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関連審決 不服2000-6873
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10312審決取消請求事件 判例 特許
平成12行ケ65審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10818審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ268審決取消請求事件 判例 特許
平成2ワ12094 判例 特許
関連ワード 産業上利用(29条1項柱書) /  医療行為 /  容易に実施 /  試行錯誤 /  複雑高度な実験 /  技術常識 /  発明を特定する事項 /  発明の詳細な説明 /  明細書の記載要件 /  参酌 /  実施 /  構成要件 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 422号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁理士 渋谷理
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 和泉等
同 高木進
同 田中秀夫
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/03/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2000-6873号事件について平成13年7月30日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成9年1月14日,発明の名称を「身体クローズドサイクルヒートサーキット装置」とする特許出願(特願平9-49529号,以下「本件特許出願」という。)をしたが,平成12年3月28日に拒絶の査定を受けたので,同年5月9日,これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は,同請求を不服2000-6873号事件として審理した上,平成13年7月30日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年8月22日,原告に送達された。
2 本件特許出願の願書に添付した明細書(平成12年5月9日付け手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載 【請求項1】熱ポンプ6により熱吸収部5,径路7,熱ポンプ6,径路8,加熱部4,人体1,再び熱吸収部5の順に流れる熱流の熱的連結回路,すなわち熱が循環する閉回路を形成せしめ,人体1において足部の温度をT1,ひざ部9の温度をT2,腰部10の温度をT3,胸部11の温度をT4,頭部3の温度をT5とし,足部とひざ部分の熱抵抗をR1,ひざ部と腰部間の熱抵抗をR2,腰部と胸部間の熱抵抗をR3,胸部と頭部間の熱抵抗をR4とし,熱流量をBcとすると,T1>T2>T3>T4>T5,Bc=T1-T5/R1+R2+R3+R4,の2つ式を満足せしめる事を特徴とする熱伝導性低下の少ない熱流の熱的連結回路装置。
(以下,上記【請求項1】の発明を「本願発明」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,@本願発明は,疾病や体不調を治癒するための方法に係る発明であるから,人間を治療する方法に該当し,特許法29条1項柱書の規定する「産業上利用することができる発明」に当たらず,A実際上,明らかに実施できない発明であって,この点においても上記「産業上利用することができる発明」に当たらず,B本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の全体を参酌しても,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度にその方法が明確かつ十分に記載されているとはいえず,また,発明の効果の記載も,具体的な実施条件もそれに対応する具体的な効果も明らかにされていないから,同法36条4項(平成14年法律第24号附則2条1項の規定により,なお従前の例によるとされる,同法による改正前の特許法36条4項〔以下「旧36条4項」という。〕の趣旨と解される。)に規定する要件を満たさないものであり,本件特許出願は拒絶すべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明を,疾病や体不調を治癒するための方法に係る発明であると誤って認定し(取消事由1),実際上,明らかに実施できない発明であると誤って認定した(取消事由2)結果,特許法29条1項柱書の規定する「産業上利用することができる発明」に当たらないと判断し,本件明細書の発明の詳細な説明の記載について旧36条4項所定の記載要件の充足性の判断を誤り(取消事由3),審決書に複数の審決年月日が記載されたため,審決日の特定が不能であり(取消事由4),旧36条4項の委任省令について,通商産業省令を適用すべきところ,誤って経済産業省令を適用した(取消事由5)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願発明が方法に係る発明であるとした認定の誤り) (1) 審決は,本願発明を,「請求項(注,【請求項1】)の末尾は『・・・装置』とされているが,実質的には,該装置を使用して,『熱が循環する閉回路を形成せしめ,人体1において足部の温度をT1,ひざ部9の温度をT2,腰部10の温度をT3,胸部11の温度をT4,頭部3の温度をT5とし,足部とひざ部分の熱抵抗をR1,ひざ部と腰部間の熱抵抗をR2,腰部と胸部間の熱抵抗をR3,胸部と頭部間の熱抵抗をR4とし,熱流量をBcとすると,T1>T2>T3>T4>T5,Bc=T1-T5/R1+R2+R3+R4,の2つ式を満足せしめる』ようにした『方法に係る発明』というべきである」(審決謄本1頁最終段落)とした上,「本願明細書(注,本件明細書)の『発明の属する技術分野』の項に記載されているように,本願発明は,『疾病や体不調を治癒する』ための方法であるから,『人間を治療する方法』に該当し,特許法第29条第1項柱書に規定されている『産業上利用することができる発明』に当たらない」(同2頁第1段落)と判断したが,誤りである。
(2) 本願発明の特許請求の範囲の【請求項1】の記載は,上記第2の2のとおりであって,本願発明は明確に「装置」の発明として特許出願されており,また,本件明細書(甲1添付)の「発明の属する技術分野」の項には,「本発明は,人体において熱的連結回路の熱流により,疾病や体不調を治癒する装置に関する」(段落【0001】)と,本願発明は装置に関する発明であることが明確に記載されている。審査基準によれば,医療器械自体は,人間を治療する方法に含まれない。
2 取消事由2(本願発明が実施できない発明であるとした認定の誤り) (1) 審決は,「請求項1に記載された発明(注,本願発明)は,理論的には・・・可能であるとしても,明細書の記載からみて,その実施は実際上考えられないものであり,『実際上,明らかに実施できない発明』」(審決謄本2頁第3段落)であると認定した上,「この点においても『産業上利用することができる発明』に当たらないというべきである」(同)と判断したが,誤りである。
(2) 人体は,足部の次に腰部,胸部,頭部と順次連結して成るものであり,足部を加温し,頭部を冷却すれば,その間は順次熱傾斜を生ずるであろうことは何人にも容易に理解し得るものであるから,本願発明の「T1>T2>T3>T4>T5」及び「Bc=T1-T5/R1+R2+R3+R4」の2式は,成立し得るものである。そして,本願発明の装置に人が座れば,上記2式を満足することとなり,本件明細書記載の効果を発揮することは,常識的に明らかである。
また,本願発明は,既に量産されて千台以上も使用され,ユーザーが満足して続々と注文があり,明らかな実施がされている。甲26は,本願発明の装置に人を座らせ,18分後の人の各部の温度をサーモグラフィを使用して測定した映像であり,足部が最も赤く温度が高く,次に下肢,ひざ,上肢など下半身の温度が高く,順次頭部へ行くに従って青色となり,冷却されていること,すなわち,本願発明の装置による人体の足先から頭への温度傾斜状態が明らかに証明されている。
3 取消事由3(旧36条4項所定の記載要件の充足性の判断の誤り) (1) 審決は,本件明細書の発明の詳細な説明中の実施例の記載は,抽象的な説明に終始していて,発明をどのように実施するかを具体的には示しておらず,実施例というに値しないものであり,発明の詳細な説明及び図面の全体を参酌しても,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度にその方法が明確かつ十分に記載されているとはいえず,また,発明の効果の記載も,具体的な実施条件もそれに対応する具体的な効果も明らかにされていないと認定したが,誤りである。
(2) 本件明細書の実施例の記載から,当業者が本願発明を実施することは容易であり,かつ,既に1200台以上が本件明細書の記載に基づき生産されているのであるから,現に,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,その実施をすることができている。また,本願発明の効果は,東京慈恵会医科大学,聖マリアンナ医科大学,シカゴ医科大学において実験を行い,健康人が視力や計算力を向上する効果を得ることが確認されている。さらに,特許法施行規則24条の様式第29備考15ニには,「特許を受けようとする発明が従来の技術との関連において有利な効果を有するものであるときは,なるべくその効果を記載し,当該記載事項の前には『【発明の効果】』の見出しを付す」と規定されており,発明の効果の記載は,明細書の発明の詳細な説明の必須の記載要件ではない。
4 取消事由4(審決日の特定不能の誤り) 審決書には,「平成13年7月7日」及び「平成13年7月30日」の複数の審決年月日が記載され,審決日の特定が不能であるという瑕疵があるから,審決は無効というべきである。
5 取消事由5(旧36条4項の委任省令の適用の誤り) 審決は,明細書の記載要件について,「法令は,明細書の『発明の詳細な説明』は,経済産業省令で定めるところにより,『その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に,明確かつ十分に』記載しなければならず(特許法第36条第4項〔注,旧36条4項〕),『特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければなら(ず)』(特許法施行規則第24条の2)」(審決謄本4頁第2段落)として,経済産業省令を適用した。しかし,本件特許出願は,平成9年1月14日にされ,本件特許出願当時に施行されていた法令が適用されるべきであるから,旧36条4項の委任省令は,平成7年6月27日通商産業省令第57号(平成7年7月1日施行)が適用されるべきである。したがって,審決には,誤って経済産業省令を適用した瑕疵があり,無効というべきである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本願発明が方法に係る発明であるとした認定の誤り)について 本願発明の「熱的連結回路」は,人体がその一部を構成することにより形成されるものであり,しかも,本願発明を特定する事項とされている二つの式を満足するためには,装置が人体に使用されていなければならないことが明らかであるから,本願発明は,実質的には方法に係る発明というべきである。また,医療機器自体は,「人間を治療する方法」に含まれないことは原告主張のとおりであるが,医療機器を用いて人間を治療する方法は医療行為であって,産業上利用することができる発明に該当しないものと解すべきである。本件明細書(甲1添付)には,「発明の属する技術分野」に「疾病や体不調を治癒する」(段落【0001】),【発明が解決しようとする課題】に「従来の医学では治癒不可能,又は困難とされた人体のいろいろな疾病などをも治癒する」(【0003】),「発明の効果」に「本発明により,冷え性,肩凝り,更年期障害・・・を治癒することができる」(段落【0013】)と記載されているから,本願発明は,「人間を治療する方法」に該当する。
2 取消事由2(本願発明が実施できない発明であるとした認定の誤り)について 本願発明においては,本件明細書(甲1添付)の【図1】,【図2】に図示されているように,人体を,例えば金属棒のような,単に熱抵抗Rのみを有する熱的連結回路と仮定している。しかし,人間の体温は,約36.5度と一定に保たれているように,単純な熱抵抗Rのみを有する熱的連結回路ではなく,一定の温度に制御された発熱源も持つ回路と考えられる。すなわち,本願発明における所定の部位である足部,ひざ部,腰部,胸部,頭部にそれぞれ一定の温度に制御された発熱源を持つ熱的連結回路と考えられる。そして,このような熱的連結回路において,足部に加熱部を設け足部の温度をT1に加熱し,頭部に熱吸収部を設け頭部の温度をT5に冷却したとしても,ひざ部,腰部,胸部は発熱源により所定の温度になるように制御されているので,足部の温度T1>ひざ部の温度T2,及び胸部の温度T4>頭部の温度T5は成り立つとしても,ひざ部の温度T2>腰部の温度T3>胸部の温度T4という関係式が成立するとは考えられない。また,足部,ひざ部,腰部,胸部及び頭部から成る回路は,熱抵抗R1,R2,R3,R4を単純に接続した回路でもないので,足部に加熱部を設けて足部の温度をT1に加熱し,頭部に熱吸収部を設けて頭部の温度をT5に冷却したとしても,熱流量Bc=T1-T5/R1+R2+R3+R4の関係式(この関係式は電気回路におけるオームの法則を表す関係式である。)が成立するとも考えられない。したがって,熱吸収部5,径路7,熱ポンプ6,径路8,加熱部4,人体1,再び熱吸収部5の順の熱的連結回路を形成し,人体の足部の温度をT1,頭部の温度をT5としても,T1>T2>T3>T4>T5及びBc=T1-T5/R1+R2+R3+R4の2関係式を満足させることができないから,本願発明は,「実際上,明らかに実施できない発明」である。
3 取消事由3(旧36条4項所定の記載要件の充足性の判断の誤り)について (1) 本件明細書は,抽象的な説明に始終していて,発明をどのように実施するかが具体的に示されていない。また,発明の詳細な説明及び図面の全体を参酌しても,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度にその方法が明確かつ十分に記載されているものとは認められない。特許制度は,「発明の保護及び利用を図る」(特許法1条)制度であるところ,発明の詳細な説明の記載が明確にされていないときは,発明の公開の意義も失われ,ひいては特許制度の目的も失われてくることになり,また,特許は,技術を公開したことへの代償として付与されるのであって,技術開示は当業者が容易に実施し得る程度に記載されていなければならないのは当然である。当業者が容易に実施し得ないような記載では,技術文献としての価値は小さく,出願の拒絶理由となるし,たとえ特許が付与されても無効理由となるというべきである。本件明細書(甲1添付)は,全体でわずか3頁半の箇条書き程度のものであって,図面も,【図1】は,本願発明とは直接関係のないオームの法則を単に図示したにすぎず,【図2】は,単なる熱流の径路を示したにすぎないものであり,これらをもって発明が完成したといえる程度に記載されたものとは言い難く,ましてや,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは到底いえない。
(2) 本件明細書(甲1添付)には,「本発明により冷え性,肩凝り,更年期障害,旅行の時差ぼけ,悪酔,風邪,蓄膿症の鼻つまり,睡眠不足,女性の肌荒れ,インポテンツ,難聴,乗物酔,歩くときの足が重いなどを治療することができる。
これらは,慈恵会医科大学,セントマリアンヌ校,シカゴ医科大学において実験を行い,効果を得ることができた。又,本発明装置は1200台以上の実験機により1万人以上の実験者が上記効果を確認しているところである」(段落【0013】)と記載されているが,そこでどのような実験が行われ,効果がどのように確認されたかは,明らかでない。
4 取消事由4(審決日の特定不能の誤り)について 原告は,審決日が特定できないと主張するが,審決日は,審決書全体からみて,審決書の末尾に記載された「平成13年7月30日」であることが明らかである。審決日として,ほかに「平成13年7月7日」との記載があるのは,審判官が起案した審決書原稿中の起案日とコンピュータシステムにより自動的に表記される起案日が重複して入力されたためである(合議体の氏名なども同様の理由により重複して入力された。)。
5 取消事由5(旧36条4項の委任省令の適用の誤り)について 平成12年11月20日通商産業省令第357号2条により,「通商産業省令」は「経済産業省令」に改められ,同令附則により,平成13年1月6日から施行されたものであるから,審決に原告主張の誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由3(旧36条4項所定の記載要件の充足性の判断の誤り)について (1) 本願発明は,第2の2記載のとおり,人体1において足部の温度をT1,ひざ部9の温度をT2,腰部10の温度をT3,胸部11の温度をT4,頭部3の温度をT5とし,足部とひざ部分の熱抵抗をR1,ひざ部と腰部間の熱抵抗をR2,腰部と胸部間の熱抵抗をR3,胸部と頭部間の熱抵抗をR4とし,熱流量をBcとすると,@T1>T2>T3>T4>T5の式(以下「@式」という。)及びABc=T1-T5/R1+R2+R3+R4の式(以下「A式」という。)の2式を満足させることを構成要件とするところ,原告は,本件明細書の実施例の記載から,当業者が本願発明を実施することは容易であり,かつ,既に1200台以上が本件明細書の記載に基づき生産されているのであるから,現に,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,その実施をすることができていると主張し,他方,被告は,本件明細書の発明の詳細な説明は,抽象的な説明に始終していて,発明をどのように実施するかが具体的に示されておらず,また,発明の詳細な説明及び図面の全体を参酌しても,当業者が本願発明の実施をすることができる程度にその方法が明確かつ十分に記載されているものとは認められないと主張する。
(2) そこで,本件明細書(甲1添付)の発明の詳細な説明の記載について検討すると,以下の記載がある。
ア 「発明の属する技術分野 本発明は,人体において熱的連結回路の熱流により,疾病や体不調を治癒する装置に関する」(段落【0001】) イ 「【従来の技術】従来,人体を加熱する湯浴,湯灸,冷水浴,あるいは温浴と冷却浴を交互に行うものなどがあるが,これらは本発明の人体に熱的連結回路を形成するものとは異るものである」(段落【0002】) ウ 「【発明が解決しようとする課題】従来の医学では治癒不可能,又は困難とされた人体のいろいろな疾病などをも治癒する装置を得ること」(段落【0003】) エ 「【課題を解決するための手段】人体は多くの水分と,筋肉などから成っており電気抵抗と同様な熱抵抗を有する。図1に示すように,Rを電気抵抗,電圧をEとする回路では電流Iが流れる。同様に人体の熱抵抗をR,温度差をEとすればIは人体を流れる熱流となる。この熱流が,本発明においては熱的連結回路を流れる」(段落【0004】) オ 「【発明の実施の形態】人体の例えば足部と頭部にそれぞれ加熱部と熱吸収部を設け,熱吸収部から熱ポンプ,加熱部,足部,人体,頭部,再び熱吸収部の順に流れる熱的連結回路による熱流を生じさせること」(段落【0005】) カ 「【実施例】図2は本発明実施例を示し,人体1の複数部位,例えば足部2と頭部3にそれぞれ加熱部4と熱吸収部5を接して設ける。6は熱ポンプであり,これにより熱吸収部5,径路7,熱ポンプ6,径路8,加熱部4,人体1,再び熱吸収部5の順に流れる熱流の熱的連結回路,すなわち熱が循環する閉回路を形成せしめる。人体1においては,足部2の温度をT1,ひざ部9の温度をT2,腰部10の温度をT3,胸部11の温度をT4,頭部3の温度をT5とし,足部とひざ部間の熱抵抗をR1,ひざ部と腰部間の熱抵抗をR2,腰部と胸部間の熱抵抗をR3,胸部と頭部間の熱抵抗をR4とすると,T1>T2>T3>T4>T5であり,熱流量をBCとすると,B C=T1-T5/R1+R2+R3+R4となる。人体1が接する加熱部4と熱吸収部5の温度は,人体の疾病などの種類と程度,年令,体質などに関係があり,一律に定められるものではないが,加熱部4では,ほぼ快適と感じる温度から低温やけどを生じない範囲であり,熱吸収部5では,ほぼ快適と感じる温度から痛みやしびれを生じない冷たさの温度の範囲であり,加熱部4は長靴状であれば十分な加熱ができるが,容易に着脱できず,平板状であれば足部をのせるだけで使用上便利であるが足部への熱伝達が低下し易く,又,足部をのせる板面からの熱損失が生じ易い。しかし,加熱部の温度は表面熱損失が著しくなるほど高温ではないので使用上便利のため平板状とする場合が多い。又,熱吸収部は,十分な熱吸収のためには帽子状がよいが,やはり使用上不便であるから,頭をのせる凹部を有する枕状のものが頭が安定してのせられ,しかも頭の動きが割合自由であり,熱効率の低下,すなわち熱伝導性低下も少いものである。加熱部および熱吸収部の温度の調節は,サーモスタットによる熱ポンプの送熱量の制御,加熱部および熱吸収部における熱流バイパス量の調節などにより行う。熱ポンプ6は,熱電素子のペルチエ効果による熱移動を利用することができ,この場合,径路7あるいは8は直接に熱電素子の冷極あるいは熱極に接するようにするか,熱を伝達するヒートパイプのごときものとなる。または流体の気化熱,凝縮熱を利用して熱移動を行うコンプレッサを使用する冷凍機系のものでもよい。このときは径路7,8は流体のパイプとなる。図2における人体1は,椅子に坐り治療を受ける状態であるが,状況によっては横に寝た状態でもよい。人体は不健康なときは,頭に血が上るとか頭が熱いとか云われて頭熱足寒の状態となる。本発明は本例のごとく足部より頭部への熱流により古来から云われている健康体の状況である頭寒足熱の状態とするものである。ただ,単に頭寒足熱の状態とするには頭にのせる冷湿布を取替えたり,足をふとんの中のこたつのところに入れたりして面倒である。本発明はこれを頭を熱吸収部に接し,足を加熱部に接するという動作のみで恒常的に且つ自動的に頭寒足熱の状態とすることができる。なお,本発明は足部より頭部への熱流のみならず,必要に応じて人体の複数部位に熱的連結回路を容易に形成することができる。上記実施例の他の,本発明にもとづく種々の変形はすべて本発明に属するものである」(段落【0006】〜【0012】) キ 「発明の効果 本発明により冷え症,肩凝り,更年期障害,旅行の時差ぼけ,悪酔,風邪,蓄膿症の鼻つまり,睡眠不足,女性の肌荒れ,インポテンツ,難聴,乗物酔,歩くときの足が重いなどを治癒することができる。これらは,慈恵会医科大学,セントマリアンヌ校,シカゴ医科大学において実験を行い,効果を得ることができた。又,本発明装置は1200台以上の実験機により1万人以上の実験者が上記効果を確認しているところである」(段落【0013】) (3) 上記ア〜キによれば,@式及びA式の2式に関しては,段落【0007】に「人体1においては,足部2の温度をT1,ひざ部9の温度をT2,腰部10の温度をT3,胸部11の温度をT4,頭部3の温度をT5とし,足部とひざ部間の熱抵抗をR1,ひざ部と腰部間の熱抵抗をR2,腰部と胸部間の熱抵抗をR3,胸部と頭部間の熱抵抗をR4とすると,T1>T2>T3>T4>T5であり,熱流量をBCとすると,B C=T1-T5/R1+R2+R3+R4となる」と記載されているだけであり,そこでは,外気温,着衣と人体の各部の温度との関係,加熱部と熱吸収部の温度設定によりその人体の各部の温度がどのようになるか等の分析は,定性的にも定量的にもされておらず,どのような加熱部と熱吸収部の温度設定条件の場合に@式及びA式の2式が満たされるのか,熱流量BC,熱抵抗R1,R2,R3,R4は,どのように測定され,A式が満たされていることが確認できるのか,あるいは,@式及びA式の2式が満たされるためにはどのような加熱部と熱吸収部の温度設定条件が必要なのかについての記載はない。また,加熱部及び熱吸収部に関して,段落【0008】に「人体1が接する加熱部4と熱吸収部5の温度は,人体の疾病などの種類と程度,年令,体質などに関係があり,一律に定められるものではないが,加熱部4では,ほぼ快適と感じる温度から低温やけどを生じない範囲であり,熱吸収部5では,ほぼ快適と感じる温度から痛みやしびれを生じない冷たさの温度の範囲であり・・・加熱部および熱吸収部の温度の調節は,サーモスタットによる熱ポンプの送熱量の制御,加熱部および熱吸収部における熱流バイパス量の調節などにより行う」との記載はあるが,@式及びA式の2式が満たされるためには,どのような加熱部と熱吸収部の温度設定条件が必要であるのかについて示唆するものではない。さらに,本件特許出願の願書に添付した図面について,本件明細書の【図面の簡単な説明】には,「【図1】本発明説明用の回路図【図2】本発明実施例を示す側面図【符合の説明】1人体2,3複数部位5,7,6,8,4,1熱的連結回路」と記載されているが,【図1】は,本願発明とは直接関係のないオームの法則を単に図示したにすぎず,【図2】は,単なる熱流の径路を示したにすぎないものであり,これら図面の図示を参酌しても,@式及びA式の2式に関する上記の諸点が発明の詳細な説明に開示されているものとは認められない。
(4) ところで,昭和41年5月25日医歯薬出版発行「温熱療法」(乙1)に記載されているように,一般に,人の体温は,おおむね一定と考えられ,外的温度に対し,着衣等による保温効果がある中,発熱,発汗等により複雑に体温調節機能が働いていることが知られているから,単に頭部を冷却し,足部を加熱した場合,ひざ部,腰部,胸部の温度が傾斜するとは認め難く,また,乙1の図48「同一外界温における対象グループの体の各部で計ったもっとも高い温度と低い温度の平均」(101頁)によれば,人体の各部位の平均皮膚温度は,およそ,S1・L5(足部)(本願発明のT1)≒31℃,L3(ひざ部)(本願発明のT2)≒31.5℃,T9(腰部)(本願発明のT3)≒33.5℃,T5(胸部)(本願発明のT4)≒33.2℃,頭部(本願発明のT5)≒33.5℃であり,これからみて,人の通常時の温度分布は,本願発明が達成しようとする温度分布である@式「T1>T2>T3>T4>T5」とは異なっている。したがって,上記のとおりの人の通常時の温度分布を本願発明が達成しようとする温度分布である@式を満足させるようにするというのであれば,そうすることが可能となる具体的手段が明細書又は図面に開示されない限り,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないところ,通常の着衣で,頭部を冷却し,足部を加熱してひざ部,腰部,胸部の温度を傾斜させるための加熱部と熱吸収部の温度設定条件が本件特許出願時における技術常識であったとは認められないから,このような加熱部と熱吸収部の温度設定条件の開示がない本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,当業者が,@式を満たすための条件を見いだすことは,技術常識参酌しても可能であるとはいえない。
また,人体の熱流量BC,熱抵抗R1,R2,R3,R4の測定値を得ることも,技術常識であったとは認められないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,当業者が,A式を満たすように実施することは,技術常識参酌しても可能であるとはいえない。
(5) 原告は,本願発明の装置は既に1200台以上が本件明細書の記載に基づき生産されていると主張する。しかしながら,本件明細書の記載のみに基づき本願発明の装置が生産されていることを認めるに足りる証拠はなく,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から本願発明を実施することが困難であることは上記のとおりであって,現に大量に生産されていたとしても,同事実は,本件明細書の旧36条4項所定の記載要件の充足性の判断とは関係がないから,原告の上記主張は失当というほかない。
(6) 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の全体を参酌しても,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤複雑高度な実験等を行う必要があるものといわざるを得ず,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度にその方法が明確かつ十分に記載されているとはいえないから,発明の効果の記載について検討するまでもなく,旧36条4項に規定する要件を満たさないというべきである。以上の理は,原告が取消事由1において主張するように,本願発明が方法に係る発明ではなく装置(物)に関する発明であっても,同様であり,結論を異にするものではない。したがって,旧36条4項所定の記載要件の充足性に関する審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由3の主張は理由がない。
2 取消事由4(審決日の特定不能の誤り)について 審決の年月日は,特許法157条2項が規定する審決書の記載事項であるところ,本件の審決書に,「平成13年7月7日」及び「平成13年7月30日」の複数の審決年月日が記載されていることは当事者間に争いがないから,審決書の記載自体によっては,いずれの日付が正しい審決日の記載であるかが不明りょうであるというほかなく,この点は,審決の瑕疵ということができる。しかしながら,審決謄本によって明らかな審決書の記載の体裁及び弁論の全趣旨によれば,真正な審決日が審決の末尾に記載された平成13年7月30日であること,審決日として,ほかに「平成13年7月7日」との記載があるのは,審判官が起案した審決書原稿中の起案日とコンピュータシステムにより自動的に表記される起案日が,合議体を構成する審判官の氏名とともに重複して入力されたためであることが認められるから,上記瑕疵によって審決の結論に影響を及ぼす違法があるとまでいうことはできない。したがって,原告の取消事由4の主張は,採用することができない。
3 取消事由5(旧36条4項の委任省令の適用の誤り)について 審決は,「法令は,明細書の『発明の詳細な説明』は,経済産業省令で定めるところにより,『その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に,明確かつ十分に』記載しなければならず(特許法第36条第4項〔注,旧36条4項〕),『特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければなら(ず)』(特許法施行規則第24条の2)」(審決謄本4頁第2段落)として経済産業省令を適用したところ,原告は,本件特許出願は,平成9年1月14日にされ,本件特許出願当時に施行されていた法令が適用されるべきであるから,旧36条4項の委任省令は,平成7年6月27日通商産業省令第57号(平成7年7月1日施行)が適用されるべきであると主張する。しかしながら,中央省庁等改革関係法施行法(平成11年法律第160号)911条の制定に伴う平成12年通商産業省令第357号2条により,「通商産業省令」は「経済産業省令」に改められ,同令附則により,平成13年1月6日から施行されたものであり,同年7月30日の審決時においては,上記改正後の経済産業省令が適用されるから(同法1301条参照),審決に原告主張の誤りはない。したがって,原告の取消事由5の主張も理由がない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由3,4及び5は理由がないから,その余の点について判断するまでもなく,本件特許出願は拒絶すべきものであるとした審決の判断に誤りはなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴
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