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事件 令和 4年 (ワ) 15678号 特許権侵害差止等請求事件
5
原告株式会社ニード
同訴訟代理人弁護士 田仲剛
同 補佐人弁理士神澤淳子
被告 ヴィレップス合同会社10 同訴訟代理人弁護士 服部謙太朗
同 補佐人弁理士富永浩司
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2023/08/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
15 事 実 及 び 理 由第1 請求1 被告は、別紙被告製品目録記載の各製品を製造し、譲渡し、輸入し、輸出し、
譲渡の申出をし、又は譲渡のために展示してはならない。
2 被告は、前項の各製品及びその半製品(前項の各製品の構造を具備している20 が製品として完成するに至らないもの)及び前項の各製品の製造に供する金型を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、373万4500円及びこれに対する令和4年3月25日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要25 本件は、発明の名称を「折畳み式テント」とする特許第5595570号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告による別紙被告製品目録記載の各製品(以下「被告各製品」という。)の製造、譲渡等が本件特許権の侵害に当たると主張して、被告1に対し、特許法100条1項に基づき被告各製品の製造、譲渡等の差止めを、
同条2項に基づき被告各製品及びその半製品等の廃棄を、特許権侵害不法行為に基づく損害賠償として373万4500円及びこれに対する不法行為の日である令和4年3月25日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合5 による遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者ア 原告は、避難用パーティション等の防災用品の開発、製造、販売等を目10 的とする株式会社であり、本件特許権を有している。
イ 被告は、コロナ対策関連商品や防災商品の製造、販売、卸等を目的とする合同会社である。
(2) 本件特許ア 原告は、平成25年9月4日、本件特許に係る特許出願(特願201315 −183512。以下「本件出願」という。)をし、平成26年8月15日、本件特許権の設定登録(請求項の数4)を受けた(甲1、2。以下、
本件出願の願書に添付された明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。また、本件明細書の発明の詳細な説明中の段落番号を【0001】などと記載し、図を「図1」などという。。
)20 イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、同請求項に係る発明を「本件発明」という。。
)【請求項1】角部が湾曲した略矩形状可撓性幕の外周縁に弾性に富んだ無端フレームが付設されて1枚の略矩形状壁面が形成され、4枚の略矩形状壁面の25 内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能に順次連続して連結されるとともに、前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、着脱可能な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が2構成され、
前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚の略矩形状壁面の内、いずれか一方の略矩形状壁面には開閉自在な扉部が形成され、
前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚の略矩形状壁面に5 より開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特徴とする折畳み式テント。
ウ 本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりである(以下、分説した構成要件を符号に対応させて、「構成要件A」などという。。
)A 角部が湾曲した略矩形状可撓性幕の外周縁に弾性に富んだ無端フレー10 ムが付設されて1枚の略矩形状壁面が形成され、
B 4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能に順次連続して連結されるとともに、
C 前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、着脱可能な15 接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、
D 前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚の略矩形状壁面の内、いずれか一方の略矩形状壁面には開閉自在な扉部が形成され、
E 前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚の略矩形状壁面に20 より開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特徴とするF 折畳み式テント。
(3) 被告の行為等ア 被告は、遅くとも平成29年7月28日から、業として、被告各製品を譲渡し、譲渡の申出をし、譲渡のために展示をしている。
25 イ 被告各製品の構成は、次のとおりである(ただし、下線部の構成には争いがある。。
)a 角部が湾曲した略矩形状の可撓性幕の平面部18(別紙写真目録の写真1ないし7参照。同写真において被告各製品の説明のために付された3付番について以下同じ。、28、38、48の外周縁に枠体17、27、
)37、47が付設されて1枚の板状体10、20、30、40(以下、
順に「第1板状体10」 「第2板状体20」などという。
、 )が形成され、
b 接合部60により連結される第4板状体40及び第1板状体10の対5 向部45b及び15a、対向部15b及び25a、対向部25b及び35a並びに対向部35b及び45aのそれぞれが、相互に折り畳み可能に順次連続して連結されるとともに、
c 第1板状体10ないし第4板状体40が、一方向に延びる側面シート体とされている場合において、第4板状体40及び第1板状体10の間10 の連結が着脱可能な接合部60を介して「OFF」状態から「ON」状態に遷移させられ、第4板状体40及び第1板状体10が接合部60により接合されることにより、第1板状体10ないし第4板状体40は筒状体とされ、
d 第1板状体10の平面部18に、開閉自在な扉部19が形成され、
15 e 接合部60を介して接続される対向部45b、15aを有する第4板状体40及び第1板状体10により開閉自在な開口65が設けられたことを特徴とするf テント1ウ 被告各製品は、構成要件A、CないしFを充足する。
20 2 争点(1) 構成要件Bの充足性(争点1)(2) 本件特許に対する無効の抗弁の成否(争点2)ア 米国特許第6782905号明細書(乙2。以下「乙2文献」という。)を主引用例とする新規性又は進歩性欠如(争点2−1)25 イ 補正要件違反(争点2−2)ウ サポート要件違反(争点2−3)エ 実施可能性要件違反(争点2−4)オ 明確性要件違反(争点2−5)4(3) 原告の損害及び損害額(争点3)第3 争点に関する当事者の主張1 争点1(構成要件Bの充足性)について(原告の主張)5 (1) 「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く」の意義について構成要件Bの「除く」は、一般的には「加えない。除外する。別にする。」(広辞苑 第七版)という意味を有している。このような「除く」の通常の用いられ方に照らせば、「除く」の文言は、構成要件Bの「相隣る2枚の略10 矩形状壁面の互いに対応する側縁」の部分にかかっていると解釈するのが合理的である。
被告は、「他の側縁」が、「相互に折り畳み可能」であることを「除く」、
「順次連続して」いることを「除く」「連結され」ていることを「除く」と、
解釈すべきと主張するが、そのような解釈は本件明細書の発明の詳細な説明15 及び図面のどこからも読み取ることはできないし、「〜を除く」の通常の用いられ方からしても不合理である。
(2) 「連続して連結される」の意義について構成要件Bの構成は、本件明細書の【0021】及び【0022】並びに図7及び図8(図7及び図8は、別紙図面目録1記載の図面参照。以下同20 じ。)に詳細に説明されている。例えば、本件明細書の【0021】には、
「筒状周壁部1では、図7に図示されるように、4枚の壁面2、3、4、5の各両側縁2a、2b、3a、3b、4a、4b、5a、5bの内、側縁3aと4b、4aと5b、5aと2bとを相互に折畳み可能に連結し、側縁2aと3bとを後述する接合手段23で接合することで筒状周壁部1が構成さ25 れている。」と記載されているし、【0022】には、「図7に図示されるように、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとは前記接合手段23により、一体に接合され、または分離される。」と記載されている。
また、図7は、接合手段23が接合されて筒状周壁部1が構成された状態5を、図8は、接合手段23が分離されて両壁面開口部24が開放された状態をそれぞれ示しているところ、図7にも図8にも、接合手段23を備えた側縁2aと3b以外の側縁(側縁3aと4b、4aと5b、5aと2b)部分が分離・開放された状態は図示されていない。
5 このように、本件明細書の【0021】及び【0022】並びに図7及び図8の記載を考慮すれば、本件発明は、接合手段23を備えた側縁2aと3b以外の側縁(すなわち、側縁3aと4b、4aと5b、5aと2b)が分離できない構成を採用していることが明らかであるから、構成要件Bの「連続して連結され」るという文言は、分離が不可能に連結している構成を意味10 しているといえる。
以上によれば、構成要件Bは、分離が可能な構成である「互いに対応する側縁(面ファスナー設置部)」を「除く(加えない。除外する。別にする)」他の側縁については分離が不可能に連結しているという構成を示しているといえる。
15 (3) 被告各製品について被告各製品は、各部が湾曲した略矩形状ナイロン生地の外周縁に無端スチールスプリングフレームが付設されて1枚の略矩形状壁面が形成されており、
この略矩形状壁面4枚により、筒状周壁部が構成されている。接合部60により連結される第1板状体10と第4板状体40の対向部45bと15a20 (面ファスナー設置部)は分離及び開放可能であり、「連続して連結され」ていない一方、対向部45bと15aを除く他の対向部(すなわち、対向部15bと25a、対向部25bと35a及び対向部35bと45a)が、相互に折畳み可能に順次連続して連結されている。
したがって、被告製品の構成bは、「第1及び第4板状体40、10の対25 向部45b及び15a(面ファスナー設置部)が分離・開放可能で「連続して連結され」ていない一方、対向部45b及び15aを除く他の対向部(すなわち、対向部15b及び25a、対向部25b及び35a並びに対向部35b及び45a)が、分離・開放不可能で、相互に折畳み可能に順次連続し6て連結されている」と認められるから、分離が可能な「互いに対応する側縁(面ファスナー設置部)」を「除く(加えない。除外する。別にする)」他の側縁については分離が不可能に連結しているという構成(前記(2))を有しているといえ、被告各製品は、構成要件Bを充足する。
5 (被告の主張)(1) 「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く」の意義について本件明細書の実施例では、「除く」という文言を用いて本件発明の実施例を説明した記載はない。このため、本件明細書からは「除く」という語句の10 意義は一義的には明確ではない。
そこで、「除く」の通常の用法を参照すると、「除く」という語句は一般的に、「加えない。除外する。別にする。」と説明されており、その用例として「二人を―・いて誰も知らない」といったものなどが示されている(広辞苑第七版)。上記の「二人を―・いて誰も知らない」という用例では、二人は15 知っているが、それ以外の者は知らないという意味となるように、「別にする」もの(上記の用例だと「二人」)と「別にされない」もの(上記の用例だと二人「以外の者」)とでは、異なる性質・構成を有する(上記の用例だと「知らない」)ことを意味すると解すべきである。
そうすると、構成要件Bは、除かれた側縁、すなわち「相隣る2枚の略矩20 形状壁面の互いに対応する側縁」は、「相互に折り畳み可能に」 「順次連続、
して」「連結され」るという構成を、いずれも有していてはならないという、
ことを規定していることになる。
(2) 「連続して連結される」の意義についてア 構成要件Bの「連続」とは、「つらなりつづくこと。切れ目がなくつづ25 くこと。」という意味であるから、「他の側縁」が「連続して連結される」とは、「他の側縁」が、他の壁面の側縁と該側縁の延伸方向に沿ってつらなりつづいた状態であることを意味する。
原告は、上記「連続して連結」の意義について、分離が不可能に連結7している構成を意味していると主張するが、「連続」が上記のような意味を有していることからすると、「連続して連結される」を、「分離が不可能に連結される」と解釈することはできない。
イ 原告は、【0021】及び【0022】並びに図7及び図8の記載を根5 拠として上記原告の主張を採用すべきであると主張する。
しかし、本件発明は、4枚の壁面のうち、特定の壁面の両側縁の構成について特定しているのではなく、4枚の壁面全ての側縁が本件発明で特定されている構成を有することを規定しているといえる。原告は、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」は側縁2aと側縁3b10 に限定され、他の側縁はすべて「他の側縁」となることを前提として、
「連続して連結」の意義について主張しているが、特許請求の範囲には、
構成要件Bの「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」を、
特定の壁面の両側縁に限定するといった記載はない。原告の主張は、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、実施例の側縁2a15 と側縁3bに限定されることを前提としている点で誤りがあるから、実施例の記載を根拠とした原告主張の解釈は採り得ない。
また、原告が主張する【0021】及び【0022】並びに図7及び図8には、側縁3aと4b、4aと5b、5aと2bが分離不可能であるといった明示的な記載はなく、分離可能であったとしても発明として20 成り立つものである。
さらに、【0021】では、「連結」と表現していた構成について、【0032】では「接合」と表現していることからすると、両者は同義であるといえ、原告の主張を前提とすると、「接合」も分離可能ということになるはずである。そして、【0032】では「4枚の壁面2、3、4、525 の各両側縁2a、2b、3a、3b、4a、4b、5a、5bを相互に折畳み可能に接合する」と記載されているから、側縁2aと3b以外の側縁も分離可能となり、原告の主張と整合しない。
よって、原告の上記主張は理由がない。
8(3) 被告各製品について被告各製品は、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」(すなわち、互いに対応する側縁(以下「対向部」ということがある。)45bと15a、対向部15bと25a、対向部25bと35a及び対向部35bと5 45a)のそれぞれが、他の壁面の側縁と該側縁の延伸方向に沿ってつらなりつづいた状態となっており、「相互に折り畳み可能に順次連続して連結され」ているのだから、前記(1)及び(2)の解釈を前提とすると、構成要件Bを充足しない。
2 争点2−1(乙2文献を主引用例とする新規性又は進歩性欠如)について10 (被告の主張)本件発明は、以下のとおり、乙2文献に記載された発明と同一であるか、同発明に基づき、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条1項3号又は2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法123条1項2号に該当し、特許無効審15 判により無効とされるべきものと認められ、同法104条の3第1項により本件特許権の行使は認められない。
(1) 乙2文献に記載された発明の認定について本件特許の出願日より前である平成16年8月31日に公開された乙2文献には、次の構成を有する発明(以下「乙2発明」という。)が記載され20 ていると認められる(以下、乙2発明の構成を「乙2a」などという。。
)乙2a 角部が湾曲した略矩形状布材の外周縁に弾性に富んだフレームが付設されて1枚の略矩形状壁面が形成され乙2b サイドパネル及びエンドパネルからなる4枚の略矩形状壁面の内、
エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁を除く他の側縁が相25 互に折畳み可能に順次連続して連結されるとともに、
乙2c エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁は、ジッパーや紐等の手段を介して取り付けられることにより、前記4枚のサイドパネル及びエンドパネルでもって筒状周壁部が構成され、
9乙2d 前記手段を介して取り付けられる側縁を有する2枚の略矩形状のサイドパネル及びエンドパネルの内、エンドパネルには開閉自在な扉部が形成され、
乙2e 前記手段を介して取り付けられる側縁を有する2枚の略矩形状のサ5 イドパネル及びエンドパネルにより開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特徴とする乙2f 折畳み式テント(2) 本件発明と乙2発明の対比についてア 構成要件Aについて10 構成要件Aは「角部が湾曲した略矩形状可撓性幕の外周縁に弾性に富んだ無端フレームが付設されて1枚の略矩形状壁面が形成され、」であるのに対し、乙2aは「角部が湾曲した略矩形状布材の外周縁に弾性に富んだフレームが付設されて1枚の略矩形状壁面が形成され」である。そして、
乙2発明のフレームが無端フレームに相当することは、乙2文献の図面等15 から明らかである。
よって、本件発明と乙2発明は、構成要件Aに係る構成を備える点において一致する。
構成要件Bについて構成要件Bは「4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の20 互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能に順次連続して連結されるとともに、」であるのに対し、乙2bは「サイドパネル及びエンドパネルからなる4枚の略矩形状壁面の内、エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能に順次連続して連結されるとともに、」であり、両者は一致する。
25 よって、本件発明と乙2発明は、構成要件Bに係る構成を備える点において一致する。
構成要件Cについて構成要件Cは「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、
10着脱可能な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、」であるのに対し、乙2cは「エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁は、ジッパーや紐等の手段を介して取り付けられることにより、前記4枚のサイドパネル及びエンドパ5 ネルでもって筒状周壁部が構成され、」である。
そして、乙2発明において、エンドパネルとサイドパネルは、短いジッパーや紐により取り付けられるのであるから、構成要件Cの「接合」に相当する。
よって、本件発明と乙2発明は、構成要件Cに係る構成を備える点にお10 いて一致する。
構成要件Dについて構成要件Dは「前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚の略矩形状壁面の内、いずれか一方の略矩形状壁面には開閉自在な扉部が形成され、」であるのに対し、乙2dは「前記手段を介して取り付けられる15 側縁を有する2枚の略矩形状のサイドパネル及びエンドパネルの内、エンドパネルには開閉自在な扉部が形成され、」であり、本件発明と乙2発明は、構成要件Dに係る構成を備える点において一致する。
構成要件Eについて構成要件Eは「前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚の略20 矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特徴とする」であるのに対し、乙2eは「前記手段を介して取り付けられる側縁を有する2枚の略矩形状のサイドパネル及びエンドパネルにより開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特徴とする」であり、本件発明と乙2発明は、
構成要件Eに係る構成を備える点において一致する。
25 カ 構成要件Fについて構成要件Fは「折畳み式テント」であるのに対し、乙2fは「折畳み式テント」であり、本件発明と乙2発明は、構成要件Fに係る構成を備える点において一致する。
11(3) 一致点及び相違点について前記(2)のとおり、本件発明と乙2発明は、本件発明の各構成を備える点において一致する。
原告は、本件発明と乙2発明は、次のア及びイの点で相違すると主張す5 るが、原告の主張は、次のとおり理由がない。
ア 原告は、仮に、構成要件Bの「除く」について前記1(被告の主張)(1)の解釈を前提としたとしても、本件発明は、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」すなわち4か所の側縁のうち3か所が分離不可能に連結し、「相隣る略矩形状壁面の互いに対応する側面」10 すなわち4か所の側縁のうち1か所においてのみ分離可能となっているのに対し、乙2発明の「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」は、4か所の側縁のうち2か所において分離可能となっており、4か所の側縁のうち1か所が分離可能となっているわけではないとの点において相違する(以下、「相違点1」ということがある。)と主張する。
15 しかし、前記1(被告の主張)(2)のとおり、「連続して連結される」という意義が、分離不可能であることを意味するとの解釈をとることは相当ではなく、「他の側縁」が「連続して連結される」とは、「他の側縁」が、
他の壁面の側縁と該側縁の延伸方向に沿ってつらなりつづいた状態であることを意味するにすぎない。
20 そして、乙2発明は、4枚のサイドパネル及びエンドパネルでもって筒状周壁部が構成されており、これらのサイドパネルとエンドパネルの側縁はつらなりつづいた状態となっているのだから、「連続して連結」との構成の点で、本件発明と一致している。
また、乙2文献では、「上記のように完全に着脱可能なエンドパネルに25 加えて、エンドパネルが、底部パネルおよび一方のサイドパネルから着脱可能であり、他方のサイドパネルにヒンジ結合されていることも可能である。」と記載されているように、乙2発明のエンドパネルは、完全に着脱可能である必要はなく、他のサイドパネルから一方の側縁のみを着12脱可能とすることは可能である。
さらに、乙2文献では、「少なくとも1つの着脱式側部パネル」(すなわちエンドパネル)と特定されているため、乙2発明において、2枚あるエンドパネルのうち、いずれかのエンドパネルだけを着脱可能とするこ5 とも可能である。
これらの記載からすると、乙2発明では、2枚のサイドパネルと1枚のエンドパネルを分離不可能に連続して連結する一方で、1枚のエンドパネルについては、一方の側縁はサイドパネルから着脱可能(すなわち接合されている状態)な構成とし、他の側縁についてはサイドパネルにヒ10 ンジ結合(すなわち、分離不可能に連続して連結されている状態)する構成、すなわち「互いに対応する側縁を除く他の側縁」が分離不可能に連結される構成も含まれる。
したがって、構成要件Bの「連続して連結される」という意義について、
いずれの解釈を採用したとしても、乙2発明は「相隣る2枚の略矩形状15 壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」(すなわち、4か所の側縁のうち3か所)が分離不可能に連結している構成を含んでいるから、本件発明と一致している。
イ 原告は、構成要件Eにおける「開閉自在な両壁面開口部」という文言は、壁面の開放部分にフレームやファスナー等が存在しない構成を意味20 しているから、本件発明は、「開閉自在な両壁面開口部」の底面にはフレームやファスナー等が存在しない構成を有しているのに対し、乙2発明は、壁面開口部の底面にファスナー等の取付手段が存在するから、本件発明と乙2発明はこの点において本件発明と相違する(以下、「相違点2」ということがある。)と主張する。
25 しかし、「開閉自在な両壁面開口部」の文言の解釈の点においては、そのような限定は存在しておらず、原告の主張は理由がない。
また、乙2発明のエンドパネルは、底部パネルと紐等により「着脱可能」であれば足り、必ず底部と接続されている必要はない。この点、エンドパ13ネルが底部パネルと接続状態にない場合、側縁に設けられている接合手段を外すことにより、2枚の略矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部として機能することは自明である。
さらに、乙2文献には、「実施例ではジッパーが使用され、エンドパネ5 ルをボトムパネル及びサイドパネルに取り付けるための好ましい手段であるが、単純な紐や布の長さなどの他の取り付け手段を使用してサイドパネルを結び付けてもよいことは明らかである」との記載があり、乙2発明の開放部分にファスナーに代えて紐を用いることも可能である。その場合、
同開放部分にはファスナーもテントのフレームも存在しないことになり、
10 本件発明と乙2発明は、壁面開口部の底面の開放部分にファスナー等の取付手段が存在しない点において一致するから、この点は相違点とならない。
(4) 当業者は相違点に係る本件発明の構成を容易に想到できることについてア 相違点1について(ア) 本件発明において、一つの側縁を分離可能とし、この側縁を使用し15 て開閉自在な壁面開口部を設けることについては一定の技術的意義はあるかもしれないが、他の側縁について分離不可能な構成とすることについては、何ら技術的意義はない。
そして、ある側縁を分離不可能とするか分離可能とするかは設計事項である以上、仮に相違点1があるとしても、乙2発明においてこの点20 を分離不可能とすることは容易想到である。
(イ) また、乙2発明に、平成21年10月27日に公開された米国特許7607446号明細書(以下「乙9文献」という。)に記載の発明(以下「乙9発明」という。)を組み合わせることによって、一つの側縁を分離可能とし、他の側縁を分離不可能とすることは容易である。
25 すなわち、乙9文献には、乙9発明の実施例として、折り畳み可能な構造物の4か所の側縁のうち、2か所が分離している構成の変形例として、3か所が分離不可能に連続して連結される構成が紹介されており、
乙2発明に乙9発明を組み合わせることによって、相違点1に係る本件14発明の構成を得ることができる。
そして、乙9文献には、乙9発明と関連する発明として、乙2発明が挙げられており、また、乙9発明の先行技術について、「最近、折りたたみ可能なオブジェクトが非常に人気があります。そのような折りたた5 み可能な物体の例は…に記載されている、折り畳み可能な構造物の形態である。これらの構造体は、特に、遊戯構造体、シェルター、テント、
および貯蔵構造体として使用することができる。」と記載されていることに照らすと、乙9発明はテントに関連する発明であるといえ、乙2発明と乙9発明は、同じ技術分野に属する発明であるといえる。さらに、
10 乙2発明の課題は「改良された折り畳み可能な構造を提供することを目的とする」ことであるのに対し、乙9発明の課題は「収納や運搬に便利なように小さく折り畳むことができるカバーやシェードを提供する」ことであり、課題も共通している。したがって、当業者であれば、乙2発明に乙9発明を組み合わせる動機付けがあるとも認められる。
15 以上によれば、仮に相違点1が認められるとしても、当業者であれば、
乙2発明に乙9発明を組み合わせ、相違点1に係る本件発明の構成を想到することは容易であるといえる。
イ 相違点2について前記(3)イのとおり、乙2文献には、構成要件Eの構成の開示があるか20 ら、相違点2は存在しない。
ウ 原告の主張に対する反論原告は、本件発明と乙2発明及び本件発明と乙9発明の技術分野の相違等を指摘して、動機付けがないと主張するが、動機付けの有無に際して考慮すべきなのは、主引用例である乙2発明と副引用例である乙9発明25 の技術分野の同一性や課題の共通性であり、原告の主張は考慮すべき対象を誤っているから理由がない。
(5) 小括よって、本件発明の構成は乙2発明の構成と同一であって、本件発明は新15規性を欠いており、仮に相違点が認められるとしても、当業者にとって乙2発明に乙9発明を組み合わせることにより本件発明を発明することは容易であるといえ、本件発明は進歩性を欠いている。
(原告の主張)5 (1) 本件発明と乙2発明の相違点についてア 相違点1本件発明の構成要件Bの、「連続して連結され」るという文言は、分離が不可能に連結している構成を意味しており、分離可能な「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」は、1か所のみであり、分離不可能10 な「他の側縁」は、3か所であることを規定している。すなわち、本件発明に係る折り畳み式テントは、災害時に体育館等の避難所に設置されて利用されることを想定しており、そのような場所では短時間かつ少人数で設置できることが求められるところ、複数の側縁が分離できてしまうと設置するのが難しくなるから、設置の利便性や強度を考慮し、あえて1か所の15 みを分離可能とし、その余を分離不可能としたものである。
これに対し、乙2文献には、様々なサイドパネルを相互交換することを可能にしたり、テントを容易に折り畳めたりすることができるよう、対向する2枚のエンドパネル(第1及び第2のサイドパネル)が2枚とも取り外し可能な構成、又は、2枚とも一端がサイドパネルにヒンジ結合された20 構成が開示されているのみである。
したがって、本件発明は、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」、すなわち、4か所の側縁のうち3か所が分離不可能に連結しているのに対し、乙2発明の「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」は、4か所の側縁のうち2か所以上25 において分離可能となっており、4か所の側縁のうち3か所が分離不可能に連結しているわけではないとの点において、両者は相違する。
イ 相違点2本件明細書の【0022】及び図8の記載を考慮すると、構成要件Eは、
16接合手段を介して接合される側縁(両壁面開口部)に設けられている接合手段を外すことにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向かって開放することができるという構成を示したものであると認定できる。
5 また、本件明細書の【0014】や【0028】には、壁面の開放部分にテントのフレーム等が存在しないために、車椅子等がテント内外に出入する際にフレームやファスナー等の変形・破れ・土砂の付着等を阻止できる旨が記載されており、当該明細書の記載を考慮すると、構成要件Eにおける「開閉自在な両壁面開口部」という文言が壁面の開放部分にフレーム10 やファスナー等が存在しない構成を意味していることは明らかである。
これに対し、乙2発明は、第1及び第2のサイドパネル(着脱式エンドパネル)を分離・開放した後の壁面の開放部分に、ボトムパネルの取付手段(ファスナー等)が存在する構成である。そのため、乙2発明は、車椅子等がテント内外に出入する際に当該取付手段(ファスナー等)を乗り越15 えなければならず、壁面の開放部分が車椅子等の出入を容易にするものとして機能していないことから、壁面の開放部分にフレームやファスナー等が存在しない構成である「開閉自在な両壁面開口部」を備えているとはいえない。
したがって、本件発明は、「開閉自在な両壁面開口部」の底面にはフレ20 ームやファスナー等が存在しない構成を有しているのに対し、乙2発明は、
壁面開口部の底面の開放部分にファスナー等の取付手段が存在するから、
本件発明と乙2発明は、この点において相違する。
(2) 本件発明と乙2発明の技術的思想及び作用効果が異なること本件発明の技術的思想は、筒状に構成された4枚の略矩形状壁面のうちの25 1枚を接合手段の着脱により開閉自在とすることで、テント外周縁のフレームや幕を乗り越えることなくテント内に車椅子等の車両を出入させることができ、車両の出入が容易なうえにフレームの変形や幕の破れが防止できるという点にある。
17これに対し、乙2発明の技術的意義は、互いに対向する位置にある第1及び第2のサイドパネル(着脱式エンドパネル)をボトムパネルとサイドパネルから着脱可能とすることで、様々なサイドパネルを相互交換することを可能にしたり、テントを容易に折り畳めるようにしたりするというものであっ5 て、テント内外へ車椅子等が出入する際の利便性には一切着目していないし、
乙2発明では、テント内外に車椅子等が出入する際に車椅子等がボトムパネルのファスナー等の取付手段を乗り越えるために変形や破れを防止できず、
本件発明が解決しようとする課題を解決することができない。
したがって、本件発明と乙2発明は、技術的思想及び作用効果を異にして10 おり、本件発明の新規性欠如の主引用例とすることは相当ではない。
(3) 特許庁の審査官が乙2文献を引用文献として採用していないこと本件出願の審査段階において通知された拒絶理由通知には、特許庁の審査官が調査・採用した引用文献が掲載されているところ、乙2文献は引用文献として採用されていないのであって、本件出願の担当審査官が、乙2文献の15 存在を認識したうえで、本件出願の拒絶・無効理由を構築する引用例として不適当であると判断したために、あえて引用文献として採用しなかったと考えるのが合理的かつ自然である。
このように、乙2文献を、本件発明の新規性欠如の主引用例とすることは相当ではない。
20 (4) 乙2発明に乙9発明を組み合わせても本件発明の構成とはならないこと乙2発明に乙9発明を組み合わせると、乙2発明の4枚のパネルの各側縁のうちの1か所が分離可能な構成となる。
しかし、乙2発明も、乙9発明も、「構造体を小さく折り畳むことに係る技術」しか着目していないから、どの側縁が分離可能となるかは、構造体を25 小さく折り畳めるかどうかによって決まることとなる。そのため、乙2発明に乙9発明を適用しただけでは、人が出入りする扉部が形成されたパネルが外方に向かって開放できる構成が特定できないから、構成要件Bの構成を備えるに至ったとしても、構成要件D及びEの構成を備えないことになる。
18したがって、乙2発明に乙9発明を組み合わせても本件発明の構成とはならない。
(5) 乙2発明に乙9発明を組み合わせる動機付けがないこと本件発明と乙2発明は、その技術分野が異なっている上、解決しようとす5 る課題も異なっている。
また、本件発明と乙9発明も、その技術分野が異なっている上、作用・機能も異なっている。
したがって、本件発明が解決しようとする課題の解決を目的として、当業者が乙2発明に乙9発明を適用する動機付けはない。
10 (6) 小括以上によれば、本件発明には新規性又は進歩性が欠如しているとの被告の主張に理由はない。
3 争点2−2(補正要件違反)について(被告の主張)15 本件特許の出願当初の請求項1のうち、構成要件Bに対応する記載は、「4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面を除く他の側縁が相互に折畳み可能に順次連続して連結されると共に、 (下線部は変更部)とされていた」ところ、原告は、拒絶理由通知を受け、構成要件Bのとおりに変更する旨補正した。
20 上記補正について、原告は、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する「側縁を除く他の側縁…」という補正事項は、出願当初、「相隣る2枚の略矩形状壁面を除く他の側縁が…」と記載されていて、文理上辻褄が合わなかったので、「の互いに対応する側縁」を補充することで、記載を明瞭化したものであり、」本件明細書の【0022】及び図8の記載に基づくものである旨主張し25 ていた。
しかし、本件明細書の【0022】及び図8には右側縁2aと右壁面3の左壁面3の左側縁3bには、接合・分離が可能な面ファスナーのような接合手段23が設けられていると記載されているにすぎず、「互いに対応する側縁」が19「相互に折り畳み可能に」「順次連続して」 「連結され」ているか否かという、 、
点、特に「相互に折り畳み可能」であるか否かについて何ら記載はない。このため、上記補正は出願当初の特許請求の範囲にない「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁が折り畳み可能に順次連続して連結しない」という新5 たな技術的事項を導入するものであり、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものといえない。
したがって、本件特許には、補正要件違反の無効理由(特許法17条の2第3項123条1項1号)が存在する。
(原告の主張)10 前記1(原告の主張)(1)のとおり、被告の構成要件Bの解釈は誤っており、
構成要件Bに係る補正は、特許請求の範囲、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、補正要件に違反しない。
4 争点2−3(サポート要件違反)について15 (被告の主張)本件発明は、「4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能に順次連続して連結される」と特定されていること及び「除く」という語句の意義からすると、「互いに対応する側縁」は「相互に折畳み可能に順次連続して連結される」構成を含まな20 いと解釈されるべきである。
しかし、本件明細書には、「互いに対応する側縁」が「相互に折畳み可能に順次連続して連結される」構成を含まない旨の記載も示唆もないから、本件特許には、サポート要件違反の無効理由(特許法36条6項1号123条1項4号)が存在し、特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。
25 (原告の主張)構成要件Bは、分離が可能な「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」が分離不可能に連結しているという構成を示していることは明らかであるし、このような構成は、本件明細書の段落【0021】及び20【0022】並びに図7及び図8に記載されているから、本件発明は、本件明細書の「発明の詳細な説明」に記載されたもので、サポート要件に違反しない。
5 争点2−4(実施可能性要件違反)について(被告の主張)5 原告の、前記1(原告の主張)のとおりの本件発明の構成要件の解釈を前提とすると、「連続して連結」(構成要件B)と、「接合」(構成要件C)は、異なる意味を有することになるが、各側縁はどの壁面との関係を考慮するかによって、「対応する側縁」にも「他の側縁」にもなり得るのだから、互いに両立し得ない構成(「連続して連結」と「接合」)を同時に満たす必要があることにな10 る。
したがって、原告の主張を前提とすると、本件特許には、実施可能性要件違反の無効理由(特許法36条4項1号123条1項4号)が存在し、特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。
(原告の主張)15 「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」は、接合手段が設けられた側縁であり(構成要件C)「連続して連結され」ているのは、接合手段が,設けられていない3つの側縁である(構成要件B)ことは特許請求の範囲の記載から明らかである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施を20 することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、被告の主張は理由がない。
6 争点2−5(明確性要件違反)について(被告の主張)前記5(被告の主張)のとおり、原告の解釈を前提とすると、各側縁は、互25 いに両立し得ない構成(「連続して連結」と「接合」)を同時に満たす必要があることになり、当業者は、このような記載を理解することはできない。したがって、原告の主張を前提とすると、本件特許には、明確性要件違反の無効理由(特許法36条6項2号123条1項4号)が存在し、特許無効審判により21無効にされるべきものと認められる。
(原告の主張)前記5(原告の主張)のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は明確であるから、被告の主張は理由がない。
5 7 争点5(原告の損害及び損害額)について(原告の主張)被告は、現在まで少なくとも679張の被告各製品の譲渡等を行っており、
被告が得る被告各製品の1張当たりの利益は、5000円を下らないと考えられるから、被告の得た利益の額は、5000円×679張=339万500010 円となる。
よって、特許法102条2項により、原告には、少なくとも339万5000円の損害が生じているといえる。
また、本件訴訟追行に必要な弁護士費用相当額は上記損害額の10%である33万9500円となる。
15 以上のことから、原告の損害額は373万4500円となる。
(被告の主張)争う。
第4 当裁判所の判断1 本件明細書の記載事項等20 (1) 本件明細書(甲2)には、次のような記載がある(下記記載中に引用する図7及び8については別紙図面目録1を参照)。
ア 【技術分野】【0001】本発明は、災害時やアウトドアに用いられる折畳み式テントであって、
25 4枚の壁面部の左右両側縁がそれぞれ折畳み可能に相互に結合されて4角筒状に形成された周壁部の頂縁に、屋根が結合される折畳み式テントに関するものである。
【背景技術】22【0002】災害時等やアウトドアで夜を過す場合に用いられる特許文献1(判決注:意匠登録第1301096号公報)、特許文献2および特許文献3に示された折畳み式テントがあった。
5 【発明が解決しようとする課題】【0004】前記特許文献1記載の折畳み式テントでは、角部が湾曲した4枚の矩形状の合成樹脂製幕の外周縁挿通部に図示されない鋼製無端ベルトを挿入して4枚の壁面を形成し、4枚の壁面の両側縁を相互に折畳み可能に10 連結することにより、4角筒状周壁部が形成され、該4角筒状周壁部の上縁に合成樹脂製幕の屋根を一体に結合することにより、折畳み式テントが構成されている。
【0005】前記特許文献1記載の折畳み式テントにおいて、前記4角筒状周壁部の15 正面の壁面には、矩形状の開口部が形成され、該矩形状開口部のテント内側にカーテン台座が配設されている。このカーテン台座にカーテンが左右に移動可能に吊下げられているため、強風時、カーテンが捲上げられることで、テント内の状況が外部から容易に視認されて、テント内のプライバシーが確保できない不具合があった。しかも、カーテンが開か20 れた状態を示す斜視図や、カーテンが閉じられた状態を内部から見上げた参考図から明らかなように、カーテン台座は、鋼製パイプを多数組上げて立体的に構成されているので、テントの筒状周壁部と屋根とをコンパクトに折畳んでも、カーテン台座をコンパクトに折畳むことができず、
テントの設置個所の移動を簡単に行うことができない不具合があった。
25 【0006】また、前記特許文献2記載の折畳み式テントでは、正面の壁面にU字の開放端が左右いずれか一方に向いたU字状ファスナー切断縁が形成されて開閉扉部が構成されている。このU字状ファスナー切断縁に設けられ23たファスナーには、1対のスライダーが相互に離隔または接近可能に取付けられている。折畳み式テントの利用者は、この1対のスライダーを相互に離隔させることにより、開閉扉部を開放でき、折畳み式テントへの出入が自由にできるようになっていた。
5 車椅子に搭乗した人が、特許文献2記載の折畳み式テントを利用する場合、開閉扉部が開放された正面の壁面の開口部を通過することとなる。
その際、車椅子のタイヤがU字状ファスナー切断縁上を乗越えるため、
ファスナー切断縁に大きな荷重がかかってファスナー切断縁が変形し、
または、ファスナー切断縁に土砂が付着することがある。その結果、ス10 ライダーが円滑に移動できなくなる不具合が生ずる惧れがあった。また、
車椅子や運搬車等がテントに出入する際に、テントのフレームやフレームに付設された幕を乗越える必要があり、テントへの出入が容易ではなく、フレームの変形や幕の破れという不具合が生ずる惧れがあった。
しかも、正面以外の壁面は密閉されているため、1対のスライダーを相15 互に一体に接近させて開閉扉部を閉じた状態にすると、テント内は略完全に密閉される結果、テント内の換気が行われず、また、テント外部の光がテント内に入射しないため、照明器具でテント内を明るくする必要が生じ、居住性が良くない不具合があった。
【0007】20 さらに、前記特許文献3記載の折畳み式テントでは、4枚の壁面の開口部下縁にファスナー切断縁が形成され、このファスナー切断縁に設けられたスライダーが移動できるようになっているため、前記特許文献2記載の折畳み式テントと同様な不具合があった。
【0008】25 本発明の目的は、車椅子に搭乗した人が、折畳み式テントの開口部に設けられているファスナー切断縁上を通過せずに、折畳み式テント内への出入りが可能である折畳み式テントを提供することにある。
イ 【課題を解決するための手段】24【0009】請求項1に記載の発明は、角部が湾曲した略矩形状可撓性幕の外周縁に弾性に富んだ無端フレームが付設されて1枚の略矩形状壁面が形成され、
4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する5 側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能に順次連続して連結されるとともに、前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、着脱可能な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚の略矩形状壁面の内、いずれか一方の略矩形状壁面には開10 閉自在な扉部が形成され、前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚の略矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特徴とする折畳み式テントである。
ウ 【発明の効果】【0014】15 請求項1記載の発明によれば、該両壁面開口部に設けられている接合手段を外すことにより、該接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向かって開放することができる。この開放部分にはテントのフレームや前記フレームに付設された幕が存在しないため、車椅子や運搬車等がテント内に出入する際に、前記略矩形状壁面の外周縁を構成す20 る前記無端フレームを乗越えることがない結果、前記無端フレームの変形や前記無端フレームに付設された幕の破れを生じない。
エ 【発明を実施するための形態】【0021】筒状周壁部1では、図7に図示されるように、4枚の壁面2、3、4、
25 5の各両側縁2a、2b、3a、3b、4a、4b、5a、5bの内、
側縁3aと4b、4aと5b、5aと2bとを相互に折畳み可能に連結し、側縁2aと3bとを後述する接合手段23で接合することで筒状周壁部1が構成されている。また、4枚の壁面2、3、4、5では、角部25にて湾曲した略矩形状の可撓性幕6の外周縁にベルト挿通部7が形成され、そのベルト挿通部7に、図示されない弾性に富んだ無端フレームに相当する厚さが1〜2mm、幅が5〜10mm 程度の鋼製帯状無端ベルトが挿入されることによって、前記角部が湾曲した壁面2、3、4、5が構5 成されている。しかも、4枚の壁面2、3、4、5の側縁上部には、ループ状係止片37がそれぞれ付設されている。なお、前記可撓性幕6は、
合成樹脂製シートであるが、炭素繊維で補強された合成樹脂製シートや、
防水処理が施された布であってもよい。
【0022】10 また、この筒状周壁部1における正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bには、接合・分離が可能な面ファスナーのような接合手段23が設けられている。図7に図示されるように、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとは前記接合手段23により、一体に接合され、
または分離される。前記分離された接合手段23によって、図8に示さ15 れるように、両壁面開口部24が構成される。この両壁面開口部24に設けられている接合手段23を外すことにより、該接合手段23が設けられているいずれか一方の壁面23を外方に向かって開放することができる。
なお、前記接合手段23は、面ファスナーであるが、線ファスナーや20 接合テープであってもよい。
【0023】壁面2、3、4、5の側縁上下端部は、壁面2、3、4、5の角部が湾曲した形状に形成されているため、壁面2、3、4、5の各隣接する側縁の上下端部に空隙部が存在するが、三角形に近い形状の上閉塞面225 0、下閉塞面19でもってこの上下の空隙部は閉塞されるようになっている。なお、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとの上下端部を塞ぐ二等辺三角形状の分割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、
三角形の頂角を通る中心線を境に2分割される。左右に分割された分割26上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、前記接合手段23と同様な上閉塞面接合手段22、下閉塞面接合手段21によって、接合または分離可能に接合される。
(2) 前記(1)の記載事項によれば、本件明細書には、本件発明に関し、次のよ5 うな開示があることが認められる。
ア 従来の折畳み式テントは、正面の壁面にU字の開放端が左右いずれか一方に向いたU字状ファスナー切断縁が形成されて開閉扉部が構成され、
当該U字状ファスナー切断縁に設けられたファスナーには、一対のスライダーが設けられており、この一対のスライダーを相互に離隔させるこ10 とにより、開閉扉部を開放でき、折畳み式テントへの出入が自由にできるようになっていたが、車椅子に搭乗した人が、開口部を通過する際、
車椅子のタイヤがU字状ファスナー切断縁上を乗越えるため、ファスナー切断縁に大きな荷重がかかってファスナー切断縁が変形し、又は、ファスナー切断縁に土砂が付着することがあり、その結果、スライダーが15 円滑に移動できなくなるおそれがあり、また、車椅子や運搬車等がテントに出入する際に、テントのフレームやフレームに付設された幕を乗越える必要があるため、テントへの出入が容易ではなく、フレームの変形や幕の破れが生ずるおそれがあった(【0006】及び【0007】。
)イ 「本発明」は、前記アの課題を解決するため、車椅子に搭乗した人が、
20 折畳み式テントの開口部に設けられているファスナー切断縁上を通過せずに、折畳み式テント内への出入りが可能である折畳み式テントを提供することを目的とするものであり、「本発明」の折畳み式テントは、角部が湾曲した略矩形状可撓性幕の外周縁に弾性に富んだ無端フレームが付設されて1枚の略矩形状壁面が形成され、4枚の略矩形状壁面の内、相25 隣る2枚の略矩形状壁面を除く他の側縁が相互に折畳み可能に順次連続して連結されると共に、前記相隣る2枚の略矩形状壁面の側縁は、着脱可能な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、前記接合手段を介して接合される側27縁を有する2枚の略矩形状壁面の内、いずれか一方の略矩形状壁面には開閉自在な扉部が形成され、前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚の略矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特徴とする(【0008】及び【0009】。
)5 「本発明」によれば、前記両壁面開口部に設けられている接合手段を外すことにより、該接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向かって開放することができ、この開放部分にはテントのフレームや前記フレームに付設された幕が存在しないため、車椅子や運搬車等がテント内に出入する際に、前記略矩形状壁面の外周縁を構成する前記無端フレーム10 を乗越えることがない結果、前記無端フレームの変形や前記無端フレームに付設された幕の破れを生じないとの効果を奏する(【0014】 。
)2 争点1(構成要件Bの充足性)について(1) 「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く」の意義について15 構成要件Bの「4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能に順次連続して連結されるとともに、」との記載から、本件発明の折り畳み式テントには、「4枚の略矩形状壁面」が設けられていること、その内の「相隣る2枚の略矩形状壁面」において「互いに対応する側縁」が存在すること、この「互いに対応20 する側縁」を「除く」「他の側縁」が存在し、この「他の側縁」が「相互に折り畳み可能に順次連続して連結され」ていることが理解できる。
また、構成要件Cの「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、着脱可能な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、」との記載からは、構成要件B25 の「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「着脱可能な接合手段」を備えていること、この「接合手段を介して接合されることにより」「前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成される」ことが理、
解できる。また、このような解釈は、本件明細書の、「また、この筒状周壁28部1における正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bには、接合・分離が可能な面ファスナーのような接合手段23が設けられている。図7に図示されるように、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとは前記接合手段23により、一体に接合され、または分離される。前記分離された接5 合手段23によって、図8に示されるように、両壁面開口部24が構成される。(」【0022】)との記載及び「筒状周壁部1では、図7に図示されるように、4枚の壁面2、3、4、5の各両側縁2a、2b、3a、3b、4a、
4b、5a、5bの内、側縁3aと4b、4aと5b、5aと2bとを相互に折畳み可能に連結し、側縁2aと3bとを後述する接合手段23で接合す10 ることで筒状周壁部1が構成されている」 【0021】( )との記載とも整合する。
そして、構成要件Bの「除く」の通常の語義は、「加えない。除外する。
別にする。(広辞苑第七版)であると認められる。
」加えて、上記「除く」は、その直前の「他の側縁」に限定を付す趣旨で15 あると理解するのが自然であることを踏まえると、構成要件Bは、「4枚の略矩形状壁面」が有する「側縁」から、「着脱可能な接合手段を介して接合される」ことになる「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」を除外又は別にした「他の側縁」が、「相互に折り畳み可能に順次連続して連結される」ことを規定するものであると解するのが相当である。
20 (2) 被告各製品が構成要件Bを充足するか否かについて前記(1)のとおり、構成要件Bの、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」とは、構成要件Cにおいて規定された、「着脱可能な接合手段を介して接合される」「側縁」であると解するのが相当である。
前提事実(3)イのとおり、被告各製品には、第1板状体10ないし第4板25 状体40の4枚の板状体が形成されているところ、本件において、各板状体が構成要件Bの「略矩形状壁面」に該当する。
また、前提事実(3)イのとおり、被告各製品の第1板状体10と第4板状体40は、その対向部15a及び45bが、着脱可能な接合部60を介して29接合されるから、対向部15a及び45bは、構成要件Bにおいて除外又は別にするとされ、かつ、構成要件Cにおいて「着脱可能な接合手段を介して接合され」ると規定される、「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」に該当する。
5 そうすると、構成要件Bにおいて、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」は、被告製品の第1板状体10と第4板状体40の対向部15a及び45bを除外した他の側縁、すなわち、第1板状体10の左右の側縁を構成する対向部15b、第2板状体20の左右の側縁を構成する対向部25a及び25b、第3板状体30の左右の側縁を構成する10 対向部35a及び35b、第4板状体40の左右の側縁を構成する45aがこれに該当するものと解される。
そして、証拠(甲6、乙1)によれば、これらの側縁は、相互に折り畳み可能に順次連続して連結される構成を有していると認められ、構成要件Bの「他の側縁が相互に折り畳み可能に順次連続して連結される」に該当する。
15 (3) 被告の主張について被告は、「除く」の「別にする」との語義に着目して、「別にする」ものと「別にされない」ものとでは、異なる性質・構成を有していることに照らすと、構成要件Bは、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「相互に折り畳み可能」ではなく、「順次連続して」おらず、「連結され」20 てもいないことを規定するものと解すべきであり、被告各製品は、互いに対応する側縁が相互に折り畳み可能に順次連続して連結されるから、構成要件Bを充足しない旨主張する。
しかし、仮に、「除く」を「別にする」との意味であると解釈したとしても、「別」とは、「@わけること。…A異なること。そのものではないこと」25 (広辞苑第七版)の意味を有するにすぎないから、別にされた「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」とが、一部でも同じ性質・構成を有していてはならないということにはならない。そして、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の構成は、構成要件Cによ30り要件が付加されているのであるから、これにより、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」は、異なる構成を有しているといえる。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
5 (4) 小括以上によれば、被告各製品は本件発明の構成要件Bを充足するものと認められる。
3 争点2−1(乙2文献を主引用例とする新規性又は進歩性欠如)について(1) 乙2文献の記載事項について10 ア 平成16年8月31日に公開された乙2文献(乙2)には、次のような記載がある(下記記載中に引用する図1A及び1Cについては別紙図面目録2を参照)。
(ア) 本発明は、テントやプレイハウスなどの折り畳み可能な玩具構造物に関するものである。(第1欄5〜6行)15 (イ) 本発明は、底部パネルと複数のサイドパネルとを含む、携帯可能で可逆的に折り畳み可能な構造体を提供する。サイドパネルの各々は、各フレームが展開位置と巻き戻し位置との間で折り畳み可能な少なくとも1 つのフレームに取り付けられた布材を含む。少なくとも 2 つのサイドパネルは、ボトムパネルの対向する側面に蝶番で接続されています。少20 なくとも 1 つの着脱可能なサイドパネルが、ボトムパネルにさらに取り付けられ、対向するサイドパネルの間にある位置にある。着脱式サイドパネルとボトムパネルとの間の接続は、ユーザーによって可逆的に着脱可能である。着脱式サイドパネルと対向するサイドパネルの一方との間の接続も、ユーザーのニーズに応じてリバーシブルである。(第1欄325 2〜45行)(ウ) 本発明の明確な利点は、本発明による折り畳み可能な構造体が、サイズ及び形状の点で極めて柔軟であることである。長辺が短辺よりも実質的に長い長方形の構造体は、従来技術で提供されていた正三角形の形31状と同様に、容易に折りたたみ可能な構造体を作ることができる。…(第2欄4〜14行)(エ) 図1A〜図1Eを参照すると、本発明の一実施形態は、長方形状の底部布26によって互いに接続されている 2 つの対向するサイドパネル5 22及び24を含む。…2つのサイドパネル22、24は、長方形状のボトムパネルの対向する辺に縫い合わされている。…ボトムパネルに対する2つのサイドパネルの移動方向は、典型的には、各サイドパネルの底面によって定義される軸を中心に、矢印で示すような方向に回転移動し、以下、ヒンジ接続と称する。…この実施形態では、2つの長いハー10 フジッパー28、30が、ボトムパネル26を挟んでサイドパネル24の両側に、サイドパネル22、24の側面22d、22bにそれぞれ沿ってずっと縫い付けられて、1 つのハーフが設けられている。…(第3欄3〜43行)…エンドパネル32および34は、それぞれハーフジッパー28お15 よび30との相補的なジッピングに適合された他のハーフジッパー32aおよび34aを含む。図1Cに示すように、端部パネル34は、サイドパネル24のフラップ24a及びサイド24bにパネルを取り付けることを可能にするジッパー34aを含む。…ジッパー34aは、最終的に、サイドパネル22の上部の角から延びる延長フラップ22cからジ20 ッパーアップする。サイドパネルが取り付けられると、…長方形状の開放構造が画定される。…(第3欄44〜59行)(オ) 実施例ではジッパーが使用され、エンドパネルをボトムパネル及びサイドパネルに取り付けるための好ましい手段であるが、単純な紐や布の長さなどの他の取付手段を使用してサイドパネルを結び付けてもよい25 ことは明らかである。…(第4欄53行〜第5欄11行)上記のように完全に着脱可能なエンドパネルに加えて、エンドパネルが、底部パネルおよび一方のサイドパネルから着脱可能であり、他方のサイドパネルにヒンジ結合されていることも可能である。この具体的な32実施形態は、都合よくエンドパネルの変更可能性を可能にしないが、各エンドパネルが依然として連結されたサイドパネルと一緒に折り畳むことができるので、サイドパネルが様々な長さおよび形状を取ることを可能にするであろう。これは、短いジッパーに変更し、エンドパネルの一5 辺をサイドパネルの一辺に永久的に縫い付けることによって容易に行うことができる。(第5欄12〜22行)イ 前記アの記載事項によれば、前記第3の2(被告の主張)(1)のとおり、
乙2文献には乙2aないし乙2fの構成を有する乙2発明が記載されていると認められる。
10 乙2b「サイドパネル及びエンドパネルからなる4枚の略矩形状壁面の内、エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能に順次連続して連結されるとともに、」について補足して説明すると、乙2文献には、前記ア(オ)のとおり、「エンドパネルが、底部パネルおよび一方のサイドパネルから着脱可能であり、他方のサイドパネ15 ルにヒンジ結合されていることも可能である」と記載されていることから、
一対のサイドパネルのうち「他方」とされたサイドパネルの両側縁にヒンジ結合が形成され、これらの両側縁がエンドパネルと順次連続して連結されている構成を含むものと理解することができ、また、前記ア(エ)のとおり、「ボトムパネルに対する2つのサイドパネルの移動方向は、典型的に20 は、各サイドパネルの底面によって定義される軸を中心に、矢印で示すような方向に回転移動し、以下、ヒンジ接続と称する。」と記載されていることから、ヒンジ結合は、結合部を軸として回転可能な構成であって、
「他方」とされたサイドパネルの両側縁は、エンドパネルと、相互に折り畳み可能に連結されているものと理解することができる。
25 したがって、乙2発明が乙2bの構成を有すると認めることができる。
ウ 本件発明と乙2発明の対比乙2発明の構成乙2a、乙2c、乙2d及び乙2fが本件発明の構成要件A、C、D及びFの構成にそれぞれ相当することは、当事者間に争い33がない。
以下、争いがある構成について検討する。
(ア) 構成要件Bについてa 前記2(1)で説示したとおり、構成要件Bは、「着脱可能な接合手5 段を介して接合される」ことにより、「前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部」を構成する「側縁」を除外した「他の側縁」が、
「相互に折畳み可能に」「順次連続して」「連結」されることを規定している。
そして、乙2発明においては、エンドパネルとサイドパネルの着脱10 部となる側縁は、ジッパーや紐等の取付手段を介して取り付けられ(乙2c)ていることから、構成要件Bの「他の側縁」に相当する側縁は、上記「エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁」を除外した側縁(乙2c)であるところ、乙2発明においては、この側縁が、相互に折畳み可能に順次連続して連結されている(乙2b)。
15 したがって、乙2発明と本件発明は、構成要件Bの構成の点において一致するものと認められる。
b これに対し、原告は、本件発明の「着脱可能な接合手段を介して接合される」「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が一組のみであるのに対し、乙2発明では、テントを容易に折り畳めたり20 することができるよう、対向する2枚のエンドパネルが2枚とも取外し可能な構成又は2枚とも一端がサイドパネルにヒンジ結合された構成のみが開示されているから、本件発明と乙2発明は、構成要件Bの点で一致しないと主張する。
しかし、本件特許の特許請求の範囲において、「相隣る2枚の略矩25 形状壁面の互いに対応する側縁」の組数を限定する記載はない上、本件明細書において、【0022】及び図8には「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が一組である構成についての記載があるものの、これは一実施例にすぎず、そのような構成に限定する旨の34記載は存在しないから、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、一組に限定されると解釈することはできない。
また、原告は、本件発明に係る折り畳み式テントは、災害時に体育館等の避難所に設置されて利用されることを想定していることなどか5 ら、設置の利便性や強度を考慮し、あえて一組のみを分離可能としたと主張する。
しかし、本件明細書には、原告の主張する課題や作用効果についての記載はない。
以上によれば、原告の主張はいずれも採用することができない。
10 (イ) 構成要件Eについてa 本件発明は、「前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚の略矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特徴とする」との構成(構成要件E)を有しており、乙2発明は、「前記手段を介して取り付けられる側縁を有する2枚の略矩形状のサイド15 パネル及びエンドパネルにより開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特徴とする」との構成(乙2e)を有している。
そして、本件特許の特許請求の範囲の記載において、「接合手段」につき特段の限定は付されていないことから、壁面と壁面を接合する手段であれば足りると解されるところ、前記(1)ア(オ)のとおり、乙220 文献においては、乙2発明の「取付手段」は、ジッパーが好ましい手段であるが、単純な紐や布などの他の取付手段を使用してもよいとされており、それらはいずれも壁面と壁面を接合する手段であるといえる。
したがって、本件発明と乙2発明は、構成要件Eの構成の点で一致25 するものと認められる。
b 原告は、本件明細書の【0014】や【0028】には、壁面の開放部分にテントのフレーム等が存在しないために、車椅子等がテント内外に出入する際にフレームやファスナー等の変形・破れ・土砂の付35着等を阻止できる旨が記載されており、これらの記載に照らすと、構成要件Eの「開閉自在な両壁面開口部」は、壁面の開放部分にフレームやファスナー等が存在しない構成であると解されると主張する。
しかし、本件特許の特許請求の範囲の記載において、4枚の略矩形5 状壁面と床面との間の連結手段の有無を含め、「開閉自在な両壁面開口部」が、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成に限定される旨の記載はない。
また、本件明細書の【0014】は、本件発明の効果に関する記載であり、同【0028】は、本件発明の実施例の効果に関する記載で10 あって、本件発明の両壁面開口部の構成を限定するものとは認められないから、構成要件Eの文言を原告主張のとおり限定解釈する根拠とはならない。
また、仮に、構成要件Eが、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成に限定されるとしても、乙2文献には、ファスナーを紐に15 変更することも可能である旨が記載されているから(前記(1)ア(オ))、
乙2発明は、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成を含むものであるといえる。
よって、原告の主張は理由がない。
c 原告は、本件明細書の【0022】及び図8の記載を考慮すると、
20 構成要件Eは、壁面開口部に設けられている接合手段を外すことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向かって開放することができるという構成を示したものであると主張する。
しかし、本件明細書には、本件発明の実施例について「壁面2、3、
4、5の側縁上下端部は、…三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉25 塞面19でもってこの上下の空隙部は閉塞されるようになっている。
なお、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとの上下端部を塞ぐ二等辺三角形状の分割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、
三角形の頂角を通る中心線を境に2分割される。左右に分割された分36割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、前記接合手段23と同様な上閉塞面接合手段22、下閉塞面接合手段21によって、接合または分離可能に接合される。(」【0023】)との記載があるところ、この記載に照らすと、同実施例は、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の5 左側縁3bに設けられた接合手段に加え、上閉塞面接合手段22、下閉塞面接合手段21を外すことによって初めて、壁面を外方に向かって解放することができる構成を有しているといえる。したがって、上記【0022】及び図8の実施例の記載を根拠として、構成要件Eが、
両壁面開口部について、壁面開口部に設けられている接合手段を外す10 ことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向かって開放することができるという構成を規定していると解釈することはできない。
また、上記【0023】の記載によれば、「壁面2、3、4、5」と、「三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉塞面19」は別部材で15 あることは明らかであるから、構成要件Eが、接合手段について、
「2枚の略矩形状壁面」のみに設けられていることにより、「両壁面開口部」が「開閉自在」となることを規定したと解釈することもできない。
以上によれば、原告の上記主張を採用することはできない。
20 (2) 小括その他、原告が種々主張するところを検討しても、前記(1)の結論を左右するものとはいえず、本件発明は、乙2発明と同一の構成を有しているから、
新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ、原告は被告に対してその権利を行使することができない(特許25 法104条の3第1項123条1項2項、29条1項)。
第5 結論以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
37東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官5國 分 隆 文裁判官10間 明 宏 充裁判官15バ ヒ ス バ ラ ン 薫38(別紙)被告製品目録以下の製品名及び写真で特定される折畳み式テント1 被告製品1製品名 「パーテーション VB−003」2 被告製品2製品名 「ヴィレップス スプリングポップターンテント VB−003」39(別紙)写真目録15 24034415642743(別紙)図面目録1【図7】【図8】44(別紙)図面目録2図1A図1C45
事実及び理由
全容