運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2021-800095
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 令和 4年 (行ケ) 10111号 審決取消請求事件

原告 株式会社ファルテック
同訴訟代理人弁理士 黒瀬雅一寺本光生 丹野拓人
被告片山工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 大谷嘉一 西野千明
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/07/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2021−800095号事件について令和4年9月13日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり、主な争点は、
進歩性についての認定判断の誤りの有無である。
1 手続の経緯 被告は、発明の名称を「車両ドアのベルトラインモール」とする発明につき、平成25年1月21日、特許出願し、平成28年12月22日、特許第6062746号として特許権の設定登録(請求項の数2)を受けた(以下、この特許を「本件特許」といい、本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。甲31)。
原告は、令和3年11月4日、特許庁に対し、本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をし、特許庁は、同請求を無効2021-800095号事件として審理をした。被告は、令和4年1月28日付け訂正請求書(甲18〜20)により本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載を訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。特許庁は、同年9月13日、本件訂正を認めるとともに、
「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、本件審決の謄本は、同月27日、原告に送達された。
2 発明の要旨 (1) 本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は、次のとおりである(本件訂正による訂正部分に下線を付す。以下、本件訂正後の請求項1に係る発明を「本件発明1」という。甲18、19、31)。なお、本件において、本件訂正を認めるとの本件審決の判断の適否については争われていない。
「車両ドアに装着されるベルトラインモールであって、
ベルトラインモールはドアガラス昇降部からドアフレームの表面にわたって延在するモール本体部と、
当該モール本体部の上部から内側下方に折り返したステップ断面形状部を有し、
前記ステップ断面形状部は、ドアガラスに摺接する水切りリップを有するとともに前記モール本体部の上部から下に向けて折り返した縦フランジ部と、当該縦フランジ部の下部から内側方向にほぼ水平に延びる段差部と、前記段差部の端部より下側に延在させた引掛けフランジ部を有し、
前記ドアガラス昇降部はモール本体部と引掛けフランジ部とでドアのアウタパネ ルの上縁部に挟持装着され、
前記ドアフレームの表面に位置する端部側の部分は前記縦フランジ部が残るように前記水切りリップ、前記段差部及び引掛けフランジ部を切除してあり、前記端部はエンドキャップを取り付けることができる断面剛性を有していることを特徴とするベルトラインモール。」 (2) 本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲請求項2の記載は、次のとおりである(本件訂正による訂正部分に下線を付す。以下、本件訂正後の請求項2に係る発明を「本件発明2」といい、本件発明1と併せて「本件発明」という。甲18、19、31)。
「車両ドアに装着されるベルトラインモールであって、
ベルトラインモールは意匠面を形成するモール本体部と、当該モール本体部の上部から内側下方に折り返したステップ断面形状部を有し、
ステップ断面形状部は前記モール本体部の上部から下に向けて折り返した縦フランジ部と、当該縦フランジ部の下部から内側方向にほぼ水平に延びる段差部と、前記段差部の端部より下側に延在させた引掛けフランジ部を有し、
ベルトラインモールは前記モール本体部と引掛けフランジ部とでドアのアウタパネルの上縁部に挟持装着されるものであり、
前記ステップ断面形状部は引掛けフランジ部であって前記段差部の内側からドアガラスに摺接するように立設した水切りリップと、縦フランジ部から前記水切りリップの外側に当接するサブリップを立設させたことを特徴とするベルトラインモール。」 3 本件審決の理由の要点 本件発明についての判断部分の理由の要点は次のとおりである(本件訂正に係る判断部分は省略する。。
) (1) 原告は、無効理由1(本件発明1について甲1、2、4、5、10〜14に記載された発明に基づく、本件発明2について甲1〜8、10〜12に基づく各進 歩性欠如)及び無効理由2(明確性要件違反)により、本件特許を無効とすべきと主張した。
(2) 無効理由1(本件発明1について甲1、2、4、5、10〜14に記載された発明に基づく、本件発明2について甲1〜8、10〜12に基づく各進歩性欠如)について ア 甲 1〜3について (ア) 甲1(特公平2-11419号公報)には次の甲1発明1及び甲1発明2が記載されている。
a 甲1発明1 「車体のドア上縁片に沿って嵌着固定されるベルトモールディングMであって、
ベルトモールディングMは昇降窓ガラスからドアサッシにわたって延在する外表面部被覆部及び頂部被覆部と、
前記頂部被覆部から下方に折り返した基部被覆部を有し、
前記基部被覆部は、昇降窓ガラスに向けて斜めに突出しガラス窓に当接する上下のリップ14、15を有するとともに前記頂部被覆部から下に向けて折り返した縦フランジ部と、当該縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向にやや下方に延びる段差部と、前記段差部の端部より下側に延在させた部分を有し、
前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ、
前記ドアサッシの表面に位置する端末部の長手方向を所定の長さに亘って前記頂部被覆部側の一部を残すと共に基部被覆部を切断することによりフランジ部16を形成し、その端末部にエンドキャップ3が射出成形されているベルトモールディングM。」 b 甲1発明2 「車体のドア上縁片に沿って嵌着固定されるベルトモールディングMであって、
ベルトモールディングMは装飾面部1aを形成する外表面部被覆部及び頂部被覆部と、前記頂部被覆部から下方に折り返した基部被覆部とを有し、
前記基部被覆部は、前記頂部被覆部から下に向けて折り返した縦フランジ部と、
当該縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向にやや下方に延びる段差部と、
前記段差部の端部より下側に延在させた部分を有し、
ベルトモールディングMは車体側のドアパネルPに押込んで取り付けられ、前記基部被覆部は、昇降窓ガラスに向けて斜めに突出しガラス窓に当接する上下のリップ14、15を有するベルトモールディングM。」 (イ) 甲2について 甲2(特開2004-114883号公報)には、次の甲2記載事項が記載されている。
「自動車ドアのドアアウタパネルの上縁に沿って取付けられるガラスアウタウエザストリップにおいて、
該ガラスアウタウエザストリップは、上記ドアアウタパネルの上縁に取付ける硬質合成樹脂等からなる硬質部材の取付基部と、ドアガラスの外面に当接しドアガラスとの間をシールする軟質の熱可塑性エラストマー等からなる軟質部材のガラスシールリップから構成され、
上記取付基部は、車外側側壁、上部壁、車内側側壁からなる断面略逆U字状をなし、
上記取付基部の上部壁の上に上記ガラスシールリップを接合せしめた自動車ドアのガラスアウタウエザストリップであって、上記取付基部の上部壁は、車外側において上方に突出する突出部を有し、該突出部にガラスシールリップを接合せしめ、
上記取付基部の上部壁の上記突出部は、内面に凹部を有し、該凹部は、断面略逆U字状の上記取付基部の内部空間に連続している自動車ドアのガラスアウタウエザストリップ。」 (ウ) 甲3について 甲3(特開2004-224230号公報)には、次の甲3記載事項が記載されている。
「自動車ドアのドアガラスの昇降口部に装着されるベルトラインモール10aのウェザーストリップにおいて、当該ウェザーストリップをドアガラスとの境界のドア端部に装着させているベース部材11の上端部付近より、意匠リップ30をドアガラス側へドアガラスに接しない長さで突出し、ベース部材11の意匠リップ30の付け根から間隔をおいた下方よりドアガラス側へ水切リップ20aを突出させ、
取付状態にて水切リップ20aはドアガラスに摺接し屈曲することで意匠リップ先端部31に水切リップ腹部を密着させて意匠リップと水切リップとベース部材にて空洞を形成する自動車ドアベルトラインモール。」 イ 本件発明1と甲1発明1とを対比すると、次の一致点において一致し、相違点1〜4において相違する。
〔一致点〕 「車両ドアに装着されるベルトラインモールであって、
ベルトラインモールはドアガラス昇降部からドアフレームの表面にわたって延在するモール本体部と、
当該モール本体部の上部から内側下方に折り返したステップ断面形状部を有し、
前記ステップ断面形状部は、ドアガラスに摺接する水切りリップを有するとともに前記モール本体部の上部から下に向けて折り返した縦フランジ部と、当該縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部と、前記段差部の端部より下側に延在させた部分を有し、
前記ドアガラス昇降部はドアのパネルに装着され、
前記ドアフレームの表面に位置する端部側の部分は前記縦フランジ部が残るように前記水切りリップ、前記段差部及び前記段差部の端部より下側に延在させた部分を切除してあり、前記端部はエンドキャップを備え得るベルトラインモール。」 〔相違点1〕 「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」に関して、本件発明1においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部であるの に対して、甲1発明1においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向に「やや下方に」延びる段差部である点。
〔相違点2〕 「前記段差部の端部より下側に延在させた部分」に関して、本件発明1においては、前記段差部の端部より下側に延在させた「引掛けフランジ部」であるのに対して、甲1発明1においては、前記段差部の端部より下側に延在させた「部分」である点。
〔相違点3〕 「前記ベルトラインモールはドアのパネルに装着され」に関して、本件発明1においては、 前記ドアガラス昇降部はモール本体部と引掛けフランジ部とでドアのア 「ウタパネルの上縁部に挟持」装着されているのに対して、甲1発明1においては、
「前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ」ている点。
〔相違点4〕 「前記端部はエンドキャップを備え得る」に関して、本件発明1においては、前記端部は「エンドキャップを取り付けることができる断面剛性を有している」のに対して、甲1発明1においては、その端末部に「エンドキャップ3が射出成形」されている点。
ウ 相違点1〜4について (ア) 相違点1 a 甲1発明1の「段差部」は、
「縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向にやや下方に延びる」ものである。
「ほぼ水平」が「およそ水平」「だいたい水平」を 、
意味するものと理解すると、このような甲1発明1の縦フランジ部の段差部を「ほぼ水平」ということはできないから、相違点1は実質的な相違点である。
b 甲1発明1において、
「やや下方に延びる段差部」を「ほぼ水平に延びる段差部」とする理由はなく、ベルトラインモールにおいて、「ほぼ水平に延びる段差部」 を有する構成とすることは、本件特許出願前に周知の技術でもない。
原告は、甲2には、
「ガラスアウタウエザストリップにおいて、ドアガラスに摺接するガラスシールリップを有するとともに突出部の車内側に有する段差と、当該段差の下部から内側方向にほぼ水平に延びる水平部を有していること。 が記載されて 」おり、
「ほぼ水平」に延びる段差部とすることは当業者が容易に想到し得ると主張するが、甲2に記載された事項は、車内側側壁が「ほぼ水平に延びる段差部」を有する構成とすることを示すものではない。
上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明1及び甲2記載事項から、当業者が容易に想到できたものではない。
(イ) 相違点3 a 「挟持装着」を、両側からはさむようにたもち、取り付ける、という意味に解して検討する。
b 甲1の第3図a及びbを参照すると、甲1発明1では、車体側パネル(ドアパネルP)は、第3図aにおいてモールディングMの手前側から、座4にタッピングスクリュー5によりネジ止めされている。また、車体側パネル(ドアパネルP)は、モールディングMのリップ14、15に対峙する側においては、リップ14、
15から離れる方向すなわち手前側にクランク状に屈曲していることが看て取れる(後記参考図の丸Aで囲んだ部分を参照。。そうすると、甲1発明1において、車 )体側パネル(ドアパネルP)にモールディングMを取り付けた状態において、車体側パネル(ドアパネルP)はモールディングMの手前側に位置するものと解される。
すなわち、甲1発明1における「前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ」は、
「車体側のドアパネルP」である車体側パネル(ドアパネルP)にモールディングMをネジ止めすることで取り付けられているものであるから、本件発明1の「挟持装着」に相当するものではない。
甲1においても「アウタパネル」が存在することは技術常識から自明であるとしても、その形態やベルトモールディングMとの関係は記載されていないのであるか ら、甲1発明1における「前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ」との事項により、
「外表面部被覆部と頂部被覆部と「基部被覆部の段差部の端部より下側に延在させた部分」とでドアのアウタパネルの上縁部に挟持装着されている」ものを自明に導くことはできない。
〔参考図〕 c ドアガラス昇降部をモール本体部と引掛けフランジ部とでドアのアウタパネルの上縁部に挟持装着することは、甲10(特開2009-143544号公報)、
甲11(特開2006-298239号公報)及び甲12(特開2005-132215号公報)に見られるように本件特許出願前に周知の技術であるといえる。また、甲7(特開2001-301469号公報)及び甲8(特開2006-88933号公報)には、ベルトモールディングが取り付けられる車体のドアの構造は、
ドアの内面を形成するインナパネルとドアの外面を形成するアウタパネルとその間に内設されるドアガラスから形成され、ベルトモールディングは、アウタパネルに装着される例が示されている。しかしながら、甲1発明1は、ドアパネルPにモールディングMをネジ止めするものであるから、これに上記周知の技術を適用する動 機はない。
また、ネジ止めに係る事項をも含め、全てを周知の技術で置き換えるとしても、
甲1のドアパネルPの形状を踏まえると、その置き換えを実現するための更なる創作が必要であることは、当業者であれば当然に理解し得るものである。そして、原告は、その点について、何ら証拠に基づく主張はしていない。
したがって、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明1、甲2記載事項及び周知の技術から、当業者が容易に想到できたものではない。
(ウ) 相違点2 引掛けフランジ部を設けることが、甲2、甲4(特開2000-71763号公報)及び甲5(特開2005-119487号公報)に見られるように本件特許出願前に周知の技術であったとしても、甲1には、アウタパネルについては記載されておらず、その形態やベルトモールディングMとの関係は記載されていないのは前記のとおりであるから、甲1発明1において、当該周知の技術を採用する理由はない。
したがって、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明1、甲2記載事項及び周知の技術から、当業者が容易に想到できたものではない。
(エ) 相違点4 本件発明1においては、端部はエンドキャップを取り付けることができる断面剛 「性を有している」と特定されているだけであって、エンドキャップがどのように取り付けられているかについては特定されていない。そして、甲1発明1は「端部にエンドキャップが射出成形されている」のであるから、射出成形によってエンドキャップが取り付けられている。
そうすると、そのための断面剛性は当然に有しているか、少なくとも、エンドキャップを取り付けることができる断面剛性を有するように構成することは、当業者が容易に想到できたことである。
したがって、相違点4は、実質的な相違点ではないか、甲1発明1において、上 記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
(オ) 本件発明1の容易想到性について 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1、甲2、甲4、甲5、甲10、甲11、甲12(特開2005-132215号公報)、甲13(特開平11-34757号公報)及び甲14(特開2005-35472号公報)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2と甲1発明2とを対比すると、次の一致点において一致し、相違点5〜8において相違する。
〔一致点〕 「車両ドアに装着されるベルトラインモールであって、
ベルトラインモールは意匠面を形成するモール本体部と、当該モール本体部の上部から内側下方に折り返したステップ断面形状部を有し、
ステップ断面形状部は前記モール本体部の上部から下に向けて折り返した縦フランジ部と、当該縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部と、前記段差部の端部より下側に延在させた部分を有し、
前記ベルトラインモールはドアのパネルに装着され、
前記ステップ断面形状部はドアガラスに摺接するように立設した水切りリップを有するベルトラインモール。」 〔相違点5〕 「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」に関して、本件発明2においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部であるのに対して、甲1発明2においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向に「やや下方に」延びる段差部である点。
〔相違点6〕 「前記段差部の端部より下側に延在させた部分」に関して、本件発明2において は、前記段差部の端部より下側に延在させた「引掛けフランジ部」であるのに対して、甲1発明2においては、前記段差部の端部より下側に延在させた「部分」である点。
〔相違点7〕 「前記ベルトラインモールはドアのパネルに装着され」に関して、本件発明2においては、 前記ドアガラス昇降部はモール本体部と引掛けフランジ部とでドアのア 「ウタパネルの上縁部に挟持」装着されているのに対して、甲1発明2においては、
「前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ」ている点。
〔相違点8〕 「前記ステップ断面形状部はドアガラスに摺接するように立設した水切りリップを有する」に関して、本件発明2においては、前記ステップ断面形状部は「引掛けフランジ部であって前記段差部の内側からドアガラスに摺接するように立設した水切りリップと、縦フランジ部から前記水切りリップの外側に当接するサブリップを立設させた」ものであるのに対して、甲1発明2においては、前記基部被覆部は、
「昇降窓ガラスに向けて斜めに突出しガラス窓に当接する上下のリップ14、15」を有するものである点。
オ 相違点5〜8について (ア) 相違点5〜7 相違点5ないし7は、それぞれ、相違点1ないし3と実質的に同じものであるから、前記ウで述べたものと同様の理由により、相違点5ないし7に係る本件発明2の発明特定事項は、甲2発明2、甲2記載事項及び周知の技術から、当業者が容易に想到できたものではない。
(イ) 相違点8 甲3記載事項は、甲3の段落【0002】及び【0003】の記載からすると、
従来のベルトラインモールにおいて、図5に示すように、水切リップ120、12 1が上段と下段に2重に設けられ、雨水等の水切りと遮音が図られていたものを、
従来と同等以上の遮音性能を確保しながら材料使用量の低減を図るのに効果的で、
コンパクトな断面形状にて生産性が高いベルトラインモールを提供することを目的としていると理解できる。
一方、甲1発明2は、上下のリップ14、15を有するものであるから、材料使用量を低減し、コンパクトな断面形状とするという課題が内在する。したがって、
甲1発明2に甲3記載事項を適用する動機付けが存在するから、甲1発明2に甲3記載事項を適用し、相違点8に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が、容易に想到できたことである。
(ウ) 本件発明2の容易想到性について 以上のとおりであるから、本件発明2は、甲1ないし甲5、甲6(特開2001-138827号公報) 甲7、
、 甲8及び甲10ないし甲12に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 無効理由2(明確性要件違反)について 本件発明はいずれも明確であるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号の要件を満たしており、無効理由2によって無効とすることはできない。
原告が主張する審決取消事由
1 取消事由1(本件発明1に係る相違点1の進歩性判断の誤り)について (1) 本件審決は、相違点1について、甲1発明1及び甲2記載事項から容易に想到できたものではないと判断したが、誤りである。
(2) 甲2記載事項の認定について ア 本件審決は、甲2記載事項として、前記第2の3(2)ア(イ)のとおり認定したが、甲2の【0041】【0043】 、 、図4及び5からすると、甲2記載事項として次の事項を追加して認定すべきである。
甲2記載事項1「ガラスアウタウエザストリップにおいて、取付基部の上部壁に おいて上方に突出する突出部を有し、ドアガラスに摺接するガラスシールリップを有するとともに突出部の車内側に有する段差と、当該段差の下部から内側方向にほぼ水平に延びる水平部を有していること。」 甲2記載事項2「ガラスアウタウエザストリップにおいて、取付基部の車内側側壁の先端に鉤部を設けて、アウタパネルに係止すること。」 イ 本件審決には、甲2記載事項として、上記事項の認定をしなかったという誤りがある。なお、一般に車両ドアに装着されるベルトラインモールにおいて、モール本体部の上部から下に向けて折り返した縦フランジ部と、当該縦フランジ部の下部から内側方向にほぼ水平に延びる段差部を有するものは、周知の技術事項であり(甲33(特開2002-254933号公報)の図4、甲34(実公昭57―25863号公報)の第3図参照)、このことからも、甲2に「ほぼ水平に伸びる水平部」の開示があると解すべきといえる。
(3) 容易想到性の判断について ア 甲1発明1のベルトモールディングMにおいても、甲2記載事項の自動車ドアのガラスアウタウエザストリップと同様に、プレスの切断金型等により「ドアサッシの表面に位置する端末部の長手方向を所定の長さに亘って基部被覆部を切断する」ものであるとともに、
「押し出し成形」により製造されるものであって、基部被覆部の切断を容易にしたり、押出成形時のバランスをよくしなければならないものであるから、基部被覆部の切断を容易にすること及び押出成形時のバランスをよくすることは、内在する自明の目的(課題)である。
したがって、甲1発明1と甲2記載事項とは、車両ドアのベルトラインモールとの共通の技術分野に属し、上記のとおり、共に、基部被覆部の切断を容易にすること及び押出成形時のバランスをよくすることを課題として有するものであるから、
甲1発明1に甲2記載事項を適用することは、当業者において、容易に想到し得るものである。
よって、甲1発明1において、甲2記載事項を適用することにより、縦フランジ 部の下部から昇降窓ガラス側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部とすることは、当業者が容易に想到し得るものであるから、本件審決の相違点1に係る容易想到性の判断は誤っている。
イ また、相違点1が、実質的な相違点であったとしても、段差部を縦フランジ部の下部から内側方向のどの方向に延ばすかは当業者の設計的事項であり、本件明細書には、段差部を縦フランジ部の下部から内側方向にほぼ水平に延ばした点に係る作用効果についての記載や示唆はなく、格別の技術的意義はないことに照らせば、
相違点1に係る本件発明1における構成の当該縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平」に延びる段差部であるとの構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
2 取消事由2(本件発明1に係る相違点2の進歩性判断の誤り)について 本件審決は、本件発明1に係る相違点2について、容易に想到できたものではないと判断したが、次のとおり誤りである。
甲1発明1のベルトモールディングMは、
「外表面部被覆部と頂部被覆部と「基部被覆部の段差部の端部より下側に延在させた部分」とでドアのドアパネルPであるアウタパネルの上縁部に挟持装着されている」ものである。そして、一般にベルトラインモールにおいて、車内側の側壁部材の先端に鉤部を設けること、すなわち引掛けフランジ部を設けることは、周知の技術事項である(甲2の【0023】【0 、
026】、図4及び5、甲4の【請求項2】【0017】【0019】 、 、 、甲5の【0011】参照。。
) ところで、甲1発明1と上記周知の技術事項とは、ベルトラインモールという共通の技術分野に属し、また、甲1発明1のベルトモールディングMにおいても上記周知の技術事項のベルトラインモールと同様に車体のドアに装着(係止)されるものであること、及び通常、当業者において、技術の改良に当たって当該技術分野に属する技術の適用を試みることは、当業者が通常期待される創作活動の範囲のことであるから、甲1発明1に上記周知の技術事項を適用する動機付けがある。
したがって、甲1発明1において、上記周知の技術事項を適用することにより、
相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得る。
3 取消事由3(甲1発明1の認定並びに本件発明1に係る一致点及び相違点3の認定の誤り)について (1) 甲1発明1の認定について 甲1の記載に照らすと、本件発明1に対応する甲1記載の発明は次のとおり認定されるべきである。
「車体のドア上縁辺に嵌着固定されるウエザーストリップベルトモールディングであって、
ウエザーストリップベルトモールディングはドア上縁辺に沿ってドアガラス昇降部からドアフレームの表面にわたって延在し、外表面部被覆部と、頂部被覆部と、
基部被覆部とを有し、
当該基部被覆部は、頂部被覆部から内側下方に折り返して、その断面形状がステップ断面形状となっており、昇降窓ガラスに摺接する上側のリップを有するとともに前記頂部被覆部から下に向けて折り返したフランジ部と、当該フランジ部の下部から内側方向にやや下方に延びる段差部と、前記昇降窓ガラスに摺接する下側のリップを有するとともに前記段差部の端部より下側に延在させた脚部を有し、
前記ドアガラス昇降部は、ドアのアウタパネルに押込まれて、外表面部被覆部と頂部被覆部と基部被覆部とでドアのアウタパネルの上縁部に挟持装着され、
前記ドアフレームの表面に位置する端部側の部分は前記フランジ部が残るように前記上側のリップ、前記段差部及び前記下側のリップを有する前記脚部を切除してあり、その端部には、エンドキャップが射出成形されているウエザーストリップベルトモールディング。」 (2) 相違点3の認定について ア 本件審決は、甲1発明1について「車体のドア上縁片に沿って嵌着固定されるベルトモールディングMであって」「前記ベルトモールディングMは、車体側の 、
ドアパネルPに押込んで取付けられ」などと認定し、本件発明1においては、
「前記ドアガラス昇降部はモール本体部と引掛けフランジ部とでドアのアウタパネルの上縁部に挟持」装着されているのに対して、甲1発明1においては、
「前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ」ている点が相違点(相違点3)であるとした。
しかしながら、甲1には、
「このように構成するモールディングMは車体側パネルに取付けるには、車体側のドアパネルPにモールディングの長手方向略全長を押込んだ後に、ドアパネルPの背面側より挿入するワッシャー付きタッピングスクリュー5をフランジ部16のビス孔17に締付けることにより端末側を確りと車体側パネルにねじ止め固定することができる(第3図a、b参照)」 。(4欄11〜18行)と記載されているから、甲1発明1のベルトモールディングMを車体側パネルに取付けるには、ベルトモールディングMを車体側のドアパネルPに押込み、ドアサッシの表面に位置する端末部では、ねじ止め固定し、端末部以外の部位、すなわちドアサッシの表面に位置する以外の部位は、嵌着固定されるものである。
そして、嵌着固定とは、嵌め合わせて取り付け固定することを意味するものであるから、甲1発明1においても、
「ドアパネルPのドア上縁片を挟持装着することにより取り付けられている」といえる。
イ 本件審決は、相違点3の認定において、ベルトラインモールが装着されるものが、本件発明1では「アウタパネル」であるのに対し、甲1発明1では「ドアパネルP」であることも相違点であると認定しているが、一致点として認定された「車両ドアに装着されるベルトラインモールであって、ベルトラインモールはドアガラス昇降部からドアフレームの表面にわたって延在する」との事項より、甲1発明1のベルトラインモールは車両ドアの外側のパネル(アウタパネル)に装着されていることは明らかであり、この点は相違点ではない。そもそも横断面略U字状やコ字状のベルトモールディングは、アウタパネルに挟持するための特有の形状であり、
証拠を挙げるまでもなく、当業者であれば一般的に知られている技術常識である。
ウ 本件審決は、甲1発明1について、
「車体側パネル(ドアパネルP)にモールディングMを取付けた状態において、車体側パネル(ドアパネルP)はモールディングMの手前側に位置するものと解される。」と判断したが、誤りである。
甲1の第3図aに示されているドアパネルPの端末突出部は、一見すると、車外側に突出しているように見えるが錯覚(錯視)であり、次のとおり、車内側に突出しているものである。
(ア) 甲1の第3図bを見ると、ベルトモールディングMの端末部(すなわち、基部13が切断された部分)のフランジ部16に形成された座4が、ドアパネルPの端末突出部の車外側に配置されて車内側からねじ止め固定されている。
一方、ドアパネルPにおける端末突出部以外の部位(以下「一般部」という。)は、甲1に「ベルトモールディングは、金属ストリップ材を横断面略U字形に折曲げ成形した芯材の外表面部を合成樹脂で被着し、その片面側にガラス窓に当接するリップ部を一体に形成したもので、車体のドア上縁辺に沿つて嵌着固定することに より取付けられている。」(1欄23行〜2欄3行)、「このように構成するモールディングMは車体側パネルに取付けるには、車体側のドアパネルPにモールディングの長手方向略全長を押込んだ後」(4欄11〜14行)と記載され、次の図面Cに示したように、ベルトモールディングMが押し込まれ、嵌着固定、すなわち挟持装着されている。
図面C 甲1の第3図bと上記図面Cとを比較すると、ドアパネルPは、その端末突出部ではベルトモールディングMの車内側に密着して配置され、また、その一般部ではベルトモールディングMの内部に配置されて挟持装着されており、ベルトモールディングMにおけるドアパネルPの配置される位置が異なっているから、ドアパネルPの端末突出部が、ドアパネルPの一般部より車外側に突出していると、ベルトモールディングMは、ドアパネルPの折り返し部で変形してしまい、直線状に保持することはできないことになる。
よって、図面Cに示したように、ドアパネルPの端末突出部は、ベルトモールディングMの基部13の上部の厚み(図面Cの黄色に塗った部分)程度、ドアパネル Pの一般部より車内側に突出しているものである。
(イ) 甲1の第3図aについての本件審決の判断は錯視によるものであることは、
次の図(図面D1及び図面D2)からも分かる。
図面D1 図面D2 図面D2は、ドアパネルを上から見た図であり、図面D1は同じドアパネルを側方から見た図である。図面D2から明らかなとおり、ドアパネルの左側は手前に突出しているにもかかわらず、図面D1では、逆方向に突出しているようにも見える。
(ウ) 次の斜視図1〜3は、甲1の第3図aにおいて、ベルトモールディングMがドアパネルPにどのように取り付けられるかを示したものである。甲1の第3図a では、特許発明と無関係であるため、補強パネルが省略されていると考えられる。
これらの図から分かるにように、ドアパネルPの上端は、末端部が高く折返部が低くなるように傾斜しており、斜視図3に示されるように、ベルトモールディングMの端末部(すなわち、基部13が切断された部分)がワッシャー付きタッピングスクリュー5によりドアパネルPにねじ止め固定されると共に、ウエザーストリップベルトモールディングMの端末部以外の部分がドアパネルPを挟持して嵌着固定するものである。
4 取消事由4(本件発明1に係る相違点3の進歩性判断の誤り)について (1) 前記3のとおり、相違点3は実質的な相違点ではない。
(2) 仮に、本件審決のとおり、甲1発明1は、ドアパネルPにモールディングMをネジ止めするものであったとして、本件審決も認めるとおり、「ドアガラス昇降 部をモール本体部と引掛けフランジ部とでドアのアウタパネルの上縁部に挟持装着することは、本件特許出願前に周知の技術である」から、甲1発明1において、上記周知の技術を適用することにより、相違点3に係る本件発明1における構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
5 取消事由5(本件発明2に係る進歩性判断の誤り)について 本件発明1と同じ理由により、本件審決は、相違点の認定及び相違点5〜7に係る進歩性判断を誤っている。
6 取消事由6(手続違背)について 原告は、審判請求書において、相違点1の進歩性がない理由として、上記相違点1が、実質的な相違点であったとしても、段差部を縦フランジ部の下部から内側方向のどの方向に延ばすかは当業者の設計的事項であり、甲2には、甲2記載事項1及び相違点1に係る本件発明1における構成の「当該縦フランジ部の下部から内側方向にほぼ水平に延びる段差部」との発明特定事項が示されていること、本件明細書には、段差部を縦フランジ部の下部から内側方向にほぼ水平に延ばした点に係る作用効果についての記載や示唆はなく、格別の技術的意義はないことに照らせば、
相違点1に係る本件発明1における構成の当該縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平」に延びる段差部であるとの構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものであると主張したが、本件審決は同主張について判断をしなかった。
また、本件審決は甲2記載事項を認定しながら、甲2の図4の実施形態について何ら判断をしなかった。
さらに、本件審決は、
「甲1発明1において、車体側パネル(ドアパネルP)にモールディングMを取付けた状態において、車体側パネル(ドアパネルP)はモールディングMの手前側に位置するもの」と解釈して、
「本件発明1の「挟持装着」に相当するものではない。」と結論付けたが、審判合議体は、審理の過程で当事者が一切主張しなかった上記解釈を本件審決において初めて示したのであり、原告は、かかる解釈につき反論の機会が一切与えられないまま、不意打ちというべき審決の判断 により不利益となる処分を受けた。
以上のように、原告の手続保障を著しく欠いた本件審決には、審理不尽の手続違背がある。
被告の主張
1 取消事由1(本件発明1に係る相違点1の進歩性判断の誤り)について (1) 本件審決の判断は、甲1及び2の記載に基づくものであって、甲2記載事項の認定に誤りはなく、進歩性判断にも誤りはない。
(2) 甲2の図4及び5には、車内側側壁が「ほぼ水平に延びる段差部」を有する構成とすることは示されていない。仮に、甲2の図5から、「ほぼ水平に延びる段差部」が看取できるとしても、突出部43bの内部に凹部を設けたために、硬質部材からなる取付基部の厚肉部分がなくなり、均一な肉厚になるのであるから(甲2の【0043】)、甲2に記載された事項が、甲1発明1において、「やや下方に延びる段差部」を「ほぼ水平に延びる段差部」とすることが容易であるということの根拠とはならない。
(3) 甲2には、 ドアガラスの外表面とドアフレーム等の外表面との段差を減少さ 「せる」という課題を解決するために、
「取付基部の上部壁の上」にガラスシールリップを接合せしめることが記載され(【0008】【0009】【0011】、図4、
、 、 )及び図5の態様は、その具体例として、
「取付基部の上部壁の車外側において上方に突出する突出部」にのみガラスシールリップが接合されているものである 【004 (1】【0043】。
、 ) これに対し、甲1には、
「ドアガラスの外表面とドアフレーム等の外表面との段差を減少させる」という課題に関し、何らの記載も示唆もなく、ガラスシールリップを取付基部の上部壁の上にのみ有するものとして考える理由もない。
そうすると、甲1発明1と甲2記載事項には課題の共通性がなく、甲1発明1に甲2記載事項を適用することは、当業者において、容易に想到し得るとはいえない。
(4) したがって、本件審決において、甲2記載事項の認定に誤りはなく、また本 件発明1に係る相違点1の進歩性判断に誤りはない。
なお、原告は、甲33の図4及び甲34の第3図を示して、縦フランジ部の下部から内側方向にほぼ水平に延びる段差部を有するものは周知の事項であると主張するが、甲33及び34には、
「ほぼ水平に延びる段差部」を有する構成とすることは開示されていない。また、上記事項は周知ではなく、
「ほぼ水平に」延びる段差部とすることは設計的事項であるとの原告の主張にも理由がない。
2 取消事由2(本件発明1に係る相違点2の進歩性判断の誤り)について 本件審決における甲1発明1の認定に誤りはない。また、甲1発明1において、
原告の主張する周知の技術事項を採用する理由はなく、本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(甲1発明1の認定並びに本件発明1に係る一致点及び相違点3の認定の誤り)について (1) 本件発明1における「挟持装着」と、甲1発明1における「押込」や「嵌着固定」とは、技術用語として明らかに相違する。したがって、本件発明1と甲1発明1の一致点が「前記ベルトラインモールはドアのパネルに装着され」という限りにおいて一致していることに誤りはなく、本件審決における相違点3の認定に誤りはない。
(2) 原告は、本件審決の相違点3のうち、本件発明1の「アウタパネル」と甲1発明1の「ドアパネルP」とが相違するという点は、相違点とはなり得ないと主張するが、当を得ない。
本件審決のとおり、甲1には、アウタパネルの形態やベルトモールディングMとの関係は記載されていないから、甲1発明1における「前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ」との事項により、
「外表面部被覆部と頂部被覆部と「基部被覆部の段差部の端部より下側に延在させた部分」とでドアのアウタパネルの上縁部に挟持装着されている」ものを自明に導くことはできない。
もっとも、被告は、横断面略U字状やコ字状のベルトモールディングが、アウタパネルに挟持するための特有の形状であることや、甲1の第3図aのドアパネルPがアウタパネルであることについては争わない。
(3) 原告は甲1発明1の「モールディングM」の「ドアパネルP」への取付態様について、原告が作図した図面を用いて主張するが、原告の図面D1と甲1の第3図aは、下の赤色の丸aで示した部分が明らかに相違しており、図面D1及びD2は、甲1の第3図aのドアパネルPとは、構造が異なる。
図面D1 また、原告の作成した斜視図についても、甲1にはない補強パネルが書き加えられ、「ドアパネルPの上端は、末端部が高く折返部が低くなるように傾斜しており」などと独自の解釈がされており、根拠のない図である。
仮に、原告が主張するとおり、ドアパネルPが車内側に突出しており、モールディングMの端末部以外の部分がドアパネルPを挟持して嵌着固定しているのであれば、次の参考図のとおり、ドアパネルPのクランク状に屈曲する部分(参考図の丸Aで示した部分)で、ストレートに押出成形されたベルトモールディングMの少な くともフランジ部16が、ドアパネルPと干渉してしまう。
(なお、参考図においては、説明の都合上、フランジ部16がドアパネルPを透過しているように表現されているが、このような構成は成立し得ない。) 参考図 4 取消事由4(本件発明1に係る相違点3の進歩性判断の誤り)について 本件審決が認定したとおり、甲1発明1は、ドアパネルPにモールディングMをネジ止めするものである。
これに、甲10ないし12の周知技術や、甲7、8(ベルトモールディングがアウタパネルに装着される例)を適用する動機はなく、また、甲13からドアパネルPへの取付態様が分かるともいえず、甲1のドアパネルPの形状も踏まえると、ネジ止めに係る事項をも含め、全てを周知の技術で置き換えることは、更なる創作が必要であることは明らかであり、本件審決の判断に誤りはない。
5 取消事由5(本件発明2に係る進歩性判断の誤り)について 前記1〜4のとおり、相違点5〜7の進歩性判断に誤りはなく、取消事由5が認められる余地はない。
6 取消事由6(手続違背)について 原告が、本件審決が判断していないと指摘する事項については、いずれも本件審決が判断しているものであり、原告の主張には理由がない。
また、原告は上申書(甲27)において、審判合議体からの「甲第1号証において、ベルトモールディングMは、ドアパネルPをどのように挟持しているのか」の問いに対し、
「ドアパネルPの端末部(端部)以外の部位の両側から挟んで、ベルトモールディングMがドアパネルPに取付けられている。 と回答しており、甲1のド 」アパネルに関し、原告に十分に主張の機会が与えられていたことは明らかであって、
不意打ちであるとの原告の主張は不当である。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書には、別紙1「特許公報(特許第6062746号)」のとおりの記載がある(ただし、同別紙の記載は本件訂正前のものであり、本件訂正により、
本件明細書の【0013】の1行目の「引掛けフランジ部13の段差部13cの」が、「引掛けフランジ部13であって段差部13cの」と訂正された。)。(甲18、20、31) (2) 本件発明の概要 前記(1)の記載によると、本件発明は、車両ドア(乗用車のフロントドア、リアドア、トラックキャビンドア等のドア全般)のドアガラス昇降部に装着されるベルトラインモールに関するものである【0001】 0005】。
( 【 、 )車両のドアパネルは、
ドア外面を形成するアウタパネルとドア内面を形成するインナパネルからなるものであり、アウタパネルの上縁部には、ドアガラスの外面と摺接し、雨水を切るための水切りリップ(シールリップ)を有するベルトラインモール(モールディング)が装着されており、ベルトラインモールは、車両の外面のベルトラインを装飾する意匠モールとしての役割があることから、ドアフレームの表面からドアガラス昇降部(アウタパネル上縁部)まで連続的に配設するデザインモールも採用されている ところ、この種のベルトラインモールでは、ドアフレームの表面に位置する部分の水切りリップを切除する必要があるので、従来は、ベルトラインモールの端部において意匠部を残すように水切りリップ等を切除すると剛性不足となり、別部材のエンドキャップを取り付けることができないためにエンド部材を射出成形にてモール本体部に一体化するなどしていたが、射出成形による一体化には専用設備が必要となるだけでなく、射出成形されるエンド部材とモール本体との間にラップ代が必要となるために外観意匠性に劣るという問題があった(【0002】。そこで、これら )の問題を解決するために、本件発明は、端末の剛性に優れるとともに外観デザインの全長にわたった連続性に優れ、ドアガラスとのシール性が高いベルトラインモールの提供を目的とし(【0004】、ベルトラインモールを、特許請求の範囲記載の )構成とすることにより 【0005】、
( ) モール本体部の上部から下に折り返した縦フランジ部を有し、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して、水切りリップや引掛けフランジ部を切除できるようにし、モール本体部と縦フランジ部とで略C断面形状を形成しつつ断面剛性を確保したので、ベルトラインモールの端末部に別物品としてのエンドキャップを取り付けることができるという効果を奏し、また、縦フランジ部の下部側に引掛けフランジ部を有するステップ断面形状に形成したので、水切りリップとこの水切りリップの外側の側面をサブリップで押圧するように二重リップ構造とすることもでき、このように二重リップ構造にすると段差凹部に埃等がたまるのを防止するだけでなく、ドアガラスに対するシール性が向上するという効果を奏するものである(【0009】。
) 2 甲1発明1及び甲1発明2、甲2記載事項及び甲3記載事項について (1) 甲1発明1及び2について ア 甲1は、平成2年3月14日に特許出願公告された、発明の名称を「ベルトモールディング」とする特許出願の公告公報であり、発明の詳細な説明及び図面には、別紙2「特許公報(平2-11419)」のとおりの記載がある。(甲1) イ 甲1発明1及び2の概要 (ア) 前記アの記載によると、甲1発明1及び2は、車両ドアのベルトモールディングの端末部の改良に関するものであり、車体のドア上縁辺に沿って嵌着固定することにより取り付けられるベルトモールディングの端末は、ドアサッシやコーナーピースと干渉するのを防ぐために一部を切欠除去するものであるが、車体側に位置する装飾面部が車体パネルから浮き上がったり、折れ曲がったりすることを回避するため、従来、モールディング本体の端末部を一部切欠いて横断面略C字状を呈する装飾面部には、別ものに樹脂成形した台座部をC字内側に嵌着固定し、その台座部にねじ孔を形成すると共にナットを埋め込み装着して、車体側パネルの背面側から挿入するボルトで台座部を締め付け固定することにより、端末部を車体パネルに取り付け支持することが行われていたものの、台座部を別ものに成形して取付け固定しなければならないため、部品点数が多く、コスト高を招くという問題があったことから、この問題を解決するために、別ものに形成する台座部を省略して安価で、
かつ、しっかりと車体側パネルに取り付け固定可能なベルトモールディングを提供することを目的とし、甲1発明1及び2に係るベルトモールディングにおいては、
モールディング本体の端末部長手方向を一部切欠いたフランジ部に芯金材を貫通するビス孔を形成し、そのビス孔を残存させてモールディング本体の端末部にエンドキャップを形成する合成樹脂でビス孔周辺のフランジ部も被覆することにより、タッピングスクリュー等でモールディング端末を車体側パネルにねじ止め固定できるよう構成することで、ベルトモールディングを、フランジ部に形成したビス孔とタッピングスクリューをしっかりとねじ込むことにより車体側パネルに固着できるので、端末部が車体側パネルから剥れたり、隙間が発生したりすることもなく、またフランジ部を被覆する座が車体側パネルの形状に合致しているのでタッピングスクリューでしっかりと締め付けできると共に、クッション材の役目を果たし、しかも孔部に水等が浸入するのを防止するシーリング効果をも発揮することができるというものである。
(イ) 前記アの甲1の記載によると、甲1には、前記第2の3(2)ア(ア)で本件審決 が認定したとおりの甲1発明1及び甲1発明2が記載されているものと認められる。
(2) 甲2記載事項について ア 甲2は、平成16年4月15日に公開された発明の名称を「自動車ドアのガラスアウタウエザストリップ」とする特許出願の公開特許公報で、次の記載がある。
【特許請求の範囲】 【請求項1】 自動車ドアのドアアウタパネルの上縁に沿って取付けられるガラスアウタウエザストリップにおいて、
該ガラスアウタウエザストリップは、上記ドアアウタパネルの上縁に取付ける硬質合成樹脂等からなる硬質部材の取付基部と、ドアガラスの外面に当接しドアガラスとの間をシールする軟質の熱可塑性エラストマー等からなる軟質部材のガラスシールリップから構成され、
上記取付基部は、車外側側壁、上部壁、車内側側壁からなる断面略逆U字状をなし、
上記取付基部の上部壁の上に上記ガラスシールリップを接合せしめたことを特徴とする自動車ドアのガラスアウタウエザストリップ。
【請求項5】 上記取付基部の上部壁は、車外側において上方に突出する突出部を有し、該突出部にガラスシールリップを接合した請求項1、2、3または4記載の自動車ドアのガラスアウタウエザストリップ。
【請求項6】 上記取付基部の上部壁の上記突出部は、内面に凹部を有し、該凹部は、断面略逆U字状の上記取付基部の内部空間に連続している請求項5記載の自動車ドアのガラスアウタウエザストリップ。
【0043】 図5は本発明の実施の別の態様のガラスアウタウエザストリップの断面を示すも のであり、図7のA-A線に沿った位置での断面図である。
図5の実施の態様は、図1の実施の態様と比べて、取付基部4の上部壁43の車外側が上方に突出している突出部43bを有し、その突出部43bの内面に凹部を有し、この凹部は、取付基部4の断面略逆U字状の内部空間に連続しているものである。また、図4の実施の態様と比較した場合には、図4の突出部43bの内部に凹部を設けたものであるということができる。
図5に示すように突出部43bの内部に凹部を設けたため、突出部43bの肉厚の厚い部分がなくなり、均一な肉厚となった。そのため、ガラスアウタウエザストリップ3を所定の寸法に切断するとき、硬質部材からなる取付基部4の厚肉部分が無くなり切断が容易である。
また取付基部4の肉厚が均一となり、押出成形時のバランスがよくなるとともに、
成形後の熱収縮等による取付基部4のヒケが生じない。
【図1】 【図4】 【図5】 【図7】 イ 甲2記載事項 前記アによると、甲2には、前記第2の3(2)ア(イ)で本件審決が認定したとおりの甲2記載事項が記載されているものと認められる。
(3) 甲3記載事項 ア 甲3は、平成16年8月12日に公開された発明の名称を「自動車ドアベルトラインモール」とする特許出願の公開特許公報で、次の記載がある。
【特許請求の範囲】 【請求項1】 自動車ドアのドアガラスの昇降口部に装着されるベルトラインモールのウェザー ストリップにおいて、当該ウェザーストリップをドアガラスとの境界のドア端部に装着させているベース部材の上端部付近より、意匠リップをドアガラス側へドアガラスに接しない長さで突出し、ベース部材の意匠リップ付け根から間隔をおいた下方よりドアガラス側へ水切リップを突出させ、取付状態にて水切リップはドアガラスに摺接し屈曲することで意匠リップ先端部に水切リップ腹部を密着させて意匠リップと水切リップとベース部材にて空洞を形成することを特徴とする自動車ドアベルトラインモール。
【0002】 【従来の技術】 自動車のドアガラスの昇降口部アウター側には、ドアガラスに弾性力を持って摺接し、ドアパネルとドアガラスの間をシールすることにより、雨水や埃の侵入を防止し、風切り音等を低減する為にウェザーストリップを備えたベルトラインモールが取り付けられている。
そのようなベルトラインモールは、その従来例の取付状態の長手方向断面図を図5に示すように、硬質塩化ビニル樹脂等の硬質樹脂からなるベース部材111に弾性を有する軟質塩化ビニル樹脂等の軟質樹脂からなるヒレ状の水切リップ120、
121が上段と下段に2重に設けられ、雨水等の水切と遮音が図られていた。
また、ベルトラインモール100には外観意匠性も要求され、ウェザーストリップ表面部からドアガラス側に向けて意匠リップ130が形成されている。
これらのベルトラインモールは、複合押出成形等にて製造されていて、さらなる低コスト化が要求されている。
低コスト化の方策として、使用材料の低減や、製造を容易にするコンパクトで簡単な断面形状の検討が上げられる。
しかしながら、単に水切リップを2枚から1枚にするだけでは遮音性能が低くなるという問題があった。
【0003】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、上記技術的課題に鑑みて、ドアガラス昇降口アウター側に装着されるベルトラインモールにおいて、従来と同等以上の遮音性能を確保しながら材料使用量の低減を図るのに効果的で、コンパクトな断面形状にて生産性が高いベルトラインモールを提供することを目的としている。
【0008】 図1に、請求項1に記載の発明に対応したベルトラインモール取付状態の図3におけるA-A線断面に対応する例を示す。
ベルトラインモール10aのウェザーストリップは、ドア3端部に装着されているベース部材11より意匠リップ30が、そして意匠リップ30の付け根から下方に所定の間隔を隔てた位置から水切リップ20aがドアガラス4側へ突出している。
意匠リップ30は、ベース部材11の上端付近よりドアガラス側上方へベース部材11とドアガラス4の略中間位置まで突出している。
水切リップ20aも斜め上方に突出し、ベース部材に固着している根元付近より上面は盛り上がり、腹部は上面と下面が略平行に厚みを持って形成されている。
水切リップ20aは、ドアガラス4に水切リップ20aの先端が摺接することで屈曲し、その腹部が上方の意匠リップ先端部31に密着している。
これにより、水切リップ20aと意匠リップ30とベース部材11にて空洞12aが形成されている。
水切リップは、このように上面と下面を略平行にし、全体に厚みを持たせた腹部とすることで、より一層の遮音効果を得ることが出来る。
【図1】 【図3】 イ 前記アによると、甲3には、前記第2の3(2)ア(ウ)で本件審決が認定したとおりの甲3記載事項が記載されているものと認められる。
3 本件審決の本件発明1についての進歩性欠如の無効理由に係る判断の誤りについて(取消事由1ないし4) 原告の主張する取消事由1ないし4は、いずれも、本件審決が、本件発明1について甲1に基づく進歩性欠如の無効理由がないと判断したことが誤りであるというものであるから、以下、取消事由1ないし4として主張された事項を併せて検討する。
(1) 一致点及び相違点 本件発明1と前記2(1)イ(イ)の甲1発明1を比較すると、前記第2の3(2)イで本件審決が認定したとおり、次の一致点において一致し、相違点1〜4において一応相違するものと認められる。なお、甲1発明1及び2の「ベルトモールディング」は本件発明の「ベルトラインモール」と同義である。
〔一致点〕 「車両ドアに装着されるベルトラインモールであって、
ベルトラインモールはドアガラス昇降部からドアフレームの表面にわたって延在するモール本体部と、
当該モール本体部の上部から内側下方に折り返したステップ断面形状部を有し、
前記ステップ断面形状部は、ドアガラスに摺接する水切りリップを有するとともに前記モール本体部の上部から下に向けて折り返した縦フランジ部と、当該縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部と、前記段差部の端部より下側に延在させた部分を有し、
前記ドアガラス昇降部はドアのパネルに装着され、
前記ドアフレームの表面に位置する端部側の部分は前記縦フランジ部が残るように前記水切りリップ、前記段差部及び前記段差部の端部より下側に延在させた部分を切除してあり、前記端部はエンドキャップを備え得るベルトラインモール。」 〔相違点1〕 「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」に関して、本件発明1においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部であるのに対して、甲1発明1においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向に「やや下方に」延びる段差部である点。
〔相違点2〕 「前記段差部の端部より下側に延在させた部分」に関して、本件発明1においては、前記段差部の端部より下側に延在させた「引掛けフランジ部」であるのに対して、甲1発明1においては、前記段差部の端部より下側に延在させた「部分」である点。
〔相違点3〕 「前記ベルトラインモールはドアのパネルに装着され」に関して、本件発明1においては、 前記ドアガラス昇降部はモール本体部と引掛けフランジ部とでドアのア 「ウタパネルの上縁部に挟持」装着されているのに対して、甲1発明1においては、
「前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ」ている点。
〔相違点4〕 「前記端部はエンドキャップを備え得る」に関して、本件発明1においては、前記端部は「エンドキャップを取り付けることができる断面剛性を有している」のに対して、甲1発明1においては、その端末部に「エンドキャップ3が射出成形」されている点。
(2) 相違点について ア 相違点1 (ア) 相違点1は、
「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」が、本件発明1においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部であるのに対して、甲1発明1においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向に「やや下方に」延びる段差部であるというものである。甲1発明1のモールディングが取り付けられるドアパネルが、アウタパネルであることについては当事者間に争いがなく、甲1発明1の「昇降窓ガラス側方向」は、本件発明1の「内側方向」(車内側を指す。)と同じ方向を意味するものと認められるから、相違点1においては、段差部が「ほぼ水平」に延びるか「やや下方」に延びるかという点のみが問題となる。
(イ) そこで検討するに、本件明細書には、段差部が縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びることの技術的意義についての記載はない。また、前記1(2)のとおり、本件発明は、端末の剛性に優れるベルトラインモールを提供するために、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して、水切りリップや引掛けフランジ部を切除できるようにし、モール本体部と縦フランジ部とで略C断面形状を形成しつつ断面剛性を確保したというものであり、ベルトラインモールの端末では、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して切除されるものであって、段差部も切除されるのであるから、段差部が「ほぼ水平に」に延 びても「やや下方」に延びても、本件発明の作用効果に何ら影響するものではない。
そうすると、段差部が「ほぼ水平に」延びるものとすることについて何らかの技術的意義があるとは認められない。
そして、甲1発明1においても、段差部が縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向(内側方向)に「やや下方に」延びることに何らかの技術的意義があるとは認められず、甲1発明1において「やや下方に」延びる段差部を「ほぼ水平に」延びるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべきである。
そうすると、甲2記載事項について検討するまでもなく、甲1発明1において段差部に設計的変更を加え、これを「ほぼ水平に」することは、当業者が容易に想到できたものと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、本件審決には、相違点1に係る容易想到性の判断に誤りがある。
イ 相違点2 (ア) 相違点2は、
「前記段差部の端部より下側に延在させた部分」が、本件発明1では前記段差部の端部より下側に延在させた「引掛けフランジ部」であるのに対して、甲1発明1では前記段差部の端部より下側に延在させた「部分」であるというものである。
(イ) 本件発明1に係る特許請求の範囲の記載によると、「引掛けフランジ部」は、
ベルトラインモールのドアガラス昇降部(端部以外の部分)において、
「モール本体部と引掛けフランジ部とでアウタパネルの上縁部に挟持装着され」るものであるから、本件発明1における「引掛けフランジ部」とは、モール本体部(下向きのU字状のベルトラインモールの外側部分)とアウタパネルを挟んで相対する場所に位置し、モール本体部とともにアウタパネルの上縁部を挟むようにして取り付けられる部分を指すものと認められる。このように解釈することは、本件明細書の記載とも整合する。
(ウ) 次に、甲1には、アウタパネルとモールディング(ベルトラインモール)の 位置関係について直接的に説明する図面は記載されていないものの、モールディングが、金属ストリップ材を横断面略U字形に折曲げ成形した芯材の外表面部を合成 「樹脂で被着し」(甲1の1欄23〜25行目)たもので、「車体のドアの上縁辺に沿って嵌着固定」 (同2欄1〜2行目)されるものであるとの記載があること、甲1発明1のモールディングの形状(甲1の第1図a参照)及び前記2(1)イのとおり、甲1発明1が、車体ドア(アウタパネル)の上縁辺に沿って嵌着固定することにより取り付けられるベルトラインモールの端末を一部切除し除去することで、浮き上がったりすることを回避することを目的とするものであって、一部切除がされていない部分ではベルトラインモール自体が車体ドアに嵌着固定されているものであることからすると、甲1発明1において、アウタパネルは、ベルトラインモールの下向きの略U字状に折り曲げられた芯材の外側(車外側。第1図aにおいて11と示されている部分)と、内側(車内側。同13と示されている部分)の間に挟み込まれて固定されているものと容易に理解できる。このように理解することは、本件発明1や甲 1 発明1と同じくベルトラインモールに係る発明である甲2及び甲4に記載されたベルトラインモールの形状が、下向きの略U字状に折り曲げられた部材の外側と内側の間にアウタパネルを挟むようにして取り付けられるものであること(前記2(2) 、甲4の【0017】等)に照らしても、自然といえる。
(エ) また、本件発明1においては、ベルトラインモールの「ドアフレームの表面に位置する部分」すなわち端部において、段差部から先の車内側の部分(段差部及び引掛けフランジ部)を切除するものであるところ、甲1には、
「芯材10の頂部側の一部を残すとともに基部13を切除することにより、フランジ部16を形成する(第1図b参照)(甲1の3欄25〜27行目)とあり、甲1の第1図a〜c及び 」本件明細書の【図1】〜【図4】も考慮すると、その切除の位置及び切除される部位の形状は本件発明1と甲1発明1において、ほぼ同じである。
(オ) 以上のとおりであるから、甲1発明1の段差部の端部より下側に延在させた「部分」 (甲1の第1図aにおいて13で示される部分)は、本件発明1の「引掛け フランジ部」に相当する部分であると認めるのが相当であり、甲1発明1においては単に特段の名称が付されていないにすぎないというべきであって、実質的に相違するものであるとはいえない。
したがって、相違点2は実質的な相違点とはいえないから、本件審決には、相違点2に係る判断に誤りがある。
ウ 相違点3 (ア) 相違点3は、前記ベルトラインモールはドアのパネルに装着され」 「 に関して、
本件発明1においては、前記ドアガラス昇降部はモール本体部と引掛けフランジ部 「とでドアのアウタパネルの上縁部に挟持」装着されているのに対して、甲1発明1においては、
「前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ」ている点というものであるが、甲1発明1の「ドアパネルP」はアウタパネルであり、モールディングが取り付けられている場所については本件発明1と甲1発明1において相違しないから、相違点3については、甲1発明1の「押込んで取り付けられ」が、本件発明1の「挟持」装着と相違するか否かが問題となる。
なお、本件発明1における「挟持」について、本件明細書には特段の定義の記載はないものの、その字義から、挟んだ状態で支持することを意味するものと理解され、
「挟持装着」は、挟むように取り付けることを意味するものと理解される。
(イ) そこで検討するに、甲1の発明の詳細な説明には、ベルトモールディングは、
「金属ストリップ材を横断面略U字形に折曲げ成形した芯材の外表面部を合成樹脂で被着し、その片面側にガラス窓に当接するリップ部を一体に形成したもので、車体のドア上縁辺に沿って嵌着固定することにより取付けられている。その端末はドアサッシやコーナーピースと干渉するのを防ぐために一部を切欠除去しているが、この切欠を設けることにより車体パネルに嵌着係合する部分がなくなってしまうところから車体側に位置する装飾面部が車体パネルから浮き上り或いは折れ曲がつてしまう虞れがある。(甲1の1欄23行目〜2欄9行目)とあるので、モールディン 」グは、アウタパネルの上辺に嵌着係合されているものであるが、一部を切除した端 末部(端部)についてはそのままでは嵌着係合することができないものであると認められる。そして、甲1には、
「本発明に係るベルトモールディングにおいては、モールディング本体の端末部長手方向を一部切欠いだフランジ部に芯金材を貫通するビス孔を形成し、そのビス孔を残存させてモールディング本体の端末部にエンドキャップを形成する合成樹脂でビス孔周辺のフランジ部も被覆することにより、タッピングスクリュー等でモールディング端末を車体側パネルにねじ止め固定できるよう構成されている。(3欄2〜10行目)「このように構成するモールディングM 」 、
は車体側パネルに取付けるには、車体側のドアパネルPにモールディングの長手方向略全長を押込んだ後に、ドアパネルPの背面側より挿入するワッシャー付きタッピングスクリュー5をフランジ部16のビス孔17に締付けることにより端末側を確りと車体側パネルにねじ止め固定することができる(第3図a、b参照)」 。(4欄11〜18行目)との記載があり、これらの記載からは、甲1発明1においては、
端部についてはモールディング本体の一部を切欠くが、当該部分についてはアウタパネル(甲1の「車体のドア」「車体パネル」「車体側パネル」「ドアパネルP」)の上縁辺と嵌着係合することができないので、切欠いた部分のフランジ部にビス孔を形成して、アウタパネルにねじ止めにより固定するものとされているものと認められる。
そうすると、甲1発明1においては、モールディングは、端部以外の部分においては、アウタパネルの上辺に「嵌着係合」されているものであるが、前記イで認定したとおり、モールディングがアウタパネルを挟むようにして取り付けられるものと容易に理解できるから、甲1発明1の「押込んで取り付けられ」は、本件発明1の「挟持」装着と実質的に同じように、モールディングがアウタパネルの上縁辺を挟むようにして取り付けられた状態を指すものと認めるのが相当である。
そうすると、相違点3は実質的な相違点ではない。
(ウ) この点、本件審決は、甲1の第3図aについて、車体側パネル(ドアパネルP)は、モールディングMのリップ14、15に対峙する側においては、リップ1 4、15から離れる方向すなわち手前側にクランク状に屈曲しており、甲1発明1において、車体側パネル(ドアパネルP)にモールディングMを取り付けた状態において、車体側パネル(ドアパネルP)はモールディングMの手前側に位置するものと解されるとして、甲1発明1においては、ドアパネルPがモールディングに挟まれるものではなく、手前側に位置するものであり、モールディングMをネジ止めすることで取り付けられていると認定して、相違点3について容易想到ではないと判断し、被告も本件審決の上記認定が相当であると主張する。
しかしながら、甲1には、前記(イ)のとおりの記載があり、同各記載からは、モールディングは、端部以外の部分では、アウタパネルを挟むようにして取り付けられているものであって、ネジ止めすることで取り付けられているものではないと認められるから、本件審決の上記認定は甲1の記載に反するというほかない。
そして、甲1の第3図aは、当該図面のみから、ドアパネルPが屈曲しているか否か、また、屈曲しているとした場合に手前側と奥側のどちらに屈曲しているかを読み取ることは困難なものであるものの、甲1発明1においては、ベルトモールディングMの「基部被覆部は、昇降窓ガラスに向けて斜めに突出しガラス窓に当接する上下のリップ14、15を有する」(前記2(1)イ(イ)、第2の3(2)ア(ア)a)ものであるから、モールディングMの手前側に、ガラス窓に当接するリップ14、15が形成されているところ、モールディングMとドアパネルPの位置関係について、
本件審決の認定したとおりに、ドアパネルP(アウタパネル)がモールディングMの手前側(すなわち窓ガラス側)に位置するものと仮定すると、モールディングMに形成されたリップ部と窓ガラスの間にドアパネルPが挟まれることとなって、リップ部が窓ガラスに当接することを阻害することになるから、甲1の第3図aにおいて、ドアパネルPが手前側に屈曲していると理解すべきではない。
そうすると、本件審決が、甲1発明1におけるドアパネルとモールディングの位置関係について上記のとおりに認定したことは誤りというべきである。
(エ) したがって、本件審決には、相違点3に係る判断に誤りがある。
エ 相違点4 相違点4は、
「前記端部はエンドキャップを備え得る」に関して、本件発明1においては、前記端部は「エンドキャップを取り付けることができる断面剛性を有している」のに対して、甲1発明1においては、その端末部に「エンドキャップ3が射出成形」されている点であるが、甲1発明1においては、エンドキャップが取り付けられているのであるから、そのための断面剛性を有しているか、少なくとも断面剛性を有するものとすることは容易想到であると認められる。
そうすると、相違点4は実施的な相違点ではないか、容易想到である。なお、この点については、被告も争うところではない。
(3) 小括 以上のとおり、本件発明1と甲1発明1との相違点のうち、相違点1及び4については、当業者が容易に想到できたというべきであり、相違点2及び3については実質的な相違点ではないから、本件発明1には甲1発明1に基づく進歩性欠如の無効理由があり、本件発明1の進歩性に係る本件審決の判断には誤りがある。
そうすると、原告の主張する本件発明1の進歩性に係る判断の誤りの取消事由(取消事由1〜4)には理由がある。
4 取消事由5(本件発明2に係る進歩性判断の誤り)について (1) 一致点及び相違点 本件発明2と前記2(1)イ(イ)の甲1発明2を比較すると、前記第2の3(2)エで本件審決が認定したとおり、次の一致点において一致し、相違点5〜8において相違するものと認められる。
〔一致点〕 「車両ドアに装着されるベルトラインモールであって、
ベルトラインモールは意匠面を形成するモール本体部と、当該モール本体部の上部から内側下方に折り返したステップ断面形状部を有し、
ステップ断面形状部は前記モール本体部の上部から下に向けて折り返した縦フラ ンジ部と、当該縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部と、前記段差部の端部より下側に延在させた部分を有し、
前記ベルトラインモールはドアのパネルに装着され、
前記ステップ断面形状部はドアガラスに摺接するように立設した水切りリップを有するベルトラインモール。」 〔相違点5〕 「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」に関して、本件発明2においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部であるのに対して、甲1発明2においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向に「やや下方に」延びる段差部である点。
〔相違点6〕 「前記段差部の端部より下側に延在させた部分」に関して、本件発明2においては、前記段差部の端部より下側に延在させた「引掛けフランジ部」であるのに対して、甲1発明2においては、前記段差部の端部より下側に延在させた「部分」である点。
〔相違点7〕 「前記ベルトラインモールはドアのパネルに装着され」に関して、本件発明2においては、 前記ドアガラス昇降部はモール本体部と引掛けフランジ部とでドアのア 「ウタパネルの上縁部に挟持」装着されているのに対して、甲1発明2においては、
「前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ」ている点。
〔相違点8〕 「前記ステップ断面形状部はドアガラスに摺接するように立設した水切りリップを有する」に関して、本件発明2においては、前記ステップ断面形状部は「引掛けフランジ部であって前記段差部の内側からドアガラスに摺接するように立設した水切りリップと、縦フランジ部から前記水切りリップの外側に当接するサブリップを 立設させた」ものであるのに対して、甲1発明2においては、前記基部被覆部は、
「昇降窓ガラスに向けて斜めに突出しガラス窓に当接する上下のリップ14、15」を有するものである点。
(2) 相違点について ア 相違点5〜7は、相違点1〜3と実質的に同じものである。そして、相違点1〜3に関し、甲1発明1について述べたところは、相違点5〜7に関し、甲1発明2にそのまま妥当するから、前記3と同じ理由により、相違点5については容易に想到できるものであり、相違点6及び7は実質的な相違点ではない。
イ 相違点8については、甲1発明2に前記2(3)イの甲3記載事項を適用することにより、当業者が容易に想到できるものと認めるのが相当である。なお、相違点8について、容易想到であることについては、被告も争うところではない。
(3) 小括 以上のとおり、本件発明2と甲1発明2との相違点のうち、相違点5及び8については、当業者が容易に想到できたというべきであり、相違点6及び7については実質的な相違点ではないから、本件発明2には、甲1発明2に基づく進歩性欠如の無効理由があり、本件発明2の進歩性に係る本件審決の判断には誤りがある。
そうすると、原告の主張する取消事由5には理由がある。
5 取消事由6(手続違背)について 原告は、本件審決に手続違背があると主張するが、原告が指摘する事項は、結局のところ、本件審決の進歩性に係る判断に誤りがあるとの主張に尽きるところ、同主張に理由があるのは前記3及び4のとおりであるものの、本件に提出された証拠及び本件審決から認められる審判の審理の経過に照らし、その他に本件審決に手続違背の取消事由があるとは認められない。
結論
以上の次第であるから、本件審決には本件発明の進歩性に係る判断に誤りがあり、
原告の請求には理由があるので、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
裁判官 勝又来未子