関連審決 |
異議2021-700625 |
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事件 |
令和
4年
(行ケ)
10115号
特許取消決定取消請求事件
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原告共栄社化学株式会社 同訴訟代理人弁理士 大西浩之 堀内剛 被告特許庁長官 同 指定代理人関根裕 門前浩一 亀ヶ谷明久 井上千弥子 清川恵子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2023/08/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が異議2021-700625号事件について令和4年10月5日にした決定を取り消す。 |
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事案の概要
本件は、特許異議の申立てに対する特許取消決定の取消訴訟である。争点は、訂正の適否である。 1 特許庁における手続の経緯等 原告は、令和元年10月17日、発明の名称を「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤、及びそれを配合した非水系塗料組成物」とする国際特許出願(PCT/JP2019/040973号(特願2020-512751号)。優先権主張・平成30年11月20日(日本国))をし、令和2年12月8日、その設定登録(特許第6806401号。請求項の数は9。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた(甲7。以下、本件特許に係る設定登録時の明細書(甲7)を「本件明細書」という。)。本件特許に係る特許掲載公報は、令和3年1月6日に発行された(甲7)。 令和3年7月5日、本件特許について特許異議の申立てがされ、特許庁は、異議2021-700625号事件として審理した。 原告は、令和4年4月4日、本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1ないし9)及び本件明細書について訂正の請求(以下、この訂正の請求による訂正を「本件訂正」という。)をした(甲14の1)。 特許庁は、令和4年10月5日、本件訂正は認められないとした上、「特許第6806401号の請求項1ないし9に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同月12日、原告に送達された。 原告は、令和4年11月10日、本件決定の取消しを求めて本件訴えを提起した。 2 本件訂正前の特許請求の範囲の記載(甲7) 本件訂正前(設定登録時をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲(請求項1ないし9)の記載は、次のとおりである。 【請求項1】 炭素数2〜8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4〜18の脂肪族モノカルボン酸とが縮合したアミド化合物(A)と、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)とを、含み、増粘性及び/又は液だれ防止性と、揺変性とを付与するためのものであり、 前記アミド化合物(A)と、前記非アミドワックス成分(B)と、前記極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、前記アミド化合物(A)を1〜95質量%、前記非アミドワックス成分(B)を1〜95質量%、及び前記極性官能基を有するポリマー(C)を0.1〜10質量%とすることを特徴とする非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。 【請求項2】 前記非水系塗料が、非アルコール性有機溶剤及びアルコール溶剤から選ばれる少なくとも何れかの溶剤含有又は溶剤不含有であることを特徴とする請求項1に記載の非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。 【請求項3】 前記アミド化合物(A)と前記非アミドワックス成分(B)と前記極性官能基を有するポリマー(C)との混合溶融物からなる粉末を、含んでいることを特徴とする請求項1に記載の非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。 【請求項4】 前記プライマリージアミンが、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、及び/又はキシレンジアミンであることを特徴とする請求項1に記載の非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。 【請求項5】 前記非アミドワックス成分(B)が、軟化点を70℃〜120℃とすることを特徴とする請求項1に記載の非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。 【請求項6】 前記非アミドワックス成分(B)が、酸価を最大でも10とすることを特徴とする請求項1に記載の非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。 【請求項7】 前記アミド化合物(A)と、前記非アミドワックス成分(B)と、前記極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、前記極性官能基を有するポリマー(C)を最大で5.0質量%とすることを特徴とする請求項1に記載の非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。 【請求項8】 炭素数2〜8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4〜18の脂肪族モノカルボン酸とを縮合させたアミド化合物(A)と、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、 ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、前記アミド化合物(A)の1〜95質量%と、前記非アミドワックス成分(B)の1〜95質量%と、前記極性官能基を有するポリマー(C)の0.1〜10質量%とを加熱して融解させ、混合した後、冷却し、その冷却物を微粉砕することにより、非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤を製造する方法。 【請求項9】 請求項1に記載の非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤と、非水系塗料成分とを含み、非アルコール性有機溶剤及びアルコール溶剤から選ばれる少なくとも何れかの溶剤含有又は溶剤不含有としていることを特徴とする非水系塗料組成物。 3 本件訂正の内容(甲14の1) 本件訂正の内容は、次の訂正事項1ないし3のとおりである。なお、本件訂正前の請求項2ないし7及び9は、いずれも本件訂正の対象である本件訂正前の請求項1の記載を引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし7及び9は、一群の請求項であり、また、訂正事項3は、本件訂正前の請求項1ないし9に関係する本件明細書の訂正を求めるものである。したがって、本件訂正は、本件訂正前の全ての請求項(請求項1ないし9)について請求されるものである。 (1) 訂正事項1(本件訂正前の請求項1並びにこれを引用する本件訂正前の請求項2ないし7及び9に係るもの) 本件訂正前の請求項1中の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、 及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」との記載を「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」に訂正し、本件訂正前の請求項1中の「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、 ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)と」との記載を「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし極性官能基を有するポリマー(C)と」に訂正する。 本件訂正前の請求項1を引用する本件訂正前の請求項2ないし7及び9も、同様に訂正する。 (2) 訂正事項2(本件訂正前の請求項8に係るもの) 本件訂正前の請求項8中の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、 及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」との記載を「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」に訂正し、本件訂正前の請求項8中の「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、 ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)と」との記載を「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし極性官能基を有するポリマー(C)と」に訂正する。 (3) 訂正事項3(本件訂正前の請求項1ないし9に係るもの(本件明細書に係るもの)) 本件明細書の段落【0012】中の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」との記載を「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」に訂正し、同段落中の「酸化ポリオレフィン、ポリオール、 ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)と」との記載を「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし極性官能基を有するポリマー(C)と」に訂正し、段落【0020】中の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」との記載を「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」に訂正し、同段落中の「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)と」との記載を「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし極性官能基を有するポリマー(C)と」に訂正し、段落【0051】中の「(混合例U)」との記載を「(混合例U)(参考)」に訂正する。 4 本件決定の理由の要旨 本件決定の理由の要旨は、次のとおりである。 (1) 本件訂正の適否 ア 訂正事項1について(ア) 訂正の目的の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1は、「非アミドワックス成分(B)」について、「重量平均分子量」についての発明特定事項を削除し、「重量平均分子量」について特定されない「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)」とするものを含む。 ここで、「マイクロクリスタリンワックス」及び「水素添加ひまし油」の重量平均分子量がいずれも1000未満であることは、周知であり、かつ、原告も、本件訂正に係る訂正請求書で同旨の主張をしている。また、「ポリオレフィンワックス」において、「軟化点を低くても70℃とする」ものであって「重量平均分子量」が「ポリスチレン換算で1,000〜100,000」を満たすものと満たさないものとが存在することは、周知である(例えば、特開2010-241997号公報の段落【0090】には、「ポリオレフィンワックス」として、「分子量2300、 軟化点123℃であるクラリアントジャパン製リコセンPE42010」が例示され、これは、「ポリスチレン換算で1,000〜100,000」を満たすものであり、特開2014-24901号公報の段落【0114】には、「ポリエチレンワックス」(「ポリオレフィンワックス」に相当する。)として、「分子量500、 軟化点88℃のベーカー・ペトロライト社製ポリワックス500」が例示され、これは、「ポリスチレン換算で1,000〜100,000」を満たさないものである。)。 以上によれば、本件訂正前の「非アミドワックス成分(B)」には、「ポリオレフィンワックス」において、「軟化点を低くても70℃とする」ものであって「重量平均分子量」が「ポリスチレン換算で1,000〜100,000」を満たすもののみが含まれ、重量平均分子量がポリスチレン換算で1000ないし10万ではない「マイクロクリスタリンワックス」及び「水素添加ひまし油」は、含まれないものであった。 これに対し、本件訂正後の「非アミドワックス成分(B)」には、上述の「マイクロクリスタリンワックス」及び「水素添加ひまし油」のような本件訂正前の「非アミドワックス成分(B)」に含まれていなかったもののみが含まれるようになる。 したがって、訂正事項1の「非アミドワックス成分(B)」についての本件訂正は、「非アミドワックス成分(B)」に含まれる物質を変更するものであるから、 特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合しない。 次に、「非アミドワックス成分(B)」について、「重量平均分子量」についての発明特定事項を削除する本件訂正が誤記の訂正を目的とするものであるといえるか検討する。 「誤記」というためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないと解される(知財高裁平成28年(行ケ)第10154号同29年5月30日判決参照)ところ、上述のとおり、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)」という記載からは、これに含まれるものが、「ポリオレフィンワックス」において、「軟化点を低くても70℃とする」ものであって「重量平均分子量」が「ポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」を満たすもののみであることを明確に理解できる。そうすると、この記載(「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」という記載を含む。)には、誤記があるとはいえないから、訂正事項1の「非アミドワックス成分(B)」についての本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであるとはいえない。 また、上記のとおり、訂正事項1の「非アミドワックス成分(B)」についての本件訂正は、特許請求の範囲を変更するものであって、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとはいえないし、同項ただし書3号又は4号に掲げる事項を目的とするものでもない。 よって、更に検討するまでもなく、訂正事項1に係る本件訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合するものではなく、 同法120条の5第2項ただし書各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもないから、訂正事項1に係る本件訂正は認められない。 (イ) 原告の主張について a 原告の主張は、要するに、次の主張を含むものである。 (a) 本件訂正前の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」との記載(以下「本件訂正前の記載」という。)は、「(構成T)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、(構成U)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、(構成V)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とするポリオレフィンワックスと(構成W)から選ばれる非アミドワックス成分(B)と、」と読み替えることができる。 (b) (構成V)の「ポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」は、 誤記ではない(明確である。)。 (c) (構成T)と(構成U)の「ポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」については、マイクロクリスタリンワックスの分子量が1000未満であり、水素添加ひまし油の分子量が1000未満であることから、マイクロクリスタリンワックス及び水素添加ひまし油から選ばれる非アミドワックス成分(B)が「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000」であることはあり得ず、誤記であることは明らかである。 (d) したがって、「(構成T)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、」は、「(構成@)軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、」の誤記であり、「(構成U)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、」は、「(構成A)軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、」の誤記である。 b しかし、甲16の2(中山信弘ほか編「新・注解特許法〔第2版〕【下巻】」(平成29年))、甲16の3(竹田稔ほか著「知的財産権訴訟要論〔特許編〕」(平成29年))及び甲16の4(特許庁審判部編「審判便覧(改訂第19版)」(平成30年))のいずれをみても、本件訂正前の記載を((構成T)ないし(構成W)に)読み替えた上で誤記の訂正を目的とするものであるといえるか否かを判断することができるなどという趣旨のことは記載されていないし、本件訂正前の請求項1の記載そのものは、(構成T)ないし(構成W)のように個別に分けられた記載ではなく、非アミドワックス成分(B)の三つの選択物質「から選ばれるもの」として物質を選んだ上で、その物質で重量平均分子量及び軟化点の特定範囲を満たすもの「とする」とした記載であるから、原告の主張は採用できない。 また、本件訂正前の請求項1の記載を原告の主張のとおりの前記(構成T)ないし(構成W)に読み替えたとしても、(構成W)の「非アミドワックス成分(B)」としてみれば、(構成T)及び(構成U)に該当する成分がなくなっても、(構成V)に該当する成分が存在する以上、読替えの有無によって本件訂正の可否の結論が変わるものではない。 当業者は、マイクロクリスタリンワックス及び水素添加ひまし油の重量平均分子量がいずれも1000未満であることを踏まえると、前記(構成T)及び(構成U)に該当する物質が存在しないことを理解するが、特許請求の範囲の記載は、論理式の集合体といえるようなものであって、条件を絞った(分子量を特定の範囲に限定した)結果、該当する物質が存在しなくなることは、一般に起こり得ることである。 そうすると、(構成T)あるいは(構成U)の記載を個別に解釈すると該当する物質が存在しないとしても、特許請求の範囲の記載を理解するに当たり、そのこと自体に論理的な矛盾や不自然さを感じることはないし、特許請求の範囲が不明確となることもない。 さらに、本件訂正前の請求項1の記載を((構成T)ないし(構成W)に)読み替えることにより、(構成T)及び(構成U)に誤りがあると理解されるとしても、 本件訂正前の請求項1の記載からは、(構成T)及び(構成U)を削除するという訂正、すなわち「(構成V)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とするポリオレフィンワックス(構成W)からなる非アミドワックス成分(B)と、」と訂正する選択肢も存在するから、本件訂正後の「(構成@)軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、」や「(構成A)軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、」という記載が訂正後の正しい記載として直ちに明らかであるとまではいえない。 原告が主張する上記の誤記(「(構成T)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、」は、「(構成@)軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、」の誤記であり、「(構成U)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、」は、「(構成A)軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、」の誤記である。)は、上記したような、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合に該当するようなものとまではいえない。 以上のとおり、原告が主張する読替えに沿って検討したとしても、本件訂正前の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」という記載は、明確に理解できるものであって、上記(ア)で引用したような、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合に該当するような誤記とはいえない。 したがって、原告の主張は採用できない。 (ウ) 審査の経緯について 原告は、本件訂正に係る訂正請求書において、訂正事項1の訂正の目的について、 「請求項1中、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000」であるという構成は、極性官能基を有するポリマー(C)について限定するべきものであったにも関わらず、令和2年10月27日付け手続補正書で補正する際に、誤って、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」のように限定してしまった。」と主張している。 しかしながら、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」という限定は、令和2年10月27日付けの手続補正で加入されたものではなく、同年7月10日付けで出願当初の「非アミドワックス成分(B)」という記載を補正する際に請求項1に加入したものであって、同年10月27日付けの手続補正の際に削除することが可能であったにもかかわらず、削除することなく残したものである。 (エ) よって、訂正事項1に係る本件訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合するものではなく、かつ、同法120条の5第2項ただし書各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもないから、訂正事項1に係る本件訂正は認められない。 イ 訂正事項2及び3について 訂正事項2及び3において、「非アミドワックス成分(B)」についての本件訂正は、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」の文言を削除するものであり、訂正事項1と同様の理由から、訂正事項2及び3に係る本件訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合するものではなく、かつ、同法120条の5第2項ただし書各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもないから、認めることができない。 ウ まとめ 上記ア及びイで述べたように、訂正事項1ないし3に係る本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げるいずれの事項を目的とするものとも認められず、かつ、同条9項において準用する同法126条6項の規定に適合するとは認められない。 したがって、本件訂正後の請求項1ないし9について本件訂正をすることは認められない。 (2) 手続補正の適否 本件特許に係る特許請求の範囲の記載において、「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤」に関する請求項1は、令和2年7月10日付け手続補正書において、「炭素数2〜8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4〜18の脂肪族モノカルボン酸とが縮合したアミド化合物(A)と、非アミドワックス成分(B)と、極性官能基を有するポリマー(C)とを、含み、増粘性及び/又は液だれ防止性と、揺変性とを付与するためのものであることを特徴とする非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。」から「炭素数2〜8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4〜18の脂肪族モノカルボン酸とが縮合したアミド化合物(A)と、重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、極性官能基を有するポリマー(C)とを、含み、増粘性及び/又は液だれ防止性と、揺変性とを付与するためのものであり、 前記アミド化合物(A)と、前記非アミドワックス成分(B)と、前記極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、前記アミド化合物(A)を1〜95質量%、前記非アミドワックス成分(B)を1〜95質量%、及び前記極性官能基を有するポリマー(C)を0.1〜10質量%とすることを特徴とする非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。」(下線部は、補正箇所を表す。以下同じ。)に補正され、さらに、同年10月27日付け手続補正書において、「炭素数2〜8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4〜18の脂肪族モノカルボン酸とが縮合したアミド化合物(A)と、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)とを、含み、増粘性及び/又は液だれ防止性と、揺変性とを付与するためのものであり、前記アミド化合物(A)と、 前記非アミドワックス成分(B)と、前記極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、前記アミド化合物(A)を1〜95質量%、前記非アミドワックス成分(B)を1〜95質量%、及び前記極性官能基を有するポリマー(C)を0.1〜10質量%とすることを特徴とする非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。」と補正されたものである。 また、「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤を製造する方法」に関する請求項9は、令和2年7月10日付け手続補正書において、「炭素数2〜8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4〜18の脂肪族モノカルボン酸とを縮合させたアミド化合物(A)と、非アミドワックス成分(B)と、極性官能基を有するポリマー(C)とを加熱して融解させ、混合した後、冷却し、その冷却物を微粉砕することにより、非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤を製造する方法。」(請求項9)から「炭素数2〜8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4〜18の脂肪族モノカルボン酸とを縮合させたアミド化合物(A)と、重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、前記アミド化合物(A)の1〜95質量%と、前記非アミドワックス成分(B)の1〜95質量%と、前記極性官能基を有するポリマー(C)の0.1〜10質量%とを加熱して融解させ、 混合した後、冷却し、その冷却物を微粉砕することにより、非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤を製造する方法。」(請求項10)に補正され、さらに、同年10月27日付け手続補正書において、「炭素数2〜8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4〜18の脂肪族モノカルボン酸とを縮合させたアミド化合物(A)と、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、 及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、 前記アミド化合物(A)の1〜95質量%と、前記非アミドワックス成分(B)の1〜95質量%と、前記極性官能基を有するポリマー(C)の0.1〜10質量%とを加熱して融解させ、混合した後、冷却し、その冷却物を微粉砕することにより、 非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤を製造する方法。」(請求項8)と補正されたものである。 しかしながら、いずれの請求項においても、「非アミドワックス成分(B)」について、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」とすることについては、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「当初明細書等」という。)には一切記載されていない。また、そのようなことが当初明細書等の記載から当業者にとって明らかであるとは認められない。 そして、「非アミドワックス成分(B)」の重量平均分子量の大きさによって、 「非アミドワックス成分(B)」の粘性等の特性が変化して、「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤」の揺変性に影響を与えることは、当業者にとって明らかである。 そうすると、上記各手続補正書により、「非アミドワックス成分(B)」について、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」と特定する補正は、「非アミドワックス成分(B)」や「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤」について、当初明細書等の記載からは明らかではない特性を新たに導入して限定するものであるといえ、当初明細書等の全ての記載を総合して導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。 したがって、令和2年7月10日付け手続補正書でした補正及び同年10月27日付け手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものということはできない。 以上のことから、請求項1、請求項1を引用する請求項2ないし7及び9並びに請求項8に係る本件特許は、特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。 (3) むすび 請求項1ないし9に係る本件特許は、特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものであるから、同法113条1号に該当し、取り消されるべきものである。 |
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原告主張の決定取消事由(本件訂正の適否についての判断の誤り)
本件決定は、本件訂正の要件についての判断の順序を誤るものであり、違法である。また、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号又は2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条9項において準用する同法126条6項の規定に適合するから、適法なものであるところ、これと異なる本件決定の判断は誤りであり、 違法である。 1 本件訂正の要件についての判断の順序について 特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項(以下、単に「特許法126条6項」などということがある。)は、「第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない。」と規定しているのであるから、同条6項にいう「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない」との要件に係る判断は、 同項にいう「第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正」が適法であること(訂正が同条1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであること)を前提とするものである。 また、特許法120条の5第2項本文に基づく訂正の適否の判断に当たり、当該訂正が同法126条6項に定める要件を満たすか否かについての判断を先に行った結果、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと判断したにもかかわらず、その後に、当該訂正が同法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものではないとの判断をする場合には、当該訂正は、 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであることにもなり得、そのような判断をする場合、これと異なる上記判断が覆ることになるし、他方で、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであると判断したにもかかわらず、その後に、当該訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるとの判断をする場合には、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことにもなり得、そのような判断をする場合、やはり、これと異なる上記判断が覆ることになるから、同項本文に基づく訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるか否かについての判断に先立ち、当該訂正が同法126条6項に定める要件を満たすか否かについての判断をするのは相当でない。 そうすると、特許法120条の5第2項本文に基づく訂正の適否について判断するに当たっては、当該訂正が同法126条6項に定める要件を満たすか否かについての判断に先立ち、当該訂正が同法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるか否かについて判断しなければならないと解するのが相当である(甲16の4、甲20(特許庁編「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕」(令和2年))及び甲21(吉藤幸朔著、熊谷健一補訂「特許法概説〔第13版〕」(平成10年))参照)。 しかしながら、本件決定は、まず、本件訂正が特許法126条6項に定める要件を満たしていないと判断し、その後、本件訂正が同法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものではないと判断したものであるから、違法である。 2 本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分の目的について(1) 本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分の内容 ア 本件訂正が訂正の対象とする訂正前の非アミドワックス成分(B)に係る構成 (ア) 本件訂正が訂正の対象とする訂正前の非アミドワックス成分(B)に係る構成(以下「本件訂正前の構成」という。)は、「マイクロクリスタリンワックス、 水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」であるところ、本件訂正前の構成のうちの「から選ばれるもので」との部分、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」との部分及び「軟化点を低くても70℃とする」との部分の文理に照らすと、本件訂正前の構成のうちの「非アミドワックス成分(B)」については、これを「「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」であり、かつ、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000」とし、かつ、「軟化点を低くても70℃とする」との三つの並列的な条件を充足するもの」であると解すべきである(なお、上記の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれる」は、択一的な記載である。)。 この点に関し、本件決定は、本件訂正前の構成にいう「非アミドワックス成分(B)」につき、これを「「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、 及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」のうち、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000」とし、かつ、「軟化点を低くても70℃とする」との条件を充足するもの」であると解しているが、本件訂正前の構成に係る上記各部分の文理に照らすと、本件訂正前の構成をそのように解するのは失当である。 (イ) 上記(ア)によると、本件訂正前の構成は、次のように読み替えることができる。 (構成T’)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスである非アミドワックス成分と、 (構成U’)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油である非アミドワックス成分と、 (構成V’)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とするポリオレフィンワックスである非アミドワックス成分と、 (構成W’)から選ばれる非アミドワックス成分(B)と、 イ 本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分は、構成T’ないしW’を次のとおり読替えが可能な技術的内容に訂正するものである。 (構成@’)軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスである非アミドワックス成分と、 (構成A’)軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油である非アミドワックス成分と、 (構成C’)から選ばれる非アミドワックス成分(B)と、 (2) 本件訂正のうち構成V’に係る部分の目的 本件訂正前の構成(択一的な構成)からポリオレフィンワックスに係る部分を削除し、構成V’が含まれないようにすること(構成V’を削除すること)は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。 (3) 本件訂正のうち構成T’及びU’に係る部分の目的 ア 特許法120条の5第2項ただし書2号にいう「誤記」というためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかで、当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならない(前掲知財高裁平成29年5月30日判決)。 イ これを本件についてみるに、本件訂正のうち構成T’及びU’に係る部分は、 構成V’を削除するとの本件訂正(前記(2))をした結果、残った構成T’及びU’がそれぞれ構成@’及びA’となるように訂正するものである。 ウ ここで、マイクロクリスタリンワックス及び水素添加ひまし油(以下「マイクロクリスタリンワックス等」ということがある。)の分子量は、いずれも1000未満であるから(甲10の5及び甲14の5(化学大辞典編集委員会編「化学大辞典7縮刷版」(昭和39年))。また、本件決定が認定したとおり、マイクロクリスタリンワックス等の分子量がいずれも1000未満であることは、周知の技術的事項である。)、マイクロクリスタリンワックス等の重量平均分子量がポリスチレン換算で1000ないし10万であるということはあり得ない(なお、重量平均分子量は、高分子物質の平均分子量を表現する方法であり(甲23(化学大辞典編集委員会編「化学大辞典4縮刷版」(昭和38年)))、ポリスチレン換算の重量平均分子量も、高分子物質について測定されるものであり(甲25(佐藤涼著「高分子のキャラクタリゼーション」(化学と教育69巻6号252〜257頁(令和3年))))、高分子物質には、分子量が1万から数百万程度のものが多いとされているのであるから(甲24(久保亮五ほか編「岩波理化学辞典第4版」(昭和62年)))、本件訂正前の構成のうち重量平均分子量に係る部分は、高分子物質に係るものであるところ、マイクロクリスタリンワックス等は、明らかに高分子物質でない。)。また、本件明細書(段落【0031】、【0050】、【0052】等)にも、マイクロクリスタリンワックス等について、これらの重量平均分子量がポリスチレン換算で1000ないし10万であるなどの記載はない。さらに、マイクロクリスタリンワックス等は、その分子量が辞書(甲10の5及び甲14の5、 甲26(塩川二朗監修「MARUZENカーク・オスマー化学大辞典」(昭和63年))等に記載されているものであって、カタログ等に分子量の記載がなくても、 購入や同定をすることができるものであるから(甲27(日本精 株式会社のホームページ(令和5年印刷))、甲28(藤倉応用化工株式会社のホームページ(令和5年印刷))、甲29(化学大辞典編集委員会編「化学大辞典3縮刷版」(昭和38年))、甲30(小倉合成工業株式会社のホームページ(令和5年印刷))、 甲31(山桂産業株式会社のホームページ(令和5年印刷)))、誤った分子量が記載されたマイクロクリスタリンワックス等であっても、これは、正しい分子量のマイクロクリスタリンワックス等を指すと善解できるものであり、本件訂正後の「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」との記載(本件訂正前の記載から構成V’の記載並びに構成T’及びU’のうちの「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」との記載(以下「本件記載」という。)を削除したもの。以下「本件訂正後の記載」という。)が正しいことは、 当業者にとって自明のことである。したがって、当業者にとって、マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載が誤記であることは明らかである。 また、マイクロクリスタリンワックス等は、分子量が特定された物質であるから(甲10の5及び甲14の5)、誤記(本件記載)を削除した後のマイクロクリスタリンワックス等は、正規の意味のマイクロクリスタリンワックス等を表示するものであると客観的に認められる。したがって、辞書等の記載を見た当業者であれば、 本件記載が誤記であることに気付き、これを本件訂正後の記載の趣旨(本件記載がないもの)に理解するのが当然であるといえる。 そうすると、構成T’及びU’がそれぞれ構成@’及びA’となるように訂正すること(本件記載を削除すること)は、特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記…の訂正」に該当する。なお、本件記載は、原告の過誤(表示上の錯誤)により追加されたもの(令和2年7月10日付け手続補正(甲3の3a))であるから、この点でも、本件記載を削除する本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものである。 エ 本件決定について (ア) 本件決定は、本件訂正前の構成に含まれるものが「ポリオレフィンワックス」において「軟化点を低くても70℃とする」ものであって「重量平均分子量」が「ポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」を満たすもののみであることは明確に理解できることであるから、本件訂正前の記載に誤記があるとはいえないと判断する。しかしながら、本件訂正により本件訂正前の構成のうちポリオレフィンワックスに係る部分(構成V’)は削除されたのであるから、ポリオレフィンワックスについて「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする」ものが存在するとしても、そのことは、 マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載が誤記でないことの根拠となるものではない(構成V’に該当する物質が存在することは、構成T’及びU’に係る記載に誤記が存在することと無関係である。)。また、本件決定は、本件訂正前の構成のうちポリオレフィンワックスに係る部分(構成V’)が明確であることをもって、マイクロクリスタリンワックス等に係る部分(構成T’及びU’)も明確であるとすり替えるものであるから、失当である。(判決注:なお、本件決定は、前記第2の4(1)ア(イ)の構成TないしWについて判断を示すものであるが、構成TないしWと構成T’ないしW’とは、それぞれその技術的内容を実質的に異にするものではないから、以下、本件決定が言及する構成TないしWについては、便宜上、 それぞれ構成T’ないしW’と読み替えることとする。) (イ) 本件決定は、構成T’及びU’の記載を個別に解釈すると該当する物質が存在しなくなるとしても、そのこと自体に論理的な矛盾や不自然さを感じることはないと判断したが、当業者は、本件記載が誤記であること及び誤記のない正しい物質(マイクロクリスタリンワックス等)を認識することができるのであるし、本件訂正前の構成は、この世に存在しないものをあえて含むものであるから、当業者は、 構成T’又はU’に該当する物質が存在しないことに論理的な矛盾や不自然さを必ず感じるといえる。 (ウ) 本件決定は、構成T’及びU’の記載に誤りがあるとしても、構成V’ではなく構成T’及び構成U’を削除するという選択肢も存在するのであるから、構成V’並びに構成T’及びU’に係る本件記載を削除した後の記載が訂正後の正しい記載であることが直ちに明らかであるとはいえないと判断したが、構成T’ないしV’が択一的な関係に立つものであること及びマイクロクリスタリンワックス等の分子量がいずれも1000未満であるとの技術常識に照らすと、構成T’及びU’に係る本件記載が誤りであり、これを削除する訂正をする必要があることは、 当業者にとって直ちに明らかなことである(上記の選択肢が存在することは、構成T’及びU’に係る本件記載が誤記であることと無関係である。)。なお、本件決定の上記判断は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)につき、これを「「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」のうち、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000」とし、かつ、「軟化点を低くても70℃とする」との条件を充足するもの」であると解するものであるが、前記(1)ア(ア)のとおり、そのような解釈は誤りである。 オ 被告の主張について (ア) 被告は、本件訂正前の構成は構成T’に該当する物質、構成U’に該当する物質及び構成V’に該当する物質のいずれもが必ず存在することを規定するものではないと主張する。しかしながら、特許法36条5項前段によると、特許請求の範囲には、発明特定事項の全てが記載されているのであるから、被告の上記主張は、 同項前段に定める特許請求の範囲の記載要件に反するものである。 (イ) 被告は、マイクロクリスタリンワックス等の重量平均分子量がポリスチレン換算でいずれも1000ないし10万の範囲に収まるものでないのであれば、当業者は非アミドワックス成分(B)の定義を満たすマイクロクリスタリンワックス等は存在せず、マイクロクリスタリンワックス等は非アミドワックス成分(B)に含まれないと理解すると主張するが、前記ウにおいて主張したところに照らすと、 当業者において、特許請求の範囲に明示されており、非アミドワックス成分(B)の構成成分として必須の事項であるマイクロクリスタリンワックス等が含まれないと理解するはずがない。 (ウ) 被告は、マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載は本件明細書の記載と整合するものであり、誤りであることが明らかであるということはできないと主張するが、訂正前の記載が誤記であるか否かは、特許請求の範囲の記載と明細書の記載とが整合しているか否かにより判断されるものではないし(前掲知財高裁平成29年5月30日判決参照)、前記ウのとおり、本件明細書には、マイクロクリスタリンワックス等について、これらの重量平均分子量がポリスチレン換算で1000ないし10万であるなどの記載はないから、本件明細書の記載は、むしろ、 マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載が誤記であることと整合するものである。 (エ) 被告は、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする」ポリオレフィンワックスが存在することは本件明細書の実施例によりサポートされていると主張する。確かに、上記のようなポリオレフィンワックスが存在することは、本件明細書の実施例によりサポートされたものであるが、他方で、前記ウのとおり、本件明細書には、マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載が誤記であることと整合する記載もみられるのであるから、上記のようなポリオレフィンワックスが存在し、ひいては、本件訂正前の記載のうちポリオレフィンワックスに係る部分だけが正しいと殊更主張するのは、 公平性を欠くものである。 (オ) 被告は、仮に、当業者において、マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載に疑念を抱いたとしても、本件訂正前の記載に接した当業者であれば当然に本件訂正後の記載(ポリオレフィンワックスに係る記載及びマイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載を削除したもの)が正しいと理解するということはできないと主張するが、前記ウにおいて主張したところに照らすと、当業者は、本件記載に疑念を抱いたのであれば、本件訂正後の記載(マイクロクリスタリンワックス等に係る誤った重量平均分子量の記載(本件記載)を削除したもの)が正しいと理解するのが自然である。 (カ) 被告は、当業者は「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、 及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」としてポリオレフィンワックスが選択されることにより、非アミドワックス成分(B)の定義について矛盾なく理解できるのであるから、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」はポリオレフィンワックスであり、マイクロクリスタリンワックス等が含まれていることの方が誤りであると理解する可能性もあると主張する。 しかしながら、被告の上記主張は、本件訂正前の記載について、当業者において矛盾なく理解できるとする一方で、誤りであると理解する可能性もあるとしており、 相互に矛盾している。また、当業者において「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」はポリオレフィンワックスであり、マイクロクリスタリンワックス等が含まれていることの方が誤りであると理解する可能性があるとの被告の上記主張は、本件決定において触れられていない理由に係るものであり、当該主張を本件訴訟において提出することは、 いわゆる理由の後出しに該当し、適切でない。さらに、マイクロクリスタリンワックス等は、本件訂正前の構成に明示されているところ、誤記であると解されるのは、 マイクロクリスタリンワックス等の重量平均分子量であって、マイクロクリスタリンワックス等自体の存否ではない。 (4) 小括 以上のとおり、本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分は、特許法120条の5第2項ただし書1号又は2号に掲げる事項を目的とするものであるから、これと異なる本件決定の判断は誤りである。 3 本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことについて 前記2(2)のとおり、本件訂正のうち構成V’に係る部分(構成V’を削除する訂正)は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、 又は変更するものではない。 また、前記2(3)のとおり、本件訂正のうち構成T’及びU’に係る部分(本件記載を削除する訂正)は、択一的なものである構成T’及びU’の記載を正しい記載に訂正しただけのものであって、物質自体(マイクロクリスタリンワックス等)の技術的範囲を変更するものではないし、マイクロクリスタリンワックス等は、分子量が一義的に定まる物質であるから、本件記載を削除する本件訂正をしても、マイクロクリスタリンワックス等に係る技術的範囲を実質上拡張し、又は変更するものではなく、第三者に対して不測の不利益を被らせることはない(なお、前記2(3)ウのとおり、本件記載は、令和2年7月10日付け手続補正により追加されたものであるところ、本件記載に係る誤記の内容は、特許庁審査官ですら見逃した軽微なものである。)。したがって、本件訂正のうち構成T’及びU’に係る部分も、 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 本件訂正のうち構成T’及びU’に係る部分が実質上特許請求の範囲を拡張し、 又は変更するものであるとする本件決定は、構成V’について単に「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」との記載のみを削除すること(これは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することになるものである。)と構成T’及びU’について本件記載を削除すること(そのような削除により、マイクロクリスタリンワックス等自体に変更が生じるものではない。)を同一視するものであって、誤りである。 以上のとおり、本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、これと異なる本件決定の判断は誤りである。 |
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被告の主張
本件決定がした本件訂正の要件についての判断の順序に誤りはないし、また、当該判断の順序に係る原告の主張は、本件決定の結論に影響を及ぼさないものである。 さらに、本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分は、特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものではなく、 同法126条6項の規定に適合するものでもないから、本件訂正は不適法なものであり、これと同旨の本件決定の判断に誤りはない。 1 本件訂正の要件についての判断の順序について (1) 特許異議の申立てに関して訂正が認められるためには、特許法120条の5第2項ただし書が定める要件及び同法126条6項が定める要件のいずれをも満たす必要があるが、両者は、訂正の適法性に係る別個の要件であり、並列的な関係に立つものであるから、前者の要件につき先に判断しなければならないとはいえない(いずれかの要件につき先に判断しなければならないという法令の定めも存在しない。)。 この点に関し、原告は、特許法126条6項に「第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は」との文言があることを根拠に、同条6項にいう「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない」との要件に係る判断は同条1項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正が適法であること(訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであること)を前提とするものであると主張するが、同条6項には、原告が主張するような前提についての定めはなく、 原告が主張する判断順序に係る定めもないから、原告の上記主張は、特許法の規定に基づかない独自の見解であり、理由がない。 (2) なお、仮に、原告が主張するような順序で本件訂正の適否について判断したとしても、後記2のとおり、本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分は、誤記の訂正を目的とするものではないから、本件訂正が不適法であるとの本件決定の結論に影響を及ぼすものではない。 また、本件決定は、本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分の目的の適否及び同部分が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて、別個独立の判断をしたものであり、両者に係る判断の内容を変更せずに判断の順序だけを入れ替えることも可能であるから、両者に係る判断の順序を入れ替えても、本件決定の結論に影響を及ぼすものではない。 2 本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分の目的について (1) 特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記…の訂正」とは、 本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載等から明らかな内容の字句又は語句に正すことをいい、「誤記」といえるためには、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められることを要する(甲16の4)。 (2) マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載が誤りであることが明らかでないことについて ア 本件訂正前の構成は、非アミドワックス成分(B)について、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」であること、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000」とするものであること及び「軟化点を低くても70℃」とするものであることとしているが、いずれの定義もそれ自体極めて明確であり、これらが誤りであることが明らかであるということはできない。 この点に関し、原告は、マイクロクリスタリンワックス等の分子量がいずれも1000未満であることを根拠に、マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載は誤りであると主張するが、マイクロクリスタリンワックス等の重量平均分子量がポリスチレン換算でいずれも1000ないし10万の範囲に収まるものでないのであれば、当業者は、上記の定義を満たすマイクロクリスタリンワックス等は存在せず、マイクロクリスタリンワックス等は、本件訂正前の記載における非アミドワックス成分(B)に含まれないと理解するのであって、マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載が明らかに誤りであると認識するものではない(当業者は、 「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」としてポリオレフィンワックスが選ばれると認識するにすぎない。なお、本件明細書(段落【0051】)には、非アミドワックス成分(B)の実施例として、酸価が0、融点が120℃であるポリエチレンワックス(製品名:ハイワックス100P)が記載されているところ、乙2(特開2009-46545号公報)の段落【0054】によると、ハイワックス100Pの重量平均分子量は、1131であるから、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする」ポリオレフィンワックスが存在することは、本件明細書の実施例によりサポートされたものである。)。 イ 本件明細書には、特定のアミド化合物(A)、アミド成分以外のワックス成分(B)及び極性官能基を有するポリマー(C)の混合物を用いて作製した粉末状揺変性付与剤により、本件訂正前の請求項1ないし9に係る発明が解決しようとする課題が解決できることが記載され、また、上記ワックス成分(B)が「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)」であることが明確に記載されているのであるから、マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載は、 本件明細書の記載と整合するものであり、この点でも、誤りであることが明らかであるということはできない。 (3) マイクロクリスタリンワックス等に係る本件訂正後の記載(本件記載を削除した後の記載)が正しいことが自明の事項として定まるものではないことについて 仮に、当業者において、マイクロクリスタリンワックス等の重量平均分子量がポリスチレン換算でいずれも1000ないし10万の範囲に収まるものでないことに基づき本件記載に疑念を抱いたとしても、当業者は、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」としてポリオレフィンワックスが選択されることにより、非アミドワックス成分(B)の定義について矛盾なく理解できるのであるから、「マイクロクリスタリンワックス、 水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」はポリオレフィンワックスであり、マイクロクリスタリンワックス等が含まれていることの方が誤りであると理解する可能性もある。そうすると、本件訂正前の記載に接した当業者であれば当然に本件訂正後の記載(ポリオレフィンワックスに係る記載及びマイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載を削除したもの)が正しいと理解するということはできない。したがって、本件訂正後の記載が正しいことが自明の事項として定まるものではない。 (4) 原告の主張について ア 原告は、本件訂正前の構成は構成T’ないしW’に読み替えることができ、 本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分は構成T’ないしW’を構成@’、A’及びC’に訂正するものであると主張する。 しかしながら、原告の上記主張は、構成T’ないしV’に該当する物質がいずれも存在することを前提とした上、構成T’及びU’に係る本件記載が誤記であるとするものであるところ、本件訂正前の構成は、構成T’ないしV’に該当する物質のいずれもが必ず存在すると規定するものではないから(本件訂正前の構成は、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスについて、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする」ものが存在すれば非アミドワックス成分(B)の選択肢の一つとなり、存在しなければ非アミドワックス成分(B)の選択肢から外れるとするものである。)、構成T’ないしV’に該当する物質が全て存在することを前提として、各構成ごとに個別の判断を行うことを可能にする原告の上記主張は、 本件訂正前の記載の文意を正しく解釈するものとはいえず、失当である。 イ 原告は、当業者にとって、マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載が誤記であることは明らかであると主張する。 しかしながら、前記(2)及び(3)において主張したところに加え、本件訂正前の記載にいう非アミドワックス成分(B)に含まれる物質(「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする」ポリオレフィンワックス)と本件訂正後の記載にいう非アミドワックス成分(B)に含まれる物質(「軟化点を低くても70℃」とし、重量平均分子量の特定がないマイクロクリスタリンワックス等)とが異なることも併せ考慮すると、仮に、本件訂正前の記載に触れた当業者において、マイクロクリスタリンワックス等の重量平均分子量がポリスチレン換算で1000未満であることに基づきマイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載に疑念を抱いたとしても、当該当業者は、本件訂正前の記載のうちの「から選ばれる…非アミドワックス成分(B)」との記載により、 非アミドワックス成分(B)としてマイクロクリスタリンワックス等が選ばれないものと理解できるのであるから、当該当業者において、マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載が誤記であると認識することはない。また、非アミドワックス成分(B)に係る本件訂正前の記載が当然に本件訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるということもできない。したがって、マイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載が誤記であるということはできない。 ウ 原告は、本件決定は構成V’について単に「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」との記載のみを削除することと構成T’及びU’について本件記載を削除することを同一視するものであると主張する(前記第3の3参照)。 原告の上記主張は、構成T’ないしV’に係る本件訂正の目的を個別に判断しなければならないとの趣旨であると解されるが、前記アのとおり、原告が主張する構成T’ないしV’は、本件訂正前の構成を正確に読み替えたものでなく、原告の上記主張は、その前提に誤りがある。また、仮に、本件訂正前の構成を原告が主張する構成T’ないしW’のとおりに読み替えたとしても、前記イのとおり、構成T’及びU’に係る本件訂正は、誤記の訂正を目的とするものではないから、構成T’ないしV’に係る本件訂正の目的を個別に判断したとしても、構成T’及びU’に係る本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書に定める要件を満たしておらず、本件訂正が同項ただし書に定める要件を満たしていないとの本件決定の結論に影響を及ぼすものではない。 (5) 小括 以上によると、本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分は、本来その意であることが本件明細書又は本件特許に係る特許請求の範囲の記載等から明らかな内容の字句又は語句に正すものとはいえず、また、本件訂正前の記載が当然に本件訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものでもない。したがって、本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分は、誤記の訂正を目的とするものではない。これと同旨の本件決定の判断に誤りはない。 3 本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであることについて (1) 特許法126条6項に定める要件を満たすか否かについての判断は、訂正の前後の特許請求の範囲の記載を基準としてされるべきであり、特許請求の範囲の「実質上の」拡張又は変更に当たるか否かは、訂正により第三者に対して不測の不利益を与えることになるかどうかという観点から決するのが相当であるところ(知財高裁平成30年(行ケ)第10133号令和元年7月18日判決)、本件訂正前の記載にいう非アミドワックス成分(B)には、マイクロクリスタリンワックス等が含まれなかったのに対し、本件訂正後の記載にいう非アミドワックス成分(B)は、マイクロクリスタリンワックス等を含むものとなったのであるから、本件訂正が本件訂正前の特許請求の範囲の記載を信頼した第三者に対して不測の不利益を与えることは明らかである。したがって、本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであり、これと同旨の本件決定の判断に誤りはない。 (2) 原告は、マイクロクリスタリンワックス等は分子量が一義的に定まる物質であるから、本件記載を削除する本件訂正をしても、第三者に対して不測の不利益を被らせることはないと主張する。 しかしながら、本件訂正前の構成には、非アミドワックス成分(B)について、 マイクロクリスタリンワックス等のみならず、ポリオレフィンワックスも記載され、 これらが「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」とするものであることも明確に記載されているのであるから、前記2(2)アのとおり、本件訂正前の記載に接した当業者は、当該記載における非アミドワックス成分(B)がマイクロクリスタリンワックス等を含まないと理解するところ、本件訂正がされると、本件訂正後の記載における非アミドワックス成分(B)にマイクロクリスタリンワックス等が含まれることになるのであるから、本件訂正が本件訂正前の記載を信頼した第三者に対して不測の不利益を及ぼすことは明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 原告の主張1(本件訂正の要件についての判断の順序)について (1) 特許法120条の5第1項は、特許異議の申立てに対し特許を取り消すべき旨の決定をしようとするときは、審判長は、特許権者及び参加人に対し、特許の取消しの理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し、同条2項本文は、特許権者は、同条1項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができると規定している。また、特許法は、同条2項本文に基づく訂正の要件として、同項ただし書において、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記若しくは誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明又は他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに限ると規定しているほか、同条9項において同条2項の場合に準用する同法126条6項において、「第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない。」と規定している。 (2) 原告は、特許法120条の5第2項本文に基づく訂正の適否を判断するに当たっては、前記(1)の各要件のうち、当該訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるか否かについての判断を先に行い、当該訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものである場合に限り、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについての判断をしなければならないと主張する。しかしながら、同項本文に基づく訂正が前記(1)の各要件を満たすか否かについての判断に関し、特許法その他の法令には、原告の上記主張を根拠付ける明文の規定はないし、原告の上記主張のように解釈できるとする規定もない。また、前記(1)の各要件の内容及び性質をみても、これらの間に論理的な先後関係があるものと解することはできない。そうすると、特許法120条の5第2項本文に基づく訂正の適否を判断するに当たり、前記(1)の各要件のうち、当該訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるか否かについての判断を先に行い、当該訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものである場合に限り、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについての判断をすることが義務付けられていると解することはできない。 (3) この点に関し、原告は、前記(2)の主張の根拠として、特許法126条6項の「第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は」の文言及び同条1項ただし書が同項本文の訂正は特許請求の範囲の減縮、誤記若しくは誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明又は他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに限ると規定していることを挙げる。しかしながら、同条6項の「第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は」の文言は、同条6項に規定する訂正が同条1項に規定する訂正(訂正審判請求に係る訂正)を指すものと特定するために置かれたものにすぎないと解するのが相当であり、当該文言をもって、同条6項に規定する訂正が同条1項ただし書各号に掲げる事項を目的とする訂正のみを指すとまで解するのは困難であるから、原告が挙げる上記の文言等によっても、原告の前記(2)の主張のとおりに解することはできない。 また、原告は、特許法120条の5第2項本文に基づく訂正の適否の判断に当たり、前記(1)の各要件のうち、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについての判断を先に行った結果、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと判断したにもかかわらず、その後に、当該訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものではないとの判断をする場合には、当該訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであることにもなり得、そのような判断をする場合、これと異なる上記判断が覆ることになるし、他方で、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであると判断したにもかかわらず、その後に、当該訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるとの判断をする場合には、当該訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことにもなり得、そのような判断をする場合、やはり、これと異なる上記判断が覆ることになるから、同項本文に基づく訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるか否かについての判断に先立ち、当該訂正が同法126条6項に定める要件を満たすか否かについての判断をするのは相当でないと主張する。しかしながら、原告の上記主張は、同法120条の5第2項本文に基づく訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものでなければ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに当たるということを前提とし、逆に、当該訂正が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであれば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに当たらないということを前提とするものであって、失当である。 (4) 以上のとおりであるから、原告の主張1は理由がない。 2 原告の主張2(本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分の目的)について (1) 本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正が特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものに該当するか否かについて 原告は、本件訂正前の記載から本件記載を削除することは特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものに該当すると主張するので、まず、この点について判断する。 ア 特許法120条の5第2項ただし書2号にいう「誤記」に該当するか否かについての判断基準 特許法120条の5第2項ただし書2号にいう「誤記」に該当するといえるためには、同項本文に基づく訂正の前の記載が誤りで当該訂正の後の記載が正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかで、当業者であれば、そのことに気付いて当該訂正の前の記載を当該訂正の後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないと解するのが相当である。 イ 本件訂正前の記載について(ア) 本件訂正前の記載 前記第2の3のとおり、本件訂正前の記載は、「マイクロクリスタリンワックス、 水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」というものである。 (イ) ポリオレフィンワックスについて ポリオレフィンワックスの中に「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする」との条件を満たすものと満たさないものが存在することが周知の技術的事項であることは、当事者間に争いがない。そうすると、本件訂正前の記載に接した当業者は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)の中に上記の条件を満たすポリオレフィンワックスが含まれるものと理解すると認められる。 (ウ) マイクロクリスタリンワックス等について マイクロクリスタリンワックス等の分子量ないし重量平均分子量(ポリスチレン換算によるもの)がいずれも1000未満であることが周知の技術的事項であることは、当事者間に争いがない。そうすると、当業者は、当該周知の技術的事項に基づき、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」との条件を満たすマイクロクリスタリンワックス等が存在しないものと理解すると認められるから、そのように理解する当業者は、本件訂正前の記載に接したときは、 本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)の中にマイクロクリスタリンワックス等はおよそ含まれないものと理解し得ると認めるのが相当である。 (エ) 本件訂正前の記載が誤りであることが当業者にとって明らかといえるか否かについて 本件訂正前の構成は、非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質について、 「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので」と規定するのであるから、その文言に照らし、当該物質は、 マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であると解される。そして、前記(イ)及び(ウ)のとおり、本件訂正前の記載に接した当業者は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)の中に「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする」との条件を満たすポリオレフィンワックスが含まれ、 他方で、マイクロクリスタリンワックス等はおよそ含まれないものと理解し得るのであるから、そのように理解し得る当業者は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれる物質がマイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの一部のみ(ポリオレフィンワックスのみ)であると理解し得ると認められるところ、当該理解は、本件訂正前の構成についての上記解釈(非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質に係るもの)と整合している。このように、本件訂正前の記載に接した当業者は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれる物質(ポリオレフィンワックス)が現に存在すると理解するとともに、当該物質の種類が本件訂正前の構成中に掲げられた「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックス」の全てではないとしても、そのことは本件訂正前の構成の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので」に係る解釈と整合すると理解するものと認められるから、結局、本件記載を含む本件訂正前の記載については、当該当業者にとって、これが誤りであることが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかであると認めることはできないというべきである。 ウ 本件訂正後の記載について(ア) 本件訂正後の記載 前記第2の3のとおり、本件訂正後の記載は、「マイクロクリスタリンワックス、 及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」というものである。 (イ) 本件訂正による訂正後の記載としての他の選択肢の存在 前記イ(イ)及び(ウ)のとおり、本件訂正前の記載に接した当業者は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)の中に「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とする」との条件を満たすポリオレフィンワックスが含まれるものと理解し、他方で、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」との条件を満たすマイクロクリスタリンワックス等が存在しないものと理解することにより、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)の中にマイクロクリスタリンワックス等がおよそ含まれないものと理解し得るのであるから、仮に、当該当業者において、 本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとしても、当該当業者にとっては、本件訂正前の記載のうちポリオレフィンワックスに係る部分を全部削除した上、マイクロクリスタリンワックス等に係る部分について重量平均分子量に係る条件(本件記載)のみを削除するとの選択肢(本件訂正後の記載を採用するとの選択肢)のみならず、本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持するとの選択肢(本件訂正による訂正後の記載を「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とするポリオレフィンワックスからなる非アミドワックス成分(B)と、」などとする選択肢)も存在し得るものと理解すると認めるのが相当である。 そして、上記のとおり、当該当業者は、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)の中に重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすポリオレフィンワックスは含まれるが、マイクロクリスタリンワックス等はおよそ含まれないものと理解し得るのであるから、当該当業者において、非アミドワックス成分(B)に含まれていた物質を維持し、およそ含まれていなかった物質を除外する趣旨の記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないものと認めるのが相当である。 (ウ) 本件訂正後の記載が正しいことが当業者にとって明らかであるといえるか否かについて 前記(イ)のとおり、本件訂正前の記載に接した当業者は、本件訂正前の記載からマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持する趣旨の記載が正しいとも理解することができるものであって、当該当業者においてこのような記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないのであるから、仮に、当該当業者において、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとしても、本件訂正後の記載については、当該当業者にとって、これが本件訂正による訂正後の記載として正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかであると認めることはできないというべきである。 エ 原告の主張について (ア) 原告は、@本件訂正により構成V’(原告主張に係るもの。以下同じ。また、以下、構成T’、U’及びW’についても同じ。)が削除された結果、残った構成T’及びU’に係る記載には誤記がある、A本件訂正により構成V’が削除されたのであるから、構成V’に該当する物質が存在するとしても、そのことは、構成T’及びU’に係る記載に誤記が存在することと無関係である、B本件決定は、 構成V’が明確であることをもって構成T’及びU’も明確であるとすり替えるものであるとして、構成T’及びU’に係る記載には誤記があると主張する。 確かに、構成T’及びU’をそれぞれ他の各構成と切り離し、これらをそれぞれ独立したものであるとみれば、前記イ(ウ)のとおり、マイクロクリスタリンワックス等の分子量ないし重量平均分子量(ポリスチレン換算によるもの)がいずれも1000未満であることは周知の技術的事項であるから、本件記載を含む構成T’及びU’に係る記載のみに接した当業者は、本件記載が誤りであると理解するものと認められる。しかしながら、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であると解されるのであるから、構成V’に該当する物質(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすポリオレフィンワックス)が存在する以上、本件訂正前の記載の全体をみれば、当業者にとって、これが誤りを含むことが明らかであると認めることはできない。本件訂正前の構成を構成T’ないしW’に分け、これらの各構成に係る記載を一つずつ分析的に検討することを前提とする原告の上記主張は、本件訂正前の構成が非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質について「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので」と規定し、当該物質がマイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの一部であってもよいと解されること(これらの物質の全てについて重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たす必要はないと解されること)を看過するものであるし、また、本件訂正が構成T’ないしV’についての訂正(構成V’の削除並びに構成T’及びU’に係る本件記載の削除)を同時に含むものであるにもかかわらず、本件訂正によって構成V’だけが論理的に先に削除され、その結果、本件訂正前の構成に当初から構成V’が含まれていなかったかのようにみなした上、構成T’及びU’のみをみて、これらに係る記載が誤記を含むか否かについて検討するものであるから、失当であるといわざるを得ない。 この点に関し、原告は、本件訂正前の構成が構成T’に該当する物質、構成U’に該当する物質及び構成V’に該当する物質のいずれもが必ず存在することを規定するものではないと解することは特許法36条5項前段に定める特許請求の範囲の記載要件に反すると主張する。 特許法36条5項前段は、「第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、 各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」と規定するところ、上記のとおり、 本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質がマイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの一部であってもよいと解されることに照らすと、本件訂正前の構成が非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質としてマイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスの三つを挙げているにもかかわらず、本件訂正前の構成にいう重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすマイクロクリスタリンワックス等が存在せず、その結果、本件訂正前の構成が当該条件を満たすポリオレフィンワックスについてのみ規定していることになるとしても、本件訂正前の記載につき、特許出願人(原告)が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを記載していないということはできない。なお、仮に、本件訂正前の記載が同条5項前段に規定する要件を満たしていないものであったとしても、 そのことをもって、本件訂正前の構成につき、これが重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすマイクロクリスタリンワックス、当該条件を満たす水素添加ひまし油並びに当該条件を満たすポリオレフィンワックスの全てが必ず存在すると規定するものではないとの上記解釈を妨げるものではない。 (イ) 原告は、本件訂正前の構成には非アミドワックス成分(B)に含まれる物質としてマイクロクリスタリンワックス等が明示され、また、マイクロクリスタリンワックス等は非アミドワックス成分(B)の構成成分として必須の事項であるから、当業者において非アミドワックス成分(B)にマイクロクリスタリンワックス等が含まれないと理解するはずがないと主張する。 しかしながら、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であると解され、マイクロクリスタリンワックス等が非アミドワックス成分(B)の必須の構成成分であるということはできないから、本件訂正前の構成において、マイクロクリスタリンワックス等が非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質として明示されているとしても、そのことをもって、本件訂正前の記載に接した当業者において、非アミドワックス成分(B)の中にマイクロクリスタリンワックス等がおよそ含まれないものと理解し得るとの前記認定を左右するものではない。 (ウ) 原告は、当業者は本件記載が誤記であること及びマイクロクリスタリンワックス等につき誤記のない正しい物質(重量平均分子量による特定のないマイクロクリスタリンワックス等)を認識することができ、また、本件訂正前の構成はこの世に存在しないものをあえて含むものであるから、当業者は構成T’及びU’に該当する物質が存在しないとなると、そのことに論理的な矛盾や不自然さを必ず感じると主張する。 確かに、前記(ア)のとおり、構成T’及びU’をそれぞれ他の各構成と切り離し、 これらをそれぞれ独立したものであるとみれば、本件記載を含む構成T’及びU’に係る記載のみに接した当業者は、本件記載に誤りがあると理解することになるし、 また、前記イ(ウ)のとおりの周知の技術的事項に照らすと、重量平均分子量に係る特定がないマイクロクリスタリンワックス等が正しい記載であると理解し得るものである(もっとも、当該当業者において、分子量ないし重量平均分子量(ポリスチレン換算によるもの)につき、これを「1,000未満とする」などと特定されたマイクロクリスタリンワックス等が正しい記載であると理解する可能性もある。)。 しかしながら、構成T’及びU’に係る記載を一つずつ分析的に検討することを前提とする原告の主張が失当であることは、前記(ア)のとおりであるから、本件記載を含む構成T’及びU’に係る記載のみに接した当業者において、本件記載が誤りであると理解するとしても、そのことをもって、本件訂正前の記載に接した当業者において、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するものと認めることはできない。 また、仮に、当該当業者において、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとしても、前記ウ(イ)のとおり、当該当業者は、当該誤りを訂正する正しい記載として、 本件訂正後の記載を採用するとの選択肢のみならず、本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持するとの選択肢も存在し得るものと理解し、当該当業者において後者の選択肢に係る記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないのであるから、当該当業者において、ポリオレフィンワックスに係る記載及びマイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載を削除した記載(本件訂正後の記載)のみが正しいものと理解すると認めることはできない。さらに、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワックス、 水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であると解されるのであるから、本件訂正前の構成が非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質として重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすマイクロクリスタリンワックス等(原告が主張する「この世に存在しないもの」)を挙げているとしても、 そのことは、上記解釈に反するものではない。以上のとおりであるから、構成T’及びU’に該当する物質が存在しないことについて、当業者が必ず論理的な矛盾や不自然さを感じるとの原告の上記主張を採用することはできない。 (エ) 原告は、マイクロクリスタリンワックス等は分子量が特定された物質であり、誤記(本件記載)を削除した後のマイクロクリスタリンワックス等は正規の意味のマイクロクリスタリンワックス等を表示するものであると客観的に認められるから、当業者(特に本件記載は誤りではないかとの疑念を抱いた当業者)において、 本件記載を含む本件訂正前の記載を本件訂正後の記載の趣旨(本件記載がないもの)に理解するのは当然であると主張する。 しかしながら、仮に、本件訂正前の記載に接した当業者において、本件記載は誤りではないかとの疑念を抱いたとしても、前記イ(エ)のとおり、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質は、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの一部であってもよいと解され、また、前記イ(イ)のとおり、当該当業者において、非アミドワックス成分(B)の中に重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすポリオレフィンワックスが含まれるものと理解する以上、本件訂正前の記載の全体をみれば、当該当業者において、本件訂正前の記載が誤りを含むものと理解すると認めることはできないから、当該当業者が本件記載は誤りではないかとの疑念を抱いたことをもって、 当該当業者が本件訂正前の記載の全体についても、これが誤りを含むのではないかとの疑念を抱いたと認めることはできない。さらに、仮に、当該当業者において、 本件訂正前の記載が誤りを含むのではないかとの疑念を抱いたとしても、前記ウ(イ)のとおり、当該当業者は、当該誤りを訂正する正しい記載として、本件訂正後の記載を採用するとの選択肢のみならず、本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持するとの選択肢も存在し得るものと理解し、当該当業者において後者の選択肢に係る記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないのであるから、当該当業者において、ポリオレフィンワックスに係る記載及びマイクロクリスタリンワックス等に係る本件記載を削除した記載(本件訂正後の記載)のみが正しいものと理解すると認めることはできない。以上のとおりであるから、原告の上記主張を採用することはできない。 この点に関し、原告は、構成T’ないしV’が択一的な関係に立つものであること及びマイクロクリスタリンワックス等の分子量がいずれも1000未満であるとの技術常識が存在することに照らすと、本件記載を削除するとの訂正をする必要があることは当業者にとって直ちに明らかであり、また、構成V’ではなく構成T’及びU’を削除するとの選択肢が存在することは構成T’及びU’に係る本件記載が誤りであることと無関係であるから、本件訂正後の記載が訂正後の正しい記載であることは直ちに明らかであると主張する。 しかしながら、構成T’ないしV’が択一的な関係に立つとの原告の主張(これは、本件訂正前の構成にいう非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質はマイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油及びポリオレフィンワックスのうちの全部又は一部であるとの前記イ(エ)の解釈を否定するものでないと解される。)及び原告が指摘する技術常識を考慮しても、前記ウ(イ)のとおりの認定(本件訂正前の記載に接した当業者において、本件訂正後の記載を採用するとの選択肢のみならず、これと異なる選択肢(マイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持するとの選択肢)も存在し得るものと理解し、当該当業者において後者の選択肢に係る記載が正しいと理解する蓋然性は、決して小さくないとの認定)を左右するものではない。そして、当該当業者において、本件訂正後の記載を採用するとの選択肢と異なる選択肢が存在し得るものと理解する蓋然性が小さくないのであれば、本件訂正後の記載については、当業者にとって、これが本件訂正による訂正後の記載として正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかであるということはできない。 また、原告は、本件訂正前の記載に接した当業者において、本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除した上、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持するとの選択肢が存在するものと理解し得るとの被告の主張は本件決定において触れられていない理由に係るものであり、当該主張を本件訴訟において提出することは適切でないと主張する。 しかしながら、前記第2の4(1)ア(イ)bのとおり、本件決定は、本件訂正前の記載から、構成T’及びU’を削除するとの訂正(本件訂正の後の記載を「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし軟化点を低くても70℃とするポリオレフィンワックスからなる非アミドワックス成分(B)と、」とするもの)が選択肢として存在すると認めた上、これを理由に、当業者にとって、 本件訂正後の記載が訂正後の正しい記載として直ちに明らかであるとまではいえないと説示しているのであるから、原告の上記主張は、前提を誤るものとして失当である。 さらに、原告は、本件訂正後の記載を採用するとの選択肢と異なる選択肢の内容に関し、要するに、マイクロクリスタリンワックス等は本件訂正前の構成においても明示されていたのであり、誤りは本件記載にのみ存在するのであるから、削除されるべきであるのは本件記載のみであり、本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除するとの選択肢に係る記載は訂正後の記載として相当でないと主張する。 しかしながら、仮に、本件訂正前の記載に接した当業者において、本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等について「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000〜100,000とし」との特定をする部分が誤りであり、 これにより、本件訂正前の記載に誤りがあると理解するとしても、本件訂正前の記載からマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除し、ポリオレフィンワックス(重量平均分子量及び軟化点に係る条件を満たすもの)に係る部分のみを維持するとの訂正によっても、上記の誤りを解消することができるのであるから、 本件訂正前の記載のうちマイクロクリスタリンワックス等に係る部分を全部削除するなどする選択肢に係る記載が訂正後の記載として相当でないということはできない。 オ 小括 以上のとおりであるから、本件訂正前の記載が誤りで本件訂正後の記載が正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかで、本件訂正前の記載に接した当業者であれば、そのことに気付いて本件訂正前の記載を本件訂正後の記載の趣旨に理解するのが当然であるということはできない。 よって、本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正が特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものに該当するということはできない。 なお、原告は、本件記載は手続補正において原告の過誤により追加されたものであるから、本件記載を削除する本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものであると主張するが、仮に、原告が主張するような事情が存在するとしても、少なくとも本件においては、そのような事情が存在することをもって、本件記載を削除する本件訂正が同項ただし書2号に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものであると認めるには不十分である。 (2) 本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正が特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目的とするものに該当するか否かについて 原告は、本件記載は手続補正において原告の過誤により追加されたものであるから、本件記載を削除する本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目的とするものであると主張するが、前記(1)オのとおり、少なくとも本件においては、原告が主張するような事情が存在することをもって、本件記載を削除する本件訂正が同項ただし書各号に掲げる事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目的とするものであると認めることはできない。 その他、本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正が特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項(「誤記…の訂正」を除く。)のいずれかを目的とするものに該当するとの主張立証はない。 (3) 原告の主張2についての結論 以上のとおり、本件訂正前の記載から本件記載を削除する本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項のいずれかを目的とするものであるとはいえないから、本件訂正は、不適法なものである。この点に関する原告の主張2は理由がない。 3 結論 以上の次第であるから、原告の主張3について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。 |
裁判長裁判官 | 本多知成 |
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裁判官 | 浅井憲 |
裁判官 | 勝又来未子 |