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関連審決 不服2022-4857
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事件 令和 4年 (行ケ) 10113号 審決取消請求事件
5
原告 Kepler株式会社
原告 国立大学法人東北大学 10
原告ら訴訟代理人弁理士 樋熊政一
同 加藤竜太
同 小菅一弘
同 岩池満 15 同吉田秀史
被告特許庁長官
同 指定代理人後藤慎平
同 岡田吉美 20 同濱野隆
同 小島寛史
同 綾郁奈子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/11/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
25 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2022-4857号事件について令和4年9月22日にした 審決を取り消す。
事案の概要
5 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない) (1) 原告らは、発明の名称を「表示装置」とする発明について、令和元年1 1月18日に特許出願(特願2019-208203号、優先権主張・平成 30年11月19日)をし、令和3年11月12日に手続補正書を提出した が、同年12月23日付けで拒絶査定を受けた。
10 (2) 原告らは、令和4年4月1日、拒絶査定不服審判を請求するとともに、
特許請求の範囲の請求項1を変更する旨の手続補正書を提出した(以下、こ の補正を「本件補正」という。 。特許庁は、上記審判請求を不服2022- ) 4857号として審理し、同年9月22日、本件補正を却下した上、「本件 審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同15 年10月4日に原告らに送達された。
(3) 原告らは、令和4年11月2日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を 提起した。
2 本願に係る発明の概要 (1) 特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、請求項20 1を引用する請求項2〜10があるが、省略する。
【請求項1】 表示光を放出するため2次元的に配置された画素を備えた表示パネルと、
外光を検出する少なくとも1つの光センサと、を備え、
印刷表示媒体の外光に対する拡散反射光を再現するために、
25 前記表示パネル内の特定領域において、前記光センサで検出される、外 部から前記表示パネルの前記特定領域に入射する外光の光束に対して、前記 2 特定領域内の画素から出射される光束が、所定の割合の拡散反射率と前記特 定領域に入射する外光の光束との積により制御され、
前記画素の放射光強度の角度依存性が、ランベルトの余弦法則に基づき、
完全拡散板の均等拡散分布になる、もしくは輝度の半値角が120°以上で、
5 基板面垂直方向からなだらかに減少する配光分布を有する ことを特徴とする表示装置。
(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである (以下、これに基づく発明を「本件補正発明」という。下線部が本件補正に よって加えられた部分である。 。
)10 【請求項1】 表示光を放出するため2次元的に配置された画素を備えた表示パネルと、
外光を検出する少なくとも1つの光センサと、を備え、
印刷表示媒体の外光に対する拡散反射光を再現するために、
前記表示パネル内の特定領域において、前記光センサで検出される、外15 部から前記表示パネルの前記特定領域に入射する外光の光束に対して、前記 特定領域内の画素から出射される光束が、所定の割合の拡散反射率と前記特 定領域に入射する外光の光束との積により制御され、
前記画素の放射光強度の角度依存性が、ランベルトの余弦法則に基づき、
完全拡散板の均等拡散分布になる、もしくは輝度の半値角が120°以上で、
20 基板面垂直方向からなだらかに減少する配光分布を有し、
前記印刷表示媒体の外光に対する拡散反射光を再現する場合の画素の輝 度は、前記光センサで検出された照度を用いて、画素の輝度=拡散反射率× 照度/πの計算式に基づき設定されることを特徴とする表示装置。
(3) 本願明細書の記載の要旨25 本願明細書(甲9)の抜粋を、別紙「本願明細書の記載事項(抜粋)」に 掲げる。これによれば、本願発明について、以下のとおりの事項が開示され 3 ているものと認められる。
ア 本発明は、表示装置に関し、特に印刷表示媒体の拡散反射光を再現する 表示装置に関するものである(【0001】 。
) イ 従来技術や公知文献に開示されている技術は、外光の明るさに応じて輝 5 度や色調を調整して、表示装置の輝度を変化させることについては記載 されているものの、見やすさや省電力の観点から輝度を調整することが 記載されているに留まっている(【0006】 。また、外光などの周囲光 ) を反射して表示する反射ディスプレイにおいても、カラー表示にすると、
3原色のカラーフィルタによる光吸収などで反射光が大きく減り、印刷10 媒体に比べると視認性が著しく低下するおそれがある(【0007】 。
) そこで本発明は、印刷表示媒体の光学特性を再現する表示装置を提供し、
あたかも表示装置が紙のような印刷媒体であるかのような感覚を与え、
視認者に対して見慣れた印刷媒体であるかのような表示を行って、違和 感なく情報を伝えることを目的とする(【0008】 。
)15 ウ 本発明の表示装置は、表示パネルと、少なくとも1つの光センサとを備 え、印刷表示媒体の外光に対する拡散反射光を再現するために、表示パ ネル内の特定領域において、画素から出射される光束が、所定の割合の 拡散反射率で制御され、画素の放射光強度の角度依存性が、ランベルト の余弦法則に基づき、完全拡散板の均等拡散分布になる、すなわち輝度20 に角度依存性がない(輝度が等方的である)、もしくは輝度の半値角(正 面輝度の半分の値となるまでの角度)が全角で120°以上と広く、基 板面垂直方向からなだらかに減少する配光分布を有することを特徴とす る。上記の構成によれば、画素から出射される光束が、所定の割合の拡 散反射率で制御されていることによって、表示装置によって、印刷表示25 媒体の拡散反射光を再現して、表示装置が紙のような印刷媒体であるか のような感覚を与えることが可能となる(【0009】 【0016】 。
、 ) 4 3 本件審決の理由の要旨 本件審決は、@本件補正は特許請求の範囲減縮を目的とするもの(特許法 17条の2第5項2号)に該当するが、A本件補正発明は、下記引用発明及び 技術常識1〜3に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであり、
5 特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本件補正は 独立特許要件を欠くものとして却下すべきである、B本件補正前の本願発明も、
その構成をすべて含む本件補正発明が上記のとおりである以上、特許法29条 2項の規定により特許を受けることができないとした。上記Aの判断の詳細は、
別紙「本件審決の理由の要旨」に示す。
10 (1) 引用発明の認定 本件審決は、引用文献1(甲1、日本語訳は乙13)には次の発明が記載 されていると認めた。
【引用発明】 周囲環境下で実質的な紙の光学特性を模倣するための表示装置であって、
15 特定の周囲光条件下で表示装置上において印刷物の自然な画像品質を提供す るために、周囲光特性及び実質的な紙の光学特性を用いて、その紙に印刷さ れた画像コンテンツの特性を模倣することができ、 【0010】 ( ) 一つ以上のセンサーから一つ以上の周囲光特性を測定し、用紙タイプの 光反射率及び周囲光特性に基づいて、表示画素のRGBサブ画素の最大輝度20 値を決定し、インクタイプの光反射率及び周囲光特性に基づいて、表示画素 のRGBサブ画素の最小輝度値を決定し、最大輝度値及び最小輝度値を参照 して、表示画素のそれぞれのサブ画素に関連付けられた画像データのRGB 色値をスケーリングし、画像データのスケーリングされたRGB色値を使用 して、表示画素のそれぞれをアクティブ化するものであり(【0011】 、
)25 周囲光特性は、周囲光の照度を含み、画像データのスケーリングされた RGB色値は、周囲光の照度がしきい値を下回るときに最小輝度を維持する 5 ように、ディスプレーのためのプリセット値で補償され、 【0013】 ( ) 表示装置100は、画像特性決定部122及び画像処理部124を含む 処理部120と、表示部130を備え、 【0067】 ( ) 周囲光の特性を検出する光センサは照度値を測定することができ、光セ 5 ンサーの一部は表示装置の表示領域に配置されており、 【0068】 ( ) 表示部130は有機発光表示装置であり、 【0075】 ( ) 表示画素のRGBのサブ画素の紙モードの最大輝度値を、用紙タイプの 光反射率及び環境光特性に基づいて決定するために、用紙の可視波長の反射 率及び可視波長の環境光強度分布を使用することができ、可視波長の反射率10 と可視波長の環境光強度分布を乗算することにより、画像特性決定部122 は、反射された環境光をシミュレートすることができる、 【0107】 ( ) 表示装置。
(2) 技術常識1〜3 本件審決は、引用文献2、6(甲2、6)に基づいて下記技術常識1を、
15 引用文献7、8(甲7、8)に基づいて下記技術常識2を、引用文献3(甲 3)に基づいて下記技術常識3を、それぞれ認定した。
技術常識1】 有機EL表示装置は、視野角に対してほぼ一定の輝度をもたらすランベ ルト分布に近い発光分布を持つこと。
20 【技術常識2】 ランベルトの余弦法則とは、均等拡散面の光度(放射強度)が、面の法 線方向を最大として法線からのはずれ角θの余弦に比例して低下し、均等拡 散面の輝度が、観測方向に関係なく一定であることであり、
反射面の反射率ρと照度Eから、L=ρ×E/πにより輝度Lを決定す25 ることができるのは、反射面がランベルトの余弦法則に従う均等拡散面であ ることを前提とすること。
6 【技術常識3】 紙のような印刷表示媒体を反射面とする外光の照度とその反射光の輝度 は比例関係にあり、表示部における外光の照度と放射輝度の関係を、印刷表 示媒体を反射面とする外光の照度とその反射光の輝度の関係に一致させるこ 5 とにより、外光による印刷表示媒体の外観を模した表示画像とすること。
4 審決の取消事由 (1) 取消事由1(相違点1及び2についての容易想到性の判断の誤り) ア 有機発光表示装置がランベルト分布に近い発光分布を持つとはいえない こと10 イ 引用文献1における照度値と放射輝度が比例関係(比例定数ρ/π)と はいえないこと ウ 引用文献3から技術常識3は認定できないこと エ 技術常識2は表示装置の制御に適用できる技術常識ではないこと オ 阻害要因15 (2) 取消事由2(本件補正発明が顕著な効果を奏することの判断の誤り)
当事者の主張
別紙「審決の取消事由に関する当事者の主張」に記載のとおりである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1及び2の容易想到性の判断の誤り)について20 (1) 有機発光表示装置がランベルト分布に近い発光分布を持つとはいえない との原告らの主張について ア 原告らは、本件審決が認定した技術常識1が誤りであるとし、その根拠 として、@ボトムエミッション構造の有機発光表示装置では画素回路の 存在のため光の取り出し領域が限られてしまうこと、A トップエミッ25 ション構造の有機発光表示装置ではマイクロキャビティ効果を用いるこ とで集光させる構成が知られていることを挙げる。
7 イ しかし、まず上記@については、市販された有機発光表示装置の特定の 製品が採用している素子構造や画素回路の配置に係る個別事情に起因す る発光分布を理由として技術常識1の正当性について疑問を呈している にすぎず、有機EL表示装置の一般的な特徴に対する反論とはいえない。
5 そもそも、原告らが指摘するボトムエミッション構造における開口率 の小ささについて、開口率が小さくなった場合に光の利用効率(外部取 出し効率)が低下すること以上に、光の拡散態様がそれにより影響を受 けることを認めるに足りる的確な証拠がない。かえって、証拠(乙7、
8)及び弁論の全趣旨によれば、一般に、ボトムエミッション型の有機10 発光表示装置において、有機発光層の画素サイズと比べて、画素回路 (TFT)から有機発光層までの厚みが極めて小さく、その結果、実際 には、有機EL素子の発光層から出た発光光のうち斜め方向に拡散する 光の一部(発光層全体からみればごくわずかなもの)がTFT層の遮光 部に遮られる程度であり、TFTの存在が配光分布に与える影響は極め15 て限られていることが認められる。
そうすると、ボトムエミッション構造における開口率の小ささを根拠に 技術常識1の認定が誤りであるとする原告らの主張は、採用することが できない。
ウ 次に上記Aに関していえば、確かに、原告らが指摘する甲21には、
20 「市販のAMOLEDディスプレイの光分配パターンは、通常、光学ス タックのマイクロキャビティの特性を呈する」との記載があり(【00 36】)、甲21が引用文献1と同じ平成26年当時のもの(甲1〔引 用文献1〕の出願日は2014年3月24日、甲21の出願日は同年1 0月20日)であることや、甲1の図2Aにおいて小型のディスプレイ25 が実施形態として開示されていることからすると、引用発明1における 有機ELディスプレイにはマイクロキャビティ構造を採用する可能性が 8 あったといえる。
しかしながら、甲21の段落【0036】には、上記記載の直前に 「OLEDの光学的スタックにマイクロキャビティが欠如しているOL EDは、ランバートエミッタである場合があり、半球にかけて滑らかに 5 かつ均等に分配される光の分配パターンを有する。」との記載があり、
トップエミッション構造の有機発光表示装置において、マイクロキャビ ティ効果を持つものが必須の構成であるわけではないと認められる。
なお、念のために付言するに、市販の有機発光表示装置の中には、マ イクロキャビティ構造を採用した結果、ランベルト分布に近い発光分布10 を持たないものが含まれているとしても、本件審決の判断に影響を及ぼ すものとはいえない。なぜなら、引用発明は、「周囲環境下で実質的な 紙の光学特性を模倣するための表示装置であって、特定の周囲光条件下 で表示装置上において印刷物の自然な画像品質を提供するために、周囲 光特性及び実質的な紙の光学特性を用いて、その紙に印刷された画像コ15 ンテンツの特性を模倣することができ」るものであるところ、紙の表面 が広い視野角特性を有すること(甲3〔乙3〕【0058】、乙4【0 004】、【0035】、【0036】、乙5【0003】、【002 2】)を踏まえれば、わざわざマイクロキャビティ構造を有する有機E Lディスプレイを用いることは考えにくく、少なくとも本件補正発明の20 優先日において技術常識 1 を採用することが容易であったといえるからで ある。
エ なお、証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば、本件補正発明の優先日 以前の平成29年(2017年)には、既にLGディスプレイ製パネル を使用した55型、65型の有機ELテレビが発売されるなど(乙6)、
25 大型の広視野角を有する有機ELディスプレイが一般に普及し始めてい たことが認められる。こうした点に照らしても、本件審決が認定した技 9 術常識1(「有機EL表示装置は、視野角に対してほぼ一定の輝度をもた らすランベルト分布に近い発光分布を持つこと」)が誤りであったという ことはできない。
(2) 引用文献1における照度値と放射輝度が比例関係(比例定数ρ/π)と 5 はいえないとの原告らの主張について 原告らは、引用文献1(甲1)の段落【0101】 【0102】及び図 、
8を根拠に、引用発明においては、「光センサー」で「検出」された「照度 値」と放射輝度は比例関係にないと主張する。
しかし、本件審決は、技術常識3に基づいて引用発明を設計変更する場10 合に、技術常識2も踏まえて引用発明における比例関係の比例定数が「ρ/ π」に相当することは自明な事項であるとしたにすぎず(別紙「本件審決の 理由の要旨」3)、引用発明そのものが上記の構成を備えると認定したわけ ではない。原告らは、本件審決が、独立した二以上の引用発明を組み合わせ て主引用発明と認定したなどと主張するが、本件審決の判断構造を正解しな15 いものであり、採用することができない。
その上、原告らが指摘する引用文献1の図8は、横軸を線形目盛にすれ ば、横軸が1000ルクス以下の値のところでは、y=mx+cの形をして いるといえるから、少なくとも横軸が1000ルクス以下の領域では線形関 数(比例関係)となっていることも認められる。
20 そうすると、原告らの主張は、その前提を欠き、採用することができな い。
(3) 引用文献3から技術常識3が認定できないとの原告らの主張について 原告らは、引用文献3について、低光モード、紙モード、明光モードを 使い分けて画像表示装置としての機能を追求した発明であり、そうした具体25 的な解決課題、解決手段を捨象し、その一部を切り出して技術常識3を認定 することはできないと主張する。
10 しかし、技術常識3の前半部分(紙のような印刷表示媒体を反射面とす る外光の照度とその反射光の輝度は比例関係にあること)については、引用 文献3(甲3)の段落【0054】及び図8に記載されるように、図8の 「PAPER」で示された曲線60は、照明光源の強度が変化するにつれて紙な 5 どの拡散反射物体の輝度がどのように変化するかを示すものであって、x軸 の照度(ILLUMINANCE)とy軸の輝度(LUMINANCE)との間で比例関係にあ ること自体は、発明の課題、その解決手段とは関係なく、当業者にとって明 らかである。したがって、技術常識3の前半部分は引用文献3から技術常識 として抽出し得るものである。
10 また、技術常識3の後半部分に関しても、引用文献3の段落【0056】、
【0059】の記載から、紙の外観を模倣しているのは「紙モード」の部分 だけであることは明らかなところ、段落【0058】、図8に記載されるよ うに、引用文献3においては、「外光による印刷表示媒体(紙)の外観を模 した表示画像とする」「紙モード」において、「表示部における外光の照度と15 放射輝度の関係」(曲線62)を、「印刷表示媒体を反射面とする外光の照度 とその反射光の輝度の関係」(曲線60)に「一致させ」ている。これは、
原告らの主張する引用文献3の発明の解決課題(各モードの使い分け等)と は別次元の独立した技術的事項ということができる。よって、技術常識3の 後半部分についても、引用文献3の記載から技術常識として認定することが20 できる。
その上、証拠(乙9、10)及び弁論の全趣旨によれば、乙9(特開2 008-76767号公報)には、ディスプレイの輝度を紙からの反射光輝 度と同じ輝度にすることが記載され(段落【0030】 、また、乙10(米 ) 国特許出願公開第2013/0328842号明細書)には、紙の本の読者25 に予期される周囲光レベルによる輝度の変化の種類を再現するに当たって、
周囲光センサーレベルと輝度レベルが比例関係にあるようにディスプレイの 11 輝度を調整することが記載されていること(技術常識3の後半部分)がそれ ぞれ認められる。
よって、原告らの前記主張も採用することができない。
(4) 技術常識2は表示装置の制御に適用できる技術常識ではないとの原告ら 5 の主張について 原告らは、本件審決が技術常識2を認定する上で引用する引用文献7及 び8が、光の測定、校正技術の分野に関するものであって、表示装置の制御 に適用できる技術常識ではないと主張するが、引用文献7(甲7)及び引用 文献8(甲8)における完全拡散面と輝度に関する記述は、その文脈からみ10 て、一般的な光学に関する知識に関するものであり、「光の測定」や「校正 技術」に限定した知見として記載されたものとは認められない。
よって、本件審決において引用文献7及び8を提示して認定された技術 常識2は、引用発明のような有機発光表示装置(有機EL表示装置)の技術 分野においても適用できる技術常識であるといえ、原告らの前記主張は採用15 することができない。
(5) 阻害要因に関する原告らの主張について ア 原告らは、引用発明は周囲光の照度がしきい値を下回るときに最低輝度 を維持するような制御をするもの(以下「最低輝度の維持制御技術」と いう。)であり、本件補正発明のように照度と放射輝度が比例関係となる20 ような構成(以下「照度輝度比例構成」という。)を採用することには阻 害要因がある旨主張する。
イ そこで検討するに、引用文献1(甲1、乙13)には、以下の記載があ ることが認められる。
(ア) 本発明は、表示装置のための画像処理方法及び装置に関し、より具25 体的には、紙モードを含む様々な画質モードを可変制御する表示装置 のための画像処理方法及び装置に関する(【0003】 。
) 12 (イ) 表示装置とは異なり、紙は自ら発光するものではなく周囲光を反射 するのみである。したがって、本開示の実施形態の発明者は、人が知 覚する光学特性は、紙に印刷された画像コンテンツに関しては、変化 する周囲光条件の下においては、表示装置に表示される画像コンテン 5 ツのものとは異なること…、ほとんどのユーザーが、液晶表示装置及 び有機発光表示装置などの一般的な表示装置と比較して、紙のような 感じがするものなどの自然な画質を好むことを認識した(【0007】、
【0009】 。したがって、本開示の一態様は、周囲環境下で実質的 ) な紙の光学特性を模倣するための表示装置のための画像処理方法に関10 する。特定の周囲光条件下で表示装置上において印刷物のような自然 な画像品質を提供するために、周囲光特性及び実質的な紙の光学特性 が、その紙に印刷された画像コンテンツの特性を模倣するために用い られることができる(【0010】 。
) (ウ) 一実施形態においては、周囲光特性は、周囲光の照度 (illuminance)15 を含み、画像データのスケーリングされた RGB 色値は、周囲光の照度 (illuminance)がしきい値を下回るときに最小輝度(luminance) ) 」 を維持するように、ディスプレーのためのプリセット値で補償される (【0013】 。
) (エ) …紙モードにおける輝度は、周囲光の照度に応じて適用される紙の20 反射率を用いて示されている。紙モードにおける目標輝度は、周囲光 が暗すぎるとユーザーが実際の紙を見ることができず、紙モードも同 じであるため、ユーザーの視認性に対するオフセットとして最小発光 輝度を有してもよい。…画像特性決定部122は、紙の反射率と周囲 光の照度に基づいて紙モードの輝度を決定してもよい(【0102】 。
)25 ウ 以上の記載に照らすと、引用文献1に記載されている発明は、表示装置 と紙の発光の仕組みの違いを踏まえつつ、表示装置においても印刷物の 13 ような自然な画像品質を提供することを目的として、これを実現するた め、周囲光特性及び実質的な紙の光学特性を用いて、紙に印刷された画 像コンテンツの特性を模倣しようとするものと認められる(本件審決が 認定する引用発明の第1段落部分参照)。
5 このような引用発明において、紙の光学特性(紙のような印刷表示媒体 を反射面とする外光の照度とその反射光の輝度は比例関係にある)を用 いて、表示装置の表示における外光の照度と放射輝度の関係を、印刷表 示媒体を反射光とする外光の照度とその反射光の輝度の関係に一致させ ることにより、外光による印刷表示媒体の外観を模した表示画像とする10 こと、すなわち技術常識3を適用することは、ごく自然なものというべ きである。
引用文献1には、原告らの主張するとおり、最低輝度の維持制御技術の 開示があり(上記イ(ウ))、本件審決はこれを引用発明の構成要素として 認定している(本件審決の認定に係る引用発明の第3段落部分)。しかし、
15 引用文献1の記載事項全体を踏まえてみれば、最低輝度の維持制御技術 の位置づけは、「一実施形態」であり、本来の目的との関係で必須のもの とはされていない。上記イ(エ)の記載(「・・・してもよい」)も、これを裏 付けるものである。
また、最低輝度の維持制御技術は、周囲光の照度がしきい値を下回ると20 きに初めて発動されるものであって、それ以外の条件下においては、照 度輝度比例構成と矛盾・抵触するものではなく、むしろこれを前提とす るものといえる。すなわち、最低輝度の維持制御技術と照度輝度比例構 成とは、技術思想としては両立・並存するものということができ、引用 発明が最低輝度の維持制御技術を有するものであるとしても、照度輝度25 比例構成の採用を必然的に否定するような関係にはない。
以上の検討を踏まえると、引用発明に含まれる最低輝度の維持制御技術 14 は、引用発明と技術常識3を組み合わせる阻害要因になるものではない というべきである。
エ 以上によれば、引用発明において、相違点2に係る本件補正発明のよう に、紙の光学特性を模倣して照度と輝度を比例関係として構成すること 5 は、当業者が容易に想到し得たと認められる。
(6) 小括 以上により、取消事由1に関する原告らの主張は、いずれも採用するこ とができない。
2 取消事由2(本件補正発明が顕著な効果を奏することの判断の誤り)につ10 いて 原告らは、本件補正発明が、あたかも表示装置が紙のような印刷媒体である かのような感覚を与えるという課題を解決するために、あえて引用発明にない 技術事項を備え、これにより、本件補正発明は、引用発明と比較して、より、
あたかも表示装置が紙のような印刷媒体であるかのような感覚を与えることが15 できるという有利な効果を奏する旨主張する。
しかし、原告らが主張する本件補正発明の効果は、あたかも表示装置が紙の ような印刷媒体であるかのような感覚を与えることができるということに尽き るところ、引用文献1の記載事項(前記1(5)イ)に照らすと、当業者が当該 記載事項及び技術常識から十分に予測可能なものであり、その顕著性も認めら20 れない。
3 結論 以上のとおり、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこ れを取り消すべき違法は認められない。よって、原告らの請求をいずれも棄却 することとして、主文のとおり判決する。
追加
15 裁判長裁判官宮坂昌利5裁判官岩井直幸裁判官頼晋一1016 別紙本願明細書の記載事項(抜粋)【発明の詳細な説明】【技術分野】5【0001】本発明は表示装置に関し、特に印刷表示媒体の拡散反射光を再現する表示装置に関する。
【0002】従来より、液晶表示装置や有機EL表示装置等の表示装置が知られている。これ10らの表示装置においては、表示の輝度を外光の照度に応じて制御する方法も知られている。
バックライトを用いた液晶ディスプレイなどの従来の表示装置では、周囲が明るいときに視認性を高めるため輝度を高める一方、周囲が暗いときにはぎらつき感を無くすため輝度を下げる方法が一般的である。また、さらに暗所では、省電力の観15点からも輝度を押さえることが求められている。
【0003】一方、コピー紙、写真、カレンダーなど紙の印刷表示媒体の光学特性に似た表示を行うような、電気泳動ディスプレイや反射型液晶ディスプレイなどの、外光などの周囲光を反射して表示する反射ディスプレイの開発も行われている。
20【0004】特許文献1には、表示装置において、外光の明るさに応じて輝度や色調を調整し、部分ごとに表示装置の輝度を変化させたり、物の影になって外光の照度が低くなった場合に、該当箇所の輝度を下げて表示させる技術が開示されている。
発明の概要】25【発明が解決しようとする課題】【0006】17 従来技術や特許文献1に開示されている技術は、外光の明るさに応じて輝度や色調を調整して、表示装置の輝度を変化させることについては記載されているものの、見やすさや省電力の観点から輝度を調整することが記載されているに留まっている。特許文献1には、実物の紙に文字を書いているような雰囲気を提供すること5ができるという記載はあるものの、これについても、ペンの影になる領域に含まれている絵素の輝度を下げることによって、ペンの影が映り込んでいるように見せることが示されているだけであって、物の影になって外光の照度が低くなった場合に、低くなった外光の照度に合わせて該当箇所の輝度を下げて表示させる点に変わりはない。
10【0007】また、外光などの周囲光を反射して表示する反射ディスプレイにおいても、カラー表示にすると、3原色のカラーフィルタによる光吸収などで反射光が大きく減り、印刷媒体に比べると視認性が著しく低下するおそれがある。
【0008】15そこで本発明は、印刷表示媒体の光学特性を再現する表示装置を提供し、あたかも表示装置が紙のような印刷媒体であるかのような感覚を与え、視認者に対して見慣れた印刷媒体であるかのような表示を行って、違和感なく情報を伝えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】20【0009】本発明の表示装置は、表示パネルと、少なくとも1つの光センサとを備え、印刷表示媒体の外光に対する拡散反射光を再現するために、表示パネル内の特定領域において、画素から出射される光束が、所定の割合の拡散反射率で制御されることを特徴とする。
25上記の構成によれば、画素から出射される光束が、所定の割合の拡散反射率で制御されていることによって、表示装置によって、印刷表示媒体の拡散反射光を再現18 して、表示装置が紙のような印刷媒体であるかのような感覚を与えることが可能となる。
【0016】さらに、画素の放射光強度の角度依存性が、ランベルトの余弦法則に基づき、
5完全拡散板の均等拡散分布になる、すなわち輝度に角度依存性がない(輝度が等方的である)、もしくは輝度の半値角(正面輝度の半分の値となるまでの角度)が全角で120°以上と広く、基板面垂直方向からなだらかに減少する配光分布を有するようにしてもよい。これにより、より紙などの印刷表示媒体の光学特性を再現することが可能となる。また、液晶素子を使用する場合、光源となるバックライトを10同様の配光分布としてもよい。
19 別紙本件審決の理由の要旨本件補正の独立特許要件(本件補正発明の進歩性)に関する本件審決の理由の要旨は、次のとおりである。
51一致点及び相違点の認定本件補正発明と引用発明は、次の一致点において一致し、以下の相違点1及び相違点2において相違する。
【一致点】「表示光を放出するため2次元的に配置された画素を備えた表示パネルと、
10外光を検出する少なくとも1つの光センサと、を備え、
印刷表示媒体の外光に対する拡散反射光を再現するために、
前記表示パネル内の特定領域において、前記光センサで検出される、外部から前記表示パネルの前記特定領域に入射する外光の光束に対して、前記特定領域内の画素から出射される光束が、所定の割合の拡散反射率と前記特定領域に15入射する外光の光束との積により制御される、
表示装置」である点。
【相違点1】本件補正発明は、「前記画素の放射光強度の角度依存性が、ランベルトの余弦法則に基づき、完全拡散板の均等拡散分布になる、もしくは輝度の半値角が12020°以上で、基板面垂直方向からなだらかに減少する配光分布を有〔する〕」ものであるのに対して、
引用発明は、このような配光分布を有するものであることの特定がない点。
【相違点2】本件補正発明では、「前記印刷表示媒体の外光に対する拡散反射光を再現する25場合の画素の輝度は、前記光センサで検出された照度を用いて、画素の輝度=拡散反射率×照度/πの計算式に基づき設定される」のに対して、
20 引用発明では、測定された周囲光の照度に基づいて決定された、表示画素のRGBサブ画素の最大輝度値及び最小輝度値を参照して、表示画素のそれぞれのサブ画素に関連付けられた画像データのRGB色値をスケーリングし、画像データのスケーリングされたRGB色値は、周囲光の照度がしきい値を下回る5ときに最小輝度を維持するように、ディスプレーのためのプリセット値で補償される点。
2相違点1について(1)「有機EL表示装置は、視野角に対してほぼ一定の輝度をもたらすランベルト分布に近い発光分布を持つこと」は技術常識であるから(技術常識1参10照)、引用発明の「有機発光表示装置」についても、視野角に対してほぼ一定の輝度をもたらすランベルト分布に近い発光分布を持つものであるといえる。
そして、引用発明の「有機発光表示装置」がランベルト分布に近い発光分布(配光特性)を持つときには、「表示画素」(有機EL素子)単位でみた場合の発光分布も、ランベルト分布に近いものであるのが通常である。
15(2)相違点1のうち、「輝度の半値角が120°以上で、基板面垂直方向からなだらかに減少する配光分布を有し」との構成は、引用発明の「有機発光表示装置」がランベルト分布に近い発光分布(配光特性)を持つことを、表示画素の輝度という物理量を用いて表現した程度のものというべきであるから、
実質的な相違点とはいえない。
20仮に、「輝度の半値角が120°以上」であることが引用発明において必然的に満たされるものではないという意味で、実質的な相違点であるとしても、
視野角を可能な限り広くすべきということは表示装置における当然の要請であるから、「輝度の半値角が120°以上」であるべきことは、自明のことである。
25(3)相違点1のうち、「前記画素の放射光強度の角度依存性が、ランベルトの余弦法則に基づき、完全拡散板の均等拡散分布になる」との構成については、
21 そもそも「均等拡散面」とはランベルトの余弦法則に厳密に従う理想的なものであるから(技術常識2参照)、本件補正発明において、厳密な意味での「完全拡散板の均等拡散分布」をどのようにして実現できるのか不明であるものの、引用発明の「有機発光表示装置」においても視野角を可能な限り広5くするためにランベルトの余弦法則に厳密に従うようにすることにより、「前記画素の放射光強度の角度依存性が、ランベルトの余弦法則に基づき、完全拡散板の均等拡散分布になる」ようにすることは、技術思想としては自明である。
(4)以上のとおりであるから、相違点1に係る本件補正発明の構成は、引用発10明の「有機発光表示装置」が満たしているものであるか、少なくとも、技術思想として、自明のものにすぎず、格別なものではない。
3相違点2について(1)「周囲環境下で実質的な紙の光学特性を模倣するための表示装置」である引用発明において、技術常識3に従って、「表示部130」において「光セン15サー」で「検出」された「照度値」と放射輝度の関係を、「印刷物」を反射面としたときの「周囲光」の照度と反射光の輝度の関係に一致させるようにすることは、当業者ならば当然なし得た設計事項にすぎないものである。
また、紙のような印刷表示媒体を反射面とする外光の照度とその反射光の輝度は比例関係にあるという技術常識を踏まえると(技術常識3参照)「周囲環、
20境下で実質的な紙の光学特性を模倣するための表示装置」である引用発明において、「光センサー」で「検出」された「照度値」と放射輝度が比例関係にあるようにすべきことも当然である。
(2)そして、前記相違点1において検討したとおり、引用発明の「有機発光表示装置」の配向分布はランベルトの余弦法則で近似できるものであるところ、
25ランベルトの余弦法則に従う反射面を前提にして、反射面の反射率ρと照度Eから、L=ρ×E/πにより輝度Lを決定できるのであるから(技術常識22 2参照)、引用発明における上記(1)の比例関係の比例定数が「ρ/π」に相当することは、自明な事項である。
(3)したがって、引用発明において、「前記印刷表示媒体の外光に対する拡散反射光を再現する場合の画素の輝度は、前記光センサで検出された照度を用5いて、画素の輝度=拡散反射率×照度/πの計算式に基づき設定する」ことに相当する構成とすることは、容易に想到し得たものである。
4本件補正発明についての結論相違点1及び相違点2を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果は、
引用発明及び技術常識1〜3から当業者が予測できる程度のものにすぎず、格10別顕著なものであるということはできない。したがって、本件補正発明は、引用発明及び技術常識1〜3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。よって、本件補正は、同法1715条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
23 別紙審決の取消事由に関する当事者の主張1取消事由1(相違点1及び2の容易想到性の判断の誤り)について(1)原告らの主張5以下に述べるとおり、本件審決は、引用発明及び技術常識1の認定を誤り、相違点1及び2に関する容易想到性の判断を誤っているから、取り消されるべきである。
ア有機発光表示装置がランベルト分布に近い発光分布を持つとはいえないこと10本件審決は、技術常識1の認定を踏まえて、相違点1に係る本件補正発明の構成は引用発明の「有機発光表示装置」が満たしているなどとした。
しかし、この技術常識1に関しては、引用文献1では、有機発光表示装置(OLED装置)として、トップエミッション構造の有機発光表示15装置及びボトムエミッション構造の有機発光表示装置の何れでもよいとされている(【0244】)。そして、@ボトムエミッション構造の有機発光表示装置の場合は、光を取り出す側に有機発光素子を駆動するための画素回路が存在するため、光の取り出し領域が限られてしまうことにより開口率が小さくなり、広い配光分布を持つことができない構成と20なりやすいことが技術常識である(甲19、20)。また、Aトップエミッション構造の有機発光表示装置にしても、本件審決において技術常識1の根拠として引用している引用文献6(甲6)の段落【0003】の記載では、マイクロキャビティ効果を用いることで集光させる構成について述べられており、トップエミッション構造の有機発光表示装置で25も、マイクロキャビティ効果を用いた、ランベルト分布に近い配光分布を持たない表示装置がむしろ一般的であるとされている(甲21【0024 36】)。このような有機発光表示装置では、ランベルト分布に近い配光分布は持たない。
よって、本件審決が認定した技術常識1は誤りである。他方で、引用文献1には「ランベルト分布」に関する言及は一切ない。そうすると、
5引用文献1の有機発光表示装置はランベルト分布を有する装置に限られず、技術常識1も誤りであるから、「引用発明の『有機発光表示装置』の配向分布はランベルトの余弦法則で近似できるものである」との本件審決の認定も誤りである。引用文献1の「有機発光表示装置」がランベルト分布を持つとはいえないから、相違点1は実質的に同じ若しくは自10明とはいえず、審決の判断は誤っている。
イ引用文献1における照度値と放射輝度の比例関係(比例定数ρ/π)とはいえないこと本件審決は、相違点2に関し、技術常識1を前提とし、引用発明において、「光センサー」で「検出」された「照度値」と放射輝度の比例関係15の比例定数が「ρ/π」に相当することは、自明な事項であるとした。
しかし、技術常識1の認定が誤っていることは前記のとおりである。
しかも、引用文献1の段落【0101】【0102】及び図8を参照す、
ると、引用文献1に記載された発明における、周囲光の照度に対する表示装置100の発光輝度は、周囲光の照度がしきい値を下回るときに最20低輝度を維持し、かつ全体として、周囲光の照度が高まるにつれて発光輝度が増大する発散傾向の曲線により表されている。すなわち、引用発明においては、「光センサー」で「検出」された「照度値」と放射輝度は比例関係にないことは図8より明らかであり、本件審決の上記の引用発明の認定は誤りである。本件審決の判断の前提となっている認定が誤っ25ているのであるから、容易想到との結論に影響があることも明らかである。
25 そして、本件審決が技術常識1の根拠として引用している引用文献2及び引用文献6、あるいは技術常識2の根拠として引用している引用文献7及び引用文献8にも、本件補正発明の構成(画素の輝度=拡散反射5率×照度/πの計算式に基づき設定されること)は記載されていない。
仮に、引用文献2又は引用文献6に、「配光分布はランベルトの余弦法則で近似できるもの」である「有機発光表示装置」が記載されているとしても、当該技術事項は副引用発明として認定し、まず、引用文献1との組み合わせについて判断すべきものである。本件審決はこの過程を経10ずに「引用発明の『有機発光表示装置』の配光分布はランベルトの余弦法則で近似できるものである」と認定しており、独立した二以上の引用発明を組み合わせて主引用発明と認定した誤ったものとなっている。
ウ引用文献3から技術常識3は認定できないこと本件審決は、相違点2について、技術常識3を前提として、引用発明15において照度と放射輝度の関係を印刷物と一致させることは設計事項であり、その関係を比例関係とすることも当然であるなどとして、相違点26 2は容易想到であると判断した。
このような判断が行われたのは、引用文献3のみから突如として、その記載された技術内容の示す具体的な解決課題及び解決方法を捨象し、
さらにその特定の文献に記載された技術内容を上位概念化又は抽象化し、
5技術常識を認定したからであり、このような技術常識の認定の仕方は誤りである。
本件審決が認定した引用文献3の「ABSTRACT」、段落【0056】、
【0060】及び【0067】の記載並びに図8を参照すると、引用文献3には、周囲光の強度に対する表示部14の輝度が、周囲光レベルL101とL2の間では、所与の照明光源下での紙の輝度に対応する曲線60に“closelymatches”(【0058】)することは記載されているものの、周囲光レベルL1とL2の間も含めて全体としてシグモイドカーブに近い曲線62により表されている。すなわち、周囲光レベルがL1を下回るときは、輝度レベルをD1などの所望の最小値又はそれを超える15値に維持し、周囲光レベルがL2を超えるときは、D2以下の輝度レベルでディスプレイ14を動作させるようなシグモイドカーブ状の曲線により表されている。そして、その技術内容の示す具体的な解決課題については、引用文献3の「ABSTRACT」、段落【0059】、【0060】、
【0067】等に、紙モードを追求するのではなく、画像表示装置とし20て機能するものであることが記載されている。すなわち、引用文献3は、
低光モード、紙モード、明光モードを使い分けて画像表示装置としての機能を追求した発明であり、その一部を切り出して技術常識3などというものを認定することはできない。
27 エ技術常識2は表示装置の制御に適用できる技術常識ではないこと本件審決は、技術常識2の根拠として、引用文献7及び引用文献8を引用しているが、これらは光の測定、校正技術の分野における光源と拡5散反射面の関係の理論に関するものであり、表示装置の画素の輝度を決定するための制御に採用されるような技術常識ではなく、そのまま引用発明に適用できる技術ではない。
オ阻害要因引用文献1に記載された発明は、周囲光が暗すぎる場合のユーザの視10認性を考慮するなどして、発光輝度を、周囲光の照度がしきい値を下回るときに最低輝度を維持し、かつ、周囲光の照度が高まるにつれて発光輝度が発散傾向で増大するような制御をしている。このような引用発明において、「光センサー」で検出された「照度値」と放射輝度が比例関『係』となるような構成を採用すると、引用発明に記載された目的に反す15るものとなるため、阻害要因があるといえる。
28 カ本件審決の進歩性判断の不当性本件審決は、本件補正発明を念頭に置き、本件補正発明を連想させるような技術事項を引用文献から断片的及び連想的に取得し、さらに副引用発明として認定すべき技術事項までも形式的に技術常識として認定す5ることにより、多数の引用文献に記載された技術事項を複雑に組み合わせて、また連想的に取得した技術事項を重ね合わせて、本件補正発明にたどり着いたかのように見せただけのものである。進歩性の判断において、このような不当な論理付けは認められるべきではない。
(2)被告の主張10ア有機発光表示装置がランベルト分布に近い発光分布を持つことについて(ア)原告らは、トップエミッション構造の場合のマイクロキャビティ構造や、ボトムエミッション構造の開口率の小ささを根拠として主張するが、市販された特定の製品が採用している素子構造や画素回路の配置の存在を理由として技術常識1の正当性について疑問を呈している15にすぎず、有機EL表示装置が本来有している一般的な特徴に対する反論ではない。本件審決が技術常識1を認定するために引用した引用文献6の段落【0003】にも、有機EL表示装置は視野角が広いことなどの特徴が述べられており、これは個別の製品の仕様に特化して述べられたものではない。
20(イ)まず、トップエミッション構造の有機発光表示装置に関しては、引用文献1には、マイクロキャビティ構造(微小共振器)を採用することは記載されていない。そもそも引用発明の目的は、「周囲環境下で実質的な紙の光学特性を模倣するための表示装置」を提供することにあるところ、紙を模倣する場合には、視野角が広くなるようにした所25定の拡散性が求められることは、当業者にとっては技術常識であり自明のことである(甲3〔日本語訳は乙3〕【0058】、乙4【0029 04】、【0035】、【0036】、乙5【0003】、【0022】)。そうすると、引用発明において、前方の輝度(正面輝度)を高めるマイクロキャビティ構造を採用し、あえて光の指向性を高める(すなわち視野角を狭くする)ことは、引用発明の目的に反するとい5える。
また、原告らが主張の根拠とする甲21の段落【0036】の記載(「市販のAMOLEDディスプレイの光分配パターンは、通常、光学スタックのマイクロキャビティの特性を呈する」)は、市販されている有機ELディスプレイは、専ら正面からの見やすさが要請される小型の10表示用パネルであったという特徴的な背景に基づくものである。引用発明においては、市販されている小型のディスプレイを用いなければならないという制約はなく、観察者が一人であることを前提条件とする必要もなく、視野角を広くして紙を模すのである。そして、本件補正発明の優先日以前の平成29年(2017年)には、既にLGディスプレイ製15パネルを使用した55型、65型の有機ELテレビが発売されるなど(乙6)、大型の広視野角を有する有機ELディスプレイが一般に普及し始めていた。こうした点を踏まえると、わざわざマイクロキャビティ構造を有する有機ELディスプレイを用いることは考えられない。
(ウ)ボトムエミッション構造に関する指摘については、第4の1(1)ウ20と同趣旨であるから、詳細は省略する。
イ引用文献1における照度値と放射輝度の比例関係が「ρ/π」に相当することについて第4の1(2)と同趣旨であるから、詳細は割愛する。
ウ引用文献3から技術常識3を認定したことについて25第4の1(3)と同趣旨であるから、詳細は割愛する。
技術常識2の表示装置の制御への適用性について30 原告らは、本件審決が技術常識2を認定する上で引用する引用文献7及び8は、光の測定、校正技術の分野における光源と拡散反射面の関係の理論に関するものであり、表示装置の制御に適用できる技術ではないと主張する。
5しかし、引用発明は、紙の光学特性を模倣する表示装置であるところ、
当業者は、紙の光学特性を模倣するに当たり、当然に、紙面において光はどのように散乱(拡散反射)するのかという事項を含む光散乱現象の光学の知識を身に付けるはずである。そして、観察対象の光学特性がどのようなものであるかを知るには、当該観察対象を計測対象物とした光10学的な計測が行われるのが通常であるから、引用発明においても表示装置を計測対象物とした「光の計測」が行われていると考えるのが自然である。引用文献7に記載された「光の計測」に関する基礎的知識や、引用文献8に記載された光学的測定における「校正技術」を参照するのは、
何ら不自然なことではない。
15したがって、引用文献7及び8から認定された技術常識2は、引用発明のような有機発光表示装置(有機EL表示装置)にも直接適用できる概念であるといえ、原告らの前記主張は失当である。
オ阻害要因の主張について(ア)引用発明の目的は「周囲環境下で実質的な紙の光学特性を模倣する20ための表示装置」を提供する(甲1の段落【0010】)ことにあり、
「最小輝度(最低輝度)」を設けることはあくまで追加の選択肢の一つにすぎない。引用文献1(甲1)の請求項1に係る発明は、用紙タイプの光反射率と周囲光の特性に基づいて、各画素の色値をスケーリングすることに特徴がある発明であり、請求項3において初めて、周囲25光の照度がしきい値を下回る際に最小輝度を設ける構成について特定されている。すなわち、引用文献1に記載された発明の主題として、
31 周囲光の照度がしきい値を下回る際に最小輝度を設けることは第一義的なものではなく、あくまで追加の選択肢の一つにすぎない。そして、
引用文献1の段落【0101】及び【0102】の記載においても、
引用文献1において最小輝度を設けることは、あくまで実施形態の一5例として述べられているものにすぎない。
(イ)さらに、一般に、引用発明にある構成を備えるように変更を加えることにより、予測可能な望ましくない効果を奏するだけである場合、そのような変更を加えることに積極的な動機付けはないとしても、自明であることには変わりなく、進歩性は否定されるべきである。このような10考えは、裁判例(東京高等裁判所平成15年3月27日判決・平成13年(行ケ)第364号)にも、いわゆる退歩発明として容易想到とする例がある。また、このような考え方は、本件審決が引用した欧州の審査ガイドライン(乙11。GuidelinesforExaminationintheEPOPartG-ChapterZ-10.1)にも規定されている。
152取消事由2(本件補正発明が顕著な効果を奏することの判断の誤り)について(1)原告らの主張引用文献1に記載された引用発明は、周囲環境下で実質的な紙の光学特性を模倣するためのものではあるものの、周囲光が暗すぎる場合のユーザの視20認性を考慮するなどして、発光輝度を、周囲光の照度がしきい値を下回るときに最低輝度を維持し、かつ、周囲光の照度が高まるにつれて発光輝度が発散傾向で増大するような制御をしている。このような制御であれば、周囲光の照度によらず表示内容の視認性を高めることができるかもしれないが、例えば周囲光の照度が低くなっていく環境下でユーザが表示装置の表示パネル25を見た場合、表示パネルから発光される光が薄暗い環境下で浮かび上がってきてしまうため、ユーザは、あたかも表示装置が紙のような印刷媒体である32 かのような感触を得ることができず、興ざめしてしまうという問題を有する。
本件補正発明は、あたかも表示装置が紙のような印刷媒体であるかのような感覚を与えるという課題を解決するために、あえて引用発明にない技術事項を備えている。これにより、本件補正発明は、引用発明と比較して、よ5り、あたかも表示装置が紙のような印刷媒体であるかのような感覚を与えることができるという有利な効果を奏する。
なお、本件審決も示唆するとおり、引用発明には、本件補正発明に到達するような変更を加える積極的な動機付けはなく、むしろその具体的な目的に反するものとなるため、引用発明に本件審決が認定する相違点を適用する10ことを阻害する事由があるともいえる。
(2)被告の主張原告らは、本件補正発明が、あたかも表示装置が紙のような印刷媒体であるかのような感覚を与えるという課題を解決するために、あえて引用発明にない技術事項を備え、これにより、本件補正発明は、引用発明と比較して、
15より、あたかも表示装置が紙のような印刷媒体であるかのような感覚を与えることができるという有利な効果を奏する旨主張する。
この点、本件補正発明は、画素の輝度=拡散反射率×照度/πの計算式に基づき設定されるところ、原告らは、例えば照度がゼロのときに画素の輝度がゼロであるように、外光が暗ければそれに比例して画素の輝度も暗いこ20とを有利な効果としている。しかし、このことは引用発明の構成から自ずと導き出されるものであり、予測困難な結果とは到底いえないから、有利な効果を有することを根拠に進歩性が認められるようなものではない。そもそも引用発明は、紙と同様に暗いところでは表示内容を見ることができないという問題を解消するために最低輝度を維持するものであり、上記の本件補正発25明の効果は、引用発明の前提構成からも自明のものであって、当業者が当然に予測できたものである。
33