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事件 令和 4年 (行ケ) 10124号 審決取消請求事件
5
原告共和機械株式会社
同訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 矢倉雄太 10 同西川侑之介
同訴訟代理人弁理士 丹野寿典
被告株式会社ナベル 15 同訴訟代理人弁護士 飯島歩
同 三品明生
同 角川博美
同 上田亮祐
同訴訟代理人弁理士 吉田昌司 20 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 25 特許庁が無効2022−800024号事件について令和4年11月8日に した審決を取り消す。 1第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない) (1) 被告は、令和元年12月13日を出願日とする特許出願(特願2019 −224975号)の一部を分割し、発明の名称を「卵パックを移載するロ 5 ボットシステムおよび移動式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを 生産する方法」とする発明について、令和3年5月28日に特許出願(特願 2021−89955号)をし、同年12月7日、特許権の設定登録を受け た(本件特許。特許第6989989号。請求項の数3)。 (2) 原告は、令和4年3月15日、本件特許(請求項1〜3に係るもの)に 10 ついて、特許法36条4項1号違反(実施可能要件違反)、同条6項1号違 反(サポート要件違反)、同項2号違反(明確性要件違反)を理由として、 特許無効審判(無効2022−800024号事件)を請求した。 特許庁は、同年11月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との 審決(本件審決)をし、その謄本は同月18日に原告に送達された。 15 (3) 原告は、令和4年12月9日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提 起した。 2 本件発明の概要 (1) 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである(以下、その発 20 明を「本件発明」といい、個別には請求項番号に対応して「本件発明1」な どという。 。) 【請求項1】 ロボットヘッドとロボットアームと制御部とを備え、展開された使用状 態と収納状態との間で状態変更可能な棚板を複数枚有する移動式のラックに 25 前記ロボットヘッドで保持した卵パックを移載するロボットシステムであっ て、 2収納状態の棚板を使用状態に展開させる手段をさらに備え、 前記展開させる手段は、卵パックを移載するロボット又は卵パックを移 載するロボットとは異なる装置であり、 前記ロボット又は前記装置は、卵パックが移載された棚板の上段側にあ 5 る収納状態の棚板を使用状態に展開させる、ロボットシステム。 【請求項2】 前記展開させる手段は、棚板を把持する手段を含む、請求項1記載のロ ボットシステム。 【請求項3】 10 ロボットヘッドとロボットアームと制御部とを有するロボットシステム を用いて、展開された使用状態と収納状態との間で状態変更可能な棚板を複 数枚有する移動式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方 法であって、 前記ロボットヘッドで卵パックを保持するステップと、 15 保持した卵パックを使用状態の棚板上に移載するステップと、 収納状態の棚板を使用状態に展開させるステップとを備え、 前記展開させるステップは、卵パックを移載するロボット又は卵パック を移載するロボットとは異なる装置を用いたステップであり、 前記ロボット又は前記装置は、卵パックが移載された棚板の上段側にあ 20 る収納状態の棚板を使用状態に展開させる、移動式のラックに複数段に積ま れた状態の卵パックを生産する方法。 (2) 本件明細書の記載等 本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。甲50)及び図面の 抜粋を、別紙「本件明細書の記載等(抜粋)」に掲げる。これによれば、本 25 件発明について次のとおりの事項が開示されているものと認められる。 ア 卵パックを収納する移動式のラック(ロールインナー)として、特許文 3献2(実用新案登録第3209255号、甲8)が知られているが(【0 003】 、同ラックに卵容器を収納する作業は、人手により行われてお ) り、いまだ自動化が達成されておらず(【0008】 、卵パックをロール ) インナーに収納しようとした場合、折り畳まれている棚板を展開操作し 5 なければならないので、人手に代わってロボットを用いる従来の技術を そのまま適用することができないという課題があった(【0010】 。) イ 上記課題を解決するため、本件発明は、展開された使用状態と収納状態 との間で状態変更可能な棚板を複数枚有する移動式のラックに、ロボッ トヘッドとロボットアームと制御部とを有するロボットシステムを用い 10 て卵パックを移載するとともに、卵パックを移載するロボット又は卵 パックを移載するロボットとは異なる装置が、卵パックが移載された棚 板の上段側にある収納状態の棚板を使用状態に展開させるようにした (請求項1、3)。 ウ 本件発明によれば、移動式のラックに自動で卵パックを移載でき、複数 15 段の棚板への積み込みも可能になるという効果を奏する(【0033】、 【0035】 。) 3 本件審決の理由の要旨 本件審決は、上記1(2)の無効理由を全て排斥したところ、このうち、本件
訴訟においても争われている無効理由1(実施可能要件違反)及び無効理由2 20 (サポート要件違反)に関する理由の要旨は、別紙「本件審決の理由の要旨」 記載のとおりである。 4 審決の取消事由 (1) 取消事由1(実施可能要件違反に関する判断の誤り) (2) 取消事由2(サポート要件違反に関する判断の誤り) 25 第3 当事者の主張 別紙「審決の取消事由に関する当事者の主張」に記載のとおりである。 4第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(実施可能要件違反に関する判断の誤り)について (1) 特許法36条4項1号の実施可能要件について 特許法36条4項1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明を 5 もって当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏 まえ、発明の詳細な説明の記載につき、実施可能要件を定める。このような
同号の趣旨に鑑みると、明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を 充足するためには、当該発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に 基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとす 10 る発明の実施をすることができる程度の記載があることを要するものと解さ れる。 (2) 本件発明について ア 物の発明である本件発明1は、「収納状態の棚板を使用状態に展開させ る手段」を、方法の発明である本件発明3では「収納状態の棚板を使用 15 状態に展開させるステップ」を備えるものとされ、「前記展開させる手段」 は「卵パックを移載するロボット」(A)又は「卵パックを移載するロ ボットとは異なる装置」(B)であるものとして、この二種類の選択的な 構成を示した上、「前記ロボット(A)又は前記装置(B)」は「卵パッ クが移載された棚板の上段側にある収納状態の棚板を使用状態に展開さ 20 せる」ものであるとされる。 そして、上記の「前記展開させる手段」が 「卵パックを移載するロ ボット」(A)である場合については、本件明細書の発明の詳細な説明に は、卵パックPを移載するロボットヘッド1の把持部11で折り畳み式 の棚板R1を吸着して手前側に移動させることで棚板R1を展開する構 25 成について具体的に記載されている(【0032】、図6、図7等)。一方 で、「前記展開させる手段」が「卵パックを移載するロボットとは異なる 5装置」(B)である場合については、「折り畳み式の棚板R1を展開させ るステップは、卵パックPを移載するロボットとは異なる装置を用いる などしてもよい。 (」 【0043】)としか記載されていない。
原告は、上記Bの場合に関し、明細書に実施可能な程度の記載がない 5 旨主張するが、本件明細書には、「卵パックを移載するロボット」が「収 納状態の棚板を使用状態に展開させる手段」としても機能する構成(一 台二役の構成)が記載されているのであるから、「収納状態の棚板を使用 状態に展開させる手段」を「卵パックを移載するロボット」とは別個の 装置(専用の構成)として実現することは、技術的には容易であり、明 10 細書に具体的な開示がなくても、当業者であれば技術常識に基づいてさ ほどの困難を伴うことなくこれを実施できるといえる。 イ 次に、本件発明2では「前記展開させる手段」は「棚板を把持する手段 を含む」と規定しているところ、本件明細書の段落【0021】では、 棚板を把持する具体的な方法として、「吸着」による手段を開示している。 15 原告は、この点につき、「吸着以外」の手段についての開示がないから 実施可能要件に違反する旨主張するが、「吸着」による場合の具体的な構 成、手順、バリエーションが明細書に開示されている以上、本件発明2 の構成である「棚板を把持する手段」を実施することに困難性があると はいえず、「吸着以外」の手段の開示まで要求されると解すべき根拠はな 20 い。 ウ 以上によると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属 する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に本件発明の実施 をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 (3) 原告の主張について 25 ア 原告は、そもそも本件発明が前提とするのは本件明細書記載の特許文献 2記載の移動式のラック(ロールインナー)及びロールインナーに関す 6る技術常識であり、本件審決は判断する上での前提を誤っているなどと 主張する。 しかし、本件明細書には、特定のロールインナーに固有の構造に起因 して棚板の展開操作の自動化が困難であったなどとは一切記載されてお 5 らず、本件発明が原告の主張するような技術的意義を有するものとは認 められない。原告の上記主張は、本件発明の課題に関する誤った前提に 立つものといわざるを得ない。 イ また、原告は、本件発明に関し、本件明細書には、棚板を使用状態に展 開させる手段として「卵パックを移載するロボットとは異なる装置」を 10 用いる場合に、卵パックを移載するロボットに対して当該装置をどのよ うに配置し、どのように制御して卵パックを移載するロボットとの干渉 を回避して作業させるかについての開示がないと主張する。 しかしながら、上記「異なる装置」の配置や制御をどのようにするか は当業者が適宜なし得る設計事項にすぎず、具体的に明細書で開示しな 15 ければこれを実施できないなどとは考え難い。しかも、卵パックの移載 と棚板の展開は同時に行う必要がなく、2つの装置が交替で動作するよ うに配置・制御しても実現できることであり、そのような配置・制御が 特に困難であることを認めるに足りる証拠もない。原告は、本件発明が 前提としているロールインナーでは、ロボットアームが作業できる開口 20 部が前面部と上面にしかないことや、棚板を載せるレールと係止してい る仕組みの間にある間隙や障害物への配慮が必要であるなどとも指摘す るが、本件出願当時の技術常識に照らして、特許を受けようとする発明 の実施を困難とするような事情とは認められない。 ウ さらに、原告は、本件発明が前提とするロールインナーにはフックなど 25 の係止部が存在することから、単に手前側に引くだけでは棚板を展開す ることができないと主張し、ロールインナーの棚板の展開の仕方につい 7て調べた結果を報告する(甲51〜60)。 しかし、本件出願当時のロールインナーの構造を踏まえても、棚板を 展開する動作自体が格別複雑なものとはいえない。実際、被告が提出す る証拠(乙1)によれば、フックを外すため、ロボットアーム先端の把 5 持部にある吸着面を棚板に接触させた後、吸着面(棚板)を棚板後方に 傾斜させ、吸着面(棚板)の傾斜を維持しながら手前斜め上方に棚板を 引くという動作上の工夫は必要であるものの、棚板を容易に展開できて いる。当業者は、本件出願当時の技術常識を踏まえ、棚板の展開を実現 できると認識することができるものと認められる。 10 (4) 小括 以上により、原告が主張する取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(サポート要件違反に関する判断の誤り)について (1) サポート要件について 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の 15 詳細な説明に実質的に裏づけられていなければならないというサポート要件 を定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細 な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細 な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発 明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記 20 載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解 決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと 解される。 (2) 本件発明について ア 本件発明は、「卵パックを移載するロボット」(A)又は「卵パックを移 25 載するロボットとは異なる装置」(B)が、「収納状態の棚板を使用状態 に展開させる」手段を有するロボットシステム(請求項1)又はステッ 8プを有する方法(請求項3)に関する発明であるところ、本件明細書の 発明の詳細な説明においては、棚板の展開について具体的に記載されて いるのはAの場合のみであり、Bの場合に棚板を展開する構成について の具体的な記載がないことは、実施可能要件に関して上述したとおりで 5 ある。 しかしながら、上記1(2)ア、(3)イで述べたところに照らすと、本件 明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、 「収納状態の棚板を使用状態に展開させる手段」が「卵パックを移載す るロボット」とは別個の装置によっても実現されることを、当業者であ 10 れば容易に理解できるといえる。そうすると、上記Bの場合に着目した としても、本件発明がサポート要件に違反するということはできない。 イ また、上記1(2)イのとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には吸着 以外の手段を用いて棚板を展開する構成についての記載はないが、棚板 を展開する動作自体が格別複雑なものとはいえないことは上記1(3)ウ記 15 載のとおりである。本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時 の技術常識に基づいて、吸着以外の手段であっても棚板の展開が実現さ れることは、当業者であれば容易に理解できるといえ、この点でも本件 発明がサポート要件に違反するということはできない。 (3) 原告は、サポート要件違反の主張に関しても、実施可能要件違反につい 20 て述べたところと同様の主張をするが、これらが採用できないことは、上記 1(3)ア〜ウに記載のとおりである。原告が主張する取消事由2も理由がな い。 3 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれ 25 を取り消すべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却することとし て、主文のとおり判決する。 9知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 宮坂昌利 5 裁判官 岩井直幸 裁判官 10 頼晋一 10 別紙 本件明細書の記載等(抜粋) 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 5 【0001】 本発明は、卵パックを移動式のラックに移載するロボットシステムおよび移動 式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 10 GPセンターにて卵がパック詰めされた卵パックは、段ボール箱やコンテナに 箱詰めされたり、ロールインナーと呼ばれる専用の移動式のラックに載せられたり する。 【0003】 卵パックを箱詰めするものとして、下記特許文献1に記載のものがある。また、 15 卵パックを収納する移動式のラック(ロールインナー)について、下記特許文献2 に記載のものが知られている。 【0004】 ロールインナーは、複数の棚を備え、各棚に卵パックが積み重ねられた状態で 載せられる。この状態で、ロールインナーは移動され、そのまま売り場に陳列が可 20 能である。 【0005】 卵パックは、ロールインナーに複数段に積まれた状態で、GPセンターから売 り場へと移動させられる。複数段に積まれた状態での移動に耐えられるように、以 下のような特徴がある。まず、ロールインナーは、側面の3方向が柵で囲まれてい 25 る。また、ロールインナーは、棚板を複数枚備え、棚一段あたり4〜5個(4〜5 段)の卵パックを積み上げる。そして、卵パックが横方向にずり落ちないように、 11 卵パック自体が、上下に積まれた卵パックの横ずれを抑制できる形状になっている。 【0006】 また、輸送効率を上げるために、非使用時にコンパクトに収容できるように、 棚板が折り畳み式になっている。 5 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】 特開2018−177325号公報 【特許文献2】 実用新案登録第3209255号公報 10 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 特許文献2記載の移動式のラック(ロールインナー)に卵容器を収納する作業 は、人手により行われており、いまだ自動化が達成されていない。 15 【0010】 卵パックをロールインナーに収納しようとした場合、折り畳まれている棚板を 展開操作しなければならないので、人手に代わってロボットを用いる特許文献1に 開示されている技術を、そのまま適用することができないという課題があった。 【0011】 20 そこで、本発明は、前記従来技術の課題を解決する卵パックを移載するロボッ トシステムおよび移動式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方 法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0012】 25 本発明のロボットシステムは、ロボットヘッドと、ロボットアームと、制御部 とを備え、展開された使用状態と収納状態との間で状態変更可能な棚板を複数枚有 12 する移動式のラックに前記ロボットヘッドで保持した卵パックを移載するロボット システムであって、収納状態の棚板を使用状態に展開させる手段をさらに備え、前 記展開させる手段は、卵パックを移載するロボット又は卵パックを移載するロボッ トとは異なる装置であり、前記ロボット又は前記装置は、卵パックが移載された棚 5 板の上段側にある収納状態の棚板を使用状態に展開させる。 【0013】 本発明の移動式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方法は、 ロボットヘッドとロボットアームと制御部とを有するロボットシステムを用いて、 展開された使用状態と収納状態との間で状態変更可能な棚板を複数枚有する移動式 10 のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方法であって、前記ロボッ トヘッドで卵パックを保持するステップと、保持した卵パックを使用状態の棚板上 に移載するステップと、収納状態の棚板を使用状態に展開させるステップとを備え、 前記展開させるステップは、卵パックを移載するロボット又は卵パックを移載する ロボットとは異なる装置を用いたステップであり、前記ロボット又は前記装置は、 15 卵パックが移載された棚板の上段側にある収納状態の棚板を使用状態に展開させる。 【発明の効果】 【0014】 本発明によれば、自動で卵パックを移動式のラックに移載するロボットシステ ムおよび移動式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方法を提供 20 できる。 【図面の簡単な説明】 【0016】 【図1】本発明の一実施形態にかかる卵パックの移載ロボットシステムを示す側面 図。 25 【図2】同実施形態の卵パックの移載ロボットシステムを示す側面図。 【図6】同実施形態の卵パックの移載ロボットシステムを使って棚を引き出す作動 13 を示す側面図。 【図7】同実施形態の卵パックの移載ロボットシステムを使った棚を引き出す作動 を示す側面図。 【図10】本発明の他の変形例を示す図1に対応する図。 5 【発明を実施するための形態】 【0017】 以下、実施形態にかかる卵パックの移載ロボットシステム10の一例について、 図1〜図7を用いて説明する。卵パックの移載ロボットシステム10は、搬送され てきた複数の卵パックPを移動式のラック(以下、「ロールインナーR」と記す。) 10 に移載する。 【0018】 ロールインナーRは、複数枚の折り畳み式の棚板R1を備える。棚板R1は、 手前側に引き出された使用状態と折り畳まれて奥側に位置する収納状態との間で状 態変更可能である。使用状態の各棚板R1の上方には、卵パックPが収納される収 15 納空間R2が形成される。収納空間R2には、卵パックPが上下に積み重ねられる。 ロールインナーRは、さらに、棚板R1の周囲に配置される柵R3と、棚板R1の 側縁に設けられるこぼれ止めR4と、柵R3の内側に設けられる棚板受け(図示し ない)と、キャスター(図示しない)とを備える。 【0020】 20 卵パックの移載ロボットシステム10は、ロボットヘッド1と、ロボットアー ム2と、制御部3とを備える。 【0021】 ロボットヘッド1は、把持部11を備える。把持部11は、複数の卵パックP を把持する。把持部11は、例えば、横方向に隣接する3つの卵パックPを保持す 25 ることができる。把持部11は、複数の吸着部材12によって構成される。各吸着 部材12は、蓋が閉じられた卵パックPの天面P1側を吸着する。各吸着部材12 14 は、真空機構(図示しない)に接続されている。各吸着部材12は、上下方向に伸 縮可能な蛇腹構造である。1つの卵パックPにつき、複数個(例えば6つ)の吸着 部材12で保持する。なお、1つの卵パックPにつき、4つの吸着部材12で保持 してもよいし、吸着された卵パックPが必要以上に傾かなければ、吸着部材12の 5 配置方法はどのようなものであってもよい。 【0022】 ロボットアーム2は、ロボットヘッド1の位置姿勢を変更可能なものである。 ロボットアーム2は、一時待機領域8とロールインナーRとの間でロボットヘッド 1を移動させる。ロボットアーム2は、例えば、6軸垂直多関節ロボット等の、任 10 意に作動する慣用の多関節ロボットが適用される。この他に、ロボットアーム2は、 ロボットヘッド1をX軸、Y軸およびZ軸に対して、任意に移動させることができ るロボットまたは装置など種々のものを採用できる。なお、一時待機領域8は、搬 送装置9の下流側に設けられており、搬送装置9の上流側には、卵をパックに収容 する包装装置(図示せず)が配置されている。 15 【0023】 制御部3は、ロボットヘッド1とロボットアーム2の動きを制御する。制御部 3は、CPU、内部メモリ、入出力インターフェース、AD変換部などの専用のコ ンピュータまたは汎用のコンピュータによって構成される。内部メモリに格納され たプログラムにしたがって、CPUおよびその周辺機器が協働することによって、 20 制御部3としての機能が発揮される。 【0024】 制御部3は、ロールインナーRに設けられた折り畳み式の棚板R1の下方の空 間に、把持部11で把持した卵パックPを移動させる。制御部3は、把持部11で 把持される卵パックPの重心よりも長手方向一端側にずれた場所に、ロボットアー 25 ム2の先端21を位置させて卵パックPを移動させる。制御部3は、ロボットヘッ ド1で把持した卵パックPと障害物との干渉を避けるように卵パックPを移動させ 15 る。ここで「障害物」とは、例えば、ロールインナーRに先に積まれた卵パックP に設けられた突起P2や、複数個の卵パックPが積み上げられる空間の上方に存在 する折り畳まれた状態の棚板R1などである。また、制御部3は、折り畳み式の棚 板R1を展開させる。 5 【0025】 次に、卵パックの移載ロボットシステム10を用いた収納方法の一例について 説明する。まず、ロボットヘッド1が届く範囲にロールインナーRを配置する。 ロールインナーRは、卵パックPを移載する棚板R1を使用状態にしておき、それ よりも上段側の棚板R1は収納状態にしておく。 10 【0027】 まず、制御部3は、集められた卵パックPの上方にロボットヘッド1を移動さ せる。その際、制御部3は、把持部11で把持される卵パックPの重心よりも長手 方向一端側にずれた場所に、ロボットアーム2の先端21を位置させる。また、ロ ボットヘッド1を卵パックPの所定箇所に位置付けて当該卵パックPを把持する。 15 具体的には、ロボットアーム2の先端21は、前記卵パックPの重心からずれた位 置に回転中心が配置される。ロボットアーム2の先端21およびロボットヘッド1 は、卵パックPの上方に位置する。ロボットヘッド1の下面側には、10個入りの 卵パックPのうち、長手方向から6個分の卵に対応する部分を卵パックPの上面で 吸着する把持部11を備える。言い換えれば、ロボットヘッド1は、卵パックPを 20 片持ち状態で支持している。 【0028】 次に、制御部3は、ロボットヘッド1で把持した卵パックPをロールインナー R内の収納空間R2に移動させる。制御部3は、ロボットヘッド1で把持した卵 パックPと障害物との干渉を避けるように、卵パックPをスライド移動させる。 25 【0032】 棚板R1の一段分を移載した後、図6及び図7に示すように、制御部3は、折 16 り畳み式の棚板R1を展開させる。すなわち、折り畳み式の棚板R1は、卵パック Pを移載する際と同じロボットヘッド1を用いて、収納状態から使用状態に展開さ れる。具体的には、制御部3は、把持部11が棚板R1を吸着し、その状態のまま ロボットヘッド1を手前側に移動させることで、折り畳み式の棚板R1が展開され 5 る。収納状態の棚板R1は、下段の収納空間R2の上部の一部分のみを覆う一方、 展開された使用状態の棚板R1は、下段の収納空間R2の上部の全体を覆う。 【0033】 以上説明したように、本実施形態にかかる卵パックの移載ロボットシステム1 0は、ロボットヘッド1と、ロボットアーム2と、制御部3とを備える。ロボット 10 ヘッド1は、卵パックPを把持する把持部11を備える。ロボットアーム2は、ロ ボットヘッド1の位置姿勢を変更可能なものである。制御部3は、ロボットヘッド 1とロボットアーム2の動きを制御する。また、制御部3は、ロールインナーRに 設けられた折り畳み式の棚板R1の下方の空間に、把持部11で把持した卵パック Pを移動させる。そのため、従来技術の課題を解決して、自動で卵パックPを移動 15 式のラックに移載できる。 【0034】 制御部3は、把持部11で把持される卵パックPの重心よりも長手方向一端側 にずれた場所に、ロボットアーム2の先端21を位置させて卵パックPを移動させ る。また、制御部3は、ロボットヘッド1で把持した卵パックPとロールインナー 20 Rに先に積まれた卵パックPに設けられた突起P2及び棚板R1との干渉を避ける ように卵パックPを移動させる。そのため、ロールインナーRへの卵パックP積み 込みという特殊な状況であっても自動化できる。 【0035】 制御部3は、折り畳み式の棚板R1を展開させるので、1台のロボットを用い 25 て複数段の棚板R1への積み込みも可能となる。 【0036】 17 卵パックの移載ロボットシステム10を用いた収納方法は、ロボットヘッド1 が届く範囲にロールインナーRを配置するステップと、ロボットヘッド1を卵パッ クPの所定箇所に位置付けて当該卵パックPを把持するステップと、ロボットヘッ ド1で把持した卵パックPを空間に移動させるステップと、移動後の卵パックPの 5 下端を下の段の突起P2の内側に位置させるステップとを備える。この収納方法に よれば、従来技術の課題を解決して、自動で卵パックPをロールインナーRに移載 できる。また、積み重ねられた卵パックPに大きな位置ずれが生じることなく、 ロールインナーRの移動に耐え得る。 【0037】 10 なお、本発明は上述した実施形態に限られない。 【0039】 把持部11は、吸着タイプのものには限られない。例えば、図8及び図9に示 すロボットヘッド1は、卵パックPを側方から把持する把持部13を備える。把持 部13は、10個入りの卵パックPのうち、長手方向に沿ってほぼ全体を包み込む 15 ようにして把持する。把持部13は、図9の二点鎖線で示す位置に退避することで 把持状態を解除する。 【0040】 また、図10及び図11にロボットヘッド1は、卵パックPを上下から把持す る把持部14を備える。把持部14は、10個入りの卵パックPのうち、長手方向 20 に沿ってほぼ全体を包み込むようにして把持する。具体的には、把持部14は、支 持部材15と、協働部材16とを備える。支持部材15は、卵パックPの下面側に 配置される。支持部材15は、例えば棒状のもので、卵の形状に沿った凹凸が設け られた下面の凹部P3に配置され、凹部P3内に収まっている。協働部材16は、 支持部材15と協働して卵パックPが大きく傾いたり、横揺れしたりすることを抑 25 制する。協働部材16は、例えば板状のもので、卵パックPの天面P1上に配置さ れる。なお、協働部材16の形状や配置場所は、図示したものには限られない。把 18 持部14は、例えば、図11の二点鎖線で示す位置に退避することで把持状態を解 除する。また、図10に示すように、ロボットアーム2の先端21は、卵パックP の側方に位置していてもよい。 【0043】 5 折り畳み式の棚板R1を展開させるステップは、卵パックPを移載するロボッ トとは異なる装置を用いるなどしてもよい。 【0044】 今回開示された実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本 発明は上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の 10 範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。 【産業上の利用可能性】 【0045】 本発明は、卵パックを移動式のラックに移載するロボットシステムおよび移動 式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックの生産に利用することができる。 15 【符号の説明】 【0046】 10…卵パックの移載ロボットシステム 1…ロボットヘッド 11、13、14…把持部 20 2…ロボットアーム 3…制御部 P…卵パック R…ロールインナー(移動式ラック) R1…折り畳み式の棚板 25 R2…収納空間 19 【図1】 【図2】 5 【図6】【図7】 20 【図10】 21 別紙 本件審決の理由の要旨 1 本件発明の認定 本件発明1〜3は、特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により 5 特定されるものであって、卵パックを移動式のラックに移載するロボットシス テムおよび移動式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方法 に関するものであり、「移動式のラック(ロールインナー)に卵容器を収納す る作業が人手により行われており、いまだ自動化が達成されていないという従 来技術の課題を解決する卵パックを移載するロボットシステムおよび移動式の 10 ラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方法を提供すること」を 本件発明の課題とするものである。 2 無効理由1(実施可能要件)について (1) 本件発明1について ア 本件発明1は、「棚板を使用状態に展開させる手段」として、「卵パック 15 を移載するロボット又は卵パックを移載するロボットとは異なる装置で あ」ると特定し、「前記ロボット又は前記装置」によって、「卵パックが 移載された棚板の上段側にある収納状態の棚板を使用状態に展開させる」 と特定していることから、「卵パックを移載するロボット」又は「卵パッ クを移載するロボットとは異なる装置」によって、「棚板を使用状態に展 20 開させる」ことにより、「自動化」した「卵パックを移載するロボットシ ステムおよび移動式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産 する方法」を提供するものと理解できる。 そして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からすれば、「棚板を使 用状態に展開させる手段」が「卵パックを移載するロボット」である場 25 合には、把持部11の吸着部材12により棚板を吸着して移動させて、 使用状態に展開すれば、本件発明1を実施できるから、本件明細書の発 22 明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発 明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるといえる。 イ 他方、「棚板を使用状態に展開させる手段」が「卵パックを移載するロ ボットとは異なる装置であ」ることについて、本件明細書の発明の詳細 5 な説明の記載からすると、 ロボットアーム2 として 、慣用の多関節ロ ボットや、X軸、Y軸及びZ軸に対して、任意に移動させることができ るロボット又は装置」を「卵パックを移載するロボットとは異なる装置」 として採用することにより、吸着による把持手段で棚板を吸着して移動 させればよいことは、本件明細書の発明の詳細な説明を総合してみると、 10 理解できる。 ウ さらに、請求項1の「棚板を使用状態に展開させる手段」としては、棚 板を保持したまま移動できるような手段であれば足りるといえる。そし て、本件出願時の技術常識を踏まえると、そのような手段としては、移 動対象を吸着するものに限らず、例えば、移動対象を引っ掛けて保持す 15 る単純な構造を備えたロボットアームなどの周知の技術が想定できる。 エ そして、卵パックを移載するロボットとは異なる装置や、吸着以外の把 持手段により棚板を展開させる上記各態様を実施するに際して、当業者 に過度の試行錯誤を強いるともいえない。 オ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施 20 することができる程度に明確かつ十分に記載されているということがで きる。 (2) 本件発明2について 本件発明2は、「収納状態の棚板を使用状態に展開させる手段」が「棚板 を把持する手段を含む」と特定していることから、「卵パックを移載するロ 25 ボット」又は「卵パックを移載するロボットとは異なる装置」が「棚板を把 持する」ことで「棚板を使用状態に展開させる」ことにより、「自動化」し 23 た「卵パックを移載するロボットシステムおよび移動式のラックに複数段に 積まれた状態の卵パックを生産する方法」を提供するものと理解できる。 そして、請求項1の「展開された使用状態と収納状態との間で状態変更可 能な棚板」は、「把持部11が棚板R1を吸着し、その状態のままロボット 5 ヘッド1を手前側に移動させることで、・・・展開される」【0032】 ( )と いう程度の簡単な動作で展開される構造を有するものであるから、「棚板を 把持する手段」としては、棚板を把持したまま移動できるような手段であれ ば足りるといえる。そして、本件出願時の技術常識を踏まえると、そのよう な手段としては、移動対象を吸着するものに限らず、例えば、移動対象を挟 10 んで把持する単純な構造を備えたロボットアームなどの周知の技術が想定で きる。よって、本件出願時の技術常識を踏まえることで、本件明細書等に記 載された吸着による把持部11以外の把持手段によっても棚板を把持及び展 開することが可能であることを当業者は理解できる。 そうすると、卵パックを移載するロボットとは異なる装置や、吸着以外 15 の把持手段により棚板を展開させる上記各態様を実施するに際して、当業者 に過度の試行錯誤を強いるともいえない。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2を実施 することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。 (3) 本件発明3について 20 本件発明3は、本件発明1の「ロボットシステム」を「移動式のラックに 複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方法。」としたものであるから、 本件発明1と同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者 が本件発明3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている ということができる。 25 (4) 小括 24 以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発 明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、 本件発明1〜3に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項 1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、 5 無効理由1には理由がない。 3 無効理由2(サポート要件)について (1) 発明の課題 本件発明は、卵パックを移動式のラックに移載するロボットシステムおよ び移動式のラックに複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方法に関す 10 るものであるところ、前記1記載の「本件発明の課題」を有するものである。 (2) 本件発明1について ア 請求項1の記載 本件発明1は、上記「本件発明の課題」を解決するための手段として、 「ロボットヘッドとロボットアームと制御部とを備え」「展開された使用 15 状態と収納状態との間で状態変更可能な棚板を複数枚有する移動式の ラックに前記ロボットヘッドで保持した卵パックを移載するロボットシ ステム」であって、「収納状態の棚板を使用状態に展開させる手段をさら に備え、前記展開させる手段は、卵パックを移載するロボット又は卵 パックを移載するロボットとは異なる装置であり、前記ロボット又は前 20 記装置は、卵パックが移載された棚板の上段側にある収納状態の棚板を 使用状態に展開させる」ものである。 イ 本件明細書等の記載 本件明細書等には、「卵パックを移載するロボット」で棚板を使用状態 に展開する具体的な実施例(【0032】など)が記載されており、当該 25 吸着による把持部11により棚板を把持及び展開することで、上記「本 25 件発明の課題」を解決することができると、当業者は認識することがで きる。 また、「卵パックを移載するロボットとは異なる装置」について本件明 細書等に具体的な記載はないが、棚板を展開させる手段が卵パックを移 5 載するロボットである場合と卵パックを移載するロボットとは異なる装 置である場合において、棚板を展開させるために必要となる構造や機序 に格別の違いはないことは当業者にとって明らかであるから、棚板を展 開させる手段が卵パックを移載するロボットとは異なる装置である場合 においても、吸着による棚板展開手段を用いることができると理解でき 10 る。 さらに、請求項1の「展開された使用状態と収納状態との間で状態変 更可能な棚板」は、「把持部11が棚板R1を吸着し、その状態のままロ ボットヘッド1を手前側に移動させることで、・・・展開される」 【00 ( 32】)という程度の簡単な動作で展開される構造を有するものであるか 15 ら、「棚板を使用状態に展開させる手段」としては、棚板を保持したまま 移動できるような手段であれば足りるといえる。そして、本件出願時の 技術常識を踏まえると、そのような手段としては、移動対象を吸着する ものに限らず、例えば、移動対象を引っ掛けて保持する単純な構造を備 えたロボットアームなどの周知の技術が想定できる。そうすると、本件 20 出願時の技術常識を踏まえることで、本件明細書等に記載された吸着に よる把持部11以外の把持手段によっても棚板を保持及び展開すること で、上記「本件発明の課題」を解決できると、当業者は認識できる。 (3) 本件発明2について 本件明細書等には、「ロボットヘッド1の下面側には、10個入りの卵 25 パックPのうち、長手方向から6個分の卵に対応する部分を卵パックPの上 面で吸着する把持部11を備える。 (」 【0027】)及び「折り畳み式の棚板 26 R1は、卵パックPを移載する際と同じロボットヘッド1を用いて、収納状 態から使用状態に展開される。具体的には、制御部3は、把持部11が棚板 R1を吸着し、その状態のままロボットヘッド1を手前側に移動させること で、折り畳み式の棚板R1が展開される。 (」 【0032】)との記載並びに図 5 6及び図7が記載されており、本件発明2の「前記展開させる手段は、棚板 を把持する手段を含む」との発明特定事項は、本件明細書等に記載されてい るといえる。そして、当業者であれば、かかる構成を採用することにより、
上記「本件発明の課題」を解決できることを認識できる。 (4) 本件発明3について 10 本件発明3は、本件発明1の「ロボットシステム」を「移動式のラックに 複数段に積まれた状態の卵パックを生産する方法。」としたものであるから、 本件発明1と同様の理由により、当業者は、上記「本件発明の課題」を解決 することができることを認識できる。 (5) 小括 15 以上のとおり、本件発明は、発明の詳細な説明において、本件発明の課題 が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるもの とはいえず、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明1〜3 に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要 件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、無効理由2には 20 理由がない。 27 別紙 審決の取消事由に関する当事者の主張 1 取消事由1(実施可能要件違反に関する判断の誤り)について (1) 原告の主張 5ア 本件発明の課題 本件発明が実施可能であるかを検討するに当たっては、当業者が、明細 書及び図面の記載や出願時の技術常識に基づいて請求項に係る発明を実 施しようとした場合に、どのように実施できるかを理解することが必要 であり、そのためには、本件発明が前提とする技術を正確に考慮しなけ 10 ればならない。 本件明細書の発明の詳細な説明の記載からすれば、本件発明が前提とす るのは、あくまで「特許文献2記載の移動式のラック(ロールイン ナー)」(及びロールインナーに関する技術常識)であり(甲8〜22 の各図1、甲23〜43。枝番を含む。以下に同じ。)、何ら限定のな 15 い、あらゆる「移動式のラック(ロールインナー)」ではない。しかし、 本件審決は、このような「ロールインナー」の構成を全く踏まえておら ず、本件発明の前提となるロールインナーの構成の理解を誤っている。 イ 「収納状態の棚板を使用状態に展開させる」手段又はステップが「卵 パックを移載するロボットとは異なる装置」である場合 20 本件発明においては、卵パックを移載するロボットに対して、@当該ロ ボットとは「異なる装置」をどこに配置し、卵パックを移載するロボッ トとの干渉をどのように回避して作業させるか、また、 Aロールイン ナーに存在するフックなどの係止部からどのように棚板を開放し、障害 物が存在するロールインナーにおいてはこれをどのように回避して棚板 25 を展開させるのかを、ロールインナーに対する装置の作業空間が卵パッ クを移載するロボットの作業空間とほぼ一致することをも踏まえて、検 28 討することは不可欠である。 しかし、本件明細書には、「異なる装置」に関して、把持手段が「吸 着」である場合と「吸着以外」である場合の両方とも、一例も実施例 (実施態様)が示されていない。本件明細書には、「異なる装置」につ 5 いて、出願当時の技術常識や周知技術を踏まえて実施できる程度に明確 かつ十分に説明されているとはいえない。 ウ 「収納状態の棚板を使用状態に展開させる」手段又はステップが「卵 パックを移載するロボット」である場合で、当該ロボットの把持手段が 「吸着以外」である場合 10 本件発明が前提とするロールインナーにはフックなどの係止部が存在す ることから、単に手前側に引くだけ(【0032】)では、棚板を展開 することができない(甲51〜60)。 しかし、本件発明において、卵パックを移載するロボットと棚板を展 開させる手段とを「同じロボット」で行いつつ、当該ロボットアームの 15 把持部を「吸着以外」とする場合については、本件明細書の発明の詳細 な説明には、収納された棚板の開放手段について何らの記載もない。こ れでは、どのような構成を採用すればロールインナーの棚板を展開する (制御する)ことができるのか、当業者において不明である。 エ 小括 20 以上の次第で、本件明細書の発明の詳細な説明は、「収納状態の棚板を 使用状態に展開させる」手段又はステップが「卵パックを移載するロ ボットとは異なる装置」である場合と、同手段又はステップが「卵パッ クを移載するロボット」であり、当該ロボットの把持手段が「吸着以外」 である場合の両方で、請求項に係る発明について、当業者が実施できる 25 程度に明確かつ十分な記載がされておらず、実施可能要件に違反する。 (2) 被告の主張 29 「第4 当裁判所の判断」の1と同趣旨である。 2 取消事由2(サポート要件違反に関する判断の誤り)について (1) 原告の主張 ア 本件発明の課題 5 サポート要件違反を検討するに当たっては、請求項に係る発明が、発明 の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識でき るように記載された範囲を超えるか否かを検討する必要があり、当然、 課題の把握が重要である。しかしながら、本件審決は、本件発明が前提 とする「ロールインナー」の構成を全く踏まえていない。 10 イ 「収納状態の棚板を使用状態に展開させる」手段又はステップが「卵 パックを移載するロボットとは異なる装置」である場合 (ア) 本件明細書には、@「異なる装置」の構成や配置、制御、棚板の展 開手段や方法を含む一切の記載がなく、Aなおかつ本件発明が「課題」 の前提とするロールインナーには、構造上の制約(作業空間やフック 15 などの係止部や障害物の存在等)があるなかで、どのように棚板を展 開するのかについて、何の記載も示唆もない。 (イ) この点、被告は、ロールインナーの棚板を展開する動作として乙1 の動画を証拠として提出する。これによれば、棚板の展開には、@棚 板の前面に対し、ほぼ水平方向から吸着手段が接触し、Aロボット 20 アームを更に前進させ、吸着面を斜め下方に傾けるように棚板を後方 に傾斜させ、B吸着手段の傾斜方向を維持しながら斜め上方に棚板を 引くようにして、ロボットアームを動作させ、C斜め上方に引いた後 に、ヒンジ構造の棚板を水平に展開させるようにロボットアームを動 作させ、棚板をレールに載置するという動作が必要である。 25 しかし、本件明細書では、棚板の展開について、段落【0032】に て「・・・具体的には、制御部3は、把持部11が棚板R1を吸着し、そ 30 の状態のままロボットヘッド1を手前側に移動させることで、折り畳み 式の棚板R1が展開される。・・・」と記載されるのみで、乙1が示すよ うな一連の動作については一切記載がない。 (ウ) 以上の次第で、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された程度の 5 記載では、被告の提出する「出願時の技術常識」を踏まえても、卵 パックを移載するロボットとの干渉をどのように回避して作業させる か、また、「異なる装置」がどのように棚板を展開させるのかを、当 業者において認識することができない。 ウ 「収納状態の棚板を使用状態に展開させる」手段又はステップが「卵 10 パックを移載するロボット」である場合で、当該ロボットの把持手段が 「吸着以外」である場合 本件発明が前提とするロールインナーにはフックなどの係止部が存在す ることから、単に手前側に引くだけ(【0032】)では棚板を展開す ることはできない(甲51〜60)にもかかわらず、卵パックを移載す 15 るロボットと棚板を展開させる手段とを「同じロボット」で行いつつ、 当該ロボットアームの把持部を「吸着以外」とする場合については、本 件明細書の発明の詳細な説明には、収納された棚板を如何に展開するか について何らの記載も示唆もない。 エ 小括 20 以上の次第で、本件発明については、「収納状態の棚板を使用状態に展 開させる」手段又はステップが「卵パックを移載するロボットとは異な る装置」である場合と、同手段又はステップが「卵パックを移載するロ ボット」であり、当該ロボットの把持手段が「吸着以外」である場合の 両方で、請求項に係る発明が、発明の課題が解決できることを当業者が 25 認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件に違反す る。 31 (2) 被告の主張 「第4 当裁判所の判断」の2と同趣旨である。 32
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
事実及び理由
全容