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事件 令和 5年 (ワ) 70102号 特許権侵害差止及び特許権侵害賠償請求事件
5原告A
被告 オリヒロプランデュ株式会社 (以下「被告オリヒロ」という。)
同訴訟代理人弁護士 谷内田誠
同訴訟復代理人弁護士 平井健一郎 10 被告お茶の丸幸株式会社 (以下「被告丸幸」という。)
同訴訟代理人弁護士 関谷巖
同 宗像雄
被告株式会社小谷穀粉 15 (以下「被告小谷穀粉」という。)
同訴訟代理人弁護士 矢野公士
同訴訟代理人弁理士 中越貴宣
被告石光商事株式会社 (以下「被告石光商事」という。) 20 同訴訟代理人弁護士 滝澤功治
同 向山大輔
同 杉原努
同 堀内雄樹
同 山下慶康 25 同補佐人弁理士 鳥巣慶太
同 金澤一磨 1主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 5 第1請求 1 被告丸幸は、JANコード「JAN4902776231205」の黒烏龍茶 (以下「被告製品2」という。)を製造し、譲渡し、輸出し又は譲渡の申出をし てはならない。 2 被告小谷穀粉は、JANコード「JAN4901027620782」の黒烏 10 龍茶(以下「被告製品3」という。)を製造し、譲渡し、輸出し又は譲渡の申出 をしてはならない。 3 被告石光商事は、製品番号「HW−307」の茶葉(以下「被告製品4」とい う。)を輸入し、譲渡してはならない。 4 被告丸幸は、被告製品2を廃棄せよ。 15 5 被告小谷穀粉は、被告製品3を廃棄せよ。 6 被告オリヒロは、原告に対し、500万円及びこれに対する令和5年3月18 日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 7 被告丸幸は、原告に対し、300万円及びこれに対する令和5年3月18日か ら支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 20 8 被告小谷穀粉は、原告に対し、500万円及びこれに対する令和5年3月21 日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 9 被告石光商事は、原告に対し、250万円及びこれに対する令和5年3月21 日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 25 本件は、半発酵茶葉等に関する下記1 記載の特許(以下「本件特許」といい、 本件特許に係る特許権を、以下「本件特許権」という。また、本件特許の願書に 2添付された明細書〔甲1〕を、以下「本件明細書」という。)を有する原告が、
被告丸幸が販売する被告製品2、被告小谷穀粉が販売する被告製品3、被告石光 商事が輸入し被告オリヒロに販売していた被告製品4及び被告オリヒロが被告 製品4を仕入れた上で販売していた黒烏龍茶(以下「被告製品1」といい、被告 5 製品1ないし4を併せて「被告各製品」という。)がいずれも本件特許権に係る 請求項4の発明(以下「本件発明」という。 の技術的範囲に属すると主張して、 ) @被告丸幸に対して、特許法100条1項、2項に基づき、被告製品2の製造等 の差止め及び廃棄を、A被告小谷穀粉に対して、特許法100条1項、2項に基 づき、被告製品3の製造等の差止め及び廃棄を、B被告石光商事に対して特許法 10 100条1項に基づき、被告製品4の輸入等の差止めを、それぞれ求めるととも に、C民法709条に基づき、?被告オリヒロに対して損害賠償金として500 万円及びこれに対する訴状送達の翌日から民法所定の年3分の割合による遅延 損害金の支払を、?被告丸幸に対して損害賠償金として300万円及びこれに対 する訴状送達の翌日から民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を、? 15 被告小谷穀粉に対して損害賠償金として500万円及びこれに対する訴状送達 の翌日から民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を、?被告石光商事 に対して損害賠償金として250万円及びこれに対する訴状送達の翌日から民 法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に 20 より認められる事実をいう。) ? 当事者等 ア 原告は、本件特許権を有する特許権者である(甲1)。 イ 被告オリヒロは、健康商品の製造販売、梱包及び貨物運輸取扱業を目的と する株式会社であり、黒烏龍茶である被告製品1を令和4年9月頃まで販売 25 していた(甲6、争いのない事実)。 なお、被告製品1は、被告石光商事から購入した被告製品4を包装するな 3どしたものであり、茶葉は、被告製品4と同一のものである(弁論の全趣旨)。 ウ 被告丸幸は、お茶の販売等を目的とする株式会社であり、黒烏龍茶である
被告製品2を販売している(甲7、争いのない事実)。 エ 被告小谷穀粉は、健康茶の製造販売を目的とする株式会社であり、黒烏龍 5 茶である被告製品3を製造、販売している(甲8、争いのない事実)。 オ 被告石光商事は、食品と嗜好品の輸入、販売を業とする株式会社であり、 茶葉である被告製品4を輸入し、令和4年9月頃まで被告オリヒロに販売し ていた(甲5、争いのない事実)。 ? 本件特許権(甲1) 10 ア 本件特許の概要 特許番号 特許第6995229号 発明の名称 半発酵茶葉、着香の半発酵茶葉、半発酵茶葉又は着香の半 発酵茶葉を含む混合茶葉、半発酵茶葉、着香の半発酵茶葉 又は混合茶葉からの抽出物、抽出物を含む飲食物 15 優先日 平成18年11月29日 出願日 令和3年1月29日 登録日 令和3年12月16日 イ 本件特許に係る特許請求の範囲 本件特許に係る特許請求の範囲の記載のうち、請求項4の発明(本件発明) 20 に係る記載は、次のとおりである。 【請求項4】 紅茶を除く、乾燥した半発酵茶において、下記三つの特性を有することを 特徴とする半発酵茶葉。 ? 茎が取り除かれた前記茶葉に含有されるポリフェノールの重量が当該 25 茶葉の乾燥重量の18重量%以下である特性; ? 茎が取り除かれた前記茶葉に含有されるEGCGとECGの合計重量 4が当該茶葉の乾燥重量の2重量%以下である特性; ? 茎が取り除かれた前記茶葉に含有される総カテキンの重量が当該茶葉 の乾燥重量の7重量%以下である特性; ウ 本件発明の構成要件 5 本件発明の構成要件を分節すると、次のとおりである。 A 紅茶を除く、乾燥した半発酵茶において、 B 茎が取り除かれた前記茶葉に含有されるポリフェノールの重量が当該 茶葉の乾燥重量の18重量%以下である特性 C 茎が取り除かれた前記茶葉に含有されるEGCGとECGの合計重量 10 が当該茶葉の乾燥重量の2重量%以下である特性 D 茎が取り除かれた前記茶葉に含有される総カテキンの重量が当該茶葉 の乾燥重量の7重量%以下である特性 ? 被告各製品の成分分析 訴外三福貿易株式会社は、一般財団法人食品環境検査協会(以下「本件検査 15 協会」という。)に対し、被告製品1ないし3であるとして茶葉を送付し、成 分分析を依頼した。その試験結果は、次のとおりである(以下、被告製品1に 係る試験を「本件試験1」と、被告製品2に係る試験を「本件試験2」と、被 告製品3に係る試験を「本件試験3」といい、本件試験1ないし本件試験3を 併せて「本件各試験」という。)。 20 なお、本件各試験の試験方法については、全ポリフェノールはFolin− Denis法を、その他はいずれも高速液体クロマトグラフ法を適用したとこ ろ、本件各試験に関する脚注として、高速液体クロマトグラフ法は「※ 貴社 ご指定の抽出条件(70%メタノール)で試験実施した」と、Folin−D enis法は「※ タンニン酸として」と、それぞれ記載されている。 25 ア 本件試験1について(甲2、9ないし11) ガロカテキン(GC) 0.09重量% 5エピガロカテキン(EGC) 0.10重量% カテキン(C) 0.03重量% エピカテキン(EC) 0.05重量% エピガロカテキンガレート(EGCG) 0.66重量% 5 ガロカテキンガレート(GCG)0.21重量% エピカテキンガレート(ECG) 0.23重量% カテキンガレート(CG) 0.07重量% 全ポリフェノール 6.17重量% イ 本件試験2について(甲3、3−01、12ないし14) 10 ガロカテキン(GC) 0.18重量% エピガロカテキン(EGC) 0.32重量% カテキン(C) 0.08重量% エピカテキン(EC) 0.13重量% エピガロカテキンガレート(EGCG) 1.33重量% 15 ガロカテキンガレート(GCG) 0.31重量% エピカテキンガレート(ECG) 0.54重量% カテキンガレート(CG) 0.12重量% 全ポリフェノール 8.03重量% ウ 本件試験3について(甲4、15ないし17) 20 ガロカテキン(GC) 0.18重量% エピガロカテキン(EGC) 0.28重量% カテキン(C) 0.05重量% エピカテキン(EC) 0.12重量% エピガロカテキンガレート(EGCG) 1.29重量% 25 ガロカテキンガレート(GCG) 0.22重量% エピカテキンガレート(ECG) 0.42重量% 6カテキンガレート(CG) 0.08重量% 全ポリフェノール 7.45重量% 2 争点 ? 被告各製品の充足性について(争点1) 5ア 「紅茶を除く、乾燥した半発酵茶葉」該当性(構成要件A)(争点1−1) イ 「茎が取り除かれた」該当性(構成要件BないしD)(争点1−2) ウ 「茎が取り除かれた前記茶葉に含有されるポリフェノールの重量が当該茶 葉の乾燥重量の18重量%以下」該当性(構成要件B)(争点1−3) エ 「茎が取り除かれた前記茶葉に含有されるEGCGとECGの合計重量が 10 当該茶葉の乾燥重量の2重量%以下」、「総カテキンの重量が当該茶葉の乾 燥重量の7重量%以下」該当性(構成要件C及びD)(争点1−4) ? 被告製品2に係る先使用権の成否(争点2) ? 無効理由の有無(争点3) ア サポート要件違反の有無(争点3−1) 15 イ 新規性欠如の有無(争点3−2) ウ 進歩性欠如の有無(争点3−3) エ 実施可能要件違反の有無(争点3−4) オ 明確性要件違反の有無(争点3−5) 第3 争点に関する当事者の主張 20 1 争点1−1(「紅茶を除く、乾燥した半発酵茶葉」該当性〔構成要件A〕) (原告の主張) 茶は、発酵の度合いによって、大まかに、@緑茶のような不発酵茶、A紅茶の ように通常全発酵茶と思われている茶、B@とAの中間に属する烏龍茶のような 半発酵茶の三種類に大別できる。このうち、被告各製品は黒烏龍茶の茶葉である 25 から、半発酵茶に該当する。このことは、被告製品1について、包装(甲10) に「原材料名 茶(半発酵茶)」と記載があることからも明らかであり、また、 7
被告各製品は、ティーバッグであるから、乾燥した半発酵茶葉である。したがっ て、被告各製品は構成要件Aを充足する。 (被告らの主張) 本件明細書によれば、「半発酵茶」とは、「カテキン転化率が15%〜95% 5 である発酵度合いの茶葉」(【0024】)とされている。しかし、原告は、被 告各製品のカテキン転化率が15%〜95%であることにつき、主張立証をして いない。また、被告製品1の包装における「半発酵茶」という記載は、本件特許 所定の「半発酵茶」であることを意味するものではない。したがって、被告各製 品は「半発酵茶」との構成要件を充足しない。 10 これに対し、原告は、茶について、@不発酵茶、A全発酵茶、B半発酵茶の三 種類に大別できる旨主張しているものの、当該技術分野における技術常識の上で、 このような区別基準が明確に存在するものではなく、評価者ごとの主観において どう意識されるかにすぎない。したがって、原告が主張するように、(黒)烏龍 茶であれば半発酵茶であるなどとすることは、誤りである。 15 2 争点1−2(「茎が取り除かれた」該当性〔構成要件BないしD〕) (原告の主張) 烏龍茶(半発酵茶)の製造は2段階に分けられ、1段階目で生茶から荒茶に、 2段階目で荒茶から仕上茶に加工する。この場合にいう仕上げとは、荒茶に含ま れる茎や異物等を取り除き、篩にかけて形を整え、火入れを経て、風味を安定さ 20 せることである。そして、中国から日本に輸出される烏龍茶は、全て仕上茶であ るから、等級を問わずに茎を取り除く工程を経ている。仮に茎を取り除かなけれ ば、被告各製品には全体の13重量%から18重量%の茎が含まれているはずで あり、見た目も悪くなるはずであるが、実際にはそうではない。したがって、被 告各製品は構成要件BないしDの「茎が取り除かれた」という構成要件を充足す 25 る。 仮に、被告各製品について茎が完全には取り除かれていなかったとしても、 8少々の茎は、この業界の許容範囲であれば茎が取り除かれた規格とみなされてい るし、その場合でも被告各製品の半発酵茶という性質に何ら変わりはないから、 やはり充足するというべきである。 (被告らの主張) 5 本件特許は、茎を取り除いた茶葉で官能試験を行い、茎を取り除いた茶葉に対 する成分の割合で結果が良かったもの(苦渋みが少なく、水の色が濃く、味には コクと深みがあるもの)を特定するものである。他方、茎を取り除かない場合に は、茶葉と茎では当然に成分が異なる上、茎を含む乾燥茶葉では、茎を取り除い た乾燥茶葉全体に対する各成分の分量が当然に異なることになる。また、茎を取 10 り除かない乾燥茶葉では、茎が取り除かれた乾燥茶葉における官能試験の結果と は、苦渋み、水の色、味が当然に異なることになり、解決しようとする課題は解 決できない。したがって、本件特許は、茎が取り除かれた茶葉を対象とするもの である。 そうすると、被告各製品はそれぞれ茎を含有しているから、いずれも構成要件 15 BないしDを充足しない。 3 争点1−3(「茎が取り除かれた前記茶葉に含有されるポリフェノールの重量 が当該茶葉の乾燥重量の18重量%以下」該当性〔構成要件B〕) (原告の主張) 本件各試験の結果によれば、被告製品1に含有されるポリフェノールの重量は 20 被告製品1の6.17重量%、被告製品2に含有されるポリフェノールの重量は
被告製品2の8.03重量%、被告製品3に含有されるポリフェノールの重量は
被告製品3の7.45重量%である。したがって、被告各製品はいずれも構成要 件Bを充足する。なお、本件各試験は、Folin−Denis法を採用してい るが、これは、日本では最もポピュラーな検査方法である上、本件検査協会の担 25 当者から、70%メタノールの抽出方法と検出結果の数値が近似である旨聞いた ためである。 9これに対し、被告らは、被告各製品は「なまもの」であるとして性状の変化の 可能性を主張するものの、半発酵茶は十分に乾燥されているため、品質は相当安 定しており、常温化の保管でそれほどの変化が生じるものではない。 なお、訴外三福貿易株式会社は、令和5年9月に訴外深?市通量検測科技有限 5 公司に被告製品1及び被告製品2のポリフェノール量の測定を依頼した(以下 「本件試験その2」という。)。本件試験その2においては、GB/T8313 −2018が用いられたところ、被告製品1に含有されるポリフェノールの重量 は被告製品1の9.8重量%、被告製品2に含有されるポリフェノールの重量は
被告製品2の11.5重量%との結果が得られた(甲19,20)。 10 (被告らの主張) 本件各試験の試料の入手経路、保管状況(空気に触れれば酸化が進むことにな る)、検査機関への搬入経路、搬入状況等が不明であり、試験の正確性の担保は ない。そのため、原告は、商品の偽造、すり替え、混入、性状の変性を生じる何 らかの事象等が発生した可能性を払拭できるまでに主張立証するべきである。特 15 に、被告製品は、いわゆる「なまもの」である食品であって、製品中の「ポリフ ェノール」などの成分は、製造時や商品完成時から経時的に減少していくのであ るから、資料の入手時期、製造時期、そこから本件各試験までどのくらいの時間 が経過していたかは、試験結果に重要な影響を与え得る。しかしながら、原告か らこれらの点についての主張立証はされていない。 20 また、本件各試験に関する証拠には、ポリフェノール抽出は70%エタノール を用いたFolin−Denis法で行われた旨が記載されているのみであり、 それ以上の具体的な試験方法が特定されていない。70%エタノールによる方法 では総ポリフェノールの一部しか抽出されないから、本件各試験の結果である数 値は、被告各製品の総ポリフェノール量を示していない。 25 さらに、Folin−Denis法は、本件明細書に記載された測定方法(明 細書【0082】「GB/T8313」)とは異なるため、この意味においても 10 本件各試験の総ポリフェノール量測定は不適切である。 したがって、被告各製品が構成要件Bを充足しているとはいえない。 4 争点1−4(「茎が取り除かれた前記茶葉に含有されるEGCGとECGの合 計重量が当該茶葉の乾燥重量の2重量%以下」、「総カテキンの重量が当該茶葉 5 の乾燥重量の7重量%以下」該当性〔構成要件C及びD〕) (原告の主張) 本件各試験の結果によれば、被告製品1に含有されるEGCGとECGの合計 重量は被告製品1の乾燥重量の0.89重量%、被告製品2に含有されるEGC GとECGの合計重量は被告製品2の乾燥重量の1.87重量%、被告製品3に 10 含有されるEGCGとECGの合計重量は被告製品3の乾燥重量の1.71重 量%であるから、被告各製品はいずれも構成要件Cを充足する。 また、本件各試験の結果によれば、被告製品1の総カテキンの重量は被告製品 1の乾燥重量の1.44重量%、被告製品2の総カテキンの重量は被告製品2の 乾燥重量の3.01重量%、被告製品3の総カテキンの重量は被告製品3の乾燥 15 重量の2.64重量%であるから、被告各製品はいずれも構成要件Dを充足する。 なお、本件各試験はカテキン抽出に当たり熱湯抽出ではなく70%メタノール 基準(中国国家基準)を採用している。これは、本件検査協会の担当者から、普 通の熱湯抽出方法よりも70%メタノールの抽出条件ではカテキンの抽出数量 が約20%多くなる旨聞いたため、被告らに言い分を残さないために採用したも 20 のである。 これに対し、被告らは、被告各製品は「なまもの」であるとして性状の変化の 可能性を主張するものの、半発酵茶は十分に乾燥されているため、品質は相当安 定しており、常温化の保管でそれほどの変化が生じるものではない。 (被告らの主張) 25 本件各試験の試料の入手経路、保管状況(空気に触れれば酸化が進むことにな る)、検査機関への搬入経路、搬入状況等が不明であり、本件各試験の正確性の 11 担保はない。そのため、原告は、商品の偽造、すり替え、混入、性状の変性を生 じる何らかの事象等が発生した可能性を払拭できるまでに主張立証するべきで ある。特に、被告製品は、いわゆる「なまもの」である食品であって、製品中の 「EGCGとECG」、「総カテキン」などの各成分は、製造時や商品完成時か 5 ら経時的に減少していくのであるから、資料の入手時期、製造時期、そこから本 件各試験までどのくらいの時間が経過していたかは、試験結果に重要な影響を与 えうる。しかしながら、原告からこれらの点についての主張立証はされていない。 また、本件明細書にはカテキンの測定方法として「ISO14502基準で高 速液体クロマトグラフ法(HPLC)にて」(【0082】)と記載されており、 10 ISO14502基準では、70℃の70%メタノールで10分間抽出すること になっている。しかし、本件各試験については、甲2ないし4に高速液体クロマ トグラフ法を用いたこと及び70%メタノールを用いたことは記載されている ものの、抽出温度も抽出時間も不明であるから、ISO14502基準で試験を したことは確認できない。 15 したがって、本件各試験の結果を信用することはできず、被告各製品が構成要 件C及びDを充足しているとはいえない。 以上によれば、被告各製品はいずれも本件発明の技術的範囲に属さない。 5 被告製品2に係る先使用権の成否(争点2) (被告丸幸の主張) 20 被告製品2は、中国のメーカーにおいて製造されたものを、被告丸幸において 輸入して販売しているものである。当該メーカーによれば、被告製品2に係る製 品については、平成11年から製法を変えていないとのことである(B乙1)。 このことを前提にすれば、被告丸幸が被告製品2を販売することは、先使用によ り原告の特許権を侵害するものではない。 25 (原告の主張) 争う。 12 6 サポート要件違反の有無(争点3−1) (被告らの主張) ? ポリフェノール、EGCGとECGの合計、総カテキンの含有量が本件発明 の数値範囲にあることにより、お茶の水色、滋味、香りにつき本件明細書記載 5 の効果が得られることが裏付けられていることを、当業者が本件明細書の記載 から理解できるとはいえない。 ? すなわち、本件発明は、いわゆるパラメーター発明であるところ、このよう な発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合する ためには、発明の詳細な説明は、その変数が示す範囲と得られる効果(性能) 10 との関係の技術的意味を、特許出願時において、具体例の例示がなくとも当業 者に理解できる程度に明細書に記載するか、又は少なくとも、特許出願時の技 術的常識を参酌して、当該変数が示す範囲であれば、所望の効果(性能)が得 られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することが 必須である。しかし、本件明細書には、ポリフェノール、EGCGとECGの 15 合計、総カテキンがそれぞれ水色、滋味、香りに与える影響について記載され ていない。他方、本件明細書において記載されているのは、主観的に、明確な 基準もなく評価した官能試験の結果にすぎず、成分分析すらされていない。烏 龍茶においては、ポリフェノール、EGCGとECGの合計、総カテキン以外 の要素が水色、滋味、香りに影響を与えることは明らかであるのに、本件明細 20 書においては、これらの条件を揃えずに行われているものであり、このような 記載から、当業者が上記のような認識を得られるとはいえない。 ? そして、@お茶の水色、滋味、香りを構成する各種成分は、茶葉そのものの 成分よりも、むしろ浸出水の化学的性状及び抽出温度、浸出時間その他の要素 に多大な影響を受けるものであり、茶葉の成分の中でも本件発明の構成要件に 25 含まれない成分によって影響を受けるものである。このように、上記各要素は 相関的に複雑な作用をするものであるにもかかわらず、本件明細書には、これ 13 らの要素に関する記載がなく、また、Aお茶の水色、滋味、香りを良くし、本 件発明の課題を解決するためには、ポリフェノール、EGCGとECGの合計、 総カテキンのそれぞれについて下限を設定する必要があるにもかかわらず、下 限の設定がなく、さらに、B「総カテキン」には、お茶の水色、滋味、香りに 5 多大な影響を与え得る「GC」「CG」 や を含めるべきであるにもかかわらず、 これらを含んでいない。これらのことからすると、そもそも本件発明において は、変数と効果についての技術的意味自体が欠如しているというほかない。 ? したがって、本件特許に係る特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件 に適合せず、本件特許は無効とされるべきものである。 10 (原告の主張) 争う。 7 新規性欠如の有無(争点3−2)について (被告らの主張) ? 「水仙種」の茶の葉を原料とする茶葉のうち、Y−307は、本件特許の原 15 出願日よりも前から中国で製造販売されており、日本にも輸入されていた。そ して、Y−307について、第三者機関において測定したところ、本件発明の 各数値的範囲を充足するとの結果が出た(D乙23−1)。したがって、Y− 307は、本件発明の技術的範囲に含まれるものであり、かつ、本件特許の原 出願日以前から公知であったものであるから、本件発明は、公然実施された発 20 明に該当するため、新規性が欠如しており、無効である。 ? また、ポリフェノールが18重量%以下の「烏龍茶」等の茶、総カテキンが 7重量%以下である「半烏龍茶」、EGCGとECGの合計量が2重量%以下 の茶は、いずれも従前から製造されているありふれたものである。そして、本 件発明の茶葉は、単に茶の葉を摘採した後、発酵に相対的に時間を掛けるか、 25 又は原料として形状が小さい葉や、割れるなどして細かい形状になっている葉 を採用するだけで、容易に作成可能である。そのような物は、古来から製造さ 14 れており、全くありふれたものである。実際、被告丸幸において茶葉を輸入し ている中国のメーカーにおいても、平成11年から製法を変えていないという のであるから、仮に被告製品2が本件発明の技術的範囲に属するというのであ れば、本件発明は同メーカーにおいて公然実施されていたことになる。したが 5 って、本件発明は、新規性が欠如しており、無効である。 (原告の主張) 争う。 8 進歩性欠如の有無(争点3−3)について (被告らの主張) 10 ? 主引例(A乙7、C乙1及びD乙4)について A乙7、C乙1及びD乙4は、いずれも本件特許の出願日よりも前の平成 3年10月30日に発行された「緑茶・紅茶・烏龍茶の化学と機能」におけ る「烏龍茶の化学」に関する記載である。上記各書証には、昭和63年に発 表された橋本文雄氏の「各種茶のポリフェノールに関する化学的研究」にお 15 いて分析された各種茶葉の成分の分析結果が掲載されており(単位はmg/g、 引用元はA乙8)、この中でウーロン茶Bとして(以下「A乙7烏龍茶」と いう。)、ポリフェノールが70.3mg/g、EGCGが30.0mg/g、EC Gが7.6mg/g、総カテキンが55.2mg/gが含まれる乾燥した烏龍茶葉が 開示されている。 20 ? 本件特許発明とA乙7烏龍茶との一致点 本件特許発明とA乙7烏龍茶とは、以下の点で一致する。 @紅茶を除く、乾燥した半発酵茶において、下記の特性を有することを特 徴とする半発酵茶葉(一致点1)。 A茶葉に含有されるポリフェノールの重量が当該茶葉の乾燥重量の18重 25 量%以下である特性(一致点2)。 B茶葉に含有される総カテキンの重量が当該茶葉の乾燥重量の7重量%以 15 下である特性(一致点3)。 ? 本件特許発明とA乙7烏龍茶との相違点 本件特許発明とA乙7烏龍茶とは、以下の点で相違する。 茶葉に含有されるEGCGとECGの合計重量が当該茶葉の乾燥重量の2 5 重量%以下である特性(相違点1)。 なお、A乙7烏龍茶の茶葉に茎が取り除かれているか否かは不明であるた め、茎が取り除かれた点も相違点として検討する(相違点2)。 ? 相違点の検討 ア 相違点1について 10 本件発明の出願時点において、烏龍茶は、苦渋味が比較的軽く、飲みや すい味が好まれていたため、苦渋味を軽減させる課題は、当業者として容 易に想到できた。また、本件発明の出願時点において、EGCGとECG が苦渋味の味質を有することは知られており、烏龍茶の苦渋味を軽減させ るためには、これらの含有量を減少させればよいことは、容易に想像可能 15 であった。したがって、EGCGとECGの合計重量が2.0重量%以下 という数値範囲で示された構成について、当業者が容易に想到できたとい える。 イ 相違点2について 本件発明の出願時点において、茶の葉と茎は成分が異なる上、茎は木茎 20 臭を有することが知られていた。そして、緑茶においては、茎が混入して いないこと、茎臭がしないこと、茎味がしないことが評価基準となってい た。そうすると、緑茶の茶葉を発酵させたものが烏龍茶であり、茎を取り 除くことで茎臭や茎味を排除することは、当業者が容易に想到できたとい える。 25 ? 小括 以上のとおり、主引例であるA乙7烏龍茶との相違点は、いずれも当業者 16 が容易に想到できたものといえるため、本件特許は、進歩性を欠如するもの として無効とされるべきものである。この理は、主引例を被告ら主張に係る 文献記載の包種茶とした場合でも、同様に当てはまるものである。 ? パラメーター発明としての進歩性の欠如 5 本件発明は、いわゆるパラメーター発明であるところ、パラメーター発明 に関し、実験的にその数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通 常の創作能力の発揮にすぎないものであって、進歩性は認められない。その ため、パラメーター発明に進歩性が認められるためには、少なくとも当該発 明が、当該限定された数値の範囲内で、先行技術が有する効果とは全く異質 10 な効果を発揮するか、又は当該発明の効果が、際立って有利な効果を発揮す るという極めて例外的な特段の事情がある場合に限られる。しかし、本件発 明の効果は、仮にあるとしても先行技術が有する効果と全く同質のものにす ぎない。したがって、本件発明にはパラメーター発明としての進歩性も欠如 している。 15 (原告の主張) 争う。 9 実施可能要件違反の有無(争点3−4)について (被告らの主張) ? 物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説 20 明の記載が、当業者において当該発明に係る物を生産することが可能なもので なければならない。しかるに、本件発明においては、@当業者がこれを理解す るためには茶葉について少なくともポリフェノール、EGCGとECGの合計、 総カテキンの各成分の含有量の測定を行う必要があるところ、これらは極めて 特殊な化学的な実験手法による専門的実験であり、A「なまもの」である茶葉 25 の性質上、その特性は、品種、産地、栽培方法等の無数の要素に左右されると ころ、本件明細書上多種多様な茶葉の特性に個別に対応して本件特許所定の茶 17 を製造する方法の記載はなく、B実施に当たって「お茶の水色」、「滋味」、 「香り」などといった極めて主観的な評価項目に関し、茶の評価に関する専門 的知見を有する者による評価を実施した上で実験を重ねることを要するとこ ろ、これは当業者に期待し得る程度を遥かに超越しており、C課題の解決のた 5 めには、茶葉にポリフェノール、EGCGとECGの合計、総カテキンがそれ ぞれ一定量残存していることが必要であるのに、下限量が定められていない。 したがって、当業者において本件発明の茶を生産することは可能ではない。 ? 発明の課題である作用効果について、明細書に、特定の試験条件の下での作 用効果が記載されているだけであり、それ以外の試験条件の下での作用効果が 10 記載されていない場合には、実施可能要件は認められない。しかるに、本件明 細書には、実施例及び比較例の官能試験に係る試験条件の下での作用効果が記 載されるにとどまり、他の試験条件の下での作用効果は、本件明細書には何ら 記載されておらず、全く不明である。 したがって、本件特許は、実施可能要件違反であり、無効である。 15 (原告の主張) 争う。 10 明確性要件違反の有無(争点3−5)について (被告らの主張) ? 「紅茶」について 20 本件発明の技術的範囲は「紅茶を除く」物であり、したがって当該物が「紅 茶でないこと」が本件特許の構成要件に該当する。しかし、「紅茶」について、 その字義の上でも、社会通念上も、その他の茶との区別基準は存在しない。ま た、この業界の技術常識の上でも、「紅茶」とその他の茶との区別基準は存在 しない。さらに、市場において最終的に「紅茶」と銘打って販売されているよ 25 うな茶葉についてみても、本件特許のパラメーターをいずれも充足しているの が普通であり、本件特許において発明の技術的範囲は、全く不明確である。 18 なお、本件明細書には「本発明の半発酵茶とは、・・・殺青工程のない紅茶 と明確に区別ができる」との記載があるが、実際には紅茶の製造工程において も「殺青」の工程は実施されており、この記載は技術常識に明らかに反する。 したがって、本件特許は、明確性要件を欠き、無効である。 5? 「半発酵茶」について 本件特許は「半発酵茶」に関するものであり、対象物が「半発酵茶」である ことが本件特許の構成要件に該当する。しかし、そもそも茶葉の発酵度はパー センテージ等で具体的に特定できる概念ではない。また、茶の全てが完全に発 酵しているなどということもあり得ない以上、発酵度が「100%」の茶など 10 というのも、技術的にも論理的にも存在し得ない。本件明細書には「半発酵茶 とは、カテキン転化率が15%〜95%である発酵度合いの茶葉をさし」など と記載があるが、当業界において半発酵茶がこのような茶葉をさすなどという 技術常識は存在しないし、「発酵度」が「カテキン転化率」をさすという技術 常識も存在しない。しかも、本件明細書の別の個所には「本発明の半発酵茶 15 は、・・・例えばカテキンの転化率が5%から95%までの範囲の物をいう」 (【0025】)などと記載があり、「半発酵茶」についての記載は不明確極 まりない。したがって、本件特許においては「半発酵茶」の特定がされておら ず、本件特許にいう「半発酵茶」が何であるのかについて、当業界における技 術常識の上では無論、本件明細書の記載を参酌しても特定が不可能である。 20 したがって、本件特許は明確性要件を欠き、無効である。 (原告の主張) 争う。 第4 当裁判所の判断 1 「茎が取り除かれた」該当性(構成要件BないしD)について(争点1−2) 25 本件事案の内容及び審理経過に鑑み、本件において主たる争点とされた争点1 −2から検討する。 19 ? 認定事実 ア 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、本件明細書には、以下の記載が あることが認められる。 【発明を実施するための形態】 5 【0021】 具体的な実施方法 以下、本発明の半発酵茶葉、着香の半発酵茶葉、半発酵茶葉又は着香の 半発酵茶葉を含む混合茶葉、半発酵茶葉、着香の半発酵茶葉又は混合茶葉 からの抽出物、抽出物を含む飲食物を詳しく説明する。 10 本明細書においては、「茶」とは“茶葉”を指し、“茶葉”の語の概念 には、本発明に係る半発酵茶のいずれの製造工程における茶の葉も、茶の 葉が粉砕された砕茶も含まれ、また、製造完成後の茶の葉も砕茶も含まれ る。 【0022】 15 本明細書中の"茶青"とは、お茶に加工する茶樹の葉で、一般に茶樹から 摘採した半発酵茶の加工に適合する3枚、或いは4枚の葉と茎がついてい る新芽を指し、また機械で刈る時にできた一部の一枚葉と不完全葉も含む。 したがって実際はお茶に加工する茶樹の葉が全部含まれる。これらの葉が 半発酵茶加工の過程において、"殺青"工程が施される前まではすべて"茶 20 青"という。 【実施例1】 【0078】 以下の加工工程により、実施の一例を行った。 茶青−萎凋(日干し−熱冷まし−陰干し)−破砕−静止(発酵)−殺青 25 −乾燥 具体的な操作は以下の通りである。 20 福雲6号の茶青を400キログラム摘み取り、生葉を日に当てて干し (日干し、即ち日光萎凋)、一部の水分を失わせる。その後、風通しの良 い室内に移し、日干しした茶青の温度を迅速に室内の温度まで下げて(涼 青)、その後、続いて室内に茶青を広げておく。 5 茶青の目方が16%減った後、萎凋した茶葉を揉み切る機械に投入し破 砕した。破砕後の破砕葉を目開きが10×10mmの篩いを通し、それを 室内に厚さが3−4cmに広げて静止し発酵する(静止)。その時、室内 温度を24〜26度に保ち、茶青の温度が28度を超えないように注意し てコントロールする。発酵が予定の時間(表1を参照)まで進むと発酵し 10 た茶葉を回転鍋に投入し炒め、鍋の温度を200〜220度までにコント ロールし、3分間廻しながら炒め続け、酵素の活性を失わせ、発酵を中止 する(殺青)。殺青後の破砕茶葉を熱風乾燥機で熱風の温度が120度で 200分間乾燥する(乾燥)。 【0079】 15 サンプリング方法: できた各号のお茶の茎を取り除き、篩い分けて12メッシュパス20メ ッシュオンの砕茶を各800g採取する。 【実施例2】 【0086】 20 下記の加工工程により、実施例2を行った。 茶青−陰干し−揉捻−静止−殺青−乾燥 具体的な操作は次の通りである。 陰干しと揉捻以外、他の操作は実施例1と同じ。陰干し萎凋は茶青の目 方が22%減量してから、それを揉捻機に入れて、15分間揉捻し、茶葉 25 の細胞の破損率を60%以上にした(揉捻)。またサンプル番号11−0 7P、12−07Pと13−07Pは170度まで加熱した乾燥機で15 21 分間殺青を行ってから、温度を140度に下げ、1時間30分掛けて乾燥 した。 各サンプルの発酵時間を表3に示す。 【実施例3】 5 【0090】 下記の加工工程に基づいて実施した。 茶青−陰干し−揉捻−静止(発酵)−破砕−静止(再発酵)−殺青−乾 燥 具体的な操作は下記の通り: 10 実施例1と同じ茶青200キロを実施例2と同じ方法で陰干しを施し、 その重量が26%減になるまで萎凋を続けた。萎凋した茶葉を揉捻機で1 1分間軽く揉捻し、破壊された茶葉の細胞が20%〜30%に達し、その 後揉捻した茶葉を20分間発酵させた。そして、揉み切る機械に茶葉を投 入し破砕を行った。破砕した茶葉を目開き10×10mmの篩いを通し、 15 破砕した茶葉を室内に広げて、再度発酵した。ロット分けと発酵時間の詳 細は表5の通り。 その他殺青、乾燥、サンプリングは実施例1と同様である。 【実施例4】 【0095】 20 加工工程は以下の通りとした。 茶青−日干し−熱さまし−陰干し−揺青−静止(発酵)−破砕−静止(再 発酵)−殺青−乾燥 【0096】 具体的な操作: 25 毛蟹という品種の茶青を100キロ摘採して、30分間日干しし、一部 の水分を失わせた。その後、茶青を風通しの良い室内に移し、広げて置き、 22 日干しした茶青の温度を速やかに室内温度までに冷まし、2時間静止して いた後、その茶葉を揺青機に投入し、2回揺青した。一回目は15分間揺 青し、2回目は20分間揺青した。一回目と二回目の揺青の間に90分の 間隔を入れた。二回目の揺青が終わってから茶葉を機械から取り出し、室 5 内に5〜6cmに茶青を広げて静止し12時間30分間発酵をさせた。そ の後この発酵茶葉を揉み切り機に投入し、2分間揉みながら切断した。こ の破砕葉を目開き10×10mmの篩いで篩い分け、布のシートに3〜4 cmの厚みに広げておき、静止させながら再発酵をした。この時室内の温 度が18〜25度で、茶葉の温度が28度を超えないようにコントロール 10 した。その他、殺青、乾燥、サンプリングは実施例1と同じである。(略) 【0109】 [測定例5] [官能評価]
上記実施例のサンプルと比較例のサンプルをそれぞれ、茎取りした後に 15 破砕し篩いに掛け、12メッシュパス20メッシュオンの砕茶を取って用 意した。これらのサンプルの中から各3gのお茶を100度の200ml の熱湯に3分間淹れ、ろ過して茶殻を取り除き、各号の茶湯を得た。 烏龍茶評価経験のある4名の審査員が上記の実施例と比較例の茶湯の 官能評価を実施した。評価方法としては茶湯の色調、味、香りの三項目に 20 単独的な評価を実施してから、総合的な評価を行った。 イ 被告各製品について
被告製品1及び4(A乙1、D乙2、弁論の全趣旨)、被告製品2(B乙 2−1ないし2−3、弁論の全趣旨)、被告製品3(C乙10ないし13、 15ないし17、弁論の全趣旨)はいずれも茎を含有する茶葉である。 25 ? 検討 ア 本件発明の構成要件BないしDは、ポリフェノールの重量、EGCGとE 23 CGの合計重量又は総カテキンの重量につき、各構成要件記載の重量%以下 に限定するものであるが、上記構成要件にいう「茎が取り除かれた」とは、 本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを意味するのか、あるいは、茎を 含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示す 5 ものか、文言上必ずしも明らかではない。そのため、本件明細書の記載を考 慮して、その用語の意味を解釈すると、本件明細書の記載【0079】には、 「サンプリング方法:できた各号のお茶の茎を取り除き、篩い分けて12メ ッシュパス20メッシュオンの砕茶を各800g採取する。」として、本件 発明の半発酵茶葉は、その茎が取り除かれることが明確に記載されている。 10 そして、本件明細書の他の実施例をみても、官能試験によって本件発明の効 果が確認されている茶葉は、いずれもサンプリングの段階で茎が取り除かれ たものであり、本件明細書全体の記載によっても、茎が含まれた茶葉につい ては、本件発明の効果を確認するような記載が一切存在せず、本件発明の茶 葉に茎が含まれることを示唆する記載も一切認められない。 15 上記各構成要件及び本件明細書の記載を踏まえると、上記各構成要件にい う「茎が取り除かれた」とは、本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを 意味するものと解するのが相当である。 これを本件についてみると、前記認定事実及び弁論の全趣旨(被告各製品 (双方当事者持参に係るもの)に係る茎の有無の確認結果〔第3回弁論準備 20 手続期日及び第4回弁論準備手続期日〕を含む。)によれば、被告各製品の 茶葉には、いずれも多くの茎が含まれていることが認められる。 したがって、被告各製品は、本件発明の構成要件BないしDを充足するも のと認めることはできない。 のみならず、原告による本件各試験は、被告各製品において茎を除いてポ 25 リフェノール等の重量%を測定していることまで立証するものではなく、上 記構成要件BないしDを立証する前提を欠くものといえる。しかも、原告に 24 よる本件各試験は、被告らが釈明したとおり(第1回弁論準備手続調書参照)、 本件各試験に係る具体的な実施条件等が明らかにされていないため、上記構 成要件BないしDにいう成分重量を的確に立証するものとはいえない。その 上、原告が採用した測定方法は、本件明細書【0082】に記載された測定 5 方法(カテキンにあってはISO14502、ポリフェノールがGB/T8 313をいう。)とは異なるものであるから、上記構成要件BないしDに各 規定する成分重量を立証するに適切なものとはいえない。 この理は、原告が時機に後れて提出した本件試験その2(甲19、20) についても、測定に当たり茎が除かれていない点、具体的な実施条件等を欠 10 く点において同様に当てはまるものであり、同試験も上記認定判断を左右す るに至らない。 したがって、原告の立証は、上記各構成要件の充足性を裏付けるに的確な ものとはいえず、このような観点からしても、被告各製品は、本件発明の構 成要件BないしDを充足するものと認めることはできない。 15 イ これに対して、原告は、@仮に茎を取り除かなければ、被告各製品には全 体の13重量%から18重量%の茎が含まれているはずであり、見た目も悪 くなるはずであるが、実際にはそうではないこと、A仮に茎が完全には取り 除かれていなかったとしても、少々の茎は、この業界では茎が取り除かれた ものとみなされていること、B仮に茎が取り除かれていないとしても、被告 20 各製品の半発酵茶という性質に何ら変わりはないことを主張する。 しかしながら、本件特許に係る茶葉は、茎が取り除かれているものである ことは、上記において説示したとおりであり、原告の主張は、本件特許の構 成要件の用語の意義を正解しないものである。また、被告各製品には、少々 とはいえない茎が含まれていることも、上記において認定したとおりであり、 25 原告の主張は、その前提を欠くというほかない。 その他に、原告の準備書面及び提出証拠を改めて検討しても、原告の主張 25 は、本件発明の構成要件BないしDの意義を正解しないもの又は前記認定に 係る被告各製品とは異なる前提に立つものに帰し、いずれも採用することが できない。 2 小括 5 以上によれば、その余の争点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由が ない。 第5 結論 よって、原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のと おり判決する。 10 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 15 中島基至 裁判官 20 小田誉太郎 裁判官 25 尾池悠子 26 27
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2023/12/04
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容