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関連審決 異議2019-701046
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事件 令和 4年 (行ケ) 10030号 特許取消決定取消請求事件
5
原告大日本印刷株式会社
同訴訟代理人弁護士 柏延之
同訴訟復代理人弁護士 二枝翔司 10 同訴訟代理人弁理士 岡村和郎
同 渡辺浩司
同 藤枡裕実
同 中村直人
同 豊本泰央 15
被告特許庁長官
同 指定代理人久保克彦
同 藤原直欣
同 小暮道明 20 同當間庸裕
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/03/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が異議2019−701046号事件について令和4年3月22日にした決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
25 事 実 及 び 理 由第1 請求1主文と同旨第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)? 原告は、平成22年10月29日(以下「原出願日」という。)に出願した5 特願2010−244721号の一部を、平成28年3月14日に新たな特許出願とした特願2016−49799号の一部を、平成29年12月6日に新たな特許出願とし、令和元年7月5日にその特許権の設定登録がされ(特許第6547817号。請求項の数14。以下、この特許を「本件特許」という。)、同月24日に特許掲載公報が発行された。
10 ? 本件特許について、令和元年12月20日に特許異議の申立てがされ、特許庁は、同申立てを異議2019−701046号事件として審理し、令和2年6月2日付けで取消理由通知書を発し、令和3年1月26日付けで取消理由通知(決定の予告)をした。
原告は、同年3月29日、訂正請求書及び意見書を提出し、同年4月2315 日、補正書を提出して上記訂正請求書による訂正請求を補正した(以下この補正された訂正請求を「本件訂正請求」といい、訂正そのものを「本件訂正」という。)。
特許庁は、令和3年7月6日付けで訂正拒絶理由通知書を発し、これに対し、原告は、同年8月6日、意見書を提出した。
20 ? 特許庁は、令和4年3月22日に、本件訂正を認めず、「特許第6547817号の請求項1ないし14に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件取消決定」という。)をし、その謄本は、令和4年3月31日、原告に送達された。
? 原告は、令和4年4月28日、本件取消決定の取消しを求める本件訴訟を25 提起した。
2 特許請求の範囲の記載と本件訂正の内容2本件訂正前の本件特許の請求項1ないし14の発明(以下「本件発明1」等といい、包括して「本件発明」という。)及び本件訂正の内容は以下のとおりである。
? 本件発明5 【請求項1】少なくとも2層を有する積層体であって、
第1の層が、2軸延伸樹脂フィルムからなり、前記2軸延伸樹脂フィルムを構成する樹脂組成物が、ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを主成分として含み、前記ポリエステルが、前記ジオール単位がバ10 イオマス由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸であるバイオマス由来のポリエステルと、前記ジオール単位が化石燃料由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸である化石燃料由来のポリエステルとを含んでなり、前記2軸延伸樹脂フィルム中に前記バイオマス由来のポリエステル15 が90質量%以下含まれ、
第2の層が、化石燃料由来の原料を含む樹脂材料からなり、且つ、バイオマス由来の原料を含む樹脂材料を含まないことを特徴とする、積層体。
【請求項2】前記樹脂組成物が、ジオール単位が化石燃料由来のジオールまたはバイオ20 マス由来のエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位が化石燃料由来のジカルボン酸であるポリエステルのリサイクルポリエステルをさらに含んでなる、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】前記樹脂組成物が、前記リサイクルポリエステルを、樹脂組成物全体に対25 して5〜45質量%含んでなる、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】3前記樹脂組成物が添加剤をさらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】前記樹脂組成物が、前記添加剤を、樹脂組成物全体に対して5〜50質量%5 含んでなる、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】前記添加剤が、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、
難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、糸摩擦低減剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤、および着色顔料からなる群から選択される1種または2以上である、請10 求項4または5に記載の積層体。
【請求項7】無機物または無機酸化物からなる第3の層をさらに有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】15 請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を備える、積層フィルム。
【請求項9】請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を備える、包装用袋。
【請求項10】請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を備える、シート成形品。
20 【請求項11】請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を備える、ラベル材料。
【請求項12】請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を備える、蓋材。
【請求項13】25 請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を備える、ラミネートチューブ。
4【請求項14】請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を備える、包装製品。
? 本件訂正の内容ア 訂正事項1(請求項4ないし14からなる一群の請求項のうち請求項45 に係る訂正)特許請求の範囲の請求項4における「請求項1〜3のいずれか一項に記載の」との記載を「請求項2または3に記載の」と訂正する。
また、請求項4を引用する請求項5ないし14も同様に訂正する。
イ 訂正事項2(訂正後請求項15に係る訂正)10 特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4の引用関係を解消して独立の請求項である請求項15とし、かつ、末尾の「。」の直前に「(但し、
該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)」との事項を追加する。
ウ 訂正事項3(訂正後請求項16に係る訂正)15 特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4を更に引用する請求項8の引用関係を解消して独立の請求項である請求項16とし、かつ、末尾の「。」の直前に「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)」との事項を追加する。
20 エ 訂正事項4(訂正後請求項17に係る訂正)特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4を更に引用する請求項9の引用関係を解消して独立の請求項である請求項17とし、かつ、末尾の「。」の直前に「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)」との事25 項を追加する。
オ 訂正事項5(訂正後請求項18に係る訂正)5特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4を更に引用する請求項10の引用関係を解消して独立の請求項である請求項18とし、かつ、末尾の「。」の直前に「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、
その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)」との5 事項を追加する。
カ 訂正事項6(訂正後請求項19に係る訂正)特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4を更に引用する請求項11の引用関係を解消して独立の請求項である請求項19とし、かつ、末尾の「。」の直前に「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、
10 その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)」との事項を追加する。
キ 訂正事項7(訂正後請求項20に係る訂正)特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4を更に引用する請求項12の引用関係を解消して独立の請求項である請求項20とし、かつ、末尾15 の「。」の直前に「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、
その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)」との事項を追加する。
ク 訂正事項8(訂正後請求項21に係る訂正)特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4を更に引用する請求項120 3の引用関係を解消して独立の請求項である請求項21とし、かつ、末尾の「。」の直前に「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、
その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)」との事項を追加する。
ケ 訂正事項9(訂正後請求項22に係る訂正)25 特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4を更に引用する請求項14の引用関係を解消して独立の請求項である請求項22とし、かつ、末尾6の「。」の直前に「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、
その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)」との事項を追加する。
? 一群の請求項5 本件訂正前の請求項4ないし14は、請求項5ないし14が、本件訂正請求の対象である請求項4の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項(4ないし14)について請求されている。
本件訂正において、特許請求の範囲の請求項1に従属する請求項4を独立形式とし(本件訂正後の特許請求の範囲の請求項15)、かつ、特許請求の範10 囲の請求項1に従属する請求項4に、更に従属する請求項8ないし14をそれぞれ独立形式とし(本件訂正後の特許請求の範囲の請求項16ないし22)、
特許請求の範囲の請求項1及び請求項4との引用関係の解消を行っており、
特許権者である原告は、これらの引用関係の解消等を目的とする訂正が認められた場合は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項15ないし22につい15 ての訂正を、それぞれ別の訂正単位として扱うよう求めている。
3 本件取消決定の要旨? 本件の争点に関する本件取消決定の理由の要旨は、@本件訂正事項2ないし9において、「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)」との事項を20 追加することは、特許請求の範囲の請求項4に係る発明の「少なくとも2層を有する積層体」外の構成である、「積層体上」という構成について特定することであり、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に係る発明の「少なくとも2層を有する積層体」そのものの構成や、これを構成する層の性状や形状等の諸元を特定していないから、訂正事項2は、特許法120条の5第225 項ただし書1号に掲げられた「特許請求の範囲減縮」を目的とするものに該当せず、その他、同項ただし書各号に掲げられたいずれのものにも該当し7ないので、本件訂正は認められない、A本件発明1は特開2007−210208号公報(以下「引用文献4」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び特開2009−91694号公報(以下「引用文献5」という。 記載事項) (詳細は省略)に基づいて、本件発明2及び3は引用発明、
5 引用文献5記載事項及び周知技術に基づいて、本件発明4ないし14は引用発明、引用文献4記載事項(【0023】、【0027】及び【0028】の関連部分) 引用文献5記載事項及び周知技術に基づいて、
、 それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである。
? 本件取消決定が認定した引用発明、本件発明1ないし14と引用発明の一10 致点及び相違点、相違点1及び2についての容易想到性の判断の要旨別紙1の1記載のとおり。
4 取消事由? 訂正要件に関する判断の誤り(取消事由1)? 引用発明に基づく本件発明の進歩性判断の誤り(取消事由2)15 ? 手続違背(取消事由3)第3 当事者の主張1 取消事由1(訂正要件に関する判断の誤り)? 原告の主張ア 訂正事項2について20 訂正事項2が減縮に当たることについて本件訂正が減縮に該当すると認められるためには、@訂正前には含まれなかった態様で訂正後に含まれるものが存在しないこと、及びA訂正によって除かれる態様、すなわち訂正前には権利範囲に属していたが訂正後には権利範囲に含まれない態様が1つでも存在すること、の2点を25 主張立証すれば足りる。
@に関しては、除くクレーム形式である以上、新たに付加される構成8がないことは明らかである。
次に、Aについてみると、訂正前の請求項4に係る発明の対象は「少なくとも2層を有する積層体」であり、構成として具体的に特定されている「第1の層」と「第2の層」以外に任意の層を含み得るものであり、本5 件訂正により特定された「無機酸化物の蒸着膜」及び「その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜」も該「少なくとも2層を有する積層体」の一部を構成することになる。その結果、「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるもの」は、当然に訂正前の請求項4の特許請求の範囲に含まれる。したがって、訂正事10 項2によって、「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるもの」を除外することにより、訂正前の請求項4の対象とされていたものの一部がその権利範囲外になることは明らかである。
訂正事項2が新規事項の追加に当たるとの被告の主張について15 a そもそも、訂正事項2が新規事項の追加に当たるか否かは、異議手続では審理、判断されておらず、これを本件における審理対象とするのは、最高裁判所昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁(メリヤス事件)に反する。
b なお、訂正事項2は、権利範囲から除外する対象を特定しているの20 みで、新たにこれを当該発明の技術的手段として規定するものではないから、新たな技術的事項を追加するものに該当しないことは明らかである。
イ 訂正事項3ないし9について訂正事項3ないし9に係る発明(訂正前の請求項8ないし14)はいず25 れも積層体を対象とするものではない(それぞれ、「積層フィルム」「包装用袋」「シート成形品」「ラベル材料」「蓋材」「ラミネートチューブ」「包9装製品」を対象とするものである。)。形式上直接積層体の構成を限定する記載となっているか否かを問題としている本件取消決定の訂正事項2に関する判断は、訂正事項3ないし9の適法性判断では、より一層成り立たない。
5 ? 被告の主張ア 訂正事項2について減縮に当たらないこと訂正事項2は、除く事項で記載する「該積層体」、すなわち、少なくとも2層を有する「積層体」の「上」に、「無機酸化物の蒸着膜」が設けら10 れ、さらに「その蒸着膜上」に「ガスバリア性塗布膜」が設けられてなるものを「除く」という特定を追加するものである。
訂正事項2は、「該積層体」、すなわち、「積層体」から、「無機酸化物の蒸着膜」及びその上の「ガスバリア性塗布膜」を「積層体」内の構成としたものを除く記載とはなっておらず、「積層体」の外に該当する「積15 層体」の「上」に、新たに「無機酸化物の蒸着膜」を設け、さらにその上に「ガスバリア性塗布膜」を設けたものを除くとする記載となっているから、結局、「積層体」の範囲自体を何ら減縮していない。
明細書には記載も示唆もされておらず、引用文献にのみ記載された技術的事項を用いた「除くクレーム」とすることで、そもそも訂正前の特許20 発明が想定していない引用文献記載の技術分野ないし技術的事項に係る「除かれていない部分」にまで権利範囲が及ぶように見える訂正や、「除くクレーム」とすることで実質的には開示されたか又はそこから自明な概念以外の概念を持ち込んだのと結果的に等しくなる訂正は、第三者に明細書等の記載に関して誤解を与える可能性があり、不測の不利益を及25 ぼす蓋然性が高いものというべきである。
新規事項の追加に当たること10本件訂正前の特許請求の範囲、明細書及び図面には、「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜」を設けることの記載はないし、示唆する記載もない。本件発明の課題は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【005 08】にあるとおり、「・・・本発明の目的は、バイオマスエチレングリコールを用いたカーボンニュートラルなポリエステルを含む樹脂組成物からなる層を有する積層体を提供することであって、従来の化石燃料から得られる原料から製造された積層体と機械的特性等の物性面で遜色ないポリエステル樹脂フィルムの積層体を提供すること」であり、ここに、
10 引用文献の課題解決手段である「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜」を追加することは新たな技術的事項の追加であり、その追加した事項を前提に、それを除くとする本件発明は、新たな技術的事項を導入するものである。
明細書に開示のない事項を除くクレームとする訂正は、新規性を担保15 するために本件発明と引用文献に記載された事項との重複箇所のみを明確かつ正確に除くものとすべきところ、重複箇所のみの除くクレームとはせずに、引用文献の課題解決手段を、「積層体」の「上」に新たに追加して、その追加した事項を除くとする本件訂正は、もっぱら進歩性に関する原告の立場を強化する目的の訂正といえる。
20 また、このような訂正は、新たに追加して除くとした事項が本件特許明細書にあたかも実施例として存在していたかのように見え、「除かれていない部分」にまで、あたかも初めから権利範囲が及ぶように見えるのであって、第三者に不測の不利益を及ぼす蓋然性が高い。
2 取消事由2(引用発明に基づく本件発明の進歩性の判断の誤り)25 別紙1の2記載のとおり。
3 取消事由3(手続違背)11別紙1の3記載のとおり。
第4 当裁判所の判断1 本件発明について? 本件明細書には、本件発明について、別紙2の記載がある。
5 ? 前記?の記載事項によれば、本件明細書には、本件発明に関し、次のような開示があることが認められる。
ア 本件発明は、植物由来の原料から得られたバイオマスポリエステル樹脂組成物からなる層を有する積層体に関し、より詳細には、バイオマス由来のエチレングリコールをジオール成分として用いたポリエステルを含む樹10 脂組成物からなる第1の層を有する積層体に関する(【0001】)。
イ 近年、循環型社会の構築のため、材料分野においてもエネルギーと同様に化石燃料からの脱却が望まれており、いわゆるカーボンニュートラルで再生可能であるバイオマスの利用が注目されている(【0003】)。
ウ 本件発明は、バイオマスエチレングリコールを用いたカーボンニュート15 ラルなポリエステルを含む樹脂組成物からなる層を有し、従来の化石燃料から得られる原料から製造された積層体と機械的特性等の物性面で遜色ない積層体を提供することを課題とする(【0008】)。
エ 本件発明は、「第1の層」及び「第2の層」の「少なくとも2層を有する積層体」の構成により、上記本件発明の目的を達成するものである。
20 「第1の層」 「2軸延伸樹脂フィルムからなり、
は 前記2軸延伸樹脂フィルムを構成する樹脂組成物が、ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを主成分として含み、前記ポリエステルが、前記ジオール単位がバイオマス由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸であるバイオマス由来のポリエステルと、
25 前記ジオール単位が化石燃料由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸である化石燃料由来のポリエ12ステルとを含んでなり、前記2軸延伸樹脂フィルム中に前記バイオマス由来のポリエステルが90質量%以下含まれ」た層である。また、
「第2の層」は「化石燃料由来の原料を含む樹脂材料からなり、且つ、バイオマス由来の原料を含む樹脂材料を含まない」層である(【0009】)。
5 オ 本件発明の構成を採ることにより、カーボンニュートラルな樹脂からなる層を有する積層体を実現し、化石燃料の使用量を大幅に削減することができ、環境負荷を減らすことができる。また、本件発明のポリエステル樹脂組成物の積層体は、従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリエステル樹脂組成物の積層体と比べて、機械的特性等の物性面で遜色がな10 いポリエステル樹脂組成物を用いているため、従来のポリエステル樹脂組成物の積層体を代替することができる(【0020】)。
2 取消事由1(訂正要件に関する判断の誤り)について? 訂正の目的についてア 訂正事項2は、請求項1を引用する請求項4を新たな独立項である請求15 項15とし、かつ、(但し、
「 該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、
その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く。 」) との事項を追加するものである。
訂正前の請求項1においては、「積層体」について、「少なくとも2層を有する積層体」と特定しているのにすぎないのであるから、ここにいう積20 層体には、「第1の層」、「第2の層」及びその他の任意の層からなる積層体が含まれることになるところ、「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」も層を形成するものである以上、この任意の層に該当するといえる。したがって、訂正前の請求項1における積層体は、「第1の層」、「第2の層」並びに「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸25 着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」からなる積層体(以下「積層体A」という。)を含んでいたものである。
13そうすると、訂正事項2は、「積層体A」を含む訂正前の請求項1における積層体から積層体Aを除くものといえ、このように積層体を特定したことにより、訂正前の請求項4に係る発明の技術的発明が狭まることになるのであるから、訂正事項2が特許法120条の5第2項ただし書1号に規5 定する特許請求の範囲減縮を目的とするものであることは明らかである。
イ 被告は、前記第3の1?ア のとおり、訂正事項2は、「積層体」から、
「無機酸化物の蒸着膜」及びその上の「ガスバリア性塗布膜」を「積層体」内の構成としたものを除く記載とはなっておらず、「積層体」の外に該当する「積層体」の「上」に、新たに「無機酸化物の蒸着膜」を設け、さらにそ10 の上に「ガスバリア性塗布膜」を設けたものを除くとする記載となっているから、「積層体」の範囲自体を減縮していない旨主張する。しかし、本件発明は、「第1の層」及び「第2の層」で完結した積層体を特定事項とするものではなく、特許を受けようとする発明を、
「第1の層」 「第2の層」及びを有する全ての積層体とするいわゆるオープンクレームに該当するもので15 あるから、権利範囲に含まれる具体的層構成を特定するに当たり、積層体の内外を形式的に区別しても意味がない(「第1の層」及び「第2の層」の外部の層も全て、本件発明における積層体の構成要素となる。)。そして、
前記アのとおり、訂正事項2における「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるもの」20 の具体的な内容は、「第1の層」、「第2の層」並びに「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」を備えた積層体であるから、結局、積層体Aと区別できないものである。したがって、訂正事項2は訂正前の積層体から積層体Aを除く訂正であり、「積層体」の範囲を減縮していることになる。
25 また、被告は、本件訂正事項2のような「除くクレーム」とする訂正は、
第三者に明細書等の記載に関して誤解を与える可能性があり、不測の不利14益を及ぼす蓋然性が高いものというべきである旨主張する。しかし、被告主張のような懸念が仮にあったとしても、それは、訂正後の請求項につき、
明確性要件やサポート要件等の適合性を巡って検討されるべき問題というべきであるから、いずれにしても、本件事案において、この点をもって直ち5 に訂正を認めない理由とすることは相当でない。
ウ 以上のとおりであるから、訂正事項2が特許請求の範囲減縮を目的とするものに当たらないとした本件取消決定の判断には誤りがある。
また、訂正事項3ないし9が特許請求の範囲減縮を目的とするものに当たらないとした本件取消決定の判断にも誤りがある。
10 ? 新規事項の追加の有無についてア 仮に、本件において、異議手続で審理・判断されていない新規事項の追加の有無について審理・判断することができるとしても、訂正事項2は、新規事項を追加するものとは認められない。
すなわち、訂正が、当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合15 することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものと解すべきところ、訂正事項2によって「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるもの」を除外することにより、新たな技術的20 事項が導入されるわけではなく、新規事項が追加されるものではない。
本件発明の課題は、バイオマスエチレングリコールを用いたカーボンニュートラルなポリエステルを含む樹脂組成物からなる層を有する積層体を提供することであって、従来の化石燃料から得られる原料から製造された積層体と機械的特性等の物性面で遜色ないポリエステル樹脂フィルムの積25 層体を提供すること(【0008】)であるが、上記除外によってこの技術的課題に何らかの影響が及ぶものではない。
15イ 被告は、前記第3の1?ア のとおり、訂正事項2は、本件発明の課題に、引用文献の課題解決手段である「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜」を追加することで新たな技術的事項を追加し、その追加した事項を前提に、それを除くとするので5 あるから、新たな技術的事項を導入するものである旨主張する。
しかし、訂正事項2による除外がされて残った技術的事項には、本件訂正前と比較して何ら新しい技術的要素はないから、被告の主張は採用できない。
その他被告が主張する点も、前記 イにおいて既に判示したところに照10 らせば、いずれも採用できない。
ウ 訂正事項3ないし9も、前記ア及びイと同様であって、新規事項を導入するものではない。
? 小括前記 及び のとおり、本件訂正は、減縮に該当し、新規事項の追加には当15 たらないものであり、その他に被告がるる主張する点も、上記判断を左右するに足りるものではない。そうすると、その他の点について判断するまでもなく、本件訂正は訂正要件を満たすものであり、これを否定した本件取消決定の判断には誤りがあるところ、本件取消決定では本件訂正を認めていないため、訂正後の請求項15ないし22に係る発明については、訂正の目的要20 件以外の要件について判断がされておらず、特許成立の可否が確定していない。
よって、上記判断の誤りが、本件取消決定の結論に影響を及ぼす可能性があることは明らかである。
したがって、原告主張の取消事由1は理由がある。
25 3 結論以上のとおり、取消事由1は理由があるから、その他の取消事由について判16断するまでもなく、本件取消決定を取り消すこととし、主文のとおり判断する。
知的財産高等裁判所第4部5裁判長裁判官菅 野 雅 之10 裁判官本 吉 弘 行裁判官15 岡 山 忠 広17(別紙1)1 本件取消決定が認定した引用発明、本件発明1ないし14と引用発明の一致点及び相違点、相違点1及び2についての容易想到性の判断の要旨引用発明5 ガスバリア性積層フィルム、印刷層、ラミネート接着剤層、ヒートシール性樹脂層を順次設けた包装袋としての包装用積層材であって、ガスバリア性積層フィルムは、基材が2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムからなり、基材上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなり、ヒートシール性樹脂層は、メタロセン触媒を用い10 て重合したエチレン−α−オレフイン共重合体のフィルムないしシートからなる包装用積層材。
本件発明1ないし14と引用発明の一致点及び相違点ア 一致点少なくとも2層を有する積層体であって、
15 第1の層が、2軸延伸樹脂フィルムからなり、前記2軸延伸樹脂フィルムを構成する樹脂組成物が、ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを主成分として含み、
第2の層が、樹脂材料からなる、積層体。
イ 本件発明1ないし14と引用発明との相違点20 相違点1(本件発明1ないし14共通)2軸延伸樹脂フィルムからなり、前記2軸延伸樹脂フィルムを構成する樹脂組成物が、ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを主成分として含」む「第1の層」について、本件発明1は「前記ポリエステルが、前記ジオール単位がバイオマス由来のエチレングリコー25 ルであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸であるバイオマス由来のポリエステルと、前記ジオール単位が化石燃料由来の18エチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸である化石燃料由来のポリエステルとを含んでなり、前記2軸延伸樹脂フィルム中に前記バイオマス由来のポリエステルが90質量%以下含まれ」ているものであるのに対し、引用発明はその点が不明5 である点。
相違点2(本件発明1ないし14共通)「樹脂材料からな」る「第2の層」について、本件発明1は「化石燃料由来の原料を含む樹脂材料からなり、且つ、バイオマス由来の原料を含む樹脂材料を含まない」ものであるのに対し、引用発明はその点が不明10 である点。
相違点3(本件発明2ないし6共通)本件発明2ないし6は「前記樹脂組成物が、ジオール単位が化石燃料由来のジオールまたはバイオマス由来のエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位が化石燃料由来のジカルボン酸であるポリエステルのリサ15 イクルポリエステルをさらに含んでなる」ものであるのに対し、引用発明はその点不明である点。
相違点4(本件発明3ないし6共通)本件発明3ないし6は「前記リサイクルポリエステルを、樹脂組成物全体に対して5〜45質量%含んでなる」ものであるのに対し、引用発明20 はその点不明である点。
相違点5(本件発明4ないし6共通)本件発明4ないし6は「前記樹脂組成物が添加剤をさらに含んでなる」ものであるのに対し、引用発明はその点不明である点。
相違点6(本件発明5及び6共通)25 本件発明5及び6は「前記添加剤を、樹脂組成物全体に対して5〜50質量%含んでなる」ものであるのに対し、引用発明はその点不明である19点。
相違点7(本件発明6)本件発明6は「前記添加剤が、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、糸摩擦低減剤、離型剤、
5 抗酸化剤、イオン交換剤、および着色顔料からなる群から選択される1種または2以上である」ものであるのに対し、引用発明はその点不明である点。
相違点1及び2の容易想到性についての判断理由の要旨ア 相違点1について10 引用文献5記載事項は、「シート、フィルムに用いられるポリエチレンテレフタレートが、バイオマス由来のエチレングリコールをジオール単位とし、化石燃料由来のテレフタル酸をジカルボン酸単位とする、50質量%のバイオマスポリエチレンテレフタレートと、化石燃料由来のエチレングリコールをジオール単位とし、化石燃料由来のテレフタル酸を15 ジカルボン酸単位とする、化石燃料由来の原料からなるポリエチレンテレフタレートと、を含んでなるポリエチレンテレフタレート。 といえる。
」石油資源の枯渇を抑制し、地球温暖化の原因物質である大気中の二酸化炭素の増加を抑制する手段として、石油系由来の原料のみからなるポリエチレンテレフタレートに替えて、生物産生のバイオマス素材を原料20 としたポリエチレンテレフタレートを用いることは、当業者が普通に検討し得る技術課題であるから、引用発明における「2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の材料として、バイオマス由来のポリエチレンテレフタレートを用いる動機付けがある。
本件発明1の「90質量%」という上限について、その臨界的意義を認25 めることはできない。
したがって、引用発明及び引用文献5記載事項に基づき、相違点1に係20る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得た。
イ 相違点2について引用発明の「メタロセン触媒を用いて重合したエチレン−α−オレフイン共重合体のフィルムないしシートからなる」「ヒートシール性樹脂5 層」を「化石燃料由来の原料を含む樹脂材料からなり、かつ、バイオマス由来の原料を含む樹脂材料を含まない」ものとすることは、引用発明を具体化するにあたり、当業者が適宜になし得たことである。
ウ 顕著な作用効果について本件発明1の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献5記載事項の10 作用効果の総和以上のものであるとは認められず、格別顕著なものではない。
2 取消事由2(引用発明に基づく本件発明の進歩性の判断の誤り)? 原告の主張ア 本件発明1について15 引用発明の認定、一致点・相違点の認定に誤りがあることについてa 本件取消決定は、前記1?のとおり引用発明を認定した。
しかし、知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)10182号・平成28年(行ケ)10184号平成30年4月13日特別部判決(いわゆるピリミジン事件大合議判決)によれば、引用発明の特定に関する技術20 的要素に関して膨大な数の選択肢を有する場合には、特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り、当該刊行物の記載から当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず、これを引用発明と認定することはできないとされている。
25 この点、引用文献4の【0022】、【0023】では、ガスバリア性積層フィルムを構成する基材や加工方法として実に様々なものが開21示されている。数ある基材の樹脂の種類及び製造方法の組み合わせの中から、2軸延伸とポリエステル樹脂の組み合わせを積極的あるいは優先的に選択すべき事情はない。
したがって、本件取消決定引用発明の認定に誤りがある。
5 b 本件取消決定における引用発明の認定に誤りがあるから、引用発明と本件発明の一致点・相違点の認定にも誤りがある。
相違点の容易想到性の判断に誤りがあることについて本件取消決定における引用発明及び本件発明1と引用発明との一致点・相違点の認定を前提としても、相違点の容易想到性の判断には誤りが10 ある。
a 相違点1について引用発明の「2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」のPET樹脂として引用文献5記載のバイオマス由来のポリエチレンテレフタレートを適用する動機付けはない。
15 原出願日当時、カーボンニュートラルという概念は、各用途に求められるPETの性能を犠牲にしてまで達成しなければならない周知の課題あるいは技術常識であると認識されていたものではない。
少なくともポリエステル樹脂に関しては、バイオマス原料に由来する様々な不純物の影響により、従来の化石燃料由来のPETの代用と20 してはその実用化が特に困難と考えられていたというのが技術常識である(特開2008−94884号公報〔以下「甲17文献」という。 、
〕特開2009−209145号公報〔以下「甲18文献」という。 )〕 。
さらに、@引用文献4では、透明性の維持が重要な課題となっているところ、原出願日当時、バイオマス資源由来のエチレングリコールの25 不純物による着色の問題は解消していなかったこと(甲18文献【0006】)、A引用発明においては、基材が2軸延伸ポリエチレンテレフ22タレートフィルムからなるところ、甲17文献の【0008】において、
ポリエステルの成型性に悪影響を及ぼすことが示唆されていること、
B引用発明では、高い耐熱性が求められるところ(【0010】)、国際公開第2013/035559号公報(以下「甲19文献」という。)5 の【0005】によれば、本件優先日当時においても、バイオマスPETにおいて耐熱性の問題が解決できていなかったと考えられること、
C引用発明では、ガスバリア性を重要な課題とするところ、特開2015−36208号公報(以下「甲15文献」という。)の【0007】では、バイオマス由来のポリエステルを用いるとガスバリア性能に著10 しい影響を来たすことが示唆され、また、特開2018−35338号公報(以下「甲21文献」という。)の【0062】では、バイオマス由来のポリエステル樹脂において密度ムラや結晶化度の偏在が生じやすいという課題が存在したことが記載されているところからすると、
引用発明に相違点1の構成を適用するには、阻害要因がある。
15 b 相違点2について本件取消決定は、引用発明の「メタロセン触媒を用いて重合したエチレン−α−オレフイン共重合体のフィルムないしシートからなる」「ヒートシール性樹脂層」を「化石燃料由来の原料を含む樹脂材料からなり、且つ、バイオマス由来の原料を含む樹脂材料を含まない」ものとす20 ることは、引用発明を具体化するにあたり、当業者が適宜になし得たことである旨判断するが、カーボンニュートラルを意識しながらも、第1層のポリエステルのみバイオマス由来の原料を用い、第2層においては、敢えて化石燃料由来の原料を含む樹脂材料からなり、バイオマス由来の原料を含む樹脂材料を含まない態様とすることについて、その論25 理付けがなされていない。
c 顕著な作用効果について23本件明細書の実施例1ないし3においては、本件発明の構成を満たす積層体を用いて、上記バイオマスPETフィルムを従来の化石燃料由来PETフィルムに置き換えて作られたフィルムと対比し、既存のポリエステルフィルムからなる層を有する積層体と比較しても遜色な5 い物性を有することが示されている。
バイオマスポリエステルを用いた場合、不純物の存在により成形加工が困難になり、特に延伸フィルムなどにおいて活用できるような性能を充足することは困難であるという本件優先日当時の技術常識に鑑みれば、上記の効果が、その構成から当業者が予測することができた範10 囲を超えるものであることは明らかといえる。
イ 本件発明2ないし14について本件発明2ないし14はいずれも本件発明1を直接ないし間接的に引用するものであるため、前記アに主張したところは、当然に、本件発明2ないし14の進歩性判断に対しても妥当する。
15 ? 被告の主張ア 本件発明1について引用発明の認定、一致点・相違点の認定に誤りがあるとする点についてa 原告の引用に係るいわゆるピリミジン事件大合議判決は、引用発明20 の特定に関する技術的要素に関して、一般式における少なくとも2000万通り以上ある膨大な選択肢があった事案で、本件とは異なる。
引用文献4の課題(【0011】)、課題解決手段(【0145】)、
ヒートシールに関する記載(【0151】以下。特に【0155】及び【0157】)、実施例の記載(【0174】ないし【0222】)、
25 ガスバリア性積層フィルムを構成する「基材」の説明(【0022】以下。特に【0023】及び【0024】)から、引用文献4には、「ガ24スバリア性積層フィルム、印刷層、ラミネート接着剤層、ヒートシール層」を順次設けた包装袋としての包装用積層材が記載されており、また、基材が2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとする「ガスバリア性積層フィルム」 メタロセン触媒を用いて重合したエチレン−、
5 α−オレフイン共重合体のフィルムないしシートからなる「ヒートシール性樹脂層」が記載されているといえる。
よって、本件取消決定における引用発明の認定に誤りはない。
b 本件取消決定における引用発明の認定に誤りはないから、引用発明と本件発明の一致点・相違点の認定にも誤りはない。
10 相違点の容易想到性の判断に誤りがあるとする点についてa 相違点1について「石油資源の枯渇を抑制し、地球温暖化の原因物質である大気中の二酸化炭素の増加を抑制する手段として、従来のような石油系由来の原料のみからなるポリエチレンテレフタレートに替えて、生物産生の15 バイオマス素材を原料としたポリエチレンテレフタレートを提供すること。 は周知の技術課題であり、
」 当業者がPETを取り扱う際に普通に検討し得るものであるから、引用発明に引用文献5記載事項(バイオマス由来のPET)を用いる動機付けがある。
原告は、引用発明に相違点1の構成を適用するには、阻害要因がある20 旨主張するが、甲18文献はバイオマス由来の原料の問題点が指摘されているものではないし、本件特許の実施例に係るバイオマス由来の原料と引用文献5のバイオマス由来の原料は、いずれも同一の市販品であり(本件明細書【0075】 引用文献5、 【0030】 、
) 耐熱性、
ガスバリア性、密度ムラや結晶化度の偏在等の問題があったとしても、
25 本件特許と同様の実用化は可能であったといえるから、原告の主張は失当である。
25b 相違点2について一般的な課題や周知の技術課題に基づき、引用発明のいずれかの樹脂層をバイオマス由来の原料を用いるものとすることの動機付けは十分に認められるし、いずれかの層をバイオマス由来とすることで、製品5 としてのバイオマス化が達成できることを踏まえると、引用発明の2層の樹脂層のうち、一層のみをバイオマス由来のものとし、他の層を従来からの石油燃料由来のものとすることは、当業者が容易に成し得た設計事項である。
c 顕著な作用効果について10 引用文献5の実施例におけるバイオマス由来の原料は、本件特許の実施例におけるバイオマス由来の原料と同一の市販品であるところ、
本件発明が奏する作用・効果は、引用発明及び引用文献5記載事項から当業者が予測し得た範囲内のものである。
イ 本件発明2ないし14について15 本件発明1の進歩性についての本件取消決定の判断に誤りはなく、本件発明2ないし14の進歩性についての本件取消決定の判断にも誤りはない。
3 取消事由3(手続違背)? 原告の主張ア 特許庁は、特許異議申立に係る手続の詳細について、同庁のウェブペー20 ジにおいて、「特許異議の申立てのフロー図(詳細版)」を示して公表しており(甲22)、異議申立においては、通常、最初の取消理由通知と決定の予告で最低でも2回の意見書、訂正請求書を提出する機会が与えられる実務が確立している。そして、上記フローチャートによれば、決定の予告がなされるのは、あくまでも最初の取消理由通知において指摘された取消理由25 が解消されない場合のみであって、最初に通知された取消理由とは全く異なる理由で決定の予告がなされることは想定されていない。また、行政手26続法12条1項及び2項から、特に一度付与された特許権を取り消すような不利益な処分をする場合には、特段の事情がない限り、自ら公表した手続に反して特許権者に不利な手続を行い得ない。
本件における決定の予告(甲5)は、主引用例自体が全く異なる新たな取5 消理由を指摘するものであるから、上記のフローチャートにおける通知した取消理由により特許を取り消せると判断できない場合に該当する。
仮に新たに取消理由を通知される場合であっても、決定の予告ではない最初の取消理由通知がなされるべきである。
以上からみて、新たな取消理由のみに基づき決定の予告を行った点は審10 判官としての裁量を著しく逸脱した手続であり、決定の結論に影響する。
イ 新たな取消理由のみに基づいて決定の予告を行うことが許されるとしても、その特殊事情に鑑み、新たな決定の予告を行うことにより、意見書、訂正請求書提出の機会を担保する必要があった。本件ではこのような手続もとられていない。
15 ? 被告の主張ア 特許法120条の5からみて、同法において、同じ取消理由を「取消理由通知」と、それに続く「決定の予告である取消理由通知」と2回通知しなければならないことは規定されていない。
行政手続法12条は、特許法195条の3により、特許法に基づく処分20 には適用されない。
特許庁の審判便覧により、特許異議申立においては、2回目の取消理由通知が、原則、「決定の予告」となることは周知されている。
イ 取消理由通知が「決定の予告である取消理由通知」であったとしても、特許法上、単なる「取消理由通知」と区別はなく、いずれの場合であっても、
25 意見書を提出する機会があり、訂正可能な範囲も同じであるから、引用文献4を主引用例とする取消理由通知を2回通知しなかったことは、特許法27120条の5第1項の規定に違反しない。
28(別紙2)【技術分野】【0001】本発明は、植物由来の原料から得られたバイオマスポリエステル樹脂組成物から5 なる層を有する積層体に関し、より詳細には、バイオマス由来のエチレングリコールをジオール成分として用いたポリエステルを含む樹脂組成物からなる第1の層を有する積層体に関する。
【背景技術】【0003】10 近年、循環型社会の構築を求める声の高まりとともに、材料分野においてもエネルギーと同様に化石燃料からの脱却が望まれており、バイオマスの利用が注目されている。バイオマスは、二酸化炭素と水から光合成された有機化合物であり、それを利用することにより、再度二酸化炭素と水になる、いわゆるカーボンニュートラルな再生可能エネルギーである。昨今、これらバイオマスを原料としたバイオマスプ15 ラスチックの実用化が急速に進んでおり、汎用高分子材料であるポリエステルをこれらバイオマス原料から製造する試みも行われている。
発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0007】20 本発明者らは、ポリエステルの原料であるエチレングリコールに着目し、従来の化石燃料から得られるエチレングリコールに代えて、植物由来のエチレングリコールをその原料としたポリエステルは、従来の化石燃料から得られるエチレングリコールを用いて製造されたポリエステルと、機械的特性等の物性面で遜色ないものが得られるとの知見を得た。さらに、このようなバイオマス由来のポリエステルから25 なる層を有する積層体も、従来の化石燃料から得られる原料からなる積層体と、機械的特性等の物性面で遜色ないものが得られるとの知見を得た。本発明はかかる知29見によるものである。
【0008】したがって、本発明の目的は、バイオマスエチレングリコールを用いたカーボンニュートラルなポリエステルを含む樹脂組成物からなる層を有する積層体を提供す5 ることであって、従来の化石燃料から得られる原料から製造された積層体と機械的特性等の物性面で遜色ないポリエステル樹脂フィルムの積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】【0009】10 本発明による積層体は、少なくとも2層を有するものであって、
第1の層が、2軸延伸樹脂フィルムからなり、前記2軸延伸樹脂フィルムを構成する樹脂組成物が、ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを主成分として含み、前記ポリエステルが、前記ジオール単位がバイオマス由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸であ15 るバイオマス由来のポリエステルと、前記ジオール単位が化石燃料由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸である化石燃料由来のポリエステルとを含んでなり、前記2軸延伸樹脂フィルム中に前記バイオマス由来のポリエステルが90質量%以下含まれ、
第2の層が、化石燃料由来の原料を含む樹脂材料からなり、且つ、バイオマス由来20 の原料を含む樹脂材料を含まないことを特徴とするものである。
【発明の効果】【0020】本発明によれば、少なくとも2層を有する積層体において、第1の層が、2軸延伸樹脂フィルムからなり、前記2軸延伸樹脂フィルムを構成する樹脂組成物が、ジオ25 ール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを含み、前記ポリエステルが、
前記ジオール単位がバイオマス由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン30酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸であるバイオマス由来のポリエステルと、前記ジオール単位が化石燃料由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸である化石燃料由来のポリエステルとを含んでなり、前記2軸延伸樹脂フィルム中に前記バイオマス由来のポリエステルが90質5 量%以下含まれることで、カーボンニュートラルな樹脂からなる層を有する積層体を実現できる。したがって、従来に比べて化石燃料の使用量を大幅に削減することができ、環境負荷を減らすことができる。また、本発明のポリエステル樹脂組成物の積層体は、従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリエステル樹脂組成物の積層体と比べて、機械的特性等の物性面で遜色がないポリエステル樹脂組成物10 を用いているため、従来のポリエステル樹脂組成物の積層体を代替することができる。
31
事実及び理由
全容