関連審決 |
不服2020-13908 |
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事件 |
令和
4年
(行ケ)
10072号
審決取消請求事件
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原告X 被告特許庁長官 同 指定代理人柿崎拓 関口哲生 青木良憲 冨永達朗 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2023/01/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2020-13908号事件について令和4年5月11日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり、争点は、実施可能要件及び発明該当性についての判断の誤りの有無である。 1 手続の経緯 原告は、平成30年10月26日、発明の名称を「「浮力式動力発生装置」の改 「良と利用」の改良」とする発明について、特許出願(特願2018-202374号。以下「本願」という。)をし(乙1)、令和元年7月11日、特許請求の範囲全文(乙3)と明細書全文(乙2)をそれぞれ変更する手続補正書を提出し、同年8月7日、明細書全文を変更する手続補正書(乙4)を提出し、同年12月24日付の拒絶理由通知(乙5)を受けたことから、令和2年3月23日に意見書(乙6)及び特許請求の範囲全文(乙7)と明細書全文(乙8)をそれぞれ変更する手続補正書を提出したが、同年6月19日、拒絶査定を受けた(乙9)。 原告は、同年10月5日、拒絶査定に対する不服審判請求(乙11)をするとともに、特許請求の範囲全文を変更する手続補正書(乙10)を提出し、令和3年6月30日付け拒絶理由通知(甲2、乙12)を受けたことから、同年9月12日に意見書(甲3、乙13)を、同月13日に意見書(乙14)及び特許請求の範囲のうち請求項1(乙16)と明細書の一部(乙15)をそれぞれ変更する手続補正書を提出し、同年10月6日付け手続補正指令書(方式) (乙17)を受けて、同年11月1日、特許請求の範囲全文を変更する手続補正書(方式) (乙18)を提出した(手続補正後の請求項の数23)。 特許庁は、上記請求を不服2020-13908号事件として審理し、令和4年5月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、本件審決の謄本は、同年6月19日、原告に送達された。 2 発明の要旨 令和3年11月1日付け手続補正書により補正された本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下、同補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1記載の発明を「本願発明」という。乙18)。 【請求項1】 容器と、該容器に収容された液体と、該液体に浮かぶ柱状の浮体と、物体と、該容器の一部であって該物体を挿入し抜去する空間である貯液部と、該物体を該貯液部に挿入し抜去する装置と、の「組み合わせ」において、該装置を駆動し、該液体の液位を増減し、該液体に浮かぶ該柱状の浮体を上下運動に導くことを特徴とする「液位増減方法」、を利用して駆動する「浮力式動力発生装置」であって、 該「液位増減方法」は、 「物体の挿入と抜去の方法」と、 「極少流体の方法」と、 「浮体の鉛直拡大の方法」と、からなり、 浮体の上下運動が発する「発生動力」と、該「物体を該貯液部に挿入し抜去する装置」を駆動する「駆動動力」と、の比較において「発生動力>駆動動力」の関係を成立させること、を特徴とすること、 前記「物体の挿入と抜去の方法」は、 該物体を該貯液部に挿入し抜去する操作によって、該液体の液位を増減し、該液体に浮かぶ該柱状の浮体を上下運動に導くこと、を目的とする方法であって、 前記「組み合わせ」において、前記該物体を該貯液部に挿入し抜去する装置を駆動し、該貯液部に該物体を挿入すること、によって液位を増加させること、該貯液部から該物体を抜去すること、によって液位を減少させること、前記液位の増加と減少によって、該液体に浮かぶ該柱状の浮体を上下運動に導くこと、を特徴とし、 前記「極少流体の方法」は、 前記「物体の挿入と抜去の方法」の実行において、 「発生動力>駆動動力」を実現することを目的として、該液体の液位の増減幅を拡大し、該液体に浮かぶ該柱状の浮体の上下運動幅を拡大する方法であって、 前記「組み合わせ」において、 「発生動力>駆動動力」を実現することを目的として、該浮体の側面と該容器の内壁との間隔、および該物体の内壁と該貯液部の内壁との間隔を、狭小に造作し、該間隔に存在する液体量を削減すること、によって、 該物体の挿入と抜去による液位の増減幅を拡大させ、該液体に浮かぶ該柱状の浮体の上下運動の幅を拡大させ、これをもって「発生動力」を増大させること、を特徴とし、 前記「浮体の鉛直拡大の方法」は、 前記「物体の挿入と抜去の方法」と、前記「極少流体の方法」と共に利用し、 「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることを目的として、該液体に浮かぶ柱状の浮体を鉛直に拡大すること、すなわち「底面積は定数・高さは変数」として浮体体積を拡大し、浮力を増大させ、「発生動力」を拡大させる方法であって、 前記「極少流体の方法」によって、該柱状の浮体を該容器に、該物体を該貯液部に収納し、前記「物体の挿入と抜去の方法」によって、該物体を該液体に挿入し抜去する装置を駆動して該柱状の浮体を上下運動に導く操作によって、発生動力<駆 「動動力」となる場合、次なる操作において、該物体を該液体に挿入し抜去する装置を駆動し、一方、前記柱状の浮体を該容器とともに鉛直に拡大して行くこと、により、同一の該物体の操作によって駆動動力は変わらず、一方、前記柱状の浮体の体積拡大によって発生動力は拡大して行く、 「駆動動力は一定・発生動力は拡大」 このの原理によって「発生動力<駆動動力」(判決注:「発生動力>駆動動力」の誤記と認める。)が実現すること、を特徴とし、 前記「物体の挿入と抜去の方法」と、「極少流体の方法」と、「浮体の鉛直拡大の方法」と、からなる「液位増減方法」を利用して駆動することを特徴とする「浮力式動力発生装置」。 3 本件審決の理由の要点 (1) 実施可能要件について ア 発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件(以下「実施可能要件」という。)に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、 当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。 そして、本願発明は、 「発生動力>駆動動力」の関係を成立させる「浮力式動力発生装置」という物の発明であるから、実施可能要件を満たすためには、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明である「浮力式動力発生装置」を生産し、使用して、 「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることができると当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明の記載があることを要する。 イ 本願発明の「浮体の上下運動が発する「発生動力」と、該「物体を該貯液部に挿入し抜去する装置」を駆動する「駆動動力」と、の比較において「発生動力>駆動動力」の関係を成立させること、」という特定事項について、「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることができるかを検討する。 本願の発明の詳細な説明(段落【0017】〜【0021】)の記載から、本願発明において、「発生動力」とは、浮体を動かすための仕事であり、「浮体の浮力(=浮体上のおもりの重さ)」と「浮体の上昇距離」との積で導出されるもの([発生動力]=[浮体の浮力(=浮体上のおもりの重さ)]×[浮体の上昇距離])であることが説明されていると理解できる。 しかしながら、一定の駆動動力により、1立方メートルの水が容器内に注入される際の浮体による発生動力、すなわち、浮体を動かすための仕事について考えると、 水投入前の浮体は、浮体の体積や、浮体上のおもりの重さによらず、上向きに働く浮力と下向きに働くおもりの重力が釣り合って浮いているから、浮体全体としてみると、上下方向に何ら力がかかっておらず、該浮体を上下方向に動かすために必要な力は0(ゼロ)である。そして、そこから、水が注入され水面が上昇するにともない浮体が上昇したとしても、常に上向きの力と下向きの力とが釣り合った状態で上昇するから、浮体を上下方向に動かすために必要な力は0(ゼロ)のままであり、 浮体を動かすための仕事(=力×距離)は0(ゼロ)である。したがって、浮体の体積や、浮体上のおもりの重さによらず、浮体を動かすための仕事は一定(0(ゼロ))といえる。 そして、体積の大きい浮体が水面の上昇にともない上昇すると、当該浮体上のおもりの重さも大きいから、一見、一定の駆動動力(1立方メートルの水を容器内へ注入するための動力)により、浮体の位置エネルギーが大きなものになるとも解されるため、浮体の位置エネルギーについて考えると、該一定の駆動動力は、水位を一定の高さ、上昇させることには寄与するものの、浮体の位置エネルギーの増加には寄与しない。すなわち、浮体は前記したように、上向きに働く浮力と下向きに働くおもりの重力が釣り合って浮いており、重力加速度Gが打ち消された状態におかれているから、重力加速度Gは0(ゼロ)とみなすことができ、浮体の位置エネルギー(=質量×重力加速度G×高さ)は、浮体の体積や、浮体上のおもりの重さによらず、浮体の上昇前後において、0(ゼロ)のまま変化しない。したがって、体積が大きく、浮体上のおもりの重さが大きい浮体を用いたとしても、位置エネルギーが増加することはない。 以上のとおりであるから、浮体を動かすための仕事、すなわち「発生動力」が、 「浮体の浮力(=浮体上のおもりの重さ)」と「浮体の上昇距離」との積で導出されるという発明の詳細な説明の記載は誤りであり、浮体の体積が大きくなり浮体上のおもりがそれに伴い増加しても、浮体を動かすための仕事が0(ゼロ)であることは変わらず、当該仕事が浮体の体積及び浮体上のおもりの重さに比例して大きくなることはない。 よって、明細書の発明の詳細な説明には、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明である「浮力式動力発生装置」を生産し、使用して、「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることができると当業者が理解できる程度の記載があるとはいえない。 ウ 以上によれば、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。 (2) 発明該当性について 本願発明は、 「浮体の上下運動が発する「発生動力」と、該「物体を該貯液部に挿入し抜去する装置」を駆動する「駆動動力」と、の比較において「発生動力>駆動動力」の関係を成立させること、」という事項(以下「事項ア」という。、 )「該液体に浮かぶ該柱状の浮体の上下運動の幅を拡大させ、これをもって「発生動力」を増大させること、」という事項(以下「事項イ」という。、 ) 「該液体に浮かぶ柱状の浮体を鉛直に拡大すること、すなわち「底面積は定数・高さは変数」として浮体体積を拡大し、浮力を増大させ、 「発生動力」を拡大させる」という事項(以下「事項ウ」という。)を有するものである。 一方、前記(1)イで検討したように、浮体を動かすための仕事は0(ゼロ)であり、 1トンの浮体を、100トンの浮体に変えても、浮体を動かすための仕事は変わらず0(ゼロ)であり発生動力は増加しないから、事項イ及び事項ウにより発生動力を増加させることはできず、発生動力を大きくすることで、事項アで特定される「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることはできない。 以上によれば、本願発明の事項アないしウに基づき「発生動力>駆動動力」の関係を成立させた構成は、自然法則に反するものであるといえる。 よって、本願の請求項1に記載された事項は、特許法29条1項柱書に規定される「産業上利用することができる発明」に該当しないから、同項の規定により特許をすることができない。 (3) 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものであり、また、本願発明は、 同法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 |
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原告が主張する審決取消事由
1 取消事由1(実施可能要件についての判断の誤り) 次のとおり、実施可能要件に係る本件審決の判断には誤りがあり、取り消されるべきである。 (1) 本件審決は「仕事が不成立」であることを拒絶の根拠としているが、誤りである。本願発明は、浮体が容器内に極少流体をもって収納される構成を前提として、 (浮体+錘)の重力が浮力と均衡しているところに、水を注入することにより(浮体+錘)の位置エネルギーが変化し、この位置エネルギーが仕事をするというものである。 (2) 本件審決は、本願発明について過度の試行錯誤を要することなく、本願発明を生産、使用して「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることができると当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明の記載があることを要するとした上で、本願発明は実施可能要件に適合しないと判断したが、本願発明は極めて単純な構成であり、当業者は、断面積が一定で高さが異なる複数の浮体を用意し、明細書及び図面に準じて実験を試みることで、極少流体」 「 の方法によって「発生動力>駆動動力」が成立することを容易に確認できる。 (3) 本件審決は、「浮体を上下方向に動かすために必要な力は0(ゼロ)である」としたが、力を加えることなく物体が移動することはない。本願発明では、水の注入による位置エネルギーの変化により浮体と錘が上昇し、仕事が成立する。 (4) 本件審決は、 「一定の駆動動力は、水位を一定の高さ、上昇させることには寄与するものの、浮体の位置エネルギーの増加には寄与しない。」としたが、水位が上昇すれば位置エネルギーが増加し、同時に、浮体と錘が上昇することにより位置エネルギーが増加する。 (5) 本件審決は、 「重力加速度Gが打ち消された状態におかれているから、重力加速度Gは0(ゼロ)とみなすことができ、浮体の位置エネルギー(=質量×重力加速度G×高さ)は、浮体の体積や、浮体上のおもりの重さによらず、浮体の上昇前後において、0(ゼロ)のまま変化しない。」としたが、不可解である。重力加速度は小文字のgで表し、これが0(ゼロ)になることはないし、上記計算式により位置エネルギーが0(ゼロ)になることもない。位置エネルギーが0(ゼロ)となるのは、基準面と物体が同一の位置にある場合である。 (6) 本件審決は、当該仕事が浮体の体積及び浮体上のおもりの重さに比例して大 「きくなることはない。」としたが、浮体の体積が大きくなれば、アルキメデスの原理F=ρVgによって浮力が増加し、大きな錘を支えることができるのであり、仕事(発生動力)は大きくなる。 2 取消事由2(発明該当性についての判断の誤り) (1) 本件審決の「仕事の不成立」との見解が誤りであることは、前記1(1)のとおりである。 (2) 本件審決は、浮体を動かすための仕事は0(ゼロ)であり、浮体上の錘が上昇しても位置エネルギーに変化がないとしたが、前記1(2)(3)のとおり、誤りである。 (3) 本件審決は、「浮体を動かすための仕事(発生動力)と、「浮体の浮力(=浮体上のおもりの重さ)」と「浮体の上昇距離」との間に、[発生動力]=[浮体の浮力(=浮体上のおもりの重さ) × ] [浮体の上昇距離]といった関係はなく、そして、 水位の上昇距離sと仕事Wに正比例の関係はなく、また、浮力Fと仕事Wに正比例の関係はない」としたが、前記1(5)のとおり誤りである。W=Fsの関係にあるので、Fが定数であればWとsは正比例し、sを定数とすればFとWは正比例する。 3 被告の主張に対する反論 (1) 本願発明においては、駆動動力が発生動力に転化するのではない。この問題についての意見書を提出することで先行技術である特許第5789231号(以下、 同特許に係る発明を「先行発明」という。)が特許査定されたのであり、その改良発明である本願発明について、上記問題点が解決済みであることを無視して同じ拒絶理由を繰り返すことは、改良発明の意義を毀損するもので、生産的ではない。 原告は、上記意見書において、先行発明における「入力」は引力であり、 「浮体あるいは流体の操作に費消される動力量」が「出力」としての「浮体の上下の運動に発する動力量」に変換されるのではないと説明し、また、蒸気機関車では、速度を上げるために助士の「腕力」によって投炭量を増やすので、 「腕力」の使用量と機関車の速度には相関関係があるが、助士の腕力が機関車をばく進させるわけではないのと同様に、先行発明における「出力」の増加には、 「流体」や「浮体」の操作に投入する動力量の増加が不可欠であり、これらの操作に用いる動力量は、浮体の上下運動が発する「出力」と相関関係があると説明した。 (2) 被告の主張する錘の例(後記第4の1(1)の図2)においても、下から支えて値を0にし、錘を持ち上げると同時にばねばかりを引き上げれば、やはり値は0のままとなるのであり、実験そのものが無意味である。 また、被告は、 「0の力」で浮体を上昇させる、浮体は上昇するが仕事はされない等といいつつ、 「投入されたエネルギー」で浮体を上昇させ、浮体からエネルギーを得るとも述べており、投入された又は得たエネルギーが0ではないことが明らかであるから、矛盾している。 位置エネルギーはmgh(質量×重力加速度×鉛直方向の移動距離)により算出されるところ、浮体の質量mは不変であり、浮体は上昇しているのでhもゼロではないから、位置エネルギー(mgh)はゼロにはならない。 物体が鉛直方向にhからh’まで移動した場合の仕事Wは、W=mg(h-h’)であり、位置エネルギーは仕事をすることができる。そして、浮体の重力と浮力が均衡しても位置エネルギーの増減とは関係がなく、質量保存の法則によりmが0になることもないから、上昇によってmghからmgh’に増加する(なお、h’>hである。。 ) (3) 被告は、浮体の体積が大きくなり、 「 浮体上のおもりがそれに伴い増加しても、 浮体を動かすための仕事が0(ゼロ)であることは変わらず、該仕事が浮体の体積及び浮体上のおもりの重さに比例して大きくなることはない」「位置エネルギーに 、 よって仕事が成立することは明らかとする前提に誤りがある」などと主張するが、 これらの被告の主張が誤りであることは、原告の実験を撮影した動画(甲6のDVDに記録されている。により明らかである。 ) エネルギーとは仕事をする能力であり、 位置エネルギーはエネルギーの一種である。 (4) 被告は、実験結果が本願の明細書に記載されていないと主張するが、これは、 審査段階において、原告が、審査官に対し、実験を申し出たところ、公的機関によるものである必要があり、出願人個人による実験は受け入れられないとされたことから、富山県工業試験場に打診したところ、利用は法人に限られるとの理由で拒否されたためである。原告は、審判段階でも実験を申し出たが、審判官は、条件が異なる等として拒否した。実験に関する記載の欠如が拒絶理由に相当するのであれば、 拒絶理由通知書に記載すべきであり、審決の後に指摘することは生産的ではない。 (5) 被告は、Gは見かけの重力加速度であると主張するが、通常は「g’」と表記する。見かけの重力加速度であっても、その値が0となることはない。 |
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被告の主張
1 取消事由1(実施可能要件についての判断の誤り)について (1) 浮体上昇時に得られるエネルギーについて 浮体の上昇時に得られるエネルギーについて下の図を用いて説明する。図1は、 質量m(kg)の浮体を水に浮かべ、ばねばかりに吊したものであり、図2は、浮体と同じ質量m(kg)の錘をばねばかりに吊したものである。 図1 図2 図1の浮体では、浮体の重力と浮力が釣り合うから、ばねばかりが示す値は0(kgf(キログラム重))であり、浮体の質量mの大きさによらず、ばねばかりの示す値は一定(ゼロ(0) である。 ) 一方、図2の錘が吊されたばねばかりが示す値は、 (kgf m(キログラム重))となる。 次に、図1において、水中に物体を挿入したり、水を追加する等して水位を高さh上昇させ、水位の上昇に合わせてばねばかりを上方へ上げた場合、水面が上昇している間も浮体の重力と浮力とが釣り合っていることから、ばねばかりの値は0(ゼロ)のままであり、引っ張る力は0(ゼロ)である。一方、図2において、錘を高さh上昇させるためにばねばかりを上方へ上げると、錘が上昇している間、ばねばかりの値はmであり、重力加速度をgとしたとき、引っ張る力はmgとなる。 そして、図1の場合は、浮体を、0(ゼロ)の力で距離h上げることになるから、 浮体がされる仕事は、0(ゼロ)×h=0(ゼロ)となり、仕事はされない。また、 浮体の位置エネルギー(=mgh)は、引っ張る力mgが0(ゼロ)であるから、 浮体の上昇前後で変わることはなく、浮体の上昇後の増加はない。一方、図2の場合は、錘を、mgの力で距離h上げることになるから、錘がされる仕事は、mg×hであり、錘の位置エネルギーは、錘の上昇前に比べ、上昇後に、mgh増加する。 以上によれば、図1の場合には、浮体の質量mを大きくしても、浮体がされる仕事は大きくならず、位置エネルギーが増加することもない。したがって、浮体の上昇時に得られるエネルギーを、図2の錘の上昇時のエネルギーと同様に論じることはできない。 そして、浮体の上昇時に得られるエネルギーをみると、図1に示す浮体において、 容器内の水の中に、物体が挿入されたり、水が追加されること等により、容器内の水面が上昇すると水全体のエネルギーは増加する。そして、浮体を介して該エネルギーが得られる(取り出される)としても、前記物体の挿入や、水の追加等により投入されたエネルギー以上のエネルギーが得られる(取り出される)ことはない。 このことは、エネルギー保存則から明らかである。当然、浮体の質量や体積の大小に関係なく、投入されたエネルギー以上のエネルギーは得られない。つまり、浮体を介してエネルギーを得られたとしても、投入されたエネルギーに対して得られたエネルギーが大きいことを意味する、 「発生動力>駆動動力」の関係を満たすことは不可能である。 したがって、 「発生動力>駆動動力」の関係を成立させた構成は、自然法則に反するものであるといえるとした本件審決に誤りはない。 (2) 浮体のエネルギー変動について 水の中にある浮体について、水面に浮いて重力と浮力の釣り合いのとれた状態にあるとき、浮体は、エネルギー的に一番安定した状態であり、浮体のエネルギーが0(ゼロ)の状態である。水面が上昇あるいは下降し、浮体の水底からの距離が変化しても、浮体は、重力と浮力の釣り合いがとれた水面に浮いた状態がエネルギー的に一番安定した状態であることに変わりなく、そのときの浮体のエネルギーは、 基準(0(ゼロ))の状態であるといえる。 したがって、浮いた状態の浮体のエネルギーの観点から見ても、 「浮体の位置エネルギー(=質量×重力加速度G×高さ)は、浮体の体積や、浮体上のおもりの重さによらず、浮体の上昇前後において、0(ゼロ)のまま変化しない。」とした本件審決に誤りはない。 (3) 原告の主張に対する反論 ア 本願の発明の詳細な説明には、実際の実験により、得られた「発生動力」と、 投入された「駆動動力」とを測定し、 「発生動力>駆動動力」が確認できたことについて、何ら、検証結果が示されていない。 イ 物体が移動しているからといって、仕事がされているとは限らない。前記(1)のとおり、水面に浮いた状態にある浮体は、位置エネルギーが0(ゼロ)であり、 前記(2)のとおり、水面が上昇しても、水面に浮いた状態にある浮体は、エネルギー的に一番安定した状態で移動する。原告の主張は、浮体を動かすために浮力が仕事(=浮体の浮力×浮体の上昇距離)をするとした前提に誤りがある。 ウ 本件審決では、 「すなわち、浮体は前記したように、上向きに働く浮力と下向きに働くおもりの重力が釣り合って浮いており、重力加速度Gが打ち消された状態におかれているから、重力加速度Gは0(ゼロ)とみなすことができ、浮体の位置エネルギー(=質量×重力加速度G×高さ)は、浮体の体積や、浮体上のおもりの重さによらず、浮体の上昇前後において、0(ゼロ)のまま変化しない。 (8頁1 」〜6行目)と記載しているが、ここでの「重力加速度G」は見かけの重力加速度を意味し(そのため、通常の重力加速度gと区別して記載した)、この見かけの「重力加速度G」が0(ゼロ)であるため、位置エネルギーは0(ゼロ)のまま変化しないという意味である。 エ 原告の「位置エネルギーによって仕事が成立することは明らか」とする前提に誤りがあるから、その前提に基づき導かれた、浮体の体積が大きくなれば、発生浮力を増大させ、浮体を上昇させることで仕事を行い、発生浮力を増大させる過程において、 「発生動力>駆動動力」が成立するとした主張は、前提において誤りである。 2 取消事由2(発明該当性についての判断の誤り)について 前記1(3)イのとおり、原告の主張は、浮体を動かすために浮力が仕事をするとした前提に誤りがある。また、前記1(2)のとおり、浮体の上昇前後で、浮体の位置エネルギーは変わらず0(ゼロ)であり、浮体の質量や体積に関係なく仕事は0(ゼロ)である。 以上によれば、取消事由2に係る原告の主張は、当を得たものではなく、本件審決の発明該当性についての判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 本件各発明について (1) 本願の明細書に係る補正である令和2年3月23日付け手続補正書及び令和3年9月13日付け手続補正書による補正後の明細書(以下「本願明細書」という。)及び本願に添付された図面には次の記載がある(乙1、8、15)。 【技術分野】 【0001】先行技術・特許6232530号の「液位増減方法」を改良した「新たな原理」と、 該「新たな原理」によって改良した「浮力式動力発生装置」と、その出力調整と出力拡大の方法と、該先行技術の「利用発明」の改良と、に関する。 【背景技術】 【0002】特許文献1と2に記載された「浮力式動力発生方法」 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特許5789231号 【特許文献2】特許6232530号 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】先行技術・特許6232530号の(0001)に、 「本願発明は、先行技術・特許第5789231号「浮力式動力発生方法」の改良発明である「自ら産出した動力をもって自らを駆動し、なお且つ産業上利用可能な動力を発生させる自己完結型動力発生方法とその装置」ならびに、 、 該先行技術と該改良発明とを応用した利用発明、 に関する。」とある。 【0006】前記「産業上利用可能な動力」は、大規模な電力需要に対応できる大きな出力であること、電力の需給調整が容易であること、の2つの特徴を具えることが望ましい。 しかし、該先行技術の「液位増減方法」においては、前記2つの特徴に関して記載が不十分であり、 「出力調整」と「出力拡大」の方法に関して改良の必要がある、という問題がある。 【0007】また、出力の伝達方法と、先行技術の利用発明と、についても改良の余地がある、 という問題がある。 【0008】課題1「液位増減方法」の改良・・・「新たな原理」該先行技術の「液位増減方法」を改良した「新たな原理」の提示を課題とする。 該「新たな原理」は、以下の特徴を有するものとする。 「駆動動力一定・発生動力拡大」を特徴として「発生動力>駆動動力の関係」が成立すること。 該「成立」に関する数量的根拠が示されることで理解が容易であること。 該「新しい原理」を利用して改良した「浮力式動力発生装置」 「出力調整」 「出 は、 と力拡大」が容易で実施しやすいこと。 【0009】課題2前記「浮力式動力発生装置」の「出力調整方法」電力の需給調整を目的とした、 「浮力式動力発生装置」 前記 の出力を調整する方法、 の提示を課題とする。 【0010】課題3前記「浮力式動力発生装置」の「出力拡大方法」大規模な電力需要に対応できる大きな出力を目的とした、前記「浮力式動力発生装置」の出力を拡大する方法、の提示を課題とする。 【0011】課題4「浮力式動力発生装置」が発生させた出力を、原動機あるいは発電機に伝達する方法と装置、の提示を課題とする。 【0012】課題5本願発明の「浮力式動力発生装置」を利用した「利用発明」と、該「浮力式動力発生装置」と先行技術の「利用発明群」の組み合わせと改良、を課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】課題1・・・「液位増減方法」の改良・・・「新たな原理」「極少流体」と「浮体の鉛直拡大」と「物体の挿入と抜去」と、の組み合わせによって、駆動動力を一定に保ちつつ、発生動力を拡大する。 【0014】「極少流体」図1・図2に示すように、浮体側面と容器内壁との間隔が極めて狭小であり、そこに存在する流体が微量であっても、該浮体にはアルキメデスの原理通りの浮力が発生する。 【0015】前記の自然法則を、先行技術・特許5789231では「アルキメデスの原理の再定義」とし、先行技術・特許6232530号では、該「アルキメデスの原理の再定義」をより具体的な表現に改めて「極少流体」とした。 【0016】「極少流体」の定義該「極少流体」とは、浮体側面と容器内壁との間隔を可能な限り狭小にし、該間隔に存在する液体量を可能な限り削減することによって、該液体を操作する駆動動力を可能な限り小さくすること、を目的とする方法である。 【0017】「極少流体」の具体的説明浮体底部と容器内底部との間隙にある水は、いずれも1立方メートルとする。浮体はおもりを載せて水中に全没状態で静止している。ここで、浮体の駆動方法として、 該容器内の水を注排水して浮体を上下に移動させる方法を用いる。この場合、浮体側面と容器内壁との間隔はほぼゼロに等しく、浮体の重さも考えないものとする。 【0018】図1・1浮体・・・高さ1メートル・体積1立方メートルの立方体浮力・・・1トン浮体上のおもり・・・1トン水を1立方メートル排出すると、浮体は1メートル下降する。 次に、水を1立方メートル注入すると、浮体は1メートル上昇する。すなわち1トンのおもりを1メートル持ち上げる。 仕事(W=FS)・・・1トン×1メートル=1 【0019】図2・2浮体・・・高さ2メートル・体積2立方メートルの直方体浮力・・・2トン浮体上のおもり・・・2トン水を1立方メートル排出すると、浮体は1メートル下降する。 次に、水を1立方メートル注入すると、浮体は1メートル上昇する。すなわち2トンのおもりを1メートル持ち上げる。 仕事・・・2トン×1メートル=2 【0020】図2・3浮体・・・高さ100メートル・体積100立方メートルの直方体浮力・・・100トン浮体上のおもり・・・100トン水を1立方メートル排出すると、浮体は1メートル下降する。 次に、水を1立方メートル注入すると、浮体は1メートル上昇する。すなわち100トンのおもりを1メートル持ち上げる。 仕事・・・100トン×1メートル=100 【0021】「極少流体」と効率前記「図1・1」と「図2・2」と「図2・3」において、注排水体積と浮体体積の比は、1:1、1:2、1:100であり、比の値は、1、0.5、0.01となる。このように、 「浮体体積に対する注排水体積の割合」をより小さくすることによって、 「仕事」と該「仕事」に要する駆動動力の比、すなわち「効率」がよくなることがわかる。この過程において「発生動力>駆動動力の関係」が成立することは言うまでもない。 【0022】「極少流体」=「極大効率」したがって、「極少流体」は、「浮体体積に対する注排水体積の割合」の最小化による駆動動力の最小化、すなわち効率の最大化を目的とする方法であり、「極少流体」=「極大効率」となる。 【0027】「浮体の鉛直拡大」の特徴前記「浮体を鉛直上方に拡大して浮体体積を拡大し、発生浮力を増大させる」は、 より詳細には、浮体の底面積を固定し、浮体の高さを拡大することであり、浮体の、 「底面積は定数・高さは変数」となる。また、 「発生浮力」 「浮体の沈下部分の体積」 はに比例する。「浮体の鉛直拡大」は、「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることを目的する方法であるため、まず「発生動力<駆動動力」の場合を想定し、そこから浮体体積を拡大して行く過程で「発生動力>駆動動力」の関係が成立する、という手順で理解可能である。物体の挿入と抜去に要する駆動動力は変わらず、一方、 発生動力は拡大するという原理である。 【0035】「物体の挿入と抜去」の定義と「発生動力」該「物体の挿入と抜去」とは、物体(図4)を液体に挿入し抜去すること、によって、液位を増減し、該液体に浮かぶ浮体を上下運動に導くこと、を目的とする「浮力式動力発生装置」の駆動方法である。ここでは、 「動力」を動いている力の働きの意味で用い、前記浮体の上下運動を「発生動力」とする。 【0036】「駆動装置」と「駆動動力」「物体の挿入と抜去」という「駆動方法」を実行する装置が「駆動装置」であり、 物体の挿入と抜去を、開始・停止・調整することによって、「浮力式動力発生装置」を駆動する。構成は、物体を挿入・抜去する機構と、該機構を駆動する原動機(電動モーター等)と、その「制御装置」等からなる。電力が主体であるが、流水、圧縮空気、人力等も利用可能である。前記「駆動装置」を駆動する動力を「駆動動力」とする。 【0037】「浮力式動力発生装置」の構成とその効果「容器」と「液体」と該液体に浮かぶ「浮体」と「物体」と前記「駆動装置」とにおいて、容器は浮体が上下運動する部分と物体を挿入・抜去する「貯液部」とからなる。該「駆動装置」を利用し、該貯液部に物体を挿入・抜去することによって容器内の液位を増減し、浮体を上下運動に導く。該「駆動装置」を駆動する動力が「駆動動力」であり、該浮体の上下運動が「発生動力」である。さらに、該浮体の上下運動を回転運動に変換して発電機あるいは原動機に伝達し、発電機や原動機を駆動する。駆動された発電機や原動機の出力を「産業上利用可能な動力」とする。 【発明の効果】 【0116】本願発明は、上記のように構成されているので、下記のような効果を有する。 「新たな原理」・・・「駆動動力一定・発生動力拡大」を特徴として「発生動力>駆動動力の関係」が成立すること、 「浮体の鉛直拡大」によって大きな仕事を実行できること、の理由が、数量的根拠を伴って説明されているために理解しやすい。関係者の理解が得られなければ実施は困難である。 【0117】「浮力式動力発生装置」・・・「新たな原理」によって構成される「浮力式動力発生装置」は、構造と動作原理が極めて単純であり、標準化が容易である。規格大量生産された「鉛直拡大の土台」と鉛直拡大のパーツを利用することによって、大出力・低コストをシステムとして実現することが出来る。 【0118】出力調整方法・・・ 「物体の挿入と抜去」は構造と動作原理が極めて単純であり、始動・停止・出力の調整が容易である。該「物体の挿入と抜去」と「稼動数の増減」を併用することによって、大規模な発電設備であっても、ほぼリアルタイムで電力の需給調整を実行することができる。 【0119】出力拡大方法・・・ 「浮体の鉛直拡大」と「設置数の拡大」を併用する「3次元設置方法」と、重液・水銀の利用によって、非常に大きなエネルギー密度を現出させることができる。このエネルギー密度は定量的なものではない。既存の発電方法では、 水・風・光・化石燃料等の受容量によってエネルギー密度が限定されるが、本願発明の「装置」は、単位時間あたりの浮体の回転数に応じて出力を拡大することができる。 【0120】「絵文字文」と「世界」人と人は、何によって理解し合うのか、それはなによりも「言葉」である。今日の我々にとって、「コトバ」を発明した古代人の、「コトバ」に対する感激と畏怖を想像することは難しい。さて、世界はモノで成り立つのか、それとも「目に見えない何か」で成り立つのか。この問いは、実は古代人にとっては自明であった。世界を創造する「目に見えない何か」、それを、今日の我々は「ソフト」と言い換えてみれば判然としてくるであろう。プラトンの「イデア」、 「初めに言葉ありき」 「言葉」 の 、 そして「神」、これらはまさしく「ソフト」である。 「ソフト」の影である「ハード」は、生じ、やがて滅して行く。しかし、「ソフト」が実在する限り、「ハード」は繰り返し「肉」を纏って蘇る。この輪廻の中核に潜む「何か」に注意を注ぐべきである。もしも、我々が、異言語・異人種・異文化を「直感」で繋ぐソフトを手に入れれば、そのソフトは、必然的に「相互理解可能な世界」を生み出すであろう。 「絵文字文」への期待はそこにある。 【0121】「地球の重さを電気に変える」浮体が上昇して出力を発生させたとしても、該浮体の浮力が枯渇するわけではない。 浮体と流体の組み合わせが成立している限り、該浮体には常時アルキメデスの原理通りの浮力が発生する。仮に、浮体の回転数に限界がなければ、単位時間あたりの出力にも限界はないことになる。浮力の淵源は地球の重力であり、そこから取り出された電力が、我々の感覚でどれほど膨大なものであろうと、所詮九牛の一毛にも満たない。「地球の重さを電気に変える」、これが本願発明の革命的特質であって、 それは、重力という枯渇無き非実体的エネルギーの実体化である。 【0122】恩恵の代償プロメテウスが盗み出した「火」は、人類に多大な恩恵と共に、戦争に始まる諸々の災厄をもたらし、プロメテウス自身は劫罰として鎖につながれ、終わりのない苦悶にさらされた。それはエネルギーと人間にまつわる、諸々の克服しがたい矛盾の比喩でもある。「火」が「ヒトをして人たらしめた」のではあるが、我々が「人間」であり続けることの代償は過酷であると言わねばならない。 【0123】「新しい人間」ここに、価値中立の自然法則に依拠して、無尽蔵且つ無償のエネルギーを手に入れる「合理的方法」がある。チルチルとミチルが捜し求めた「青い鳥」は、実は「鳥かごの中」にあった。エネルギーもまた、空気がそこにあるように、所与の無限財として我々とともにある。目に見えるものだけに囚われてはいけないのだろう。目に見えないものへの細心の注意と観察とそして畏敬とが、思いがけない賜物をもたらすことがある。人間を「真実の人間」たらしめるものは、その賜物としての「方法」である。生存の諸々の条件を、謀略や強奪ではなく、 「合理的方法」による価値の無限創造によって満たしていくこと、この過程において、価値と欲望の関係は、 徐々に組替えられていく。そして、世俗的価値への偏執的呪縛から解き放たれた我々に、真実の目覚めが立ち現れてくるであろう。これこそが「新しい人間」の発明である。 【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 (2) 本願発明の概要 前記(1)によると、本願発明は、先行技術である特許6232530号「液位増減方法」に係る発明を改良した「新たな原理」と、同「新たな原理」によって改良した「浮力式動力発生装置」と、その出力調整と出力拡大の方法と、前記先行技術の「利用発明」の改良と、に関するものであり(本願明細書の段落【0001】、前 )記先行技術である「液位増減方法」における「産業上利用可能な動力」は、大規模な電力需要に対応できる大きな出力であること、電力の需給調整が容易であること、 の2つの特徴を具えることが望ましいが、これらの特徴に関して記載が不十分であり、 「出力調整」と「出力拡大」の方法に関して改良の必要がある、という問題があることから、これを解決するために(同【0006】、本願発明の構成をとり、 ) 「極少流体」と「浮体の鉛直拡大」と「物体の挿入と抜去」との組合せによって、駆動動力を一定に保ちつつ、発生動力を拡大することとし(同【0013】、 )「駆動動力一定・発生動力拡大」を特徴として「発生動力>駆動動力の関係」が成立するという「新たな原理」によって構成される「浮力式動力発生装置」を得るなどの効果を生じる(同【0116】【0117】 、 )というものと認められる。 2 取消事由1(実施可能要件についての判断の誤り)について (1) 本願発明に係る発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足するか 本願発明は、前記第2の2のとおりの構成を有するものであって、前記1(1)の【図1】のような液体を入れた容器中に浮体を浮かべ、同浮体を鉛直方向に大きなものとすることにより(同【図2】の3参照)、駆動動力が一定であっても、同浮体が上下運動することによる発生動力を拡大させることで、「発生動力>駆動動力の関係」が成立するというものである。 そして、本願明細書の段落【0036】によると、本願発明における駆動動力とは、液位を増減させて、浮体を上下運動に導く駆動方法を実行する装置を駆動する動力のことをいい、電力が主体であるが、流水、圧縮空気、人力等も利用可能であり、具体的な駆動方法としては、浮体(例えば【図3】の6)を浮かべる容器中に物体(例えば【図3】の9)を挿入することが想定されているものと認められる。 次に発生動力についてみると、本願明細書の段落【0035】には、 「浮体の上下運動を「発生動力」とする」との記載があり、同段落【0018】〜【0020】では、容器中への水の注入量が同一である場合の仕事(W) (浮体上の錘の重さ) を、 ×(持ち上げられた距離)により計算しているところ、ここでいう仕事(W)は、 浮体の上下運動をいうものと推認されるから、本願発明における発生動力は、錘を載せた浮体が移動する運動を指していると理解される。 ところで、本願明細書の段落【0018】〜【0020】に3つの例が記載されているところ、同段落【0021】の記載と併せると、上記3つの例は、 「発生動力>駆動動力の関係」が成立することを説明するために記載されているものと認められる。そこで検討するに、上記3つの例においては、注入した水の量は一定であるものの、どのように水を注入するのか、また、その際に、水を注入するために要した動力、すなわち本願発明における「駆動動力」に相当する液位を増減させる動力の大きさや、それが、上記3つの例において一定であるかについては本願明細書に記載がなく、示唆もない。さらには、 【図2】の場合に浮体が浮かぶことが可能な程度に、十分な浮力が生じているかも明らかではない。そしてその他の本願明細書の記載を総合しても、当業者が、どのようにして、本願発明の「発生動力>駆動動力の関係」が成立する動力発生装置を製造することができるか理解できるとはいえない。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 (2) 原告の主張について ア 原告は、本件審決が、「浮体を上下方向に動かすために必要な力は0(ゼロ)である」 「一定の駆動動力は、水位を一定の高さ、上昇させることには寄与するものの、浮体の位置エネルギーの増加には寄与しない。」としたことについて、力を加えることなしに物体が移動することはなく、浮体と錘が上昇することにより位置エネルギーが増加するから、誤りであると主張する。たしかに、位置エネルギーを検討するに当たり、本願発明の「浮力式動力発生装置」の下端水平面を基準とした場合には、容器内の水量が増加することで同装置内に浮かぶ浮体(錘を含む。)の位置が上昇し、同浮体の位置エネルギーが増加するということができるし、また、同浮体を上下方向に動かすためには、 「浮力式動力発生装置」に物体を挿入するための動力が必要であるから、上記原告の主張は理解できるところである。もっとも、そうであるとしてもなお、前記(1)のとおり、本願明細書の記載から、当業者が、どのようにして、本願発明の「発生動力>駆動動力の関係」が成立する動力発生装置を製造することができるか理解できるとはいえないから、上記原告の主張は、前記(1)の判断を左右しない。 イ 原告は、本件審決が、重力加速度Gが打ち消された状態におかれているから、 「重力加速度Gは0(ゼロ)とみなすことができ、浮体の位置エネルギー(=質量×重力加速度G×高さ)は、浮体の体積や、浮体上のおもりの重さによらず、浮体の上昇前後において、0(ゼロ)のまま変化しない。」とした点が不可解であると主張するが、位置エネルギーについて、前記アとは異なり、水面を基準とする場合には、 浮力と重力が釣り合うことから、見かけの重力加速度がゼロであるとみることができ、浮体の位置エネルギー(=質量×見かけの重力加速度×高さ)がゼロとなるという本件審決の説明が誤りであるとはいえない。 ウ 原告は、本件審決が、 「当該仕事が浮体の体積及び浮体上のおもりの重さに比例して大きくなることはない。 とした点について、 」 浮体の体積が大きくなると浮力が大きくなり、仕事(発生動力)が大きくなるから誤りであると主張する。ここでいう「仕事」が、同浮体を持ち上げるための力(浮力)によるものであるとすると、 原告の主張のとおり、同浮体の大きさに比例することとなるものの、そうであるとしても、前記(1)のとおり、本願明細書の記載から、当業者が、どのようにして、本願発明の「発生動力>駆動動力の関係」が成立する動力発生装置を製造することができるか理解できるとはいえない。 エ 原告は、自ら実験した様子を撮影した動画を記録したDVDを証拠として提出し(甲6)、動画の中で、水を入れた立方体の容器(以下「容器A」という。)中に、容器Aよりも小さな立方体の容器を複数重ねた浮体の中に錘(ナット)を入れたもの(以下、錘と併せて「容器B」という。)を浮かべた後、容器A中に、水を満たした立方体の容器(以下「容器C」という。)を沈めると、容器Bが3.7cm 持ち上がったこと、容器Cを容器A内の水中から抜去するのに7.3cm 持ち上げる必要があったことを示した上で、容器Cを抜去するのに要した仕事について、浮力を考慮して容器Cの重さを2分の1として計算すると、(200g÷2)×7.3cm=730(g・cm)であったところ、容器Bを持ち上げる仕事は、390g(容器及び錘の重さの合計)×3.7=1443(g・cm)であるから、「発生動力>駆動動力」が成立していると説明した。 しかしながら、上記計算は、容器Bについて浮力を考慮に入れていない点において失当であり、容器Cを抜去するのに要した仕事よりも、容器Bを持ち上げる仕事の方が大きいということはできない。そうすると、原告の説明するとおりに、容器Cを抜去するのに要した仕事が本願発明における「駆動動力」に当たり、容器Bを持ち上げる仕事が本願発明における「発生動力」に当たると解したとしても、 「発生動力>駆動動力」が成立していると認めることはできない。 オ 原告は、本願発明は特許査定された先行発明の改良発明であり、駆動動力が発生動力に転化するものではないという点については先行発明の審査時に意見書において説明し、特許査定を受けたのであるから、同じ問題を繰り返して拒絶するのは不当であると主張するが、先行発明と本願発明では発明の構成や作用効果に差異があるのであるから、先行発明が特許査定されたことをもって、その改良発明である本願発明に拒絶理由がないということはできない。そうすると、原告の上記主張は採用できない。 (3) そうすると、本願発明に係る発明の詳細な説明の記載について、特許法36条4項1号所定の実施可能要件を満たさないとした本件審決の判断に誤りはなく、 原告の主張する取消事由1には理由がない。 3 取消事由2(発明該当性についての判断の誤り)について 特許法29条1項柱書は「産業上利用できる発明」について特許を受けることができると規定する。 ところで、本願発明は、駆動動力よりも大きな発生動力を生じさせる、すなわち、 入力されたエネルギーよりも大きなエネルギーを出力するというものであって、エネルギー保存の法則に反し、自然法則に反するものであって産業上利用可能であると認められない。 取消事由2に係る原告の主張は、取消事由1に係る原告の主張を前提とするものであるが、前記2のとおり、原告の主張には理由がないか、又は原告の主張を前提としても本願発明が実施可能であるとはいえないから、なお本願発明が産業上利用可能であると認めることはできない。 そうすると、本願発明について、特許法29条1項柱書所定の「産業上利用することができる発明」に該当しないとした本件審決の判断に誤りはなく、原告の主張する取消事由2には理由がない。 |
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結論
以上の次第であるから、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 本多知成 |
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裁判官 | 浅井憲 |
裁判官 | 勝又来未子 |