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関連審決 不服2022-3541
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事件 令和 5年 (行ケ) 10060号 審決取消請求事件
5
原告 株式会社大分からあげ
同訴訟代理人弁護士 上野貴士 姫野綾 10
被告特許庁長官
同 指定代理人須田亮一 豊瀬京太郎 森山啓 15 綾郁奈子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/11/15
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
20 第1 原告の求めた裁判 特許庁が不服2022-3541号事件について令和5年4月27日にした審 決を取り消す。
第2 事案の概要 本件は、商標登録出願(商願2020-42754)の拒絶査定に対する不服審25 判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり、争点は、上記出願に係る商標(以下 「本願商標」という。 が商標法4条1項11号に掲げる商標に該当するか否かであ ) 1 る。
1 本願商標 本願商標の構成及び指定商品は、次のとおりである。
(1) 構成 5 別紙本願商標目録記載のとおり。
(2) 指定商品及び指定役務 第29類「鶏肉の唐揚げ、とりの唐揚げ、唐揚げ用に衣をつけた鶏肉、唐揚げ用 に衣をつけた鶏肉製品、冷凍した鶏肉の唐揚げ」及び第43類「鳥から揚げを主と する飲食物の提供」10 2 特許庁における手続の経緯 原告は、令和2年4月2日、本願商標について商標登録出願をし、令和3年5月 7日付け拒絶理由通知書を受け、同年6月14日に意見書を提出したが、同年11 月25日付けで拒絶査定を受けた。原告は、令和4年2月14日、上記拒絶査定を 不服として不服審判請求をし、特許庁は、同請求を不服2022-3541号事件15 として審理した上、令和5年4月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」と の審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年5月18日、原告に送 達された。
3 本件審決の理由の要点 (1) 本願商標について20 本願商標は、別紙本願商標目録記載のとおり、右斜め上方向に弧を描くように伸 びる略山形図形が三つ横につながった赤色の図形(外縁は黒線で縁取られている。
以下、「図形部分」という。)の内部に、「POPPO」の欧文字(以下「文字部分」 という。 を白抜きで横書きしてなるところ、
) 当該文字は辞書等に掲載のないもので あって、特定の意味合いを認識させることのない一種の造語として認識されるもの25 である。
また、図形部分は、特定の事物を表したもの、又は意味合いを表すものとして認 2 識され、親しまれているというべき事情は認められないことから、特定の称呼及び 観念を生じないものである。
そして、文字部分は、図形部分の内部に配置されているものの、図形部分の中央 の目立つ位置に、白抜きの読み取りやすい書体で明瞭に記載されているから、外観 5 上、図形部分とは一見して明確に区別して認識できるものであることに加え、文字 部分又は図形部分が、本願の指定商品及び指定役務との関係において、当該商品の 品質や役務の質等を表すものともいえない上、ほかに文字部分及び図形部分が単独 では商品及び役務の出所識別機能を有しないと認めるに足りる事情も見当たらない。
そうすると、文字部分と図形部分を分離して観察することは、取引上不自然なも10 のとはいえず、簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、称呼しやすく、記憶にとど めやすい文字部分をもって取引に当たる場合も少なくないというのが相当であるか ら、文字部分を要部として抽出し、他の商標と比較して商標の類否を判断すること ができるものである。
したがって、本願商標は、その構成中、独立して自他商品及び自他役務の識別標15 識としての機能を果たし得る文字部分の構成文字に相応して、
「ポッポ」の称呼を生 じ、特定の観念を生じないものである。
(2) 登録第3138170号商標(以下「引用商標1」という。)について ア 引用商標1は、平成4年9月7日に登録出願され、平成8年3月29日に設 定登録されたものであり、その構成及び指定役務は次のとおりである。
20 (ア) 構成 別紙引用商標目録記載1のとおり。
(イ) 指定役務 第42類「らーめん・お好み焼・たい焼・フライドポテト・アイ スクリーム及び清涼飲料を主とする飲食物の提供」 イ 引用商標1は、上記ア(ア)のとおり「ポッポ」の片仮名を赤色で横書きしてな25 るところ、当該文字に通じる「ぽっぽ」は、
「断続的に蒸気や煙を勢いよく吐き出す 音。また、そのさま。 、
」 「湯気・炎・煙などが立ちのぼるさま。、
」 「体などが熱くほ 3 てるさま。」等、様々な意味を有する語(「広辞苑第七版」株式会社岩波書店)であ るものの、それ単独で表示された引用商標1からは、特定の意味を認識させるとは いい難い。
したがって、引用商標1は、その構成文字に相応して、「ポッポ」の称呼を生じ、
5 特定の観念を生じないものである。
(3) 登録第6286187号商標(以下「引用商標2」といい、引用商標1と併 せて「各引用商標」という。)について ア 引用商標2は、令和元年8月23日に登録出願され、令和2年8月31日に 設定登録されたものであり、その構成及び指定役務は次のとおりである。
10 (ア) 構成 別紙引用商標目録記載2のとおり (イ) 指定役務 第43類「飲食物の提供」 イ 引用商標2は、上記ア(ア)のとおりの構成からなるところ、太い線の内部に多 数の白抜きの円図形及び一つの星形図形を配してなるものの、
「POPPO」の欧文15 字を表したものと容易に看取されるものである。そして、「POPPO」の文字は、
前記(1)のとおり、辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合いを認識させる ことのない一種の造語として認識されるものである。
したがって、引用商標2は、その構成文字に相応して、「ポッポ」の称呼を生じ、
特定の観念を生じないものである。
20 (4) 本願商標と各引用商標との比較 ア 本願商標と引用商標1について 本願商標の要部の一つである文字部分と引用商標1とを比較すると、外観におい ては、両者は、文字の種類が欧文字と片仮名とで異なり、色彩が相違するものであ るが、商標の使用においては、商標の構成文字を同一の称呼を生じる範囲内で文字25 種を相互に変換して表記したり、文字の色を変更したりすることが一般に行われて いる取引の実情があることに鑑みれば、これらの外観上の差異が、看者に対し、強 4 い印象を与えるとまではいえない。
また、称呼においては、文字部分と引用商標1は、
「ポッポ」の称呼を共通にする ものである。
さらに、観念においては、文字部分と引用商標1は、共に特定の観念を生じない 5 から、観念上、比較することができない。
そして、特定の観念を有しない文字商標においては、観念において商標を記憶で きず、称呼において記憶し、これを頼りに取引に当たることが少なくないというの が相当である。
以上によると、文字部分と引用商標1は、その外観、称呼及び観念によって、取10 引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、上記取引の実情を考慮すると、
両者の外観が相違し、観念において比較できないとしても、これが、取引上必要な 役割を果たす称呼についての共通性を凌駕するほどには顕著なものとは認められな いものであるから、本願商標と引用商標1は商品の出所について誤認混同を生ずる おそれのある類似の商標と判断するのが相当である。
15 イ 本願商標と引用商標2について 本願商標の要部の一つである文字部分と引用商標2とを比較すると、外観におい ては、それぞれの構成文字の書体及び色彩、各文字の形状に沿って配される白抜き の円図形の有無、語尾の「O」の文字の中心における星形図形の有無において差異 はあるものの、文字のつづりを共通にするものであるから、両者は外観において似20 通った印象を与えるものである。
また、称呼においては、文字部分と引用商標2は、共に「ポッポ」の称呼を生じ るから、両者は、称呼上、同一である。
さらに、観念においては、文字部分と引用商標2は、共に特定の観念を生じない から、両者は、観念上、比較することができない。
25 以上によると、文字部分と引用商標2は、観念上比較することができないとして も、外観上似通った印象を与えるものであって、称呼を同一とするものであるから、
5 その外観、称呼及び観念が取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合すれ ば、本願商標と引用商標2は、商品の出所について誤認を生じさせるおそれのある 類似の商標と判断するのが相当である。
ウ 本願の指定商品及び指定役務と各引用商標の指定役務との類否について 5 本願の指定商品及び指定役務中、第43類「鳥から揚げを主とする飲食物の提供」 は、各引用商標の指定役務と、その需要者、業種、提供の場所等を共通にする同一 又は類似の役務である。
エ 以上によると、本願商標と各引用商標とは、相紛れるおそれのある類似の商 標であり、かつ、本願の指定役務は、各引用商標の指定役務と同一又は類似のもの10 である。
したがって、本願商標は、商標法第4条1項11号に該当する。
第3 原告の主張する取消事由 本件審決は、商標法4条1項11号該当性に関し、事実認定、判断及び法律の適 用を誤った違法なものであるから、取り消されるべきである。
15 1 本願商標の構成中の文字部分のみを抽出したことの誤り (1) 文字部分について 本願商標の文字部分は、「ぽっぽ」との称呼を生じるところ、「ぽっぽ」の発音か ら想起される観念が生じる。すなわち、「ぽっぽ」は、「@断続的に蒸気や煙を勢い よく吐き出す音。また、そのさま。 「A湯気・炎・煙などが立ちのぼるさま。 「B 」 」20 体などが熱くほてるさま。「Cふところ。ふところの中。また、ふところ具合。「D 」 」 (幼児語)?「汽車ぽっぽ」の略。?鳩の鳴き声。転じて鳩。 (いずれも「広辞苑 」 第七版」)の意味を有する語である。そして、@ないしCが、いずれも音や様子・状 態を表すものであるのに対し、Dのみが発音された「ぽっぽ」それ自体の意味内容 を表すものであることからすれば、需要者が観念する意味はDの「汽車ぽっぽ」や25 「鳩」である。また、
「ぽっぽ」は、ポケットモンスターシリーズに登場する鶏冠を 有する鳥型のキャラクター「ポッポ」を想起させ、ポケットモンスターやポッポの 6 著名性からすれば、現代的には「鳥」の意味を有する(甲2の1〜3)。さらに、九 州地方においては、鳩だけでなく鶏のことを「ぽっぽ」と呼ぶ習慣があり、鶏空揚 げのことを「ポッポ」 「ポッポしゃん」などと呼ぶ習慣が醸成されており(なお、

原告のキャラクター「ポッポおじさん」 (社長を模した男性の頭部に鶏冠があるキャ 5 ラクター)もこのような習慣があったことから命名された。 、鶏空揚げや鳥料理を ) 販売する店舗や飲食店がその商品名や店舗名称に「ポッポ」や「ポッポしゃん」の 語を用いることがある。
したがって、
「ぽっぽ」と発音される文字部分だけを見ても、需要者は、
「汽車ぽっ ぽ」「鳩」 「鳥」 「鶏」 「鳥料理」を想起するのであり、それらの観念が生じる。
、 、 、 、
10 (2) 図形部分について 本願商標の図形部分は、三つ横につながった略山形の部分の形状がいずれも右斜 め上方向に傾き、このため、図形全体として右斜め上方向に傾いているように見え るデザインとなっている。これは、鶏の鶏冠を模したデザインであり、より具体的 には、左向きの鶏の頭部の鶏冠部分のみをクローズアップして抽象化したデザイン15 であって、その色が赤色であることから十分に鶏の鶏冠であることが看取できるも のとなっている。
(3) 本願商標は図形と文字からなる結合商標であって、図形部分と文字部分を分 離して類否判断を行うべきではないこと 上記(1)及び(2)のとおり、需要者は、図形部分から鶏の鶏冠を模したデザインで20 あると認識できることにより、
「鶏冠」「鶏」の観念が生じ、文字部分からは「ぽっ 、
ぽ」から想起される「汽車ぽっぽ」 「鳩」 「鳥」 「鶏」 「鶏から揚げ」の観念が生 、 、 、 、
じ、図形部分の外縁が黒線で縁取られ、図形内の文字部分は縁取りがないため、そ れらを一体とみるべきであって、全体として「鶏冠」 「鶏」 「鳥」 「鶏から揚げ」 、 、 、
の観念が生じ、本願商標の指定商品及び指定役務が、鶏肉の唐揚げ、
「 とりの唐揚げ、
25 唐揚げ用に衣をつけた鶏肉、唐揚げ用に衣をつけた鶏肉製品、冷凍した鶏肉の唐揚 げ」及び「鳥から揚げを主とする飲食物の提供」であることからすれば、本願商標 7 は、相互に関連性を有する図形部分及び文字部分が一体として結合した商標であり、
そこから「鶏」 「鶏から揚げ」の観念が生じる。

(4) 結合商標の一部を抽出して類否判断をした本件審決が誤っていること 本件審決は、本願商標につき、図形部分と文字部分とで特定の観念を生じるもの 5 ではなく、また、指定商品の品質や役務の質等を表すものでもなく、かつ、文字部 分は図形部分と一見して明確に区別して認識できるとして、文字部分のみを要部と して抽出し、文字部分のみを対照して各引用商標との類否判断をしたものであるが、
上記(3)のとおり、文字部分のみを抽出した本件審決の判断は誤りである。
2 類否判断の誤り10 (1) 本願商標と各引用商標の観念が異なること 各引用商標からは、「ぽっぽ」の語から想起される観念が生じ得るが、「鶏から揚 げ」の観念は生じ得ず、観念の比較において本願商標と各引用商標との間には相違 がある。当該観念の相違は、需要者において、称呼の一致を凌駕するものであって、
本願商標と各引用商標は、いずれも非類似である。
15 (2) 本願商標と各引用商標の外観が異なること 本願商標は、前記1(3)のとおり、図形部分と文字部分が一体となった結合商標で あって、全体として鶏冠を模したロゴデザインの外観を有するものであるのに対し、
各引用商標は、文字のみからなる商標であって、本願商標とは一見して外観が異な り、混同が生じる余地はなく、本願商標と各引用商標との当該外観の相違は、需要20 者において、称呼の一致を凌駕するものであるから、本願商標と各引用商標はいず れも非類似である。
3 指定商品及び指定役務が類似しないこと及び取引の実態・需要者層も異なる こと 本願商標は、指定商品又は指定役務を「鶏肉の唐揚げ、とりの唐揚げ、唐揚げ用25 に衣をつけた鶏肉、唐揚げ用に衣をつけた鶏肉製品、冷凍した鶏肉の唐揚げ」及び 「鳥から揚げを主とする飲食物の提供」として出願されたものである。各引用商標 8 の指定商品及び指定役務は、引用商標1が「らーめん? お好み焼・たい焼・フライ ドポテト・アイスクリーム及び清涼飲料を主とする飲食物の提供」であり、引用商 標2が「飲食物の提供」であって、いずれもその商標権者は株式会社セブン&アイ・ フードシステムズであるところ、各引用商標は、株式会社イトーヨーカ堂が運営す 5 る総合スーパー「イトーヨーカドー」 「アリオ」及び「ヨークマート」の各店舗内 、
のイートインコーナー(飲食店)の店名として使用され、当該イートインコーナー では、ラーメン・ソフトクリーム・今川焼き(薄皮黄金焼) ・焼きそば・お好み焼き・ たこ焼き・フライドポテトなどが販売されているが、鶏空揚げが販売されている事 実はうかがわれない(甲3)。また、イトーヨーカドーは、これまで九州地方におい10 て出店した事実はない(甲4)。そうすると、空揚げ専門店を大分県、福岡県及び熊 本県の九州内3県の実店舗でのみ運営し、インターネットでの鶏空揚げ販売も 行っていない原告が、同店舗販売商品である空揚げと同店舗における役務に使用す る本願商品と、各引用商標が使用される指定商品及び指定役務とは、その内容(販 売商品自体と販売地域)も需要者層も異なるため、各商標の称呼が一致するとして15 も、それらに出所等の混同が生じる可能性はない。
4 結論 以上のとおり、本件審決は、商標法4条1項11号該当性について判断を誤った 違法なものであるから、取り消されるべきものである。
第4 被告の主張20 1 商標法4条1項11号該当性について (1) 本願商標と引用商標1について 本願商標は図形部分と文字部分とからなるのに対して、引用商標1は文字のみか らなることから、両商標は、その構成全体の比較において外観上相違するものの、
本願商標の要部である文字部分と引用商標1とを比較すると、両者は「ポッポ」の25 称呼を共通にするものであり、共に特定の観念を生じないから、観念上、相違する ものではない。
9 そして、本願商標の要部である文字部分と引用商標1とは、色彩及び文字種が相 違するものであるから、外観上、類似するものとまではいえないが、商標の構成文 字に色彩を施すことは一般的に行われていること、また、本願商標及び引用商標1 の指定役務に係る「飲食物の提供」を取り扱う業界においては、欧文字からなる商 5 標を片仮名で表記したり、片仮名からなる商標を欧文字で表記したりすることは、
一般的に行われている取引の実情があることからすれば、
「飲食物の提供」の役務と の関係で、称呼を共通にし、観念が相違しない両者において、色彩及び文字種の相 違程度の外観上の差異が、看者に対し、両者が別異のものであるとの強い印象を与 えるとまではいえない。
10 そうすると、本願商標の要部と引用商標1は、称呼が共通し、観念は相違せず、
外観上の差異が、看者に対し、両者が別異のものであるとの強い印象を与えるとま ではいえないものであるから、その外観、称呼及び観念が、取引者、需要者に与え る印象、記憶、連想等を総合すれば、本願商標と引用商標1は、役務の出所につい て誤認混同を生ずるおそれのある類似の商標というべきである。
15 (2) 本願商標と引用商標2について 本願商標は図形部分と文字部分とからなるのに対して、引用商標2は文字のみか らなることから、両商標は、その構成全体の比較において外観上相違するものの、
本願商標の要部である文字部分と引用商標2とを比較すると、両者は文字の書体、
色彩及びデザイン化の有無における差異はあるものの、いずれも一般的な書体で表20 されたものであること、商標の構成文字に色彩を施すことは一般的に行われている こと、引用商標2のデザイン化は一般的であり格別特徴のあるものではないことに 加え、文字種(いずれも欧文字)及び文字のつづりを完全に共通にするものである から、両者は外観上、類似するものである。
また、称呼においては、本願商標の要部と引用商標2は、
「ポッポ」の称呼を共通25 にするものであり、共に特定の観念を生じないから、観念上、相違するものではな い。
10 そうすると、本願商標の要部と引用商標2は、外観が類似し、称呼が共通し、観 念が相違するものではないから、その外観、称呼及び観念が、取引者、需要者に与 える印象、記憶、連想等を総合すれば、本願商標と引用商標2は、役務の出所につ いて誤認混同を生ずるおそれのある類似の商標というべきである。
5 (3) 本願商標の指定役務と各引用商標の指定役務との類否について 本願商標の指定役務と各引用商標の指定役務とは、主として提供される飲食物が 相違することがあるとしても、飲食物を提供するという役務であることを共通とし、
当該役務に関する業務や事業者を規制する法律も共通し、役務の提供の手段、目的 又は場所、役務の提供に関連する物品、需要者等の範囲、役務を提供する業種が一10 致し、かつ、同一の事業者が提供するものであるから、これらを総合的に考慮する と、本願商標の指定役務と各引用商標の指定役務に同一又は類似の商標が使用され たときには、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるといえる。
そうすると、本願商標の指定役務と各引用商標の指定役務は、商標法4条1項1 1号にいう同一又は類似の役務に当たるというべきである。
15 (4) 結論 以上のとおり、本願商標は、各引用商標と類似する商標であって、その指定役務 は、各引用商標の指定役務と同一又は類似であるから、商標法4条1項11号に該 当する。
2 原告の主張について20 (1) 文字部分から生じる観念について 「ぽっぽ」自体の意味内容は、原告が主張する「D(幼児語) (ア) 「汽車ぽっぽ」 の略。(イ)鳩の鳴き声。転じて、鳩。」のみではない上、本願商標及び各引用商標 から特定の観念が生じないことは、上記1(1)及び(2)のとおりである。
また、本願商標の指定役務に係る取引者、需要者が原告の主張する「ポケットモ25 ンスター」に登場する鳥形のキャラクターを知っているか否か明らかではないし、
仮に知っていたとしても、それは飽くまでキャラクターの名前として知っているに 11 すぎないものである。
さらに、同取引者、需要者は全国に及ぶものであるから、九州地方に限った実情 を当てはめて、
「鳩」の意味を「鳥」「鶏」及び「鶏料理」にまで拡大して解釈する 、
ことは、商標の類否判断における観念の認定として適切とはいえない。
5 (2) 図形部分から生じる観念について 原告の意図として、図形部分が鶏の鶏冠を模してデザインしたものであるとして も、そのことと需要者が図形部分をどのように認識するかは別の問題であり、需要 者が図形部分を鶏の鶏冠を表したものと認識することについて、原告は何ら立証も していない。そして、図形部分は、仮に鶏冠を模したデザインであるとしても、写10 実的なものではなく抽象化された図形であること、鶏の頭部や身体部がないことな どからも、直ちに「鶏冠」を認識するとはいえず、特定の事物を表したものとして 認識されるものではなく、特定の観念を生じない。
(3) 図形部分と文字部分の分離観察について 本願商標は、図形部分の内部に、文字部分を白抜きで横書きしてなり、文字部分15 は、図形部分の中央の目立つ位置に、埋没することなく、読み取りやすい書体で明 瞭に記載されていることから、図形部分と文字部分が結合してなるものと容易に看 取されるものである。
そして、図形部分は、直ちに特定の事物を表したものとは認識されず、文字部分 との間に観念的なつながりも認められないことを考慮すれば、図形部分と文字部分20 とを分離して観察することが、取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合 しているものではない。
(4) 取引の実情について 商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情は、当該商標が現に、当該指定商 品(指定役務)に使用されている特殊的、限定的な実情に限定して理解されるべき25 ではなく、当該指定商品(指定役務)についてのより一般的、恒常的な実情、例え ば、取引方法、流通経路、需要者層、商標の使用状況等を総合した取引の実情を含 12 めて理解されるべきであるところ(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4 月25日判決、知財高裁平成20年(行ケ)第10285号同年12月25日判決)、
上記主張に係る取引の実情は、現時点において原告や引用商標権者が商標を実際に 使用している具体的な商品及び役務についての取引の実情にすぎないから、本願商 5 標と引用商標の類否の判断に当たり考慮すべき一般的、恒常的な取引の実情とはい えない。
第5 当裁判所の判断 1 商標の類否について 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場10 合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決 すべきであるが、それには、使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取 引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、
かつ、その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取 引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号15 同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の 構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支 配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識と しての称呼、観念が生じないと認められる場合等、商標の各構成部分がそれを分離20 して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているも のと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の 商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭 和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号 1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・25 民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8 日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
13 2 本願商標及び各引用商標 (1) 本願商標について ア 本願商標の構成は、別紙本願商標目録記載のとおりであり、本願商標は、右 斜め上方向に弧を描くように伸びる略山形図形が三つ横につながり外縁は黒線で縁 5 取られ、内部は赤色の図形(図形部分)の内部に、
「POPPO」の欧文字を白抜き で横書きしてなるものである。
イ 本願商標の全体を観察すると、文字部分は、図形部分の内部に配置されてい るものの、図形部分の中央の目立つ位置に、白抜きの読み取りやすい書体で明瞭に 記載されているから、外観上、図形部分とは明確に区別して認識できるものであっ10 て、図形部分と文字部分がそれぞれ視覚的に分離、独立した印象を与えるものとい える。
ウ 本願商標の図形部分は、一見して何を表すものであるか看取することは困難 であり、直ちに特定の観念及び称呼が生じると認めることはできない。他方、本願 商標の文字部分は、当該文字は辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合い15 を認識させることのない一種の造語として認識されるものであって、特定の観念を 生じさせず、ローマ字読みした場合、「ポッポ」の称呼を生じるものといえる。
エ 以上を総合すると、本願商標は、図形部分と「POPPO」の文字部分とか らなる結合商標であるところ、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上 不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから、
20 その構成部分の一部であり、 ポッポ」 「 の称呼を生じる文字部分である「POPPO」 の部分を抽出し、当該部分(以下「本願要部」という。)だけを他人の商標と比較し て商標の類否を判断することも許されるというべきである。
オ そして、本願要部からは、ローマ字から連想される「ポッポ」の称呼を生じ、
特定の観念が生じるとはいえない。
25 (2) 各引用商標について ア 引用商標1の構成は、別紙引用商標目録記載1のとおり、
「ポッポ」の片仮名 14 を赤色で横書きしてなるところ、当該文字に通じる「ぽっぽ」は、
「断続的に蒸気や 煙を勢いよく吐き出す音。また、そのさま。 、 湯気・炎・煙などが立ちのぼるさま」 」「 、
「体などが熱くほてるさま」等、様々な意味を有する語(広辞苑第七版。乙4)で あるものの、それ単独で表示された引用商標1からは、特定の意味を認識させると 5 はいい難い。
そうすると、引用商標1は、その構成文字に相応して、
「ポッポ」の称呼を生じ、
特定の観念を生じるとはいえない。
イ 引用商標2について 引用商標2の構成は、別紙引用商標目録記載2のとおり、太い線の内部に多数の10 白抜きの円図形及び語尾の「O」の文字の中心に一つの星形図形を配してなるもの の、「POPPO」の欧文字を表したものと看取されるものである。そして、「PO PPO」の文字は、前記(1)ウのとおり、辞書等に掲載のないものであって、特定の 意味合いを認識させることのない一種の造語として認識されるものである。
したがって、引用商標2は、その構成文字に相応して、
「ポッポ」の称呼を生じ、
15 特定の観念を生じるとはいえない。
3 本願商標と各引用商標との類否等 (1) 本願要部(「POPPO」の文字部分)と引用商標1とを比較すると、外観に おいては、両者は、文字の種類が欧文字と片仮名とで異なり、色彩が相違するもの であるが、商標の使用においては、商標の構成文字を同一の称呼を生じる範囲内で20 文字種を相互に変換して表記したり、文字の色を変更したりすることがあることに 鑑みれば、これらの外観上の差異が、看者に対し、強い印象を与えるとまではいえ ない。また、称呼においては、文字部分と引用商標1は、
「ポッポ」の称呼を共通に するものである。さらに、観念においては、文字部分と引用商標1は、共に特定の 観念を生じるものではない。
25 そうすると、本願要部と引用商標1は、外観において相違し、特定の観念を生じ ないものであるものの、称呼を共通にし、外観の相違は称呼の共通性による印象を 15 凌駕するほどの顕著なものとは認められない。
(2) 本願要部と引用商標2を比較すると、外観においては、それぞれの構成文字 の書体及び色彩、各文字の形状に沿って配される白抜きの円図形の有無、語尾の「O」 の文字の中心における星形図形の有無において差異はあるものの、文字のつづりを 5 共通にするものであるから、両者は外観において似通った印象を与えるものであり、
称呼においては、共に「ポッポ」の称呼を生じるから、両者は、称呼上、同一であ る。また、観念においては、共に特定の観念を生じるものとはいえない。
そうすると、本願要部と引用商標2は、特定の観念を生じないものであるものの、
外観上似通った印象を与えるものであって、称呼を同一とするものである。
10 (3) 本願商標の指定役務は第43類「鳥から揚げを主とする飲食物の提供」を含 むものであり、引用商標1の指定役務は第42類「らーめん・お好み焼・たい焼・ フライドポテト・アイスクリーム及び清涼飲料を主とする飲食物の提供」であり、
引用商標2の指定役務は第43類「飲食物の提供」である。しかるところ、これら を提供する者はいずれも飲食サービス業者であって業種が一致する。また、飲食サー15 ビス業者においては、同一店舗において、ラーメンと空揚げとフライドポテト、お 好み焼きと空揚げなどを提供することも行われており(乙34〜39)、さらに、提 供する飲食物が相違する様々な店舗を同一経営者が飲食店グループとして運営する ことも一般的に行われているところである。
(4) 以上によると、本願商標と各引用商標は、それぞれの指定役務において使用20 された場合、営業主体、すなわち役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあ るというべきであって、互いに類似するものであり、また、本願商標と各引用商標 は、「飲食物の提供」の役務との点で共通するから、指定役務が類似するといえる。
4 原告の主張について (1) 原告は、本件審決が本願商標の構成中の文字部分のみを抽出したことの誤り25 を主張し、@「ぽっぽ」の称呼から需要者は、「汽車ぽっぽ」 「鳩」 「鳥」 「鶏」 、 、 、 、
「鳥料理」を想起するのであり、それらの観念が生じること、A図形部分からは鶏 16 の鶏冠であることが看取でき、その観念が生じること、B本願商標は、上記@とA の点から相互に関連性を有する図形部分及び文字部分が一体として結合した商標で あり、そこから「鶏」 「鶏から揚げ」の観念が生じるものであって、文字部分のみ 、
を抽出して分離観察することは許されないと主張する。
5 しかしながら、前記2(2)及び3(1)のとおり、
「ぽっぽ」の称呼からは特定の観念 が生じるとはいえず、原告の主張する「ポッポ」というポケットモンスターの鳥の キャラクターが存在するとしても、上記判断を左右するものとはいえない。また、
原告は九州地方における「ぽっぽ」の語の意味を主張するが、特定の地域における 需要者が想起する観念をもって、需要者の観念とすることは相当ではないから、原10 告の主張はこの点においても採用できない。さらに、図形部分についても、図形部 分が鶏の鶏冠を模してデザインしたものであるとしても、抽象化された図形であっ て、鶏の頭部等も描かれておらず、需要者において一見して「鶏冠」を認識するも のとはいえず、図形部分から直ちに「鶏冠」との観念を生じるものとはいえない。
そして、上記Bの点は、上記@及びAの主張について理由がないから、前提を欠き15 理由がない。
(2) 原告は、本件審決が本願商標と各引用商標を類似と判断した点につき、各引 用商標からは、いずれも「鶏から揚げ」の観念は生じ得ず、観念の比較において本 願商標と各引用商標との間には相違があること、本願商標は、図形部分と文字部分 が一体となった結合商標であって、全体として鶏冠を模したロゴデザインの外観を20 有するものであるのに対し、各引用商標は、いずれも文字のみからなる商標であっ て、外観が異なり、混同が生じる余地はなく、本願商標と各引用商標はいずれも非 類似であると主張する。しかし、上記(1)のとおり、本願商標から「鶏から揚げ」の 観念が生じるとはいえず、図形部分と文字部分が不可分一体となった結合商標とみ るべきではないから、前提を欠き理由がない。
25 (3) 原告は、本願商品の指定役務と各引用商標が使用される指定役務とは、その 内容(販売商品と販売地域)も需要者層も異なるため、出所等の混同が生じる可能 17 性はないと主張するが、商標法4条1項11号における商標における指定役務の類 似の有無については、必ずしも原告が現在扱っている販売商品やその販売地域に限 定して比較するのは相当ではなく、前記3の判断のとおり、本願商品の指定役務と 各引用商標の指定役務とは類似するから、原告の主張は理由がない。
5 5 以上のとおり、本願商標は、その商標登録出願の日前の商標登録出願に係る 他人の登録商標である各引用商標と類似するもので、各引用商標の指定役務と同一 又は類似する役務を指定役務とするものであるから、商標法4条1項11号に該当 し、登録することができない。原告の主張する取消事由には理由がない。
第6 結論10 以上の次第であるから、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文 のとおり判決する。