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関連審決 異議2021-700030
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事件 令和 4年 (行ケ) 10029号 特許取消決定取消請求事件
5
原告株式会社ダイセル
同訴訟代理人弁護士 設樂隆一
同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 10 同清水義憲
同 吉住和之
同 中塚岳
同 田中政輝 15 被告特許庁長官
同 指定代理人河原正
同 松波由美子
同 青木良憲
同 川口聖司 20 同清川恵子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が異議2021−700030号事件について令和4年3月14日にした異議の決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
25 事 実 及 び 理 由第1 請求1主文同旨第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等? 特許第6721794号(発明の名称「防眩フィルム」、請求項の数4、
5 以下「本件特許」という。)は、平成29年8月4日にされた特許出願(特願2017−151494号)を優先基礎とする国際出願であり(本件特許の明細書及び図面を、以下「本件明細書等」という。)、令和2年6月22日に設定登録がされ、同年7月15日に特許掲載公報が発行された(甲20)。
? 本件特許については、令和3年1月14日付けで特許異議の申立てがされ10 (甲22)、特許庁は、これを異議2021−700030号事件として審理し(以下「本件異議手続」という。)、同年4月7日付けの取消理由通知を行い(甲23) 原告は同年6月9日付けの意見書を提出したが、 (甲24)、
特許庁は、同年8月31日付けの取消理由通知(決定の予告)を行い(甲25) 原告は同年11月15日付け訂正請求書による訂正を行うとともに、 (以15 下、この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。甲21)、同日付け意見書を提出した(甲26) 特許異議申立人は、
。 同年12月24日付け意見書を提出した(甲27)。
本件訂正は、特許請求の範囲の請求項1に「内部ヘイズ値が0.5%以上20 15.0%以下の範囲の値であり」と記載されていたのを、「内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であり」に訂正するものであり、請求項2ないし4は、請求項1を引用しているものであるから、訂正される請求項1に連動して訂正されるものであった。
なお、本件異議手続で提出された引用例等は、次のとおりである。
25 引用例1:特開2009−244465号公報(以下「引用例1」という。
甲1、主引用例)2引用例2:特開2015−172837号公報(以下「引用例2」という。
甲2)引用例3:特開2015−196347号公報(甲3)引用例4:特開2014−85371号公報(以下「引用例4」という。甲5 4)引用例5:特開2006−113561号公報(以下「引用例5」という。
甲5)周知文献A1:特開2015−172835号公報(以下「周知文献A1」という。甲7)10 特許庁は、令和4年3月14日、結論を「特許第6721794号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。特許第6721794号の請求項1−4に係る特許を取り消す。」とする異議の決定(以下「本件決定」という。本件決定は、別紙1のとおりである。)をし、その謄本は、同月15 29日、原告に送達された。
? 原告は、令和4年4月27日、本件決定の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲本件訂正後の特許請求の範囲は、次のとおりである(以下、請求項1ないし20 4記載の各発明を、番号に対応して「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件各発明」という。甲21)。
? 請求項1ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値であり、内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であり、且つ、画素密度が441ppiで25 ある有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得3られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である防眩層を備える、防眩フィルム。
? 請求項2前記防眩層は、複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離によ5 り形成された共連続相構造を有する、請求項1に記載の防眩フィルム。
? 請求項3前記防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み、
前記微粒子と前記マトリクス樹脂との屈折率差が、0以上0.07以下の10 範囲の値である、請求項1又は2に記載の防眩フィルム。
? 請求項4前記防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、前記防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1が、0.07以上0.20以下の範囲の値である、請求項3に記載の防眩フィルム。
15 3 本件決定の要旨? 本件訂正請求について(本件決定第2)本件訂正を認める。
? 取消しの理由の概要(本件決定第4)ア 理由1(進歩性)20 本件各発明は、主引用例である引用例1、副引用例又は周知技術を例示する引用例2ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
イ 理由2(実施可能要件)25 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4ウ 理由3(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
エ 理由4(明確性要件)5 本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
? 審判合議体の判断(本件決定第5)ア 理由1(進歩性)について(ア) 引用例1記載の発明(以下「引用発明」という。(本件決定第5の1)10 ?)本件決定が認定した引用発明は、次のとおりである。
「透明プラスチックフィルム基材として、トリアセチルセルロースフィルム(厚さ80μm)を準備し、
防眩性ハードコート層形成材料として、GRANDIC PC−1015 70(大日本インキ化学工業(株)製 ハードコート樹脂、固形分:65重量%、屈折率:1.53)の樹脂固形分100重量部あたり、レベリング剤(大日本インキ化学工業(株)製、商品名「GRANDIC PC−4100」、固形分10重量%)の固形分が0.5重量部、IRGACURE 184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製光重合開始20 剤)を0.5重量部、主に表面凹凸を形成する第1の微粒子としてアクリル樹脂微粒子(積水化成品工業(株)製、MBX−8SSTN、サイズ:8μm、屈折率:1.49)30重量部、主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子としてシリコーン微粒子(東芝シリコーン(株)製、
「トスパール145」、サイズ:4.5μm、屈折率:1.43)2重量部を25 加えたものを、酢酸エチルにより、固形分濃度が50重量%となるように希釈し、超音波洗浄器を用いて5分間攪拌をおこなったものを準備し、
5前記透明プラスチックフィルム基材の片面に、前記防眩性ハードコート層形成材料を、バーコーターを用いて塗布して塗膜を形成し、この際、
防眩性ハードコート層の厚みが25μmとなるように、前記塗膜の厚みを調整し、
5 ついで、100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させ、
その後、紫外線を照射し、前記塗膜を硬化処理して厚み25μmの防眩性ハードコート層を形成して、得られた防眩性ハードコートフィルムであって、
下記の定義による、ヘイズ値(%)が60%、防眩性がAA、鮮明性10 がB、精細度(ギラツキ)が、106ppiでA、144ppiでA、
212ppiでBであり、
下記の定義による平均黒輝度(cd)が0.19cdのインプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶パネルに装着される、
防眩性および画像の鮮明性に優れ、かつギラツキも効果的に防止され15 ている防眩性ハードコートフィルム。
(ヘイズ値)へイズの測定方法は、JIS K7136(2000年版)のヘイズ(曇度)に準じ、ヘイズメーターHR300(村上色彩技術研究所社製)を用いて測定した。
20 (防眩性)(1)防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面に三菱レイヨン製黒色アクリル板(2.0mmt)を粘着剤にて貼り合わせ裏面の反射をなくす。
(2)一般的にディスプレイを用いるオフィス環境下(約1000Lx)25 にて上記で作製したフィルムサンプルの防眩性を目視にて確認した。
判定基準6AA:像の写り込みがほとんどない。
A :像の写り込みはあるが、視認性への影響は小さい。
B :像の写り込みはあるが、実用上問題はない。
C :像の写り込みがある。
5 (鮮明性)(1)ノート型PC(ソニー社製、商品名VAIO VGN−SZ71B/B(13.3inch、WXGA、1280×800))のパネル表面に、凹凸のない平滑な表面を有する偏光板を実装した。防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面に粘着10 剤を積層し、前記偏光板の表面に貼付し、実装した。
(2)前記ノート型PCに一般的な画像を写しだして、暗所にて画像の鮮明性を目視にて確認した。判断基準は以下のとおりである。
A :画像がぼやけるが視認性への影響は小さい(画像が鮮明である)。
B :ぼやけはあるが、実用上問題なし(実用上、鮮明性に問題がない)。
15 C :ぼやけて著しく視認性が低下する(不鮮明で、実用上問題がある)。
(精細度(ギラツキ))(1)透明フィルム基材の防眩性ハードコート層が形成されていない面に185μmの偏光板を貼り合せたものをガラス基板に接着する。
(2)ライトテーブル上に固定されたマスクパターン上に作製したフィ20 ルムサンプルのギラツキ度合いを目視にて評価した。マスクパターンは精細度が106ppi、144ppi、212ppiのものを準備し、
順次判定した。下記判定基準でAになったマスクパターンの精細度を記録した。
判定基準25 A :ギラツキがほとんどない。
B :ギラツキはあるが、実用上問題はない。
7C :ギラツキがある。
(平均黒輝度の測定)ELDIM社製、製品名「EZContrast160D」を用いて、
極角60°における黒輝度を、方位角0〜360°において1°刻みで測定5 し、その平均値を算出して平均黒輝度を求めた。」(本件明細書等の段落【0123】【表2】の「精細度(ギラツキ)、 」及び段落【0096】の「ギラツキ(精細度)」との記載を、「精細度(ギラツキ)」に統一して記載した。)(イ) 本件発明1について10 a 引用発明との一致点及び相違点(a) 一致点(本件決定第5の1?イ(ア))「ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値である防眩層を備える、防眩フィルム。」(b) 相違点(本件決定第5の1?イ(イ))15 (i) 相違点1−1「防眩層」 本件発明1は、
が、 「内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であ」るのに対して、引用発明は、
「内部ヘイズ値」が分からない点。
(ii) 相違点1−220 「防眩層」が、本件発明1は、
「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である」のに25 対して、引用発明は、そのようなものであるかどうか不明な点。
b 判断(本件決定第5の1?ウ)8(a) 相違点1−1について引用例2には、ヘイズ値が60%でギラツキが防止された、防眩性を有する光学シートで、内部ヘイズは5〜30%であることが好ましいことが記載されているから、ヘイズが60%の引用発明の内5 部ヘイズを5%とすることは容易である。
(b) 相違点1−2について本件発明1の「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られ10 るように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、
0以上10以下の値である」との発明特定事項は、物としての防眩層(防眩フィルム)を明確に特定しない(ディスプレイの輝度分布の標準偏差を求めるときの撮像条件に依存して、 ディスプレイの輝「度分布の標準偏差が」 「0以上10以下の値である」 「防眩層」は、 、
15 変化する。)から、相違点1−2は実質的な相違点を構成しない。
そうでないとしても、引用例2ないし5及び周知の技術事項に基づいて、引用発明において、
「高精細のパネル」と組み合わせてもギラツキが発生しないよう、
「防眩性ハードコート層」(「防眩層」 を、
)画素密度が441ppiの有機ELディスプレイの表面に装着し20 た状態において得られた画像データのディスプレイの輝度分布の標準偏差が小さいものとなるよう構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ) 本件発明2についてa 引用発明との一致点及び相違点25 (a) 一致点(本件決定第5の1?イ(ア))本件発明2と引用発明は、本件発明1と引用発明の一致点と同じ9構成において一致する。
(b) 相違点(本件決定第5の1?イ(イ))本件発明2と引用発明は、前記(イ)a(b)の相違点1−1及び相違点1−2に加え、次の相違点2において相違する。
5 相違点2「防眩層」が、本件発明2は、
「複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有する」のに対して、引用発明は、そのようなものであるかどうか不明である点。
b 判断(本件決定第5の1?ウ)10 引用発明の防眩層ハードコート層(「防眩層」)に、周知の防眩層の構成を採用して、相違点2に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
相違点1−1及び相違点1−2については、前記(イ)bにおいて述べたとおりである。
15 したがって、本件発明2は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ) 本件発明3についてa 引用発明との一致点及び相違点20 (a) 一致点(本件決定第5の1?イ(ア))本件発明3と引用発明は、次の構成で一致する。
「ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値である防眩層を備え、
前記防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含む、防眩フィルム。」25 (b) 相違点(本件決定第5の1?イ(イ))本件発明3と引用発明は、相違点1−1、相違点1−2(前記(イ)10a(b))、及び相違点2(前記(ウ)a(b))に加え、次の相違点3において相違する。
相違点3「前記微粒子と前記マトリクス樹脂との屈折率差」が、本件発明35 は、
「0以上0.07以下の範囲である」のに対して、引用発明はそのようなものとなっていない点(第1の微粒子については屈折率差が0.04であり、第2の微粒子については屈折率差が0.1である。。
)b 判断(本件決定第5の1?ウ)10 引用発明の「主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子」の屈折率については、甲1の段落【0040】に記載のとおりであるから、引用発明において、相違点3に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
相違点1−1及び相違点1−2については、前記(イ)bにおいて述べ15 たとおりであり、相違点2については、前記(ウ)bにおいて述べたとおりである。
したがって、本件発明3は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
20 (オ) 本件発明4についてa 引用発明との一致点及び相違点(a) 一致点(本件決定第5の1?イ(ア))本件発明4と引用発明の一致点は、本件発明3と引用発明の一致点と同じである。
25 (b) 相違点(本件決定第5の1?イ(イ))本件発明4と引用発明は、相違点1−1、相違点1−2(前記(イ)11a(b))、相違点2(前記(ウ)a(b))、及び相違点3(前記(エ)a(b))に加え、次の相違点4において相違する。
相違点4本件発明4は、「前記防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、
5 前記防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1が、0.07以上0.20以下の範囲の値である」のに対して、引用発明はそのようなものとなっていない点。
b 判断(本件決定第5の1?ウ)引用発明において、相違点4に係る本件発明4の構成とすることは、
10 甲1の段落【0032】【0034】【0036】【0037】【0、 、 、 、
039】【0040】【0042】【0053】等の記載・示唆に基、 、 、
づく、当業者の設計上のことである。
相違点1−1及び相違点1−2については、前記(イ)bにおいて述べたとおりであり、相違点2については、前記(ウ)bにおいて述べたとお15 りであり、相違点3については、前記(エ)bにおいて述べたとおりである。
したがって、本件発明4は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
20 イ 理由2(実施可能要件)について(本件決定第5の2?イ(エ)、ウ(オ))本件明細書等の発明の詳細な説明は、本件各発明の、ヘイズ値、内部ヘイズ値及びディスプレイの輝度分布の標準偏差を満たす、第2実施形態の防眩層、及び第3実施形態の防眩層を、いかなる手段で実現するのか、当業者が技術常識参酌して理解できる程度に記載されていない。
25 したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件各発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできな12い。
ウ 理由3(サポート要件)について(本件決定第5の2?アないしウ)(ア) 本件特許の請求項1の「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均5 輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である」という、作用により発明を特定している事項に関して、発明の詳細な説明には、第1実施形態として、防眩層表面に、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部間に位置する凹部からなる構造10 (網目状構造、不規則なループ構造)の凹凸形状を形成するという手段(段落【0035】及び【0036】、第2実施形態として、防眩層表)面に、粒径が比較的均一で平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲に設定された微粒子によって形成される凹凸形状を形成するという手段(段落【0082】ないし【0084】)が記載されているにとどま15 り、技術常識に照らしても、本件発明1の範囲まで(上記標準偏差の値を達成する他の手段にまで)発明の詳細な説明において開示された内容、
拡張ないし一般化できるとはいえない。
仮に、防眩層表面に特定の凹凸形状を形成するという手段にまで発明の範囲が特定されたとしても、第3実施形態のように、ブラスト加工に20 より形成可能な凹凸形状のうち、上記作用を奏する特定の凹凸形状がどのようなものか、当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明において開示されておらず、その範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
そうすると、本件特許の請求項1の記載はサポート要件に適合するものとはいえない。本件特許の請求項2ないし4についても同様である。
25 (イ) 本件特許の請求項1に発明特定事項として記載された、「防眩層」が「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着し13た状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である」という事項は、本件発明1が解決しようとする課題である「ディスプレイ5 のギラツキを抑制可能な」という定性的な記載を、官能評価によらない、
測定機器を用いて客観的に求めることができる定量的な記載にいい換えたものにすぎない。
そうすると、本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、当業者が、
本件発明1の課題を解決できると認識できる、物としての課題を解決す10 るための手段が実質的に記載されているとはいえないから、本件特許の請求項1の記載はサポート要件に適合するものとはいえない。本件特許の請求項2ないし4についても同様である。
(ウ) したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできない。
15 エ 理由4(明確性要件)について(本件決定第5の2?オ)本件発明1の「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値で20 ある防眩層を備える」という発明特定事項に関し、画像データを得る際の、
有機ELディスプレイと画像データを得る手段(撮像装置)との撮像距離、
及び、画像データを得る手段(撮像装置)のレンズのFナンバーが、どのように一意的に設定されるものであるのか、理解することができない。
そうすると、本件発明1の「ディスプレイの輝度分布の標準偏差が」25 「0以上10以下の値」となる「防眩層」「防眩フィルム」( )は、有機ELディスプレイと画像データ取得手段(撮像装置)との撮像距離、及び、画14像データ取得手段(撮像装置)のレンズのFナンバーに応じて変化することとなる。あるいは、同じ「防眩層」「防眩フィルム」( )であっても、撮像条件によっては、本件発明1の範囲に入ったり、入らなかったりする。
したがって、本件発明1は、明確であるということはできない(あるい5 は、本件発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。。
)本件発明2ないし4も同様である。
4 取消事由? 取消事由1(進歩性の判断の誤り−取消しの理由1関係)ア 取消事由1−1(本件発明1の進歩性の判断の誤り)10 (ア) 取消事由1−1−1(本件発明1と引用発明の相違点の認定の誤り)(イ) 取消事由1−1−2(相違点の容易想到性の判断の誤り)イ 取消事由1−2(本件発明2の進歩性の判断の誤り)(ア) 取消事由1−2−1(本件発明2と引用発明の相違点の認定の誤り)(イ) 取消事由1−2−2(相違点の容易想到性の判断の誤り)15 ウ 取消事由1−3(本件発明3の進歩性の判断の誤り)(ア) 取消事由1−3−1(本件発明3と引用発明の相違点の認定の誤り)(イ) 取消事由1−3−2(相違点の容易想到性の判断の誤り)エ 取消事由1−4(本件発明4の進歩性の判断の誤り)(ア) 取消事由1−4−1(本件発明4と引用発明の相違点の認定の誤り)20 (イ) 取消事由1−4−2(相違点の容易想到性の判断の誤り)? 取消事由2(実施可能要件の判断の誤り−取消しの理由2関係)? 取消事由3(サポート要件の判断の誤り−取消しの理由3関係)? 取消事由4(明確性要件の判断の誤り−取消しの理由4関係)第3 当事者の主張25 1 取消事由1(進歩性の判断の誤り−取消しの理由1関係)? 取消事由1−1(本件発明1の進歩性の判断の誤り)15〔原告の主張〕ア 取消事由1−1−1(本件発明1と引用発明の相違点の認定の誤り)について本件発明1の防眩層の「ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値で5 あり、内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であり、且つ、
画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である」という構成に10 示された、
(全体の)ヘイズ値、内部ヘイズ値及び輝度分布の標準偏差という三つの光学的特性(以下「光学三特性」という。)は、防眩層の凹凸の大きさ、数、傾斜、樹脂の成分間の屈折率差等の、防眩層の形状・構造と対応するものであるから、技術的には互いに一体不可分であり、光学三特性のうちの「内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値」である15 ことと、ギラツキの度合いに関する「画素密度441ppiにおける輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値」であることも技術的に一体不可分である。
引用発明も内部ヘイズを大きくする第2の微粒子が高精細(212ppi)でのギラツキ現象を低減しており、内部ヘイズとギラツキが連関して20 いる。
相違点1−1に係る構成と相違点1−2に係る構成は「且つ」という文言により結合されている。
以上によれば、本件決定が、相違点を殊更に細かく、内部ヘイズ値に関する相違点1−1と、ギラツキの度合いを示す輝度分布の標準偏差の値を25 含む相違点1−2に分けて認定したのは(本件決定第5の1?イ(イ))、進歩性の判断を誤らせる結果を生じるものであり、このような認定は誤りで16ある。
本件発明1と引用発明の相違点は、正しくは、次のとおりである。
(相違点A)「防眩層」が、本件発明1は、
「内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以5 下の範囲の値であり、且つ、画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である」のに対して、引用発明はこのようなものでない点10 イ 取消事由1−1−2(相違点の容易想到性の判断の誤り)について(ア) 甲1の記載等によれば、引用発明は、ヘイズ値を60%として、斜め60°方向の黒輝度の光抜けが全方位平均で0.19cdである液晶パネルの斜めコントラスト比をも改善するというものである。他方、引用例2又は周知文献A1に記載された発明は、引用発明の上記のような課15 題に関するものではないし、ヘイズは30ないし50%が好ましいとしており(引用例2の段落【0035】 周知文献A1の段落、 【0029】、
)その値は引用発明とは異なるものであるから、引用発明に、引用例2又は周知文献A1に記載された発明を適用する動機付けはない。
(イ) 仮に当業者が引用発明に引用例2又は周知文献A1に記載された発20 明の適用を検討するとしても、次のとおり、当業者は、引用例2又は周知文献A1に記載された発明の構成から内部ヘイズ5ないし8%を選択して引用発明に適用しようなどとはしない。
a 引用発明は、内部ヘイズを大きくする第2の微粒子が高精細(212ppi)でのギラツキ現象を低減するものであるから、引用例2又25 は周知文献A1に記載された発明の内部ヘイズとしては、5ないし30%及び5ないし25%より好ましいとされた10ないし18%(引17用例2の段落【0035】 周知文献A1の段落【0029】 を採用す、 )るはずである。
b 内部ヘイズ + 表面ヘイズ = 全ヘイズであるから、ヘイズ値60%の引用発明に、表面ヘイズ22ないし40%である引用例2(段落【05 026】 に記載された発明を適用しようとするならば、
) 内部ヘイズは20ないし38%であるほかあり得ないし、表面ヘイズが25ないし40%であることが好ましいとされた周知文献A1(段落【0029】)に記載された発明を適用しようとするならば、内部ヘイズは20ないし35%であるほかあり得ない。
10 c 「画素密度441ppiにおける輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値」は、引用例2ないし5に記載がなく、周知の技術的事項でもない。
d 引用発明の防眩性ハードコート層を、ヘイズ値60%でありながら相違点Aの光学特性を有する防眩層に変更するのが容易であることを15 示す証拠はどこにもない。
e 引用発明は、防眩性ハードコート層に含まれる、主に内部ヘイズを大きくする第2の微粒子により、高精細(212ppi)でのギラツキ現象を低減するものであるから、当業者は、当該防眩性ハードコート層の内部ヘイズを小さくすれば、ギラツキも悪化すると予測するが、
20 本件発明1は、相違点Aに示されるように、引用発明と異なって内部ヘイズ値が小さくても、
「ディスプレイのギラツキを抑制可能」という予想外の効果を奏する。
(ウ) その他、本件発明1について、引用発明、及び引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明を25 することができたことを認めるに足りる証拠はない。
なお、相違点Aに係る本件発明1の構成は、本件決定が認定した相違18点1−1及び相違点1−2に係る本件発明1の構成をまとめたものであり、相違点Aに係る本件発明1の構成を容易に想到することはできないから、仮に、本件発明1と引用発明の相違点が、本件決定が認定したとおり、相違点1−1及び相違点1−2であるとしても、それらの相違点5 に係る本件発明1の構成は容易に想到することができない。
(エ) したがって、本件発明1は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする本件決定の判断(本件決定第5の1?ウ(オ))は誤りである。
10 〔被告の主張〕ア 〔原告の主張〕取消事由1−1−1に対し本件発明1の防眩層の光学的特性は、いずれも防眩層の形状・構造に直接関係しているともいえず、まして、当該防眩層が第1構造防眩層(本件明細書等の第1実施形態の方法により製造された防眩層。以下、同じ。)に15 限定されているともいえないのであり、当該防眩層は、第2構造防眩層(本件明細書等の第2実施形態の方法により製造された防眩層。以下、同じ。)及び第3構造防眩層(本件明細書等の第3実施形態の方法により製造された防眩層。以下、同じ。)をも含むものである。そして、本件決定は、本件発明1のうち第2構造防眩層に係る態様を念頭に、その容易想到性を判断20 したものであるところ、第2構造防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含むものである(段落【0080】)から、相違点1−2に係る構成は、マトリクス樹脂の表面付近に含まれる微粒子によって実現され、相違点1−1に係る構成は、マトリクス樹脂のその余の部分に含まれる微粒子によって実現されてよいものと解される。
25 このように、本件発明1のうち、第2構造防眩層に係る態様は、相違点1−1に係る構成と相違点1−2に係る構成とが別々の手段により実現さ19れているといえることから、本件決定は、両者の構成を分離してそれぞれ相違点として認定したものであり、このような認定手法に誤りはない。
また、相違点1−1に係る構成と相違点1−2に係る構成が「且つ」という文言により結合されているとしても、上記のとおり、相違点1−1に5 係る構成と相違点1−2に係る構成とが別々の手段により実現されていることから、その文言の存在をもって、両相違点を一体化して認定しなければならないとはいえない。
したがって、本件決定による本件発明1と引用発明の相違点の認定に誤りはなく、取消事由1−1−1は理由がない。
10 イ 〔原告の主張〕取消事由1−1−2に対し(ア) 引用発明は、ギラツキ現象を低減させ、高精細のパネルにも対応することができるという課題を解決するために、微粒子を含む防眩性ハードコート層を備えた防眩性ハードコートフィルムのヘイズ値として60%以上のものを用いるものであるから、引用発明は、高精細でのギラツキ15 現象の低減を、防眩性ハードコートフィルムのヘイズ値、つまり、表面凹凸を形成する微粒子と内部ヘイズを調整する微粒子の双方により実現するものであり、原告が主張するような、内部ヘイズを大きくする第2の微粒子により実現するものではない。
したがって、引用発明は、本件発明1と技術的思想において異なるも20 のではない。
(イ) 防眩フィルムにおいて、表示素子の解像度の低下を防止することは周知の課題であるから、ヘイズ値が60%の引用発明においても、表示素子の解像度の低下を防止する観点から、内部ヘイズ値を5%に設定することは、当業者にとって動機付けがある。
25 また、引用例2(段落【0035】 や周知文献A1) (段落【0029】)の記載に接した当業者であれば、光学シートに関し、内部ヘイズ値を5%20以上とすることにより、表面凹凸との相乗作?によりギラツキを防?しつつ、30%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できることを、当然に理解し得る。
(ウ) したがって、本件発明1は、引用発明、引用例2ないし5に記載され5 た技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする本件決定の判断に誤りはなく、取消事由1−1−2は理由がない。
? 取消事由1−2(本件発明2の進歩性の判断の誤り)〔原告の主張〕10 ア 取消事由1−2−1(本件発明2と引用発明の相違点の認定の誤り)について本件発明2と引用発明との相違点は、相違点Aに加え、次の相違点Bである。
(相違点B)15 「防眩層」が、本件発明2は、
「複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有」するのに対して、引用発明はこのようなものでない点イ 取消事由1−2−2(相違点の容易想到性の判断の誤り)について相違点Aが当業者に容易想到でない以上、相違点Bも容易想到でないし、
20 引用発明に引用例4を適用する動機付けはないから、その点からしても、
相違点Bは容易想到でない。そのため、本件発明2は、当業者が容易に想到し得たものではない。なお、相違点Aに係る本件発明1の構成は、本件決定が認定した相違点1−1及び相違点1−2に係る本件発明1の構成をまとめたものであり、相違点Aに係る本件発明1の構成を容易に想到す25 ることはできないから、仮に、本件発明1と引用発明の相違点が、本件決定が認定したとおり、相違点1−1及び相違点1−2であるとしても、そ21れらの相違点に係る本件発明1の構成は容易に想到することができない。
したがって、本件発明2は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする本件決定の判断(本件決定第5の1?ウ(ウ))は誤5 りである。
〔被告の主張〕ア 〔原告の主張〕取消事由1−2−1に対し本件発明2について、引用発明との一致点及び相違点は、本件決定の認定(前記第2の3?ア(ウ)a)のとおりである。
10 イ 〔原告の主張〕取消事由1−2−2に対し本件発明2について、容易想到性の判断は、本件決定の判断(前記第2の3?ア(ウ)b)のとおりであり、本件発明2は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
15 ? 取消事由1−3(本件発明3の進歩性の判断の誤り)〔原告の主張〕ア 取消事由1−3−1(本件発明3と引用発明の相違点の認定の誤り)について本件決定は、本件発明3と引用発明の相違点として、相違点1−1、相20 違点1−2、相違点2及び相違点3を認定したが、相違点1−1及び相違点1−2は相違点Aと認定されるべきであり、相違点2は相違点Bと認定されるべきである。
したがって、本件決定による本件発明3と引用発明の相違点の認定には誤りがある。
25 イ 取消事由1−3−2(相違点の容易想到性の判断の誤り)について前記?〔原告の主張〕イのとおり、相違点A及び相違点Bは容易想到で22ないから、本件発明3は、当業者が容易に想到し得たものではない。なお、
相違点Aに係る本件発明1の構成は、本件決定が認定した相違点1−1及び相違点1−2に係る本件発明1の構成をまとめたものであり、相違点Aに係る本件発明1の構成を容易に想到することはできないから、仮に、本5 件発明1と引用発明の相違点が、本件決定が認定したとおり、相違点1−1及び相違点1−2であるとしても、それらの相違点に係る本件発明1の構成は容易に想到することができない。
したがって、本件発明3は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすること10 ができたものであるとする本件決定の判断(本件決定第5の1?ウ(ウ))は誤りである。
〔被告の主張〕ア 〔原告の主張〕取消事由1−3−1に対し本件発明3について、引用発明との一致点及び相違点は、本件決定の認15 定(前記第2の3?ア(エ)a)のとおりである。
イ 〔原告の主張〕取消事由1−3−2に対し本件発明3について、容易想到性の判断は、本件決定の判断(前記第2の3?ア(エ)b)のとおりであり、本件発明3は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易20 に発明をすることができたものである。
? 取消事由1−4(本件発明4の進歩性の判断の誤り)〔原告の主張〕ア 取消事由1−4−1(本件発明4と引用発明の相違点の認定の誤り)について25 本件決定は、本件発明4と引用発明の相違点として、相違点1−1、相違点1−2、相違点2、相違点3及び相違点4を認定したが、相違点1−231及び相違点1−2は相違点Aと認定されるべきであり、相違点2は相違点Bと認定されるべきであるから、本件発明4と引用発明の相違点は、相違点A及び相違点B、並びに相違点3及び相違点4である。
したがって、本件決定による本件発明4と引用発明の相違点の認定には5 誤りがある。
イ 取消事由1−4−2(相違点の容易想到性の判断の誤り)について前記?〔原告の主張〕イのとおり、相違点A及び相違点Bは容易想到でないから、本件発明4は、当業者が容易に想到し得たものではない。なお、
相違点Aに係る本件発明1の構成は、本件決定が認定した相違点1−1及10 び相違点1−2に係る本件発明1の構成をまとめたものであり、相違点Aに係る本件発明1の構成を容易に想到することはできないから、仮に、本件発明1と引用発明の相違点が、本件決定が認定したとおり、相違点1−1及び相違点1−2であるとしても、それらの相違点に係る本件発明1の構成は容易に想到することができない。
15 したがって、本件発明4は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする本件決定の判断(本件決定第5の1?ウ(ウ))は誤りである。
〔被告の主張〕20 ア 〔原告の主張〕取消事由1−4−1に対し本件発明4について、引用発明との一致点及び相違点は、本件決定の認定(前記第2の3?ア(オ)a)のとおりである。
イ 〔原告の主張〕取消事由1−4−2に対し本件発明4について、容易想到性の判断は、本件決定の判断(前記第225 の3?ア(オ)b)のとおりであり、本件発明4は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易24に発明をすることができたものである。
2 取消事由2(実施可能要件の判断の誤り−取消しの理由2関係)〔原告の主張〕物の発明について、明細書にその物を製造する一つの方法についての具体的5 な記載があるだけでも、その物の生産等をする行為(物の発明実施行為)は可能であるから、実施可能要件(特許法36条1項4号)は充足される。明細書にその物を製造する複数の方法が記載されているが、その一部の方法の記載についての具体的な記載がない場合に、その複数の方法全てにつき具体的な記載がないことをもって実施可能要件違反であるとするのは、特許制度の趣旨に10 反する。本件明細書等には、第1実施形態及び実施例1ないし4及び6が記載されており、これによれば、少なくとも長細状凸部ループ構造を有するものを含め、本件発明1に係る光学三特性を有する防眩フィルムを製造することが可能であるから、第2実施形態及び第3実施形態の方法について具体的な記載があるか否かにかかわらず、本件各発明は実施可能である。
15 また、当業者が、本件明細書等に従って実施例1ないし6の防眩フィルムを製造し、防眩層が、本件明細書等(段落【0015】及び【0078】)に記載された「防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やし、さらに、成分間の屈折率差が抑制されているという形状・構造」を有しているかを調べて確認しながら、光学三特性を有20 する防眩層を備える第2実施形態及び第3実施形態の防眩フィルムを製造することは可能である。そうすると、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、
実施可能要件を充足する。
したがって、本件各発明について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできないという本件決25 定の判断(本件決定第5の2?イ、ウ)は誤りである。
〔被告の主張〕25本件発明1について、第1実施形態の実施例により、長細状凸部ループ構造を有し光学三特性を有する防眩層を備える防眩フィルムを製造することは可能である。しかし、本件発明1は、所定の光学三特性のパラメータの数値範囲により発明を特定するから、所定のパラメータを満たす多種多様な構造等から5 なる防眩層を含み、その製造方法には、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態及びその他の方法が含まれ、第2実施形態の方法により製造された第2構造防眩層、及び第3実施形態の方法により製造された第3構造防眩層は、形成される表面の凹凸構造及び内部構造が第1構造防眩層と異なる。そして、凹凸の大きさ、傾斜、急峻さ及び数量等によって光学三特性のパラメータは変化10 する。それにもかかわらず、本件明細書等には、実施例は第1構造防眩層について示されているにすぎず、第2構造防眩層及び第3構造防眩層については、
具体的製造例や光学三特性の測定結果等の記載はなく、光学三特性のパラメータの範囲内にするために、凹凸を定量的にどの程度にまで縮小化、高傾斜化、
急峻化させ、数量を増加させればよいか等について何らの示唆もない。原告が、
15 光学三特性を得るための構造として主張する「防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やし、さらに、成分間の屈折率差が抑制されているという形状・構造」は、表面の凹凸構造及び内部構造につき、第1構造防眩層の長細状凸部ループ構造から表面の凹凸構造の一部を捨象し、上位概念化したものであり、それによって直ちに光学20 三特性を得られるものではない。そのため、光学三特性のパラメータの数値範囲を満たす第2構造防眩層及び第3構造防眩層を製造するためには、多種多様な表面の凹凸構造及び内部構造のものを作製し、その特性を試験・確認して、
所望の値のものを選択することを要し、これには、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要する。
25 したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件(特許法36条4項1号)を充足しない。
263 取消事由3(サポート要件の判断の誤り−取消しの理由3関係)〔原告の主張〕本件各発明の課題は、
「着色しにくく、良好な防眩性を有すると共に、ディスプレイのギラツキを抑制可能な防眩フィルムを提供する」ことにあり、請求項5 1において特定された光学三特性を有する本件各発明(請求項1及びこれを引用する請求項2ないし4)の防眩層は、このような課題を解決するための手段である。そして、第1実施形態の実施例1ないし6の防眩フィルムの画素密度441ppiにおける輝度分布の標準偏差は、本件明細書等の表1(段落【0160】)の項目の「ギラツキ」欄記載のとおりであり、光学三特性に定められ10 た0以上10以下の値の範囲内にあり、また、実施例1ないし6の防眩フィルムのヘイズ値及び内部ヘイズ値は、実施例5の内部ヘイズ値を除き、光学三特性に定められた範囲内にある。そのため、当業者は、光学三特性を有する防眩層を備える防眩フィルムにより、およそその光学三特性の範囲全般にわたって、
当該課題を解決できると認識するから、本件各発明は、本件明細書等の発明の15 詳細な説明に記載したものである。第2実施形態及び第3実施形態の防眩フィルムも、その防眩層が光学三特性を有しているのであるから、当業者は、当該防眩フィルムにより、上記の課題を解決できると認識する。
そうすると、本件各発明は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものである。したがって、本件各発明は、発明の詳細な説明に記載されたもので20 あるということはできないという本件決定の判断(本件決定第5の2?ウ)は誤りである。
〔被告の主張〕本件各発明は、
「着色しにくく、良好な防眩性を有すると共に、ディスプレイのギラツキを抑制可能な防眩フィルムを提供する」(本件明細書等の段落【0025 07】 という課題を解決しようとする発明であって、
) 防眩フィルムの防眩層中に微粒子を分散させた従来技術においては、入射した光が微粒子によって広角27に散乱されてフィルムが着色していたところ、防眩層の内部ヘイズ値を高めずに、防眩層の表面を適切に粗面化して外部ヘイズ値を調節することにより、防眩フィルムの着色を防止しつつ、良好な防眩性を得たものであって(本件明細書等の段落【0010】、輝度分布の標準偏差の値を適切な値に設定すること)5 により、防眩フィルムの着色を防止しながら、ディスプレイのギラツキを抑制した(本件明細書等の段落【0011】)ものである。そして、本件各発明は、
第1構造防眩層のみならず、第2構造防眩層及び第3構造防眩層を備える防眩フィルムをも明らかに含むものである。
一方、本件明細書等の発明の詳細な説明に、上記課題を解決できるように、
10 実施例と比較例の対比をもって記載されているのは、第1構造防眩層を備えた防眩フィルムのみである。そして、製造方法が異なれば、表面の凹凸構造のみならず、内部構造も別異の構造となり、内部構造が異なれば内部ヘイズ値も変動する。そうすると、第1構造防眩層とは構造を異にする第2構造防眩層及び第3構造防眩層を備えた防眩フィルムについては、防眩層の表面の凹凸構造及15 び内部構造によって光学三特性のパラメータの値がさまざまな値をとり得るにもかかわらず、具体的にどのようなものにすれば、内部ヘイズ値を高めることなく、全体のヘイズ値を所望の値に調節でき、かつ、輝度分布の標準偏差の値を適切な値に設定できるのかについて、発明の詳細な説明に、何ら具体例の開示はないし、また、本件特許出願時の技術常識参酌すれば、具体例の開示20 がなくとも当業者に理解できる程度に記載されている、ともいえない。そのため、本件各発明は、発明の詳細な説明に、当業者が課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えるものである。
したがって、本件各発明は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件(特許法3625 条6項1号)を充足しない。
4 取消事由4(明確性要件の判断の誤り−取消しの理由4関係)28〔原告の主張〕? 本件特許の請求項1でいう「画素密度441ppiにおける輝度分布の標準偏差」は、本件明細書等の段落【0159】に記載の方法で測定され、しぼりは、画素の輝線の影響を排除することができ、そして「8ビット階調表5 示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られる」大きさであり、撮影距離はワークディスタンス170mm(撮影距離328mm)であるから、その測定方法及び測定条件は当業者に明らかである。
? 当業者は、ディスプレイの輝度分布の状態を最も忠実に反映できる撮影距10 離やしぼりを選ぶのであり、そのための撮影距離やしぼりは、本件明細書等に明記がなくとも技術常識参酌して理解できれば足りる。本件発明1の「ディスプレイの輝度分布の標準偏差」の測定において、画素の輝線の影響を排除でき、そして「8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られる」しぼりは、当業者が取扱説明書や15 カメラ撮影の技術常識参酌して適切に設定できるのであるから、もしも仮にしぼりを極端に大きくし得るのだとしても、本件発明1が不明確であるということはない。本件明細書等の段落【0159】に記載されたフィルムギラツキ検査機は、その取扱説明書(甲32)によれば、輝度がしぼりにより調整されるのであるから、当業者は、
「8ビット階調表示で且つ平均輝度が120 70階調のグレースケール画像として画像データが得られる」ようにまずはしぼりを調整するのであり、しぼりをいたずらに大きくし、そして今度は輝度を調整するために露光時間も大きくするなどという不自然なことをするはずがないし、またする必要もない。そうすると、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載(本件発明1)は、特許を受けようとする発明が明確であ25 り、請求項2ないし4の記載(本件発明2ないし4)の記載も明確である。
したがって、本件発明1は明確であるということはできず、本件発明2な29いし4も同様であるという本件決定の判断(本件決定第5の2?オ)は誤りである。
〔被告の主張〕本件各発明は、防眩フォルムという物の発明について、物の構造等ではなく、
5 その物の有する特定の数値範囲(ヘイズ値、内部ヘイズ値及び輝度分布の標準偏差、という光学三特性)のみによって特定される発明であるが、それらの測定値を一義的に定める測定方法及び測定条件は明確でない。そして、本件発明1の光学三特性のうちの輝度分布の標準偏差の値は、撮影距離やFナンバーといった測定条件によって変動するにもかかわらず、本件明細書等の発明の詳細10 な説明の記載や本件特許の出願時の技術常識によっても、その測定方法や測定条件は明らかでない。
輝度分布の標準偏差が本件特許出願後にJIS規格として規格化されているとしても、測定方法が規格化されたにとどまり、測定条件までもが一義的に確定されているわけではないし、本件明細書等の段落【0159】には、スマ15 ートフォンである三星電子株式会社製「GalxaxyS4」(以下「S4」という。 を用いた測定方法が記載されているが、
) 撮影距離やFナンバーが明らかとはいえず、本件発明1は「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、
・・・標準偏差」と特定されており、表示装置がS4に限られるわけではないから、本件発明1に係る一般的な測定方法20 や測定条件が記載されているとはいえない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、明確性要件(特許法36条6項2号)を充足しない。
第4 当裁判所の判断1 本件各発明の内容25 ? 特許請求の範囲本件各発明に係る特許請求の範囲は、前記第2の2記載のとおりである。
30? 本件明細書等の記載本件明細書等には、別紙2のとおりの記載がある(甲20)。なお、別紙2の「背景技術」、
「発明が解決しようとする課題」、
「発明の効果」等の項目は、
本判決による整理に従って付したものであり、本件明細書等の項目の位置と5 は異なる場合がある。
? 本件各発明の技術的意義前記?及び?によれば、本件各発明の技術的意義は、次のとおりであると認められる。
本件各発明は、ディスプレイの表面への外光の映り込みを防止する防眩フ10 ィルムに関するものである(段落【0001】。防眩フィルムは、例えば、
)粗面化により表面に凹凸が形成された防眩層を有するフィルムであり、ディスプレイの表面に装着され、外光を散乱させてディスプレイの表面への外光の映り込みを防止するものであるところ(段落【0002】、高精細画素を)有するディスプレイ等の表面に防眩フィルムを装着すると、防眩フィルムを15 透過するディスプレイからの光が防眩層の表面の凹凸により屈折したり、防眩層の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイの画素が拡大されて見えたりすることで、ディスプレイのギラツキが発生し、画像が見づらくなることがある(段落【0003】。そこで、例えば、防眩層中に粒径が比較的小)さい微粒子を分散させることで表面に微細な凹凸を形成し、ディスプレイの20 ギラツキの抑制を図ったものが知られている(段落【0004】。しかしな)がら、単に防眩層中に微粒子を分散させた場合、防眩フィルムが、例えば黄色味等の色味を帯びるように着色し、防眩フィルムを介したディスプレイの色再現性が低下するおそれがある(段落【0006】。
) そこで本件各発明は、
着色しにくく、良好な防眩性を有すると共に、ディスプレイのギラツキを抑25 制可能な防眩フィルムを提供することを課題とするものである(段落【0007】。
)本件各発明は、ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値であり、
31内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であり、且つ、ディスプレイの表面に装着した状態におけるディスプレイの輝度分布の標準偏差が、
0以上10以下の値である防眩層を備える防眩フィルムであり(請求項1、
段落【0008】、内部ヘイズ値を抑制しながら、外部ヘイズ値により、全)5 体のヘイズ値を維持するものである(段落【0009】。このように防眩層)を構成することで、防眩層の内部ヘイズ値を高めなくても、良好な防眩性を得ることができ、且つ、防眩フィルム内に入射した所定波長の光が広角に散乱されて防眩フィルムが着色する(例えば、青色光等の低波長光が散乱されて防眩フィルムが黄色味を帯びるように着色する)ことを防止できる(段落10 【0010】。
)2 引用文献等の記載事項? 引用例1引用例1には、別紙3の1のとおりの記載がある(甲1)。
? 引用例215 引用例2には、別紙3の2のとおりの記載がある(甲2)。
? 周知文献A1周知文献A1には、別紙3の3のとおりの記載がある(甲7)。
3 取消事由1(進歩性の判断の誤り−取消しの理由1関係)? 取消事由1−1(本件発明1の進歩性の判断の誤り)20 ア 取消事由1−1−1(本件発明1と引用発明の相違点の認定の誤り)について(ア) 本件明細書等には、防眩層の内部ヘイズ値を高めなくても、防眩層の表面を適切に粗面化して外部ヘイズ値を調節し、良好な防眩性を得るとともに、防眩フィルム内に入射した光が、防眩層中の微粒子によって広25 角に散乱するのを抑制でき、防眩フィルム内に入射した所定波長の光が広角に散乱されて防眩フィルムが着色するのを防止できること(段落【032010】、及び、ギラツキを抑制するために、防眩層の凹凸を縮小する)だけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすことで、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させること(段落【0078】)が記載され、ギラツキと凹凸形状5 の関係は記載されているものの、ギラツキと内部ヘイズ値との関係については明記されておらず、本件各発明において、ギラツキと内部ヘイズ値とが技術的に一体不可分であるとまでいうことはできない。
(イ) 原告は、光学三特性は技術的に互いに一体不可分であり、光学三特性のうちの内部ヘイズ値と、ギラツキの度合いに関する輝度分布の標準偏10 差の値は技術的に一体不可分であるとし、本件決定が、本件発明1と引用発明の相違点を、内部ヘイズ値に関する相違点1−1と、ギラツキの度合いを示す輝度分布の標準偏差の値を含む相違点1−2に分けて認定したのは、進歩性の判断を誤らせる結果を生じるものであり、このような認定は誤りであると主張する(前記第3の1?〔原告の主張〕ア)。
15 この点に関し、引用例1の表2によれば、ピクセルの密度が212ppiの時のギラツキの評価は、実施例1はB(ギラツキはあるが、実用上問題はない。 であるのに対し、
) 主に表面凹凸を形成する第1の微粒子の添加部数のみが実施例1と異なる比較例9はC(ギラツキがある。、
)主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子の添加部数のみが実施例1と異20 なる実施例2はA(ギラツキがほとんどない。)であり、第1の微粒子の添加量及び第2の微粒子の添加量がギラツキに関係していることがうかがわれ、ギラツキの改善と、主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子との間に関係があることが示唆されているといえる。しかし、引用例1には、主に表面凹凸を形成する第1の微粒子の重量平均粒径が所定範囲よ25 り小さいと、十分な防眩性が得られず、ギラツキも大きくなることは記載されているものの(引用例1の段落【0035】、主に内部ヘイズを)33調整する第2の微粒子や内部ヘイズ値とギラツキの関係については明記されていない。光学三特性が、防眩層の形状・構造と関係するとしても、
内部ヘイズ値と、ギラツキの度合いを示す輝度分布の標準偏差が、技術的に一体不可分であるといえるほどに密接な関係があることを認めるに5 足りる証拠はない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 以上によれば、本件発明1と引用発明の相違点として、相違点1−1と相違点1−2を分けた本件決定の認定(本件決定第5の1?イ(イ))に誤りがあるとは認められず、取消事由1−1−1は理由がない。
10 イ 取消事由1−1−2(相違点の容易想到性の判断の誤り)について(ア) 引用例2は、解像度の低下を招く可能性のある内部へイズに頼ることなくギラツキを防止することについて、表面凹凸の割合、及び、概ね傾斜角5度以上の領域を示す表面ヘイズを特定の範囲とすることにより、
ギラツキを防止するとともに超高精細の表示素子の解像度の低下を防止15 できること(引用例2の段落【0008】、大き過ぎずかつ小さ過ぎな)い範囲の表面ヘイズを有することで、凹凸形状の中に、傾斜角度の小さい凹凸と、傾斜角度の大きい凹凸とが混在し、凹凸内に様々な傾斜角が存在することにより、ギラツキをより防止しやすくできること(引用例2の段落【0025】)を開示し、上記の大き過ぎずかつ小さ過ぎない範20 囲の表面ヘイズの数値範囲として、表面へイズが22ないし40%であることと、強度比が1.0以上4.0以下の光学シートを用いることが記載され、また、表面へイズが40%を超える場合は解像度が低下してしまうことも記載されている(引用例2の段落【0026】。そして、
)強度比を規定するとともに、表面ヘイズを規定することにより、凹凸の25 程度(表面拡散要素)をより具体的に表すことが記載されており(引用例2の段落【0029】、表面ヘイズの値は、ギラツキと技術的に一体)34不可分である凹凸の形状を規定するものであるから、引用例2の記載は、
表面ヘイズ値と切り離してギラツキを調整することを示唆するものと解することはできない。そうすると、引用例2の「内部へイズは、5〜30%であることが好ましく、5〜25%であることがより好ましく、15 0〜18%であることがさらに好ましい。内部ヘイズを5%以上とすることにより、表面凹凸との相乗作用によりギラツキを防止しやすくでき、
30%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できる。(引用例2の段落【0035】」 )という記載を根拠として、引用例2が、表面ヘイズ値と切り離して内部ヘイズ値を5%程度に調整す10 ることによりバラツキを調整することを示唆しているということはできない。
そして、引用例2に、光学シートの表面ヘイズが22ないし40%であり、
(全体の)ヘイズが25ないし60%であることが好ましいと記載されている一方で(引用例2の段落【0035】、
) 引用発明の(全体の)15 ヘイズ値は60%であり、また、引用例1には、防眩性ハードコートフィルムは、
(全体の)ヘイズ値が60%以上であるとされているから(引用例1の段落【0005】及び【0042】、引用発明と引用例2の(全)体の)ヘイズ値が共通するのは、60%の(全体の)ヘイズ値を有する場合である。本件発明1においては、
(全体の)ヘイズ値から内部ヘイズ20 値を差し引いた値が外部ヘイズ値(表面ヘイズ値)に相当するから(段落【0025】、
)(全体の)ヘイズ値が60%である引用発明について、
表面ヘイズの値が22ないし40%である光学シートが記載された引用例2が、内部ヘイズ値として示唆するのは、60%の(全体の)ヘイズ値のときに取り得る20ないし38%(60%−40%=20%と、625 0%−22%=38%の間)の内部ヘイズ値である。そうすると、引用発明に引用例2を組み合わせても、内部ヘイズ値を20%よりも小さい35値とすることを当業者が容易に想到することはできない。
なお、周知文献A1も、
「内部へイズは、5〜30%であることが好ましく」と記載されているものの、他方で、
「表面へイズは20〜50%であることが好ましく」とも記載されているから(周知文献A1の段落【05 029】、表面ヘイズ値と切り離してギラツキを調整することを示唆す)るものではない。
(イ) 被告は、防眩フィルムにおいて、表示素子の解像度の低下を防?することは周知の課題であるから、ヘイズ値が60%の引用発明においても、
表示素子の解像度の低下を防止する観点から、内部ヘイズ値を5%に設10 定することは、当業者にとり動機付けがある旨主張し、また、引用例2(段落【0035】)や周知文献A1(段落【0029】)の記載に接した当業者であれば、光学シートに関し、内部ヘイズ値を5%以上とすることにより、表面凹凸との相乗作?によりギラツキを防?しつつ、30%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止でき15 ることを当然に理解できる旨主張する(前記第3の1?〔被告の主張〕イ(イ))。
しかし、前記(ア)のとおり、引用例2や周知文献A1は、表面ヘイズ値と切り離してギラツキを調整することを示唆するものではないから、被告の上記主張は採用することができない。
20 (ウ) 前記(ア)のとおり、引用発明に引用例2を組み合わせても、内部ヘイズ値を20%よりも小さい値とすることを当業者が容易に想到することはできず、内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲であるという、
本件発明1の相違点1−1に係る構成を当業者が容易に想到することもできない。その他に、本件発明1の相違点1−1に係る構成を当業者が25 容易に想到することができたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件発明1は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術な36いし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明1は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をするこ5 とができたものであるとする本件決定の判断(本件決定第5の1?ウ(オ))は誤りであり、取消事由取消事由1−1−2は理由がある。
? 取消事由1−2(本件発明2の進歩性の判断の誤り)、取消事由1−3(本件発明3の進歩性の判断の誤り) 取消事由1−4、 (本件発明4の進歩性の判断の誤り)について10 前記?イ(ウ)のとおり、本件発明1は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。そして、本件発明2ないし4は、いずれも、本件発明1を引用し、これを更に限定するものであるから、本件発明2ないし4も、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項15 に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明2ないし4は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする本件決定の判断(本件決定第5の1?ウ(ウ)、?ウ(ウ)及び?ウ(ウ))は、いずれも誤りであり、取消事由1−2−2、1−3−20 2及び1−4−2は、いずれも理由がある。
4 取消事由2(実施可能要件の判断の誤り−取消しの理由2関係)について? 発明の詳細な説明物の発明について実施可能要件を満たすためには、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の25 記載があることを要するものと解される。
? 本件では、長細状凸部ループ構造を有し、光学三特性を有する防眩層を備37える第1実施形態に係る防眩フィルムにより本件各発明を実施できることは当事者間に争いはない。しかし、本件各発明は、光学三特性を満たす防眩層を備えることを要するものの、特許請求の範囲においては、その構造は限定されておらず、長細状凸部ループ構造以外の構造のものも本件各発明に含ま5 れるものと解される。そこで、本件明細書等の記載に長細状凸部ループ構造以外の構造のものが含まれているといえるか否かを検討する。
まず、本件明細書等の段落【0034】には、
[防眩層の構造]として、
「第1実施形態の防眩層3は、複数の樹脂成分の相分離構造を有する。防眩層3は、一例として、複数の樹脂成分の相分離構造により、複数の長細状(紐状10 又は線状)凸部が表面に形成されている。長細状凸部は分岐しており、密な状態で共連続相構造を形成している。」と記載されている。それに続く段落【0035】には、
「防眩層3は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部間に位置する凹部とにより防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このような防眩層3を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバラン15 スに優れたものとなっている。防眩層3の表面は、長細状凸部が略網目状に形成されることにより、網目状構造、言い換えると、連続し又は一部欠落した不規則な複数のループ構造を有する。 として、
」 長細状凸部ループ構造について記載されているが、この段落【0035】の記載は、第1実施形態の防眩層として、長細状凸部ループ構造以外の相分離構造を否定しているものと20 は認められない。
また、本件明細書等には、第1実施形態において、共連続相構造だけからなる形状のほかに、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造(球状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)との中間的構造も形成できることが記載されているし(段落【0072】、相分離により層表面)25 に微細な凹凸を形成することで、防眩層中に微粒子を分散させなくても防眩層のヘイズ値を調整できることが記載されており(段落【0073】、共連)38続相構造に限定しない微細な凹凸を形成することが示唆されているといえる。
そして、本件明細書等の段落【0134】には「実施例1〜6は、相分離構造を基本構造として防眩層3を形成するものである。」と記載されているものの、全ての実施例が長細状凸部ループ構造であるとは記載されていない5 し、甲47(実施例3及び6の防眩フィルムの顕微鏡写真)の実施例3の防眩フィルムの表面形状・構造を撮影した写真からは、長細状凸部ループ構造とまではいえない凹凸形状が形成されていることが認められるから、第1実施形態の凹凸構造として、長細状凸部ループ構造以外の凹凸構造をも製造することができると認められる。さらに、長細状凸部ループ構造以外の凹凸構10 造が形成され、かつ光学三特性を備える防眩フィルムとして、甲47の実施例3の凹凸構造しか製造できないことを示す証拠はない。
そうすると、第1実施形態の防眩層には、長細状凸部ループ構造以外の凹凸構造のものが含まれており、そのようなものも含め、当業者であれば、少なくとも第1実施形態により、光学三特性を満たす本件各発明に係る防眩層15 を、過度の試行錯誤なく製造できるものと認められる。
したがって、本件明細書等には、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があると認められる。
? この点に関し、被告は、本件各発明は、第1構造防眩層を備えた防眩フィ20 ルムのみならず、第2構造防眩層及び第3構造防眩層を備えた防眩フィルムを含むにもかかわらず、本件明細書等には、実施例として第1構造防眩層について示されているにすぎず、第2構造防眩層及び第3構造防眩層については、具体的製造例や光学三特性の測定結果等の記載はなく、凹凸をどのように形成すればよいか等について何らの示唆もない旨、原告が光学三特性を得25 るための構造として主張する構造は、第1構造防眩層を上位概念化したものであり、それによって直ちに光学三特性を得られるものではない旨主張し、
39そのため、光学三特性のパラメータの数値範囲を満たす第2構造防眩層及び第3構造防眩層を製造するには過度の試行錯誤を要すると主張する(前記第3の2〔被告の主張〕。
)しかし、第2実施形態または第3実施形態により、第1実施形態では製造5 できない防眩フィルムを製造することは、本件明細書等には記載されていない。むしろ、本件明細書等の段落【0079】には、
「第1実施形態において前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できるが、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例えば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒10 子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成できる。 と記載され、
」 第1実施形態のような凹凸を他の方法で形成できるとした上で、その一例として第2実施形態の方法で形成することが示されて15 いるし、また、本件明細書等の段落【0079】には、上記の記載に続けて、
「そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との差異を中心に説明する。」と記載され、以下に、第2実施形態(段落【0080】ないし【0102】、第3実施形態(段落【0103】ないし【011)5】)の説明が続けてされているから、第3実施形態は、第1実施形態によっ20 て得られる凹凸を形成する「その他の方法」の一つであると解するのが自然である。そして、本件各発明に含まれる防眩フィルムであって、第1実施形態以外の方法により作成できない防眩フィルムの存在やその態様を裏付ける証拠はない。そうすると、第1実施形態により作成できる防眩フィルムを、
第2実施形態や第3実施形態によっても作成できるものと認められ、仮に、
25 第1実施形態により作成できる防眩フィルムの中に、第2実施形態や第3実施形態により作成できないものがあったとしても、それにより、第1実施形40態により本件各発明が実施可能であることが否定されるものではない。
なお、第2実施形態により製造された第2構造防眩層、第3実施形態により製造された第3構造防眩層の中に、第1構造防眩層とは異なる形状・構造を有するものがあり、それらが本件各発明の光学三特性を満たさなかったと5 しても、それらは本件各発明を実施するものではないというにとどまり、それによって本件各発明の実施可能性が否定されるわけではない。
以上によれば、被告の上記主張は採用することができない。
? なお、原告は、当業者は、実施例1ないし6の防眩フィルムを製造(再現)して、防眩層が、本件明細書等(段落【0015】及び【0078】)に記載10 された形状・構造を有しているか調べて確認しながら、光学三特性を有する防眩層を備える第2実施形態及び第3実施形態の防眩フィルムを製造することは可能であると主張する(前記第3の2〔原告の主張〕。
)この点に関しては、実施例1ないし6の防眩フィルムの形状・構造を調べたからといって、同様の形状・構造を有する防眩層を第2実施形態や第3実15 施形態によって製造することができるとまではいえないから、原告の上記主張をそのまま採用することはできないが、仮に第2実施形態により製造された第2構造防眩層、第3実施形態により製造された第3構造防眩層の中に、
第1構造防眩層とは異なる形状・構造を有するものがあり、それらが本件各発明の光学三特性を満たさなかったとしても、それらは本件各発明を実施す20 るものではないというにとどまり、それによって本件各発明の実施可能性が否定されるわけではないことは、前記?のとおりである。
? 以上によれば、本件明細書等には、当業者がその記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件各発明に係る物を製造し、使用することができる程度の記載があるものと認められ、当業者が25 本件各発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認められる。
41したがって、本件各発明について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできないという本件決定の判断(本件決定第5の2?イ、ウ)は誤りであり、取消事由2は理由がある。
5 5 取消事由3(サポート要件の判断の誤り−取消しの理由3関係)について? 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである10 か否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
?ア 本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、前記第2の2のとおりであり、
本件明細書等の記載は、前記1?のとおりである。
15 イ(ア) 本件明細書等の記載によれば、当業者は、以下の事項を理解することができると認められる。
本件各発明の解決しようとする課題は、
「着色しにくく、良好な防眩性を有すると共に、ディスプレイのギラツキを抑制可能な防眩フィルムを提供すること」(段落【0007】)である。
20 本件各発明においては、防眩層の内部ヘイズ値を高めなくても、防眩層の表面を適切に粗面化して外部ヘイズ値を調節し、良好な防眩性を得ることができ(段落【0010】、ヘイズ値が60%以上95%以下の)範囲の値であれば良好な防眩性が得られる(段落【0007】ないし【0009】。また、内部ヘイズを高くしないことにより、防眩フィルム内)25 に入射した光が、防眩層中の微粒子によって広角に散乱するのを抑制できるので、防眩フィルム内に入射した所定波長の光が広角に散乱されて42防眩フィルムが着色するのを防止できるものであり(段落【0010】、
)内部ヘイズ値が0.5%以上15.0%以下の範囲の値のときに、防眩フィルムが着色するのを防止できる(段落【0007】ないし【0009】。また、ギラツキを抑制する方法としては、防眩層の表面の凹凸を)5 縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすことで、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させることができるから(段落【0078】、ディスプ)レイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である凹凸構造の防眩フィルムは、ギラツキを抑制することができる(段落【0011】。
)10 そのため、光学三特性を有する本件各発明は上記課題を解決することができる。
(イ) そして、第1実施形態により光学三特性を有する防眩フィルムを製造できることは、前記4?のとおりである。
ウ 以上によれば、本件特許については、特許請求の範囲の記載と本件明細15 書等の発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるものと認められ、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものと認められる。
20 したがって、本件各発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできないという本件決定の判断(本件決定第5の2?ウ)は誤りであり、取消事由3は理由がある。
6 取消事由4(明確性要件の判断の誤り−取消しの理由4関係)について? 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載25 だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第43三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断するのが相当である。
?ア これを本件において検討するに、表面に本件各発明に係る防眩フィルムを装着したディスプレイの輝度分布の標準偏差の値(ギラツキ値)は、防5 眩層の原料となる溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、あるいは、
調製工程、形成工程、及び硬化工程の施工条件等によって変化し得るため、
本件各発明の防眩フィルムの製造に当たっては、上記各条件を変化させて防眩層を形成し、得られた防眩層の物性を予め測定・把握しておくことで、
目的の物性を有する防眩フィルムを得ることができる(本件明細書等の段10 落【0067】。また、本件各発明においては、ギラツキを抑制する方法)として、防眩層の表面の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすことで、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させる(本件明細書等の段落【0078】。そして、本件各発明において、防眩層の凹凸の傾斜を高く)15 して凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすために上記各条件を設定するに当たり、ディスプレイの輝度分布の標準偏差が0以上10以下の値となるように各条件を設定することにより、目的の物性を有する防眩フィルムを得るものといえるから(本件明細書等の段落【0008】及び【0011】、輝度分布の標準偏差は防眩フィルムの凹凸形状を規定している)20 といえる。
一方、上記ディスプレイの輝度分布の標準偏差を得る際に、測定条件の設定の仕方が適切でない場合に、同じ防眩層を有するフィルムを用いて測定したディスプレイの輝度分布の標準偏差が変動することがあり得るとすれば、同じ防眩層を有するフィルムを測定しても、測定結果である標準25 偏差が0以上10以下の範囲に入ったり入らなかったりすることがあり得ることとなる。しかし、当業者であれば、測定結果に変動が生じないよ44うに測定条件を設定しようとすると解され、本件各発明の輝度分布の標準偏差を得るに当たり、測定結果に変動が生じないように測定条件を設定することが不可能であることを示す証拠はない。また、ディスプレイのユーザが感じるギラツキとの乖離が著しくなるような条件(例えば、ユーザに5 はぎらついて見えるのに輝度分布の標準偏差は小さくなるような条件)で測定を行っても意味がないことは明らかであるし、本件明細書等でも、輝度分布の測定においてユーザの目によるギラツキの感覚を考慮しているから(本件明細書等の段落【0129】、当業者が、およそディスプレイ)のユーザが感じるギラツキとの乖離が著しくなるような条件で本件各発10 明の輝度分布を測定するものと解することはできない。
そうすると、本件各発明における輝度分布の測定に当たり設定可能な条件には、同じ防眩フィルムに関する測定結果が変動せず一定になるように設定すること、ディスプレイのユーザが感じるギラツキとの乖離が著しくならないように、ユーザがギラツキを感じることが少ないときに輝度分布15 の標準偏差が小さくなるように設定すること等の制限があるということができ、当業者であればこれらの制限のもとで合理的な範囲で条件を設定して測定するものと推認される。そして、そのような条件を設定して測定した場合に、輝度分布の標準偏差の測定結果に大きな違いが生じることを示す証拠はないから、輝度分布の標準偏差を規定したことにより、本件各20 発明が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。
イ この点に関し、被告は、光学三特性の測定値を一義的に定める測定方法及び測定条件はなく、光学三特性のうち輝度分布の標準偏差の値は、撮影距離及びFナンバーといった測定条件によって変動するにもかかわらず、
25 本件明細書等の発明の詳細な説明の記載や本件特許の出願時の技術常識によっても、その測定方法や測定条件は明らかでない旨、輝度分布の標準偏45差が本件特許出願後にJIS規格として規格化されているとしても、測定条件までもが一義的に確定されているわけではないし、本件明細書等の段落【0159】にS4を用いた測定方法が記載されているとしても、撮影距離やFナンバーが明らかでなく、本件発明1に係る一般的な測定方法や5 測定条件が記載されているとはいえない旨主張する(前記第3の4〔被告の主張〕。
)しかし、そもそも、Fナンバーが変化すると輝度分布の標準偏差が変動し得ることを理解する当業者であれば、本件明細書等にFナンバーや撮影距離の記載がなくても、標準偏差の測定結果が安定した値を示すようなF10 ナンバーや撮影距離の設定を行おうとするものと推認される。そして、どのようなFナンバーの値を選んでも標準偏差の測定値の変動を小さくすることができないことを示す証拠はなく、むしろ、甲24(原告が本件異議手続で提出した令和3年6月9日付け意見書) 甲40、 (原告従業員作成の2022年(令和4年)5月13日付け報告書)によれば、しぼりが「8」15 のときは、しぼりが「4」及び「6」のときよりも、撮像距離の変化に対する輝度分布の標準偏差(ギラツキ値、Sparkle Value)の変動が小さいことが理解できるから、当業者であれば測定結果の変動が小さいFナンバーを選択すると推認される。
一方、Fナンバーが大きければ得られる画像が暗くなり、8ビット階調20 表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像に設定することが困難となるから、フィルムギラツキ検査機のしぼりを大きくすることにも制限がある。そして、測定結果の変動が小さく、適切な平均輝度が得られるようにFナンバーを選択して測定を行った際に、輝度分布の標準偏差が有意な変動を示すことを裏付ける証拠はないから、本件各発明の輝度分25 布の標準偏差が不明確であるということはできない。
なお、甲32(コマツNTC株式会社製フィルムギラツキ検査機の取扱46説明書)には、「しぼり調整」の項に、「測定を開始し、最大輝度が255を超えないように調整します。 、
」 「フィルムをのせた場合に最大輝度が255を超えてしまった場合にもしぼりを調整してください。(甲32の7」頁)として、最大輝度が255を超えないように調整することが記載され5 ており、本件各発明の8ビット(0〜255)階調表示、すなわち256階調表示として画像データが得られるように調整することが示唆されているところ、甲32記載のギラツキ検査機を用いて撮影を行う際に、しぼりの調整を行わないのは不自然である。もっとも、しぼりの調整だけでは「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着し10 た状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整」できない場合もあり得るから、本件明細書等の記載のように「画素による輝線がない、或いは、画素による輝線があってもディスプレイのギラツキの評価に影響を与えない程度」に、撮像装置と、フィルムを装着したディスプレイとの間の15 相対距離を調整すること(本件明細書等の段落【0128】 はあり得るし、
)「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整」するために、撮像装置の露光時間又はディスプレイの全画素の輝度を変更すること(本件明20 細書等の段落【0159】)もあり得る。しかし、本件明細書等にFナンバーの調整を行うことが記載されていないからといって、輝度分布の標準偏差を測定するための設定を適切に調整するに当たり、ギラツキ検査機の説明書(甲32)に記載されているしぼりの調整が禁止されていると解することはできないし、当業者がしぼりの調整を行わないと解することもでき25 ない。さらに、具体的にどのようなFナンバーの設定によって標準偏差がどの程度変動し、その標準偏差の変動の程度により、特許請求の範囲が、
47第三者の利益を不当に害するほどに不明確になるのかは、具体的に明らかでない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
? 以上のとおり、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当5 業者の出願当時における技術常識を基礎として、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載(本件発明1)は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできず、特許を受けようとする発明は明確であり、
請求項2ないし4の記載(本件発明2ないし4)も明確である。
したがって、本件発明1は明確であるということはできず、本件発明2な10 いし4も同様であるという本件決定の判断(本件決定第5の2?オ)は誤りであり、取消事由4は理由がある。
7 結論以上によれば、取消事由1−1−2、1−2−2、1−3−2及び1−4−2、並びに取消事由2ないし4は、いずれも理由があり、本件決定には、これ15 を取り消すべき違法がある。
よって、原告の請求を認容することとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部20裁判長裁判官東 海 林 保25485 裁判官中 平 健10 裁判官都 野 道 紀(別紙1 異議の決定写し省略)49別紙2 (本件明細書等の記載、甲20)? 技術分野「本発明は、ディスプレイの表面への外光の映り込みを防止する防眩フィルムに5 関する。(段落【0001】」 )? 背景技術「防眩フィルムは、例えば、粗面化により表面に凹凸が形成された防眩層を有するフィルムであり、ディスプレイの表面に装着され、外光を散乱させてディスプレイの表面への外光の映り込みを防止する。(段落【0002】」 )10 「ところで、高精細画素を有するディスプレイ等の表面に防眩フィルムを装着すると、防眩フィルムを透過するディスプレイからの光が防眩層の表面の凹凸により屈折したり、防眩層の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイの画素が拡大されて見えたりすることで、ディスプレイのギラツキが発生し、画像が見づらくなることがある。(段落【0003】」 )15 「そこで、例えば特許文献1 に開示されるように、防眩層中に粒径が比較的小さい微粒子を分散させることで表面に微細な凹凸を形成し、ディスプレイのギラツキの抑制を図ったものが知られている。(段落【0004】」 )「しかしながら、単に防眩層中に微粒子を分散させた場合、防眩フィルムが例えば黄色味等の色味を帯びるように着色し、防眩フィルムを介したディスプレイの20 色再現性が低下するおそれがある。(段落【0006】」 )? 発明が解決しようとする課題「そこで本発明は、着色しにくく、良好な防眩性を有すると共に、ディスプレイのギラツキを抑制可能な防眩フィルムを提供することを目的としている。(段落」【0007】)25 ? 課題を解決するための手段「上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る防眩フィルムは、ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値であり、内部ヘイズ値が0.5%以上15.0%以下の範囲の値であり、ディスプレイの表面に装着した状態における前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である防眩層を備える。」(段落【0008】)5 「上記構成を有する防眩フィルムの防眩層では、内部ヘイズ値を0.5%以上15.0%以下の範囲の値に抑制しながら、ヘイズ値が、外部ヘイズ値により60%以上95%以下の範囲の値に維持される。(段落【0009】」 )? 発明の効果「このように防眩層を構成することで、防眩層の内部ヘイズ値を高めなくても、
10 防眩層の表面を適切に粗面化して外部ヘイズ値を調節し、良好な防眩性を得ることができる。よって例えば、防眩フィルム内に入射した光が、防眩層中の微粒子によって広角に散乱するのを抑制できる。従って、防眩フィルム内に入射した所定波長の光が広角に散乱されて防眩フィルムが着色する 例えば、
( 青色光等の低波長光が散乱されて防眩フィルムが黄色味を帯びるように着色する) のを防止15 できる。(段落【0010】」 )「また、ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値は、ディスプレイ上の輝点のばらつきの程度を示し、ディスプレイのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となる。このため上記構成では、前記標準偏差の値を0以上10以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルムの着色を防止しながら、ディスプレイのギラツ20 キをより良好に抑制できる。(段落【0011】」 )「本発明によれば、着色しにくく、良好な防眩性を有すると共に、ディスプレイのギラツキを抑制可能な防眩フィルムを提供できる。(段落【0017】」 )? 発明を実施するための形態「以下、本発明の各実施形態について、図を参照して説明する。
25 (第1実施形態)(段落【0019】」 )「図1は、第1実施形態に係る防眩フィルム1の構成を示す断面図である。防眩フィルム1は、表示装置16(図3参照)のディスプレイ16aの表面に装着される。防眩フィルム1は、基材フィルム2、防眩層3、及び粘着層4を備える。」(段落【0020】)「防眩層3は、ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値に設定され、且つ、
5 内部ヘイズ値が0.5%以上15.0%以下の範囲の値に設定されている。(段」落【0023】)「ヘイズ値は、上記範囲内において適宜設定可能であるが、70%以上85%以下の範囲の値であることが一層望ましい。また、内部ヘイズ値も上記範囲内において適宜設定可能であるが、0.5%以上8.0%以下の範囲の値であることが10 一層望ましい。(段落【0024】」 )「本実施形態のヘイズ値は、JIS K7136に準拠する方法により測定した値である。外部ヘイズ値は、ヘイズ値から内部ヘイズ値を差し引いた値に相当する。内部ヘイズ値は、防眩層3に樹脂層等をコートするか、或いは、防眩層3に透明粘着層を介して平滑な透明フィルムを貼り合わせることで、防眩層3の表面15 を平坦化してヘイズ値を測定することにより測定可能である。 段落(」 【0025】)「このように防眩フィルム1の防眩層3では、内部ヘイズ値を0.5%以上15.0%以下の範囲の値に抑制しながら、ヘイズ値が、外部ヘイズ値により60%以上95%以下の範囲の値に維持される。このように防眩層3を構成することで、
防眩層3の内部ヘイズ値を高めなくても、防眩層の表面を適切に粗面化して外部20 ヘイズ値を調節し、良好な防眩性が得られる。よって例えば、防眩フィルム内に入射した光が、防眩層中の微粒子によって広角に散乱するのを抑制できる。従って、防眩フィルム1内に入射した所定波長の光が広角に散乱されて防眩フィルム1が着色する(例えば、青色光等の低波長光が散乱されて防眩フィルムが黄色味を帯びるように着色する)のを防止できる。(段落【0026】」 )25 「また防眩フィルム1は、ディスプレイ16aの表面に装着した状態におけるディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差(以下、ギラツキ値とも称する。)が、0以上10以下の範囲の値に設定されている。(段落【0029】」 )「防眩層3は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部間に位置する凹部とにより防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このような防眩層3を備えることで、
ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバランスに優れたものとなっている。防5 眩層3の表面は、長細状凸部が略網目状に形成されることにより、網目状構造、
言い換えると、連続し又は一部欠落した不規則な複数のループ構造を有する。」(段落【0035】)「防眩層3の表面は、上記した構造が形成されることで、レンズ状(海島状)の凸部が形成されるのが防止されている。よって、防眩層3を透過するディスプレ10 イ16aからの光が防眩層3の表面の凹凸により屈折したり、防眩層3の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイ16aの画素が拡大されて見えたりするのが防止され、ディスプレイ16aのギラツキが抑制される。これにより、高精細画素を有するディスプレイ16aに防眩フィルム1を装着しても、防眩性を確保しながらディスプレイ16aのギラツキを高度に抑制でき、文字・画像のボケも15 抑制できる。(段落【0036】」 )「ここで通常、ポリマーと、硬化性樹脂前駆体の硬化により生成した硬化樹脂又は架橋樹脂とは、互いに屈折率が異なる。また通常、複数種類のポリマー(第1のポリマーと第2のポリマー)の屈折率も互いに異なる。ポリマーと、硬化樹脂又は架橋樹脂との屈折率差、及び、複数種類のポリマー(第1のポリマーと第220 のポリマー)の屈折率差は、例えば、0以上0.04以下の範囲の値であることが望ましく、0以上0.02以下の範囲の値であることがより望ましい。(段落」【0054】)「防眩層3は、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子(フィラー)を含んでいてもよい。微粒子は、有機系微粒子及び無機系微粒子のいずれでも良く、複25 数の微粒子は、複数種類の微粒子を含んでいてもよい。(段落【0055】」 )「有機系微粒子としては、架橋アクリル粒子や架橋スチレン粒子を例示できる。
また無機系微粒子としては、シリカ粒子及びアルミナ粒子を例示できる。また、
防眩層3中に含まれる微粒子とマトリクス樹脂との屈折率差は、一例として、0以上0.2以下の範囲の値に設定できる。この屈折率差は、0以上0.15以下の範囲の値であることが一層望ましく、0以上0.07以下の範囲の値であるこ5 とがより望ましい。(段落【0056】」 )「微粒子の平均粒径は特に限定されず、例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。この平均粒径は、0.5μm以上4.0μm以下の範囲の値であることが一層望ましく、1.0μm以上3.0μm以下の範囲の値であることがより望ましい。(段落【0057】」 )10 「なお、ここで言う平均粒径は、コールターカウンター法における50%体積平均粒径である(以下に言及する平均粒径も同様とする。。微粒子は、中実でもよ)いし、中空でもよい。微粒子の平均粒径が小さすぎると、防眩性が得られにくくなり、大き過ぎると、ディスプレイのギラツキが大きくなるおそれがあるため留意する。(段落【0058】」 )15 「ここで、防眩層3のヘイズ値及び内部ヘイズ値、防眩フィルム1のL*a*b*表色系におけるb*値、表面に防眩フィルム1を装着したディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差の値(ギラツキ値)は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、或いは、調製工程、形成工程、及び硬化工程の施工条件等によって変化しうる。従って、各条件を変化させて防眩層を形成し、得られた防眩層の物性20 を予め測定・把握しておくことで、目的の物性を有する防眩フィルムを得ることができる。(段落【0067】」 )「複数の樹脂成分の液相からのスピノーダル分解による相分離の進行に伴って、
共連続相構造が形成されて粗大化すると、連続相が非連続化し、液滴相構造(球状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)が形成される。ここで、
25 相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造との中間的構造(共連続相から液滴相に移行する過程の相構造)も形成できる。溶媒除去後、表面に微細な凹凸を有する層が形成される。(段落【0072】」 )「このように、相分離により層表面に微細な凹凸を形成することで、防眩層3中に微粒子を分散させなくても防眩層3のヘイズ値を調整できる。また、防眩層3中に微粒子を分散させなくて済むことから、外部ヘイズ値に比べて内部ヘイズ値5 を抑制しながら防眩層3のヘイズ値を調整し易くすることができる。なお、調製工程において溶液に微粒子を添加することで、微粒子を含む防眩層3を形成することもできるが、この場合、防眩層3中のマトリクス樹脂と微粒子との屈折率差が大きいと防眩層3が着色するおそれがあるため、注意が必要である。」(段落【0073】)10 「ここで、ディスプレイ16aのギラツキを抑制する方法としては、例えば防眩層の表面の凹凸を縮小することが考えられるが、防眩フィルムの防眩性が低下するおそれがある。しかしながら、防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすことで、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させることができる。(段落【0」15 078】)「第1実施形態において前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できるが、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例えば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や20 溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成できる。そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との差異を中心に説明する。(段落【0079】」 )「(第2実施形態)25 第2実施形態に係る防眩フィルムの防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含む。微粒子は、真球状に形成されているが、
これに限定されず、実質的な球状や楕円体状に形成されていてもよい。また微粒子は、中実に形成されているが、中空に形成されていてもよい。微粒子が中空に形成されている場合、微粒子の中空部には、空気或いはその他の気体が充填されていてもよい。防眩層には、各微粒子が一次粒子として分散していてもよいし、
5 複数の微粒子が凝集して形成された複数の二次粒子が分散していてもよい。(段」落【0080】)「マトリクス樹脂と、微粒子との屈折率差は、0以上0.2以下の範囲の値に設定されている。この屈折率差は、0以上0.15以下の範囲の値であることが更に望ましく、0以上0.07以下の範囲の値であることがより望ましい。(段落」10 【0081】)「このように、粒径が比較的均一に揃えられ且つ平均粒径が上記範囲に設定された微粒子により、防眩層の表面に均一且つ適度な凹凸が形成される。これにより、
防眩性を確保しつつディスプレイ16aのギラツキを抑制できる。また、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差が上記範囲に設定されることにより、防眩フィル15 ム内に入射した所定波長の光が広角に散乱されて防眩フィルムが着色するのを防止できる。(段落【0084】」 )「第2実施形態の防眩フィルムによれば、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散することにより、
良好な防眩性を確保しながらディスプレイ16aのギラツキを抑制できると共に、
20 マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差によって防眩フィルムに入射した光が広角に散乱するのを良好に抑制でき、防眩フィルムの着色を防止できる。(段落【0」101】)「(第3実施形態)第3実施形態に係る防眩フィルムの防眩層33は、基材フィルム側とは反対側25 の表面に凹凸形状が賦形された構造を有する。防眩層33は、樹脂層で構成されている。この樹脂層は、一例として、第2実施形態のマトリクス樹脂と同様の材質により構成されている。(段落【0103】」 )「具体的に、第3実施形態に係る防眩フィルムは、基材フィルム上に硬化性樹脂を含むコート層を形成し、このコート層の表面を凹凸形状に賦形した後、コート層を硬化することにより製造される。図2は、第3実施形態に係る防眩フィルム5 の製造方法を示す図である。図2の例では、硬化性樹脂として紫外線硬化樹脂を用いている。(段落【0104】」 )「基材フィルム20aに塗布された紫外線硬化樹脂前駆体の層(以下、コート層と称する。)は、ロール21、24のニップ点において、基材フィルム20aと共に押圧される。ロール24は、周面に微細な凹凸が形成されたロール状金型(エ10 ンボスロール)であり、ロール21、24のニップ点N2を通過する際にコート層の表面に凹凸形状を転写する。(段落【0107】」 )「ロール24により表面に凹凸形状が転写されたコート層は、ロール21、24の下方に設けられた紫外線ランプ26から照射される紫外線により硬化される。
これにより、防眩層33が形成される。このようにして製造された防眩フィルム15 は、ロール24に隣接して軸支されたロール25によりロール24からリリースされ、所定方向へ搬送される。(段落【0108】」 )「ここで、ロール24の表面の凹凸部は、ブラスト法により、所定の粒径のブラスト粒子を衝打させて形成されており、ブラスト粒径を調整することで、防眩フィルムのコート層に形成される凹凸形状を調整できる。(段落【0109】」 )20 「ステップ(b)において使用するブラスト粒子の平均粒径は、適宜設定可能であるが、一例として、10μm以上50μm以下の範囲の値に設定できる。ブラスト粒子の平均粒径は、20μm以上45μm以下の範囲の値が一層望ましく、
30μm以上40μm以下の範囲の値がより望ましい。これにより、表面に凹凸形状が賦形された防眩層33が得られる。(段落【0112】」 )25 「第3実施形態の防眩フィルムでは、防眩層33中に微粒子を分散させなくてもよいので、防眩フィルム内に入射した光が、防眩層中のマトリクス樹脂と微粒子との屈折率差によって広角に散乱することで防眩フィルムが着色するのを良好に防止できる。(段落【0115】」 )「(ギラツキ検査機)図3は、ギラツキ検査機10の概略図である。ギラツキ検査機10は、表面に5 防眩フィルム1等のフィルムを装着した表示装置16におけるディスプレイ16aのギラツキを評価する装置であって、筐体11、撮像装置12、保持部13、
撮像装置用架台14、表示装置用架台15、及び画像処理装置17を備える。市販されているギラツキ検査機10としては、コマツNTC(株)製「フィルムギラツキ検査機」が挙げられる。(段落【0118】」 )10 「ギラツキ検査機10では、撮像装置12とディスプレイ16aとの間の相対距離を調整することによって、撮像装置12の撮像素子の単位画素(例えば1画素)当たりに撮像される、ディスプレイ16aに表示された画像の画素サイズが調整される。(段落【0123】」 )「ディスプレイ16aに表示された画像を撮像装置12で撮像するときの撮像素15 子の単位画素(例えば1画素)当たりに撮像される画像の画素サイズの調整方法としては、撮像装置12とディスプレイ16aとの間の相対距離を変更させる方法の他、撮像装置12が備えるレンズ18がズームレンズである場合には、撮像装置12の焦点距離を変える方法でもよい。(段落【0126】」 )「(ギラツキ評価方法)20 次に、ギラツキ検査機10を用いたディスプレイ16aのギラツキ評価方法について説明する。このギラツキ評価方法では、評価の便宜上、表面にフィルムを装着したディスプレイ16aを予め一色(一例として緑色)に均一発光させて表示させる。(段落【0127】」 )「次に、撮像装置12の撮像素子の単位画素当たりに撮像されるフィルムを装着25 したディスプレイ16aの画素サイズを調整する調節ステップを行う。調整ステップでは、撮像装置12の撮像素子の有効画素数に応じて、撮像装置12が撮像する画像において、画素による輝線がない、或いは、画素による輝線があってもディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に、撮像装置12と、
フィルムを装着したディスプレイ16aとの間の相対距離を調整する。 段落(」 【0128】)5 「なお、撮像装置12と表示装置16との間の相対距離は、表示装置16の使用態様(例えば、ユーザの目とディスプレイ16aの表面との間の相対距離)を考慮して設定されることが望ましい。(段落【0129】」 )「調整ステップを行った後、フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキを評価する測定エリアを設定する設定ステップを行う。設定ステップでは、測定10 エリアは、例えばディスプレイ16aのサイズ等に応じて適切に設定する。(段」落【0130】)「調整ステップを行った後、フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアを撮像装置12により撮像する撮像ステップを行う。このとき一例として、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像デ15 ータが得られるように、撮像装置12の露光時間又はディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整する。撮像ステップで撮像された画像データは、画像処理装置17へと入力される。(段落【0131】」 )「撮像ステップ後、画像処理装置17は、画像データを用いて、フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアにおける輝度のばらつきを求める演算ステ20 ップを行う。この演算ステップにおいて、輝度のばらつきは、輝度分布の標準偏差として数値化される。(段落【0132】」 )「ここで、フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキは、フィルムを装着したディスプレイ16aの輝度のばらつきが大きいほど大きくなる。これにより、輝度分布の標準偏差の値が小さいほど、ディスプレイ16aのギラツキは小25 さいと定量的に評価できる。また調整ステップにおいて、フィルムを装着したディスプレイ16aの輝線がディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に調整されているので、輝線による輝度ムラを抑え、ディスプレイ16aの正確なギラツキの評価を行うことができる。以上の各ステップを経ることにより、表面にフィルムを装着したディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差を求め、
その値によりディスプレイ16aのギラツキを評価できる。(段落【0133】」 )5 「[ディスプレイの輝度分布の標準偏差(ギラツキ値)]表示装置16としてスマートフォン(三星電子(株)製「GalaxyS4」)を用い、そのディスプレイ16aの表面に、各サンプルの防眩フィルムを粘着層(光学糊)により貼り付けた。コマツNTC(株)製フィルムギラツキ検査機10を用い、各サンプルの防眩フィルムを介して、ディスプレイ16aの輝度分布10 の標準偏差(ギラツキσ:ギラツキ値)を測定した。この測定に際しては、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように、撮像装置12の露光時間又はディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整した。(段落【0159】」 )以上15別紙31 引用例1(特開2009−244465号、甲1)の記載「本発明は、防眩性ハードコートフィルム、それを用いた液晶パネルおよび液晶5 表示装置に関する。(段落【0001】」 )「液晶表示装置(LCD)は、液晶分子の電気光学特性を利用して、文字や画像を表示する装置であり、携帯電話やノートパソコン、液晶テレビ等に広く普及している。LCDには、通常、液晶セルの両側に偏光板が配置された液晶パネルが用いられている。液晶パネル表面には、一般に、偏光板への傷付き防止のため、
10 ハードコート処理が行われている。前記ハードコート処理には、前記液晶パネル表面に蛍光灯や太陽光などが入射することにより起こる映り込みを防止するための防眩(アンチグレア)処理が施されたハードコートフィルムが多く用いられる。
前記防眩処理には、エンボス加工、表面形状の転写、相分離法などの様々な方法があるが、無機、有機粒子などを添加することでフィルム表面に凹凸形状を作成15 する方法が一般的である。従来の防眩処理では、外光による見映え低下を防ぐことはできるが、パネルバックライトからの透過光を散乱してしまうことによる正面方向のコントラスト低下という課題があった。そのため、防眩処理としてはヘイズ値が50%以下程度のあまり散乱性の強くない防眩性フィルムを使用したパネルがほとんどである。しかし、パネルの高精細化、高視野角化が要求されるな20 か、高ヘイズなアンチグレアフィルムを使用したパネルが必要となってきている(例えば、特許文献1参照。。
) しかし、高ヘイズのフィルムは光の拡散性が高く、
液晶パネルに実装すると、斜めに抜けるはずの光を正面方向に拡散してしまうなどしてしまうため、正面の黒輝度が高くなってしまい、正面コントラスト比の低下を引き起こすことがあった。(段落【0002】」 )25 「そこで、本発明は、正面コントラスト比を大幅に低下させることなく、斜めコントラスト比を改善して、視野角を拡大することができ、また、ギラツキ現象を低減させ、高精細のパネルにも対応することができる防眩性ハードコートフィルム、それを用いた液晶パネルおよび液晶表示装置の提供を目的とする。」(段落【0004】)「前記目的を達成するために、本発明の防眩性ハードコートフィルムは、透明プ5 ラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に防眩性ハードコート層を有する防眩性ハードコートフィルムであって、前記防眩性ハードコート層は、微粒子および硬化性ハードコート樹脂を含む防眩性ハードコート層形成材料から形成されており、前記防眩性ハードコートフィルムのヘイズ値が60%以上であり、斜め60°方向の黒輝度の光抜けが、全方位平均で1cd以下である液晶パネルに用10 いることを特徴とする。(段落【0005】」 )「本発明の防眩性ハードコートフィルムは、斜め方向の黒輝度の光抜けが少ない液晶パネルに用いることで、正面コントラスト比を大幅に低下させることなく、
斜めコントラスト比を改善して視野角を拡大させることができる。さらに、ギラツキ現象を低減させることもできるので、高精細のパネルにも対応することがで15 きる。したがって、本発明の防眩性ハードコートフィルム若しくは液晶パネルを用いた液晶表示装置は、表示特性が優れたものになる。(段落【0008】」 )「本発明の防眩性ハードコートフィルムにおいて、前記微粒子が、少なくとも、
表面凹凸を形成する微粒子と内部ヘイズを調整する微粒子とを含むことが好ましい。(段落【0010】」 )20 「前記防眩性ハードコート層を形成するための微粒子は、形成される防眩性ハードコート層表面を凹凸形状にして防眩性を付与し、また、前記防眩性ハードコート層のヘイズ値を制御することを主な機能とする。前記防眩性ハードコート層のヘイズ値は、前記微粒子と前記硬化性ハードコート樹脂との屈折率差を制御することで、設計することができる。(段落【0032】」 )25 「前記微粒子としては、少なくとも1種類以上を含むが、主に表面凹凸を形成する第1の微粒子と主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子とを含むことが好ましい。前記第1の微粒子と前記第2の微粒子とを組み合わせることにより、防眩性ハードコートフィルムのヘイズ値を60%以上とするための、前記主に表面凹凸を形成する微粒子の添加量を減らすことができる。その結果、形成される防眩性ハードコート層の硬度低下を防ぐことができる。(段落【0034】」 )5 「前記主に表面凹凸を形成する第1の微粒子としては、前述の微粒子を用いることができる。前記第1の微粒子の重量平均粒径は、前記防眩性ハードコート層の厚みの20〜80%の範囲であることが好ましい。前記第1の微粒子の重量平均粒径が、前記範囲より大きくなると、画像鮮明性が低下し、また前記範囲より小さいと、十分な防眩性が得られず、ギラツキも大きくなるという問題がある。」(段10 落【0035】)「前記第2の微粒子と前記硬化性ハードコート樹脂との屈折率差は、0.05〜0.2の範囲であることが好ましい。(段落【0040】」 )「本発明の防眩性ハードコートフィルムは、ヘイズ値が60%以上である。前記ヘイズ値とは、JIS K7136(2000年版)に準じたヘイズ値(曇度)15 である。前記ヘイズ値は、60〜90%の範囲がより好ましく、さらに好ましくは65〜85%の範囲である。ヘイズ値を高くするためには、前記少なくとも1種類以上の微粒子と前記硬化性ハードコート樹脂との屈折率差が0.005以上になるように、前記微粒子と前記硬化性ハードコート樹脂とを選択することが好ましい。前記樹脂との屈折率差が0.005未満の微粒子のみでヘイズ値を60%20 以上にするためには、一般に、添加量を40部以上にする必要があり、前記微粒子添加量が多くなり過ぎると、硬度の低下や耐擦傷性低下などが生じやすくなり、
好ましくない。(段落【0042】」 )「本発明の防眩性ハードコートフィルムの一例を図1の断面模式図に示す。図示のように、この例の防眩性ハードコートフィルム4は、透明プラスチックフィル25 ム基材1の片方の面に、防眩性ハードコート層2が形成されている。前記防眩性ハードコート層2は、主に表面凹凸を形成する第1の微粒子3A、および、主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子3Bを含んでいる。この例においては、主に前記第1の微粒子3Aによって、防眩性ハードコート層2の表面が凹凸形状となっているが、前記第1の微粒子3Aが内部ヘイズの調整に寄与してもよいし、前記第2の微粒子3Bが表面凹凸の形成に寄与してもよい。なお、この例では、透5 明プラスチックフィルム基材1の片面に防眩性ハードコート層2が形成されているが、本発明は、これに限定されず、透明プラスチックフィルム基材1の両面に防眩性ハードコート層2が形成された防眩性ハードコートフィルムであってもよい。また、この例の防眩性ハードコート層2は、単層であるが、本発明は、これに制限されず、前記防眩性ハードコート層2は、二層以上が積層された複数層構10 造であってもよい。(段落【0053】」 )「本発明の防眩性ハードコートフィルムおよびこれを用いた偏光板等の各種光学部材は、斜め60°方向の黒輝度の光抜けが、全方位平均で1cd以下である前記液晶パネルに用いられる。以下、前記斜め60°方向の黒輝度の光抜けの全方位平均を「平均黒輝度」という。前記平均黒輝度は、例えば、後述の実施例に記15 載の方法で測定できる。全方位とは、図3に示す方位角の0°〜360°の範囲をいう。高ヘイズ値のハードコートフィルムを使用すると、液晶パネルの黒表示時に、斜め方向に抜けるはずの光を正面方向に拡散してしまうため、パネル正面における黒輝度が高くなり、正面コントラスト比の低下が起こりやすい。平均黒輝度が1cd以下であるパネルと、ヘイズ値が60%以上の防眩性ハードコート20 フィルムとを組み合わせることにより、正面における黒輝度の増加は少なくなり、
良好な正面コントラスト比が得られる。前記平均黒輝度が1cd以下であるパネルとしては、例えば、駆動方式が、インプレーンスイッチング(IPS)モード、
バーティカルアライメント(VA)モードであるもの等があげられる。」(段落【0076】)25 「(ギラツキ(精細度))(1)透明フィルム基材の防眩性ハードコート層が形成されていない面に185μmの偏光板を貼り合せたものをガラス基板に接着する。
(2)ライトテーブル上に固定されたマスクパターン上に作製したフィルムサンプルのギラツキ度合いを目視にて評価した。マスクパターンは精細度が106ppi、144ppi、212ppiのものを準備し、順次判定した。下記判定基5 準でAになったマスクパターンの精細度を記録した。
判定基準A:ギラツキがほとんどない。
B:ギラツキはあるが、実用上問題はない。
C:ギラツキがある。(段落【0096】」 )10 「(実施例1)透明プラスチックフィルム基材として、トリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム(株)製、商品名「TD80UL」、厚さ80μm、屈折率:1.48)を準備した。また、防眩性ハードコート層形成材料として、GRANDIC PC−1070(大日本インキ化学工業(株)製ハードコート樹脂、固形分:6515 重量%、屈折率:1.53)の樹脂固形分100重量部あたり、レベリング剤(大日本インキ化学工業(株)製、商品名「GRANDIC PC−4100」、固形分10重量%)の固形分が0.5重量部、IRGACURE 184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製光重合開始剤)を0.5重量部、主に表面凹凸を形成する第1の微粒子としてアクリル樹脂微粒子(積水化成品工業(株)製、M20 BX−8SSTN、サイズ:8μm、屈折率:1.49)30重量部、主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子としてシリコーン微粒子(東芝シリコーン(株)製、「トスパール145」、サイズ:4.5μm、屈折率:1.43)2重量部を加えたものを、酢酸エチルにより、固形分濃度が50重量%となるように希釈し、
超音波洗浄器を用いて5分間攪拌をおこなったものを準備した。(段落【009」25 7】)「(実施例2)前記第2の微粒子の添加部数を樹脂原料の固形分100重量部に対し5重量部に変更したこと以外は実施例1と同様な方法にて、目的とする防眩性ハードコートフィルムを得た。得られた防眩性ハードコートフィルムを実施例1と同様に前記IPSモードの液晶パネルに装着した。(段落【0105】」 )5 「(比較例1)前記第1の微粒子、前記第2の微粒子ともに添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして防眩性ハードコートフィルムを得た。得られた防眩性ハードコートフィルムを実施例1と同様に前記IPSモードの液晶パネルに装着した。(段」落【0106】)10 「(比較例2)前記第1の微粒子の添加部数を樹脂原料の固形分100重量部に対し25重量部、前記第2の微粒子を添加しなかったこと以外は実施例1と同様な方法にて、
目的とする防眩性ハードコートフィルムを得た。得られた防眩性ハードコートフィルムを実施例1と同様に前記IPSモードの液晶パネルに装着した。 段落(」 【015 107】)「(比較例9)前記第1の微粒子の添加部数を樹脂原料の固形分100重量部に対し15重量部に変更したこと以外は実施例1と同様な方法にて、目的とする防眩性ハードコートフィルムを得た。得られた防眩性ハードコートフィルムを、比較例8と同様20 に前記TNモードの液晶パネルに装着した。(段落【0117】」 )「【表2】」(段落【0123】)2 引用例2(特開2015−172837号、甲2)の記載5 「本発明は、タッチパネル、表示装置及び光学シート、並びに光学シートの選別方法及び光学シートの製造方法に関する。(段落【0001】」 )「しかし、防眩性フィルム等の凹凸構造を有する光学シートを用いた場合、その凹凸構造に起因して、映像光に微細な輝度のばらつきが見える現象(ギラツキ)が生じ、表示品位を低下させるという問題がある。特に、近年の超高精細化され10 た表示素子(画素密度300ppi以上)ではギラツキが強くなる傾向にあり、
ギラツキの問題はさらに深刻化している。(段落【0004】」 )「本発明者らは上記課題を解決すべく、ギラツキを防止する光学シートについて鋭意研究を行った。まず、ギラツキの原因は、映像光が表面凹凸を有する光学シートを透過する際、凹凸形状により透過光に歪みが生じることが原因であると考15 えられる。このため、従来はギラツキを防止するために、特許文献3〜9のように凹凸の傾斜角度を低くして平滑な面を増やす設計(凹凸の程度を弱める設計)が行われていた。
しかし、上述したように、凹凸の程度を弱める設計では、画素密度が低い表示素子のギラツキを防止できたとしても、画素密度300ppi以上の超高精細の表示素子のギラツキは防止できなかった。また、近年のスマートフォンに代表さ5 れる携帯情報端末は、屋外でタッチパネル操作を行うため高度な防眩性が要求されるが、平滑な面の割合を増やしてギラツキを防止する設計では、このような高度な防眩性を到底満足できるものではなかった。
また、上述したように、内部へイズを付与したのみでは、画素密度300ppi以上の超高精細の表示素子のギラツキ及び解像度の低下を同時に防止できない。
10 本発明者らは鋭意研究した結果、ギラツキは画素密度と凹凸形状との関連により、輝度等の局所的なムラが生じることにより発生すること、及び内部へイズは拡散によりギラツキを見えづらくする役割を有するとの知見を得た。そして、本発明者らは、解像度の低下を招く可能性のある内部へイズに頼ることなくギラツキを防止することについて鋭意研究した結果、表面凹凸の割合を示す後述する式15 (I)及び、概ね傾斜角5度以上の領域を示す表面ヘイズを特定の範囲とすることにより、ギラツキを防止するとともに、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。(段落【0008】」 )「本発明のタッチパネルに用いる光学シートは、表面へイズ及び[正透過方向の強度/正透過方向の仮想強度]の比(以下、「強度比」と称する場合がある。)を20 一定の範囲にすることにより、画素密度300ppi以上の超高精細の表示素子の映像光のギラツキを防止でき、かつ解像度の低下を防止できる。表面へイズ及び強度比の一方だけが本発明の範囲を満たしても、ギラツキ防止と解像度の低下防止は両立できない。(段落【0021】」 )「まず、ギラツキの原因は、映像光が表面凹凸を有する光学シートを透過する際、
25 凹凸形状により透過光に歪みが生じることが原因であると考えられる。このため、
従来はギラツキを防止するために、特許文献3〜9のように傾斜角度を低くして凹凸の程度を弱める設計、若しくは特許文献1及び2のように内部へイズを付与してギラツキ感を低減する設計が行われていた。
しかし、凹凸の程度を弱める設計や内部へイズを付与するのみでは、画素密度300ppi以上の超高精細の表示素子の映像光のギラツキを防止できなかった。
5 本発明者らは鋭意研究した結果、従来のように傾斜角度を低くして凹凸の程度を弱めた場合、凹凸ではない略平滑な箇所の割合が増え、該平滑な箇所と凹凸面との境界(言い換えると、急激な角度変化を生じる箇所)がギラツキの一因であることを見出した。また、表面形状に関するJIS規格(JIS B0601)は接触式の表面形状測定器を用いることを定めているが、触針の形状と表面形状10 との関係から、測定結果が表面形状を正確に反映できない場合がある。」(段落【0022】)「そこで、本発明者らは、凹凸形状を間接的に表す[正透過方向の強度/正透過方向の仮想強度]の比(強度比)に着目し、強度比を一定の範囲として凹凸形状を間接的に規定するとともに、さらに表面ヘイズを一定の範囲として、凹凸形状15 をより具体化することにより、超高精細の表示素子のギラツキを防止しつつ、解像度の低下を防止することを可能とした。
強度比は、詳しくは後述するが、拡散要素(内部拡散要素及び表面拡散要素の合計)に衝突する光の割合に近似される。つまり、強度比が1に近ければ、光学シートを透過する光が拡散要素に衝突する割合が高いと言え、強度比が1から遠20 ざかるにつれ、光学シートを透過する光が拡散要素に衝突する割合が少ない(言い換えると、「素抜ける光の割合が多い」)と言える。また、強度比に与える影響は、内部拡散要素よりも表面拡散要素の方がはるかに大きい。したがって、強度比を規定することにより凹凸の程度(表面拡散要素)を間接的に表すことができる。(段落【0023】」 )25 「本発明のタッチパネルで用いる光学シートは、強度比を1に近い値としている。
このため、該光学シートは、拡散要素のうち表面拡散要素が多いこと、言い換えると、凹凸面は平滑に近い面が少なく、ほぼ全面が凹凸形状であることを示している。つまり、該光学シートは、略平滑な箇所が多い特許文献3〜9の光学シートの設計とは全く異なるものである。
一方、ヘイズは、JISK7136:2000及びISO14782:1995 9によると、試験片を通過する透過光のうち、
「 前方散乱によって、入射光から0.044rad(2.5度)以上それた透過光の百分率」と定義されている。すなわち、ヘイズは入射した光線が±2.5度以上散乱している散乱光の比率を示す。
また、光の物理的性質として、凹凸面を透過する光の角度は、概ね傾斜角の1/2倍となることが知られている。つまり、傾斜角が5度を超える箇所を透過する10 光はヘイズに反映されるが、傾斜角が5度未満の箇所を透過する光はヘイズに反映されないことになる。
本発明のタッチパネルで用いる光学シートは、強度比が1に近く、ほぼ全面が凹凸形状でありながら、表面ヘイズが極端に大きくない。このことは、本発明のタッチパネルで用いる光学シートは、表面ヘイズに反映されないような傾斜角度15 の小さい凹凸(傾斜角5度未満の凹凸)を多く含むことを意味している。また、
本発明のタッチパネルで用いる光学シートは、表面ヘイズが小さくないことから、
表面ヘイズに反映される傾斜角度の大きい凹凸(傾斜角5度以上の凹凸)を多く含むことを意味している。(段落【0024】」 )「本発明のタッチパネルで用いる光学シートは、強度比が1に近く略平滑な面が20 少なく全面が凹凸形状であることから、光学シートの表面に凹凸箇所と略平滑な箇所との境界が少なくなり、ギラツキを防止しやすくできると考えられる。さらに、該光学シートは、強度比が1に近く、さらに大き過ぎずかつ小さ過ぎない範囲の表面ヘイズを有することから、凹凸形状の中に、傾斜角度の小さい凹凸(傾斜角5度未満の凹凸)と、傾斜角度の大きい凹凸(傾斜角5度以上の凹凸)とが25 混在している。このように、凹凸内に様々な傾斜角が存在することにより、ギラツキをより防止しやすくできる(正確には、本発明でも多少のギラツキは生じていると考えられる。しかし、本発明では、光学シートの表面に凹凸箇所と略平滑な箇所との境界を少なくすることや、様々な傾斜角を存在させることにより、ギラツキを平均化して目立たなくしていると考えられる。。
)また、該光学シートは、凹凸面に略平滑な面が少なく、かつ様々な傾斜角が存5 在することから、屋外の明るい環境にも耐え得るような高度な防眩性を付与できる。また、該光学シートは、ほぼ全面が凹凸である一方で、ヘイズに反映されない傾斜角度の小さい凹凸が多いことから、解像度の低下を防止するとともに、光学シートを防眩性シートとして用いた場合に、コントラストの低下を防止することができる。(段落【0025】」 )10 「以上のように、本発明では、表面へイズが22〜40%であり、かつ、強度比が1.0以上4.0以下の光学シートを用いることにより、防眩性等の諸特性を付与しつつ、超高精細の表示素子のギラツキ及び解像度の低下を防止できる。
表面へイズが22%未満又は強度比が4.0を超える場合はギラツキを防止できない。また、表面へイズが40%を超える場合は解像度が低下してしまう。
15 また、強度比が4.0を超える場合は、拡散要素を有する箇所の割合が減り、
屋外の明るい環境にも耐え得るような高度な防眩性を付与しにくくなるとともに、
光学シートの表面に急激な角度変化を生じる箇所が多くなり、ギラツキが生じやすくなる。
表面へイズは、25〜40%であることが好ましく、25〜35%であること20 がより好ましい。表面へイズは、実施例に記載の方法で求めることができる。」(段落【0026】)「次に、強度比が意味するものを説明する。
光学シートには、拡散要素を有する箇所(表面が凹凸の箇所、内部に拡散粒子を有する箇所)と、拡散要素を有さない箇所(表面が略平滑で内部に拡散粒子も25 有さない箇所)とが存在している。このため、拡散透過光は、拡散要素に衝突しないで“素抜ける”光と、拡散要素に衝突する光との合成となる。つまり、上述のように測定される強度分布は、
“素抜ける”光と、拡散要素に衝突する光との合成になる。したがって、図3〜9に示す本来の正透過方向の強度も、“素抜ける”光と、拡散要素に衝突する光とを合成した強度になる。
一方、ギラツキは、拡散要素のうちの表面拡散要素により透過光に歪みが生じ5 ることが原因であると考えられるため、まずは、合成した正透過方向の強度のうちの拡散要素に衝突する光の拡散特性を知る必要がある。そして、正透過方向の仮想強度は、拡散要素に衝突する光の正透過と近似することができる。
したがって、
[正透過方向の強度/正透過方向の仮想強度]の比は、拡散要素に衝突する光の割合に近似される。つまり、強度比が1に近ければ、光学シートを10 透過する光が拡散要素に衝突する割合が高いと言え、強度比が1より大きくなるにつれ、光学シートを透過する光が拡散要素に衝突する割合が少ない(言い換えると、「素抜ける光の割合が多い」)と言える。
そして、上述したように、強度比を規定するとともに、表面ヘイズを規定することにより、凹凸の程度(表面拡散要素)をより具体的に表すことができる。
15 なお、透過の強度と反射の強度とはほぼ同じ挙動を示すことから、光学シートを透過する光が拡散要素に衝突する割合が高いことは、外光が拡散要素に衝突する割合が高いと言える。つまり、上述した強度比の評価は防眩性の評価にもつながる。(段落【0029】」 )「光学シートは、全光線透過率(JIS K7361−1:1997)が80%20 以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
光学シートは、ヘイズ(JIS K7136:2000)が25〜60%であることが好ましく、30〜60%であることがより好ましく、30〜50%であることがさらに好ましい。ヘイズを25%以上とすることにより、防眩性を付与25 するとともに、電極の形状や傷を見えづらくすることができる。また、ヘイズを60%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止するとともに、コントラストの低下を防止しやすくできる。
また、内部へイズは、5〜30%であることが好ましく、5〜25%であることがより好ましく、10〜18%であることがさらに好ましい。内部ヘイズを5%以上とすることにより、表面凹凸との相乗作用によりギラツキを防止しやすくで5 き、30%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できる。
また、表面ヘイズ(Hs)と内部へイズ(Hi)との比(Hs/Hi)は、上述した表面ヘイズと内部へイズの効果のバランスの観点から、1.0〜5.0であることが好ましく、2.0〜5.0であることがより好ましく、2.5〜4.10 5であることがさらに好ましい。(段落【0035】」 )「光学シートの表面へイズを22〜40%にするためには、表面拡散要素を調整すればよい。具体的には、凹凸層をバインダー樹脂及び透光性粒子から形成し、
透光性粒子の形状、粒子の分散状態、粒子径、粒子の添加量、及び凹凸層の厚み等の制御により、表面拡散要素を調整できる。さらに、表面拡散要素は凹凸の傾15 斜角を考慮することが好ましく、凹凸の傾斜角は後述の手法により調整できる。」(段落【0045】)「凹凸の形成方法としては、例えば、1)エンボスロールを用いた方法、2)エッチング処理、3)型による成型、4)コーティングによる塗膜の形成等が挙げられる。これら方法の中では、凹凸形状の再現性の観点からは3)の型による成20 型が好適であり、生産性及び多品種対応の観点からは4)のコーティングによる塗膜の形成が好適である。(段落【0047】」 )「型による成型は、凹凸面と相補的な形状からなる型を作製し、当該型に高分子樹脂やガラス等の凹凸層を構成する材料を流し込んで硬化させた後、型から取り出すことにより製造することができる。透明基材を使用する場合には、型に高分25 子樹脂等を流し込み、その上に透明基材を重ね合わせた後、高分子樹脂等を硬化させ、透明基材ごと型から取り出すことにより製造することができる。なお、透光性粒子や、添加剤等で内部拡散を付与する場合には、型に高分子樹脂等を流し込む際に、さらに透光性粒子や添加剤等も流し込めばよい。(段落【0048】」 )「(略)また、内部へイズを本発明の範囲とする観点からは、透光性粒子とバインダー樹脂との屈折率差は0.01〜0.10であることが好ましい。(段落【0」5 051】)3 周知文献A1(特開2015−172835号公報、甲7)の記載「光学シートは、全光線透過率(JIS K7361−1:1997)が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上10 であることがさらに好ましい。
光学シートは、ヘイズ(JIS K7136:2000)が25〜60%であることが好ましく、30〜60%であることがより好ましく、30〜50%であることがさらに好ましい。ヘイズを25%以上とすることにより、防眩性を付与するとともに、電極の形状や傷を見えづらくすることができる。また、ヘイズを15 60%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止するとともに、コントラストの低下を防止しやすくできる。
また、ヘイズを表面ヘイズ(Hs)と内部ヘイズ(Hi)とに分けた場合、表面へイズは20〜50%であることが好ましく、20〜45%であることがより好ましく、25〜40%であることがさらに好ましい。表面ヘイズを20%以上20 とすることにより、屋外等の明るい使用環境においても防眩性を良好にするとともに、電極の形状や傷を見えづらくすることができ、50%以下とすることにより、コントラストの低下や解像度の低下を防止しやすくできる。
また、内部へイズは、5〜30%であることが好ましく、5〜25%であることがより好ましく、10〜18%であることがさらに好ましい。内部ヘイズを5%25 以上とすることにより、表面凹凸との相乗作用によりギラツキを防止しやすくでき、30%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できる。
また、表面ヘイズと内部へイズとの比(Hs/Hi)は、上述した表面ヘイズと内部へイズの効果のバランスの観点から、1.0〜5.0であることが好ましく、2.0〜5.0であることがより好ましく、2.5〜4.5であることがさ5 らに好ましい。
表面ヘイズ及び内部へイズは、例えば、実施例に記載の方法で求めることができる。(段落【0029】」 )以上
事実及び理由
全容