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事件 |
令和
4年
(ネ)
10061号
特許権侵害行為差止等請求控訴事件
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控訴人泉株式会社 同訴訟代理人弁護士 高山和也 清水正憲 同訴訟代理人弁理士 江間晴彦 高岡健 田村啓 被控訴人 株式会社近畿エデュケーショ ンセンター 同訴訟代理人弁護士 飯島歩 藤田知美 三品明生 同訴訟代理人弁理士 山田茂樹 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2023/02/09 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、別紙物件目録記載の製品を製造し、譲渡し、輸入し、貸し渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 3 被控訴人は、その占有に係る別紙物件目録記載の製品を廃棄せよ。 4 被控訴人は、控訴人に対し、7963万4080円及びこれに対する令和2年4月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。 6 仮執行宣言 |
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事案の概要
1 事案の要旨 本件は、発明の名称を「マグネットスクリーン装置」とする2件の特許(本件各特許)に係る特許権(本件各特許権)を有する控訴人が、被控訴人が別紙物件目録記載の各製品(以下「被控訴人製品」という。)を製造、譲渡等することは本件各特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被控訴人製品の製造、譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為に基づき、損害賠償金7963万4080円及びこれに対する不法行為の後の日である令和2年4月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決は、本件特許1は、拡大先願要件に違反し、無効審判により無効にされるべきものであるから控訴人は本件特許権1を行使することができず、また、被控訴人製品は本件特許2の技術的範囲に属さないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したことから、控訴人が控訴した。控訴人は、当審において、本件特許権1に基づ 2く請求につき、請求原因となる発明を、本件訂正後発明1から、令和4年9月16日付け審決において認められた訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係るもの(以下「本件再訂正後発明1」という。)へと変更した。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨から認められる事実。以下「前提事実」という。) 以下のとおり訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1に記載するとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決3頁21行目の末尾に改行して、次のとおり加える。 「ウ 控訴人は、令和4年3月8日、本件特許1について特許請求の範囲の請求項1の記載を訂正するため、3回目の訂正審判請求を行い(同審判請求に係る訂正を「本件再訂正」という。 、令和4年9月16日、本件訂正後の請求項1について )訂正することを認める審決がされ、同審決は確定した。 本件再訂正による訂正後の本件特許1の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(本件再訂正部分に下線を付した。。なお、本件訂正及び本件再訂正 )により特許請求の範囲の記載が訂正されたが、本件明細書1におけるその余の記載には変更がない。 【請求項1】 可搬式のマグネットスクリーン装置であって、 投影面と該投影面に対向するマグネット面とを備えたスクリーンシート、および スクリーンシートを巻き取るためのロール部材 を有して成り、 非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるようにスクリーンシートがロール部材に巻き取られており、 巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートと接するように設けられた長尺部材、並びに、スクリーンシート、ロール部材および長尺部材を収納するケーシン 3グを更に有して成り、非使用時並びに巻き出し時および巻き取り時において、前記ロール部材および前記長尺部材が前記ケーシングに収納されており、 スクリーンシートの巻き出し時又は巻き取り時において長尺部材が投影面と直接的に接し、ケーシングはスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取りのための開口部を有し、および長尺部材が、該開口部に位置付けられており、かつ、マグネットスクリーン装置が設けられる設置面に対して相対的に近い側に位置付けられるロール部材の下側ロール胴部分に隣接して設けられており、 前記長尺部材が、巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートとの摺動接触に起因して回転可能となっており、 前記ケーシングは、取手部と、前記マグネットスクリーン装置の設置時に前記設置面に接するケーシング裏面に設けられたケーシング・マグネットとを有し、前記スクリーンシートの短手端部には、裏面にマグネットを有する操作バーが設けられていることを特徴とする、可搬式のマグネットスクリーン装置。」 (2) 原判決3頁24行目の「という。」の次に「、本件再訂正後の同請求項1に )係る発明(本件再訂正後発明1)」を挿入し、同頁25〜26行目の「下線部が本件訂正部分」を「本件訂正部分及び本件再訂正部分に下線を付した。」と、4頁1行目冒頭の「ア」を「ア(ア)」とそれぞれ改め、同頁20行目の末尾に改行して次のとおり加える。 「(イ) 本件再訂正後発明1 1A 可搬式のマグネットスクリーン装置であって、 1B-1 投影面と該投影面に対向するマグネット面とを備えたスクリーンシート、および 1B-2 スクリーンシートを巻き取るためのロール部材を有して成り、 1C 非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるようにスクリーンシートがロール部材に巻き取られており、 1D-1 巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートと接するように設け 4られた長尺部材、並びに、スクリーンシート、ロール部材および長尺部材を収納するケーシングを更に有して成り、非使用時並びに巻き出し時および巻き取り時において、前記ロール部材および前記長尺部材が前記ケーシングに収納されており、 1D-2 スクリーンシートの巻き出し時又は巻き取り時において長尺部材が投影面と直接的に接し、 1D-3 ケーシングはスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取りのための開口部を有し、および 1D-4-1 長尺部材が、該開口部に位置付けられており、かつ、マグネットスクリーン装置が設けられる設置面に対して相対的に近い側に位置付けられるロール部材の下側ロール胴部分に隣接して設けられており、 1D-4-2 前記長尺部材が、巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートとの摺動接触に起因して回転可能となっており、 1D-4-3 前記ケーシングは、取手部と、前記マグネットスクリーン装置の設置時に前記設置面に接するケーシング裏面に設けられたケーシング・マグネットとを有し、前記スクリーンシートの短手端部には、裏面にマグネットを有する操作バーが設けられていることを特徴とする、 1E 可搬式のマグネットスクリーン装置。」 (3) 原判決5頁7行目から同頁10行目までを次のとおり改める。 「(4) 被控訴人製品は、本件再訂正後発明1に係る構成要件1A〜1C、1D-2、1D-3、1D-4-3及び1Eを充足し、本件発明2に係る構成要件2A〜2C、2E及び2Fを充足する。」 3 争点及び争点に対する当事者の主張 以下のとおり訂正し、後記4に当審における当事者の主張を補足するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2及び「第3 争点についての当事者の主張」に記載するとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決の5頁15行目、17行目及び20〜21行目並びに6頁5行目の各 5「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」とそれぞれ改め、5頁22行目から6頁1行目までを削り、同頁2行目冒頭の「エ」を「イ」と、同行目の「引用発明2」を「平成27年12月7日公開の公開特許公報(特開2015-217642号。乙11。以下「乙11公報」という。)記載の発明(以下「引用発明2」という。」と、同頁5行目の「争点3-4」を「争点3-2」とそれぞれ改める。 ) (2) 原判決の6頁15行目及び26行目並びに7頁9行目、12行目、14〜15行目及び21行目の各「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」とそれぞれ改め、同頁9行目の「長尺部材の」及び同頁21行目の「における長尺部材」をそれぞれ削る。 (3) 原判決の7頁26行目及び8頁7行目の各「構成要件1D-4」を「構成要件1D-4-1」とそれぞれ改め、同行目の末尾に改行して、次のとおり加える。 「(4) 後記4「当審における当事者の主張」(1)(控訴人の主張)イのとおり、被控訴人製品は構成要件1D-4-2も充足する。したがって、被控訴人製品は、本件再訂正後発明1の技術的範囲に属する。」 (4) 原判決8頁15行目、16行目及び22行目並びに9頁20行目及び21行目の各「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」とそれぞれ改める。 (5) 原判決10頁12行目及び23行目の各「構成要件1D-4」を「構成要件1D-4-1」と、同頁14行目の「構成要件1D-1〜1D-4」を「本件再訂正後発明1」とそれぞれ改め、同頁23行目の末尾に改行して、次のとおり加える。 「(4) 後記4「当審における当事者の主張」(1)(被控訴人の主張)イのとおり、 被控訴人製品は構成要件1D-4-2も充足しない。したがって、被控訴人製品は、 本件再訂正後発明1の技術的範囲に属しない。」 (6) 原判決13頁21行目の「本件発明2に係る請求項や本件明細書2では」を「本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2には」と、14頁3行目の「接地面」を「設置面」とそれぞれ改める。 (7) 原判決14頁19行目の「乙10公報記載の発明(引用発明1-1)」を 6「引用発明1-1」と、同行目並びに15頁16行目及び25行目の各「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」と、同頁17行目の「1D-4」を「1D-4-1」とそれぞれ改め、同頁12行目から14行目までを次のとおり改める。 「引用発明1-1の1a〜1eの各構成は、少なくとも本件再訂正後発明1の1D-4-2及び1D-4-3を除く各構成要件と一致する。」 (8) 原判決16頁6行目から同頁9行目までを次のとおり改める。 「(3) 控訴人は、引用発明1-1と本件再訂正後発明1は、前記(2)の点に加え、 構成要件1D-4-2及び1D-4-3に係る構成においても相違すると主張するが、後記4「当審における当事者の主張」(3)(被控訴人の主張)のとおり、引用発明1-1と本件再訂正後発明1は、実質的に同一である。 (4) したがって、本件再訂正後発明1は、本件発明1に係る特許出願後に出願公開された乙10公報に記載された引用発明1-1と同一であるから(特許法29条の2)、本件再訂正後発明1に係る特許は無効審判により無効にされるべきものであって、本件において、控訴人は、本件特許権1を行使することができない。」 (9) 原判決16頁11行目の冒頭に「(1)」を挿入し、同頁11行目、13行目及び24行目並びに17頁13行目の各「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」と、16頁11行目及び24行目の「1D-4」を「1D-4-1」とそれぞれ改め、17頁15行目の末尾に改行して次のとおり加える。 「(2) 前記(1)に加え、後記4「当審における当事者の主張」(3)(控訴人の主張)のとおり、本件再訂正後発明と引用発明1-1とは、構成要件1D-4-2及び1D-4-3に係る構成においても相違し、同一又は実質的に同一ではない。」 (10) 原判決17頁16行目から20頁25行目までを削る。 (11) 原判決20頁26行目冒頭の「6」を「4」と、同行目の「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」と、21頁1行目の「(争点3-4)」を「(争点3-2)」と、同頁4行目の「引用発明2」を「引用発明3」とそれぞれ改める。 (12) 原判決22頁7行目から23頁15行目までを次のとおり改める。 7 「本件再訂正後発明1と引用発明3に相違点があるとしても、当該相違点は、後記4「当審における当事者の主張」(4)(被控訴人の主張)のとおり、引用発明3に、平成27年2月12日発行の登録実用新案公報(実用新案登録第3195909号。乙33。以下「乙33公報」という。)記載の発明(以下「副引用発明」という。)を組み合わせることで、当業者が容易に発明できたものである。 (3) したがって、本件再訂正後発明1は進歩性を欠くから(特許法29条2項)、 本件再訂正後発明1に係る特許は無効審判により無効にされるべきものであって、 本件において、控訴人は、本件特許権1を行使することができない。」 (13) 原判決23頁20行目及び22行目の各「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」とそれぞれ改め、同頁21行目の「周知慣用技術又は」を削り、24頁1行目の「また、」から同頁6行目末尾までを「仮に、引用発明3におけるマグネットスクリーン装置全体を支持するブラケットに代えて副引用発明のようにマグネットを用いて装置全体を支持し、引用発明3のガイドローラ10を用いてスライド可能になるようにして「可搬式」とした場合、それだけではマグネットスクリーン装置の開口部は設置面方向(下方)に開口することになる上、ケースの端部も設置面にほぼ当接することになるため、シートを開口部から引き出して巻き出す又は巻き取る際には、シートが磁着面に磁着してしまい、ケース端部が設置面に接触するためにケースを傾けることもできず、スムーズな巻き出し及び巻き取りを行うことは不可能である。」と改める。 (14) 原判決24頁15行目冒頭の「7」を「5」と、同行目の「乙10公報記載の発明(引用発明4-1)」を「引用発明4-1」と、25頁9行目及び25行目の各「本件特許2」を「本件発明2に係る特許」とそれぞれ改め、同頁10行目及び26行目の各「ものであって、」の次に「本件において、」を挿入する。 (15) 原判決26頁9〜10行目の「前記3のとおり」を「引用発明1-1と同様に(前記3(控訴人の主張)参照)」と改め、27頁11行目の末尾に改行して次のとおり加える。 8 「したがって、引用発明4-1に引用発明2を組み合わせる動機が生じ得ず、引用発明4-1の押さえ部を引用発明2に基づいてケースに対して移動不可能に取り付けることによっても、本件発明2の構成には容易に想到できない。」 (16) 原判決27頁12行目冒頭の「8」を「6」と、同行目の「乙10公報記載の発明(引用発明4-2)」を「引用発明4-2」と、28頁7行目及び21行目の各「本件特許2」を「本件発明2に係る特許」とそれぞれ改め、同頁8行目及び22行目の各「ものであって、」の次に「本件において、」とそれぞれ改める。 (17) 原判決29頁3行目の「本件特許発明2」を「本件発明2」と改める。 (18) 原判決29頁18行目冒頭の「9」を「7」と、同頁26行目の「1億8083円」を「1億8083万5200円」と、30頁5行目の「被告の」を「被控訴人製品の」と、同頁7行目の「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」とそれぞれ改める。 4 当審における当事者の主張 (1) 争点1(本件再訂正後発明1の技術的範囲への属否)について (控訴人の主張) ア 構成要件1D-1の「収納」について 本件再訂正後発明1における長尺部材の技術的意義からすると、長尺部材が完全にケーシングの内側に位置付けられることを必須とするものではなく、被控訴人製品は、構成要件1D-1の「収納」を充足する。 被控訴人は、可搬式である場合の衝撃や汚損から可及的に保護されるべきことや、 使用状態において露出している点を挙げて、被控訴人製品においては長尺部材(押さえローラー)が「収納」されていないと主張するが、可搬式である場合の衝撃や汚損から可及的に保護されるべきことなど本件明細書1に何ら記載されておらず、 また、使用状態において長尺部材が露出することは、本件明細書1【図9】から明らかなとおり、本件再訂正後発明1において予定されている。 イ 構成要件1D-4-2の充足性 9 本件再訂正後発明1の構成要件1D-4-2は、「前記長尺部材が、巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートとの摺動接触に起因して回転可能となっており、」であるところ、被控訴人製品における「長尺部材」に相当する部材は「押さえ『ローラー』」として回転を前提とする名称の部材であること(乙8、3枚目の写真)、被控訴人製品の長尺部材はケーシングの両端部に軸支されていること(乙8)、被控訴人製品の取扱説明書(甲7)において「※動作時に本体より音鳴りがすることがありますが、回転摩擦によるもので、故障ではございません。」として「回転」することが記載されていることや、被控訴人自身が、被控訴人製品は、押さえローラーでマグネットスクリーンシートを黒板などの設置面に押え付けた状態でスライドさせることによって、本体ケースからマグネットスクリーンシートを繰り出しながら順次設置面に押圧して貼り付けていくものである旨主張していること(原審被告準備書面(1)11頁1〜4行目)からすると、被控訴人製品の「押さえローラー」は、「マグネットスクリーンシート」が巻き出し又は巻き取られる際、 「マグネットスクリーンシート」と摺動接触することにより「回転可能」であることは明らかである。 したがって、被控訴人製品は、構成要件1D-4-2を充足する。 (被控訴人の主張) ア 構成要件1D-1の「収納」について 被控訴人製品において、「長尺部材」に相当する押さえローラーは、「ケーシング」に相当する本体ケースに「収納」されていないから、被控訴人製品は構成要件1D-1を充足しない。 (ア) 字義 「収納」には、物を特定の範囲の中にきちんと入るようにかたづけるという字義があるから(乙6)、開口部が設けられた収納器においては、被収納物が収納器の範囲内にきちんと入っている状態にあることを意味する。 (イ) 本件明細書1の記載 10 a 本件明細書1の段落【0012】 【0033】 【図3】 【図4】 、 、 、 (以下、明細書の段落番号を示すときは、段落である旨の記載を略し、隅付き括弧による段落番号のみを記載する。)の記載に照らすと、長尺部材は、「巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートと接するように設けられた」長尺の円筒状の部材であって、 従来技術との比較においては、シートの巻き取りにおいては、ロール部材におけるシートの巻き方を「逆」にする際のガイドとして作用し、シートの巻き出しに際し、 カールの発生なくシートを展張保持することを可能にするための部材であるといえる。 そして、本件明細書1の【0013】の記載によれば、長尺部材は、ケーシングのシート巻出し・巻取り口又はその近傍に位置付けられるものであり、【図9】は、 その具体的位置が、長尺部材の全体がケーシングの内部に収まる位置であることを開示している。 そうすると、長尺部材は、ケーシング内にあって、シート巻出し・巻取り口又はその近傍に位置付けられ、ロール部材におけるシートの巻き方が通常とは逆方向になるようにガイドの役割を果たすものである。 b 本件明細書1の【0043】には、「可搬式の装置」であることが、同【0045】には、その搬送は、取手部41を持つことで人手によって行われることが想定されていることが記載されているところ、可搬式のマグネットスクリーン装置は、恒常的に黒板などの設置面に張り付けられて使用されるとは限らず、手持ち又は自動車その他の輸送機に積載して運搬することや、壁に立て掛けられたり平積みにされたりして保管されることも想定されるものであるから、適切に保護されていなければ、落下や振動、衝突などによって、スクリーンやロール部材、長尺部材が破損し、又は汚損される可能性も高いから、スクリーンシート、ロール部材及び長尺部材がケーシングに「収納」されている、すなわち、「被収納物が収納器の範囲内にきちんと入っている状態」にあるという場合、当業者としては、これらの部材の一部をケーシングの外部に露出させなければならないような特段の技術的要請が 11ない限り、それらがケーシングの内部に完全に収容され、落下や振動、衝突、汚損などから保護されている状態を指すものと理解するものであり、その一部が露出しているような状態は想定しない。 また、本件明細書1の【0052】【図13】に記載された「ケーシングをスラ 、 イド移動させる態様」は、ケーシングの開口部から長尺部材が露出していると実現できない。 これらの観点からも、長尺部材がケーシングに「収納」された状態にあるといえるためには、原則として、長尺部材がケーシングに完全に覆われていることが必要であり、仮にその一部がケーシングから露出していても「収納」といえる場合があるとしても、長尺部材がケーシングから突出し、シートの巻き出しに際してケーシングよりも優先的に接触するような場合には、もはや「収納」されているとはいえないものと解すべきである。 c 以上のとおり、ケーシングは、美観又は内部構造の保護のために内部構造を覆うものであるところ、可搬式の装置の場合には、特に衝撃や汚損の危険が大きいことから、長尺部材がケーシングに「収納」された状態にあるといえるためには、 長尺部材が、ケーシングの外部に露出することなく、衝撃や汚損から可及的に保護されるよう、その中にきちんと入っている状態にあることを要するものと解すべきである。 また、少なくとも、シートの巻き出しに際して、長尺部材が、シートを挟んで、 ケーシングに優先して設置面に接触するような状態、すなわち、長尺部材がケーシングから突出した状態は、「収納」に当たらないものと解すべきである。 そして、以上の意味において長尺部材がケーシングに「収納」されていないときは、構成要件1D-1の「長尺部材を収納するケーシング」及び「前記収納部材が前記ケーシングに収納されており」を充足しない。 (ウ) 被控訴人製品の構成等 a 被控訴人製品において長尺部材に相当すると解されているのは、下記写真 12(原判決別紙写真目録の写真4)に見られる「押さえローラー」であるところ、同写真から明らかなとおり、押さえローラーは、そのほぼ全体がケーシングから露出しており、両端において回転軸がケーシングによって支持されている結果、当該部分がケーシングによって覆われているにすぎない。 キャップ(側板) 押さえローラー 本体ケース 被控訴人製品においては、押さえローラーのうち、衝撃や汚損等から保護する必要の高い長手方向においては、ケーシングによる保護を受けることができず、およそ「収納」の目的を達することができない状態にある。 被控訴人製品は、押さえローラーを「収納」することによって保護することよりも、押さえローラーによってマグネットスクリーンシートを設置面上に押し付け、 13きれいに張り付けることを優先した結果、あえて押さえローラーを本体ケースに「収納しない」選択をしたものである。 したがって、被控訴人製品においては、押さえローラーが本体ケースの「範囲内にきちんと入っている状態」にあるとはいえず、むしろ、シートの巻き出しに際して、押さえローラーが本体ケースに優先して設置面に接触するような構造をあえて採用したものといえるから、押さえローラーが本体ケースに「収納」されているとはいえない。 b 原判決は、本件訂正後発明1の構成要件1D-1について、「ケーシングに『収納』するとは、長尺部材の全部がケーシング内に完全に収まることを要するものではなく、ケーシングと長尺部材の位置関係として、ケーシングにしまわれている状態(整然と入れられた状態)を意味し、少なくとも、ケーシングの開口部を含めたケーシングの内部に長尺部材の大部分が入れられている状態はこれに当たると解するのが相当である。」と解釈したが、その根拠は示されていない。また、機械的構造の発明において、発明を構成する部材が「整然」と配置されていることは当然であって、「整然と入れられた」か否かを問題とするのは無意味である。 原判決は、上記解釈を前提として、被控訴人製品の押さえローラーの大部分が本体ケースに覆われていることから、本体ケース及びキャップにしまわれている状態であるといえると判断したが、以下の図に示すとおり、押さえローラーの長手方向に垂直の断面のうち、本体ケースに覆われた部分は断面積にして29.3%にすぎないから、これに長手方向の長さを乗じることによって求められる押さえローラーの体積を基準とすれば、7割以上が本体ケースから露出していることになり、押さえローラーの円の中心角を基準としても6割弱が本体ケースから露出している。 14 このような状態をもって、押さえローラーの「大部分が本体ケースに覆われている」などといえるわけがなく、原判決には甚だしい事実誤認がある。 c 原判決は、「押さえローラーがケーシングにしまわれている状態か否かは、 投影面側又は設置状態における側面側を含む被控訴人製品の全体を観察して判断すべきであって、使用状態において視認されない設置面側からの観察に限定すれば押さえローラーがケーシングから多くはみ出しているように見えるからといって、ケーシングにしまわれている状態にないと判断する合理的理由はない」としたが、 「収納」は、単なる外観を問題にするものではなく、ケーシングと長尺部材の位置関係という、装置の構造を特定する概念であって、ケーシングの技術目的や長尺部材の構造や特性によって認定されるべき技術事項であるから、外観の観察手法によって左右されるようなものではなく、原判決の上記手法は誤りである。 (エ) 小括 したがって、被控訴人製品は構成要件1D-1を充足せず、被控訴人製品は、本件再訂正後発明1の技術的範囲には属しない。 イ 構成要件1D-4-2の充足性について (ア) 本件明細書1には、「かかる長尺部材30は、巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートとの摺動接触に起因して回転可能(特に、長尺部材の軸方向中心に回転可能)となっており、それによって、「設置面側に抑え込まれるスクリー 15ンシート10」に起因して長尺部材30にもたらされ得る摩擦抵抗が減じられることになり、よりスムーズな巻き出し又は巻き取りが実現される。 ( 」 【0049】 、 )「操作バー15をケーシング40から引き離すように移動させる。より具体的には、 操作バー15に設けられたハンドル部15Aを掴み、スクリーンシート10が巻き出される方向へと操作バー15を移動させる。所望の長さ分のシートを巻き出したら操作バー15を設置面上に配置する。( 」【0051】、 )「ケーシング40を設置面に沿ってスライド移動させることによってスクリーンシート10の巻き出しを行う。 特に、ケーシング40にはローラー部材49(図13の他、図9および図10など参照)が設けられており、かかるローラー部材49の回転運動によって、ケーシング40を設置面に沿って好適にスライド移動させることができる。 ( 」【0052】)といった記載がある。 これらの記載及び本件明細書1の【図12】【図13】からすると、構成要件1D-4-2の「前記長尺部材が、巻き出される又は巻き取られるスクリーンシ一卜との摺動接触に起因して回転可能」とは、以下のとおりにシートの巻き出し及び巻き取りと長尺部材の回転とが生じることを意味するものである。 @ ユーザーがシートをケーシングから引っ張り出す(本件明細書1の【図12】、又は設置面に沿ってケーシングをスライド移動させる(同【図13】。 ) ) A @によってロール部材からシートが巻き出される、又は、ロール部材にシートが巻き取られる。 B Aによってシートが長尺部材の円周方向に沿って力を加え、この力によって長尺部材が回転する。 (イ) これに対し、被控訴人製品は、設置面上を押さえローラーが回転する構成を有しており、以下の仕組みによって押さえローラーが回転し、シートの巻き出し及び巻き取りが生じるものであって、押さえローラーの回転によってシートに力が加えられ又はシートに加えられていた力が解放され、それによってシートが巻き出し・巻き取られるものであるから、被控訴人製品は「前記長尺部材が、巻き出され 16る又は巻き取られるスクリーンシ一卜との摺動接触に起因して回転可能」な構成を有していない。 <巻き出し時> @ ユーザーが設置面に沿って本体ケースをスライド移動させる。 A @によって、シートを挟んで設置面に接触している押さえローラーが回転し、 押さえローラーがシート設置面に押さえ付けつつ、ロール部材に巻きつけられたシートを引っ張る力を加える。 B Aによってシートが設置面に向かって引っ張られ、これによってシートがロール部材から巻き出される。 <巻き取り時> @ ユーザーが設置面に沿って本体ケースをスライド移動させる。 A @によって、シートを挟んで設置面に接触している押さえローラーが回転し、 押さえローラーがシートを設置面側に押し付けていた力が解放される。 B Aによって、設置面側に押し付ける力が解放されたシートが、ロール部材に向かって巻き取られる。 (ウ) さらに、被控訴人製品は、押さえローラーを設置面上で転がすことなくシートを引き出すことができる構成にはなっておらず(甲5、6、乙3〜5)、使用する際には必ず押さえローラーが設置面上を回転することになるため、「前記長尺部材が、巻き出される又は巻き取られるスクリーンシ一卜との摺動接触に起因して回転可能」になるように使用することもできない。 (エ) したがって、被控訴人製品は、構成要件1D-4-2を充足せず、本件再訂正後発明1の技術的範囲には属しない。 (2) 争点2(本件発明2の技術的範囲への属否)について (控訴人の主張) ア 被控訴人製品の「押さえローラー」は、設置完了時にスクリーンの設置面からの“浮き”を抑制するという作用効果を奏する程度に設置面から近接した位置に 17あるから、「同一平面上に位置づけられ」ており、構成要件2Dを充足する。 イ 原判決は、磁石が設置面に磁着した状態において、棒部材の直下において、 マグネットスクリーンが設置面から浮かないことをもって、「同一平面上に位置付けられ」ているものと解釈し、被控訴人製品は、構成要件2Dの「同一平面上に位置付けられ」を充足しないと判示したが、上記解釈は本件発明2に係る願書に添付した明細書及び図面に整合せず、審査経過における控訴人の主張に対する誤った理解に基づくものであり、誤りである。 (ア) 本件発明2に係る出願書類に添付した図3(B)及び図4(C)の抜粋(甲28)からも明らかなとおり、本件発明2においては、そもそもマグネットスクリーン装置のケーシングが設置面に保持された状態において、ケーシング表面に備えられた磁石と棒部材とが同一平面にはないし、棒部材の直下において設置面とマグネットスクリーンを間隙なく接触させる態様ではないから、上記原判決の解釈は願書に添付した図面と矛盾する。また、出願人である控訴人は、本件特許2の出願当初からケーシング表面に備えられた磁石と棒部材とが完全同一平面にあることは想定しておらず、「略同一平面」との文言は完全同一平面ではないことを前提としている。本件明細書2には、棒部材の自重により直下に位置するマグネットスクリーンを設置面に押圧することに限定されない旨の明示的な記載がある(【0058】、 【0066】。 ) (イ) 原判決は、審査経過において、控訴人が、本件特許2に係る特許請求の範囲の請求項1の発明につき、@引用文献4(乙11公報)記載の発明との相違点として、同発明において「ガイドローラ10により映写スクリーン7の裏面側を黒板1の表面に接触させる旨は開示されていない」と主張したこと(以下「審査経過@」という。、そしてA「ケーシングの開口部に棒部材が位置付けられている場合に、 )マグネットスクリーンと設置面とが隙間なく接触可能となることが明確であると思料」されると主張したこと(以下「審査経過A」という。)をもって、「同一平面上に位置づけられ」が、磁石が設置面に磁着した状態における、棒部材の直下におい 18て、マグネットスクリーンが設置面に「間隙なく」接触している状態を意味すると解釈した。 しかしながら、審査経過@の控訴人の主張は、特許請求の範囲に「同一平面」との限定が加えられる前にされた主張であるから、審査経過@の主張を、その後の補正で追加された「同一平面」の解釈に用いることは適切ではない。また、本件明細書2の【0050】には、磁石が設置面に貼り付いている状態を前提とした記載がなされていることから、構成要件2Dの「同一平面」はマグネットスクリーンの設置途中時ではなく設置完了時においてその機能を発揮するところ、審査過程@の控訴人の主張は、?据え置き式のマグネットスクリーン装置である乙11公報記載の発明が、ガイドローラによる映写スクリーンの案内時(即ち設置途中)において、 ガイドローラに沿って設置面に近い位置から(接触させることなく)映写スクリーンを設置するものであるのに対して、?本件発明2は、マグネットスクリーンの設置途中においてマグネットスクリーンの裏面側を設置面に接触させる点で異なる旨を主張したものであって、設置完了時において、棒部材が設置面に接触することを主張したものではない。よって、審査経過@での控訴人の主張を「同一平面」の解釈に用いることは不適切である。 そして、審査経過Aの控訴人の主張は、「マグネットスクリーン」が設置された状態で「設置面」から「浮かない」という効果を得ることができる位置に「棒部材」があれば足りる旨を説明したものである。これは、マグネットスクリーンの設置完了時の「棒部材」自体の「設置面」との接触関係をもってその位置関係を明らかにするものでもなく、「棒部材」と「設置面」との間に一切の隙間を許容しないことを述べたものでもない。このことは、本件発明2の解決しようとする課題が、マグネットスクリーンを設置面に好適に貼り付けて、プロジェクタからの映像を好適に投影すること(本件明細書2の【0005】 【0006】 、 )であることからも明らかである。つまり、設置されたマグネットスクリーンのうち、プロジェクタからの映像を投影する部分と設置面との接触こそが、本件発明2の課題解決にとって重要 19であるから、マグネットスクリーンのうちの、設置完了時における棒部材の(文字どおり)直下の投影すらされない部分と設置面との接触についてまで、棒部材が一切の隙間なく設置面と接触することを必須の構成として解釈されるべきものではない。 (ウ) 以上のとおり、原判決の解釈は誤ったものであり、「同一平面上に位置づけられ」るとは、完全に同一平面ではなく、設置完了時にマグネットスクリーンの設置面からの“浮き”を抑制するという棒部材の作用効果(本件明細書2の【0040】 【0041】 、 )を奏する程度に棒部材が設置面から近接した位置にあることをいうと解するべきである。 (被控訴人の主張) 控訴人は、本件特許2の出願書類に添付した図3(B)及び図4(C)(甲28)を根拠として、構成要件2Dの「同一平面上に位置づけられ」るとは、完全に同一平面ではなく、設置完了時にマグネットスクリーンの設置面からの“浮き”を抑制するという棒部材の作用効果を奏する程度に棒部材が設置面から近接した位置にあることをいうと解するべきであると主張するが、図面は、明細書において説明される実施形態等を視覚的により分かりやすくするための補助的なものにすぎず、特許発明の内容をそのまま表現したものでもないから、図3(B)及び図4(C)(甲28)を根拠とする控訴人の主張には理由がない。 そして、控訴人は、本件特許2に係る出願の審査において、設置段階だけでなくケーシングが設置面に保持された設置完了状態についても常に棒部材がマグネットスクリーンシートを設置面に押圧して接触可能なことについて、ケーシングの保持面と棒部材の位置関係が不足しているとの指摘を受け、それに応じてあえて「略」を含まない「同一平面上」と補正して、設置完了状態においても棒部材がマグネットスクリーンシートを設置面に押圧して接触可能であることを規定したのであるから、「同一平面上に位置付けられ」とは、棒部材の直下においてマグネットスクリーンが設置面に接触している状態となることを意味するものと解される。 20 この点、原判決が述べるとおり、被控訴人製品は、押さえローラーの直下において、マグネットスクリーンが設置面に接触していないから、「同一平面上に位置づけられ」ていない。 したがって、被控訴人製品は本件発明2の技術的範囲に属しない。 (3) 争点3-1(引用発明1-1に基づく本件再訂正後発明1の拡大先願要件違反の有無)について (被控訴人の主張) 本件再訂正後発明1と引用発明1-1は実質的に同一であるから、本件再訂正後発明1に係る特許には拡大先願要件違反の無効理由がある。次のとおり、本件再訂正により追加された構成要件1D-4-2及び1D-4-3に関する構成についても、実質的な相違点に当たらない。 ア 相違点に基づく作用効果に顕著な差がない場合は、これらを別個の発明としてそれぞれに特許を認めたのでは特許制度になじまないから、それぞれの発明は、 技術的思想の創作としては同一であると評価されるべきであって、相違点が周知・慣用手段の付加であり、その特許発明が奏する作用効果が、先願発明が奏する作用効果と前記周知・慣用手段がもたらす作用効果との総和にすぎない場合(すなわち、 格別のものでない、当業者が容易に予測できる場合)には、前記相違点は設計上の微差にすぎず、その特許出願に係る発明は先願発明に単なる周知・慣用手段を付加したものとして、先願発明と実質的に同一であると解すべきである。 イ 構成要件1D-4-2に関する相違点について 控訴人は、本件再訂正後発明1では長尺部材が回転可能であるが、引用発明1-1では押さえ部が回転可能ではないことが相違点であると主張し、本件再訂正後発明1における当該相違点による作用効果は、スムーズな巻き出し又は巻き取りを行うことであると主張する。 しかし、スクリーンシートと接触する部分を回転可能にすることは、本件特許1の出願当時におけるスクリーン装置の分野の周知・慣用手段である(例えば、乙3 219(特開平5-150366号公報)の明細書【0011】【0017】及び【図 、 1】に記載の「補助ローラー18」、乙40(特開平6-222462号公報)の明細書【0021】【0027】 、 、図3及び図4に記載の「ガイドローラー5a」、 乙41(特開平10-291397号公報)の明細書【0007】、図2及び図3に記載の「ローラー12〜15」、乙42(特開2009-122177号公報)の明細書【0024】【0025】及び図1に記載の「矯正ローラー12」。 、 ) さらに、スクリーンシートと接触する部材を回転可能にすることで、そのような部材を固定するよりも、スクリーンシートがスムーズに巻き出し、巻き取りが可能になることも、その構造自体から自明であり、格別なものでなく、当業者が容易に予測できるものである。 ウ 構成要件1D-4-3に関する相違点について 控訴人は、本件再訂正後発明1はケーシングに「取手部」を備えているが、引用発明1-1はこれを備えていないことが相違点であると主張し、本件再訂正後発明1ではケーシングをスライド移動させてスクリーンシートを巻き出す使用態様を想定しているが、引用発明1-1ではこのような使用態様が想定されておらず、この相違点は使用態様に由来するから課題解決手段における微差ではないと主張する。 しかし、ケーシングに取手部を設けることは、本件特許1の出願当時におけるスクリーン装置の分野の周知・慣用手段である(例えば、乙31(平成24年12月18日付けの株式会社ケイアイシーの商品カタログ)に記載の「WOL-FX」、 乙32(特開2006-178916号公報)の明細書【0009】及び図1に記載の「取っ手6」、乙33公報の明細書【0034】並びに図1ないし図3及び図5ないし図8に記載の「取っ手2a」 。 ) また、控訴人は、「取手部」を設ける作用効果として、ケーシングをスライド移動させてシートを巻き出すことが可能になるかのような主張をしているが、本件特許1においてケーシングのスライド移動を実現するために必須の構成は「ローラー部材49」であって、「取手部」を設けただけではケーシングをスライド移動させ 22ることはできない。「取手部」を設けるだけで得られる作用効果としては、これが設けられた装置の運搬が容易になるくらいであるが、このような作用効果は、スクリーンシート装置に限らず「取手部」が通常有する作用効果であり、上記の周知・慣用手段も当然に有するものであるから、当該作用効果は格別なものでなく、当業者が容易に予測できるものである。 エ 以上のとおり、構成要件1D-4-2及び1D-4-3に関する相違点は、 いずれも周知・慣用手段にすぎず、それぞれによる作用効果も格別なものではなく、 当業者が容易に予測できるものである。そして、本件再訂正後発明1のその余の部分(すなわち本件訂正後発明1)と引用発明1-1は同一であり、作用効果も同一である。そうすると、本件再訂正後発明1の作用効果は、引用発明1-1が奏する作用効果(本件訂正後発明1が奏する作用効果と同一の作用効果)と上記の周知・慣用手段がもたらす作用効果との総和にすぎないから、本件再訂正後発明1は引用発明1-1と実質的に同一である。 オ 控訴人は、引用発明1-1について、乙10公報の記載から、押さえ部5を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体4を巻き出す又は巻き取るという技術思想を導き出すことはできず、そのような構成が乙10公報に開示されているとはいえないと主張する。しかしながら、乙10公報において、収納ケース又はケース本体に対して押さえ部又は可動体の先端部が可動な実施形態のみが記載されているとしても、これらは請求項2との関係においては付加的な効果を奏する実施例の一つにすぎず、請求項2をこれらの実施形態に限定して解釈されるべきではないから、請求項2から押さえ部5を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体4を巻き出す又は巻き取るという技術思想を導き出すことは可能であるし、そのような構成は乙10公報に開示されているといえる。 (控訴人の主張) ア 構成要件1D-1、1D-4-1について 以下に述べるとおり、「押さえ部5を被磁着体90に近接させた態様でスクリー 23ン本体4を巻きだす又は巻き取るという技術思想」は、乙10公報の記載からは導かれず、本件再訂正後発明1の構成要件1D-1、1D-4-1は引用発明1-1との相違点である。 ( ア ) 乙 1 0 公 報 の 特 許 請求 の 範 囲 の 請 求 項 2に は 、「前 記 ス ク リー ン 本 体は、・・・前記巻取りロールにロール状に巻き取られている収納状態から使用時に引き出されて張設され、前記張設されたスクリーン本体における前記巻取りロールに近接した部位を幅全体に渡って前記押さえ部によって被磁着体に向けて押さえつけ得るものとなされている・・・」と記載されているが、この記載は、請求項2に係る発明の唯一の実施形態である図1〜6のように、いったん収納ケースから「引き出」して「張設された」スクリーン本体を、その後に、押さえ部によって被磁着体側に向けて押さえ込むものと読むのが自然である。乙10公報の【0019】に照らしても、「押さえ部5を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体4を巻きだす又は巻き取るという技術思想」は導かれない。 (イ) 乙10公報の特許請求の範囲の請求項3の文言と対比した請求項2の解釈から、請求項2が「押さえ部」が可動する構成以外の構成を含むと解釈できたとしても、可動ではない「押さえ部」によって張設されたスクリーン本体を被磁着体に向けて押さえ付けることを実現する構成は多様に存在するから、そのことをもって、 乙10公報に、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体を巻き出す、 又は巻き取るという技術的思想が「開示されている」とはいえない。 (ウ) 乙10公報の図1〜6は、第2配置態様をとることで、被磁着体から離れた状態で設置することでスムーズな巻き出し、巻き取りを実現する手段を有することを前提とした構成であり、「押さえ部5」は「可動片12」に固定され、「押さえ部5」は「可動片12」を含む「取付具10を介して」取り付けられているので、図1〜6の具体的構成の図を基に、「押さえ部5」のみを図1〜6と同位置に固定した構成が開示されているとはいえない。 イ 構成要件1D-4-2について 24 (ア) 本件再訂正後発明1は、長尺部材が巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートとの摺動接触に起因して回転可能とすることにより(構成要件1D-4-2)、スクリーンシートを押さえ付けながらスムーズな巻き出し、巻き取りを可能とする発明であるのに対し、乙10公報には、スムーズな巻き出しを実現する作用機序としては、押さえ部を設置面から離す第2配置態様とすることをもって実現することしか開示されておらず(乙10公報の請求項3、【0020】 、押さえ部を )回転可能にする構成は開示も示唆もなされていない。 仮に原判決のように、乙10公報に「押さえ部」が固定された構成が開示されていると認定したとしても、原判決の認定した引用発明1-1は、スクリーン本体のスムーズな巻き出し、巻き取りという効果を奏しないことを前提に「押さえ部5」を設置面に近い位置で固定するものでしかなく、本件再訂正後発明1のように長尺部材を回転可能とすることでスムーズな巻き出しを可能とする発明とは異なる。なお、引用発明1-1の「押さえ部」が回転可能ではないことは、乙10公報の【0036】から明らかである。 したがって、原判決の認定した引用発明1-1を前提としても、本件再訂正後発明1の構成要件1D-4-2は相違点であり、これはスムーズな巻き出し、巻き取りを行うという効果を奏する手段の違いに由来するものであるから、課題解決手段における微差ではない。 (イ) 被控訴人は、スクリーンシートと接触する部分を回転可能にすることは、本件特許1の出願当時におけるスクリーン装置の分野の周知・慣用手段であるとして、 本件再訂正発明1と引用発明1-1が実質同一であると主張するが、被控訴人の主張は、引用発明1-1の押さえ部が乙10公報の図3や図5の位置で固定されている構成を前提とし、その押さえ部を「周知慣用技術」である軸回転可能な構造に置換して本件訂正後発明1と対比するものであるところ、被控訴人が前提とする構成は、乙10公報に具体的に記載された構成ではない。このような具体的に開示された構成とは異なる構成に、さらに、周知慣用技術を加えて本件再訂正後発明1との 25実質同一などと主張することは特許法29条の2における同一性の議論として適切ではない。乙10公報に明示的に開示されていない構成に、更に周知・慣用技術を組み合わせた発明は、もはや、乙10公報に記載された発明の実体とは異なった発明と評価せざるを得ない。 また、引用発明1-1に係る実施形態では、乙10公報の図3等に示されるとおり、押さえ部5が取付具の可動片12に固定されているため、これを回転可能とするためには、押さえ部5を可動片12から取り外し、押さえ部5を収納ケースに対して軸支するような機構を別途採り入れる必要があり、そのためには押さえ部5や可動片12に相当程度の改変を要するから、周知慣用技術の単純な付加・転換のみで実現できるものではない。 さらに、被控訴人が指摘する証拠(乙39〜42)は、設置面にスクリーンシートを押さえ付ける部材に関する周知・慣用技術を示すものではなく、設置面にスクリーンシートを押さえ付ける部材を回転可能とすることが周知・慣用技術であるなどということはできない。 そして、本件再訂正後発明1は、スクリーンシートを設置面に対して局所的に抑え込む長尺部材を回転可能にすることにより(構成要件1D-4-2)、マグネット面が投影面に対して相対的に内側となるようにスクリーンシートをロール部材に巻き取るマグネットスクリーン装置において、@長尺部材によるスクリーンシートの設置面への抑え込みと、Aスクリーンシートのスムーズな巻き出し、巻き取りを両立できるという、周知慣用技術とは異なる新たな効果を奏するものであり(【0047】【0048】、引用発明1-1との相違点に当たる構成要件1D-4-2 、 )により新たな効果が奏されている。 以上のことから、被控訴人の主張を踏まえても、構成要件1D―4-2に関する相違点は、課題解決のための具体的手段における微差ではない。 ウ 構成要件1D-4-3について(ア) 本件再訂正後発明1は、ケーシングをスライド移動させてスクリーンシート 26を巻き出す使用態様のために、「前記ケーシングは、取手部と、前記マグネットスクリーン装置の設置時に前記設置面に接するケーシング裏面に設けられたケーシング・マグネットとを有し、前記スクリーンシートの短手端部には、裏面にマグネットを有する操作バーが設けられており、」という構成(構成要件1D-4-3)が備えられており、ケーシングに「取手部」が設けられていることを構成要素とする(本件明細書1の【0052】【図13】。 、 ) 一方、引用発明1-1は、固定用バー8(本件再訂正後発明1におけるスクリーンシートの短手端部に設けられた操作バーに相当)に取手9が設けられていることが示されている(乙10公報の【0035】 【図1】 、 )ものの、マグネットスクリーンを巻き出す際に、収納ケース2自体を設置面に沿って移動させる使用態様はそもそも想定されておらず、上記使用態様のための「取手部」に相当する部材を有することについては開示も示唆もない。 したがって、本件再訂正後発明1の構成要件1D-4-3では、ケーシングをスライド移動させてスクリーンシートを巻き出す使用態様のために、「取手部」を必須の構成要素とするのに対し、引用発明1-1では、上記使用態様は想定されておらず、そのような「取手部」を有しない点で相違しており、この相違点は使用態様の違いに由来するものであるから課題解決手段における微差ではない。 (イ) 被控訴人は、本件再訂正後発明1においてケーシングのスライド移動を実現するために必須の構成は「ローラー部材49」であるため、「取手部」を設けることで得られる作用効果は装置の運搬が容易になるくらいであり、運搬を容易にするために取手部付きのケーシングとすることはスクリーン装置における周知・慣用手段である旨主張する。 しかしながら、本件明細書1の【0052】及び【図13】には、取手部の作用効果としてマグネットスクリーン装置の運搬を容易にするだけでなく、取手部をもってケーシングを設置面に沿ってスライド移動させることでスクリーンシートの巻き出しが可能となることが記載されている。また、【図13】に示されるローラー 27部材49は、それを回転運動させることで上記のケーシングのスライド移動を「好適にする」ことができるにすぎず(【0052】 、取手部を用いたケーシングのス )ライド移動に必須の構成ではない。 したがって、本件再訂正後発明1の構成要件1D-4-3は、マグネットスクリーン装置の運搬のみならず、ケーシングのスライド移動を可能にするという新たな効果を奏するものであり、同構成に関する相違点は、課題解決のための具体的手段における微差ではない。 エ 以上のとおり、本件再訂正後発明1は、引用発明1-1と同一又は実質同一ではなく、特許法29条の2に違反しない。 (4) 争点3-2(公然実施発明(引用発明3)に基づく本件再訂正後発明1の進歩性欠如の有無)について (被控訴人の主張) ア 相違点について 本件再訂正後発明1と引用発明3は、「可搬式」ではない点(相違点1) 「ケー 、 シングに設けられた取手部」を備えていない点(相違点2)「ケーシング裏面に設 、 けられたケーシング・マグネット」を備えていない点(相違点3)「裏面にマグネ 、 ットを有する操作バー」を備えていない点(相違点4)で相違、すなわち構成要件1A及び1D-4-3の点で相違しているとしても、副引用発明が上記相違点1〜4に相当する構成を備えており、引用発明3と副引用発明を組み合わせることについても特段の困難性はなく、当業者が容易になし得るものである。 イ 副引用発明の構成 (ア) 乙33公報には、次の副引用発明が開示されている。 1a′ 可搬式のケース一体型マグネットスクリーン1であって、 1b-1′ 投影面と該投影面に対向するマグネット面とを備えたマグネットスクリーン3を備え、 1d-4-3′ ケース2は、取っ手2aと、ケース2のケーシング裏面に設け 28られたケースマグネット7と、マグネットスクリーン3の短手端部には裏面にマグネットを有する固定バー4、5が設けられている、 1e′ 可搬式のマグネットスクリーン1。 (イ) 本件再訂正後発明1と副引用発明の構成を対比すると、副引用発明は、少なくとも、構成要件1A、1E、1B-1及び1D-4-3に相当する構成を有しているから、副引用発明は、本件再訂正後発明1と引用発明3の相違点(構成要件1A及び1D-4-3に相当する構成)を備えているといえる。 ウ 引用発明3と副引用発明の組合せの容易性 引用発明3と副引用発明は、ともにケースをスライドさせることでマグネットスクリーンを引き出して貼り付ける構成であり、作用・機能も共通する。 また、引用発明3では装置の長手方向の両端に設けられているブラケットによって装置本体を支持するとともにスライド可能にしているところ、これを副引用発明のようにマグネット5、7を用いて装置本体を支持するとともに、ブラケットと同様に装置の長手方向の両端に設けられているガイドローラ9を用いてケースをスライド可能にすることによって、レールを使用しない「可搬式」にすることについては、特段の阻害事由もなく、それによって特に有利な効果が生じることもない。 エ 小括 したがって、本件再訂正後発明1は、引用発明3と副引用発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、進歩性を欠く(特許法29条2項)。 (控訴人の主張) ア 本件特許1の出願前に引用発明3が公然実施されていたことについて、被控訴人が提出した証拠は、製品名が異なるものや出願後のものであること等から、立証がないというべきである。 イ 本件再訂正後発明1と引用発明3は、被控訴人の指摘する相違点1〜4において相違するものであり、引用発明3に副引用発明を組み合わせても容易想到では 29ない。 すなわち、「可搬式」と「据え置き式」とでは、解決すべき課題や、そのために有すべき構造の差異があることを考慮すると、「据え置き式」のマグネットスクリーン装置を「可搬式」とすることは周知慣用技術とはいえない。さらに、既に引用発明3は「据え置き式」の装置として完成している一方、「可搬式」の装置も普及していたのであるから、引用発明3の「据え置き式」の装置をわざわざ「可搬式」にする動機も存在しない。また、引用発明3を可搬式とする際に、副引用発明を適用して本件再訂正後発明1のような構成とすることには阻害要因がある。したがって、引用発明3と副引用発明とに基づいても、本件再訂正後発明1を容易に想到することはできない。 ウ 以上のとおり、引用発明3が、本件特許1の出願の日前に日本国内においいて公然実施されていることは立証されているものではない上、仮に、引用発明3が公然実施されていたとしても、本件再訂正後発明1は、引用発明3及び副引用発明から容易に想到できるものではないため、進歩性を欠如するものではない。 (5) 争点4(本件発明2の無効理由の有無)について (被控訴人の主張) ア 引用発明4-1に基づく新規性及び進歩性欠如 控訴人は、乙10公報に開示された引用発明4-1について、乙10公報には押さえ部5が固定されている構成は開示されていないことを前提として、本件発明2と引用発明4-1とは構成要件2Cないし2Eの点で相違すると主張する。 しかし、乙10公報には押さえ部5が固定されていることが開示されているとする原判決の判断には誤りがないから、控訴人の主張は前提が誤っている。 また、本件発明2が引用発明4-1に基づいて新規性又は進歩性を欠くことは、 これまで主張したとおりである。 イ 引用発明4-2に基づく新規性及び進歩性欠如 控訴人は、本件発明2の棒部材はケーシングとは別部材であるから、本件発明2 30は引用発明4-2に対して新規性及び進歩性があると主張する。 しかし、本件発明2において棒部材がケーシングとは別部材とは規定されていないから新規性を欠き、仮に本件発明2の棒部材がケーシングと別部材と解釈できるとしてもそのような相違点は設計事項にすぎないから進歩性を欠く。 ウ 小括 以上より、本件発明2は、乙10公報に記載された引用発明4-1もしくは4-2と同一であるか、又は引用発明4-1もしくは引用発明4-2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (控訴人の主張) ア 本件発明2と引用発明4-1及び同4-2とは、本件発明2の構成要件2C、 2D及び2Eの点で相違する。 引用発明4-1及び4-2は、乙10公報に記載された発明であるところ、原判決は、引用発明1-1に関し、乙10公報の図3に記載された「押さえ部5」が同位置で固定された発明が開示されていると認定したが、同認定は誤りであり、引用発明1-1と同一の発明である引用発明4-1においても「押さえ部5」が固定されている構成は開示されていない。以下これを前提に論じる。 イ 引用発明4-1に基づく新規性及び進歩性欠如について(ア) 引用発明4-1の「押さえ部5」はスクリーン本体4を設置する際には設置面から離れるように可動することを前提としたものであり、少なくとも、同「押さえ部5」が設置面に近い位置で固定されたままスクリーン本体4を押さえ込んで設置するとの技術思想の開示も示唆もない。そうすると、引用発明4-1の「押さえ部5」は、張設時のみならず引出し時において、押さえ部5が収納ケース2の開口部2Bの形成領域から離れない状態で設置されておらず、開口部2Bの形成領域に「設けられた」ものではない。また、引用発明4-1の押さえ部5は、スクリーン本体の引き出し時においては、接触するスクリーン本体4を押さえ込むことで、スクリーン本体4を、その直下に存在する設置面に好適に接触させることが可能な位 31置に固定されているものではないから、「断面視にて」「磁石と同一平面上に位置づけられて」いるものではない。さらに、引用発明4-1には、スクリーン本体4の巻き出し又は巻き取りの際には、「押さえ部5」が被磁着体90から離した態様(第1配置態様)にすることについてしか開示がなく、被磁着体に近い位置で固定して巻き出し、巻き取りを行う構成は開示も示唆もなされていないのであるから、 「押さえ部5」をスクリーン本体4と接触させ、「それによって」スクリーン本体4を被磁着体90に接触可能とする」ものではない。 したがって、本件発明2と引用発明4-1とは構成が異なり、同一の発明ではない。 (イ) 被控訴人は、「押さえ部」を固定することは、退歩的な設計変更であって、 当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないなどと主張する。 しかしながら、乙10公報には、ケーシングを設置面に固定させてスクリーン本体を巻き出し、巻き取る使用態様を想定した引用発明4-1において、スクリーン本体4を押さえ込む役割を有する「押さえ部5」を固定させる技術思想は開示も示唆もなされておらず、「押さえ部5」を設置面から離すことでスムーズな巻き出し、 巻き取りを行う記載しかないことからすると、あえて、「押さえ部5」を設置面に近い位置に固定させて巻き出し・巻き取りにくくすることには阻害要因がある(乙10公報の【0043】参照)。 したがって、本件発明2は引用発明4-1に基づいて当業者が容易に想到し得たものではなく進歩性が認められる。 ウ 引用発明4-2に基づく新規性及び進歩性欠如 (ア) 本件発明2において、構成要件2C、2D及び2Eに規定される「棒部材」は、構成要件2Bに規定された「開口部を有するケーシング」とは別部材である。 そして、引用発明4-2における(「棒部材」と同様の効果を有する)「可動体24」の「先端部26」は、乙10公報の請求項6、【0013】 【0025】 【0 、 、 052】の記載並びに図9(A)、図10(A)及び図11(A)からも明らかな 32とおり、収納ケース2の一部を構成するものである。 したがって、引用発明4-2における可動体24の先端部26は、本件発明2の棒部材とは相違する。 以上のとおり、本件発明2と引用発明4-2は、棒部材を構成要件に含む、本件発明2の構成要件2C、2D及び2Eの点で相違するから、同一の発明ではない。 (イ) 引用発明4-2は、同4-1とは異なり、「可動体24」が発明特定事項とされていることからすると、「可動体24」の「先端部26」を固定させる構成を取り得るものではない。 そして、引用発明4-2において、スクリーン本体4を押さえ込む役割を有する「可動体24」の「先端部26」は、収納ケース2の一部として一体化した構成とされ、簡易な構造となっていることから、あえて、別部材を組み込んで複雑な構造とする動機付けはない。 したがって、本件発明2は引用発明4-2に基づいて当業者が容易に想到し得たものではなく進歩性が認められる。 |
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当裁判所の判断
1 当裁判所は、控訴人の請求にはいずれも理由がないものと判断する。理由は、 次のとおり訂正し、後記2に当審における当事者の主張に対する判断を示すほかは、 原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の1〜4に記載するとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決32頁12行目の末尾に改行して、次のとおり加える。 「「上記目的を達成するため、本発明では、投影面と当該投影面に対向するマグネット面とを備えたスクリーンシート、およびスクリーンシートを巻き取るためのロール部材を有して成り、非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるようにスクリーンシートがロール部材に巻き取られていることを特徴とするマグネットスクリーン装置が提供される。( 」【0009】」 ) (2) 原判決34頁15行目の末尾に改行して、次のとおり加える。 33 「(2) 本件再訂正後発明1の概要 本件再訂正後発明1に係る特許請求の範囲及び前記(1)の本件明細書1の記載に照らすと、本件再訂正後発明1は、マグネットによって映写用スクリーンシートを設置面に展張保持するマグネットスクリーン装置に関するものであり(【0001】、従来のマグネットスクリーン装置については、使用に際して巻き出されたス )クリーンシートを設置面に展張保持した際に"カール"と呼ばれる現象がシートに生じ、かかるカールによってプロジェクターから投影される像を所望に映し出すことができなかったことから、プロジェクターから投影される像をシート端部においても所望に映し出すことが可能なマグネットスクリーン装置を提供するという課題を解決するために(【0005】 【0008】 、投影面と当該投影面に対向するマ 、 )グネット面とを備えたスクリーンシート、およびスクリーンシートを巻き取るためのロール部材を有して成り、非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるようにスクリーンシートがロール部材に巻き取られていることを特徴とするマグネットスクリーン装置を構成した(【0009】)というものであって、使用に際して巻き出されたスクリーンシートを"カール"の発生なく設置面に保持することができ、プロジェクターから投影される像をシート端部にまで所望に映し出すことができる(【0017】)という効果を奏するものであると認められる。」 (3) 原判決34頁16行目冒頭の「(2)」を「(3)」と改める。 (4) 原判決35頁8行目の末尾に改行して、次のとおり加える。 「「上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、開口部を有するケーシングと、ケーシング内に回転自在に設けられたロールと、収納時にロールに巻き取られ、使用時にケーシングの開口部から巻き出されて設置面に貼り付けされるマグネットスクリーンとを備え、開口部の形成領域に設けられた棒部材を更に有して成り、棒部材は、開口部の形成領域に位置するマグネットスクリーンと接触可能に構成されている、マグネットスクリーン装置が提供される。 ( 」【0007】」 ) (5) 原判決36頁23行目の末尾に改行して、次のとおり加える。 34 「(4) 本件発明2の概要 本件発明2に係る特許請求の範囲及び前記(3)の本件明細書2の記載に照らすと、 本件発明2は、マグネットスクリーン装置に関するものであり(【0001】 、従 )来のマグネットスクリーン装置には、その構成要素であるマグネットスクリーンを黒板類等の設置面に貼り付ける際に、設置面からのマグネットスクリーンの"浮き"はマグネットスクリーンと設置面との間に空気が入り込んで、マグネットスクリーンの局所領域が設置面から浮いてしまうことがあり、スクリーンの"浮き"が生じるとプロジェクタからの映像を好適に投影できなくなるという課題があることから(【0005】 、マグネットスクリーンを設置面に好適に貼り付け可能なマグネ )ットスクリーン装置を提供することを目的とし(【0006】 、この目的を達成す )るために、マグネットスクリーン装置であって、開口部を有するケーシングと、該ケーシング内に回転自在に設けられたロールと、収納時に前記ロールに巻き取られ、 使用時に前記ケーシングの前記開口部から巻き出されて設置面に貼り付けされるマグネットスクリーンとを備え、前記開口部の形成領域に設けられた棒部材を更に有して成り、前記ケーシングは該ケーシングの表面に磁石を備えており、前記棒部材が断面視にて該磁石と同一平面上に位置付けられており、および、前記棒部材は、 前記開口部の前記形成領域に位置する前記マグネットスクリーンと接触し、それによって、該マグネットスクリーンが前記設置面に接触可能と成っている、マグネットスクリーン装置の構成とし(【0007】 、これにより、マグネットスクリーン )装置において、マグネットスクリーンを設置面に好適に貼り付け可能として、プロジェクタからの映像を好適に投影可能とする効果を奏する(【0023】)ものと認められる。」 (6) 原判決36頁24行目、37頁8行目及び23行目、38頁3行目、19行目及び25行目、39頁5〜6行目、41頁9〜10行目並びに42頁3行目の各「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」とそれぞれ改める。 (7) 原判決37頁8行目の「1D-3及び1E」を「1D-3、1D-4-3及 35び1E」と、同頁11行目の「構成要件1D-4」を「構成要件1D-4-1」と、 同頁12行目の「以下検討する。」を「以下検討し、構成要件1D-4-2の充足性については後記2「当審における当事者の主張に対する判断」(1)イで検討する。」とそれぞれ改める。 (8) 原判決37頁23行目の「請求項のうち」を「特許請求の範囲の記載をみると」と、38頁2行目の「1D-4」を「1D-4-1」と、同頁3行目の「請求項」を「特許請求の範囲」とそれぞれ改める。 (9) 原判決39頁15行目の「【0036、図6】」を「【0036】【図6】 、 」と、 同頁17行目の「図7」を「【図7】」それぞれと改め、同頁21行目の「接するように」」の次に「(構成要件1D-1)」を挿入し、同頁23行目の「構成要件1D-4」を「構成要件1D-4-1」と、同頁24行目の「抑え込む」を「押さえ込む」とそれぞれ改め、40頁2行目の「そうすると、」の次に「本件再訂正後発明1における」を挿入し、同頁5行目の「使用されており」を「使用されているものと認められ」と、同頁8行目の「「収納」の意義について」を「本件再訂正後発明1における「前記長尺部材が前記ケーシングに収納されており」(構成要件1D-1)について、」と、同頁13行目の「スクリーンシート1」を「スクリーンシート10」と、41頁5行目の「また、」から同頁9行目の「加えるものではない。」までを「また、本件再訂正後発明1に係る特許請求の範囲には、ケーシングに関し、 「スクリーンシート、ロール部材及び長尺部材を収納するケーシング」(構成要件1D-1)「ケーシングはスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取りのための開 、 口部を有し」(同1D-3) 「ケーシングは、取手部と、前記マグネットスクリー 、 ン装置の設置時に前記設置面に接するケーシング裏面に設けられたケーシング・マグネットとを有し」(同1D-4-3)と記載されており、ケーシングが開口部、 取手部及び裏面に設けられたケーシング・マグネットを有する旨の記載はあるものの、そのほかにケーシングの構成を特定するような記載はなく、側面部分をケーシングから除外する旨の記載もない。」とそれぞれ改める。 36 (10) 原判決41頁26行目、42頁13行目の各「構成要件1D-4」を「構成要件1D-4-1」と、同頁3行目の「請求項」を「特許請求の範囲」と、同行目の「長尺部材と開口部の」を「長尺部材とケーシング及びその開口部の」とそれぞれ改め、同頁15行目を次のとおり改める。 「(4) 被控訴人製品が、構成要件1D-4-2を充足することについては、後記「当審における当事者の主張に対する判断」(1)イに判示するとおりである。 (5) 以上によると、被控訴人製品は、本件再訂正後発明1の技術的範囲に属する。」 (11) 原判決43頁1行目の末尾に「そうすると、「同一平面上に位置付けられ」は、「同一の平らな表面上に位置付けられ」ていることを意味すると認められる。」を挿入し、同頁2行目から44頁23行目までを次のとおり改める。 「本件発明2に係る特許請求の範囲には、「前記ケーシングは該ケーシングの表面に磁石を備えており、前記棒部材が断面視にて該磁石と同一平面上に位置付けられており」(構成要件2D) 「前記棒部材は、前記開口部の前記形成領域に位置す 、 る前記マグネットスクリーンと接触し、それによって、該マグネットスクリーンが前記設置面に接触可能と成っている」(構成要件2E)との記載があるところ、これらの記載及び上記「同一平面上に位置付けられ」の字義からすると、構成要件2Dは、ケーシングの表面の磁石と棒部材が、断面視した場合に、同一の平らな表面(設置面等)に接するように位置付けられていることを意味するものと解される。 イ 本件明細書2の記載 本件明細書2には、「本明細書でいう「設置面」とは、ケーシング表面に供した磁石が磁着可能な黒板、ホワイトボード等を実質的に指す。 ( 」【0038】、 )「図1に示すように当該浮きの発生開始ポイントであり得るケーシング20の開口部10の形成領域に新たに棒部材60を設けることを新たに案出した」「かかる構成によ 、 れば、棒部材60は、開口部10の形成領域に位置するマグネットスクリーン50と接触可能となる。換言すれば、開口部10に位置するマグネットスクリーン50 37が、当該棒部材60と接触可能となる。( 」【0039】、 )「これにより、マグネットスクリーン50を巻き出して黒板類等の設置面に貼り付ける際に、棒部材60によりマグネットスクリーン50が設置面側の方向とは反対の方向に向かうことを抑制することができる。( 」【0040】、 )「又、棒部材60がケーシング20の外側領域に設けられる場合と比べて、棒部材60が開口部10の形成領域に設けられる場合には、以下の効果が奏される。具体的には、開口部10は、マグネットスクリーン50が巻き出し時に設置面40側の方向とは反対の方向に向かい始める箇所、すなわち「マグネットスクリーン50が巻き出し時に設置面40から離隔し始める」箇所であると言えるところ、本発明ではかかる箇所に棒部材60を配置するため、棒部材がケーシング20の外側領域に設けられる場合と比べて、マグネットスクリーン50が設置面40側の方向とは反対の方向に向かうことを効果的に抑制することができる。それ故、マグネットスクリーン50と設置面40との間に空気が入り込むことを効果的に抑制することができる」 【0041】 、 ( ) 「マグネットスクリーン50は、断面視で設置面40と棒部材60との間に位置付けられることが好ましい(図1参照) 」 【0042】 、 。( ) 「かかる構成により、マグネットスクリーン50を基点として、断面視でマグネットスクリーン50の一方の側に設置面が位置付けられ、他方の側に棒部材60が位置付けられる」 【0043】 ( )といった記載があり、これらの記載及び【図1】に照らすと、本件発明2において、磁石はホワイトボード等の設置面に磁着すること、マグネットスクリーンは設置面と棒部材の間に位置付けられ、棒部材はマグネットスクリーンに接触し、棒部材がマグネットスクリーンと接触するとき、マグネットスクリーンの棒部材が接触している部分の裏面が設置面に接することが想定されているものと認められ、本件明細書2の記載からは、磁石は直接に、棒部材はマグネットスクリーンを介して、設置面に接するものであるものと理解される。そうすると、本件発明2において、棒部材と磁石は、マグネットスクリーンを介するか否かという違いはあるものの、いずれも、設置面という同一の平面上に位置するものと認めるのが相当である。 38 また、本件明細書2には、「本発明では、ケーシング20Cの開口部10Cに位置づけられる棒部材60Cは、断面視にて第1磁石81Cと略同一平面上に位置付けられている。かかる構成によれば、第1磁石81Cが設置面に貼り付いた際に、 第1磁石81Cと棒部材60Cとの略同一平面配置により、断面視で開口部10Cに位置するマグネットスクリーン50Cを挟み込むように棒部材60Cを設置面40C上に位置付けることができる。( 」【0064】、 )「具体的には、図4(iv)に示すように、第1磁石81Cが設置面に貼り付いた際に、第1磁石81Cと棒部材60Cとの略同一平面配置により、断面視で開口部10Cに位置するマグネットスクリーン50Cの直上には棒部材60Cが位置し、当該マグネットスクリーン50Cの直下に設置面40Cが位置することとなる。 ( 」【0065】)との記載があり、本件明細書2の【図4】(iv)における第1磁石81Cと棒部材60Cが「略同一平面上」にある旨の説明がされているところ、【図4】(iv)を子細にみると、棒部材及びスクリーンシートと設置面との間に僅かな隙間があり、ケーシング表面に備えられた磁石と棒部材が、完全な同一平面上にあるものではないところ、本件明細書2においては、磁石と棒部材がこのような位置関係にある場合を「略同一平面上」と呼んでいるものと認められるから、構成要件2Dの「同一平面上」は、「略同一平面上」とは異なるものを指すものと理解するのが自然である。そうすると、構成要件2Dの、棒部材が断面視にて磁石と「同一平面上に位置付けられて」いるとは、 棒部材及びスクリーンシートと設置面との間に隙間がない場合を指すと理解するのが相当である。」 (12) 原判決45頁1行目の「本件発明2に係る請求項1に該当する請求項」を「本件特許2に係る特許請求の範囲の請求項1」と、同頁10行目の「乙11公報」を「乙11公報(【0024】及び【図2】参照)」と、同頁12行目の「原告は、 手続補正書(甲18の2)において、請求項の」を「控訴人は、同年8月1日、手続補正書(甲18の2)を提出し、特許請求の範囲の請求項1の」と、同頁17行目の「において」を「を提出し」と、46頁4行目の「原告は、手続補正書(乙3 398)において、請求項の」を「控訴人は、同年9月14日、手続補正書(乙38)を提出し、特許請求の範囲の請求項1の」と、同頁8行目の「において」を「を提出し」とそれぞれ改め、同頁13行目の末尾に改行して次のとおり加える。 「d 乙11公報の【0024】の記載は次のとおりである(図1及び図2は原判決別紙「乙11公報抜粋」参照)。 【0024】 また図2の(a)に示すように、スクリーン収納用スライド枠5には、一端部7aが黒板1の一端部に固定される映写スクリーン7の他端部をコイルバネ8の付勢力によって巻き取り収納する巻取軸9と、前記コイルバネ8の付勢力に抗して巻取軸9から引き出される映写スクリーン7の裏面側を黒板1の表面材1bに近接させるように案内するガイドローラ10とが設けられている。尚、このガイドローラ10は、上記のように映写スクリーン7の裏面側を黒板1の表面材1bに近接させると共に、映写スクリーン7の表面側が巻取軸9に対し外向きになるように案内するローラである。この実施形態の黒板装置では、映写スクリーン7は、図1の(a)、 (b)及び図2の(a)に示すように、その一端部7aが、黒板1の表面材1bの左側端部で左側の縁枠2cに挟まれた状態で固定されている。」 (13) 原判決46頁26行目の「請求項」を「特許請求の範囲」と改め、同頁14行目から25行目までを次のとおり改める。 「(イ) 前記(ア)の出願経過に照らすと、控訴人は、乙11公報記載の発明による新規性及び進歩性欠如の無効理由を回避するため、特許請求の範囲から、乙11公報の図2(a)(原判決別紙「乙11公報抜粋」参照)のように、映写スクリーン7が、ガイドローラ10より図面左側では黒板1に接触しているが、ガイドローラ10の直下では黒板1の表面に近接するのみで接触していない場合を除外することを目的として補正を行い、さらに、明確性要件違反の無効理由を回避するために上記補正を明確化して構成要件2Dに相当する構成を追加したものと認められる。そうすると、出願経過において、出願人である控訴人によって、乙11公報の図2(a) 40のように、磁石と棒部材が設置面に対して同一平面上にない場合は、本件発明2の技術的範囲から意識的に除外されたものというべきである。」 (14) 原判決48頁18行目の「乙10公報」から同頁19行目の「有無」までを「引用発明1-1に基づく本件再訂正後発明1の拡大先願要件違反の有無」と改め、同頁20行目の「マグネットスクリーンとする」の次に「特許出願に係る」を挿入し、51頁3行目から同頁15行目までを次のとおり改める。 「「前記スクリーン本体4の先端側縁部(引き出す方向側の縁部)に固定用バー8が接合されている(図1参照)。前記固定用バー8の長さ方向の両端部に図示しない永久磁石が埋設されており、この永久磁石の磁力によって固定用バー8を被磁着体90に固定することができる。前記固定用バー8の長さ方向の略中心位置に取手9が設けられている(図1参照)」【0035】 。( ) 「前記押さえ部5は、前記巻取りロール3の軸線に対し平行状に配置された棒状体で形成されている(図1、2参照)。即ち、前記棒状体からなる押さえ部5の軸線と、前記巻取りロール3の軸線が、平行状になるように、前記押さえ部5が配置されている。前記棒状体の横断面視での外形形状(外周面の形状)は、円弧面に形成されている(図3参照)。前記押さえ部5の長さは、スクリーン本体4の幅より大きく、収納ケース2の長さより短い(図1参照) 」【0036】 。( ) 「前記収納ケース2の長さ方向の両端部に図示しない永久磁石が埋設されており、 この永久磁石の磁力によって収納ケース2を被磁着体90に固定することができる。( 」【0037】) 「前記一端側の取付具10の可動片12に前記押さえ部5の長さ方向の一端部が固定されると共に、前記他端側の取付具10の可動片12に該押さえ部5の長さ方向の他端部が固定されている(図2、3参照)。即ち、前記収納ケース2に、取付具10を介して押さえ部5が取り付けられている。 ( 」【0040】) 「次に、上記構成のマグネットスクリーン1の使用手順を説明する。通常は、持ち運び時や格納時等の非使用時には、スクリーン本体4は、マグネット層4bを内 41側にして(即ちスクリーン層4aを外側にして)巻取りロール3にロール状に巻き取られて収納ケース2に収納された状態になっている(図5参照) 」 【0042】 。( ) 「使用時には、まず、収納ケース2(の底壁2a)を、黒板、ホワイトボード等の被磁着体90に磁着させる(図5参照)。次いで、固定用バー8の取手9を手で持って引っ張ることによりスクリーン本体4を引き出していくのであるが、この時、 スクリーン本体4が被磁着体90に近接した位置にあると、スクリーン本体4が被磁着体90に磁着しやすくて引き出し操作をスムーズに行い難いし、スクリーン本体4の表面に傷が付くことがあることから、引き出しを開始する前に、図4に示すように、ベース板11に可動片12を重ね合わせた状態(ロック状態)にして、押さえ部5を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)に固定する。そして、この第1配置態様の状態でスクリーン本体4を引き出していく(図4参照)。このような引き出し操作を行うことにより、スクリーン本体4をスムーズに引き出して張設することができるし、スクリーン本体4に傷が付くことも防止できる。 ( 」 【0043】」 ) 「更に、張設されたスクリーン本体4における巻取りロール3に近接した部位を幅全体にわたって押さえ部5によって被磁着体90側に向けて押さえ付けることができるので(図3(A)参照)、巻取りロール3に近接した部位をも被磁着体90に磁着させた状態でスクリーン本体4を張設することができ、これにより、引き出されたスクリーン本体4のスクリーン層4aの略全面(略全領域)を有効面として使用することができる。( 」【0046】) 「スクリーン本体4の巻き取りを終了したとき、図5に示すように、ベース板11に対して可動片12を略90度開いたロック状態にして、この開いた状態の可動片12に固定用バー8を当接させた状態にすることにより、固定用バー8をできるだけ巻取りロール3に近い位置で収容する。このような収容を行うことにより、マグネットスクリーン1の格納スペースを低減させることができる。 ( 」【0048】) 「なお、前記押さえ部5を被磁着体90から離した第1配置態様において、前記 42押さえ部5と前記被磁着体90との離間間隔(距離)は、20mm〜70mmに設定されるのが好ましい(図4参照)」【0049】 。( ) 「また、前記押さえ部5を被磁着体90に近接させた第2配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着体90との離間間隔(距離)は、1mm〜15mmに設定されるのが好ましく、中でも2mm〜8mmに設定されるのが特に好ましい(図3、5参照)」【0050】 。( ) 「次に、本発明に係るマグネットスクリーンの他の実施形態について説明する。 図7は、他の実施形態をスクリーン本体を引き出した張設状態で示す正面図である。 このマグネットスクリーン1は、収納ケース2と、巻取りロール3と、スクリーン本体4と、を備えている。 ( 」【0051】) 「前記収納ケース2は、例えば金属や合成樹脂等で形成された横長の容器からなる。本実施形態では、前記収納ケース2は、ケース本体21と、可動体24と、からなる(図9〜11)。前記ケース本体21は、横断面形状が略L字形状である(図9参照)。前記ケース本体21の幅方向の一端部(図9で上端部)に、該ケース本体21の長さ方向に沿って枢着用内側軸部22が設けられている。前記枢着用内側軸部22の外周面の横断面形状は、開口部を除いて円弧面に形成されている。 前記可動体24の幅方向の一端部(図9で右端部)に、該可動体24の長さ方向に沿って枢着用外側中空軸部25が設けられている。前記枢着用外側中空軸部25は、 中空部を有し、該中空軸部25の内周面の横断面形状は、開口部を除いて円弧面に形成されている。しかして、図9に示すように、前記可動体24の枢着用外側中空軸部25の中空部に、前記ケース本体21の枢着用内側軸部22が挿通配置されることによって、可動体24の幅方向の一端部が、ケース本体21の幅方向の一端部に枢着されている。( 」【0052】) 「使用時には、まず、収納ケース2(の底壁2a)を、黒板、ホワイトボード等の被磁着体90に磁着させる(図11参照)。次いで、固定用バー8の取手9を手で持って引っ張ることによりスクリーン本体4を引き出していくのであるが、この 43時、スクリーン本体4が被磁着体90に近接した位置にあると、スクリーン本体4が被磁着体90に磁着しやすくて引き出し操作をスムーズに行い難いし、スクリーン本体4の表面に傷が付くことがあることから、引き出しを開始する前に、図10に示すように、可動体24を開口部2Bを閉じるように少し強い力で押し込むことによって、前記ロック状態を解消せしめて、即ち固定用第2部材33の係止用凸部34aを、固定用第1部材31の一対の係止用アーム部32から離脱させて、次いで開口部2Bを開くように可動体24を手で動かして、可動体24の先端部26を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)にする。そして、この第1配置態様の状態でスクリーン本体4を引き出していく(図10参照)。このような引き出し操作を行うことにより、スクリーン本体4をスムーズに引き出して張設することができるし、スクリーン本体4に傷が付くことも防止できる。更に、前記可動体24の先端部26の横断面視での外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面に形成されているので(図10参照)、引き出し操作の際のスクリーン本体4の傷付きを十分に防止することができる。 ( 」【0062】) 「使用後に、スクリーン本体4を巻取りロール3に巻き取って収納ケース2に収納する際には、巻き取りを開始する前に、図10に示すように、可動体24を開口部2Bを閉じるように少し強い力で押し込むことによって、前記ロック状態を解消せしめて、即ち固定用第2部材33の係止用凸部34aを、固定用第1部材31の一対の係止用アーム部32から離脱させて、次いで開口部2Bを開くように可動体24を手で動かして、可動体24の先端部26を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)にする。そして、固定用バー8を被磁着体90から離間させると共に、 スクリーン本体4も被磁着体90から離間させて浮かせた状態で、前記スプリング(図示しない)により付与される巻き取り力によって巻取りロール3にスクリーン本体4を巻き取らせていく(図10参照)。このような巻き取り操作を行うことにより、スクリーン本体4をスムーズに巻き取って収納することができるし、スクリーン本体4に傷が付くことも防止できる。更に、前記可動体24の先端部26の横 44断面視での外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面に形成されているので(図10参照)、巻き取り操作の際のスクリーン本体4の傷付きを十分に防止することができる。 ( 」【0066】) (エ) 図1〜5、7、9〜11は別紙「乙10公報図面」のとおり。 (2) 前記(1)の特許請求の範囲の請求項2の記載及び発明の詳細な説明の記載並びに別紙「乙10公報図面」によると、乙10公報には、被控訴人の主張する次の構成を具備した引用発明1-1が開示されているものと認められる。 1a 可搬式のマグネットスクリーン1であって、 1b-1 スクリーン層4aと該スクリーン層4aに対向するマグネット層4bとを備えたスクリーン本体4、及び 1b-2 スクリーン本体4を巻き取るための巻取ロール3を有して成り、 1c 非使用時ではマグネット層4bがスクリーン層4aに対して相対的に内側となるようにスクリーン本体4が巻取ロール3に巻き取られており、 1d-1 巻き出される又は巻き取られるスクリーン本体4と接するように設けられた押さえ部5、並びに、スクリーン本体4、巻取ロール3を収納する収納ケース2を更に有して成り、 1d-2 スクリーン本体4の巻き出し時又は巻き取り時において押さえ部5がスクリーン層4aと直接的に接し、 1d-3 ケース本体21はスクリーン本体4の巻き出し及び巻き取りのための開口部2Bを有し、及び 1d-4 押さえ部5が、該開口部2Bに位置付けられており、かつ、マグネットスクリーン1が設けられる被磁着体90に対して相対的に近い側に位置付けられる巻取ロール3の下側ロール胴部分に隣接して設けられている、 1e マグネットスクリーン1。 (3)ア 本件再訂正後発明1と前記(2)の引用発明1-1とを比較すると、引用発明1-1の「スクリーン層」 「マグネット層」 「スクリーン本体」 「巻取ロール」 、 、 、 、 45「押さえ部」「収納ケース」が、それぞれ、本件再訂正発明1の「投影面」「マグ 、 、 ネット面」「スクリーンシート」「ロール部材」「長尺部材」「ケーシング」に相 、 、 、 、 当するものと認められ、引用発明1-1の構成1a、1b-1、1b-2、1c、 1d-2、1d-3及び1eは、それぞれ、本件再訂正後発明1の構成要件1A、 1B-1、1B-2、1C、1D-2、1D-3、1D-4-1及び1Eと一致する。 しかしながら、@構成1d-1に関し、引用発明1-1においては、収納ケース(ケーシング)に、押さえ部(長尺部材)が収納されるか否かが明らかではなく、 また、非使用時並びに巻き出し時及び巻き取り時において巻取ロール(ロール部材)及び押さえ部(長尺部材)が収納ケース(ケーシング)に収納されているか否かが明らかではなく、A引用発明1-1が構成要件1D-4-2及び1D-4-3を具備するか否かも明らかではないので、以下検討する。 (ア) 構成要件1D-1について 前記(1)ア(ア)の特許請求の範囲の請求項2には、「収納ケースに取り付けられた押さえ部」「張設されたスクリーン本体における前記巻取りロールに近接した部位 、 を幅全体にわたって前記押さえ部によって被磁着体側に向けて押さえ付け得る」との記載があるものの、押さえ部が収納ケースにどのように取り付けられているかについては特定されていない。 そこで、前記(1)イの発明の詳細な説明及び図面をみると、「前記一端側の取付具10の可動片12に前記押さえ部5の長さ方向の一端部が固定されると共に、前記他端側の取付具10の可動片12に該押さえ部5の長さ方向の他端部が固定されている(図2、3参照)。即ち、前記収納ケース2に、取付具10を介して押さえ部5が取り付けられている。 ( 」【0040】)との記載があり、また、図1〜3には、 押さえ部5が、収納ケース2の内部に位置する構成が記載されているから、引用発明1-1において、押さえ部(長尺部材)が収納ケース(ケーシング)に収納されているものと認められる。また、巻き取り終了時を示す【図5】によると、非使用 46時に巻取ロール及び押さえ部は収納ケースに収納されている(【0048】 【図 、 5】。そして、前記(1)ア(イ)の特許請求の範囲の請求項3は、請求項2の従属項で )あり、「前記押さえ部は、前記収納ケースに対し移動可能に取り付けられ」るものと特定しているものであるところ、請求項2の発明は押さえ部が移動可能ではないものも含むと認めるのが相当である。乙10公報の発明の詳細な説明の記載をみても、請求項2に係る発明の押さえ部が移動可能なものに限定される理解すべき理由はない。そうすると、乙10公報には、非使用時並びに巻き出し時及び巻き取り時において巻取ロール(ロール部材)及び押さえ部(長尺部材)が収納ケース(ケーシング)に収納されている構成が開示されていると認められる。 したがって、引用発明1-1は、構成要件1D-1に相当する構成を有する。 (イ) 構成要件1D-4-2及び1D-4-3について 後記2「当審における当事者の主張に対する判断」(3)において判示するとおり、 引用発明1-1は、構成要件1D-4-2及び1D-4-3に相当する構成を有する。 (ウ) したがって、引用発明1-1は、本件再訂正後発明1と同一である。」 (15) 原判決51頁21行目及び24行目、52頁2行目並びに53頁10行目の各「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」と、51頁25行目、52頁2行目及び53頁11行目の各「1D-4」を「1D-4-1」と、52頁25行目の「発明1-1には」を「発明1-1は」と、同頁26行目の「技術思想が表れて」を「構成を有して」と、53頁4〜5行目の「実施形態や他の実施形態では」を「実施形態として」と、同頁6行目の「 【0029】 」を「 【0041】 ( ) ( 【図3】〜【図5】【0062】 、 【図10】、いずれも」とそれぞれ改める。 ) (16) 原判決53頁13行目の「乙10公報は」を「乙10公報記載の特許は」と改め、同頁14行目の「平成27年3月12日に」の次に「公開特許公報が」を挿入し、同頁14〜15行目の「本件訂正後発明1」を「本件再訂正後発明1」と、 同頁18行目の「本件特許1」を「本件再訂正後発明1に係る特許」とそれぞれ改 47め、同頁19行目の「されるべきものであって、」の次に「本件において、」を挿入し、同頁20行目の「特許法123条1項、104条の3第1項、29条の2」を「特許法104条の3第1項、123条1項2号、29条の2」と改める。 2 当審における当事者の主張に対する判断 (1) 争点1(本件再訂正後発明1の技術的範囲への属否)について ア 構成要件1D-1について (ア) 「収納」の意義について 訂正の上引用した原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の2(2)アのとおり、構成要件1D-1の「長尺部材を収納するケーシング」「前記長尺部材が前記ケーシングに収納されており」における「収納」は、長尺部材の全部がケーシング内に完全に収まることを要するものではなく、ケーシングと長尺部材の位置関係として、ケーシングにしまわれている状態(整然と入れられた状態)を意味し、少なくとも、ケーシングの開口部を含めたケーシングの内部に長尺部材の大部分が入れられている状態はこれに当たると解するのが相当である。 被控訴人は、@本件明細書1の【図9】において、長尺部材の全体がケーシングの内部に収まる位置にあること、A本件再訂正後発明1が可搬式の装置に係るものであって破損・汚損のおそれが高いことからすると、長尺部材がケーシングに収納されているという場合、当業者は、特段の技術的要請がない限り、長尺部材がケーシングの内部に完全に収容され、落下や振動、衝突、汚損などから保護されている状態を指すものと理解すること、B本件明細書1の【0052】及び【図13】記載の「ケーシングをスライド移動させる態様」は、ケーシングの開口部から長尺部材が露出していると実現できないことから、構成要件1D-1の「前記長尺部材が前記ケーシングに収納されており」は、長尺部材が、ケーシングの外部に露出することなく、衝撃や汚損から可及的に保護されるよう、その中にきちんと入っている状態にあることをいい、少なくとも、シートの巻き出しに際して、長尺部材が、シートを挟んで、ケーシングに優先して設置面に接触するような状態、すなわち、長 48尺部材がケーシングから突出した状態は、「収納」に当たらないと主張する。 しかしながら、本件明細書1の【図9】は本件再訂正後発明1の「一態様に係るマグネットスクリーン装置の構造」 【0020】 ( )を示したものにすぎず、本件再訂正後発明1において必ずしも長尺部材がケーシングの内部に収まる位置にあることが要求されているとはいえない。 また、本件明細書1には、長尺部材の位置に関し、発明の一態様において、「巻回状態のスクリーンシート10に隣接して長尺部材30も同様にケーシング40内に収められている。( 」【0044】、 )「長尺部材30は、ケーシング40の開口部46に位置付けられている。 ( 」 【0048】)といった記載があり、【図9】には長尺部材がケーシングの内部に位置する構成が記載されているものの、落下や振動、衝突、汚損から保護するために長尺部材をケーシングの内部に収納する旨の記載はなく、本件明細書1のその余の記載に照らしても、本件再訂正後発明1において、長尺部材が、ケーシングの外部に露出することなく、衝撃や汚損から可及的に保護されるよう、その中にきちんと入っている状態にあることを要すると解することはできない。 そして、本件明細書1の【0052】及び【図13】記載の「ケーシングをスライド移動させる態様」については、長尺部材がローラー部材49により回転運動をすることで実現でき、必ずしも長尺部材がケーシングの内部に位置しなければ実現できないものであるとはいえない。 そうすると、控訴人の上記主張はいずれも採用できない。 (イ) 次に、被控訴人製品の「押さえローラー」は、本件再訂正後発明1における「長尺部材」に、「本体ケース」及び「キャップ(側板)」は、「ケーシング」に相当するところ、訂正の上引用した原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の2(2)アのとおり、被控訴人製品においては、本体ケースの内部に押さえローラーの大部分が入れられているから、長尺部材がケーシングに収納されているということができる。 49 被控訴人は、被控訴人製品においては、7割以上が本体ケースから露出していることになり、押さえローラーの円の中心角を基準としても6割弱が本体ケースから露出しているから、本体ケースの内部に押さえローラーの大部分が入っている状態にあるとはいえず、押さえローラーが本体ケースに「収納」されているとはいえないと主張する。しかしながら、被控訴人製品においては、「本体ケース」のみならず、「キャップ(側板)」もケーシングの一部を構成するものであるところ、被控訴人の主張は、キャップ(側板)により覆われている部分を考慮しないものであって採用できない。 イ 構成要件1D-4-2について (ア) 証拠(甲5〜7、乙3〜5、7〜9、35)によると、被控訴人製品においては、押さえローラーが回転可能であり、その回転は巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートとの摺動接触に起因するものと認められ、「押さえローラー」は本件再訂正後発明1の「長尺部材」に相当するから、被控訴人製品は構成要件1D-4-2を充足する。 (イ) 被控訴人は、被控訴人製品における押さえローラーの回転は、設置面に沿って本体ケースをスライド移動させることによって押さえローラーが回転するので、 押さえローラーの回転はスクリーンシートとの摺動接触に起因するものではないと主張するが、被控訴人の主張を前提としても、押さえローラーは、設置面にスクリーンシートを挟んで接触しており、本体ケースのスライド移動に伴って、押さえローラーと接触しているスクリーンシートが相対的に摺動することに起因して回転するということができるから、被控訴人の主張は前記(ア)の認定を左右しない。被控訴人製品の押さえローラーが、スクリーンシートの摺動とは無関係に、別の動力等により回転していると認めることはできない。また、被控訴人は、押さえローラーを設置面上で転がすことなくシートを引き出すことができる構成にはなっていないと主張するが、証拠(乙4)によると、被控訴人製品においては、押さえローラーが設置面に接していない場合でもスクリーンシートを引き出すことが可能であると 50認められるから、被控訴人の上記主張は前提を欠く。 そうすると、被控訴人の主張は採用できない。 (2) 争点2(本件発明2の技術的範囲への属否)について ア 控訴人は、構成要件2Dの「同一平面上に位置付けられ」について、磁石が設置面に磁着した状態において、棒部材の直下において、マグネットスクリーンが設置面から浮かないことを指すと解釈することは、本件特許2の出願時の願書に添付した明細書及び図面(甲28。本件明細書2と同じ。)の記載に整合せず、また、 審査経過における控訴人の主張の誤った理解に基づくものであると主張する。 イ 本件明細書2の記載について 本件明細書2の【図3】(iii)、【図4】(iv)を子細にみると、棒部材及びスクリーンシートと設置面との間に僅かな隙間があることが認められるものの、本件発明2は、設置面との間に空気が入り込んで、マグネットスクリーンの局所領域が設置面から浮いて、"浮き"が生じることを回避しようとするものであるところ(【0005】【0006】、本件明細書2には、棒部材及びスクリーンシートと設置面 、 )との間に隙間が存在しない形態も記載されているから(【0042】【0043】 、 、 【図1】、本件明細書2の記載からは、本件発明2について、棒部材及びスクリー )ンシートと設置面との間に隙間がない構成と隙間がある構成の双方が想定されているものと認めるのが相当である。そして、訂正の上引用した原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の3(2)ウのとおり、審査経過に照らすと、本件特許2の出願人である控訴人は、棒部材及びスクリーンシートと設置面との間に隙間がある構成を意識的に除外する補正をすることで、本件特許2に係る出願について特許査定を受けたものと認められる。 また、本件明細書2の【0058】及び【0066】の「本態様では、棒部材の自重を利用したものに限定されない。」との記載は、棒部材と設置面との間の隙間の有無に影響するものではない。 そうすると、前記アの解釈が、本件明細書2の記載に矛盾するとはいえない。 51 ウ 審査経過について (ア) 控訴人は、審査経過@の控訴人の主張(乙11公報記載の発明との相違点として、同発明においては「ガイドローラ10により映写スクリーン7の裏面側を黒板1の表面に接触させる旨は開示されていない」と主張したこと)及び審査経過Aの控訴人の主張(ケーシングの開口部に棒部材が位置付けられている場合に、マグネットスクリーンと設置面とが隙間なく接触可能となることが明確であると思料されると主張したこと)から、「同一平面上に位置付けられ」について、磁石が設置面に磁着した状態における、棒部材の直下において、マグネットスクリーンが設置面に「間隙なく」接触している状態を意味すると理解することはできないと主張する。 (イ)a 控訴人は、審査経過@の控訴人の主張は、特許請求の範囲に「同一平面」との限定が加えられる前にされた主張であるから、その後の補正で追加された「同一平面」の解釈に用いることは適切ではないと主張するが、訂正の上引用した原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の3(2)ウのとおり、「同一平面」との限定を加える補正(構成要件2Dを追加する補正)は、審査経過@の控訴人の主張と同時にされた補正を更に明確化するためのものであって一連のものであると解されるから、審査経過@の控訴人の主張をその後の補正により加えられた「同一平面」の解釈に用いることが不適切であるとする理由はない。 b 控訴人は、審査経過@の控訴人の主張は、乙11公報における映写スクリーン又は本件発明2におけるマグネットスクリーンの設置途中における構成について述べたものであって、設置完了時の構成について述べたものではないと主張するが、 乙11公報には、控訴人が補正により抵触を回避しようした構成(【0024】【図2】記載の構成)につき、映写スクリーンの設置途中のものであって、設置完了後は異なる構成をとる旨の記載はなく、控訴人の意見書(甲18の1)をみても、控訴人が設置途中の構成について述べたものと認めることはできない。 (ウ) 控訴人は、審査経過Aの控訴人の主張についても、マグネットスクリーンの 52設置完了時の棒部材と設置面との接触関係を述べたものではないと主張するが、訂正の上引用した原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の3(2)ウcのとおり、控訴人は、「棒部材が開口部の形成領域に位置する前記マグネットスクリーンと接触することによって、ケーシングが設定面に保持された場合を含んで常にマグネットスクリーンが前記設置面に接触可能となるか否かは、ケーシングが設置面に保持された際の棒部材と接地面に保持されたケーシング面との位置関係によって変化し得ることは当業者に明らかである」との特許庁審査官の指摘に応じて、 構成要件2Dを追加する補正をするとともに、「ケーシングの開口部に棒部材が位置付けられている場合に、マグネットスクリーンと設置面とが隙間なく接触可能となることが明確であると思料いたします。」と回答したものであるから、控訴人の審査経過Aの主張は、「ケーシングが設定面に保持された場合」すなわち設置完了時のマグネットスクリーンと設置面の位置関係についても述べているものと解するのが相当である。このことは、控訴人が補正により回避しようとした構成(乙11公報の【0024】【図2】記載の構成)につき、映写スクリーンの設置途中のものであって、設置完了時には異なる構成を採るものとは認められないこととも整合する。そして、本件発明2においては、マグネットスクリーンは棒部材と接触するものであるから(構成要件2E)、審査経過Aの主張は、設置完了時に、棒部材と設置面との間に隙間がないことまでを意味するものと解される。 エ 以上のとおりであるから、控訴人の主張はいずれも採用できない。 (3) 争点3-1(引用発明1-1に基づく本件再訂正後発明1の拡大先願要件違反の有無)について ア 構成要件1D-1及び1D-4-1について (ア) 控訴人は、引用発明1-1の押さえ部は可動であり、仮に可動ではない場合を含むとしても、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体を巻き出す又は巻き取る構成は乙10公報に開示されていないと主張する。 (イ) しかしながら、乙10公報には、押さえ部を固定する場合を排除するような 53記載はない。そして、「スクリーン本体4が被磁着体90に近接した位置にあると、 スクリーン本体4が被磁着体90に磁着しやすくて引き出し操作をスムーズに行い難いし、スクリーン本体4の表面に傷が付くことがあることから、引き出しを開始する前に、図4に示すように、ベース板11に可動片12を重ね合わせた状態(ロック状態)にして、押さえ部5を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)に固定する。( 」【0043】)との記載は、特許請求の範囲の請求項3に係る発明の実施例に係るものと認められる。また、上記記載からすると、スクリーン本体4の引き出し操作をスムーズに行うことができ、スクリーン本体4の表面に傷が付くおそれがない場合には、引き出し時に、押さえ部を非磁着体(本件再訂正後発明1における「設置面」)から離す必要がないものと読み取ることができる。さらに、乙10公報には、請求項3に係る発明の実施例についての説明として、「前記押さえ部5を被磁着体90から離した第1配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着体90との離間間隔(距離)は、20mm〜70mmに設定されるのが好ましい(図4参照) 」 【0049】 、 。( ) 「前記押さえ部5を被磁着体90に近接させた第2配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着体90との離間間隔(距離)は、 1mm〜15mmに設定されるのが好ましく、中でも2mm〜8mmに設定されるのが特に好ましい(図3、5参照) 」 【0050】 。( )との記載があることからして、 引用発明1-1においても、押さえ部と被磁着体との位置関係にはある程度の幅があることが想定されているといえるところ、押さえ部と被磁着体との間の距離を調整することによって、スクリーン本体の引き出し操作をスムーズに行うことができ、 かつ、スクリーン本体の表面に傷が付くおそれがないようにすることが可能であることは、当業者にとって明らかであるといえる。 そうすると、乙10公報には、押さえ部を固定した構成が開示されていると認めるのが相当である。 (ウ) 上記を前提とすると、乙10公報の【図5】のような構成で押さえ部を固定することも当然に想定されるから、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリ 54ーン本体を巻き出す又は巻き取る構成も、乙10公報に開示されていると認められる。乙10公報の【図1】〜【図6】は、いずれも押さえ部を可動とした場合(すなわち請求項3に係る発明)の実施例であると認められるのであって、これらの図をもって、乙10公報に、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体を巻き出す又は巻き取る構成が開示されていないということはできない。 (エ) したがって、控訴人の上記主張は理由がない。 イ 構成要件1D-4-2について (ア) 引用発明1-1における押さえ部は、「棒状体で形成されて」おり、その「横断面視での外形形状(外周面の形状)は、円弧面に形成」されたものである。 (乙10公報の【0036】【図3】。しかしながら、乙10公報には押さえ部が 、 )回転可能である旨の記載はない。 (イ) 乙39(特開平5-150366号公報)には「スクリーン20は、補助ローラー18を介してスリット15を通過した後」 【0017】 ( )との記載があり、 乙40(特開平6-222462号公報)には「スクリーン5はガイドローラ9aを介して前方を張出される」 【0027】 ( )との記載があり、乙41(特開平10-291397号公報)には「筆記シート2の搬送に連れ回りするローラー」【0 (008】)との記載があり、乙42(特開2009-122177号公報)には「矯正ローラ12は、スクリーン7の巻きに対してスクリーン7が跳ね上がる方向(・・)に対峙して配置されてスクリーン7に接し、そのスムーズな上下動作を阻害しない程度に巻き取りローラ10側に圧接してその曲り癖を矯正し、垂直に垂下するように作用する」 【0025】 ( )との記載があり、乙33公報には「ケースの移動とともに伸長するマグネットスクリーン面に当接してこのマグネットスクリーンを前記黒板類の表面に押し付けるロングガイドローラー」 【請求項3】 ( )との記載がある。これらによると、移動するシート状のものと接触する部分をローラーすなわち横断面視が円弧面となる回転可能なものとすること、及び、シートとの摺動接触に起因してローラーが回転するものとすることは、本件特許1の出願当時、周 55知・慣用手段であり、これは本件特許1のようなマグネットスクリーン装置の分野においても同様であったものと認めることができる。 (ウ) ところで、乙10公報には、「前記可動体24の先端部26の横断面視での外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面に形成されているので(図10参照)、引き出し操作の際のスクリーン本体4の傷付きを十分に防止することができる。 ( 」【0062】、 )「前記可動体24の先端部26の横断面視での外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面に形成されているので(図10参照)、巻き取り操作の際のスクリーン本体4の傷付きを十分に防止することができる。( 」【0066】)との記載があり、これらの記載における「稼働体24の先端部26」は引用発明1-1の「押さえ部」に相当する部分であることから、引用発明1-1において、押さえ部の横断面視の形状を円弧面としているのは、引き出し操作及び巻き取り操作の際に、スクリーン本体が傷付くことを防止するためであるものと認められる。そうすると、乙10公報には、 押さえ部の構成を工夫することによって、引き出し操作及び巻き取り操作の際にスクリーン本体が傷付くことを防止することが開示されているといえる。 (エ) そして、シートと接触する部分を回転可能とすることによる効果も、シートの移動時にシートが傷付くことを防止するというものである。 そうすると、引用発明1-1において、横断面視の形状が円弧面である押さえ部を回転可能とし、その結果、押さえ部に接触しながら巻き出され又は巻き取られるスクリーンの摺動接触に起因して押さえ部が回転するものとすることは、当業者が押さえ部の構成の工夫として適宜選択する範囲のものにすぎないと認めるのが相当である。 (オ) この点、控訴人は、本件再訂正後発明の構成要件1D-4-2により、@長尺部材によるスクリーンシートの設置面への押さえ込みと、Aスクリーンシートのスムーズな巻き出し、巻き取りを両立できるという、周知・慣用技術とは異なる新たな効果を奏すると主張するが、上記(イ)の各証拠に照らすと、回転可能な部材に 56よりシートを押さえつつ、シートをスムーズに移動させることは、まさに周知・慣用技術の奏する効果であるから、控訴人の上記主張は採用できない。 (カ) したがって、引用発明1-1は、構成要件1D-4-2に相当する構成を含むものと認めるのが相当である。 ウ 構成要件1D-4-3について (ア) 乙10公報には、「前記スクリーン本体4の先端側縁部(引き出す方向側の縁部)に固定用バー8が接合されている(図1参照)。前記固定用バー8の長さ方向の両端部に図示しない永久磁石が埋設されており、この永久磁石の磁力によって固定用バー8を被磁着体90に固定することができる。 ( 」【0035】、 )「収納ケース2の長さ方向の両端部に図示しない永久磁石が埋設されており、この永久磁石の磁力によって収納ケース2を被磁着体90に固定することができる。 ( 」【0037】)との記載があり、これらの記載によると、引用発明1-1は、構成要件1D-4-3の「マグネットスクリーン装置の設置時に前記設置面に接するケーシング裏面に設けられたケーシング・マグネット」「前記スクリーンシートの短手端部」に設け 、 られた「裏面にマグネットを有する操作バー」に相当する構成を有すると認められる。 もっとも、乙10公報には、「前記固定用バー8の長さ方向の略中心位置に取手9が設けられている(図1参照)( 」【0035】)との記載があり、構成要件1D-4-3の「操作バー」に相当する「固定用バー」に「取手」が設けられている旨の記載はあるものの、ケーシングに相当する「収納ケース」に取手がある旨の記載はない。 (イ) 乙31(平成24年12月18日付けの株式会社ケイアイシーの商品カタログ)、乙32(特開2006-178916号公報)及び乙33公報には、ケースから巻き出す形態のスクリーン装置において、ケースに取手が設けられているものが開示されており、本件特許1の出願当時、本件再訂正後発明1のようなマグネットスクリーン装置の技術分野において、ケースに取手を設けることは周知・慣用手 57段であったと認められる。そして、引用発明1-1において収納ケースに取手を設けることは、当業者が、運搬の便宜等のため、必要に応じて適宜選択できることであると認められる。 (ウ) 控訴人は、本件再訂正後発明1においては、ケーシングを移動させてシートを巻き出す使用態様のために「取手部」が必須であるのに対し、引用発明1-1では収納ケースを移動させてシートを巻き出すような使用形態は想定されていないから、収納ケースに「取手部」に相当する部材を設けることについては開示も示唆もないと主張するが、本件再訂正後発明1においても、ケーシングではなく「操作バー」側を移動させてスクリーンを巻き出す態様も想定されているし(本件明細書1の【0051】【図12】、また、取手部ではなく、ケーシング自体を保持して移 、 )動させることが可能であることは明らかであるから、ケーシングを移動させてシートを巻き出すために「取手部」が必須であるという上記控訴人の主張は採用できない。 (エ) したがって、引用発明1-1は、構成要件1D-4-3に相当する構成を含むものと認めるのが相当である。 3 結論 以上の次第で、控訴人の請求はいずれも理由がないからこれを棄却した原判決は相当であり、本件控訴には理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 本多知成 |
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