関連審決 | 無効2002-35156 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10210審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14行ケ294審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10009審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ74審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10057審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 承継 / 製造方法 / 周知技術 / 技術常識 / 明確性 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 実施 / 構成要件 / 請求の範囲 / 変更 / 要旨変更 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
113号
審決取消請求事件
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訴訟引受人(原告承継人) JFEスチール株式会社 訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣、梅澤健 同 弁理士 苫米地正敏 被告 デルグリューネ プンクト デュアレス システム ドイチランド アクチェンゲゼル シャフト 訴訟代理人弁理士 加藤朝道、内田潔人、三宅俊男 原告(脱退) JFEエンジニアリング株式会社 (旧商号 日本鋼管株式会社) |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/03/11 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が無効2002−35156号事件について平成15年3月5日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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訴訟引受人の求めた裁判
主文第1項と同旨の判決。 |
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事案の概要
1 手続の経緯 (1) 被告は、発明の名称を「金属鉱石からの金属の製造プロセス」とする特許第3224394号(本件特許。平成6年12月17日特許出願(PCT)、特願平7-517169号)の特許権者である。 原告は、平成14年4月25日、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし11に係る発明について無効審判の請求をした。特許庁は、これを無効2002-35156号事件として審理し、平成15年3月5日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本を、平成15年3月15日原告に送達した。 (2) 原告は、平成15年3月28日に本件審決に対する審決取消請求訴訟(本訴)を提起したが、同年4月1日を効力発生日として、鉄鋼事業に関する営業をJFEスチール株式会社に会社分割により取得させた。JFEスチール株式会社は、 原告からの訴訟引受申立てに基づき、訴訟引受をし、原告の訴訟上の地位を承継し、原告は訴訟から脱退した。 2 特許請求の範囲【請求項1】金属酸化物を含む鉱石を、炭素および/または炭化水素を含む固体物から前もって得られた、炭素および/または水素(あるいはこれらの化合物)を含む還元性ガスと接触させて反応させる製造プロセスであって、 上記固体物としてプラスチックを粉砕し、流動化した状態で、冶金学的竪型炉の炉風の流れに注入するにあたり、 (a)上記プラスチックが0.35より大きいバルク密度を有する(b)大きな比表面積の塊状粒で、(c)その粒径が、殆ど1から10mmの領域にあり、(d)該塊状粒はプラスチックの粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れが入ることによって大きな比表面積に形成したものであることを特徴とする金属鉱石から金属を、特に鉄鉱石から銑鉄を製造するためのプロセス。 (以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。上記請求項1中の符号(a)〜(d)は、便宜挿入したもの。請求項2ないし11は、いずれも請求項1を引用する形式のものであり、記載を省略する。) 3 審決の理由の要点 審決は、別紙審決理由要旨のとおり、(1)本件明細書の請求項1の記載は、発明の詳細な説明の記載及び当業者の技術常識を参酌すれば、明確であって、請求項1は特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項を記載したものであるから、特許法(平成6年改正前、以下同じ。)36条5項2号に規定する要件を満たしていないとはいえず、請求項1に従属する請求項2ないし11も、同様の理由により、特許法36条5項2号に規定する要件を満たしていないとはいえない(請求人(原告)主張の無効理由1に対する判断)、(2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、不備であるとはいえず、特許法36条4項の規定を満たさないものであるとはいえない(同無効理由2に対する判断)、とした。 |
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訴訟引受人主張の取消事由の要点
請求項1の記載のうち、「該塊状粒はプラスチックの粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れが入ることによって大きな比表面積に形成したものである」の要件(「構成要件(d)」)は、当業者に理解不能であるから、 本件発明を把握することができず、発明の詳細な説明にも構成要件(d)について技術的に理解できるような記載がされていないにもかかわらず、審決は、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に不備はないと誤って判断した(取消事由)結果、本件明細書の記載は特許法36条5項2号及び4項に規定する要件を満たしていないとはいえないとの誤った結論に至ったものであり、違法として取り消されるべきものである。 1 「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより」の解釈の誤り 審決は、「『機械的、熱的ストレスの組み合わせにより』は、被請求人(原告)が認めるとおり、『熱的グラインド』であると解することが合理的である」(別紙審決理由要旨150,151行)と認定するが、誤りである。本件明細書は「熱的グラインド」が粉砕プロセスの中で行われることなど記載していない。 (1) 審決がBとして引用する、発明の詳細な説明の「プラスチックを粉砕(comminution)、熱的グラインド(thermal grinding)した後、プラスチックが、より大きな粒子サイズの塊形状を有するなら大変いい結果が得られる。・・・」、同じくCとして引用する「・・・プラスティックの場合、粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れ目が入る(fissured)ことによって、比表面積が増加された塊形状になり、部分的に粉砕後であっても材料は、優れた反応性を示す。」との記載からは、当業者は「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れ目が入る(fissured)こと」を伴う粉砕プロセスが具体的にいかなる粉砕プロセスを意味するのかを理解することはできない。ところが、審決は、「『粉砕』と『熱的グラインド』との関係は、『粉砕』の具体的な説明が『熱的グラインドであって』」(別紙審決理由要旨90、91行)と認定しており、明細書の文理に反するものである。明細書は粉砕と熱的グラインドとを並列に記載しているから、両工程を別の工程として併記しているとしか理解できない。 (2) 特許請求の範囲に記載された「熱的ストレス」とは、「thermal stress」の訳語であると想像することができ、「thermal stress」は「熱応力」と訳され、 この用語は技術者に周知である(甲29、30)。熱応力による破壊を熱応力破壊といい(甲30)、「熱応力」とは「温度変化によって生ずるはずの物体の自由な熱膨張や収縮が外部から拘束され、または物体内部の物質相互間の牽制により拘束されて生ずる応力」(甲29)である。「熱的ストレス」は、それ単独であれば理解可能であるが、割れが入るように「熱的ストレスと機械的ストレスとを組み合わせる」となると、それがどういうことなのか、実際にどのようにしてそのような熱的ストレス(熱応力)を発生させるのかがわからない。 本件発明では、粉砕プロセスは「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより」行われるとされているから、当業者は、プラスチックを破砕する際に、機械的な力とともに何らか熱応力が生ずると想定する。熱応力を発生させるには、通常、急激な加熱又は冷却を必要とする。しかし、プラスチックは、弾性率が小さく容易に変形できるために、通常の条件では、亀裂を発生させたり、破壊を起こしたりするような熱応力は発生しないのである。 2 「熱的グラインド」の認定の誤り 審決は、発明の詳細な説明中の記載Bとして摘記した「プラスチックを粉砕(comminution)、熱的グラインド(thermal grinding)した後、・・・」との記載につき、「Bの記載における『熱的グラインド』を、周知の熱エネルギーに関連するグラインドである、『グラインドにより発生する摩擦熱等により、合成樹脂の可塑化温度以上に達する熱エネルギーを与えながら、グラインドする工程』と解することに何ら矛盾はない。」(別紙審決理由要旨144〜146行)と認定するが、 誤りである。 (1) 「熱的グラインド」という用語は、本件明細書はもちろん、審決の引用するいずれの証拠においても定義されておらず、当業者が通常用いる用語でも、当該技術分野における確立した技術用語でもない。また、審決が上記認定に至った理由はまったく示されていない。 (2) 当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明における「特に熱可塑性のプラスチックを、そのような細かくグラインドすることは不可能である。なぜなら、大変微細にグラインドされると、この材料は、ねばねばするからである。」(甲2の5欄27〜30行)との課題の記載から、この課題を解決する手段は課題と対立するものであると理解するはずで、摩擦熱等によってねばねばした一次粒子が凝集することが「熱的グラインド」であるとの結論は採り得ない。 3 粉砕プロセスと比表面積の関係の認定の誤り 審決は、構成要件(d)の「該塊状粒はプラスチックの粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れが入ることによって大きな比表面積に形成したものである」について、「「『熱的グラインド』により、ねばねばした(可塑化した)プラスチックの一次粒子がくっつき合うが、完全にくっつき合わずに残された空隙部分は、『割れ目が入った』ような状態となり、該空隙部分により『比表面積は増加した状態になる』と解することができる。」(別紙審決理由要旨158行〜161行)と認定するが誤りである。 (1) 「ア.該塊状粒は イ.プラスチックの粉砕プロセスにより、ウ.機械的、 熱的ストレスの組み合わせにより割れが入ることによって エ.大きな比表面積に形成したものである」との記載には、イ.を手段としてエ.を実現するという関係が表現されており、ウ.はそのメカニズムを規定していることが明らかである。粉砕プロセスによって比表面積が大きくなる理由は、もともと一体であったところに割れ目を生じて新しい表面が形成されるからで、特許請求の範囲が粉砕プロセスという手段と大きな比表面積とのこのような関係を規定していることは明らかである。 (2) 審決の認定する「割れ目が入ったような状態になって」とは明細書のどこにも記載されていない。2個の粒子がくっつけば接触した面積だけ表面積は減るから、審決の上記認定は誤りである。 2つのものがくっついてできた隙間が割れ目と似た形状をしていても、その形成過程を「割れが入る」と表現することはあり得ない。 「割れ」とは、粒子を細分化する際に途中経過として生ずる切れ目、裂け目であると理解できる。当初明細書でも「割られる」と記載されていた(甲34)。 「熱的ストレスにより僅かな衝撃でも亀裂が生じやすい」との被告の主張によれば「熱的ストレスにより割れが入る」とは、熱的ストレスによって粒子に亀裂を生ずることであるのは明らかである。 (3) 当業者は、特許請求の範囲における「該塊状粒はプラスチックの粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れが入ることによって大きな比表面積に形成したもの」の部分は、微粒化によって比表面積を増加させる代わりに「機械的、熱的ストレスの組み合わせ」という特別な手段を講じることによって、多数の切れ目、裂け目を形成して比表面積を増加させた粒子を意味するものと解釈する。しかし、当業者の技術常識をもってしても、どのようにして機械的、熱的ストレスを組み合わせることが可能なのか、機械的、熱的ストレスを組み合わせることによって、なぜ、プラスチック粒子に多数の切れ目、裂け目を形成することができるのか、その結果できた塊状粒にはどのような形態の切れ目、裂け目が形成され、塊状粒全体がどのような形態をしているのかという肝心の点は理解できない。 (4) プラスチックを粉砕する過程において摩擦熱でプラスチックが可塑化して表面がねばねばする現象は、熱応力や熱応力による破壊とは何の関係もない。 (5) 被告は「塊状粒」と「凝集体」が同義であるかのような主張をするが、本件明細書のどこにも「凝集体」という用語は用いられていない。特許請求の範囲には「塊状粒」という用語が用いられているが、発明の詳細な説明では「塊形状」という用語が用いられているのみであるから、「塊状粒」とは「塊形状をした粒子」という程度の意味を有するのであって、「凝集体」とは何の関係もない。「塊」とは大きさによって厳密に定義されるものではないが、粉末微粒子とは区別される「かたまり」を意味し、鉄鋼関係の実務用語で「塊」をこの意味で用いたものとして、 塊鉱、塊炭、塊コークス、鋼塊などがある(甲36)。したがって、たまたま、 「鉄鉱石の塊状化」(乙4)が粉鉱を塊形状に成形する技術であったとしても、 「塊状化」という用語自体に「凝集化」という意味があるわけではない。 (6) 本件明細書で「塊形状」という用語が用いられている箇所がいずれも出願当初の明細書では異なる表現であったことからも、「塊」とは単に「かたまり」を意味していたにすぎない。これらの補正が要旨変更に当たらないと判断されて許された以上、本件明細書における「塊形状」も当初明細書における「塊状」と同じ意味であると解釈せざるを得ない。 |
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被告の反論の要点
1 「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより」の解釈について 「機械的、熱的ストレスの組合せにより」は「熱グラインド」であると解するのが合理的であることは、審決記載のとおりである。 2 「熱的グラインド」の認定について 審決が引用した証拠(甲5、14〜16)から審決のように認定することは当業者の技術常識に適っている。 3 粉砕プロセスと比表面積の関係の認定について (1) 「大きな比表面積」とは、「塊状粒」の全体としての体積があたかも一次粒子のように中実である場合と比較してのことである。同じ直径であれば中実の粒子と比較して、本件発明の「塊状粒」が熱的グラインドにより生じた多数の空隙によって「大きな比表面積に形成」されることは当業者には自ずと明らかである。 (2) プラスチックは、その粉砕プロセスの中で機械的ストレス及び熱的ストレス(応力)が組合せによりプラスチック粉砕片に及ぼされる状態において、割れ目が入った状態の塊形状に形成される。このことを一般にプラスチックの分野では凝集といい、そのような塊状粒子のことを凝集体(アグロメレート)ということは、本件特許出願時において周知であった(甲4、5、14〜16)。また、本件発明の属する冶金技術、特に鉄鉱石から銑鉄を製造する製鉄技術においては、微細鉱石粉の凝集agglomerationのことを「塊状化」ということも周知であった(乙4、甲6)。さらに、甲5、14〜16により、プラスチックの凝集体が、機械的・熱的ストレスの作用の下で生成することも、本件特許出願当時すでに周知であった。したがって、本件発明における「機械的・熱的ストレスの作用の下で大きな比表面積に形成された塊状粒」が凝集物(アグロメレート Agglomerate)であることは、当業者において明らかである。 (3) 発明の詳細な説明の「・・・粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れ目が入る(fissured)ことによって・・・」における「fissured」とは、元来鉱物学で用いられる用語であって、裂け目ないし亀裂が多数入った状態をいい、一次粒子ではなく、凝集して形成された二次粒子たる塊形状ないし塊状粒に「割れ目が入った」状態を指している。 (4) 発明の詳細な説明の「粉砕、熱的グラインド(thermal grinding)」は、粉砕時に発熱するような状態でグラインド(”ひく”ないし磨砕)することをいい、このような工程によってプラスチックの凝集が生じアグロメレートが形成されその結果塊形状になることは周知であった。なお、発熱を生ずるような状態でグラインドするためには当然強力(大馬力)な粉砕・グラインド装置を用いる必要があるが、 そのようなこともプラスチックの分野では周知であった(甲5、14〜16、平成6年4月28日の出願に係る甲20も本件出願時の当業者の技術レベルを示すものとして参照)。このような「熱的グラインド」なる粉砕プロセス、すなわち「プラスチックを熱エネルギーと関連するグラインドにより粉砕」することにより得られるものが本件発明の「大きな比表面積の塊状粒」(アグロメレート Agglomerate)である。 (5) プラスチックは熱伝導率が低く、プラスチック片の摩擦面で局部的に生成する摩擦熱による温度の局部上昇によって、凝集物内の温度分布が不均一となり熱的ストレスが生じ、摩擦熱により生じた表面のねばつきによる緩い結合は、この熱的ストレスにより僅かな衝撃でも亀裂が生じやすい不安定な状態となり、粉砕プロセスの間に凝集粒子が互いにぶつかり合って受ける衝撃やインペラや機壁との衝突や圧縮等によって生ずる機械的ストレスによって割れ目(亀裂)が多数生じる。これが機械的、熱的ストレスの組合せによりプラスチック凝集体が大きな比表面積に形成されるメカニズムである。摩擦熱による凝集は乙6〜9にも記載されている。 |
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当裁判所の判断
1 構成要件(d)の意味が明確であるか否かについて、検討する。 (1) 本件明細書(本件特許掲載公報、甲2)の発明の詳細な説明には、従来技術における課題とその課題を解決するための手段について、以下の記載が認められる。 ア 「より高い高炉プロセスの制御、およびコークスを節約するために、ランスを通して高炉内に油または粉状の石炭が注入され、これらはコークスの消費を減少させている。この付加的に注入される材料、油または粉状(pulverized)の石炭はきれいにかつ十分なガス化を確実にするため、細かく粉砕した状態で導入されなければならない。・・・油または粉状の石炭を注入する代わりに、例えば廃棄物、 使用した紙、わら、かっ炭および使用した木、プラスチック、ゴム、類似の材料を導入する提案はすでになされている(DE-A-29 35 544)。・・・DE-A-41 04 252においては、この種の炭素含有廃棄物が、羽口を通して微細粒(fine-grained)または粉(powder)の形で高炉に注入することが提案され、沈澱スラッジ(流動可能なダスト)がサンプルとして与えられた。また、このプロセスにおいて、注入される物が微細粒であるべき必要性が強調された。」(4欄4〜31行) イ 「竪型炉、特に高炉の領域の炉風流れ中への、油または粉砕された石炭を注入する既知方法においては、利用できる短時間にすすの形成なしに完全なガス化を確実に行うために、材料は大変細かく粉砕されて注入される必要がある。もし、 石炭粒子の最大粒径が約0.1mmでなく、より大きければ、不十分な結果となる。・・・油の注入にとっても、実際は揮発性の組成からなるが、粒径を0.1mmよりかなり小さく微粒化することが、また必要となる。最も精密な結論としては、化学的組成が大変油に近いプラスチックであっても、竪型炉の中での十分に速い反応を行わせるためには、同等の粒径の粉に粉砕されなければならない。特に熱可塑性のプラスチックを、そのような細かくグラインドすることは不可能である。 なぜなら、大変微細にグラインドされると、この材料は、ねばねばするからである。このようなプラスチックは低温に冷却し、もろくして、この状態でこれをグラインドすることが考えられてきた。しかし、本方法は、費用の理由から採用できない。」(5欄11〜33行) ウ 「プラスチックを粉砕(comminution)、熱的グラインド(thermal grinding)した後、プラスチックが、より大きな粒子サイズの塊形状を有するなら大変いい結果が得られる。すなわち、主にほとんど1から10mm、特に5mmの領域にいると大変良好な結果が得られることが、驚くべきことに見出された。かかる粒径は大きな費用なしに得ることができるが、この粒径は、同時にプラスチックプロセス、流体化および計量の領域においても爆発の危険性が無く、例えば粉砕された石炭が注入される場合と同様であって、流体化ガスとして不活性ガスが不要となり、圧縮空気を使用できるというを利点を有する。」(5欄35〜46行)」 エ 「このプラスチックの驚くべき挙動の理由は、粉砕後の、この材料の特異性によるものである。・・・プラスチックの場合、粉砕プロセスにより、機械的、 熱的ストレスの組み合わせにより割れ目が入る(fissured)ことによって、比表面積が増加された塊形状になり、部分的に粉砕後であっても材料は、優れた反応性を示す。」(5欄50行〜6欄8行) (2) 上記の記載を要約すると、発明の詳細な説明には以下の事項が記載されていると認められる。 高炉プロセスにおいて付加的に注入される油、石炭やプラスチック等の廃棄物は細かく粉砕された状態、すなわち微細粒又は粉の形で高炉に注入すべきであるとされていたところ(ア)、プラスチックを大変微細にグラインドすると、ねばねばすることから、プラスチックを低温に冷却しもろくした状態でグラインドする方法が提案されたが、この方法は費用の点で採用できなかった(イ)。そこで、プラスチックを粉砕(comminution)、熱的グラインド(thermal grinding)した後、より大きな粒子サイズの塊形状にする(主にほとんど1〜10mm、特に5mmの領域にある)と、大変いい結果が得られ、かかる粒径は大きな費用なしに得ることができる(ウ)。プラスチックの場合、粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組合せにより割れ目が入る(fissured)ことによって、比表面積が増加された塊形状になる(エ)。 (3) 従来技術における課題を記載したアとイにおける「微細粒(fine-grained)または粉(powder)の形で高炉に注入することが提案され」、「粒径を0.1mmよりかなり小さく微粒化することが、また必要となる」との記載、そしてそれに続く、課題を解決するための手段を記載したウにおける「より大きな粒子サイズの塊形状を有するなら大変いい結果が得られる」との記載からみて、本件発明における「塊状粒」とは、従来の高炉プロセスにおいて高炉に注入される油、石炭やプラスチック等の廃棄物に要求された、粒径の小さな「微細粒または粉」に対峙する用語として用いられたものであって、粒径が比較的大きい塊形状をした粒を意味すると解するのが相当である。また、本件発明における「粉砕プロセス」とは、上記イとウの記載からみて、費用の点で問題のある低温冷却をしないで行われる粉砕工程であると解され、低温冷却をしないためにある程度の摩擦熱が発生するものであることが推認される。 しかしながら、上記のように理解される「粉砕プロセス」において、摩擦熱が生じるがゆえに、機械的なストレスのみならず、摩擦熱による何らかのストレスも生じていると解したとしても、発明の詳細な説明には、「プラスチックの場合、粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れ目が入る(fissured)ことによって、比表面積が増加された塊形状になり」(上記エ)と記載されているだけで、粉砕プロセス「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れが入る」ことについて具体的な説明が何も記載されていないのであるから、上記のように理解される「塊状粒」に「機械的、熱的ストレスの組み合わせ」により形成された「割れ」とは、どのような形状のものであるのか、そして、このような「割れ」が、単に粉砕プロセスにより形成された割れとどのように区別されるものであるのかは、不明であるといわざるを得ない。 (4) 審決は、「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより」を「熱的グラインド」であると解し、「熱的グラインド」を、周知の熱エネルギーに関連するグラインドである「グラインドにより発生する摩擦熱等により、合成樹脂の可塑化温度以上に達する熱エネルギーを与えながら、グラインドする工程」であると解した上で、構成要件(d)を「『熱的グラインド』により、ねばねばした(可塑化した)プラスチックの一次粒子がくっつき合うが、完全にくっつき合わずに残された空隙部分は、『割れ目が入った』ような状態となり、該空隙部分により『比表面積は増加した状態になる』と解することができる。」とする。また、被告は、プラスチックの凝集体の生成が周知であったこと等を挙げて、本件発明における「塊状粒」とは凝集体(アグロメレート)を意味し、「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れが入る」とは、一次粒子ではなく、凝集して形成された二次粒子たる塊形状ないし塊状粒に割れが入った状態をいい、摩擦熱により生じた表面のねばつきによる緩い結合は、熱的ストレスにより僅かな衝撃でも亀裂が生じやすい不安定な状態となり、機械的ストレスによって割れ目(亀裂)が多数生じる旨主張する。 審決及び被告が周知技術を示すものとして引用する甲5(合成樹脂-プラスティクス(Kunststoffe-Plastics)20巻、12号、1973年、21〜26頁、審判乙2)、甲14(独国特許公開第2839446号公報、審判乙11)、甲15(独国特許公開第2547440号公報、審判乙12)、甲16(独国特許公開第1454856号公報、審判乙13)には、それぞれ、摩擦熱によるプラスチックの凝集について記載され、被告が本訴において提出した乙6(特開昭52-123448号公報)、乙7(独国特許公開第2614730号公報)、乙8(特開昭51-38372号公報)、乙9(独国特許公開第2442497号公報)には、それぞれ、摩擦熱によるプラスチックの集塊、粒状化について記載されている。しかし、これらのうち甲5には、添加物と共に合成樹脂を調製することについて「熱可塑性材料の軟化点未満まで加熱しつつ混合することを高温混合、その生成物をドライパウダー又はドライブレンドとそれぞれ称する。・・・軟化点より高い温度まで加熱しつつ混合することは凝集化と、またその生成物は凝集体(アグロメレート Agglomerate)とそれぞれ称される。この場合、可塑化によって大きな2次粒子を生成させるために、複数の一次粒子が用いられる。・・・被混合物に移行させるべきエネルギーにその数及び形状が合致した高速回転ロータ(高速ロータ)を備えたミキサーが凝集化のために用いられる。」(訳文6〜7頁)と記載され、また、同じく甲15にも、合成樹脂を含む廃棄物の細砕について「投入されたかすの細砕にあたり、生成する摩擦熱はかすを加熱するので、廃棄物のうちの合成樹脂成分のみが圧縮され凝集される。供給される熱の量は、駆動モータ200の回転数に依存し、 本発明によれば、最も多く現れる合成樹脂成分、特にポリエチレンの可塑化温度に対応する温度まで廃棄物が加熱されるように選定される。」(訳文7頁)と記載されていることから、プラスチックを凝集させるためにはプラスチックの軟化点あるいは可塑化温度以上に加熱する摩擦熱の発生が必要であり、そのためには、それに適した高速回転ロータの種類や駆動モータの回転数の選択が必要であると認められ、単に摩擦熱が発生するというだけで直ちに凝集体が形成されるといえないことは、明らかである。 そこで、本件明細書の記載を検討するに、(3)で説示したとおり、本件発明における「粉砕プロセス」とは、「低温冷却」をしないで行われる粉砕工程であると解され、ある程度の摩擦熱が発生するものであることまでは推認されるものの、発生する摩擦熱がどの程度のものであるか、どのような装置を用いてプラスチックの粉砕をするのかに関して何も記載されておらず、他にもプラスチックの凝集を窺わせる記載は存在しないから、本件発明の「粉砕プロセス」が、プラスチックを可塑化温度以上にする程度の摩擦熱を発生させるものであると断定することはできず、したがって、審決がいうように、「ねばねばした(可塑化した)プラスチックの一次粒子がくっつき合う」とか、被告の主張するように、凝集体、すなわちプラスチックの一次粒子が凝集して二次粒子が形成された塊状粒ができると断定することもできない。 しかも、(3)で説示したように、本件明細書の記載によれば、本件発明における「塊状粒」とは、粒径の小さな「微細粒または粉」に対峙する用語として用いられたものであって、粒径が比較的大きい塊形状をした粒を意味するものであると解すべきところ、被告が本件出願時の当業者の技術レベルを示すものとして参照されるべきものとする甲20(特開平7-290457号公報、審判乙17)には、プラスチック廃棄物の処理に関して「被処理物を10mmの面直径を有する破砕片に破砕するシュレッダから構成されていてもよい破砕装置に供給する。」(【0033】)、「本発明による方法の次の主工程7では破砕したプラスチック材料の凝集を行う。・・・凝集は、摩擦力に基づき溶融させかつ同時に予め選択したメッシュ幅を有するシーブを通過させるロータカッターで行うことができる。」(【0034】)と記載されており、これらの記載によれば、凝集工程とは区別される破砕工程によって10mm程度の粒径のプラスチック粒が製造できること、すなわち、凝集によらなくても本件発明で特定された粒径のものが得られることが認められるから、この点からもやはり、「塊状粒」が一次粒子がくっつき合ったもの、 あるいは凝集体を意味すると断定することはできない。 さらに、出願当初の明細書(甲34)を検討すると、そこには、被告の主張及び審決の認定の主要な根拠とされている「熱的グラインド」や「塊形状」の語は存在せず、「熱的グラインド」や「塊形状」に関連する記載は出願後の補正によって挿入されたものであると認められる。このような補正が要旨変更とされることなく許されたのであってみれば、特許請求の範囲に規定された「塊状粒」を作る「粉砕プロセス」を、出願当初の明細書には記載のなかった「熱的グラインド」による凝集体の形成を含むようなプロセスと解することはできない。 そうすると、構成要件(d)についての審決及び被告の解釈は、いずれも、本件発明における「塊状粒」が「凝集体」あるいは「一次粒子がくっつき合ったもの」であるという前提において誤っているから、採用することができない。「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れが入る」ような粉砕プロセスとはどのようなプロセスを意味するのか、このプロセスが他の粉砕プロセスとどのように区別されるかは、結局のところ、不明といわざるを得ない。 (5) 以上検討したところによれば、構成要件(d)の意味は不明確であり、本件明細書の特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとはいえないから、特許法36条5項2号の要件を満たしていない。訴訟引受人の主張する取消事由は理由がある。 2 結論 以上のとおり、特許法36条5項2号に基づく無効理由についての審決の判断は誤りであり、訴訟引受人の主張する取消事由は理由があるから、審決は取り消されるべきである。 |
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別紙審決理由要旨審決の理由の「5.当審の判断」及び「6.むすび」(文中の証拠は審判時のもの)5-1.無効理由1(特許法第36条第5項第2号違反)について請求人は、審判請求書において、本件請求項1に係る発明(以下「本件発明」という)における「塊状粒」の構成を上記(a)〜(d)の要件に分節し、各要件を順に4)、2)、1)、3)とし、これらの要件の明確性について、1)については、明確に把握できるとしているものの、2)〜4)については、以下のように否定している。 2):「大きな比表面積の塊状粒で」は、何に較べて大きな比表面積であるのか不明である。 3):「該塊状粒はプラスチックの粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れが入ることによって大きな比表面積に形成したものである」について、「割れが入る」とは、発明の詳細な説明(特許公報第6欄第6行)の記載から「塊状粒の表面からその内部に割れ目が入る(形成される)」ことを意味していると解されるところ、「機械的ストレス」、「熱的ストレス」の意味内容が不明確であり、仮にこれらを「機械的な外力により生じる応力」、「熱により生じる応力(熱応力)」と解しても、これらの組み合わせにより割れ目が形成される、ということの技術的意味を当業者が理解することはできない。 また、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「プラスチックを粉砕(comminution)、熱的グラインド(thermalgrinding)した後、プラスチックが、より大きな粒子サイズの塊形状を有するなら大変いい結果が得られる。」(特許公報第5欄第35〜38行)という記載はあるが、「熱的グラインド(thermalgrinding)」はその技術的意味が不明であるし、「粉砕(comminution)」と「熱的グラインド(thermalgrinding)」との関係も不明であるし、そもそも、この記載と「粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れが入る」との関係も不明である。 したがって、機械的ストレスと熱的ストレスとの「組み合わせ」とは何を意味するのか、粉砕プロセスにおいて機械的ストレスと熱的ストレスをどのように組み合わせれば塊状粒に割れ目が入るのかが全く不明であるし、要件2)の「大きな比表面積を有する」の技術的意味も把握できない。 4):「0.35より大きいバルク密度を有する。」については、バルク密度が0.35以上ということの技術的意味が不明であり、また、バルク密度を「充填率」や「粒子の中実度」と解したとしても、その値が大きくなれば、プラスチックが粒体ではない状態やプラスチック粒が割れのない状態に近づくから、2)や3)の「大きな比表面積」と矛盾する要件である。 さらに、本件発明における「プラスチック塊状粒」は、その要件が不明確であるため、本件発明における「プラスチック塊状粒」と「プラスチックの単なる破砕物」とは明確に区別できない、すなわち、甲第1号証の試験報告書(実験成績証明書)に基づき、甲第3号証のパンフレットにその仕様が記載された剪断式破砕機「オリエントミルVM32」(甲第2号証により、1988年には納入実績のあったもの)を用いて固形プラスチック製品を破砕した粒径1〜9.5mmのプラスチック破砕粒は、その充填率が0.35以上であり、基本的に中実であるが、切れ目や亀裂である「割れ目」が存在しており、本件発明に係る「プラスチック塊状粒」と、区別できないものである、と主張している。 ここで、口頭審理において、確認された事項を以下に列挙する。 1.特許請求の範囲の請求項1に記載の「粉砕プロセスにより」、「機械的、熱的ストレスの組合せにより」とは、「粉砕プロセスにより」をより具体的に説明したものが「機械的、熱的ストレスの組合せにより」と言う解釈を双方ともにする。 2.「機械的、熱的ストレスの組合せにより」の意味は、「熱的グラインド」であることを請求人は争う。被請求人は認める。 3.甲第1号証に記載された粉砕装置の使用条件は、通常の条件であり、得られるプラスチック粒は単なる粉砕によるものである。一次粒子がねばねばして、くっつくものではないことを請求人は認める。 上記確認事項を前提として、まず、要件3):「該塊状粒はプラスチックの粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れが入ることによって大きな比表面積に形成したものである」について検討する。 「機械的、熱的ストレスの組合わせにより」は、「粉砕プロセス」を具体的に説明したものであるから、本件発明の「粉砕プロセスにより、機械的、熱的ストレスの組合せにより」なる工程は、「粉砕プロセス」中において「機械的、熱的ストレスの組合わせ」による工程が起こっていることは明らかであるが、特許請求の範囲の記載からは、それ以上の解釈を行うことは困難である。 そこで、上記要件3)を解釈するために、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、以下A〜Cの記載がある。 A.「特に熱可塑性のプラスチックを、そのような細かくグラインドすることは不可能である。なぜなら、大変微細にグラインドされると、この材料は、ねばねばするからである。このようなプラスチックは低温に冷却し、もろくして、この状態でこれをグラインドすることが考えられてきた。しかし、本方法は、費用の理由から採用できない。」(特許掲載公報第5欄第27〜33行)B.「プラスチックを粉砕(comminution)、熱的グラインド(thermalgrinding)した後、プラスチックが、より大きな粒子サイズの塊形状を有するなら大変いい結果が得られる。すなわち、主にほとんど1〜10mm、特に5mmの領域にいると大変良好な結果が得られることが、驚くべきことに見出された。かかる粒径は大きな費用なしに得ることができるが、この粒径は、・・・利点を有する。特に、注入されるプラスチックが、大きな比表面積を有する塊状粒の場合、良い結果が得られる。特に、そのプラスチックが0.35より大きいバルク密度を有する場合、有利であることが見出されている。」(同第5欄第35〜49行)」C.「このプラスティックの驚くべき挙動の理由は、粉砕後の、この材料の特異性によるものである。・・・プラスティックの場合、粉砕プロセスにより、機械的、 熱的ストレスの組み合わせにより割れ目が入る(fissured)ことによって、比表面積が増加された塊形状になり、部分的に粉砕後であっても材料は、優れた反応性を示す。」(同第5欄第50行〜第6欄第8行)Aの記載からは、熱可塑性プラスチックを大変微細にグラインドしようとすると、低温に冷却しない限り、ねばねばして細かくグラインドできないことを把握することができ、「熱可塑性のプラスチック」、「低温に冷却し、もろくして」等の記載から、「ねばねばして細かくグラインドできない」のは、微細にグラインドしようとすると熱エネルギーが発生し、熱可塑性のプラスチックの熱可塑化温度を超える状態でグラインドが進行すると、プラスチックが可塑化する結果、ねばねばし、グラインドされた一次粒子がくっつき合って、それ以上細かくグラインドすることが不可能になる、その場合も熱可塑化温度以下に冷却しながらグラインドすると、プラスチックはもろくなり、ねばねばして一次粒子がくっつき合う現象は起こらない、と解することが合理的である。 Bの記載において、「熱的グラインド」とは、その文言上「熱エネルギーに関連する」「グラインド」であると解されるが、「グラインド」は、「粉砕」の一形態であるから、「プラスチックを粉砕(・・・)、熱的グラインド(・・・)した後」という記載における「粉砕」と「熱的グラインド」との関係は、「粉砕」の具体的な説明が「熱的グラインド」であって、上記記載は、「プラスチックを熱エネルギーと関連するグラインドにより粉砕した後」と解することができる。また、熱的グラインドした後のプラスチックは、粒径が「ほとんど1〜10mm」の領域にあり、「大きな比表面積を有する塊形状」であり、「0.35より大きいバルク密度」を有するものであるから、本件発明の要件1)、2)及び4)の要件を満たしている。 してみると、Bの記載における「粉砕」は、本件発明の要件3)における「粉砕プロセス」の「粉砕」を意味し、「粉砕プロセスにより」を具体的に説明したものが「機械的、熱的ストレスの組合わせにより」と解釈できるから、結局、「機械的、熱的ストレスの組合わせにより」は、「熱的グラインド」を意味すると解される。 また、上記のように解することは、技術常識からみても合理的である。すなわち、「熱的グラインド」について、当業者の技術常識を参酌すると、被請求人が提出した乙第2号証には、「熱可塑性合成樹脂の混合、凝集化及び可塑化」なる標題で、「・・・軟化点より高い温度まで加熱しつつ混合することは凝集化と、またその生成物は凝集体(・・・)とそれぞれ称される。この場合、可塑化によって大きな2次粒子を生成させるために、複数の一次粒子が用いられる[3]。しかし、この凝集体の生成において、溶融物は未だ形成されていない。被混合物に移行させるべきエネルギーにその数及び形状が合致した高速回転ロータ(高速ロータ)を備えたミキサーが凝集化のために用いられる。」こと(第23頁左欄第18〜31行:摘示は被請求人が添付した訳文による。以下同様。)、乙第11号証には、 「・・・合成樹脂廃棄物特に箔状廃材は、機械的に細砕されると共に、高速で回転している複数の細砕用工具との摩擦によって加熱され、その際に、細砕された廃材が凝集化(・・・)される。凝集化温度(・・・)に到達した後に、凝集体(・・・)は、冷媒(空気または液)によって冷却される(・・・)。」こと(第1欄第53〜61行)、乙第12号証には、「本発明による方法によれば、かすはそれ自体として既知の仕方(・・・)によって、好ましくは単一の容器内において細砕され、加熱され、冷却される。加熱により、かすの合成樹脂成分は凝集(・・・)され、圧密化(・・・)され、残りの成分は合成樹脂凝集体(・・・)中に融け込む。次の冷却によって、合成樹脂凝集体は粒状化される。」こと(第4頁(右下記載のページ数、以下同様)第15行〜第5頁第2行)、「投入された「かす」の細砕にあたり、生成する摩擦熱は「かす」を加熱させるので、廃棄物のうちの合成樹脂成分のみが圧縮され凝集(・・・)される。供給される熱の量は、 駆動モータ200の回転数に依存し、本発明によれば、最も多く現れる合成樹脂成分、特にポリエチレンの可塑化温度に対応する温度まで廃棄物が加熱されるように選定される。」こと(第13頁第2〜11行)、乙第13号証には、「本発明は・・・合成樹脂-凝集体(・・・)の製造方法に関する。この方法は、凝集させるべき混合物をグラインドないしミリングし、生成する摩擦熱によって混合物が凝集化して必要な温度まで加熱されるようにした、高回転数で回転する混合工具(複数)が内部に配された、混合装置内において実施される。混合物の加熱は、特に、 混合物を収納する容器を加熱することによって更に支援される。・・・合成樹脂凝集体の製造方法は、従来から、種々の形態のものが既知となっている。通常は、ミキサに装入された合成樹脂粉末は、場合により必要となる他の物質と共に、混合物が凝集体の生成に必要な所望の温度となるまでの間グラインドされる。凝集体が所望の粒径に到達した後に、混合工程を終了させ、被混合物をミキサーから冷却容器に圧送し、そこで凝集体を、冷却下に、生成した凝集体が「ママコ」にならないようにしながらかき混ぜる。」こと(第2〜3頁)が記載されている。 上記乙第2、11〜13号証の記載により、グラインド(機械的に細砕、またはミリング)をミキサ等の細砕用工具を用いて行う際に、細砕用工具の回転を高速で行うことによって摩擦熱を発生させ、必要によりさらに外部から加熱することにより、被グラインド物に含まれる合成樹脂の可塑化温度(軟化点温度、凝集化温度)以上に達する熱エネルギーを与えながらグラインドする工程は、本件出願前当業者において周知であったことが分かる。そして、この周知の工程は、本件明細書に記載された上記Aの「大変微細にグラインドされると、この材料は、ねばねばする・・・」という記載とも整合するものであり、熱エネルギーと関連するグラインドであるから、上記Bの「熱的グラインド」に相当し得る概念である。また、この周知の工程を経て得られる合成樹脂は、可塑化温度(軟化点温度、凝集化温度)を超える熱エネルギーを与えられながらグラインドされることにより一次粒子がくっつき合った塊形状のものを形成し、その粒子サイズは一次粒子より大きくなるから、上記Bの「より大きな粒子サイズの塊形状を有する」なる記載とも整合する。 してみれば、Bの記載における「熱的グラインド」を、周知の熱エネルギーに関連するグラインドである、「グラインドにより発生する摩擦熱等により、合成樹脂の可塑化温度以上に達する熱エネルギーを与えながら、グラインドする工程」と解することに何ら矛盾はない。 したがって、「グラインドにより発生する摩擦熱等により、合成樹脂の可塑化温度以上に達する熱エネルギーを与えながら、グラインドする工程」である「熱的グラインド」は、グラインドという機械的ストレスと、摩擦熱等による熱的ストレスの組み合わせであるということができるから、「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより」は、被請求人が認めるとおり、「熱的グラインド」であると解することが合理的である。 Cの記載は、本件発明の要件3)に関する記載であり、粉砕プロセスの具体的説明としての「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより」は、上述のとおりそれ自体明確な表現であるとは言い難いが、上記Bに記載された「熱的グラインド」を意味すると解した場合、「割れ目が入る」を、請求人が主張するように「塊状粒の表面からその内部に割れ目が入る(形成される)」ことを意味していると解する必要はなく、「機械的、熱的ストレスの組み合わせにより割れ目が入ることによって、 比表面積が増加された塊形状になり」を一体的に解釈し、「熱的グラインド」により、ねばねばした(可塑化した)プラスチックの一次粒子がくっつき合うが、完全にくっつき合わずに残された空隙部分は、「割れ目が入った」ような状態となり、 該空隙部分により「比表面積は増加した状態になる」と解することができる。 そして、明細書の記載及び当業者の技術常識を以てすると、本件発明の要件3)に関する可能な解釈は上記のもののみであって、被請求人の主張及び提出した証拠によっても、それ以外の解釈を許容する余地はない。 以上のとおりであるから、本件発明の3)の要件は、「該塊状粒はプラスチックの粉砕プロセスである、熱的グラインド(グラインドという機械的ストレスと摩擦熱等によるプラスチックの可塑化温度以上の熱的ストレスの組み合わせによる粉砕プロセス)により、一次粒子がねばねばしてくっつき合うことにより、割れ目が形成されて、大きな比表面積に形成されたものである」と解することができ、明確である。 なお、請求人は、審判請求書において、「割れ目が入る」とは、甲第1号証によれば「プラスチックの単なる破砕物」においても生じる状態であり、本件発明は「プラスチックの単なる破砕物」と区別がつかない旨主張しているが、本件発明の上記の解釈によれば、「割れ目が入る」とは、一次粒子がねばねばして(可塑化して)くっつき合い、より大きな粒子サイズになったときに、完全にくっつき合わなかった空隙部分を生じることを指し、塊状粒の表面から内部に入る割れのみならず、一次粒子がくっつき合った塊状粒に内包される割れ目をも生じるものであるから、通常の使用条件(すなわち、熱的グラインドの粉砕条件に至らない条件)で使用された粉砕装置により得られた甲第1号証提示の一次粒子の割れや欠け状態とは明確に区別がつくものである。 次に、要件2)については、「大きな比表面積の塊状粒」とは、上記要件3)で検討したとおり、「一次粒子がくっつき合って生じた空隙部分により比表面積が大きくなった塊状粒」と解することができ、明確である。 そして、要件4)については、「バルク密度」とは、通常「嵩密度」を指す言葉であるが、その概念は、請求人が推測する「中実度」、または「充填率」と異なるものではないと認められ、要件4)は、「一次粒子がくっつき合った塊状粒であって割れ目(空隙部分)を有するものではあるが、その中実度、または充填率は0.35以上(空隙率は0.65以下)のもの」と把握することができ、また、割れ目(空隙部分)を有することを前提としている以上、請求人が主張しているような「バルク密度が1」の「プラスチック粒の割れのない状態」が排除されていることは明らかであるから、明確である。 したがって、本件明細書の請求項1の記載は、発明の詳細な説明の記載、及び当業者の技術常識を参酌すれば、明確であって、請求項1は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項を記載したものであるから、特許法第36条第5項2号に規定する要件を満たしていないとはいえず、請求項1に従属する請求項2乃至請求項11も、同様の理由により、特許法第36条第5項2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 5-2.無効理由2(特許法第36条第4項違反)について本件発明に係る「プラスチック塊状粒」が、「熱的グラインド」によって得られたもののみを指すことは、5-1.で述べたとおり発明の詳細な説明の記載及び技術常識を参酌して明確に把握することができる。 また、「熱的グラインド」については、乙第2、11〜13号証記載の周知の製造装置による周知の製造条件により、当業者が実施をすることができることが明らかであり、その実施の結果、ある程度の粒径を有し、ある程度の空隙部分を有し大きな比表面積を形成したプラスチックの塊状粒が得られることも明らかであるから、当業者の技術常識をもってすれば、たとえ、具体的な実施例が発明の詳細な説明に示されていなくても、本件発明の「プラスチック塊状粒」を得ることは、当業者が容易になし得ることと認められる。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、不備であるとはいえず、特許法第36条第4項の規定を満たさないものであるとはいえない。 6.むすび以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし11に係る発明の特許を無効にすることはできない。 また、他に本件請求項1ないし11に係る発明の特許を無効にすべき理由を発見しない。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 田中昌利 |