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事件 令和 2年 (ワ) 13626号 特許権侵害差止請求事件
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原告 アルファ・ラバル・コーポレイト ・アクチエボラグ
同訴訟代理人弁護士 松田政行 山崎貴啓 10 吉川武志
被告三菱化工機株式会社
同訴訟代理人弁護士 池田裕彦 重冨貴光 岩崎翔太 15 長谷部陽平 鷲見健人 大谷郁夫
同訴訟代理人弁理士 町田能章
同 補佐人弁理士松島純也 20 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 25 第1 請求 1 被告は、別紙製品目録記載の各水処理システムを製造し、譲渡し、輸出し、 1及びその譲渡の申出をしてはならない。 2 被告は、別紙製品目録記載の各水処理システムを廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、1000万円並びにうち500万円に対する令和2年 6月2日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち500万円に対す 5 る同日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、発明の名称を「ガススクラバー流体のための浄化設備」とする特許 第5784719号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下 10 「本件特許権」という。)の特許権者である原告が、被告に対し、別紙製品目 録記載の各水処理システム(以下、同目録記載1の水処理システムを「被告製 品1」、同目録記載2の水処理システムを「被告製品2」などといい、被告製 品1ないし3を併せて「被告各製品」という。)が本件特許の特許請求の範囲 の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属し、被 15 告による被告各製品の製造、譲渡、輸出及び譲渡の申出が本件特許権の侵害に 該当すると主張して、特許法100条1項に基づき、被告各製品の譲渡等の差 止めを、同条2項に基づき、被告各製品の廃棄をそれぞれ求め、民法709条 に基づき、一部請求として1000万円(令和2年3月31日までの損害とし て500万円及び同年4月1日以降の損害として500万円)並びにうち50 20 0万円に対する本件訴訟提起日である令和2年6月2日から支払済みまで民法 (平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅 延損害金及びうち500万円に対する同日から支払済みまで民法所定の年3パ ーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に 25 より容易に認められる事実) (1) 当事者 2ア 原告は、熱交換、分離及び流体移送に関する機器の製造販売を業とする スウェーデン王国法人である。 イ 被告は、大気汚染防止装置及び水処理装置の製造、販売及び輸出入を業 とする株式会社である。 5 (2)本件特許 ア 原告は、平成23年6月15日、本件特許に係る特許出願(特願201 3−517151号、優先日平成22年7月2日、優先権主張国欧州特許 庁)をし、平成27年7月31日、本件特許権の設定の登録(請求項の数 17)を受けた(以下、同特許出願の願書に添付した明細書及び図面を併 10 せて「本件明細書」という。また、特許請求の範囲の請求項を【請求項1】 などと、明細書の発明の詳細な説明中の段落番号を【0001】などと、 図面を【図1】などと、それぞれ記載する。)。 イ 平成28年3月23日、本件特許に対し、特許異議の申立て(異議20 16−700241号。以下「本件異議申立事件」という。)がされたと 15 ころ、原告は、同年9月8日、本件特許の特許請求の範囲(一群の請求項 である【請求項1】ないし【請求項17】)の訂正(以下「本件訂正」と いう。)を請求し、特許庁は、平成29年3月13日、本件訂正の請求を 認め、本件特許を維持する旨の決定をし、同決定は同月27日に確定した (甲3、乙48)。 20 (3) 本件発明に係る特許請求の範囲 本件特許の本件訂正後の【請求項1】の記載は、以下のとおりである(下 線部は本件訂正に係る部分である。以下同じ。)。 排出ガススクラバー流体ループ(9)からの汚染されたスクラバー流体の ための浄化設備であり、 25 前記スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバー流体の一部を 抜き取り、それにより、汚染されたスクラバー流体の前記一部を処分のため 3にスクラバー流体ループから取り除くための手段と、 前記汚染されたスクラバー流体の前記一部から少なくとも汚染物質相と浄 化されたスクラバー流体を分離するためのディスクスタック遠心分離機(1 2,12’)を備えており、その分離機は、分離ディスク(15,15’) 5 のスタックを備えた分離空間(14,14’)を取り囲んでいるローター (13,13’)と、前記分離空間の中へ延びている前記汚染されたスクラ バー流体の前記一部のための分離機入口(11,11’)と、前記分離空間 から延びている浄化されたスクラバー流体のための第一の分離機出口(16, 16’)と、前記分離空間から延びている前記汚染物質相のための第二の分 10 離機出口(17,17’)を備えており、さらに、 前記汚染されたスクラバー流体の前記一部を前記分離機入口に案内するた めの手段と、 前記浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出口から環境に放出す るための手段と、 15 前記汚染物質相を前記第二の分離機出口から回収するための手段を備えて いる浄化設備。 (4) 本件発明の構成要件の分説 本件発明は、以下の構成要件に分説することができる(以下、各構成要件 につき、頭書の記号に従って「構成要件A」などという。)。 20 A 排出ガススクラバー流体ループ(9)からの汚染されたスクラバ ー流体のための浄化設備であり、 B 前記スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバー流体の 一部を抜き取り、それにより、汚染されたスクラバー流体の前記一部 を処分のためにスクラバー流体ループから取り除くための手段と、 25 C 前記汚染されたスクラバー流体の前記一部から少なくとも汚染物質 相と浄化されたスクラバー流体を分離するためのディスクスタック遠 4心分離機(12,12’)を備えており、 D1 その分離機は、分離ディスク(15,15’)のスタックを備えた 分離空間(14,14’)を取り囲んでいるローター(13,13’) と、 5 D2前記分離空間の中へ延びている前記汚染されたスクラバー流体の前 記一部のための分離機入口(11,11’)と、 D3 前記分離空間から延びている浄化されたスクラバー流体のための第 一の分離機出口(16,16’)と、 D4 前記分離空間から延びている前記汚染物質相のための第二の分離機 10 出口(17,17’)を備えており、 E さらに、前記汚染されたスクラバー流体の前記一部を前記分離機入 口に案内するための手段と、 F 前記浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出口から環境に 放出するための手段と、 15 G 前記汚染物質相を前記第二の分離機出口から回収するための手段を 備えている H 浄化設備。 (5) 被告による製品の販売及び当該製品の構成要件充足性 ア 被告は、「ONZ」を含む商品名で販売されるEGR(=Exhaus 20 t GasRecirculation)ユニット用水処理システム (以下「被告製品シリーズ」という。)を製造販売している(弁論の全趣 旨)。 また、被告は、平成29年4月頃から、被告製品シリーズの一例である
被告製品1の譲渡の申出を行い、同年10月頃から、被告製品1を製造し、 25 販売している(弁論の全趣旨)。 イ 被告各製品は、構成要件D1及びD4を充足する。 53 争点 (1) 被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1) (2) 被告各製品について間接侵害が成立するか(争点2) (3) 損害の発生及びその額(争点3) 5 (4)差止め等の必要性(争点4) 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について (原告の主張) ア 被告各製品の構成 10 (ア) 被告製品1(主位的主張)及び被告製品2の構成
被告は、被告製品1を製造販売していることを認めながら、その構成 を具体的に立証しないから、主位的に、被告製品1は、別紙製品目録記 載2の図の赤線枠内のとおりであり、以下の構成を有していると主張す る。また、被告製品2の構成は、被告製品1(主位的主張)の構成と同 15 一である。 1a 排ガス再循環ユニットに噴霧される噴霧水の循環からの、汚 染された噴霧水のための浄化設備であり、 1b 前記噴霧水の循環から汚染された噴霧水の一部を処分のため に噴霧水の循環から取り除くための手段と、 20 1c 前記汚染された噴霧水の前記一部から少なくとも汚水と浄化 された噴霧水を分離するためのディスク型遠心分離機を備えて おり、 1d1 その分離機は、積み重ねた分離板を備えた空間を取り囲んで いるローターと、 25 1d2 前記空間の中へ延びている前記汚染された噴霧水の前記一部 のための分離機入口と、 61d3 前記空間から延びている浄化された噴霧水のための第一の分 離機出口と、 1d4 前記空間から延びている汚水のための第二の分離機出口を備 えており、 5 1eさらに、前記汚染された噴霧水の前記一部を前記分離機入口 に案内するための手段と、 1f 前記浄化された噴霧水を前記第一の分離機出口から環境に放 出するための手段と、 1g 前記汚水を前記第二の分離機出口から回収するための手段を 10 備えている、 1h 浄化設備。 (イ) 被告製品1(予備的主張)及び被告製品3の構成 前記(ア)のとおり、被告は、被告製品1の構成を具体的に立証しないか ら、予備的に、被告製品1は、別紙製品目録記載3の図の「WTS」と 15 して指示される点線枠内のとおりであり(ただし、それ自体にバッファ タンクを備えないものを含む。)、以下の構成を有していると主張する。 また、被告製品3の構成は、被告製品1(予備的主張)の構成と同一で ある。 2a 排ガス再循環ユニットに噴霧される噴霧水の循環からの、汚 20 染された噴霧水のための浄化設備であり、 2b 前記噴霧水の循環から汚染された噴霧水の一部をWTSポン プに流出させ、それにより、汚染された噴霧水の前記一部を処 分のために噴霧水の循環から取り除くためのWTSポンプ及び 配管と、 25 2c 前記汚染された噴霧水の前記一部から少なくとも汚水と浄化 された噴霧水を分離するためのディスク型遠心分離機を備えて 7おり、 2d1 その分離機は、積み重ねた分離板を備えた空間を取り囲んで いるローターと、 2d2 前記空間の中へ延びている前記汚染された噴霧水の前記一部 5 のための分離機入口と、 2d3 前記空間から延びている浄化された噴霧水のための第1の分 離機出口と、 2d4 前記空間から延びている汚水のための第1の分離機出口を備 えており、 10 2e さらに、前記汚染された噴霧水の前記一部を前記分離機入口 に案内するための配管と、 2f 前記浄化された噴霧水の循環を前記第一の分離機出口から環 境に放出するための配管及び三方弁と、 2g 前記汚水を前記第二の分離機出口から回収するための配管を 15 備えている、 2h 浄化設備。 イ 被告各製品の構成要件充足性 (ア) 被告製品1(主位的主張)及び被告製品2の構成要件充足性 a 構成要件Aについて 20 被告製品1(主位的主張)の排ガス再循環ユニットは、水の噴霧に よる排ガス浄化装置であるから、排出ガスのスクラバー(洗浄塔)、 特に湿式スクラバーに包含される。そして、上記噴霧水は「スクラバ ー流体」に、その循環は「スクラバー流体ループ」にそれぞれ該当す る。 25 したがって、被告製品1(主位的主張)の構成1aは、構成要件A を充足する。 8b 構成要件Bについて
被告製品1(主位的主張)において、一旦、噴霧水の循環から取り 除かれた噴霧水は、噴霧水の循環経路に戻ることはないから、「スク ラバー流体の一部を抜き取り」に該当する。 5 したがって、被告製品1(主位的主張)の構成1bは、構成要件B を充足する。 c 構成要件Cについて
被告製品1(主位的主張)において、分離機の生成する汚水は、少 なくとも窒素酸化物、硫黄酸化物及び粉塵(無希硫酸塩を含む。)を 10 含むものであるところ、周知の経験則として、船舶等のディーゼルエ ンジンの生み出す窒素酸化物、硫黄酸化物及び粉塵(無希硫酸塩を含 む。)は、大気汚染、建築物腐食、健康被害等をもたらす汚染物質で あるから、上記汚水は「汚染物質相」に該当する。また、ディスク型 遠心分離機は、ディスク形状の分離板を積み重ねたものであるから、 15 「ディスクスタック遠心分離機」に該当する。 したがって、被告製品1(主位的主張)の構成1cは、構成要件C を充足する。 d 構成要件D2、D3及びEないしHについて
被告製品1(主位的主張)の構成1d2、1d3及び1eないし1 20 hが構成要件D2、D3及びEないしHをそれぞれ充足することは明 らかである。 e 小括 以上に加えて、前記前提事実(5)イのとおり、被告製品1(主位的主 張)は構成要件D1及びD4を充足するから、被告製品1(主位的主 25 張)は、本件発明の技術的範囲に属する。 また、被告製品2も、同様に本件発明の技術的範囲に属する。 9(イ) 被告製品1(予備的主張)及び被告製品3の構成要件充足性 a 構成要件Aについて
被告製品1(予備的主張)の排ガス再循環ユニットは、水の噴霧に よる排ガス浄化装置であるから、排出ガスのスクラバー(洗浄塔)、 5 特に湿式スクラバーに包含される。そして、上記噴霧水は「スクラバ ー流体」に、その循環は「スクラバー流体ループ」にそれぞれ該当す る。 したがって、被告製品1(予備的主張)の構成2aは、構成要件A を充足する。 10 b 構成要件Bについて
被告製品1(予備的主張)において、WTSポンプを経由した噴霧 水は、噴霧水の排ガス再循環ユニットへの循環経路に戻ることはない から、「スクラバー流体の一部を抜き取り」に該当する。 したがって、被告製品1(予備的主張)の構成2bは、構成要件B 15 を充足する。 c 構成要件Cについて
被告製品1(予備的主張)において、分離機の生成する汚水は、少 なくとも窒素酸化物、硫黄酸化物及び粉塵(無希硫酸塩を含む。)を 含むものであるところ、周知の経験則として、船舶等のディーゼルエ 20 ンジンの生み出す窒素酸化物、硫黄酸化物及び粉塵(無希硫酸塩を含 む。)は、大気汚染、建築物腐食、健康被害等をもたらす汚染物質で あるから、上記汚水は「汚染物質相」に該当する。また、ディスク型 遠心分離機は、ディスク形状の分離板を積み重ねたものであるから、 「ディスクスタック遠心分離機」に該当する。 25 したがって、被告製品1(予備的主張)の構成2cは、構成要件C を充足する。 10 d 構成要件D2、D3及びEないしHについて
被告製品1(予備的主張)の構成2d2、2d3及び2eないし2 hが構成要件D2、D3及びEないしHをそれぞれ充足することは明 らかである。 5e 小括 以上に加えて、前記前提事実(5)イのとおり、被告製品1(予備的主 張)は構成要件D1及びD4を充足するから、被告製品1(予備的主 張)は、本件発明の技術的範囲に属する。 また、被告製品3も、同様に本件発明の技術的範囲に属する。 10 ウ 被告の主張に対する反論 (ア) 構成要件Bについて a 被告は、被告製品シリーズのうち水処理システムポンプを有し、バ ッファタンクを有しないもの(以下「被告製品例1」という。)が、 排出ガススクラバー流体ループに接続されることはなく、同ループか 15 ら分離されており、船内設備により処理されて運ばれてきた汚染され たスクラバー流体を受け取るものであるから、「スクラバー流体ルー プ(9)から汚染されたスクラバー流体の一部を抜き取り…ための手 段」(構成要件B)を備えないと主張する。 しかし、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2について、バッ 20 ファタンクからオーバーフロー管でつながるEGR排水タンクに分離 機へ向かう配管を接続することにより、バッファタンクから汚染され た噴霧水を引き込むことになるところ、水処理システムポンプの引き 込みによって、初めてEGR排水タンク内の圧力がオーバーフローを 可能にするから、水処理システムポンプが噴霧水のループから汚染さ 25 れた噴霧水の一部を抜き取ることになる。 b 被告は、被告製品シリーズのうち水処理システムポンプ及びバッフ 11 ァタンクを有するもの(以下「被告製品例2」という。)において、 浄化されたスクラバー流体の戻し先はバッファタンクであるから、被 告製品例2は「スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバ ー流体の一部を…スクラバー流体ループから取り除くための手段」 5 (構成要件B)を備えないと主張する。 しかし、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2については、分 離機による浄化済みの噴霧水は、環境にブリードオフされない場合で も、バッファタンクには戻らず、噴霧水のループから切り離されたE GR排水タンクに戻ることになる。 10 また、被告製品1(予備的主張)及び被告製品3については、別紙 製品目録記載3の図のとおり、WTS中のバッファタンクへ還流する 経路とブリードオフ(船外環境への排出)の経路との分岐点に、一方 の孔から入ってきた流体を二方向のいずれか一方に排出することがで きる三方弁が存在するところ、この三方弁がブリードオフの経路に向 15 けて設定された状態では、分離機で処理後の噴霧水をバッファタンク に還流させることはない。 したがって、被告の上記主張は理由がない。 (イ) 構成要件Fについて a 被告は、「浄化されたスクラバー流体を…環境に放出するための手 20 段」(構成要件F)とは、「浄化されたスクラバー流体」を海に放出 (排水)するための手段を意味するところ、被告製品シリーズのうち
被告製品例1及び2は、浄化されたスクラバー流体を船外排水設備に 案内するまでの配管を備えるにとどまると主張する。 しかし、構成要件Fは、「環境に放出する手段」ではなく、「環境 25 に放出するための手段」であるから、ブリードオフタンクや船外排出 口バルブ等の船外排水設備に限定されるものではなく、これらの船外 12 排水設備に案内するための配管も「環境に放出するための手段」とい える。 また、本件訂正により「環境に」との文言を加えた趣旨は、分離機 で浄化したスクラバー流体をスクラバー流体ループに戻さないことを 5 裏から規定するためであったにすぎず、そのことは、原告が、本件異 議申立事件において、「本発明は、…除去後の液体をループに戻すも のではありません。このことを明確にするために、…あわせて、「前 記浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出口から環境に放出 するための手段と、」特定することで、浄化されたスクラバー流体は 10 環境に放出されるものであること…を特定しています。」と説明した ことからも明らかである。 さらに、本件明細書には、「浄化設備はさらに、汚染されたスクラ バー流体の前記一部を分離機入口に案内するための手段と、浄化され たスクラバー流体を第一の分離機出口から放出するための手段と、汚 15 染物質相を第二の分離機出口から回収するため手段を備えている。汚 染されたおよび浄化されたスクラバー流体と汚染物質相を案内するた めの手段は、コンジット、パイプ、チューブ、タンク、ポンプ、バル ブ、同様物を備えていてよい。」(【0013】)との記載があり、 「浄化されたスクラバー流体を第一の分離機出口から放出するための 20 手段」は、パイプ、チューブ、バルブ等を備える「汚染されたおよび 浄化されたスクラバー流体と汚染物質相を案内するための手段」であ るといえる。 したがって、「浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出口 から環境に放出するための手段」(構成要件F)とは、第一の分離機 25 出口に接続するパイプ、チューブ等の配管又はバルブで足りるから、
被告の上記主張は理由がない。 13 b 被告は、「第一の分離機出口から環境に放出するための手段」(構 成要件F)とは、浄化されたスクラバー流体が、ディスクスタック遠 心分離機(の第1の分離機出口)から、更なる処理を行うことなく船 外排水設備(環境に放出するための手段)に送られ、環境(海)に放 5 出される構成を意味するところ、被告製品例1及び2では、「分離機」 による分離後に更に「フィルタ」により油分等を除去して、初めて 「浄化されたスクラバー流体」が生成されることになると主張する。 しかし、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には、浄化され たスクラバー流体を更に処理することなく、海に放出することを要す 10 るとの記載はなく、本件異議申立事件の審理経過においても、原告は、 そのような主張を行っていない。 また、原告は、本件訂正により、本件特許の【請求項1】の従属項 である【請求項10】を訂正するに当たり、浄化されたスクラバー流 体の品質が所定レベルより低い場合、浄化されたスクラバー流体を分 15 離機入口に戻す構成を維持しているから、本件発明は、分離機での浄 化処理後、環境への放出前に、更に浄化処理を行う態様を予定してい るといえる。 さらに、本件明細書には、「したがって、浄化設備は、フィルター または他の処理ステップについて同じ必要がなく」(【0014】) 20 との記載があるが、これは、「フィルターまたは他の処理ステップに ついて」、「油粒子などのスクラバー流体中のより軽量な液状有機残 留物」(同)を分離する作業が独立して必要ないということをいうに すぎず、「フィルターまたは他の処理ステップ」が完全に不要である とか、これらと両立しないことを述べるものではない。現に、同じ段 25 落において、「ディスクスタック遠心分離機をスクラバー流体に適用 することによって、汚染物質相の大部分が濃縮形態で取り除かれ得る」 14 との記載があり、裏を返せば、ディスクスタック遠心分離機によって も分離し得ない汚染物質相が残存し得るということであるから、その 場合に補助的にフィルタ等による分離を行うことは排除されない。 したがって、被告の上記主張は理由がない。 5 (ウ)構成要件Gについて
被告は、「汚染物質相を前記第二の分離機出口から回収するための手 段」(構成要件G)とは、「汚染物質相」を「回収するための」機器・ 設備を意味し、被告製品例1及び2のような水処理装置(水処理をする ための装置)は「回収するための手段」には該当せず、また、被告製品 10 例1及び2は、本件明細書記載の「貯蔵タンク」(【0035】)等の 「汚染物質相」を「回収するための」機器・設備を備えていないと主張 する。 しかし、被告各製品は、別紙製品目録記載2及び3の各図のとおり、 分離機の第二の出口とEGR汚水タンクを接続する配管の一部を少なく 15 とも含むところ、この一部は、「汚染物質相を前記第二の分離機出口か ら回収するための手段」に該当する。 また、被告各製品の遠心分離機は、被告が製造販売する、船舶用油の 清浄に用いるディスクスタック型遠心分離機SJ−Gシリーズ又はその 後継機であるSJ−Hシリーズと考えられるところ、これらはスラッジ 20 (汚水又は汚泥)自動排出機構を備えているから、上記遠心分離機は同 機構に対応する汚水自動排出機構を備えているといえる。そして、この ような汚水自動排出機構は、汚染物質相をEGR汚水タンクに送り込む ためのものであるから、「汚染物質相を前記第二の分離機出口から回収 するための手段」といえる。 25 仮に、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2の遠心分離機が上記 汚水自動排出機構を内蔵していないとしても、遠心分離機内にスラッジ 15 が過剰に蓄積することを防止するため、これらを浄化された噴霧水とは 別の分離機出口から放出するためのポンプを分離機外に設置する必要が あり、このポンプは、「汚染物質相を前記第二の分離機出口から回収す るための手段」に該当する。 5 したがって、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2は「汚染物質 相を前記第二の分離機出口から回収するための手段」を備えるから、被 告の上記主張は理由がない。 (被告の主張) ア 被告製品シリーズの構成 10 (ア) 被告製品シリーズは、船の構成の一部である別紙製品目録記載2及び 3の各図のような配水・水処理システム内で用いられる水処理装置であ り、分離機、フィルタ、モニタ及びこれらをつなぐ配管からなり、水処 理システムポンプ及びバッファタンクが含まれることがある。また、被 告は、水処理装置とは直接関係しないが、EGRユニットに配水するた 15 めの処理水供給ポンプを提供することもある。
原告が主張する被告各製品の構成は、具体的かつ合理的に特定されて いない。また、被告製品シリーズには様々なものがあり、別紙製品目録 記載2及び3の各図のような特定の構成の配水・水処理システムを前提 とするものではないし、同目録記載2の(1)及び(2)並びに同目録記載3 20 の(1)及び(2)の各特徴を有しない。 (イ) 被告製品シリーズのうち水処理システムポンプを有し、バッファタン クを有しない被告製品例1の構成を原告主張の構成に対応する形で分説 すると、以下のとおりとなる。 1a’ 排出ガススクラバー流体ループからの汚染されたスクラバー 25 流体のための水処理装置であり、 1b’ 【存在しない】 16 1c’ 汚染されたスクラバー流体から主に固形微粒子の大部分と遠 心分離後のスクラバー流体(油分等を含む)を分離するための 「分離機」を備えており、 1d1’ 「分離機」は、分離ディスクのスタックを備えた分離空間を 5 取り囲んでいるローターと、 1d2’ 分離空間の中へ延びている汚染されたスクラバー流体のため の「分離機」入口と、 1d3’ 分離空間から延びている遠心分離後のスクラバー流体のため の第一の「分離機」出口と、 10 1d4’ 分離空間から延びている固形微粒子のための第二の「分離機」 出口を備えており、 1e’ さらに、汚染されたスクラバー流体を「分離機」入口に案内 するための「水処理システムポンプ」と、 1f’ 遠心分離後のスクラバー流体を第一の「分離機」出口から 15 「フィルタ」に案内し、「フィルタ」により油分等を除去され た浄化されたスクラバー流体を「モニタ」に案内するための配 管と、「モニタ」により一定以上の品質レベルを満たすと判定 された浄化されたスクラバー流体を船外排水設備に案内するた めの配管に接続する配管と、一定以上の品質レベルを満たさな 20 いと判定された浄化されたスクラバー流体を「分離機」入口よ りも前に位置するタンクに戻す配管に接続する配管を備えてい る、 1g’ 【存在しない】 1h’ 水処理装置。 25 (ウ) また、被告製品シリーズのうち水処理システムポンプ及びバッファタ ンクを有する被告製品例2の構成を原告主張の構成に対応する形で分説 17 すると、以下のとおりとなる。 2a’ 排出ガススクラバー流体ループからの汚染されたスクラバー 流体及び浄化されたスクラバー流体の混合流体のための水処理 装置であり、 5 2b’汚染されたスクラバー流体及び浄化されたスクラバー流体の 混合流体が貯留された「バッファタンク」から、混合流体の一 部を引き抜く「水処理システムポンプ」と、 2c’ 混合流体から主に固形微粒子の大部分と遠心分離後のスクラ バー流体(油分等を含む)を分離するための「分離機」を備え 10 ており、 2d1’ 「分離機」は、分離ディスクのスタックを備えた分離空間を 取り囲んでいるローターと、 2d2’ 分離空間の中へ延びている混合流体のための「分離機」入口 と、 15 2d3’ 分離空間から延びている遠心分離後のスクラバー流体のため の第一の「分離機」出口と、 2d4’ 分離空間から延びている固形微粒子のための第二の「分離機」 出口を備えており、 2e’ さらに、混合流体を「分離機」入口に案内するための「水処 20 理システムポンプ」と、 2f’ 遠心分離後のスクラバー流体を第一の「分離機」出口から 「フィルタ」に案内し、「フィルタ」により油分等を除去され た浄化されたスクラバー流体を「モニタ」に案内するための配 管と、「モニタ」により一定以上の品質レベルを満たすと判定 25 された浄化されたスクラバー流体を船外排水設備に案内するた めの配管に接続する配管と、一定以上の品質レベルを満たさな 18 いと判定された浄化されたスクラバー流体を「バッファタンク」 に戻す配管を備えている、 2g’ 【存在しない】 2h’ 水処理装置。 5イ 被告製品シリーズの構成要件充足性 (ア) 被告製品例1の構成要件充足性 a 構成要件Aについて (a) 本件発明は、「排出ガススクラバー流体ループ(9)からの汚染 されたスクラバー流体のための浄化設備」(構成要件A)に関する 10 発明であり、配水・水処理システム全体に係る発明である。本件明 細書においても、「浄化設備」は、配水・水処理システム全体を表 す用語として用いられている(【0033】、【図1】ないし【図 5】)。 しかし、被告製品例1は、配水・水処理システム全体を構成する 15 ものではなく、その一部の水処理装置(構成1a’)であるから、 「浄化設備」ではない。 (b) また、被告製品例1が遠心分離機及びフィルタによる処理後のス クラバー流体の全部又は一部をスクラバー流体ループに還流させる 構成を有する場合、このような被告製品例1が組み込まれた配水・ 20 水処理システムは、処理後のスクラバー流体(浄化されたスクラバ ー流体)をスクラバー流体ループに戻すことにより、スクラバー流 体ループ中のスクラバー流体と混合させて混合流体全体に占める汚 染物質相の割合を低下させ、当該混合流体を遠心分離機及びフィル タにより更に処理することにより、環境基準に適合する浄化された 25 スクラバー流体を生成するという技術思想に基づいたものとなる。 したがって、仮に被告製品例1が「浄化設備」に該当するとして 19 も、「汚染されたスクラバー流体のための浄化設備」(構成要件A) には該当しない。 (c) 以上のとおり、被告製品例1は、構成要件Aを充足しない。 b 構成要件Bについて 5 「スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバー流体の一 部を抜き取」(構成要件B)るとは、特許請求の範囲の記載の文言ど おり、「スクラバー流体ループ(9)」と接続し、この「ループ」か ら「汚染されたスクラバー流体の一部を抜き取」ることを意味する。 また、本件明細書には「浄化設備は、汚染されたスクラバー流体の一 10 部をスクラバー流体ループから抜き取るための、スクラバー流体ルー プ9の下流でスクラバー出口4に接続されたチューブを備えている。」 (【0035】)と記載され、「スクラバー流体ループ9の下流でス クラバー出口4に接続されたチューブ」が「スクラバー流体ループ (9)から汚染されたスクラバー流体の一部を抜き取り…ための手段」 15 (構成要件B)であることが明記されている。 しかし、被告製品例1は、排出ガススクラバー流体ループから分 離され、船内設備(チューブ、配管、タンク等)により処理されて 運ばれてきた汚染されたスクラバー流体を、船内設備から受け取っ た後、分離機及びフィルタにより、固形微粒子、油分等を除去し、 20 浄化されたスクラバー流体とする水処理装置である。 したがって、被告製品例1は、「スクラバー流体ループ(9)か ら汚染されたスクラバー流体の一部を抜き取り…ための手段」の構 成を備えないから、構成要件Bを充足しない。 c 構成要件Cについて 25 (a) 本件発明は、「汚染物質相と浄化されたスクラバー流体を分離す るためのディスクスタック遠心分離機」(構成要件C)を備えるこ 20 とを要する発明である。 しかし、被告製品例1において、「分離機」は、汚染されたスク ラバー流体から主に固形微粒子の大部分と遠心分離後のスクラバー 流体(油分等を含む)を分離するにとどまり、「汚染物質相」と 5 「浄化されたスクラバー流体」の分離は行わず、「分離機」による 分離後に「フィルタ」により油分等を更に除去して(構成1f’)、 初めて「浄化されたスクラバー流体」が生成されることになる。 したがって、被告製品例1は「汚染物質相と浄化されたスクラバ ー流体を分離するためのディスクスタック遠心分離機」を備えない。 10 (b) また、前記a(b)と同様の理由により、被告製品例1は、「前記汚 染されたスクラバー流体の前記一部から」という構成を備えない。 (c) 以上のとおり、被告製品例1は、構成要件Cを充足しない。 d 構成要件D2について 前記a(b)と同様の理由により、被告製品例1は、「前記汚染された 15 スクラバー流体の前記一部のための」(構成要件D2)という構成を 備えない。 したがって、被告製品例1は、構成要件D2を充足しない。 e 構成要件D3について 本件発明は、「浄化されたスクラバー流体のための第一の分離機出 20 口」(構成要件D3)を備えることを要する発明である。 しかし、被告製品例1において、第一の「分離機」出口から放出さ れるのは、「フィルタ」による濾過前の遠心分離後のスクラバー流体 であり(構成1d3’及び1f’)、「浄化されたスクラバー流体」 (構成要件D3)ではない。 25 したがって、被告製品例1は、「分離空間から延びている浄化され たスクラバー流体のための第一の分離機出口」を備えないから、構成 21 要件D3を充足しない。 f 構成要件Eについて 前記a(b)と同様の理由により、被告製品例1は、「前記汚染された スクラバー流体の前記一部を前記分離機入口に案内するための」(構 5 成要件E)という構成を備えないから、構成要件Eを充足しない。 g 構成要件Fについて (a) 本件明細書には「浄化されたスクラバー流体は、環境すなわち海 へ放出され」(【0029】)と記載されており、本件発明におい て「環境」とは「海」を意味するから、「浄化されたスクラバー流 10 体を…環境に放出するための手段」(構成要件F)とは、「浄化さ れたスクラバー流体」を海に放出(排水)するための手段を意味す る。具体的には、スクラバー流体の海への排出をコントロールする 船外排水設備(ブリードオフタンク、船内配管、船外排出口バルブ、 リミットスイッチ付きバルブ等)がこれに該当する。そして、この 15 「浄化されたスクラバー流体を…環境に放出するための手段」は、 水処理装置とは別の「環境に放出するための」機器・設備である。 しかし、被告製品例1は、水処理装置であって、浄化されたスク ラバー流体を船外排水設備に案内するまでの配管を備えるにとどま り(構成1f’)、船外排水設備(ブリードオフタンク、船内配管、 20 船外排出口バルブ、リミットスイッチ付きバルブ等)を備えない。 したがって、被告製品例1は、「浄化されたスクラバー流体を… 環境に放出するための手段」の構成を備えない。 (b) 本件発明における「第一の分離機出口から環境に放出するための 手段」(構成要件F)とは、浄化されたスクラバー流体が、ディス 25 クスタック遠心分離機(の第1の分離機出口)から、更なる処理を 行うことなく船外排水設備(環境に放出するための手段)に送られ、 22 環境(海)に放出される構成を意味する。このことは、特許請求の 範囲の記載上、「環境に放出するための手段」による放出対象が、 分離機(の第1の分離機出口)「から」出てくる「浄化されたスク ラバー流体」であると明記されていることからも明らかである。ま 5 た、本件明細書で、遠心分離機及びオイルフィルターを備える浄化 設備である先行技術が有するキーコンポーネントの点検修理(オイ ルフィルター部品(油吸着マット)の定期的な確認及び交換)等の 課題を本件発明が解決すること(【0009】及び【0014】) が記載されている。さらに、本件異議申立事件において、原告は、 10 本件発明の構成要件Fについて、浄化されたスクラバー流体が、デ ィスクスタック遠心分離機(の第1の分離機出口)から、更なる処 理を行うことなく、船外排水設備(環境に放出するための手段)に 送られて環境(海)に放出されるとの理解に基づいた主張をしてお り、特許庁も、同様の理解の下に、本件発明と特開2007−75 15 81号公報に記載された発明を対比して、「本件発明1(注:本件 発明)の「環境に放出するための手段」は、「浄化されたスクラバ ー流体を前記第一の分離機出口から環境に放出するための手段」で あるのに対して、甲2−1発明(注:特開2007−7581号公 報に記載された発明)の「系外(例えば既存の排水処理設備)に放 20 出される構成」は、固液分離装置35で分離された液体分34をそ のまま系外に放出する手段ではなく、系外に放出する前に廃液処理 装置25を介して、さらに水銀を除去する処理がなされてから、系 外へ放出する手段である点。」が相違点であると認定している。 しかし、被告製品例1は、汚染されたスクラバー流体を「分離機」 25 のみで「浄化されたスクラバー流体」にすることはできず、「分離 機」による分離後に更に「フィルタ」により油分等を除去して、初 23 めて「浄化されたスクラバー流体」が生成され、「浄化されたスク ラバー流体」は、「フィルタから」(被告が製造販売しない)船外 排水設備に案内され、船外排水設備により環境(海)に放出される ことになる。 5 したがって、被告製品例1は、「第一の分離機出口から環境に放 出するための手段」の構成を備えない。 (c) 以上によれば、被告製品例1は、構成要件Fを充足しない。 h 構成要件Gについて 「汚染物質相を前記第二の分離機出口から回収するための手段」 10 (構成要件G)とは、特許請求の範囲の記載のとおり、「汚染物質相」 を「回収するための」機器・設備を意味し、水処理装置(水処理をす るための装置)は「回収するための手段」には該当しない。また、本 件明細書には「第二の分離機出口17は、汚染された相のための貯蔵 タンクに接続されている。」(【0035】)と記載され、「貯蔵タ 15 ンク」等が「汚染物質相を…回収するための手段」(構成要件G)で あることが明記されている。 しかし、被告製品例1は、分離機、フィルタ、モニタ及びこれらを つなぐ配管を有する水処理装置であり、「貯蔵タンク」(EGR汚水 タンク)等の「汚染物質相」を「回収するための」機器・設備を備え 20 ない。被告製品例1が用いられる配水・水処理システムにおける「貯 蔵タンク」(EGR汚水タンク)等は、造船会社が自ら又は被告以外 の他の事業者から調達し、設置している。 したがって、被告製品例1は、「汚染物質相を前記第二の分離機出 口から回収するための手段」の構成を備えないから、構成要件Gを充 25 足しない。 i 構成要件Hについて 24 前記a(a)のとおり、被告製品例1は水処理装置(構成1h’)であ り、「浄化設備」ではない。 したがって、被告製品例1は、構成要件Hを充足しない。 j 小括 5 以上のとおり、被告製品例1は、構成要件AないしC、D2、D3 及びEないしHを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しない。 (イ) 被告製品例2の構成要件充足性 a 構成要件Aについて 前記(ア)aに同じ。 10 b 構成要件Bについて 「スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバー流体の一 部を…スクラバー流体ループから取り除くための手段」(構成要件B) の「取り除く」の辞書的意義は、「不要なものを取ってなくす。」こ とであるから、「スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラ 15 バー流体の一部を…スクラバー流体ループから取り除くための手段」 とは、抜き取ったスクラバー流体をスクラバー流体ループから取って なくす、すなわち、スクラバー流体ループに一切戻さない構成を意味 すると解される。このことは、原告が、本件異議申立事件において、 本件訂正の趣旨につき、「本発明は、スクラバー流体ループ(9)か 20 ら、汚染されたスクラバー流体の一部を除去するものであり、除去後 の流体をループに戻すものではありません。このことを明確にするた めに、訂正発明1では、「前記スクラバー流体ループ(9)から汚染 されたスクラバー流体の一部を抜き取り、それにより、汚染されたス クラバー流体の前記一部を処分のためにスクラバー流体ループから取 25 り除くための手段」と特定しています。あわせて、「前記浄化された スクラバー流体を前記第一の分離機出口から環境に放出するための手 25 段と、」特定することで、浄化されたスクラバー流体は環境に放出さ れるものであること、すなわち、【0035】、【0037】、【0 038】、及び【0040】に記載されているように、船の外側、又 は一時的貯蔵のためのタンクに放出することを特定しています。」、 5 「これに対し、甲1号証である特開平9−192440号公報は、ス クラバー流体を抜き取ることについては、一切、開示がありません。 甲1号証は、処理した吸収液を循環使用することを目的としたもので す(段落0004)。甲1号証では、段落0010、0011及び図 1に示されているように、循環タンク6から、循環ポンプ8を経由し 10 て脱水機11に送られた液体は、固形分が除去されて、循環タンクに 戻されています。このように、甲1号証は、循環ループからの一部流 体の「抜き取り」については、一切開示がないのであります。」と説 明していることからも明らかである。この点について、特開平9−1 92440号公報に記載された発明は、循環ループから抜き取られた 15 流体を、処理後に、循環ループに戻す構成と戻さない構成を併せ有す るところ、原告は、本件訂正に関し、循環ループから抜き取られた流 体を、処理後に、循環ループに戻す構成と戻さない構成を併せ有する 構成は、「スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバー流 体の一部を…スクラバー流体ループから取り除くための手段」(構成 20 要件B)に該当しないと説明しており、本件訂正により、本件発明は、 遠心分離器による処理後のスクラバー流体を一部でもスクラバー流体 ループに還流させる構成を含まないことがより明確になったといえる。 しかし、被告製品例2において、一定以上の品質レベルを満たさな いと判定された浄化されたスクラバー流体の戻し先は、スクラバー流 25 体ループを構成するバッファタンクである。すなわち、被告製品例2 は、本件発明が除外した、遠心分離器による処理後のスクラバー流体 26 を一部でもスクラバー流体ループに還流させる構成を備える。 したがって、被告製品例2は、「スクラバー流体ループ(9)から 汚染されたスクラバー流体の一部を…スクラバー流体ループから取り 除くための手段」を備えないから、構成要件Bを充足しない。 5c 構成要件C、D2、D3及びEないしHについて 前記(ア)cないしiに同じ。 d 小括 以上のとおり、被告製品例2は、構成要件AないしC、D2、D3 及びEないしHを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しない。 10 ウ 原告の主張に対する反論 (ア) 原告は、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2の構成が別紙製品 目録記載2の図の赤線枠内のとおりであり、被告製品1(予備的主張) 及び被告製品3の構成が同目録記載3の図の「WTS」として指示され る点線枠内のとおりであると主張する。 15 しかし、被告製品シリーズはバッファタンクを必ずしも備えるもので はなく、被告がこれを提供する場合、浄化されたスクラバー流体は必ず バッファタンクに戻されるから、別紙製品目録記載2の図の赤線枠内の とおりの構成となることはない。また、被告が、バッファタンクを含む
同目録記載3の図の「WTS」として指示される点線枠内のとおりのも 20 のを製造販売する場合、分離機後にフィルタが必ず存在する。 さらに、被告製品シリーズは水処理システムポンプを必ずしも備える ものではなく、被告がこれを提供する場合、水処理システムポンプは、 EGR排水タンクに接続され、バッファタンクに接続されることはない から、別紙製品目録記載3の図の「WTS」として指示される点線枠内 25 のとおりの構成となることはない。 (イ) 原告は、水処理システムポンプの引き込みによって、初めてEGR排 27 水タンク内の圧力がオーバーフローを可能にするから、水処理システム ポンプが噴霧水のループから汚染された噴霧水の一部を抜き取ることに なると主張する。 しかし、別紙製品目録記載2の図の構成を備える配水・水処理システ 5 ムにおけるオーバーフローは、水等があふれ出たものであるから、バッ ファタンク内の汚染されたスクラバー流体の量によってオーバーフロー が生じるか否かが決定されることになり、EGR排水タンク内の圧力に よってオーバーフローが生じるものではない。 したがって、原告の上記主張は理由がない。 10 (ウ) 原告は、本件明細書の【0013】の記載によれば、「浄化されたス クラバー流体を第一の分離機出口から放出するための手段」は、パイプ、 チューブ、バルブ等を備える「汚染されたおよび浄化されたスクラバー 流体と汚染物質相を案内するための手段」であるといえるから、「浄化 されたスクラバー流体を前記第一の分離機出口から環境に放出するため 15 の手段」(構成要件F)とは、第一の分離機出口に接続するパイプ、チ ューブ等の配管又はバルブで足りると主張する。 しかし、本件明細書の【0013】は、「案内するための手段」、 「放出するための手段」及び「回収するための手段」を区別して並列的 に記載しているものであるから、「案内するための手段」が「放出する 20 ための手段」を含むとは解されない。 したがって、原告の上記主張は理由がない。 (エ) 原告は、本件訂正により、本件特許の【請求項1】の従属項である 【請求項10】を訂正するに当たり、浄化されたスクラバー流体の品質 が所定レベルより低い場合、浄化されたスクラバー流体を分離機入口に 25 戻す構成を維持しているから、本件発明は、分離機での浄化処理後、環 境への放出前に、更に浄化処理を行う態様を予定していると主張する。 28 しかし、本件特許の【請求項10】は、遠心分離機により分離された 「浄化されたスクラバー流体」の「品質が所定のレベルよりも低い場合」 に当該「浄化されたスクラバー流体」を遠心分離機に戻すなどする手段 を備える浄化設備に関する発明であり、遠心分離機により「浄化された 5 スクラバー流体」を生成し得ることが前提となっている。これに対し、
被告製品シリーズでは、遠心分離機による分離では「浄化されたスクラ バー流体」が生成できず、フィルタ等を使用して初めて「浄化されたス クラバー流体」が生成されることになるものであるから、いずれにして も本件発明の技術的範囲に含まれるものではない。 10 したがって、原告の上記主張は理由がない。 (オ) 原告は、被告各製品の遠心分離機と考えられるディスクスタック型遠 心分離機SJ−Gシリーズ又はその後継機であるSJ−Hシリーズは、 スラッジ(汚水又は汚泥)自動排出機構を備えているから、上記遠心分 離機はこれに対応する汚水自動排出機構を備えているといえ、このよう 15 な汚水自動排出機構は汚染物質相をEGR汚水タンクに送り込むための ものであるから、「汚染物質相を前記第二の分離機出口から回収するた めの手段」(構成要件G)といえると主張する。 しかし、原告が指摘する自動排出機構は、スラッジを排出するための 機構であるから、「回収するための手段」に該当しないし、遠心分離機 20 の出口の前に設置される機構であるから、「第二の分離機出口から回収 する」ための手段に該当する余地もない。 したがって、原告の上記主張は理由がない。 (2) 争点2(被告各製品について間接侵害が成立するか)について (原告の主張) 25 ア 被告各製品が本件発明の構成要件Bを充足しないとしても、これらを構 成するディスクスタック分離機の入口に接続する、汚染された噴霧水用の 29 配管の上流は、究極的には、必ずスクラバー用噴霧水を循環する外部配管 の分岐孔又は循環ループの一部をなす外部バッファタンクの分岐孔若しく はオーバーフロー管に接続し、汚染された噴霧水の一部を循環ループから 抜き取っている。このような外部配管の分岐孔並びに外部バッファタンク 5 の分岐孔及びオーバーフロー管は、噴霧水のループから汚染された噴霧水 の一部を抜き取り、それにより、汚染された噴霧水の前記一部を処分のた めに噴霧水ループから取り除くための手段ということができるから、構成 要件Bを充足することは明らかである。 イ また、被告各製品が本件発明の構成要件Gを充足しないとしても、これ 10 らを構成するディスクスタック分離機の汚水用出口は、必ず外部のEGR 汚水タンクに配管で接続される。外部のEGR汚水タンクは、汚水を汚水 出口から回収するための手段ということができるから、構成要件Gを充足 することは明らかである。 ウ 以上によれば、構成要件B及びG以外の構成要件を充足する被告各製品 15 を組み込んだ配水・水処理システム全体は、本件発明の全ての構成要件を 充足するから、本件発明の技術的範囲に属することになる。 そして、被告各製品は、上記配水・水処理システムに必ず組み込まれる 以上、上記配水・水処理システムの生産にのみ用いる物である。 したがって、被告各製品の製造、譲渡及び譲渡の申出は、本件発明の間 20 接侵害(特許法101条1号)に該当する。 (被告の主張) ア 被告製品シリーズは、遠心分離機及びフィルタを主要な構成要素とする ところ、遠心分離機及びフィルタは、液体に固体が混入した混合流体等を 分離・濾過する様々な用途で使用されている。例えば、@ 遠心分離機は、 25 主に水ベースの溶媒からの微細固形分(金属微粉、カーボン、金属酸化物、 飲料等の夾雑物、酵母等)の分離や培養液からの微細藻類の回収等の用途、 30 A フィルタは、船舶用スクラバー排水からのダスト、油分等の除去や工業 用超純水や無菌水の製造、薬品溶液の粒子等の除去等の用途、B 遠心分離 機及びフィルタを組み合わせたものは、ビールの濾過、SOxスクラバー 用の水処理装置、舶用機関の潤滑油の処理等の用途で使用される。 5 したがって、被告製品シリーズは、「その物の生産にのみ用いる物」 (特許法101条1号)に該当しないから、間接侵害は成立しない。 イ 「ONZ」を含む商品名で販売される、遠心分離機及びフィルタを主要 な構成要素とする水処理装置である被告製品シリーズは、船主や造船会社 のニーズに応じて様々な構成を有し、また、様々な構成の配水・水処理シ 10 ステムに組み込まれる。このような水処理装置が組み込まれる配水・水処 理システムの一例には、別紙製品目録記載3の図の「分離機」の直後に 「フィルタ」を追加した構成が含まれる。
上記構成の配水・水処理システムは、本件発明が除外した、遠心分離機 (及びフィルタ)による処理後のスクラバー流体を、一部でもスクラバー 15 流体ループに還流させるものであるから、前記(1)(被告の主張)イ(ア)b 及び(イ)bのとおり、「汚染されたスクラバー流体の一部を抜き取り、それ により、汚染されたスクラバー流体の前記一部を処分のためにスクラバー 流体ループから取り除くための手段」(構成要件B)を備えないから、構 成要件Bを充足しない。また、上記配水・水処理システムは、「分離機」 20 による分離後に更に「フィルタ」による油分等の除去を必要とすることか ら、前記(1)(被告の主張)イ(ア)g及び(イ)gのとおり、「第一の分離機出 口から環境に放出するための手段」(構成要件F)を備えないから、構成 要件Fを充足しない。さらに、上記配水・水処理システムは、前記(1)(被 告の主張)イ(ア)a、cないしf、h及びi並びに(イ)a、cないしf、h 25 及びiのとおり、構成要件A、C、D2、D3、E、G及びHも充足しな い。 31 したがって、被告製品シリーズは、本件発明の技術的範囲に属しない配 水・水処理システムにも用いられるものであるから、間接侵害(特許法1 01条1号)は成立しない。 (3) 争点3(損害の発生及びその額)について 5 (原告の主張)
被告が本件特許権を侵害する被告各製品を製造するなどしたことにより、
原告が被った損害額は、少なくとも8800万円(うち令和2年3月31日 までに生じた損害額は少なくとも500万円)である。 (被告の主張) 10 否認ないし争う。 (4) 争点4(差止め等の必要性)について (原告の主張)
被告は、被告各製品が本件特許権を侵害することを否定しており、今後も、
被告が被告各製品を製造するなどするおそれが高い。 15 したがって、被告による被告各製品の製造等を差し止め、被告各製品を廃 棄させる必要性がある。 (被告の主張) 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 20 1 本件明細書の記載事項等 (1) 本件明細書の発明の詳細な説明には、以下のとおりの記載がある(下記記 載中に引用する図については、別紙図面目録記載のとおり)。 ア 【技術分野】 【0001】 25 本発明は、ガススクラバー流体のための浄化設備に、またそのような浄 化設備中のディスクスタック遠心分離機の使用に関する。 32 【背景技術】 【0002】 今日の海運産業は、環境への悪影響を最小にし、国際海事機関(IMO) によって設定される規制などの、現在および来たる排出物規制を満たすた 5 めに、エンジンの燃料の燃焼から生じる排出物などの有害排出物を低減す るように努力する。 【0003】 これの一つの目的は、船からの硫黄酸化物(SOX)排出の低減である。 硫黄酸化物は、硫黄残留物を包含している燃料の燃焼で作り出される。排 10 出ガス中の硫黄酸化物の量は、排出ガス浄化によって、たとえばスクラバ ーを使用することによって低減することができる。述べられたスクラバー を用いた排ガスを浄化するプロセスは、汚染されたスクラバー流体を生む。 【0004】 別の目的は、船舶エンジンからの窒素酸化物(NOX)排出の低減である。 15 これは、排出ガス再循環(EGR)を実行することによっておこなうこと ができ、排出ガスの一部がエンジンの燃焼室へ再循環される。しかしなが ら、排出ガス中のススと粒子の量は低減される必要がある。したがって、 排出ガスを浄化することが望ましく、それはスクラバーを使用することに よってなされ得る。このプロセスではまた、汚染されたスクラバー流体が 20 産出される。 【0005】 汚染されたスクラバー流体は、ススや他の有機または無機の燃焼残留物 を含んでいる。そのような汚染されたスクラバー流体の海への直接の放出 は、環境上の視点から見て容認しがたく、厳格に規制される。他方では、 25 大量の廃棄物を処分のために湾へ輸送することは、高価であり、また望ま しくない。 33 【0006】 JP 3868352 B2は、スクラバーからの汚染された海水が貯 蔵タンクに蓄積され、スクラバーに再循環される前に遠心分離機と二つの オイルフィルターの組み合わせを使用して浄化される廃水処理のための機 5 器を開示している。 【0007】 ウェットスクラバーによる熱い/暖かい排出ガスのスクラビングのあい だ、排出ガス中の湿気は水の中に凝縮し、スクラバープロセスのスクラバ ー流体の容積を増す。さらに、排出ガスからのさまざまな塩は、スクラビ 10 ングプロセスのスクラバー流体に溶ける傾向がある。塩沈殿の危険を減ら すために、流体は薄められる必要があり、それによりスクラバー流体の容 積は増大する。 【0008】 流体は、排出ガスからおよび/またはシステムへの流体の計画的な追加 15 のため、スクラバー流体ループに追加されてよい。システム中のスクラバ ー流体の容積を維持するため、スクラバー流体はスクラバープロセスから 抜き取られなければならない。このとき、一つの問題は、最小の環境影響 で環境へスクラバー流体を解放し得るためにスクラバー流体の浄化を改善 することである。別の問題は、環境中に解放されるスクラバー流体中のポ 20 リ芳香族炭化水素の量、濁り度などに関する規制を満たし得るためにスク ラバー流体の浄化を改善することである。 イ 【発明の概要】 【0009】 したがって、本発明は、排出物処理手順の環境面をさらに改善し、排出 25 物処理手順の効率を改善し、取り扱われ処分される必要のある廃棄物の量 を最小にし、点検修理の必要性を最小にすることによって上述された欠点 34 を低減し、スクラバー流体を取り扱うプロセス機器での問題を減らす。 【0010】 したがって、本発明は、排出ガススクラバー流体ループからの汚染され たスクラバー流体のための浄化設備に関する。スクラバー流体ループは、 5 閉じたスクラバー流体ループ、すなわち、システム内のスクラバーと他の コンポーネントを通るスクラバー流体の再循環を提供する循環システムで あってよい。スクラバー流体ループは、エンジンからの排出ガスの全流れ を浄化するために使用されるスクラバーおよび/またはたとえば EGR 中のエ ンジンからの排出ガスの流れの一部を浄化するために使用されるスクラバ 10 ーを含んでいてよい。浄化設備は、スクラバー流体ループから汚染された スクラバー流体の一部を抜き取るための手段を備えており、それにより、 汚染されたスクラバー流体の前記一部を処分のためにスクラバー流体ルー プから取り除く。スクラバー流体ループから抜き取られる汚染されたスク ラバー流体の一部は好ましくは、スクラバー流体ループ内の流体の流れの 15 小部分である。スクラバー流体ループ中の汚染されたスクラバー流体をス クラバーを通して再循環させ、スクラバー流体ループからの汚染されたス クラバー流体の小部分を単に抜き取ることによって、汚染されたスクラバ ー流体中の汚染物質相の量は、処理されるべき汚染された流体の容積を最 小にしながら、汚染物質相の効率的な分離を維持するようなレベルに達す 20 ることができる。 【0011】 浄化設備はさらに、汚染されたスクラバー流体の前記一部から少なくと も汚染物質相と浄化されたスクラバー流体を分離するためのディスクスタ ック遠心分離機を備えており、その分離機は、分離ディスクのスタックま 25 たは分離プレートのセットを備えた分離空間を取り囲んでいる(すなわち その中に形成している)回転軸のまわりに回転可能に構成されたローター 35 を備えている。分離ディスクまたはプレートは、切頭円錐形または他の適 切な形をしていてよい。分離機はさらに、前記分離空間の中へ延びている 汚染されたスクラバー流体の前記一部のための分離機入口と、前記分離空 間から延びている浄化されたスクラバー流体のための第一の分離機出口と、 5 前記分離空間から延びている汚染物質相のための第二の分離機出口を備え ている。第一の分離機出口は、好ましくは、回転軸線に関して分離空間の 径方向内側部分から延びており、第二の分離機出口は、好ましくは、分離 空間の径方向外側部分から延びている。分離機はさらに、油などのスクラ バー流体よりも高密または軽量の別の流体相のための第三の分離機出口を 10 備えていてよい。 【0012】 浄化設備は、多くの容量の汚染されたスクラバー流体の処理を可能にす る増大した能力を提供するために平行に接続された二つ以上のそのような ディスクスタック遠心分離機を備えていてもよい。 15 【0013】 浄化設備はさらに、汚染されたスクラバー流体の前記一部を分離機入口 に案内するための手段と、浄化されたスクラバー流体を第一の分離機出口 から放出するための手段と、汚染物質相を第二の分離機出口から回収する ため手段を備えている。汚染されたおよび浄化されたスクラバー流体と汚 20 染物質相を案内するための手段は、コンジット、パイプ、チューブ、タン ク、ポンプ、バルブ、同様物を備えていてよい。 【0014】 ディスクスタック遠心分離機を使用することによる排出ガススクラバー 流体からの汚染物質相の分離は驚くほど効率的であることがわかった。し 25 たがって、そのような分離機の動作に由来する浄化されたスクラバー流体 は規制を満たすことができ、したがって、最小の環境影響で環境中に解放 36 され得る。そのような分離機中の分離は、高い分離力と短い分離距離を提 供することによって、塊になった粒子を維持するに十分に優しいと同時に 効率的である。油粒子などのスクラバー流体中のより軽量な液状有機残留 物は、スクラバー流体よりも高密である汚染物質相として油と固形微粒子 5 を分離することをディスクスタック分離機において可能にする手法で流体 中のより高密な固形微粒子に付着する傾向がある。したがって、浄化設備 は、フィルターまたは他の処理ステップについて同じ必要がなく、したが って、キーコンポーネントの点検修理と交換の必要を最小にすることによ って機器の取り扱いを改善する。ディスクスタック遠心分離機をスクラバ 10 ー流体に適用することによって、汚染物質相の大部分が濃縮形態で取り除 かれ得ることも証明された。したがって、廃棄物の容積も低く保たれ得る。 【0022】 浄化設備は、浄化されたスクラバー流体の品質を制御するための手段と、 品質が所定レベルよりも低い場合に、浄化されたスクラバー流体をスクラ 15 バー流体ループに、分離機入口に、または汚染されたスクラバー流体のた めのタンクにそらすおよび/または戻すための手段を備えている。したが って、浄化されたスクラバー流体の清浄がさらに保証され、潜在的な否定 の環境の影響の危険を最小にすることができる。 【0028】 20 本発明の別の側面では、スクラバー流体ループからの汚染されたスクラ バー流体を浄化するための方法が提供され、それは、 ・スクラバー流体ループから汚染されたスクラバー流体の一部を抜き取 ることと、 ・ディスクスタック遠心分離機中において、汚染されたスクラバー流体 25 の前記一部から少なくとも汚染物質相と浄化されたスクラバー流体を分離 することと、 37 ・分離された汚染物質相を処分することと、 ・浄化されたスクラバー流体を放出することを有している。 【0029】 方法は、放出する前に、浄化されたスクラバー流体の品質を制御し、品 5 質があるレベルよりも低い場合に、浄化されたスクラバー流体をそらすス テップをさらに備えていてもよい。浄化されたスクラバー流体は、環境す なわち海へ放出され得るか、異なる目的のためにタンクに貯蔵され得る。 方法は好ましくは、上に説明された浄化設備によっておこなわれる。 【0030】 10 本発明の他の側面は、排出ガススクラバー流体ループから抜き取られる 汚染されたスクラバー流体から少なくとも汚染物質相と浄化されたスクラ バー流体を分離するディスクスタック遠心分離機の使用を提供する。ディ スクスタック遠心分離機は、汚染物質相を、汚染物質相のための分離機出 口の方へ運ぶように構成されたコンベヤスクリューを備えていてもよい。 15 【0031】 本発明のさらなる代替実施形態は請求項で定義される。本発明のさまざ まな実施形態が、今、図面に関連してより詳しく説明される。図面は、本 発明を示す目的のためのものであり、その範囲を限定するように意図され てはいない。 20 【図面の簡単な説明】 【0033】 【図1】図1は、本発明の一実施形態による浄化設備を示している。 【図2】図2は、本発明の別の実施形態による浄化設備を示している。 【図3】図3は、本発明の他の実施形態による浄化設備を示している。 25 【図4】図4は、本発明のまた他の実施形態による浄化設備を示している。 【図5】図5は、本発明のまた別の実施形態による浄化設備を示している。 38 ウ 【発明を実施するための形態】 【0034】 排出ガススクラバー1に接続されたガススクラバー流体のための浄化設 備が図1に示される。排出ガススクラバー1は、船のメインまたは補助エ 5 ンジンなどの大型ディーゼルエンジンの排出コンジット2に作用する。ス クラバーは、スクラバー流体のためのスクラバー入口3とスクラバー出口 4を備えている。スクラバー出口4は、スクラバー流体のためのバッファ ータンク6の入口5に接続されている。バッファータンクはさらに、スク ラバー供給ポンプ8を経由してスクラバーの入口3にスクラバー流体を供 10 給するための出口7を備えている。スクラバー1とバッファータンク6と それらを接続しているチューブは、動作中にスクラバー流体が循環される 閉じたスクラバー流体ループ9を形成している。スクラバー流体ループは さらに、動作中のプロセスへの生水や淡水や脱塩海水などの清浄なスクラ バー流体の追加のための手段を備えていてもよい(図示せず)。これは、 15 スクラバー流体ループ9のどの部分でおこなわれてもよい。 【0035】 浄化設備は、汚染されたスクラバー流体の一部をスクラバー流体ループ から抜き取るための、スクラバー流体ループ9の下流でスクラバー出口4 に接続されたチューブを備えている。汚染されたスクラバー流体の前記一 20 部をディスクスタック遠心分離機12の入口11へ送るためのチューブに 分離機供給ポンプ10が接続されている。供給ポンプは、たとえば、重力 を利用することによって、またはバッファータンク6またはスクラバー1 中の過剰圧力によって、分離機入口に流体の流れを供給するための他の手 段に置き換えられてもよい。遠心分離機12は、切頭円錐形の分離ディス 25 クのスタック15を包含し、分離機入口11がその中まで延びている分離 空間14を取り囲んでいるローター13を有している。遠心分離機12は 39 さらに、浄化されたスクラバー流体の放出のための分離空間の径方向内側 部分から延びている第一の分離機出口16と、分離空間の径方向外側部分 からローターを通って延びている、浄化されたスクラバー流体よりも高い 密度の分離された相の放出のための放出ポートまたはノズルの形をしてい 5 る第二の出口17を備えている。浄化されたスクラバー流体のための第一 の分離機出口16は、放出のために船の外側に、または一時的貯蔵のため のタンクに通じている。第二の分離機出口17は、汚染された相のための 貯蔵タンクに接続されている。 【0036】 10 動作中、スクラバー流体は、スクラバー供給ポンプ8によってバッファ ータンク6からスクラバー入口3に供給される。スクラバー流体は、スク ラバー1中において霧にされ、排出コンジット2中のまたはそれからの排 出ガスの流れに供給される。スクラバー中において、スクラバー流体は、 排出ガスからの有機および無機の燃焼残留物の浄化に使用される。スクラ 15 バー流体と排出ガス燃焼残留物の結果の混合物は、ガスストリームから小 滴の形で分離され、浄化設備のスクラバー流体のためのスクラバー出口4 と入口5からバッファータンク6に送り戻され、それによりスクラバー流 体ループ9を閉じている。小さい粒子の形をしているスクラバー流体に包 含されている排出ガス燃焼残留物は、流体中のより大きい粒子にかたまり 20 となり、汚染物質相を形成する。スクラバー流体ループ9から、汚染され たスクラバー流体の小部分が抜き取られ、分離機12の入口11に運ばれ る。一般に、抜き取られる流れの量は、排出ガスが取り出されるエンジン のMWあたり0.2m3/h未満である。10MWのエンジンについて、抜 き取られる流れの量は一般に2m3/h未満である。そのような設定のスク 25 ラバー流体ループ中の流体の流れは一般に400〜1000m3/hであり、 それにより、スクラバー流体ループ内の流れの1%未満、または1‰未満 40 が抜き取られる。汚染物質相を包含しているスクラバー流体は、高速で回 転する遠心分離機12のローター13の中に包含された、ディスクスタッ ク15を備えた分離空間14の中に導入される。汚染物質相は、スクラバ ー流体よりも高い平均密度を有している。遠心力の影響を受けて、また分 5 離ディスクの傾斜表面によって促進されて、汚染物質相はスクラバー流体 から分離され、分離空間の径方向外側部分に集められ、第二の分離機出口 17を経由して放出される。第二の分離機出口17は、放出ポートまたは ノズルの形をしており、粒子は、短時間のあいだローター13の周囲の放 出ポートを開くことによって遠心分離機から断続的に放出されるか、ロー 10 ターの周囲の開放ノズルによって連続的に放出される。放出された汚染物 質相は、後の処分のために船上で集められてもよい。放出中の汚染物質粒 子の濃度は、放電周波数またはノズルサイズに依存して、約5から約45 までの体積パーセントの、一般に約20から約30までの体積パーセント の範囲内にある。浄化されたスクラバー流体は、第一の分離機出口16か 15 ら放出のために船の外側へ、または一時的貯蔵のためのタンクへ運ばれる。 【0037】 図2には、ガススクラバー流体のための別の浄化設備が示されており、 それは排出ガススクラバー1に接続されている。浄化設備は、スクラバー 流体ループが、バッファータンク6から抜き取られたスクラバー流体ルー 20 プ中のスクラバー流体の一部を浄化するためのディスクスタック遠心分離 機12Vに接続されている点において図1に示されたものと相違している。 遠心分離機12Vは、分離機入口11Vが分離空間まで延びている、切頭 円錐形の分離ディスクのスタック15Vを包含している分離空間14Vを 取り囲んでいるローター13Vを有している。遠心分離機12Vはさらに、 25 分離空間の径方向内側部分から延びている浄化されたスクラバー流体のた めの第一の分離機出口16Vと、分離空間の径方向外側部分から延びてい 41 る浄化されたスクラバー流体よりも高い密度の分離された相の放出のため の第二の出口17Vを備えている。分離機はさらに、ローター13Vで取 り囲まれ、汚染物質相を第二の分離機出口17Vの方へ運ぶようにロータ ーの回転速度とは異なる回転速度で駆動されるように構成されたコンベヤ 5 スクリュー18を備えている。浄化されたスクラバー流体のための第一の 分離機出口16Vは、放出のために船の外側に、または一時的貯蔵のため のタンクに通じている。第二の分離機出口17Vは、汚染された相のため の貯蔵タンクに接続されてもよい。 【0038】 10 動作中、汚染されたスクラバー流体の一部は、スクラバー流体ループ9 から抜き取られ、分離機12Vの入口11Vに運ばれる。汚染物質相を包 含しているスクラバー流体は、高速で回転する遠心分離機12Vのロータ ー13Vに包含された分離空間14Vの中に、さらにディスクスタック1 5Vの中に導入される。一般に、ディスクスタックは7500rpmで回 15 転しており、分離空間の半径は93mmであり、したがって、動作中に5 750Gまでの遠心力を働かせる。汚染物質相は、スクラバー流体よりも 高い平均密度を有している。遠心力の影響を受けて、また分離ディスクの 傾斜表面によって促進されて、汚染物質相はスクラバー流体から分離され、 分離空間14Vの径方向外側領域に集められ、ローターの回転速度とは異 20 なる回転速度で駆動されるコンベヤスクリュー18によってそこから運ば れる。汚染物質相は、第二の分離機出口17Vに運ばれ、そこから放出さ れる。放出された汚染物質相は、後の処分のために船上で集められてもよ い。放出中の汚染物質相の濃度は20〜65重量パーセントの範囲内にあ る。浄化されたスクラバー流体は、第一の分離機出口16Vから、放出の 25 ために船の外側に、または一時的貯蔵のためのタンクに通じている。 【0039】 42 図3は、図1に前に説明されたような、排出ガススクラバー流体のため の浄化設備を示しており、第二の分離機出口17は、第二の分離機供給ポ ンプ10Vを経由してさらなるディスクスタック遠心分離機20の分離機 入口19に接続されている。第二の供給ポンプ10Vは、たとえば、重力 5 を利用することによって、分離機入口に流体の流れを供給するための他の 手段に置き換えられてもよく、一様かつ制御された流れ(図示せず)を提 供することができるバッファータンクに接続されてもよい。さらなる遠心 分離機20は、切頭円錐形の分離ディスク23のスタックを包含し、分離 機入口19がその中まで延びている分離空間22を取り囲んでいるロータ 10 ー21を有している。さらなる遠心分離機20は、浄化されたスクラバー 流体のための第一の分離機出口24を備えており、それは、分離機12の 浄化されたスクラバー流体のための第一の分離機出口16に接続されてい る。さらなる遠心分離機20は、浄化されたスクラバー流体よりも高い密 度の分離された相の放出のための分離空間から延びている第二の出口25 15 を備えている。分離機20は、ローター21で取り囲まれ、汚染物質相を 第二の分離機出口25の方へ運ぶようにローターの回転速度とは異なる回 転速度で駆動されるように構成されたコンベヤスクリュー26を備えてい る。 【0040】 20 動作中、第二の分離機出口17を経由して分離機12から放出された汚 染された相は、入口19を経由してさらなる遠心分離機20の分離空間2 2の中に導入される。図2に説明されたものと同様の動作において、汚染 物質相は、さらにより多くの浄化されたスクラバー流体を取り除くことに よって、それにより汚染物質相をさらに乾燥させることによって、さらに 25 集中される。汚染物質相は、分離空間22の径方向外側部分に集められ、 そこからコンベヤスクリュー26によって第二の分離機出口25へ運ばれ 43 る。放出された汚染物質相は、後の処分のために船上で集められてもよい。 放出中の汚染物質相の濃度は20〜65重量パーセントの範囲内にある。 浄化されたスクラバー流体は、放出のために船の外側に、または一時的貯 蔵のためのタンクに通じている出口24を経由して、第一の分離機12か 5 らの浄化されたスクラバー流体と別にまたは一緒に放出される。 【0041】 図4は、図2に前に説明されたものに似た、排出ガススクラバー流体の ための浄化設備を示しており、ディスクスタック遠心分離機12Vは、ス クラバー流体ループ9から、この場合はバッファータンク6から抜き取ら 10 れた汚染されるスクラバー流体を浄化するために配置されている。スクラ バー流体ループは、ディスクスタックを備えているさらなる遠心分離機2 9を有している。出口27から始まり、バッファータンク6は、分離機供 給ポンプ30を経由してさらなる遠心分離機29の分離機入口28に接続 されたスクラバー流体のための浄化ループを備えている。遠心分離機29 15 は、切頭円錐形の分離ディスク33のスタックを包含し、分離機入口28 がその中まで延びている分離空間32を取り囲んでいるローター31を有 している。遠心分離機29はさらに、浄化されたスクラバー流体のための 第一の分離機出口34と、分離空間からローターを通って延びている、浄 化されたスクラバー流体よりも高い密度の分離された相の放出のための放 20 出ポートまたはノズルの形をしている第二の出口35を備えている。第一 の分離機出口34は、バッファータンク6の入口36に接続され、浄化ル ープを閉じている。代替案として、第一の分離機出口はまた、放出のため に船の外側に、または一時的貯蔵のためのタンクに通じている出口に接続 され、それにより、第一の分離機出口34からの浄化されたスクラバー流 25 体の一部を図3に示されたものに似た、第一の分離機12Vからの浄化さ れたスクラバー流体の一部と別にまたは一緒に放出してもよい。 44 【0042】 図4の浄化設備の動作は、浄化ループの追加を伴って図2に説明された ものと同様である。バッファータンク6中のスクラバー流体は、連続的に または必要なときに、分離機供給ポンプ30によって出口27を経由して 5 浄化ループの中に、遠心分離機29の分離機入口28に送られる。汚染物 質相を包含しているスクラバー流体は、高速で回転する遠心分離機29の ローター31の中に包含された分離空間32の中に、さらにディスクスタ ック33の中に導入される。汚染物質相は、スクラバー流体から分離され、 分離空間の径方向外側領域に集められ、そこから第二の分離機出口35を 10 経由して放出される。第二の分離機出口35は、放出ポートまたはノズル の形をしており、粒子は、短時間のあいだローター31の周囲の放出ポー トを開くことによって遠心分離機から断続的に放出されるか、ローターの 周囲の開放ノズルによって連続的に放出される。放出された汚染物質相は、 後の処分のために船上で集められてもよい。放出中の汚染物質相の濃度は、 15 放電周波数またはノズルサイズに依存して、約5から約45までの体積パ ーセント、一般に約20から約30までの体積パーセントの範囲内にある。 浄化されたスクラバー流体は、第一の分離機出口34から放出され、バッ ファータンク6に送られる。 【0043】 20 図5では、図4に説明された浄化設備が、浄化ループ中の第二の分離機 出口35に接続された放出バッファータンク37を組み込むことによって さらに修正されている。バッファータンク37はさらに、流体調整手段を 経由してディスクスタック遠心分離機12Vの入口11Vに接続されてい る。流体調整手段は、重力駆動流れと組み合わせた供給ポンプまたはバル 25 ブを備えていてもよい。浄化設備の動作は、浄化ループ中の分離機29か らの放出汚染物質相が分離機12Vの中に導入され、その中でさらに集中 45 される点において図4に説明されたものと相違している。バッファータン ク6と37からの汚染された流体の流れは、適切なやり方で流れを変更ま たは混合するように個々に制御されてもよい。 【0044】 5 いずれかの図に示された浄化設備は、図5に示された品質管理デバイス 38をさらに備えていてもよい。この品質管理デバイス38は、第一の分 離機出口に16Vまたは16を下流に接続された図1〜5のいずれかに一 つに含まれていてもよい。品質管理デバイス38は、品質がある必要また は所定の品質レベルよりも低い場合に、浄化されたスクラバー流体の流れ 10 をそらすように適合されている。したがって、浄化されたスクラバー流体 は、スクラバー流体ループ9に、たとえば、バッファータンク6に、分離 機入口11または11に、または個別のタンク(図示せず)にそらされ得 る、および/または、戻され得る。品質管理デバイスは、ポリ芳香族炭化 水素などの特定の化合物の濁り度、pHおよび/または濃度を制御するよ 15 うに適合されてもよい。一般に品質管理装置は、浄化されたスクラバー流 体の濁り度は、25FNU(formazin nephlometric units)未満、または 25NTU(nephlometric turbidity units)未満であり、システムに入力 されている流体の濁り度よりも高く、酸性度は、演習および輸送中を除い て船外放出のときにpH6.5よりも高く、システムに入力されている流 20 体に対する最大差はpH2であるように制御する。 【0045】 図のいずれかに示された浄化設備はさらに、図5に示されるように、汚 染されたスクラバー流体への凝集剤の追加のためのデバイス39を分離機 入口11Vの上流に備えていてもよい。そのようなデバイス39は、図1 25 〜5のいずれか一つに含まれ、いずれかの分離機入口11、11Vまたは 19の上流と、オプションの供給ポンプ10または10Vの上流または下 46 流に配置されてもよい。凝集剤は高分子電解質であってもよく、必要とさ れるときに、汚染されたスクラバー流体中の粒子のかたまりになるのを促 進するために追加され、分離効率および/または分離キャパシティーを改 善する。同様の方法で、汚染されたスクラバー流体への沈殿剤の追加のた 5 めのデバイスが、いずれかの分離機入口11、11Vまたは19の上流と、 オプションの供給ポンプ10または10の上流または下流に配置されても よい。沈殿剤は、三価の鉄や三価のアルミニウムなどの三価のイオンをス クラバー流体に追加するために選択され、硫酸アルミニウムや塩化(ポリ) アルミニウムや塩化鉄の形をしていてもよい。 10 (2) 前記(1)の記載事項によれば、本件明細書には、本件発明に関し、以下のと おりの開示があると認められる。 ア 今日の海運産業は、環境への悪影響を最小にし、国際海事機関(IMO) によって設定される規制等の排出物規制を満たすために、エンジンの燃料 の燃焼から生じる排出物等の有害排出物を低減する必要がある(【000 15 2】)。そして、スクラバーを使用し、排出ガスを浄化することにより、 排出ガス中に含まれる硫黄酸化物(SOX)等を低減させることができるが、 このプロセスにおいて、汚染されたスクラバー流体が産出され、汚染され たスクラバー流体は、ススや他の有機または無機の燃焼残留物を含んでい るため、そのような汚染されたスクラバー流体の海への直接の放出は、環 20 境上の視点から見て容認し難く、厳格に規制され、他方では、大量の廃棄 物を処分のために湾へ輸送することは、高価であり、また望ましくない (【0003】ないし【0005】)。従来、スクラバーからの汚染され た海水が貯蔵タンクに蓄積され、スクラバーに再循環される前に遠心分離 機と二つのオイルフィルターの組み合わせを使用して浄化される廃水処理 25 のための機器が存したが、排出ガスのスクラビングの間、排出ガス中の湿 気は水の中に凝縮し、スクラバープロセスのスクラバー流体の容積を増し、 47 さらに、塩沈殿の危険を減らすために、流体は薄められる必要があり、そ れによりスクラバー流体の容積は増大する(【0006】及び【000 7】)。この流体はスクラバー流体ループに追加されてよいが、一方で、 システム中のスクラバー流体の容積を維持するため、スクラバー流体はス 5 クラバープロセスから抜き取られなければならないところ、最小の環境影 響で環境へスクラバー流体を解放し得るために、また、スクラバー流体中 のポリ芳香族炭化水素の量、濁り度等に関する規制を満たすために、スク ラバー流体の浄化を改善しなければならないという課題があった(【00 08】)。 10 イ 「本発明」は、前記アの課題を解決するために、排出物処理手順の環境 面をさらに改善し、排出物処理手順の効率を改善し、取り扱われ処分され る必要のある廃棄物の量を最小にし、点検修理の必要性を最小にすること によって上述された欠点を低減し、スクラバー流体を取り扱うプロセス機 器での問題を減らすことを目的とするもので、スクラバー流体ループから 15 汚染されたスクラバー流体の一部を抜き取るための手段を備えた浄化設備 に関するものである(【0009】及び【0010】)。その浄化設備は、 汚染されたスクラバー流体の一部から少なくとも汚染物質相と浄化された スクラバー流体を分離するためのディスクスタック遠心分離機を備えてお り、分離機は、分離ディスクのスタックを備えた分離空間を取り囲んでい 20 るローターを備え、分離空間の中へ延びている汚染されたスクラバー流体 の一部のための分離機入口と、分離空間から延びている浄化されたスクラ バー流体のための第一の分離機出口と、分離空間から延びている汚染物質 相のための第二の分離機出口を備えており、さらに、浄化設備は、汚染さ れたスクラバー流体の一部を分離機入口に案内するための手段と、浄化さ 25 れたスクラバー流体を第一の分離機出口から放出するための手段と、汚染 物質相を第二の分離機出口から回収するため手段を備えている(【001 48 1】及び【0013】)。 「本発明」において、ディスクスタック遠心分離機を使用することによ る排出ガススクラバー流体からの汚染物質相の分離は驚くほど効率的であ り、そのような分離機の動作に由来する浄化されたスクラバー流体は規制 5 を満たすことができ、また、油粒子等のスクラバー流体中のより軽量な液 状有機残留物は、スクラバー流体中のより高密な固形微粒子に付着する傾 向があるため、浄化設備はフィルター又は他の処理ステップを必要とせず、 キーコンポーネントの点検修理や交換の必要を最小にすることにより、機 器の取扱いを改善することができ、さらに、汚染物質相の大部分が濃縮形 10 態で取り除かれ得るため、廃棄物の容積も低く保たれ得るとの効果を奏す る(【0014】)。 2 争点1(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について (1) 被告製品1(主位的主張)及び被告製品2について ア 構成要件Fの充足性 15 (ア) 構成要件Fの解釈 a 本件発明の特許請求の範囲には、「排出ガススクラバー流体ループ (9)からの汚染されたスクラバー流体のための浄化設備であり、」 (構成要件A)、「前記スクラバー流体ループ(9)から汚染された スクラバー流体の一部を抜き取り、それにより、汚染されたスクラバ 20 ー流体の前記一部を処分のためにスクラバー流体ループから取り除く ための手段と、」(構成要件B)、「前記汚染されたスクラバー流体 の前記一部から少なくとも汚染物質相と浄化されたスクラバー流体を 分離するためのディスクスタック遠心分離機(12,12’)を備え ており、」(構成要件C)、「前記浄化されたスクラバー流体を前記 25 第一の分離機出口から環境に放出するための手段と、」(構成要件 F)、「浄化設備」(構成要件H)との記載がある。 49 これらの記載によれば、本件発明に係る「浄化設備」は、「スクラ バー流体ループ」から「汚染されたスクラバー流体の一部」を抜き取 り、これを「ディスクスタック遠心分離機」で「汚染物質相」と「浄 化されたスクラバー流体」に分離し、この「浄化されたスクラバー流 5 体」を「第一の分離機出口から環境に放出する」というものであり、 「ディスクスタック遠心分離機」により「浄化されたスクラバー流体」 は、そのまま「環境に放出する」ことになると理解することができる。 b また、本件明細書には、「このとき、一つの問題は、最小の環境影 響で環境へスクラバー流体を解放し得るためにスクラバー流体の浄化 10 を改善することである。別の問題は、環境中に解放されるスクラバー 流体中のポリ芳香族炭化水素の量、濁り度などに関する規制を満たし 得るためにスクラバー流体の浄化を改善することである。」(【00 08】)、「したがって、本発明は、排出物処理手順の環境面をさら に改善し、排出物処理手順の効率を改善し、取り扱われ処分される必 15 要のある廃棄物の量を最小にし、点検修理の必要性を最小にすること によって上述された欠点を低減し、スクラバー流体を取り扱うプロセ ス機器での問題を減らす。」(【0009】)、「ディスクスタック 遠心分離機を使用することによる排出ガススクラバー流体からの汚染 物質相の分離は驚くほど効率的であることがわかった。したがって、 20 そのような分離機の動作に由来する浄化されたスクラバー流体は規制 を満たすことができ、したがって、最小の環境影響で環境中に解放さ れ得る。…浄化設備は、フィルターまたは他の処理ステップについて
同じ必要がなく、したがって、キーコンポーネントの点検修理と交換 の必要を最小にすることによって機器の取り扱いを改善する。ディス 25 クスタック遠心分離機をスクラバー流体に適用することによって、汚 染物質相の大部分が濃縮形態で取り除かれ得ることも証明された。し 50 たがって、廃棄物の容積も低く保たれ得る。」(【0014】)との 記載がある。 これらの記載によれば、本件発明に係る浄化設備は、「スクラバー 流体」の浄化能力を向上させ、また、点検修理の必要性を最小とする 5 ために、「ディスクスタック遠心分離機」を使用し、この「分離機」 の動作により、「浄化されたスクラバー流体」が規制を満たすことに なり、環境への影響を最小にして環境に解放することができ、他の処 理をするための設備を設ける必要がなく、機器の点検修理や交換の必 要性を最小にすることができるものであると理解することができる。 10 c さらに、証拠(甲3、乙47ないし49)によれば、本件異議申立 事件において、@ 原告は、特許庁から、本件訂正前の本件特許の【請 求項1】ないし【請求項17】について、特許法29条2項に違反し、 取り消すべきものであるとする特許の取消しの理由を通知されたこと、 A これを受けて、原告は、本件特許の【請求項1】について、「前記 15 スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバー流体の一部を 抜き取るための手段と、」とあるのを「前記スクラバー流体ループ (9)から汚染されたスクラバー流体の一部を抜き取り、それにより、 汚染されたスクラバー流体の前記一部を処分のためにスクラバー流体 ループから取り除くための手段と、」と、「前記浄化されたスクラバ 20 ー流体を前記第一の分離機出口から放出するための手段と、」とある のを「前記浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出口から環 境に放出するための手段と、」とそれぞれ訂正し、【請求項10】に ついて、「浄化されたスクラバー流体を前記スクラバー流体ループ (9)に、前記分離機入口(11,11’)に、または汚染されたス 25 クラバー流体のためのタンクにそらすおよび/または戻すための手段」 とあるのを「浄化されたスクラバー流体を、前記分離機入口(11, 51 11’)に、または汚染されたスクラバー流体のためのタンクにそら すおよび/または戻すための手段」と訂正する旨の本件訂正を請求し たこと、B 原告は、特許庁に対し、平成28年9月8日付けの意見書 により、前記@の取消しの理由に関して、本件訂正後の発明である本 5 件発明は、スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバー流 体の一部を除去するものであり、除去後の流体をループに戻すもので はなく、浄化されたスクラバー流体は環境に放出されるものであり、 船の外側又は一時的貯蔵のためのタンクに放出される旨、及び、本件 発明は、抜き取られた汚染されたスクラバー流体の一部を清浄化し、 10 清浄化されたスクラバー流体が、環境に放出し得る基準を満たすよう にするものである旨を主張したことが認められる。
上記認定事実によれば、本件発明は、「ディスクスタック遠心分離 機」により「浄化されたスクラバー流体」が直ちに環境に放出し得る ものであることを前提としたものであるということができる。 15 d 以上の本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の各記載並びに原 告の本件異議申立事件における主張に加え、本件明細書において、 「ディスクスタック遠心分離機」により「浄化されたスクラバー流体」 を更に浄化するための装置を設けることを示唆する記載は見当たらな いことからすると、「浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機 20 出口から環境に放出するための手段」(構成要件F)とは、「分離機」 により「浄化されたスクラバー流体」が、その後、「分離機」とは別 に設けられた浄化設備により浄化処理されることなく船の外側に放出 され又は船の外側に放出するための一時貯蔵タンクに放出されるもの をいうと解するのが相当である。 25 (イ) 被告製品1(主位的主張)及び被告製品2への当てはめ 証拠(甲7、11ないし13、30、33、37ないし40)及び弁 52 論の全趣旨によれば、@ 被告製品2は、被告製品シリーズの一例である こと、A 被告製品2を含む配水・水処理システムは、別紙製品目録記載 2の図のとおりの構成を有し、船舶のエンジンの排ガスを洗浄するため の噴霧水を循環させたり、処理したりするものであること、B 上記シス 5 テム内において、噴霧水は、バッファタンクから処理水供給ポンプによ って排ガス再循環ユニットに供給され、その後、受容タンクユニットを 通り、再びバッファタンクに流し込まれることにより、循環(ループ) していること、C バッファタンクにある噴霧水の一部は、上記Bのとお りに循環せず、バッファタンクからEGR排水タンクに貯留された後、 10 水処理システムポンプによって分離機に供給され、分離機によって分離 された汚染物質相はEGR汚水タンクに貯留されて陸地に搬出されるこ ととなり、分離機によって汚染物質相を取り除かれた噴霧水は、フィル タを経て、三方弁に到達し、弁の向きによって、船外に排出される(ブ リードオフ)か、再びEGR排水タンクに貯留されることになること、 15 D 被告製品2は、同目録記載2の図の赤枠で囲まれた部分であることが 認められる。 そうすると、被告製品2は、バッファタンクからEGR排水タンクに 貯留された噴霧水が分離機によって汚染物質相を取り除かれ、フィルタ によって更に浄化された後に、船外に排出されるか又は再びEGR排水 20 タンクに戻されるという構成を備えるものであり、「分離機」により 「浄化されたスクラバー流体」が、その後、「分離機」とは別に設けら れた浄化設備により浄化処理されることなく船の外側に放出され又は船 の外側に放出するための一時貯蔵タンクに放出されるものではない。し たがって、被告製品2は、「浄化されたスクラバー流体を前記第一の分 25 離機出口から環境に放出するための手段」を備えず、構成要件Fを充足 しないというべきである。 53 そして、原告は、被告製品1(主位的主張)と被告製品2は同一の構 成であると主張するから(前記第2の4(1)(原告の主張)ア(ア))、被 告製品1(主位的主張)も「浄化されたスクラバー流体を前記第一の分 離機出口から環境に放出するための手段」を備えず、構成要件Fを充足 5 しない。 (ウ) 原告の主張の検討
原告は、@ 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には、浄化され たスクラバー流体を更に処理することなく、海に放出することを要する との記載はない、A 本件訂正により、本件特許の【請求項1】の従属項 10 である【請求項10】を訂正するに当たり、浄化されたスクラバー流体 の品質が所定レベルより低い場合、浄化されたスクラバー流体を分離機 入口に戻す構成を維持しているから、本件発明は、分離機での浄化処理 後、環境への放出前に、更に浄化処理を行う態様を予定している、B 本 件明細書の「ディスクスタック遠心分離機をスクラバー流体に適用する 15 ことによって、汚 染物質相の大部分が濃縮形態で取り除かれ得る」 (【0014】)との記載によれば、ディスクスタック遠心分離機によ っても分離し得ない汚染物質相が残存し得る以上、補助的にフィルタ等 による分離を行うことは排除されないと主張する。 しかし、上記@については、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細 20 書において、浄化されたスクラバー流体を更に処理することなく、海に 放出することを要することを明示した記載は見当たらないものの、前記 (ア)のとおり、本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の各記載並びに
原告の本件異議申立事件における主張、さらには、本件明細書には、 「ディスクスタック遠心分離機」により「浄化されたスクラバー流体」 25 を更に浄化するための装置を設けることを示唆する記載が見当たらない ことは、いずれも、「浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出 54 口から環境に放出するための手段」(構成要件F)とは、「分離機」に より「浄化されたスクラバー流体」が、「分離機」とは別に設けられた 浄化設備により浄化処理されることなく、船の外側に放出されるなどす るものをいうとの理解をもたらすものであるから、その点を明示する記 5 載が存在しないからといって、前記(ア)の解釈が左右されるものではない。
上記Aについては、前記(ア)bのとおり、本件明細書の記載(【000 8】、【0009】及び【0014】)によれば、本件発明に係る浄化 設備について、「スクラバー流体」の浄化能力を向上させ、また、点検 修理の必要性を最小とするために、「ディスクスタック遠心分離機」を 10 使用し、この「分離機」の動作により、「浄化されたスクラバー流体」 が規制を満たすことになり、環境への影響を最小にして環境に解放する ことができ、他の処理をするための設備を設ける必要がなく、機器の点 検修理や交換の必要性を最小にすることができるものであると理解する ことができる。そうすると、本件発明は、「分離機」の動作によって上 15 記の作用効果を実現するものであるから、「浄化されたスクラバー流体」 を再び「分離機」入口に戻すことを排除するものではないが、「分離機」 により「浄化されたスクラバー流体」が、「分離機」とは別に設けられ た浄化設備により浄化処理されて、船の外側に放出されるなどすること を予定したものではないというべきである。したがって、本件訂正後の 20 【請求項10】の記載をもって、本件発明が、「分離機」での浄化処理 後、環境への放出前に、別に設けられた浄化設備により更に浄化処理を 行う態様を予定しているということはできない。
上記Bについては、本件明細書の記載からは、「ディスクスタック遠 心分離機をスクラバー流体に適用することによって、汚染物質相の大部 25 分が濃縮形態で取り除かれ」(【0014】)た「浄化されたスクラバ ー流体」について、「汚染物質相」が残存するため規制を満たさず、環 55 境に放出することができないとは直ちには読み取れない。そうすると、 本件明細書の【0014】の記載をもって、「分離機」により「浄化さ れたスクラバー流体」を補助的にフィルタ等により浄化処理することが 示唆されているということはできない。 5 したがって、原告の上記各主張は、いずれも採用することができない。 イ 小括 以上のとおり、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2は、構成要件 Fを充足しないから、その余の点を判断するまでもなく、本件発明の技術 的範囲に属するとは認められない。 10 (2) 被告製品1(予備的主張)及び被告製品3について ア 構成要件Bの充足性 (ア) 構成要件Bの解釈 a 本件発明の特許請求の範囲には、「排出ガススクラバー流体ループ (9)からの汚染されたスクラバー流体のための浄化設備であり、」 15 (構成要件A)、「前記スクラバー流体ループ(9)から汚染された スクラバー流体の一部を抜き取り、それにより、汚染されたスクラバ ー流体の前記一部を処分のためにスクラバー流体ループから取り除く ための手段と、」(構成要件B)、「前記汚染されたスクラバー流体 の前記一部から少なくとも汚染物質相と浄化されたスクラバー流体を 20 分離するためのディスクスタック遠心分離機(12,12’)を備え ており、」(構成要件C)、「前記浄化されたスクラバー流体を前記 第一の分離機出口から環境に放出するための手段と、」(構成要件 F)、「前記汚染物質相を前記第二の分離機出口から回収するための 手段を備えている」(構成要件G)、「浄化設備」(構成要件H)と 25 の記載がある。 これらの記載によれば、本件発明に係る「浄化設備」は、「スクラ 56 バー流体ループ」から「汚染されたスクラバー流体の一部」を抜き取 り、これを「ディスクスタック遠心分離機」で「汚染物質相」と「浄 化されたスクラバー流体」に分離し、この「浄化されたスクラバー流 体」を「第一の分離機出口から環境に放出する」というものであり、 5 「ディスクスタック遠心分離機」により「浄化されたスクラバー流体」 は「環境に放出」され、「スクラバー流体ループ」に戻されることは ないと理解することができる。 b また、本件明細書には、「浄化設備は、スクラバー流体ループから 汚染されたスクラバー流体の一部を抜き取るための手段を備えており、 10 それにより、汚染されたスクラバー流体の前記一部を処分のためにス クラバー流体ループから取り除く。スクラバー流体ループから抜き取 られる汚染されたスクラバー流体の一部は好ましくは、スクラバー流 体ループ内の流体の流れの小部分である。スクラバー流体ループ中の 汚染されたスクラバー流体をスクラバーを通して再循環させ、スクラ 15 バー流体ループからの汚染されたスクラバー流体の小部分を単に抜き 取ることによって、汚染されたスクラバー流体中の汚染物質相の量は、 処理されるべき汚染された流体の容積を最小にしながら、汚染物質相 の効率的な分離を維持するようなレベルに達することができる。」 (【0010】)、「浄化設備はさらに、汚染されたスクラバー流体 20 の前記一部から少なくとも汚染物質相と浄化されたスクラバー流体を 分離するためのディスクスタック遠心分離機を備えており、その分離 機は、分離ディスクのスタックまたは分離プレートのセットを備えた 分離空間を取り囲んでいる(すなわちその中に形成している)回転軸 のまわりに回転可能に構成されたローターを備えている。」(【00 25 11】)、「浄化設備はさらに、汚染されたスクラバー流体の前記一 部を分離機入口に案内するための手段と、浄化されたスクラバー流体 57 を第一の分離機出口から放出するための手段と、汚染物質相を第二の 分離機出口から回収するため手段を備えている。」(【0013】)、 「ディスクスタック遠心分離機を使用することによる排出ガススクラ バー流体からの汚染物質相の分離は驚くほど効率的であることがわか 5 った。したがって、そのような分離機の動作に由来する浄化されたス クラバー流体は規制を満たすことができ、したがって、最小の環境影 響で環境中に解放され得る。」(【0014】)との記載がある。 これらの記載によれば、本件発明に係る浄化設備は、「汚染された スクラバー流体中の汚染物質相の量」を効率的に「汚染物質相」を分 10 離することができる程度にするために、「スクラバー流体ループ」か ら「汚染されたスクラバー流体の一部」を抜き取り、抜き取った「汚 染されたスクラバー流体の一部」を「ディスクスタック遠心分離機」 により少なくとも「汚染物質相」と「浄化されたスクラバー流体」に 分離するというものであり、「浄化されたスクラバー流体」は「分離 15 機出口」を出て、環境中に放出されることを読み取ることができ、 「浄化されたスクラバー流体」が再び「スクラバー流体ループ」に戻 されることは予定されていないと理解することができる。 c さらに、前記(1)ア(ア)cのとおりの原告の本件異議申立事件におけ る主張によれば、本件発明において、「ディスクスタック遠心分離機」 20 により「浄化されたスクラバー流体」は、「スクラバー流体ループ」 に戻されるものではなく、環境に放出されるものであることが前提と されているということができる。 d 以上の本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の各記載並びに原 告の本件異議申立事件における主張に加え、本件明細書には、「ディ 25 スクスタック遠心分離機」により「浄化されたスクラバー流体」を再 び「スクラバー流体ループ」に戻すことを示唆する記載は見当たらな 58 いことからすると、「スクラバー流体ループ(9)から汚染されたス クラバー流体の一部を抜き取り、それにより、汚染されたスクラバー 流体の前記一部を処分のためにスクラバー流体ループから取り除くた めの手段」(構成要件B)とは、「分離機」により「浄化されたスク 5 ラバー流体」を全て環境に放出し、再び「スクラバー流体ループ」に 戻すことはないものをいうと解するのが相当である。 (イ) 被告製品1(予備的主張)及び被告製品3への当てはめ 証拠(甲7、11ないし13、30、33、37ないし40)及び弁 論の全趣旨によれば、@ 被告製品3は、被告製品シリーズの一例である 10 こと、A 被告製品3を含む配水・水処理システムは、別紙製品目録記載 3の図のとおりの構成を有し、船舶のエンジンの排ガスを洗浄するため の噴霧水を循環させたり、処理したりするものであること、B 上記シス テム内において、噴霧水は、バッファタンク(Buffer tank) からClean Water Supply pumpによってEGR 15 ユニットに供給され、その後、RTUを通り、Circulation pumpによって再びバッファタンクに流し込まれることにより、循環 (ループ)していること、C バッファタンクにある噴霧水の一部は、上 記Bのとおりに循環せず、バッファタンクからポンプ(WTS pum p)によって分離機(Separator)に供給されること、D 分離 20 機によって分離された汚染物質相は、EGR汚水タンクに貯留されて陸 地に搬出されること、E 分離機によって汚染物質相を取り除かれた噴霧 水は、QC monitorを経て、一つ目の三方弁に到達すること、 F 一つ目の三方弁に到達した噴霧水は、弁の向きによって、再びバッフ ァタンクに送り込まれるか、二つ目の三方弁に向かうこと、G 二つ目の 25 三方弁に到達した噴霧水は、弁の向きによって、船外に排出される(ブ リードオフ)か、分離機によって分離された上記汚染物質相とともにE 59 GR汚水タンクに貯留されること、H 被告製品3は、同目録記載3の図 の「WTS」として点線で囲まれた部分であることが認められる。 そうすると、被告製品3は、バッファタンクから供給された噴霧水が 分離機によって汚染物質相を取り除かれて浄化された後、被告製品2と 5 は異なり、一つ目の三方弁における弁の向きによっては、本件発明の 「スクラバー流体ループ」に相当する噴霧水の循環経路の一部をなすバ ッファタンクに再び送り込まれるという構成であり、「分離機」により 「浄化されたスクラバー流体」を全て環境に放出するものではなく、そ の一部を再び「スクラバー流体ループ」に戻すものである。したがって、 10 被告製品3は、「スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバ ー流体の一部を抜き取り、それにより、汚染されたスクラバー流体の前 記一部を処分のためにスクラバー流体ループから取り除くための手段」 を備えず、構成要件Bを充足しないというべきである。 そして、原告は、被告製品1(予備的主張)と被告製品3は同一の構 15 成であると主張するから(前記第2の4(1)(原告の主張)ア(イ))、被 告製品1(予備的主張)も「スクラバー流体ループ(9)から汚染され たスクラバー流体の一部を抜き取り、それにより、汚染されたスクラバ ー流体の前記一部を処分のためにスクラバー流体ループから取り除くた めの手段」を備えず、構成要件Bを充足しない。 20 (ウ) 原告の主張の検討
原告は、被告製品1(予備的主張)及び被告製品3について、別紙製 品目録記載3の図のとおり、WTS中のバッファタンクへ還流する経路 とブリードオフ(船外環境への排出)の経路との分岐点に、一方の孔か ら入ってきた流体を二方向のいずれか一方に排出することができる三方 25 弁が存在し、この三方弁がブリードオフの経路に向けて設定されていれ ば、処理後の噴霧水をスクラバー流体ループを形成するバッファタンク 60 に還流させることはないと主張する。 しかし、被告製品1(予備的主張)及び被告製品3における三方弁 (前記(イ))について、弁の向きを切り替えることは一切なく、汚染物質 相を取り除かれた噴霧水が常に船外に排出される向きにされていること 5 を認めるに足りる証拠はないから、上記三方弁は、必要に応じて、噴霧 水が船外に排出される向きにされたり、バッファタンクに戻る向きにさ れたりするものと認めるのが相当である。そして、前記(ア)のとおり、 「スクラバー流体ループ(9)から汚染されたスクラバー流体の一部を 抜き取り、それにより、汚染されたスクラバー流体の前記一部を処分の 10 ためにスクラバー流体ループから取り除くための手段」(構成要件B) とは、「分離機」により「浄化されたスクラバー流体」を全て環境に放 出し、再び「スクラバー流体ループ」に戻すことはないものをいうと解 されるところ、被告製品1(予備的主張)及び被告製品3は、三方弁に おける弁の向きを必要に応じて変えることにより、分離機によって汚染 15 物質相を取り除かれた噴霧水を船外に排出したり、本件発明の「スクラ バー流体ループ」に相当する噴霧水の循環経路の一部をなすバッファタ ンクに再び送り込まれるものであるから、上記「手段」を備えないとい わざるを得ない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 20 イ 小括 以上のとおり、被告製品1(予備的主張)及び被告製品3は、構成要件 Bを充足しないから、その余の点を判断するまでもなく、本件発明の技術 的範囲に属するとは認められない。 3 争点2(被告各製品について間接侵害が成立するか)について 25 前記2(1)のとおり、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2は、バッファ タンクからEGR排水タンクに貯留された噴霧水が分離機によって汚染物質相 61 を取り除かれ、フィルタによって更に浄化された後に、その一部が船外に排出 されるものであるから、構成要件Fを充足せず、そうすると、被告製品1(主 位的主張)及び被告製品2を含む配水・水処理システム全体も、同様に構成要 件Fを充足しないというほかない。 5 また、前記2(2)のとおり、被告製品1(予備的主張)及び被告製品3は、バ ッファタンクから供給された噴霧水が分離機によって汚染物質相を取り除かれ て浄化された後、三方弁における弁の向きにより、船外に排出されるか、再び 噴霧水の循環経路の一部をなすバッファタンクに送り込まれるものであるから、 構成要件Bを充足せず、そうすると、被告製品1(予備的主張)及び被告製品 10 3を含む配水・水処理システム全体も、同様に構成要件Bを充足しないという ほかない。 したがって、被告各製品が別紙製品目録記載2及び3の各図で示される配 水・水処理システム全体の生産にのみ用いるものであるか否かにかかわらず、
被告各製品について、特許法101条1号の間接侵害が成立するとは認められ 15 ない。 4 文書提出命令等の申立てについて (1) 対象文書を取り調べる必要性
原告は、「ONZ100」及び「ONZ」を型番に含む被告のその他製品 の構成を証明するために、@ 乙第6号証として提出された文書のマスキング 20 部分及び削除頁を含む完全な文書(以下「対象文書1」という。)、A 対象 文書1以外の、ONZを型番に含む、被告の各製品の、各顧客(株式会社三 井E&Sマシナリーを特に含む)向け仕様書(「WTSユニット仕様書」と 題するものを特に含む)(以下「対象文書2」という。)を対象文書とする 文書提出命令及び書類提出命令の申立て(東京地方裁判所令和3年(モ)第3 25 558号)をし、B 被告の令和3年4月22日付け準備書面(2)14頁に引 用された図が記載された完全な文書(以下「対象文書3」という。)を対象 62 文書とする文書提出命令及び書類提出命令の申立て(東京地方裁判所令和4 年(モ)第195号)をした。 しかし、前記2(1)ア(イ)のとおり、被告製品1(主位的主張)及び被告製 品2の構成は、原告の主張(前記第2の4(1)(原告の主張)ア(ア))のとお 5 りであると認められる。また、前記2(2)ア(イ)のとおり、被告製品1(予備 的主張)及び被告製品3の構成は、原告の主張(前記第2の4(1)(原告の主 張)ア(イ))のとおりであると認められる。 さらに、原告の主張からは、対象文書1ないし3にいかなる記載があり、 これによりいかなる事実を立証しようとするのかは明らかでなく、原告の上 10 記各申立ては、被告に対して探索的に証拠の開示を求めるものといわざるを 得ない。 したがって、対象文書1ないし3を証拠として取り調べる必要性は認めら れない。 (2) 原告の主張の検討 15 ア 原告は、被告が、被告各製品を製造販売する事実を否認し、原告の主張 する製品の構成を争うにもかかわらず、特許法104条の2に基づき被告 各製品の具体的態様を明らかにしないから、対象文書1ないし3を取り調 べる必要性があると主張する。 しかし、前記(1)のとおり、本件訴訟の関係証拠から、被告各製品の構成 20 は原告の主張するとおりに認定することができるから、被告の応訴態度を もって、直ちに本件文書1ないし3を取り調べる必要性を肯定することは できない。 イ 原告は、被告が、被告製品1の構成は被告の令和3年4月22日付け準 備書面(2)14頁に引用された図のとおりであると主張しながら、これが記 25 載された対象文書3を証拠として提出していないから、被告の主張の真偽 を判断するために対象文書3を取り調べる必要があると主張する。 63 しかし、原告は、対象文書3にいかなる記載があり、これによりいかな る事実を立証しようとするのかを明らかにしておらず、探索的に対象文書 3の取調べを求めるものといわざるを得ない。また、被告の主張の真偽に かかわらず、前記(1)のとおり、被告各製品の構成は原告の主張するとおり 5 に認められるものである。よって、対象文書3を取り調べる必要性は認め られない。 ウ 原告は、被告の令和3年4月22日付け準備書面(2)14頁に引用された 図(別紙製品目録記載3の図)にフィルタは記載されていないが、被告は フィルタが存在するとして構成要件Fを充足しないと主張するものである 10 から、対象文書3を取り調べればフィルタの有無は明らかとなると主張す る。 しかし、前記2(2)ア(イ)のとおり、被告製品1(主位的主張)及び被告 製品2の構成とは異なり、被告製品1(予備的主張)及び被告製品3の構 成については、分離機によって汚染物質相を取り除かれた噴霧水を更に浄 15 化するためのフィルタが存在するとの認定をしていないところ、このよう なフィルタの有無にかかわらず、被告製品1(予備的主張)及び被告製品 3は構成要件Bを充足しないから、やはり対象文書3を取り調べる必要性 は認められない。 エ 原告は、乙第6号証(乙第60号証)が、対象文書1の相当数の頁を削 20 除して作成されたものであり、提出された全ての頁にマスキング部分を含 むものであるから、被告に不利な部分を隠蔽することによって、裁判所に 不公正な心証を形成させる危険があるとして、対象文書1を取り調べる必 要があると主張する。 しかし、前記イと同じく、原告は、対象文書1にいかなる記載があり、 25 これによりいかなる事実を立証しようとするのかを明らかにせず、探索的 に対象文書1の取調べを求めるものである。また、前記(1)のとおり、被告 64 各製品の構成は原告の主張するとおり認められるものである上、前記2(1) ア(イ)及び(2)ア(イ)のとおり、被告各製品の構成を認定するに当たり、乙第 6号証(乙第60号証)は斟酌していない。 オ したがって、原告の前記アないしエの主張はいずれも採用することがで 5 きない。 (3) 小括 以上の次第で、原告の前記(1)の各申立ては、いずれも却下する。 第4 結論 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし 10 て、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 15 國分隆文 裁判官 20 小川暁 裁判官 25 バヒスバラン薫 65 66 (別紙) 製品目録 1 「ONZ100」の商品名で販売されるEGRユニット用水処理システム 2 「ONZ」を含む商品名で販売されるEGRユニット用水処理システムであっ て、下図の赤線枠内に記載の構成を備え、下記の特徴を有するもの(個別の機器 の名称については例示とする。)。 (1) 当該水処理システムは、外部排ガス再循環ユニットに噴霧された噴霧水の循 環経路から一部の噴霧水を外部バッファタンクを介して水処理システムポンプ により引き込む。 (2) 当該水処理システムは、当該一部噴霧水から、分離機により、汚染物質を含 む汚水を分離して、一方の分離機出口から、陸揚げ向けの外部EGR汚水タン 67 クに回収し、他方の分離機出口から浄化された水を出してその一部を船外排出 する。 3 「ONZ」を含む商品名で販売されるEGRユニット用水処理システムであっ て、下図の「WTS」として指示される点線枠内に記載の構成(ただし、それ自 体にバッファタンクを備えないものを含む。)を備え、下記の特徴を有するもの (個別の機器の名称については例示とする。)。 EGRユニット EGR EGR 冷却器 冷却噴 霧 ブリードオフ バッ ファタ 分離機 ンク ポンプ ポンプによる EGR汚 陸送を予定 水タンク (1) 当該水処理システムは、外部排ガス再循環ユニットに噴霧された噴霧水の循 環経路から一部の噴霧水をバッファタンクを介してWTSポンプにより引き込 む。 (2) 当該水処理システムは、当該一部噴霧水から、分離機により、汚染物質を含 む汚水を分離して、一方の分離機出口から、陸揚げ向けの外部EGR汚水タン クに回収し、他方の分離機出口から浄化された水を出してその一部を船外排出 する。 以上 68 (別紙) 図面目録 【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 69 【図5】 以上 70
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2023/02/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容