元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
元本PDF | 裁判所収録の別紙2PDFを見る |
元本PDF | 裁判所収録の別紙3PDFを見る |
事件 |
令和
3年
(ワ)
8940号
特許権移転登録抹消登録請求事件
|
---|---|
5 原告 日本有機物リサイクルプラント株式会社 同訴訟代理人弁護士 江木晋 被告 G−8INTERNATIONAL TRADING株式会社 同訴訟代理人弁護士 山田一郎 10 同星隆文 |
|
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2023/04/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は、原告に対し、別紙特許権目録記載の特許権について、令和2年10月9日特許庁受付第06492号特許権移転登録の抹消登録手続をせよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 15 事実及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要1 事案の要旨20 (1) 本件は、原告が、被告に対し、原告は、発明の名称を「亜臨界水処理装置」とする特許第6737561号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(別紙特許権目録記載の特許権。以下「本件特許権」という。)の権利者であるところ、被告に本件特許権を譲渡した事実はないのに、被告に対する不実の移転登録がされていると主張して、本件特許権に基づき、同特許権の25 移転登録手続の抹消登録手続を求める事案である。 (2) 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号1は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)ア 当事者(ア) 原告5 原告は、有機系廃棄物の処理装置等の開発・製造・販売を主たる目的とする株式会社である(甲1)。 (イ) 被告被告は、一般・産業廃棄物及び医療廃棄物並びに下水・排水の処理に関する機械・器具の開発、販売等を主たる目的とする株式会社である。 10 イ 原告の設立(甲1、弁論の全趣旨)原告は、令和元年10月31日に設立された株式会社であり、令和2年10月9日時点において、取締役会設置会社であった。 原告の設立当時の取締役は、A(以下「A」という。 、B及びC(以下)「C」という。)の3名であり、Cは、原告設立時から令和2年10月2815 日まで代表取締役の地位にあった(ただし、商業登記簿上は、Cが、同月9日付けで代表取締役を退任し、同日付けで取締役を解任された旨の記載がされている。。 )ウ 本件特許権の設定登録原告は、令和2年4月17日、発明の名称を「亜臨界水処理装置」とす20 る特許出願(特願2020―73937)をし、同年7月20日、本件特許権の設定登録を受けた。 エ 被告による本件特許権の移転登録手続(甲3、4、弁論の全趣旨)被告は、令和2年10月9日、本件特許権の移転登録手続を被告単独で申請し、同日特許庁受付第06492号により、本件特許権の移転登録を25 受けた。 (3) 本件譲渡証書の存在(甲5)2被告による前記(2)エの移転登録手続の申請書には、令和2年10月8日付け譲渡証書(以下「本件譲渡証書」という。)が添付されており、本件譲渡証書には「弊社名義の下記特許に付き、今般、特許権を貴社に譲渡したことに相違ありません。また、その移転登録申請を、貴社が単独ですることに異議5 なくこれを承諾します。、 」「譲渡人 住所 (省略) 名称 日本有機物リサイクルプラント株式会社 代表者 C’」との記載があり、同記名の横には原告代表取締役名下の印影がある。 2 争点(1) Cにより本件特許権譲渡の意思表示がされたか(争点1)10 (2) 被告が、原告の取締役会決議がないことを知り、又は知ることができたか(争点2)3 当事者の主張(1) 争点1(Cにより本件特許権譲渡の意思表示がされたか)について(被告の主張)15 令和2年10月5日頃、Cから本件特許権の譲渡の申入れがあり、被告代表者であるD(以下「D」という。)は、弁理士に対し、本件特許権の譲受けに必要な書類を作成するよう依頼した。 同弁理士は、本件特許権の移転登録申請につき、申請書に譲渡証書を添付して登録権利者が単独申請する方法を提案したため、この方式を採用するこ20 とになったものである。 そして、同弁理士が本件譲渡証書の原案を作成し、同月8日、被告の事務担当者がCの自宅に同原案を持参し、Cがこれに押印したものである。 以上のとおり、本件譲渡証書にはCの署名はないが、Cの記名の横の印影は原告の代表者印によって顕出されたものである。仮に、原告が主張すると25 おり、本件譲渡証書の印影が原告の設立当初から使用されていた原告の実印により顕出されたものではないとしても、本件譲渡証書は、Cがその意思に3基づいて作成したのであるから、真正に成立したといえる。 また、本件譲渡証書のCの記名の誤字は単なる誤記であり、本件譲渡証書にCの意思に基づく押印がされている以上は、本件特許権の譲渡の意思表示の有無や効力に影響を与えるものではない。 5 したがって、本件譲渡証書は真正に成立したものであり、Cによる本件特許権の譲渡の意思表示があったといえる。 (原告の主張)本件譲渡証書は、真正に成立した文書ではなく、第三者により偽造された文書である。 10 真実原告が被告に本件特許権を譲渡した事実があれば、原告と被告との間には本件特許権の譲渡契約書が存在するはずであるが、譲渡契約書は存在せず、本件譲渡証書のみが存在することは不自然である。 また、本件譲渡証書の「譲渡人」欄には「C’」と記載されており、C自身の名に誤記がある(正しくは「C」)ことからすると、Cが自ら本件譲渡証書15 に押印したものであるとは考え難い。 さらに、本件譲渡証書の原告代表取締役名下の印影は、原告の設立当初から使用されていた原告の実印によるものではない。原告においては、設立当初から、原告の社名が記載された丸印(甲第6号証の印鑑証明書に印影が顕出されている丸印。以下「改印前原告代表者印」という。)が使用され、原告20 の実印として登録されていたものであり、Aがこれを保管している。 したがって、本件譲渡証書は第三者により偽造されたものであり、本件譲渡証書の存在をもって、Cが本件特許権を被告に譲渡するとの意思表示をしたとはいえない。 (2) 争点2(被告が、原告の取締役会決議がないことを知り、又は知ることが25 できたか)について(原告の主張)4本件特許権は、原告にとって、会社法362条4項1号に規定する「重要な財産」であるから、本件特許権の譲渡当時取締役会設置会社であった原告において、本件特許権を処分するには、取締役会決議(以下「承認決議」という。)を経る必要があったところ、そのような承認決議はされていない。 5 仮に、原告の代表取締役であったCが、被告に対して本件特許権を譲渡する旨の意思表示をしていたとしても、以下のとおり、被告は、Cによる本件特許権の譲渡が承認決議を経ずにされたことを知り、又は知ることができたといえるので、民法93条ただし書の類推適用により、本件特許権の譲渡は無効となる。 10 ア Aと被告との従前の関係についてAは、海外医療旅行株式会社の代表取締役を務めていたところ、被告に依頼され、海外医療旅行株式会社の代表取締役として、被告との間で、密閉された容器内で有機廃棄物を高温高圧の蒸気で処理する有機廃棄物処理装置(以下「被告装置」という。)の販売業務委託契約(以下「本件販売業15 務委託契約」という。)を締結し、被告装置の販売を行うようになった。本件販売業務委託契約を締結するに際し、Aは、被告の取締役に就任したが、 被告の経営には一切関与しない名目的取締役であった。 しかし、被告装置は、有機廃棄物処理装置内を亜臨界水状態に維持して各種有機物を短時間で加水分解し、再生資源を生成するとともに、有害物20 質を無害化及び減容化する機能(以下「亜臨界水状態維持機能」という。)を有しておらず、また、被告には亜臨界水状態維持機能を有する有機廃棄物処理装置を開発する技術力や資金力がなく、機能として不十分な被告製品の販売を継続せざるを得なかったため、海外医療旅行株式会社は被告製品を販売することができなかった。 25 そのため、Aは、被告の技術力や資金力に限界を感じ、被告に対し、令和元年10月30日付けで、被告の取締役を辞任する旨の辞任届を提出し5た。しかし、その後もAの辞任登記がされることはなかったことなどから、 令和2年3月31日及び同年9月1日にも辞任届を提出し、同月になってようやく辞任登記がされるに至った。 イ 本件特許に係るAと被告との間のやりとりについて5 Aは、亜臨界水状態維持機能を有する本件特許に係る発明を実施した有機廃棄物処理装置(以下「原告装置」という。)を開発、製造及び販売するため、令和元年10月31日、原告を設立し、令和2年7月20日、本件特許権の設定登録を受けた。 Aは、本件特許権の設定登録後、被告の取締役であるE(以下「E」と10 いう。)に対し、原告が製造及び販売する予定の原告装置の10分の1の模型を見せたところ、Eは、本件特許に係る発明を利用して被告装置を改良したいとの希望を述べたため、同年9月22日、Aは、D及びその他の関係者とともに、被告装置を改良するための打合せを行ったが、同月24日、 Dは、Aに対し、本件特許に係る発明を被告装置に利用することはしない15 旨を伝えた。 ウ 被告の認識について前記ア、イのとおり、被告装置の性能、被告の技術力及び資金力に限界を感じ、本件販売業務委託契約を解消したAが、原告をして本件特許権を取得し、本件特許に係る発明を実施して原告装置を製造及び販売すること20 を計画していたにもかかわらず、競合他社となる被告に対し本件特許権を無償で譲渡することはあり得ない。 被告は、このような事情を十分認識していたものであり、原告との間で本件特許権の譲渡契約書を作成していないこと、承認決議があった旨の原告の取締役会議事録は存在しておらず、被告がこれを確認することはなか25 ったことからすると、被告は、原告の取締役会による承認決議が存在していないことを知っていたといえる。 6仮に、被告がこれを知らなかったとしても、被告には、A本人に本件特許権の無償譲渡をする意思の有無を確認するか、原告の取締役会議事録を確認し、承認決議の有無を確認する義務があったといえ、これをしなかったことに過失があるから、被告は、承認決議を経ていないことを知ること5 ができたといえる。 エ 被告の反論について被告は、Aが、第三者に原告装置を販売しようとしたこと等が本件販売業務委託契約違反に該当するとともに、被告の取締役としての競業避止義務にも違反するから、Aは被告に対して損害賠償義務を負っており、その10 謝罪の意味で、原告が被告に対し本件特許権を無償で譲渡することになったなどと主張する。 しかし、Aは、被告の名目的取締役にすぎず、被告から競業避止義務を免除されていたし、令和元年10月30日に被告の取締役を辞任しており、 原告を設立した時点においては、被告の取締役ではなかった。 15 また、本件販売業務委託契約は、Aと被告との間で締結されたものではなく、海外医療旅行株式会社と被告との間で締結されたものである上、本件販売業務委託契約は平成30年7月10日の時点で期間満了により終了している。 したがって、Aが同日以降の行為について被告に対し損害賠償義務を負20 うことはなく、仮に何らかの責任を負うとしても、本件特許権は原告に帰属するのであるから、原告が被告に本件特許権の無償譲渡をする理由はない。 オ 小括以上のことから、被告は、原告の承認決議が存在しないことにつき知っ25 ていたか、少なくともこれを知ることができたといえ、本件特許権の譲渡は無効である。 7(被告の主張)本件特許権が、原告にとって、会社法362条4項1号に規定する「重要な財産」であり、本件特許権を処分するには、原告の承認決議を経る必要があることは争わない。 5 しかし、本件特許権の譲渡に至る経緯は次のとおりであり、被告は、本件特許権の譲渡につき原告の取締役会において承認決議を経ていないことを知らなかったし、知ることができたともいえないから、本件特許権の譲渡は、 原告内部の承認決議の有無にかかわらず有効である。 Aは、平成28年7月11日、被告との間で本件販売業務委託契約を締結10 していたが、Aからの要請により、被告はAに被告の取締役副社長の肩書を付与することとし、Aは、平成29年11月30日、被告の取締役に就任した。 しかし、Aは、被告装置を販売することが全くできず、令和2年9月1日、 突然、被告に対し、被告の取締役を辞任する旨の辞任届を提出した。被告は、 15 Aの意思を尊重し、辞任届を受理することとしたが、他方で、合意更新により本件販売業務委託契約の効力は継続していたため、Aに被告の「シニアアドバイザー」の肩書を付すこととなった。そのため、Aは、被告の「シニアアドバイザー」として、同月22日の被告装置の改善に関する打合せにも加わっていた。なお、同打合せにおいては、本件特許に係る発明を利用して被20 告装置を改善することが前提とされていたわけではなく、被告装置の改善が図れるかどうかが検討されたにすぎない。 しかし、被告は、令和2年9月下旬から10月初旬にかけて、複数の第三者から、Aが被告製品以外の有機廃棄物処理装置を販売しようとしているとの情報を得た。その後、被告の取締役であるEは、Aの行動から、Aが販売25 しようとしている装置について、何らかの特許権の設定登録がされている可能性があると考え、特許情報を調査したところ、同年7月20日付けで、原8告名義で本件特許権の設定登録がされていることを知った。 被告は、本件販売業務委託契約を締結した平成28年7月以降、Aが被告に対し被告装置の競合製品に関与しない等の義務を負うとの認識を有していた。また、Aは、被告の取締役に就任した以降、被告に対し、会社法上の競5 業避止義務及び善管注意義務を負っていた。 したがって、Aによる原告製品の販売は、本件販売業務委託契約に違反するものであるし、これらの行為の準備行為は少なくともAが被告の取締役在任中から行われていたといえるから、被告に対する競業避止義務にも違反するものであった。 10 そこで、Eは、Cに連絡をとり、上記の経緯を伝えたところ、令和2年10月5日頃、Cから被告の代表取締役であるDに連絡があり、原告の代表者としてAが行った行為を謝罪し、その謝罪の意味で本件特許権を譲渡したいとの申入れがされた。Dは、その申入れはもっともであると考え、受け入れる姿勢を示し、Cに対し、「取締役会決議等の社内決裁手続は取られているん15 でしょうね?」と尋ねたところ、Cは、「Aも了解しているし、社内手続も大丈夫だ。」と述べた。Dは、このようなCの言辞を信じて本件特許権の移転登録手続を実行したものである。 以上の経緯に照らすと、Dが、原告の当時の代表取締役であったCが述べたことを信じたことは正当であり、被告が原告の取締役会による本件特許権20 譲渡の承認決議を経ていないことを知ることができたとは到底いえない。 よって、原告の主張は理由がない。 第3 当裁判所の判断1 争点1(Cにより本件特許権譲渡の意思表示がされたか)について(1) 本件においては、前記前提事実(3)のとおり、本件譲渡証書が存在している25 ところ、証拠(甲5ないし8)及び弁論の全趣旨によれば、原告においては、 その設立当初から、改印前原告代表者印が実印として登録されて使用されて9いたこと、Cは、令和2年10月8日、改印前原告代表者印を亡失したとして、法務局に印鑑・印鑑カード廃止届を提出し、同日、改印前原告代表者印とは別の印鑑(以下「改印後原告代表者印」)を原告の実印として印鑑登録したこと、同日付けの本件譲渡証書の印影は、改印後原告代表者印により顕出5 されたものであることが認められる。 以上の認定事実によれば、改印後原告代表者印を印鑑登録したC自身が、 原告の代表者として、その意思に基づいて本件譲渡証書に押印したものと認められるから、民事訴訟法228条4項により、真正に成立したものと推定される。 10 そして、真正に成立したと認められる本件譲渡証書において、Cが本件特許権を被告に譲渡した事実を認める旨の記載が存在することに加え、C自身が被告に対して本件特許権を譲渡する旨の意思表示をしたことを認める旨の陳述書(乙11)を提出していることを踏まえると、Cが本件特許権を被告に譲渡する意思表示をしたとの事実を認めることができる。 15 (2) この点について、原告は、本件譲渡証書の「譲渡人」欄には「C’」と記載されており、C自身の氏名に誤記があることから、Cが自ら本件譲渡証書に押印したものであるとは考え難いなどと主張する。 確かに、本件譲渡証書のCの氏名には誤記があることが認められるものの、 証拠(甲6、乙12、被告代表者本人)によれば、本件譲渡証書は、弁理士20 が作成したものと認められ、C自身が作成したものではないこと、Cが令和2年10月8日の時点において88歳であり、その年齢に照らして注意力が低下している可能性があることを考慮すると、このような誤記があることのみをもって、本件譲渡証書が第三者により偽造された可能性があるとはいい難く、原告の上記主張は採用することができない。 25 2 争点2(被告が、原告の取締役会決議がないことを知り、又は知ることができたか)について10(1) 前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。 ア Aは、海外医療旅行株式会社の代表取締役として、平成28年7月11日、被告との間で、委託期間を2年間とする本件販売業務委託契約を締結5 し、被告装置の販売業務を遂行していたが、被告装置を販売する上で、Aに、被告における役員の肩書を付与する必要があるとの理由から、平成29年11月30日、被告の取締役に就任した。 イ Aは、令和元年10月31日、本件特許に係る発明の開発並びに同発明を実施して製品を製造及び販売するため、原告を設立して取締役に就任し、 10 遅くとも令和2年9月1日までには、被告に辞任届を提出して被告の取締役を辞任した(甲16、25、26、乙4)。 ウ Aは、令和2年4月17日、発明の名称を「亜臨界水処理装置」とする特許出願をし(特願2020―73937)、同年7月20日、本件特許権の設定登録を受けた。 15 エ 被告の取締役であるEは、令和2年9月下旬から10月初旬にかけて、 複数の第三者から、Aが被告製品とは異なる有機廃棄物処理装置を販売しようとしているとの情報を得て、原告の代表取締役であるCに対し、事実関係の確認をするとともに、抗議をした(乙11)。 オ Cは、令和2年10月5日頃、被告の代表取締役であるDに電話をし、 20 原告の代表取締役として、Aが原告に本件特許権を取得させて被告製品の競合品である原告製品を第三者に販売しようとしたことについて謝罪し、 事態を収拾するため、本件特許権を譲渡したい旨申し入れた。Dは、同申入れを受け入れることとし、Cに対し、「取締役会決議等の社内決裁手続は取れているんでしょうね?」と尋ねたところ、Cは、「Aも了解しているし、 25 社内手続も大丈夫だ。」と述べた。しかし、実際には、原告の取締役会において本件特許権譲渡の承認決議はされていなかった。(乙11、被告本人、 11弁論の全趣旨)カ 被告は、令和2年10月8日頃、弁理士に本件譲渡証書の原案を作成させて、これをCに交付し、Cは、Cの記名の横に改印後原告代表者印により押印し、本件譲渡証書を作成した(甲5、7、8、乙11)。 5 キ 被告は、令和2年10月9日、特許権移転登録申請書に本件譲渡証書を添付した上で、本件特許権の移転登録を被告単独で申請し、本件特許権の移転登録手続をした。なお、同手続がされた時点において、原告は、取締役会設置会社であった。 (2) 前記認定事実に基づき、被告が、原告の取締役会決議がないことを知り、 10 又は知ることができたかについて、以下検討する。 ア 前記(1)エによれば、Dは、本件特許権の譲渡時までには、Aが、原告を設立して原告に本件特許権を取得させ、被告製品と競合する有機物廃棄処理装置を販売しようとしていたことについて、認識していたものと認められる。 15 そして、本件特許権が原告にとって重要な財産であることは被告も認めるところであり、前記(1)イないしエに照らせば、被告は、原告が本件特許権を実施することにより収益を得ようと企図していたことについても認識していたものと認められる。これらの事情に照らすと、被告において、原告が競合他社である被告に対し本件特許権を無償で譲渡することはないと20 考えるのが通常であるといえる。それにもかかわらず、前記(1)オのとおり、 Dは、Cに対し、「取締役会決議等の社内決裁手続は取れているんでしょうね?」と尋ね、Cが「Aも了解しているし、社内手続も大丈夫だ。」と述べたことのみをもって、承認決議が存在すると考え、本件特許権の移転登録手続を経たというのである。 25 このような本件特許権の譲渡の経緯に照らすと、Dにおいて、本件特許権の移転登録手続を経る前に、Cに対し、原告の承認決議があったことを12裏付ける取締役会議事録を提出させるか、又は、原告の実質的経営者であるAに対し、真実本件特許権を譲渡することに承諾しているのかどうかを確認しておけば、本件特許権の譲渡につき、原告の取締役会による承認決議がされていないことを認識できたというべきである。そして、本件特許5 権の移転登録手続を経ることが、被告にとって急を要するものであったとはうかがわれないこと、また、Aが被告の取締役であり、被告とAは既知の関係にあったこと(前記(1)ア)に照らすと、本件特許権の移転登録手続を経る前に、上記の確認をとることは容易であったといえる。 したがって、Dは、少なくとも本件特許権譲渡について原告の取締役会10 における承認決議がなかったことを知ることができたといえるから、本件においては、民法93条ただし書の規定を類推して、原告はCによる本件特許権の譲渡は無効と解するのが相当である。 イ 被告は、本件特許権の譲渡は、Aが被告に対し、競業避止義務違反及び本件販売業務委託契約違反となる行為を行ったことから、それに対する謝15 罪の意味でされたものであるなどと主張して、被告が原告の当時の代表取締役であったCが述べたことを信じたのは正当である旨主張する。 しかし、前記アのとおり、原告が被告に本件特許権を無償で譲渡することを承諾することは通常考え難い上、仮に、Aが被告に対して競業避止義務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代表取締役として本件販売20 業務委託契約違反となる行為を行った事実があるとしても、本件特許権の特許権者は原告であり、原告がA又は海外医療旅行株式会社の上記義務違反の責めを負う理由はないというべきである。したがって、そのような事実は、被告が承認決議の不存在を認識していなかったことを正当化し得るものではない。 25 よって、被告の上記主張は採用することができない。 第4 結論13以上によれば、原告の被告に対する請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部5裁判長裁判官國 分 隆 文10裁判官間 明 宏 充15裁判官バ ヒ ス バ ラ ン 薫14(別紙)特許権目録登録番号 特許第6737561号5 発明の名称 亜臨界水処理装置出願日 令和2年4月17日出願番号 特願2020−73937登録日 令和2年7月20日以上1015 |
事実及び理由 | |
---|---|
全容
|