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事件 |
令和
4年
(ワ)
2049号
特許権侵害差止等請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2023/07/06 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
令和 5 年 7 月 6 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 令和 4 年(ワ)第 2049 号 特許権侵害差止等請求事件 口頭弁論終結日 令和 5 年 4 月 21 日 判 決 5 原告 三和紙工株式会社 同訴訟代理人弁護士 堀籠佳典 同 岡田健太郎 10 同 弁理士 福田伸一 同 水ア慎 同補佐人弁理士 伊藤表 被告 三 菱 商 事 パ ッ ケ ー ジ ン グ 株式会社 15 同訴訟代理人弁護士 宮嶋学 同 田泰彦 同 柏延之 20 被告補助参加人 北越パッケージ株式会社 同訴訟代理人弁護士 田中成志 同 平井健一郎 主 文 25 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。 は原告の負担とする。 ) 1 事 実 及 び 理 由 第1 請求 1 被告は、別紙物件目録記載の製品を譲渡し又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告は、その占有に係る前項記載の製品を廃棄せよ。 5 3 被告は、原告に対し、2000 万円及びこれに対する令和 4 年 2 月 15 日から支 払済みまで年 5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、発明の名称を「包装容器」とする発明についての特許(以下「本件特許」 という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告の販 10 売する別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)は本件特許に係る発明 の技術的範囲に属し、その販売又は販売の申出は本件特許権を侵害する行為である と主張して、本件特許権に基づき被告製品の譲渡等の差止め(特許法 100 条 1 項) 及び廃棄(同条 2 項)を求めると共に、本件特許権侵害の不法行為(民法 709 条、 損害額につき特許法 102 条 3 項)に基づき、2000 万円の損害賠償及びこれに対す 15 る令和 4 年 2 月 15 日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年 5%の 割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容 易に認められる事実) (1) 当事者 20 原告は、紙製容器等の製造販売等を業とする株式会社である。 被告は、プラスチック・金属・紙・木質・セラミック系包装資材及び原材料等の 売買及び貿易等を業とする株式会社である。 被告補助参加人は、紙器の製造・加工及び売買等を目的とする株式会社であり、 被告に対し、その注文に基づき、被告製品を製造販売したものである。 25 (2) 本件特許権 原告は、以下の特許(本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する(「/」は 2 改行部分を意味する。以下同じ。 。 ) なお、以下では、請求項 1、2、5 及び 7 の各発明を順に「本件発明 1」 「本件発 、 明 2」「本件発明 3」及び「本件発明 4」といい、これらを併せて「本件各発明」と 、 いう。また、本件特許に係る願書添付の明細書及び図面を併せて「本件明細書」と 5 いう。 登録番号 特許第 5235041 号 発明の名称 包装容器 出願日 平成 24 年 10 月 26 日 登録日 平成 25 年 4 月 5 日 10 特許請求の範囲 【請求項 1】 1 枚の包装紙が開口部と底部とを有する筒状に折られ、この筒状の奥行きよりも 幅の方向が広く形成された包装容器であって、/前記包装容器を容器として形成し た状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿 15 って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる、 /ことを特徴とする包装容器。 【請求項 2】 前記包装紙が、/正面片と、/この正面片の側端に連ねられた背面片と、/前記 正面片の下端に連ねられた前記底面片と、/この底面片の先端に連ねられた前記自 20 立片と、/から構成され、/前記背面片が前記正面片側に折られて筒状に形成され、 前記底面片が折られることで前記筒状の下端が塞がれて前記底部が形成されると共 に、前記自立片が前記奥行の方向に突出している、/ことを特徴とする請求項 1 に 記載の包装容器。 【請求項 5】 25 前記底部が前記載置面に対して凹弧状に湾曲しており、前記底面片および前記自 立片の縁辺が前記載置面に接触している、/ことを特徴とする請求項 1 から請求項 3 4 のいずれか 1 項に記載の包装容器。 【請求項 7】 前記筒状の背面部に、前記開口部を覆う蓋部が備えられている、/ことを特徴と する請求項 1 から請求項 6 のいずれか 1 項に記載の包装容器。 5 (3) 構成要件の分説 本件発明 1〜4 を構成要件に分説すると、以下のとおりである(以下、符号に従 い、「構成要件 A」などという。 。 ) ア 本件発明 1 A 1 枚の包装紙が開口部と底部とを有する筒状に折られ、この筒状の奥行きよ 10 りも幅の方向が広く形成された包装容器であって、 B 前記包装容器を容器として形成した状態において、前記底部を形成する底面 片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片 によって前記載置面に自立させられる、 C ことを特徴とする包装容器。 15 イ 本件発明 2 D 前記包装紙が、 D-1 正面片と、 D-2 この正面片の側端に連ねられた背面片と、 D-3 前記正面片の下端に連ねられた前記底面片と、 20 D-4 この底面片の先端に連ねられた前記自立片と、 から構成され、 E 前記背面片が前記正面片側に折られて筒状に形成され、前記底面片が折られ ることで前記筒状の下端が塞がれて前記底部が形成されると共に、前記自立片が前 記奥行の方向に突出している、 25 F ことを特徴とする請求項 1 に記載の包装容器。 ウ 本件発明 3 4 G 前記底部が前記載置面に対して凹弧状に湾曲しており、前記底面片および前 記自立片の縁辺が前記載置面に接触している、 H ことを特徴とする請求項 1 から請求項 4 のいずれか 1 項に記載の包装容器。 エ 本件発明 4 5 I 前記筒状の背面部に、前記開口部を覆う蓋部が備えられている、 J ことを特徴とする請求項 1 から請求項 6 のいずれか 1 項に記載の包装容器。 (4) 被告の行為等 ア 被告は、遅くとも令和 2 年 3 月から、業として被告製品の販売又は販売の申 出をしている。 10 イ 被告製品の構成のうち、別紙「被告製品の構成(原告の主張)」の構成 a、c、 d、f 及び g については、当事者間に争いがない。また、被告製品の構成 a 及び c が 本件発明 1 の構成要件 A 及び C を、被告製品の構成 g が本件発明 4 の構成要件 I を それぞれ充足することは、当事者間に争いがない。 2 争点 15 (1) 被告製品の本件各発明の技術的範囲への属否(争点 1) 「底部」「底面片」及び「自立片」の意義並びに被告製品の充足性(構成要件 B、 、 D-3、D-4、E、G の関係) (2) 無効理由の有無(争点 2) ア 乙 2 発明を主引用発明とする進歩性欠如(争点 2-1) 20 イ 乙 5 発明を主引用発明とする進歩性欠如(争点 2-2) ウ サポート要件違反(争点 2-3) エ 明確性要件違反(争点 2-4) (3) 原告の損害(争点 3) 3 争点に係る当事者の主張 25 (1) 「底部」「底面片」及び「自立片」の意義並びに被告製品の充足性(構成要 、 件 B、D-3、D-4、E、G の関係)(争点 1)について 5 〔原告の主張〕 ア 「底部」 「底面片」及び「自立片」の意義 、 (ア) 「底」は、 「@凹んだものや容器の下の所。」という意味のみならず、 「A物体 の下面。底面。また、集積したものの下層部。」という意味がある。このため、容器 5 の「底部」も、「容器の内側から見た容器の下の部分」という意味だけでなく、「容 器全体における下の部分」という意味がある。また、「二重底」(箱等で、底が二重 になっているもの。容器等につくった二段の底。)の語にも示されるとおり、「底」 の語には一重でなければならないとの意味はない 。 したがって、容器の「底部」とは、 「容器の内側から見た容器の下の部分」だけで 10 なく、「容器全体における下の部分」という意味も有する。 (イ) 本件各発明では、 枚の包装紙が開口部と底部とを有する筒状に折られ、 「1 こ の筒状の奥行きよりも幅の方向が広く形成された包装容器」全体が「包装容器」で あり(構成要件 A)、内容物に接する片のみが「包装容器」なのではない。また、構 成要件 B は、載置面に自立するための「自立片」と、「底部を形成する底面片」が 15 「同一面に連な」っていることを規定しているが 、この構成要件 B も、内容物に 接する「片」のみに着目したものではない。 このような本件各発明の内容から、 「底部」は、容器の内側から見た下の部分ない し内容物に接する部分のみを意味するのではなく、容器全体から見た下の部分、す なわち、筒状部分の下端を意味していると解するのが自然である。 20 (ウ) 「底面片 40」と「内側底面片 50」が 本件明細書の第一実施形態においては、 「底部 9」を形成しており、容器の内側から見たときに見えるのが「内側底面片 50」、 容器の外側から見たときに下の部分にあたるのが「底面片 40」であるところ、「自 立片 60」と同一面に連ねられているのは、「底面片 40」である。 したがって、本件明細書に記載された第一実施形態からも、本件各発明が、容器 25 の内側から見た下の部分ないしは内容物に接する片のみを「底部を形成する底面片」 としていないことは理解される。 6 (エ) 本件各発明は、底面片が底部の形状保持機能を果たしていることを利用して、 この底面片と同一面に連なる自立片を突出させることにより、底面片の形状保持機 能を容器の自立に利用したものである。したがって、 底部を形成する底面片」 「 とは、 「底面片」が底部の形状保持機能を担っていることを意味しており、かつ、それで 5 足りる。 (オ) 小括 以上より、 「底部」は容器の内側から見た下の部分や内容物に接する部分のみを意 味するのではなく、容器全体から見た下の部分、すなわち、筒状部分の下端を意味 し、そのような「底部」を形づくり、「底部」の形状保持機能を担っていれば、「底 10 部を形成する底面片」であるといえる。 イ 被告製品による充足 (ア) 被告製品の構成は、別紙「被告製品の構成(原告の主張)」記載のとおりであ る。 (イ) 本件発明 1 について 15 被告製品は、容器として形成された状態において、筒状部分の下側端部が六角片 及び舌状片で形作られており、被告製品の舌状片は、六角片と共に、被告製品の筒 状部分の下側端部の形状保持機能を担っている。 したがって、被告製品の舌状片(基部)は、「底部を形成する底面片」(構成要件 B)に該当する。また、被告製品は、構成要件 A 及び C も充足する。 20 以上より、被告製品は、本件発明 1 の技術的範囲に属する。 (ウ) 本件発明 2 について a 被告製品の片?(構成 d-1)は、被告製品を筒状に形成したときに正面に位置 する片であるから、「正面片」(構成要件 D-1)に該当する。 また、背面片(構成 d-2)は、正面片である片?の側端に連ねられたものであるか 25 ら、「背面片」(構成要件 D-2)に該当する。 さらに、舌状片の基部は、 (構成要件 D-3、D-4)に該当し、舌状片の延 「底面片」 7 設部は、「自立片」(構成要件 D-4)に該当する。 したがって、被告製品の構成 d-1〜d-4 は、構成要件 D-1〜D-4 を充足する。 b 「塞ぐ」とは、「@ふたをする。とじる。おおう。…Aさえぎって通れなくす る。」を意味するから、 (構成要件 E)とは、端部の下端を 「筒状の下端を塞がれて」 5 全周において全く隙間なく密封するという意味ではなく、筒状の下端(筒状の容器 の内容物の落下経路)に立ちはだかっていれば、「塞ぐ」に当たる。 他方、被告製品では、六角片と舌状片のいずれもが「底部を形成する底面片」に 該当する。また、被告製品においては、六角片及び舌状片がそれぞれ筒状部分の下 端から内側に折り込まれることで、筒状の下端(筒状の容器の内容物の落下経路) 10 に立ちはだかる状態となるのであるから、「筒状の下端」を「塞」ぐものといえる。 したがって、被告製品の構成 e-1〜e-5 は、本件発明 2 の構成要件 E を充足する。 c 被告製品は本件発明 1 の技術的範囲に属する。したがって、被告製品は、本件 発明 2 の構成要件 F を充足する。 d 以上より、被告製品は、本件発明 2 の技術的範囲に属する。 15 (エ) 本件発明 3 について a 被告製品の舌状片は、 (構成要件 B)に相当する。し 「底部を形成する底面片」 たがって、舌状片は、本件発明 3 においても、 「底面片」に相当する。そうすると、 被告製品は、 「底面片」 (舌状片の基部)及び「自立片」 (舌状片の延設部)の縁辺が 「載置面に接触」しているといえる。 20 また、被告製品の舌状片は、「前記載置面に対して凹弧状に湾曲」している。 よって、被告製品の構成 f は、本件発明 3 の構成要件 G を充足する。 b 被告製品は、本件発明 1 及び 2 の技術的範囲に属する。したがって、被告製 品は、本件発明 3 の構成要件 H を充足する。 c 以上より、被告製品は、本件発明 3 の技術的範囲に属する。 25 (オ) 本件発明 4 について 被告製品の構成 g は、本件発明 4 の構成要件 I を充足する。 8 また、被告製品は、本件発明 1〜3 の技術的範囲に属する。したがって、被告製品 は、本件発明 4 の構成要件 J を充足する。 以上より、被告製品は、本件発明 4 の技術的範囲に属する。 〔被告の主張〕 5 ア 「底部」 「底面片」及び「自立片」の意義 、 (ア) 一般的に、「底部」とは、「底の部分」を意味し、「底」とは、 「凹んだものや 容器の下の所」を意味する。つまり、「底部」は、「凹んだものや容器の下の所の部 分」を意味する。 また、包装容器の底部というからには、内容物が落ちないように下端を塞ぐもの 10 でなければならない。本件明細書にも、筒状の下端を塞ぐことによって「底部」を 形成することが記載されている。 したがって、本件発明 1 の「底部」は、少なくとも、筒状の下端を塞ぐものでな ければならない。 (イ) 原告の主張について 15 本件発明 1 の「底部」は、包装容器における底部であるから、容器部の下の所を 意味すると解釈するのが自然である。加えて、本件発明 1 では、 「底部」は「筒状」 に含まれることから、 「底部」は、筒状の下端部と接触する位置、又は少なくとも非 常に近接している位置に存在しているべきである。 また、本件発明 2 に係る請求項の記載によれば、 「底部」は、背面片が正面片側に 20 折られて形成された筒状の下端を塞ぐことによって形成されるものである。そのた め、 「底部」は、背面片が正面片側に折られて形成された「筒状」を塞ぐものである と解釈するのが自然である。 さらに、本件明細書には、筒状の下端を塞ぐことによって「底部」を形成するこ とが記載されている。加えて、本件発明 1 は、本件明細書の記載によれば、 「包装容 25 器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体的な成形が簡便である。」 との作用効果を奏するものとされているところ、包装容器の全体の下の部分であれ 9 ば、たとえ容器部の下の所の部分とは別に設けられたものであったとしても本件発 明 1 の「底部」に相当すると解釈すると、上記作用効果を奏することのない複雑な 構成のものも本件発明 1 の技術的範囲に属することとなってしまう。 イ 被告製品による非充足 5 (ア) 被告製品の構成は、別紙「被告製品の構成(被告の主張)」記載のとおりであ る。 (イ) 本件発明 1 について 被告製品は、包装容器を容器として形成した状態において、底部を形成する底面 片と同一面に連なる自立片を有するものではなく、底面片とは完全に離れた位置に 10 設けられた舌状片が載置面に沿って奥行の方向に突出し、舌状片によって載置面に 自立させられるものである。また、被告製品においては、片?及び背面片と、六角 片と、によって容器が形成されており、六角片が筒状に折られた片?及び背面片の 下端を塞ぐものとなっている。 「六角片」が本件発明 1 の「底部を形成する底 したがって、被告製品においては、 15 面片」に相当するものとなる。また、被告製品の六角片は、包装容器を容器として 形成した状態において、単独で、容器の底としての機能を有する。そのため、被告 製品の六角片は、単独で、本件発明 1 の「底部」を形成するものでもある。 他方、被告製品の舌状片は、底部を形成する六角片と同一面に連なるものではな く、その六角片から完全に離れた位置に設けられている。このため、被告製品の舌 20 状片は、六角片と共に底部を形成することはない。また、被告製品の舌状片は、筒 状に折られた片?及び背面片の下端を塞ぐものとなっていない。このため、被告製 品の舌状片は、本件発明 1 の「底部」を形成する部分を有するものではなく、 「底部 を形成する底面片」に相当する部分を有するものでもない。 したがって、被告製品は、包装容器を容器として形成した状態において、底部を 25 形成する底面片と同一面に連なる自立片を有するものではない。 以上より、被告製品は、少なくとも本件発明 1 の構成要件 B を充足しないから、 10 本件発明 1 の技術的範囲に属しない。 (ウ) 本件発明 2 について a 本件発明 2 は、包装紙が、正面片の下端に連ねられた底面片と(構成要件 D- 3)、底面片の先端に連ねられた自立片を有し(同 D-4)、底面片が折られることで筒 5 状の下端が塞がれて底部が形成されると共に、自立片が前記奥行の方向に突出して いるものである(同 E) これに対し、 。 被告製品の舌状片は「底部を形成する底面片」 に該当するものではなく、被告製品の六角片のみがこれに該当する。また、六角片 は背面片の下端に連ねられており、被告製品は、六角片(底面片)の先端に連ねら れた自立片を有しない。さらに、被告製品においては、六角片が折られることで筒 10 状の下端が塞がれて下側閉口端部が形成され、舌状片が折られることで舌状片が奥 行の方向に突出しているところ、舌状片は片?の下端に連ねられたものである。 b たとえある部材が筒状の下端に立ちはだかっていたとしても、その部分と筒 状の下端との間の隙間の大きさが通常の下端の開口の大きさと同じ程度のものとな っている場合には、通常の下端の開口を抜けた物体が、そのままその部材と筒状の 15 下端との間の隙間を抜けていくことになる。このような場合、 「@ふたをする。とじ る。おおう。…Aさえぎって通れなくする。…」ものとはいえず、 「塞ぐ」には当た らない。被告製品においては、折られた舌状片と筒状の下端との間が離れていて大 きな隙間が生じており、その隙間の大きさは、筒状の下端の開口の大きさと同じ程 度のものとなっていることから、舌状片が折られることで筒状の下端が塞がれて底 20 部が形成されるとはいえない。 c したがって、被告製品は、少なくとも本件発明 2 の構成要件 D-3、D-4 及び E を充足しない。また、被告製品は本件発明 1 の技術的範囲に属するものではないか ら、本件発明 2 の構成要件 F を充足しない。 以上より、被告製品は、本件発明 2 の技術的範囲に属しない。 25 (エ) 本件発明 3 について 被告製品においては、六角片が本件発明 3 の「底面片」に相当するものであって、 11 舌状片はこれに相当するものではない。また、被告製品は、本件発明 3 の「底面片」 に相当する六角片に連なる「自立片」を有するものではない。 さらに、本件発明 3 は、底面片及び自立片の縁辺が載置面に接触しているもの(構 成要件 G)であるのに対し、被告製品においては、 「底面片」に相当するものではな 5 い舌状片の縁が載置面に接触している。 したがって、被告製品は、本件発明 3 の構成要件 G を充足しない。また、被告製 品は、本件発明 1 及び 2 の技術的範囲に属するものではなく、本件特許に係る特許 請求の範囲請求項 3 及び 6 に係る発明については、被告製品がこれらの発明の技術 的範囲に属するとの主張がないから、本件発明 3 の構成要件 H を充足しない。 10 以上より、被告製品は、本件発明 3 の技術的範囲に属しない。 (オ) 本件発明 4 について 被告製品は、本件発明 1〜3 の技術的範囲に属しない。また、本件特許に係る特許 請求の範囲請求項 3、4 及び 6 に係る発明については、被告製品がこれらの発明の 技術的範囲に属するとの主張がない。 15 したがって、被告製品は、少なくとも本件発明 4 の構成要件 J を充足しない。 以上より、被告製品は、本件発明 4 の技術的範囲に属しない。 〔被告補助参加人の主張〕 ア 被告製品の構成 被告製品において、六角片が塞いでいる「1 枚の包装紙が開口部と底部とを有す 20 る筒状に折られ」た部分の下側は、解放された空間であり、 「筒状」部分とはいえな い。 また、 「容器」として形成した状態とは、物を入れられるものとして形成された状 態であって、横が塞がれておらず、中に入れた物が横から零れ落ちるような状態で はない。そうすると、被告製品において「包装容器」といえる部分は、正面片、背 25 面片と両者の糊代となる部分とで形成され、六角片よりも上の包まれた部分である。 イ 被告製品による非充足 12 被告製品においては、六角片が「1 枚の包装紙が…筒状に折られ」た部分の下側 開口を塞ぐ底部となっており、舌状片は、 枚の包装紙が開口部と底部とを有する 「1 筒状に折られ」た部分の下側で、筒を斜めに立たせるために筒の下に取り付けられ ているに過ぎない。すなわち、舌状片は、筒状部分の底部(構成要件 A)とはいえ 5 ない。舌状片が筒状部分の下側にあるというだけでは、筒状部分を塞いでいるもの ではなく、「底部」となるわけではない。 また、被告製品において、底部を形成する六角片と、被告製品を自立させるため の舌状片とは同じ平面にはない。このため、被告製品は、 「前記底部を形成する底面 片と同一平面に連なる自立片」(構成要件 B)を充足しない。 10 さらに、本件発明 1 につき、その特許の発明を実施可能であり、また、本件明細 書の説明においてサポートされた有効なものと解するのであれば、本件発明 1 は、 自立片がなくても、自立片と同一面に連なる底面によって自立する容器につき、安 定的に自立させるために自立片を設けたものと理解される。被告製品は、商品を包 装して斜めに立たせるためのものであり、筒状部分だけでは(すなわち、自立片が 15 なければ)自立しないものであるから、本件発明 1 の技術的範囲に属しない。 (2) 乙 2 発明を主引用発明とする進歩性欠如(争点 2-1)について 〔被告の主張〕 ア 乙 2 発明 登録実用新案第 3037124 号公報(乙 2)には、以下の発明(以下「乙 2 発明」と 20 いう。)が記載されている。 A1 1 枚の紙が開口部と底部とを有する筒状に折られ、この筒状の奥行よりも幅 の方向が広く形成されたパッケージであって、 B1 パッケージとして形成された状態において、底部を形成する底面 7 と同一面 に連なる脚片 8・9 が載置面に沿って幅の方向に突出し、脚片 8・9 によって載置面 25 に安定良く起立させられ、 D1 1 枚の紙が、 13 D1-1 逆台形状主面 2 と、 D1-2 逆台形状主面 2 の側端に三角形連結面 3 を介して連ねられた逆台形状主 面 1 と、 D1-3 逆台形状主面 2 の下端に連ねられた底面 7 と、 5 D1-4 底面 7 から外側に向けて突出させられた脚片 8・9 と、 から構成され、 E1 逆台形状主面 1 が逆台形状主面 2 側に折られて筒状に形成され、底面 7 が 折られることで筒状の下端が塞がれて底部が形成されるとともに、脚片 8・9 が筒 状の幅の方向に突出しており、 10 I1 逆台形状主面 1 の上端に連ねられ開口部を覆う三日月形下蓋面 5 が備えられ ている ことを特徴とするパッケージ。 イ 本件発明 1 について (ア) 乙 2 発明との相違点 15 本件発明 1 と乙 2 発明とは、以下の点で相違する(相違点 1-1)。 本件発明 1 は、包装容器を容器として形成した状態において、底部を形成する底 面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って奥行の方向に突出し、自立片によっ て載置面に自立させられるのに対し、乙 2 発明は、包装容器を容器として形成した 状態において、底部を形成する底面片と同一面に連なる脚片 8・9 が載置面に沿っ 20 て幅の方向に突出し、脚片 8・9 によって載置面に安定良く起立させられる点。 (イ) 本件発明 1 の進歩性欠如 乙 2 発明のパッケージにおいて、その脚片 8・9 を載置面に沿って奥行の方向に 突出させるようにすると、その脚片 8・9 は、本件発明 1 の「自立片」に相当するも のとなり、本件発明 1 と同一の構成となる。 25 1 枚の紙が折られることによって形成される容器において、その容器を安定的に 自立させるために、容器の底面を形成する部材を載置面に沿って奥行方向に突出さ 14 せることは、特開 2004-306308 号公報(乙 3。以下「乙 3 文献」という。)及び特 開 2000-335157 号公報(乙 4。以下「乙 4 文献」という。)に見られるとおり、周 知技術である(以下、この周知技術を「周知技術 1」という。 。 ) このため、乙 2 発明のパッケージをより安定的に自立させるために、乙 2 発明の 5 パッケージに周知技術 1 を適用し、脚片 8・9 を載置面に沿って奥行の方向に突出 させて、パッケージが脚片 8・9 によって載置面に自立させられるようにすること は、当業者が用途等に応じて適宜なし得る設計事項に過ぎない。 したがって、本件発明 1 は、乙 2 発明及び周知技術 1 に基づいて、その特許出願 前に当業者が容易に発明することができたものであり、その特許は特許無効審判に 10 より無効にされるべきものであるから(特許法 29 条 2 項、123 条 1 項 2 号)、原告 は、被告に対し、本件特許権を行使することができない(同法 104 条の 3 第 1 項)。 ウ 本件発明 2 について (ア) 乙 2 発明との相違点 本件発明 2 と乙 2 発明とは、相違点 1-1 のほか、以下の点で相違する(相違点 1- 15 2)。 本件発明 2 は、底面片の先端に連ねられた自立片を有し、自立片が筒状の奥行の 方向に突出しているのに対し、乙 2 発明は、底面片から外側に向けて突出させられ た脚片 8・9 を有し、脚片 8・9 が筒状の幅の方向に突出している点。 (イ) 本件発明 2 の進歩性欠如 20 相違点 1-2 は、実質的には相違点 1-1 と同じものである。 したがって、本件発明 2 は、乙 2 発明及び周知技術 1 に基づいて、その特許出願 前に当業者が容易に発明することができたものであり、その特許は特許無効審判に より無効にされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件特許権を行使す ることができない。 25 エ 本件発明 3 について (ア) 乙 2 発明との相違点 15 本件発明 3 と乙 2 発明とは、相違点 1-1 のほか、以下の点で相違する(相違点 1- 3)。 本件発明 3 は、底部が載置面に対して凹弧状に湾曲しており、底面片及び自立片 の縁辺が載置面に接触しているのに対し、乙 2 発明は、底部が載置面に対して凹弧 5 状に湾曲していない点。 (イ) 本件発明 3 の進歩性欠如 乙 2 発明のパッケージにおいて、その脚片 8・9 を載置面に沿って奥行の方向に 突出させるようにすると共に、底部を載置面に対して凹弧状に湾曲したものとする と、乙 2 発明のパッケージは、本件発明 3 と同一の構成となる。 10 このうち、脚片 8・9 を載置面に沿って奥行の方向に突出させるようにすること は、周知技術 1 により、当業者が用途等に応じて適宜なし得る設計事項に過ぎない。 また、包装容器において、底部を載置面に対して凹弧状に湾曲させることは、国 際公開第 2001/70081 号(乙 5。以下「乙 5 文献」という。 、特開平 11-342935 号 ) 公報(乙 6)、登録実用新案第 3125075 号公報(乙 7)及び特開 2009-120213 号公 15 報(乙 8。以下、乙 5〜乙 8 の各文献を併せて「乙 5 文献等」という。)に見られる とおり、周知の技術である(以下、この技術を「周知技術 2」という。) このため、乙 2 発明のパッケージに周知技術 1 及び 2 を適用し、その脚片 8・9 を載置面に沿って奥行の方向に突出させるようにすると共に、底部を載置面に対し て凹弧状に湾曲したものとすることは、当業者が用途等に応じて適宜なし得る設計 20 事項に過ぎない。 したがって、本件発明 3 は、乙 2 発明並びに周知技術 1 及び 2 に基づいて、その 特許出願前に当業者が容易に発明することができたものであり、その特許は特許無 効審判により無効にされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件特許権 を行使することができない。 25 オ 本件発明 4 について 本件発明 4 と乙 2 発明とは、相違点 1-1 のほかに相違点は存在しない。なお、筒 16 状の背面部に開口部を覆う蓋部を備えることは、包装容器である以上必要に応じて 当然に求められる構成であり、周知技術である(以下、この技術を「周知技術 3」 という。 。 ) したがって、本件発明 4 は、乙 2 発明並びに周知技術 1 及び 3 に基づいて、その 5 特許出願前に当業者が容易に発明することができたものであり、その特許は特許無 効審判により無効にされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件特許権 を行使することができない。 〔原告の主張〕 ア 本件発明 1 について 10 (ア) 本件発明 1 と乙 2 発明とは、相違点 1-1 において相違する。 (イ) しかし、乙 3 文献に記載されているのは、周知技術 1 ではなく、「1 枚の紙 が折られることによって形成される容器において、その容器を安定的に自立させる ために、容器の底面を形成する部材を載置面に沿って奥行方向に延設され背面板 4 と並行方向の折り目で上方に折り曲げられた固定片 8 と、容器の背面を観音開きに 15 突出させた支持片 41 とを係合させること」である(以下「乙 3 文献記載事項」と いう。 。 ) また、乙 4 文献に記載されているのは、周知技術 1 ではなく、 枚の紙が折られ 「1 ることによって形成される容器において、その容器を安定的に自立させるために、 容器の底面を形成する部材を載置面に沿って奥行方向に延設され背板 5 の奥行方向 20 の折り目で上方直角に折り起こされた折立板 3(の突起片 4)を背板 5(の掛孔 6) にはめ込み・固定させること」である(以下「乙 4 文献記載事項」という。また、 これと乙 3 文献記載事項を併せて「乙 3 文献及び乙 4 文献の各記載事項」という。 。 ) 加えて、乙 3 文献及び乙 4 文献には、容器を形成する紙の折り方に関して、1 つ の周知技術を導くような共通する技術的事項はない。 25 以上のとおり、乙 3 文献及び乙 4 文献によっては、周知技術 1 は認定できない。 (ウ) 相違点 1-1 は、「自立片が載置面に沿って奥行方向に突出し」ているだけで 17 なく、 「前記自立片によって前記載置面に自立させられる」点を含むものである。し たがって、仮に、乙 2 発明に周知技術 1 を適用しても、また、乙 3 文献及び乙 4 文 献の各記載事項を適用しても、本件発明 1 の構成には至らず、相違点 1-1 は解消し ないから、本件発明 1 が乙 2 発明から容易に想到できたということはできない。 5 (エ) 乙 2 発明はパッケージの使用後に置物等としてパッケージを再利用するも のであるのに対し、乙 3 文献記載事項は使用後処理(廃棄)等を課題とし、乙 4 文 献記載事項は製造の簡略化を課題としており、乙 2 発明と乙 3 文献及び乙 4 文献の 各記載事項とは、課題を生じる場面が異なることから、課題が全く異なる。このた め、乙 2 発明に乙 3 文献及び乙 4 文献の各記載事項を適用する動機付けはない。 10 また、乙 2 発明の技術思想は、一対である脚片 8・9 がそれぞれ相反する方向に 突出することで、安定良く起立させるというものである。乙 3 文献及び乙 4 文献の 各記載事項のように一方向である背面側にのみ突出させることは、乙 2 発明の技術 思想の根幹を欠くものとなり、適切でない。加えて、乙 2 発明においてパッケージ が不安定となるのは正面視における左右方向であり、正面又は背面方向に対しては 15 比較的安定しているため、背面側に脚片 8・9 を突出させる理由がなく、そのような 動機付けもない。したがって、乙 2 発明につき、底を一方向(背面方向)のみに突 出させる動機付けはない。 (オ) 乙 2 発明は、商品が収容され、流通して取引されることを前提としているた め、当然に、内容物が外に出ないような、正にパッケージ(包装)である。仮に、 20 乙 3 文献記載事項を乙 2 発明に適用すれば、乙 2 発明の背面には観音開きに突出さ せた支持片の跡として支持片に相当する孔が現れ、この孔によってパッケージとし ての機能が損なわれる。したがって、乙 2 発明に乙 3 文献記載事項を適用すること には阻害要因がある。 同様に、仮に乙 4 文献記載事項を乙 2 発明に適用すれば、乙 2 発明の背面には掛 25 孔という孔が開き、この孔によってパッケージとしての機能が損なわれる。したが って、乙 2 発明に乙 4 文献記載事項を適用することにも阻害要因がある。 18 さらに、乙 2 発明の差し込み片 24 は、底面 7 をパッケージの底として機能させ る上で必須の構成であるところ、この差し込み片 24 が設けられている以上、底面 7 を奥行方向に突出させることはできず、これをすることには阻害要因がある。 (カ) 以上のとおり、本件発明 1 は、乙 2 発明及び周知技術 1(更には乙 3 文献及 5 び乙 4 文献の各記載事項)に基づいて、特許出願前に当業者が容易に発明すること ができたものではない。 イ 本件発明 2 について 本件発明 2 と乙 2 発明とは、相違点 1-2 において相違する。 しかし、相違点 1-1 について乙 2 発明から容易想到とはいえないのと同じ理由に 10 より、相違点 1-2 についても、乙 2 発明から容易想到とはいえない。 ウ 本件発明 3 について (ア) 本件発明 1 及び 2 は乙 2 発明から容易想到とはいえないから、本件発明 3 も 乙 2 発明から容易想到とはいえない。 (イ) 相違点 1-3 について、 15 そもそも、底部の一部を載置面に沿って奥行方向に突出させるようにすると共に、 底部を載置面に対して凹弧状に湾曲したものとする技術思想そのものが一般的でな い。通常、何かを自立させ、安定させる場合、底部の全面が載置面に対面するよう、 底部を平坦にするものであり、乙 2 発明並びに乙 3 文献及び乙 4 文献記載の各発明 も、底部は平坦である。このため、乙 2 発明において、敢えて底部を載置面に対し 20 て凹弧状に湾曲したものとする動機付けはない。 また、仮に乙 2 発明において底部を載置面に対して凹弧状に湾曲させ得たとして も、載置面に沿って奥行方向に突出させた部位も含めて凹弧状に湾曲させるのか、 載置面との関係でどのような態様で接触するのかは、全く判然としない。 加えて、乙 5 文献等には、自立片の記載はなく、したがって、 「前記自立片の縁辺 25 (構成要件 G)ことは記載されていない。このため、 が前記載置面に接触している」 仮に乙 2 発明に周知技術 2 を適用しても、本件発明 3 の構成とはならない。 19 (ウ) 以上のとおり、本件発明 3 は、乙 2 発明並びに周知技術 1 及び 2 に基づい て、特許出願前に当業者が容易に発明することができたものではない。 エ 本件発明 4 について 本件発明 1〜3 はいずれも乙 2 発明から容易想到とはいえないから、本件発明 4 5 も乙 2 発明から容易想到とはいえない。 (3) 乙 5 発明を主引用発明とする進歩性欠如(争点 2-2)について 〔被告の主張〕 ア 乙 5 発明 乙 5 文献には、以下の発明(以下「乙 5 発明」という。)が記載されている。 10 A2 1 枚の板紙製のプランクが開口部と底部とを有する筒状に折られ、この筒状 の奥行よりも幅の方向が広く形成された食品容器であって、 B2 食品容器として形成された状態において、第 1 ボトムパネル 720 が底部を 形成し、 D2 1 枚の板紙製のブランクが、 15 D2-1 第 1 のサイドパネル 710 と、 D2-2 第 1 のサイドパネル 710 の側端に連ねられた第 2 のサイドパネル 710 と、 D2-3 第 1 のサイドパネル 710 の下端に連ねられた第 1 のボトムパネル 720 と、 から構成され、 E 第 2 のサイドパネル 710 が第 1 のサイドパネル 710 側に折られて筒状に形成 20 され、第 1 のボトムパネル 720 が折られることで筒状の下端が塞がれて底部が形成 されている G 筒状の底部が載置面に対して凹弧状に湾曲している ことを特徴とする食品容器。 イ 本件発明 1 について 25 (ア) 乙 5 発明との相違点 本件発明 1 と乙 5 発明とは、以下の点で相違する(相違点 2-1)。 20 本件発明 1 は、包装容器を容器として形成した状態において、底部を形成する底 面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って奥行の方向に突出し、自立片によっ て載置面に自立させられるのに対し、乙 5 発明は、包装容器を容器として形成した 状態において、底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が設けられていない 5 点。 (イ) 本件発明 1 の進歩性欠如 乙 5 発明の食品容器において、その第 1 ボトムパネル 720 を載置面に沿って奥行 の方向に突出するように構成すると、その突出部分が本件発明 1 の「自立片」に相 当するものとなり、乙 5 発明の食品容器は、本件発明 1 と同一の構成となる。 10 しかるに、乙 5 発明の食品容器をより安定的に自立させるために、乙 5 発明の食 品容器に周知技術 1 を適用し、底部を形成する第 1 ボトムパネル 720 を載置面に沿 って奥行方向に突出させるように構成することは、当業者が用途等に応じて適宜な し得る設計事項に過ぎない。 したがって、本件発明 1 は、乙 5 発明及び周知技術 1 に基づいて、その特許出願 15 前に当業者が容易に発明することができたものであり、その特許は特許無効審判に より無効にされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件特許権を行使す ることができない。 ウ 本件発明 2 について (ア) 乙 5 発明との相違点 20 本件発明 2 と乙 5 発明とは、相違点 2-1 のほか、以下の点で相違する(相違点 2- 2)。 本件発明 2 は、底面片の先端に連ねられた自立片を有し、自立片が筒状の奥行の 方向に突出しているのに対し、乙 5 発明は、底面片の先端に連ねられた自立片を有 していない点。 25 (イ) 本件発明 2 の進歩性欠如 相違点 2-2 は、実質的には相違点 2-1 と同じものである。 21 したがって、本件発明 2 は、乙 5 発明及び周知技術 1 に基づいて、その特許出願 前に当業者が容易に発明することができたものであり、その特許は特許無効審判に より無効にされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件特許権を行使す ることができない。 5 エ 本件発明 3 について 本件発明 3 と乙 5 発明とには、相違点 2-1 のほかに相違点はない。 したがって、本件発明 3 は、乙 5 発明及び周知技術 1 に基づいて、その特許出願 前に当業者が容易に発明することができたものであり、その特許は特許無効審判に より無効にされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件特許権を行使す 10 ることができない。 オ 本件発明 4 について (ア) 乙 5 発明との相違点 本件発明 4 と乙 5 発明とは、相違点 2-1 のほか、以下の点で相違する(相違点 2- 3)。 15 本件発明 4 は、筒状の背面部に開口部を覆う蓋部が備えられているのに対し、乙 5 発明は、蓋部が備えられていない点。 (イ) 本件発明 4 の進歩性欠如 乙 5 発明の食品容器において、その第 1 ボトムパネル 720 を載置面に沿って奥行 方向に突出させるようにすると共に、食品容器の筒状の背面部に開口部を覆う蓋部 20 が備えられたものとすると、本件発明 4 と同一の構成となる。周知技術 1 及び 3 は、 乙 5 発明に適用されるべきこれらの技術に相当する。 したがって、本件発明 4 は、乙 5 発明並びに周知技術 1 及び 3 に基づいて、その 特許出願前に当業者が容易に発明することができたものであり、その特許は特許無 効審判により無効にされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件特許権 25 を行使することができない。 〔原告の主張〕 22 ア 本件発明 1 について (ア) 本件発明 1 と乙 5 発明とは相違点 2-1 において相違するが、さらに、乙 5 発 明の食品容器はカップホルダーへの収容を前提としたものであり、自立型の容器で はないこと、及び、乙 5 発明において載置面に接触するのは第 1 ボトムパネル 720 5 ではないことに留意する必要がある。 (イ) 乙 3 文献及び乙 4 文献に記載されているのは、周知技術 1 ではなく、乙 3 文 献及び乙 4 文献の各記載事項である。 (ウ) 仮に乙 5 発明に周知技術 1 を適用し得たとしても、本件発明 1 は、「前記自 立片によって前記載置面に自立させられる」点を含むものであり、乙 5 発明に周知 10 技術 1 を適用したとしても、本件発明 1 の構成には至らない。また、乙 5 発明にお いて載置面に接触するのは、第 1 ボトムパネル 720 ではないから、仮に第 1 ボトム パネル 720 を突出させたとしても、当該突出した部分が載置面に接するとはいえず、 「前記自立片によって前記載置面に自立させられる」ことにもならない。 さらに、乙 5 発明に乙 3 文献及び乙 4 文献の各記載事項を適用しても、(載置面 15 に沿って前記奥行方向に突出した)「前記自立片によって前記載置面に自立させら れる」構成とはならない。 以上のとおり、乙 5 発明に、周知技術 1 を適用しても、乙 3 文献及び乙 4 文献の 各記載事項を適用しても、相違点 2-1 を克服することはできず、本件発明 1 が乙 5 発明から容易に想到できたということはできない。 20 (エ) 乙 5 発明は、自立することを前提とした構造ではなく、カップホルダーへの 収容を可能とすることを前提とした構造である。このため、乙 5 発明には、 「乙 5 発 明の食品容器をより安定的に自立させる」という着想や、そのために「器の底面を 形成する部材を載置面に沿って奥行方向に突出させる」という手段を講じる技術的 意義がない。 25 したがって、乙 5 発明に周知技術 1 を適用する動機付けはない。 (オ) 仮に、乙 5 発明に周知技術 1 を適用して「器の底面を形成する部材を載置面 23 に沿って奥行方向に突出させ」たとすれば、当該突出した部分がカップホルダーと 干渉し、カップホルダーへの収容を妨げることになる。このことは、乙 3 文献及び 乙 4 文献の各記載事項を乙 5 発明に適用した場合も同様である。 したがって、乙 5 発明に周知技術 1、乙 3 文献及び乙 4 文献の各記載事項を適用 5 することには阻害要因がある。 (カ) 以上より、本件発明 1 は、乙 5 発明及び周知技術 1(又は乙 3 文献及び乙 4 文献の各記載事項)に基づき、特許出願前に当業者が容易に発明することができた ものではない。 イ 本件発明 2 について 10 本件発明 2 と乙 5 発明とは、相違点 2-1 及び 2-2 において相違するところ、相違 点 2-1 については、乙 5 発明から容易想到とはいえないから、本件発明 2 も、乙 5 発明から容易想到とはいえない。 ウ 本件発明 3 について (ア) 本件発明 1 は乙 5 発明から容易想到とはいえないから、本件発明 3 も、乙 5 15 発明から容易想到とはいえない。 (イ) 乙 5 発明においては、第 1 ボトムパネル 720 は載置面に接触しないから、仮 に第 1 ボトムパネル 720 を突出させたとしても、「第 1 ボトムパネル 720 及びその 突出部分の縁辺が載置面に接触することになる」わけではなく、 「前記底面片および 前記自立片の縁辺が前記載置面に接触」していることにはならない。 20 また、乙 5 発明はカップホルダーに収容されることを前提とし、それ以外で自立 することを意図していないから、乙 5 発明には、カップホルダーを要さずに自立す ることを目的とした手段を講じる動機付けがない。 仮に「第 1 ボトムパネル 720 を筒状の奥行方向に突出させる」ことができたとし ても、載置面に対して凹弧状に湾曲した底部を奥行方向に突出させるという技術思 25 想が一般的ではない。このため、乙 5 発明において、カップホルダーを要さずに容 器を安定的に自立させようとするのであれば、そもそも、底部を載置面に対して凹 24 弧状に湾曲したものとせず、平坦なものとすれば足り、これが自然な発想である。 他方、乙 3 文献及び乙 4 文献記載の各発明も、容器の底は平坦であり、容器の底面 を載置面に沿って奥行方向に突出させた部分も平坦である。したがって、仮に乙 5 発明に乙 3 文献及び乙 4 文献記載の各発明を適用したとしても、「第 1 ボトムパネ 5 ル 720 が載置面に対して凹弧状に湾曲していることから、その突出部分も載置面に 対して凹弧状に湾曲したもの」とはならない。 (ウ) 以上のとおり、本件発明 3 は、乙 5 発明及び周知技術 1 に基づいて、特許出 願前に当業者が容易に発明することができたものではない。 エ 本件発明 4 について 10 本件発明 1〜3 は乙 5 発明から容易想到とはいえないことから、本件発明 4 も、 乙 5 発明から容易想到とはいえない。 (4) サポート要件違反(争点 2-3)について 〔被告の主張〕 仮に被告製品の「舌状片」が本件発明 1 の「底部」を形成すると解される場合、 15 本件発明 1 はサポート要件(特許法 36 条 6 項 1 号)に違反するものとなる。 すなわち、本件発明 1 は、本件明細書の記載によれば、 「包装容器を自立させる自 立片が底面片に連なっているため、一体的な成形が簡便である」という作用効果を 奏するとされている。しかるに、包装容器全体の下面の部分であれば、たとえ容器 部の下の所の部分とは別に設けられたものであったとしても本件発明 1 の「底部」 20 に相当すると解すると、上記作用効果を奏することのない複雑な構成のものであ っ ても、本件発明 1 の技術的範囲に属するものとなってしまう。また、本件明細書に は、容器部の下の所の部分から離れた位置に底部を形成する底面片を設けることを 示唆する記載も存在しない。このように、本件発明 1 は、本件明細書の発明の詳細 な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記 25 載されたものとはいえない。 したがって、本件発明 1 に係る特許は特許法 36 条 6 項 1 号所定の要件を満たし 25 ていない特許出願に対してされたものであり、特許無効審判により無効にされるべ きものであるから(同法 123 条 1 項 4 号)、原告は、被告に対し、本件特許権を行 使し得ない。 本件発明 1 に従属する本件発明 2 及び 3 についても同様である。 5 〔原告の主張〕 本件各発明は、食品が食される際に用いられる包装容器に関するものであり、従 来、例えばスナック菓子等の一口サイズの食品がコンビニエンスストア等で販売さ れる際に用いられる包装容器を自立させる場合、容器の底部に、自立させるための 補助板を後付けしていたが、このような補助板は製造工程において取り付ける必要 10 があるため、成形が簡便でなかったことに鑑み、これを解決課題とし、成形が簡便 な自立型の包装容器の適用を目的として、所定の構成を採用することにより、包装 容器を自立させる自立片が底面片に連なっているため、一体的な成形が簡便である 等の効果を奏するようにしたものである。他方、本件発明 1 は、構成要件 A 及び B により、底面片が形状保持機能を果たしていることを利用して、この底面片と同一 15 面に連なる自立片を突出させることにより、底面片の形状保持機能を容器の自立に 利用したものと理解される。 したがって、本件各発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決 できると認識できる範囲内のものであり、サポート要件違反はない。 (5) 明確性要件違反(争点 2-4)について 20 〔被告の主張〕 仮に被告製品の「舌状片」が本件発明 1 の「底部」を形成すると解される場合、 本件発明 1 は、明確性要件(特許法 36 条 6 項 2 号)に違反するものとなる。 すなわち、被告製品の舌状片は、筒状の下端に密着するものではなく、筒状の下 端から離れた位置に存在する。ここで、仮に舌状片が六角片から 5cm 程度離れて配 25 置されている場合、その舌状片は「底部」を形成するものとはいえない。しかし、 仮に被告製品の舌状片が本件発明 1 の「底部」を形成すると解釈すると、舌状片が 26 六角片からどの程度離れれば「底部」を形成するものといえなくなるのかは判然と しない。このため、本件発明 1 は、 「底部」の意義が明確でなく、その発明の範囲が 不明確である。 したがって、本件発明 1 に係る特許は特許法 36 条 6 項 2 号所定の要件を満たし 5 ていない特許出願に対してされたものであり、特許無効審判により無効にされるべ きものであるから(同法 123 条 1 項 4 号)、原告は、被告に対し、本件特許権を行 使し得ない。 本件発明 1 に従属する本件発明 2 及び 3 についても同様である。 〔原告の主張〕 10 本件発明 1 の「底部」は、1 枚の包装紙が筒状に折られて包装容器が形成された ときの筒状部の下端を意味するのであり、 「底部」が第三者に不測の不利益を及ぼす ほどに不明確であるということはできない。 また、本件発明 1 の「底部を形成する底面片」は、上記「底部」を形作る底面片 を意味するのであり、 「底部を形成する底面片」が第三者に不測の不利益を及ぼすほ 15 どに不明確であるということはできない。 以上のとおり、本件各発明の「底部」及び「底部を形成する底面片」の意義は明 確であり、明確性要件違反はない。 (6) 原告の損害(争点 3)について 〔原告の主張〕 20 被告は、遅くとも令和元年末頃から現在まで被告製品の販売等を行っており、そ の売上合計は 2 億円を下回らない。 原告は、特許法 102 条 3 項に基づき、特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額 に相当する額の金銭を自己が受けた損害として、その賠償を請求できるところ、本 件各発明の実施に対し受けるべき金銭の額は、被告製品の売上額の 10%である 2000 25 万円を下らない。 〔被告の主張〕 27 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 「底部」「底面片」及び「自立片」の充足性(構成要件 B、D3、D4、E、G の 、 関係)について 5 (1) 本件明細書には、以下の記載がある。 ア 本発明は、食品が食される際に用いられる包装容器に関するものである。 (【0001】) イ 背景技術 従来、例えば油で揚げた細切りのジャガイモやスナック菓子などの一口サイズの 10 食品が、ファーストフードやコンビニエンスストアなどで販売され、または食され る際に用いられる包装容器として、下記特許文献 1 に記載の折畳式コップ型容器が 提案されている。 【0002】 ( ) この折畳式コップ型容器は手のひらに納まる程度の大きさであり、底部に取り付 けられた安定補助板により支えられてテーブルなどの上に立たせられる。【0003】 ( ) 15 ウ 発明が解決しようとする課題 しかし、折畳式コップ型容器は、安定補助板が例えば紙や合成樹脂などから形成 され、後から容器本体に取り付けられる構成である。したがって、製造工程におい て安定補助板を取り付ける必要があるため、成形が簡便でない。 【0005】 ( ) 本発明は、上記の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、成形が簡便な 20 自立型の包装容器の提供を目的とする。 【0006】 ( ) エ 発明の効果 本発明に係る包装容器…の構成によれば、包装容器を自立させる自立片が底面片 に連なっているため、一体的な成形が簡便である。 【0013】 ( ) また、底部が載置面に対して凹弧状に湾曲しており、底面片および自立片の縁辺 25 が載置面に接触している。この構成により、自立片はクッション性を有すると共に 凹弧状と逆の弧状に折れ曲がり難くなり、自立させられて背面片側に傾倒しようと 28 する包装容器を支える。したがって、自立させた状態を安定させることができる。 (【0015】) オ 発明を実施するための形態 図 1 から図 8 は第一実施形態に係る包装容器 10 が示されている。 【0018】 ( ) 5 図 1 から図 8 において、包装容器 10 は 1 枚の包装紙 1 が筒状に折られて形成さ れている。包装容器 10 は、筒状の包囲部 7、包囲部 7 の上端である開口部 8、包囲 部 7 の下端である底部 9 から構成されている。包装容器 10 は正面から視して略扇 状に形成され、開口部 8 側が幅広であり、底部 9 側が幅狭である。また、平面から 視して幅が奥行よりも広い(図 3 参照)。包囲部 7 は正面片 70、背面片 20、および 10 糊代片 30 から形成され、正面片 70 と背面片 20 とが糊代片 30 を介して貼付され ている(図 3 参照)。底部 9 は底面片 40 と内側底面片 50 とが折り重ねられて形成 され(図 7 参照)、正面から視して載置面(図示せず)に対して凹弧状に湾曲してい る。底面片 40 は、自立片 60 が同一面に連ねられて載置面に沿って奥行き方向に突 出している(図 7 参照) ( 。 【0019】) 15 【図 7】 29 図 9 において、包装紙 1 は背面折り目 2、糊代折り目 3、底面折り目 4、内側底面 折り目 5、およびミシン目 6 を有し、この各折り目 2 から 5 およびミシン目 6 によ って六つの面に区切られている。包装紙 1 は各折り目 2 から 5 で折り返され、包装 容器 10 となる…。六つの面は、正面片 70、正面片 70 の右側端に背面折り目 2 を 5 介して連ねられた背面片 20、正面片 70 の左側端に糊代折り目 3 を介して連ねられ た糊代片 30、正面片 70 の下端に底面折り目 4 を介して連ねられた底面片 40、底面 片 40 の先端に連ねられた自立片 60、および背面片 20 の下端に内側底面折り目 5 を介して連ねられた内側底面片 50 である。 【0021】 ( ) 【図 9】 10 底面片 40 は、正面片 70 に対して凸弧状に湾曲した底面折り目 4、ミシン目 6、 互いに対称な斜辺である底縁辺 41、42 で囲まれた面である。 【0025】 ( ) 自立片 60 はミシン目 6、自立縁辺 61、互いに対称な斜辺である底縁辺 41、42 で 囲まれた面である。自立片 60 は底面片 40 と同一面に連ねられている。 【0026】 ( ) 内側底面片 50 は、背面片 20 に対して凸弧状に湾曲した内側底面折り目 5、凸弧 15 状に湾曲した内側底縁辺 51 で囲まれた面である。内側底面片 50 は底面片 40 に折 り重ねられて底面片 40 の外縁の範囲に収まる大きさに形成されている。 【0027】 ( ) 図 9 において、包装紙 1 を糊代折り目 3 および背面折り目 2 で山折りする。正面 片 70 の裏側で糊代折り目 3 に背面片 20 の糊代貼付辺 22 を合わせて折り重ねて貼 30 付し、糊代片 30 を介して正面片 70 と背面片 20 とを連ねる。糊代片 30 を介して筒 状に連なった正面片 70 と背面片 20 との間に適当な空隙を空けて筒状の包囲部 7 を 形成する。連なった正面上縁辺 71 と背面上縁辺 21 とが開口部 8 である。 (【0029】) 包囲部 7 を筒状に維持したまま内側底面片 50 を内側底面折り目 5 で山折りした 5 後、底面片 40 を底面折り目 4 で山折りして内側底面片 50 に折り重ねることで包囲 部 7 の下端を塞ぎ底部 9 を形成する。自立片 60 は底面片 40 と同一平面上で、奥行 き方向に突出している…。 【0030】 ( ) このようにして包装容器 10 が形成される。包装容器 10 を例えばテーブルなどの 載置面に底部 9 側から載置すると、包装容器 10 はやや背面片 20 側に傾斜した状態 10 で底縁辺 41、42 が載置面に接触して自立する…。包装容器 10 は奥行の方向に突出 した自立片 60 によって、傾斜した状態で支えられる。 【0031】 ( ) 上記したように第一実施形態によれば、包装容器 10 は 1 枚の包装紙 1 が筒状に 折られて形成され、自立片 60 が底面片 40 と同一面に連ねられて載置面に沿って奥 行き方向に突出している。この構成によれば、包装容器 10 を自立させる自立片 60 15 が底面片 40 に連なっているため、一体的な成形が簡便である。 【0033】 ( ) 第一実施形態によれば、底部 9 は底面片 40 と内側底面片 50 とが折り重ねられて 形成され、正面から視して載置面に対して凹弧状に湾曲している。包装容器 10 を 例えばテーブルなどの載置面に底部 9 側から載置すると、包装容器 10 はやや背面 片 20 側に傾斜した状態で底縁辺 41、42 が載置面に接触して自立する。この構成に 20 より、自立片 60 はクッション性を有すると共に凹弧状と逆の弧状に折れ曲がり難 くなり、自立させられて背面片 20 側に傾倒しようとする包装容器 10 を支える。し たがって、自立させた状態を安定させることができる。 【0035】 ( ) (2) 本件発明 1 について ア 「底部」 「底面片」及び「自立片」の意義 、 25 (ア) 特許請求の範囲の記載 本件特許に係る特許請求の範囲請求項 1 の記載によれば、 「底部」とは、1 枚の包 31 装紙が筒状に折られて形成される「包装容器」において、その「筒状」とされる部 分が開口部と共に有するものである(構成要件 A)。また、 「底面片」は、 「前記包装 容器を容器として形成した状態において、前記底部を形成する」ものである(構成 要件 B)。さらに、「自立片」は、この「底面片と同一面に連なる」ものであると共 5 に、「載置面に沿って前記奥行の方向に突出」するものであり、「包装容器」を「前 記載置面に自立させ」る機能を有するものである(構成要件 B)。 「底部」とは「底」となる部分を意味するところ、「底」とは、「@凹んだものや 容器の下の所。 、 」 「A物体の下面。底面。また、集積したものの下層部。」等の意味 を有する(乙 1)。そうすると、本件発明 1 における「底部」は、「包装容器」の筒 10 状部分が開口部と共に有するものであり、筒状の構造部分の「下の所」すなわち底 に当たる部分を意味するものと理解される。また、筒状の構造部分が「容器」 (物を 入れるうつわ。入れ物)として機能するものである以上、その「底部」は、筒状の 包装容器の下側を塞いでいる部分を指すものと理解される。 そうすると、 「底面片」は、このような「底部」を形成するものであるから、本件 15 発明 1 の包装容器を容器として形成した状態において、筒状の包装容器の下側を塞 ぐ部材を意味するものと理解される。また、 「自立片」は、このような「底面片」と 「同一面に連なる」ものであり、かつ、 「載置面に沿って前記奥行の方向に突出」し、 「包装容器」を「前記載置面に自立させ」る機能を有するものということになる。 (イ) 本件明細書の記載 20 本件明細書記載の本件発明 1 に係る第一実施形態において、底部 9 は、筒状の包 囲部 7、包囲部 7 の上端である開口部 8 と共に包装容器 10 を構成し、包囲部 7 の 下端をなすものである(【0019】 。また、底部 9 は、底面片 40 と内側底面片 50 と ) が折り重ねられて形成され、底面片 40 は、自立片 60 が同一面に連ねられて載置面 に沿って奥行方向に突出している(【0019】【0021】【0026】 。さらに、内側底面 、 、 ) 25 片 50 と底面片 40 は、包囲部 7 を筒状に維持したまま内側底面片 50 を内側底面折 り目 5 で山折りした後、底面片 40 を底面折り目 4 で山折りして内側底面片 50 に折 32 り重ねることで包囲部 7 の下端を塞ぎ、これによって底部 9 を形成する 【0030】 。 ( ) 他方、自立片は、底面片 40 の先端に連ねられており(【0021】 、底面片 40 と同一 ) 平面上で、奥行方向に突出している(【0030】 。このように、奥行の方向に突出した ) 自立片 60 によって、包装容器 10 は傾斜した状態で支えられる(【0031】 。 ) 5 そうすると、本件明細書の記載からも、 「底部」は、包装容器の筒状部分である包 囲部の下端にあって、上端の開口部と共に包装容器を構成するものであり、容器と して機能する筒状の構造部分の底に当たる部分であって、筒状の包装容器の下側を 塞いでいる部分を指すものと理解される。また、「底面片」は、このような「底部」 を形成するものであり、包装容器を容器として形成した状態において、筒状の包装 10 容器の下側を塞ぐ部材を意味するものと理解される。他方、 「自立片」は、このよう な「底面片」と同一面に連なるものであり、かつ、載置面に沿って前記奥行の方向 に突出し、包装容器を前記載置面に自立させる機能を有するものということになる。 (ウ) 小括 このような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件発明 1 の「底部」 15 は、「包装容器」の筒状部分が開口部と共に有するものであり、「容器」として機能 する筒状の構造部分の底に当たる部分であって、筒状の包装容器の下側を塞いでい る部分を指すものと理解される。また、 「底面片」は、このような「底部」を形成す るものであり、包装容器を容器として形成した状態において、筒状の包装容器の下 側を塞ぐ部材を意味するものと理解される。さらに、 「自立片」は、このような「底 20 面片」と同一面に連なるものであり、かつ、載置面に沿って前記奥行の方向に突出 し、包装容器を前記載置面に自立させる機能を有するものということになる。 イ 被告製品の構成要件充足性 (ア) 被告製品においては、背面片が片?側に折られて筒状に形成される(構成 e- 1、e’-1)。その際、背面片の下端に連ねられた六角片(構成 d-3、d’-3)は、筒状部 25 分下端から内側に折り込まれ、この折り込まれた六角片は、筒状部分内部に収めら れる内容物の下部に位置し、筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止してい 33 る(構成 e-2、e’-2)。このため、被告製品の六角片は、本件発明 1 の「底部を形成 する底面片」に相当するものといえる。 (イ) 被告製品の舌状片は、片?の下端に連ねられた部材であり(構成 d-4、d’-4)、 筒状部分の下端(六角片の接続箇所の反対側)から内側に折り込まれ(構成 e-3、e’- 5 3)、容器として形成した状態において、六角片と共に、略弧状に湾曲した状態とな り、片?に連なって、載置面に沿って背面側に突出し、載置面に置くと、舌状片に よって、被告製品は、載置面に背面方向に斜めに自立する(同 b、b’)。このため、 被告製品の舌状片は、本件発明 1 の「自立片」に相当するものといえる。 他方、筒状部分の下端から内側に折り込まれた六角片と舌状片とは接触しておら 10 ず、両者の間には隙間がある(同 e-4、e’-4)。このことと、被告製品の筒状部分の下 端から内容物が落下するのを防止する機能を果たしているのは六角片であることを 併せ考えると、舌状片は、筒状部分の下側を塞いでいるとはいえず、 「底部を形成す る底面片」に相当するものとはいえない。 (ウ) 六角片と舌状片とは、六角片は背面片の下端に連ねられているのに対し、舌 15 状片は片?の下端に連ねられており、同一面に連なるものとはいえない。 したがって、被告製品は、「底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片」(構 成要件 B)を充足しないから、本件発明 1 の技術的範囲に属しない。 ウ 原告の主張について これに対し、原告は、 「底部」は容器の内側から見た下の部分や内容物に接する部 20 分のみを意味するのではなく、容器全体から見た下の部分、すなわち、筒状部分の 下端を意味し、そのような「底部」を形づくり、 「底部」の形状保持機能を担ってい れば「底部を形成する底面片」であるといえるところ、被告製品の舌状片は、六角 片と共に、折り込まれることによって、被告製品の筒状部分の下側端部の形状保持 機能を担っており、また、筒状の下端(筒状の容器の内容物の落下経路)に立ちは 25 だかる状態となるのであるから、 「筒状の下端」を「塞」ぐものといえるなどと主張 する。 34 しかし、 「底部」の形状保持機能については、本件特許に係る特許請求の範囲にも 本件明細書にもこれに関する記載は見当たらず、これを示唆する記載もない。そう である以上、 「底部を形成する底面片」を定めるにあたり、底部の形状保持機能を考 慮すべきとはいえない。また、本件発明 1 の「底部」は包装容器の「筒状」部分が 5 有するものであるところ、被告製品の舌状片は、上記のとおり、筒状部分の下側を 塞いでいるものとはいえない。内容物の落下防止という観点から舌状片が「底部を 形成する底面片」といえないことも、上記のとおりである。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用 できない。 10 (3) 本件発明 2 について 前記のとおり、被告製品の六角片は「底部を形成する底面片」に相当するが、六 角片が折られることで自立片が奥行の方向(被告製品の背面側)に突出することは なく、自立片として奥行の方向に突出するのは舌状片である(構成 b、b’)。また、 被告製品において、六角片は背面片の下端に連ねられている(同 d-3、d’-3)のに対 15 し、舌状片は、片?の下端に連ねられており(同 d-4、d’-4)、両部材は同一面に連 なるものとはいえない。 したがって、被告製品は、 (構成要件 D- 「底面片の先端に連ねられた前記自立片」 4)及び「前記底面片が折られることで…前記自立片が前記奥行の方向に突出してい (同 E)を充足しないから、本件発明 2 の技術的範囲に属しない。これに反する る」 20 原告の主張は採用できない。 (4) 本件発明 3 について 被告製品の六角片は、本件各発明の「底部を形成する底面片」に相当するところ、 被告製品を容器として形成した状態において 載置面に接触するのは舌状片であり (構成 f、f ’)、六角片は載置面に接触しない。 25 したがって、被告製品は、 「前記底面片…の縁辺が前記載置面に接触している」 (構 成要件 G)を充足しないから、本件発明 3 の技術的範囲に属しない。これに反する 35 原告の主張は採用できない。 (5) 本件発明 4 について 前記のとおり、被告製品は、本件発明 1〜3 のいずれの技術的範囲にも属しない。 また、被告製品が本件特許に係る特許請求の範囲請求項 3、4 及び 6 のいずれかの 5 「請求項 1 か 技術的範囲に属することの主張立証はない。したがって、被告製品は、 ら請求項 6 のいずれか 1 項に記載の包装容器」 (構成要件 J)を充足しないから、本 件発明 4 の技術的範囲に属しない。これに反する原告の主張は採用できない。 2 まとめ 以上のとおり、被告製品は、本件各発明いずれの技術的範囲にも属しないことか 10 ら、本件特許権を侵害するものとはいえない。 したがって、原告は、被告に対し、本件特許権に基づく被告製品の譲渡等の差止 請求権及び廃棄請求権並びに本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を いずれも有しない。 第4 結論 15 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却すること として、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第 47 部 20 裁判長裁判官 杉 浦 正 樹 25 36 裁判官 小 口 五 大 5 裁判官 10 久 野 雄 平 37 別紙 物件目録 5 カウンターフーズ「GU-BO」の包装容器 38 別紙 被告製品の構成(原告の主張) 5 a 1 枚の包装紙が上側開口端部と下側閉口端部とを有する筒状に折られ、この筒 状の奥行きよりも幅の方向が広く形成された包装容器である。 b 筒状部分の下側端部に六角片及び舌状片(基部と延設部)を有している。容器 として形成した状態において、六角片と舌状片は、それぞれ内側に折り込まれて、 略弧状に湾曲した状態となり、筒状部分の下端の強度を補強している。また、容器 10 として形成した状態において、舌状片は弧状に湾曲した状態で片?に連なっており、 載置面に沿ってその延設部が背面側に突出し、載置面に置くと、舌状片(延設部) によって、被告製品は、載置面に背面方向に斜めに自立する。 c 包装容器である。 d 包装紙は、少なくとも、 15 d-1 片?と、 d-2 片?の側端に連ねられた背面片と、 d-3 背面片の下端に連ねられた六角片と、 d-4 片?の下端に連ねられた舌状片と、 から構成されている。 20 e-1 背面片が片?側に折られて筒状に形成されている。 e-2 六角片は、筒状部分の下端から内側に折り込まれている。この折り込まれた 六角片は、筒状部分内部に収められる内容物の下部に位置しており、筒状部分の下 端から内容物が落下するのを防止している。 e-3 舌状片は、筒状部分の下端(六角片の接続箇所の反対側)から内側に折り込 25 まれている。この折り込まれた舌状片(基部)は、筒状部分内部に収められる内容 物の下部に位置しており、筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止している。 39 e-4 筒状部分の下端から内側に折り込まれた六角片と舌状片とは接触しておら ず、両者の間には隙間がある(いわゆる二重底の形状となっている。)が、内容物の 重み等によって「六角片」が下方向にずれた場合には、舌状片の付け根が六角片の 先端に接触しこれを支えることで、内容物が落下するのを防止している。 5 e-5 舌状片が折られることで舌状片(延設部)が奥行の方向に突出している。 f 舌状片が載置面に対して凹弧状に湾曲しており、舌状片の縁が載置面に接触し ている。 g 筒状となった容器の背面片に、上側開口端部を覆うフードが備えられている。 <被告製品を展開した状態の内面> フード 背面片 片? 片? 基部 六角片 舌 状 片 延 設 10 40 別紙 被告製品の構成(被告の主張) 5 a’ 1枚の包装紙が上側開口端部と下側閉口端部とを有する筒状に折られ、この筒 状の奥行きよりも幅の方向が広く形成された包装容器である。 b’ 筒状部分の下側端部に六角片及び舌状片を有している。容器として形成した 状態において、六角片と舌状片は、それぞれ内側に折り込まれて、略弧状に湾曲し た状態となる。また、容器として形成した状態において、舌状片は弧状に湾曲した 10 状態で片?に連なっており、載置面に沿って背面側に突出し、載置面に置くと、舌 状片によって、被告製品は、載置面に背面方向に斜めに自立する。 c’ 包装容器である。 d’ 包装紙は、少なくとも、 d’-1 片?と、 15 d’-2 片?の側端に連ねられた背面片と、 d’-3 背面片の下端に連ねられた六角片と、 d’-4 片?の下端に連ねられた舌状片と、 から構成されている。 e’-1 背面片が片?側に折られて筒状に形成されている。 20 e’-2 六角片は、筒状部分の下端から内側に折り込まれている。この折り込まれた 六角片は、筒状部分内部に収められる内容物の下部に位置しており、筒状部分の下 端から内容物が落下するのを防止している。 e’-3 舌状片は、筒状部分の下端(六角片の接続箇所の反対側)から内側に折り込 まれている。 25 e’-4 筒状部分の下端から内側に折り込まれた六角片と舌状片とは接触しておら ず、両者の間には隙間がある。 41 e’-5 舌状片が折られることで舌状片が奥行の方向に突出している。 f’ 舌状片が載置面に対して凹弧状に湾曲しており、舌状片の縁が載置面に接触 している。 g’ 筒状となった容器の背面片に、上側開口端部を覆うフードが備えられている。 5 42 |