、課題を解決するための技術的手段が、当該技術分野に

おける通常の知識を有する者が反復実施して目的とする効果を挙げることがで

きる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されている。

10 したがって、本件特許は発明として未完成のものではない。

4 争点2−3(サポート要件違反があるか)について

【被告らの主張】

亜糊粉細胞層は、厚さがわずか数ミクロンの目視不可能な細胞層であるから、

光学顕微鏡を用いたとしても外観観察では確認不可能である。また、「肌ヌカの

15 みが分離除去されてなる」ことを証明するには、無洗米機にかける前後の糖類等

の栄養成分の変化の測定、及び無洗米機にかける前後の濁度の変化の測定(糠成

分の変化の測定)が不可欠である。しかし、本件明細書の記載において、このよ

うな無洗米機にかける前後の糖類等の栄養成分の変化の測定、濁度の変化の測定

実施の記載は全くなく、「肌ヌカのみが分離除去されてなる」こと等の証明は

20 全くなされていない。

以上から、本件発明に係る無洗米における「亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面

に露出し」ている状態、及び「『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる」状態は、本

件明細書において全く証明されておらず、本件特許はサポート要件を満たしてい

ない。

25 【原告の主張】

(1) 特許無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実


18
同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない(特許法167

条) その趣旨に照らすと、
侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い、無効不成立

の審決を確定させた場合には、同一当事者間の侵害訴訟において同一の事実

同一の証拠に基づく無効理由を特許無効の抗弁として主張することは、特段

5 の事情がない限り、訴訟上の信義則に反するものであって、許されないと解す

べきである。

被告幸南は、前件取消訴訟において、本件特許にはサポート要件違反及び明

確性要件違反の無効理由がある旨を主張して乙1写真を証拠提出していたと

ころ、乙1写真に基づくサポート要件違反を理由とする本件特許の特許無効審

10 判の請求は、特許法167条に該当し、被告幸南は、本件特許の特許無効審判

を請求することができず、本件において上記特段の事情があることはうかがわ

れないから、被告幸南が本件訴訟において特許無効の抗弁として乙1写真に基

づくサポート要件違反を主張することは、訴訟上の信義則に反し、許されない。

(2) 本件明細書には、精米行程の最終行程を経た白度35〜38に仕上げられた

15 精白米は、亜糊粉細胞層がほとんど残存しているとされ 【0032】、
( ) また、

そのためには、「装置のミニチュア機と、白度計と、炊飯器と、黄色度計を用

い、そのロットの米はどの白度に仕上げれば良いかを事前に確認して」【00


35】)おけばよい旨の記載があり、
「亜糊紛細胞層が表面に露出した」ことを

確認することができないとはいえない。また、本件発明の内容は被告らが主張

20 するような図面代用写真等(乙1写真やX線写真等)がなくても当業者におい

て理解可能である。

したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件

特許はサポート要件を充足する。

5 争点2−4(明確性要件違反があるか)について

25 【被告らの主張】

無洗米機は、大きく分けて、水洗式と非水洗式とに分類されるところ、特に水


19
洗式の無洗米機を用いて無洗米化を実施すれば、水に溶けやすい亜糊紛細胞層中

の糖類等は、一瞬で流し去られてしまう。したがって、本件発明に係る無洗米に

おける無洗米機に関する記載も、『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる」状態を


実現するためには、少なくとも水洗式の無洗米機を除く記載にしなければならな

5 い。

本件特許は「更に無洗米機(21)にて、」と記載するのみで、水洗式の無洗米

機を除く記載になっていないから、発明を明確にできていない。

したがって、本件特許には明確性要件違反がある。

【原告の主張】

10 (1) 前記4【原告の主張】(1)と同様に、被告幸南は、前件取消訴訟において、本

件特許にはサポート要件違反及び明確性要件違反の無効理由がある旨を主張

して乙1写真を証拠提出していたところ、乙1写真に基づく明確性要件違反を

理由とする本件特許の特許無効審判の請求は、特許法167条に該当し、被告

幸南は、本件特許の特許無効審判を請求することができず、本件において上記

15 特段の事情があることはうかがわれないから、被告幸南が本件訴訟において特

許無効の抗弁として乙1写真に基づく明確性要件違反を主張することは、訴訟

上の信義則に反し、許されない。

(2) 原告製品に係るホームページの記載は、本件発明に係る無洗米の製造方法

一例として、原告が実際に実施する無洗米の製造方法を示すものにすぎず、本

20 件発明における無洗米の製造方法を特定のものに限定するものではなく、その

他、本件発明における無洗米の製造方法が特定のものに限定される根拠はない。

したがって、本件特許は明確性要件を充足する。

6 争点3(損害等の発生及びその額)について

【原告の主張】

25 (1) 被告幸南に対する請求

ア 損害賠償請求


20
(ア) 主位的主張(特許法102条1項に基づく主張)

被告幸南は、平成30年11月18日から乙事件訴え提起の日の前日

(令和3年11月17日)までの間に、被告製品を少なくとも88万42

68キログラム販売した。原告製品の1キログラム当たりの限界利益は、

5 平均83.26円(消費税を含む。)を下らない。

したがって、被告幸南による平成30年11月18日から乙事件訴え提

起の日の前日(令和3年11月17日)までの間の被告製品の販売行為に

より、原告は少なくとも7362万4153円相当の損害を被った。

(イ) 予備的主張(特許法102条2項に基づく主張)

10 被告製品の年間売上高は、少なくとも1億7604万円(消費税を含む。)

であり、被告製品の利益は少なくとも販売価格(消費税を含む。 の13.


9408%を下らないので、平成30年11月18日から乙事件訴え提起

の日の前日(令和3年11月17日)までの間に、被告製品の販売により、

被告幸南は、少なくとも7362万4153円の利益を得たものであり、

15 原告は、これを損害として請求し得る。

(ウ) 調査費用相当損害

原告は、被告製品が本件発明の技術的範囲に属することを確認するため、

甲7試験等の試験を行ったが、それらに必要な費用として合計52万66

82円を支出した。

20 (エ) 弁護士費用及び弁理士費用相当損害

被告幸南による本件特許権侵害に係る不法行為相当因果関係のある

弁護士費用及び弁理士費用相当損害は、少なくとも746万円である。

(オ) よって、原告は、本件特許権侵害に基づく損害賠償請求として、被告幸

南に対し、平成30年11月18日から令和2年3月31日までの逸失利

25 益損害及び弁護士費用等相当損害の少なくとも3695万1098円と

令和2年4月1日から令和3年11月17日までの逸失利益損害、調査費


21
用及び弁護士費用等相当損害の少なくとも4465万9737円並びに

これらに対する各不法行為の時から支払済みまでの遅延損害金の請求権

を有し、これらの各一部請求として、前記第1の2(1)及び(2)の請求をす

る。

5 イ 不当利得返還請求

(ア) 主位的請求(民法704条に基づく請求)

原告と被告幸南間のP1式精米法使用契約が終了した日の翌日である

平成27年1月18日から平成30年11月17日までの間の、被告製品

の売上高は少なくとも6億7473万9616円(消費税を含む。)であ

10 る。

被告幸南は、本件発明の実施に対する実施料相当額6747万3961

円(被告製品の売上高に実施料率10%を乗じた額)を支払っておらず、

同額の利得を得ており、原告は、同額の損失を被っている。

また、被告幸南は、P1式精米法使用契約が平成27年1月17日をも

15 って終了した後は、本件発明を実施する正当な権原がないことを知りなが

ら前記利得を受けた悪意の受益者であり、その受けた利益に利息を付して

返還しなければならない。

したがって、原告は、被告幸南に対し、民法704条に基づき、不当利

得返還請求として、平成27年1月18日から平成30年11月17日ま

20 での不当利得金の少なくとも6747万3961円及びこれに対する各

受益の時から支払済みまでの利息請求権を有する。

(イ) 予備的請求(民法703条に基づく請求)

仮に被告幸南が悪意の受益者でないとしても、原告は、被告幸南に対し、

民法703条に基づき、不当利得返還請求として、平成27年1月18日

25 から平成30年11月17日までの不当利得金6747万3961円及

びこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害


22
金の請求権を有する。

(ウ) よって、原告は、これらの各一部請求として、被告幸南に対し、前記第

1の2(3)の請求をする。

(2) 被告米匠庵に対する請求

5 ア 主位的主張(特許法102条1項に基づく主張)

被告米匠庵は、平成27年1月18日から令和4年3月31日までの間に、

被告製品を少なくとも212万2243キログラム販売した。原告製品の1

キログラム当たりの限界利益は、平均83.26円(消費税を含む。)を下ら

ない。

10 したがって、被告米匠庵による平成27年1月18日から令和4年3月3

1日までの間の被告製品の販売行為により、原告は、少なくとも1億766

9万7952円相当の損害を被った。

イ 予備的主張(特許法102条2項に基づく主張)

被告製品の年間売上高は、少なくとも1億7604万円(消費税を含む。)

15 であり、被告製品の利益は少なくとも販売価格(消費税を含む。)の13.9

408%を下らないので、平成27年1月18日から令和4年3月31日ま

での間に、被告製品の販売により、被告米匠庵は、少なくとも1億7669

万7952円の利益を得たものであり、原告は、これを損害として請求し得

る。

20 ウ 調査費用相当損害

原告は、被告製品が本件発明の技術的範囲に属することを確認するため、

甲7試験等の試験を行ったが、それらに必要な費用として合計52万668

2円を支出した。

エ 弁護士費用及び弁理士費用相当損害

25 被告米匠庵による本件特許権侵害に係る不法行為相当因果関係のある

弁護士費用及び弁理士費用相当損害は少なくとも1780万円である。


23
オ よって、原告は、本件特許権侵害に基づく損害賠償請求として、被告米匠

庵に対し、平成27年1月18日から令和2年3月31日までの逸失利益

害及び弁護士費用等相当損害の少なくとも1億4041万5183円と令

和2年4月1日から令和4年3月31日までの逸失利益損害、調査費用52

5 万6682円及び弁護士費用等相当損害の少なくとも5409万5709

円並びにこれらに対する各不法行為の時から支払済みまでの遅延損害金の

請求権を有し、これらの各一部請求として、前記第1の4(1)及び(2)の請求

をする。

(3) 被告らに対する差止請求

10 原告は、被告幸南に対し、本件特許権侵害を理由に被告製品の製造販売の中

止を求めたが、被告幸南は、これに応じず、特許無効審判を請求するなどして

争い、本件特許が有効であることが確定した後も、被告らは被告製品の製造販

売を継続している。

したがって、被告らに対し、被告製品の製造販売等の差止めを求める必要性

15 がある。

【被告らの主張】

争う。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)のうちの構成要件

20 (「亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており」)の充足性

(1) デンプン染色試験及び脂質染色試験(甲7試験及び甲30試験)について

ア 原告は、亜糊粉細胞層はデンプンと脂質をいずれも含有しているのに対し、

糊粉細胞層は脂質を多く含有するがデンプンを含有しておらず、澱粉細胞層

はデンプンを含有するが脂質をほとんど含有していないことを前提として、

25 甲7試験及び甲30試験の結果から、被告製品(令和2年及び令和3年産宮

城県産つや姫胚芽一番)の米粒表面には亜糊粉細胞層が露出している旨を主


24
張する。

イ 文献(甲15)には、玄米を対象とした脂質染色試験の結果について、
「玄

米(a、b)では糊粉層と、隣接する胚乳細胞群は第3〜4層まで染色され

た。、
」「玄米のスダン IV 染色の結果、胚芽部(胚盤を含む)と糊粉層は濃厚

5 に染色され、表層に近い部分の胚乳細胞も赤色となり、第4〜5層以内の胚

乳細胞ではセルウォールに沿って赤色が認められ、中心部は染色の程度が低

い。 との記載があるところ、
」 これらの記載は、糊粉層及び糊粉層と隣接して

存在する胚乳細胞群のうち、糊粉層に内接する第1層から第3層に到るまで

又は第1層から第4層に到るまで及びそれ以降の細胞壁が染色されたこと

10 をいうものと理解される。

本件明細書には、
「前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄

黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、

純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒」との記載があり、文献

(甲12)には、
「デンプン貯蔵柔組織の最外層、つまり糊粉層に内接する細

15 胞層は、亜糊粉層(subaleurone layer)とも呼ばれ」と記

載されているところ、この構造自体は甲12、甲14の文献などから公知の

事実に属すると解されることから、 隣接する胚乳細胞群」 甲15)
「 ( のうち、

糊粉層と内接する第1層が亜糊粉細胞層であり、第2層から第4層は澱粉細

胞層であると考えられる。

20 そうすると、前記文献(甲15)の染色試験は、亜糊粉細胞層及び澱粉細

胞層のうち第2層から第3層まで又は第2層から第4層まで(及びそれ以降

の細胞壁)に脂質が含有されていることを示すものであるといえる(同文献

において、
「粗脂肪を充分に除くには精米歩合75%以下にする必要がある」

とされることも、このことと整合的である。。


25 ウ その他の文献によっても、脂質は、胚乳においてはほとんどが糊粉細胞層

内に存在し、澱粉細胞層においては極めて少ない含有率である旨(甲12)、


25
脂質は糠層に存在するが胚乳にはごくわずかしか存在しない旨(甲13)、

脂質は、果皮、糊粉細胞層、亜糊粉細胞層、胚乳内層、胚盤及び胚芽に広く

存在し、特に、糊粉細胞層、亜糊粉細胞層、胚などに多い旨(甲14)等の

記載があることが認められ、玄米全体でみた場合において、澱粉細胞層にお

5 ける脂質の含有率が相対的に低いことはいえるものの、澱粉細胞自体に脂質

が含有されていないことを裏付ける記載はない。

エ そうすると、原告主張の「澱粉細胞層はデンプンを含有するが脂質をほと

んど含有していない」との前提自体が立証されているとはいえず、甲7実験

及び甲30実験により、被告製品の表層部が脂質を含む細胞で構成されてい

10 ることから、被告製品の表層部に亜糊粉細胞層が露出しているということは

できない。

オ イに関し、原告は、前記文献(甲15)と同一著者の文献(甲58)に、

精米歩合75%で除去される範囲は少なくとも糊粉層の内側に隣接した二

つの層からなる領域までであることが明確に記載されていることを指摘す

15 るなどして、前記文献(甲15)の「第3層」は、亜糊粉細胞層である旨を

主張する。

しかし、文献(甲58)には、
「でんぷん細胞層は、細胞の大きさ、でんぷ

ん粒を含む蛋白質の膜の厚さ等により3層に分けられ、内部へいくに従って

でんぷん細胞が大きくなり、蛋白質の膜状構造が不明瞭になる」と記載され

20 ており、第1図には、でんぷん細胞層がT、U、Vの3層に分けられ、精米

歩合75%では、3層のうち果皮側のT層までが除去されることが図示され

ている。このように、文献(甲58)では、T層からV層の範囲が定義され

ているのに対し、文献(甲15)では、このような定義はされていないこと

から、同一著者というのみで、細胞層の範囲を同一に解すべき合理的な理由

25 はない。また、一般的な精白米の精米歩合は90%程度であると認められる

(文献(甲13)には、
「米飯用」の精米歩合が92%との記載があり、別の


26
文献(甲90)では「普通精米」の精米率は90%とされている。)ことに照

らすと、精米歩合75%で精米された米に亜糊粉細胞層が残存するとは考え

にくい上、前記文献(甲58)には、
「75%白米といっても実際に酒造場で

用いられている白米の真精米歩合は、ばらつきが大きく、大よそ84%〜7

5 5%に及んでいる。」との記載があることに照らすと、精米歩合と残存する

米の細胞層とが一対一の対応関係にあるものとも考え難い。

以上から、原告の主張を採用することはできない。

(2) 白度及び黄色度試験(甲61試験ないし甲63試験)について

ア 原告は、本件明細書の段落【0041】ないし【0043】 【0045】


10 の記載から、本件発明に係る無洗米は、白度が41ないし45であり、黄色

度が13ないし18であることを前提とし、甲61試験ないし甲63試験の

結果から、被告製品(令和4年産宮城県産つや姫胚芽一番)の白度及び黄色

度は前記範囲に含まれる旨を主張する。

イ 本件明細書には、「亜糊粉細胞層5が表面に現れた時の白度が35〜38

15 (米粒により差がある)となるので、最適の状態に仕上げるような白度計と

黄色度計を用いて、試験搗精の上で、対処できる。(
」【0029】、
)「白度3

5〜38の内のどの白度に仕上げるかは、上記装置のミニチュア機と、白度

計と、炊飯器と、黄色度計を用い、そのロットの米はどの白度に仕上げれば

良いかを事前に確認しておき、その白度で仕上げるのである。 【0035】、

( )

20 「精米機で仕上げられたままでは肌糠が表面に付着しているため、それを第

4昇降機19にて精白米タンク20に投入し、無洗米機21にて肌糠を除去

し、無洗米に仕上げられ、排出口22より排出する。…無洗米機21にかけ

た場合は、排出された無洗米は、亜糊粉細胞層5は除去されず、肌ヌカが除

去され、白度41〜45に仕上がっている。(
」【0041】、
)「本発明の精米

25 機から排出された白度35〜38の精白米には、その表面に糊粉細胞層4な

どの糠成分が残っていないことは前述した通りであるが、それが残っていれ


27
ば無洗米機21にて肌糠を取り除いていても、糊粉細胞層4等の糠成分は黄

茶色をしているため、白度は40以上に上がることはない。 【0042】、

( )

「本発明の無洗米は白度41以上であっても、その表面は亜糊粉細胞層5に

覆われているため、ご飯に炊き上げると、僅かに黄色みを帯びた黄色度13

5 〜18になるのである。(
」【0043】)との記載がある。

ウ このような本件明細書の記載によれば、亜糊粉細胞層が米粒表面に現れる

白度は、米粒、ロット等によって変化するものであり、対象とする米粒の前

記白度は、白度計等を用いた試験搗精で確認する必要があること、すなわち、

試験搗精で対象となる米粒を削り、白度が35ないし38の間で、亜糊粉細

10 胞層が米粒表面に現れた時点の白度を特定する必要があり、白度が35ない

し38の間にある米粒であれば亜糊粉細胞層が露出したものであることを

意味するものではないと理解される。

そうすると、被告製品の米粒の白度及び黄色度が本件明細書記載の白度及

び黄色度の範囲内であることを示すにすぎない甲61試験等から、被告製品

15 の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していることがいえることにはならない

ものというべきである。

(3) 脂質含有量測定試験(甲64試験)について

ア 原告は、精白米、被告製品(令和4年産宮城県産つや姫胚芽一番)及び原

告製品の「胚芽及び胚盤を選別除去した米粒表面の粉」を対象として、脂質

20 含有量を測定した結果、被告製品の胚芽及び胚盤のない表面と精白米の表面

とは脂質含有量が明らかに異なる一方、被告製品の胚芽及び胚盤のない表面

には原告製品と同程度の脂質を含有することが確認された旨を主張する。

イ この点、前記のとおり、表層部付近の澱粉細胞層にも脂質が含有されてい

ることから、精白米(なお、どのような精米がされたものかが客観的に明ら

25 かになっておらず、澱粉細胞層の表層部がどの程度残存するのかは不明であ

る。 と比較して、
) 被告製品の米粒表面の脂質含有量が多かったとしても、被


28
告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していることにはならない。また、

原告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していることを認めるに足りる

証拠はないから、原告製品と被告製品の米粒表面の脂質含有量が同程度であ

ったとしても、被告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していることには

5 ならない。

(4) CBB染色試験(甲82試験)について

ア 原告は、亜糊粉細胞層は特にタンパク質を多く含有することが知られてい

るところ、CBB染色の結果、完全精白米の米粒のタンパク質染色と比較し、

被告製品(令和4年産宮城県産つや姫胚芽一番。甲82試験の被告製品は、

10 いずれも同一の袋に梱包されて市販されていた米を対象としている。)の米

粒は、色差、明度、色度及び彩度において明らかな差異がある一方、原告製

品の米粒のタンパク質染色と比較し、被告製品の米粒の染色色調は目視でも

ほぼ同じ程度に青色が濃く染色され、かつ、明度及び彩度がかなり近似して

いる旨を主張する。

15 イ 証拠(甲12、13、86〜88、乙5の1)及び弁論の全趣旨によれば、

糊粉細胞層及び亜糊粉細胞層のいずれにもタンパク質が多く含まれている

ことが認められる。

一方で、CBB染色は、タンパク質の量を染色色調として検出することは

可能であることが認められるが(甲82、83) 糊粉細胞層と亜糊粉細胞層


20 のタンパク質量の差を染色色調の差として検出することができることを認

めるに足りる証拠はない。

ウ そうすると、CBB染色試験の結果、完全精白米の米粒と比較し、被告製

品の米粒が色差等において明らかな差異があることから、被告製品の米粒表

面に亜糊粉細胞層が露出していることを裏付けることにはならないという

25 べきである。また、原告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していること

を認めるに足りる証拠はないから、原告製品と被告製品の米粒のCBB染色


29
試験の結果が類似していたとしても、被告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が

露出していることにはならない。

(5) NMG染色試験(甲82試験)について

ア 原告は、NMG染色の結果、完全精白米の米粒はピンク色が強く染色され

5 るが、被告製品の米粒はピンク色と青色が混ざった濃い紫色に染色される一

方、原告製品の米粒の色調と比較し、被告製品の米粒の色調は目視でもほぼ

同じに濃い紫色に染色され、かつ、明度及び彩度がかなり近似している旨を

主張する。

イ 証拠(甲90、91、乙10)及び弁論の全趣旨によれば、普通精米をし、

10 残存糠、すなわち、糠層(糊粉層及び胚芽)がある米粒に対しNMG染色を

した場合にピンク色と青色の中間色になることが認められる一方、亜糊粉細

胞層をNMG染色した場合に青色とピンク色の中間的な色に染色されるこ

とを認めるに足りる証拠はない。そうすると、NMG染色試験の結果、完全

精白米の米粒はピンク色が強く染色される一方、被告製品の米粒はピンク色

15 と青色が混ざった濃い紫色に染色されたとしても、被告製品の米粒には糠層

(糊粉層及び胚芽)があることを示しているにすぎず、直ちに被告製品の米

粒表面に亜糊粉細胞層が露出していることを裏付けることにはならない。ま

た、原告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していることを認めるに足り

る証拠はないから、原告製品と被告製品の米粒のNMG染色試験の結果が類

20 似していたとしても、被告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出しているこ

とにはならない。

(6) 脂質染色試験(甲82試験)について

ア 原告は、亜糊粉細胞層はデンプン貯蔵細胞に比べ特に脂質を多く含有する

ことから、脂質染色の結果、完全精白米の米粒と比較し、被告製品の米粒は

25 明らかな差異がある一方、原告製品の米粒と比較し、被告製品の米粒は目視

でもほぼ同じに橙赤色が濃く染色されており、色差等は近似している旨を主


30
張する。

イ 証拠(甲12ないし15、乙5の1)及び弁論の全趣旨によれば、糊粉細

胞層及び亜糊粉細胞層は、いずれも脂質を多く含有していること、澱粉細胞

層の表層に近い部分も脂質を含有していることが認められる。一方で、脂質

5 染色は、脂質の量を染色色調として検出することは可能であることが認めら

れる(甲82、83)が、糊粉細胞層、亜糊粉細胞層、それに近接する澱粉

細胞層の脂質量の差を染色色調の差として検出することができることを認

めるに足りる証拠はない。そうすると、脂質染色の結果、完全精白米の米粒

と比較して、被告製品の米粒の方が濃い橙赤色に染色されたとしても、被告

10 製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していることを裏付けることにはな

らない。また、原告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していることを認

めるに足りる証拠はないから、原告製品と被告製品の米粒の脂質染色試験の

結果が類似していたとしても、被告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出し

ていることにはならない。

15 (7) デンプン染色試験(甲82試験)について

ア 原告は、ヨウ素染色液はデンプンを深紫色に染色するところ、糊粉層はデ

ンプンを含有せず、デンプン貯蔵層や亜糊粉細胞層はデンプンを含有するこ

とを前提として、デンプン染色の結果、被告製品、完全精白米及び原告製品

のいずれも、米粒表面が深紫色に染色され、その染色色調は、明度、色度及

20 び彩度がかなり近似しており、被告製品の米粒と原告製品の米粒の色差はか

なり接近している旨を主張する。

イ 証拠(甲12〜15、58、乙5)及び弁論の全趣旨によれば、糊粉細胞

層はデンプンを含有せず、亜糊粉細胞層及び澱粉細胞層はデンプンを含有す

ることが認められる。しかし、甲82試験は、米粒群を、ヨウ素2倍希釈液

25 に60秒間浸して染色した後、ペーパータオルで希釈液をぬぐってから、米

粒の色を測定するものであるところ、このような試験条件は、米粒表面のみ


31
を染色するものではなく、米粒全体が染色されたと理解するのが自然である。

そうすると、ヨウ素2倍希釈液は、米粒表面の細胞層のデンプンを染色する

とともに、米粒内部にも浸透し、米粒内部のデンプンを多く含む澱粉細胞層

をも染色するものと認められる。そうであるところ、甲82試験の結果(写

5 真90等)によれば、被告製品の米粒は深紫色に染色されていることが認め

られるものの、米粒表層部分が染色されているかどうかは不明である(原告

は、甲82試験において、甲7試験の写真41等のような、被告製品の米粒

表面の染色状況を示す断面写真を提出していない。)から、澱粉細胞層の染

色が濃く、染色されない糊粉細胞層は染色色調の差として検出されなかった

10 可能性を排斥できず、有意な実験結果をもたらすものと認められない。

(8) 各試験を総合考慮することについて

原告は、デンプン染色試験(甲7試験及び甲82試験)の結果等から、被告

製品の米粒表面に露出しているのは、亜糊粉細胞層又は澱粉細胞層のいずれか

であることになるが、仮に、被告製品の米粒表面に澱粉細胞層が露出している

15 と仮定した場合、デンプン染色試験を除く甲82試験等の結果と矛盾すること

になるから、被告製品の米粒表面には亜糊粉細胞層が露出していることになる

旨を主張する。

しかし、原告の行った脂質やタンパク質の分析等から、被告製品について亜

糊粉細胞層が表面に露出しているということはできない(被告製品の米粒表面

20 が糊粉細胞層であっても同様の結果となり得る)ことはこれまで述べたとおり

であって、各実験結果が矛盾することはない。また、本件明細書においても、

亜糊粉細胞層が現れたときの白度は米粒やロットにより差異があることは前

提とされている上、米は自然物であるから、同一の品種であっても、生育環境

が異なれば、米粒の各細胞層の大きさや、含有する成分に個体差が生じること

25 になり、同1条件で搗精をしたとしても、米粒ごとに搗精の程度が異なるもの

と認められる。したがって、デンプン染色試験(甲7試験及び甲30試験)の


32
結果、被告製品(令和2年及び令和3年産宮城県産つや姫胚芽一番)の米粒表

面に糊粉細胞層が存在しないことが確認されたとしても、他の被告製品(令和

4年産宮城県産つや姫胚芽一番)を対象とした甲82試験の結果を検討する上

で前提とすることもできない。

5 (9) 小括

以上のとおり、原告が実施した各試験を個別にみても、これらを総合考慮し

ても、いずれにしても被告製品の米粒表面に亜糊粉細胞層が露出していること

を認めるに足りず、被告製品は、構成aを有しているとはいえないから、構成

要件Aを充足しない。

10 2 被告らの時機に後れた攻撃防御方法の主張(第3の1(2)イ(エ)a)については、

一件記録に照らし、時機に後れた攻撃防御方法とは認められないから、採用しな

い。

第5 結論

以上の次第で、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がな

15 いからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。



大阪地方裁判所第26民事部



裁判長裁判官

20


松 阿 彌 隆



裁判官



25 阿 波 野 右 起




33
裁判官



峯 健 一 郎




34
(別紙)

被告製品目録



胚芽一番

5 以上



(別紙「特許公報」は添付省略)




35
(別紙)

図表一覧

(表1)

精白米 被告製品 原告製品 胚芽等を削っ 胚芽等を削っ

た被告製品 た原告製品

胚芽残存率(%) − 85 72 − −

白度平均値 47.6 41.7 41.7 44.4 44.1

黄色度平均値 8.96 14.89 15.41 12.86 13.37

脂質(r/100g) 8.2 16.0 16.7 − −



5 (表2)

完全精白米 被告製品 原告製品

L* 51.10 29.70 29.62

a* 10.27 28.41 29.45

b* −36.76 −52.30 −52.77

C* 38.17 59.52 60.43

僞* 0.00 32.07 32.94



(表3)

完全精白米 被告製品 原告製品

L* 42.81 26.77 28.00

a* 20.80 18.67 18.03

b* −20.50 −26.87 −26.26

C* 29.20 32.72 31.85

僞* 0.00 17.39 16.12



51
(表4)

完全精白米 被告製品 原告製品

L* 69.26 53.60 53.29

a* 11.02 27.17 26.65

b* 22.58 36.67 35.47

C* 25.13 45.64 44.37

僞* 0.00 26.55 25.80



(表5)

完全精白米 被告製品 原告製品

L* 14.16 15.25 15.15

a* 1.61 1.84 1.24

b* −2.04 −2.02 −1.62

C* 2.60 2.73 2.04

僞* 0.00 1.11 1.13



5 以上




52