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関連審決 無効2020-800116
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事件 令和 4年 (行ケ) 10098号 審決取消請求事件

原告 落合刃物工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 小橋立昌 山下幸彦
被告 カワサキ機工株式会社
同訴訟代理人弁護士 鮫島正洋 藤田達郎
同訴訟代理人弁理士 東山喬彦 東山裕樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/04/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2020-800116号事件について令和4年8月8日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は、特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は、新規性及び進歩性についての判断の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は、平成16年8月12日、発明の名称を「茶枝葉の移送方法並びにその移送装置並びにこれを具えた茶刈機」とする発明について特許出願(特願2004-235170号。以下「本件出願」という。)をし、平成21年7月31日、その設定登録を受けた(特許第4349999号。請求項の数15。以下、この特許を「本件特許」という。。
)(甲3) (2) 原告は、令和2年11月30日、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜3、
7〜9及び13に係る発明についての特許の無効審判の請求をし(無効2020-800116号事件。以下「本件審判請求」という。、被告は、令和3年12月6 )日付けで訂正の請求をし、令和4年4月22日付けで同訂正事項を補正する手続補正をした(甲6の1〜3、甲7の1・2。以下、上記手続補正により補正された上記訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正後の本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。本件訂正請求は、請求項1〜4、7〜10及び13〜15を訂正し、請求項5、6、11及び12を削除するとともに、
明細書の一部を訂正するものである。。特許庁は、同年8月8日、本件審判請求に )ついて、本件訂正請求に係る訂正を認めた上で、
「本件審判請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、本件審決の謄本は、同月22日に原告に送達された。
2 本件特許に係る発明の要旨 本件訂正請求に係る訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜3、7〜9及び13の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を請求項の番号に応じて「本件発明1」などといい、本件発明1〜3、7〜9及び13を併せて「本件発明」という。。
) 【請求項1】 バリカン式の刈刃(22)によって刈り取った茶葉や枝幹等の茶枝葉(A)を、移送ダクト(6)内に流す圧力風の作用のみによって、前記刈刃(22)から所定の位置まで移 送する方法であって、
前記移送ダクト(6)は、ダクト内において茶枝葉(A)の移送が開始される移送開始部(31)の下部が、前記刈刃(22)とほぼ同じ高さに設定されるものであり、
刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するにあたっては、負圧吸引作用を奏する背面風(W)のみを前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込むことによって、茶枝葉(A)の移送を行うようにしたことを特徴とする茶枝葉の移送方法。
【請求項2】 前記移送ダクト(6)は、移送開始部(31)が、平面から視て前記刈刃(22)を取り囲むように形成されるものであり、
また前記背面風(W)を前記刈刃(22)の後方から作用させるにあたっては、移送開始部(31)から上昇流として移送ダクト(6)内に送り込むようにしたことを特徴とする請求項1記載の茶枝葉の移送方法。
【請求項3】 前記移送ダクト(6)は、刈り取り方向後方側に、移送ダクト(6)に沿う背面ダクト(7)が併設されるとともに、この背面ダクト(7)の上部には、このダクト内に圧力風を取り込む導入部(8)が形成されるものであり、
前記背面風(W)を前記刈刃(22)の後方から作用させるにあたっては、導入部(8)から下向きの圧力風を背面ダクト(7)内に取り込んだ後、移送ダクト(6)の移送開始部(31)から上昇流として移送ダクト(6)内に送り込むようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の茶枝葉の移送方法。
【請求項7】 茶葉や枝幹等の茶枝葉(A)を刈り取るバリカン式の刈刃(22)に対して、内部に空気流を流す移送ダクト(6)を具え、この移送ダクト(6)内に流す圧力風の作用のみによって、刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送する装置であって、
前記移送ダクト(6)は、ダクト内において茶枝葉(A)の移送が開始される移送開始部(31)の下部が、前記刈刃(22)とほぼ同じ高さに設定されて成り、
また、この装置には、前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)内に、負圧吸引作用を奏する背面風(W)を送り込む吹出口(38)が設けられるものであり、この吹出口(38)から移送ダクト(6)内に背面風(W)のみを送り込むことによって、刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するものであることを特徴とする茶枝葉の移送装置。
【請求項8】 前記移送ダクト(6)の移送開始部(31)は、平面から視て前記刈刃(22)を取り囲むように形成されて成り、
また前記移送ダクト(6)内に送り込まれる背面風(W)は、上昇流として移送開始部(31)から移送ダクト(6)内に送り込まれて成ることを特徴とする請求項7記載の茶枝葉の移送装置。
【請求項9】 前記移送ダクト(6)は、刈り取り方向後方側に、移送ダクト(6)に沿う背面ダクト(7)が併設されるとともに、この背面ダクト(7)の上部には、このダクト内に圧力風を取り込む導入部(8)が形成されるものであり、
前記背面風(W)は、導入部(8)から背面ダクト(7)内に取り込まれた下向きの圧力風が、上昇流として移送開始部(31)から移送ダクト(6)内に送り込まれて成ることを特徴とする請求項7または8記載の茶枝葉の移送装置。
【請求項13】 茶畝(T)を跨いで走行する走行機体(2)と、
この走行機体(2)に取り付けられ摘採作業または剪枝作業を実質的に行う茶刈機体と、
この茶刈機体の後方に設けられ摘採した茶葉を収容可能とする収容部(4)と、
刈り取った茶葉や枝幹等の茶枝葉(A)を茶刈機体から収容部(4)まで移送する移送 装置(5)とを具え、
目的に応じて摘採または剪枝作業が行えるようにした茶刈機であって、
前記移送装置(5)は、請求項7、8、9または10記載の装置が適用されて成ることを特徴とする茶刈機。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 引用発明等の認定 ア 甲1(特開平11-346535号公報)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)の認定 「茶畝T上を跨ぐように走行する走行機体2と、走行機体2に取り付けられて茶葉Aの摘採を行う摘採機体3と、この摘採機体3から離れた後方に設けられ茶葉Aを収容する収容部4と、摘採機体3から収容部4まで茶葉Aを移送する中継移送装置5とを具えて成る茶葉摘採機1であって、
摘採機体3は、平行に二本の摘採機フレームパイプ31を配設すると共に、その下方に摘採機フレーム基板32を平行に設け、バリカン刃を適用した刈刃34は、
摘採機フレーム基板32の前方ほぼ延長上に設けられ、ファンからの送風を摘採機フレーム基板32上に吹き出すための送風ダクト35を刈刃34の斜め上前方に配設し、摘採機体3における摘採機フレームパイプ31と摘採機フレーム基板32とにより区画され、摘採された茶葉Aが中継移送装置5によって上昇移送されるまでの部分を摘採作用部36とするものであり、
収容部4は、金属部材等を適宜組み合わせて成る載置台41を具え、摘採した茶葉Aを収容した収容済収葉袋6bを載置する部分であり、
中継移送装置5は、吹き上げファン51と、送風ダクト52と、収容部4との接続口53とを具えて成り、
吹き上げファン51は、送風ダクト52内に風を送るものであり、
送風ダクト52は、摘採した茶葉Aを摘採作用部36たる刈刃34後方部から収容部4まで風送するものであり、具体的には吹き上げファン51から送り出された 風が、茶葉摘採機1の側部を回り込むようにして摘採作用部36に達し、この部分で茶葉Aと合流し、合流後この茶葉Aを茶葉移送路52aを経由させて収容部4まで風送するもので、この茶葉移送路52aは、移送途中で茶葉Aを傷めることがないように摘採作用部36とほぼ同じ幅寸法を有するように構成され、また収容部4に接続される接続口53側を上方に突き出すように配され、茶葉Aを上昇移送するものであり、
送風ダクト52からの吹出口は、摘採機フレーム基板32後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口し、
接続口53は、茶葉移送路52a内を上昇移送されてきた茶葉Aの出口に相当する部分で、茶葉吐出口54を具えて成り、この茶葉吐出口54に収葉袋6が取り付けられ、茶葉Aを収容できるように構成され、
茶葉Aの摘採を開始すると、茶葉Aは、送風ダクト35から排出される風により摘採作用部36の後方に送られ、次いで、送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風により茶葉移送路52a内を上昇移送され、収葉袋6が取り付けられた茶葉吐出口54に至る、
茶葉摘採機1。」 イ 甲2(特開2004-154021号公報)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)の認定 「茶葉輸送装置を設けた走行茶葉摘採機であって、
茶畝1を挟んで2本のクローラ型の走行装置2、3を門型枠4でつなぎ、門型枠4の下に摘採装置5を設けてあり、摘採装置5の後方には、茶葉収容装置6が設けてあり、摘採装置5と茶葉収容装置6はフレキシブルな輸送ダクト7、8でつながっていて、
門型枠4の上には、ファン9、10が設置してあり、フレキシブルな送風ダクト11、12で摘採装置5と接続され、送風ダクト11、12の先端部は扇状のフード13、14となって、摘採装置5の背面に接続し、輸送ダクト7、8の上端は下 面が開放されたフード15、16となっており、輸送ダクト7、8の下端は扇状のフード19、20となって、摘採装置5の上部に接続され、茶葉収容装置6には、
複数の茶袋17が上面を開放されてセットされ、フード15、16から落下する茶葉をセットされた全部の茶袋17に受けることが出来るようになっており、
バリカン型の刈刃21の上には、回転軸22を中心として回転する回転体23が設けてあり、回転体23の先端にはブラシ24が取り付けてあり、回転体の先端に沿って設けてある底板25は圧力風の吹出口26に臨んでいて、送風ダクト11、
12の先端フード13、14は下端で180°向きを変え、吹出口26となって、
底板25と接続し、
送風ダクト11、12の先端部の扇状の先端フード13、14は、刈り取り方向後方側に、輸送ダクト7、8の下端の扇状のフード19、20に沿って併設され、
上部に送風ダクト11、12が接続されており、
摘採作業は、送風ファン9、10を駆動させると、圧力風が発生し、送風ダクト11、12を通り、吹出口26から輸送ダクト7、8へ吹き上げ、機体を茶畝1に沿って走行させると、回転体23のブラシ24の回転によって、茶葉はバリカン型刈刃21の方へ寄せられて、刈刃21によって切断され、切断された茶葉は、ブラシ24によって底板25に沿う吹出口26に送り込まれ、吹出口26では、下方から吹き上げられている圧力風により、上方へ吹き飛ばされ、フード19、20を通って、輸送ダクト7、8内を上昇し、フード15、16部分で落下し、回転している茶袋17内へ収容される、
走行茶葉摘採機。」 (2) 対比 ア 本件発明1と甲1発明の対比 本件発明1と甲1発明の茶葉摘採機1における茶葉の移送方法とは、次の一致点、
相違点1を有する。
(一致点) バリカン式の刈刃(22)によって刈り取った茶葉や枝幹等の茶枝葉(A)を、
移送ダクト(6)内に流す圧力風の作用のみによって、前記刈刃(22)から所定の位置まで移送する方法であって、
前記移送ダクト(6)は、ダクト内において茶枝葉(A)の移送が開始される移送開始部(31)の下部が、前記刈刃(22)とほぼ同じ高さに設定されるものであり、
刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するにあたっては、前記刈刃(22)の後方側から移送ダクト(6)に背面風(W)を送り込むことによって、茶枝葉(A)の移送を行うようにした茶枝葉の移送方法。
(相違点1) 刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するにあたって、茶枝葉(A)の移送を、本件発明1は「負圧吸引作用を奏する背面風(W)のみを前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込む」ことによって行うのに対し、甲1発明は、
「刈刃34の斜め上前方に配設し」 「送風ダクト35」 たから排出される風である「送風ダクト35風」により「摘採作用部36の後方に送」り、次いで、
「摘採機フレーム基板32後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」する「吹出口」から吹き出される「送風ダクト52風」によって「茶葉移送路52a内を上昇移送」して「茶葉吐出口54」まで移送する点。
イ 本件発明7と甲1発明の対比 本件発明7と甲1発明とは、次の一致点、相違点2を有する。
(一致点) 茶葉や枝幹等の茶枝葉(A)を刈り取るバリカン式の刈刃(22)に対して、内部に空気流を流す移送ダクト(6)を具え、この移送ダクト(6)内に流す圧力風の作用のみによって、刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送する装置であって、
前記移送ダクト(6)は、ダクト内において茶枝葉(A)の移送が開始される移 送開始部(31)の下部が、前記刈刃(22)とほぼ同じ高さに設定されて成り、
また、この装置には、前記刈刃(22)の後方から移送ダクト(6)内に背面風(W)を送り込む吹出口(38)が設けられるものであり、この吹出口(38)から移送ダクト(6)内に背面風(W)を送り込むことによって、刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するものである茶枝葉の移送装置。
(相違点2) 本件発明7は、吹出口(38)が、刈刃(22)の「直後方」から背面風(W)を送り込むように設けられ、
「この吹出口(38)から移送ダクト(6)内に背面風(W)のみを送り込むことによって、刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送する」のに対し、甲1発明は、
「送風ダクト52風」の「吹出口」「摘採機フレーム基板32後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」 はし、「茶葉A」の移送は、「刈刃34の斜め上前方に配設し」た「送風ダクト35」から排出される風である「送風ダクト35風」により「茶葉A」が「摘採作用部36の後方」に送られ、ついで、
「摘採機フレーム基板32後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」する「吹出口」から吹き出される「送風ダクト52風」によって「茶葉移送路52a内を上昇移送され」、
「茶葉吐出口54」に移送される点。
(3) 判断 ア 本件発明1について (ア) 新規性について 本件発明1と甲1発明とには、前記相違点1があり、かつ、前記相違点1の構成が設計上の微差であると判断できる理由も存在しないから、本件発明1と甲1発明とは同一ではない。
(イ) 進歩性について a 甲1発明には、「刈刃34」によって「摘採され」た「茶葉A」を「茶葉吐出口54」まで移送するに当たり、「送風ダクト52風」のみを「刈刃の直後方」 から送り込むことによって行うことについて何らの記載も示唆もない。甲1には、
「送風ダクト35風」を省くことについて何ら記載されておらず、また、甲1発明は、「送風ダクト35風」により茶葉Aを摘採作用部36の後方に送るものであるから、「送風ダクト35風」を省く理由もない。
よって、相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者といえども、甲1発明から容易になし得たものではない。
b また、甲2発明も、「刈刃21によって切断され、切断された茶葉」は、「ブラシ24」によって吹出口26に送り込まれ、「吹出口26」から「圧力風」により「茶袋17内」に移送されるものであるから、刈刃から茶袋17までの移送を「吹出口26」からの「圧力風」のみによって行うことについて記載も示唆もないし、
甲2発明において、「ブラシ24」を省く理由もない。
c そうすると、相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者といえども、甲1発明及び甲2発明から容易になし得たものではない。
(ウ) 小括 よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。また、本件発明1は、
甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2及び3について 本件発明1を引用する本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、本件発明2及び3と甲1発明とは、少なくとも、前記相違点1で相違する。
そして、前記相違点1については、前記ア(イ)で検討したとおり、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明2及び3は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明7について (ア) 新規性について 本件発明7と甲1発明とには、前記相違点2があり、かつ、前記相違点2の構成が設計上の微差であると判断できる理由も存在しないから、本件発明7と甲1発明とは同一ではない。
(イ) 進歩性について a 甲1発明には、「刈刃34」によって「摘採され」た「茶葉A」を「茶葉吐出口54」まで移送するにあたり、「送風ダクト52風」のみを「刈刃の直後方」に設けた吹出口から送り込むことによって刈刃から所定の位置まで移送することについて記載も示唆もない。甲1には、「送風ダクト35風」を省くことについて何ら記載されておらず、また、甲1発明は、「送風ダクト35風」により茶葉Aを摘採作用部36の後方に送るものであるから、「送風ダクト35風」を省く理由もない。
よって、相違点2に係る本件発明7の構成は、当業者といえども、甲1発明から容易になし得たものではない。
b 甲2発明も、「刈刃21によって」「切断された茶葉」は、「ブラシ24」によって吹出口26に送り込まれ、「吹出口26」から「圧力風」により「茶袋17内」に移送されるものであるから、刈刃から茶袋17までの移送を「圧力風」のみによって移送することについて記載も示唆もないし、甲2発明において、「ブラシ24」を省く理由もない。
c そうすると、相違点2に係る本件発明7の構成は、当業者といえども、甲1発明及び甲2発明から容易になし得たものではない。
(ウ) 小括 よって、本件発明7は、甲1に記載された発明ではない。また、本件発明7は、
甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明8、9及び13について 本件発明7を引用する本件発明8、9及び13は、本件発明7の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、本件発明8、9及び13と甲1発明とは、少なくとも、前記相違点2で相違する。
そして、前記相違点2については、前記ウ(イ)で検討したとおり、甲1発明から、
又は甲1発明及び甲2発明から当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明8、9及び13は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
原告主張の取消事由
1 取消事由1(本件発明1の新規性及び進歩性の判断の誤り) (1) 一致点及び相違点1の認定の誤り ア 次のとおり、本件審決は、本件発明1と甲1発明が、
「負圧吸引作用を奏する背面風(W)を前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込むこと」で一致していることを看過したものである。
(ア) 甲1の「なお刈刃34は、摘採機フレーム基板32の前方ほぼ延長上に設けられるものである。そしてこの摘採機体3における摘採機フレームパイプ31と摘採機フレーム基板32とにより区画され、摘採された茶葉Aが中継移送装置5によって上昇移送されるまでの部分を摘採作用部36とする。」との記載(【0013】)や、
「送風ダクト52は、摘採した茶葉Aを摘採作用部36たる刈刃34後方部から収容部4まで風送するものであり、具体的には吹き上げファン51から送り出された風が、茶葉摘採機1の側部を回り込むようにして摘採作用部36に達し、この部分で茶葉Aと合流し、合流後この茶葉Aを茶葉移送路52aを経由させて収容部4まで風送するものである。」との記載(【0016】)から明らかなように、甲1発明の「送風ダクト52風」は、「摘採作用部36」に達するように送り込まれており、
また、「摘採作用部36」の位置は、「刈刃34」で刈り取られた茶葉が直接「摘採作用部36」に送り込まれることから、
「刈刃34」の直後方に位置することが明らかである。
そうすると、甲1発明においては、本件発明1の「背面風(W)」に相当する「送風ダクト52風」が、
「刈刃34」の直後方から、本件発明1の「移送ダクト(6)」に相当する「摘採作用部36」に送り込まれていることが明らかである。
(イ) そして、
「送風ダクト52からの吹出口は、摘採機フレーム基板32後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」しており(甲1の【図5】等)、この吹出口から送り込まれた「送風ダクト52風」が、「摘採作用部36」に達し、「この部分で茶葉Aと合流し、合流後にこの茶葉Aを茶葉移送路52aを経由させて収容部4まで風送する」【0016】 ( )ところ、「摘採作用部36」において「送風ダクト52風」に負圧吸引作用がなければ、このような事象を説明することができない。
この点、本件審決は、甲1発明の「摘採作用部36」が本件発明1の「移送ダクト(6)」に相当するとしつつも、甲1発明の「摘採作用部36」は、負圧が生じるような閉じた流路とはなっていない、そうすると、甲1発明の「送風ダクト52風」は、
「摘採作用部36」の「刈刃34」側の端部においてまで負圧吸引作用を奏するものではないなどと判断したが、甲1の【0016】の前記記載は、
「摘採作用部36」が密閉又は半密閉状態のダクトでなければ説明できない内容である。したがって、甲1発明の「摘採作用部36」は、本件発明1の「移送ダクト(6)」に相当するともに、密閉又は半密閉状のダクトであり、その全体で負圧吸引作用を奏し得るものであると解するのが妥当である。
(ウ) 以上のように、甲1の【0016】【図5】等における記載は、
、 「送風ダクト52風」が「刈刃34」直後方の「摘採作用部36」において負圧吸引作用を奏することを明示している。
それにもかかわらず、本件審決は、一致点の認定に当たり、負圧吸引作用が「摘採作用部36」の全体に及ぶことを見落としたものである。
なお、一般に、密閉又は半密閉されたダクトに特定方向に向けて風を吹き込んだ場合に、その風上側に負圧吸引作用が生じることは、周知の事項である(甲5の1〜7)。
(エ) したがって、本件発明1と甲1発明の一致点は、次の一致点’となる。
(一致点’) 「バリカン式の刈刃(22)によって刈り取った茶葉や枝幹等の茶枝葉(A)を、
移送ダクト(6)内に流す圧力風の作用のみによって、前記刈刃(22)から所定の位置まで移送する方法であって、
前記移送ダクト(6)は、ダクト内において茶枝葉(A)の移送が開始される移送開始部(31)の下部が、前記刈刃(22)とほぼ同じ高さに設定されるものであり、
刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するにあたっては、負圧吸引作用を奏する背面風(W)を前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込むことによって、茶枝葉(A)の移送を行うようにした茶枝葉の移送方法。」 イ 前記アによると、本件発明1と甲1発明との相違点は、次の相違点1’となる。
(相違点1’) 「刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するにあたって、茶枝葉(A)の移送を、本件発明1は「背面風(W)のみを移送ダクト(6)に送り込む」ことによって行うのに対し、甲1発明は、
「刈刃34の斜め上前方に配置し」た「送風ダクト35」から排出される風である「送風ダクト35風」と「送風ダクト52風」によって行う点。」 (2) 判断の誤り ア 甲1の【0016】の記載から明らかなように、甲1発明における「送風ダクト52風」は、茶葉が「摘採作用部36」に入りさえすれば、この部分で茶葉と合流して、合流後この茶葉を収容部まで風送することができるものである。そうすると、「送風ダクト52風」は、単独で、「摘採作用部36」内の茶葉を後方に送ることができるものであるといえる。同段落の記載は、
「摘採作用部36」が密閉又は 半密閉状態のダクトでなければ説明できない内容である。
甲1発明における「送風ダクト35風」について、甲1には、「その際茶葉Aは、
図5(a)に示すように送風ダクト35から排出される風により摘採作用部36の後方に送られる。( 」【0019】)との記載はあるものの、【図5】(a)の記載をみると、茶葉を「摘採作用部36」より後方に送る程の機能がないことは明らかであり、精々「摘採作用部36」内の後方側に送る程度の機能にすぎないと解するのが妥当である。この解釈は、甲1の【0016】における「送風ダクト52風」の機能の説明とも合致している。
そうすると、甲1発明の「送風ダクト35風」 「送風ダクト52風」 は、 が行う「摘採作用部36」内の茶葉を後方へ移送させる機能を補助する程度のものであることが明らかである。
イ 甲1発明のように、走行機体に摘採機体を装着したものでは、刈刃にて刈り取られた茶葉が、刈刃の前進移動に伴って相対的に刈刃の後方、すなわち、
「摘採作用部36」に移動することは、当業者であれば普通に認識できることであるから、
「送風ダクト35風」を省いた態様を当業者はごく普通に想像できる。
さらに、甲1発明において、「送風ダクト35風」を省いた場合に、「摘採作用部36」内に移動した茶葉が、
「送風ダクト52風」のみで、後方へ移送されることも、
甲1の記載事実から当業者がごく普通に想像できることである。
ウ(ア) 本件発明1と甲1発明との間の相違点1’は、要するに、甲1発明においては、「送風ダクト35風」を用いて、「送風ダクト52風」の負圧吸引作用が得られる「摘採作用部36」までの茶葉の移送を補助しているのに対して、本件発明1においては、「送風ダクト35風」のような正面風による補助を省いて、「負圧吸引作用を奏する背面風(W)のみ」で茶葉の移送を行うようにした点にある。
しかし、甲1発明において、多少茶葉の回収率が低下することを許容するのであれば、補助的な「送風ダクト35風」を省くことは、当業者が普通に想像でき、また、
「送風ダクト52風」のみで茶葉の移送が可能であることも、当業者が普通に想 像できることである。本件発明1における「負圧吸引作用を奏する背面風(W)のみ」という構成は、甲1発明の性能を低下させる使用態様をあえて特定しているにすぎない。
(イ) 上記に関し、甲1発明における送風ダクト35は、刈刃34で摘採した茶葉を摘採作用部36の後方まで移送させる機能を有するものであり、これのみで茶葉の中継移送が完了しないことは甲1の記載から明らかであって、送風ダクト35が送風ダクト52に対して補助的な機能しか有さないことは、甲1の記載から当業者が普通に理解できることである。
そして、刈刃34の前進移動を考慮すると、刈刃34で摘採された茶葉は、送風ダクト35がなくても、相対的に刈刃34の後方に移動することは、当業者の技術常識であるといえる。この技術常識を勘案すると、補助的機能の送風ダクト35を省いたとしても、茶葉の回収率が低下してしまうかもしれないが茶葉の移送が可能であるという程度のことは、甲1の記載から当業者が普通に想像できることである。
したがって、甲1において送風ダクト35を省くことが明示されていないとしても、甲1の記載から送風ダクト35を省くことの示唆や動機付けは存在すると考えるのが妥当である。
エ そうすると、本件発明1と甲1発明の差異は、甲1の記載内容に対して、当業者が想像できる範囲のものであって、実質的な差異とはいえず、また、技術的に進歩した内容を全く含まないものであることが明らかである。
(3) 被告の主張について ア 被告は、甲1には送風ダクト52風が刈刃34の直後方から摘採作用分36に送り込む構成など全く開示されていないと主張する。しかし、甲1の【図1】は、
これに刈刃34が図示されていないことから明らかなように、刈刃34と送風ダクト52の位置関係を明示するものではない。他方、甲1の【0016】には、
「送風ダクト52は、摘採した茶葉Aを摘採作用部36たる刈刃34後方部から収容部4まで風送するものであり、具体的には吹き上げファン51から送り出された風が、
茶葉摘採機1の側部を回り込むようにして摘採作用部36に達し」と明示されている。
したがって、送風ダクト52風が刈刃34の直ぐ後方に当たる摘採作用36に送り込まれることは、甲1の記載事実から明らかである。
イ 被告は、甲 1 において送付ダクト52風の負圧吸引作用が摘採作用部36の全体に及ぶとの主張は誤っていると主張する。しかし、甲1における摘採作用部36が密閉又は半密閉状態でないとすると、送風ダクト35から排出される風によって摘採作用部36の後方に移送される茶葉Aには、周辺に分散して回収不能になってしまうものが生じ、甲1発明における茶葉の中継移送機能が低下することになる。
刈刃34の斜め上前方に配置される送風ダクト35からの風を刈刃34で摘採された茶葉Aが受ける場合に、摘採作用部36が開放された空間であるとすれば、軽い茶葉Aは周囲に分散されてしまい、後方に送られる茶葉の量が著しく減少してしまうことは自明であり、茶葉の流れに関する技術常識からして、甲1発明が茶葉の中継移送装置として適正に機能するには、摘採作用部36は、密閉又は半密閉状のダクト形態をなしていることが自明であるといえる。
この点、甲1の【0013】の記載は、単に摘採作用部36の区画範囲を説明するにすぎず、摘採作用部36の構造が摘採機フレームパイプ31や摘採機フレーム基板32で構成されることを説明したものではない。同【0013】には、
「摘採機体3」の構造説明として、「この摘採機体3は、 その上方に一例として平行に二本の摘採機フレームパイプ31を配設すると共に、その下方に茶畝T上面の円弧にほほ合うように摘採機フレーム基板32を平行に設け、更に摘採機フレームパイプ31の片側の寄った位置に摘採機エンジン33を搭載する。」と記載されており、「摘採機フレームパイプ31」や「摘採機フレーム基板32」は、
「摘採機体3」を構成するための構造部品であり、それらで区画されたダクト状の部分が摘採作用部36に当たることが示されていると解するのが妥当な解釈である。
(4) まとめ よって、本件発明1は、甲1発明と実質的に同一であるか、又は甲1発明から当業者が容易に想像できるものである。
2 取消事由2(本件発明7の新規性及び進歩性の判断の誤り) (1) 一致点の認定の誤り 前記1(1)と同様、本件審決は、本件発明7と甲1発明が、「負圧吸引作用を奏する背面風(W)を送り込むこと」で一致していることを看過したものである。
(2) 判断の誤り ア 本件発明7と甲1発明との間には、本件審決が認定した相違点2があるところ、本件発明7の吹出口(38)が、刈刃(22)の「直後方」であるのに対して、
甲1発明の「吹出口」は「摘採機フレーム基板32後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」されているという違いは、本件発明7の「背面風(W)」と甲1発明の「送風ダクト52風」がともに負圧吸引作用を奏する風であり、甲1発明の「摘採作用部36」が本件発明7の「移送ダクト(6)」に相当することを考慮すると、実質的な差異にはならない。
なぜなら、甲1発明における「摘採作用部36」が密閉又は半密閉のダクトであれば、
「吹出口」の風下側に生じる負圧吸引作用は、ダクト内で一様に作用することになり、「吹出口」を刈刃に近づけた場合と同様の機能を奏するからである。
イ 本件審決が指摘する点について、甲1の記載事実に対する誤認識と当業者の技術常識の不知に基づく誤りがあることは、前記1(2)のとおりである。両者の差異は、甲1の記載内容に対して当業者が想像できる範囲のものであって、実質的な差異とはいえず、また、技術的に進歩した内容を全く含まない差異であることが明らかである。
(3) まとめ よって、本件発明7は、甲1発明と実質的に同一であるか、又は甲1発明から当業者が容易に想像できるものである。
3 取消事由3(本件発明13の新規性及び進歩性の判断の誤り) (1) 本件発明7を引用する本件発明13は、本件発明7の構成を全て含み、更に限定を加えるものであるが、加えられた限定事項は、一般的に良く知られる「茶刈機」の構成を特定しているにすぎない。
(2) よって、本件発明13は、本件発明7と同様に、甲1発明と実質的に同一であるか、又は甲1発明から当業者が容易に想像できるものである。
被告の主張
1 取消事由1(本件発明1の新規性及び進歩性の判断の誤り)について (1) 一致点及び相違点1について 次のとおり、原告の主張は誤りであって、本件審決の甲1発明の認定は正当であり、それゆえ、原告の主張する一致点及び相違点1の認定の誤りはない。
ア 「摘採作用部36」は、
「摘採機フレーム基板32」等の複数の要素から構成される部分であり、また、
「刈刃34は、摘採機フレーム基板32の前方ほぼ延長上に設けられるものである」と説明されているにすぎない(甲1の【0013】。
) そして、甲1の【図1】及び【図2】において、送風ダクト52は、刈刃34との位置関係において、摘採機フレーム基板32を介して反対側に設けられており、
摘採機フレーム基板32は、送風ダクト52が位置する側から刈刃34が位置する側に向かって相当程度の長さを有している。
「直後方」とは「直ぐ」後方という意味であるが、送風ダクト52が刈刃34から相当程度の長さを有する摘採機フレーム基板を介した位置にある以上、甲1発明において、送風ダクト52風が刈刃34の直後方から摘採作用部36に送り込まれているとの原告の主張は誤りである。
イ(ア) 甲1の【0016】には、
「送風ダクト52」から吹き出る風(送風ダクト52風)が「摘採作用部36」において「茶葉A」と「合流」する旨記載されているところ、
「合流」とは、一般に、
「二つ以上の川の流れが相合すること。」を意味するから(乙1)、上記記載は、送風ダクト52風の流れと茶葉Aの流れという二つの流れが摘採作用部36において「相合すること」を意味している。
この点、茶葉Aは、送風ダクト52風と合流する前は、
「送風ダクト35から排出される風」によって、摘採作用部36の後方に向かって移送させられる(甲1の【0019】。
) したがって、摘採後の茶葉Aは、送風ダクト35から排出される風によって、摘採作用部36の後方に移送させられ、摘採作用部36の送風ダクト52の吹出口近傍において、送風ダクト52風と合流することとなるのである。送風ダクト52風の負圧吸引作用が摘採作用部36の全体に及ぶ旨の原告の主張は、恣意的な解釈によるものにすぎない。
(イ) 「摘採作用部36」は、
「摘採機体3における摘採機フレームパイプ31と摘採機フレーム基板32とにより区画され、摘採された茶葉Aが中継移送装置5によって上昇移送されるまでの部分」をいうものであり、さらに、甲1には、「上方に」「平行に二本の摘採機フレームパイプ31を配設すると共に、その下方に・・・摘採機フレーム基板32を平行に設け」る構成が開示されている(甲1の【0013】。
) 「パイプ」とは、一般に、
「くだ。特に、水・ガス・などの輸送に使う菅。導管。」を意味し(乙2)、円く長細いものを指す。そうすると、摘採作用部36の上方に二本の摘採機フレームパイプ31を配設するだけでは、摘採作用部36は密閉又は半密閉状態になりようがない。実際、甲1の【図4】(茶葉摘採機を上方から見た図)には、上方から茶葉が見えている状況が示されており、摘採作用部36が密閉又は半密閉のダクトではないことが明確に分かる。
したがって、摘採作用部36が密閉又は半密閉状のダクトであるとの原告の主張は、甲1の記載に明確に反している。
(2) 判断について ア 本件発明1は、本件審決が認定した相違点1において甲1発明と相違しており、新規性を有する。
また、進歩性の判断の誤りについての原告の主張は、新規性の判断の誤りの主張と同一の根拠によるものであるから、同じく失当である。
イ 原告は、甲1発明において、多少茶葉の回収率が低下することを許容するのであれば、補助的な「送風ダクト35風」を省くことは、当業者が普通に想像できたなどとして、負圧吸引作用を奏する背面風(W)のみによって茶枝葉(A)を所定の位置まで移送するという点は実質的な差異とはいえないと主張するが、明らかに失当である。
甲1は、摘採された「茶葉A」が「送風ダクト35から排出される風により摘採作用部36の後方に送られ」、
「次いで」 「送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風により茶葉移送路52a内を上昇移送され、収葉袋6が取り付けられた茶葉吐出口54に至る」構成を明確に記載している(甲1の【0019】。
)これに対し、
「刈刃34」 「茶葉吐出口54」 から までの移送を「送風ダクト35風」を省いて「送風ダクト52風」のみによって行うことを記載し、又は示唆する証拠はない。また、甲1の上記記載にかかわらず、甲1発明において「送風ダクト35風」を省く動機付けも存在しない。
2 取消事由2(本件発明7の新規性及び進歩性の判断の誤り)及び取消事由3(本件発明13の新規性及び進歩性の判断の誤り)について (1) 一致点について 前記1(1)と同様、一致点の認定の誤りをいう原告の主張は、いずれも誤りである。
(2) 判断について ア 本件発明7及び13は、甲1発明と相違点2において相違するから、いずれも新規性を有する。
また、進歩性の判断の誤りについての原告の主張は、新規性の判断の誤りの主張と同一の根拠によるものであるから、同じく失当である。
イ 原告は、摘採作用部36が密閉又は半密閉のダクトであり、送風ダクト52風の負圧吸引作用が摘採作用部36に及ぶなどとして、本件発明7の吹出口(38)が刈刃(22)の直後方にあることは、実質的な差異ではない旨を主張するが、前記1(1)イ(イ)のとおり、甲1発明の摘採作用部36は、密閉又は半密閉のダクトで なく、送風ダクト52風に負圧吸引作用が発生したとしても、それが摘採作用部36の全体に及ぶことはないから、原告の上記主張は失当である。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書の記載 本件明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある(甲3、6の1〜3、甲7の1・2)。
【技術分野】 【0001】 本発明は、茶葉の摘採や枝幹の剪除等を行う茶刈機に関するものであって、特にこれら摘採茶葉や剪除枝幹など刈り取り後の茶枝葉の新規な移送手法と、これを適用した茶刈機に係るものである。
【背景技術】 【0002】 例えば茶葉の摘採を行う摘採機としては、比較的大型の乗用型摘採機が存在する。
このものは、摘採した茶葉の収容部として、大容量のコンテナを搭載したもの、あるいは複数の茶袋を吊り下げ状態に取り付けて収容部を形成する等、大量の茶葉を収容できるようにしたものが多い。
そして、このような摘採機にあっては、例えば図9に示すように、刈刃22′の前方側に茶葉移送のための分岐ノズル47′付きの送風管を配し、この分岐ノズル47′からの送風によって茶葉Aを移送するのが一般的であった。また、刈刃22′から収容部4′まで茶葉Aを移送する移送路は、刈刃22′のほぼ後方に延びる水平移送部Xと、その後に収容部4′の上部に臨むように接続された上昇移送部Yとを具えるのが一般的であった・・・。
【0003】 この際、上昇移送に先立ち、まず茶葉Aを刈刃後方側に水平移送するのは、刈刃 前方からの送風形態を採ることに起因する。すなわち、茶葉Aを上昇移送するには、
その前までに茶葉Aに、ある程度の流速を持たせる必要があり、このために刈り取り直後の茶葉Aをまず後方側(水平)に送り、充分に加速するものである。言い換えれば水平移送部Xは上昇移送に備えて茶葉Aの流速を増すため、もしくはエネルギーを蓄積するための助走路の作用を担うものである。
しかしながら、このような移送形態(送風形態)では、水平移送部Xを要する分、
移送装置5′ひいては摘採機の前後長が長くなり、摘採機の取り回し性を低下させてしまうという問題があった。
このため水平移送部Xを極力短縮、もしくは排除することが考えられるが、分岐ノズル47′からの送風は、茶葉Aを上昇移送するのに充分な送風力を有するものであり、刈刃22′の前方から、このような強力な送風を行っている状態では、急激に移送方向を水平から上向きに切り換えると、茶葉Aに傷みが生じ易く、刈刃前方からの送風形態を採りながら、水平移送部Xを排除することは不可能であった。
【0004】 一方、装置の前後長を短縮化したい、という要請が顕在化するものとしては、二段刈摘採機等の複数段刈茶刈機が挙げられる。ここで二段刈摘採機としては、例えば異なった刈り取り高さに設定できる二基の刈刃を前後に配するとともに、各刈刃毎に上昇移送路を具えたものがある。この際、刈刃同士の前後方向における離反距離が空き過ぎていると、茶畝地の凹凸面が摘採面に現れ易く、刈り取りが綺麗に行えないことがあった。この場合、摘採茶葉の均一性が低下し、収穫した茶芽(例えば新芽)に古葉が混入することがあり、その後の製茶加工も円滑に行えないことがあった。
このため、二段刈摘採機等においても、極力、刈刃同士の前後間隔を狭めることが強く望まれていたが、刈刃前方からの従来の送風形態では、上昇移送部Yの前段に水平移送部Xを要するため、刈刃同士の前後間隔を狭めるには一定の限界が生じていた。
このようなことから、本出願人は、半ば技術常識となっていた、刈刃前方からの送風形態を根本から見直し、送風形態(移送形態)そのものから移送装置ひいては摘採機の短縮化を試みたものである。
【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、主に送風形態に着眼し、例えば上昇移送を伴う摘採機等の場合、水平移送部を設けることなく、刈り取り直後、 茶葉を上昇移送できるようにし、
即、 摘採機の前後寸法の短縮化を図り、
摘採機をコンパクトに構成できるようにした新規な茶枝葉の移送方法並びにその移送装置並びにこれを適用した茶刈機の開発を試みたものである。
【課題を解決するための手段】 【0006】 すなわち請求項1記載の茶枝葉の移送方法は、バリカン式の刈刃(22)によって刈り取った茶葉や枝幹等の茶枝葉(A)を、移送ダクト(6)内に流す圧力風の作用のみによって、前記刈刃(22)から所定の位置まで移送する方法であって、
前記移送ダクト(6)は、ダクト内において茶枝葉(A)の移送が開始される移送開始部(31)の下部が、前記刈刃(22)とほぼ同じ高さに設定されるものであり、
刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するにあたっては、負圧吸引作用を奏する背面風(W)のみを前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込むことによって、茶枝葉(A)の移送を行うようにしたことを特徴として成るものである。
【0012】 また請求項7記載の茶枝葉の移送装置は、茶葉や枝幹等の茶枝葉(A)を刈り取るバリカン式の刈刃(22)に対して、内部に空気流を流す移送ダクト(6)を具え、この移送ダクト(6)内に流す圧力風の作用のみによって、刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈 刃(22)から所定の位置まで移送する装置であって、
前記移送ダクト(6)は、ダクト内において茶枝葉(A)の移送が開始される移送開始部(31)の下部が、前記刈刃(22)とほぼ同じ高さに設定されて成り、
また、この装置には、前記刈刃(22)の後方から移送ダクト(6)内に、負圧吸引作用を奏する背面風(W)を送り込む吹出口(38)が設けられるものであり、この吹出口(38)から移送ダクト(6)内に背面風(W)のみを送り込むことによって、刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するものであることを特徴として成るものである。
【発明の効果】 【0021】 これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。すなわち請求項1または7記載の発明によれば、刈刃後方から移送ダクト内に空気流を送り込んで茶枝葉を所望の部位に移送するため、例えば刈り取り直後の茶枝葉を水平移送せずに、上方等に移送することができ、極めて斬新且つ画期的な移送形態が採り得る。
【0022】 また請求項2または8記載の発明によれば、刈刃後方から上向きの背面風を作用させることによって、刈り取り直後の茶枝葉を水平移送せずに、即、上昇移送することができる。
【0023】 更にまた請求項3または9記載の発明によれば、導入部から背面ダクト内に導入した圧力風を、上向きの背面風として移送ダクト(移送開始部)に送り込むため、
刈り取り直後の茶枝葉を、そのまま上昇移送する合理的構成を現実のものとする。
また、移送ダクトをほぼ鉛直に立ち上げるように形成した場合には、水平移送路を要しない分、移送装置ひいては茶刈機の前後長を短縮化できる。なお、この短縮化の点について、背面ダクトを移送ダクトに対して密着状態に設けたことも短縮化に 寄与する。
【0027】 また請求項13記載の発明によれば、上述した移送手法を茶刈機に適用するため、
例えば刈り取り後の茶枝葉を上昇移送する茶刈機にあっては、刈り取り直後、水平移送部を設けることなく、そのまま茶枝葉を上昇移送することができ、前後長の短縮化が図れ、コンパクトな茶刈機が実現できる。また、上昇移送を伴わない茶刈機、
すなわち刈り取り後の茶枝葉を刈刃後方側にそのまま移送する茶刈機にあっては、
刈刃前方から作用させる正面風を全く省略でき、シンプルな構造の茶刈機が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】 【0030】 本発明の最良の形態は、以下の実施例に述べる通りである。なお説明にあたっては、まず本発明の茶刈機として摘採機を例に挙げながら、その全体構成を概略的に説明し、併せて本発明装置である茶枝葉の移送装置について説明する。また、この摘採機としては、刈り取った茶葉Aを上昇移送して収容部に収容する、いわゆる大型の乗用式摘採機(茶畝跨走型摘採機1)を例に挙げて説明する。
なお本発明の移送手法そのものは、茶芽を刈り取る摘採作業のみならず、樹形を整え樹勢の回復を図るために枝幹を剪除する剪枝作業にも利用でき、このようなことに因み、本発明の名称中や請求項等に記載した「茶枝葉」とは、摘採した茶葉Aと剪除した枝幹とを総称するものである(茶枝葉にも茶葉と同一の符号Aを付す)。
また、
「茶刈」もしくは「茶刈機」とは、摘採(摘採機)と剪枝(剪枝機)とを総称するものである。なお剪枝作業の具体的形態については後述する。
実施例】 【0031】 本発明の移送手法を適用した茶畝跨走型摘採機1は、一例として図1、2に示すように、茶畝Tを跨ぐように走行する走行機体2と、この走行機体2によって茶畝 T上面に位置するように支持される摘採機体3と、摘採機体3の後方に設けられ摘採した茶葉Aを収容する収容部4と、摘採した茶葉Aを摘採機体3から収容部4まで移送する移送装置5とを具えて成るものである。以下、各構成部について説明する。
【0032】 まず走行機体2について説明する。・・・ 【0034】 また前記連結フレーム11B上には、刈刃22によって刈り取った茶葉Aを風送するための送風機17を設けるものであって、この送風機17は前記原動機16により直接駆動される。そして、この送風機17からは送風ダクト18を介して圧力風が移送装置5(摘採機体3側)に供給される。なお送風ダクト18は、一部または全部が、フレキシブルダクト18Aによって構成され、移送装置5に接続されている。
なお本実施例では摘採した茶葉Aを茶袋Bに収容する形態を採るため、上記連結フレーム11Bには、茶葉Aでいっぱいになった茶袋Bを仮置きする回動アーム19(図2参照)が設けられ、茶袋Bを載置する際には、この回動アーム19を摘採機の側方に張り出すようにウイング状に拡げ、ここに載せるものである。
【0035】 次に摘採機体3について説明する。このものは茶葉Aの摘採を実質的に行うものであり、刈刃22を主要部材として成るものである。この刈刃22は、例えば上下一対の刈刃体22Aと、これら刈刃体22Aを摺動自在に支持する刈刃支持フレーム22Bと、刈刃体22Aを偏心板やエキセントリックシャフト等によって往復摺動させる駆動部22Cとを具えて成り、上下一対の刈刃体22Aを交互に往復動させることで、各刈刃体22Aに形成した刃(歯)のバリカン作用により茶葉Aを刈り取るものである(図2参照)。
【0040】 次に本発明装置である茶枝葉Aの移送装置5について説明する。移送装置5は、
刈り取った茶葉Aを所定の位置に向けて移送する部位であり、ここでは茶葉Aを摘採機体3から収容部4まで中継移送するものである。具体的には刈り取り直後の茶葉Aを収容部4に向けて刈刃22のほぼ真上に上昇移送する形態を採る。ここで、
茶葉Aの移送は空気流、つまりダクト内に圧力風を送り込んで収容部4に移送するものであり、ここでは複数のダクト部材を用いることに因み、これらをダクトユニット5Aと総称する。
【0041】 ダクトユニット5Aは、一例として図1〜3に示すように、移送ダクト6と背面ダクト7とを主要部材として成るものである。このうち移送ダクト6は、刈刃22の直上部からほぼ真っ直ぐに立ち上げられた後、収容部4上方に臨むように形成されるものである。また背面ダクト7は、刈刃22の後方側、すなわち摘採方向に対して後方となる刈刃22の背面側から、前記移送ダクト6内に上昇流となる圧力風(これを背面風Wとする)を送り込むものである。以下、これら移送ダクト6や背面ダクト7等について更に詳細に説明する。
【0042】 まず移送ダクト6について説明する。このものは、上述したように刈刃22のほぼ真上に立ち上げられ、刈り取り直後の茶葉Aを収容部4まで上昇移送するものである。ここで移送ダクト6において茶葉Aの移送が開始される部位(下部)を移送開始部31とし、茶葉Aの移送が終わる部位(上部)を移送終端部32とするものであり、この移送終端部32には収容部4に臨む吐出口33が形成される。また、
実施例では、移送開始部31は、下方側に開口され、平面から視て、刈刃22を取り囲むように形成されている。一方、移送終端部32は、吐出口33が収容部4に臨むように適宜湾曲形成されるものであり、更にこの吐出口33には茶袋Bの開放端側を取り付けるフック34が設けられる。
【0043】 なお移送ダクト6は、移送開始部31から吐出口33(移送終端部32)に至る移送途中において、幅寸法や断面積等を急激に変化させないことが好ましく、これは移送に伴う茶葉Aの傷みを極力低減させるためである。また、移送路は、例えば図3(a)に示すように、途中部分が二股状に分岐するように形成され、この分岐部35に前記送風機17からの圧力風を背面ダクト7に取り込む導入部8が設けられる(導入部8については後述する)。分岐部35は、上昇移送する茶葉Aを左右に分ける部位となるため、分岐部35に茶葉Aが当たっても極力茶葉Aが傷まないように、滑らかなR状つまり移送路としては略U字状を成し、スムーズに茶葉Aを左右に振り分けるようにすることが好ましい。
【0044】 また、このような移送ダクト6(ダクトユニット5A)は、少なくとも一部が入れ子状もしくはフレキシブル状に形成され、刈刃22とともに上下動できる構成が望ましい。
以上述べたように、本実施例では、茶葉Aを上昇移送するにあたり刈刃後方側への移送を伴わないため、移送装置5ひいては摘採機の前後長を短縮化できるものであるが、これに加え、摘採機を側面から視た場合、上記導入部8を、移送ダクト6とほぼ重なるように設けたことも、ダクトユニット5A(移送装置5)としての厚み(摘採機の前後方向に相当する寸法)を薄くすることができ、摘採機の前後長短縮化に寄与するものである。
【0045】 次に背面ダクト7について説明する。このものは、上述したように刈刃22の後方側から移送ダクト6(移送開始部31)内に背面風Wを送り込むダクトであり、
移送ダクト6の背面側に密着状態に設けられる。ここで図中符号38は、背面風Wを移送ダクト6内に送り込む吹出口である。
なお、本実施例では、別体構成の移送ダクト6と背面ダクト7とを張設してダクトユニット5Aを形成するものであるが、上述した構成上、これらは一体的に形成 することも可能であり、その場合には、移送ダクト6の後方壁面は、背面ダクト7の前方壁面と共通化させることが可能である。
【0046】 また背面ダクト7は、摘採機の背面から視た場合、上方の導入部8を頂上とするような山形を呈し(図3(a)参照)、上方には、前記導入部8に連通する導入口39が開口されている。これによって、背面ダクト7は導入口39から圧力風を取り込むことができ、この圧力風を下方に導いた後、移送ダクト6(移送開始部31)に上昇流として送り込むものである。因みに背面ダクト7は、ほぼ一定の薄い厚さに形成され、これも摘採機の前後長短縮化に寄与するものである。
【0047】 また背面ダクト7内には拡開案内体40が形成されるものであり、これは導入口39から取り込んだ圧力風を刈刃22の幅方向にわたって、ほぼ均一に流すための部材である。具体的には、一例として図3(a)に併せて示すように、断面L字状のブラケットを複数用い、これを導入口39から刈刃22に向かって末広がり状もしくは放射状に取り付けて構成される。そして、この拡開案内体40によって、一カ所の導入口39から圧力風を取り込んでも、刈刃22の幅方向にほぼ均一に案内し、刈刃22の全幅にわたって同程度の強さの背面風Wに変換し得るものである。
【0048】 次に、導入部8について説明する。このものは、前記送風機17からの圧力風を、
背面ダクト7の導入口39に導くためのものであり、一例として図3(b)に示すように、舌片状のガイド板43を具え、このガイド板43を傾斜状態に設けることで、上述した空気流、すなわちフレキシブルダクト18Aによって送風機17から供給された圧力風を、導入口39から背面ダクト7内に送り込む送風を達成する。
なお導入部8は、ガイド板43と、これを両側から挟み込む移送ダクト6の両外側面とによって、導入部8の下方と左右が閉塞された状態となり、フレキシブルダクト18Aから供給される圧力風を、ほぼそのまま導入口39から背面ダクト7内 に案内するものである。
【0049】 本発明の茶刈機の一例であり、また本発明の移送手法を適用した茶畝跨走型摘採機1は、以上のような基本構造を有するものであり、以下、このような摘採機における茶葉Aの移送態様を説明しながら、実質的に本発明方法である茶枝葉の移送方法について説明する。なお、説明にあたっては、背面風Wの形成過程を説明した後、
これによる茶葉Aの移送態様について説明する。
【0050】 (1)背面風の形成過程 背面風Wを生じさせるには、まず走行機体2上の原動機16を駆動し、送風機17によって圧力風を生起する。生起された圧力風は、その後、送風ダクト18(フレキシブルダクト18A)を通して導入部8に導かれ、ここでガイド板43に案内されて、導入口39から背面ダクト7内に取り込まれる。背面ダクト7内に導入された圧力風は、次いで、背面ダクト7内に設けられた拡開案内体40によって、刈刃22の幅方向にほぼ均一に拡がるようにガイドされ、刈刃後方の吹出口38から背面風Wとして移送ダクト6(移送開始部31)内に送り込まれる。この背面風Wは、刈刃22の後方から、ほぼ真上に向かう上昇流であり、少なくとも茶葉Aを移送ダクト6の吐出口33(移送終端部32)まで搬送する移送能力を有する。
【0051】 (2)茶葉の移送態様 このような背面風Wによって、茶葉Aは、一例として図4に示すように、刈り取り直後、まず刈刃22の後方側に引き寄せられる。これは、刈刃22の後方から背面風Wを吹き出すことにより、刈刃22の後方付近、具体的には、背面風Wの吹出口38近傍に負圧が形成され、茶葉Aが刈刃部分から吹出口38側に引き寄せられるものと考えられる(以下、これを背面風Wの負圧吸引作用と称する)。そして、吹出口38側に引き付けられた茶葉Aは、その後、上昇流を形成する背面風Wに乗っ て、移送ダクト6内を上昇し、吐出口33から収容部4に設けられた茶袋B内に収容される。
〔他の実施例〕 【0052】 本発明は、以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。すなわち先の図1〜4に示した実施例では、刈刃22の後方から作用する背面風Wのみによって茶葉Aを移送するものであり、これが本発明の大きな特徴である。しかしながら、摘採する茶芽の生育状態、移送路の状況(上昇移送距離等)、背面風Wを生起させる送風機17の能力等によっては、例えば図5、8に示すように背面風Wに加えて、刈刃22の正面側(刈り取り方向正面側)からも移送風(これを正面風W1とする)を補助的に作用させることが可能であり、このような正面風W1を補助的に作用させること自体、設計上、全く問題なく採り得る構成である。因みに、このような構成を採った場合には、正面風W1を生じさせる正面ダクト9を移送ダクト6の正面側に密着状態に設けることが好ましく、これに因み上記ダクトユニット5Aは、移送ダクト6、背面ダクト7、正面ダクト9とによって主に構成される。
【0053】 なお正面風W1を生じさせるにあたっては、例えば上記図5(b)に併せて示すように、導入部8のガイド板43を、二枚の傾斜板により、側面視、山形状に形成するものである。すなわち導入部8に取り込んだ圧力風をガイド板43(二枚の傾斜板)によって、背面ダクト7と正面ダクト9とに振り分けるようにするものである。なおここで二枚の傾斜板を各別に表示する場合には、その作用から背面ガイド板43Aと正面ガイド板43Bとして区別する。また、この場合、例えば背面ガイド板43Aと正面ガイド板43Bの合わせ位置、すなわちガイド板43の頂上の位置によって、背面風Wと正面風W1の流量バランスが決定でき、ガイド板43が、
背面風Wと正面風W1との風量の調整作用をも担うものである。もちろん茶葉Aの 上昇移送は、主に背面風Wが担うため、背面ダクト7に導入する風量(流量)が多く、大部分を占めるのが一般的である。
また、このようなことから正面ダクト9にも導入部8から圧力風を取り込む導入口46が、移送ダクト6側の壁面に開口されるものである。
【0058】 また本発明の移送手法は、刈刃後方からの背面風Wによって、その吹出口38付近に負圧を生じさせ、この負圧吸引作用によって刈り取り直後の茶枝葉Aを刈刃後方側に引き寄せ、その後は茶枝葉Aを背面風Wに乗せて、収容部4など適宜の部位に移送するものである。このため、背面風Wの負圧吸引作用を効率的に利用するには、刈刃22の直後方から背面風Wを作用させる構成が好ましいと考えられるが、
例えば図7(b)に示すように、刈刃22から背面風Wの吹出口38までの距離が比較的長いものにも、背面風Wによる移送手法を適用することは可能である。この際、上述したように、背面風Wによる負圧吸引作用は幾らか低下することが考えられるため、その場合には、刈刃22の前方側に、正面ダクト9による分岐ノズル47を設け、刈刃前方からの送風を補助的に行うことが設計上、何ら支障なく採り得る構成である。なお、この場合、上述したように、分岐ノズル47による送風を行っても、従来、前方から風を送り込んでいた送風力と比較すれば、分岐ノズル47の送風力は、極めて少ない送風力で済むと考えられる。
【図1】 【図2】 【図3】【図4】 【図7】 (2) 本件発明の概要 ア 技術分野 本件発明は、茶葉の摘採や枝幹の剪除等を行う茶刈機に関するもので、特に摘採茶葉や剪除枝幹など刈り取り後の茶枝葉の新規な移送手法と、これを適用した茶刈機に係るものである。(本件明細書の【0001】) イ 背景技術 (ア) 例えば茶葉の摘採を行う摘採機としては、比較的大型の乗用型摘採機が存在するところ、このような摘採機にあっては、刈刃の前方側に茶葉移送のための分岐ノズル付きの送風管を配し、この分岐ノズルからの送風によって茶葉を移送するのが一般的であり、また、刈刃から収容部まで茶葉を移送する移送路は、刈刃のほぼ後方に延びる水平移送部と、その後に収容部の上部に臨むように接続された上昇移送部とを具えるのが一般的であった。(同【0002】) しかし、このような移送形態(送風形態)では、水平移送部を要する分、移送装置ひいては摘採機の前後長が長くなり、摘採機の取り回し性を低下させてしまうという問題があった。このため水平移送部を極力短縮し、又は排除することが考えられるが、刈刃の前方から強力な送風を行っている状態では、急激に移送方向を水平から上向きに切り換えると、茶葉に傷みが生じ易く、刈刃前方からの送風形態を採りながら、水平移送部Xを排除することは不可能であった。(同【0003】) (イ) 装置の前後長を短縮化したいという要請が顕在化するものとして、二段刈摘採機等の複数段刈茶刈機、例えば異なった刈り取り高さに設定できる二基の刈刃を前後に配するとともに、各刈刃毎に上昇移送路を具えたものがあるところ、刈刃同士の前後方向における離反距離が空き過ぎていると、茶畝地の凹凸面が摘採面に現れ易く、刈り取りが綺麗に行えないことなどがあった。このため、二段刈摘採機等においても、極力、刈刃同士の前後間隔を狭めることが強く望まれていたが、刈刃前方からの従来の送風形態では、上昇移送部の前段に水平移送部を要するため、刈刃同士の前後間隔を狭めるには一定の限界が生じていた。(同【0004】) ウ 発明が解決しようとする課題 本件発明は、主に送風形態に着眼し、例えば上昇移送を伴う摘採機等の場合、水平移送部を設けることなく、刈り取り直後、即、茶葉を上昇移送できるようにし、
摘採機の前後寸法の短縮化を図り、摘採機をコンパクトに構成できるようにした新規な茶枝葉の移送方法並びにその移送装置並びにこれを適用した茶刈機の開発を試みたものである。(同【0005】) エ 課題を解決するための手段及び発明の効果 本件発明1は、本件訂正請求に係る訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載の構成を特徴として成る移送方法であり、本件発明7は、同請求項7に記載の構成を特徴として成る移送装置であり、本件発明1又は7によると、刈刃後方から移送ダクト内に空気流を送り込んで茶枝葉を所望の部位に移送するため、例えば刈り取り直後の茶枝葉を水平移送せずに、上方等に移送することができ、極めて 斬新かつ画期的な移送形態が採り得る。 【0006】 (同 、
【0012】、
【0021】) 2 甲1の記載事項について 甲1は、平成11年12月21日に公開された発明の名称を「茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造」とする特許出願に係るものであり、甲1には次の記載がある。
【特許請求の範囲】 【請求項1】 茶畝を跨ぐように走行する走行機体と、茶畝上面に位置するように走行機体に取り付けられて茶葉の摘採を行う摘採機体と、この摘採機体の後方に設けられ茶葉を収容する収容部と、前記摘採機体から収容部まで茶葉を移送する中継移送装置とを具えて成り、走行機体の進行に伴い、摘採機体によって摘採した茶葉を中継移送装置を介して収容部に送り込むようにした茶葉摘採機において、前記中継移送装置と前記収容部との接続位置は中継移送装置の始端より上方に設定され、
且つ中継移送装置による移送は摘採機体における刈刃後方への茶葉の移送態様を維持したまま、収容部まで至らせることを特徴とする茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造。
【請求項2】 前記中継移送装置と前記収容部とは、その接続部を側面から見て上方に突き出すような山形に屈折させた状態に接続されていることを特徴とする請求項1記載の茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造。
【請求項3】 前記中継移送装置は、摘採機体から収容部まで摘採作用部とほぼ同じ幅寸法を有し、摘採した茶葉の移送態様を維持することを特徴とする請求項1または2記載の茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造。
【請求項4】 前記中継移送装置は、ダクト状に形成され、移送風が吹き込まれることを特徴とする請求項1、2または3記載の茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造。
【請求項5】 前記中継移送装置の茶葉吐出口には、複数の収葉袋を並設し、一挙に大量の茶葉を収容可能としたことを特徴とする請求項1、2、3または4記載 の茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造。
【請求項6】 前記走行機体は、クローラ等により走行する乗用式であることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造。
発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は茶畝を跨いで走行する走行機体に、茶葉の摘採を行う摘採機体を搭載した茶葉摘採機に関するものであって、特に収穫した茶葉を傷めることなく一挙に大量の茶葉を収容可能とする新規な茶葉収容構造に係るものである。
【0004】 【開発を試みた技術的課題】本発明は・・・、収葉袋に一挙に大量の茶葉を収容しながらも茶葉に傷みを生じさせない新規な茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造の開発を試みたものである。
【0005】 【課題を解決するための手段】すなわち請求項1記載の茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造は、茶畝を跨ぐように走行する走行機体と、茶畝上面に位置するように走行機体に取り付けられて茶葉の摘採を行う摘採機体と、この摘採機体の後方に設けられ茶葉を収容する収容部と、前記摘採機体から収容部まで茶葉を移送する中継移送装置とを具えて成り、走行機体の進行に伴い、摘採機体によって摘採した茶葉を中継移送装置を介して収容部に送り込むようにした茶葉摘採機において、
前記中継移送装置と前記収容部との接続位置は中継移送装置の始端より上方に設定され、且つ中継移送装置による移送は摘採機体における刈刃後方への茶葉の移送態様を維持したまま、収容部まで至らせることを特徴として成るものである。この発明によれば、摘採作業の効率を低下させずに一挙に大量の茶葉を収容することが可能となる。
また茶葉の移送態様を途中で変化させないため移送部分が狭められることもなく、
茶葉に傷みを生じさせることもない。
【0007】更にまた請求項3記載の茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造は、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記中継移送装置は、摘採機体から収容部まで摘採作用部とほぼ同じ幅寸法を有し、摘採した茶葉の移送態様を維持することを特徴として成るものである。この発明によれば、摘採した茶葉に傷みを生じさせることなく、一挙に大量の茶葉を収容する具体的構造を可能とする。
【0008】また請求項4記載の茶畝跨走型茶葉摘採機における茶葉収容構造は、
前記請求項1、2または3記載の要件に加え、前記中継移送装置は、ダクト状に形成され、移送風が吹き込まれることを特徴として成るものである。この発明によれば、摘採した茶葉を収葉袋に収容する際、茶葉の飛散を防止しより確実に茶葉を収容し得る。
【0011】 【発明の実施の形態】以下本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお説明にあたっては本発明を適用した茶葉摘採機1を概略的に説明した後、この茶葉摘採機1の作動態様について説明しながら実質的に本発明の茶葉収容構造について説明する。茶葉摘採機1は、図1、2に示すように一例として茶畝T上を跨ぐように走行する走行機体2と、茶畝T上面に位置するように走行機体2に取り付けられて茶葉Aの摘採を行う摘採機体3と、この摘採機体3から離れた後方に設けられ茶葉Aを収容する収容部4と、摘採機体3から収容部4まで茶葉Aを移送する中継移送装置5とを具えて成るものである。また中継移送装置5の吐出側には摘採した茶葉Aを収容する収葉袋6が取り付けられ、茶葉収容時には安定的に収容部4上に載置される。なおこの収葉袋6を茶葉Aを収容していない状態のものと、収容したものとに区別して示す場合には未収容収葉袋を6a、収容済収葉袋を6bとして区別する。以下各構成部について説明する。
【0012】まず走行機体2について説明する。この走行機体2は茶畝Tを跨ぐ ように概ね門形状に形成されたフレーム部21を骨格部材とし、このフレーム部21に対し下方にクローラ22を設けるとともに上方に摘採機体3が取り付けられる。
そしてこのクローラ22や摘採機体3を駆動させるためのコントロールユニット23やエンジンユニット24あるいは摘採機体3及び中継移送装置5等の昇降に関与するスライダ25やウインチ26あるいは作業者が座る操縦者用シート27等がフレーム部21に設けられる。なおこの実施の形態では、茶葉摘採機1として操縦者用シート27を設けた乗用式のものを適用するが、この他にも例えば作業者が搭乗することなく摘採作業が行えるいわゆるレール走行式の摘採機を適用することも可能である。
【0013】次に摘採機体3について説明する。この摘採機体3は、その上方に一例として平行に二本の摘採機フレームパイプ31を配設すると共に、その下方に茶畝T上面の円弧にほぼ合うように摘採機フレーム基板32を平行に設け、更に摘採機フレームパイプ31の片側の寄った位置に摘採機エンジン33を搭載する。そしてこの摘採機エンジン33によって一例としてバリカン刃を適用した刈刃34が駆動されるとともに、摘採機エンジン33の下方に一体的に組み付けたファンからの送風を摘採機フレーム基板32上に吹き出すための送風ダクト35を刈刃34の斜め上前方に配設する。なお刈刃34は、摘採機フレーム基板32の前方ほぼ延長上に設けられるものである。そしてこの摘採機体3における摘採機フレームパイプ31と摘採機フレーム基板32とにより区画され、摘採された茶葉Aが中継移送装置5によって上昇移送されるまでの部分を摘採作用部36とする。
【0014】次に収容部4について説明する。収容部4は、最終的に茶葉Aを収容する部分であり、摘採した茶葉Aを収容した収容済収葉袋6bを載置する部分である。そして収容部4は、金属部材等を適宜組み合わせて成る載置台41を具え、
この載置台41が一例として後方下がりの傾斜を有するように形成され、後述する中継移送装置5と共に側面視で山形に屈折した状態を呈するように接続される。このため中継移送装置5から吐き出された茶葉Aは、収葉袋6内に落下しやすくなり、
一つの収葉袋6により多くの茶葉Aが収容される。そして載置台41の途中部分には、フラット状の作業台42を形成し、未収容収葉袋6aの取り付けや収容済収葉袋6bを降ろす際の作業の足場としている。また載置台41の両側端からは、ガイドフレーム43が立ち上げられ、収容途中あるいは収容後の収葉袋6の側傍部への落下を防止している。なお収容部4と中継移送装置5との接続は山形に屈折させるものであるが、本明細書に記載するこの山形とは収容部4と中継移送装置5とのどちらか一方あるいは双方を鉛直状態に配する場合を含むものである。すなわち例えば収容部4のみをほぼ鉛直に形成し、中継移送装置5から吐き出された茶葉Aが収葉袋6内をほぼ鉛直に安定的に落下させる形態等が採り得る。
【0015】次に中継移送装置5について説明する。中継移送装置5は、摘採機体3と共にスライダ25によって昇降自在に支持され、摘採機体3により摘採された茶葉Aを収容部4まで移送するためのものであり、吹き上げファン51と、送風ダクト52と、収容部4との接続口53とを具えて成るものである。吹き上げファン51は、一例として図3、4に示すように走行機体2上部の左右に二基設けられ、
別途モータ等により駆動され送風ダクト52内に風を送るものである。
【0016】送風ダクト52は、摘採した茶葉Aを摘採作用部36たる刈刃34後方部から収容部4まで風送するものであり、具体的には吹き上げファン51から送り出された風が、茶葉摘採機1の側部を回り込むようにして摘採作用部36に達し、この部分で茶葉Aと合流し、合流後この茶葉Aを茶葉移送路52aを経由させて収容部4まで風送するものである。この茶葉移送路52aは、移送途中で茶葉Aを傷めることがないように摘採作用部36とほぼ同じ幅寸法を有するように構成され、また収容部4に接続される接続口53側を上方に突き出すように配され、茶葉Aを上昇移送するものである。また茶葉移送路52a内面には、移送中の茶葉Aの張り付き防止あるいは移送抵抗の軽減を図るためにメッキあるいはトリテトラフッ化エチレン(商品名テフロン:デュポン社の登録商標)等が形成されている。更に茶葉Aの収容状態が、操縦者用シート27に座った作業者から監視できるように茶 葉移送路52aの途中に監視窓52bが設けられる。なお茶葉移送路52aには、
その傾斜部上方あるいは下方に補助ファンを設けることが可能であり、また上述したように茶葉移送路52aそのものを鉛直方向に立ち上げるように配する形態も採り得る。
【0017】接続口53は、茶葉移送路52a内を上昇移送されてきた茶葉Aの出口に相当する部分であり、摘採作用部36とほぼ同じ幅寸法を有するものである。
そしてこの接続口53は、一例として二本のサイドメンバ53aに対して、複数のクロスメンバ53bを取り付けて概ね梯子状に形成され、六区画に区分けされた茶葉吐出口54を具えて成り、この茶葉吐出口54に収葉袋6が六袋並列状に取り付けられ、茶葉Aを六ケ所に分割して一挙に大量に収容できるように構成されている。
また両側から収葉袋6が取り付けられるクロスメンバ53bの前方にはクロスメンバ53b前面への茶葉Aの張り付きを防止し、各収葉袋6に分割して茶葉Aを収容する回転分割具55が設けられている。なおこの実施の形態では、茶葉Aを収容部4まで移送するのに吹き上げファン51により風送する移送形態をとるが、例えばコンベヤ等により茶葉Aを上昇させる移送形態等が採り得る。
【0018】次に以上のように構成された茶葉摘採機1の作動態様について説明しながら実質的に本発明の茶葉収容構造について説明する。
(1)未収容収葉袋の装着 まず摘採作業に先立ち、一例として六つの未収容収葉袋6aを中継移送装置5の茶葉吐出口54に挟み込むように並列状に取り付ける。しかしながら収葉袋6は、
必ずしも六つでなくても構わないし、また収葉袋6の取り付けも紐やクリップ等を適用することも可能である。そして収葉袋6の装着作業に伴い、例えばスライダ25による摘採機体3及び中継移送装置5等の高さ設定やウインチ26による刈刃34の最下点設定等、種々の設定が行われる。
【0019】(2)茶葉摘採 以上のような装着作業が終了すると、作業者が操縦者用シート27に座りエンジ ンユニット24を始動させ、コントロールユニット23により操作してクローラ22や摘採機エンジン33等を駆動させ、茶葉Aの摘採を開始する。その際茶葉Aは、
図5(a)に示すように送風ダクト35から排出される風により摘採作用部36の後方に送られる。次いで茶葉Aは、図5(b)に示すように送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風により茶葉移送路52a内を上昇移送され、収葉袋6が取り付けられた茶葉吐出口54に至る。ここで茶葉移送路52aは、
摘採作用部36とほぼ同じ幅寸法を有することにより移送態様が維持されており、
従って移送途中で茶葉Aが集約されることがなく、茶葉Aに傷みを生じさせることがない。また茶葉吐出口54の前方に回転分割具55が設けられているため接続口53に茶葉Aが張り付くことがない。その後茶葉Aは、各収葉袋6に分割して収容されるが、図5(c)に示すように収容部4が後方下がりの傾斜を有するように形成されるため、より多くの茶葉Aが収葉袋6内を落下するように収容されていく。
【図1】 【図2】【図4】 【図5】 3 取消事由1(本件発明1の新規性及び進歩性の判断の誤り) (1) 本件審決が前記第2の3(1)アのとおり甲1発明を認定し、同(2)アのとおり本件発明1と甲1発明における茶葉の移送方法を対比して一致点及び相違点1を認定したのに対し、原告は、本件審決は、本件発明1と甲1発明が、
「負圧吸引作用を奏する背面風(W)を前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込むこと」で一致していることを看過したと主張する。
原告の上記主張は、甲1発明の内容として、@送風ダクト52からの吹出口が刈刃34の「直後方」から風を送り込むものであることと、A送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風が「負圧吸引作用を有すること」が認め られるべき旨をいうものと解されるが、次のとおり、甲1発明の内容として、上記@及びAのいずれも認めることができない。
ア(ア) まず、原告は、甲1の「なお刈刃34は、摘採機フレーム基板32の前方ほぼ延長上に設けられるものである。そしてこの摘採機体3における摘採機フレームパイプ31と摘採機フレーム基板32とにより区画され、摘採された茶葉Aが中継移送装置5によって上昇移送されるまでの部分を摘採作用部36とする。」との記載(【0013】)及び「送風ダクト52は、摘採した茶葉Aを摘採作用部36たる刈刃34後方部から収容部4まで風送するものであり、具体的には吹き上げファン51から送り出された風が、茶葉摘採機1の側部を回り込むようにして摘採作用部36に達し、この部分で茶葉Aと合流し、合流後この茶葉Aを茶葉移送路52aを経由させて収容部4まで風送するものである。」との記載(【0016】)を指摘して、
「刈刃34」で刈り取られた茶葉が直接「摘採作用部36」に送り込まれることから、
「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位置することは明らかであると主張する。
(イ) しかし、甲1の【0013】の上記記載は、
「摘採作用部36」を区画するものの一つである「摘採機フレーム基盤32」 「刈刃34」 と との位置関係について、
刈刃34が摘採機フレーム基盤32の「前方ほぼ延長上に設けられる」と示すにとどまり、摘採作用部36と刈刃34の位置関係について具体的に特定するものとはみられない。
また、同【0016】の上記記載も、
「摘採作用部36たる刈刃34後方部」という部分において、摘採作用部36が刈刃34の後方に位置することを示しているものの、摘採作用部36が刈刃34の後方のどの程度の距離にあるものか等について、
具体的に示すものとはみられない。
その他、甲1において、
「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位置することを認めるべき記載は見当たらない。
(ウ) また、仮に、甲1において、
「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位 置することが認められるとした場合に、そのことから直ちに、「送風ダクト52風」が「刈刃34」の直後方から送り込まれることが認められるものでもない。
この点、甲1に、吹き上げファン51から送り出された風が、送風ダクト52を介して、刈刃34の後方に位置する摘採作用部36のどの部分に達するのかを具体的に特定する記載は見当たらない。
むしろ、甲1の【図1】の左下部の丸枠内及び【図5】によると、送風ダクト52は、刈刃34の後方に位置するとされる摘採作用部36の後端部に位置付けられているところである。そして、
【図4】によると、刈刃34と送風ダクト52との間に少なからず距離が存することは、明らかである。
(エ) したがって、甲1発明について、送風ダクト52からの吹出口が刈刃34の「直後方」から風を送り込むものであることが認められるべき旨をいう原告の主張は、採用することができない。
イ(ア) 次に、原告は、
「送風ダクト52からの吹出口は、摘採機フレーム基板32後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」しており(甲1の【図5】等)、
この吹出口から送り込まれた「送風ダクト52風」が、「摘採作用部36」に達し、
「この部分で茶葉Aと合流し、合流後にこの茶葉Aを茶葉移送路52aを経由させて収容部4まで風送する」 【0016】 ところ、
(同 ) 「摘採作用部36」において「送風ダクト52風」に負圧吸引作用がなければ、このような事象を説明することはできない、甲1の【0016】の上記記載は、
「摘採作用部36」が密閉又は半密閉状態のダクトでなければ説明できない内容であるなどと主張する。
(イ) しかし、甲1の【0019】及び【図5】によると、摘採された茶葉は、まず、送風ダクト35から排出される風によって摘採作用部36の後方に送られ、次いで、送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風により茶葉移送路52a内を上昇移送されるのであって、送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風に負圧吸引作用がなくとも、送風ダクト35から排出される風により、上昇移送が可能となる位置まで茶葉が送られることは容易に理解 される。
この点、同【0013】には、摘採作用部36について、摘採機フレームパイプ31と摘採機フレーム基盤32とにより「区画」される旨が記載されているのみで、
それが密閉構造を有することはもとより、閉鎖的な構造を有することも明記されておらず、他に、甲1に、摘採作用部36の構造について特定する記載も見られない。
そうすると、摘採作用部36は、送風ダクト35から排出される風によって茶葉を摘採作用部36の後方に送ることが可能な構造となっていれば足り、原告の主張するように、密閉又は半密閉状態にあることを要するものではないと解される。
(ウ) 上記に関し、原告は、摘採作用部36が密閉又は半密閉状態でないとすると、
送風ダクト35から排出される風によって周辺に分散して回収不能になってしまう茶葉が生じ、甲1発明における茶葉の中継移送機能が低下することになるなどと主張するが、茶葉の分散を避けるためには、茶葉が通過しない程度の空隙を有する部材で摘採作用部36を構成することで足りるといえるし、茶葉の損傷を避けるためという観点を更に考慮したとしても、直ちに摘採作用部36が密閉又は半密閉状態であることまで要するものとは解されない。
(エ) したがって、甲1発明について、送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風が「負圧吸引作用を有すること」が認められるべき旨をいう原告の主張は、採用することができない。
(2) 前記2の甲1の記載事項によると、甲1には、前記第2の3(1)アのとおり本件審決が認定した甲1発明が記載されていると認められる。
その上で、本件発明1と甲1発明における茶葉の移送方法を対比すると、それらの間には、前記第2の3(2)アのとおり本件審決が認定した一致点及び次の相違点1が認められるというべきである (相違点1) 刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するにあたって、茶枝葉(A)の移送を、本件発明1は「負圧吸引作用を奏する背面風(W) のみを前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込む」ことによって行うのに対し、甲1発明は、
「刈刃34の斜め上前方に配設し」 「送風ダクト35」 たから排出される風である「送風ダクト35風」により「摘採作用部36の後方に送」り、次いで、
「摘採機フレーム基板32後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」する「吹出口」から吹き出される「送風ダクト52風」によって「茶葉移送路52a内を上昇移送」して「茶葉吐出口54」まで移送する点。
(3)ア 前記(2)の相違点1は、前記(1)ア及びイで説示したところからも明らかであるとおり、実質的な相違点であるというべきであるから、本件審決について新規性についての判断の誤りがある旨をいう原告の主張は、採用することができない。
イ(ア) また、前記(1)イ(イ)のとおり、送風ダクト35から排出される風によって茶葉を摘採作用部36の後方に送る甲1発明について、
「負圧吸引作用を奏する・ ・ ・風のみ」を「刈刃・・・の直後方から・・・ダクトに送り込む」という構成を採る動機付けとなる記載も、これを示唆する記載も、甲1には見当たらない。
(イ) これに対し、原告は、刈刃にて刈り取られた茶葉が刈刃の前進移動に伴って「摘採作用部36」に移動することは、当業者であれば普通に認識できることであるから、
「送風ダクト35風」を省いた態様を当業者はごく普通に想像できると主張するが、茶葉がそのように刈刃の前進移動に伴って後方に移動することがあるとしても、そのような作用のみによって茶葉が、送風ダクト52から排出される風によって茶葉移送路52a内を上昇移送されるに足りる場所まで移動するものとは直ちに解されない。また、送風ダクト35から排出される風がなくなった場合に、送風ダクト52から排出される風によって茶葉が茶葉移送路52a内を円滑に上昇移送されるか、あるいは摘採作用部36内の前方に移動してしまう茶葉が出てこないかなど、摘採作用部36内の風環境が変化することにより生じる影響も不明である。
さらに、専ら刈刃の前進移動に伴って茶葉が後方に移送されるとした場合、刈り取られた茶葉が、その後新たに刈り取られた茶葉によって後方に押されていく状況となることも想定されるが、そのような場合に茶葉に損傷が生じないかも不明である。
それらの点にもかかわらず、当業者において、前進移動に伴う茶葉の移動を想定して送風ダクト35から排出される風を省いた態様を容易に相当し得るとみるべき技術常識等は認められない。
原告のその余の主張は、送風ダクト52から排出される風が負圧吸引作用を有することを前提とするものであるが、前記(1)イで説示した点からして、前提を欠くものといわざるを得ない。
ウ その他、相違点1に係る本件発明1の構成を採ることが、当業者において容易に相当し得たものと認めるべき技術常識等は認められない。
(4) したがって、取消事由1は認められない。
4 取消事由2(本件発明7の新規性及び進歩性の判断の誤り)について (1) 前記3(1)で認定説示した点に照らし、一致点の認定の誤りをいう原告の主張は、採用することができず、前記2の甲1の記載事項によると、甲1には、前記第2の3(1)アのとおり本件審決が認定した甲1発明が記載されていると認められ、
その上で、本件発明7と甲1発明を対比すると、それらの間には、前記第2の3(2)イのとおり本件審決が認定した一致点及び次の相違点2が認められるというべきである。
(相違点2) 本件発明7は、吹出口(38)が、刈刃(22)の「直後方」から背面風(W)を送り込むように設けられ、
「この吹出口(38)から移送ダクト(6)内に背面風(W)のみを送り込むことによって、刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送する」のに対し、甲1発明は、
「送風ダクト52風」の「吹出口」「摘採機フレーム基板32後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」 はし、「茶葉A」の移送は、「刈刃34の斜め上前方に配設し」た「送風ダクト35」から排出される風である「送風ダクト35風」により「茶葉A」が「摘採作用部36の後方」に送られ、ついで、
「摘採機フレーム基板32後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」する「吹出口」から吹き出される「送風ダクト52風」に よって「茶葉移送路52a内を上昇移送され」、
「茶葉吐出口54」に移送される点。
(2) 前記3(3)で認定説示した点に照らし、新規性及び進歩性の判断の誤りをいう原告の主張は、採用することができない。
(3) したがって、取消事由2は認められない。
5 取消事由3(本件発明13の新規性及び進歩性の判断の誤り)について 前記4のとおり、本件発明7に係る取消事由2が認められない以上、本件発明13に係る取消事由3は認められない。
6 まとめ よって、原告の主張する取消事由は、いずれも認められない。なお、甲2にも甲1発明の「送風ダクト35風」を省くことを示唆する記載はなく、甲2を踏まえても、以上の認定判断は何ら左右されない。
結論
以上の次第で、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 勝又来未子
裁判官 中島朋宏