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事件 令和 4年 (行ケ) 10009号 特許取消決定取消請求事件
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原告 エア・ウォーター防災株式会社
同訴訟代理人弁護士 十河陽介
同訴訟代理人弁理士 深見久郎 10 木原美武 佐々木眞人 岡始
被告特許庁長官 15 同指定代理人山本信平 鈴木充 木村麻乃 小暮道明 冨澤美加 20 主文 1 特許庁が異議2020−700740号事件について令和3年12 月21日にした決定のうち、「特許第6674704号の請求項1に係 る特許を取り消す。」との部分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 25 事実及び理由 第1 請求 1主文第1項と同旨 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は、平成27年4月27日、発明の名称を「ガス系消火設備」とする 5 発明について特許出願(特願2015−90208号。以下「本件出願」と いう。)をし、令和2年3月11日、特許権の設定登録(特許第667470 4号。請求項の数2。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた(甲 11)。 ? 本件特許について、令和2年9月29日、Aから特許異議の申立て(異議 10 2020−700740号事件)がされた(甲12)。
原告は、令和3年1月7日付けの取消理由通知(甲13)を受け、同年3 月11日付けで、本件特許の特許請求の範囲の請求項1を訂正し、請求項2 を削除する訂正請求(甲15)をした後、同年6月30日付けの取消理由通 知(決定の予告) (甲17)を受けたため、同年9月2日付けで、本件特許の 15 特許請求の範囲の請求項1を訂正し、請求項2を削除する訂正請求(以下「本 件訂正」という。甲19)をした。 その後、特許庁は、同年12月21日、本件訂正を認めた上で、 「特許第6 674704号の請求項1に係る特許を取り消す。特許第6574704号 の請求項2に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 との決定 」 (以 20 下「本件決定」という。)をし、その謄本は、令和4年1月6日、原告に送達 された。 ? 原告は、令和4年2月1日、本件決定のうち、「特許第6674704号の 請求項1に係る特許を取り消す。」との部分の取消しを求める本件訴訟を提 起した。 25 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、 2請求項1に係る発明を「本件発明」という。下線部は本件訂正による訂正箇所 である。 。) 【請求項1】 建物内でのダクトおよび配管を細くすることで施工コストを低下させ、かつ、 5 設計の自由度を高めたガス系消火設備であって、 消火剤ガスが貯蔵された複数の容器と、 複数の前記容器内の消火剤ガスを、電子機器が設けられており消火のために 水を用いることができない、前記建物に設けられる部屋である防護区画へ導入 する前記配管により構成される導入手段と、 10 消火剤ガスが導入される前記防護区画の側面を貫通するように前記側面に接 続されて前記防護区画から消火剤ガスを排出するための、前記建物内で縦およ び/または横方向に延びるダクトと、 前記防護区画の避圧口で前記ダクトの端部に設けられたダンパとを備え、 前記ダンパが開閉することで前記ダクトと前記防護区画とが連通および遮断 15 され、 複数の前記容器のうちの一つの容器と別の容器との容器弁の開弁時期をずら して、前記一つの容器と前記別の容器とから放出される消火剤ガスのピーク圧 力が重なることを防止して前記防護区画へ消火剤ガスが導入され、 前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁 20 の第二の開弁タイミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤 ガスのピーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定 し、前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える、ガス系消火設備。 3 本件決定の理由の要旨 ? 本件決定の理由は、別紙異議の決定書(写し)記載のとおりである。 25 その理由の要旨は、本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲 1(「不活性ガス消火設備設計・工事基準書〔第2版〕」一般社団法人日本消 3火装置工業会、平成25年5月)に記載された発明(以下「甲1発明」とい う。 、甲2の1(国際公開第2007/032764号。訳文甲2の2。以 ) 下、甲2の1と甲2の2を併せて、「甲2」という。)に記載された技術的事 項(以下「甲2技術的事項」という。)及び周知技術に基づいて、当業者が容 5 易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は特許法 29条2項に違反してされたものであり、同法113条2号により取り消さ れるべきものであるというものである。 (2) 本件決定が認定した甲1発明、本件発明と甲1発明との一致点及び相違 点、甲2技術的事項並びに本件決定がした相違点の容易想到性の判断は、次 10 のとおりである。 ア 甲1発明 複数本数の容器弁付き窒素ガス貯蔵容器と、 窒素ガス貯蔵容器内の窒素ガスを、電話機械、通信機及び電算機等が設 けられている建築物内の防護区画の噴射ヘッドにより放出する配管と、 15 窒素ガスが放出される防護区画の壁面を貫通するように壁面に接続され、 防護区画を有する建築物の屋外まで導かれるように設けられ、防護区画か ら窒素ガスを排出するための排気用ダクトと兼用の避圧ダクトと、 防護区画の避圧口で避圧ダクトの端部に設けられた避圧ダンパーとを備 え、 20 避圧ダンパーが開閉することで避圧ダクトと防護区画とが連通及び遮 断される、 自動起動式の窒素を放出する不活性ガス消火設備である窒素消火設備。 イ 本件発明と甲1発明の一致点及び相違点 (一致点) 25 「消火剤ガスが貯蔵された複数の容器と、 複数の前記容器内の消火剤ガスを、電子機器が設けられており消火のた 4めに水を用いることができない、建物内に設けられる部屋である防護区画 へ導入する配管により構成される導入手段と、 消火剤ガスが導入される前記防護区画の側面を貫通するように前記側面 に接続されて前記防護区画から消火剤ガスを排出するための、前記建物内 5 で縦および/または横方向に延びるダクトと、 前記防護区画の避圧口で前記ダクトの端部に設けられたダンパとを備え、 前記ダンパが開閉することで前記ダクトと前記防護区画とが連通および 遮断される、 ガス系消火設備。」である点。 10 (相違点1) 本件発明は、「複数の前記容器のうちの一つの容器と別の容器との容器 弁の開弁時期をずらして、前記一つの容器と前記別の容器とから放出され る消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止して前記防護区画へ消火 剤ガスが導入され、前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、 15 前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一の開弁 タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止する 前記第二の開弁タイミングとを決定し、前記各容器弁に接続される制御部 をさらに備える」のに対し、甲1発明は、自動起動式ではあるが、 「複数本 数の容器弁付き窒素ガス貯蔵容器」の容器弁の開弁時期、及び、一つの貯 20 蔵容器と別の貯蔵容器とから放出される窒素ガスのピーク圧力が重なる ことを防止して防護区画へ窒素ガスが導入されることが規定されておら ず、制御部に関する事項も規定されていない点。 (相違点2) 本件発明は、「建物内でのダクトおよび配管を細くすることで施工コス 25 トを低下させ、かつ、設計の自由度を高めたガス系消火設備」であるのに 対し、甲1発明は、 「避圧ダクト」及び「配管」を備えるが、施工コスト及 5び設計の自由度について規定されていない点。 ウ 甲2技術的事項 不活性ガスが含有された複数の高圧不活性ガス貯蔵シリンダー12a 〜12cと、 5 ガスシリンダー12aと12bとの間の配管40に沿って配置されたラ プチャーディスク16aと、ガスシリンダー12bと12cとの間の配管 40に沿って配置されたラプチャーディスク16bと、 不活性ガスを、データセンター及びコンピュータルーム等の貴重な機器 又はコンポーネントを含む保護された部屋14に放出する供給ライン2 10 4及び排出ノズル26と、 過剰な圧力を防ぐために、保護された部屋14に設けられた通気孔と、 を備えた、火災危険抑制システム10において、 配管40と供給ライン24との間に配置されたメインバルブ22と、ガ スシリンダー12aと12bとの間の配管40に沿って配置されたラプ 15 チャーディスク16aと、ガスシリンダー12bと12cとの間の配管4 0に沿って配置されたラプチャーディスク16bの開放時間をずらすこ とで、シリンダー12aからのガスの供給を開始する時点と、シリンダー 12bからのガスの供給を開始する時点と、シリンダー12cからのガス の供給を開始する時点とをずらした結果として、不活性ガスが、過剰圧力 20 がかからないように制御された速度で、保護された部屋14に順次放出さ れること。 エ 相違点1の容易想到性の判断 甲2技術的事項に接した当業者であれば、「複数本数の容器弁付き窒素 ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1発明において、 「窒素ガス」 25 が、過剰圧力がかかった状態で防護区画へ放出され得ること、これを防ぐ ために、窒素ガスが、過剰圧力がかからないように制御された速度で、防 6護区画に順次放出されるようにすればよいことを容易に認識するといえ る。 そして、甲2技術的事項では、「メインバルブ22」と、「ラプチャーデ ィスク16a」と、 「ラプチャーディスク16b」の開放時間をずらすこと 5 で、「過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋14 に順次放出されるようにする」ことを実現しているが、 「複数本数の容器弁 付き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1発明において、窒 素ガスの過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次 放出するには、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期を 10 ずらすことによって実現でき、ラプチャーディスク等を用いるまでもない ことは、当業者であれば普通に予測し得たことである。 さらに、甲1発明は、自動起動式であるから容器弁に接続される制御部 を当然に備えているところ、本件出願の願書に添付した明細書(以下、図 面を含めて「本件明細書」という。甲11)の【0025】の記載を参酌 15 すると、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、 前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一の開弁 タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止する 前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」とは、制御部か らの信号により開弁のタイミングが決定づけられているということ以上 20 を意味していないと解さざるを得ず、そのタイミングを「前記一つの容器 の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁 タイミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスの ピーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミング」とするこ とは、窒素ガスの過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区 25 画に順次放出することを、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の 開弁時期をずらすことによって実現するための必然的なタイミングでし 7かないから、 「前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別 の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一の開弁タイミ ングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止する前記第 二の開弁タイミングとを決定し、前記各容器弁に接続される制御部をさら 5 に備える」ことも当業者が容易に想到し得たことである。 また、甲7(特開2007−330438号公報)及び甲8(特開平7 −39603号公報)の記載事項からみて、 「複数の消火ガス容器を備え、 防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消火設備にお いて、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の容器の容器 10 弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容器弁の開弁 時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備の技術分野 において、本件出願前、周知技術であったといえる。 してみると、甲2技術的事項に接した当業者であれば、甲1発明におい て、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこと 15 で、相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、容易に想到し 得たというべきである。 オ 相違点2の容易想到性の判断 甲6(特開2014−108185号公報)の記載事項のとおり、 「配管 を流れる時間当たりの気体流量が少なければ配管を細くすることで施工 20 コストを低下させ、かつ、設計の自由度を高くできること」は、本件出願 前に、周知の事項であったといえる。 そして、甲2技術的事項の「配管40と供給ライン24との間に配置さ れたメインバルブ22と、ガスシリンダー12aと12bとの間の配管4 0に沿って配置されたラプチャーディスク16aと、ガスシリンダー12 25 bと12cとの間の配管40に沿って配置されたラプチャーディスク1 6bの開放時間をずらすことで、シリンダー12aからのガスの供給を開 8始する時点と、シリンダー12bからのガスの供給を開始する時点と、シ リンダー12cからのガスの供給を開始する時点とをずらした結果とし て、不活性ガスが、過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護 された部屋14に順次放出されること」により供給ライン24を流れる時 5 間当たりの気体流量が少なくなることは明らかであるから、相違点2に係 る本件発明の発明特定事項は、甲1発明において相違点1に係る本件発明 の発明特定事項とした際、付随して必然的に生じる事項を特定したものに すぎず、その点に格別の困難性があるとはいえない。 4 取消事由 10 甲1を主引用例とする本件発明の進歩性の判断の誤り 第3 当事者の主張 1 原告の主張 ? 相違点1の容易想到性の判断の誤り ア 本件決定は、甲2技術的事項では、「メインバルブ22」と、「ラプチャ 15 ーディスク16a」と、 「ラプチャーディスク16b」の開放時間をずらす ことで、 「過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋 14に順次放出されるようにする」ことを実現しているが、 「複数本数の容 器弁付き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1発明において、 窒素ガスの過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順 20 次放出するには、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期 をずらすことによって実現でき、ラプチャーディスク等を用いるまでもな いことは、当業者であれば普通に予測し得たことである旨判断した。 しかしながら、甲1及び2には、窒素ガスの過剰圧力がかからないよう に、制御された速度で防護区画に順次放出するには、各「窒素ガス貯蔵容 25 器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすことによって実現できること について記載や示唆はない。 9また、ラプチャーディスク(破裂板)は、 (1)動力・電力ではなく配管 等の内部のあらかじめ決められた圧力により動作(破裂)し、 (2)一旦動 作(破裂)した後は再閉鎖されない、 (3)ノンメカニカルな(つまり、制 御部等で制御されるものではない)部材(甲21ないし23)であり、ラ 5 プチャーディスクと「容器弁」は、ラプチャーディスクは外部から開弁時 期を制御されるものではないのに対し、 「容器弁」は外部から開弁時期を制 御される点で相違する。そして、甲2には、 「システムは、第1のガス出口 を有する第1のガス容器、第2のガス出口を有する第2のガス容器、放出 口を有する配管、第1の圧力応答バルブ(ラプチャーディスクなど)、及び 10 バルブを含む。配管は、第1及び第2のガス容器を互いに接続している。 第1の圧力応答バルブは、第1及び第2のガス出口の間に配置されている。 バルブは、システムを作動させ、閉位置と開位置の間で切り替えることが できる。バルブが開位置に切り替わると、第1のガス容器は放出口と連通 する。その後、第1の圧力応答バルブは、第1のガス容器内のガス圧の低 15 下によって引き起こされるガス圧差の機能で開くことになる。 (2頁29 」 行〜3頁7行)との記載があり、かかる記載から、甲2のシステムは、差 圧応答バルブ(ラプチャーディスク)を採用することによって甲2記載の 発明の課題を解決したものと理解できる。このように甲2記載の技術的思 想は、ラプチャーディスクにより複数の容器の各々からガスを供給するタ 20 イミングをずらして過剰圧力を防止するというものであり、本件決定にお ける甲2記載の技術的思想の認定は、どのようにしてガスの供給タイミン グをずらすかという点を捨象している点で、過度の上位概念化であり、適 切でない。 したがって、甲1及び2に接した当業者であれば、甲1発明において、 25 窒素ガスの過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順 次放出するには、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期 10 をずらすことによって実現でき、ラプチャーディスク等を用いるまでもな いことを普通に予測し得たものとはいえないから、本件決定の上記判断は 誤りである。 イ 本件決定は、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイミ 5 ングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一 の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防 止する前記第二の開弁タイミング」は、窒素ガスの過剰圧力がかからない ように、制御された速度で防護区画に順次放出することを、各「窒素ガス 貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすことによって実現する 10 ための必然的なタイミングでしかないから、甲1発明において、上記第一 の開弁タイミング及び第二の開弁タイミングを決定し、「前記各容器弁に 接続される制御部をさらに備える」ことも当業者が容易に想到し得たこと である旨判断した。 しかしながら、前記アのとおり、甲1発明において、窒素ガスの過剰圧 15 力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出するには、 各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすことによ って実現でき、ラプチャーディスク等を用いるまでもないことを普通に予 測し得たものとはいえないから、本件決定の上記判断は誤りである。 ウ 本件決定は、甲7及び8の記載事項から、「複数の消火ガス容器を備え、 20 防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消火設備にお いて、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の容器の容器 弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容器弁の開弁 時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備の技術分野 において、本件出願前、周知技術であったと認定した上で、甲2技術的事 25 項に接した当業者であれば、甲1発明において、各「窒素ガス貯蔵容器」 に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすことで、相違点1に係る本件発明 11 の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たというべきである旨判断 した。 しかしながら、甲7及び8記載の技術は、複数の容器弁を開くタイミン グを異ならせるだけであり、それをもって過剰圧力を防止するものではな 5 く、ピーク圧力の重なり防止と容器弁を開くタイミングとを結びつけ、こ れにより過剰圧力を防止するという技術的思想のものではない。 また、甲2記載の技術的思想は、ラプチャーディスクにより複数の容器 の各々からガスを供給するタイミングをずらして過剰圧力を防止すると いうものであることは、前記アのとおりである。 10 したがって、仮に甲1に甲2、7及び8を組み合わせることが可能であ ったとしても、当業者は、複数の容器弁の各々の開弁時期をずらすことに より複数の容器の各々からガスを供給するタイミングをずらして過剰圧 力を防止するとの技術的思想に容易に想到することができないから、本件 決定の上記判断は誤りである。 15 ? 相違点2の容易想到性の判断の誤り 時間当たりの気体流量を小さくするには、気体総体積を小さくするか、気 体放出時間を長くするかのいずれか又はその両方であるところ、甲2には、 気体の総体積を小さくすること又は気体放出時間を長くすることについて記 載も示唆もない。一方、甲6では、気体放出時間を長くすることにより、時 20 間当たりの気体流量を小さくしており 【0014】 、() 気体放出時間の延長を 必須の構成とするものである。 そうすると、当業者が、甲6を参酌して、甲1発明に甲2技術的事項を組 み合わせたとしても、相違点2に係る本件発明の構成 「建物内でのダクトお ( よび配管を細くすることで施工コストを低下させ、かつ、設計の自由度を高 25 めたガス系消火設備」との構成)に容易に想到することはできないから、こ れと異なる本件決定の判断は誤りである。 12 (3) 小括 以上のとおり、本件決定における相違点1及び2の容易想到性の判断に誤 りがあるから、本件決定は、違法として取り消されるべきである。 2 被告の主張 5? 相違点1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し ア 甲2には、過剰圧力がかからないように制御された速度で不活性ガスを 放出することが課題として挙げられ、その課題を解決する手段として、複 数のシリンダーからのガス供給を開始する時点(シリンダー12aからの ガスの供給を開始する時点、シリンダー12bからのガスの供給を開始す 10 る時点、シリンダー12cからのガスの供給を開始する時点)をずらすと いう技術思想が記載されている(9頁22行〜26行) 甲2技術的事項記 。 載の「ラプチャーディスク」は、そのための手段にすぎない。 そして、複数の消火ガス容器の開弁時期を制御部によりずらして防護区 画へ消火ガスを導入する手段は、本件出願前、ガス系消火設備の技術分野 15 において周知であった(甲7の請求項1、【0001】 【0014】 、 、甲8 の【0001】 【0014】 【0018】 。、、) さらに、乙5には、弁(図2の弁8)とラプチャーディスク(図2の破 壊板10)とが機能的に置換可能であることがあることが記載され(2頁 7行〜10行、図2)、乙6には、弁(手動弁131、電動弁141)とラ 20 プチャーディスク(破壊板121)とが機能的に置換可能であることが記 載されていること(3頁左上欄1行〜19行、第8図〜第10図)からす ると、ラプチャーディスクと制御された開閉弁とが同じ機能を有すること は、本件出願前、周知であった。 イ 甲1には、「防護区画内への消火剤の放射によって上昇する区画内部圧 25 力を緩和するために、避圧口を適性に設置しなければならない」と記載さ れ、避圧口の必要面積の計算式も記載されていることは、甲1発明が、防 13 護区画に過剰な圧力がかかることを防止するという課題の下でされた発 明であることの証左である。 そうすると、甲1に接した当業者であれば、甲1発明において過剰圧力 を防止するという課題が存在すると理解し、その課題を解決するために、 5 甲2技術的事項における「複数のシリンダーからのガス供給を開始する時 点をずらすという技術思想」を適用すること、その適用の際に、複数の消 火ガス容器の開弁時期を制御部によりずらして防護区画へ消火ガスを導 入するという周知の手段を採用することによって、甲1発明の各「窒素ガ ス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすことは、当業者が容 10 易に想到し得たことである。 また、甲2技術的事項において、 「ラプチャーディスク」は、複数のシリ ンダーからのガス供給を開始する時点をずらすための手段にすぎないの であり、原告が主張する、ラプチャーディスクを用いる技術と容器弁を用 いる技術とに作用効果上の相違があることは、甲1発明に、甲2技術的事 15 項における「複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点をずらすと いう技術思想」を適用することの妨げとはなり得ない。 したがって、当業者は、甲1、甲2技術的事項及び本件出願前の周知技 術に基づいて、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とする ことを容易に想到することができたものであるから、本件決定における相 20 違点1の容易想到性の判断に誤りはない。 これに反する原告の主張は理由がない。 (2) 相違点2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し 相違点1に係る本件発明の構成を備えた甲1発明は、複数のシリンダー からのガス供給が同時に開始される場合と比較して、最大流速、すなわち 25 時間当たりの最大気体流量が小さくなること、甲1発明の避圧口、避圧ダ ンパ及び避圧ダクトの断面積は、消火剤の瞬間最大流量(Q M)が小さくな 14 ればなるほど、小さくできることは、当業者にとって自明である。 また、避圧口の断面積が小さいほど、また、配管の径が小さいほど安価 であることは、本件出願前に周知の事項であったから(甲6の【0017】、 ) 避圧ダンパ及び配管を細くすることができることが明らかな場合に、実際 5 にそれらを細くしようとすることにはコスト面からの強い動機付けがあ るといえる。 さらに、避圧ダンパや配管を細くすれば、施工コストが低下することは 当然のことであり、加えて、省スペース化等に伴い設計の自由度が高まる ことも、当業者の予測の範囲内のことであるといえる。 10 以上によれば、当業者は、甲1発明において、相違点1に係る本件発明 の構成とするに際し、相違点2に係る本件発明の構成とすることを容易に 想到することができたものである。 したがって、本件決定における相違点2の容易想到性の判断に誤りはな いから、これに反する原告の主張は理由がない。 15 (3) 小括 以上のとおり、本件決定における相違点1及び2の容易想到性の判断に誤 りはないから、原告主張の取消事由は理由がない。 第4 当裁判所の判断 1 本件明細書の記載事項について 20 ? 本件明細書(甲11)には、次のような記載がある(下記記載中に引用す る図1ないし6については別紙1を参照)。 ア 【技術分野】 【0001】 この発明はガス系消火設備に関するものである。 25 【背景技術】 【0002】 15 従来、ガス系消火設備は、たとえば特開2014−108185号公報 (特許文献1)に開示されている。 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 5 従来のガス系消火設備では施工コストが高く、かつ、設計の自由度が低 いという問題があった。そこで、この発明は上記の問題点を解決するため になされたものであり、施工コストを低下させることが可能で、かつ、設 計の自由度が高いガス系消火設備を提供することを目的とするものであ る。 10 【課題を解決するための手段】 【0005】 この発明の1つの局面に従ったガス系消火設備は、消火剤ガスが貯蔵さ れた複数の容器と、前記複数の容器内の消火剤ガスを防護区画へ導入する 導入手段と、消火剤ガスが導入される防護区画から消火剤ガスを排出する 15 ためのダクトとを備え、複数の前記容器のうちの一つの容器と別の容器と の開弁時期をずらして前記防護区画へ消火剤ガスが導入される。 イ 【発明を実施するための形態】 【0008】 以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。以下 20 の実施の形態では同一または相当する部分については同一の参照符号を 付し、その説明については繰り返さない。また、各実施の形態を組み合わ せることも可能である。 【0009】 (実施の形態1) 25 本発明者は、従来の問題点、すなわち、ガス系消火設備において施工コ ストが高く、設計の自由度が低いという問題について分析した。その結果、 16 ガス系消火設備のコストおよび設計の自由度に関して、消火剤ガスを導入 するための配管、および消火剤ガスを排出するためのダクトのコストが高 く、設計の自由度を狭めているという問題を見出した。 【0010】 5 従来のダクトは、消火剤ガスが導入される防護区域からその防護区域を 有する建物の外まで延びている。仮にダクトが従来よりも細くなれば、ダ クトに関連する施工コストを低下させることができる。配管を細くするこ とでも、施工コストを低下させることができる。 【0011】 10 さらにダクトは建物内で縦および/または横方向に延びるため、建物の 構造にも影響を与える。仮に、ダクトが従来よりも細くなれば従来はダク トを配管することができなかった狭い場所にもダクトを配管することが でき、設計の自由度が高まる。配管が細くなれば、設計の自由度が高まる。 【0012】 15 図1から3を参照して、ガス消火設備は、防護区画1内へ消火剤ガスを 送る配管3と、防護区画1に接続されて消火剤ガスを排出するためのダク ト2とを備える。 【0013】 防護区画1は、ビルなどの建物に設けられる部屋である。電子機器が設 20 けられている部屋では、消火のために水を用いることができず、消火剤ガ スを用いて消火を行う。噴射ノズル4から消火ガス剤を防護区画1に放出 して、不活性の消火剤ガスを防護区画1に充満させて酸素濃度を減少させ ることで消火することが可能である。消火剤ガスとしては、窒素、アルゴ ンなどの不活性ガスおよびハロゲン系のガスが用いられる。 25 【0014】 ダクト2は、防護区画1の消火剤ガスを防護区画1から放出するための 17 ガス経路である。ダクト2は、中空であり角型および丸型のいずれであっ てもよい。防護区画1の避圧口1aでダクト2の端部には、ダンパ12が 設けられており、ダンパ12が開閉することでダクト2と防護区画1とが 連通および遮断される。ダンパ12は実線で記載されている位置から点線 5 で記載されている位置まで回動可能である。この実施の形態では防護区画 1に一本のダクト2のみが設けられているが、複数本のダクト2が設けら れていてもよい。 【0015】 ダクト2は、入口(避圧口1a)から出口13まで延びている。 10 配管3は、防護区画1外に配置されているガス貯蔵容器5から防護区画 1へ消火剤ガスを送るための経路である。ガス貯蔵容器5には、減圧弁(圧 力調整器)50が設けられており、減圧弁50を通過した消火剤ガスが配 管3および噴射ノズル4を経由して防護区画1へ放出される。 【0016】 15 複数のガス貯蔵容器5に集合管17が接続されている。集合管17には、 各々のガス貯蔵容器5から消火剤ガスが供給される。集合管17、減圧弁 50またはガス貯蔵容器5のいずれかには、ガス貯蔵容器5から集合管1 7への消火剤ガスの供給を制御する制御部15が接続されている。 ウ 【0017】 20 図3を参照して、曲線101は一つのガス貯蔵容器5内での消火ガス剤 の圧力を示す。曲線102は、5本のガス貯蔵容器5を同時に開弁した場 合における容器弁17の出口での消火ガス剤の圧力を示す。曲線103は、 5本のガス貯蔵容器5を同時に開弁した場合における噴射ノズル4での 消火ガス剤の圧力を示す。点105は、曲線102における最大圧力を示 25 す。 【0018】 18 曲線111から115は、第1から第5のガス貯蔵容器5を開弁した場 合における容器弁としての減圧弁50の出口での消火ガス剤の圧力を示 す。曲線104は曲線111から115で示す消火剤の圧力の合計により 構成される減圧弁50の出口での消火剤ガスの圧力を示す。 5 【0019】 点105は曲線102における最大圧力を示しており、この最大圧力を 考慮して避圧口1aの大きさを決定する。すなわち点105で示す最大圧 力が大きければ避圧口の径、およびダクト2の径を大きくする必要があり、 建設コストが増大する。5本のガス貯蔵容器5を同時に開弁すれば、各々 10 のガス貯蔵容器5から放出される消火剤ガスのピーク圧力が重なる。その 結果、最大圧力が大きくなり、避圧口1aおよびダクト2の径が大きくな る。これに対して、5本のガス貯蔵容器5の開弁時期をずらすことにより、 曲線111から115で示す各ガス貯蔵容器5から放出される消火剤ガ スのピーク圧力が重なることを防止できる。その結果、曲線104におけ 15 る最大圧力は、曲線105における最大圧力よりも小さくなる。したがっ て、避圧口1aおよびダクト2を小型化することが可能となる。さらに、 配管3も細くすることができる。 【0020】 図3では、流量制御(圧力制御)が安定していない減圧弁50を示して 20 いる。流量制御が安定していないため、曲線102で示す減圧弁50の出 口圧力も安定していない。 エ 【0021】 図4から図6は、流量制御(圧力制御)が安定している減圧弁50を用 いた例を示している。図4の曲線121は、5本のガス貯蔵容器5を時期 25 をずらして開弁した場合における集合管17の出口での消火ガス剤の圧 力を示す。曲線122は、5本のガス貯蔵容器5を時期をずらして開弁し 19 た場合における噴射ノズル4での消火ガス剤の圧力を示す。 【0022】 図5の曲線131は、5本のガス貯蔵容器5を時期をずらして開弁した 場合における集合管17の出口での消火ガス剤の圧力を示す。曲線132 5 は、5本のガス貯蔵容器5を時期をずらして開弁した場合における噴射ノ ズル4での消火ガス剤の圧力を示す。 【0023】 図6の曲線141は、5本のガス貯蔵容器5を時期をずらして開弁した 場合における減圧弁50の出口での消火ガス剤の圧力を示す。 10 【0024】 図4から6で示すように、流量制御(圧力制御)が安定している減圧弁 50では、出口圧力が安定している。5本のガス貯蔵容器5を時期をずら して開弁するため、集合管50の出口圧力はほぼ一定となっている。 【0025】 15 なお、図4から図6では、5秒ごとにガス貯蔵容器5を開弁しているが、 この開弁のタイミングは必ずしも5秒には限られない。さらに、各ガス貯 蔵容器5は均等な時間間隔で開弁されているが、不均等な時間間隔で各ガ ス貯蔵容器5が開弁されてもよい。開弁タイミングは制御部15で決定す ることができる。 20 【0026】 すなわち、ガス系消火設備は、消火剤ガスが貯蔵された複数のガス貯蔵 容器5と、前記複数のガス貯蔵容器5内の消火剤ガスを防護区画1へ導入 する導入手段としての配管3と、消火剤ガスが導入される防護区画1から 消火剤ガスを排出するためのダクト2とを備え、複数の前記ガス貯蔵容器 25 5のうちの一つの容器と別の容器との開弁時期をずらして前記防護区画 1へ消火剤ガスが導入される。 20 オ 【0033】 今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なもので はないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて 特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲 5 内でのすべての変更が含まれることが意図される。 【産業上の利用可能性】 【0034】 この発明は、ガス系消火設備の分野において利用することができる。 ? 前記?の記載事項によれば、本件明細書には、本件発明に関し、次のよう 10 な開示があることが認められる。 ア 従来のガス系消火設備では、施工コストが高く、かつ、設計の自由度が 低いという問題があったため、 「この発明」は、施工コストを低下させるこ とが可能で、かつ、設計の自由度が高いガス系消火設備を提供することを 目的とし、これを課題とするものである(【0004】 。) 15 イ 「この発明」のガス系消火設備は、前記課題を解決するための手段とし て、消火剤ガスが貯蔵された複数のガス貯蔵容器と、前記複数のガス貯蔵 容器内の消火剤ガスを防護区画へ導入する導入手段としての配管と、消火 剤ガスが導入される防護区画から消火剤ガスを排出するためのダクトと を備え、複数の前記ガス貯蔵容器のうちの一つの容器と別の容器との開弁 20 時期をずらして前記防護区画へ消火剤ガスを導入する構成を採用し、これ によって複数のガス貯蔵容器内の消火剤ガスのピーク圧力が重なること を防止でき、その結果、各ガス貯蔵容器を開弁した場合における容器弁の 出口での消火剤ガスの圧力の合計により構成される最大圧力を小さくす ることができ、避圧口及びダクトを小型化し、配管を細くすることが可能 25 となるという効果を奏する 【0005】 (、【0017】ないし【0019】 。) 2 甲1を主引用例とする進歩性の判断の誤りについて 21 ? 甲1の記載事項 ア 甲1(「不活性ガス消火設備設計・工事基準書〔第2版〕」一般社団法人 日本消火装置工業会、平成25年5月)には、次のような記載がある(下 記記載中に引用する図9.6.1.2及び図9.6.2.8については別 5 紙2を参照)。 (ア) 「7)通信機器室で、床面積が500m 2以上のもの」 (「第3章 不活性ガス消火設備の設置対象物」における表9.3.1. 1「不活性ガス消火設備の設置対象物基準面積等」 (45頁)の「令第1 3条」「防火対象物又はその部分」欄) 10 (イ) 「電話機械室、通信機室、電算機室、機械制御室」 (「第5章 二酸化炭素を放出する不活性ガス消火設備」の「2.6.2 火災感知装置の選択」における表9.5.2.10「環境状態と適応感 知器(その2) (99頁)の「設置場所」欄の「環境状態」が「燻焼火 」 災となるおそれのある場所」に対応する「具体例」) 15 (ウ) 「第6章 窒素を放出する不活性ガス消火設備 第1節 窒素を放出する不活性ガス消火設備の種類および構成 1.1 消火剤 窒素を放出する不活性ガス消火設備(以下、 窒素消火設備という。) の消火剤には窒素ガスが用いられる。窒素ガスは、JIS K 110 20 7の2級に適合するものを使用する。」 (192頁1行〜5行) (エ) 「窒素消火設備においては、火災報知器との連動による自動起動方 式を原則とし、メンテナンス時など有人となる場合において手動式に切 り換える方式が基本となっている。」 25 (192頁34行〜35行) (オ) 「図9.6.1.2 設備の構成例(その2)(194頁)には、防 」 22 護区画1の右壁面に「避圧ダンパー」が記載され、また、図の右下には、 複数の「容器弁」付き「窒素ガス貯蔵容器」が記載されている。 (カ) 「「全域放出方式」によって防護する部分は、二酸化炭素消火設備と
同様に、不燃材で造られた壁、柱、床または天井(天井のない場合にあ 5 っては梁または屋根)により区画されていることが必要である。また、
上記の部分(以下、防護区画という。)に設けられた開口部には、自動閉 鎖装置が設けられていなければならない。窒素消火設備にあっては、後 述の「避圧口」を除くすべての開口部を消火剤放射前に自動的に閉鎖す ることとされている。なお、排水ドレンの開口部など消火効果を減ずる 10 おそれがないものにあっては、自動閉鎖装置を設けないことができる。」 (196頁12行〜17行) (キ) 「2.1.3 付帯設備 窒素消火設備を設置する場合は、消火設備以外に種々の付帯設備が必 要となる。 15 必要となる付帯設備の例を次に示す。ここに記した事項以外にも必要と なる事項があるため、防護区画ごとに勘案し、また管轄消防機関とも協 議することが重要である。 … (9)消火後の消火剤排出措置としての排気ファンおよびダクト(流れ 20 方向を考慮するなど、他の区画への流出がない場合には通常の排気 ファン・排気ダクトを兼用することができる。)の設置 (10)手動起動装置(操作箱)部分の照度の確保 (11)圧力逃がし口(避圧口)および同ダクトおよびダンパーの設置」 (198頁1行〜16行) 25 (ク) 「2.2.消火剤量の算出 窒素消火設備は、消火剤として窒素を放出し空気中の酸素濃度を低下 23 させることによって消火を行うものである。防護区画内の可燃物によっ て若干異なるが、概ね酸素濃度を12.5%程度とすることにより消火 が達成できる。必要な消火剤量の算出は次による。」 (198頁17行〜20行) 5 「2.2.3必要消火剤量の算出 必要消火剤量W(m 3 )は、防護区画の体積Vt(m3 )に算出係数F v(m 3 /m3)を乗じて求められる。 W= Vt×Fv」 (198頁35行〜40行) 10 「2.2.4 貯蔵容器本数 設置消火剤量は 前記のW(m 3)を、貯蔵容器1本当たりの充てん量 で除して得られる容器本数(小数点以下切り上げ)に充てん量を乗じた 値となる。容器本数は次により求める。 N=W/充てん量 15 N:容器本数(本)」 (199頁3行〜7行) (ケ) 「2.5.1 配管方式の選定 (1)落差 貯蔵容器室に設置された貯蔵容器と防護区画に設置された噴射ヘッド 20 までは配管で接続されることになるが、このときの配管の落差(当該区 画のための配管の最も低い位置にある部分から最も高い位置にある部分 までの垂直距離をいう。 は、 ) 50m以下とであることと定められている。」 (203頁5行〜9行) (コ) 「2.5.6 避圧措置 25 防護区画内への消火剤の放射によって上昇する区画内部圧力を緩和す るために、避圧口を適正に設置しなければならない。この避圧口は区画 24 内の消火剤濃度をより長時間維持するために消火剤の放射が終了した時 点で閉鎖することとされている。このために、防護区画の壁面直近に避 圧ダンパーが設けられる。図9.6.2.7に示すような構造例のもの で、放出された消火剤の圧力によりダンパーが「開」となり圧力が復旧 5 (大気圧へ戻る)すれば調整おもりにより「閉」となる。この他にも、 電動式のダンパーを使用することも可能であるが、開閉の制御や電源を 非常電源にすることなどに留意する必要がある。」 (207頁8行〜15行) (サ) 「(2)避圧口についての留意事項 10 避圧により排出される気体は防護区画内の空気だけでなく、火災によ り発生した燃焼生成ガスも含まれる。燃焼生成ガスは一酸化炭素等の有 毒ガスが含まれている場合が多いことから避圧用ダクトの経路や外部へ の放出先は、他の居室や放出先に存在する人が曝露しないように充分留 意する必要がある。したがって、避圧口は屋外に面した壁に設置するか、 15 あるいは屋外の安全な場所までダクトにより導かれていなければならな い。ここでいう屋外の安全な場所とは、人が容易に近づかない場所で、 屋上や付近に住居の窓などが無い高所部分を指し、外気の通風が良好で あり排気される煙等が充分に拡散する場所をいい、次に示す条件を満足 することを原則とする。 20 … さらに、避圧措置に用いるダクトは専用とすることが望ましい。ただ し、消火剤放出後に消火剤を排出する排気用ダクトや一般空調用ダクト と兼用する場合は、避圧により排出されるガスが他の居室等に流入しな いようにチャッキダンパーやモーターダンパ等により制御を行うことが 25 肝要である。」 (207頁30行〜208頁9行) 25 (シ) 「図9.6.2.8 避圧措置の例(ダクト経路)」 (208頁)には、 避圧措置イメージとして、ガス防護区画を有する建築物の外まで延びて 設けられた、ガス防護区画の右壁面を貫通する避圧ダクトが、また、ガ ス防護区画の避圧口で避圧ダクトの端部に設けられた避圧ダンパーが記 5 載されている。 (ス) 「2.6.2 火災感知装置の選択 第5章第2節2.6.2による。」 (210頁8行〜9行) (セ) 「2.12 消火剤排出措置 10 窒素消火設備を設置した防護区画には、消火剤を安全な場所に排出す るための措置を講じること。」 (212頁3行〜4行) イ 前記アの記載事項によれば、甲1には、甲1発明(前記第2の3?ア) が記載されていることが認められる。 15 ? 甲2の記載事項 甲2(国際公開第2007/032764号。原文甲2の1・訳文甲2の 2)には、次のような記載がある(下記記載中に引用する図1、2及び4に ついては別紙3を参照)。 ア 「ラプチャーディスクと圧力低下による不活性ガスの連続放出を伴う火 20 災危険抑制システム 発明の背景 火災危険抑制システムは、アートギャラリー、データセンター及びコン ピュータルーム等の貴重な機器又はコンポーネントを含むエリアを保護 するために長い間使用されてきた。従来、これらのシステムは、ハロンを 25 利用しているが、非常に迅速に危険を抑制できるため、危険抑制のために は理想的であり、比較的低圧での保管が可能で、比較的少量で済むもので 26 ある。 しかしながら、近年、オゾンに対するハロンの環境への悪影響が明らか になり、多くの政府機関がハロンのさらなる使用を禁止している。既存の ハロンシステムが、窒素、アルゴン、二酸化炭素、及びそれらの混合物な 5 ど、より環境にやさしい不活性ガスを使用するシステムに置き換えている 国がある。ハロンベースの消火システムとは異なり、不活性ガスベースの 消火システムは、天然ガスを使用しており、大気中のオゾン層破壊の一因 とはならない。 燃焼は、燃料、酸素、及び熱が、可燃性物質の点火をサポートするのに 10 十分な量で存在する場合に発生する。不活性ガスの火災危険抑制システム は、囲われた場所内部の酸素レベルを、燃焼を維持できないレベルまで下 げることに基づいている。火災の危険性をなくすために、多数の高圧ガス シリンダーに貯蔵された不活性ガスが囲われた場所に放出され、燃焼がな くなるまで酸素を不活性ガスに置き換えることで、酸素濃度を低減する。 15 通常、周囲空気は、体積で21%の酸素濃度を含んである。火災の危険を 効果的に消すためには、この濃度を12.54%未満に下げる必要がある。 この目標を達成するためには、比較的大量のガスを放出する必要がある。 特に、システムが放出された場合の大気中の酸素の減少に関しては、施 設の人員には健康と安全に影響がでる。放出される不活性ガスの濃度が燃 20 焼を制御するのに十分ではあるが、人員に深刻なリスクをもたらすほど高 くはないことを確実にするために、慎重な計算が必要となる。 火災の危険を防止するためにハロンを不活性ガスで置き換えると、シス テム設計に2つの問題が生じることになる。まず第1に、短期間に大量の ガスを保護された部屋に供給することで(国によっては、消防法で、ガス 25 は1分未満で供給する必要がある) 室内に過剰圧力が発生し、 、 室内の機器 に損傷を与える可能性がある。現在の産業慣行では、過剰な圧力を防ぐた 27 めに、部屋に特別で高価な通気孔を使用している。第2に、ハロンとは異 なり、不活性ガスは、通常の室温で、液体ではなく気体で保管される。貯 蔵容器の容積を減らすために、非常に高い圧力が好ましく、典型的には1 00バールから300バールの間である。その結果、ガス分配システムは、 5 非常に高い圧力に耐えることができなければならない。これら2つの制限 は、新規取付と改造の両方のコストにおける重要な要素である。 保護された部屋の過圧は、主に圧力容器からの不活性ガスの不均一な放 出、又は安全なしきい値レベルを超える不活性ガス放出時の高圧ピークが 原因である。ガス容器内の圧力は、ガス放出中に指数関数的に減衰するた 10 め、通常、過圧は放出の最初の数秒で発生する。放出中にガス放出をかな り均一な圧力プロファイルに絞ったり、又は、ガス放出中に常にしきい値 レベル未満に維持したりできる場合は、必要な時間内に所定の量の不活性 ガスが供給されるのを確保しながら、保護された部屋の過圧を防止できる。 ガスの流れを絞るために使用される現在のシステムは、制御可能な可変 15 開口面積を備えたバルブ又はオン/オフバルブのいずれかを必要とする。」 (原文1頁1行〜2頁26行・訳文2〜3頁) イ 「発明の簡単な概要 制御された圧力解放システムは、ガスの供給時に保護領域の過圧を防止 する。システムは、第1のガス出口を有する第1のガス容器、第2のガス 20 出口を有する第2のガス容器、放出口を有する配管、第1の圧力応答バル ブ(ラプチャーディスクなど)、及びバルブを含む。配管は、第1及び第2 のガス容器を互いに接続している。第1の圧力応答バルブは、第1及び第 2のガス出口の間に配置されている。バルブは、システムを作動させ、閉 位置と開位置の間で切り替えることができる。バルブが開位置に切り替わ 25 ると、第1のガス容器は放出口と連通する。その後、第1の圧力応答バル ブは、第1のガス容器内のガス圧の低下によって引き起こされるガス圧差 28 の機能で開くことになる。」 (原文2頁28行〜3頁7行・訳文3頁) ウ 「詳細な説明 図1は、順次放出する火災危険抑制システム10の概略図である。複数 5 の高圧不活性ガス貯蔵シリンダー12a〜12cが、保護されるべき閉鎖 された部屋14に近接する貯蔵領域または部屋に配置される。不活性ガス 貯蔵シリンダー12a〜12cには、火災が発生した場合に、保護された 部屋14に放出される不活性ガスが含有されている。ガスシリンダー12 aと12bとの間には、差圧応答バルブ(ラプチャーディスク16a)が 10 配置されている。同様のバルブ(ラプチャーディスク16b)がガスシリ ンダー12bと12cとの間に配置されている。保護された部屋14に配 置された検出器18によって、保護された部屋14で火災が検出されると、 制御パネル20からの制御信号がメインバルブ22を開くことになる。次 に、保護された部屋14で酸素の濃度を低下させ、火を消すために、ガス 15 が、供給ライン24及び放出ノズル26を通って保護された部屋14に放 出される。メインバルブ22、ラプチャーディスク16a及びラプチャー ディスク16bの開放時間をずらした結果として、シリンダー12a〜1 2cからのガスの放出が順次行われる。 図2は、順次放出する抑制システム10の第1の実施形態の正面図であ 20 る。抑制システム10は、一般に、第1のガスシリンダー12a、第2の ガスシリンダー12b、第3のガスシリンダー12c、第1のラプチャー ディスク16a、第2のラプチャーディスク16b、メインバルブ22、 供給ライン24、第1のガス出口28、第1のバルブ30、第2のガス出 口32、第2のバルブ34、第3のガス出口36、第3のバルブ38、及 25 び配管40を含む。抑制システム10は、保護された部屋14への圧力放 出を制御するために、第1、第2、及び第3のガスシリンダー12a、1 29 2b、及び12cそれぞれを順次放出することにより、ガスシリンダー1 2a〜12cからの不活性ガスの放出を抑制する(図1に示す)。 第1のバルブ30は、第1のガス出口28に配置され、第1のガスシリ ンダー12aから配管40へのガス流を制御する。第1のバルブ30は、 5 閉位置と開位置との間で切り替えることができる。第1のバルブ30が閉 位置にあるとき、第1のガスシリンダー12aからのガスは、第1のガス 出口28を通って配管40に流れることができない。第1のバルブ30が 開位置にあるとき、第1のガスシリンダー12aからのガスは、第1のガ スシリンダーから第1のガス出口28を通って配管40に流れることが 10 できる。第1のバルブ30は、制御パネル20からの命令により開くため に、電気的に、空気圧的に、又は手動で作動させることができる(図1に 示す) 制御パネル20が正常に機能していない場合は、 。 第1のバルブ30 を手動で開かれる。一実施形態では、第1のバルブ30はソレノイドバル ブである。 15 第2のガス出口32、第2のバルブ34、第2のガスシリンダー12b、 及び配管40は、第1のバルブ30、第1のガス出口28、第1のガスシ リンダー12a、及び配管40と同じように相互作用し、機能する。また、 第3のガス出口36、第3のバルブ38、第3のガスシリンダー12c、 及び配管40は、第1のバルブ30、第1のガス出口28、第1のガスシ 20 リンダー12a、及び配管40と同じように相互作用し、機能する。 抑制システム10の配管40は、第1の中間ライン40a、第2の中間 ライン40b、及び第3の中間ライン40cを含む。第1の中間ライン4 0aは、メインバルブ22と第1のラプチャーディスク16aとの間に配 置されている。第1のガス出口28は、第1のガスシリンダー12aを第 25 1の中間ライン40aで配管40に接続する。第2の中間ライン40bは、 第1のラプチャーディスク16aと第2のラプチャーディスク16bと 30 の間に配置されている。第2のガス出口32は、第2のガスシリンダー1 2bを第2の中間ライン40bで配管40に接続する。第3の中間ライン 40cは、第2のラプチャーディスク16bと第3のガスシリンダー12 cとの間に配置されている。第3のガス出口36は、第3のガスシリンダ 5 ー12cを第3の中間ライン40cで配管40に接続する。 メインバルブ22は、配管40と供給ライン24との間に配置され、配 管40の第1の中間ライン40aを介してガスシリンダー12a〜12 cからのガスの放出を制御する。メインバルブ22の電源が切られている か、又は非アクティブ化(閉じられている)の場合、ガスは配管40から 10 出ることができない。メインバルブ22が作動(開放)されると、ガスは、 配管40を通って保護された部屋14に出ることができる。メインバルブ 22は、電気的に又は手動で作動させることができる。メインバルブ22 が電気的に作動すると、メインバルブ22は、制御パネル20からのコマ ンドにより開かれる(図1に示す) 制御パネル20が適切に機能していな 。 15 い場合、メインバルブ22は、無視して手動で機能し得る。一実施形態で は、メインバルブ22はソレノイドバルブである。 第1のラプチャーディスク16aは、第1の中間ライン40aと第2の 中間ライン40bとの間の配管40に沿って配置され、第2のガスシリン ダー12aから第1の中間ライン40aを通って保護された部屋14へ 20 のガスの放出を制御する。第1のラプチャーディスク16aは、第2のガ ス出口32と供給ライン24との間の障壁として作用することにより、第 2のガスシリンダー12bからのガスの放出を制御する。第1のラプチャ ーディスク16aが無傷の場合、ガスは、第2のガスシリンダー12bか ら供給ライン24に通過できない。第1のラプチャーディスク16aが破 25 裂すると、ガスは、第2のガス出口32から第1のラプチャーディスク1 6a及び第1の中間ライン40aを通って供給ライン24に自由に通過 31 する。第1のラプチャーディスク16aは、第1のガスシリンダー12a 及び第2のガスシリンダー12b内の圧力にそれぞれ基づく、第1の中間 ライン40aと第2の中間ライン40bとの間の圧力差の機能で破裂す る。ガスが第1のガスシリンダー12aを出て、第1のガスシリンダー1 5 2a内の圧力が減少すると、第1のラプチャーディスク16aの圧力差が 増加する。第1の中間ライン40aと第2の中間ライン40bとの間の圧 力差が所定の値に達すると、第1のラプチャーディスク16aが破裂する。 第2のラプチャーディスク16bは、第2の中間ライン40bと第3の 中間ライン40cとの間の配管40に沿って配置され、第3のガスシリン 10 ダー12cから第1及び第2の中間ライン40a及び40bを通って保 護された部屋14へのガスの放出を制御する。第2のラプチャーディスク 16bは、第1のラプチャーディスク16aと同じように機能し、第3の ガス出口38と供給ライン24の間の障壁として作用する。第2のラプチ ャーディスク16bが無傷の場合、ガスは、第3のガスシリンダー12c 15 からメインバルブ22に通過できない。第2のラプチャーディスク16b が破裂すると、ガスは、第3のガス出口36から第2のラプチャーディス ク16b、第2の中間ライン40b、第1のラプチャーディスク16a、 及び第1の中間ライン40aを通って供給ライン24に自由に通過する。 第2のラプチャーディスク16aは、第3のガスシリンダー12cと第1 20 及び第2のガスシリンダー12a及び12b内のそれぞれの圧力に基づ く、第3の中間ライン40cと第1及び第2の中間ライン40a及び40 bとの間の圧力差の機能で破裂する。ラプチャーディスク16は、ガスシ リンダー12a〜12cの点火の間に望まれる遅延に応じて、様々な破裂 限界及び任意の圧力差での破裂を有するように製造することができる。一 25 実施形態では、ラプチャーディスク16はバーストディスクである。ラプ チャーディスク16は、本発明の意図された範囲から逸脱することなく、 32 差圧の機能として壊れたり開いたりする、あらゆるタイプの障壁とするこ とができる。」 (原文3頁18行〜6頁19行・訳文3頁〜5頁) エ 「メインバルブ22が作動(開放)されると、ガスは、第1のガスシリ 5 ンダー12aから第1の中間ライン40a、メインバルブ22、及び供給 ライン24を介して保護された部屋14に流れることができる。ガスが第 1のガスシリンダー12aから保護された部屋14に放出されると、第1 のガスシリンダー12aの圧力が低下し、第1の中間ライン40a内の圧 力が減衰し、第2の中間ライン40b内の圧力が一定のままであるため、 10 第1のラプチャーディスク16aにかかる圧力差は増加し始める。第1の 中間ライン40aの圧力が減衰し続けると、第1のラプチャーディスク1 6aでの圧力差は最終的に所定のレベルに達し、第1のラプチャーディス ク16aはその破裂限界に達する。第1のラプチャーディスク16aがそ の破裂限界に達すると、第1のラプチャーディスク16aが破裂し、第2 15 のガスシリンダー12bからのガスが第2の中間ライン40bと第1の ラプチャーディスク16aを通って流れ、第1のガスシリンダー12aか らのガスに合流する。 第1のラプチャーディスク16aが破裂した後、第2のガスシリンダー 12bからのガスは、第1のガスシリンダー12aからのガスと合流し、 20 抑制システム10を出る。第1及び第2のガスシリンダー12a及び12 bの圧力は組み合わさり、ガスの相互充填のために新しい圧力平衡に迅速 に到達する。ガスが保護された部屋14に放出されると、第1と第2のガ スシリンダー12aと12bの合計圧力は継続的に減少する。したがって、 第1と第2の中間ライン40aと40bの圧力が低下し、第3の中間ライ 25 ン40cは一定のままであるため、第2のラプチャーディスク16bにか かる圧力差が増加し始める。第1及び第2のガスシリンダー12a及び1 33 2b内の圧力が第2の所定のレベル未満に減少すると、第2のラプチャー ディスク16bにかかる圧力差は最大限界に達し、第2のラプチャーディ スク16bはその破裂限界に達する。次に、第2のラプチャーディスク1 6bが破裂し、第3のガスシリンダー12cからのガスは、第1及び第2 5 のガスシリンダー12a及び12bからのガスとともに、供給ライン24 に流れることができる。」 (原文7頁23行〜8頁18行・訳文6頁〜7頁) オ 「図1及び2は、3つのガスシリンダーと2つのラプチャーディスクを 有する抑制システム10を示すが、本発明の意図する範囲から逸脱するこ 10 となく、必要に応じてより多くのガスシリンダー及びラプチャーディスク を使用して、閉鎖された部屋を適切に保護することができる。例えば、密 閉された部屋での火災を適切に抑制する必要がある場合は、ラプチャーデ ィスクの間に複数のガスシリンダーを取り付けることができる。さらに、 より多くのガスシリンダーが必要な場合は、密閉された部屋内で過圧が発 15 生しないようにするために、ラプチャーディスクをさらに必要とする場合 がある。保護された部屋の大きさ、ガスシリンダーの容積、及びその他の 要因によっては、より多くのガスシリンダーとラプチャーディスクが必要 になる場合がある。」 (原文9頁11行〜22行・訳文8頁) 20 カ 「図4は、時間の関数として、ガスシリンダー12a〜12cから順次 放出を行っている間における、密閉された部屋内の圧力のグラフである。 図4に見られるように、抑制システム10は、制御された速度でガスを密 閉された部屋に放出し、密閉された部屋に過剰圧力がかからないようにす る。メインバルブ22が作動し、第1のガスシリンダー12aからのガス 25 が密閉された部屋に放出されるとき、閉鎖された部屋の圧力P1に比較的 高い初期ピークがあるが、初期の高圧の増加は、以前として予め指定され 34 た閾値限界を下回っている。第1のシリンダー12a内のガスが解放され、 第1のガスシリンダー12a内に残っているガスのレベルが低下すると、 第1のラプチャーディスク16aでの圧力差が増大し、第1のラプチャー ディスク16aが破裂し、ガスが第2のガスシリンダー12bからも放出 5 されているため、密閉された部屋で圧力P2の第2のピークが発生する。 次に、第1及び第2のガスシリンダー12a及び12bに残っているガス のレベルが低下するにつれて、密閉された部屋の圧力は減少し続ける。第 1及び第2のガスシリンダー12a及び12bからのガスが密閉された 部屋に放出されると、第2のラプチャーディスク16bにかかる圧力差は、 10 第2のラプチャーディスク16bが破裂してガスが第3のガスシリンダ ー12cからも放出されるまで増大し、密閉された部屋で第3の圧力ピー クP3を引き起こす。ガスは、抑制システム10内に公称量のガスが残さ れ、それ以上ガスが放出されなくなるまで、ガスシリンダー12a〜12 cから放出され続ける。 15 圧力ピークP1、P2、及びP3の数と値は、それぞれガスシリンダー の数とその容積に依存する。様々な消防法により、密閉された部屋での火 災やその他の危険を抑制するために必要な量のガスを60秒以内に密閉 された部屋に放出する必要がある。図4に見られるように、圧力ピークP 1、P2、及びP3の間の時間遅延があっても、すべてのガスが抑制シス 20 テム10から60秒以内に放出される。圧力ピークP1、P2、及びP3 の間の時間遅延は、ラプチャーディスク16を破壊するために必要な圧力 差に基づいて制御され、任意の仕様を満たすように製造することができる。 最適な圧力差は、部屋の大きさ、ガスシリンダーの数、ガスシリンダーの 容量、及びガスシリンダーの連続点火の間に必要な時間遅延によって異な 25 る。一実施形態では、ラプチャーディスク16の破裂に必要な圧力差は約 15barと50barの間である。」 35 (原文9頁22行〜10頁23行・訳文8頁〜9頁) キ 「本発明の順次放出する火災危険抑制システムは、機器、設置費及びメ ンテナンス費を削減する一方、放出時に保護された部屋の過圧を効率的に 防止する。火災危険抑制システムは、高価なスロットルバルブを使用せず 5 に、使い捨てのラプチャーディスクにより、ラプチャーディスク間の圧力 差の機能として不活性ガスを自動的に放出し、放出される不活性ガスの流 量を制御する。メインバルブが作動すると、第1のガスシリンダーからの ガスが保護された部屋に放出される。第1のガスシリンダーからの圧力が 減衰すると、第1のガスシリンダーと第2のガスシリンダーの間のバリア 10 として機能する第1のラプチャーディスクが圧力差で破裂し、第2のガス シリンダーからのガスも保護された部屋に放出されることになる。第1と 第2のガスシリンダー内の圧力は、ガスのクロスチャージにより急速に結 合圧力が平衡に達し、新しい圧力となる。第1と第2のガスシリンダーの 新しい圧力が減衰すると、第2のガスシリンダーと第3のガスシリンダー 15 の間にある第2のラプチャーディスクが圧力差で破裂し、第3のガスシリ ンダーからのガスが保護された部屋に入ることになる。3つのガスシリン ダーすべてからのガスは、抑制システム内にわずかな量のガスが残るまで、 保護された部屋に放出され続ける。」 (原文10頁24行〜11頁10行・訳文9頁) 20 ク 「請求項: 1.複数のガス容器からのガスが供給されるときに、保護領域内の過圧を 防止するための制御された圧力解放システムであって、 第1のガス容器、 第2のガス容器、 25 第1及び第2のガス容器に接触する配管であって、放出口を有する配管、 第1のガス出口及び第2のガス出口は、第1のガス容器及び第2のガス 36 容器を配管にそれぞれ接続する、 第1と第2のガス出口の間に配置された第1の差圧応答バルブ、 システムを作動させるためのバルブであって、バルブは閉位置と開位置 との間で切り替え可能であり、バルブが開位置に切り替わると、第1のガ 5 ス容器は放出口と連通し、第1の差圧応答バルブは最初のガス容器内のガ ス圧力の低下に応じて開くシステム。 2.前記第1のガス容器内の第1のガス圧力は、前記バルブが前記閉位置 にあるとき、前記第2のガス容器内の第2のガス圧力にほぼ等しい、請求 項1に記載のシステム。 10 3.前記第1の差圧応答バルブが第1のラプチャーディスクを含む、請求 項1記載のシステム。」 (原文12頁1行〜25行・訳文10頁) ? 相違点1の容易想到性の判断の誤りの有無について 本件決定は、相違点1に関し、@甲2技術的事項に接した当業者であれば、 15 「複数本数の容器弁付き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1 発明において、 「窒素ガス」が、過剰圧力がかかった状態で防護区画へ放出さ れ得ることを防ぐために、窒素ガスが、過剰圧力がかからないように制御さ れた速度で、防護区画に順次放出されるようにすればよいことを容易に認識 するといえる、A甲2技術的事項では、「メインバルブ22」と、「ラプチャ 20 ーディスク16a」と、 「ラプチャーディスク16b」の開放時間をずらすこ とで、 「過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋14 に順次放出されるようにする」ことを実現しているが、 「複数本数の容器弁付 き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1発明において、窒素ガ スの過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出す 25 るには、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ とによって実現でき、ラプチャーディスク等を用いるまでもないことは、当 37 業者であれば普通に予測し得たことである、B本件明細書の【0025】の 記載を参酌すると、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイ ミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一 の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止す 5 る前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」とは、制御部か らの信号により開弁のタイミングが決定づけられているということ以上を意 味していないと解さざるを得ず、そのタイミングを「前記一つの容器の容器 弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミン グであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が 10 重なることを防止する前記第二の開弁タイミング」とすることは、窒素ガス の過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出する ことを、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ とによって実現するための必然的なタイミングでしかないから、「前記一つ の容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の 15 開弁タイミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスの ピーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、 前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」ことも当業者が容易に想 到し得たことである、C甲7及び8の記載事項からみて、 「複数の消火ガス容 器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消火設 20 備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の容器の 容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容器弁の開 弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備の技術分野 において、本件出願前、周知技術であったといえる、D甲2技術的事項に接 した当業者であれば、甲1発明において、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた 25 「容器弁」の開弁時期をずらすことで、相違点1に係る本件発明の発明特定 事項(構成)とすることは、当業者が容易に想到し得たというべきである旨 38 判断した。 しかしながら、本件決定の判断は、以下のとおり誤りである。 ア @及びAについて (ア) 前記(1)の甲 1 の記載事項によれば、甲1には、窒素消火設備の構成 5 例として、貯蔵容器室に設置された複数の「容器弁」付き窒素ガス貯蔵 容器が記載され、貯蔵容器の本数(N)は、必要消火剤量W(m 3)を貯 蔵容器1本当たりの充てん量で除して得られる本数であることの記載が ある。 一方で、甲1には、各貯蔵容器の容器弁の開弁時期や、一つの貯蔵容 10 器と別の貯蔵容器とから放出される窒素ガスのピーク圧力が重なること を防止して防護区画へ窒素ガスが導入されることについて記載や示唆は ない。 (イ) 次に、前記(2)の甲2の記載事項によれば、甲2には、甲2技術的事 項 「不活性ガスが含有された複数の高圧不活性ガス貯蔵シリンダー12( 15 a〜12cと、ガスシリンダー12aと12bとの間の配管40に沿っ て配置されたラプチャーディスク16aと、ガスシリンダー12bと1 2cとの間の配管40に沿って配置されたラプチャーディスク16bと、 不活性ガスを、データセンター及びコンピュータルーム等の貴重な機器 又はコンポーネントを含む保護された部屋14に放出する供給ライン2 20 4及び排出ノズル26と、過剰な圧力を防ぐために、保護された部屋1 4に設けられた通気孔と、を備えた、火災危険抑制システム10におい て、配管40と供給ライン24との間に配置されたメインバルブ22と、 ガスシリンダー12aと12bとの間の配管40に沿って配置されたラ プチャーディスク16aと、ガスシリンダー12bと12cとの間の配 25 管40に沿って配置されたラプチャーディスク16bの開放時間をずら すことで、シリンダー12aからのガスの供給を開始する時点と、シリ 39 ンダー12bからのガスの供給を開始する時点と、シリンダー12cか らのガスの供給を開始する時点とをずらした結果として、不活性ガスが、 過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋14に 順次放出されること。 )が記載されていることが認められる。 」 5 しかるところ、甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、配管等 の内部のあらかじめ決められた圧力により動作(破裂)し、一旦動作(破 裂)した後は再閉鎖されない、使い捨ての部材(甲21ないし23)で あり、弁が繰り返し開閉する「容器弁」とは、動作及び機能が異なるも のである。 10 そして、前記(2)の甲2の記載事項によれば、甲2には、@甲2記載の 火災危険抑制システムは、複数(第1及び第2)のガスシリンダー間に ラプチャーディスクを取り付け、第1のガスシリンダー内のガスが保護 された部屋(密閉された部屋)に放出されて第1のガスシリンダー内の 残存ガスのレベルが低下すると、第1及び第2のガスシリンダー間の圧 15 力差で、ラプチャーディスクが破裂して第2のガスシリンダー内のガス が保護された部屋に放出され、このように複数のガスシリンダーからそ れぞれ順次ガスが放出されることによって、保護された部屋の過圧を防 止できること(前記(2)エ、キ)、A保護された部屋の大きさ、ガスシリン ダーの容積、及びその他の要因によって、必要に応じてより多くのガス 20 シリンダー及びラプチャーディスクを使用して、閉鎖された部屋(保護 された部屋)を適切に保護することができること(前記(2)オ、カ)の開 示があることが認められる。 一方で、甲2には、バルブ(図2記載の第1のバルブ30、第2のバ ルブ34、第3のバルブ38)の開閉によりガスシリンダーから配管へ 25 のガス流を制御することの記載はあるものの、ラプチャーディスクを使 用することを前提とした記載であって、ラプチャーディスクを使用せず 40 に、各バルブの開弁時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ 順次ガスを放出することよって保護区域又は保護された部屋の加圧を防 止することについて記載や示唆はない。 (ウ) 以上のとおり、甲1記載の「容器弁」付き窒素ガス貯蔵容器の「容器 5 弁」と甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、動作及び機能が異 なること、甲1及び2のいずれにおいても貯蔵容器の容器弁又はガスシ リンダーのバルブの開閉時期をずらして複数のガスシリンダーからそ れぞれ順次ガスを放出することによって保護区域又は保護された部屋 の加圧を防止することについての記載や示唆はないことに照らすと、甲 10 1及び2に接した当業者は、甲1発明において、保護区域又は保護され た部屋の加圧を防止するために甲2記載のラプチャーディスクを適用 することに思い至ることがあり得るとしても、ラプチャーディスクを用 いることなく、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期 をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出するこ 15 とよって加圧を防止することが実現できると容易に想到することがで きたものと認めることはできない。 したがって、本件決定の@及びAの判断は誤りである。 イ Bについて 本件決定のAの判断は、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の 20 開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであっ て前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重な ることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」 とは、制御部からの信号により開弁のタイミングが決定づけられていると いうこと以上を意味していないと解さざるを得ないことを根拠として、容 25 器弁に接続される制御部を備える甲1発明において、「前記一つの容器の 容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タ 41 イミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピ ーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、 前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」こと(相違点1に係る 本件発明1の構成の一部)も当業者が容易に想到し得たことをいうものと 5 解されるところ、本件発明1の「決定し」の用語のクレーム解釈から直ち にそのような結論を導き出すことには論理的に無理があり、論理付けが不 十分である。 ウ Cについて 仮に本件決定が述べるように甲7及び8の記載から、「複数の消火ガス 10 容器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消 火設備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の 容器の容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容 器弁の開弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備 の技術分野において、本件出願前、周知であったことが認められるとして 15 も、当業者が、甲1発明において、上記周知技術を適用することについて の動機付けがあることを認めるに足りる証拠や論理付けがない。 エ まとめ 以上によれば、当業者は、甲1、甲2技術的事項及び前記周知技術に基 づいて、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることを 20 容易に想到することができたものと認めることはできないから、これと異 なる本件決定の判断は誤りである。 ? 被告の主張について
被告は、@甲2には、過剰圧力がかからないように制御された速度で不活 性ガスを放出することが課題として挙げられ、その課題を解決する手段とし 25 て、複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点(シリンダー12aか らのガスの供給を開始する時点、シリンダー12bからのガスの供給を開始 42 する時点、シリンダー12cからのガスの供給を開始する時点)をずらすと いう技術思想が記載されているところ(9頁22行〜26行) 甲2技術的事 、 項記載の「ラプチャーディスク」は、そのための手段にすぎない、A複数の 消火ガス容器の開弁時期を制御部によりずらして防護区画へ消火ガスを導入 5 する手段は、本件出願前、ガス系消火設備の技術分野において周知であった (甲7の請求項1、【0001】 【0014】 、 、甲8の【0001】【001 、 4】 【0018】 、B乙5及び6の記載から、ラプチャーディスクと制御さ 、) れた開閉弁とが同じ機能を有することは、本件出願前、周知であった、C甲 1には、「防護区画内への消火剤の放射によって上昇する区画内部圧力を緩 10 和するために、避圧口を適性に設置しなければならない」と記載され、避圧 口の必要面積の計算式も記載されていることは、甲1発明が、防護区画に過 剰な圧力がかかることを防止するという課題の下でされた発明であることの 証左であるとした上で、甲1に接した当業者であれば、甲1発明において過 剰圧力を防止するという課題が存在すると理解し、その課題を解決するため 15 に、甲2技術的事項における「複数のシリンダーからのガス供給を開始する 時点をずらすという技術思想」を適用すること、その適用の際に、複数の消 火ガス容器の開弁時期を制御部によりずらして防護区画へ消火ガスを導入す るという周知の手段を採用することによって、甲1発明の各「窒素ガス貯蔵 容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすことは、当業者が容易に想到 20 し得たことであり、また、甲2技術的事項において、「ラプチャーディスク」 は、複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点をずらすための手段に すぎないのであり、原告が主張する、ラプチャーディスクを用いる技術と容 器弁を用いる技術とに作用効果上の相違があることは、甲1発明に、甲2技 術的事項における「複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点をずら 25 すという技術思想」を適用することの妨げとはなり得ないから、当業者は、 甲1、甲2技術的事項及び本件出願前の周知技術に基づいて、甲1発明にお 43 いて、相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することがで きた旨主張する。 しかしながら、@及びCについては、前記?ア(イ)のとおり、甲2には、 バルブ(図2記載の第1のバルブ30、第2のバルブ34、第3のバルブ3 5 8)の開閉によりガスシリンダーから配管へのガス流を制御することの記載 はあるものの、ラプチャーディスクを使用することを前提とした記載であっ て、ラプチャーディスクを使用せずに、各バルブの開弁時期をずらして複数 のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することよって保護区域又は 保護された部屋の加圧を防止することについて記載や示唆はないことに照ら 10 すと、甲2技術的事項から、ラプチャーディスクを用いることなく、 「複数の シリンダーからのガス供給を開始する時点をずらすという技術思想」を読み 取ることはできないというべきである。 したがって、被告の上記主張@及びCは、その前提を欠くものであり、採 用することができない。 15 また、Aについては、前記?ウのとおり、複数の消火ガス容器の開弁時期 を制御部によりずらして防護区画へ消火ガスを導入する手段が、本件出願前、 ガス系消火設備の技術分野において周知であったとしても、当業者が、甲1 発明において、上記周知技術を適用することについての動機付けがあること を認めるに足りる証拠や論理付けがない。 20 さらに、Bについては、前記?ア(ウ)のとおり、甲1記載の「容器弁」付き 窒素ガス貯蔵容器の「容器弁」と甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」 は、動作及び機能が異なることに照らすと、被告主張の乙5の記載(2頁7 行〜10行、図2)及び乙6の記載(3頁左上欄1行〜19行、第8図〜第 10図)を参酌しても、上記認定が左右されるものではない。 25 よって、被告の主張はいずれも理由がない。 ? 小括 44 以上によれば、本件決定における相違点1の容易想到性の判断には誤りが あるから、その余の点について判断するまでもなく、当業者は、甲1及び2 並びに周知の事項に基づいて、本件発明を容易に想到することができたもの と認めることはできない。 5 したがって、原告主張の取消事由は理由がある。 3 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由があり、本件決定のうち、 「特許第 6674704号の請求項1に係る特許を取り消す。 との部分は取り消される 」 べきであるから、主文のとおり、判決する。 10 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 大鷹一郎 15 裁判官 小川卓逸 20 裁判官 遠山敦士 45 (別紙1) 本件明細書 【図1】 5 10 【図2】 15 20 25 46 【図3】 5 10 【図4】 15 20 47 【図5】 5 10 【図6】 15 20 48 (別紙2) 甲1 図9.6.1.2 5 10 15 20 49 図9.6.2.8 5 10 50 (別紙3) 甲2 【図1】 5 10 15 【図2】 20 25 51 【図4】 5 10 52
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
事実及び理由
全容