関連審決 |
不服2022-3044 |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
元本PDF | 裁判所収録の別紙2PDFを見る |
元本PDF | 裁判所収録の別紙3PDFを見る |
事件 |
令和
4年
(行ケ)
10118号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告X 同訴訟代理人弁理士 高梨玲子 被告特許庁長官 同 指定代理人五十嵐努 渡辺努 平瀬知明 板垣有紀 清川恵子 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2023/08/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
特許庁が不服2022-3044号事件について令和4年10月12日にした審決を取り消す。 |
|
事案の概要
本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は、進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯等 原告は、令和2年12月7日、平成28年5月11日(以下「本件原出願日」という。)にした特許出願(特願2016-95558号)の一部を分割して、発明の名称を「プログラム」とする新たな特許出願(特願2020-202553号。 以下「本件出願」といい、本件出願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。 なお、後記各手続補正書による手続補正に伴う明細書又は図面の変更はない。)をし(甲5)、令和3年4月20日、手続補正書を提出したが(甲7の1)、同年11月30日付けで拒絶査定を受けた。そこで、原告は、令和4年3月1日、同拒絶査定に対する不服審判の請求(不服2022-3044号)をするとともに、手続補正書を提出した(甲11の2)。 特許庁は、令和4年5月20日付けで、同年3月1日に提出された手続補正書による手続補正を却下し(甲12の2)、原告は、同年7月15日、手続補正書を提出した(甲13の1)。 特許庁は、令和4年10月12日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月24日、原告に送達された。 原告は、令和4年11月21日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。 2 本件出願に係る発明の要旨(甲13の1) 本件出願に係る特許請求の範囲(請求項の数は4)のうち請求項2の記載(令和4年7月15日に提出された手続補正書による手続補正後のもの)は、次のとおりである(以下、同請求項に係る発明を「本願発明」という。)。 【請求項2】 タッチパネルディスプレイを有する制御装置であって、 前記制御装置とは異なる制御対象機器の状態を前記制御対象機器から取得する第1手段と、 前記取得した状態に基づいて、前記制御対象機器の状態を示す状態表示を、前記制御対象機器の状態に応じた表示態様で前記タッチパネルディスプレイに表示させる第2手段と、 前記状態表示の表示態様を更新するタッチ操作に応じて、更新後の前記状態表示の表示態様と前記制御対象機器の状態とが対応するよう、前記制御対象機器の状態を調整するための制御信号を生成する第3手段と、を備え、 前記制御対象機器は、スピーカを有するがテレビではなく、 前記制御対象機器の状態は、前記スピーカの音質または音量であり、 前記スピーカを有するがテレビではない制御対象機器との通信が可能でない場合には、前記状態表示の表示態様を更新できない、制御装置。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 甲1(特開2013-106168号公報)に記載された発明の認定 甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 (甲1発明) 表示部45、表示部45の表示面上に形成されるタッチパネルセンサ46を備えるリモートコントローラ(制御端末装置)であって、 無線の伝送路により構成されるネットワーク4上の他の機器から送信されてきた情報、例えば各機器の現在の音量設定情報の受信処理を行い、 各機器の音量設定情報については、後述する音量操作表示での表示内容に反映させ、 表示部45では、音量操作表示70として示すようなGUI表示が行われ、音量操作表示70としては、マスター音量設定部FDMと、個別音量設定部FD1〜FD4としての表示を含み、再生装置1に対応して個別音量設定部FD1、ネットワークスピーカ2Bに対応して個別音量設定部FD2、ネットワークスピーカ2Cに対応して個別音量設定部FD3、ネットワークスピーカ2Dに対応して個別音量設定部FD4が、それぞれ表示され、 再生装置1は、例えば音楽コンテンツの再生部やスピーカ部等を備え、独自に音楽等の再生を行うことができる機器であり、コンテンツデータを、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、複数毎の光ディスク、 例えばCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc(登録商標))等を収納した交換型光ディスクプレーヤなどから再生し、 ネットワークスピーカ2B、2C、2Dはアンプ及びスピーカ部を備えた音声出力機器であり、 再生装置1はサーバ装置として、ネットワーク4上のネットワークスピーカ2B、 2C、2Dに対して再生した音楽コンテンツデータを配信することができ、 個別音量設定部(FD1〜FD4)に、それぞれスライドバー(SL1〜SL4)、ノブ(N1〜N4)、数値表示部(L1〜L4)、ミュートボタン(MT1〜MT4)が含まれ、 例えば個別音量設定部FD1について述べると、ユーザはスライドバーSL1上でノブN1を左右に移動させることで、対応する音声出力装置である再生装置1の出力音量の設定を増減させることができ、 現在の音量設定値が数値表示部L1に表示され、 例えば、ユーザがノブN1を「75」の位置まで移動させた場合、音量設定状態を「75」に相当するレベルまで上昇させる制御コマンドを再生装置1に送信すると、再生装置1の制御部11は、この制御コマンドの受信に応じて、アンプ部17での出力音量設定を可変制御することにより、再生装置1の出力音量が「75」相当のレベルまで上昇され、 リモートコントローラ3における音量操作表示70は、常に実際の音量設定を表す表示状態とされる、 リモートコントローラ3。 (2) 甲4(特開2007-158409号公報)に記載された技術の認定 ア 甲4には、次の技術(以下「審決認定甲4技術」という。)が記載されている。 (審決認定甲4技術) 操作対象の高精細テレビ1との間で、信号の送受信を試みて、無線通信が可能な環境であるかどうかをチェックし、 無線通信が不能と判断されたときは、メニュー表示中の「テレビ再生」という項目を操作部312で選択したとしてもその操作が無効になるよう構成する技術。 イ 審決認定甲4技術は、無線通信を利用して高精細テレビ1を操作制御する技術であるから、無線通信を利用した操作制御技術であって、当該無線通信が不能の場合には、「テレビ再生」という項目を選択する操作をしても、高精細テレビ1で「テレビ再生」を実行することができない、すなわち、当該操作を無効にする構成であるといえる。 すなわち、無線通信を利用した操作制御技術において、通信が不能と判断されたときに、通信が不能であると実行できない機能(「テレビ再生」)についての操作を無効なものとする操作制御技術(以下「本件技術」という。)は、公知技術であるといえる。 (3) 本願発明と甲1発明との対比 本願発明と甲1発明は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。 (一致点) タッチパネルディスプレイを有する制御装置であって、 前記制御装置とは異なる制御対象機器の状態を前記制御対象機器から取得する第1手段と、 前記取得した状態に基づいて、前記制御対象機器の状態を示す状態表示を、前記制御対象機器の状態に応じた表示態様で前記タッチパネルディスプレイに表示させる第2手段と、 前記状態表示の表示態様を更新するタッチ操作に応じて、更新後の前記状態表示の表示態様と前記制御対象機器の状態とが対応するよう、前記制御対象機器の状態を調整するための制御信号を生成する第3手段と、を備え、 前記制御対象機器は、スピーカを有するがテレビではなく、 前記制御対象機器の状態は、前記スピーカの音質または音量である、 制御装置。 (相違点) 本願発明は、「前記スピーカを有するがテレビではない制御対象機器との通信が可能でない場合には、前記状態表示の表示態様を更新できない」ものであるのに対し、甲1発明は、そのような構成に特定されているものではない点。 (4) 相違点についての判断 ア 無線通信においては、通信状況を通常監視しており、無線通信を利用した操作制御技術において、通信が可能でない状態となった場合にどのような対処を行うかをあらかじめ検討しておくことは、当業者であれば当然に考慮する事項である。 そうすると、甲1発明においても、リモートコントローラ3と各機器との通信が可能でない状態となった場合にどのような対処を行うかをあらかじめ検討しておくことは、当業者であれば当然に考慮する事項であるといえる。 ここで、甲1発明において通信が可能でない状態では、リモートコントローラ3からの制御コマンドを再生装置やネットワークスピーカが受信することができないため、リモートコントローラ3の音量操作表示70で音量設定を変化させても、再生装置やネットワークスピーカの出力音量は変化せず、音量設定を変化させる前の音量のままである。 そうすると、甲1発明のリモートコントローラ3における音量操作表示70は、 常に実際の音量設定を表す表示状態を反映していることから、通信が可能でない状態では、実際の音量設定すなわち音量設定を変化させる前の音量を表示させようとすると考えるのが自然である。 そして、上記(2)で検討したように、本件技術は公知技術であり、甲1発明と本件技術は、被制御機器を無線により制御するという点で共通する技術である。 してみると、甲1発明において、通信が可能でない状態では、実際の音量設定すなわち音量設定を変化させる前の音量を表示させるために、本件技術を採用し、ユーザがノブN1を「75」の位置まで移動させる操作を無効にし、元の位置のままの表示をする、すなわち、表示を更新せず元のままにすることで「前記状態表示の表示態様を更新できない」という相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。 イ 原告の主張について(ア) 原告は、要するに、以下の3点を主張している。 @甲4に記載された技術事項の認定は、甲4を過度に上位概念化するものであり、 甲4に記載された技術事項を組み合わせても本願発明に到達しない。 A甲1発明と甲4に記載された技術とでは技術分野が関連せず、また、甲1発明と甲4に記載された技術事項に共通する課題がなく、相応の動機付けがないため、 甲4に記載された事項を甲1発明に適用する動機付けがない。 B甲1発明と甲4に記載された技術事項を組み合わせたとしても、本願発明の効果を奏することはなく、本願発明には顕著な効果がある。 (イ) 上記@に関して、本件技術が公知技術であることを示す例として甲4を提示したまでであり、甲4に記載された技術を過度に上位概念化して、甲1発明と組み合わせようとしたものではない。 そして、甲1発明と本件技術を組み合わせた場合に、本願発明が容易に想到し得ることについては、上記アで検討したとおりである。 (ウ) 上記Aに関して、上記アで検討したように、無線通信を利用した操作制御技術において通信が可能でない状態となった場合には、操作制御を行っても、当該操作制御が操作される機器に通信されないことから、そのような場合にどのような対処を行うかをあらかじめ検討しておくことは、当業者であれば当然に考慮する事項であり、甲1発明においても、リモートコントローラ3と各機器との通信が可能でない状態となった場合にどのような対処を行うかをあらかじめ検討しておくことは、当業者であれば当然に考慮する事項である。 そうすると、甲1発明と本件技術は共通する課題を有するものであるといえ、本件技術を甲1発明に適用する動機付けがあるといえる。 (エ) 上記Bに関して、甲1発明は、常に実際の音量設定を表す表示状態とすることが前提であることから、甲1発明に本件技術を適用することにより、制御対象機器との通信ができない場合に、状態表示が示す制御対象機器の状態と制御対象機器の状態との間に齟齬が生じるのを防げるという本願発明と同様の効果を奏するものである。 (オ) したがって、原告の主張を認めることはできない。 (5) むすび 上記のとおり、本願発明は、本件原出願日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された甲1発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1発明と公知技術である本件技術とに基づいて、本件原出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 |
|
原告主張の審決取消事由(相違点についての判断の誤り)
1 甲1に記載された発明の認定について (1) 本件審決は、甲1に記載された発明のうちリモートコントローラ3における音量操作表示70の表示状態に係る部分につき、「リモートコントローラ3における音量操作表示70は、常に実際の音量設定を表す表示状態とされる、」と認定した。しかしながら、甲1の記載(段落【0065】)によると、この認定にいう「常に」とは、「あらゆる場合においても」を意味するものではなく、「リモートコントローラ3により音声出力装置(再生装置1及びネットワークスピーカ2Bないし2D(以下「再生装置1等」ということがある。))の音量調整が行われた場合であっても、音声出力装置本体の音量操作子やそのリモートコントローラにより音量調整が行われた場合であっても」を意味するものであると解され、甲1に記載された発明は、その余の場合(リモートコントローラ3と音声出力装置との間で通信ができない場合を含む。)を想定していないものである(なお、甲1には、そのような想定がされている旨の示唆すらない。)。したがって、甲1に記載された発明のうちリモートコントローラ3における音量操作表示70の表示状態に係る部分は、正しくは、「リモートコントローラ3における音量操作表示70は、リモートコントローラ3により音声出力装置の音量調整が行われた場合であっても、音声出力装置本体の音量操作子やそのリモートコントローラにより音量調整が行われた場合であっても実際の音量設定を表す表示状態とされる、」と認定するのが相当である(下線部は、甲1発明と異なる部分である。もっとも、原告は、独立した取消事由として、甲1に記載された発明の認定の誤りを主張するものではなく、一致点及び相違点に係る本件審決の認定を争うものでもない。)。 (2) この点に関し、被告は、甲1にリモートコントローラ3と音声出力装置との間で通信ができない状態を排除する旨の記載がないこと及びリモートコントローラの通信について通信不能の状態が想定されるのが技術常識であることを根拠に、 甲1に記載された発明は「リモートコントローラ3と音声出力装置との間で通信ができない状態」が生じることを想定していると主張する。 しかしながら、リモートコントローラの通信について通信不能の状態が想定されるのが技術常識であるとまでいえる証拠はない。また、甲1に記載された発明が通信不能の状態を想定していると仮定すると、そのような場合に音声出力装置本体の音声操作子の操作がされたときは、その操作の結果がリモートコントローラ3における表示に反映されることはないところ、これは、甲1の「リモートコントローラ3における音量操作表示70は、常に実際の音量設定を表す表示状態とされる。」との記載(段落【0065】)と矛盾することになる(甲1に記載された発明は、 通信不能の状態を想定していないからこそ、リモートコントローラ3における音量操作表示70が常に実際の音量設定を表すことになるのである。)。なお、引用文献に記載された発明は、当該引用文献に記載されている事項又は記載されているに等しい事項に基づいて認定されるべきであるから、甲1が「リモートコントローラ3と音声出力装置との間で通信ができない状態」を明示的に排除していないことを理由に、甲1に記載された発明がそのような状態を想定していると認定することはできない。 2 公知技術の認定について (1) 本件審決は、甲4には審決認定甲4技術が記載されていると認定した。しかしながら、甲4の記載(段落【0028】、【0029】等)によると、甲4に記載された技術において高精細テレビ1を制御する主体は、デジタルカメラ3であるから、甲4に記載された技術は、次のとおりに認定するのが相当である(下線部は、審決認定甲4技術と異なる部分である。以下、次の技術を「原告主張甲4技術」という。)。 「デジタルカメラ3が、操作対象の高精細テレビ1との間で、信号の送受信を試みて、無線通信が可能な環境であるかどうかをチェックし、 無線通信が不能と判断されたときは、メニュー表示中の「テレビ再生」という項目を操作部312で選択したとしてもその操作が無効になるよう構成する技術。」 (2) 次に、本件審決は、審決認定甲4技術に基づき、本件技術が公知技術であると認定した。しかしながら、本件審決による本件技術の認定は、@制御対象機器を制御する主体(以下「制御主体」という。)が「デジタルカメラ3」であることを捨象し、A制御主体(デジタルカメラ3)における操作の対象(以下、審決認定甲4技術及び原告主張甲4技術における「操作対象」(これは、制御対象機器を指すものと解される。)と区別するため、「操作場所」という。)が「操作部312」であることを捨象し、B制御対象機器が「高精細テレビ1」であることを捨象し、 C制御対象機器に対する制御の内容(以下「制御内容」という。)を「テレビ再生」に限定されない「通信が不能であると実行できない機能」を包含するものと解し、 これらにより、甲4の記載から認定される原告主張甲4技術を過度に上位概念化するものであるところ、甲4には、そのような上位概念化を許容する根拠となるべき記載はない。 また、公知技術は、公知文献等を根拠に認定されるべきところ、本件審決は、何の根拠もなく、いわばアプリオリに、本件技術が公知技術であると認定したものである(本件審決が依拠する甲4は、公知技術を示す例として後付けで挙示されたものにすぎない。)。 さらに、甲4は、「無線通信が不能である場合には、無線通信が不能であると実行できない「テレビ再生」という機能を実行するための操作を行ったとしても、その機能を実行できない」という当然の事項を開示するにすぎないのであって、本件審決が判断したように「通信が不能と判断されたときに、どのような制御を行うかを考えた」ものではなく、本件技術が公知技術であることを示す例にすらなっていない。 (3) 被告の主張について ア 被告は、乙1(実願昭57-157450(実開昭59-63582)のマイクロフィルム)、乙2(特開平4-37399号公報)及び乙3(国際公開第2014/136268号)を根拠に、「リモコン装置の表示は、リモコン装置側での操作を無効にしたものである」との技術は周知慣用技術であるなどと主張する。 しかしながら、乙1及び2は、拒絶査定不服審判の手続において審理の対象とされなかった証拠であるし、乙3は、同手続においてされた拒絶理由通知に引用されているものの、本件審決が引用しておらず、審判合議体が本願発明の進歩性を否定する根拠となり得ないと判断したものであるから、乙1ないし3を本件訴訟において提出することは許されない(甲1に記載された発明に内在する課題に係る被告の主張についても同様である。)。また、本件審決は、甲1発明及び甲4に記載された技術に基づいて本願発明が進歩性を欠くと判断したにもかかわらず、本件訴訟において、甲1発明及び乙1ないし3により認定される周知慣用技術に基づいて本願発明が進歩性を欠くと主張することは許されない(被告の主張は、甲4に記載された技術(原告主張甲4技術)を上位概念化して審決認定甲4技術とし、これを更に上位概念化して本件技術とし、これを更に周知慣用技術に置き換えるものであるところ、これは、本件審決が依拠した甲4の記載からかけ離れたものである。)。 念のため、乙1ないし3の内容をみると、乙1には、制御部1の制御内容及び検出部12の検出内容に従った表示が表示部11においてされることについての記載があるのみであり、被告が主張するような「制御対象機器との通信ができない場合、 リモート・コントロール送信機の表示部11の表示を更新させないことにより、操作部1の操作を無効にする」との技術の開示はない。乙2には、「通信ができない場合、表示内容を元の制御内容に戻す」との技術は記載されているものの、「表示内容を元の制御内容に戻す」との技術は、一旦は表示内容を更新した上、その後に表示内容を元に戻すことを意味するのであるから、少なくとも一時的にはリモコン装置の表示内容と機器本体の動作状態が一致しない事態が生じることを示している。 したがって、乙2に「通信ができない場合、表示内容を元の制御内容に戻すことにより、リモコン装置の表示内容と機器本体の動作状態が常に一致するようにした」との技術(「リモコン装置の表示は、リモコン装置側での操作により作成された機器制御データを無効にしたものである」との技術)が記載されているとはいえない。 また、乙2に記載された技術は、ガス給湯器や石油ボイラー以外の具体的な制御対象機器を想定したものではなく、かえって、乙2には、テレビリモコンへの適用を排除する旨の記載があるのであるから、乙2に記載された技術は、汎用性のあるものではなく、少なくともテレビとは無関係の技術である。乙3には、「通信ができない場合、操作前の状態に戻して表示を行う」との技術は記載されているものの、 「操作前の状態に戻す」との技術は、少なくとも一時的には携帯通信端末100の表示内容と被制御機器の動作状態が一致しない事態が生じることを示しているから、 乙3に「通信ができない場合、携帯通信端末100の表示は、温度の切替処理を無効にしたものである」との技術が記載されているとはいえない。また、乙3の記載(段落[0009]、[0080]等)によると、乙3に記載された技術における制御対象機器は、空調装置、給湯器、照明及び冷蔵庫に限られ、少なくともテレビやスピーカを想定していないから、乙3に記載された技術は、汎用性のあるものではなく、少なくともテレビやスピーカとは無関係の技術である。以上のとおり、乙1には、被告が周知慣用技術であると主張する技術(「汎用性のあるリモコン装置に関する技術として、制御対象機器との通信ができない場合には、リモコン装置の操作は受け付けるが、操作内容をリモコン装置の表示に反映させない」との技術(「リモコン装置の表示は、リモコン装置側での操作を無効にしたものである」との技術))についての記載はないし、また、乙2及び3に記載された技術の内容やその用途に照らすと、乙2及び3により、少なくともテレビやスピーカが属する技術分野における技術として被告が主張する当該技術を認定することはできないから、 乙1ないし3に基づいて、被告が主張する当該技術がテレビやスピーカが属する技術分野における周知慣用技術であると認めることはできない(なお、仮に、乙1に被告が主張する当該技術が記載されているとしても、乙1のみによってテレビやスピーカが属する技術分野における周知慣用技術を認定することはできない。)。 イ 被告は、「無線通信を利用した操作制御技術」などの上位概念を用いて本件技術を認定したとしても、制御主体が制御対象機器を無線通信によって操作(制御)する関係にあることに影響を及ぼすものではないと主張するが、当該主張の趣旨は不明である。甲4に記載された技術を甲1に記載された発明に適用できるか否かの判断に当たり、甲4に記載された技術における制御主体や制御対象機器が何であるかは重要な要素であるから、これらを捨象して上位概念化することは許されない。 なお、周知慣用技術であるからといって、それが直ちに公知技術であるということにはならない。 ウ 被告は、「審決認定甲4技術は汎用性のある技術であって、これがテレビと一体不可分の技術であると解する理由はない」と主張する。しかしながら、甲4には、制御対象機器としてテレビしか開示されていないから、制御対象機器をテレビ以外の機器に拡張し、制御内容をテレビ再生に限られない「通信不能であると実行できない機能」に拡張することは、不当な上位概念化に当たる。したがって、本件原出願日当時の技術常識を有する当業者において、甲4に記載された技術がテレビ以外の制御対象機器にも適用できる汎用性のある技術であると理解することはない(なお、本件審決も、審決認定甲4技術の認定に当たり、制御対象機器を高精細テレビ1とし、制御内容をテレビ再生としているのであって、審決認定甲4技術がテレビと一体不可分の技術であることを前提としている。)。 エ 被告は、甲4に記載された技術を原告主張甲4技術のとおりに認定すべきであるとする原告の主張は甲4の記載に拘泥するものであると主張するが、本件審決は、甲4の記載に基づいて審決認定甲4技術を認定し、これを根拠に本願発明の進歩性を否定したのであるから、甲4の記載から離れて公知技術を認定し得るかのような被告の主張は失当である。 (4) 以上のとおりであるから、本件技術が公知技術であるとする本件審決の認定は誤りである。 3 甲4に記載された技術の甲1に記載された発明への適用について 発明の進歩性が否定されるためには、主引用発明と副引用発明等との間に技術分野の関連性があることを要し、当該技術分野が完全に一致しておらず近接しているにとどまる場合には、主引用発明に副引用発明等を適用する相応の動機付けが必要とされると解するのが相当である(知財高裁令和2年(行ケ)第10103号同3年10月6日判決)。したがって、当該技術分野の関連性がない場合には、それだけで発明の進歩性が肯定されることになるし、また、当該技術分野が近接している場合であっても、当該相応の動機付けがないときは、発明の進歩性が肯定されることになる。 (1) 技術分野の関連性 ア 甲1に記載された発明は、@制御主体がリモートコントローラであり、A操作場所がタッチパネルに表示された音量操作表示70であり、B制御対象機器が再生装置1等(スピーカを有するがテレビではない機器)であり、C制御内容が出力音量の増減であるのに対し、原告主張甲4技術は、@制御主体がデジタルカメラであり、A操作場所が操作部312(なお、甲4には、これがタッチパネルに表示されたものであるとの記載はない。)であり、B制御対象機器がテレビであり、C制御内容がテレビ再生であるから、甲1に記載された発明が属する技術分野と原告主張甲4技術が属する技術分野との間に関連性はない。 したがって、甲1に記載された発明に原告主張甲4技術を適用する相応の動機付けがあるか否かについて検討するまでもなく、当業者において、甲1に記載された発明に原告主張甲4技術を適用し得たとはいえない。 イ この点に関し、本件審決は、「甲1発明と本件技術は、被制御機器を無線により制御するという点で共通する技術である。」と判断した。しかしながら、前記2のとおり、本件技術が公知技術であるとする本件審決の認定に誤りがあるほか、 本件審決の上記判断は、甲1に記載された発明と甲4に記載された技術が「被制御機器を無線により制御する」という極めて抽象的なレベルで共通することを根拠とするものであり、このことをもって、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記載された技術が属する技術分野が共通するということはできない(制御主体、 操作場所、制御対象機器又は制御内容が異なれば、これらに係る当業者も異なるのであるから、技術分野も異なるというべきである。)。 ウ 被告の主張について (ア) 被告は、甲4及び乙1ないし3の記載に照らし、本件技術は制御主体、操作場所、制御対象機器及び制御内容が限定されない汎用的な公知技術であるとした上、甲1発明と本件技術はその属する技術分野を共通にすると主張する。しかしながら、本件技術は、甲4に記載された技術であるから、甲1に記載された発明が属する技術分野と本件技術が属する技術分野との関係を検討するに当たり、甲4とは別の文献である乙1ないし3の記載を参酌するのは相当でない。 (イ) 被告は、「オーディオビジュアル」の語が使用されていることを根拠に、 甲1発明の再生装置1等と甲4に記載されたテレビはその属する技術分野を共通にすると主張する。しかしながら、「オーディオビジュアル」の語は、製品の分類を示すものにすぎず、技術分野を示すものではない。また、特許庁における担当技術分野(甲14、15)をみても、スピーカとテレビは、異なる技術単位(技術分野)に属するとされている。被告は、甲1の記載及び乙4(特開2015-136157号公報)の記載が上記の主張を裏付けているとも主張するが、甲1及び乙4は、 オーディオ・ビデオシステムとオーディオのみのシステムとを明確に区別しており、 甲1及び乙4は、かえって、テレビとスピーカが異なる技術分野に属することを示している(なお、乙4は、拒絶査定不服審判の手続においてされた拒絶理由通知に引用されているものの、本件審決が引用しておらず、審判合議体が本願発明の進歩性を否定する根拠となり得ないと判断したものであるから、これを本件訴訟において提出することは許されない。)。 (2) 相応の動機付けの有無 ア 本願発明は、「スピーカを有するがテレビではない制御対象機器との通信ができない場合に状態表示の表示態様を更新できてしまうと、状態表示が示す制御対象機器の音質又は音量と制御対象機器の音質又は音量との間に齟齬が生じ得る」という甲1にも甲4にも指摘のない新規の課題を解決するものである(本願発明に係る特許請求の範囲及び本願明細書の段落【0076】参照)。 また、甲1に記載された発明と原告主張甲4技術は、制御主体、操作場所、制御対象機器及び制御内容を異にし、特に、甲1に記載された発明における制御対象機器がスピーカを有するがテレビではない機器であるのに対し、原告主張甲4技術における制御内容がテレビに特有のもの(テレビ再生)であることに照らすと、甲1に記載された発明と原告主張甲4技術との間に課題の共通性があるということはできない。 以上によると、甲1に記載された発明に原告主張甲4技術を適用する相応の動機付けがあるということはできないから、仮に、甲1に記載された発明が属する技術分野と原告主張甲4技術が属する技術分野が近接しているとしても、当業者において、甲1に記載された発明に原告主張甲4技術を適用し得たとはいえない。 イ この点に関し、本件審決は、「甲1発明においても、リモートコントローラ3と各機器との通信が可能でない状態となった場合にどのような対処を行うかをあらかじめ検討しておくことは、当業者であれば当然に考慮する事項である。」と判断した。しかしながら、無線通信が可能でない状態となった場合にどのような対処を行うかをあらかじめ検討しておくことにつき、これが当業者であれば当然に考慮する事項であるといえる根拠はない。そのようにいうのは、後知恵というべきものである。 また、本件審決は、「甲1発明において通信が可能でない状態では、リモートコントローラ3からの制御コマンドを再生装置やネットワークスピーカが受信することができないため、リモートコントローラ3の音量操作表示70で音量設定を変化させても、再生装置やネットワークスピーカの出力音量は変化せず、音量設定を変化させる前の音量のままである。そうすると、甲1発明のリモートコントローラ3における音量操作表示70は、常に実際の音量設定を表す表示状態を反映していることから、通信が可能でない状態では、実際の音量設定すなわち音量設定を変化させる前の音量を表示させようとすると考えるのが自然である。」と判断した。しかしながら、前記1(1)のとおり、甲1に記載された発明のうちリモートコントローラ3における音量操作表示70の表示状態に係る部分は、「リモートコントローラ3における音量操作表示70は、リモートコントローラ3により音声出力装置の音量調整が行われた場合であっても、音声出力装置本体の音量操作子やそのリモートコントローラにより音量調整が行われた場合であっても実際の音量設定を表す表示状態とされる、」と認定されるべきものであって、甲1に記載された発明は、リモートコントローラ3と音声出力装置との間で無線通信ができない場合を想定していないし、甲1には、そのような想定がされている旨の示唆すらないから、甲1に接した当業者が「リモートコントローラ3の音量操作表示70で音量設定を変化させても、再生装置やネットワークスピーカの出力音量は変化せず、音量設定を変化させる前の音量のままである」との事実(リモートコントローラ3と音声出力装置との間で無線通信ができない場合に生じる事実)を認識することはないというべきである。 ウ 被告は、乙1ないし3を根拠として、「制御装置の無線通信において、制御対象機器との通信ができない場合に制御装置側の状態表示の表示態様を更新できてしまうと、制御装置側の状態表示が示す制御対象機器の状態と制御対象機器自体の状態との間に齟齬が生じ得る」との課題は本件原出願日当時の周知の課題であり、 当該課題は甲1発明に内在するものであると主張する。しかしながら、前記2(3)アのとおり、乙2及び3に記載された技術は、テレビやスピーカとは無関係の技術であるし、また、乙1のみに基づいて周知の課題を認定することはできないから、 乙1ないし3に基づいてテレビやスピーカが属する技術分野における周知の課題を認定することはできない。なお、被告は、甲1発明が通信不能の状態を想定していることも、上記の課題が甲1発明に内在するものであることの根拠とするが、甲1に記載された発明が通信不能の状態を想定しているといえないことは、前記1のとおりである。 4 原告主張甲4技術と相違点に係る本願発明の構成について 前記3(2)アのとおり、本願発明の課題は、「スピーカを有するがテレビではない制御対象機器との通信ができない場合に状態表示の表示態様を更新できてしまうと、状態表示が示す制御対象機器の音質又は音量と制御対象機器の音質又は音量との間に齟齬が生じ得る」という新規のものであるところ、本願発明は、制御対象機器の状態表示の表示態様が更新可能なものであることを前提としつつ、相違点に係る本願発明の構成(従来にない特徴的な状態表示を提供するもの)を採用することにより、上記課題を解決するものである。 これに対し、原告主張甲4技術は、「無線通信が不能である場合には、無線通信が不能であると実行できない「テレビ再生」という機能を実行するための操作を行ったとしても、その機能を実行できない」という当然の事項をいうものにすぎない。 また、甲4には、相違点に係る本願発明の構成における「前記スピーカを有するがテレビではない制御対象機器」に相当する構成の開示はない(甲4に開示されている制御対象機器は、高精細テレビ1である。)。さらに、甲4には、本願発明における「状態表示」(タッチパネルディスプレイに表示されて制御対象機器の状態を示し、タッチ操作に応じて表示態様が更新されるもの)に相当する構成の開示はない(甲4に開示されている操作場所は、操作部312であり、タッチパネルディスプレイに表示されるものではないし、表示態様が更新されるものでもない。)。このように、甲4には、本願発明における特徴的な状態表示に相当する技術的事項の開示はない。加えて、乙1には、「制御対象機器との通信ができない場合に、表示部11の表示を更新させない」との技術は開示されておらず、乙2に記載された技術は、通信ができない場合に表示内容を元の制御内容に戻すというものであり、相違点に係る本願発明の構成に相当する「更新できない」との技術を含むものではなく、乙3に記載された技術は、通信ができない場合に操作前の状態に戻して表示を行うというものであり、相違点に係る本願発明の構成に相当する「更新できない」との技術を含むものではないから、仮に、乙2及び3に記載された技術を甲1発明に適用しても、一時的に表示態様を更新した上、その後にこれを元に戻すという構成に至るにすぎず、相違点に係る本願発明の構成に相当する構成(表示を更新せずに元のままとする構成)に至ることはない(本願発明の状態表示がタッチパネルディスプレイに表示されるものであり、タッチ操作に応じて更新されるものであることに照らすと、本願発明の「更新できない」とは、タッチ操作が受け付けられない状態をいうものと解されるところ、「表示内容を元の制御内容に戻す」などとする乙2及び3に記載された技術においては、リモコン装置への操作が受け付けられ、 表示の更新がされるのであるから、乙2及び3に記載された技術は、いずれも相違点に係る本願発明の構成に相当する構成(「更新できない」との構成)を備えるものではない。また、「更新した後、更新前の表示態様に戻す」との技術においては、 少なくとも一時的にはリモコン装置への操作が受け付けられて表示が更新されてしまうため、ユーザとしては、更新された表示が更新前の表示に戻るまで通信不能の状態に気付けないのに対し、「更新できない」との技術においては、ユーザとしては、更新がされないことにより直ちに通信不能の状態に気付くことができるから、 前者の技術と後者の技術との間には、設計的事項といえる程度の相違を超える相違があり、後者(本願発明)は、前者と比較して有利な技術的意義を有するものである。なお、「更新できない」との技術と「更新した後、更新前の表示態様に戻す」との技術が異なることは、拒絶査定不服審判の手続の経過をみても明らかである。)。 したがって、甲4及び乙1ないし3には、本願発明における課題を解決するための技術的思想や相違点に係る本願発明の構成が開示されていないから、仮に、甲1に記載された発明に甲4及び乙1ないし3に記載された技術を適用しても、相違点に係る本願発明の構成に至ることはない。 5 結論 以上のとおりであるから、当業者において相違点に係る本願発明の構成に容易に想到し得たとの本件審決の判断は誤りである。 |
|
被告の主張
1 甲1に記載された発明の認定について 本件審決は、甲1に記載された発明のうちリモートコントローラ3における音量操作表示70の表示状態に係る部分につき、甲1の記載(段落【0065】)のとおりに認定したものであるから、その認定に誤りはない。 この点に関し、原告は、甲1に記載された発明がリモートコントローラ3と音声出力装置との間で通信ができない場合を想定していないとして、上記の部分につき、 これを「リモートコントローラ3における音量操作表示70は、リモートコントローラ3により音声出力装置の音量調整が行われた場合であっても、音声出力装置本体の音量操作子やそのリモートコントローラにより音量調整が行われた場合であっても実際の音量設定を表す表示状態とされる、」と認定するのが正しいと主張する。 しかしながら、原告が主張するような認定を前提としても、甲1には、リモートコントローラ3と音声出力装置との間で通信ができない状態を排除する旨の記載又は示唆はない。また、リモートコントローラの通信について通信不能の状態が想定されるのは技術常識であるから、原告が主張するように通信を完全無欠のものと考えるのは現実的でない。したがって、原告が主張する上記認定は、甲1に記載された発明において「リモートコントローラ3と音声出力装置との間で当然想定される通信不能の状態」が生じることを否定するものではない。 2 公知技術の認定について (1) 原告は、甲4に記載された技術につき、デジタルカメラ3が制御主体であることを明示して、原告主張甲4技術のとおりに認定するのが相当であると主張する。しかしながら、甲4に記載されたデジタルカメラ3及び高精細テレビ1は、それぞれ制御主体及び制御対象機器であり、前者が後者を無線通信によって操作(制御)する関係にあることは明らかである。原告の上記主張は、甲4に記載された技術の認定に関し、甲4の記載に拘泥するものであって失当である。 (2) 甲4の記載(段落【0011】、【0012】及び【0184】)によると、甲4には、審決認定甲4技術に関し、デジタルカメラ3及び高精細テレビ1はそれぞれ制御主体及び制御対象機器であり、前者が後者を無線通信によって操作(制御)する関係にあること、そのような関係において、通信が不能であると判断された場合に、通信が不能であると実行できない機能であるテレビ再生についての操作を無効なものにすることがそれぞれ記載されているといえる。そして、「無線通信を利用した操作制御技術」、「通信が不能であると実行できない機能についての操作」などの上位概念を用いて本件技術を認定したとしても、制御主体と制御対象機器との間の上記関係に影響を及ぼすものではないから、審決認定甲4技術に基づき、無線通信を利用して制御主体が制御対象機器を操作(制御)するとの関係を有する操作制御技術について、公知技術としての本件技術を認定できることは明らかである。 (3)ア 乙1には、リモート・コントロール送信機に関する技術として、「制御対象機器との通信ができない場合に、リモート・コントロール送信機の表示だけが変わり機器本体と同調されない」との課題を解決するため、リモート・コントロール送信機の操作部1を操作することによって、機器本体の音量レベルが制御され、 操作部1の制御内容及び制御された音量レベルに従った表示が表示部11においてされるとの技術が記載されている。すなわち、当該技術は、制御対象機器との通信ができない場合でも、リモート・コントロール送信機の表示部と機器本体の制御とを同調させることから、リモート・コントロール送信機の表示部11の表示を更新させないことにより、操作部1の操作を無効にするというものである。なお、乙1の記載によると、上記の技術は、テレビジョン受像機のリモート・コントロール送信機に限られない汎用性のあるものである。 イ 乙2には、リモコン装置に関する技術として、制御対象機器に機器制御データを伝送したが、機器本体からの応答信号を受信できなかった場合(通信ができない場合)でも、表示内容を元の制御内容に戻すことにより、リモコン装置の表示内容と機器本体の動作状態が常に一致するようにしたとの技術が記載されている。当該技術は、表示内容を元の制御内容に戻すことにより、リモコン装置の表示内容と機器本体の動作状態が常に一致することから、「リモコン装置の表示は、リモコン装置側での操作により作成された機器制御データを無効にしたものである」というものである。なお、乙2の記載によると、上記のリモコン装置は、ガス給湯器や石油ボイラーに限られない汎用性のあるものである。 ウ 乙3には、携帯通信端末100からの被制御機器に対する温度の切替処理において、設定完了通知を受信せず、被制御機器の操作に失敗した場合(通信ができない場合)でも、被制御機器の状態と携帯通信端末100において表示されている状態を一致させるため、操作前の状態に戻して表示を行うとの技術が記載されている。当該技術は、操作前の状態に戻して表示を行うことから、「携帯通信端末100の表示は、温度の切替処理を無効にしたものである」というものである。なお、 乙3の記載によると、上記の携帯通信端末100は、機器専用のものに代えて複数の種類の家電や設備機器の利用を可能にする汎用性のあるものである。 エ 以上によると、甲4のほか、乙1ないし3によっても、汎用性のあるリモコン装置に関する技術として、制御対象機器との通信ができない場合には、リモコン装置の操作は受け付けるが、操作内容をリモコン装置の表示に反映させないとする技術、すなわち、「リモコン装置の表示は、リモコン装置側での操作を無効にしたものである」との技術は、周知慣用技術であると認められるから、制御主体、操作場所、制御対象機器及び制御内容を限定しない汎用的な技術である本件技術は、公知技術であるといえる。 (4) 原告は、本件審決は何の根拠もなく本件技術が公知技術であると認定したものであり、本件審決による甲4の挙示は後付けであると主張するが、本件審決は、 甲4に記載されていると認められる審決認定甲4技術に基づき、本件技術が公知技術であると認定したものであるところ、審決認定甲4技術は汎用性のある技術であって、これがテレビと一体不可分の技術であると解する理由はなく、また、前記(3)のとおり、汎用性のあるリモコン装置に関する技術として、制御対象機器との通信ができない場合には、リモコン装置の操作は受け付けるが、操作内容をリモコン装置の表示に反映させないとする技術、すなわち、「リモコン装置の表示は、リモコン装置側での操作を無効にしたものである」との技術は、周知慣用技術であると認められるから(乙1ないし3)、原告の上記主張は失当である。 (5) 原告は、甲4につき、「通信が不能と判断されたときに、どのような制御を行うかを考えた」ものではなく、本件技術が公知技術であることを示す例にすらなっていないと主張する。しかしながら、甲4の記載(段落【0028】、【0029】、【0031】、【0032】、【0034】及び【図2】)によると、甲4に記載された技術は、ステップS4で高精細テレビ1との間で無線USBによる通信が可能な環境であるか否かをチェックし、無線USB通信が不能であると判断されたときは、ステップS6のテレビ再生処理に移行せずに、ステップS7に移行し、操作部312においてメニュー表示中の「テレビ再生」の項目を選択したとしてもその操作が無効になるよう構成するものであるから、「通信が不能と判断されたときに、どのような制御を行うかを考えた」ものである。また、前記(3)エのとおり、甲4のほか、乙1ないし3によっても、汎用性のあるリモコン装置に関する技術として、制御対象機器との通信ができない場合には、リモコン装置の操作は受け付けるが、操作内容をリモコン装置の表示に反映させないとする技術、すなわち、 「リモコン装置の表示は、リモコン装置側での操作を無効にしたものである」との技術は、周知慣用技術であると認められるから、甲4は、本件技術が公知技術であることを示す例であるといえる。 したがって、原告の上記主張は理由がない。 (6) 以上のとおり、本件技術は、審決認定甲4技術を過度に上位概念化したものではないから、制御主体、操作場所及び制御対象機器につき、それぞれ「デジタルカメラ3」、「操作部312」及び「高精細テレビ1」と限定せず、かつ、制御内容が「通信不能であると実行できない機能」を包含するものとして本件技術が公知技術であるとした本件審決の認定に誤りはない。 3 本件技術の甲1発明への適用について (1) 技術分野の共通性 本件技術は、甲4及び乙1ないし3の記載に照らし、制御主体、操作場所、制御対象機器及び制御内容が限定されない汎用的な公知技術であるから、甲1発明と本件技術は、「無線通信を利用した操作制御技術」という点でその属する技術分野を共通にするといえる。本件技術が属する技術分野に関し、甲4に記載された制御主体、操作場所、制御対象機器及び制御内容に係る具体的な構成に従って検討するべきであるとの原告の主張は、甲4の記載に拘泥するものであって相当でない。 また、「オーディオビジュアル」の語が示すように、一般に、音響と映像は、一緒に取り扱われることが多く、オーディオ・ビデオシステムを制御するシステムにおいては、オーディオのみのシステムと映像を含むAVシステムが含まれるのであるから(これは、甲1の記載(段落【0017】)及び乙4の記載(段落【0001】、【0074】)によっても裏付けられている。)、この点でも、甲1発明の再生装置1等と甲4に記載されたテレビは、その属する技術分野を共通にするものであるといえる。 (2) 甲1発明の課題 「制御装置の無線通信において、制御対象機器との通信ができない場合に制御装置側の状態表示の表示態様を更新できてしまうと、制御装置側の状態表示が示す制御対象機器の状態と制御対象機器自体の状態との間に齟齬が生じ得る」との本願発明の課題は、乙1ないし3(前記2(3)アないしウ)にも示唆されているように、 汎用性のある制御装置(リモートコントローラ)から無線通信を介して制御対象機器を制御する際における本件原出願日当時の周知の課題である。以上に加え、前記1のとおり、甲1発明において通信ができない場合が想定されていることも併せ考慮すると、甲1発明に上記の課題が内在していることは、当業者にとって明らかであるといえる(なお、上記のとおりであるから、本願発明の課題が新規のものであるとの原告の主張は失当である。)。 (3) 本件技術の内容 前記2(3)エのとおり、本件技術は、制御主体、操作場所、制御対象機器及び制御内容を限定しない汎用的な公知技術であり、甲4のほか、乙1ないし3からも、 汎用性のあるリモコン装置に関する技術として、制御対象機器との通信ができない場合には、リモコン装置の操作は受け付けるが、操作内容をリモコン装置の表示に反映させないとする技術、すなわち、「リモコン装置の表示は、リモコン装置側での操作を無効にしたものである」との技術は、周知慣用技術であると認められる。 (4) 動機付けの有無 以上によると、無線通信を利用した操作制御技術に係る当業者において、通信ができない状態を想定した甲1発明に内在する課題(「制御対象機器との通信ができない場合に状態表示の表示態様を更新できてしまうと、状態表示が示す制御対象機器の状態と制御対象機器の状態との間に齟齬が生じ得る」との課題)を認識し、通信が可能でない状態となった場合にどのような対処を行うかについてあらかじめ検討した上、当該課題を解決するため、「通信ができない場合への対処」という共通の課題を有する本件技術を甲1発明に組み合わせる動機付けがあるといえる。 原告は、甲1に記載された発明はリモートコントローラ3と音声出力装置との間で通信ができない場合を想定していないとして、甲1に接した当業者が「リモートコントローラ3の音量操作表示70で音量設定を変化させても、再生装置やネットワークスピーカの出力音量は変化せず、音量設定を変化させる前の音量のままである」との事実を認識することはないと主張するが、前記1のとおり、甲1に記載された発明は、リモートコントローラ3と音声出力装置との間で通信ができない状態が生じることを想定しているから、原告の上記主張は、前提を欠くものとして失当である。 4 本件技術と相違点に係る本願発明の構成について 本件技術は、無線通信を利用した操作制御技術において、通信が不能と判断されたときに、通信が不能であると実行できない機能についての操作を無効なものとする操作制御技術であるから、甲1発明に本件技術を組み合わせ、甲1発明において、 通信が可能でない場合には、ユーザによるノブN1を「75」の位置まで移動させる操作を無効にし、元の位置のままの表示をすること、すなわち、表示を更新せず元のままにすることにより、「前記スピーカを有するがテレビではない制御対象機器との通信が可能でない場合には、前記状態表示の表示態様を更新できない」との相違点に係る本願発明の構成に至ることができる。 5 結論 以上のとおりであるから、原告の主張は理由がなく、当業者において相違点に係る本願発明の構成に容易に想到し得たとの本件審決の判断に誤りはない。 |
|
当裁判所の判断
1 本願発明の概要(1) 本願明細書の記載 本願明細書には、次の記載がある。 【技術分野】 【0001】 本発明は、プログラムなどに関する。 【背景技術】 【0002】 通常のテレビはリモコンで制御される。 【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】 【0004】 機器をより簡易に制御できるようにする。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明の一形態によれば、特許請求の範囲に記載のプログラムなどが提供される。 【発明を実施するための形態】 【0007】 (第1の実施形態) 第1の実施形態は、モバイル機器によってテレビを制御するものである。 図1は、モバイル機器100の概略外観図である。モバイル機器100はコンピュータでもあり、典型的には、スマートフォンやタブレットであるが、専用端末であってもよい。図1および以下では、モバイル機器100がスマートフォンである例を説明する。 【0008】 モバイル機器100は、ユーザからの入力を受け付ける入力インターフェース1と、ユーザに情報を出力する出力インターフェース2とを備えている。入力インターフェース1はタッチパネル1aを含み、出力インターフェース2はディスプレイ2aを含むのが望ましい。タッチパネル1aはその少なくとも一部がディスプレイ2aの少なくとも一部と重なるようディスプレイ2a上に配置される。これにより、 タッチパネル1a上での操作(ジェスチャー)で、ユーザがディスプレイ2aに表示された画面に対する操作を行うことができる。 【0017】 図2は、第1の実施形態に係るモバイル機器100の内部構成を示す概略ブロック図である。モバイル機器100は、上述した入力インターフェース1および出力インターフェース2に加え、GPS受信装置3と、各種センサ4と、通信部5と、 放送波処理部6と、記憶部7と、記録媒体インターフェース8と、制御部10とを備えている。 【0020】 通信部5は他の機器との通信を行う機能部の総称である。例えば通信部5は、家庭内無線LANやWiFi(登録商標)などのネットワークを介して、外部装置(サーバや記憶装置など)との間でデータの送受信を行う。また、通信部5は、Miracast、Google Cast、NFC、Bluetooth(登録商標)、赤外線通信、その他の無線通信機能を有してもよい。さらに、通信部5は、 HDMIケーブル、USBケーブル、MHLケーブルなどを用いた有線通信機能を有していてもよい。通信部5による通信は、他の機器からデータを受信する一方向通信であってもよいし、他の機器にデータを送信する一方向通信であってもよいし、 他の機器と双方向通信を行ってもよい。双方向通信の場合、送信経路と受信経路とが異なっていてもよい。 【0027】 制御部10は、ユーザ操作取得部11と、位置取得部12と、データ取得部13と、表示画面制御部14と、外部機器制御部15と、通信制御部16とを有する。 これら各部の少なくとも一部は、テレビ制御プログラムをモバイル機器100のプロセッサ(不図示)が実行することによって実現される機能であってもよいし、OSの機能であってもよい。あるいは、処理部10の少なくとも一部がハードウェアで実装されてもよいし、モバイル機器100のOSが持つ機能であってもよい。 【0028】 ユーザ操作取得部11は入力インターフェース1に対するユーザの操作を取得する。例えば、タッチパネル1aのどの部分がタッチされたか、(言い換えると、タッチされたタッチパネル1a上の位置と対応するディスプレイ2aの位置には何が表示されているか)、どのようにタッチされたか、などを取得する。 【0032】 外部機器制御部15は通信部5を介して通信可能である外部機器の制御を直接または間接的に行う。すなわち、外部機器制御部15は外部機器を制御するための制御信号を生成する。本実施形態では、主に外部機器がテレビであり、このテレビの制御を行うための制御信号を外部機器制御部15が生成する例を示す。 【0033】 通信制御部16は通信部5を介した送受信を制御する。例えば、通信制御部16は、外部機器制御部15が生成した制御信号をテレビなどの外部機器に送信するための通信制御を行う。また、通信制御部16は、テレビなどの外部機器から必要な情報を受信するための通信制御を行う。 【0034】 図3は、本実施形態に係るモバイル機器を用いたシステムの概略構成を示す図である。 図3(a)に示すように、モバイル機器100は、その通信部5を介した無線通信および/または有線通信により、テレビ200と通信可能であり、かつ、テレビ200を制御可能であってもよい。 図3(b)に示すように、テレビ200は録画機器300を制御できてもよい。 あるいは、テレビ200が録画機能を有してもよい。 図3(c)に示すように、モバイル機器100は、その通信部5を介した無線通信および/または有線通信により、テレビ200および録画機器300と通信可能であり、かつ、テレビ200および録画機器300を制御可能であってもよい。この場合、テレビ200は録画機器300を制御できてもよい。 【0035】 以下、モバイル機器100によるテレビ200などの制御例を説明する。 まずは、モバイル機器100の制御対象テレビを特定するのが望ましい。例えば、 ユーザがテレビ制御アプリを初めて起動した際やユーザからの指示に応答して、外部機器制御部15がテレビ200に対して制御対象を特定するための制御信号を送信する。これに応じて、テレビ200が自身を特定する情報(型番やIDなど)信号をモバイル機器100に送信する。外部機器制御部15は同信号を受信して、制御対象テレビを特定する。 あるいは、ユーザが入力インターフェース1を介して制御対象テレビを特定する情報(型番やIDなど)を設定してもよい。 【0036】 テレビ制御アプリが起動すると、表示画面制御部14は、番組表データに基づき、 望ましくはモバイル機器100の位置において放送される放送局や現在時刻も考慮して、番組表画面を生成してディスプレイに表示してもよい。また、外部機器制御部15は、テレビ200と双方向通信可能な場合には、テレビ200の状態(電源がオンかオフか、オンの場合にどの番組が表示されているか、画質や音質・音量などの設定はどうなっているかなど)を取得してもよい。 【0069】(第2の実施形態) 次に説明する第2の実施形態は、モバイル機器100のディスプレイ2aに音質調整画面(GUI)を表示し、テレビ200など音響機器の音質(例えば音量)の調整や制御を行うものである。以下、音量の調整を中心に説明する。なお、音響機器とは、テレビの他、スピーカ、アンプ、オーディオプレーヤ、音声処理装置などを含む。また、以下の実施形態で説明する機能は、第1の実施形態で説明したものとは別個の機能であってもよい。 【0070】 図5は、音量調整を行うために、表示画面制御部14がディスプレイ2aに表示する音量調整画面の例である。音量調整を行うための所定の操作がユーザによって行われた際に、このような画面が表示される。音量調整画面は、音量を示す形状の図形を音量表示として含むのが望ましく、以下では音量が大きいほど長いバー61(例えば実線のバー(図5(a1)、細切れのバー(図5(a2)))を含むものとする。また、音量を数値で示してもよい。 【0071】 ここで、音量調整画面が表示されていない状態から初めに音量調整画面を表示する場合、バー61の長さは、現在の音量に対応しているのが望ましい。現在の音量は、ユーザによる最新の調整結果をモバイル機器100内に記憶しておいてもよいが、本画面を表示する際にテレビ200との双方向通信を行って実際にテレビ200に設定されている現在の音量を取得するのがより望ましい。具体的には、外部機器制御部15が現在の音量を問い合わせるための制御信号をテレビ200に送信し、 これに応じてテレビ200から現在の音量を示す信号を受信すればよい。すなわち、 テレビ200が生成した信号に基づいて、外部機器制御部15が現在の音量を把握すればよい。 【0072】 そして、ユーザは、入力インターフェース1を介し、バー61を利用した音量調整のための操作を行うことができる。このようなユーザ操作に応じて、調整後の状態(音量)を反映させて表示画面制御部14がバー61の長さ(大きさ)を更新するとともに、外部機器制御部15がテレビ200の音量を調整するための制御信号を生成してテレビ200に送信することにより、音量を調整する。 【0073】 例えば、タッチパネル1aにおいて、ユーザがバー61の右端を指でタッチし、 タッチしたまま右側(バー61を伸ばす(大きくする)方向)に指をスライドさせた場合(図5(b1)、(b2)))、表示画面制御部14がスライド量に応じてバー61を右方向に伸ばすとともに、伸ばした後のバー61の長さに応じて(言い換えるとスライド量に応じて)、テレビ200の音量を大きくするための制御信号が生成される。 【0074】 逆に、左側(バー61を縮める(小さくする)方向)に指をスライドさせた場合(図5(c1)、(c2))、表示画面制御部14がスライド量に応じてバー61を左方向に縮めるとともに、縮めた後のバー61の長さに応じて(言い換えるとスライド量に応じて)、テレビ200の音量を小さくするための制御信号が生成される。 【0075】 このようにすることで、音量調整画面におけるバー61の伸縮(必要に応じて数値の更新、以下同じ)と、テレビ200の音量調整とを同期して行うことができる。 なお、バー61の長さは、指をスライドさせることに限らず、任意のユーザ操作によって伸縮可能であってもよい。 【0076】 ただし、モバイル機器100とテレビ200との間の通信が不安定な場合など、 音量を調整するための制御信号がモバイル機器100からテレビ200に届かないこともある。その場合、モバイル機器100上では音量が調整されたことになっていてバー61の長さが更新されるのに、実際にはテレビ200の音量が調整されず、 齟齬が生じてしまう。 【0077】 そこで、制御信号によってもテレビ200の音量を調整できない場合、表示画面制御部14は、バー61の長さを伸縮させる前(すなわちユーザ操作が行われる前)の音量に対応する長さに戻してもよい。これにより、テレビ200の音量は調整されないのに、表示画面制御部14が示す音量(バーの長さ)のみが更新されること、 つまり、テレビ200の実際の音量と音量調整画面が示す音量との不一致を防げる。 この場合、テレビ200の音量を調整できないこと(テレビ200と通信できないこと)をディスプレイ2aに表示したり、アラームを発したりしてもよい。 【0078】 音量を調整できるか否かは、テレビ200に由来する所定の信号を受信できるか否かによって表示画面制御部14が判断してもよい。例えば、テレビ200は、モバイル機器100から音量を調整するための制御信号を受信すると、音量を調整するのみならず、同制御信号を受信したことを示す通知(Ack)あるいは音量調整が完了したことを示す通知を返送するのが望ましい。このような通知を通信制御部16が所定期間内に受信できた場合、テレビ200の音量を調整できると判断される。一方、外部機器制御部15が制御信号を送ったが一定期間テレビ200から同通知を受信できない場合、表示画面制御部14はテレビ200の音量を調整できないと判断される。 【0079】 あるいは、テレビ200の音量を調整できないことが予め分かる場合、例えば通信状況が悪くテレビ200と通信できない場合や、テレビ200の電源がオフである場合には、音量を調整するためのユーザ操作がなされても、表示画面制御部14はバー61の長さを更新しないようにしてもよい。すなわち、テレビ200との直接あるいは間接的な通信が可能である場合のみ、表示画面制御部14は音量調整画面を更新できるようにしてもよい。 【0080】 なお、以上はテレビ200の音量を調整する例を示したが、テレビ200とアンプ(不図示)が接続され、当該アンプにスピーカが接続されることもある。その場合、外部機器制御部15は、直接アンプを制御してスピーカの音量を調整してもよいし、テレビ200を介して間接的にアンプを制御してスピーカの音量を調整してもよい。後者の場合、モバイル機器100からテレビ200に音量調整のための制御信号がテレビ200に送信され、テレビ200からアンプに音量調整のための制御信号が送信される。 【0081】 図6は、5.1チャンネル用スピーカの音量調整を行うための音量調整画面の例である。同画面には各スピーカ62a〜62fがその配置位置に対応付けて表示され、さらに各スピーカの音量を示すバー63a〜63fがそれぞれ表示される。各スピーカの音量調整は上述した通りであり、スピーカごと個別に調整可能であってもよいし、全てのスピーカの音量を共通(連動)して調整可能であってもよいし、 個別の調整および共通の調整を切り替え可能であってもよい。また、スピーカの数に制限はなく、2.1チャンネルや7.1チャンネルなどであってもよく、複数のスピーカの音量表示を、配置位置に対応付けてディスプレイ2aに表示すればよい。 【0082】 なお、各スピーカ62a〜62fは、テレビ200に直接接続されるものでもよいし、別個の音響機器に接続されるものでもよい。後者の場合、モバイル機器100は、音響機器を直接制御してもよいし、テレビ200を介して音響機器を制御してもよい。 【0083】 このように、第2の実施形態では、モバイル機器100のディスプレイに音質表示を含む音質調整画面を表示する。そのため、簡易かつ直感的に音質を調整できる。 また、テレビ200に音質調整画面を表示するわけではないので、テレビ200による映像表示を邪魔しない。なお、以上は音質として音量を調整することを説明したが、音量以外の音質を制御してもよい。 【図1】【図2】【図3】【図5】(2) 本願発明の概要 前記第2の2の特許請求の範囲の記載、前記(1)の本願明細書の記載及び弁論の全趣旨によると、本願発明の概要は、次のとおりであると認められる。すなわち、 本願発明は、スピーカを有するがテレビではない制御対象機器の状態(スピーカの音質又は音量)を制御するモバイル機器等の制御装置(タッチパネルディスプレイを有するもの)に関するものである。制御装置のタッチパネルディスプレイ(制御対象機器の状態が表示されるもの)においてタッチ操作をし、これに基づく制御信号を送信して制御対象機器の状態を制御するとの技術にあっては、タッチパネルディスプレイに表示された制御対象機器の状態と制御対象機器の実際の状態とが一致している必要があるところ、制御装置と制御対象機器との間の通信が可能でないにもかかわらずタッチパネルディスプレイにおけるタッチ操作がされた場合、これにより制御対象機器の状態を更新することはできないから、このような場合にタッチパネルディスプレイに表示された制御対象機器の状態が通常どおりに更新されてしまうと、タッチパネルディスプレイに表示された制御対象機器の状態(更新がされたもの)と制御対象機器の実際の状態(更新がされないもの)との間に齟齬が生じてしまうという課題が生じる。本願発明は、このような課題を解決するため、制御装置と制御対象機器との間の通信が可能でない場合には、制御対象機器の状態に係るタッチパネルディスプレイ上の表示を更新できないとの構成を採用することとしたものである。 2 甲1に記載された発明の認定について(1) 甲1の記載 甲1には、次の記載がある。 【技術分野】【0001】 本開示は、複数の音声出力装置の音量設定状態を制御することのできる制御端末装置と制御方法、及びプログラムに関する。 【0003】 例えば複数チャンネルの音声信号が入力されるミキサー機器などでは、上記特許文献1、2のように、マスターフェーダーによって各チャンネルの音量バランスを保ったまま、ミックス後の音量レベルを制御するものが知られている。 【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0004】 しかしながら、ミキサーのような各チャンネルの音声信号のミックス後のレベルを制御するものではなく、個別の音声出力装置の音量をそれぞれ適切に制御するものは開発されていない。 例えばホームネットワークシステムでは、各部屋に配置されたそれぞれの音声出力装置が、1つのソース機器から配信される音楽コンテンツ等を受信し、それぞれが再生出力する。これにより各部屋で同じ音楽が流れている状況を作り出すことができる。 【0005】 このようなシステムでは、以下のような状況が想定される。 ・複数の各音声出力装置の音量を個別に制御したい。 ・複数の音声出力装置の音量を、各音声出力装置間の音量バランスを崩さずに一括して制御したい。 ・複数の音声出力装置の音量を、各音声出力装置間の音量バランスを崩してでも一括で制御したい。 【0006】 本開示では、例えばこれらのような状況に対応して、容易に複数の音声出力装置の音量制御を行うことができる制御端末装置、制御方法を提供することを目的とする。 特に、例えばホームネットワークシステムなど、一般にPA(パブリックアドレス)用途などで用いられる音響調整卓(ミキサー)が存在しない環境において、複数の音声出力装置の音量制御を適切に行うことができるようにする。 【課題を解決するための手段】【0007】 本開示の制御端末装置は、複数の音声出力装置に対する制御信号を送信出力する送信部と、表示部と、上記表示部における表示内容に対する操作を検出する操作検出部と、上記表示部に、上記複数の音声出力装置のそれぞれについて、音量設定を示しつつ音量設定を可変操作可能とする操作子を含む個別音量設定部と、複数の音声出力装置の音量設定を同時に可変操作可能とする操作子を含むマスター音量設定部とを表示させるとともに、上記操作検出部により上記マスター音量設定部に対する操作が検出された場合に、当該操作の際におけるマスター音量設定部の操作可能量に対する検出された操作量の割合と同じ割合となる、各個別音量設定部の操作可能量に対する値を用いて、各個別音量設定部の音量設定を変更し、新たな音量設定を指示する制御信号を発生させて上記送信部から送信出力させる制御部とを備える。 【発明の効果】【0010】 本開示によれば、制御端末装置を用いて、ネットワーク上の複数の音声出力装置に対する個別の音量操作や一括した音量操作を容易に実行できる。特に一括した音量操作についてはマスター音量設定部の操作により、音量調整が円滑に可能となる。 【発明を実施するための形態】【0012】 以下、実施の形態を次の順序で説明する。 <1.基本構成><2.ホームネットワークシステム><3.機器構成> [3-1:再生装置] [3-2:ネットワークスピーカ] [3-3:リモートコントローラ]<4.音量操作表示を用いた操作(音量バランス維持状態)>…【0017】<2.ホームネットワークシステム> 例えば上記図1の基本構成の実際の態様となる家庭内ネットワークシステムの構成を図2で説明する。 図2では、或る家屋において、部屋A、B、C、Dの4部屋で、家庭内ネットワークシステムを使用する例を示している。 ここで「家庭内ネットワークシステム」と呼んでいるが、もちろん本例のシステムが使用される場所は「家庭」に限られない。例えば会社、学校、公共施設などでも使用可能である。また、必ずしも同一の建物内の「部屋」でなくとも、敷地内の庭、ガレージ、倉庫など、屋外や別の建物内も、ここでいう「部屋」と考えて良い。 つまり本例の場合、或る部屋の1つの電子機器がサーバとなった他の各電子機器に同一の音楽コンテンツや映像コンテンツを配信し、各「部屋」で視聴できるようにするものであるが、同一のコンテンツを配信する先の「部屋」は多様に考えられる。 但し本例の場合は、インターネット等の公衆ネットワークで実行されるような広い範囲での配信ではなく、或る程度狭い範囲での配信を行うシステムと考えることが適切である。 なお実施の形態の説明では、音楽コンテンツの配信を行うシステムとして説明していく。 【0018】 実施の形態の家庭内ネットワークシステムは、各部屋に配置された各種の電子機器が通信網(ネットワーク)4を介して相互に通信可能に構成される。 図2では、比較的シンプルな例を示している。 【0019】 この図2の例では、部屋Aには再生装置1が配置されている。 また部屋Bには、ネットワークスピーカ2Bが配置されている。 また部屋Cには、ネットワークスピーカ2Cが設置されている。 また部屋Dには、ネットワークスピーカ2Dが設置されている。 【0020】 またここでは部屋Aには表示機能及びタッチパネル機能を備えたリモートコントローラ3が配置されているとしている。 例えばこのリモートコントローラ3は無線又は有線で通信可能なアクセスポイント5を介してネットワーク4上の各機器と通信し、制御コマンドを送信したり、各機器の情報、例えば各機器の音量設定情報を取得すること等ができる。 ユーザはリモートコントローラ3を用いて、各部屋A〜Dの各機器の音量調整などを行うことができる。 …【0021】 再生装置1は、例えば音楽コンテンツの再生部やスピーカ部等を備え、独自に音楽等の再生を行うことができる機器である。 再生装置1は、コンテンツデータを、ハードディスクドライブ(HDD:HardDisk Drive)、フラッシュメモリ、複数毎の光ディスク、例えばCD(CompactDisc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc(登録商標))等を収納した交換型光ディスクプレーヤなどから再生する。 そして再生した音楽コンテンツデータを、内蔵スピーカや接続されたスピーカ等から出力できる。 その一方で再生装置1は、ネットワーク4で各機器と通信可能とされることで、 サーバ装置として機能できる。即ち再生装置1はサーバ装置として、ネットワーク4上の他の装置(ネットワークスピーカ2B、2C、2D)に対して再生した音楽コンテンツデータを配信することができる。 【0022】 ネットワークスピーカ2B、2C、2Dはアンプ及びスピーカ部を備えた音声出力機器であるが、特にネットワーク通信機能を備え、システム上でクライアント装置として機能できる機器である。 例えば再生装置1がシステム上のサーバとなった場合、ネットワークスピーカ2B、2C、2Dは再生装置1から配信されてくる音楽コンテンツを受信し、音楽として出力することができる。 【0023】 ネットワーク4は、例えば家庭内の通信が可能とされる有線又は無線の伝送路により構成される。 …【0046】 [3-3:リモートコントローラ] 次にリモートコントローラ3の構成例を図5で説明する。 リモートコントローラ3は、制御部41、コマンドメモリ42、送受信部43、 表示駆動部44、表示部45、タッチパネルセンサ46、位置検出部47を備える。 【0048】 このリモートコントローラ3では、ユーザ操作は、主にタッチパネル操作で行われる。このため表示部45が設けられ、表示部45の表示面上にはタッチパネルセンサ46が形成される。 … 表示部45には、例えば操作用のボタン、アイコン等が表示され、各種の操作入力が可能とされる。本実施の形態では、操作入力のための表示の一つとして、図6以降で述べるように、表示部45に音量操作表示70が行われ、ユーザはこれに対するタッチ操作で操作入力を行うことができる。 つまり、いわゆるGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)としての機能でユーザに操作手段を提供するものとなる。 【0050】 制御部41には、そのソフトウエアプログラムによって実現される機能構成として、コマンド読出部41a、送受信制御部41b、入力検知部41c、表示制御部41dが形成される。 入力検知部41cは、位置検出部47からのタッチ位置の情報を認識し、そのタッチ位置、或いはタッチ操作の軌跡により、ユーザの求める操作内容を判定する。 コマンド読出部41aは、入力検知部41cが判定した操作内容に応じてコマンドメモリ42からコマンドコードを読み出し、送受信制御部41bに供給する。 送受信制御部41bは、コマンド読出部41aが読み出したコマンドコードを送受信部43に送信させる制御を行う。この場合、送受信部43は、コマンドコードを変調し、所定の通信方式でネットワーク4上の制御対象機器に送信する。 また送受信制御部41bは送受信部43によってネットワーク4上の他の機器から送信されてきた情報、例えば各機器の現在の音量設定情報の受信処理を行う。各機器の音量設定情報については、後述する音量操作表示での表示内容に反映させる。 表示制御部41dは、表示部45での表示内容とする表示データを表示駆動部44に供給する。例えば操作アイコン表示、操作メニュー表示、音量操作表示などを表示部45で実行させる表示データを生成する。 また、表示制御部41dは、入力検知部41cで検知されたタッチ操作に応じて、 表示画面上の表示内容を変化させる制御も行う。 【0051】 このリモートコントローラ3は、ユーザがタッチ操作を行うことに応じて、そのタッチ操作に応じたコマンドコードをコマンドメモリ42から読み出し、ネットワーク4上の所要の機器に対して制御コマンドとして送信する。 上述のように、このリモートコントローラ3が、請求項でいう制御端末装置に相当することとなる。 この図5の構成の場合、送受信部43が請求項でいう送信部、及び受信部に相当する。 また表示部45、表示駆動部44が請求項でいう表示部に相当する。 またタッチパネルセンサ46、位置検出部47、入力検知部41cが、請求項でいう操作検出部に相当する。 また、制御部41が請求項でいう制御部に相当する。 【0052】<4.音量操作表示を用いた操作(音量バランス維持状態)> 本実施の形態では、リモートコントローラ3によって、ネットワーク4上の複数の音声出力装置(再生装置1、ネットワークスピーカ2B、2C、2D)に対する音量制御を行うことができる。 ここではまず、ネットワークスピーカ2B、2C、2Dの各音量を個別に制御する場合、及び再生装置1、ネットワークスピーカ2B、2C、2Dの音量を、各装置間の音量バランスを崩さずに一括して制御する場合について述べる。 …【0053】 リモートコントローラ3の表示部45では、例えば図6に音量操作表示70として示すようなGUI表示が行われる。 この音量操作表示70としては、マスター音量設定部FDMと、個別音量設定部FD1〜FD4としての表示を含む。 個別音量設定部FD1〜FD4は、制御対象となる音声出力装置に対応するものとされる。つまり本例の場合、再生装置1に対応して個別音量設定部FD1が表示される。 またネットワークスピーカ2Bに対応して個別音量設定部FD2、ネットワークスピーカ2Cに対応して個別音量設定部FD3、ネットワークスピーカ2Dに対応して個別音量設定部FD4が、それぞれ表示される。 一方、1つのマスター音量設定部FDMが表示されるが、これは複数の音声出力装置の音量を一括制御するための表示とされる。 【0057】 一方、個別音量設定部(FD1〜FD4)にも、それぞれスライドバー(SL1〜SL4)、ノブ(N1〜N4)、数値表示部(L1〜L4)、ミュートボタン(MT1〜MT4)が含まれる。 【0058】 例えば個別音量設定部FD1について述べると、ユーザはスライドバーSL1上でノブN1を左右に移動させることで、対応する音声出力装置である再生装置1の出力音量の設定を増減させることができる。ノブN1を左側に移動させる操作は、 再生装置1に対して設定音量を下げる操作となり、ノブN1を右側に移動させる操作は、再生装置1に対して設定音量を上げる操作となる。 …【0059】 またスライドバーSL1の全長は、例えば「0」〜「100」までの101段階の音量設定に対応するものとされ、現在の音量設定値が数値表示部L1に表示される。この図6の場合、ノブN1はスライドバーSL1の中央にあるため、数値表示部L1には「50」と表示される。 またミュートボタンMT1は、対応する音声出力装置のミュート操作を行うための表示である。つまりユーザは、ミュートボタンMT1を操作することで、再生装置1に対して設定音量を変更しないままの状態での音声出力の停止(ミュート)を指示できる。 【0060】 このように個別音量設定部FD1を用いることで、ユーザは、再生装置1に対する出力音量設定の可変操作を行うことができるとともに、現在の音量設定状態を数値やスライドバー(ノブ位置)で一目で確認することができる。また、ミュート操作により、再生装置1を一時的に消音させるなども可能となる。 また個別音量設定部FD2〜FD4によっては、ユーザはネットワークスピーカ2B、2C、2Dのそれぞれについて、任意に音量設定操作やミュート操作を行うことができ、また現在の音量設定状態を確認できる。 【0061】 音声出力装置個別の操作を図7Aに示す。 例えばユーザは、再生装置1の音量設定を上げたいと思った場合は、図のようにノブN1にタッチしながら、ノブN1をスライドバーSL1上で右に移動させる。 図5に示した制御部41は、このようなユーザ操作を検知することに応じて、表示上でノブN1がユーザの指について移動されていくようにし、数値表示部L1の数値も変化させる。また、その操作に応じて、制御部41は、再生装置1についての出力音量設定を内部的に更新すると共に、再生装置1に対して、その操作量に応じた分だけ上昇させる制御コマンド(更新された音量設定値を指示する制御コマンド)を送信する。 例えば図のように、ユーザがノブN1を「75」の位置まで移動させた場合、音量設定状態を「75」に相当するレベルまで上昇させる制御コマンドを再生装置1に送信する。再生装置1の制御部11は、この制御コマンドの受信に応じて、アンプ部17での出力音量設定を可変制御する。これにより、部屋Aにおける再生装置1の出力音量が「75」相当のレベルまで上昇される。 【0065】 また、実際にはリモートコントローラ3による制御のみではなく、各部屋の音声出力装置側での音量操作も行われる。例えば音声出力装置本体の音量操作子の操作や、その音声出力装置に対応するリモートコントローラによる操作によるものである。 リモートコントローラ3は、各音声出力装置と送受信部43により通信を行い、 各音声出力装置側で音量操作があったことも検知する。音声出力装置において音量操作が行われたことを検知した場合は、制御部41は、該当する音声出力装置の個別音量設定部についての音量設定値も更新し、かつ表示上も、その個別音量設定部のスライドバー上のノブ位置や数値表示部の表示も、実際の音声出力装置の音量設定状態に即して変化させる。 例えば図7Aは、ユーザが個別音量設定部FD1のノブN1を「75」の位置まで移動させた場合として説明したが、実際にユーザが再生装置1の本体の音量操作子を用いて、音量設定を「75」まで変化させたとしても、リモートコントローラ3における表示状態は図7Aのようになる。 これにより、リモートコントローラ3における音量操作表示70は、常に実際の音量設定を表す表示状態とされる。 【図2】【図5】【図6】【図7】(2) 前記(1)の甲1の記載によると、甲1に記載された発明は、複数の音声出力装置(再生装置1等)の音量設定状態を制御することができる制御端末装置(リモートコントローラ3)において、複数の音声出力装置の音量を個別に容易かつ適切に制御すること、複数の音声出力装置の音量を各音声出力装置の間の音量バランスを崩さずに一括して容易かつ適切に制御すること及び複数の音声出力装置の音量を各音声出力装置の間の音量バランスを崩してでも一括して容易かつ適切に制御することを目的とする発明であると認められ、甲1に記載された発明について、これが制御端末装置と音声出力装置との間の無線通信ができない場合に生じる課題を解決するものであると認めることはできない。また、甲1には、「これにより、リモートコントローラ3における音量操作表示70は、常に実際の音量設定を表す表示状態とされる。」との記載(段落【0065】)があるが、同段落の他の箇所の記載をみると、同段落にいう「常に」との記載は、リモートコントローラ3における操作に基づいて再生装置1等の音量操作が行われる場合及び再生装置1等における操作に基づいて再生装置1等の音量操作が行われる場合のいずれであっても、リモートコントローラ3における音量操作表示70は再生装置1等における実際の音量設定を表す表示態様とされるとの趣旨であると解され、同段落の「これにより、リモートコントローラ3における音量操作表示70は、常に実際の音量設定を表す表示状態とされる。」との記載をもって、甲1に記載された発明において、リモートコントローラ3と再生装置1等との間の無線通信ができない場合を想定し、そのような場合も含めてリモートコントローラ3における音量操作表示70と再生装置1等における実際の音量設定が常に一致するようにしていると認めることはできない。 その他、甲1の記載によっても、甲1に記載された発明において、リモートコントローラ3と再生装置1等との間の無線通信ができない場合を想定し、そのような場合も含めてリモートコントローラ3における音量操作表示70と再生装置1等における実際の音量設定が常に一致するようにしていると認めることはできない。もっとも、甲1の記載を総合しても、甲1に記載された発明において、リモートコントローラ3と再生装置1等との間の無線通信ができない場合を技術的にあり得ないものとしておよそ排除しているとまで認めることはできない(甲1に記載された発明は、そのような場合について、単に検討を加えていないだけのものであると解される。)。 以上のとおりであるから、甲1に記載された発明については、リモートコントローラ3と再生装置1等との間の無線通信ができない場合を想定し、そのような場合も含めてリモートコントローラ3における音量操作表示70と再生装置1等における実際の音量設定が常に一致するようにしている発明ではないが、他方で、そのような場合を技術的にあり得ないものとしておよそ排除しているとまではいえない発明であると理解するのが相当である。なお、本件審決が認定した甲1発明のうちリモートコントローラ3における音量操作表示70の表示状態に係る部分を除くその余の部分については、原告も本件審決の認定を争うものではなく、前記(1)の甲1の記載によっても、当該部分についての本件審決の認定は相当であると認められる。 以下、甲1に記載された発明(上記の趣旨に理解され、その余の部分については本件審決が認定した甲1発明と同じもの)を「引用発明」ということとし、そのような引用発明を前提として、相違点に係る本件審決の判断の当否について検討する。 3 公知技術の認定について (1) 甲4の記載 甲4には、次の記載がある。 【技術分野】【0001】 本発明は、デジタルカメラで撮影した画像をテレビ画面に表示することができるデジタルカメラおよびテレビに関するものである。 【0006】 …本発明の目的は、所望のように、デジタルカメラで撮影した画像をテレビ画面に表示することができるデジタルカメラおよびテレビを提供することにある。 【課題を解決するための手段】【0007】 本発明の前記目的は、被写体を撮像する撮像部と、前記撮像部からの信号に基づいて画像信号を記録する記録部と、前記記録部の画像信号をテレビに送信する無線通信部と、デジタルカメラ操作部と、少なくとも前記テレビと無線通信状態にあるときに、前記デジタルカメラ操作部の操作を無効化する操作制御部とを有することを特徴とするデジタルカメラによって達成される。 【発明を実施するための最良の形態】【0011】 図1は、本発明の第一の実施例のシステムブロック図であり、高精細テレビ1、 高精細テレビ1に付属しているテレビリモコン2、およびデジタルカメラ3を含む。 高精細テレビ1は、テレビリモコン2によって操作可能であるとともに、デジタルカメラ3からも直接操作可能である。つまり、デジタルカメラ3は、高精細テレビ1のリモコン機能も具備している。 【0012】 上記リモコン機能について詳述する。…一方、デジタルカメラ3の制御部311は、ユーザによる操作部312の操作を検知し、無線USB通信部313から、高精細テレビ1の無線USB通信部112にリモコン操作のための電波信号を送る。 …【0021】 次に、本発明の第一の実施例に基づき、デジタルカメラ3の画像を高精細テレビ1で表示する場合について説明する。第一の実施例では、デジタルカメラ3が再生モードに設定されていて、ある画像が表示部315に表示されている場合、操作部312を操作することによって、簡単にその画像を高精細テレビ1のテレビ画面表示部117に表示させることを可能とするように構成されている。 【0022】 以下、上記の構成を具体的に説明すると、ある画像が表示部315に表示されている場合において、操作部312によりテレビ再生を指示すると、対応する圧縮静止画信号が記録部317から読み出され、無線USB通信部313から高精細テレビ1の無線USB通信部112に送信される。 【0028】 図2は、第一の実施例におけるデジタルカメラ3の制御部311の動作を示す基本フローチャートである。フローがスタートすると、ステップS1では、デジタルカメラ3の電源がオンされているかどうかを見る。オンされていなければ、元に戻り、操作部312よるオン操作を待つ。 【0029】 既に電源がオンされているか又は操作部312による電源オン操作があった場合は、ステップS2に進み、再生モードかどうかを見る。再生モードであればステップS3に進み、例えば最新画像などの所定の画像を記録部317から読み出して伸張し表示部315に表示する。なお、既に何らかの画像が表示部315で再生されている場合にはステップS3ではその再生を継続する。次にステップS4に進み、 高精細テレビ1との間で、信号の送受信を試みて、無線USBによる通信が可能な環境であるかどうかをチェックする。ここに、通信が可能な環境とは、デジタルカメラ3が高精細テレビ1の通信圏内にあり、かつ高精細テレビ1の主電源がオンされていて通信の待機状態にあることを指す。このように、第一の実施例では、デジタルカメラ3が再生モードにあるときに高精細テレビ1への画像送信を可能にする。 【0031】 ステップS4において、無線USB通信が可能と判断されたときはステップS5に進む。ステップS5では、表示部315に再生表示されている画像を高精細テレビ1上で再生するためのテレビ再生操作をユーザが操作部312で行ったかどうかをチェックする。テレビ再生操作が行われたときはステップS6に進み、高精細テレビ1との交信によりテレビ再生処理を行う。…【0032】 一方、ステップS4において、無線USB通信が不能と判断されたときは、ステップS7に移行する。従って、上記のテレビ再生に関するステップS5、ステップS6の処理は行わない。…【0033】 ここで、以上のステップS4からステップS7までの機能を実現するための具体的な構成を説明する。具体的な構成としてはいくつかのものが可能であるが、まず、 第一の構成としては、操作部312によって可能な操作のメニューを表示部315に表示できるようにしておき、そのメニューの中に「テレビ再生」という項目も表示可能としておく。そして、ステップS4において無線USB通信が可能と判断されてステップS5に進んだときは、メニュー表示中に「テレビ再生」という項目も表示されるようにする。従って、ユーザは、ステップS5において操作部312を操作し、メニューの中から「テレビ再生」を選択することができる。一方、ステップS4において無線USB通信が不能と判断されてステップS7に移行したときは、 メニュー表示中に「テレビ再生」という項目自体が表示されないようにする。従って、ユーザは、操作部312を操作し「テレビ再生」を選択することができなくなる。 【0034】 ステップS4からステップS7までの機能を実現するための第二の構成としては、 上記と異なり、メニュー表示中には常に「テレビ再生」という項目が表示されるようにしておく。ステップS4において無線USB通信が可能と判断されてステップS5に進んだときに、ユーザが操作部312を操作し、メニューの中から「テレビ再生」を選択することができるのは上記第一の構成と同じである。一方、ステップS4において無線USB通信が不能と判断されてステップS7に移行したときは、 メニュー表示中の「テレビ再生」という項目を操作部312で選択したとしてもその操作が無効になるよう構成する。従って、ユーザは「テレビ再生」を選択することができない。…【0035】 上記第二の構成の場合、「テレビ再生」の指示を表示部315のメニューを操作部312で選択する構成に代えて、「テレビ再生」指示のための操作ボタンを操作部312に設けるようにし、無線USB通信が不能とされてステップS7に移行したときは操作ボタンを押してもその操作が無効となるよう構成してもよい。操作ボタンは無線USB通信が可能であるか否かに拘わらず、常に操作部312に存在するから、このような構成も第二の構成の一種である。 【0133】 なお、デジタルカメラ3と高精細テレビ1の通信は直接行われる場合に限らず、 家庭内が無線LAN等の無線通信可能な環境にあれば、無線LANを統括するサーバを介して通信を行うようにしてもよい。このことは第一の実施例や第二の実施例でも同様であり、これらの実施例においても、デジタルカメラ3と高精細テレビ1の通信は無線USBに限らず、無線LANであってもよく、また、直接通信に限らず、サーバ等の他の機器を経由するものであってよい。 【図1】【図2】(2) 乙1の記載 乙1には、次の記載がある。 ア 「[考案の技術分野] 本考案はリモート・コントロール送受信装置に係り、例えばテレビジョン受像機の選局、電源の開閉、音量調節などを遠隔操作するリモート・コントロール送信装置及び受信装置において、送信装置及び受信装置の各々に送信機能と受信機能を具備させ、かつ送信装置に表示機能を装備してテレビジョン受像機の選局チャンネル、 音量レベル、輝度レベルなどの調節及び表示を行えるようにしたリモート・コントロール送受信装置に関する。」(2頁7〜16行目) イ 「[考案の技術的背景] 一般に、…超音波や光線(赤外線)を用いて無線によるリモート・コントロール(遠隔操作)を行うようにした電気機器、例えばテレビジョン受像機においては、 選局、電源の開閉、音量調節などの操作をリモート・コントロール送信機によって行っている。」(2頁17行目〜3頁2行目) ウ 「[背景技術の問題点] ところで、例えばリモート・コントロール機能を装備したテレビジョン受像機においてはテレビジョン受像機の画面を注目する上でチャンネル表示等の表示を受像機本体面に目立たせないことが望ましい。 … また、単にリモート・コントロール送信機に表示機能を付加した構成を考えた場合、リモート・コントロール送信機の操作によって生じた信号が受像機本体に届かなかったりして受信できず動作もしない状態にあるとき、リモート・コントロール送信機の表示だけが変わり受像機本体と同調されないという結果になる。」(3頁19行目〜5頁5行目) エ 「尚、本考案では、テレビジョン受像機について説明したが、制御対象はテレビジョン受像機に限ることなく種々の機器に応用することが可能である。」(14頁5〜8行目)(3) 乙2の記載 乙2には、次の記載がある。 ア 「産業上の利用分野 本発明はガス給湯機や石油ボイラー等の家庭用設備機器を電波を用いて遠隔制御するためのワイヤレスリモコン装置に関する。」(1頁右欄18行目〜2頁左上欄1行目) イ 「従来の技術 従来のこの種のワイヤレスリモコン装置は、テレビ受像機の赤外線リモコン等が一般的である。」(2頁左上欄2〜4行目) ウ 「発明が解決しようとする課題 しかし、このような赤外線リモコンの場合、当然壁を隔てての遠隔制御は不可能である。そこで電波を用いたワイヤレスリモコン装置によって、壁を隔てた遠隔制御を実現しようということが考えられる。しかし、電波を用いたワイヤレスリモコン装置の場合、次のような課題がある。」(2頁左上欄5〜11行目) エ 「課題を解決するための手段 上記課題を解決するために本発明のワイヤレスリモコン装置は、電波を利用して信号を伝送するための送信手段と、機器本体を制御するための制御内容を設定する制御データ設定手段と、設定された制御データを前記送信手段によって送信するための専用の送信操作手段を備えたものである。 また、本発明は前記制御データ設定手段は、液晶表示素子等の表示手段とキー入力手段で構成され、送信する前に制御内容を全てキー入力操作によって表示手段上に表示させた後、前記送信操作手段を操作することによって一括して制御データを送信するリモコン制御手段を備えたものである。 さらに、本発明は前回送信された制御データを記憶しておくための制御データ記憶手段と、前記キー入力手段の入力操作の時、初期化の後に計時を開始する制御タイマー手段と、前記キー入力手段で設定操作した後、前記制限タイマー手段によって制限される所定時間内に前記送信操作手段が操作されない場合、前記制御データ記憶手段の内容を前記表示手段上に表示する構成のリモコン制御手段を備えたものである。 さらに、本発明は機器本体からの応答信号を受信するための受信手段と、前記送信手段によって制御データを送信した後、前記受信手段によって機器本体からの応答信号を受信できなかった場合、前記制御データ記憶手段の内容を前記表示手段上に表示させる構成のリモコン制御手段を備えたものである。」(2頁右上欄9行目〜左下欄18行目) オ 「作用… 又、リモコン装置が受信手段を持っている場合、機器制御データを伝送したが、 機器本体からの応答信号が受信できなかった場合にも、表示内容を前の状態に戻すことが容易に可能となる。これらの作用によってリモコン装置の表示内容と機器本体の動作状態の整合性を採ることが可能となる。」(2頁右下欄3行目〜3頁左上欄4行目) カ 「実施例 以下、本発明の実施例を添付図面にもとづいて説明する。第1図は本発明の一実施例の外観図である。1はリモコン装置本体、2は電波信号を送受するためのアンテナである。3は液晶表示素子などで実現される表示手段、4a、4b、4cはキー入力手段であって、機器本体を制御するための制御データを設定する制御データ設定手段を構成する。5は専用に設けた送信キーであり、これを押すことによって、 前記設定された制御データを電波信号としてアンテナ2より発射することができる送信操作手段を構成している。」(3頁左上欄8〜19行目) キ 「次に、以上説明した第1図、第2図の構成のもとに本発明のリモコン装置の動作を第3図のフローチャートおよび第4図のタイミング図を用いて説明する。 ステップ13では、キー入力手段4から制御データ設定がなされることを待ち受けており、制御データ設定がなされると、ステップ14でその内容の解読とその表示処理を行い、ステップ15で制限タイマー11を起動する。ステップ16では、 送信キー5が押されるのを待ち、押されるとステップ17で制限タイマー11を停止させる。ステップ18でビジー表示をオンにし、ステップ19ではステップ14で設定された制御データを送信手段9より送信する。… 受信手段10が有る場合には、ステップ21で機器本体からの応答信号の受信処理を行い、ステップ22でビジー表示をオフにする。ステップ23で応答信号が正常に受信されたか判定し、正常に受信された場合にはステップ24で送信済みの制御データを制御データ記憶手段12に記憶する。 … 又、受信手段10を有する場合で、ステップ23で正常に応答信号を受信しない場合も、ステップ26で元の制御データに戻す。」(3頁右上欄17行目〜右下欄7行目) ク 「発明の効果 以上のように本発明のワイヤレスリモコン装置によれば、次の効果が得られる。 …(2) …リモコン装置に受信機能を設けた場合には、制御データを伝送しても機器本体からの応答信号の受信が出来るので、もし応答信号が無いときには、通信不能と判断して、表示内容を元の制御内容に戻すこともできる。これらの機能によってリモコン装置の表示内容と機器本体の動作状態が常に一致した使い勝手の良いリモコンシステムが提供できる。」(3頁右下欄19行目〜4頁左欄19行目) (4) 乙3の記載 乙3には、次の記載がある。 技術分野[0001] 本発明の実施形態は、通信装置、及び通信システムに関する。 背景技術[0002] 従来、家電や設備機器を操作するための、家電や設備機器毎に操作するためのリモートコントローラは、従来から提案されている。これらリモートコントローラは、通常、家電や設備機器毎に、当該機器の仕様にあわせて設計されていた。 [0003] 近年の情報通信は発達の傾向にある。そこで、家電や設備機器を接続して、制御を容易にすることで、生活者に様々なサービスを提供する技術が提案されている。…[0005] しかしながら、従来技術においては、家や設備機器を操作するためのリモートコントローラは機器専用のものであるため、複数種類の家電や設備機器で利用すること、又は複数種類の家電や設備機器で通信するためのネットワークを共有することは考慮されていなかった。 [0006] 本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、一つの通信装置で複数種類の家電や設備機器の利用を可能とした上で、利用者の利便性を向上させる通信装置、及び通信システムを提供する。 [0009](第1の実施形態) 図1は、第1の実施形態にかかる住宅設備通信システムの例を示した図である。 図1に示す様に、住宅内に、第1の空調装置151、第2の空調装置152、第3の空調装置153、及び給湯器161が設置されている。…[0010] そして、本実施形態にかかる住宅設備通信システムは、携帯可能な通信端末(以下、携帯通信端末と称す)が、有線又は無線のネットワークを介して、 第1の空調装置151、第2の空調装置152、第3の空調装置153、及び給湯器161を制御する。 [0012] そして、ユーザは、携帯通信端末100における、タッチパネルを有する表示装置101を操作することで、第1の空調装置151、第2の空調装置152、第3の空調装置153、及び給湯器161を操作することができる。 [0016] …図3に示す様に、第1の実施形態にかかる携帯通信端末100は、 表示装置101、CPU(Central Processing Unit)301、システムコントローラ302、グラフィックスコントローラ303、タッチパネルコントローラ304、不揮発性メモリ305、RAM(Random Access Memory)306、音声処理部307、接続部311、無線通信I/F312、電源回路313等を備えている。 [0017] 本実施形態では、表示装置101は、タッチパネル311と、…表示画面(ディスプレイ)312と、を有している。…このタッチパネル311の働きにより、表示画面312はいわゆるタッチスクリーンとして機能する。 [0040] 送信制御部402は、空調装置(例えば、第1の空調装置151、 第2の空調装置152、第3の空調装置153)等や、給湯器161等の被制御機器に対して、データを送信する。例えば、送信制御部402は、操作受付部401が受け付けた操作に従って、設定を切り替える指示を送信する。 [0041] 受信制御部403は、空調装置(例えば、第1の空調装置151、 第2の空調装置152、第3の空調装置153)等や、給湯器161等の被制御機器から、データを受信する。例えば、受信制御部403は、被制御機器の現在の状態や、送信制御部402が送信した指示に対する結果等を受信する。 [0044] 次に、本実施の形態にかかる携帯通信端末100における、被制御機器に対する温度の切り替え処理について説明する。図7は、本実施の形態にかかる携帯通信端末100における上述した処理の手順を示すフローチャートである。 [0045] まず、表示制御部404は、図5に示す様に、表示装置101の表示画面312上で、既に設定されている温度(例えば26℃)を、第1の色で表示する(ステップS701)。…[0046] 表示制御部404が、表示装置101の、温度切替用の表示領域502で、第1の色で、操作対象である空調装置151の設定の一種である、現在の設定温度を表示している場合に、操作受付部401は、温度切替ボタン503を介して、現在設定されている温度を、他の温度に切り替える操作を受け付ける。 [0047] そして、操作受付部401は、温度切替ボタン503を介して、他の温度に切り替える操作を受け付けたか否かを判定する(ステップS702)。受け付けなかったと判定した場合(ステップS702:No)、ステップS701から処理を行う。 [0048] 一方、操作受付部401は、温度切替ボタン503を介して、他の温度に切り替える操作を受け付けたと判定した場合(ステップS702:Yes)、 表示制御部404は、送信制御部402が、他の温度に切り替える指示を送信する前には、温度切替用の表示領域502で、第1の色と異なる第2の色に変更して、 切り替えられた後の温度(例えば28℃)を表示する(ステップS703)。…[0050] そこで、操作受付部401は、温度切替ボタン801を介して、他の温度に切り替える操作を受け付けたか否かを判定する(ステップS704)。受け付けたと判定した場合(ステップS704:Yes)、ステップS703から処理を行う。 [0051] 一方、操作受付部401は、他の温度に切り替える操作を受け付けていないと判定した場合(ステップS704:No)、ステップS704の切り替える操作のうち直前の操作を受け付けてから、所定の時間を経過したか否かを判定する(ステップS705)。…そして、所定の時間を経過していないと判定した場合(ステップS705:No)、再びステップS704から処理を繰り返す。 [0052] 一方、操作受付部401が、所定の時間経過したと判定した場合に(ステップS705:Yes)、表示制御部404が、温度切替用の表示領域802に、第2の色と異なる第1の色に切り替えた上で、切り替えられた温度(例えば28℃)を表示する(ステップS706)。 [0054] そして、送信制御部402は、操作受付部401が温度を切り替える操作を受け付けてから所定の時間経過した後に、切り替えられた温度に従って設定を切り替える指示を、被制御機器(例えば、第1の空調装置151)に送信する(ステップS707)。なお、…携帯通信端末100はステップS707の後にステップS706を実行しても良い。 [0055] 送信制御部402が指示を送信した後、受信制御部403が、被制御機器(例えば、第1の空調装置151)から、送信した指示に対応する設定を行った旨を示した設定完了通知を受信したか否かを判定する(ステップS708)。 設定完了通知を受信したと判定した場合(ステップS708:Yes)、処理を終了する。 [0056] 一方、設定完了通知を受信していないと判定した場合(ステップS708:No)、表示制御部404は、切り替えに失敗したことを示したメッセージを表示する(ステップS709)。 [0058] その後、表示制御部404が、切り替えられる前の温度を、第1の色で表示する(ステップS710)。…[0074] 本実施形態にかかる操作アプリケーション400においては、被制御機器(例えば空調装置)の操作に失敗した場合に、エラーメッセージを表示して、 操作前の状態に戻して表示を行うこととした。これにより、被制御機器(空調装置)の状態と、携帯通信端末100で表示されている状態とが一致することになり、従来の専用コントローラを用いた場合にない利便性を有する。 [0080](第2の実施形態) 第1の実施形態では、操作アプリケーション400が操作対象とする被制御機器が、空調装置、及び給湯器の場合について説明した。しかしながら、操作対象となる被制御機器を、空調装置、及び給湯器に制限するものではない。そこで、第2の実施形態では、さらに、照明、及び冷蔵庫を操作対象とした場合について説明する。 (5) 甲4により認められる公知技術 ア 前記(1)のとおりの甲4の記載が具体的に言及している技術の内容に即してみると、甲4には、具体的には、原告が主張するとおりの次の技術(原告主張甲4技術)が記載されているものと認められる。 「デジタルカメラ3が、操作対象の高精細テレビ1との間で、信号の送受信を試みて、無線通信が可能な環境であるかどうかをチェックし、 無線通信が不能と判断されたときは、メニュー表示中の「テレビ再生」という項目を操作部312で選択したとしてもその操作が無効になるよう構成する技術」 イ 前記アのとおり、甲4に記載された具体的な技術(原告主張甲4技術)は、 制御主体をデジタルカメラ3とし、操作場所を操作部312とし、制御対象機器をテレビ(高精細テレビ1)とし、無効なものとされる操作の内容を「メニュー表示中の「テレビ再生」という項目を選択した操作」とするものである。しかしながら、 前記(1)のとおりの甲4の記載及び原告主張甲4技術の内容に照らすと、原告主張甲4技術を無線通信を利用した電子機器の制御に用いる場合、制御主体がデジタルカメラ3であること及び制御対象機器がテレビ(高精細テレビ1)であることに特段の技術的意義があるものとは認められず、甲4の記載によっても、制御主体をデジタルカメラ以外の機器とし、制御対象機器をテレビ(高精細テレビ)以外の機器とした場合において、原告主張甲4技術に相当する技術が成り立たないものである、 原告主張甲4技術はそのような機器について適用できないものである、原告主張甲4技術はそのような機器の場合を排除しているなどと認めることもできない。加えて、前記(2)ないし(4)のとおりの乙1ないし3の記載(特に、前記(2)エ、前記(3)ア及びイ、乙3の段落[0080]等)によると、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術において、制御主体が具体的に何であるか(例えば、デジタルカメラであるか、リモートコントローラであるか、携帯通信端末であるかなど)及び制御対象機器が具体的に何であるか(例えば、テレビであるか、給湯器であるか、 ボイラーであるか、空調装置であるか、照明であるか、冷蔵庫であるかなど)が特段の技術的意義を有するものとは認められず、乙1ないし3に記載された各技術に相当する技術がそれぞれの刊行物に記載された具体的な機器以外の機器の場合に成り立たないものである、当該各技術はそのような機器について適用できないものである、当該各技術はそのような機器の場合を排除しているなどと認めることもできないことを併せ考慮すると、制御主体及び制御対象機器を特定の機器(それぞれデジタルカメラ3及び高精細テレビ1)に限定しないものとして甲4に記載された公知技術を認定したとしても、そのことが不当な抽象化に当たるとか、過度な上位概念化に当たるとかいうことはできないというべきである(なお、付言すると、前記第2の2の特許請求の範囲の記載及び前記1(1)のとおりの本願明細書の記載も、 制御対象機器がスピーカを有するがテレビではない機器であるか、テレビであるかなどによる技術的意義の相違がないことを前提としているものと解される。)。そして、制御主体及び制御対象機器が特定の機器に限定されないのであれば、操作場所及び無効なものとされる操作の内容についても、これらを具体的な操作場所及び操作の内容に限定しないものとして甲4に記載された公知技術を認定することも当然に許されることになる。 以上によると、甲4に基づき、本件原出願日当時の公知技術として、本件審決が認定した本件技術(「無線通信を利用した操作制御技術において、通信が不能と判断されたときに、通信が不能であると実行できない機能についての操作を無効なものとする操作制御技術」)が存在したものと認めるのが相当である。 (6) 原告の主張について ア 原告は、乙1ないし3を本件訴訟において提出することは許されないと主張する。しかしながら、拒絶査定不服審判の手続において審理判断がされなかった公知事実を当該手続に係る審決の取消訴訟において主張することは許されないとしても、当該審決が認定した技術の意義に係る証拠として、拒絶査定不服審判の手続において審理判断の対象とされた証拠以外の証拠を参酌することは、当該取消訴訟において当然に許されると解するのが相当である。 イ 原告は、本件技術の認定につき、これが甲4に記載された技術(原告主張甲4技術)を根拠もなく過度に上位概念化するものであると主張するが、前記(5)イにおいて説示したとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。 ウ 原告は、本件技術の認定につき、これが根拠に基づかないものであると主張するが、前記(5)において説示したとおり、本件原出願日当時の公知技術としての本件技術の認定は、本件原出願日当時の公知文献である甲4の記載に基づくものであり、これが根拠に基づかないということはできない。 エ 原告は、甲4は「無線通信が不能である場合には、無線通信が不能であると実行できない「テレビ再生」という機能を実行するための操作を行ったとしても、 その機能を実行できない」という当然の事項を開示するにすぎず、無線通信が不能であると判断された場合にどのような制御を行うかにつき考えたものではないし、 本件技術が公知技術であることを示す例にすらなっていないと主張する。しかしながら、前記(5)アのとおり、甲4に記載された技術(原告主張甲4技術)は、デジタルカメラ3と高精細テレビ1との間の無線通信が不能であると判断された場合において、単に「「テレビ再生」の機能を実行できない」という現象について述べるものではなく、「メニュー表示中の「テレビ再生」という項目を操作部312で選択した操作が無効になるようにする」との積極的な制御の方法を内容とするものであり、原告主張甲4技術に基づいて認められる本件技術も、「無線通信が不能であると実行できない機能についての操作を無効なものとする」との積極的な制御の方法を内容とするものであるから、原告の主張は、前提を誤るものとして失当である。 4 本件技術の引用発明への適用について (1) 技術分野 ア 前記3(5)イにおいて説示したところは、甲4に記載された技術のみならず、 リモートコントローラ3(制御端末装置)が無線通信を利用して再生装置1等の制御を行うことを内容とする引用発明(前記2)についても同様に当てはまるといえるから、引用発明及び本件技術は、いずれも無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にするものと認めるのが相当である。 イ 原告の主張について (ア) 原告は、「甲1に記載された発明と甲4に記載された技術は、制御主体、 操作場所、制御対象機器及び制御内容を異にするものであるところ、甲1に記載された発明及び甲4に記載された技術が共に無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術分野に属するとすることは、技術分野を極めて抽象的なレベルで捉えるものであって相当でないから、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記載された技術が属する技術分野との間に関連性又は共通性はない」と主張する。 しかしながら、前記3(5)イにおいて説示したとおり、無線を利用して電子機器の制御を行うとの技術においては、制御主体、操作場所、制御対象機器及び無効なものとされる操作の内容が具体的に何であるかにつき特段の技術的意義はないというべきであるから、当該技術において、制御主体、操作場所、制御対象機器又は無効なものとされる操作の内容が異なれば、当該技術が属する技術分野が異なることになるということはできない。 原告は、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術において、制御主体、 操作場所、制御対象機器又は制御内容が異なれば、当該技術に係る当業者が異なるとも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない(かえって、前記3(2)ないし(4)のとおりの乙1ないし3の記載(特に、前記(2)エ、前記(3)ア及びイ、 乙3の段落[0080]等)によると、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術においては、制御主体又は制御対象機器が異なっても、当該技術に係る当業者を異にしないことがうかがわれる。)。 (イ) 原告は、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記載された技術が属する技術分野の関係を検討するに当たり、甲1及び4とは別の文献である乙1ないし3の記載を参酌するのは相当でないと主張する。 しかしながら、ある発明ないし技術が属する技術分野が何であるかを認定するに当たり、当該発明ないし技術の意義を検討するのは当然であるところ、当該意義に係る証拠として、当該発明ないし技術が記載された文献以外の文献の記載を参酌するのが相当でないということはできない。 (ウ) 原告は、特許庁における担当技術分野によると、スピーカとテレビは異なる技術分野に属すると主張するが、仮に、特許庁における担当技術分野が原告主張のとおりであったとしても、そのことをもって、引用発明及び本件技術につき、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものとして、その属する技術分野を共通にするとの前記判断を左右するものではない。 (2) 引用発明の課題 ア 前記2のとおり、引用発明は、無線通信を利用して電子機器の制御を行うことを内容とし、無線通信が可能である状態において、制御主体における表示態様(制御対象機器の状態を示す状態表示に係るもの。以下、単に「表示態様」というときは、制御対象機器の状態を示す状態表示の表示態様をいう。)と制御対象機器の実際の状態を一致させようとする発明である。 ここで、一般に、無線通信において通信ができない場合が生じ得ることは公知の事実であるから、これによると、上記のような引用発明に接した本件原出願日当時の当業者であれば、制御主体と制御対象機器との間の無線通信ができない場合が生じ得ることを認識し、そのような場合であっても、制御主体における表示態様と制御対象機器の実際の状態を一致させるための方策の検討が必要であることを容易に想起し得たものと認めるのが相当である。現に、前記3(2)ないし(4)のとおりの乙1ないし3の記載によると、本件原出願日当時、「無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術においては、制御主体と制御対象機器との間の通信ができない場合、制御主体における表示態様と制御対象機器の実際の状態との間に齟齬が生じる」との周知の課題(以下「本件課題」という。)が存在したものと認められる。 そして、前記2(2)において説示したとおり、引用発明は、制御主体(リモートコントローラ3)と制御対象機器(再生装置1等)との間の無線通信ができない場合を技術的にあり得ないものとしておよそ排除しているものではない。 そうすると、前記2(2)において説示したように、引用発明が制御主体(リモートコントローラ3)と制御対象機器(再生装置1等)との間の無線通信ができない場合を想定し、そのような場合も含めて制御主体(リモートコントローラ3)における表示態様(音量操作表示70に表示されたもの)と制御対象機器(再生装置1等)の実際の状態が常に一致するようにしている発明ではないとしても、引用発明に接した本件原出願日当時の当業者は、引用発明に内在する課題として、本件課題の存在を認識し得たものと認めるのが相当である。 イ 原告の主張について (ア) 原告は、引用発明に係る本件課題の認定に関しても、乙1ないし3を本件訴訟において提出することは許されないと主張する。しかしながら、拒絶査定不服審判の手続において審理判断がされなかった公知事実を当該手続に係る審決の取消訴訟において主張することは許されないとしても、当該審決が判断の根拠とした主引用発明に係る課題の存在を立証するため、拒絶査定不服審判の手続において審理判断の対象とされた証拠以外の証拠の申出をすることは、当該取消訴訟において当然に許されると解するのが相当である。 (イ) 原告は、無線通信が可能でない状態となった場合にどのような対処を行うかをあらかじめ検討しておくことにつき、これが当業者であれば当然に考慮する事項であるといえる根拠はないと主張するが、前記アにおいて説示したとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。 (ウ) 原告は、甲1に記載された発明はリモートコントローラ3と再生装置1等との間の無線通信ができない場合を想定しておらず、甲1にはそのような想定がされている旨の示唆すらないから、甲1に接した当業者において、「リモートコントローラ3の音量操作表示70で音量設定を変化させても、再生装置1等の出力音量は変化せず、音量設定を変化させる前の音量のままである」との事実(リモートコントローラ3と再生装置1等との間で無線通信ができない場合に生じる事実)を認識することはないと主張する。しかしながら、前記2(2)において説示したとおり、 引用発明は、リモートコントローラ3と再生装置1等との間の無線通信ができない場合を技術的にあり得ないものとしておよそ排除しているものではないし、また、 前記アにおいて説示したとおり、引用発明に接した本件原出願日当時の当業者であれば、当該場合において制御主体における表示態様と制御対象機器の実際の状態を一致させるための方策の検討が必要であることを容易に想起し得たものといえるから、原告の主張を採用することはできない。 (エ) 原告は、乙2及び3に記載された技術はテレビやスピーカとは無関係の技術であるなどとして、乙1ないし3に基づいてテレビやスピーカが属する技術分野における周知の課題を認定することはできないと主張する。しかしながら、前記3(5)イにおいて説示したとおり、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術においては、制御対象機器が具体的に何であるかにつき特段の技術的意義はないというべきであるから、乙1ないし3に記載されている制御対象機器の具体的な内容いかんにより、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術について、本件原出願日当時の周知の課題として本件課題が存在したとの前記認定が左右されるものではない。 (3) 本件技術による本件課題の解決 ア 前記(2)アのとおりの本件課題の内容及び前記3(5)イのとおりの本件技術の内容に照らすと、本件技術は、本件課題を解決するための手段であると認められる。 イ 原告は、甲1に記載された発明と甲4に記載された技術が制御主体、操作場所、制御対象機器及び制御内容を異にしていることに照らすと、甲1に記載された発明と甲4に記載された技術との間に課題の共通性はないと主張する。しかしながら、前記3(5)イにおいて説示したとおり、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術においては、制御主体、操作場所、制御対象機器及び無効なものとされる操作の内容が具体的に何であるかにつき特段の技術的意義はないというべきであるから、前記(2)アにおいて説示したとおり、引用発明に内在する本件原出願日当時の課題としては、これを本件課題のとおりに認定するのが相当であり、これは、 甲1及び乙1ないし3に記載されている制御主体、操作場所、制御対象機器及び無効なものとされる操作の内容が具体的に何であるかにより左右されるものではない。 そして、本件技術が本件課題を解決するための手段であることは、前記アのとおりである。そうすると、引用発明と本件技術は、課題においても共通するといえる。 (4) 阻害要因 前記2のとおりの引用発明の内容並びに前記3(5)イのとおりの本件技術の内容に照らすと、引用発明に本件技術を適用することにつき阻害要因があるとはいえず、 その他、そのような阻害要因があるものと認めるに足りる証拠はない。 (5) 小括 以上のとおりであるから、本件原出願日当時の当業者は、引用発明に本件技術を適用し得たものと認めるのが相当である。 5 本件技術と相違点に係る本願発明の構成について(1)ア 前記第2の3(3)のとおり、本件審決が認定した相違点に係る本願発明の構成は、「前記スピーカを有するがテレビではない制御対象機器との通信が可能でない場合には、前記状態表示の表示態様を更新できない」というものである。 イ 前記2のとおりの引用発明の構成によると、引用発明の「再生装置1」及び「ネットワークスピーカ2B、2C、2D」は、いずれも本願発明の「前記スピーカを有するがテレビではない制御対象機器」に相当するものと認められるから、引用発明は、相違点に係る本願発明の構成のうち「前記スピーカを有するがテレビではない制御対象機器」との部分を備えるものである。 この点に関し、原告は、甲4には相違点に係る本願発明の構成における「前記スピーカを有するがテレビではない制御対象機器」に相当する構成の開示がないと主張するが、上記のとおり、当該構成は、引用発明が既に備えているものであるから、 原告の主張は失当である。 ウ 前記2のとおりの引用発明の構成によると、引用発明は、受信した再生装置1等の現在の音量設定情報を表示部45の音量操作表示70として表示するものであるから、引用発明は、本願発明の「前記取得した状態に基づいて、前記制御対象機器の状態を示す状態表示を、前記制御対象機器の状態に応じた表示態様で…表示させる第2手段と、」に相当する手段を有するものである。したがって、引用発明は、相違点に係る本願発明の構成のうち「前記状態表示の表示態様」との部分を備える。 この点に関し、原告は、甲4には本願発明における「状態表示」(タッチパネルディスプレイに表示されて制御対象機器の状態を示し、タッチ操作に応じて表示態様が更新されるもの)に相当する構成の開示がないと主張する。しかしながら、引用発明が本願発明の「前記取得した状態に基づいて、前記制御対象機器の状態を示す状態表示を、前記制御対象機器の状態に応じた表示態様で…表示させる第2手段と、」に相当する手段を有することは、上記のとおりである。また、前記2のとおりの引用発明の構成によると、引用発明の「表示部45」及び「タッチパネルセンサ46」は、本願発明の「タッチパネルディスプレイ」に相当する。さらに、前記2のとおりの引用発明の構成によると、引用発明は、ユーザがノブN1を「75」の位置まで移動させた場合、再生装置1の出力音量を「75」に相当するレベルにまで上昇させるような制御コマンドを再生装置1に送信するものであるから、本願発明の「前記状態表示の表示態様を更新するタッチ操作に応じて、更新後の前記状態表示の表示態様と前記制御対象機器の状態とが対応するよう、前記制御対象機器の状態を調整するための制御信号を生成する第3手段と、」に相当する手段を有する。そうすると、原告が主張する本願発明における「状態表示」(タッチパネルディスプレイに表示されて制御対象機器の状態を示し、タッチ操作に応じて表示態様が更新されるもの)に相当する構成は、引用発明が既に備えるものであるといえるから、原告の主張は失当である。 エ 前記3(5)イのとおり、本件技術は、「無線通信を利用した操作制御技術において、通信が不能と判断されたときに、通信が不能であると実行できない機能についての操作を無効なものとする操作制御技術」であるから、本件技術にいう「通信が不能であると実行できない機能についての操作を無効なものとする操作制御技術」が本願発明にいう「制御対象機器との通信が可能でない場合」に適用されるものであることは明らかである。 オ 前記第2の2のとおりの特許請求の範囲の記載及び前記1(1)のとおりの本願明細書の記載によると、本願発明にいう「更新」とは、制御装置において制御対象機器の状態を変更する旨の操作がされた場合に、制御装置における表示態様を当該操作がされる前のものから当該操作がされた後のものに変更することをいうものと解される。したがって、本願発明にいう「更新できない」とは、そのような意味の「更新」が不可能であることをいうことになる。 これを本件技術についてみるに、甲4(前記3(1))には、操作が無効になるようにするとの処理に関し、「操作のメニューの一つとして、高精細テレビ1上において画像を再生させる旨の操作を表す「テレビ再生」の項目がデジタルカメラ3の表示部315に表示されている場合に、そのような「テレビ再生」の項目を選択する旨の操作をデジタルカメラ3の操作部312において行ったとしても、ユーザが「テレビ再生」の項目を選択できないものとする」との技術、すなわち、制御装置であるデジタルカメラ3において、制御対象機器である高精細テレビ1の状態(画像の再生の有無)を変更する旨の操作をした場合に、制御装置であるデジタルカメラ3の表示部315における制御対象機器(高精細テレビ1)の状態表示の表示態様を当該操作がされる前のもの(「テレビ再生」の項目が選択されていないとの表示態様)から当該操作がされた後のもの(「テレビ再生」の項目が選択されたとの表示態様)に変更することが不可能になるようにする」との技術(「前記状態表示の表示態様を更新できない」との技術)が記載されているものと認められるから、 甲4に具体的に記載された技術(原告主張甲4技術)に基づいて認定した本件技術についても、上記と同趣旨の技術(「前記状態表示の表示態様を更新できない」との技術)を含むものと認めるのが相当である。 カ 以上によると、引用発明に本件技術を適用することにより、本願発明の構成に至ることができるものと認められる。 (2) この点に関し、原告は、甲4には本願発明における課題を解決するための技術的思想が開示されていないから、甲1に記載された発明に甲4に記載された技術を適用しても、相違点に係る本願発明の構成に至ることはないと主張する。しかしながら、前記1(2)のとおり、本願発明の課題は、制御装置のタッチパネルディスプレイ(制御対象機器の状態が表示されるもの)においてタッチ操作をし、これに基づく制御信号を無線送信して制御対象機器の状態を制御するとの技術にあっては、タッチパネルディスプレイに表示された制御対象機器の状態と制御対象機器の実際の状態が一致している必要があるところ、制御装置と制御対象機器との間の通信が可能でない状態でタッチパネルディスプレイにおけるタッチ操作がされた場合にタッチパネルディスプレイに表示された制御対象機器の状態が通常どおりに更新されてしまうと、タッチパネルディスプレイに表示された制御対象機器の状態と制御対象機器の実際の状態との間に齟齬が生じてしまうというものである。他方、前記4(3)において説示したとおり、本件技術は、本件課題(「無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術において、制御主体と制御対象機器との間の通信ができない場合、制御主体における表示態様と制御対象機器の実際の状態との間に齟齬が生じる」との課題)を解決するための手段であるから、本願発明の上記課題を解決するための技術的思想が本件技術に現れていることは明らかである。原告の主張は、前提を誤るものとして失当である。 また、原告は、甲4に記載された技術は「無線通信が不能である場合には、無線通信が不能であると実行できない「テレビ再生」という機能を実行するための操作を行ったとしても、その機能を実行できない」という当然の事項をいうものにすぎないと主張するが、そのようにいうことができないことは、前記3(6)エにおいて説示したとおりである。 6 結論 以上の次第であるから、原告が主張する審決取消事由は失当であり、原告の請求は理由がない。 |