関連審決 |
無効2020-800103 |
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事件 |
令和
4年
(行ケ)
10037号
審決取消請求事件
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原告株式会社サンエス 同訴訟代理人弁護士 堀籠佳典 牧野知彦 岡田健太郎 同訴訟代理人弁理士 福田伸一 水崎慎 高橋克宗 被告 株式会社セフト研究所 同訴訟代理人弁護士 鮫島正洋 高橋正憲 山崎臨在 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2023/02/07 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2020−800103号事件について令和4年3月30日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文1項と同旨 |
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事案の概要
本件は、特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は、明確性要件違反の有無、冒認出願ないし共同出願要件違反の有無及び進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯等 被告は、名称を「空調服の空気排出口調整機構、空調服の服本体及び空調服」とする発明についての特許(特許第6158675号。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲1)。 本件特許は、平成25年10月9日を出願日(以下「本件出願日」という。)とし、特願2013-212139号として出願され(以下、この出願を「本件出願」という。)、平成29年6月16日に設定登録(請求項の数は10)がされた(甲1。以下、本件特許に係る設定登録時の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。 原告は、令和2年10月15日、本件特許のうち請求項3ないし10に係る部分について特許無効審判の請求をし、特許庁は、無効2020-800103号事件として審理した。 特許庁は、令和4年3月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年4月8日、原告に送達された。 原告は、令和4年5月6日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した。 2 本件特許に係る発明の要旨(甲1) 本件特許に係る特許請求の範囲(請求項3〜10)の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を請求項の番号に対応させて「本件発明3」などといい、本件発明3ないし10を併せて「本件各発明」という。)。 【請求項3】 送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口について、その開口度を調整するための空気排出口調整機構において、 第一取付部を有し、前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた第一調整ベルトと、 前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し、前記第一調整ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた第二調整ベルトと、 を備え、 前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成することを特徴とする空気排出口調整機構。 【請求項4】 前記第一取付部は前記空調服の服地の内表面と対向するように前記第一調整ベルトに取り付けられていることを特徴とする請求項3記載の空気排出口調整機構。 【請求項5】 前記第二取付部は貫通孔であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の空気排出口調整機構。 【請求項6】 前記第一取付部はボタンであることを特徴とする請求項5記載の空気排出口調整機構。 【請求項7】 前記貫通孔は切り込み線を入れて作製されるボタン孔であることを特徴とする請求項6記載の空気排出口調整機構。 【請求項8】 前記ボタン孔の切り込み方向が前記襟後部の長手方向と略平行になるように前記ボタン孔が形成されていることを特徴とする請求項7記載の空気排出口調整機構。 【請求項9】 請求項1〜8のいずれか一項に記載の空気排出口調整機構を備えた空調服の服本体。 【請求項10】 請求項1〜8のいずれか一項に記載の空気排出口調整機構を備えた空調服。 3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由の要旨(無効理由1(明確性要件違反)のうち、本訴において原告が取消事由における理由として主張しない本件発明3の「周辺」の明確性に係る部分及び本件発明5の「前記第二取付部は貫通孔である」の明確性に係る部分を除く。)は、次のとおりである。 (1) 無効理由1(明確性要件違反)について ア 本件発明3の「空気排出口」について(ア) 原告は、本件発明3の「空気排出口」について、襟後部と首後部との間に形成される開口部のことを指すのか、空気排出口調整機構により形成されるものを指すのか、襟と調整ベルト(空気排出口調整機構)で囲まれた領域を指すのかなど、 その意味するところが不明確である旨主張している。 (イ) しかしながら、本件発明3には、「空気排出口」について、「送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される」ものであって、「空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口」と特定されている。 この特定から、本件発明3の「空気排出口」とは、「送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する」ものであることが理解される。 (ウ) この理解は、本件明細書の「襟後部12と首後部との間に形成される開口部を、他の空気排出部と区別するため、「空気排出口」と称することにする。」(段落【0003】)との記載、「留め具512を貫通孔532に通して掛けると、 図6に示すように、留め具512の内面が貫通孔532の形成された部分における第二調整ベルト53の外表面に当接し、留め具512が第二調整ベルト53にしっかりと固定される。このとき、空調服1の襟後部12の付近が弛み、襟後部12と着用者の首後部との間に空気排出口13が形成される。また、空気排出口13から少量の空気を排出したい場合には、留め具512を貫通孔532に取り付けないようにする。この場合には、空気流通路内を流通する空気の圧力により襟後部12と首後部との間に自動的にある程度の開口部が確保されるので、この開口部が空気排出口13となって、ここから少量の空気を外部に排出することができる。したがって、第二実施形態の空気排出口調整機構50aを用いると、着用者は、空調服1の使用目的に応じて空気排出口13の開口度を2段階の開口度の中から選択し、所期の冷却効果を得ることができる。」(段落【0041】)との記載とも整合する。 (エ) 原告は、「「空気排出口」は「空気排出口調整機構」により形成されるものに限られていない。また、本件各発明は、襟後部に調整ベルトが存在しない形態(第一調整ベルトと第二調整ベルトを襟後部の周辺に取り付ける形態)を含んでいるのであるから、襟と調整ベルト(空気排出口調整機構)で囲まれた領域を「空気排出口」と理解することは困難である。」、「本件明細書の段落【0009】の記載によれば、「空気排出口」は、空気排出口調整機構により形成されるものに限られる記載ぶりとなっている。」、「図3、図6では、襟と調整ベルト(空気排出口調整機構)で囲まれた領域が空気排出口(13)となっており、それ以外の開口の部分は空気排出口(13)に含まれていない。」、「「空気排出口」に関する本件明細書の記載は一貫しておらず、当業者がその意味を理解できないものとなっている。」旨主張している。 そこで、上記主張について検討する。 上述のとおり、本件発明3の「空気排出口」とは、「送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される」ものと理解でき、調整ベルト(空気排出口調整機構)と襟の間にのみ形成されるものではない。 また、本件明細書の段落【0009】の記載は、空調服の使用目的によっては、 「空気排出口13」を空気排出口調整機構によって形成しないほうがよい場合もあると述べているにすぎず、「空気排出口」が、空気排出口調整機構により形成されるものに限られることを述べているものではなく、上記理解と矛盾しない。 よって、原告の上記主張には理由がない。 (オ) 以上より、本件発明3の「空気排出口」との記載は明確である。 イ 本件発明3の「開口度」、「複数段階の予め定められた開口度」について(ア) 原告は、「空気排出口」の「開口度」について、上記ア(ア)で述べたように「空気排出口」の意味するところが不明であるから、その意味や測定方法が不明である旨主張している。 (イ) しかしながら、上記アで述べたように、本件発明3の「空気排出口」は、 「送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する」ものであり、その意味するものは明確である。 そして、「空気排出口」の「開口度」は、空調服の襟後部と人体の首後部との間の「開口の大きさの度合い」を意味するものと理解でき、「複数段階の予め定められた開口度」も、その「開口の大きさの度合い」が複数段階あることを意味するものと理解できる。 (ウ) この理解は、本件明細書の「襟後部12と首後部との間の空気排出口13の開口度が、送風手段11から空気流通路内に取り込まれた外気の量に対して小さい」(段落【0007】)との、「開口度」が大小の複数段階で示すことが可能である旨の記載とも整合する。 (エ) また、原告は、本件発明3の「空気排出口」の「開口度」の測定方法が不明であるため、「複数段階の予め定められた開口度」も不明となる旨主張する。 (オ) しかしながら、「複数段階の予め定められた開口度」は、「開口の大きさの度合い」が複数段階あることを意味するもので、「開口度」が具体的な数値で表現されるものに限られず、大小で示すことを排除するものではないから、「開口度」の測定方法が記載されていないことをもって、本件発明3の「空気排出口」の「開口度」が不明確になるとはいえない。 (カ) よって、本件発明3の「空気排出口」の「開口度」、「複数段階の予め定められた開口度」との記載は明確である。 ウ 本件発明7について 原告は、「「切り込み線を入れて作製される」は物の製造方法の記載であり、不可能・非実際的事情も存在しないから、その点においても明確性要件に違反するものである。」旨主張する。 しかし、本件発明7の「前記貫通孔は切り込み線を入れて作製されるボタン孔」との事項は、切り込み線を入れることで得られる貫通孔をボタン孔とした構造を表すものと理解できる。 よって、本件発明7の「前記貫通孔は切り込み線を入れて作製されるボタン孔であること」との記載は明確である。 エ 小活 以上より、原告の主張する無効理由1には、理由がない。 (2) 無効理由2(冒認出願ないし共同出願要件違反)について ア 発明者について 発明者とは、特許請求の範囲に記載された発明について、その具体的な技術手段を完成させた者をいい、ある技術手段を発想し、完成させるための全過程に関与した者が一人だけであれば、その者のみが発明者となるが、その過程に複数の者が関与した場合には、当該過程において発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者が発明者となり、そのような者が複数いる場合にはいずれの者も発明者(共同発明者)となる。ここで、発明の特徴的部分とは、特許請求の範囲に記載された発明のうち、従来技術には見られない部分、すなわち当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいうものと解される。 イ 本件各発明の特徴的部分について 本件明細書の全記載を考慮すれば、本件各発明の特徴的部分(以下「本件特徴的部分」という。)は、 「送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口について、その開口度を調整するための空気排出口調整機構において、 第一取付部を有し、前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた第一調整ベルトと、 前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し、前記第一調整ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた第二調整ベルトと、 を備え、 前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成すること」であるといえる。 ウ 原告の従業者であるA(以下「A」という。)が本件特徴的部分の完成に寄与したか否かについて(ア) 原告も成立を認める甲67の被告のBからA宛ての平成25年7月24日の電子メールには、Aから原告の従業員であるC(以下「C」という。)宛てに甲3の1の電子メールが送信された平成25年7月31日より前の時点で、被告側から、「・首紐をボタン留めにする事について」の言及がある。ボタン留めには、ボタンとボタン孔が必要であるから、ボタン及びボタン孔の着想は被告側にあったといえる。 また、甲67には、「・襟周りを徐々に広くして行く事について」との記載もあり、ボタン留めにおける「徐々に広く」とは、ボタン及びボタン孔による複数段の調節を意味するから、首の空気排出口を複数段で調節することの着想も被告側にあったものといえる。 (イ) そうすると、本件特徴的部分のうち、少なくとも、 「送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口について、その開口度を調整するための空気排出口調整機構において、 第一取付部を有し、前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた第一調整ベルトと、 前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部」を備え、 「前記第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成すること」の部分は、被告側が創作的に寄与していたものといえる。 (ウ) 次に、本件特徴的部分のうち、「複数の第二取付部を有し、前記第一調整ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた第二調整ベルト」の着想が、原告側のAにより成されたか検討する。 AがCに指示・説明し、原告の従業員であるDが縫製したサンプルが備えるとする上記特徴は、「ボタンが、右側の肩部分に取り付けられたサテンテープに設けられている」、「ボタンホールが、左側の肩部分に取り付けられた釦ホールタグと、 左側の肩部分の生地(身返し肩)の2カ所に設けられている」及び「調整紐のボタンを異なる位置のボタンホールに取り付けることにより、調整紐を繋いだ時に襟後部に形成され弛みを2段階に調整でき、襟後部に形成される空気排出口の開口度を2段階に調整することができる」ものである。 しかし、ボタンホールの取付け位置についてAが指示・説明したものは、「左側の肩部分に取り付けられた釦ホールタグ」と「左側の肩部分の生地(身返し肩)」であり、本件特徴的部分の複数の第二取付部を第二調整ベルトに設けたものとは異なるものである。 また、原告側のAが、本件特徴的部分の第二調整ベルトについて創作的に寄与していたとする他の証拠も認められない。 (エ) 以上より、原告側のAは、本件特徴的部分の完成に創作的に寄与したとはいえないから、本件各発明の「発明者」ではない。 エ 冒認出願について(ア) Bが発明者であること a 特許出願に係る事実 本件特許の発明者として甲1に記載された「B」は、本件出願前の、平成10年12月28日に国際特許出願された「冷却枕、冷却衣服および冷却ヘルメット」に係る甲68の単独の発明者であり、平成16年11月8日に特許出願された「空調衣服」に係る甲34に係る出願の単独の発明者であるから、空調服の技術分野における当業者であるといえる。 b 開発の事実 また、甲65には、「(448)」と記載された項目に、「ネックヒモ」、「@ボタン孔を2カ所」、「A 孔は1つでストッパ可変」、「B 孔は1つでストッパ固定」と記載され、この項目が記載された頁の次頁には、「第1 ボタンと複数のボタンあな」、「第2 可変ストッパと1つのボタンあな」、「調整ベルト」等の記載がある。甲66(表紙に「NO65 2013-5-29」と記載されたノート)と併せて考慮すると、「(448)」と記載された項目の内容は、平成25年5月29日以前に記載されたものと推認できる。この項目の内容は、本件特徴的部分全体を示すものではないが、本件出願が、「B」を発明者としてされていることと矛盾しない。 c 他の事情 (a) 本件特許が平成25年10月9日に出願され、令和2年10月15日に本件無効審判が請求されるまで、7年もの間、冒認出願であることを理由とした不服申立ての手続は行われていない。 ? また、上記ウ(ア)のとおり、甲67で被告側のBから原告側にボタン留めに係る言及があり、着想は被告側にあるといえる。 d 上記aないしcに鑑みると、本件各発明の発明者が「B」であることを疑わせる合理的理由はなく、「B」が本件各発明の発明者であるといえる。 (イ) 原告の主張について 原告は、本件各発明を発想し完成させるための全過程に関与した者は、Aだけであり、Aのみが発明者となるべきであるから、「B」は発明者ではないと主張する。 しかし、上記ウで述べたように、Aは、本件特徴的部分の完成に創作的に寄与しておらず、本件各発明の「発明者」であるとはいえないから、原告の主張は、その前提において理由がない。 オ 共同出願要件違反について 原告は、原告の従業者であるAが、本件各発明の単独の「発明者」ではなく、本件特徴的部分の創作に、被告側のBが何らかの理由により関与したとされる場合であっても、Aは、少なくとも、本件各発明の共同発明者である旨主張する。 しかし、上記ウで述べたように、Aは、本件特徴的部分の完成に創作的に寄与しておらず、本件各発明の「発明者」ではない。 よって、Aは、共同発明者ではない。 カ 小活 以上より、原告の主張する無効理由2には、理由がない。 (3) 無効理由3(公然実施発明による進歩性欠如)について ア 甲2(カタログ「Re.SUN-S Uniform Cataloguevolume.28 2008 SPRING&SUMMER COLLECTION」、株式会社サンエス、136〜139頁、200頁、201頁)に掲載された品番「KU90550」の製品により公然実施をされた発明(以下「本件公然実施発明」という。)の認定 本件公然実施発明は、次のとおりであると認められる。 (本件公然実施発明) ファンを用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟と人体の首との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口を備えた空調服において、 前記空調服の服地の内表面であって前記襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた紐1と、 前記紐1が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第二の位置に取り付けられた紐2とを備え、 2本の紐(1、2)を結ぶことによって、空気排出量を調節することができる、 首周りの空気排出スペースを調整する手段。 イ 本件発明3と本件公然実施発明との対比 本件発明3と本件公然実施発明とは、次の一致点1で一致し、相違点1で相違する。 (一致点1) 送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服において、襟後部と人体の首後部との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口の開口度を調整するための手段である点(相違点1) 襟後部と人体の首後部との間に形成される、空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口の開口度を調整するための手段について、本件発明3が、 「第一取付部を有し、前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた第一調整ベルトと、前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し、前記第一調整ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた第二調整ベルトと、を備え、前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成する」「開口度を調整するための空気排出口調整機構」であるのに対し、本件公然実施発明は、「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた紐1と、前記紐1が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた紐2とを備え、2本の紐(1、2)を結ぶことによって、空気排出量を調節することができる、首周りの空気排出スペースを調整する手段」である点 ウ 相違点1についての判断(ア) 本件公然実施発明は、甲1(本件明細書)の段落【0006】及び図8に記載された従来技術に相当するものであって、本件公然実施発明の結ぶことにより調節するものは、調節する際に、一旦解いて、再度結ぶことが必要であり、前の結んだ位置に対して異なる位置の結び目とする調節が難しいものである。これに対して、本件発明3は、「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ものとすることにより、現在の取付位置と隣の取付位置との変更を容易とするものである。 (イ) このように、本件公然実施発明が無段階で調節できる利点を有するものの、 異なる位置への速やかな調節には向いていないものであるのに対し、本件発明3が、 有段階で微調節に向かないものの、異なる位置への変更は容易であるから、両者は互いにその技術的意義を異にするものであり、本件公然実施発明の2本の紐を結ぶことによる「首周りの空気排出スペースを調整する手段」を、本件発明3の「複数の第二取付部を有」する「第二調整ベルト」を備え、「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」「空気排出口調整機構」に置き換えることの動機付けがない。 (ウ) また、原告が提出した甲15(特開平10-88407号公報)、甲16(特開平11-46817号公報)、甲17(特開2003-201611号公報)、甲18(特開2003-342817号公報)、甲19(特開2005-137849号公報)、甲20(特開2007-325851号公報)、甲21(特開2009-120970号公報)、甲22(特開2011-161035号公報)、甲23(新村出編「広辞苑第七版」(平成30年1月12日発行))、甲24(枝番を含む。株式会社日立デジタル平凡社「世界大百科事典 Ver10」(平成10年))、甲25(阿部和江編「ボタン事典」(平成11年))、甲26(Amazonの「ママンクール ベビーキャリーエプロン」の掲載画像(平成19年5月17日(取扱開始日)))、甲27(「ボタンホールゴムの使い方」(Az-net手芸と題するウェブページ)(平成19年5月17日(アーカイブ日)))、甲28(特表2007-515569号公報)、甲29(米国特許出願公開第2007/0017004号明細書)、甲30(登録実用新案第3172651号公報(平成24年1月5日発行))、甲31(特開2007-39855号公報)、甲32(特開2010-94139号公報)、甲33(登録実用新案第3105465号公報(平成16年10月28日発行))、甲34(特開2006-132040号公報)、甲35(特開2007-270415号公報)、甲36(実願平4-90691号(実開平6-42909号)のCD-ROM)、甲37(特開2009-167553号公報)、甲38(特開2009-138321号公報)、甲39(ヤフー知恵袋の平成17年6月21日の「スタイの後ろの結び目は、紐とマジックテープ、ボタンとれが一番便利ですか?」とのスレッド)及び甲40(ヤフー知恵袋の平成17年3月24日の「赤ちゃんのスタイですが、首の止める所は、ヒモ、マジックテープ、ボタンなどいろいろありますが、どれが一番使いやすいですか?」とのスレッド)についてみると、甲15ないし22からは、2つの紐状部材を結んで(締結して)繋ぐのに手間がかかるという課題は、本件出願日以前に周知かつ自明な課題であり、この課題を解決するために、より便利な各種の締結具を利用することも、本件出願日前において慣用的に行われていたことが、 甲23ないし29からは、被服の分野において、2つの部材を繋ぐための留め具として、ボタン、スナップボタン、マジックテープ(面状テープ)、ホックなどが周知であることが、甲28ないし33からは、ボタン等の留め具の一方(ボタン等)を複数ある他方(複数のボタンホール等)のいずれか一つに取り付けることで、2つの紐状部材(調整ベルト)を繋げたときの長さを複数段階に調整することが周知かつ慣用的に行われていることが、甲28及び34ないし40からは、ボタン、スナップボタン、マジックテープ(面状テープ)やホックは、当業者が適宜選択できる脱着可能な固定手段(留め具)であることが、それぞれ把握できる。 しかしながら、上記のいずれの甲号証にも、本件発明3のように、「複数の第二取付部を有」する「第二調整ベルト」を備え、「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして、「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」ものは、記載も示唆もされていない。 (エ) 原告の主張について a 本件公然実施発明及び甲15ないし40の設計的事項に基づく主張について 原告は、甲15ないし40により、被服の分野において、ボタン等の留め具の一方(ボタン等)を複数ある他方(複数のボタンホール等)のいずれか一つに取り付けることで、2つの紐状部材(調整ベルト)を繋げたときの長さを複数段階に調整することが周知かつ慣用の事項であり、かつ、2つの部材を繋ぐための留め具として、ボタン、スナップボタン、マジックテープ(面状テープ)、ホックなどがあるが、これらは脱着可能な固定手段(留め具)として、当業者が適宜選択できるものであり、いずれの留め具を用いるかは当業者が適宜選択できる設計的事項であると主張する。 しかし、上記(イ)で述べたように、本件公然実施発明の2本の紐を結ぶことによる「首周りの空気排出スペースを調整する手段」を、本件発明3の「複数の第二取付部を有」する「第二調整ベルト」を備え、「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」「空気排出口調整機構」に置き換えることの動機付けがない。 また、甲15ないし40には、「複数の第二取付部を有」する「第二調整ベルト」を備え、「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして、「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」ものが記載されていない。 よって、甲15ないし40の記載事項から、上記相違点1に係る本件発明3の構成を、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 b 本件公然実施発明及び甲28ないし33の周知技術に基づく主張について 原告は、甲28ないし33に示される周知技術(「第一調整ベルトが「第一取付部を有し、」第二調整ベルトが「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し」「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ことにより、繋いだときの長さを調整できる第一調整ベルトと第二調整ベルト」)を、本件公然実施発明に適用して、相違点1に係る本件発明3の構成とすることは当業者が容易に想到できたことであると主張する。 しかし、上記(イ)で述べたように、本件公然実施発明の2本の紐を結ぶことによる「首周りの空気排出スペースを調整する手段」を、本件発明3の「複数の第二取付部を有」する「第二調整ベルト」を備え、「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」「空気排出口調整機構」に置き換えることの動機付けがない。 また、原告がいう甲28ないし33に例示される周知技術は、「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして、「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」ものではない。 よって、甲28ないし33に例示される周知技術から、上記相違点1に係る本件発明3の構成を、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 c 本件公然実施発明及び甲28に記載された事項に基づく主張について 原告は、甲28には、「第一調整ベルトが「第一取付部を有し、」第二調整ベルトが「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し」「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ことにより、繋いだときの長さを調整できる第一調整ベルトと第二調整ベルト」との発明(以下「甲28発明」という。)が記載されており、この甲28発明と本件公然実施発明とは、被服の分野に属する発明であって、 2つの紐状部材を繋いだときの長さを調整するという課題・目的も共通しており、 甲28発明を本件公然実施発明に適用する動機付けが存在し、甲28発明を本件公然実施発明に適用することにより、相違点1に係る本件発明3の構成とすることは当業者が容易に想到できたことであると主張する。 しかし、甲28は、「使用者の体型に合わせ、着用感を良くし、着用後に腹部カバーが移動せず、常に固定された状態を維持できるようにし、各種衣服と一体形成又は衣服に簡単に着脱できるようにした腹部カバーを提供すること」(甲28の段落【0010】)を課題とし、甲28の留め紐とボタンとボタン穴を備える腰部カバーは、カバー本体と留め紐が人体の腰部を囲んだ状態で、体型に合わせて腰回りを調整できるようにされたものであるのに対して、本件公然実施発明の2本の紐は、 2本の紐を結ぶときに中に支える物体がない、首周りの空気排出スペースを調整するためのものであり、紐の長さを調整する際に物体を囲んで調整するものである点で、その目的や機能を異にするものである。 したがって、人体の腰部を囲んだ状態で、体型に合わせて腰回りを調整できるようにした甲28発明の第一調整ベルトと第二調整ベルトを、それとは異なり、本件公然実施発明の、結ぶときに中に支える物体がない、首周りの空気排出スペースを調整するための2本の紐に換えて採用する動機付けがない。また、そもそも、甲28には、複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成するものが示されていない。 よって、甲28発明から、上記相違点1に係る本件発明3の構成を、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 d 本件公然実施発明及び甲30に記載された事項に基づく主張について 原告は、甲30には、「第一調整ベルトが「第一取付部を有し、」第二調整ベルトが「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し」「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ことにより、繋いだときの長さを調整できる第一調整ベルトと第二調整ベルト」との発明(以下「甲30発明」という。)が記載されており、この甲30発明と本件公然実施発明とは、被服の分野に属する発明であって、 2つの紐状部材を繋いだときの長さを調整するという課題・目的も共通しており、 甲30発明を本件公然実施発明に適用する動機付けが存在し、甲30発明を本件公然実施発明に適用することにより、相違点1に係る本件発明3の構成とすることは当業者が容易に想到できたことであると主張する。 しかし、甲30は、「介護用パンツを使用する者が立った姿勢であっても自分独りで容易に装着することができ、しかもパンツを装着した状態が外観的に目立たず、 さらには製作工程を簡略化して容易に製作することができる介護用パンツを提供すること」(甲30の段落【0011】)を課題とし、甲30の帯紐とボタン等の止め部材を備える介護用パンツは、腰紐と帯紐が人体の腰部を囲んだ状態で、個人差のある腰周りの大きさに応じて調整できるようにされたものであるのに対して、本件公然実施発明の2本の紐は、2本の紐を結ぶときに中に支える物体がない、首周りの空気排出スペースを調整するためのものであり、紐の長さを調整する際に物体を囲んで調整するものである点で、その目的や機能を異にするものである。 したがって、人体の腰部を囲んだ状態で、個人差のある腰周りの大きさに応じて調整できるようにした甲30発明の第一調整ベルトと第二調整ベルトを、それとは異なり、本件公然実施発明の、結ぶときに中に支える物体がない、首周りの空気排出スペースを調整するための2本の紐に換えて採用する動機付けがない。また、そもそも甲30には、複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成するものが示されていない。 よって、甲30発明から、上記相違点1に係る本件発明3の構成を、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 エ 以上のとおりであるから、本件発明3は、本件公然実施発明及び甲15ないし40の設計的事項、本件公然実施発明及び甲28ないし33の周知技術、本件公然実施発明及び甲28に記載された事項、あるいは、本件公然実施発明及び甲30に記載された事項に基づいて、当業者が発明をすることができたものではない。 オ 本件発明4ないし10の進歩性について 本件発明4ないし10は、いずれも本件発明3の発明特定事項を全て備えるものであり、本件発明3は、上記エで述べたように、本件公然実施発明及び甲15ないし40の設計的事項、本件公然実施発明及び甲28ないし33の周知技術、本件公然実施発明及び甲28に記載された事項、あるいは、本件公然実施発明及び甲30に記載された事項に基づいて、当業者が発明をすることができたものではないから、 本件発明4ないし10も同様に、当業者が発明をすることができたものではない。 カ 小活 以上より、原告の主張する無効理由3には、理由がない。 (4) 無効理由4(甲34に記載された発明による進歩性欠如)について ア 甲34に記載された発明(以下「甲34発明」という。)の認定 甲34発明は、次のとおりであると認められる。 (甲34発明) 身体の所定部位を覆うと共に、身体との空間に、身体の表面に沿って空気を案内するための服地部と、 前記服地部と身体との空間に空気を流通させるための送風手段と、 前記服地部の一部を撓ませることにより、空気の流通路を拡張する流通路拡張部を備え、 前記流通路拡張部は、任意の距離を隔てた服地部の内側の2箇所の各々に面状テープ80a、80bの一端を取着したものであり、二つの面状テープ80a、80bを繋いだときの長さを調節することにより、この流通路の大きさを調節して空気の量を調節することができ、 前記流通路拡張部は、空調衣服の後ろ側の襟の直ぐ下に形成することができ、これにより、襟の後ろ側の部分にも確実に空気を流して、背部の上部や首部の後ろ側を効果的に冷却することができるものである、 流通路拡張部。 イ 本件発明3と甲34発明との対比 本件発明3と甲34発明とは、次の一致点2で一致し、相違点2で相違する。 (一致点2) 送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服について、襟の後ろ側に流す空気の量を調節する手段を備える点(相違点2) 襟の後ろ側に流す空気の量を調節する手段について、本件発明3が、「空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口について、その開口度を調整するための」、「第一取付部を有し、空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた第一調整ベルトと、前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し、前記第一調整ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた第二調整ベルトと、を備え、前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成する」「空気排出口調整機構」であるのに対し、甲34発明は、「任意の距離を隔てた服地部の内側の2箇所の各々に面状テープ80a、80bの一端を取着したものであり、二つの面状テープ80a、80bを繋いだときの長さを調節することにより、この流通路の大きさを調節して空気の量を調節することができ、」「空調衣服の後ろ側の襟の直ぐ下に形成することができ、これにより、襟の後ろ側の部分にも確実に空気を流して、背部の上部や首部の後ろ側を効果的に冷却することができるものである」「流通路拡張部」である点 ウ 相違点2についての判断(ア) 本件発明3は、襟と首との間に形成される空気排出口から外部に排出される空気の量を調整するものであるのに対し、甲34発明は、甲34の段落【0018】に記載されるように、外部に排出される空気の量は袖等に設けた切込み部の開口の度合いにより調節されるものであって、「流通路拡張部」は襟の後ろ側の空間に流れる空気の量を調節するものであり、本件発明3の「空気排出口調整機構」と甲34発明の「流通路拡張部」とは、その技術的意義を異にするものである。 よって、襟の後ろ側の空間に流れる空気の量を調節するように構成された、二つの面状テープからなる甲34発明の「流通路拡張部」を、空気排出口から外部に排出される空気の量を調整するようにした、本件発明3の「空気排出口調整機構」に変更する動機付けがない。 しかも、上記(3)ウ(ウ)で述べたように、甲15ないし40のいずれにも、「複数の第二取付部を有」する「第二調整ベルト」を備え、「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして、 「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」ものが記載されていない。 (イ) 原告は、上記相違点2について、甲15ないし40の設計的事項にすぎない旨、甲28ないし33の周知技術との組合せから容易想到である旨、甲28に記載された事項との組合せから容易想到である旨、あるいは、甲30に記載された事項との組合せから容易想到である旨、それぞれ主張する。 しかし、原告の主張する「甲15ないし40の設計的事項」、「甲28ないし33の周知技術」、「甲28に記載された事項」及び「甲30に記載された事項」は、 上記(3)ウ(エ)aないしdで述べたとおりのものであるところ、上記(ア)で述べたように、甲34発明の襟の後ろ側の空間に流れる空気の量を調節するように構成された二つの面状テープからなる「流通路拡張部」を、本件発明3の空気排出口から外部に排出される空気の量を調整するようにした「空気排出口調整機構」に変更する動機付けがない。 しかも、上記(3)ウ(ウ)で述べたように、甲15ないし40のいずれにも、「複数の第二取付部を有」する「第二調整ベルト」を備え、「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして、 「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」ものが記載されていない。 エ したがって、本件発明3は、甲34発明及び甲15ないし40の設計的事項、 甲34発明及び甲28ないし33の周知技術、甲34発明及び甲28に記載された事項、あるいは、甲34発明及び甲30に記載された事項に基づいて、当業者が発明をすることができたものではない。 オ 本件発明4ないし10の進歩性について 本件発明4ないし10は、いずれも本件発明3の発明特定事項を全て備えるものであり、本件発明3は、上記エで述べたように、甲34発明及び甲15ないし40の設計的事項、甲34発明及び甲28ないし33の周知技術、甲34発明及び甲28に記載された事項、あるいは、甲34発明及び甲30に記載された事項に基づいて、当業者が発明をすることができたものではないから、本件発明4ないし10も同様に、当業者が発明をすることができたものではない。 カ 小活 以上より、原告の主張する無効理由4には、理由がない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(明確性要件についての判断の誤り・無効理由1関係)について(1) 本件発明3の「空気排出口」について 本件明細書の段落【0003】の記載によると、本件発明3の「空気排出口」は、 人体と衣服との間を流通してきた空気が外部に排出される開口部(空気排出部)のうち、襟後部12と首後部との間に形成される開口部のことを指しているところ、 ここでは、「空気排出口」は、「空気排出口調整機構」により形成されるものに限られていない。また、本件発明3は、襟後部に調整ベルトが存在しない形態を含んでいるから、襟と調整ベルト(空気排出口調整機構)で囲まれた領域が「空気排出口」であると理解することは困難である。 他方、本件明細書の段落【0009】によると、本件発明3の「空気排出口」は、 空気排出口調整機構により形成されるものに限られる。また、本件明細書の図3及び図6においては、襟と調整ベルト(空気排出口調整機構)で囲まれた領域が空気排出口(13)とされており、それ以外の開口の部分は、空気排出口(13)に含まれていない。 なお、本件特許に係る請求項3の記載によると、「空気排出口」は、「空気排出口調整機構」によって形成されるものに限られるとも限られないとも解釈される。 以上のとおり、本件発明3の「空気排出口」については、「空気排出口調整機構」により形成されるものに限られるのか、自然に形成されるものも含むのか、また、 襟と調整ベルト(空気排出口調整機構)で囲まれた領域だけを指すのか、それ以外の開口の部分も含むのかなどの点において、本件明細書の記載が一貫しておらず、 当業者は、その意味を理解することができない。 したがって、本件発明3の「空気排出口」の意味は不明確であるから、これが明確であるとした本件審決の判断は誤りである。 (2) 本件発明3の「開口度」及び「複数段階の予め定められた開口度」について 前記(1)のとおり、本件発明3の「空気排出口」の意味は不明確であるから、その結果、「空気排出口」の「開口度」の意味やその測定方法も不明確である。 また、本件審決が判断したように、「空気排出口」が「送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する」ものであると仮定しても、「空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される」隙間の形状は、主として、着用者の体格、姿勢、着用状態等に依存するのであり、「予め定められ」るようなものではない。特に、本件審決が判断したように、「空気排出口」が「空気排出口調整機構」によって形成されるものに限定されないとすると、 その「開口度」は、個別に様々であって、「予め定められた開口度」とはならない。 なお、本件発明3の「開口度」につき、仮にこれを具体的な数値で表現する必要がないとしても、「予め定められた」ものである以上、何らかの特定(測定)をすることが必要である。さらに、本件審決は、本件発明3の「開口部」が襟と調整ベルト(空気排出口調整機構)で囲まれた領域とそれ以外の開口の部分を含むと判断するが、「空気排出口調整機構」によって段階的な調整ができるのは前者の領域のみであるから、前者も後者も含んだ上で「予め定められた開口度」を実現することはできない。 以上のとおりであるから、本件発明3の「開口度」の意味や測定方法は不明確であり、また、「複数段階の予め定められた開口度」の意味やその測定方法も不明確であるから、これらが明確であるとした本件審決の判断は誤りである。 (3) 本件発明7の「切り込み線を入れて作製されるボタン孔」について 本件発明7において「ボタン孔」を特定するためには、単に「貫通孔であるボタン孔」とすれば足りるところ、「切り込み線を入れて作製」するかどうかは、明らかに製造方法をいうものであって、物の特定としては無意味であり、このような記載は、不明確である(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。 したがって、本件発明7の「切り込み線を入れて作製されるボタン孔」は不明確であるから、これが明確であるとした本件審決の判断は誤りである。 2 取消事由2(冒認出願ないし共同出願要件違反についての判断の誤り・無効理由2関係)について (1) 本件特徴的部分が本件審決の認定するとおりであるとしても、甲65(表紙に「NO64 2012-12-10〜 B」と記載されたノート)には、「第二調整ベルト」についての記載はなく、「第二調整ベルト」は、Aが作製したサンプル(平成25年8月7日作製の空調服のサンプル。以下「本件サンプル」という。)において初めて登場するものであるから、Aも、「第二調整ベルト」に係る本件各発明の発明者である。なお、別件の侵害訴訟における証拠提出の経緯、記載の内容、客観的な裏付けの欠如及び後日の追記の可能性に照らすと、甲65の信ぴょう性には、重大な疑義があるといわざるを得ない。 (2)ア 本件特徴的部分が「第一取付部」と「複数の第二取付部」が「形状に対応して」「取り付けが可能」である点であるとしても、甲67(BがAに宛てて送信した平成25年7月24日付けメール)には、「第一取付部」と「複数の第二取付部」が「形状に対応して」「取り付けが可能」であるとの記載はない。複数のボタン孔の構成は、Aが本件サンプルの作製に当たり独自に創作したものであり、B、 Aらは、本件サンプルを用いた複数のボタン孔の効果を確認して本件各発明を完成させたのであるから、Aも、本件各発明の発明者である。 イ 仮に、本件審決が認定するようにボタン及びボタン孔の着想が被告側にあったとしても、それだけでは発明は完成せず、ボタン留めによる複数段階の調整をするためには、その具体化が必要であるところ、Aは、自らの知見に基づき、本件サンプルを作製して、ボタン留めによる複数段階の調整(「複数の第二取付部を有する発明」)に創作的に関与しているから、Aは、本件各発明につき、少なくとも共同発明者である。 ウ 本件審決は、甲67を根拠に、首の空気排出口を複数段で調整することの着想が被告側にあったと認定するが、甲67の「襟周りを徐々に広くしていく」との記載は、空調服の襟周りの寸法を大きくすることを意味するのみである。したがって、甲67には、首紐をボタン留めにすることをトピックとすることのみが記載され、首紐を複数のボタン孔にすることは記載されていないから、甲67を根拠に上記のような認定をすることはできない。 エ 本件審決は、「ボタンホールの取付け位置についてAが指示・説明したものは、「左側の肩部分に取り付けられた釦ホールタグ」と「左側の肩部分の生地(身返し肩)」であり、本件特徴的部分の複数の第二取付部を第二調整ベルトに設けたものとは異なるものである」と判断するが、本件各発明の特徴点は、ボタン留めによる複数段階の調整を行う構成にあり、さらに、本件各発明は、「複数の第二取付部を有する発明」であるところ、Aが行った「左側の肩部分に取り付けられた釦ホールタグ」と「左側の肩部分の生地(身返し肩)」にボタンホールを設けるとの発明は、本件各発明に含まれる発明であるから、そのような発明を創作したAは、本件各発明の発明者である。 (3) 以上によると、Aは、少なくとも本件各発明に係る共同発明者というべきであるから、これと異なる本件審決の認定及び当該認定を前提とした本件審決の判断は誤りである。 3 取消事由3(本件公然実施発明による進歩性欠如についての判断の誤り・無効理由3関係)について(1) 相違点1の実質 原告は、本件審決がした相違点1の認定を争うものではないが、より正確にいえば、相違点1に係る本件発明3の構成の容易想到性について判断するに当たっては、 「2つの紐状の部材をつなぐ長さを調整する手段として、本件発明3が、「第一取付部」を有する紐状の部材(第一調整ベルト)と「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部」を有する紐状の部材(第二調整ベルト)を「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ことによって長さを調整するのに対し、本件公然実施発明は、紐状の部材(紐1)と紐状の部材(紐2)を結ぶことによって長さを調整する点」のみが実質的に問題となる。 (2) 本件発明3と本件公然実施発明の技術的意義等 本件審決は、本件発明3と本件公然実施発明は互いにその技術的意義を異にするものであり、本件公然実施発明の「首周りの空気排出スペースを調整する手段」を本件発明3の「複数の第二取付部を有」する「第二調整ベルト」を備え、「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」「空気排出口調整機構」に置き換えることの動機付けがないと判断した。 しかしながら、本件公然実施発明は、長さを無段階に調節できるようにする目的で結び紐を採用するものではなく、長さを無段階で微調整できる利点を指向するものでもない(本件公然実施発明は、一番簡略な手法をとりあえず採用したものである。)。本件発明3と本件公然実施発明は、長さを調節するという技術的事項・意義において基本的に共通しており、本件審決が指摘する両者の違いは、長さの調整の仕方の違いにすぎないから、このような両者の違いは、上記動機付けを否定する理由になるものではない。そして、2つの紐状部材を結んで(締結して)つなぐのに手間がかかるという課題は、周知かつ自明のものであるから、本件公然実施発明に接した当業者にとって、このような課題を解決する手段があれば、これを採用する動機付けが存在するというべきである。 (3) 本件公然実施発明及び甲15ないし40に記載された事項に基づく容易想到性 ア 本件審決は、本件発明3の「複数の第二取付部を有」する「第二調整ベルト」を備え「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」との構成は甲15ないし40のいずれにも記載又は示唆がされていないと判断した。 しかしながら、本件審決のこの判断は、相違点1に係る本件発明3の構成の容易想到性を根拠付けることのできる証拠は「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」ことが記載された文献に限られるとするものであり、失当である。 イ 本件審決も認定するとおり、甲15ないし22によると、本件出願日前から、 2つの紐状部材を結んで(締結して)つなぐのに手間がかかるという課題が周知かつ自明のものであり、当該課題を解決するため、より便利な各種の締結具を利用することが慣用的に行われていたものと認められ、甲23ないし29によると、被服の分野において、2つの部材をつなぐための留め具として、ボタン、スナップボタン、マジックテープ(面状テープ)、ホック等が周知であったことが認められ、甲28ないし33によると、ボタン等の留め具の一方(ボタン等)を複数ある他方(複数のボタンホール等)のいずれか一つに取り付けることで、2つの紐状部材(調整ベルト)をつなげたときの長さを複数段階に調整することが周知であり、かつ、慣用的に行われていたことが認められ、甲28及び34ないし40によると、 ボタン、スナップボタン、マジックテープ(面状テープ)やホックが、当業者が適宜選択できる脱着可能な固定手段(留め具)であったことが認められるから、当業者は、本件公然実施発明及び甲15ないし40に記載された事項により、前記(1)のとおりの実質的な相違点に係る本件発明3の構成に容易に想到し得たものである。 (4) 本件公然実施発明及び甲28ないし33(周知技術)に基づく容易想到性 ア 本件審決は、原告が主張する甲28ないし33に記載された周知技術は「第一調整ベルト」の「第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ようにして「複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成する」ものではないと判断したが、前記(3)アのとおりであるから、本件審決の判断は失当である。 イ 原告が主張する甲23ないし33に記載された周知技術は、「第一調整ベルトが「第一取付部を有し」、第二調整ベルトが「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し」、「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ことにより、 つないだときの長さを調整できる第一調整ベルトと第二調整ベルト」(以下「本件周知技術」という。)であり、これは、前記(1)のとおりの実質的な相違点に係る本件発明3の構成に相当する。 そして、本件周知技術は、被服の分野に係る技術であるから、これを本件公然実施発明に適用することは容易である。 したがって、当業者は、本件公然実施発明及び本件周知技術により、前記(1)のとおりの実質的な相違点に係る本件発明3の構成に容易に想到し得たものである。 (5) 本件公然実施発明及び甲28発明に基づく容易想到性 本件審決は、本件公然実施発明(2本の紐を結びときに中に支える物体がない、 首周りの空気排出スペースを調整するためのもの)と甲28発明(カバー本体と留め紐が人体の腰部を囲んだ状態で体型に合わせて腰回りを調整できるようにしたもの)は目的や機能を異にするとして、本件公然実施発明に甲28発明を適用する動機付けがないと判断した。 しかしながら、本件公然実施発明も甲28発明(「第一調整ベルトが「第一取付部を有し」、第二調整ベルトが「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し」、「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ことにより、つないだときの長さを調整できる第一調整ベルトと第二調整ベルト」)も、被服の「長さ」の調整のための構成である点で共通している。そして、本件公然実施発明も甲28発明も、同じ被服の分野に属する技術であって、2つの紐状部材をつないだときの長さを調整するという同一の課題及び目的を有するものであるから、本件公然実施発明に甲28発明を適用することには、十分な動機付けがある。 したがって、当業者は、本件公然実施発明及び甲28発明により、前記(1)のとおりの実質的な相違点に係る本件発明3の構成に容易に想到し得たものである。 (6) 本件公然実施発明及び甲30発明に基づく容易想到性 本件審決は、本件公然実施発明及び甲30発明に基づく容易想到性に関し、本件公然実施発明及び甲28発明に基づく容易想到性についての判断と同旨の判断をしたが、前記(5)のとおりであるから、本件公然実施発明及び甲30発明に基づく容易想到性についての本件審決の判断も誤りである。 4 取消事由4(甲34に記載された発明による進歩性欠如についての判断の誤り・無効理由4関係)について (1) 甲34に記載された発明の認定 甲34の段落【0044】の記載によると、甲34に記載された発明においては、 背部調整部(切込み部の開口)が存在しないから、背部から外部に流出する空気は、 襟後部と人体の首後部の間から外部に排出されることになり、また、排出口は、空調衣服の後ろ側の襟のすぐ下に形成された流通路拡張部により、「二つの面状テープ80a、80bを繋いだときの長さを調整することにより、この流通路の大きさを調節して、[襟後部と人体の首後部の間]に流れる空気の量を調節」することができるものである。したがって、甲34には、次の発明(以下「甲34発明’」という。)が記載されているものと認められる(下線部は、甲34発明と異なる部分である。)。 (甲34発明’) 身体の所定部位を覆うと共に、身体との空間に、身体の表面に沿って空気を案内するための服地部と、 前記服地部と身体との空間に空気を流通させるための送風手段と、 前記服地部の一部を撓ませることにより、空気の流通路を拡張する流通路拡張部を備え、 前記流通路拡張部は、任意の距離を隔てた服地部の内側の2箇所の各々に面状テープ80a、80bの一端を取着したものであり、二つの面状テープ80a、80bを繋いだときの長さを調節することにより、この流通路の大きさを調節して空気の量を調節することができ、 前記流通路拡張部は、空調衣服の後ろ側の襟の直ぐ下に形成することができ、前記面状テープ80a、80bを繋いだときの長さを調節することにより、襟後部と人体の首後部の間を流れる空気の流通路の大きさを調節して、襟後部と人体の首後部の間に流れる空気の量を調節することができるものである、 流通路拡張部。 (2) 本件発明3と甲34発明’との対比 本件発明3と甲34発明’は、次の一致点2’で一致し、相違点2’で相違する。 (一致点2’) 送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口について、その開口度を調整するための空気排出口調整機構において、前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた第一調整ベルトと、前記第一調整ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた第二調整ベルトと、を備え、前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、前記空気排出口を形成することを特徴とする空気排出口調整機構(又はかかる空気排出口調整機構を備えた空調服)。 (相違点2’) 繋いだときの長さを調整できる第一調整ベルトと第二調整ベルトにつき、本件発明3では、第一調整ベルトが「第一取付部を有し、」第二調整ベルトが「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し、」「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」ものであるのに対し、甲34発明’では、第一調整ベルトと第二調整ベルトは、一組の接続部材であり、面状テープ又は紐である点(3) 相違点2’に係る本件発明3の構成の容易想到性 ア 本件発明3の「空気排出口調整機構」と甲34発明’の「流通路拡張部」の技術的意義等 本件審決は、本件発明3の「空気排出口調整機構」と甲34発明(甲34発明’においても同じ。)の「流通路拡張部」は技術的意義を異にするから、甲34発明(同)の「流通路拡張部」を本件発明3の「空気排出口調整機構」に変更する動機付けはないと判断した。 しかしながら、甲34発明’の「流通路拡張部」が本件発明3の「空気排出口調整機構」に相当することは明らかであり、これが「襟の後ろ側の空間に流れる空気の量を調節するもの」であることは、本件審決も認定するところである。したがって、甲34発明’の「流通路拡張部」は、当然に「襟と首との間に形成される空気排出口から外部に排出される空気の量を調整するもの」であって、本件発明3の「空気排出口調整機構」とその技術的意義を同じくするものである。これと異なる旨の本件審決の上記判断は誤りである。 イ 設計的事項 被服の分野において、2つの部材をつなぐための留め具として、ボタン、スナップボタン、マジックテープ(面状テープ)、ホック等は、周知慣用のものであって、 これらは、着脱可能な固定手段(留め具)として、当業者が適宜選択できるものであるから、いずれの留め具を用いるかは、当業者が適宜選択できる設計的事項にすぎない(甲15ないし40)。 この点に関し、本件出願日当時の技術水準を示す本件明細書の段落【0050】においても、本件出願日当時の当業者にとって、「ボタン孔」による構成も面状ファスナー(甲34にいう面状テープ)による構成も、長さの調整の手段として等価なものと理解されている。 したがって、甲34発明’の2つの調整ベルトを相違点2’に係る本件発明3の構成とすることは、当業者の通常の創作力の範囲内のことにすぎないから、それ以上の動機付け等を問題とするまでもなく、当業者は、相違点2’に係る本件発明3の構成に容易に想到し得たものである。 ウ 本件周知技術との組合せ 被服の分野において、2つの紐状部材を結んで(締結して)つなぐことには、紐を結ぶのに手間がかかるという課題があり、この課題は、本件出願日前に周知かつ自明のものであったところ、当該課題を解決するために各種の締結具を利用することは、本件出願日前において慣用的に行われていたことである(甲15ないし22)。 したがって、相違点2’に係る本件発明3の構成は、甲34発明’に本件周知技術を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものである。 エ 甲28発明との組合せ 甲34発明’も甲28発明も、被服の分野に属する発明であり、2つの紐状部材をつないだときの長さを調整するという課題ないし目的を共通にしており、また、 面状テープ(マジックテープ)は外れやすいとの欠点があり、紐はすぐにほどけたり結ぶのが大変であったりするなどの欠点があるのに対し、ボタンは締結が容易で外れにくいという長所があるのであるから(甲39)、甲34発明’に甲28発明を適用する動機付けが存在するといえる。 したがって、相違点2’に係る本件発明3の構成は、甲34発明’に甲28発明を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものである。 オ 甲30発明との組合せ 前記エのとおりであるから、甲34発明’に甲30発明を適用する動機付けも存在するといえる。 したがって、相違点2’に係る本件発明3の構成は、甲34発明’に甲30発明を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものである。 |
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被告の主張
1 取消事由1(明確性要件についての判断の誤り・無効理由1関係)について(1) 本件発明3の「空気排出口」について 以下のとおり、本件明細書の記載を総合すると、本件発明3の「空気排出口」は、 「空気排出口調整機構」を用いずに自然に形成されるものを含むものと解されるから、本件発明3の「空気排出口」につき、「空気排出口調整機構」により形成されるものに限られるのか、自然に形成されるものも含むのかなどの点において、その意味が不明確であるとする原告の主張は失当である。 ア 本件明細書の段落【0003】の記載(「襟後部12と首後部との間に形成される開口部を、他の空気排出部と区別するため、「空気排出口」と称することにする」)によると、「空気排出口」は、「空気排出口調整機構」を用いずに自然に形成されたものを含むものと解されるところ、原告が援用する段落【0009】の記載も、この段落【0003】の記載を受け、「空気排出口調整機構」の満たすべき要求を述べたものであるから、段落【0009】の記載によっても、「空気排出口」が「空気排出口調整機構」により形成されるもののみを指しているとはいえない(段落【0009】の記載から、送風手段を作動させることで空気流通路内を流通する空気の圧力により自動的に形成される「空気排出口」の存在を否定する趣旨までは読み取れない。)。 イ 本件明細書の図3及び図6は、「空気排出口調整機構」を用いた状態での実施例を示しているにすぎず(段落【0016】)、「空気排出口」が「空気排出口調整機構」を用いずに自然に形成されるものを含むことを否定するものではない。 (2) 本件発明3の「開口度」及び「複数段階の予め定められた開口度」について ア 原告は、本件発明3の「空気排出口」の意味が不明確であるから、「空気排出口」の「開口度」の意味やその測定方法も不明確であると主張するが、本件発明3の「空気排出口」の意味が明確であることは、前記(1)のとおりであるから、原告の上記主張は、前提を誤るものである。 イ 原告は、本件発明3の「開口度」は「予め定められ」るようなものではないなどとして、本件発明3の「複数段階の予め定められた開口度」の意味やその測定方法は不明確であると主張する。 しかしながら、本件発明3においては、第一調整ベルトにある「第一取付部」(ボタン等)及び第二調整ベルトにある「第二取付部」(ボタン孔等)の取付位置を変えることにより、服の襟後部と人体の首後部との間に異なる「開口度」の「空気排出口」が形成されるから、それらの取付位置による「開口度」は、「予め定められ」るものである。なお、本件明細書の段落【0004】の記載からは、着用者は、あらかじめ設けられた(複数の)貫通孔(複数あるときは、そのうちのいずれか一つ)に留め具を取り付け、又は取り付けないことを選択し、この選択により定まる「開口度」を選ぶことによって、「空気排出口」から排出される空気の量を調整するのであり、「複数段階の予め定められた開口度」とは、このことをいうものと理解することができる。 以上のとおりであるから、原告の上記主張は、誤りである。 ウ 原告は、本件発明3の「開口度」が「予め定められた」ものである以上、何らかの特定(測定)をすることが必要であるのに、これがされていない旨主張する。 しかしながら、原告が主張するような特定が必要であるとしても、前記イのとおり、本件発明3においては、第一調整ベルトにある「第一取付部」(ボタン等)及び第二調整ベルトにある「第二取付部」(ボタン孔等)の取付位置を変えることにより、服の襟後部と人体の首後部との間に異なる「開口度」の「空気排出口」が形成されるから、それらの取付位置による「開口度」は、「予め定められ」るものであり、特定されている。 したがって、原告の上記主張は、理由がない。 (3) 本件発明7の「切り込み線を入れて作製されるボタン孔」について 特許庁の審査基準においては、「その物の製造方法が記載されている場合」の類型や具体例に形式的に該当したとしても、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載並びに当該技術分野における出願時の技術常識を考慮し、「当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのか」が明らかであるときは、「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するとの理由で明確性要件違反とはしないとされているところ、本件発明7の「前記貫通孔は切り込み線を入れて作製されるボタン孔」との事項は、切り込み線を入れることで得られる貫通孔をボタン孔とした構造を表すものと理解でき、上記審査基準にいう「「当該製造方法が当該物のどのような構造…を表しているのか」が明らかであるとき」に該当するから、本件発明7の「切り込み線を入れて作製されるボタン孔」について明確性要件違反はない。 2 取消事由2(冒認出願ないし共同出願要件違反についての判断の誤り・無効理由2関係)について (1) 仮に、甲65に「第二調整ベルト」の記載がないとしても、「第二調整ベルト」は、Bの指示により作製したものであり、また、本件サンプルも、Bの指示に従ってAが作製したものであるから、Bは、「第二調整ベルト」も含めて本件各発明を発明した者であり、本件各発明の発明者は、Bのみである。Aは、被告の単なる補助者にすぎない。 なお、原告は、甲65の信ぴょう性に重大な疑義があると主張するが、甲65に関し、別件の侵害訴訟における証拠提出の経緯や記載の内容に不自然な点はなく、 また、その内容は、甲67により客観的に裏付けられており、さらに、後日追記ができるようにしたとの点も言いがかりにすぎないから、原告の上記主張は、理由がない。 (2)ア 仮に、甲67に「第一取付部」と「複数の第二取付部」が「形状に対応して」「取り付けが可能」であるとの記載がないとしても、「第一取付部」と「複数の第二取付部」が「形状に対応して」「取り付けが可能」である点(「複数のボタン孔の構成」)も含め、本件各発明を創作したのは、Bである。 また、前記(1)のとおり、Aは、被告の単なる補助者にすぎず、Bの指示に従い、 本件サンプルを作製したにすぎないのであるから、「複数のボタン孔の構成」は、 Aが独自に創作したものではない。 さらに、原告は、BやAらは、本件サンプルを用いた複数のボタン孔の効果を確認して本件発明3を完成させたと主張するが、同人らは、本件サンプルを用いた複数のボタン孔の効果を確認していない。 イ ある発明について共同発明者といえるためには、当該発明について「重要な貢献」をした者に該当することが必要であるところ、前記(1)のとおり、Aは、被告の単なる補助者であり、Bの指示のとおり本件サンプルを作製した者にすぎないから、本件各発明について「重要な貢献」をしておらず、本件各発明に係る共同発明者ではない。 仮に、Aが主体的に本件サンプルを作製したとしても、本件サンプルは、本件各発明と構成が異なる異質のものであるから、本件サンプルの作製行為は、本件各発明に係る着想の提供に当たらず、着想を具現化した行為にも該当しない。よって、 Aは、本件各発明について「重要な貢献」をしていないから、本件各発明に係る共同発明者ではない。 また、本件各発明は、Bにおいて、首紐の帯の1本の先端にボタンを付け、もう1本の首紐の帯にボタン孔を2か所(複数か所)付ける形態を着想し、発明した時点で完成したといえ(なお、本件各発明は、効果の確認が不要な類型の発明である。)、それ以降の具現化の過程は、既に性能が確認できている態様の確認作業であり、その具現化が当業者にとって自明のものであるから、仮に、Aが本件各発明の具現化に関与したとしても、Aは、共同発明者とはならない。 ウ 原告は、甲67の記載は「空調服の襟周りの寸法を大きくすること」を意味するにすぎないから、甲67の記載を根拠に「首の空気排出口を複数段で調整することの着想が被告側にあった」との認定をすることはできないと主張するが、甲67の「襟周りを徐々に広くしていく」との記載は、「襟周りを段階的に調整すること」を意味するから、原告の上記主張は、誤りである。 エ 原告は、Aは「複数の第二取付部を有する発明」に含まれる発明をしたから、 本件各発明の発明者であると主張する。原告のこの主張は、甲6(Aら作成の平成25年7月31日付け「サンプル(別注)作製・変更依頼書」)におけるAの指示を根拠とするものと解されるが、Bは、同日より前(原告と被告の会議が開催された同月29日及び同月30日の前)の段階で、「複数の第二取付部を有する発明」を創作していたから、原告の上記主張は、誤りである。 3 取消事由3(本件公然実施発明による進歩性欠如についての判断の誤り・無効理由3関係)について(1) 相違点1の認定 特許発明と主引用発明との相違点を認定するに当たっては、発明の技術的課題の解決の観点から、まとまりのある構成を単位として認定する必要があり、かかる観点を考慮することなく、相違点を殊更に細かく分けて認定し、各相違点の容易想到性を個々に判断することは許されない。 これを本件についてみるに、本件明細書の記載(段落【0006】、【0008】、【0009】、【0033】)によると、従来、「空調服の性能を十分に発揮しつつ、開口度を適正に調整するために、調整紐の結び目が空気抵抗となり空気排出の障害となることを防止すること」や、「洗濯に支障がないこと、空気排出口を確実に形成することができること、安価に作製することができること、空気排出口を形成する必要がないときに使用者の邪魔にならないこと」などの課題があったところ、本件発明3は、これらの課題を解決するため、「送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口について、その開口度を調整するための空気排出口調整機構」との構成を採用し、 その「調整」は、「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成する」こととしたものである。 そうすると、本件発明3と本件公然実施発明との相違点を認定するに当たっては、 発明の技術的課題の解決の観点から、単に長さを調整する機構の部分のみを切り出して相違点とすることはできず、「空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出口の開口度を複数段階に調整すること」と「長さを調整する機構(第一取付部、第二取付部、第一調整ベルト及び第二調整ベルトに係る構成)」とをまとまりのある一体のものとして相違点としなければならない。しかしながら、相違点1の実質に係る原告の主張は、「空調服における襟後部と人体の首後部との間に形成される、空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口の開口度を調整するための手段」を捨象し、「長さを調整する機構」のみに着目して相違点を把握するものであるから、相違点を殊更に細かく分けて認定するものとして失当である。 (2) 本件発明3と本件公然実施発明の技術的意義等 本件各発明に係る出願がされた平成25年当時、ファン付きウェアの市場には被告の製品しか存在せず、ファンの作用で体を冷やす服自体が独創的で突飛な製品であり(乙5、6)、また、当該製品の最重要部分である空気排出口をいかにして調整するかという点は、空気排出の性能等を考慮してされるものであり(本件明細書の段落【0008】、【0009】)、既存の製品では全く考慮されていなかったもので、本件発明3の課題は、極めて斬新なものであった。 したがって、本件発明3と本件公然実施発明の技術的意義の相違は大きく、両者の違いは、「長さの調整の仕方」にとどまるものではない。これと異なる原告の主張は、理由がない。 (3) 本件公然実施発明及び甲15ないし40に記載された事項に基づく容易想到性 以下のとおり、本件公然実施発明に甲15ないし40に記載された事項を適用する相応の動機付けがあるとはいえないから、当業者において、両者を組み合わせて相違点1に係る本件発明3の構成に容易に想到することはできない。 ア 本件公然実施発明と甲15ないし40に記載された事項は技術分野の関連が薄く、前者に後者を適用するためには相応の動機付けが必要であること 本件公然実施発明も甲15ないし40に記載された事項も、抽象的には「被服」に関する技術分野に属し得るが、技術分野が関連しているというためには、前者と後者の技術事項を検討する必要がある。 本件公然実施発明は、服地に取り付けられたファンの作用により身体を冷却する空調衣服における空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出口に係るものである。これに対し、甲15ないし40に記載された事項は、いずれも空調服の空気排出口に関する技術ではない(なお、甲34に記載された事項は、空調服に関する技術ではあるが、空調服の空気排出口に関する技術ではない。)。このように、本件公然実施発明が属する技術分野と甲15ないし40に記載された事項が属する技術分野は、完全に一致しておらず、「被服」の点において近接するにとどまり、両者の技術分野の関連性は薄い。したがって、本件公然実施発明に甲15ないし40に記載された事項を組み合わせるに当たっては、相応の動機付けが必要となる。 イ 本件公然実施発明に甲15ないし40に記載された事項を適用する相応の動機付けがないこと(ア) 課題の共通性がないこと 本件公然実施発明の課題は、襟後部と首後部との間の空気排出口の開口部を形成することである。これに対し、甲15ないし40に記載された事項の課題は、いずれも空気排出口の開口部を形成するというものではなく、本件公然実施発明の課題とは異質のものであり、かつ、異なる。なお、仮に、本件公然実施発明の課題が襟後部と首後部との間の開口度を調整することであるとしても、甲15ないし40に記載された事項の課題は、いずれも空気排出口の開口度を調整するというものではないから、やはり、本件公然実施発明の課題とは異質のものであり、かつ、異なる。 このように、本件公然実施発明の課題と甲15ないし40に記載された事項の課題に共通性はない。 (イ) 作用・機能の共通性がないこと 本件公然実施発明は、襟後部付近に取り付けられた紐を結ぶことで、空気排出口を形成する作用・機能を有する。これに対し、甲15ないし40に記載された事項の作用・機能は、いずれも本件公然実施発明の作用・機能とは異質のものであり、 かつ、異なる。このように、本件公然実施発明の作用・機能と甲15ないし40に記載された事項の作用・機能に共通性はない。 (ウ) 甲15ないし40に記載ないし示唆がないこと 甲15ないし40には、これらに記載された事項を空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出口に適用し得る旨の記載も示唆もない。 (エ) 空調服の空気排出口の開口度を調整できるとの技術常識がなかったこと 本件出願日当時、空調服の空気排出口の開口度を調整できるとの技術常識は存在しなかったから(本件明細書の段落【0006】参照)、甲15ないし40に様々な調整機構が開示されているとしても、これを本件公然実施発明と組み合わせることはできない。 (オ) 本件発明3の課題の斬新さ 本件発明3は、空気排出口調整機構を取り付けることで生じる空気排出口をいかに複数段階に調整するかという点を課題とするところ、当該課題は、本件出願日当時、誰も着目しない新規のものであり、斬新なものであった。本件発明3の課題が斬新であることは、ひいては、本件公然実施発明の課題と甲15ないし40に記載された事項の課題の共通性を否定する事情となる。 (4) 本件公然実施発明及び本件周知技術に基づく容易想到性 前記(3)のとおり、本件公然実施発明に甲15ないし40に記載された事項を適用する動機付けはないから、本件公然実施発明に本件周知技術を適用する動機付けもない(本件公然実施発明と本件周知技術は、技術分野、課題及び作用・機能の点が全て異質で異なるものである。)。 したがって、当業者において、本件公然実施発明と本件周知技術を組み合わせて相違点1に係る本件発明3の構成に容易に想到することはできない。 (5) 本件公然実施発明及び甲28発明に基づく容易想到性 前記(3)のとおり、本件公然実施発明と甲28発明は、技術分野を異にし、課題及び作用・機能を異にするものである。 したがって、当業者において、本件公然実施発明と甲28発明を組み合わせて相違点1に係る本件発明3の構成に容易に想到することはできない。 (6) 本件公然実施発明及び甲30発明に基づく容易想到性 原告は、本件公然実施発明及び甲30発明に基づく容易想到性に関し、本件公然実施発明及び甲28発明に基づく容易想到性に係る主張と同旨の主張をするが、前記(5)のとおりであるから、原告の主張は、誤りである。 4 取消事由4(甲34に記載された発明による進歩性欠如についての判断の誤り・無効理由4関係)について (1) 甲34に記載された発明の認定 甲34には、次の発明(以下「甲34発明”」という。)が記載されている。原告が主張する甲34発明’は、誤りである。 (甲34発明”) 送風手段(ファン)を用いて人体との間に形成された空気流通路(空気流通部)内に空気を流通させる空調服の襟後部の下に形成される空気流通路について、その流通路の大きさを拡張するための流通路拡張部において、 前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部の下の第一の位置に取り付けられた第一面状ベルトと、 第一面状ベルトと第二面状ベルトを繋ぐことができ、前記第一面状ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部の下の第二の位置に取り付けられた第二面状ベルトと、を備え、 第一面状ベルトと第二面状ベルトを繋ぐことにより、前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部の下に、拡張された流通路の大きさで前記空気流通路を形成することを特徴とする 流通路拡張機構。 (2) 本件発明3と甲34に記載された発明との対比 ア 原告は、本件発明3と甲34に記載された発明との一致点2’が「…ことを特徴とする空気排出口調整機構」であると主張するが、以下のとおり、甲34に記載された発明の「流通路拡張部」は、本件発明3の「空気排出口調整機構」に相当するものではないから、原告が主張する一致点2’は、誤りである。 (ア) 本件発明3の「空気排出口調整機構」と甲34に記載された発明の「流通路拡張部」は概念を異にするものであること 以下のとおり、本件発明3の「空気排出口調整機構」と甲34に記載された発明の「流通路拡張部」は、概念を異にする。 a 課題が異なること 甲34に記載された発明は、低出力ファン下において、空気の流れ難い部分にも空気を流し、身体を均一に冷却することを課題とし、服にたわみを持たせて空気の流通路を確保する「流通路拡張部」を備えたものである。これに対し、本件発明3は、「空気排出口調整機構」を取り付けることで生じる空気排出口をいかに複数段階に調整するかという点を課題とするものである。 b 構成が異なること 甲34に記載された発明の「流通路拡張部」は、少ない量の空気を各所まで行き渡らせることを課題としているため、複数段階の開口度調整を必要とせず、空気量の調整ができない面状テープを採用しており(甲34の段落【0029】)、複数段階の開口度調整については、甲34に開示も示唆もされていない。これに対し、 本件発明3の「空気排出口調整機構」は、大量の空気が通る首後部の空気排出口を複数段階の開口度で調整することを目的とし、「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し」、「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成」するとの構成を備えるものである。 c 効果が異なること 甲34に記載された発明の「流通路拡張部」は、少ない量の空気を各所まで行き渡らせるという効果を奏する。これに対し、本件発明3の「空気排出口調整機構」は、大量の空気が通る首後部の空気排出口を複数段階の開口度で調整できるという効果を奏する。 (イ) 甲34に「空気排出口調整機構」についての記載又は示唆がないこと 甲34においては、「空気排出口調整機構」との用語は用いられていないし、前記(ア)のとおりの「空気排出口調整機構」の概念についての開示も示唆もない。 イ 前記(1)及び前記アによると、本件発明3と甲34に記載された発明(甲34発明”)とは、次の相違点2”で相違することになる。原告が主張する相違点2’は、誤りである。 (相違点2”) 本件発明3が、「送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、前記空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口について、その開口度を調整するための空気排出口調整機構」であり、その「調整」は、「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成する」のに対し、甲34発明”は、送風手段(ファン)を用いて人体との間に形成された空気流通路(空気流通部)内に空気を流通させる空調服の襟後部の下に形成される空気流通路について、 その流通路の大きさを拡張するための流通路拡張部であり、その流通路拡張のためには、第一面状ベルトと第二面状ベルトを繋ぐことにより、前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部の下に、拡張された流通路の大きさで前記空気流通路を形成する点 ウ 以上のとおり、本件発明3と甲34に記載された発明との相違点に関する原告の主張は誤りであるから、それを前提とする取消事由4に係る原告の主張も誤りである。 (3) 相違点2に係る本件発明3の構成の容易想到性 仮に、本件発明3と甲34に記載された発明に関し、本件審決が認定した相違点2が正しいとしても、前記3(3)と同様に、甲34発明と甲15ないし40に記載された事項は、技術分野の関連性が薄く、両者を組み合わせるには相応の動機付けが必要であるところ、これらを組み合わせる相応の動機付けはないから、当業者において、両者を組み合わせて相違点2に係る本件発明3の構成に容易に想到することはできない。 |
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当裁判所の判断
1 本件各発明の概要(1) 本件明細書の記載 本件明細書には、次の記載がある。 【技術分野】【0001】 本発明は、空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、空調服内を流通する空気を外部に排出する空気排出口について、その開口度を調整するための空気排出口調整機構に関するものである。 【背景技術】【0002】 近年、送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させることにより人体から出た汗を蒸発させる空調服が実用化されている。…図7は空調服における空気の流れを説明するための図、図8は従来の空調服における襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出部を説明するための図である。この空調服1の裾には伸縮性のあるベルトが取り付けられ、空調服1の前側には開閉用のファスナーが設けられている。また、空調服1の下部には二つの送風手段11、11が取り付けられている。ここで、送風手段11としては、プロペラを有するファンが用いられる。 【0003】 ベルトを締めると共にファスナーを閉じた後、二つの送風手段11、11を作動させると、図7に示すように、外気が各送風手段11から空調服1内に取り込まれる。そして、その取り込まれた外気は、空気流通路内を人体と平行に上方に流通し、 空気排出部から排出される。ここで、空気排出部としては、空調服1の襟前部と人体の首前部との間の開口部、空調服1の襟後部12と人体の首後部との間の開口部、 そして、空調服1の袖部と人体の腕部との間の開口部がある。これらの開口部のうち、襟後部12と首後部との間の開口部は、他の開口部と異なり、明確に形成され、 しかも、空気の排出量が最も多いという点で他の開口部に比べて重要なものである。 以下では、襟後部12と首後部との間に形成される開口部を、他の空気排出部と区別するため、「空気排出口」と称することにする。 【0004】 空調服1内に取り込まれた外気が空気流通路内を流通する間に人体から出た汗を蒸発させ、その蒸発するときの気化熱により体表面の温度を下げることができる。 したがって、空調服1がその冷却機能を効率よく作用することができるようにするには、空気流通路内を流通する空気が空気排出部から受ける抵抗を小さくし、大量の空気を人体と平行に流通させる必要がある。また、空調服1の着用者は、使用目的に応じて空調服1の冷却効果を調整したいことがある。このため、従来の空調服1には、各空気排出部の開口度を調整する機構が備わっている。ここで、空気排出部の性質上、各空気排出部の開口度を明確に数値で表すことはできないが、開口度が大きいほど、空気がその空気排出部から受ける抵抗が小さくなり、その空気排出部から排出される空気の量が多くなる。…従来の空調服1には、図8に示すように、 襟後部12と首後部との間隔を広げたり狭めたりするための一組の調整紐21が設けられている。各調整紐21の端部は、襟後部12の内表面に取り付けられている。 一組の調整紐21を結び、その長さを調整することにより、襟後部12と首後部との間に空気排出口13を形成すると共に、その空気排出口13の開口度を調整することができる。 【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0006】 上述のように、従来の空調服1では、襟後部12と首後部との間の空気排出口13の開口度を調整する機構として、図8に示すように、一組の調整紐21を所望の長さになるように結ぶことにより襟後部12の付近に弛みを設けるものを用いている。しかしながら、実際には、一組の調整紐21を結んで所望の長さになるようにすることは非常に難しく、ほとんどの着用者は、襟後部12と首後部との間の空気排出口13について、その開口度を適正に調整することができず、そのため、空調服1の性能を十分に発揮することが困難であった。 【0009】 したがって、襟後部12と首後部との間の空気排出口13の開口度を簡単に調整することができる新たな空気排出口調整機構の実現が望まれている。かかる新たな空気排出口調整機構は次のような要求を満たす必要がある。すなわち、(1)洗濯に支障がないこと、(2)空気排出口13を確実に形成することができること、 (3)安価に作製することができること、(4)空気排出口13を形成する必要がないときに使用者の邪魔にならないこと、である。ここで、新たな空気排出口調整機構により襟後部12と首後部との間に空気排出口13を形成しなくとも、送風手段11を作動させると、空気の圧力により襟後部12と首後部との間に自動的にある程度の開口部が確保されるので、使用目的によっては空気排出口13を形成しないほうがよい場合もある。 【0010】 本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出口の開口度を簡単に調整することができる空気排出口調整機構を提供することを目的とするものである。 【課題を解決するための手段】【0013】 また、上記の目的を達成するための第二の発明は、送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させる空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される、空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口について、その開口度を調整するための空気排出口調整機構において、第一取付部を有し、 空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた第一調整ベルトと、前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し、第一調整ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた第二調整ベルトと、を備え、第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、襟後部と人体の首後部との間に、複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成することを特徴とするものである。 【0014】 第二の発明に係る空気排出口調整機構では、上記の構成により、第一取付部を第二取付部に取り付けるだけで、空調服の襟後部の付近に弛みを確保して、空気排出口を容易に形成することができる。また、第一取付部をいずれの第二取付部に取り付けるかに応じて、空気排出口の開口度を複数段階に簡単に調整することができる。 更に、第二取付部を有する第二調整ベルトを備えることにより、第一取付部を第二取付部に取り付けたときに、第一取付部が空調服の内側にとどまり、外部から見えることがないので、外観が損なわれることがない。 【発明の効果】【0015】 本発明に係る空気排出口調整機構によれば、空調服の襟後部付近に空気排出口を容易に形成することができると共に、空気排出口の開口度を複数段階に簡単に調整することができる。 【発明を実施するための形態】【0035】[第二実施形態] 次に、本発明の第二実施形態である空気排出口調整機構について説明する。図4は第二実施形態の空気排出口調整機構を備える空調服を展開して内側から見たときの概略平面図、図5は第二実施形態の空気排出口調整機構における第一調整ベルト及び第二調整ベルトの概略平面図、図6は第二実施形態の空気排出口調整機構により空気排出口が形成された空調服の襟部を上から見たときの状態を示す概略図である。…【0036】 第二実施形態の空気排出口調整機構50aは、図4に示すように、襟を折り返えすことができる通常の襟部2aを有する空調服1に設けられる。ここで、図4には、 襟部2aについて、折り返し部分Pを折り返さずに広げたときの状態が示されている。また、図6では、襟部2aについて折り返し部分Pを省略して示している。第二実施形態では、空気排出口調整機構50aは、襟部2aの中央部(襟後部12)ではなく、襟後部12の周辺の所定箇所、具体的には襟後部12の少し下側の箇所に設けられる。空調服の形状にもよるが、通常の空調服では、空気流通路内を流通する空気を空気排出口から外部にスムースに排出するには、空気排出口を、襟後部12に設けるよりも、襟後部12の少し下側に設ける方が合理的であるからである。 【0037】 この第二実施形態の空気排出口調整機構50aは、図4、図5及び図6に示すように、第一調整ベルト51aと、第二調整ベルト53とを備える。第一調整ベルト51aは、図5(a)に示すように、第一の帯状部材511aと、第一の帯状部材511aの一方の端部に設けられた一つの留め具512とを有するものである。第二実施形態でも、留め具512としてボタンを用いる。第一の帯状部材511aの他方の端部は、空調服1の服地の内表面であって襟後部12の周辺の所定の第一位置に取り付けるための取付部513である。ここで、留め具512が空調服1の服地の内表面と対向するように且つ第一の帯状部材511aの長手方向が襟部2aの長手方向と略平行になるように第一調整ベルト51aを配置して、第一の帯状部材511aの取付部513を上記第一位置に縫合している。 【0038】 第二調整ベルト53は、図5(b)に示すように、第二の帯状部材531と、第二の帯状部材531の一方の端部に形成された、留め具512と係合して留め具512を取り付けるための一つの貫通孔532とを有するものである。第二の帯状部材531としては、強度のある布を用いることが望ましい。また、貫通孔532は本発明の係合部に該当する。この貫通孔532は、切り込み線を入れて作製されるボタン孔である。このボタン孔の切り込み方向は第二の帯状部材531の長手方向と略平行な方向である。第二の帯状部材531の他方の端部は、空調服1の服地の内表面であって第一調整ベルト51aが取り付けられた第一位置とは異なる襟後部12の周辺の所定の第二位置に取り付けるための取付部533である。ここで、第二の帯状部材531の長手方向が襟部2aの長手方向と略平行になるように且つ貫通孔532が第一調整ベルト51aの側に位置するように第二調整ベルト53を配置して、第二の帯状部材531の取付部533を上記第二位置に縫合している。したがって、第二調整ベルト53を空調服1の服地の内表面に取り付けると、ボタン孔の切り込み方向は襟後部12の長手方向と略平行になる。 【0039】 このように、第二実施形態では、貫通孔532を空調服1の服地に直接形成するのではなく、空調服1の服地の内表面に第二調整ベルト53を取り付け、この第二調整ベルト53に貫通孔532を設けている。これは次の理由による。すなわち、 空気排出口機構50aが設けられる、襟後部12の少し下側の部位は、襟部2aと異なり、通常は一枚の布で構成されているので、この部位に貫通孔を直接設けることにすると、当該部位において十分な強度が得られなくなり、しかも、留め具を貫通孔に取り付けたときに留め具が空調服の外側に露出し、外観が損なわれてしまうからである。 【0040】 いま、第一の帯状部材511aの取付部513から留め具512までの第一調整ベルト51aの長さをL3、第二の帯状部材531の取付部533から貫通孔532までの第二調整ベルト53の長さをL4、そして、第一調整ベルト51aが取り付けられた第一位置(第一の帯状部材511aの取付部513)から第二調整ベルト53が取り付けられた第二位置(第二の帯状部材531の取付部533)までの空調服1の服地に沿った距離をL5とする。第一調整ベルト51aと第二調整ベルト53の長さ、及び、上記第一位置及び第二位置は、L3+L4 空調服1の襟後部12の付近が弛み、襟後部12と着用者の首後部との間に空気排出口13が形成される。また、空気排出口13から少量の空気を排出したい場合には、留め具512を貫通孔532に取り付けないようにする。この場合には、空気流通路内を流通する空気の圧力により襟後部12と首後部との間に自動的にある程度の開口部が確保されるので、この開口部が空気排出口13となって、ここから少量の空気を外部に排出することができる。したがって、第二実施形態の空気排出口調整機構50aを用いると、着用者は、空調服1の使用目的に応じて空気排出口13の開口度を2段階の開口度の中から選択し、所期の冷却効果を得ることができる。 【0044】 第二実施形態の空気排出口調整機構は、第一の帯状部材の一方の端部に設けられた留め具を有し、第一の帯状部材の他方の端部が空調服の服地の内表面であって襟後部の周辺の所定の第一位置に取り付けられた第一調整ベルトと、第二の帯状部材の一方の端部に形成された、留め具と係合して留め具を取り付けるため貫通孔を有し、第二の帯状部材の他方の端部が、空調服の服地の内表面であって第一調整ベルトが取り付けられた第一位置とは異なる襟後部の周辺の所定の第二位置に取り付けられた第二調整ベルトとを備え、第一の帯状部材の上記他方の端部から留め具までの第一調整ベルトの長さと第二の帯状部材の上記他方の端部から貫通孔までの第二調整ベルトの長さとの合計の長さが、第一調整ベルトが取り付けられた第一位置から第二調整ベルトが取り付けられた第二位置までの空調服の服地に沿った距離よりも短くなっている。これにより、留め具を貫通孔に取り付けるだけで、空調服の襟後部の付近に弛みを確保して、空気排出口を容易に且つ確実に形成することができる。また、留め具を貫通孔に取り付けるか、若しくは貫通孔に取り付けないかに応じて、空気排出口の開口度を2段階に簡単に調整することができる。更に、貫通孔を有する第二調整ベルトを備えることにより、留め具を貫通孔に取り付けたときに、 留め具が空調服の内側にとどまり、外部から見えることがないので、外観が損なわれることがない。 【0046】[他の実施形態] 尚、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。 【0048】 …上記の第二実施形態では、貫通孔を第二調整ベルトに一つ設ける場合について説明したが、貫通孔を第二調整ベルトに二つ以上設けるようにしてもよい。貫通孔を多く設けるほど空気排出口の開口度を細かく調整することが可能となる。 【0049】 …上記の第二実施形態では、第一調整ベルト及び第二調整ベルトをそれぞれ帯状部材で構成する場合について説明したが、第一調整ベルトを紐状部材で構成するようにしてもよく、また、第二調整ベルトを紐状部材で構成するようにしてもよい。 更に、上記の第二実施形態において、空調服の構造上、襟部の周囲には布がある場合があり、この場合、第二調整ベルトとしてはこの布を使用することも可能である。 【0050】 更に、上記の各実施形態では、留め具としてボタンを用い、貫通孔(係合部)としてボタン孔を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、留め具として専用のものを使用してもよい。この場合、係合部としては、 その専用の留め具に対応したものを用いることにより、留め具を係合部に取り付ける際の利便性がさらに向上する。例えば、留め具及び係合部としては、面状ファスナーを用いてもよいし、或いは、金属製又は樹脂製の各種ホックやフックを用いてもよい。 【産業上の利用可能性】【0052】 以上説明したように、本発明の空気排出口調整機構では、空調服の襟後部付近に空気排出口を容易に形成することができると共に、空気排出口の開口度を複数段階に簡単に調整することができる。したがって、本発明は、空調服の襟後部付近に形成される空気排出口の開口度を調整する機構として使用するのに好適である。 【図4】【図5】【図6】【図7】【図8】(2) 本件各発明の概要 前記(1)の記載によると、本件各発明の概要は、次のとおりであると認められる。 すなわち、本件各発明は、空調服(送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させることにより人体から出た汗を蒸発させて身体を冷却することができる衣服)の襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出口(空調服内を流通する空気を外部に排出する出口)について、その開口度を調整するための空気排出口調整機構に関するものである。従来の空調服においては、空気排出口の開口度は、襟後部の内表面に取り付けられた一組の調整紐を結び、その長さを調整することにより調整されていたが、実際には、一組の調整紐を結んで所望の長さにするのは非常に難しく、ほとんどの着用者は、空気排出口の開口度を適正に調整することができず、そのため、空調服の性能を十分に発揮することができないという課題があった。このような課題を解決し、空気排出口の開口度を簡単に調整することができる空気排出口調整機構を提供することを目的として、本件各発明は、 空調服の空気排出口の開口度を調整するための空気排出口調整機構において、第一取付部を有し、前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた第一調整ベルトと、前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し、前記第一調整ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた第二調整ベルトと、を備え、前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、複数段階のあらかじめ定められた開口度で前記空気排出口を形成するとの構成を採用したものである。これにより、本件各発明は、空調服の襟後部付近に空気排出口を容易に形成することができるとともに、空気排出口の開口度を複数段階に簡単に調整することができるとの効果を奏する。 2 取消事由3(本件公然実施発明による進歩性欠如についての判断の誤り・無効理由3関係)について 事案に鑑み、取消事由3から判断する。 (1) 本件公然実施発明について ア 甲2の記載 甲2には、次の記載がある。 (ア) 空調服 「生理クーラー」の原理を利用、清涼感が全体に行きわたります 人は体温が上がると汗をかき、蒸発する際に生じる気化熱で体温を下げています。 この「生理クーラー」と呼ばれるメカニズムを利用しているのが、空調服です。身体とユニフォームの間に空気を流し、汗の気化を促進。体温と湿度を各個人の快適レベルまで調節します。夏場でも、クーラーで室温を大幅に下げる必要がないため、 省エネ効果はもちろん、冷房病の防止も期待できます。(136頁)(イ) 「空気の流れ(イメージ)」と題する図(136頁)(ウ) 品番「KU90550」の製品等の紹介(139頁)イ 甲41(株式会社サンエス外1社作成の品番「KU90550」の製品等に係る「空調服取扱説明書」(平成17年4月19日印刷))の記載 甲41には、次の記載がある。 (ア) 空調服取扱説明書 KU90520、KU90530、KU90540、KU90550、KU90560 共通 本品の特徴【本品のしくみ】 空調服は、左右の腰の辺りに取り付けられた2個の小型ファンによって、服の中に外気を取り込み、汗を蒸発させることによる気化熱で体を冷やすことで、涼しく快適にすごしていただくための商品です。 パッケージ内容と各部のなまえ 箱の中身を確かめ、下記のものが揃っていることを確認して下さい。… (以上1頁)(イ) e.首周りの空気排出量を調節する I襟についている2本の紐は、首周りの空気排出スペースを調整するためのものです。紐を結ぶことによって、首と襟足の間隔を広くし、襟足からの空気排出量を増やすことが出来ます。お好みに応じて、調節してください。 (以上2頁) ウ 本件公然実施発明の認定 前記ア及びイの記載によると、本件公然実施発明は、本件審決(前記第2の3(3)ア)が認定したとおりであると認められる。 (2) 本件発明3と本件公然実施発明との対比 ア 本件発明3と本件公然実施発明とを対比すると、本件審決(前記第2の3(3)イ)が認定したとおり、空気排出口の開口度を調整するための手段(空気排出口調整機構)について、両発明は、それぞれ次の構成を備えているものと認められる。 (ア) 本件発明3 「第一取付部を有し、前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた第一調整ベルトと、前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有し、前記第一調整ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた第二調整ベルトと、を備え、前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより、前記襟後部と人体の首後部との間に、複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成する」「開口度を調整するための空気排出口調整機構」 (イ) 本件公然実施発明 「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた紐1と、前記紐1が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた紐2とを備え、2本の紐(1、2)を結ぶことによって、空気排出量を調節することができる、首周りの空気排出スペースを調整する手段」 イ 前記アのとおりの空気排出口の開口度を調整するための手段(空気排出口調整機構)に係る両発明の構成につき、更に検討する。 (ア) 本件発明3の「第一調整ベルト」及び「第二調整ベルト」は、これらを締結して空気排出口の開口度を調整するものであるところ、甲41の記載(前記(1)イ(イ))によると、本件公然実施発明の「紐1」及び「紐2」も、同様に、これらを締結して空気排出スペースを調整し、空気排出量を調節するものであると認められるから、本件公然実施発明の「紐1」及び「紐2」は、それぞれ本件発明3の「第一調整ベルト」及び「第二調整ベルト」に相当するものである。 (イ) 本件発明3の「第一調整ベルト」は、「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた」ものであるところ、本件公然実施発明の「紐1」も、「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第一の位置に取り付けられた」ものであるから、両発明は、この点で一致する。 (ウ) 本件発明3の「第二調整ベルト」は、「前記第一調整ベルトが取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた」ものであるところ、本件公然実施発明の「紐2」も、「前記紐1が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付けられた」ものであるから、両発明は、この点で一致する。 (エ) 甲41の記載(前記(1)イ(イ))のとおり、本件公然実施発明の「首周りの空気排出スペース」は、首と襟足の間隔を広くし、襟足からの空気排出量を増やすことができるものであり、また、これが本件発明3の「空気排出口」に相当するものであることは明らかであり、さらに、甲41の記載(同)によると、本件公然実施発明における「空気排出量」の「調節」及び「空気排出スペース」の「調整」は、「首周りの空気排出スペース」の開口度の調節により行われるものであると認められるから、本件公然実施発明の「空気排出量を調節することができる、首周りの空気排出スペースを調整する手段」は、本件発明3の「前記襟後部と人体の首後部との間に」「前記空気排出口を形成する」「開口度を調整するための空気排出口調整機構」に相当する。 (オ) 甲2の記載(前記(1)ア(イ))及び甲41の記載(前記(1)イ(ア))によると、本件公然実施発明の「首周りの空気排出スペース」は、空調服の内部を流通する空気の圧力を利用して形成されるものであると認められるから、本件公然実施発明は、本件発明3の「前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより」「前記空気排出口を形成する」との構成を備えているといえる。 (カ) 以上によると、相違点1に係る本件発明3の構成の容易想到性の判断に当たっては、空気排出口の開口度を調整するための手段(空気排出口調整機構)に係る次の各点(以下、これらの各点を併せて「本件相違点」という。)を検討すれば足りるというべきである。 a 本件発明3の「第一調整ベルト」は、「第一取付部を有」するのに対し、本件公然実施発明の「紐1」は、そのような構成を備えない点 b 本件発明3の「第二調整ベルト」は、「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有」するのに対し、本件公然実施発明の「紐2」は、そのような構成を備えない点 c 空気排出口の形成に関し、本件発明3は、「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで」形成するのに対し、本件公然実施発明は、そのような構成を備えない点 d 空気排出口の開口度に関し、本件発明3は、「複数段階の予め定められた」ものであるのに対し、本件公然実施発明は、そのような構成を備えない点 (キ) この点に関し、被告は、本件発明3と本件公然実施発明との相違点を認定するに当たっては、「空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出口の開口度を複数段階に調整すること」と「長さを調整する機構(第一取付部、第二取付部、第一調整ベルト及び第二調整ベルトに係る構成)」とをまとまりのある一体のものとして相違点とする必要があると主張する。 しかしながら、本件発明3のように空調服の空気排出口調整機構を構成する各部材とその用法やこれを用いた場合の結果を発明特定事項とする発明について、特許発明及び主引用発明が備える各部材自体に係る相違点(被告が主張する「長さを調整する機構」に係る相違点)と当該部材の用法やこれを用いた場合の結果に係る相違点(被告が主張する「空気排出口の開口度を複数段階に調整すること」に係る相違点)とを分析的に認定することが許されないとする理由はないし、また、この点をおくとしても、前記(カ)の本件相違点は、空気排出口の形成に関し、本件発明3が本件公然実施発明と異なり「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けること」によるとの構成を有することや、空気排出口の開口度に関し、本件発明3が本件公然実施発明と異なり「複数段階の予め定められた」ものであるとの構成を有することを捨象するものではない(前記(カ)c及びd)。 以上のとおりであるから、被告の上記主張を採用することはできない。 (3) 甲30に記載された発明 ア 甲30の記載 甲30には、次の記載がある。 【請求項1】フラットな布地素材を用いて、股下部と該股下部の前後から末広がり形状に形成した前当て部と後当て部とを有するパンツ本体を展開形状で形成し、後当て部の末広がり形状の両端部には使用者の腹周りを余長を有して周回する長さの帯紐を接続すると共に、該帯紐の各端部には使用者の腹周りに合わせて長さを調整した状態で着脱自在に固定する止め部材を設け、前当て部の両端部と後当て部の両端部には互いの両端部を着脱自在に結合する固定部材を設けたことを特徴とする介護用パンツ。 【請求項3】帯紐の両端部に設けた止め部材、又は前当て部の両端部と後当て部の両端部に設けた固定部材は、面ファスナー、ホック又はボタン等のような止め部材又は固定部材の双方を着脱自在に結合するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の介護用パンツ。 【技術分野】【0001】 本考案は、フラット形状の布地素材から作成され、しかも要介護者や失禁傾向にある者が自分で容易に交換することができる介護用パンツに関する。 【考案の概要】【考案が解決しようとする課題】【0008】 上記のように、要介護者のなかでも、自分でパンツを装着することが要求される場合がある。そのとき、立った姿勢で特許文献1のようなフラットな形状のオムツを装着するには、右前身頃又は左前身頃のいずれかを身体に添わして止めた状態で右前身頃又は左前身頃の他方を引っ張って重ね合わせた後に結合させる必要がある。 【0009】 さらに、パンツの前端部となる覆い部を身体の後方に垂れ下げた状態にして、他方の手で覆い部を持って股下から引き出して腹部の下方へ当てる必要がある。従って、立った姿勢の使用者が自分自身でパンツを装着する作業は困難であり、その作業には思わぬ労力を要することとなる。 【0010】 また、特許文献1の介護用パンツは、普通のパンツと変わらない状態で着用することができるものであるが、腹部の前でパンツの右前身頃と左前身頃と覆い部とが重なった状態になり、パンツの上に履いたズボンやスカート、又は着用した着物の上から介護用パンツの膨らみが目立って見えるという不都合が生じる。 【0011】 本考案は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、介護用パンツを使用する者が立った姿勢であっても自分独りで容易に装着することができ、しかもパンツを装着した状態が外観的に目立たず、さらには製作工程を簡略化して容易に製作することができる介護用パンツを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】【0012】 上記の目的を達成するために、本考案の請求項1の介護用パンツは、フラットな布地素材を用いて、股下部と該股下部の前後から末広がり形状に形成した前当て部と後当て部とを有するパンツ本体を展開形状で形成し、後当て部の末広がり形状の両端部には使用者の腹周りを余長を有して周回する長さの帯紐を接続すると共に、 該帯紐の各端部には使用者の腹周りに合わせて長さを調整した状態で着脱自在に固定する止め部材を設け、前当て部の両端部と後当て部の両端部には互いの両端部を着脱自在に結合する固定部材を設けたことを特徴とする。 【0014】 また、本考案の請求項3の介護用パンツは、請求項1又は2において、帯紐の両端部に設けた止め部材、又は前当て部の両端部と後当て部の両端部に設けた固定部材は、面ファスナー、ホック又はボタン等のような止め部材又は固定部材の双方を着脱自在に結合するものであることを特徴とする。 【考案の効果】【0025】 また、本考案の介護用パンツにおいて、帯紐の両端部又は前当て部の両端部と後当て部の両端部に設けた固定部材として、面ファスナー、ホック、又はボタン等の止め部材を使用して、帯紐の装着長さを調整した状態で着脱自在に固定することにより、個人差のある腰周りの大きさに応じて装着することが可能となる。 【考案を実施するための形態】【実施例1】【0031】 本実施例の介護用パンツ1は、図1又は図2に示すように、フラットな布地素材を用いて、股下部2と該股下部2の前後から末広がり形状に形成した前当て部3と後当て部4とを有する展開形状を形成することによってパンツ本体5を製作することが可能である。 【0033】 また、本考案の介護用パンツ1において、後当て部4の末広がり形状の両端部には使用者の腹周りを余長を有して周回する長さに形成した長尺の帯紐6a、6bを縫製等によって固定する。この長尺の帯紐6a、6bは平織りの布材から構成するほか、ゴム弾性を有する平状のゴム紐で構成しても良い。 【0034】 このような構成において、後当て部4の端部に沿って帯紐6a、6bを縫製等によって固定する場合、帯紐6a、6b全体を伸縮性の平状のゴム紐で構成し、その両端を後当て部4の両端から帯紐6a、6bとして必要な長さをとるようにしても良い。 【0035】 また、後当て部4の周縁のみに伸縮性又は伸縮性を有しない平状の腰紐10を固定する一方、後当て部4の両端から伸縮性を有しない帯紐6a、6bの必要な長さだけを固定するようにしてもよい。 【0036】 さらに、両側の帯紐6a、6bの各端部には使用者の腹周りに合わせて長さを調整した状態で着脱自在に固定する止め部材7a、7bを設けるようにする。この止め部材7a、7bとしては、面ファスナー、ホック又はボタン等を固定し、長尺の面ファスナー、或いは複数のホック又はボタンに対して、どの位置で固定するによって、帯紐6a、6bの装着長さを調整することにより、個人差のある腰周りの大きさに対応するようにしている。 【0038】 なお、図1に示す図面が、止め部材7a、7b及び固定部材 8a、8b、9a、 9bとして、一方の帯紐6aの端部に短尺の面ファスナー7aを使用し、他方の帯紐6bの端部に長尺の面ファスナー7bを使用した図面である。 【0039】 また、図2に示す図面が、止め部材7a、7b及び固定部材 8a、8b、9a、 9bとして、一方の帯紐6aの端部に1個のボタン7aを使用し、他方の帯紐6bの端部に複数のボタン7bを使用した図面である。 【0048】 また、本考案の介護用パンツ1において、帯紐6a、6bの両端部又は前当て部3の両端部と後当て部4の両端部に設けた止め部材7a、7bとして、長尺の面ファスナー、複数のホック又は複数のボタン等を使用してあるため、帯紐6a、6bの装着長さを調整した状態で着脱自在に固定することにより、個人差のある腰周りの大きさに応じて装着することが可能となる。 【図1】【図2】 イ 甲30に記載された発明(ア) 前記アの記載のとおり、甲30に記載された介護用パンツ1には、後当て部4の両端部に長尺の「帯紐6a」及び「帯紐6b」が設けられているところ、これらの「帯紐6a」及び「帯紐6b」は、個人差のある腰回りの大きさに応じて介護用パンツ1の装着が可能となるようにするとの効果を得る目的で、それらの装着長さを調整するように設けられたものであるから、それぞれ本件発明3の「第一調整ベルト」及び「第二調整ベルト」に相当するということができる。 (イ) 前記アの記載のとおり、甲30の図2に記載された「帯紐6a」には、止め部材として「ボタン7a」が設けられているところ、これが本件発明3の「第一調整ベルト」に設けられた「第一取付部」に相当することは明らかである。 (ウ) 前記アの記載のとおり、甲30の図2に記載された「帯紐6b」には、止め部材として複数の「ボタン7b」が設けられているところ、「ボタン7a」と「ボタン7b」は、相互に着脱自在とされるものであるから、「ボタン7b」は、 「ボタン7a」の形状に対応して「ボタン7a」と取付けが可能となる複数の部材であるといえる。また、「帯紐6b」に設けられた止め部材である「ボタン7b」が本件発明3の「第二調整ベルト」に設けられた「第二取付部」に相当することは明らかである。以上によると、甲30の図2に記載された「ボタン7b」は、本件発明3の「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部」に相当するということができる。 (エ) 前記アの記載のとおり、甲30の図2に記載された「ボタン7a」は、複数ある「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込まれるものであるから、甲30には、 本件発明3の「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付ける」との構成に相当する構成が開示されているといえる。 (オ) 前記アの記載によると、甲30の図2に記載された「ボタン7a」が「ボタン7b」のいずれにはめ込まれるかにより、「帯紐6a」及び「帯紐6b」の装着長さは、複数段階のあらかじめ定められたものとなるといえる。したがって、甲30には、本件発明3の「複数段階の予め定められた」との構成に相当する構成が開示されているといえる。 (カ) 以上のとおりであるから、甲30には、本件相違点に係る本件発明3の構成に相当する構成を全て含んだ介護用パンツの発明(以下「甲30発明’」という。)が記載されているものと認めるのが相当である。 (4) 甲30発明’の本件公然実施発明への適用 ア 技術分野の関連性 (ア) 前記(1)ア及びイ並びに前記1(1)の各記載によると、本件公然実施発明は、 空調服(送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させることにより人体から出た汗を蒸発させて身体を冷却することができる衣服)の技術分野に属すると認められるのに対し、前記(3)アの記載によると、甲30発明’は、介護用パンツの技術分野に属する発明であると認められる。空調服と介護用パンツは、その形状や使用目的を異にするものではあるが、いずれも身体の一部を包んで身体に装着する「被服」であるという点(なお、この点は、被告も争うものではない。)では、関連性を有するものである。 (イ) この点に関し、被告は、甲30に記載された技術事項は空調服の空気排出口に関するものではないから、本件公然実施発明が属する技術分野と甲30に記載された技術事項が属する技術分野は完全に一致せず、両者の関連性は薄いと主張する。 しかしながら、空調服も被服である以上、空調服に係る当業者は、被服に係る各種の先行技術を参酌するのが通常であるといえるから、本件公然実施発明に甲30発明’を適用する動機付けがあるか否かの検討に当たって考慮すべき両者が属する技術分野の関連性につき、「空調服の空気排出口」という細部にわたってまで一致しなければ両者の関連性が薄いと解するのは、狭きに失するものとして相当ではない。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。 イ 課題の共通性(ア) 本件公然実施発明から認識される課題 a 甲15の記載 甲15には、次の記載がある。 【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、雪上スキーに着用されるスキー用ズボン、 さらに詳しくは、裾部の小許上方内面に筒状の連結布の上縁を取り付け、この連結布の下縁に筒状の締付帯を取付けたスキー用ズボンの裾部の改良に関するものである。 【0002】【従来の技術】従来からスキー用のズボンの裾部に関して、ずり上がりを防止する為の手段が構じられてきた。すなわち、スキー用ズボンの裾部は足の動きに伴ってずり上りやすく、ずり上がるとスキー用ズボン裾部とスキーブーツの間から雪や水滴が侵入して不快感を与え、ずり上がったスキー用ズボンはスタイルを重視するスキーファッションにおいて極めて外観体裁の悪いものだからである。 【0003】具体的な防止策としては次のようなものがあった。@スキー用ズボンの裾部少許上方外面に二か所、周方向に間隔をあけて細い紐を取り付けておき、緩めた状態でスキー用ズボンとスキーブーツを着用した後、スキーブーツの上から二本の紐でスキー用ズボン裾部を緊縛してスキー用ズボンとスキーブーツを密着させてズレを防ぐ構成…。 【0004】【発明が解決しようとする課題】ところが、上記@の構成では、紐を締める手数が煩わしいと共に、低温のスキー場でスキー用手袋をはめた状態では細い紐を緊縛することは困難であり、紐の長さや締め付け強さの加減によっては十分に裾部のずり上り防止機能を果たさなかったり、逆に不必要に足首を拘束して自由な動きを阻害するだけでなく、紐の余った部分が垂れ下がる不体裁と、使用中に紐が解ける不都合がある。 b 甲16の記載 甲16には、次の記載がある。 【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、衣類などに備えられるドローコードに関するものである。 【0002】【従来の技術】例えばスウェットパンツやイージーパンツ等の衣類には、通常、ウエスト部を寸法を調節するためのドローコードが備えられている。このドローコードは、ウエスト部の内部に沿って紐を通したものであり、その紐の各端部は、ウエスト部のうちの腹部に相当する箇所に設けられた2個の開口部からそれぞれ延出している。すなわち、紐の各端部を開口部から共に引き出すことによって、ウエスト部が絞られて周囲の寸法が減少し、これに対して、紐の端部を開口部の内側に送り込むことによって、ウエスト部の寸法が増大する構成となっている。 【0003】ところで、上記のスウェットパンツ等では、上記のままの状態で着脱したりあるいは洗濯したりした場合に、紐の端部が開口部内に入り込んでしまうおそれが多分にあるため、通常では、予め紐の両端部をそれぞれ堅結びするなどして、 開口部とほぼ同じ大きさのいわゆるダンゴを形成したり、ウエスト部の調整をした後に紐の端部同士で蝶結びしたりして防いでいる。 【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、各端部にそれぞれダンゴを形成する手段では、先端箇所ががさばって蝶結びをしにくくなるなど取り扱いが煩わしくなる不都合があった。これに対して、端部同士を蝶結びする手段は、スウェットパンツ等を着脱するごとに、あるいはウエスト部を寸法調整するごとに行う必要があり、面倒な作業を余儀なくされる不都合があった。 c 甲17の記載 甲17には、次の記載がある。 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、着脱が簡単にできる付け帯に関するものである。 【0002】【従来の技術】 従来からある付け帯は、胴巻き部分を胴に二重に巻き付けてからひも結びにて固定し、結び部分も又、ひも結びによって固定するタイプが主流であった。 【0003】【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、従来の付け帯は、胴に二重に巻き付けた上でのひも結びでの装着なので、帯やひもの結び目がゆるんだりきつすぎたり着心地の調整が困難である上、ひもの素材も木綿やモスリンが中心なのでそれ自体が見えてしまうとおかしく、特に結び部分を支えるひもは必ず帯揚げでカバーする必要があり、着物離れが進む現代ではもっと簡単に着脱できる手軽な付け帯の開発が求められている。 d 甲18の記載 甲18には、次の記載がある。 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、食事調理時等に身体の前面に着用する「エプロン・前掛け等のエプロン類」の身体への着用バンド…に関するものである。 【0002】【従来の技術】食事調理や掃除作業等のときに身体に着用するエプロン類は、着用者の首へ巻掛けたり腰に巻き付ける着用紐によって身体に着用セットして使用する形態が古くから広く普及して…いる。…【0003】【発明が解決しようとする課題】以上の従来のエプロン類…は、着用者の個有の体形や身体サイズに合せて前記着用紐の長さを調整して結びセットする作業が着用時毎に必要になるので、着用作業と外し作業が面倒にして手数がかかる。 e 前記aないしdの各記載によると、本件出願日当時、被服の技術分野においては、2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、そもそも2つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容易ではないとの周知かつ自明の課題が存在したものと認められる(なお、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、 本件出願日当時に存在した課題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調整することができないとの記載がみられるところである。)。 そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成(「前記空調服の服地の内表面であって前記襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた紐1と」、 「前記紐1が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第二の位置に取り付けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによって、空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、甲41に「首と襟足の間隔を広くし」との記載(前記(1)イ(イ))及び紐が首の後ろにある旨の図示(同)があることからすると、本件公然実施発明に接した本件出願日当時の当業者は、上記の課題を認識するものと認めるのが相当である。 (イ) 甲30発明’が解決する課題 前記(3)アの記載のとおり、甲30発明’は、「帯紐6a」に「ボタン7a」を、 「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタン7a」を複数ある「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成を採用することにより、「帯紐6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調整し、もって、個人差のある腰回りの大きさに応じて介護用パンツ1を装着することを可能にするというものであるところ、 甲30に装着の容易さについての記載(段落【0008】、【0009】、【0011】)があることや、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当時に被服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願日当時の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として認識するものと認めるのが相当である。 (ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される課題と甲30発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。 (エ)a この点に関し、被告は、本件公然実施発明の課題は空気排出口の開口部を形成することであり、甲30に記載された技術事項とは異質のものであり、かつ、 異なると主張する。 しかしながら、前記(1)ア及びイの各記載のとおり、本件公然実施発明は、空調服の服地の内表面であって襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた「紐1」と、「紐1」が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第二の位置に取り付けられた「紐2」とを備え、「紐1」及び「紐2」を結ぶことによって、首と襟足との間に形成される空気排出スペースの大きさを調整するものであるところ、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当時に被服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件公然実施発明に接した本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するための手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間で容易ではないことが本件公然実施発明の課題であると認識するのに対し、前記(イ)のとおり、 本件出願日当時の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として認識するものと認められるから、本件公然実施発明から認識される課題と甲30発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。本件公然実施発明が空調服の首回りの空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、甲30発明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すなわち、両者が何を調整するのかにおいて異なることは、課題の共通性に係る上記結論を左右するものではない(両者は、紐状の部材の締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし効果において異なるものではない。)。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。 b 被告は、本件発明3の課題は斬新であり、これは本件公然実施発明の課題と甲30に記載された技術事項の課題との共通性を否定する事情となると主張する。 しかしながら、仮に、本件発明3の課題が斬新であったとしても、そのことにより、本件公然実施発明から認識される課題や甲30発明’が解決する課題に影響を及ぼすものではないから、被告の上記主張を採用することはできない。 ウ 本件公然実施発明に甲30発明’を適用することについての動機付けの有無(ア) 前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実施発明に接した本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するための手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するため、同じ被服の技術分野に属する甲30発明’を採用するよう動機付けられたものと認めるのが相当である。 (イ) この点に関し、被告は、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を調整できるとの技術常識は存在しなかったから、本件公然実施発明に甲30に記載された技術事項を組み合わせることはできなかったと主張し、その根拠として、本件明細書の段落【0006】の記載を挙げる。 しかしながら、前記1(1)のとおり、本件明細書の段落【0006】には、一組の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調整することができなかったことなどが記載されているにすぎず、この記載から、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を調整することはおよそできないとの技術常識が存在したものと認めることはできない。その他、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を調整することはおよそできないとの技術常識が存在したものと認めるに足りる証拠はない。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。 (5) 小括 以上によると、本件出願日当時の当業者は、本件公然実施発明に甲30発明’を適用して、本件相違点に係る本件発明3の構成に容易に想到し得たものと認めるのが相当であるから、本件出願日当時の当業者は、相違点1に係る本件発明3の構成にも容易に想到し得たものと認められる。よって、これと異なる本件審決の判断は誤りであり、取消事由3は、理由がある。 3 本件発明4ないし10について 本件審決は、本件発明4ないし10がいずれも本件発明3の発明特定事項を全て備えていること及び本件発明3が本件公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないことのみを根拠として、本件発明4ないし10についても本件公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断した。しかしながら、取消事由3に理由があることは、前記2のとおりであるから、本件審決の上記判断は、その前提を欠くものとして誤りである。 4 結論 以上の次第であるから、その余の取消事由について判断するまでもなく、原告の請求は理由がある。 |
裁判長裁判官 | 本多知成 |
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裁判官 | 浅井憲 |
裁判官 | 中島朋宏 |