関連審決 |
無効2020-800100 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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令和4ネ10002特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
令和2行ケ10144 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
令和3行ケ10021 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
令和2行ケ10079 審決取消請求事件 令和2行ケ10083 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
令和4ネ10003特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
令和
4年
(行ケ)
10064号
審決取消請求事件
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原告 共和薬品工業株式会社 原告日医工株式会社 上記両名訴訟代理人弁護士 速見禎祥 溝内伸治郎 同訴訟代理人弁理士 多田央子 神野直美 被告協和キリン株式会社 同訴訟代理人弁護士 大野聖二 同訴訟代理人弁理士 松任谷優子 梅田慎介 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2023/07/13 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2020-800100号事件について令和4年6月7日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は、特許無効審判請求に係る不成立審決の取消訴訟である。争点は、進歩性の有無及びサポート要件(特許法36条6項1号)違反の有無である。 1 特許庁における手続の経緯等 被告(旧商号・協和発酵キリン株式会社)は、名称を「微細結晶」とする発明についての特許(特許第4606326号。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲37、乙1)。 本件特許については、平成16年5月7日を国際出願日(国内優先権主張・平成15年5月9日(以下「本件優先日」という。))とし、特願2005-506044号として出願され(以下、この出願を「本件出願」という。)、平成22年10月15日に設定登録がされた(甲37、乙1。以下、本件特許に係る設定登録時の明細書及び図面(甲37)を「本件明細書」という。)。 原告らは、令和2年10月12日、本件特許(請求項の数は5)について特許無効審判の請求をし、特許庁は、無効2020-800100号事件として審理した。 特許庁は、令和4年6月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月16日、原告らに送達された。 原告らは、令和4年6月29日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。 2 本件特許に係る発明の要旨(甲37) 本件特許に係る特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を請求項の番号に対応させて「本件発明1」などといい、本件発明1ないし5を併せて「本件各発明」という。)。 【請求項1】0.5〜20μmの平均粒径を有し、結晶化度が40%以上である【化1】で表される(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオンの微細結晶。 【請求項2】0.5〜20μmの平均粒径を有し、結晶化度が40%以上である(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオンの微細結晶を含むことを特徴とする固体医薬製剤。 【請求項3】微細結晶が、(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオンの結晶を粉砕して得られる微細結晶である請求項2記載の固体医薬製剤。 【請求項4】微細結晶が、(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオンの結晶と添加剤を混合し、得られた混合物を粉砕して得られる混合物中の微細結晶である請求項2記載の固体医薬製剤。 【請求項5】粉砕が、ジェットミルを用いて行う粉砕である請求項3または4記載の固体医薬製剤。 3 本件審決の理由の要旨(原告らが審決取消事由として取り上げる無効理由1(進歩性欠如)及び無効理由2(サポート要件違反)に係る部分に限る。)(1) 無効理由2(サポート要件違反)について ア 無効理由2の概要 原告らが主張する無効理由2は、本件各発明の課題は、溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、医薬製剤中の分散性等が良好な(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(以下「化合物1」という。)の結晶及びその結晶を含む固体医薬組成物を提供することであるが、本件明細書の発明の詳細な説明及び本件出願時の技術常識からは、平均粒径0.5〜20μm、結晶化度40%以上の全体にわたり、化合物1の溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ及び医薬製剤中の分散性が得られるとは認識できないというものである。 イ 判断(ア) サポート要件の判断の前提 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (イ) 本件各発明が解決しようとする課題 本件各発明は、本件明細書の全体の記載事項及び本件出願時の技術常識からみて、 「溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、医薬製剤中の分散性等が良好な化合物1の結晶およびその結晶を含む固体医薬製剤」の提供を解決しようとする課題とするものであると認められる。 (ウ) 本件各発明に関するサポート要件の判断 本件明細書には、本件各発明の化合物1の微細結晶は、平均粒径が50μm未満の結晶性の化合物であれば特に限定されないが、中でも0.5〜20μmの平均粒径を有する微細結晶が好ましいこと、さらに結晶化度が20%以上である化合物1の微細結晶が好ましく、中でも30%以上である化合物1の微細結晶がより好ましく、さらに40%以上である化合物1の微細結晶が最も好ましいことが記載されている。 そして、本件明細書では、「以下試験例により本発明の効果を具体的に説明する。」(5頁45行目参照)との記載があり、当該記載以降に試験例1ないし3が示されている。 試験例1では、結晶の結晶化度が87.2%の「化合物1の結晶」と、当該「化合物1の結晶」とHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)とを種々の割合でジクロロメタンに溶解し、溶媒を留去して得られた固体を錠剤粉砕機(YM-100、湯山製作所製)で粉砕した試料Aと、当該「化合物1の結晶」とHPMCとを種々の割合で混合し、ジェットミル、乳鉢、メカノミル又はボールミルで粉砕した試料Bとにつき、結晶化度と化合物1の残存率を測定して比較したところ、結晶化度が20%以上、好ましくは30%以上で光照射下での分解が減少することが示されている。 してみると、試験例1により、結晶化度が30%以上である本件発明1の結晶化度である40%以上の化合物1の微細結晶が、光安定性が良好であると、当業者は把握できる。 試験例2では、結晶の平均粒径が167μmである「化合物1の結晶」である結晶Aを、ジェットミル(PJM-100SP;日本ニューマチック製)で、供給速度50g/分、粉砕圧力0.4MPaで粉砕することにより、「化合物1の微細結晶」である微細結晶A(粒径D 100 =8.7μm、結晶化度84.6%)を得て(8頁下から6〜下から1行目)、結晶Aと微細結晶Aを比較したところ、微細結晶Aは、結晶Aと比較して、溶解性及び製剤工程中の分散性が良好であることが示されている。 ここで、微細結晶Aは、粒径D 100の値は記載されているものの、平均粒径の値の明示はないが、甲28(A作成の見解書)の記載及び甲32(山本英夫ほか著「粉砕」(神鋼パンテツク技報33巻3号1〜6頁(平成元年)))の記載から明らかなように、ジェットミルの粉砕限界は1〜3μm程度であることが技術常識であり、D100=8.7μmなのであるから、微細結晶Aの平均粒径は、1μm以上8.7μm未満であると認められる。 してみると、試験例2により、平均粒径が1μm以上8.7μm未満付近であって、結晶化度が84.6%付近の本件発明1の結晶化度である40%以上である化合物1の微細結晶が、溶解性及び製剤工程中の分散性が良好であると、当業者は把握できる。 試験例3では、結晶の平均粒径が181μmであり、結晶化度が71.6%の「化合物1の結晶」である結晶Bを、ジェットミル(PJM-100SP;日本ニューマチック製)で、供給速度50g/分、粉砕圧力0.25MPaで粉砕することにより、「化合物1の微細結晶」である微細結晶B(平均粒径;11μm、結晶化度67.3%)を得て(9頁3〜7行目)、結晶Bと微細結晶Bを、ラットに経口投与したところ、微細結晶Bの方が結晶Bよりも優れた経口吸収性を有していることが示されている。 してみると、試験例3から、平均粒径が11μm付近であって、結晶化度が67.3%付近である化合物1の微細結晶が、バイオアベイラビリティが良好であると、 当業者は認識する。 また、甲32に記載されているように、サブミクロンまで粉砕する方法が存在することは、本件出願時の技術常識であるから、化合物1の結晶を粉砕することにより得られた0.5μm程度のサブミクロンの微細結晶も、試験例1ないし3で示されたように溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、医薬製剤中の分散性等が良好な結晶となるであろうことは、当業者が認識できたことである。 上記一般的記載、実施例の記載、平均粒径や結晶化度の値とその値の変化による溶解速度や光安定性の傾向及び上記本件出願時の技術常識を考慮すれば、本件発明1の範囲である平均粒径0.5〜20μm、結晶化度40%以上の微細結晶において、当業者が上記課題を解決できるものと認識できる。 したがって、本件各発明は、溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、医薬製剤中の分散性等が良好な化合物1の結晶及びその結晶を含む固体医薬製剤とすることができると当業者が認識する範囲内のものある。 よって、無効理由2は理由がない。 (2) 無効理由1(進歩性欠如)について ア 甲1(特開平6-211856号公報)に記載された発明の認定 甲1には、次の各発明(以下、前者の発明を「甲1結晶発明」といい、後者の発明を「甲1製剤発明」という。)が記載されている。 (甲1結晶発明) (E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンの薄黄色針状晶。 (甲1製剤発明) (E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンの薄黄色針状晶を含む固体医薬製剤。 イ 対比・判断(ア) 本件発明1について a 本件発明1と甲1結晶発明を対比すると、両者は、「化合物1の結晶」という点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1)本件発明1は、平均粒径が0.5〜20μmの微細結晶であると特定しているのに対して、甲1結晶発明は、平均粒径及び微細結晶であることの特定がない点 (相違点2)本件発明1は、結晶化度が40%以上であると特定しているのに対して、甲1結晶発明は、結晶化度の特定がない点 b 上記相違点1及び相違点2について検討する。 甲1は、キサンチン骨格を有し、強力でかつ特異性の高いA2拮抗作用を有する優れたパーキンソン氏病治療剤の提供を課題とするものであり、溶解性、安定性、 バイオアベイラビリティ、医薬製剤中の分散性等の向上といった課題は見いだせず、 甲1には、化合物1の結晶の粒径の記載もないため、化合物1の結晶の粒径の検討に至る動機付けはない。 そして、甲2(特開平9-40652号公報)、甲3(国際公開第97/04782号)、甲4(宮崎正三ほか著「新しい図解薬剤学」(平成2年))、甲5(山本英二著「医薬・食品関連材料の晶析現象と機能性」(日本結晶成長学会誌23巻5号50〜57頁(平成8年)))、甲6(J. T. Carstensen 編、永井恒司訳「医薬品の溶出」(昭和52年))、甲7(吉岡澄江著「医薬品の安定性-よりよい開発と評価のための基礎から実際まで-」(平成7年))、甲8(「Die Pharmazie41, H.9」の664〜665頁(1986年))、甲9(特開2000-103733号公報)、甲10(緒方映子ほか著「製剤の粉砕、脱カプセルの問題点と対策」(薬局51巻5号22〜23頁(平成12年)))、甲11(花輪剛久ほか著「錠剤粉砕物中の医薬品の物理化学的性質の検討および粉砕物の調剤性の評価」(病院薬学26巻5号532〜541頁(平成12年)))、甲18(仲井由宣ほか著「α-及びβ-シクロデキストリン結晶化度の粉砕による変化」(薬学雑誌105巻6号580〜585頁(昭和60年)))及び甲19(特開平7-10756号公報)の記載を見ても、甲1において化合物1の結晶を結晶化度が40%以上かつ平均粒径0.5〜20μmに微細化する動機付けとなる記載は見当たらない。 また、甲1において、化合物1の結晶の粒径を検討したとしても、甲1には、結晶化度についての記載も示唆もないことから、化合物1の結晶を、結晶化度が40%以上かつ0.5〜20μmであるものとする動機付けは見いだせない。 さらに、上記(1)イで述べたとおり、本件各発明は、本件明細書から、微細結晶の結晶化度を40%以上としかつ平均粒径を0.5〜20μmとすることにより、 溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、医薬製剤中の分散性等が良好であるという効果を奏することが把握できるものであり、当該効果は、当業者が予測し得ない顕著なものである。 原告らは、甲3、4及び7ないし9を挙げて、最適な平均粒径及び結晶化度の検討が設計事項にすぎない旨主張しているが、甲1には化合物の平均粒径や結晶化度の数値範囲について具体的記載があるわけではないところ、どのように設計すればよいのかについて具体的な指標を示していない別の文献を基に、上記平均粒径及び結晶化度の検討が設計事項にすぎないということはできない。 したがって、本件発明1は、甲1ないし11、18及び19に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ) 本件発明2について a 本件発明2と甲1製剤発明を対比すると、両者は、「化合物1の結晶を含む固体医薬製剤」という点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点3)本件発明2は、含まれる結晶について平均粒径が0.5〜20μmの微細結晶であると特定しているのに対して、甲1製剤発明は、平均粒径及び微細結晶であることの特定がない点 (相違点4)本件発明2は、含まれる結晶について結晶化度が40%以上であると特定しているのに対して、甲1製剤発明は、結晶化度の特定がない点 b 上記相違点3及び相違点4について検討する。 甲1からは、溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、医薬製剤中の分散性等の向上といった課題は見いだせず、甲1には、化合物1の結晶の粒径の記載もないため、化合物1の結晶の粒径の検討に至る動機付けはない。 そして、甲2ないし11、18及び19の記載を見ても、甲1において化合物1の結晶を結晶化度が40%以上かつ平均粒径0.5〜20μmに微細化する動機付けとなる記載は見当たらない。 また、甲1において、化合物1の結晶の粒径を検討したとしても、甲1には、結晶化度についての記載も示唆もないことから、化合物1の結晶を、結晶化度が40%以上かつ0.5〜20μmであるものとする動機付けは見いだせない。 さらに、上記(1)イで述べたとおり、本件各発明は、本件明細書から、微細結晶の結晶化度を40%以上としかつ平均粒径を0.5〜20μmとすることにより、 溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、医薬製剤中の分散性等が良好であるという効果を奏することが把握できるものであり、当該効果は、当業者が予測し得ない顕著なものである。 したがって、本件発明2は、甲1ないし11、18及び19に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ) 本件発明3ないし5について 本件発明3ないし5は、本件発明2の発明特定事項全てをその発明特定事項とし、 更に技術的に限定するものであるから、本件発明2が甲1ないし11、18及び19に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明3ないし5もまた、甲1ないし11、18及び19に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 小括 以上のとおり、本件各発明は、甲1ないし11、18及び19に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、無効理由1には理由がない。 |
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原告ら主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件発明1の進歩性についての判断の誤り)について 以下のとおり、本件優先日当時の当業者は、相違点1及び2に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たものであり、また、本件発明1が奏する効果が当業者の予測できない顕著なものであるということはできないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである。 (1) 相違点1について ア 甲1結晶発明において化合物1の粒径を所望の大きさにまで小さくすることの動機付け 甲52(橋田充編「経口投与製剤の設計と評価」(平成7年))、甲53(橋田充編「経口投与製剤の処方設計」(平成10年))、甲54(花野学編「薬剤学(改訂第6版)」(平成14年))及び甲4によると、医薬の分野において、薬剤のバイオアベイラビリティを向上させること及び水難溶性薬剤の溶解性を向上させることは、本件優先日当時の当業者にとって自明の課題であり、これらの解決手段として、粒径を所望の大きさにまで小さくすることは、本件優先日当時の当業者にとって周知の技術事項であったといえる。 また、甲56(枝番を含む(以下、特に断らない限り、枝番のある書証について同じ。)。Pier Giovanni Baraldi ほか著「Recent developments in the field ofA2A and A3 adenosine receptor antagonists」(European Journal of MedicinalChemistry38巻4号367〜382頁(2003年 4月1日 )))、甲57(Hiroshi Kase ほか編「Adenosine Receptors and Parkinson’s Disease」(200 0 年 ) ) 、 甲 6 8 ( Christa E. M?ller ほ か 著 「 A2A-Selective AdenosineReceptor Antagonists: Development of Water-Soluble Prodrugs and a NewTritiated Radioligand」(DRUG DEVELOPMENT RESEARCH45巻3-4号190〜197頁(1998年)))及び甲2のとおり、本件優先日当時の当業者は、化合物1が水難溶性のものであると認識していたし、甲66(加瀬広著「パーキンソン病とその新しい治療薬の開発-アデノシンA 2A 受容体拮抗剤-」(生体の科学53巻6号592〜600頁(平成14年)))及び甲67(松原悦朗ほか著「パーキンソン病治療薬-アデノシンA2A受容体拮抗薬(KW-6002)など-」(日本臨床60巻1号112〜116頁(平成14年)))によると、本件優先日当時、 化合物1(KW-6002)は、既にパーキンソン病の治療薬として非臨床試験及び臨床試験に用いられていた(なお、化合物1が水難溶性のものであることは、本件優先日後の文献ではあるが、甲55(ノウリアスト錠20mgの医薬品インタビューフォーム(令和4年))にも記載されている。)。このように、化合物1が水難溶性のものであることは、甲1に接した本件優先日当時の当業者が当然に理解できる自明の事項であった。 以上によると、甲1に接した本件優先日当時の当業者は、甲1結晶発明が薬剤のバイオアベイラビリティ及び溶解性を向上させるという自明の課題を有していることを認識し、これらの課題を解決するため、甲1結晶発明に、化合物1の粒径を所望の大きさにまで小さくするとの周知の技術事項を適用することを当然に動機付けられるということができる。 なお、周知の課題を解決するための周知の手段が複数あったとしても、当業者であれば、当然にこれらの複数の手段を適宜採用することが可能である。また、薬剤のバイオアベイラビリティを向上させ、水難溶性薬剤の溶解性を向上させるという自明の課題を解決するための複数の周知の手段のうち薬剤を微細化することは、甲4及び52ないし54などの教科書的な文献において優先的に取り上げられるような基本的かつ代表的な手段であるほか、薬剤を粉砕するだけで実施できる簡便な手段であって、他の手段(製剤の崩壊の改善、化学的構造の変化、適切な結晶形、水和物、塩等の生成)と比較しても採用が容易なものである。 イ 平均粒径を0.5〜20μmとすることの容易想到性 当業者が甲1結晶発明の化合物1の粒径を小さくしようとする場合、粒径の具体的な大きさは、所望の溶解度となるように当該当業者が適宜調整すればよい設計的事項にすぎない。 また、甲52によると、本件発明1の化合物1の平均粒径である0.5〜20μm(以下、この数値範囲を「相違点1の数値範囲」という。)程度は、教科書的な文献にも記載がある一般的な数値範囲(数μm〜数十μm)に収まるものにすぎないし、甲59(特開平11-130663号公報)及び甲60(特開昭63-218618号公報)にも、水難溶性薬剤の平均粒径を相違点1の数値範囲に収まる特定の値にする旨の記載がある。このように、相違点1の数値範囲は、水難溶性薬剤を微細化する場合のごく一般的なものにすぎず、甲1結晶発明の化合物1の粒径を小さくしようとする本件優先日当時の当業者が容易に想到し得る程度のものである。 なお、本件明細書の試験例2によっても、広範な数値範囲(相違点1の数値範囲及び本件発明1の化合物1の結晶化度に係る40%以上との数値範囲(以下「相違点2の数値範囲」という。))において化合物1の溶解性の改善が確実に期待できることは確認されていないから、相違点1の数値範囲につき、これが化合物1の微細結晶の結晶化度の範囲(相違点2の数値範囲)との関係で顕著な溶解性の改善が確実に期待できる範囲として設定されたとの被告の主張は、失当である。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たものである。 (2) 相違点2について ア 甲1結晶発明において化合物1の結晶化度を一定の数値以上に維持することの動機付け 甲7、甲61(杉山雄一編「総合製剤学」(平成12年))、甲71(芦澤一英編著「医療品の多形現象と晶析の科学」(平成14年)) 及び甲72(EnnioOngini ほ か 著 「 Comparison of CGS 15943, ZM 241385 and SCH 58261 asantagonists at human adenosine receptors」(Naunyn-Schmiedeberg’s ArchPharmacol359巻1号7〜10頁(1999年)))によると、医薬の分野において、薬剤の安定性(光安定性)が良好な方が望ましいというのは、自明の課題であり、また、結晶化度が高い方が安定性(光安定性)が良好になることは、周知の技術事項にすぎないということができる。現に、甲9には、リコピンについて、光安定性を向上させるために結晶化度を高める発明が開示されており、甲8には、エルゴカルシフェロールについて、結晶性が高いほど光に対して安定であることが記載されている。 以上によると、甲1結晶発明に接した本件優先日当時の当業者は、薬剤の安定性(光安定性)を良好にするという自明の課題を認識し、当該課題を解決するため、 甲1結晶発明に、化合物1の結晶化度を一定の数値以上に維持するとの周知の技術事項を適用することを当然に動機付けられるということができる。 なお、周知の課題を解決するための周知の手段が複数あったとしても、当業者であれば、当然にこれらの複数の手段を適宜採用することが可能である。また、結晶化度を一定の数値以上に維持すること(非晶質にしないこと等)は、特段の処理が不要で薬剤を結晶のまま使用するという最も基本的な態様を含むものであり、他の手段(pH、緩衝塩成分、イオン強度、配合剤、賦形剤等を検討すること)よりはるかに容易な態様のものである。また、被告は、甲5及び61に難溶性医薬品については結晶化度を低くすることも検討すべき旨の記載があると主張するところ、難溶性医薬品に関して結晶化度が溶解度に影響することがあるとしても、本件優先日当時の当業者であれば、薬剤の安定性(光安定性)を向上させるとの周知の課題に基づいて、結晶化度を一定の数値以上に維持することを検討しつつ、粒子の微細化等の手段により溶解度を向上させるなど、結晶化度や平均粒径といったパラメータを適宜調整することを十分に動機付けられるというべきである。 イ 結晶化度を40%以上とすることの容易想到性 (ア) 結晶化度が高いほど安定性(光安定性)が高いとの技術常識に照らすと、 本件優先日当時の当業者は、薬剤の結晶を非晶化させず、結晶化度を80%や90%といった高い値に維持すれば安定性(光安定性)を良好にできるということに当然に想到し得たものである。そして、相違点2の数値範囲は、上記のとおり本件優先日当時の当業者であれば当然に想到し得るような数値を含む広範なものであるから、本件優先日当時の当業者は、相違点2の数値範囲の少なくとも一部の構成に容易に想到することができたものである。なお、結晶化度が安定性(光安定性)に影響があることが当業者にとって周知である中、ある者が良好な安定性(光安定性)を実現する結晶化度の下限値を発見したからといって、その者に対し、当業者であれば誰もが当然に認識できるような当たり前の結晶化度の範囲についてまでも独占権を与えることは許されない。 (イ) 甲9には光安定性を向上させるために結晶化度を20%以上とする例が、 甲71には結晶化度を60%以上とする例がそれぞれ開示されており、本件優先日当時の当業者にとって、所望の安定性(光安定性)を得るために結晶化度を相違点2の数値範囲とすることは、数値の最適化にすぎず、容易に想到し得るものである。 さらに、本件明細書の記載をみても、相違点2の数値範囲は、被告の独自の基準(試験例1)においてのみ意義を有するものにすぎず、医薬品において要求される安定性(光安定性)を実現し得るような技術的意義を有するものではないから、この点でも、相違点2の数値範囲は、本件優先日当時の当業者が最適化できる程度のものにすぎず、容易に想到し得るものであるといえる。なお、医薬品において要求される安定性(光安定性)は、総照度120万ルクス・時間以上とされているところ(甲64(平成9年5月28日薬審第422号「新原薬及び新製剤の光安定性試験ガイドラインについて」(厚生省薬務局審査課長通知)))、その僅か3%程度の総照度の光を当てたにすぎない本件明細書の試験例1において一定の光安定性(残存率)を示したからといって、医薬品として要求されるだけの良好な安定性(光安定性)が実現できるかは不明であるといわざるを得ないから、被告が適宜決めた結晶化度の下限値(40%)には、本件優先日当時の当業者にとっての技術的意義が認められない。 (ウ) 被告は、相違点2の数値範囲は化合物1の微細結晶の平均粒径の範囲(相違点1の数値範囲)との関係で顕著な光安定性の改善が確実に期待できる範囲として設定されたものであると主張する。しかしながら、本件明細書において、相違点2の数値範囲は、溶解性、バイオアベイラビリティ、分散性等の関係で検討されたものではないし、本件明細書において化合物1の光安定性が確認されているのは、 試験例1の各試料であるところ、これらの試料中の化合物1の平均粒径は不明であるから、相違点2の数値範囲が相違点1の数値範囲との関係で設定されたものであるということはできない。 また、被告は、相違点2の数値範囲の下限値(40%)の設定は技術的意義を有すると主張する。しかしながら、後記4(1)イのとおり、固体分散体におけるHPMCの分量が光安定性(残存率)に与える影響を無視することはできず、相違点2の数値範囲のみが良好な光安定性(残存率)を導いていると理解することはできないから、上記下限値に技術的意義があるとの被告の主張は失当である。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、相違点2に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たものである。 (3) 予測できない顕著な効果について 薬剤の結晶を微細化することにより溶解性やバイオアベイラビリティを向上させ、 また、薬剤の結晶化度を高く維持することで良好な安定性を得ることは、周知の技術事項にすぎない。また、本件優先日当時の当業者は、本件明細書の記載をみても、 本件発明1の奏する効果が予測できないほどに顕著なものであると理解することができない。さらに、甲65(原告共和薬品工業株式会社従業員作成の実験成績証明書)によると、本件発明1の化合物1の分散性が良好であることは確認されなかったし、仮に甲65の実験において確認された程度の凝集性をもって分散性が良好であると評価するのであれば、それは、本件優先日当時の当業者が予測できる範囲内のものにすぎない。そもそも、水難溶性薬剤を微細化する場合に平均粒径を相違点1の数値範囲とすることは、教科書的な文献にも記載され、各種の水難溶性薬剤において従来から採用されてきたところであるから、水難溶性薬剤において平均粒径を相違点1の数値範囲とすることにより溶解性が良好に改善することは、本件優先日当時の当業者であれば予測できる範囲内の一般的な効果にすぎない。 以上のとおりであるから、予測できない顕著な効果の存在を理由に本件発明1の進歩性を肯定することはできない。 なお、被告が援用する実験データ(甲38の20頁の図A、甲69の2枚目の図)によっても、平均粒径34.1μmと77.5μmとの間に化合物1の溶解性の改善の臨界点があると読み取ることはできず、同実験データには、単に、特定の溶出時間でみた場合に平均粒径が小さくなるほど溶出率が高くなるとの効果(技術常識から十分に予測できる効果)が示されているにすぎないから、同実験データが特異な変化を示しているということはできない。この点に関し、被告は、疎水性の化合物において粒子径が小さくなると凝集が起こり、溶解性が低下する場合があることを考慮すると、化合物1の微細結晶の溶解性が特定の範囲の平均粒径をとることにより大幅に改善されることは予想外の顕著な効果といえると主張するが、平均粒径が小さい方が溶出率が高くなることは、平均粒径が小さい粒子が凝集傾向を示さないということを意味するものではないし、上記実験データは、界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウムを添加した状態での溶解性を測定した結果であって、本件優先日当時の当業者であれば、そのような界面活性剤を添加すれば凝集が抑制されて粒子径に応じた溶解性が得られることを当然に予測することができるから、本件発明1について被告が主張するような予想できない顕著な効果を奏するとはいえない。 2 本件発明2について 本件発明2と甲1製剤発明との相違点3及び4は、それぞれ本件発明1と甲1結晶発明との相違点1及び2と同じであるから、前記1(1)及び(2)と同様、本件優先日当時の当業者は、相違点3及び4に係る本件発明2の構成に容易に想到し得たものである。これと異なる本件審決の判断は誤りである。 3 本件発明3ないし5について (1) 本件審決は、本件発明3ないし5について、これらが本件発明2の発明特定事項を全て含み、本件発明2を更に技術的に限定するものであることを理由にこれらの進歩性を肯定したが、前記2のとおり本件発明2は進歩性を欠くから、本件発明3ないし5についての本件審決の判断も誤りである。 (2) なお、本件発明3は、微細結晶を得る方法を「粉砕」に限定するものであるが、薬剤を粉砕して微細化することは、甲3、18、52等に記載された周知の技術事項にすぎないから、本件優先日当時の当業者は、甲1製剤発明と当該周知の技術事項とを組み合わせて本件発明3とすることに容易に想到し得たものである。 また、本件発明4は、微細結晶を得る方法を「添加剤を混合し、得られた混合物を粉砕」するものに限定するものであるが、このような方法は、甲3、18、52等に記載された周知の技術事項にすぎないから、本件優先日当時の当業者は、甲1製剤発明と当該周知の技術事項とを組み合わせて本件発明4とすることに容易に想到し得たものである。 さらに、本件発明5は、粉砕方法を「ジェットミルを用いて行う」ものに限定するものであるが、ジェットミルを用いて粉砕することは、甲19、52等に記載された周知の技術事項にすぎないから、本件優先日当時の当業者は、甲1製剤発明と当該周知の技術事項とを組み合わせて本件発明5とすることに容易に想到し得たものである。 4 取消事由2(サポート要件についての判断の誤り)について 以下のとおり、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合しないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである。 (1) 化合物1の結晶化度と安定性(光安定性)との関係について ア 本件明細書には、化合物1の結晶化度と光安定性との関係に係る試験について、試験例1に係る記載があるのみであるところ、試験例1においては、試料A(化合物1とHPMCとの固体分散体を粉砕したもの)及び試料B(化合物1とHPMCを混合粉砕したもの)のみが用いられており、添加剤を使用しない微細結晶やHPMC以外の添加剤を用いた固体分散体についての結果は確認されていない。 また、試料A及びBをみても、化合物1とHPMCの重量比は、1:2ないし1:10の範囲に限られている。 イ 本件各発明には、化合物1とHPMCとの固体分散体以外の微細結晶も含まれるところ(なお、本件発明4においては、微細結晶を得る方法が「添加剤を混合し、得られた混合物を粉砕」するものに限定されているが、添加される添加剤の種類や量は限定されておらず、HPMC以外の添加剤を使用したものやHPMCの添加割合が小さい場合も含まれる。)、HPMCは、薬剤のコーティング剤に用いられて成分の光安定性を向上させることが知られており(甲62(特開平11-269072号公報)、甲63(特開昭61-8号公報)、甲73(橋田充編「経口投与製剤の処方設計」(平成10年)))、HPMCを用いて固体分散体を調製すると、高分子であるHPMCが化合物1の結晶の周囲に存在することになり、このような高分子が存在しない場合と比較して光の照射の影響をより受けにくくなる。このことは、試験例1の結果である第1表からも読み取ることができ、第1表に接した本件出願当時の当業者は、第1表に示された良好な光安定性(残存率)が大量に添加されたHPMCの効果によるものであると理解する。なお、本件出願当時、化合物1の結晶を粉砕してその結晶化度を相違点2の数値範囲としただけで、第1表に示された化合物1とHPMCとの混合粉砕物(化合物1とHPMCの重量比1:10)と同様の光安定性(残存率)を示すと理解できるような技術常識は存在しなかった。 ウ 以上のとおり、本件出願当時、化合物1とHPMCの固体分散体においてのみ確認された結晶化度と安定性(光安定性)との関係(本件明細書の第1表)を同表以外の場合に拡張できるとの技術常識はなく、かえって、本件出願当時の当業者は、同表の記載自体から当該拡張ができないものと理解するのであるから、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載には、本件明細書及び技術常識を参酌しても、本件各発明の課題(良好な安定性(光安定性)の実現)を解決できると認識できない部分が含まれているというべきである。 (2) 化合物1の平均粒径と分散性との関係について ア 本件明細書は、微細結晶A(D100=8.7μm)について良好な分散性が確認された旨記載するのみであり、微細結晶Aの平均粒径は、不明である。 もっとも、原告らは、微細結晶Aの平均粒径が1μm以上8.7μm未満のいずれかの数値をとるものであることを争うものではないが、仮に微細結晶Aの平均粒径が1μmであるとすると、平均粒径が20倍になった場合(20μmの場合)については、本件明細書に記載がないため、本件明細書に記載されたのと同様の良好な分散性が発揮されるかどうかは、本件出願当時の当業者にとって不明というほかない。また、仮に微細結晶Aの平均粒径が8.7μm程度であるとすると、平均粒径が十数分の1になった場合(0.5μmの場合)及び平均粒径が倍以上になった場合(20μmの場合)のいずれについても、本件明細書に記載がないため、本件明細書に記載されたのと同様の良好な分散性が発揮されるかどうかは、本件出願当時の当業者にとって不明であるというほかない。なお、本件出願当時、化合物1のような薬剤について、平均粒径が1μm以上8.7μm未満の間のいずれか1点の数値において良好な分散性を示せば、平均粒径が相違点1の数値範囲においても同様の良好な分散性を示すという技術常識は存在しなかった。 イ 粒子の分散性は、固体製剤に使用する添加剤の有無、種類、量及び粒子径並びに採用される製造工程によっても大きく変化するところ、本件明細書の記載によっても、本件出願当時の当業者は、良好な分散性の効果がどのような製造工程で確認されたのかを理解することができず、当該効果が化合物1の平均粒径や結晶化度といった本件各発明の発明特定事項によって実現されることを確認することができないから、この点でも、本件出願当時の当業者は、本件各発明の構成により本件各発明の課題(良好な分散性の実現)を解決できると認識することができない。 ウ なお、甲65によると、化合物1の分散性について本件明細書に記載されているような効果は確認できなかったし、また、化合物1は、添加剤等を添加しなければ平均粒径6.3μmでも凝集が発生し、一般的に凝集性が低いとされる物質とは異なるといえる。 エ 以上のとおり、本件明細書によっても、微細結晶Aの平均粒径より大きい平均粒径を有する化合物1及び微細結晶Aの平均粒径より小さい平均粒径を有する化合物1について分散性が良好であるかどうかは、本件出願当時の当業者にとって不明であるし、また、本件出願当時の当業者は、良好な分散性の効果が本件各発明の発明特定事項によって実現されていることを理解できないから、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載には、分散性を良好にするとの課題を解決できると認識できない部分が含まれているというべきである。 (3) 小括 したがって、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合しない。 |
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被告の主張
1 取消事由1(本件発明1の進歩性についての判断の誤り)について 以下のとおり、本件発明1の進歩性についての本件審決の判断に誤りはない。 (1) 相違点1について ア 化合物1の粒径について検討しようとする動機付け (ア) 甲1には、化合物1の結晶の粒径について何らの記載もなく、また、化合物1の結晶の水に対する溶解性についても全く記載がないから、甲1結晶発明からは、溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、分散性等の向上といった課題は見いだせず、化合物1の結晶の粒径について検討しようとする動機付けはない。 (イ) 原告らは、甲2、55ないし57及び66ないし68を根拠に、化合物1が水難溶性のものであることは本件優先日当時の自明の事項であったなどと主張する。 しかしながら、甲55に記載された事項は、本件優先日当時の先行技術を構成するものではない。 甲56にいう低い水溶性は、3,7-ジメチル-1-プロパルギル-8-スチリルキサンチン誘導体について記載されたものであるところ、化合物1(KW-6002)は、その構造中に3,7-ジメチル-1-プロパルギル-キサンチン(DMPX)を有さず、3,7-ジメチル-1-プロパルギル-8-スチリルキサンチン誘導体に該当しないから、甲56は、化合物1の水難溶性について記載したものではない。 甲57には、化合物1(KW-6002)が強力な活性を示すのはKW-6002が高い経口吸収性を有しバイオアベイラビリティに優れるためであるとの記載があるのであるから、甲57に接した本件優先日当時の当業者は、化合物1は高い経口吸収性を有すると理解するのであり、化合物1の水溶性に係る課題を見いだすことはない。 甲68における水溶性に関する記載は、DMPX又はその誘導体についてのものであると解され、化合物1(KW-6002)は、その構造中にDMPXを有しないから、甲68も、甲56と同様、化合物1の水難溶性について記載したものではない。 甲2において化合物1が水で析出されていることは、化合物1の結晶が水に対する溶解性に乏しいことを直ちに意味しないから、甲2からは、化合物1の水に対する低溶解性に係る課題を抽出することはできない。 甲66及び67については、本件優先日当時に化合物1が非臨床試験及び臨床試験に用いられ始めていたからといって、本件優先日当時の当業者が化合物1の水溶解性を当然に確認するものではないし、本件優先日当時に化合物1の溶解性及びバイオアベイラビリティの向上が自明の課題であったことを意味するものでもない。 (ウ) 原告らは、甲4及び52ないし54を根拠に、医薬の分野において、薬剤のバイオアベイラビリティを向上させること及び水難溶性薬剤の溶解性を向上させることは本件優先日当時の当業者にとって自明の課題であり、これらの解決手段として、粒径を所望の大きさにまで小さくすることは本件優先日当時の当業者にとって周知の技術事項であったと主張する。 しかしながら、原告らが主張する課題が本件優先日当時の当業者にとって自明のものであり、原告らが主張する手段が本件優先日当時の当業者にとって周知の技術事項であったとしても、そのことのみをもって、複数存在する周知の技術事項の中から特に粒径を小さくするという手段を選択して化合物1に適用する動機付けがあったというには不十分であるところ、甲4及び52ないし54には、薬剤のバイオアベイラビリティや溶解性を向上させるための手段として複数のものが適用され得る旨の教示があるのであるし、また、甲1には、化合物1の結晶の水に対する溶解性についても粒径についても何ら記載がないのであるから、本件優先日当時の当業者には、甲4及び52ないし54に記載された複数の選択肢の中から特に粒径を小さくするとの手段を選択し、これを甲1結晶発明に適用する動機付けがないというべきである。 イ 平均粒径を相違点1の数値範囲とすることの想到困難性 (ア) 相違点1の数値範囲は、化合物1について、溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、分散性等が改善された微細結晶を提供することを目的として、微細結晶の粒径の範囲を結晶化度の範囲と併せて検討した結果、案出されたものである。 具体的には、本件明細書の試験例2において、微細結晶A(相違点2の数値範囲の結晶化度を保持し、かつ、D100が8.7μmであるもの)が水に対する良好な溶解性と製造化工程における良好な分散性を示したことが確認され、また、本件明細書の試験例3において、微細結晶B(相違点2の数値範囲の結晶化度を保持し、かつ、平均粒径が11μmであるもの)が優れた経口吸収性を示したことが確認されている。相違点1の数値範囲は、これらの検討の結果、化合物1の微細結晶の結晶化度の範囲(相違点2の数値範囲)との関係で顕著な溶解性の改善が確実に期待できる範囲として設定されたものであるから、これがごく一般的な設定の範囲にすぎないということはできない。 (イ) 被告が審査段階で提出した実験データ(甲38の20頁の図A、甲69の2枚目の図)によると、2.3μm、7.4μm、10.8μm、13.0μm及び34.1μmの平均粒径を有する微細結晶が77.5μmの平均粒径を有する微細結晶と比較して著しく改善された溶解性を示すこと並びに当該溶解性の改善の臨界点が平均粒径で34.1μmと77.5μmとの間にあることが明らかであるから、相違点1の数値範囲は、溶解性の改善がより確実に期待できる範囲であるといえる。このように化合物1の微細結晶の溶解性が特定の範囲の平均粒径をとることにより大幅に改善されることは、原告らが主張する医薬の分野の技術常識(水難溶性薬剤の粒径を小さくすれば溶解性が向上すること)を考慮したとしても、予想される効果ではない。加えて、特に疎水性の化合物において、粒子径が小さくなると凝集が起こり、有効表面積が小さくなって溶解性が低下する場合があること(甲6、 52)を考慮すると、化合物1の微細結晶の溶解性が特定の範囲の平均粒径をとることにより大幅に改善されることは、予想外の顕著な効果であるといえる。原告らは、上記実験データについて、界面活性剤の添加の事実を指摘するが、各微細結晶の溶出率は、粒径以外の条件を同一にして測定されているから、原告らが指摘する点は、化合物1の溶解性の顕著な改善の効果に疑義を生じさせるものではない。なお、原告らが依拠する甲52、59及び60は、化合物1と全く関係しない文献であるから、相違点1の数値範囲により化合物1の微細結晶にもたらされる水に対する顕著な溶解性の改善を予想させ得るものではない。 この点に関し、原告らは、甲65に基づいて、本件発明1の化合物1の分散性が良好であることは確認されなかったと主張する。 しかしながら、サイズの大きい凝集物を含む未粉砕品よりもサイズの小さい凝集物を含む粉砕品の方が製造化工程における分散性に優れるところ、甲65の実験結果は、粉砕品の凝集物の大きさが未粉砕品の凝集物よりも小さいことを示すものであるから、本件発明1の化合物1の微細結晶が製造化工程において良好な分散性を示し得ることと矛盾するものではない。なお、被告が本件明細書の実施例4の製剤例に従って行った製剤化試験(乙2)は、本件発明1の化合物1が凝集性が低く、 製剤化工程における分散性に優れていることを支持している。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者が相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たということはできない。 (2) 相違点2について ア 化合物1の結晶化度について検討しようとする動機付け (ア) 甲1には、化合物1の結晶の結晶化度について何らの記載もなく、また、 化合物1の結晶の安定性についても全く記載がないから、甲1からは、化合物1の結晶につき、結晶化度を相違点2の数値範囲とし、かつ、平均粒径を相違点1の数値範囲とする動機付けは見いだせない。 (イ) 原告らは、甲7、61等を根拠に、医薬の分野において、薬剤の安定性(光安定性)を実現することは本件優先日当時の当業者にとって自明の課題であり、 結晶化度が高い方が安定性(光安定性)が良好になることは本件優先日当時の当業者にとって周知の技術事項であるから、当業者であれば甲1結晶発明について所望の安定性になるように結晶化度を高くすることは当然に動機付けられると主張する。 しかしながら、原告らが主張する課題が本件優先日当時の当業者にとって自明のものであり、原告らが主張する手段が本件優先日当時の当業者にとって周知の技術事項であったとしても、そのことのみをもって、複数存在する周知の技術事項の中から特に結晶化度を高くするという手段を選択して化合物1に適用する動機付けがあったというには不十分であるところ、甲7には、薬物の化学的安定性を向上させるために複数の手段が適用され得る旨の教示があり、他方、甲61には、難溶性医薬品については結晶化度を低くすることも検討すべきである旨の記載があり(なお、 甲5も、同様の教示を与えている。)、加えて、甲1に化合物1の結晶の安定性及び結晶化度について何らの記載もないことを併せ考慮すると、本件優先日当時の当業者には、甲7に記載された複数の選択肢の中から特に結晶化度を高くするとの手段を選択し、これを甲1結晶発明に適用する動機付けがないというべきである。 イ 結晶化度につき下限値を40%とすることの技術的意義 (ア) 相違点2の数値範囲は、化合物1について、溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、分散性等が改善された微細結晶を提供することを目的として、微細結晶の結晶化度の範囲を粒径の範囲と併せて検討した結果、案出されたものである。 具体的には、本件明細書の試験例1において、溶媒法(試料A)及び混合粉砕法(試料B)の二つの方法で化合物1の結晶と分散剤(HPMC)との配合比を変化させて結晶化度を測定し、一連の粉砕、分散化等の製剤化工程において化合物1の微細結晶に相違点2の数値範囲の結晶化度を保持させることで、高い光安定性が得られたことが確認され、また、本件明細書の試験例2及び3において、相違点2の数値範囲の結晶化度を保持して粉砕された微細結晶A及びBが良好な溶解性、分散性及び経口吸収性を示したことが確認されている。相違点2の数値範囲は、これらの検討の結果、化合物1の微細結晶の平均粒径の範囲(相違点1の数値範囲)との関係で顕著な光安定性の改善が確実に期待できる範囲として設定されたものであるから、その下限値(40%)の設定は、技術的意義を有するものである。なお、原告らが依拠する甲9は、化合物1と全く関係しない文献であるから、相違点2の数値範囲により化合物1の微細結晶にもたらされる顕著な光安定性の改善を予測させ得るものではない。 (イ) 原告らは、甲64を根拠に、化合物1が本件明細書の試験例1において一定の光安定性(残存率)を示したからといって、医薬品として要求されるだけの良好な安定性(光安定性)が実現できるかは不明であると主張する。 しかしながら、本件各発明の課題は、原料の粉砕、秤量等の製剤化工程における化合物1の光安定性を実現することにあり、そのため、試験例1は、製剤化工程における化合物1の結晶の光安定性を評価することを目的とするところ、工場の照度基準(乙3の表10)によると、試験例1において採用された光照射条件(約5000ルクス×8時間)は、通常の製剤化工程における照度及び工程時間(原料粉砕工程、秤量工程及びその後の各製造工程に移行する間の時間)に照らし、本件各発明の上記課題との関係で十分なものであるといえ、そのような光照射条件において、 化合物1の微細結晶が相違点2の数値範囲の結晶化度を有する場合とそうでない場合とで、光安定性につき有意な差が検出されているのであるから、原告らの上記主張は失当である(甲64に記載された試験条件は、新原薬及び新製剤について承認申請をする際に必要とされる光安定性の試験に係るものであり、新原薬及び新製剤が本来有する光に対する特性を評価するために画一的に設定されたものである。)。 (ウ) なお、本件特許は、結晶化度の構成のみによって独占権を得るものではない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者が相違点2に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たということはできない。 2 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1と甲1結晶発明との相違点である相違点1及び2と同内容の相違点である相違点3及び4に係る構成を含むものであるから、前記1と同様、進歩性を有する。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 3 本件発明3ないし5について 本件発明3ないし5は、本件発明2と甲1製剤発明との相違点である相違点3及び4(本件発明1と甲1結晶発明との相違点である相違点1及び2と同内容のもの)に係る構成を含むものであるから、前記1と同様、進歩性を有する。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 4 取消事由2(サポート要件についての判断の誤り)について 以下のとおり、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満たすものであるから、これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 (1) 化合物1の結晶化度と安定性(光安定性)との関係について ア 本件明細書の記載によると、本件各発明の課題である安定性とは、製剤化工程における化合物1の光安定性をいうものと解される。 イ 原告らは、HPMCが薬剤の成分の光安定性を向上させることは周知の事項であると主張する。 しかしながら、HPMCは、医薬品添加物として、一般に基剤、結合剤、コーティング剤、賦形剤等として使用されているが、物理的に皮膜を形成するだけで光を吸収しないため、光安定化作用を有するものではない。現に、乙4(日本医薬品添加剤協会編「医薬品添加物事典2000」(平成12年))及び乙5(日本薬局方解説書編集委員会編「第十八改正日本薬局方解説書-条文・注・解説-」(令和3年))には、HPMCの光安定化や遮光用途に関する記載は一切なく、医薬品製剤において一般に主薬を光から守るために使用されるのは、光を散乱・吸収する酸化チタンやその他の色素(着色剤)である(乙6(日本医薬品添加剤協会訳編「改訂医薬品添加物ハンドブック」(平成19年)))。なお、原告らが挙げる甲62、 63及び73は、HPMCが光安定性を向上させることについて記載するものではなく、本件出願当時の当業者であれば、これらの文献において主薬の光安定性に寄与しているのは光を散乱・吸収する酸化チタンや色素であって、HPMCではないと容易に理解することができる。乙7(特開2003-104887号公報(平成15年4月9日公開))においても、酸化チタンが遮光剤として例示されているのに対し、HPMCは、皮膜剤として例示されているのみであり、光安定性に係るHPMCの寄与については何らの記載もない。 ウ 本件明細書の試験例1においては、様々な結晶化度を有する試料を調製するため、未粉砕の化合物1の結晶とHPMCとを様々な比率で混合した上、二つの方法(溶媒法(試料A)及び混合粉砕法(試料B))を用いている。 このように、試験例1は、HPMCの添加量、粉砕の有無及び粉砕機器の違いにより様々な結晶化度のサンプルを与えるものであるが、その結果(第1表)は、これらのサンプルにおける化合物1の結晶化度と残存率(光安定性)との間に正の相関関係があることを示している。すなわち、試験例1の結果によると、化合物1の光安定性は、その結晶化度によって決まり、粉砕方法の違い、HPMCの有無等にかかわらず、相違点2の数値範囲の結晶化度を有する化合物1の微細結晶であれば、 製剤化工程における光安定性が実現できることが明らかである(なお、第1表によると、化合物1にその10倍の量のHPMCを添加しても100%に近い残存率を示すサンプルがある一方、同量のHPMCを添加すると残存率が53.9%にまで低下するサンプルもあり、HPMCが化合物1の光安定性に影響を与えないことは明らかである。)。 エ 以上のとおりであるから、本件出願当時の当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、化合物1の結晶化度を相違点2の数値範囲とすることで、製造化工程における化合物1の良好な光安定性を実現するとの本件各発明の課題を解決し得ることを認識できる。 (2) 化合物1の平均粒径と分散性との関係について ア 本件明細書には、化合物1の結晶は、その形状が短径数μm×長径数百μm以上の針状結晶であるとの特徴を有するため、製剤化の工程操作中に凝集するという課題を有している旨の記載がある。また、一般に、疎水性の化合物における結晶の凝集は、粉砕して粒子径が小さくなると生じやすくなる(甲6、52。なお、A作成の見解書(甲28)及びB作成の見解書(甲29)にも、同旨の記載がある。)。 ここで、本件明細書の試験例2において用いられた微細結晶A(D 100が8.7μmのもの)は、平均粒径が2〜3μm程度の極めて小さな結晶であるところ(甲28、29。なお、甲25(原告共和薬品工業株式会社従業員作成の実験成績証明書)も、このことを裏付けている(甲49(被告作成の上申書)参照)。)、このように微細化した微細結晶Aが凝集を生じず、未粉砕の結晶よりも優れた溶解性を示していることから、化合物1は、比較的凝集しにくい化合物であると考えられる(甲29)。 そうすると、本件出願当時の当業者は、微細結晶Aが凝集を生じないのであれば、 上記の技術常識に照らし、より大きな平均粒径を有する化合物1も凝集を生じないものと認識することができるほか、他の適当な粉砕条件を選んでより小さく粉砕したとしても化合物1の分散性は損なわれないものと認識することができる(甲28、 29)。 イ 原告らは、粒子の分散性は固体製剤に使用する添加剤の有無、種類、量及び粒子径並びに採用される製造工程によっても大きく変化するから、本件出願当時の当業者は良好な分散性の効果が本件各発明の発明特定事項(平均粒径及び結晶化度)によって実現されることを確認できないと主張する。 しかしながら、本件各発明は、化合物1の平均粒径と結晶化度によって課題を解決することに技術的特徴を有する発明であり、添加剤の種類や量を通じて課題を解決する発明ではない。このように、添加剤の種類や量は、本件各発明の技術的特徴とは無関係であるから、添加剤の種類や量についての記載が特許請求の範囲や本件明細書の発明の詳細な説明にないからといって、サポート要件違反の問題は生じない。なお、本件明細書の試験例2においては、化合物1に添加剤は添加されていない。 ウ 原告らは、甲65を挙げて、化合物1の分散性につき本件明細書に記載されているような効果は確認できなかったと主張する。 しかしながら、甲65に記載された実験は、単なる振とう実験であり、製剤化工程における化合物1の分散性を評価するものではないし、仮に同実験が結晶の凝集に関するものであるとしても、前記1(1)イ(イ)のとおり、同実験の結果は、本件明細書の試験例2の結果と矛盾するものではない。なお、乙2の実験の結果は、粉砕した微細結晶が未粉末の結晶よりも製剤化工程における分散性に優れることを明確に示している。 エ 以上のとおりであるから、本件出願当時の当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らし、化合物1の平均粒径を相違点1の数値範囲とすることで、化合物1の良好な分散性を実現するとの本件各発明の課題を解決し得ることを認識できる。なお、本件出願当時の当業者において、技術常識も踏まえて上記の課題を解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば、本件各発明の全範囲にわたる実施例の記載が要求されるものではない。 |
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当裁判所の判断
1 本件各発明の概要 (1) 本件明細書の記載 本件明細書には、次の記載がある。 【技術分野】 本発明は、(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(以下、化合物1という)の結晶およびその結晶を含む固体医薬製剤に関する。 【背景技術】 化合物1はアデノシンA 2受容体拮抗作用を示し、アデノシンA 2 受容体亢進作用に基づく各種疾患、例えばパーキンソン病、老人性痴呆症、うつ病、喘息、骨粗しょう症等の治療等に有用である(欧州特許第0590919号明細書、特開平9-040652号公報)。化合物1を含むキサンチン誘導体が、吸入投与を目的として微粉化した粉末の状態で用いられることが知られている(欧州特許第0590919号明細書)。また、化合物1の結晶が知られている(特開平9-040652号公報)。上記引用文献に示された方法で合成された化合物1の結晶は、(1)水に対する溶解性が低い、(2)結晶の形状が短径数μm×長径数100μm以上の針状結晶であるという特徴を有するため、製剤化の工程操作中に化合物1の結晶が凝集するという課題を有している。水に対する溶解性が低い薬物は、消化管内での溶解性の低さと溶解速度の遅さから、一般的にバイオアベイラビリティが低いと言われている。化合物1に関しても溶解性、溶解速度等の向上、バイオアベイラビリティの改善等が望まれている。一方、製剤化の工程操作中に生じる化合物1の結晶の凝集は、化合物1の結晶および添加剤の流動性に影響を与え、製剤化工程における化合物1の結晶の取り扱いや固体製剤中の化合物1の分散性の面で問題になっている。また、化合物1は特に光に不安定で、構造中の二重結合部分(ビニレン部分)が異性化しやすいことが知られており…、化合物1を含有する医薬製剤を調製する際の取り扱いに留意が必要である。 【発明の開示】 本発明の目的は、例えば溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、医薬製剤中の分散性等が良好な化合物1の結晶およびその結晶を含む固体医薬製剤を提供することにある。 … 本明細書において、「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン」(「化合物1」)という記載は、非晶性の化合物1、結晶性の化合物1またはそれらの混合物を意味し、原料として使用される「化合物1」においては、その結晶化度、平均粒径等も限定されない。 本発明の「50μm未満の平均粒径を有する(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオンの微細結晶」(「化合物1の微細結晶」)は、平均粒径が50μm未満の結晶性の化合物1であれば特に限定されないが、中でも0.5〜20μmの平均粒径を有する微細結晶が好ましい。さらに結晶化度が20%以上である「化合物1の微細結晶」が好ましく、中でも結晶化度が30%以上である「化合物1の微細結晶」がより好ましく、さらに結晶化度が40%以上である「化合物1の微細結晶」が最も好ましい。なお、これらの平均粒径は、…粒度分布の平均値として算出される。… 本発明の「化合物1の微細結晶」の調製法は特に限定されないが、例えば欧州特許第0590919号明細書、特開平9-040652号公報等に記載の方法またはそれらに準じた方法により得られる「50μm以上の平均粒径を有する(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオンの結晶」(「化合物1の結晶」)を粉砕および/または篩い分けすることにより調製され、粉砕および/または篩い分けは適宜組み合わせて数回行ってもよい。粉砕は一般的に使用される粉砕機で行うことができ、該粉砕機として、例えば乳鉢、メカノミル、ジェットミル等を用い、例えば粉砕機の回転速度、「化合物1の結晶」の供給速度、粉砕の時間等を適宜調整することにより所望の平均粒径および/または結晶化度を有する「化合物1の微細結晶」を得ることができる。中でもジェットミルによる粉砕が好ましく、例えば「化合物1の結晶」の供給速度10〜1000g/分、粉砕圧力0.01〜1.0MPaで、「化合物1の結晶」を粉砕することができる。 本発明の「化合物1の微細結晶」を含む固体医薬製剤は、上記の「化合物1の微細結晶」を含む固体医薬製剤であればいずれでもよく、例えば(a)上記の方法で得られる「化合物1の微細結晶」と添加剤とを混合し製剤化したもの、 (b)上記の方法で得られる「化合物1の結晶」と添加剤とを混合し、上記「化合物1の微細結晶」の調製法と同様にして得られる混合物を粉砕および/または篩い分けした後、製剤化したもの、 (c)「化合物1」と分散剤から固体分散体を調製した後、該固体分散体と添加剤とを混合し製剤化したもの等があげられる。… 該固体分散体は、「化合物1」または「化合物1の結晶」とこれを分散することができる分散剤から調製される固体分散体であり、該固体分散体中の化合物1における結晶部分が上記「化合物1の微細結晶」の平均粒径または平均粒径および結晶化度を有するものであれば特に限定されない。分散剤としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等の高分子が好ましい。…また該固体分散体の製造法も特に限定されないが、例えば欧州特許第0590919号明細書、特開平9-040652号公報等に記載の方法またはそれらに準じた方法により得られる「化合物1」または「化合物1の結晶」と分散剤から、例えば混合粉砕法、溶媒法等の通常の方法で調製することにより得ることができる。 混合粉砕法としては、例えば「化合物1の結晶」を分散剤とともに混合機器等を用いて混合したものを、一般的に使用される粉砕機例えば乳鉢、メカノミル、ジェットミル等を用いて粉砕する方法等があげられ、例えば粉砕機の回転速度、「化合物1の結晶」の供給速度、粉砕の時間等を適宜調整することにより所望の平均粒径または平均粒径および結晶化度を有する「化合物1の微細結晶」を含む固体分散体を得ることができる。中でもジェットミルによる粉砕が好ましい。 溶媒法としては、例えば「化合物1」または「化合物1の結晶」を分散剤とともに有機溶媒に溶解または分散し、ついで有機溶媒を常法により減圧下または常圧下で除去する方法等があげられる。具体的には、例えば流動層造粒装置、攪拌造粒装置、噴霧造粒装置、噴霧乾燥造粒装置、真空乾燥造粒装置等が用いられ、所望により一般的に使用される粉砕機、例えば乳鉢、メカノミル、ジェットミル等を用いて粉砕する方法を組み合わせてもよい。… 添加剤としては、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、可塑剤、界面活性剤、 コーティング剤、着色剤、矯味剤、酸味剤等があげられ、これらは製剤の種類に応じて適宜用いることができる。 … 「結晶化度が20%以上である(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオンの結晶」(「結晶化度が20%以上である化合物1の結晶」)は、結晶化度が20%以上である結晶性の化合物1であれば特に限定されないが、中でも結晶化度が30%以上である結晶性の化合物1が好ましく、さらに結晶化度が40%以上である結晶性の化合物1がより好ましい。またこれらの製造法も特に限定されないが、 例えば欧州特許第0590919号明細書、特開平9-040652号公報等に記載の方法またはそれらに準じた方法により得ることができる。 また、「結晶化度が20%以上である化合物1の結晶」を含む固体医薬製剤は、 上記の「結晶化度が20%以上である化合物1の結晶」を含む固体医薬製剤であればいずれでもよく、該固体医薬製剤の製造法も特に限定されないが、例えば上記「化合物1の微細結晶」を含む固体医薬製剤の製造法と同様の方法をあげることができる。 また、「結晶化度が20%以上である化合物1の結晶」と分散剤を含有する固体分散体は、「化合物1」または「化合物1の結晶」とこれを分散することができる分散剤から調製される固体分散体であり、該固体分散体中の化合物1における結晶部分が20%以上の結晶化度を有するものであれば平均粒径等は特に限定されず、 該固体分散体の製造法も特に限定されないが、例えば上記「化合物1の微細結晶」と分散剤を含有する固体分散体の製造法と同様の方法をあげることができる。分散剤としては、例えばHPMC、PVP、HPC等が好ましい。… 本発明の固体医薬製剤の製剤形態としては、例えば糖衣錠等の錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、トローチ剤、懸濁内用液剤等があげられ、これら製剤は製剤学の技術分野においてよく知られている混合工程、粉砕工程、篩い分け工程、造粒加工工程、整粒加工工程、打錠工程、乾燥工程、カプセル充填工程、コーティング工程等の製剤化工程を組み合わせることにより製造できる。 以下に試験例により本発明の効果を具体的に説明する。 試験例1:化合物1の結晶化度と光安定性<試料調製方法> 以下、「化合物1の結晶」とHPMCから固体分散体を調製した。 「化合物1の結晶」としては、特開平9-040652号公報に記載の方法により得られた未粉砕の「化合物1の結晶」(結晶化度87.2%)を使用した。 試料Aは、未粉砕の「化合物1の結晶」(10g)とHPMCとを、表1に示した配合比でジクロロメタンに溶解し、溶媒を留去した後、得られた固体を錠剤粉砕機…で、粉砕翼の回転数10000rpmで1分間粉砕することにより得られた。 試料Bは、未粉砕の「化合物1の結晶」(100g)とHPMCとを、表1に示した配合比で混合した後、表1に示した粉砕機を用いて粉砕することにより得られた。 …<相対結晶化度の測定方法> 各試料における化合物1の結晶化度(以下、結晶化度ということもある)は、粉末X線回折装置により回折角2θを0°から40°まで変化させて各試料の回折ピークを測定し、下記の方法により算出した。 …<光安定性の測定法> 各試料の光安定性は、下記の方法により試料中の「化合物1」の残存率(%)を測定することで追跡した。 … 試料AおよびBの結晶化度(%)および「化合物1」の残存率(%)を第1表に、 結晶化度と安定性の相関を図1に示す。 … 以上の結果、化合物1の結晶化度と光安定性には正の相関があり、「化合物1の結晶」の結晶化度が20%以上、好ましくは30%以上で光照射下での分解が減少することが判明した。つまり、一連の粉砕、分散化等の製剤化工程において「化合物1の結晶」の結晶化度を一定値以上に保持できれば、または一定値以上の結晶化度を有する「化合物1の結晶」を製剤化工程で用いれば、光照射下でも分解物の増加はみられず製剤化工程での化合物1の安定性を維持できると考えられる。 試験例2:化合物1の結晶の平均粒径と溶解度 実施例2で得られた結晶A(結晶の平均粒径;167μm、2mg)および微細結晶A(微細結晶の粒径D 100 =8.7μm、2mg)を用いて、それぞれの水(200mL)に対する室温での溶解度を測定した。 経過時間に対する結晶Aおよび微細結晶Aの溶解度(μg/mL)を図2に示す。 以上の結果、平均粒径の小さい微細結晶Aは、結晶Aと比較して、溶解速度が早く、良好な化合物1の溶解性を有することが判明した。 また、微細結晶Aでは、製剤化の工程操作中に化合物1の結晶が凝集するという現象はみられず、微細結晶Aは結晶Aと比較して分散性に優れることも判明した。 試験例3:経口吸収性の比較 実施例3で得られた結晶B(結晶の平均粒径;181μm)および微細結晶B(結晶の平均粒径;11μm)を、それぞれ0.5重量/容量%メチルセルロース水溶液に懸濁させ、投与薬液(0.3mg/mL)を調製した。得られた投与薬液をSD系雄性ラット(体重209〜233g;日本チャールス・リバー)に10mL/kgの容量で経口投与した。投与から0.25、0.5、1、2、4、6、8、 12および24時間後の時点で、それぞれヘパリン処理されたキャピラリーチューブを用いて、経時的にラットの尾静脈より血液(各回約0.3mL)を採取した。 得られた血液を遠心分離(1950×g、10分間、4℃)し、血漿を分離した。 得られた血漿中の「化合物1」の濃度をHPLCにより測定し、ラット3例での平均値を算出した。 結晶Bおよび微細結晶Bをそれぞれラットに経口投与した場合の最高血漿中濃度(Cmax)、投与時点から最後に定量できた時点までの血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC0-t)および投与時点から無限大時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC0-∞)を第2表に示す。 … 以上の結果、平均粒径の小さい微細結晶Bを経口投与した場合、結晶Bを経口投与した場合と比較して、高いC max、AUC 0-tおよびAUC0-∞が得られ、平均粒径の小さい微細結晶Bの方が結晶Bよりも優れた経口吸収性を有していることが判明した。 【図面の簡単な説明】 図1は、試験例1での試料における化合物1の結晶化度と化合物1の光安定性の相関を示したものである。縦軸は化合物1の残存率(%)を表し、横軸は試料における化合物1の結晶化度(%)を表す。 図2は、化合物1の結晶の平均粒径と化合物1の溶解度との関係を示したものである。縦軸は化合物1の溶解度(μg/mL)を表し、横軸は経過時間(時間)を表す。グラフ上の各プロットの意味は、以下の通りである。 -○-:結晶Aの溶解度(μg/mL)-▲-:微細結晶Aの溶解度(μg/mL)【発明を実施するための最良の形態】…【実施例1】 「化合物1の結晶」(1kg)をジェットミル…に投入し、供給速度50g/分、 粉砕圧力0.4MPaで粉砕することにより、平均粒径24μmである「化合物1の微細結晶」(950g)を得た。…【実施例2】 特開平9-040652号公報に記載の方法により、未粉砕の「化合物1の結晶」(結晶A、結晶の平均粒径;167μm)を得た。上記結晶Aをジェットミル…で、 供給速度50g/分、粉砕圧力0.4MPaで粉砕することにより「化合物1の微細結晶」(微細結晶A、微細結晶の粒径D 100=8.7μm;粒子の100%が8.7μm以下であることを表す、結晶化度84.6%)を得た。…【実施例3】 特開平9-040652号公報に記載の方法により、未粉砕の「化合物1の結晶」(結晶B、結晶の平均粒径;181μm、結晶化度71.6%)を得た。上記結晶Bをジェットミル…で、供給速度50g/分、粉砕圧力0.25MPaで粉砕することにより「化合物1の微細結晶」(微細結晶B、結晶の平均粒径;11μm、結晶化度67.3%)を得た。…実施例4 錠剤(1) 実施例1で得られた化合物1の微細結晶 40mg ラクトース 110mg 結晶セルロース 44mg ポリビニルピロリドン 4mg ステアリン酸マグネシウム 2mg 上記であげた物質を混合し、通常の方法で圧縮する。 …【産業上の利用可能性】 本発明により、例えば溶解性、安定性、吸収性、医薬製剤中の分散性等が良好な化合物1の結晶およびその結晶を含む固体医薬製剤が提供される。 【図1】【図2】(2) 特許請求の範囲の記載(前記第2の2)及び本件明細書の記載(前記(1))によると、本件各発明の概要は、次のとおりであると認められる。すなわち、本件各発明は、化合物1の結晶及びこれを含む固体医薬製剤に関するものである。化合物1は、パーキンソン病の治療等に有用であるところ、従来から知られていた化合物1の結晶は、水に対する溶解性(以下、単に「溶解性」という。)が低く、バイオアベイラビリティが低い、製剤化の工程操作中に凝集が生じる、光に不安定で、 構造中の二重結合部分(ビニレン部分)が異性化しやすいという課題があった。このような課題を解決し、溶解性、安定性、バイオアベイラビリティ、医薬製剤中の分散性(以下、単に「分散性」という。)等が良好な化合物1の結晶及びこれを含む固体医薬製剤を提供することを目的として、本件各発明は、化合物1の平均粒径を0.5〜20μm(相違点1の数値範囲)とし、かつ、化合物1の結晶化度を40%以上(相違点2の数値範囲)とするとの構成を採用したものである。 2 取消事由1(本件発明1の進歩性についての判断の誤り)について (1) 文献の記載 ア 甲1には、次の記載がある。 【特許請求の範囲】【請求項1】 式(I)【化1】{式中、R1およびR2は同一または異なってメチルまたはエチルを表し、R 3は同一または異なって水素、低級アルキル、低級アルケニルまたは低級アルキニルを表し、R4はシクロアルキル、-(CH2)n-R5(式中、R5は置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換の複素環基を表し、nは0〜4の整数を表す)または【化2】[式中、Y1 およびY 2は同一または異なって水素、ハロゲンまたは低級アルキルを表し、Zは置換もしくは非置換のアリール、 【化3】(式中、R6は水素、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、ハロゲン、ニトロまたはアミノを表し、mは1〜3の整数を表す)または置換もしくは非置換の複素環基を表す]を表し、X 1 およびX 2 は同一または異なってOまたはSを表す}で表されるキサンチン誘導体またはその薬理的に許容される塩を有効成分とするパーキンソン氏病治療剤。 【請求項2】 式(I-A)【化4】[式中、R3aは水素または低級アルキルを表し、Zaは【化5】(式中、R7、R8、R9の少なくとも一つは低級アルキルまたは低級アルコキシを表し、他の基は水素を表し、R10は水素または低級アルキルを表す) または【化6】(式中、R6およびmは前記と同意義を表す)を表し、R 1およびR2は前記と同意義を表す]で表されるキサンチン誘導体またはその薬理的に許容される塩。 【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本発明は、強力でかつ特異性の高いA2拮抗作用を有するキサンチン誘導体またはその薬理的に許容される塩を有効成分とするパーキンソン氏病治療剤に関する。 【0002】【従来の技術】アデノシンは、A2受容体を介して神経伝達物質抑制作用、気管支痙攣作用および骨吸収促進作用を示すことが知られており、アデノシンA2受容体拮抗剤(以下、A2拮抗薬という)はパーキンソン氏病治療薬、抗痴呆薬、抗喘息薬、抗うつ薬あるいは骨粗鬆症治療薬等のアデノシンA2受容体の機能亢進に由来する各種疾患の治療薬として期待される。 【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、キサンチン骨格を有し、強力でかつ特異性の高いA2拮抗作用を有する優れたパーキンソン氏病治療剤を提供することにある。 【0019】…以下、式(I)および式(I-A)で表される化合物をそれぞれ化合物(I)および化合物(I-A)という。…【0120】化合物(I)またはその薬理的に許容される塩はそのままあるいは各種の製薬形態で使用することができる。本発明の製薬組成物は活性成分として、有効な量の化合物(I)またはその薬理的に許容される塩を薬理的に許容される担体と均一に混合して製造できる。これらの製薬組成物は、経口的または注射による投与に対して適する単位服用形態にあることが望ましい。 【0121】経口服用形態にある組成物の調製においては、何らかの有用な薬理的に許容される担体が使用できる。例えば懸濁剤およびシロップ剤のような経口液体調製物は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトース等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ゴマ油、オリーブ油、 大豆油等の油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造できる。粉剤、丸剤、 カプセル剤および錠剤は、ラクトース、グルコース、シュークロース、マンニトール等の賦形剤、でん粉、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、 タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の表面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製造できる。錠剤およびカプセル剤は投与が容易であるという理由で、最も有用な単位経口投与剤である。錠剤やカプセル剤を製造する際には固体の製薬担体が用いられる。 【0127】実施例2(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン(化合物2)実施例1で得られた化合物1の1.20g(3.24ミリモル)をジメチルホルムアミド25mlに溶解し、これに、炭酸カリウム1.12g(8.10ミリモル)次いでヨウ化メチル0.40ml(6.49ミリモル)を加え、50℃で30分間攪拌した。冷却後、不溶物を濾過により除き、濾液に水100mlを加えた。クロロホルム50mlで3回抽出後、抽出液を水で2回次いで飽和食塩水で1回洗浄し、 無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去した。得られた粗結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;40%酢酸エチル/ヘキサン)で分離・精製し、2-プロパノールより再結晶することにより、化合物2を840mg(収率68%)薄黄色針状晶として得た。 【0378】【発明の効果】本発明により、キサンチン誘導体またはその薬理的に許容される塩を有効成分とする優れたパーキンソン氏病治療剤が提供される。 イ 甲4の記載 甲4には、次の記載がある。 (ア) 「溶解速度…は固体薬品が溶媒中に溶けていく速さである。溶解速度は…固型製剤を生体に投与した場合においても大切な要因である。固型製剤を経口投与する時、それが吸収されるためにはまず消化管中で溶解されなければならず、そしてこの時の溶解速度が消化管吸収の速さを支配する。難溶性薬物の溶解速度を大きくするために、結晶の粒子径を小さくしたり、結晶形を変えたりすることがしばしば行なわれる。」(16頁2〜8行目)(イ) 「a.粒子径(表面積) 固体薬品の溶解速度を大きくするために、粉砕などにより粒子径を小さくすることが行なわれる。粒子径が減少すると比表面積が増加し溶解速度が増加する。… … 表1-8は粒子径と比表面積との関係を示したもので、比表面積は粒子径に反比例して大きくなっていることがわかる。」(20頁20〜下から2行目) ウ 甲5の記載 甲5には、次の記載がある。 (ア) 「結晶多形現象を示す物質では、同じ化学組成でも結晶構造が異なるので、 析出させる結晶の多形を抑制することで、比重、融点、融解熱、溶解度、溶解熱などの基礎物性を変化させ、固体状医薬品の薬効…などの機能性を変えることができる。」(51頁左欄1〜7行目)(イ) 「§5 粒子形状、粒径、粒度分布 粒子形状、粒径、粒度分布の制御はもともと機能性を引き出す一つの方法であると考えられている。ここでは、最近の医薬品の分野での、非晶質の溶解性と安定性、 製剤における打錠性の良い結晶を作るための造粒晶析などにふれてみる。 5.1 非晶質とバイオアベイラビリティー 医薬品の分野で溶液から溶質を析出させるとき、結晶よりもむしろ非晶質として析出させることで、水に難溶性の薬物の溶解性を改善し結晶に比べて高いバイオアベイラビリティーを発揮させる試みが、非晶質の保存安定性とともに研究の対象となっている。」(54頁右欄8〜20行目)(ウ) 「5.2 造粒晶析と打錠性 難溶性の薬物の場合、バイオアベイラビリティーを向上させるために微結晶にすることが望まれるが、そのことは、付着凝集性が増大するため流動性や充填性といった二次物性を低下させることにつながる。」(55頁右欄下から17〜下から12行目) エ 甲6の記載 甲6には、次の記載がある。 「粒子径を細かくして表面積を増加させると、溶解速度を増加させることができるはずである。しかし、単に表面積を増やすだけでは不十分で、増加すべきなのは有効表面積である。有効表面積とは薬物が試験液に接触する表面積である。薬物が疎水性で溶媒による濡れが劣る場合には、粒子径を小さくすると凝集が起こり、有効表面積がかえって小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがある。」(104頁下から14〜下から10行目) オ 甲7の記載 甲7には、次の記載がある。 (ア) 「薬物の化学的安定性を支配する要因としては、薬物自体が有する性質と外から加えられる要因とがある。分子構造、融点、結晶性などの薬物自体の特性が安定性を大きく支配する一方で、温度、pH、緩衝塩成分、イオン強度、光、酸素、 水分、配合剤、賦形剤など薬物を取り巻く環境要因が薬物の安定性に大きな影響を及ぼす。また、加圧・粉砕などの機械的要因も安定性に影響を与える場合がある。」(30頁下から6〜下から2行目)(イ) 「10 薬物の結晶状態、結晶多形 固体状態の薬物の安定性には、薬物自体の結晶状態が大きな影響を示すことが知られている。結晶状態によってエネルギー準位が異なり、低いエネルギー準位の結晶ほど…化学反応を起こしにくくなるからである。… 薬物には数種の結晶形をとり得るいわゆる結晶多形を示すものが少なくない。それぞれの結晶形は異なるエネルギー状態にあり、化学反応に対する反応性が異なる。 … 一方非晶質状態の薬物は、結晶状態に比較して安定性が悪いことは種々の薬物について報告されている。非晶質状態は結晶状態よりも高いエネルギー状態にあるため、化学反応を起こしやすいのである。」(53頁下から16〜下から2行目)(ウ) 「12 添加剤 薬物とともに医薬品製剤に加えられる添加剤が薬物の安定性に影響を与えることは、古くから種々の薬物と添加剤の系について報告されている。… 添加剤が薬物の安定性に影響を及ぼす機構および様式は多様である。」(56頁4〜14行目)(エ) 「12-1 添加剤中の水分の量が安定性に及ぼす影響 水分は…、薬物の分解に大きな影響を与えるので、水を含有する添加剤はその水を介して薬物の安定性に影響を与える。」(56頁24〜26行目)(オ) 「原薬の物理的安定性 従来、医薬品の安定性に関しては、…薬効成分の化学的な変化が主に問題にされてきた。しかし、…化学的変化の他にも、薬物の物理的変化が医薬品の安定性の問題を考察する場合の重要な課題になることを忘れてはならない。すなわち、薬効成分が医薬品の中でどのような状態で存在するか、…物理的な存在状態が医薬品の機能を支配し有効性および安定性に大きく影響を与えることがある。」(109頁1〜7行目)(カ) 「A.物理的変化の諸現象 薬効成分を始めとする医薬品の各成分は、微視的にみるとさまざまな状態で存在している。非晶質の状態で系に分散していたり、安定な結晶状態で存在したり、また水和をしていたり、その物理的な存在状態は多様である。それらの存在状態はそれぞれポテンシャルエネルギーが異なるため、比較的に不安定な状態からより安定な状態へ経時的に変化する傾向にあり、長期にわたって一定の状態で存在し続けるとは限らない。これらの存在状態は溶解性などの医薬品の機能を支配する重要な要因であることから、医薬品成分の物理的安定性には十分に留意する必要がある。… 1 非晶質の結晶化 医薬品においてしばしば、その薬効成分が非晶質として存在するように設計される。非晶質の方が一般に溶解性が高いため、特に難溶性薬物の場合には薬物を非晶質状態で用いることが多い。しかし、非晶質は結晶状態に比べて一般にエネルギーが高い状態であるため、経時的に結晶化し、より安定な状態へ変化する傾向がある。 医薬品の保存中に起こる非晶質薬物の結晶化は、医薬品の機能の変化につながる重大な問題となる。」(109頁12〜26行目) (キ) 「医療に供される医薬品は、それが実際に利用される時点において有効性および安全性の基盤となる品質が保証されていなければならない。そのためには、 医薬品が製造されてから患者に投与されるまでに経る種々の過程、すなわち製造後の倉庫内での保存、輸送、病院や薬局あるいは家庭における保存などの過程において、その品質が常に安定に維持されることが必須の条件となる。 したがって、医薬品の品質が温度や湿度、光などの環境因子の影響を受けてどのように経時的に変化するかを明らかにすること、さらにその結果に基づいて有効期間…を設定することが必要であり、医薬品の製造承認を申請するときには、その医薬品の安定性を科学的に評価した資料を提出しなければならない。」(147頁8〜16行目) カ 甲9の記載 甲9には、次の記載がある。 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は20%を上回る結晶化度を有するリコピンを含有する、安定なリコピン粉末製剤、その製法並びに食品、化粧品、医薬品および動物飼料への添加物としての使用に関する。 【0017】この分野における多数の開示にもかかわらず、技術水準に挙げられた文献中には、カロチノイド製剤に関する一般的な記載以上の、リコピンの安定性に関する問題を解決するための示唆は全く見出されない。 【0018】【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の課題は、リコピンが特に酸化安定性および光安定性であり、かつ前記公知技術の欠点を有しない、リコピン粉末製剤を製造することである。 【0019】【課題を解決するための手段】この課題は、20%を上回る結晶化度を有するリコピンを含有する、安定なリコピン粉末製剤により解決する。 キ 甲52の記載 甲52には、次の記載がある。 (ア) 「4.溶解速度に影響する物理化学的性質 1)溶解速度の評価 薬物の吸収が溶解律速である場合が多く、その場合、薬物を分子状態で吸収部位へ供給するという意味で溶解速度が重要となる。溶解速度は、前述したように原体の溶解度に依存するだけでなく、その比表面積にも依存する。比表面積を変えることは、原体に物理化学的処理を加えることで達成される。」(81頁1〜5行目)(イ) 「2)比表面積を増加させる方法 (1)微粒子化の物理化学 Noyes-Whitneyの式から、原体の比表面積を大きくするほど溶解速度は速くなることが予想される。事実、図5-6に示したように、分級によって粒子径を小さくすると、溶解速度が速くなることがわかる。粉砕や晶析法によって得た微細化原末はどうであろうか。粉砕によって粒子径rを数μm程度に小さくすると、薬物の溶解度が増大することが知られている。」(82頁7〜13行目)(ウ) 「第 7 章 薬物の溶解性と吸収性の改善1.はじめに 製剤には、医薬品を使いやすくするとともに、その有効性、安全性および安定性を確保し保証するという重要な使命がある。通常の経口製剤の場合には、その医薬品としての有効性と安全性を保証するために薬物のバイオアベイラビリティーを考慮しなければならない。… …難水溶性薬物では、このような溶解性改善の工夫が製剤化において必要となることが多い。…このように、溶解速度が小さいため吸収が悪い難溶性薬物の溶解性および吸収性の改善は、製剤設計者が直面する最も重要な解決課題の1つである。 …溶解速度を改善するために製剤側で制御可能なファクターは、表面積と溶解度であることがわかる。本章では、固形医薬品の表面積と溶解度を向上させる製剤的手段について述べる。 2.薬物単独系での溶解性改善 1)微細化 表面積を増大する方法として、薬物粒子を微細化する手段が最もよく利用される。 一般に数μmのオーダーまでは機械的な破砕・粉砕方式が有効であるが、1μm以下になると反応による結晶の析出などが有力な手段となる。 (1)粉砕 薬物粒子は多くの場合、粉砕機を用いて粉砕される。粉砕機は圧縮、衝撃、剪断および摩砕などの力のいずれか、あるいはそれらを組み合させて利用しており、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミルなどがよく用いられ、通常有機薬物結晶では十数μmから数μm程度まで微細化できる。 微細化により粒子径が小さくなると、表面積の増加により溶解度が増大する。さらに、第5章で述べたOstwald-Freundlichの式(式5-8)から明らかなように、溶解度自体も増大する。… 微細化によりバイオアベイラビリティーを改善できることが多くの難溶性薬物、 たとえばフェニトイン…、ニトロフラントイン…、ベノキサプロフェン…などで報告されている。図7-1は、グリセオフルビン…の粒子径が小さくなり、比表面積が大きくなるのに伴いバイオアベイラビリティーが増大することを示している。粒子径によりバイオアベイラビリティーに2倍以上の差が認められている。しかし、 微細になればなるほど凝集が起こりやすく、粉砕により水に接する表面積(有効表面積)が逆に小さくなり、溶解速度が小さくなることがある。特に疎水性物質は凝集性が強い。図7-2に示すように、グリセオフルビン微粉砕品は未粉砕品に比べ逆に溶出速度が低下している。… … …先に述べたように、微細化された粒子(一次粒子)は凝集(二次粒子)しやすく、図7-3に示すように、微細化と凝集との間で粒子径に関し平衡関係が成立することが広く知られている。特にこの現象はボールミルなどの摩擦効果の強い粉砕で認められる。これは粉砕平衡と呼ばれ、その粉砕平衡値は薬物の物性、粉砕機の種類や粉砕条件により異なる。… 粉砕平衡に達すると、それ以上粉砕を続けても粒子の大きさは変わらないが、粒子に加えられた機械的エネルギーは、粒子の結晶構造の破壊に費やされ、格子ひずみや格子攪乱は続いて増大する。このことは、粉砕が単に粒子の表面積を増大するだけでなく、固体の反応性や安定性にも大きな影響を与えることを示しており、このようなメカノケミカルな物性変化に対しても粉砕時には注意を要する。粉砕による非晶質化はよく経験するところである。図7-4はセファレキシン…のボールミル粉砕により、結晶化度が低下し、非晶質化することを示している。同様な非晶質化はアンピシリン…などでも認められている。…一般に非晶質化により溶解度は上昇するが安定性が劣る場合が多く、注意を要する。」(167頁1行目〜171頁9行目)(エ) 「2)結晶多形、塩 多くの結晶には多形が存在する。安定形と準安定形があり、準安定形は熱力学的に高エネルギー状態である。したがって、高い溶解度を示すことから、準安定形を製剤に用いることがある。場合によっては、最も高エネルギーな非晶質固体も用いられる。」(171頁25〜28行目)(オ) 「3.薬物/製剤添加物系での溶解性改善 1)担体を用いた薬物微細化 薬物単一系では、2.で述べたように、粒子の凝集や凝結による有効表面積の低下や、機械的微細化に限界があるため、溶解度を大きく改善できないことが多い。」(172頁4〜7行目)(カ) 「A製剤化における問題点 a 安定性:固体分散体と同様に、薬物が非晶質化されているような場合、その化学的、物理的安定性が問題となることが多い。」(181頁19〜21行目) ク 甲53の記載 甲53には、次の記載がある。 「5 薬物吸収の改善 医薬品の効果を早く発現させるために、薬物の吸収を促進することがよく行われている。前述したぬれ性の改善もそれに当たるが、以下に別の手法として2、3の例をあげる。 (1)薬物の粒子径 薬物の吸収速度は、溶解速度に律速される場合が多い。したがって、難溶性薬物の場合にはその溶解速度を改善することが必要となる。難溶性薬物の溶解速度を促進する方法として最も多く用いられているのは薬物の粒子径を小さくすることである。」(164頁下から14〜下から8行目) ケ 甲54の記載 甲54には、次の記載がある。 「b)粒子径 経口投与された薬物は消化管の中で溶解し、溶液状態の薬物分子が吸収される。 いかに薬物自身の細胞膜透過性が大きくても、薬物が溶解しなければ吸収されない。 …固体の溶解度が大きいほど、また固体の表面積が大きいほど薬物の溶解速度は大きくなる。溶解度は個々の薬物に固有の値であり変えることは困難な場合が多いが、 固体表面積については粒子径を小さくすることにより増大させることができる。特に、難溶解性薬物において微細化により吸収が改善される。…c)結晶形 同一薬物でも結晶形が異なると、融点、密度、溶解度、溶解速度などの物理化学的性質が異なる。そのため、不安定型または準安定型の結晶形を投与すると溶解度が増し、吸収が増大する場合がある。… また、無晶形のものは構成分子間の結合が弱いため結晶形に比べて溶解度が大きく、溶解速度も速くなる。そのため、水溶性高分子と薬物の共沈物(固溶体)を形成することにより、薬物の溶解速度が増大し吸収を増大させることができる。」(192頁14行目〜193頁1行目) コ 甲57の記載 甲57には、次の記載がある。 「KF17837及びKW-6002のラットにおける30mg/kgの用量でのバイオアベイラビリティは、それぞれ3.6%及び20.6%であるから、この強力な活性は、これら二つの化合物の経口吸収性の違いにより説明される。経口投与で使用される0.3%ツイーン80懸濁液中では、8-スチリルキサンチンの光異性化は観察されず、これは、おそらく低い水溶性による(<1μg/mL)。」(41頁24〜29行目) サ 甲60の記載 甲60には、次の記載がある。 [産業上の利用分野] 本発明は、酸性非ステロイド性抗炎症薬(…以下酸性NSAIDと略)の微粉末、 平均分子量4,000〜12,000の蛋白加水分解物またはポリペプタイド並びに糖類および必要に応じて懸濁安定化剤、界面活性剤を含んで成る経口投与用医薬品組成物に関する。 すなわち、本発明の目的は、使用時加水し軽く振とうするとき、すみやかに均一な懸濁液となり、服用時NSAIDに特有の不快な酸味や苦味を感じさせることが無いだけでなく従来の酸性NSAID経口投与剤に比してすみやかな吸収が得られバイオアベイラビリティーも高い経口投与用の酸性非ステロイド性抗炎症薬組成物を提供するにある。 [従来の技術] イブプロフェン等の酸性NSAIDは主として錠剤又はカプセル剤の剤形で使用されている。酸性NSAIDは一般に、吸収速度の比較的速い薬物に属しているが、 酸性NSAIDの主たる効果である抗炎症、鎮痛、解熱の三作用のうち、鎮痛及び解熱効果に対しては、速効性は極めて好ましい性質で、投与後即座に奏効することが好ましいとされ、従来の経口投与製剤より更に吸収の速やかな製剤を期待してケトプロフェン皮下注射剤、アスピリン・D・リジン塩静注剤などが開発されている。 注射剤はきわめてすみやかな効果をもたらすものの、その投与形態より投与の範囲が限られ、また筋肉組織の繊維化の副作用による例えば四頭筋短縮症などの発生が問題視されてきており、吸収性が速やかで、副作用の少ない経口製剤の開発が望まれている。 一方、イブプロフェンをはじめ、酸性NSAIDは不快な酸味や苦味を有しており、その刺激性の為に被覆された剤形(錠剤、カプセル、コーティング、顆粒等)でしか使用することができなかった。 [発明が解決しようとする問題点] 酸性NSAIDは、結晶の状態では、酸性〜弱酸性のpH領域では水に極めて溶けにくいため、結晶で投与した場合小腸上部での吸収が遅延、減少する傾向がある。 一方、溶解状態の酸性NSAIDを経口投与した場合、胃内のpHによって酸性NSAIDは非イオン体化して胃で吸収され胃腸障害をおこしやすい。 この様な観点より胃内を結晶の状態で通過し胃の出口より小腸の入口にかけて、 急速に溶解する酸性NSAIDの製剤を作ることは副作用が少なく、鎮痛、解熱効果の発現の速やかな酸性NSAID製剤を開発するために解決されるべき課題と考えられる。 [問題を解決する手段] 本発明者は、酸性NSAIDの溶解性と吸収部位のpH状態との関係に着目し、 pH5.8〜6.5の範囲で酸性NSAID結晶の溶解性を向上し、なおかつ、酸性NSAIDの酸性部分をマスクする様な物質の解明により吸収速度が高まり、バイオアベラビリティ-(AUG、血中濃度曲線下面積)が高く、なおかつ、服用時の刺激性のない経口投与剤を作ることができるとの着想のもとにかかる物質を探査した結果、ゼラチン、ゼラチンまたはカゼイン等の蛋白の加水分解物、およびポリペプタイド等がかかる性質を有することを見出して本発明を完成させたのである。 … 本発明における酸性NSAIDとは、例えばイブプロフェン、ケトプロフェン、 ナプロキセン、トルメチン、フラバイプロフェン、アルクロフェナック等のフェニルプロピオン酸系の非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン等のサリチル酸系の非ステロイド系抗炎症薬、メフェナム酸、フルフェナム酸等のアントラニル酸系の非ステロイド性抗炎症薬およびインドメサシンなどをいう。本発明において用いる上記の酸性NSAIDは湿式又は乾式の粉砕機で粉砕して得られる平均粒径100μm以下の微粉末であれば良く、好ましくは50μm最も好ましくは10μm以下である。 シ 甲61の記載 甲61には、次の記載がある。 (ア) 「化学物質の結晶は、液相や気相と異なって分子が三次元的に規則正しく配列している。しかし、ある化合物に対してただ一つだけの結晶構造が対応するとは限らず、2つまたはそれ以上の結晶構造をとる可能性がある。化学組成が同一で結晶構造が異なる現象を多形という。多形の代表例はダイアモンドとグラファイトであるが、医薬品結晶においても…、数多くの化合物に多形が知られている…。 多形のうち、ある温度、ある圧力において物理化学的に最も安定であるものを安定形、それ以外を準安定形という。」(349頁下から12〜下から2行目) (イ) 「製剤学における多形の重要性は、各多形間で保存時の化学的安定性が異なっていたり、溶解度が異なっている場合にバイオアベイラビリティに差が現れる可能性があるためである。」(350頁下から8〜6行目)(ウ) 「d.非晶質 結晶構造中では原子または分子は規則正しい配列をしているが、固体状態には結晶でない状態、すなわち原子または分子が無秩序に配列した状態が存在し、非晶質またはアモルファスと呼ばれている。」(355頁1〜4行目(図U-3-17.を除く。)) (エ) 「ひとつの化合物分子を結晶または非晶質から取り出すときに必要なエネルギーは、結晶から取り出すときの方が大きいので、非晶質状態の方が結晶に比べて常に溶解度が高い。そこで、製剤学では、薬品の非晶質化を難溶性医薬品の溶解性改善に利用する。例としては、抗生物質のノボビオシンがよく知られており、溶解度の低い結晶では治療効果を示さないため、非晶質状態で投与される。 しかし反面、非晶質状態にある薬品は経時的安定性が劣ることも多く、そのような化学的安定性を考慮して結晶状態に導く必要がある場合も多い。ペニシリンGのカリウムまたナトリウム塩などはその例である。 また、非晶質状態は結晶に比べてエネルギー状態が高いため、物理的刺激や水蒸気との接触、加熱などにより結晶化を起こし、エネルギー的に安定な結晶状態に移行する可能性がある。こうした結晶化は予期せずに起こることもあるので、品質の管理には注意を要する。」(355頁下から8行目〜356頁4行目) (オ) 「e.結晶性 医薬品の結晶性は、溶解性、化学的安定性、吸湿性、圧縮成形性などいろいろな製剤特性に影響を与えるため、最も重要な粉体特性の一つである。…結晶性の指標として結晶化度が定義されている。結晶化度は、試料中の結晶部分の重量分率として、あるいは結晶領域での格子の乱れを考慮して算出される…。」(356頁下から6〜下から1行目) ス 甲63の記載 甲63には、次の記載がある。 (ア) 「[産業上の利用分野] 本発明は速溶性及び徐放性の両面を満足するニフェジピン含有製剤に関するものである。」(1頁左欄14〜16行目) (イ) 「被覆層についてはニフェジピンの光安定性を考慮し、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、タール色素、酸化チタン等からなる保護コーティングを形成することもできる。」(3頁左下欄9〜13行目) セ 甲68の記載 甲68には、次の記載がある。 「キサンチン誘導体(KF17837、KW6002、CSC、BS-DMPX)…を含む強力で選択的なA2AAR拮抗薬が開発されてきた…。 私たちのグループでは、最初に利用可能になったA 2A 拮抗薬の一つである3,7-ジメチル-1-プロパルギルキサンチン(DMPX)からA 2A 選択的なAR拮抗薬を開発した…。しかし、DMPXは、低いA 2A 親和性…と、あるとしてもA1ARに対する低い選択性を示しただけだった…。…DMPXの8位にメタ置換されたスチリル残基を導入すると、BS-DMPX…などの強力かつ選択的なA2AAR拮抗薬が得られた…。しかし、強力で選択的なA 2A AR拮抗薬の一般的な問題は、水溶性が低いことであり、それは、in vivo研究のための薬理学的ツールとしての有用性を制限する。そこで、8-スチリル-DMPX誘導体の水溶性を向上させるために、フェニル環にスルホ基などの極性部位を導入した。しかし、 スルホスチリル-DMPX誘導体は、AR親和性と選択性の低下を示した…。」(190頁右欄9行目〜192頁左欄16行目) ソ 甲71の記載 甲71には、次の記載がある。 (ア) 「とりわけ、固体の経口投与製剤の場合では、探索の最終段階における開発候補化合物の選定において、塩・結晶形と物性評価が必要と考えられる。物性評価項目としては、…化学的安定性、経口吸収性、物理的安定性(結晶化度、水和度)などの評価が優先して行われるべきと考えられる。…(1)結晶性の評価 結晶は、化学的な安定性、溶解性、経口吸収性、物理的な安定性(結晶化度、水和度)並びに原薬・製剤の製造性に対して影響を与える重要な基礎物性である。このために、…X線回折、熱分析、赤外線吸収スペクトル、自動水分吸着脱着測定などの評価方法を必要に合わせて適宜用いることになる。このことで、結晶多形、結晶化度、結晶形間の相転移を評価すると共に、種々の溶媒を用いて、塩形・結晶形の探索を行って、開発候補化合物としての適格性を予測しておく。 (2)化学的な安定性の評価 医薬品の安定性は品質を保証する上で重要な物性の一つである。前記の結晶性の評価と共に、固体状態において、熱、湿度、光に対する安定性を評価する。…(3)溶解性の評価 薬物の溶解性は、経口吸収性、薬効にまで影響を及ぼす重要な物性である。前記の結晶性や化学的安定性の結果も考慮しつつ、消化管吸収も考慮に入れた溶解性評価が重要である。結晶性の評価結果と合わせて考察することにより、真の溶解性に近い値を予想することによって、開発候補化合物としての適格性を予想しておく。 …(4)物理的な安定性 原薬結晶の物理的安定性、すなわち、結晶化度並びに水和度は、結晶性の評価と共に、先の横田らのアンケートにおける重要性は高い…。」(307頁11行目〜308頁12行目) (イ) 「γ形結晶の結晶化度と固体状態における化学的安定性との関係を明らかにする目的で、結晶化度測定法の検討で使用した同一の結晶化度水準の試料について、1か月の熱安定性加速試験を行いセフクリジンの残存率を算出し、結晶化度との比較を行った。…図15に25〜60℃の温度で1か月間保存した時の各試料の結晶化度とセフクリジンの残存率をプロットし、結晶化度と化学的安定性についての関係を明らかにした。いづれの保存温度においても、結晶化度とセフクリジンの化学的安定性の間には良好な相関関係が存在し、結晶化度と固体状態における化学的安定性との関係を明らかにすることができた。…図15に示された化学的安定性の差異は、固体状態における分子状態の違いを示しており、一定の条件下において、 化学的安定性と結晶化度に明確な相関がみられることから、安定性試験による残存率の測定から結晶化度を算出することが可能であると思われる。」(413頁7〜20行目)(ウ) 「第4節 結晶形と安定性についてのまとめ …固体薬物の安定性は、結晶状態などの分子状態が大きく影響する。すなわち、 結晶状態によってエネルギー準位が異なり低いエネルギー準位の結晶ほど化学反応を起こしにくくなる。また、非晶質状態は、高いエネルギー状態にあるため化学反応を起こしやすい状態になっている。例えば、β-ラクタム系抗生物質において、 結晶化度が低下し非晶質の度合いが高くなるほど化学的安定性が低下する傾向があることが、結晶化度と分解速度との関係から示されている。」(415頁1〜7行目) (エ) 「薬物の結晶性は、医薬品原薬の合成技術の面だけでなく薬剤として仕上げるまでの製剤化の観点からも重要事項であり、臨床での薬効や安全性などにも影響する場合がある。このような結晶に由来して生じる問題の多くは結晶の物理化学的安定性に依存するところが大きいと考えられる。そして、化学的安定性を評価するためには、結晶形…を代表とする医薬品の物理的形状…との関連において評価することが必要である。 安定性の観点から、開発候補薬物の結晶形の選定に際し留意することは、保存期間を含め、原薬物性の変化が起きないような結晶形を選定することであると言える。 … また、安定性の観点からは、熱力学的に最も安定な結晶形を選定するのが都合良いが、安定形は溶出性が悪く、選択できないケースも考えられる。このような場合には、準安定形を選ぶことを念頭に置いてプレフォーミュレーションにおける十分な検討が不可欠である。」(415頁23行目〜416頁3行目) タ 甲72の記載 甲72には、次の記載がある。 「A2A 受容体の場合、一連の8-スチリルキサンチン類は、この受容体サブタイプに対して高い親和性と優れた選択性を有すると記載されている。しかし、これらのキサンチン類は、希釈され光にさらされると急速に光異性化し、この効果により薬学的ツールとしてのその利用が制限されている…。」(7頁右欄18〜24行目) チ 甲73の記載 甲73には、次の記載がある。 「6 コーティング剤(1)コーティング剤とは 味をマスクしたり、外気や湿気の遮断、体内での崩壊・溶出の調節(腸溶性、徐放性など)のために、錠剤、顆粒剤などに施す剤皮がコーティング剤である。 (2)コーティング剤の種類 コーティング剤の種類は多く、目的により使い分けられるようになってきている。 味のマスク、外気や湿気の遮断には、多層構造の糖衣が古くから用いられており、 白糖を主にタルク、沈降炭酸カルシウム、カオリン、硫酸カルシウム、アラビアゴム末などを配合し形を整え、ワックスなどで光沢を与えた製剤としているが、本節では、最近主流となっているフィルムコーティングに使用されるコーティング剤について記述する。 …(3)水溶性コーティング剤 味のマスク、遮光などを目的として汎用的に使用されるコーティング剤であり、 ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースがよく使用されている。」(107頁9〜29行目) ツ 乙7の記載 乙7には、次の記載がある。 【0001】【産業上の利用分野】本発明はピリジン化合物、特に、アラニジピンの光に安定化した組成物、さらに詳しくはアラニジピンに酸化チタン並びに黄色三二酸化鉄等を含むコート液をコーティングした光に安定な固形組成物に関する。 【0002】【従来の技術】アラニジピンは、既知の化合物であり、高血圧症治療剤として使用されている。しかしアラニジピンはジヒドロピリジン系化合物のため、光による分解を受けやすく活性物質としての効力が低下する性質を持っている。そのため、ジヒドロピリジン系化合物は固形製剤にしても、光の影響を受け、徐々に酸化反応が進み、黄色が薄くなるなどの外観上の変化が現れるとともに、主成分が分解し活性が低下するので製剤化には問題があった。そこで従来は酸化を防止するため適当な抗酸化剤を添加する方法、包装時に脱酸素剤を封入する方法並びに外気との接触をなるべく少なくする方法等がとられている。アラニジピンにおいても安定な製剤を得る目的で種々検討した結果、精製白糖( 糖)を担体として、アラニジピンと腸溶性の高分子 基剤、及び水不溶性高分子 基剤を用い、アラニジピンの易溶化を目的に固体分散化法により顆粒剤を製造しているが、光に対しての安定性は保てなかった。 【0003】【発明が解決しようとする課題】光に不安定で、徐々に酸化するという問題を解決する方法としては一般に添加剤として抗酸化剤の添加が容易に推定される。しかし、 アラニジピンの様な難溶性の化合物の場合は、使用できる抗酸化剤が制約されている。本発明は抗酸化剤を用いない安定なアラニジピン含有組成物を提供することにある。 【0004】【課題を解決するための手段】既存顆粒の製剤的特徴(固体分散化法による原薬の易溶化)を維持し、かつ目的とする製剤を得るため、核顆粒の製法は既存顆粒と同様とし、本発明者は光に安定なアラニジピン製剤を得る目的で種々検討した結果、 遮光剤と着色剤を含むコーティングを行うことにより、本発明を完成した。即ち本発明は、光に不安定なピリジン系化合物、特にアラニジピンを適切な賦形剤により固体分散化した製剤に着色剤及び遮光剤を含むコート液をスプレーすることを特徴とするピリジン系化合物含有組成物の光安定化方法である。以下、本発明を詳細に説明する。 【0005】【発明の実施形態】本発明における光に不安定なアラニジピンを含有した固体へ添加する着色剤は、例えば、食用黄色5号、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄などが挙げられ、その配合量は0.05〜1.0重量%である。かつ、遮光剤としては酸化チタンが挙げられ、その配合量は6.0〜15.0重量%が適当である。かつ皮膜剤としてはヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、メタアクリル酸コポリマーLDなどが挙げられるが、その配合量は製剤中に3.5〜7.0重量%である。 【0006】本発明における安定な組成物とは固形状のいかなる製剤上の剤型でもよく、適当な賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、界面活性剤、安定剤、 保存剤、矯味剤、着色剤などを添加することにより医薬品として経口投与可能な安定な製剤、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤とすることなどが包含される。 【0007】【発明の効果】本発明のアラニジピン含有組成物はその分解を抑制する事により安定化されているため、長期間の保存が可能となる光にも安定なアラニジピン含有組成物として有用である。 (2) 相違点1及び2について ア 甲1結晶発明から認識される課題について (ア) 甲1によると、甲1結晶発明は、キサンチン骨格を有し、強力かつ特異性の高いA2拮抗作用を有する優れたパーキンソン氏病治療剤を提供することを目的とするものであると認められ、甲1結晶発明自体からは、化合物1の結晶の溶解性を高めるとの課題は直ちに導かれず、その他、甲1には、当該課題についての記載ないし示唆は見られない。 しかしながら、甲4、52ないし54及び71によると、経口投与される水難溶性の薬物において、薬物の吸収性及びバイオアベイラビリティを向上させるため、 その溶解性を高めることは、本件優先日当時の当業者にとって、周知の課題であったと認められるところ、甲1によると、甲1結晶発明(化合物1の結晶)は、経口投与される薬物としても使用されるものであると認められ、また、甲57及び68によると、本件優先日当時の当業者は、化合物1の結晶の溶解性が低いものと認識していたと認められる(なお、本件優先日後の文献ではあるが、甲55には、化合物1につき「水にほとんど溶けない」との記載があり、本件明細書にも、従来の方法で合成された化合物1の結晶につき「溶解性が低い」との記載がある。)から、 甲1結晶発明に接した本件優先日当時の当業者は、甲1結晶発明(化合物1の結晶)の溶解性を高めるとの課題を認識したものと認めるのが相当である。 (イ) 前記(ア)のとおり、甲1結晶発明は、キサンチン骨格を有し、強力かつ特異性の高いA 2A拮抗作用を有する優れたパーキンソン氏病治療剤を提供することを目的とするものであり、甲1結晶発明自体からは、化合物1の結晶の安定性を高めるとの課題は直ちに導かれず、その他、甲1には、当該課題についての記載ないし示唆は見られない。 しかしながら、甲5、7、9、52、61、63、71及び72並びに乙7によると、薬物の安定性(製造から患者への投与までの間の品質の安定性をいい、熱、 湿気、光等の環境因子による経時的な変化(物理的な変化又は化学的な変化)が小さいことを指す。)を高めることは、本件優先日当時の当業者にとって、自明の課題であったと認められるから、甲1結晶発明に接した本件優先日当時の当業者は、 甲1結晶発明(化合物1の結晶)の安定性を高めるとの課題を認識したものと認めるのが相当である(なお、甲68及び72並びに弁論の全趣旨によると、化合物1は、希釈されて光にさらされると急速に光異性化することが知られており、本件優先日当時の当業者は、化合物1が特に光安定性を高めるとの課題を有していると認識したものと認められる。)。 イ 化合物1の結晶の平均粒径を小さくし、かつ、化合物1の結晶の結晶化度を大きくすることについて (ア) 甲4、52ないし54及び61によると、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高める方法として、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル等を利用した粉砕等により結晶の粒子径を小さくすること、結晶形を不安定型又は準安定型に変えること、結晶の結晶化度を低下させることなどは、本件優先日当時の周知技術であったと認められる。 (イ) また、甲7、9、52、61、63、71及び73並びに乙7によると、 薬物の安定性を高める方法として、結晶の結晶化度を高めること、遮光、湿気の遮断等を目的として薬剤に保護コーティングを形成すること、遮光を目的として遮光剤(酸化チタン)を含むコート液をコーティングすることなどは、本件優先日当時の周知技術であったと認められる。 (ウ) しかしながら、甲5、7、52、54及び61によると、本件優先日当時、 非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在し、そのため、水難溶性の薬物の溶解性を改善するとの目的で、かえって結晶化度を低くすることが一般に行われていたものと認められるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日当時、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術として、結晶の粒子径を小さくすること以外の方法も存在し、また、薬物の安定性を高めるための周知技術として、結晶の結晶化度を高めること以外の方法も存在していたのであるから、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの課題を認識していた本件優先日当時の当業者において、化合物1の溶解性を追求するとの観点から、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術(結晶の粒子径を小さくするとの周知技術)を採用し、かつ、化合物1の安定性を追求するとの観点から、薬物の溶解性を低下させる結果となり得る周知技術(結晶の結晶化度を大きくするとの周知技術)をあえて採用することが容易に想到し得たことであったと認めることはできない。 (エ) この点に関し、原告らは、結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することは特段の処理が不要で薬剤をそのまま使用するという最も基本的な態様を含むものであり、他の手段よりはるかに容易な態様のものであると主張する。しかしながら、前記(ア)のとおり、本件優先日当時、結晶の粒子径を小さくするための主たる手段として、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル等を利用した粉砕が考えられていたところ、甲52によると、粉砕により結晶の結晶化度が低下し、結晶が非晶質化することは、よく経験される事象であったものと認められるから、結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することが特段の処理を要しないものであるということはできず、原告らの上記主張は、前提を誤るものというべきである。 また、原告らは、本件優先日の当業者であれば、薬物の安定性を向上させるとの課題に基づいて結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することを検討しつつ、粒子の微細化等の手段により溶解度を向上させるなど、結晶の結晶化度や平均粒径といったパラメータを適宜調整することを十分に動機付けられると主張するが、上記のとおり、非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを考慮すると、原告らの上記主張によっても、本件優先日当時の当業者において、相反する効果を生ずる事項同士であると認識されていた、化合物1の結晶の平均粒径を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであったと認めることはできないといわざるを得ない(この点に関し、本件明細書には、 実施例(試験例2、実施例2)として、化合物1の微細結晶Aの結晶化度が84.6%であり、粒径がD100=8.7μmである場合(後記5(4)ア(ア)のとおり、化合物1の平均粒径が数μmである場合)においても、結晶が凝集することなく、良好な溶解性及び分散性を示したとの記載があるが、前記(2)イ(ウ)において認定した技術常識(非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識)並びに甲6及び52によって認められる技術常識(特に薬物が疎水性のものである場合には、結晶の粒子径を小さくすればするほど凝集が起こやすくなり、その有効表面積がかえって小さくなる結果、溶解性が低下することがあるとの技術常識)に照らすと、上記実施例が示す効果は、甲1結晶発明及び本件優先日当時の技術常識から予測し得なかったものといえる。)。 (3) 取消事由1についての結論 以上のとおり、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの甲1結晶発明の課題を認識していた本件優先日当時の当業者において、化合物1の結晶の平均粒径を相違点1の数値範囲とし、かつ、その結晶化度を相違点2の数値範囲とすることが容易に想到し得たことであったと認めることはできないから、本件発明1の進歩性についての判断の誤りをいう取消事由1は理由がない。 3 本件発明2について 本件発明2と甲1製剤発明の相違点である相違点3及び4は、それぞれ前記2において検討した相違点1及び2と実質的に同一のものであるところ、前記2のとおり、本件優先日当時の当業者において、相違点1及び2に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たものと認めることはできないから、同様に、本件優先日当時の当業者において、相違点3及び4に係る本件発明2の構成に容易に想到し得たものと認めることはできない。したがって、本件発明2は、甲1製剤発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 本件発明3ないし5について 本件発明3ないし5は、いずれも本件発明2の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、同発明を更に限定するものであるから、前記3のとおり、本件発明2が甲1製剤発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、 本件発明3ないし5も、甲1製剤発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 5 取消事由2(サポート要件についての判断の誤り)について (1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決・判時1911号48頁参照)。 (2) 本件各発明の課題 前記1によると、本件各発明の課題は、溶解性、バイオアベイラビリティ、分散性、安定性等が良好な化合物1の結晶及びこれを含む固体医薬製剤を提供することであると認められる。 (3) 本件各発明における化合物1の安定性について ア 本件各発明における化合物1の安定性に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、試験例1として、@特開平9-40652号公報(甲2)に記載された方法により、未粉砕の化合物1の結晶を得た、A上記@の未粉砕の化合物1の結晶とHPMCとを第1表に記載された配合比でジクロロメタンに溶解し、溶媒を留去した後、得られた固体を錠剤粉砕機で粉砕することにより、試料A(合計4種類)を得た、B上記@の未粉砕の化合物1の結晶とHPMCとを第1表に記載された配合比で混合した後、第1表に記載された粉砕機を用いて粉砕することにより、試料B(合計7種類)を得た、C4種類の試料A、7種類の試料B及び上記@の未粉砕の化合物1の結晶につき結晶化度と化合物1の残存率(安定性)を測定したところ、 第1表のとおりとなった、D縦軸に化合物1の残存率、横軸に化合物1の結晶の結晶化度をとってグラフ(図1)を作成したところ、化合物1の結晶の結晶化度と光安定性に正の相関があること及び当該結晶化度が20%以上、好ましくは30%以上で光照射下での分解が減少することが判明し、化合物1の結晶の結晶化度を一定値以上に保持し、又は一定値以上の結晶化度を有する化合物1の結晶を製剤化工程で用いることにより、製剤化工程における化合物1の安定性を維持できると考えられるとの記載がある。 また、本件明細書の発明の詳細な説明が引用する図1には、化合物1の結晶の結晶化度が40%程度を上回ると、化合物1の残存率が100%近くになることが図示されている。 さらに、前記2(2)イ(イ)において認定したところによると、結晶の結晶化度を大きくすることにより薬物の安定性を高めることができることは、本件出願当時の当業者にとっての技術常識であったといえ、本件明細書の発明の詳細な説明の上記のDの記載は、当該技術常識と符合するものである。 以上によると、本件出願当時の当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識に照らし、化合物1の結晶の結晶化度を相違点2の数値範囲とする本件各発明が化合物1の安定性を良好にするとの本件各発明の課題を解決できると認識し得たものと認めるのが相当である。 イ 原告らは、試験例1においては、化合物1とHPMCを1:2ないし1:10の割合で配合した試料A及びBのみが用いられ、添加剤を全く用いない試料、HPMC以外の添加剤を用いた試料、HPMCの添加割合が小さい試料等が用いられていないところ、HPMCは、薬剤のコーティング剤として用いられ、薬剤の成分の光安定性を向上させるものであることが知られており、試験例1の結果(第1表)に接した本件出願当時の当業者は、当該結果が大量に添加されたHPMCの効果によるものであり、当該結果を上記のような試料A及びB以外の本件各発明に拡張することはできないと理解するのであるから、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載には、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識を参酌しても、化合物1の安定性を向上させるとの本件各発明の課題を解決できると認識し得ない部分が含まれていると主張する。 確かに、甲63及び73(前記2(1)ス及びチ)には、HPMCが遮光等を目的とする薬剤の保護コーティングに用いられるとの記載があり、また、甲62(段落【0011】)には、良好な保存安定性を有し、多くの製剤化の利点を示す錠剤においてされるフィルムコーティングにつき、フィルムコートを形成するのに用いるフィルム形成体としてHPMCを含むこともできるとの記載がある。 しかしながら、本件明細書の第1表の記載をみると、同表のサンプル名欄の上から1列目ないし3列目(「サンプル名」と記載された列を除く。以下同じ。)に記載された試料A(以下、同欄に記載された試料A若しくはB又は未粉砕の化合物1の結晶については、同欄の上から何列目に記載されているかに従い、「1番の試料A」、「5番の試料B」、「12番の結晶」などという。)に係る結果によると、 試料を得る方法及び用いた粉砕機が同じであっても、HPMCの配合割合が大きくなるほど結晶の結晶化度が低下し、それに伴って残存率も低下することが読み取れ、 8番の試料Bないし11番の試料Bに係る結果によると、試料を得る方法及び化合物1とHPMCの配合割合が同じ(1:10)であっても、用いた粉砕機が異なると、結晶の結晶化度に差異が生じ(特に11番の試料Bにつき著しく低い結晶化度となっている。)、異なる残存率(特に11番の試料Bにつき著しく低い残存率)を示すことが読み取れ、2番の試料A及び6番の試料Bに係る結果によると、化合物1とHPMCの配合割合が同じ(1:3)であっても、試料を得る方法及び用いた粉砕機が異なると、結晶の結晶化度に差異が生じ、結晶化度が大きい方が高い残存率を示すことが読み取れ、12番の結晶に係る結果によると、HPMCが配合されていない化合物1の結晶であっても、100%という高い残存率を示すことが読み取れる。そうすると、3番の試料A及び4番の試料Aに係る結果によると、試料を得る方法及び結晶の結晶化度が同じであっても、HPMCの配合割合が大きい方が高い残存率を示すことが読み取れ、5番の試料Bないし8番の試料Bに係る結果によると、試料を得る方法及び用いた粉砕機が同じ場合において、HPMCの配合割合を大きくすると、結晶の結晶化度が低下しても、高い残存率が維持されることが読み取れることを考慮しても、また、HPMCが遮光等を目的とする薬剤のコーティングに用いられているとの上記各文献の記載を考慮しても、本件出願当時の当業者において、第1表に記載された結果がHPMCの効果によるものであり、当該結果を試験例1において用いられた試料A及びB以外の本件各発明に拡張することはできないものと理解すると認めることはできないというべきである。 なお、原告らは、微細結晶を得る方法を「添加剤を混合し、得られた混合物を粉砕」するものに限定する本件発明4について、添加剤の種類や量が特定されていないことを根拠に、同発明に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たさないとも主張するが、上記説示したところに照らすと、本件発明4において添加剤の種類や量が特定されておらず、同発明がHPMC以外の添加剤を添加する場合や少量のHPMCを添加する場合を含むことをもって、同発明に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たさないということはできない。 以上のとおりであるから、原告らの各主張を採用することはできない。 (4) 本件各発明における化合物1の溶解性、バイオアベイラビリティ及び分散性について ア(ア) 本件各発明における化合物1の溶解性、バイオアベイラビリティ及び分散性に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、試験例2及び実施例2として、 @特開平9-40652号公報(甲2)に記載された方法により、未粉砕の化合物1の結晶A(平均粒径167μm)を得た、A結晶Aをジェットミルで粉砕することにより、化合物1の微細結晶A(粒径D 100=8.7μm)を得た、B結晶A及び微細結晶Aを用いて、室温における水に対する溶解度を測定した上、縦軸に化合物1の溶解度、横軸に経過時間をとってグラフ(図2)を作成したところ、平均粒径が小さい微細結晶Aは、結晶Aと比較して、溶解速度が速く、良好な溶解性を有することが判明した、C微細結晶Aでは、製剤化の工程操作中に化合物1の結晶が凝集するという現象は見られず、微細結晶Aは、結晶Aと比較して、分散性に優れることも判明したとの記載があり、また、試験例3及び実施例3として、D特開平9-40652号公報(甲2)に記載された方法により、未粉砕の化合物1の結晶B(平均粒径181μm)を得た、E結晶Bをジェットミルで粉砕することにより、 化合物1の微細結晶B(平均粒径11μm)を得た、F結晶B及び微細結晶Bをそれぞれ0.5重量/容量%メチルセルロース水溶液に懸濁させ、投与薬液を調製した、G上記Fの投与薬液をSD系雄性ラットに経口投与し、投与から0.25時間後、0.5時間後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後及び24時間後の時点で、ラットから血液を採取した、H上記Gで得られた血液を遠心分離し、血漿を分離した、I上記Hで得られた血漿中の化合物1の濃度を測定し、ラット3例での平均値を算出した、J最高血漿中濃度(C max)、投与時点から最後に定量できた時点までの血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC0-t)及び投与時点から無限大時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC 0-∞)は、 第2表のとおりとなったところ、平均粒径が小さい微細結晶Bを経口投与した場合、 結晶Bを経口投与した場合と比較して、高いC max、AUC 0-t及びAUC0-∞が得られ、平均粒径が小さい微細結晶Bの方が結晶Bよりも優れた経口吸収性を有していることが判明したとの記載がある。 ここで、微細結晶Aの粒径につきD100=8.7μmとあるのは、微細結晶A中の全ての粒子の粒径が8.7μm以下であることを指すところ、原告らは、粒径がD100=8.7μmである微細結晶Aの平均粒径が少なくとも1μm以上8.7μm未満であることを争わない。そして、甲33(佐川良寿著「製剤操作の基礎知識@ 粉砕・入門編(その1)」(PHARM TECH JAPAN15巻9号39〜49頁(平成11年)))には、ジェットミルを用いた粉砕の場合、粉砕物の粒度は0〜5μmとなるとの記載(41頁の表)があること、甲52には、ジェットミルを用いた粉砕の場合、得られる粒子径が数μmであるとの記載(83頁の表5-4)があることなどからすると、ジェットミルで粉砕することにより得られた微細結晶Aの粒径がD100=8.7μmであるとの記載に接した本件出願当時の当業者は、微細結晶Aの平均粒径が数μm程度であると認識したものと認めるのが相当である(なお、本件出願後に作成された実験成績証明書である甲25には、ジェットミルによる粉砕後の化合物1の微細結晶につき、D 90 が5.8μm(当該微細結晶の粒子のうち90%のものの粒径が5.8μm以下であることを指す。)であり、平均粒径が3.5μmであるとの記載があり、同様の実験成績証明書である甲36には、ジェットミルにより粉砕された化合物1の微細結晶につき、D100が11.2μmであり、平均粒径が3.27μmであるとの記載があり、また、本件出願後に作成された見解書である甲28にも、試験例2の微細結晶A(D100=8.7μm)の平均粒径は、2〜3μm程度であると考えられるとの記載があるところ、 これらは、いずれも本件出願当時の当業者の上記認識と符合する。)。 (イ) 前記2(2)イ(ア)及び(エ)において認定したところによると、経口投与される水難溶性の薬物の結晶の粒子径を小さくすると当該薬物の溶解性が高まり、そのバイオアベイラビリティも向上すること、他方で、疎水性の薬物については、結晶の粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり、溶解性及び分散性が低下し、バイオアベイラビリティも低下することは、いずれも本件出願当時の技術常識であったと認められ、また、本件出願当時の当業者は、化合物1の溶解性が低く、化合物1が疎水性の薬物であると認識していたものと認められる。 (ウ) 前記(ア)の本件明細書の発明の詳細な説明の記載(試験例2及び実施例2に係る部分)は、化合物1の結晶が平均粒径を数μm程度とする結晶にまで微細化された場合であっても、結晶が凝集することなく良好な溶解性を有することを示すものであり、前記(ア)の本件明細書の発明の詳細な説明の記載(試験例3及び実施例3に係る部分)は、化合物1の結晶が平均粒径を11μmとする場合であっても、 優れた経口吸収性(甲60及び弁論の全趣旨によると、これは、高いバイオアベイラビリティを示すものと認められる。)を有することを示すものである。以上に加え、甲5、52及び61並びに弁論の全趣旨によると、経口投与される水難溶性の薬物のバイオアベイラビリティは、当該薬物の溶解性に依存しているものと認められ、これによると、前記(ア)の本件明細書の発明の詳細な説明の記載(試験例3及び実施例3に係る部分)は、平均粒径を11μm程度とする化合物1の結晶の溶解性が良好であることも同時に示しているといえることや(なお、本件出願後に作成された見解書である甲29にも、試験例3の経口吸収性の改善は、溶解速度の改善によるものと思われるとの記載がある。)、本件出願当時、経口投与される水難溶性の薬物の結晶の粒子径を小さくすると当該薬物の溶解性及びバイオアベイラビリティが向上する一方で、疎水性の薬物については、結晶の粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり、溶解性及びバイオアベイラビリティが低下するとの技術常識が存在したこと(前記(イ))を総合考慮すると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載(前記(ア))に接した本件出願当時の当業者は、化合物1の結晶の平均粒径が相違点1の数値範囲(0.5〜20μm)程度であれば、化合物1の溶解性及びバイオアベイラビリティを良好にするとの本件各発明の課題を解決できると認識し得たものと認めるのが相当である(なお、本件出願後に作成された見解書である甲28には、平均粒径11μmの化合物1の微細結晶Bが優れた経口吸収性を示すという結果から、平均粒径20μmの化合物1の微細結晶も同様に良好な経口吸収性を示すことが想像できるとの記載があるが、これは、本件出願当時の当業者の上記認識と符合する。)。 また、前記(ア)の本件明細書の発明の詳細な説明(試験例2及び実施例2に係る部分)には、化合物1の結晶が平均粒径を数μm程度とする結晶にまで微細化された場合であっても、製剤化の工程操作中に結晶が凝集するという現象は見られず、 未粉砕の結晶の場合と比較して分散性に優れることが判明したとの記載があるところ、本件出願当時、疎水性の薬物については、結晶の粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり、分散性が低下するとの技術常識が存在したこと(前記(イ))も併せ考慮すると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載(試験例2及び実施例2に係る部分)に接した本件出願当時の当業者は、結晶の平均粒径が相違点1の数値範囲(0.5〜20μm)程度であれば、化合物1の分散性を良好にするとの本件各発明の課題を解決できると認識し得たものと認めるのが相当である(なお、本件出願後に作成された実験成績証明書である乙2には、化合物1の粉砕品(平均粒子径2.98μm)と本件明細書の発明の詳細な説明の実施例4に記載された添加剤を混合機に入れて混合し、混合末を得たところ、凝集物(大きな塊)は確認されず、 良好な混合均一性を示したことから、当該粉砕品は、未粉砕の化合物1(平均粒子径54.1μm)と比較して凝集性が低く、製剤化の工程操作中における分散性に優れていることが確認されたとの記載があり、本件出願後に作成された見解書である甲29には、平均粒径が20μm以下の微細結晶であれば、化合物1が有する分散性の問題が改善されるとの記載があるが、これらは、いずれも本件出願当時の当業者の上記認識と符合する。)。 イ 原告らは、仮に微細結晶Aの平均粒径が1μmであるとすると、平均粒径が20μmの場合(平均粒径が20倍になった場合)についても、試験例2に記載されたのと同様の良好な分散性が発揮されるかどうかは本件出願当時の当業者にとって不明であるし、仮に微細結晶Aの平均粒径が8.7μm程度であるとすると、平均粒径が0.5μmの場合(平均粒径が十数分の1になった場合)及び20μmの場合(平均粒径が2倍以上になった場合)のいずれについても、試験例2と同様の良好な分散性が発揮されるかどうかは当該当業者にとって不明であると主張するが、 前記ア(ウ)において説示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載(試験例2及び実施例2に係る部分)のみならず、本件出願当時の技術常識(疎水性の薬物については、結晶の粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり、分散性が低下するとの技術常識)も併せ考慮すると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載(前記ア(ア))に接した本件出願当時の当業者は、微細結晶Aの平均粒径が相違点1の数値範囲程度であれば、化合物1の分散性を良好にするとの本件各発明の課題を解決できると認識し得たものいうべきである。 また、原告らは、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によっても、本件出願当時の当業者は、良好な分散性の効果がどのような条件(添加剤の有無、種類、量及び粒子径並びに採用される製造工程)で確認されたのかを理解することができず、 当該効果が相違点1及び2に係る本件各発明の構成によって実現されることを確認できないと主張するが、前記1(2)のとおり、本件各発明は、相違点1及び2に係る構成を採用することによって課題を解決しようとする発明であるから、そのうち分散性の点についてサポート要件を満たすためには、本件出願当時の当業者において、本件各発明が相違点1に係る構成を採用することで、すなわち、化合物1の結晶の平均粒径を相違点1の数値範囲とすることで、化合物1の分散性を良好にするとの本件各発明の課題が解決できると認識し得たといえれば足りるものである。 さらに、原告らは、本件出願後に作成された実験成績証明書である甲65によると、化合物1の分散性につき本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているような効果は確認できなかったと主張する。確かに、甲65には、未粉砕の化合物1の結晶(平均粒径170.1μm)、混合攪拌造粒機(ハイスピードミキサー)を用いて粉砕した化合物1の微細結晶(平均粒径49.6μm)及びジェットミルを用いて粉砕した化合物1の微細結晶(平均粒径6.3μm)を観察したところ、化合物1の凝集性は非常に強いことが示唆され、当該凝集性は平均粒径の大小にかかわらないことが確認されたとの記載がある。しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の試験例2は、製剤化の工程操作中における化合物1の分散性について記載するものであるのに対し、甲65に記載された試験は、分散剤、安定化剤等の添加剤を添加することなく、化合物1の結晶のみをステンレス鋼材製の容器に入れ、容器ごと篩振とう機にセットして振とうした試料を観察するものであって、製剤化の工程操作中における化合物1の分散性を観察するものとはいえず、同試験の結果は、 化合物1の分散性に係る試験例2の上記記載を否定するものではないし、また、同試験は、化合物1の平均粒径が小さい場合に、凝集物が大きくなるのではなく、かえって小さくなることを示すものであるから、同試験の結果は、平均粒径を小さくしても分散性が低下しないことを示すものであるといえ、化合物1の分散性に係る試験例2の上記記載の趣旨を否定するものではない。 以上のとおりであるから、原告らの各主張を採用することはできない。 (5) 取消事由2についての結論 前記(1)ないし(4)のとおり、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものであるから、取消事由2は理由がない。 6 結論 以上の次第であるから、原告らの請求はいずれも理由がない。 |
裁判長裁判官 | 本多知成 |
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裁判官 | 浅井憲 |
裁判官 | 勝又来未子 |