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関連審決 不服2021-4401
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事件 令和 4年 (行ケ) 10094号 審決取消請求事件

原告 大黒屋グループ株式会社
同訴訟代理人弁護士 山田威一郎 松本響子 柴田和彦
同訴訟代理人弁理士 立花顕治 大古場ゆう子 杉本弘樹 樋口智夫
被告特許庁長官
同 指定代理人関口哲生 柿崎拓 平瀬知明 清川恵子 山崎孔徳
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/05/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2021-4401号事件について令和4年7月20日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は、特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は、進歩性の判断の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は、令和2年5月23日、発明の名称を「足裏マット、中敷き、及び靴」とする発明についての特許出願(特願2020-090145号。請求項の数は12。以下「本願」という。)をし、同年8月26日付け、同月29日付け及び同年11月17日付けでそれぞれ手続補正をした(その結果、請求項の数は8となった。)が、同年12月25日付けで拒絶査定を受けた。(甲4の1・3・5・8・10) そこで、原告は、令和3年4月5日、上記拒絶査定に対する不服審判の請求(不服2021-4401号。以下「本件審判請求」という。)をするとともに手続補正をし、令和4年3月31日付けで手続補正(以下「本件補正」といい、本件補正後の本願の明細書と図面を併せて「本願明細書」という。)をした。(甲5の1・2・7) (2) 特許庁は、令和4年7月20日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年8月2日に原告に送達された。
2 本願に係る発明 本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。(甲5の7) 【請求項1】 「足の裏面が位置するシート状の足裏マットと、前記足裏マットに取り付けられる前坪とを備えた中敷きであって、
前記足裏マットは、少なくとも足の5趾間の各趾股が位置する領域から当該足裏マ ットにおける足指側先端までの範囲内の領域である先端領域に、前記前坪を取り付けるための貫通孔である前坪取付孔を複数有し、
前記前坪取付孔は、少なくともいずれかの趾股が位置する周囲の領域において、
足の長さ方向及び足の幅方向にそれぞれ複数設けられており、
前記前坪には、雄雌構造の雄部及び雌部の一方が設けられ、前記前坪を着脱自在に取り付けるための取付部材には、前記雄雌構造の前記雄部及び雌部の他方が設けられ、前記前坪と前記取付部材とは、前記いずれかの前記趾股が位置する周囲の領域における複数の前記前坪取付孔のうちの一つを通して前記雄雌構造の前記雄部及び雌部により雄雌結合されることを特徴とする中敷き。」 3 本件審決の理由の要旨 (1) 引用文献に記載された発明の認定等 ア 甲1(特許第6617308号公報)に記載された発明の認定 甲1には、次の発明(以下「引用発明」という。 が記載されていると認められる。
) 「足の裏面が位置する中敷き本体4Aと、前記中敷き本体4Aに取り付けられる前坪14Aとを備えた中敷き2であって、
前記中敷き本体4Aは、足指側前部6に、前坪14Aを取り付けるための挿通開口を複数有し、
前記挿通開口は、第1趾と第2趾の間の趾股内に位置する前坪14Aの取付け位置において、中敷き本体4Aの前後方向に複数設けられており、
前記前坪14Aを構成する柱状部材52には、一端側に下雌ねじ孔56が設けられ、
前記前坪14Aを着脱自在に取り付けるための取付ねじ58には、雄ねじ部60が設けられ、前記前坪14Aと前記取付ねじ58とは、前記第1趾と第2趾の間の趾股内に位置する前坪14Aの取付け位置における複数の前記挿通開口のうちの一つを通して、雄ねじ部60を下雌ねじ孔56に螺着する中敷き2。」 イ 甲2(実願昭63-155106号(実開平2-74903号)のマイクロフィルム)の記載について 甲2の「2.実用新案登録請求の範囲」における「足の指間等で支える突起具を、
靴中底に設置する足先靴づれ(判決注:「靴擦れ(靴ずれ)。以後、同じ。
」 )疲れ防止具」という記載のほか、「産業上の利用分野」「考案が解決しようとする課題」 、 、
「課題を解決するための手段」「作用」「実施例」及び「考案の効果」の各記載並 、 、
びに第1図及び第2図によると、甲2においては、靴中底に、突起具3を取り付けるための差し込み穴2が前後左右に平面的に広がって複数設けられていることが理解できる。
(2) 対比 本願発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、相違点1及び2で相違する。
(一致点) 「足の裏面が位置する足裏マットと、前記足裏マットに取り付けられる前坪とを備えた中敷きであって、
前記足裏マットは、少なくとも足の5趾間の各趾股が位置する領域から当該足裏マットにおける足指側先端までの範囲内の領域である先端領域に、前記前坪を取り付けるための貫通孔である前坪取付孔を複数有し、
前記前坪取付孔は、少なくともいずれかの趾股が位置し得る範囲において、足の長さ方向に複数設けられており、
前記前坪には、雄雌構造の雄部及び雌部の一方が設けられ、前記前坪を着脱自在に取り付けるための取付部材には、前記雄雌構造の前記雄部及び雌部の他方が設けられ、前記前坪と前記取付部材とは、前記いずれかの前記趾股が位置し得る範囲における複数の前記前坪取付孔のうちの一つを通して前記雄雌構造の前記雄部及び雌部により雄雌結合される中敷き。」である点。
(相違点1) 本願発明は、足裏マットが「シート状」であるのに対し、引用発明は、中敷き本体4Aがシート状であるか否か不明である点。
(相違点2) 前坪取付孔に関し、本願発明は、
「少なくともいずれかの趾股が位置する周囲の領域において、足の長さ方向及び足の幅方向にそれぞれ複数有する」のに対し、引用発明は、第1趾と第2趾の間の趾股内に位置する前坪14Aの取付け位置おいて(判決注: 「位置において」の誤記と認める。、中敷き本体4Aの前後方向に複数設けら )れているものの、足の幅方向に複数有したものとはいえない点。
(3) 判断 ア 相違点について (ア) 相違点1について 甲1の【0045】の記載によると、中敷き本体は、柔軟性を有する合成樹脂材料などから形成されるものであるといえ、また、同【0043】及び【図7】の記載内容から、靴102の底部104の内面形状に対応するものでもあると解されることから、中敷き本体は、柔軟に形状を変化させることができる程度の厚みであることが明らかであるといえる。
以上によると、引用発明の中敷き本体4Aは、靴の底に収容可能な「シート状」であるということができ、相違点1は実質的な相違点ではない。
(イ) 相違点2について 甲2には、靴中底に、足の指間等で支える突起具を取り付けるための差し込み穴を前後左右に平面的に広がって複数設けることにより、靴及び足の寸法や形に合わせて使用できる足先靴擦れ疲れ防止具(以下「甲2技術」という。)が記載されている。
また、甲1の【0012】の「前坪が中敷き本体に着脱自在に取付けられた構造であるため、個人の足の長さによって前坪の位置調整が可能である」との記載、同【0019】の「足の踵から足指の第1趾と第2趾のつけ根までの長さを個人の足に合わせて調整しておけば、足指の第1趾と第2趾のつけ根から靴の先端までの長さは多少長くてもしっかりと足を保持することができる」との記載、 【0052】 同の「人は左右の足でその長さが異なっている。したがって、各人の左右の長さを測 定して前坪14の位置を設定する」との記載によると、前坪の位置調整は、前後方向(足の長さ方向をいう。以下同じ。)における趾股の位置の個人差の調整も意識されたものであると理解されることから、引用発明には、趾股の位置の個人差に応じて前坪の位置調整を行うという課題もあることは明らかであるといえる。
引用発明と甲2技術とは、ともに、靴等の履物において使用される足の趾股間に設けた突起具に関する技術であり、また、個人差に応じて突起具の位置調整を行うという共通の課題を有するものである。そして、足指等の形状、長さ、幅などに個人差があることは明らかであるところ、趾股の位置においても、前後方向だけでなく左右方向(足の幅方向をいう。以下同じ。)にも個人差があることは、当業者にとって技術常識(例えば、甲3の1(特開2004-305405号公報)の【0009】及び【0010】、甲3の2(登録実用新案第3111466号公報)の【0023】及び【図1】を参照。以下、この技術常識を「本件技術常識」という。)である。
以上によると、引用発明において、前坪の取付け位置を趾股の位置の個人差に応じて調整可能とするに際し、前後方向に設けた複数の挿通開口について、本件技術常識に鑑み、前後左右に平面的に広がって複数の穴を設けた甲2技術を適用し、本願発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 原告の主張について (ア) 原告は、甲1記載の発明において複数の挿通開口を設ける目的は、各人の足のサイズに応じてオーダーメード的にあらかじめ前坪14の位置を直線状前後のみ調整可能とすることであり、直線状の位置以外に無用な貫通孔を必要としないものである一方、甲2記載の発明において差し込み穴2を数箇所設ける目的は、靴底板1に製造工程で数箇所の差し込み穴2を設けることで、オーダーメードに頼ることなく、靴の寸法やサイズに合わせて突起具3の位置を前後左右に調整可能とするものであるから、甲1記載の発明に甲2記載の発明を適用することは、甲1記載の発明の目的に反するもので、阻害要因(以下「阻害要因1」という。)があると主張す る。
しかし、原告が指摘する甲1の【0019】及び【0058】の記載に接しても、
各人の足のサイズに応じて、第1趾と第2趾の趾股に配置される前坪の位置調整が行われることで、靴の中で足指を動かすことが可能となり血行障害が防止できることが理解されるのみであり、甲1に記載のものを、原告の主張するようなオーダーメード的なものと限定して解することはできない。仮に、引用発明がオーダーメード的なものであるとしても、引用発明の複数の挿通開口は、前坪の取付け位置を趾股の位置の個人差に応じて調整可能とするために設けられるものであって、技術常識に照らして、左右方向の調整を否定・排除したものでないことは明らかである。
したがって、阻害要因1は認められない。
(イ) 原告は、甲1記載の発明は、甲2記載の発明の突起具3のような単に差し込み穴2に差し込む(挿嵌する)不安定な保持となる構成や補助カバー4のような壁状に設けられる構成を排除しており、甲2の適用に関しては阻害要因(以下「阻害要因2」という。)があると主張する。
しかし、甲2の課題、作用及び効果を勘案すると、甲2から把握される技術思想は、靴中底に、足の指間等で支える突起具を取り付けるための差し込み穴を前後左右に平面的に広がって複数設けることにより、靴及び足の寸法や形に合わせて使用できることであって、貫通孔でない差し込み穴2を利用して固定されるものや、補助カバー4を設けるものに限定されるものでない。
したがって、貫通孔を介して前坪をねじで固定し、また、補助カバーを使用しない引用発明において、甲2に記載の技術思想を適用することに何ら技術的な問題はなく、引用発明の目的に反することもなく、阻害要因2は認められない。
(ウ) 原告は、甲1記載の発明の貫通孔である複数の挿通開口に、甲2記載の発明の貫通孔でない複数の差し込み穴2を適用した場合、当該穴2は、前坪を挿通することができなくなり挿通機能を果たし得なくなるので、甲1記載の発明に甲2記載の発明を適用することには、阻害要因(以下「阻害要因3」という。)があると主張 する。
しかし、前記(イ)のように、甲2に記載のものは、貫通孔でない差し込み穴2を使用することが必須ではないから、原告の上記主張は、前提において失当であり、採用できない。
ウ 本願発明の作用効果について 本願発明の作用効果は、引用発明及び甲2に記載の事項から、当業者が予測できる範囲のものであって、格別顕著なものではない。
(4) まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び甲2に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、
特許を受けることができず、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、
本願は拒絶すべきものである。
原告主張の取消事由
本願発明の相違点2の構成は、引用発明に甲2の記載事項を適用することで想到できるものではなく、また、引用発明に甲2の記載事項を適用する動機付けもない。
さらに、引用発明に甲2に記載の発明を適用することには阻害要因があり、本願発明は、甲1及び2からは予測できない顕著な効果を奏するものである。
したがって、本願発明が、甲1及び2から容易に想到できたものでないことは明らかであるから、本件審決の認定は、直ちに取り消されるべきである。理由の詳細は、次の1〜4のとおりである。
1 取消理由1(相違点2の構成が甲2には開示されていないこと) (1) 甲2の記載事項 ア 甲2に「趾股が位置する周囲の領域における幅方向に差し込み穴が複数設けられている」ことの記載がないこと (ア) 相違点2の内容は、より簡潔に表すと、本願発明においては、趾股が位置する周囲の領域における幅方向にも前坪取付孔が複数設けられているのに対し、引用 発明では、趾股が位置する周囲の領域における前後方向には複数の前坪取付孔が設けられているものの、趾股が位置する周囲の領域における幅方向には複数の前坪取付孔が設けられていない点である。
この点、本願発明の構成中の「周囲の領域」との文言は、令和4年3月31日付け手続補正書(甲5の7)において、明細書の段落【0012】【0042】【0 、 、
056】 図1等を根拠に特許請求の範囲に加えられた文言であり、
、 趾股の位置の近傍の領域を意味する(「趾股が位置する領域」及び「その周囲の領域」の意義に関しては、本願明細書の【0012】において定義されている。。本願発明は、
) 「前記前坪取付孔」が「少なくともいずれかの趾股が位置する周囲の領域において、足の長さ方向及び足の幅方向にそれぞれ複数設けられて」いる構成を採用し、隣接する前坪取付孔の間隔を細やかにし、前坪取付位置の微調整を可能にした発明であり、上記構成を採用したことで、前後方向及び左右方向において、細やかに前坪の位置調整をし、前後方向による個人差、左右方向による個人差、及び足指長さや太さにおける個人差や成長変化に応じ、細やかに前坪を前坪取付孔に取り付け、各個人の趾股に最適な位置に前坪を取り付けることを可能としたものである。
(イ) 甲2の記載に関する本件審決の認定は、前記第2の3(1)イのとおり、「靴中底に、突起具3を取り付けるための差し込み穴2が前後左右に平面的に広がって複数設けられていることが理解できる」という抽象的なレベルにとどまっており、甲2の記載事項として、「趾股が位置する周囲の領域における幅方向に差し込み穴が複数設けられている」というような認定はされていない。
また、本件審決は、甲2技術(靴中底に、足の指間等で支える突起具を取り付けるための差し込み穴を前後左右に平面的に広がって複数設けることにより、靴及び足の寸法や形に合わせて使用できる足先靴擦れ疲れ防止具)を認定しているが、そこでも、「趾股が位置する周囲の領域における幅方向に差し込み穴が複数設けられている」との認定はされていない。
本件審決のその他の箇所でも、「趾股が位置する周囲の領域における幅方向に差 し込み穴が複数設けられている」との認定は一切されていない。
(ウ) したがって、甲2を引用発明に適用したとしても、本願発明には到達し得ないことが明らかである。
イ 甲2に示される左右方向の穴が個人差に対応するための穴でないこと 本件審決は、引用発明と甲2技術とが、個人差に応じて突起具の位置調整を行うという共通の課題を有するものであると認定したが、甲2に示される複数の差し込み穴2は、趾股の位置の個人差に対応するための穴ではない。甲2の記載中、差し込み穴2が左右方向に複数設けられていることを示す唯一の根拠は、次の第2図であるところ、次のとおり、甲2の記載を総合的に見ると、甲2に記載されている左右方向の複数の差し込み穴が、足のサイズや形状の個人差(足の長さ・幅や足指の長さ・太さの違い)や個人の足の成長に対応するために設けられたものでないことは明らかである。
(ア) 第2図の記載内容 第2図では、前後方向に4列、左右方向に4列の差し込み穴が設けられた図が開示されているが、左右方向の差し込み穴の数は、人の足の趾股の数に対応した4列となっている。
また、第2図における左右方向の4列の差し込み穴は、それぞれの間隔が広くとられており、次の参考図のように、人の足の4つの趾股に対応した位置に、4列の差し込み穴が設けられていると解するのが合理的である。
(第2図の差し込み穴と足の位置関係を示す参考図) 第2図における、このような差し込み穴の配置に鑑みると、第2図における左右方向の4列の穴は、足の5本指の間の4つの趾股に対応しているものであると考えざるを得ず、このような4列の穴が、着用者の足の寸法の個人差(足幅や指の大きさの個人差)に対応して、左右方向の位置調整をするために設けられたものでないことは明らかである。
(イ) 甲2の明細書中の「指間等」との文言の意義 甲2の実用新案登録請求の範囲は、
「足の指間等で支える突起具を、靴中底に設置する足先靴づれ疲れ防止具」という内容であり、明細書の「課題を解決するための手段」の項にも「靴中底に、足の指間等で支える突起具を設置する。」との記載があり、
「作用」の項にも「突起具が、足の指間等に止まり込む状態になり」との記載があるほか、明細書のその他の箇所でも、
「指間等」との表現が繰り返し使用されているところ、次のとおり、甲2の記載内容を総合的に見ると、
「指間等」との語は、
「5本指の間の4つの指間」を意味する語として使用されていると解釈するほかない。
a 甲2では、上記のとおり、
「足の指間等で支える突起具」「突起具が、足の指 、
間等に止まり込む」との表現が使用されているが、突起具を「支える」ことができ、
突起具が「止まり込む」ことが可能な足の部位は、「指間」以外には考えられない。
また、甲2の明細書の「作用」の項には、
「突起具が、足の指間等に止まり込む状態になり、足先が前方に行き過ぎる事を防ぎ、靴と足先の摩擦を減少させ、足先靴づれ疲れ防止となる。」との記載があるが、突起具を支え、止まり込む状態にすることで、「足先が前方に行き過ぎる事」を防ぐ作用を発揮し得る足の部位は、「指間」 以外にはあり得ない。
そのため、甲2の明細書において、
「指間」以外の箇所で突起具が止まり込むことを想定し、「等」との語が使用されていたとは考えられない。
b 甲2の「考案の効果」の項には、
「突起の位置を指間等にしたため、使用する際寸法的に差し支えることはない。」との記載があるが、この記載も、「指間等」との語が「5本指の間の4つの指間」を意味すると解釈しない限り、意味をなさない。
上記の記載は、
「突起の位置を指間等」にすると、どのような理由で「使用する際寸法的に差し支えることはない」との効果が生じるのか理解しにくいものであるが、
「指間等」との語が「5本指の間の4つの指間」を意味すると解釈すれば、4つの指間に対応した差し込み穴のいずれかのうち、着用者の足の寸法に合う穴に突起具を設けることで、
「使用する際寸法的に差し支えることはない」との効果が生じることを意図した記載であると解釈できる。
c 「広辞苑 第六版」によると、「等」(トウ、ナド)との語は、「複数を表し、
また、同類の他を省略するのに用いる語」 (甲6)であるところ、以上の甲2の記載内容を総合的に考慮すると、甲2における「指間等」との語は、「複数の指間」、すなわち「5本指の間の4つの指間」との意味合いで使用されているとしか解釈し得ず、そのように解釈すれば、甲2の第2図とも整合的に解釈できる。
(ウ) 甲2の明細書中の「数箇所」との文言の意義 甲2の「考案の効果」の項には、
「差し込み穴を数箇所設けたため、突起具の位置を自由に移動させることができ、靴及び足の寸法や形に合わせて使用できる。 との 」記載があるが、次のとおり、ここで使用されている「数箇所」の差し込み穴とは、
前後方向の穴を表しており、当該記載は、前後方向の寸法の調整のみを想定したものであるといえる。
a 「数箇所」と同様の意味で「数」との文字が使用されている「数人」との語の意義に関しては、
「デジタル大辞泉」に「2、3か5、6ぐらいの人数」との意味が掲載されているが(甲7)「数箇所」との語も、これと同様に「2、3か5、6 、
ぐらいの箇所」を意味しており、10以上の差し込み穴を「数箇所」と表現することはない。そのため、甲2の第2図における前後方向4列、左右方向4列で計16個の穴を「数箇所」と表現していると解釈するのは余りに不自然であり、前記の甲2の「差し込み穴を数箇所設けた」との表現は、前後方向の4列の差し込み穴を説明している記載であると解するほかない。
b 甲2の明細書の「作用」の項に、
「突起具が、足の指間等に止まり込む状態になり、足先が前方に行き過ぎる事を防ぎ、靴と足先の摩擦を減少させ、足先靴づれ疲れ防止となる。」との記載があることからも分かるとおり、甲2の考案は「足先が前方に行き過ぎる事」を主眼においた考案であり、前後方向での足の移動や寸法差のみが考慮された考案であると解される。そうすると、
「作用」の項に続く「考案の効果」の項で述べられている「突起具の位置を自由に移動させることができ」との記載に関しても、足の寸法の個人差に応じて、前後方向に突起具を移動させることのみを想定した記載であると解釈できる。
c 「数箇所」との語が、前後方向の各4列の差し込み穴を意味しているとの解釈は、前記(イ)の「指間等」との語の解釈や、甲2の第2図及び第1図とも整合するものである。
(エ) 以上の点を総合して考えると、甲2には、足の5本指の間の4つの趾股に対応する左右方向4列の差し込み穴が設けられた構成のみが開示されているといえ、
甲2における左右方向に設けられた複数の差し込み穴が、「靴及び足の寸法や形に合わせて使用できる」ようにするために設けられたものではないことは明らかである。
(2) 引用発明に甲2の記載事項を適用しても相違点2に到達しないこと ア 本件審決が認定した相違点2を容易想到とするための副引用発明については、趾股が位置する周囲の領域における左右方向に前坪取付孔が複数設けられているものであることが必須になるはずであるが、前記(1)のとおり、甲2には、趾股が位置する周囲の領域における左右方向に前坪取付孔が複数設けられている構成が何 ら開示されていないだけでなく、本願発明が課題としている「個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い」や、
「成長による変化」に対応して、足の幅方向に位置調整をするとの技術思想も開示されていない。
イ 本件審決では、この点を曖昧に記載し、前後左右に平面的に広がって複数の穴を設けた甲2の構成を引用発明に適用すると本願発明に到達するかのような認定をしているが、甲2の左右方向の差し込み穴の列は、前記(1)イ(ア)のとおり、足の5本指の間の4つの趾股に対応しているものにすぎないから、引用発明に甲2の記載事項を適用しても、相違点2の構成に到達することはできない。
ウ したがって、本願発明が甲1及び2から容易に想到できたなどといえないことは、明らかである。
なお、甲2に記載の差し込み穴は、貫通孔ではなく窪み状のものにすぎないため、
引用発明に甲2に記載の差し込み穴を適用しても、本願発明に到達することはない。
引用発明に甲2の記載事項を適用しても相違点2の構成に到達し得ないことは、このような点からみても明らかである。
(3) 被告の主張について ア 本願発明と引用発明の相違点の構成を埋める甲2に記載の発明の具体的な技術的思想の内容に関しては、被告の側で明確な主張・立証を行うことが必須となるが、甲2の記載事項に関する被告の主張は、極めて曖昧なものにとどまっている。
被告は、甲2に「趾股が位置する周囲の領域」に複数の差し込み穴が設けられた構成が開示されていないという点に関し、明確な主張をあえて避けている一方、
「理解するのが自然である」といった極めて曖昧で主観的な主張をするにとどまっている。上記の点に関する具体的主張を被告がしていない以上、甲2に記載の事項の「前後左右に平面的に広がって複数設ける」 「差し込み穴」の配置態様を適用しても、本願発明の「少なくともいずれかの趾股が位置する周囲の領域において、足の長さ方向及び足の幅方向にそれぞれ複数設けられ」る「前坪取付孔」には到達し得ないというべきである。
イ(ア) 甲2の考案の課題やその内容、作用等に鑑みると、甲2の考案は、足先が前方に行き過ぎることによる足先靴擦れや足疲れを防止するため、足の指間等に止まり込む突起具を設けた考案であり、前後方向における足の位置関係のみを意識した考案である。したがって、甲2の「従来の技術」の欄の「靴の寸法や形が少しでも合わないと、靴と足先の摩擦で起こる疲れがすぐに出てしまう」との記載についても、「靴の寸法や形」は、前後方向のみを意識したものであり、それゆえ、「考案の効果」の欄における記載に関しても、前後方向のみを意識した記載であると解釈せざるを得ない。
この点、甲3の1・2は、甲2の実用新案の出願日よりも後の文献であり、甲2の出願人が左右方向の趾股の位置に個人差があることを意識していたか否かを考える上での参考にはなり得ない。甲2のどこを見ても、左右方向の寸法や形状の個人差を意識した記載は見当たらない以上、被告の主張には理由がない。
(イ) 甲2の第2図に記載の差し込み穴の位置関係からみても、被告が主張するような理解が「自然」であるといえないことは明らかである。第2図における左右方向の差し込み穴の列は、各列の間隔が広くとられており、4列の差し込み穴が靴中底全体の横幅の2分の1程度を占めているから、人の足の4つの趾股に対応した位置に、4列の差し込み穴が設けられていると解するのが「自然」である。仮に、第2図に設けられた幅方向の複数の差し込み穴が、1つの趾股が位置する周囲の領域に設けられたものであると解釈すると、足のサイズと靴中底の外周の大きさのバランス上、第2図に表された靴中底に足を入れることは到底できなくなるのであって、
上記解釈は、第2図の解釈として余りに不自然である。
(ウ) 甲2の「考案の詳細な説明」の実施例の項には、足の大きさや形状の個人差に合わせた調整は、補助カバーの選択により行うことが記載されているから、甲2の考案において、前後方向及び左右方向の差し込み穴を、
「趾股が位置する周囲の領域」に複数設けて、足の大きさや形状の個人差に対応できるようにする必要性はなく、甲2における前後方向及び左右方向の差し込み穴が「趾股が位置する周囲の領 域」に存在しているということはできない。
(エ) 甲2の第1図及び第2図は、非常に大雑把で、非現実的な図面であり、また、
これら2つの図面は整合していないものであるから、これらの図面の記載から、被告が主張するような、「突起具の位置を足の寸法や形に合わせて自由に移動させるために、近接した所に複数の差し込み穴を設ける構成」を読み取ることはできない。
また、仮に、第1図及び第2図における補助カバーを根拠に、差し込み穴の距離を読み取ることを許容するとしても、第1図及び第2図から、被告が主張するような「近接した所に複数の差し込み穴を設ける構成」を読み取ることはできない。第1図において、山型の補助カバー4の底面(靴底板と接する面)は、突起具及び補助カバーを倒れにくくするために、広い領域にわたっていると考えるのが合理的であり、補助カバー4の下に3つの差し込み穴2が位置しているからといって、差し込み穴の間の距離が近接しているということはできない。
2 取消理由2(引用発明に甲2の記載事項を適用する動機付けがないこと) 引用発明への甲2技術の適用についての本件審決の認定は、引用発明において設けられている複数の挿通開口が、趾股の位置の個人差に応じて前坪の位置調整を行うために設けられたものであり、引用発明が「趾股の位置の個人差に応じて前坪の位置調整を行うという課題」を有する発明であるとの誤った認識に基づくものであって、その前提において誤りがある。
出願に係る発明が先行技術から容易に想到できたか否かを考える上では、当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠であるところ、本願発明並びに甲1及び2に記載の発明の課題を踏まえて考えた場合に、引用発明に甲2の事項を適用して本願発明に到達することができないことは、次のとおり、明らかである。
(1) 本願発明の課題及び技術的意義 本願明細書の【0006】及び【0007】には、本願発明が、甲1(特許文献1)の発明では解決し得なかった3つの問題点、すなわち、@各人の足の悩みや障 害に合わせることが困難であるという問題、A各人の成長に合わせた足の長さや足の幅に合わせた最適な位置に前坪を設けることが困難という問題及びB足の障害を持つ人たちは、足の成長に伴い、趾股の位置が前後方向に移動するだけでなく左右にも移動することがあるため、最適な趾股の位置に前坪を設けることが困難であるという問題を解決し、
「できるだけ多くの人の足の悩みや、個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い、又は成長による変化に対応する位置に前坪を取り付けることができる足裏マット、中敷き、及び靴を実現すること」を課題とする発明であることが明示されている。
本願明細書におけるこのような記載に鑑みると、本願発明は、足の前後方向の前坪の位置の調整しかできなかった引用発明の技術的な問題点を解決するために、趾股が位置する周囲の領域における左右方向にも前坪取付孔を複数設けた点に技術的意義がある発明であるといえる。
なお、上記Aの問題に関連した効果に関し、本願明細書の【0010】には、
「子供は成長が速く、足に合わせて購入した靴がすぐに履けなくなってしまうとの声がある。これに対して、1、2年先を予想した大き目の靴を購入し、この靴に合わせた中敷きを収容して前坪の位置を子供の足の成長に合わせて少しずつ先端側に移動させることで長い期間、購入した靴を履き続けることができる。」との記載があるが、本来の足のサイズからすると、大きな靴をあえて購入し、足の成長後も引き続き、着用するというような発想は従来の靴の業界では存在しなかった極めて斬新な発想であるといえる。
(2) 引用発明に係る課題に関する認定の不当性 本件審決は、甲1の【0012】【0019】及び【0052】の記載を根拠に、

引用発明における前坪の位置調整は、前後方向における趾股の位置の個人差の調整も意識されたものであると理解されることから、引用発明には、趾股の位置の個人差に応じて前坪の位置調整を行うという課題もあることは明らかである旨の認定をしたが、そのような認定は、引用発明において複数の挿通開口が設けられることの 技術的意義を誤解したものといわざるを得ない。甲1に接した当業者において、引用発明を基にした改良によって本願発明に到達することは不可能である。具体的には、次のとおりである。
ア 甲1記載の発明において前坪の位置調整をする場面 甲1には、前坪の位置を挿通スリットで調整する構成と、挿通開口で調整する構成(このうち、後者の構成が「引用発明」と認定されたものである。)が開示されているが、これらの発明において、前坪の位置を調整する場面としては、@使用者が靴又は中敷きを購入した際に、使用者の趾股の位置(足のサイズ)の個人差に合わせて前坪の位置を初期設定する場面(以下、かぎ括弧を付したものとして「個人差に合わせた初期設定」ということがある。)と、A下りの階段や坂道のようにつま先への負荷がかかる際に前坪の位置を後方に移動させる場面(以下、かぎ括弧を付したものとして「使用用途に応じた位置調整」ということがある。)の2つが想定されている。
この点、甲1の【0019】の記載は、
「個人差に合わせた初期設定」に関するものである。
他方、同【0021】の記載及びそれをより具体化した同【0051】の記載は、
「使用用途に応じた位置調整」に関するものであるところ、同【0051】で述べられている前坪位置の移動の理由は、下り坂等において足指先が靴の足指側先端部内面に当接しないように、より後方の位置に前坪を移動するというものであって、
「使用用途に応じた位置調整」の場面における前坪の位置の調整においては、足の左右方向への前坪の移動を行うことは全く想定されていない。
イ 引用発明の複数の挿通開口が「個人差に合わせた初期設定」のためのものではないこと 甲1の【0052】〜【0056】には、
「個人差に合わせた初期設定」における前坪の位置の設定方法が記載されているところ、それらの内容を見ると、次のとおり、引用発明において設けられた複数の挿通開口が、そのような「個人差に合わせ た初期設定」のためのものではないことは、明らかである。
(ア) 甲1の【0052】【0053】には、
、 「挿通スリット」を設けた場合の「前坪14の位置を設定する具体的な方法」に関し、
「人は左右の足でその長さが異なっている。したがって、各人の左右の長さを測定して前坪14の位置を設定する。図11(a)は右足の足の裏を示し、
(b)は左足の足の裏を示している。踵の後端部から足指の第1祉と第2祉とのつけ根までの長さALを測定する。この長さALは右足の場合はRALとし、左足の場合はLALとする。、
」「そして、図3に示す中敷き本体4の踵側端部から中敷き本体4の足指側前部6における前坪14の後端部までの長さMLをML=RALとなるように、挿通スリット24を利用して右足用の前坪14の位置を設定し、また、ML=LALとなるように、挿通スリット24を利用して左足用の前坪14の位置を設定する。 との記載があり、
」 使用者の足を個別に測定した上で、前後方向の挿通スリット上で前坪を移動させ、前坪の位置を決める方法が開示されている。この方法により、前坪の位置を設定する場合、挿通スリットは、趾股の位置の個人差に対応して、前坪を移動させるために使用される。
(イ) これに対し、
「挿通スリット」を「挿通開口」に変更した場合の挿通開口の位置の設定に関しては、甲1の【0055】に、
「挿通スリット24を中敷き本体4に設けず、上述した長さRAL、LAL、又はALの位置に、前坪位置調整部として挿通開口を設けて前坪14を取り付けてもよい。 との記載があり、
」 個人の足のサイズや形状に合わせて最も適切な位置に挿通開口を「設け」 個別に設けた挿通開口に 、
前坪を取り付ける方法が開示されている。
ここでいう「長さRAL」は使用者の右足の踵の後端部から足指の第1祉と第2祉とのつけ根までの長さ、
「LAL」は、使用者の左足の踵の後端部から足指の第1祉と第2祉とのつけ根までの長さ、
「AL」は、使用者の足(左右いずれの足かを特定しない)の踵の後端部から足指の第1祉と第2祉とのつけ根までの長さを意味しているが、いずれの長さも、使用者の個人の足における後端部から足指の第1祉と第2祉とのつけ根までの長さを個別に測定した結果に基づくものである。
上記の甲1の【0055】の記載からすると、引用発明の「挿通開口」は、同【0052】及び【0053】に記載の「挿通スリット」のようにあらかじめ設けられ、
その上で、前坪を移動させるものではなく、個人の足のサイズや形状に応じて個別に設けられる(個別に穴を開ける)ものであることが分かる。
そうすると、「挿通スリット」に代えて、「挿通開口」を設けた引用発明の構成においては、趾股の位置の個人差に合わせて、前後方向に複数の穴を設けることは想定されておらず、ましてや、最適な場所に開けた挿通開口の左右の位置に別の穴を設ける必要性は皆無である。
なお、同【0019】には、
「個人差に合わせた初期設定」の場面における前坪の位置調整の技術的意義に関する記載の後に、
「前坪位置調整部は、挿通スリット又は挿通開口(孔)で構成することができる。」との記載があるが、そこでは「複数の挿通開口」との文言は使用されていない。また、前記の同【0055】の記載内容に鑑みると、
「挿通スリット」に代えて「挿通開口」を設けた引用発明の構成における前坪の位置調整は、個人の足のサイズや形状に合わせた最適な位置に、個別に挿通開口を開けることによって調整されるものであるから、同【0019】の上記記載を考慮しても、引用発明における複数の挿通開口が、「個人差に合わせた初期設定」のために使用されるものであるといえないことは明らかである。
ウ 引用発明の複数の挿通開口が「使用用途に応じた位置調整」のためのものであること 甲1の【0058】には、
「前坪位置調整部として複数の挿通開口を中敷き本体4に設けて、前坪14の取付け位置を調整可能にしてもよい」との記載があり、複数の挿通開口を設けて、前坪の位置調整ができる旨が記載されているが、そこで述べられている複数の挿通開口による前坪の位置調整は、「使用用途に応じた位置調整」の場面を意図したものである。引用発明において、
「複数の挿通開口」を設けて、前坪の位置調整を可能とする理由は、同【0021】及び【0051】に記載されている、
「使用用途に応じた位置調整」の場面に係る下り坂等の場合の前坪位置の調整 のためであり、「個人差に合わせた初期設定」のためではない。
そして、同【0051】に記載の目的を達成するための前坪の「使用用途に応じた位置調整」は、前記のとおり、後方への移動のみを想定したものであって、下り坂等で着用する際に前坪の位置を左右に移動させる必要性は皆無である。
なお、甲1の図1には挿通スリットが設けられた構成が開示されているが、挿通スリットにより前坪の位置を調整する構成においては、足の左右方向の位置調整をすることは構造上不可能であり、
「個人差に合わせた初期設定」及び「使用用途に応じた位置調整」のいずれの場面においても、左右方向の前坪の移動が何ら想定されていないことが分かる。
エ まとめ 以上のとおり、引用発明における前後方向の複数の挿通開口は、下り坂等の場合の前坪の「使用用途に応じた位置調整」のために設けられたものであり、趾股の位置の「個人差に合わせた初期設定」のために設けられたものでないことが明らかである。そのため、引用発明は、
「趾股の位置の個人差に応じて前坪の位置調整を行うという課題」を有する発明ではなく、甲1に接した当業者が、引用発明に、趾股の位置の個人差に応じて前坪の左右方向の位置調整を行うとの課題があると認識することはあり得ない。
したがって、甲1に接した当業者が、引用発明を出発点として改良を行い、引用発明において設けられている挿通開口(孔)を、趾股が位置する周囲の領域における左右方向にも設ける構成を着想するとは考えられない。
(3) 甲2について 甲2に記載の発明においても、趾股の位置の個人差に応じて前坪の左右方向の位置調整を行うとの課題は存在せず、前記のとおり、趾股の位置の個人差に応じて前坪の左右方向の位置調整を行うための構成も開示されていない。
また、甲2の発明における差し込み穴は、靴の製造工程において靴底板に設けられるものであり、甲2の発明は、使用者が自己のサイズに合った靴を履くことが当 然の前提になった発明であるため、足の成長に合わせて差し込み穴の位置を調整するとの発想も存在しない。
さらに、前記のとおり、甲2の幅方向の差し込み穴の列は、足の5本指の間の4つの趾股に対応しているものにすぎないから、趾股の位置の個人差に対応した左右方向の位置の調整のために使用されるものではない。
したがって、甲2に接した当業者が、甲2に記載の発明に、趾股の位置の個人差に応じて前坪の左右方向の位置調整を行うとの課題やそのための構成が開示されていると認識するとはいえないため、そのような点からみても、引用発明に甲2の記載事項を適用して本願発明の構成を着想できるとは到底考えられない。
(4) 足のサイズの個人差に関する文献(甲3の1・2)の内容 本件審決が甲3の1・2を指摘して認定するように、仮に、趾股の位置に関し、
左右方向にも個人差があることが技術常識であったとしても、左右方向の個人差に対応して、左右方向に複数の前坪取付け位置を設定する発明が公知でない以上、上記技術常識は、本願発明の容易想到性を基礎付ける事情とはなり得ない。
また、前記のとおり、引用発明における前後方向の複数の挿通開口は、下り坂等の場合の前坪の「使用用途に応じた位置調整」のためであり、そもそも趾股の位置の個人差に対応するものではないため、引用発明に関し、
「趾股の位置の個人差に応じて前坪の位置調整を行うという課題」など存在しない。甲1に記載の発明においては、挿通スリットや挿通開口(孔)の位置を足の左右方向に変化させることは何ら想定されていない。
したがって、仮に、趾股の位置に関し、左右方向にも個人差があることが技術常識であったとしても、引用発明に接した当業者が、使用者の足の指の幅や趾股の位置の個人差に対応するため、左右方向に複数の挿通開口を設ける技術を想到できたとは考えられない。
(5) 被告の主張について ア 被告の主張は、甲1に記載されている発明全体(実施例1に記載の挿通スリ ットが設けられた発明を含む。 と、
) 甲1に記載の引用発明(挿通スリットに代えて、
足の長さ方向の複数の挿通開口が設けられた発明)とをあえてひとまとめに論じ、
前者の発明の課題を後者の発明の課題に置き換えようとするものであり、その前提において誤りがある。
イ 甲1に記載の発明の主たる実施例である挿通スリットが設けられた発明においても、左右方向の位置調整は全く考慮されていないばかりか、むしろ、左右方向の位置調整は行わないことが前提となっている。
甲1の【0012】【0019】【0049】【0050】及び【0052】の 、 、 、
各記載に鑑みると、甲1に記載の発明(挿通スリットが設けられた発明を含む。)における前坪の位置調整が、前後方向における趾股の位置の個人差の調整のみを意識したものであることは明らかで、左右方向における位置調整を行うことは全く想定されていない。
また、甲1に記載の発明においては、本願発明とは異なり、足指の第1趾と第2趾の間にのみ前坪を設けることが前提になっているところ、第1趾の第2趾の間の趾股の位置のみに関していえば、挿通スリットや挿通開口をあえて複雑な構造にしてまで、左右方向の位置移動を可能にする必要性は乏しく、当業者がそのような課題の存在を認識するともいえない。
したがって、甲1に記載の発明全体に関しても、
「足の幅方向における趾股位置の個人差に応じた調整」が課題であったとはいえない。
ウ 引用発明について、仮に、被告が主張するように、
「複数の挿通開口」が足の長さの個人差に対応するためのものであるとすると、
「複数の挿通開口」を事前に靴底に設けておき、使用者の足の長さに応じて、その中のいずれかの穴を選択し、前坪を設置する方法が採用されることになるが、甲1に、このような設置方法を示唆するような記載は一切存在しない。甲1において、「挿通スリット」に代えて、「挿通開口」を設ける場合の前坪位置の設定方法に関しては、
【0055】の記載があるのみであるが、そこにおける記載から考えると、「挿通開口」は、「挿通スリット」 のようにあらかじめ設けられているものではなく、個人の足のサイズや形状に応じて個別に設けられる(個別に穴を開ける)ものであることが分かる。
また、同【0058】に記載の「前坪位置調整部として複数の挿通開口を中敷き本体4に設けて、前坪14の取付け位置を調整可能」にする構成に関しては、何ら具体的な説明がされていないが、個人の足のサイズに合わせて個別に開けられる「挿通開口」をあえて複数設ける意図は、下り坂等の場合の前坪の「使用用途に応じた位置調整」のためであるとしか考えられない。 引用発明においては、 【0055】 同の記載のように個人の足のサイズを測定して最も適切な位置に1つ目の挿通開口を設けている以上、2つ目、3つ目の挿通開口を設ける意図は、前坪を適宜ずらすためであると考えざるを得ず、このようにして設けられた2つ目、3つ目の挿通開口が「前坪を個人差に合わせて移動させて使用されるもの」であるということはできない。
3 取消理由3(阻害要因に関する本件審決の認定の不当性) (1) 阻害要因1に関する認定の不当性 ア 甲1の【0055】の「挿通スリット24を中敷き本体4に設けず、上述した長さRAL、LAL、又はALの位置に、前坪位置調整部として挿通開口を設けて前坪14を取り付けてもよい。」との記載を見ると、引用発明における挿通開口が、個人の足のサイズや形状を測定した上で開けられるものであることは明らかであり、引用発明の挿通開口がオーダーメード的なものであることが分かる。
また、前記のとおり、引用発明において複数の挿通開口を設ける目的は、下り坂等の場合の前坪位置の調整のためであり(同【0051】、趾股の位置の個人差に )応じて調整可能とするために設けられるものではない。
したがって、原告の阻害要因1の主張に対する本件審決の認定は、甲1の記載内容の解釈を誤ったもので失当であり、阻害要因1がある。
イ 本件審決が認定するように、前後方向だけでなく左右方向にも個人差があることが技術常識であるのであれば、足の形状や大きさの個人差に十分に対応するた めには、挿通開口を左右方向にも設けることが必要になってくるが、引用発明は、
あくまでオーダーメード式の中敷きを意図して創作されたものであったため、左右方向の前坪取付位置の調整は何ら想定していなかった。
前記2(5)ウのとおり、引用発明は、使用者の足を測定し、足指の第1趾と第2趾の間の位置に1つ目の挿通開口を設けた後、それよりも踵寄りの位置に、2つ目以降の挿通開口を開ける発明であり、あらかじめ複数の挿通開口を設けた発明ではない。
仮に、引用発明が個人差に応じて調整可能であるならば、着用者も本願発明と同様に複数以上になるが、そのようになると前坪位置調整部である挿通スリット24又は挿通開口(孔)も複数列必要となる。しかし、甲1の挿通スリット図面 【図1】 ( 、
【図4】、挿通開口(孔)の図面( ) 【図8】)並びに実施例にもそのような記載は全くなく、このことは、引用発明が各人一人に対して測定後にオーダーメード的に中敷き本体に前坪調整部を製造していることを示している。
引用発明において複数の挿通開口を設ける目的は、甲1の【0019】及び【0058】の記載並びに図1及び図10の記載からして、各人の足のサイズに応じてオーダーメード的にあらかじめ前坪14の位置を直線状前後のみ調整可能とすることであり、直線状の位置以外に無用な貫通孔を必要としないものである。
(2) 阻害要因2に関する認定の不当性等 ア 副引用発明について、当業者が出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明することができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから、当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない(知財高裁平成28年(行ケ)第10182号・10184号同30年4月13日判決)ことは、
主引用発明の場合と同様である。
しかし、本件審決は、甲2に記載の発明が、靴底板1に設けられた複数箇所の差し込み穴2に、突起具3を単に挿嵌するものであって、突起具3と一体の補助カバー4は壁状に設けられていることから不安定な保持となるという、阻害要因2に係 る点を一切無視し、差し込み穴を前後左右に平面的に広がって複数設けているという配置の点のみを抽象的に抜き出して、引用発明に適用した。甲2から抽出される発明を上記のように過度に抽象化し、その他の構成の相違点を無視することは、妥当でない。
イ また、甲2に記載の発明は、靴の「中底」 (靴と一体となっており、着脱できない部材)の発明であり、靴と着脱可能な部材である「中敷き」とは技術的に全く異なる部材であるため、そのような点からも、
「中底」に関する甲2に記載の発明を「中敷き」の発明である引用発明に適用することには、阻害要因がある。
甲2の考案の対象である「靴中底」に貫通穴を開けた場合、雨の日に水がしみ込んでしまうなどの問題が生じ、
「靴中底」としての機能を果たせなくなる。そのため、
「靴中底」の考案である甲2の考案において、「貫通孔」ではなく、「差し込み穴」を用いることは技術的に必須である。
そして、引用発明の貫通孔である複数の挿通開口に、甲2に記載の発明の貫通孔でない複数の差し込み穴を適用した場合、当該差し込み穴については、前坪を挿通することができなくなり挿通機能を果たせなくなる。
(3) 阻害要因3の主張に関する認定の不当性 阻害要因3についての本件審決の認定も、甲2から把握される技術思想を過度に抽象化した上で、引用発明に適用する認定であり、誤ったものというほかない。
引用発明の貫通孔である複数の挿通開口に、甲2に記載の発明の貫通孔でない複数の差し込み穴2を適用した場合、当該穴2には、前坪を挿通することができなくなり挿通機能を果たし得なくなることに鑑みると、引用発明に甲2に記載の発明を適用することには、阻害要因3がある。
4 取消理由4(予測できない顕著な効果に関する本件審決の認定の不当性) (1) 前記2(1)のとおり、本願発明は、足の前後方向の前坪の位置の調整しかできなかった引用発明の技術的な問題点を解決し、「できるだけ多くの人の足の悩みや、
個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い、又は成長による変化 に対応する位置に前坪を取付けることができる足裏マット、中敷き、及び靴を実現する」との課題を解決するために(本願明細書の【0006】及び【0007】、
)趾股が位置する周囲の領域における左右方向にも前坪取付孔を複数設けた点に技術的意義がある発明である。
本願発明の効果に関しては、同【0037】に、「本発明の足裏マット、中敷き、
及び靴により、できるだけ多くの人の足の悩みや、個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い、又は成長による変化に対応する位置に前坪を取付けることができる足裏マット、中敷き、及び靴を実現することができる。また、足指筋肉や足底筋肉の増強、土踏まずの形成に効果が期待できる。」との記載があり、同【0010】には、前記2(1)のとおり、極めて斬新な発想についての記載がある。
本来の足のサイズに合わない靴を購入し、着用できるとの効果は、本願発明に特有の顕著な効果であり、当業者が予想できる効果ではない。
甲1及び2に記載の発明を含む従来の靴や靴底、中敷きの発明においては、実際の足のサイズよりも大きな靴を購入し、足の成長に合わせて前坪の位置を調整して履き続けるという発想はそもそも存在せず、その結果、左右方向において足をどの位置に固定するのが適切かとの点に関する検討をすることも一般的であったとはいえないため、本願発明における上記の特有の効果は、当業者が予想できない顕著な効果であるといえる。
以上のとおりであって、本願発明の従来技術に甲1が挙げられていることからも分かるとおり、本願発明の作用効果は、引用発明からは予測できない顕著な効果であり、本件審決の認定は、予測できない顕著な効果の認定の点からみても、不当なものである。
(2) 本願発明は、複数の人が使うことが可能な個人差に対応した「中敷き」の発明であり、足の成長への対応や足の障害を持つ人の使用も可能にすることを課題とした発明であるが、そのような課題を解決できるのは、それぞれの趾股のつけ根の周囲に対して、二次元的に配置した貫通孔と取り外し可能な前坪構造が存在してい ることによる。
子供の成長(本願明細書の【0010】参照)や、社会問題となっている外反母趾に係る問題の解決に加え、全てのスポーツにとって不可欠である足指の力を本願発明の中敷きを利用することで高めることも可能となる。
本願発明は、上記のような様々な問題を克服した画期的な発明であるが、このような技術思想は、引用発明や甲2の記載からは導き出すことはできない。この点、
甲1に記載の発明は、ピンポイントで、一人の人限定で使えるオーダーメード式の中敷きの発明であり、複数の使用者を想定した発明ではないため、個人差に対応できず、挿通開孔を設けるのに手間と時間がかかり、価格が高くなりすぎるという問題もある。また、甲2は、購入した靴の中で、足が滑らないようにするための「靴」の中底の考案にすぎず、個人差の対応に関しては、突起具とセットで使用する補助カバーが必須となった考案であって、補助カバーなしで前坪の位置の微調整が可能な本願発明の一段式取付方法とは全く異なっている。
被告の主張
本件審決の認定及び判断に誤りはなく、引用発明に甲2技術を適用し、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。原告が主張する取消理由は、次のとおり、いずれも理由がない。
1 取消理由1(相違点2の構成が甲2には開示されていないこと)について (1)ア 甲2の記載事項は、突起具が、足の指間等に止まり込む状態になり、足先が前方に行き過ぎることを防ぎ、靴と足先との摩擦を減少させ、足先靴擦れ疲れを防止するために、靴中底に、足の指間等で支える突起具を取り付ける差し込み穴を「数箇所」設け、突起具の位置を足の寸法や形に合わせて自由に移動させることができる構成とすることに技術的意義があるといえ、このような技術的意義に照らすと、甲2の記載事項については、差し込み穴の数ではなく、突起具の位置の移動がポイントであるといえる。
イ 甲2に記載された、
「靴中底に、突起具3を取り付けるための差し込み穴2が 前後左右に平面的に広がって複数設けられている」という構成の作用効果については、前記アの技術的意義や、甲2の「考案の効果」の欄の記載からみて、
「靴及び足の寸法や形に合わせて使用できる」と認定するのが自然である。また、上記構成のうち、
「差し込み穴2が…左右に…広がって複数設けられている」点については、足の左右方向における趾股の位置に個人差があることが技術常識(本件技術常識)であることに照らすと、そのような個人差を調整するために、左右に広がって複数設けられる態様が採用されており、突起具を左右方向に移動することによって、左右方向における「足の寸法や形に合わせて使用できる」と理解するのが自然である。
したがって、甲2には、靴中底に、足の指間等で支える突起具を取り付けるための差し込み穴を前後左右に平面的に広がって複数設けること(差し込み穴が前後方向のみならず、左右方向にも複数設けられていること)により、靴及び足の寸法や形に合わせて使用できる足先靴擦れ疲れ防止具(甲2技術)が記載されていると認められる。
ウ その上で、引用発明の「第1趾と第2趾の間の趾股内に位置する前坪14Aの取付け位置において、中敷き本体4Aの前後方向に複数設けられて」いる「挿通開口」に、甲2技術に係る「前後左右に平面的に広がって複数設ける」 「差し込み穴」の配置態様を適用し、引用発明の「挿通開口」の配置を、
「前後左右方向に平面的に広がっ」た態様とすると、本願発明の「少なくともいずれかの趾股が位置する周囲の領域において、足の長さ方向及び足の幅方向にそれぞれ複数設けられ」る「前坪取付孔」に到達し得る。
(2)ア 原告は、甲2について、左右方向の4列の差し込み穴は、人の足の4つの趾股に対応し、それぞれの間隔が広くとられているといった事項が示されている旨主張する。
しかし、甲2の明細書には、差し込み穴を「数箇所」設けることが記載されるのみで、差し込み穴の具体的な数については記載されていない。まして、幅方向の4列の差し込み穴が人の足の4つの趾股に対応することなど、何ら記載されていない。
甲2の第2図を参酌しても、第2図には、突起具の位置を自由に移動させることができる「数箇所」の構成の具体的態様として、前後方向及び左右方向に並ぶ複数の差し込み穴が示されていることが看取されるところ、差し込み穴の数自体に意味を見いだすことはできない。
イ また、甲2の「突起具が、足の指間等に止まり込む状態になり、足先が前方に行き過ぎる事を防ぎ、靴と足先との摩擦を減少させ、足先靴づれ疲れ防止となる」という記載からすると、甲2に示される「補助カバー4が取り付けられた突起具3」は、足の指間に収まるサイズであると理解されるところ、甲2の第1図の記載内容からは、突起具3、補助カバー4及び差し込み穴2の「位置関係」 (突起具3に取り付けられた補助カバー4の下に、3つの差し込み穴2が位置する態様)が看取され、
足の指間に、3つの差し込み穴が収まるといえる。そして、第1図及び第2図を参酌しても、
「補助カバー4が取り付けられた突起具3」が、前後左右の複数の差し込み穴を覆うような構成が示されていることから、左右方向の4列の差し込み穴のそれぞれの間隔について、足の5本指の間の4つの趾股に対応する程度に広くとられていると理解することもできない。むしろ、前後左右の複数の差し込み穴については、甲2の第2図をみても、突起具の位置を足の寸法や形に合わせて自由に移動させるために、近接した所に複数の差し込み穴を設ける構成であると解し得る。
ウ 本件審決の判断は、「指間等」の解釈に依拠していないから、「指間等」の解釈が、本件審決の結論を左右することはない。
なお、甲2には、「個人差等により」(甲2の2頁11行目)「吸盤や接着剤等」 、
(同頁15行目)との記載もあるところ、前者は「個人差」のみに限定されるものでないことを、後者は「吸盤や接着剤」に限定されるものでないことを示していると理解され、これら両者の記載における「等」は、
「同類の他を省略するのに用いる語」 (甲6)として理解できる。したがって、
「指間等」についても、
「指間」のみに限定されるものでないことを示したにすぎないと理解するのが合理的である。甲2の記載内容全体をみても、
「指間等」が「5本指の間の4つの指間」を意味している と理解することはできない。
エ 甲2の「差し込み穴を数箇所設けたため、突起具の位置を自由に移動させることができ、靴及び足の寸法や形に合わせて使用できる。 との記載や第2図の記載 」内容を参酌しても、また、前記(1)アの技術的意義を踏まえても、甲2に記載された「数箇所」について、差し込み穴の数に2〜3や5〜6個といった上限を設けたことが記載されていると限定的に解するより、
「複数箇所」といった意味の記載であると解するのが合理的である。
(3) したがって、取消理由1は理由がない。
2 取消理由2(引用発明に甲2の記載事項を適用する動機付けがないこと)について (1) 引用発明に甲2技術を適用する動機付けがあること ア 引用発明と甲2技術は、ともに、靴等の履物において使用される足の趾股間に設けた突起具に関する技術であり、個人差に応じて突起具の位置調整を行うという共通の課題を有するもので、また、足指先が靴の先端内面に当接して痛めない、
足に優しい靴を提供するといった共通の課題も有するものといえる。
甲1の記載によると、引用発明については、個人の足に合った寸法の中敷きとし、
靴に収納して履いて下り坂を歩いても中敷きの前坪に趾股が固定されて、足指先が靴の先端内面に当接して痛くなることもなく足に優しい中敷きとするために、前坪を個人の踵から第1趾及び第2趾のつけ根までの長さに応じて位置調整自在に中敷き本体に取り付けた点に技術的意義があるといえる。そして、同じく甲1の記載によると、後記(2)のとおり、引用発明には、趾股の位置の個人差に応じて前坪の位置調整を行うという課題もあるところ、本件技術常識を踏まえると、引用発明に接した当業者が認識できる課題が、前後方向における趾股位置の個人差にとどまらず、
左右方向における趾股位置の個人差に応じた調整にも及ぶことは明らかである。
他方、甲2技術についても、個人差の調整の課題を解決するものであるところ、
突起具を取り付けるための差し込み穴が前後左右に平面的に広がって複数設けられ ていることから、前後方向のみならず、左右方向でも個人差の調整の課題を解決するもの、すなわち、左右方向における趾股位置の個人差の調整の課題を解決するものであることは、明らかである。
したがって、引用発明において、前坪の取付け位置を趾股の位置の個人差に応じて調整可能とするに際し、本件技術常識に鑑み、甲2技術を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 原告は、引用発明の課題についての本件審決の認定が誤りである旨主張するが、甲1の【0012】の「…個人の足の長さによって前坪の位置調整が可能である」との記載、同【0019】の「足の踵から足指の第1趾と第2趾のつけ根までの長さを個人の足に合わせて調整しておけば…」との記載、同【0052】の「人は左右の足でその長さが異なっている…」との記載によると、前坪の位置調整は、
前後方向における趾股の位置の個人差の調整が意識されたものであると理解され、
引用発明に、趾股の位置の個人差に応じて前坪の位置調整を行うという課題があることは明らかである。このことは、甲1の【0020】【0021】の「前記前坪 、
位置調整部によって前記前坪の取付け位置は、…人の右足の長さ及び左足の長さに基づいて右足用の位置及び左足用の位置がそれぞれ調整可能である構成としてもよい。この構成により、個人の足にあった寸法の中敷きとすることができ…る」との記載からも明らかである。
(2) 引用発明に係る課題に関する認定について ア 甲1の【0019】に「前坪位置調整部は、挿通スリット又は挿通開口(孔)で構成することができる。 と記載されるように、
」 「挿通スリット」 「挿通開口 と (孔)」は、
「前坪位置調整部」の具体例として示されたものであり、
「挿通開口(孔) は 」 「挿通スリット」に代わるものである。
そして、同【0020】の記載から、
「前坪位置調整部」は、趾股の位置の個人差を調整するものといえる。
また、同【0058】には、
「また、前坪位置調整部として複数の挿通開口を中敷 き本体4に設けて、前坪14の取付け位置を調整可能にしてもよい。」と記載され、
「複数の挿通開口」も「前坪位置調整部」であると記載されている。
したがって、複数の挿通開口は、趾股の位置の個人差を調整するものであるといえる。
イ 甲1の【0021】の「…個人の足にあった寸法の中敷きとすることができ、
靴に収納して履いて下り坂を歩いても中敷きの前坪に趾股が固定されて、足指先が靴の先端内面に当接して痛くなることもなく足に優しい中敷きとすることができる」との記載を踏まえると、同【0051】に示される「…当該靴を履いたときに、
足指先が靴の足指側先端部内面に当接しない位置に挿通スリット24を利用して前坪14の位置を設定する」ことも、個人の足に合った寸法にするためのものであるといえる。また、同【0019】に示されるものについても、そこにおける記載からして、個人の足に合わせて調整されるものである。同【0051】に示される例も同【0019】に示される例も、ともに、足指先が靴の先端部内面に圧迫されることを防止するために、個人差に合わせて前坪の位置を調整するものであり、この点において、両者に違いはない。
さらに、階段を降りることや坂道を下ることは、靴の通常使用において当然想定されることであり、個人差に合わせて前坪の初期設定をする場面でも想定されることであることを勘案すると、前坪の位置調整をする場面について、
「個人差に合わせた初期設定」と並立する場面として「使用用途に応じた位置調整」を設ける理由はない。前記(1)アで指摘した引用発明の技術的意義からみて、原告が主張するような、前坪の位置調整をする場面に「個人差に合わせた初期設定」と並立する「使用用途に応じた位置調整」があると把握することはできない。
(3) 甲2について 前記のとおり、甲2には、差し込み穴が足の左右方向にも複数設けられていることが示されている。同じく前記のとおり、左右方向の差し込み穴の数が人の足の趾股の数に対応した4列となっているとの原告の主張の前提には誤りがあり、甲2に 記載の事項に、個人差に応じて突起具の位置調整を行うという課題があることや、
その課題を解決するために差し込み穴が前後左右に平面的に広がって複数設けられた構成を有したものであることは、明らかである。
したがって、甲2についての原告の主張は、当を得ないものである。
(4) 足のサイズの個人差に関する文献(甲3の1・2)の内容について 原告は、左右方向の個人差に対応して、左右方向に複数の前坪取り付け位置を設定する発明が公知でない以上、本件技術常識は、本願発明の容易想到性を基礎付ける事情とはなり得ないと主張する。
しかし、例えば、甲3の2の【0023】及び図1には、指鼻緒113の位置の調整のための鼻緒穴(115、115-1、115-2、115-3、115-4)が複数、前後左右に設けられており、左右方向の個人差に対応して、左右方向に複数の前坪取付け位置を設定する点が示唆されており、左右方向の個人差に対応して、
左右方向に複数の前坪取り付け位置を設定する発明は、公知であるといえるから、
原告の上記主張に従うとしても、本件技術常識は、本願発明の容易想到性を基礎付ける事情となり得るものである。
3 取消理由3(阻害要因に関する本件審決の認定の不当性)について (1) 甲1の【0055】においては、前坪位置調整部として、挿通スリットに代えて挿通開口としてもよいことが示されるのみであるところ、同【0012】の記載や同【0058】の記載も勘案すると、複数の挿通開口は、個人差に合わせた初期設定のために事前に形成されたものとも理解され、また、前坪が着脱自在であることから、オーダーメード的なものとして限定して理解することはできない。
(2) また、前記1(1)アの技術的意義に鑑みると、甲2に記載の事項において、貫通孔でない差し込み穴を使用することは、必須とはいえない。
また、靴において、前坪は、足裏が接する面に取り付けられるものであるから、
前坪の取付けの技術においては、前坪の取付けに関係する足裏が接する面が重要であるところ、足裏が接する面を有する点で「中底」と「中敷き」とは共通するもの であるから、「中底」の足裏が接する面に設けられた前坪の技術を、「中敷き」の足裏が接する面に設けられた前坪の技術に適用することについて、阻害要因があるとはいえない。
(3) 以上によると、阻害要因1〜3についての本件審決の判断に誤りはなく、取消理由3は理由がない。
4 取消理由4(予測できない顕著な効果に関する本件審決の認定の不当性) について 「本来の足のサイズに合わない靴を購入し、着用できるとの効果」は、本願発明が、前坪を複数設けられた前坪取付孔に着脱自在に取り付けたことにより得られた効果であるところ、引用発明も、前坪を複数の挿通開口に対して着脱自在に設けた構成を有したものである。
また、甲1の【0019】には「要するに、足の踵から足指の第1趾と第2趾のつけ根までの長さを個人の足に合わせて調整しておけば、足指の第1趾と第2趾のつけ根から靴の先端までの長さは多少長くてもしっかりと足を保持することができるため、前後方向に多少長めの靴でも形状重視で靴を選択することができる」と記載されている。
そうすると、引用発明も、本願発明と同様に、靴の購入後に前坪を着脱し、位置調整ができるものと解され、
「本来の足のサイズに合わない靴を購入し、着用できるとの効果」を奏し得るものである。
したがって、本願発明の効果は、格別顕著なものとはいえず、取消理由4は、理由がない。
当裁判所の判断
1 本願発明について (1) 本願明細書の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある(甲4の1・3・5・8、
甲5の2・7)。なお、本願明細書中の「特許文献1」は、甲1である。
【技術分野】 【0001】 本発明は、個人の足サイズや足の悩みに応えることができる中敷き及び靴に関する。
【背景技術】 【0002】 個人の足サイズや足の悩みに対応した位置に前坪を備えた中敷きを利用して、足指間の趾股が前坪を挟んで歩行することで、モートン病、外反母趾、内反小趾、屈み指、浮指等の障害の悩みを改善できると言われている。例えば、モートン病に対しては第2趾と第3趾との間の趾股又は第3趾と第4趾との間の趾股、外反母趾に対しては第1趾と第2趾との間の趾股、内反小趾に対しては第4趾と第5趾との間の趾股に前坪を設けて歩行することにより改善可能であると言われている。
【0003】 そもそも障害の要因の一つは、窮屈な靴を履くことから起こると言われている。
また、逆に大きいサイズの靴を履くと、靴の中で足が滑り、前後左右に動くことで疲れやすく、足首痛、腰痛、膝痛、肩こり、浮指等の原因となり得る。前坪を備え、
靴の中で足が滑らず、動かないように中敷きを正しく利用することで、足裏全体にまんべんなく圧力がかかるようにでき、足裏、足首、膝、腰、背中等身体の負担が軽減され、疲れ、痛みを軽減できるとされている。
【0004】 特許文献1には、足指先の力を靴底に安定して伝達させることができるとともに、
足指の筋力アップを図ることができ、靴に収容した状態で履きやすい中敷きの構成が記載されている。
先行技術文献】【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特許第6617308号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、特許文献1に記載の中敷きには、前坪が第1趾と第2趾との趾股に限定されるとともに、前坪を移動させる場合も前後方向に限定されているため、
各人の足の悩みや障害に合わせることが困難であるという問題がある。また、各人の成長にあわせた足の長さや足の幅に合わせた最適な位置に前坪を設けることが困難という問題がある。さらに、足の障害を持つ人たちは、足の成長に伴い、趾股の位置が前後方向に移動するだけでなく幅方向にも移動することがあるため、最適な趾股の位置に前坪を設けることが困難であるという問題がある。
【0007】 本発明は、上記問題点を解決して、できるだけ多くの人の足の悩みや、個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い、又は成長による変化に対応する位置に前坪を取付けることができる中敷き及び靴を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】 【0008】 上記課題を解決するため本発明は、足の裏面が位置するシート状の足裏マットと、
前記足裏マットに取り付けられる前坪とを備えた中敷きであって、
前記足裏マットは、少なくとも足の5趾間の各趾股が位置する領域から当該足裏マットにおける足指側先端までの範囲内の領域である先端領域に、前記前坪を取り付けるための貫通孔である前坪取付孔を複数有し、
前記前坪取付孔は、少なくともいずれかの趾股が位置する周囲の領域において、
足の長さ方向及び足の幅方向にそれぞれ複数設けられており、
前記前坪には、雄雌構造の雄部及び雌部の一方が設けられ、前記前坪を着脱自在に取り付けるための取付部材には、前記雄雌構造の前記雄部及び雌部の他方が設け られ、前記前坪と前記取付部材とは、前記いずれかの前記趾股が位置する周囲の領域における複数の前記前坪取付孔のうちの一つを通して前記雄雌構造の前記雄部及び雌部により雄雌結合されることを特徴とする中敷きを提供するものである。
【0009】 この構成により、できるだけ多くの人の足の悩みや、個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い、又は成長による変化に対応する位置に前坪を取付けることができる中敷きを実現することができる。足裏マットとは、当該足裏マットに設けられた任意の前坪取付孔に一又は複数の前坪を取付けて中敷きとするものである。例えば、第3趾と第4趾との間の趾股が位置する領域に前坪を設けた中敷きでは、歩行やジョギングをすることでモートン病の改善が期待でき、第1趾と第2趾との間の趾股が位置する領域に前坪を設けてた(判決注:原文ママ)中敷きでは、歩行することで外反母趾の改善が期待でき、第4趾と第5趾との間の趾股が位置する領域に前坪を設けた中敷きでは、歩行することで内反小趾の改善が期待できる。また、足の第2趾と第3趾との間の趾股が位置する領域に前坪を設けた中敷きでは、筋肉増強を図ることができる。
【0010】 また、子供は成長が速く、足に合わせて購入した靴がすぐに履けなくなってしまうとの声がある。これに対して、1、2年先を予想した大き目の靴を購入し、この靴に合わせた中敷きを収容して前坪の位置を子供の足の成長に合わせて少しずつ先端側に移動させることで長い期間、購入した靴を履き続けることができる。
【0011】 さらに足の小さな大人であっても、デザイン優先の大き目の靴を購入して、購入した靴に合わせた中敷きを収容し、足指先と靴の先端部との間に適度の隙間を設けるように前坪の位置を調整することで、自分自身にあった最適なデザイン優先靴を楽に履くことが可能である。
【0012】 ここで、第1趾と第2趾との間の趾股が位置する領域、第2趾と第3趾との間の趾股が位置する領域、第3趾と第4趾との間の趾股が位置する領域、又は第4趾と第5趾との間の趾股が位置する領域は、単にひとりの人の足における各趾股の位置をいうのではなく、標準的な人の各趾股の位置を含むその周囲の領域をいう。このように、少し広い領域にすることにより、足の長さや幅サイズの違いによる趾股位置の違いに対応することができる。このとき、大人用標準と子供用標準とを分けて各領域を設定してもよい。
【0013】 前坪取付孔とは前坪を取付けることができる貫通孔である。前坪は、柱状部材からなり、前坪取付孔を利用して足裏マットの裏側からボルト又は圧入部材で取付けることができる。そして、この前坪を各趾股に位置させて足指で挟むことで足指及び足裏全体に力が入るようにできる。前坪は、円柱形状であってもよく、また、四角柱形状であってもよく、六角柱形状、三角柱形状、又は楕円柱形状など任意の形状であってよい。
【0014】 上記課題を解決するため本発明は、足の裏面が位置するシート状の足裏マットと、
前記足裏マットに取り付けられる前坪とを備えた中敷きであって、
当該足裏マットは、足裏の踏み付け部から足指側先端までの範囲内の領域である前部領域に、前坪を取り付けるための貫通孔である前坪取付孔を複数有し、
前記前坪取付孔は、少なくともいずれかの趾股が位置する周囲の領域において、
足の長さ方向及び足の幅方向にそれぞれ複数設けられており、
前記前坪には、雄雌構造の雄部及び雌部の一方が設けられ、前記前坪を着脱自在に取り付けるための取付部材には、前記雄雌構造の前記雄部及び雌部の他方が設けられ、前記前坪と前記取付部材とは、前記いずれかの前記趾股が位置する周囲の領域における複数の前記前坪取付孔のうちの一つを通して前記雄雌構造の前記雄部及び雌部により雄雌結合されることを特徴とする中敷きを提供するものである。
【0015】 この構成により、大きいサイズの靴を小さい足の人が履く場合などで、前坪を取付ける場所が、足の踏み付け部が位置する足裏マットにおける場所まで広がることで自由度がさらに向上し、できるだけ多くの人の足の悩みや、個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い、又は成長による変化に対応する中敷きを実現することができる。例えば、外反母趾、内反小趾、浮指、偏平足、ハイアーチ、
足指の背のタコ、巻爪、足裏のタコ等について、前坪を適切な位置に設けることができるため、これらの改善が期待できる。
【0016】 また、足の第1趾〜第5趾の並びは人によって異なることがわかっている。例えば、第1趾が最も長く第2趾〜第5趾にかけて短くなるエジプト型、第2趾が最も長いギリシア型、第1趾〜第5趾の長さがほぼ等しいローマ型、第1趾が飛びぬけて長く第2趾〜第5趾はほぼ同じ長さであるドイツ型、第2趾が最も長く第1趾と第3趾がほぼ同じ長さで続き第4趾、第5趾と短くなるケルト型等が知られている。
つまり、それぞれの足型の特徴によって趾股の位置が異なる(但し、必ずしも上記5趾の位置と趾股の位置とが相関しているとは限らない)ことから、それぞれの足型にあわせた位置に前坪を立てて歩行することが望ましく、複数の前坪取付孔は、
5趾間の各趾股から足裏の踏み付け部までが位置する領域である前部領域に配置されている構成により、前坪を取付ける位置の自由度を向上させることができる。
【発明の効果】 【0037】 本発明の中敷き及び靴により、できるだけ多くの人の足の悩みや、個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い、又は成長による変化に対応する位置に前坪を取付けることができる中敷き及び靴を実現することができる。また、足指筋肉や足底筋肉の増強、土踏まずの形成に効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】 【実施例1】 【0039】 図1を参照して、本発明の中敷きに用いる実施例1における足裏マットを説明する。図1は、本発明の中敷きに用いる実施例1における足裏マットを説明する図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は側面図を示している。
【0040】 実施例1における足裏マット10は、歩行時等(歩行時、ジョギング時、又は登山時等)に足の裏に敷くものであって、後述するように、中敷きに用いることができるが、中敷きの上に載せて利用してもよい。足裏マット10は、合成樹脂からなる平坦なシート状の略足裏形状を有しており、少なくとも足の5趾間の各趾股が位置する場所11〜14から当該足裏マットにおける足指側先端までの範囲内の領域である先端領域21(図1参照)に、前坪を取付けるための前坪取付孔Mを複数有している。前坪取付孔Mの形状は、特に限定されず、丸形、三角形、四角形、六角形、楕円形等の任意の形状であってよい。
【0041】 ここで、5趾間とは、図1(a)において二点鎖線で示すように、足指の第1趾1と第2趾2、第2趾2と第3趾3、第3趾3と第4趾4、及び第4趾4と第5趾5との間をいう。また、趾股とは、足指の第1趾1と第2趾2、第2趾2と第3趾3、第3趾3と第4趾4、及び第4趾4と第5趾5との間の股、すなわち、つけ根をいう。
【0042】 先端領域21における複数の前坪取付孔Mは、足の長さ方向(踵から足指に向かう方向)及び足の幅方向(足の長さ方向と直交する方向)にそれぞれ複数有している。これにより、足の長さ方向における個人差、足の幅方向における個人差、及び足指長さや太さにおける個人差や成長変化に対応した前坪取付孔Mに前坪を取り付けることで中敷きとすることができる。
【0043】 ここで、前坪とは、例えば、図8の前坪88に示すように、11mmφ×20mmの円柱状の柱状部材からなり、内部に雌ねじ(雌部)が切ってあり、前坪取付孔を利用して足裏マット10の裏側からボルト89又は圧入部材(取付部材)で取付けることができる。前坪88を各趾股に位置させて足指で挟むことで足指に力が入るようにできる。例えば、前坪88を第1趾1と第2趾2との間の領域11に取付けて第1趾1と第2趾2とで挟むことで、外反母趾の人が楽に歩行することができ、
前坪88を第4趾4と第5趾5の間の領域14に取付けて第4趾4と第5趾5とで挟むことで、内反小趾の人が楽に歩行することができる。前坪取付孔Mの大きさは3mmφ〜6mmφが好ましく、5mmφ程度が最も好ましい。
【0044】 また、各足指の筋肉増強や踏ん張り力強化のために、前坪88を第2趾2と第3趾3の間の領域12に取付けて第2趾2と第3趾3とで挟んでの歩行、又は前坪88を第3趾3と第4趾4の間の領域13に取付けて第3趾3と第4趾4とで挟んでの歩行は効果が見込める。
【0045】 ここで、実施例1においては、足の5趾間の各趾股が位置する場所11〜14から当該足裏マットにおける足指側先端までの範囲内の領域である先端領域21に複数の前坪取付孔Mを有することとしているが、前坪取付孔Mを必ずしも先端領域21の全面に設けなくてもよく、先端領域21内において、各人が必要である任意の領域に設ければよい。
【0046】 また、前坪は、趾間の各趾股が位置する場所11〜14のすべてに前坪を取付ける必要はなく、各人にとって必要な場所に取付ければよい。逆にすべての趾股が位置する領域における一の前坪取付孔Mに前坪を取付けてもよい。さらにいずれかの趾股が位置する領域において、複数の前坪取付孔Mに前坪を取付けてもよい。
【0047】 このように、好きな位置の前坪取付孔Mに前坪を取付けることができるとともに、
取り外しも自由にできるため、足の成長や足の悩みや障害の有無により、前坪の取付け位置を自由に変更することができる。
【産業上の利用可能性】 【0099】 本発明における中敷き及び靴は、できるだけ多くの人の足の悩みや、個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い、又は成長による変化に対応する中敷き及び靴の分野に広く用いることができる。
【図1】 (2) 本願発明の概要 ア 技術分野 本願発明は、個人の足サイズや足の悩みに応えることができる中敷き及び靴に関する。(本願明細書の【0001】) イ 背景技術 個人の足サイズや足の悩みに対応した位置に前坪を備えた中敷きを利用して、足指間の趾股が前坪を挟んで歩行することで、モートン病、外反母趾等の障害の悩み を改善できると言われている。そもそも障害の要因の一つは、窮屈な靴を履くことから起こると言われており、また、逆に大きいサイズの靴を履くと、靴の中で足が滑り、前後左右に動くことで疲れやすく、足首痛、腰痛等の原因となり得る。前坪を備え、靴の中で足が滑らず、動かないように中敷きを正しく利用することで、足裏全体にまんべんなく圧力がかかるようにでき、足裏、足首、膝、腰、背中等身体の負担が軽減され、疲れ、痛みを軽減できるとされる。この点、甲1には、足指先の力を靴底に安定して伝達させることができるとともに、足指の筋力アップを図ることができ、靴に収容した状態で履きやすい中敷きの構成が記載されている。(同【0002】〜【0005】) ウ 発明が解決しようとする課題 甲1に記載の中敷きには、前坪が第1趾と第2趾との趾股に限定されるとともに、
前坪を移動させる場合も前後方向に限定されているため、@各人の足の悩みや障害に合わせることが困難であるという問題、A各人の成長に合わせた足の長さや足の幅に合わせた最適な位置に前坪を設けることが困難という問題があるほか、B足の障害を持つ人たちにおいては、足の成長に伴い趾股の位置が左右方向に移動することもあるため、最適な趾股の位置に前坪を設けることが困難であるという問題がある。本願発明は、上記問題点を解決して、できるだけ多くの人の足の悩みや、個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い、又は成長による変化に対応する位置に前坪を取り付けることができる中敷き及び靴を実現することを課題とする。(同【0006】及び【0007】) エ 課題を解決するための手段及び発明の効果 本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1の構成により、できるだけ多くの人の足の悩みや、個人差による足の長さ・幅サイズや足指の長さ・太さの違い、又は成長による変化に対応する位置に前坪を取り付けることができる中敷きを実現することができる。また、子供について、1、2年先を予想した大き目の靴を購入し、
この靴に合わせた中敷きを収容して前坪の位置を子供の足の成長に合わせて少しず つ先端側に移動させることで長い期間、購入した靴を履き続けることができる。さらに、足の小さな大人であっても、デザイン優先の大き目の靴を購入して、購入した靴に合わせた中敷きを収容し、足指先と靴の先端部との間に適度の隙間を設けるように前坪の位置を調整することで、自分自身にあった最適なデザイン優先靴を楽に履くことが可能である。(同【0009】〜【0011】 【0099】 、 ) 2 引用発明等 (1) 引用発明について ア 甲1は、発明の名称を「中敷き及びこれを備えた靴」とする発明に係るもので、甲1の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
【技術分野】 【0001】 本発明は、足指先の力を靴底に安定して伝達させることができる中敷き及びこれを備えた靴に関する。
発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ・・・従来の中敷きでは、趾股ブリッジが中敷き本体のスリット部に着脱自在に挿嵌される構成である故に、下り坂やでこぼこ道を歩行する場合などで趾股ブリッジに大きな力が加わると、中敷き本体に対して趾股ブリッジが相対的に移動しやすく、足指先の力を趾股ブリッジ及び中敷き本体を介して靴の爪先底部に確実に伝達することができない。特に、中敷きを靴の内底に収容した状態においては、この趾股ブリッジの足裏ベース部が靴の内底に接触保持され、その甲被カバー部が靴の甲被部内面に接触保持されるので、趾股による趾股ブリッジの保持を充分確実に行うことが難しいという問題がある。
【0006】 また、この趾股ブリッジでは、第1趾と第2趾との間の趾股に趾股ブリッジ部が 位置するが、この趾股ブリッジ部が壁状に設けられているので、第1趾及び第2趾により趾股ブリッジ部をつかむことが難く、従って、第1趾を含む足の指先に力が入り難いという問題がある。
【0007】 さらに、従来の中敷きを靴に収容した状態で履くときに、趾股ブリッジの位置が不安定となるために履きにくく、歩行中も趾股ブリッジを趾股に確実に保持することが困難であるという問題がある。
【0008】 本発明は、上記問題点を解決して、足指先の力を靴底に安定して伝達させることができるとともに、足指の筋力アップを図ることができ、靴に収容した状態で履きやすい中敷き及びこれを備えた靴を提供することを課題とする。
【0012】 また、前記甲側支え部材は、前記前坪と接する部分の中心から足指側先端部までの長さをSLとし、前記前坪と接する部分の中心から踵側端部までの長さをKLとしたときに、SL≦KLの関係となる構成としたことにより、前坪と接する部分から踵側端部までの領域を大きくとることになり、確実に靴の甲被部内面に接触して摩擦により移動することを防ぐことができる。さらに、前坪が中敷き本体に着脱自在に取付けられた構造であるため、個人の足の長さによって前坪の位置調整が可能であるとともに、甲側支え部材の交換が容易である。また、前坪と甲側支え部材とを着脱自在に取付けることがより好ましい。これにより、前坪を起点とした足指側又は踵側への長さを調整することができるとともに、甲側支え部材や前坪及び中敷き本体を容易に交換可能とすることができる。
また、甲側支え部材の足指側先端部は中敷き本体の足指側先端部に当接しないようにしたことで、足指先と靴内面との間に隙間を設けて、足指先が甲側支え部材の内面に当接することを防止して足指の損傷や疲労を避けることができる。
【0013】 そして、靴の内底に中敷きを収容した状態で靴を履くと、足指の第1趾と第2趾との間の趾股に前坪が位置し、歩くときにこの前坪が趾股に作用し、これにより、
歩くときの体重移動が踵から第1趾に向けて直線状に移動するようになり、その結果、足指先の力を靴底に安定して伝えて歩行、走行などを安定させることができる。
また、この歩行、走行状態においては、前坪が第1趾と第2趾との間の趾股に作用し、足指に力を入れるときには第1趾及び第2趾がかかる前坪をつかむようになり、
そのために、足の指先に力が入って踏ん張りがきくようになる。これによっても歩行、走行などが安定するようになり、また足指の筋力アップを図ることができ、足指にとって優れた中敷き及び靴を提供することができる。さらに、足の指先に力が入って歩行、走行することにより姿勢が安定して腰痛や膝痛などを予防することができる。
【0018】 前記中敷き本体の足指側前部には前坪位置調整部が設けられ、前記前坪は当該前坪位置調整部を通して前記中敷き本体に着脱自在に取付けられることにより前記前坪の取付け位置が調整可能とされた構成としてもよい。
【0019】 この構成により、前坪を前坪位置調整部により位置調整自在に取り付けることができ、踵から第1趾及び第2趾のつけ根までの長さに応じて前坪の位置を調整して中敷き本体に取り付けることができる。要するに、足の踵から足指の第1趾と第2趾のつけ根までの長さを個人の足に合わせて調整しておけば、足指の第1趾と第2趾のつけ根から靴の先端までの長さは多少長くてもしっかりと足を保持することができるため、前後方向に多少長めの靴でも形状重視で靴を選択することができる。
また、足指と靴の先端までの間に余裕ができることにより、足指を動かすことが可能となり血行障害を防止することができる。前坪位置調整部は、挿通スリット又は挿通開口(孔)で構成することができる。
【0020】 前記前坪位置調整部によって前記前坪の取付け位置は、前記中敷き本体の足指側前部における前記前坪の後端部から踵側端部までの長さMLが、足の踵後端部から足指の第1趾と第2趾とのつけ根までの長さALと略同一になるように各人の右足の長さ及び左足の長さに基づいて右足用の位置及び左足用の位置がそれぞれ調整可能である構成としてもよい。
【0021】 この構成により、個人の足にあった寸法の中敷きとすることができ、靴に収納して履いて下り坂を歩いても中敷きの前坪に趾股が固定されて、足指先が靴の先端内面に当接して痛くなることもなく足に優しい中敷きとすることができる。
【発明の効果】 【0040】 本発明の中敷き及びこれを備えた靴により、足指先の力を靴底に安定して伝達させることができるとともに、足指の筋力アップを図ることができ、靴に収容した状態で履きやすい中敷き及びこれを備えた靴を提供することができる。
【発明を実施するための形態】 【実施例1】 【0042】 図1〜図8、図11を参照して、本発明に従う中敷きの実施例1について説明する。
【0043】 図1〜図5において、図示の中敷き2は、靴102の底部104の内面(即ち、
内底106) (図7参照)の形状に対応した中敷き本体4を備え、この中敷き本体4の足指側前部6は平らに形成され、その踵側後部8における幅方向中央部10が平らに形成され、その幅方向両側部12が上側に湾曲して延び、かかる両側部12の内側面が外方に向けて上方に傾斜して延びている。従って、この中敷き本体4においては、足108の裏面が中敷き本体4の平らな部分(即ち、足指側前部6及び踵 側後部8の幅方向中央部10)に位置し、中敷き本体4の幅方向両側部12が足108の踵側を両側から包むようになることで靴102に収容可能であるとともに足に対応した形状とされている。
【0044】 なお、実施例1においては、踵側後部8を備えた構成としたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、足指側前部6のみを有した足指側先端からの長さを短くした中敷き本体4としてもよい。
【0045】 中敷き本体4は、例えば柔軟性を有する合成樹脂材料などから形成することができ、その表面を織布などで被うようにしてもよい。また、中敷き本体4として、全体が略平らなものを用いるようにしてもよい。
【0046】 この中敷き2においては、中敷き本体4の足指側前部6に前坪14が取付けられ、
この前坪14の上端部に甲側支え部材16が取付けられている。前坪14の長さは任意であるが、当該中敷きを靴に収容して履いたときに足指を圧迫せず、靴の甲被部112の内面に当接可能な高さとすることが望ましい。図6をも参照して、前坪14は、柔軟性を有する中空スリーブとしての円筒状中空スリーブ18と、この円筒状中空スリーブ18を挿通して配設された一対の芯索20、22とを備え、円筒状中空スリーブ18は、例えば合成樹脂材料から形成することができ、一対の芯索20、22は、例えば布を紐状にしたものなどを用いることができる。尚、一対の芯索20、22を一つにまとめたものを用いるようにしてもよく、またこの円筒状中空スリーブ18を省略するようにしてもよい。
【0048】 実施例1では、円筒状中空スリーブ18の一端(下端、すなわち中敷き本体4側の端部)は、中敷き本体4の足指側前部6の表面に当接するように配設され、その他端(上端、すなわち甲側支え部材16側の端部)は、甲側支え部材16の内面に 当接するように配設され、一対の芯索20、22の一端側を円筒状中空スリーブ18の一端側を通して中敷き本体4に取付けるとともに、それらの他端側を円筒状中空スリーブ18の他端側を通して甲側支え部材16に取付けることにより、中敷き本体4と甲側支え部材16との間に支持される。
【0049】 実施例1では、一対の芯索20、22の一端側は、例えば、中敷き本体4に形成された前坪位置調整部としての挿通スリット24を通してその裏側に突出させ、図4に破線で示すように、それらの一端部を拡げて中敷き本体4の外面に接着剤などで固着することにより、この中敷き本体4に取付けられる。また、一対の芯索20、
22の他端側は、図示していないが、例えば、それらの他端部を拡げて甲側支え部材16の内面に接着剤などで固定することにより、この甲側支え部材16に取付けられる。この挿通スリット24は、中敷き本体4の足指側と踵側とを結ぶ方向に延びており、従って、前坪14はかかる方向に位置調整することができる。
【0050】 実施例1では、中敷き本体4に設けた前坪位置調整部としての挿通スリット24を通して一対の芯索20、22が取り付けられているので、一対の芯索20、22を固定する前の状態では、これら芯索20、22を挿通スリット24に沿って中敷き本体4の前後方向(図7の左右方向)に移動させることができ、このように移動させることにより、中敷き本体4に対する前坪14の取付位置を調整することができる。
【0051】 例えば、階段を降りるときや山道を下るときには、通常、足指先が靴の足指側先端部内面に圧迫されてストレスを受けることがある。これにより、足指先が損傷したり体全体の疲労感につながることがある。そのため、当該靴を履いたときに、足指先が靴の足指側先端部内面に当接しない位置に挿通スリット24を利用して前坪14の位置を設定することができる。
【0052】 前坪14の位置を設定する具体的な方法を説明する。人は左右の足でその長さが異なっている。したがって、各人の左右の長さを測定して前坪14の位置を設定する。図11(a)は右足の足の裏を示し、
(b)は左足の足の裏を示している。踵の後端部から足指の第1祉と第2祉とのつけ根までの長さALを測定する。この長さALは右足の場合はRALとし、左足の場合はLALとする。
【0053】 そして、図3に示す中敷き本体4の踵側端部から中敷き本体4の足指側前部6における前坪14の後端部までの長さMLをML=RALとなるように、挿通スリット24を利用して右足用の前坪14の位置を設定し、また、ML=LALとなるように、挿通スリット24を利用して左足用の前坪14の位置を設定する。
【0054】 なお、右足での長さRAL又は左足での長さLALのいずれかの値、又は平均値などを用いて共通の長さALとして、右足用も左足用もML=ALとなるように、
前坪14の位置を設定してもよい。この場合、中敷き本体4の足指側前部6における前坪14の後端部から踵側端部までの長さMLは、足の踵後端部から足指の第1趾と第2趾とのつけ根までの長さALと略同一となる。
【0055】 なお、実施例1においては、前坪位置調整部としての挿通スリット24を利用して前坪14の位置を設定するようにしたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、挿通スリット24を中敷き本体4に設けず、上述の長さRAL、LAL、又はALの位置に、前坪位置調整部として挿通開口を設けて前坪14を取付けてもよい。
【0056】 つまり、実施例1では、前坪14の円筒状中空スリーブ18の一端(下端)を中敷き本体4の表面に当接させているが、このような構成に代えて、中敷き本体4の 足指側前部6に挿通開口を設け(この場合、スリット24は省略される)、この挿通開口内に円筒状中空スリーブ18の一端部を位置付けて接着剤などにより取付けるとともに、この挿通開口内の円筒状中空スリーブ18の一端側を通して一対の芯索20、22の一端側を中敷き本体4の裏面側に突出させて上述したように取付けるようにしてもよい。
【0058】 また、前坪位置調整部として複数の挿通開口を中敷き本体4に設けて、前坪14の取付け位置を調整可能にしてもよい。
【0059】 さらに、挿通スリット24、又は複数の挿通開口により、前坪14以外に前坪と同様の構造有した別の部材を取付けてもよい。これにより、足指の第1祉と第2祉とで複数の前坪14を掴む力が増し、踏ん張り力が向上する。また、前記別の部材は複数であってもよい。
【0078】 この中敷き4を収容した靴102では、足108の第1趾と第2趾の間の趾股内に前坪14が位置するように靴102を履くようになる。この靴102を履いて歩行(走行)すると、前坪14が第1趾及び第2趾の間の趾股に作用し、これにより、
歩くときの体重移動が踵から第1趾に向けて直線状に移動するようになり、その結果、足指先の力を靴底に伝えて安定的に歩行(走行)することができる。また、この歩行(走行)状態においては、前坪14が第1趾と第2趾との間の趾股に作用するために、地面を蹴る際に踏ん張りがきいて足の指先に力が入り、これによっても歩行(走行)を安定させることができ、また蹴る際の踏ん張りがきくために足指や足裏の筋力増強を図ることができる。その結果、歩行姿勢の改善につながり腰痛や膝痛等を防止することができる。また、前坪14の外形が円筒状(又は三角柱等の多角柱)であるので、第1趾及び第2趾によりつかみやすく、これにより、足の指先に力が入って蹴る際により踏ん張りやすく、足指や足裏の筋力アップを図ること ができる。
【0079】 以上、本発明に従う中敷き及びこれを備えた靴の実施例1について説明したが、
本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0080】 例えば、前坪として図8に示すように構成するようにしてもよい。図8において、
変形形態の前坪14Aは、柱状部材52と、この柱状部材52を被う弾性スリーブとしての例えば円筒状弾性スリーブ54とから構成され、この柱状部材52及び円筒状弾性スリーブ54が中敷き本体4Aと甲側支え部材16Aとの間に配設されている。
【0081】 この変形形態では、柱状部材52の一端側に下雌ねじ孔56が設けられ、取付ねじ58の雄ねじ部60をこの下雌ねじ孔56に螺着することにより、柱状部材52の下端部が中敷き本体4Aに着脱自在に取付けられる。また、この柱状部材52の他端側の上雌ねじ孔62が設けられ、取付ねじ64の雄ねじ部66をこの上雌ねじ孔62に螺着することにより、柱状部材52の上端部が甲側支え部材16Aに着脱自在に取付けられる。
【0082】 このような前坪14Aにおいては、柱状部材52が鉄、ステンレス鋼などの金属材料、硬質の剛性樹脂材料などから形成することができ、このような材料から形成することにより、柱状部材52に剛性及び強度を持たせることができる。また、円筒状弾性スリーブ54としては、柔らかい合成樹脂材料、発泡樹脂材料などから形成することができ、このように構成することによって、足に優しいが第1と第2趾との間の趾股には刺激が強い中敷きを提供することができる。
【図1】【図2】【図3】 【図4】【図5】 【図6】【図7】 【図8】 【図11】 イ 前記アによると、甲1には、前記第2の3(1)アのとおり本件審決が認定した引用発明が記載されていると認められる。
ウ その上で、本願発明と引用発明を対比すると、それらの間には、前記第2の3(2)のように本件審決が認定した一致点並びに相違点1及び2が存在すると認められる(なお、相違点2については、本判決で指摘した誤記が改められた下記のとおりである。。
) (相違点2) 前坪取付孔に関し、本願発明は、
「少なくともいずれかの趾股が位置する周囲の領域において、足の長さ方向及び足の幅方向にそれぞれ複数有する」のに対し、引用発明は、第1趾と第2趾の間の趾股内に位置する前坪14Aの取付け位置において、
中敷き本体4Aの前後方向に複数設けられているものの、足の幅方向に複数有したものとはいえない点。
エ なお、相違点1については、前記第2の3(3)ア(ア)で本件審決が判断したとおり、実質的な相違点ではないといえ、この点については、原告も争っていない。
したがって、本願発明の進歩性の有無は、専ら相違点2についての本願発明の構成が当業者において容易に想到し得たか否かによって決まるというべきである。
(2) 甲2の記載事項について 平成2年6月7日に公開された甲2は、考案の名称を「足先靴づれ疲れ防止具」とする考案に係るもので、甲2の明細書には、次の記載がある。
ア 実用新案登録請求の範囲(甲2の明細書1頁4〜6行目) 足の指間等で支える突起具を、靴中底に設置する足先靴づれ疲れ防止具 イ 産業上の利用分野(同1頁8〜10行目) 本考案は、靴履きの時に足先靴づれ疲れ防止のため靴中底に設置して使用するものである。
ウ 考案が解決しようとする課題(同1頁15〜17行目) 靴と足先との摩擦によって起きる足先靴づれや足疲れを防止しようとするものである。
エ 課題を解決するための手段(同1頁18〜20行目) 靴中底に、足の指間等で支える突起具を設定する。
オ 作用(同2頁1〜5行目) 突起具が、足の指間等に止まり込む状態になり、足先が前方に行き過ぎる事を防ぎ、靴と足先との摩擦を減少させ、足先靴づれ疲れ防止となる。
実施例(同2頁6〜18行目) 実施例について図面を参照して説明する。
第1図〜第2図において、靴底板1に靴製造工程で数箇所の差し込み穴2を設け、靴及び足に合わせて選んだ箇所に、突起具3を取り付け、更にその上に、個人差等により選択して補助カバー4を付ける。
・・・ キ 考案の効果(同2頁19行目〜3頁8行目) 本考案は、上述の通り構成されているので、次に記載する効果を奏する。
指間等で支える突起具を付けたため、足先靴づれ疲れを防止することができる。
差し込み穴を数箇所設けたため、突起具の位置を自由に移動させることができ、
靴及び足の、寸法や形に合わせて使用できる。
突起の位置を指間等にしたため、使用する際寸法的に差し支えることはない。
ク 第1図 ケ 第2図 3 相違点2に係る本願発明の構成の容易想到性について (1) 容易想到性について ア(ア) 甲1の【0005】の「従来の中敷きでは、
・・・下り坂やでこぼこ道を歩 行する場合などで趾股ブリッジに大きな力が加わると、中敷き本体に対して趾股ブリッジが相対的に移動しやすく、足指先の力を趾股ブリッジ及び中敷き本体を介して靴の爪先底部に確実に伝達することができな」かった旨の記載や、同【0007】の「従来の中敷きを靴に収容した状態で履くときに、趾股ブリッジの位置が不安定となるために履きにくく、歩行中も趾股ブリッジを趾股に確実に保持することが困難であるという問題があ」ったという記載を踏まえつつ、同【0008】の「本発明は、上記問題点を解決して、足指先の力を靴底に安定して伝達させることができる・・・中敷き・・・を提供することを課題とする」との記載のほか、同【0040】の「本発明の中敷き・・・により、足指先の力を靴底に安定して伝達させることができる」との記載によると、引用発明を含む甲1に記載の発明は、従来の趾股ブリッジにおける位置が不安定であったという問題点を解決することを目的の一つとするものであるといえる。
(イ) その上で、甲1の【0012】の「前記甲側支え部材は・・・、確実に靴の甲被部内面に接触して摩擦により移動することを防ぐことができる。さらに、前坪が中敷き本体に着脱自在に取付けられた構造であるため、個人の足の長さによって前坪の位置調整が可能である・・・」との記載、同【0018】の「前記中敷き本体の足指側前部には前坪位置調整部が設けられ、前記前坪は当該前坪位置調整部を通して前記中敷き本体に着脱自在に取付けられることにより前記前坪の取付け位置が調整可能とされた構成としてもよい」との記載、同【0019】の「この構成により、前坪を前坪位置調整部により位置調整自在に取り付けることができ、踵から第1趾及び第2趾のつけ根までの長さに応じて前坪の位置を調整して中敷き本体に取り付けることができる。要するに、足の踵から足指の第1趾と第2趾のつけ根までの長さを個人の足に合わせて調整しておけば、足指の第1趾と第2趾のつけ根から靴の先端までの長さは多少長くてもしっかりと足を保持することができる・・・」との記載、同【0050】の「これら芯索20、22を・・・移動させることにより、中敷き本体4に対する前坪14の取付位置を調整することができる」との記載、
同【0051】の「靴を履いたときに、足指先が靴の足指側先端部内面に当接しない位置に挿通スリット24を利用して前坪14の位置を設定することができる」との記載、同【0052】の「人は左右の足でその長さが異なっている。したがって、
各人の左右の長さを測定して前坪14の位置を設定する。 との記載、 【0058】 」 同の「前坪位置調整部として複数の挿通開口を中敷き本体4に設けて、前坪14の取付け位置を調整可能にしてもよい。 との記載からすると、
」 引用発明を含む甲1に記載の発明については、前坪の位置を個人の足に合わせて適切に調節する方法に係るものであって、複数の挿通開口を有する形態である引用発明においても、複数の挿通開口は、前坪の位置を個人の足に合わせて適切に調節するための構成であるといえる。
この点、同【0081】には、変形例についてではあるが、「この変形形態では、
柱状部材52の一端側に下雌ねじ孔56が設けられ、取付ねじ58の雄ねじ部60をこの下雌ねじ孔56に螺着することにより、柱状部材52の下端部が中敷き本体4Aに着脱自在に取付けられる。また、この柱状部材52の他端側の上雌ねじ孔62が設けられ、取付ねじ64の雄ねじ部66をこの上雌ねじ孔62に螺着することにより、柱状部材52の上端部が甲側支え部材16Aに着脱自在に取付けられる。」との記載があり、前記の同【0012】【0018】及び【0019】の記載も考 、
慮すると、着脱自在に取り付けることで、前坪の位置をより柔軟に調節することが可能であることも示されているといえるところである。
(ウ) したがって、甲1に接した当業者において、前坪の位置を個人の足に合わせて適切に調節するという課題を考慮することは、明らかであるといえる。
イ(ア) 前記2(2)によると、甲2には、前記第2の3(1)イのとおり本件審決が認定した、靴中底に、突起具3を取り付けるための差し込み穴2が前後左右に平面的に広がって複数設けられていることが記載されているといえる。
そして、同じく前記2(2)によると、前記第2の3(3)ア(イ)のとおり本件審決が認定した甲2技術(靴中底に、足の指間等で支える突起具を取り付けるための差し込 み穴を前後左右に平面的に広がって複数設けることにより、靴及び足の寸法や形に合わせて使用できる足先靴擦れ疲れ防止具)が記載されていると認められる。
(イ) この点、前記2(2)イ、ウ、オ、キ、ク(第1図)及びケ(第2図)によると、
甲2技術についても、足の指間等で突起具を支えることによって、足先と靴との摩擦が生じなくなるよう、靴及び足の寸法や形に合わせ、突起具を適切な位置に調節するとの技術思想が示されているといえる。
ウ 足指等の形状、長さ、幅などに個人差があることは、公知の事実であって、
趾股の位置について、前後方向だけでなく左右方向にも個人差があることは、技術常識(本件技術常識)であると認められる(甲3の1・2)。
さらに、靴を履いて歩行する際に、靴や足の寸法や形状、進行方向や路面の状況等により、靴の内部で、足が前後方向のみならず、左右方向にも一定の範囲で移動し得ること、その際、移動方向は、前後方向又は左右方向に明確に区別されるものではなく、斜め方向を含めて足が移動することも考え得るところである。
エ 以上によると、甲1に接した当業者において、引用発明について、前記ウの技術常識等を踏まえ、前坪の位置を個人の足に合わせてより適切に調節するため、
突起具を適切な位置に調節するとの技術思想に係る甲2技術を適用して、第1趾と第2趾の間の趾股内に位置する前坪14Aの取付け位置において、中敷き本体4Aの前後方向のみならず、左右方向にも前坪取付孔を複数有する構成とすることは、
容易に想到し得たものというべきである。
(2) 原告の主張について ア 取消理由1について (ア) 原告は、甲2に「趾股が位置する周囲の領域における幅方向に差し込み穴が複数設けられている」ことの記載がないと主張するが、甲2の第2図によると、複数の差し込み穴が趾股が位置する周囲の領域における幅方向に複数設けられていると認めることができる上に、そもそも、前記(1)イのとおり、甲2技術は、靴中底に、
足の指間等で支える突起具を取り付けるための差し込み穴を前後左右に平面的に広 がって複数設けることにより、靴及び足の寸法や形に合わせて使用できる足先靴擦れ疲れ防止具と認定されているものであって、甲2の複数の差し込み穴が「趾股が位置する周囲の領域における幅方向に」ついてのものであるか否かは、前記(1)の認定判断を左右するものではない。
(イ) 原告は、甲2に示される左右方向の穴が個人差に対応するための穴でないと主張するが、甲2技術等については前記(1)イで認定説示したとおりであり、靴及び足の寸法や形に合わせて突起具を適切な位置に調整するものでもあって、原告の上記主張は採用できない上に、前記(1)の認定判断を左右するものでもない。
上記に関し、原告は、甲2の第2図について、人の足の4つの趾股に対応した位置に、4列の差し込み穴が設けられていると解するのが合理的であると主張するが、
当該主張を認めるに足りる事項が甲2に記載されているとはいえない。
「指間等」や「数箇所」の意義についての原告の主張も、前記(1)の認定判断に影響しない。なお、
原告は、甲3の1・2が甲2の実用新案の出願日よりも前の文献であると主張するが、甲3の1・2は、いずれも本願の出願前に公開されたものであって、原告の上記主張は、引用発明に甲2技術を適用しての容易想到性の判断に影響するものではない。
(ウ) 前記(1)の認定判断に反する、引用発明に甲2の記載事項を適用しても相違点2に到達しないとの主張は、採用することができない。
イ 取消理由2について 原告は、引用発明に甲2の記載事項を適用する動機付けがないと主張するが、前記(1)で認定判断したとおりであって、原告の上記主張は、採用することができない。
上記に関し、原告は、甲1について、
「個人差に合わせた初期設定」と「使用用途に応じた位置調整」とを区別するが、中敷きや靴の技術分野において、それらが明確に区別されていると認めるべき技術常識等は認められず、上記区別を前提とした原告の主張は、いずれもその前提を欠くものであって、採用することができない。
取消理由2に関する原告のその余の主張も、前記(1)で認定説示したところに照らし、いずれも採用することができない。
ウ 取消理由3について (ア) 阻害要因1に関する原告の主張は、実質的には、「個人差に合わせた初期設定」と「使用用途に応じた位置調整」の区別をいうものと同趣旨のものであるといえ、前記イで述べたのと同様、採用することができない。
(イ) 前記(1)の認定判断に反する原告の阻害要因2に関する主張は採用することができない。この点、原告は、甲2に記載の発明につき、靴底板1に設けられた複数箇所の差し込み穴2に突起具3を単に挿嵌するものであって、突起具3と一体の補助カバー4は壁状に設けられていることから不安定な保持となる点を無視していると主張するが、前記(1)イのとおり、甲2技術については、足の指間等で突起具を支えることによって、足先と靴との摩擦が生じなくなるよう、靴及び足の寸法や形に合わせて、突起具を適切な位置に調整するとの差し込み穴の配置によって奏される効果の点を見ているものであって、差し込み穴の形状・構造によって奏される効果を見ているものでなく、原告の主張は理由がない。また、原告は、
「中底」と「中敷き」の区別についても主張するが、それらの差異によって前記(1)の認定判断が左右されるとみるべき技術常識等は認められない。
(ウ) 前記(1)の認定判断に反する原告の阻害要因3に関する主張も採用することができない。原告は、引用発明の貫通孔である複数の挿通開口に、甲2に記載の発明の貫通孔でない複数の差し込み穴2を適用した場合、当該穴2には、前坪を挿通することができなくなり挿通機能を果たし得なくなると主張するが、前記3(1)エのとおり、相違点2についての判断は、引用発明の前後方向に複数設けられた前坪取付孔の配置に対して、靴中底に、足の指間等で支える突起具を取り付けるための差し込み穴を前後左右に平面的に広がって複数設けるとの甲2に記載された差し込み穴の配置を適用することであって、引用発明の複数の前坪取付孔を差し込み穴へ置き換えることではないから、原告の主張は理由がない。
エ 取消理由4について 本願発明の効果が予測できない顕著なものであるというべき事情は認められない。この点、原告は、本願発明の効果が引用発明から予測できないものである旨を主張するが、同主張は、引用発明に甲2技術を適用することにより当業者が予測し得る効果を直ちに左右するものではない。なお、原告は、本来の足のサイズに合わない靴を購入し、着用できるとの効果が本願発明に特有の顕著な効果であると主張するが、それは、本願発明の効果をどのような目的で利用するかという事情に係るものであって、本願発明自体の効果ではないというべきである。
4 まとめ 以上によると、原告の主張する取消理由1〜4は、いずれも理由がなく、相違点2は、引用発明に甲2技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものである。
結論
以上の次第で、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 勝又来未子
裁判官 中島朋宏