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事件 |
令和
4年
(ネ)
10059号
損害賠償請求控訴事件
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当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2022/12/26 |
権利種別 | その他 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 一審原告らの控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。 2 一審被告らは、一審原告X1に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。 3 一審被告らは、一審原告X2に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。 4 一審被告らは、一審原告X3に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。 5 一審被告らは、一審原告X4に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。 6 一審被告らの本件控訴をいずれも棄却する。 7 訴訟費用は、1、2審を通じ、一審被告らの負担とする。 1事 実 及 び 理 由用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほかは、原判決に従う。原判決中の「別紙」を「原判決別紙」と読み替える。 第1 控訴の趣旨1 一審原告らの控訴の趣旨主文第1項ないし第5項、第7項同旨2 一審被告らの控訴の趣旨(1) 原判決中一審被告ら敗訴部分を取り消す。 (2) 前項の取消しに係る部分につき、一審原告らの請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は、1、2審を通じ、一審原告らの負担とする。 第2 事案の概要1 事案の要旨本件は、一審被告会社との間で専属的マネージメント契約を締結し、「A」との名称(本件グループ名)でバンド活動に従事していた一審原告らが、同契約終了後、 本件グループ名を用いてバンド活動を継続しようとしたところ、一審被告会社又は一審被告Yが、同バンドは同契約によって契約終了後6か月間、一審被告会社の承諾なしに実演を目的とする契約を締結することが禁止されており、一審被告会社は承諾をしていない、本件グループ名に係る商標権は一審被告会社に帰属しており一審原告らが本件グループ名を使用することを許諾していないなどと記載された文書又は電子メールを関係者らに送付又は送信したこと(本件各通知)等が、一審原告らの営業権、パブリシティ権、営業の自由、名誉権、実演家人格権(氏名表示権)を侵害する不法行為に当たるとして、一審原告らが、一審被告Yに対して民法709条に基づき、一審被告会社に対して民法709条又は会社法350条に基づき、 連帯して、各一審原告につき損害賠償金99万円及びこれに対する不法行為の日の後の日である一審被告らに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を2求める事案である。 原判決は、本件通知1〜4における一審被告会社が商標権を取得しているかのような記載及び一審被告会社が本件グループ名について利用の許諾をできる地位にあるかのような記載はいずれも虚偽であり、一審被告Yの強い意向により一審被告会社が上記各通知を送付したことにより、一審被告らが一審原告らの営業権を侵害したとして、一審原告らが一審被告らに対してそれぞれ損害額20万円及び弁護士費用2万円の合計22万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める限度で一審原告らの請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却した。 これに対し、一審原告ら及び一審被告らの双方が、敗訴部分につき不服であるとして、それぞれ控訴した。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨から認められる事実。以下「前提事実」という。)以下のとおり訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の2に記載するとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決4頁7行目の「専属契約」を「専属的マネージメント契約」と、同頁10行目の「最後に」を「最終のものとしては、一審原告らと一審被告会社との間で」と、同頁11行目の「最後に更新された契約を「本件専属契約」という。」を「本件グループに属するメンバーである一審原告らと一審被告会社との間で締結された専属的マネージメント契約を「本件専属契約」という。」と、同頁13〜14行目の「本件専属契約の契約書(マネージメント専属契約書(甲4)。以下「本件契約書」という。)には」を「本件専属契約の最後の更新の際に、一審原告らと一審被告会社との間で作成された契約書(平成30年1月1日付けマネージメント専属契約書(甲4)。以下「本件契約書」という。)には」とそれぞれ改める。 (2) 原判決4頁20行目の「被告会社は」から同頁22行目の「拒否した。」までを「一審被告会社は、一審原告らに対し、令和元年10月以降に予定していたラ3イブや、同年11月発売を予定してレコーディングを進めていたアルバムについて、 予定通り遂行するか否か、中止する場合にはその損害をどうするか、ファンクラブ閉鎖に係る段取りをどうするか等について協議を求めたが、一審原告らは、上記ライブやアルバム発売に関して一審被告会社と法的拘束力のある合意をしたことはないとして、損害についての協議を拒否した。」と改め、同頁23行目末尾の「乙」の前に「甲5、」を挿入する。 (3) 原判決5頁5〜6行目の「株式会社SUKIYAKI」を「株式会社SKIYAKI(以下「SKIYAKI」という。」と、同頁11行目の「株式会社オン)グ」を「株式会社オング(以下「オング」という。 」と、同頁15〜16行目の)「エグジットチューンズ株式会社」を「エグジットチューンズ株式会社(以下「エグジットチューンズ」という。」と、同頁17〜18行目の「甲30」を「甲6、 )30」とそれぞれ改める。 (4) 原判決6頁6行目の「同社」を「アズミックス」と、同頁9〜10行目の「株式会社イープラス」を「株式会社イープラス(以下「イープラス」という。 」)とそれぞれ改める。 3 争点(1) 一審被告Yが本件要請をしたか(争点1)(2) 本件各通知及び本件要請は不法行為に該当するか(争点2)(3) 一審原告らの損害の発生及びその額(争点3)4 争点に対する当事者の主張(1) 争点1(一審被告Yが本件要請をしたか)について(一審原告らの主張)一審被告Yは、令和元年7月14日、ヴィジュアル系ポータルサイトである「ViSULOG」を運営している株式会社フェイクスターの代表取締役であるB(以下「訴外B」という。)に対して、一審原告らに関する「ニュースを取り下げろ」と強く伝え(以下、この要請を「本件要請」という。、一審原告らに関するニュー)4スの掲載を取りやめさせた。 (一審被告らの主張)否認する。仮に本件要請の事実があったとしても、一審原告らに関する発言ではない。 (2) 争点2(本件各通知及び本件要請は不法行為に該当するか)について(一審原告らの主張)ア バンド活動及び本件グループ名使用の妨害一審被告らは、本件各通知によって、ライブハウス経営者その他の関係者に対し、 @一審原告らは、本件専属契約により、少なくとも令和2年1月14日までは、一審被告会社の承諾のない限り、本件グループとして実演を目的とするいかなる契約も締結することができず、一審被告会社はこれを承諾しない、A一審被告会社が本件グループ名に係る商標権を保持しており、一審原告らが本件グループ名を用いることを許諾しない、B一審原告らのアーティスト写真の著作権が一審被告会社に帰属するが、その使用を許諾しないなどと通知し、一審原告らが、バンド活動をすることや、本件グループ名を用いることを妨害した。 イ 本件各通知の内容が虚偽であること前記アの@〜Bは、次のとおり、いずれも真実ではないから、本件各通知は虚偽の内容を通知した不当なものである。 (ア) 競業避止義務に基づく実演の制限(前記アの@)について前記アの@は、本件専属契約終了後6か月間にわたる一審原告らの競業避止義務を定めた本件契約書第9条(5)(以下「本件条項」という。)を根拠とするものであるが、本件条項は、独占禁止法19条に違反し、一審原告らの職業選択の自由を不当に制約するもので公序良俗に反するから無効であり、一審被告会社に本件グループが実演を目的とする契約を締結することを制限する権原はない。 a 独占禁止法19条違反フリーランスのアーティストである一審原告らと芸能事務所である一審被告会社5との間には、情報、法的知識、社会人経験、交渉力において大きな格差がある上、 芸能事務所間で情報が広がりやすい業界であって、一審原告らが契約内容について交渉をすると、そのこと自体が業界におけるネガティブな評判となることから、一審原告らが取引先(芸能事務所)を変更できる可能性が低い状況にあった。また、 契約内容が専属契約であって、一審原告らは、一審被告会社に依存することを強いられていた。さらには、芸能人が芸能事務所を移籍すると一定期間芸能活動を停止しなければならない暗黙のルールが存在していた。そうすると、一審原告らの取引先(芸能事務所)選択の自由は、一審被告会社によって制限されていたというべきであり、一審被告会社が、一審原告らに対して、優越的地位にあったのは明らかである。 そして、一審被告会社は、優越的地位を濫用して、一審原告らに対し、一審原告らに不利益で、かつ、一審原告らの事業活動を不当に拘束する本件条項所定の競業避止義務を負わせたものであり、これは、独占禁止法2条9項5号ハ及び6号ニ所定の不公正な取引方法に当たる。そうすると、本件条項は同法19条に違反したものである。 b 公序良俗違反競業避止義務条項は、一般的に、対象者の職業選択の自由、営業の自由及び職業遂行の自由(憲法22条1項)、個人の幸福追求権(憲法13条)といった個人の人格的存立に関わる重大な権利を著しく制限するものであるため、当該条項の有効性については制限的かつ慎重に判断し、必要最小限度の制約であることで初めて有効になり、必要最小限の制約ではない場合には公序良俗に反して無効と考えるべきである。 競業避止義務条項の有効性を判断するに当たっては、多くの裁判例において、(a)守るべき企業の利益があり、その内容が目的に照らして合理的な範囲にとどまっているか、(b)対象者の地位は何か、(c)地域的な限定があるかどうか、(d)義務の期間はどのくらいか、(e)範囲についての必要な制限があるか、(f)代替措置が講じら6れているか、との6つの考慮要素が検討されている。 本件についてみると、(a)一審原告らによる本件グループとしてのアーティスト活動は、一審被告会社の権利を侵害するものではなく、一審原告らが本件専属契約終了後に本件グループとして活動することにより一審被告会社に不利益が生じるものではない。仮に、本件条項を設けた理由が先行投資(育成費用)の回収にあるとしても、そのためにアーティストの職業選択の自由を犠牲にすることに合理性がない。また、本件のように契約期間の定めのある専属契約の場合、芸能事務所は、当該契約期間内に先行投資(育成費用)の回収をすることを当然に想定すべきであって、期間満了により契約が終了した場合に競業避止義務を負わせることに合理性はない。さらに、本件では、一審原告らは、7年間にわたり専属契約に基づき一審被告会社の下でアーティスト活動を続けてきたのであるから、育成費用回収のために一審原告らに競業避止義務を負わせることに全くの合理性がない。(b)一審原告らは、一審被告会社のノウハウや営業秘密に接することがない単なる一審被告会社に所属するアーティストにすぎない。(c)本件条項には地域的な限定がない。(d)本件条項の定める期間は6か月間であるが、その間、活動再開のための契約の締結を制限されることになるから、期間終了後直ちに活動を開始できるものではなく、実質的には更に数か月もの間、活動を制限されることになる。(e)本件条項には範囲に制限がない。(f)本件条項を設けるに当たって代替措置がない。 ところで、一審被告らは、本件条項は本件グループを離れた実演活動を制約するものではないと主張するが、一審原告らは、主としてグループとして活動してきたのであり、本件グループを離れて十分なアーティスト活動をすることができるものではないから、仮に個人としての活動が制約されていないとしても、本件グループとしての活動を制約されるのであれば、一審原告らの職業選択の自由に対する制約は極めて強い。もっとも、本件条項は一審原告らの実演を目的とする活動を全て制約するものであるし、一審被告らは一審原告らが別のバンドを結成して実演活動をすることについてまで本件条項の対象であるとして妨害をしている。 7以上のとおり、本件条項は、公序良俗に反し無効である。 c なお、本件条項のような、芸能事務所を退所した芸能人の活動を一定期間禁止する条項を無効とみることについては、公正取引委員会のほか、一般社団法人日本音楽事業者協会、共同組合日本俳優連合といった業界団体の見解とも合致するものである(甲13、14、51、53、71、114、115)。 (イ) 本件グループ名の使用(前記アのA)について一審被告会社は、本件グループ名に係る商標権を有していないから、前記アのAが真実ではないことは明らかである。 一審被告会社が本件グループ名に係る商標権を有していないことは当事者間に争いがないところ、一審被告らは、本件契約書6条は、当事者間で、商標登録をする権利が一審被告会社にあること及び本件グループ名について一審被告会社に排他的利用権がある旨合意したもので、本件各通知における商標権に係る記載は、本件専属契約違反を指摘したものであって虚偽ではないと主張する。しかしながら、本件契約書6条には、商標登録をする権利については定められておらず、パブリシティ権や本件グループ名使用権といった人格的権利についての記載も一切ない。また、 本件グループ名の使用権は、パブリシティ権と同様、人格権に由来する権利であり、 一審原告らに原始的に帰属するものであるから、本件専属契約の終了後においても、 本件グループ名に係る排他的利用権が一審被告会社に認められることはない。したがって、上記一審被告らの主張は失当である。 (ウ) アーティスト写真の使用(前記アのB)について一審被告らが本件通知3において言及した「アーティスト写真」(以下「本件写真」という。)は、一審原告X4及び同X1を被写体とするものであるところ、その著作権は、本件写真を撮影したカメラマンである訴外C(以下「訴外C」という。)に帰属し(甲133)、一審被告会社に著作権が属するものではないから、前記アのBが真実ではないことは明らかである。 ウ 本件要請について8一審被告Yによる本件要請により、訴外Bは、「ViSULOG」に掲載していた一審原告らに関するニュース記事について、掲載を取りやめたが、本件要請は何ら根拠のないものであった。 エ 一審被告らに少なくとも過失があること一審被告らは、一審原告らに一審被告会社からの退所を思いとどまらせるための手段として本件条項を設けたと解されるところ、このことからして、一審被告らは、 本件条項により守られるべき正当な利益がないことを当然に認識していた。 また、公正取引委員会は、平成30年2月15日に、競業避止義務が独占禁止法上の問題となり得ることを詳しく説明した「検討会報告書」(甲11)を公表し、 一審被告らが本件各通知をしていた頃(令和元年)には、芸能事務所を退所した芸能人の活動を一定期間禁止する契約が独占禁止法違反に当たるとの見解をまとめていたのであるから(甲13、14)、一審被告らは、本件条項が無効であることを認識していたか、少なくとも認識すべきであった。 そうすると、一審被告らには少なくとも過失があったというべきである。 オ 本件各通知及び本件要請が不法行為に該当すること以上のとおり、一審被告らは、何ら根拠もないのに、本件各通知を多数の関係者に送付、送信し、また、本件要請をすることにより、一審原告らのバンド活動及び本件グループ名の使用を妨害し、一審原告らは、本件グループ名を使用せずにライブ等の活動を行うことを余儀なくされ、本件グループ名でのCDの発売を延期せざるを得なくなったほか、本件グループとしての出演の機会を失ったり、ニュース記事掲載の機会を失ったり、イベントの告知の際に本件写真を使用することができなくなるといった損害が生じ、更に名誉及び信用が毀損された。一審被告らによる本件各通知及び本件要請は、一審原告らの営業権、パブリシティ権、実演家人格権(氏名表示権)を侵害し、名誉及び信用を毀損するものである。 そして、前記エのとおり、一審被告らには少なくとも過失があったから、本件通知及び本件要請は、一審原告らに対する不法行為に当たる。 9(一審被告らの主張)ア 本件各通知は、本件専属契約に違反する行為を防止するために行ったもので、 正当な権利行使であり、次のとおり、虚偽の内容ではない。 (ア) 本件条項に基づく競業避止義務についてa 競業避止義務に関する本件条項は、先行投資回収のため、マネージメント会社である一審被告会社に必須の存在であるアーティスト(一審原告ら)に対し、一審被告会社の事前の承諾を得られないときに6か月間というわずかな期間に限ってライブ活動のみを対象とし、事前の承諾さえあれば適用されないという必要最低限の制約を課すものである。一審被告会社は一審原告らに対して従前から妥当な報酬を支払っていることから十分な代替措置も講じられており、本件条項による合意は有効である。また、一審被告らが一審原告らに対して優越的地位にあるともいえず、 これを理由に契約が無効になることもない。 b そして、一審原告らは、本件専属契約終了後に「A’」名義でバンド活動をしていたところ、「A’」が本件グループと同一であることは明らかであるから、 一審原告らの「A’」名義でのライブの開催は本件専属契約に違反する。 (イ) 本件グループ名の使用について本件契約書6条は、「商標権、知的財産権及び商品化権を含む一切の権利」が一審被告会社に帰属するとしており、一審原告らと一審被告会社は、本件グループ名について商標登録をする権利を一審被告会社のみに認めるとともに、当事者間で、 本件グループ名について、商標登録がされていない場合であっても、商標法上の商標権と同様の排他的利用権を一審被告会社に認める合意をしたと解すべきである。 本件契約書6条の「一切の権利」に、本件グループ名使用権が含まれることは、同条に商標権という名称に関する権利が示されていることからも明らかである。もっとも、これは当事者間での取決めであって、第三者を含めた排他的利用権を意味するものではない。 そして、一審被告会社は、本件各通知において商標登録をしているとは記載して10おらず、一審原告らによる本件グループ名の使用が本件専属契約に違反する旨を告知していたにすぎない。商標登録されているか否かは誰にでも容易に確認でき、一審原告らが説明することも容易である。 また、本件各通知を受領したのは一審被告会社のみならず一審原告らとも関係のある音楽関係者であるから、受領者は、本件各通知から、一審原告らと一審被告会社との間に紛争が生じており、一審被告会社が、本件各通知に記載されたとおりに主張しているものと理解する。 以上からすると、一審被告会社が商標権を有していなかったことをもって、本件各通知の内容が虚偽であるとまではいえない。 (ウ) 本件写真に係る著作権について本件写真は、本件専属契約の存続期間中に、一審被告会社がカメラマンに依頼して作成したものであり、本件契約書6条により一審被告会社が独占的に使用できるものである。 なお、カメラマンとの間の契約は、一般的には、著作権を含めた買取りであるが、 本件写真に係る契約内容は不明である。一審原告らは、本件写真の著作権が訴外Cにあると主張して、一審原告X1と訴外Cとの間の契約書(甲133)を提出したが、同契約書は一審原告らが上記主張をする1週間前の令和4年9月28日に作成されたもので、上記一審原告らの主張の根拠となるものではない。 イ 本件要請について仮に本件要請によりニュース記事の掲載が中止されたとしても、一審原告らはアーティスト活動をすることができるから、何ら妨害に当たらない。 ウ 過失がないこと仮に一審被告らの行為が一審原告らの利益を侵害するものであったとしても、一審被告らの行為は本件契約書の記載に基づくものであって、一審被告らは自身の行為が適法であると信じていた。 本件条項が無効である合理的な理由はなく、一審被告らは、その有効性に疑問を11抱いたことはない。一審原告らの主張は現実とかけ離れた根拠のないものであり、 音楽プロダクションが公正取引委員会のウェブサイトを日常的にチェックすることなどありえない。また、本件契約書6条の「一切の権利」に本件グループ名使用権が含まれることは、東京地方裁判所の令和元年10月9日付け本件却下決定においても認められていた。 そうすると、一審被告らが、本件各通知及び本件要請について、正当な権利行使であると信じることについて過失はなかった。 エ 本件各通知及び本件要請が不法行為に該当しないこと以上のとおり、本件各通知及び本件要請は正当な権利行使であり不法行為に該当しない。一審原告らはパブリシティ権が侵害されたと主張するが、グループ名は個人の人格の象徴とはいえないから、本件グループ名に関し、一審原告らがパブリシティ権を有するとは認められず、仮に認められるとしても、本件グループ名は顧客吸引力を有しないから、パブリシティ権は生じない。 なお、本件各通知により一審原告らの名誉又は信用が毀損されたとしても、本件各通知の内容は真実であるか、又は真実を前提にした相当な論評であり、関係者が一審原告らと取引することによって本件専属契約違反に関与するか否かに関わる事項であって公共の利害に関する事実であり、また、本件専属契約違反を防止するための公益を図る目的の下に行われたものであるから、違法性が阻却される。 (3) 争点3(一審原告らの損害の発生及びその額)について(一審原告らの主張)ア 財産的損害について(ア) 本件グループないし一審原告らの出演料は1回当たり20万円であるところ、 一審原告らは、本件各通知のために少なくとも2回、出演の機会を喪失したから、 合計40万円の損失が生じた。 (イ) 一審被告らは、本件要請により、訴外Bに、一審原告らに関するニュース記事の掲載を取りやめさせた。ニュース記事が掲載されることにより、広告同様の効12果があるはずであったところ、一審原告らはその広告効果による利益を得ることができなかった。損害額は一回の広告料の額50万円を下らない。 (ウ) 一審被告らは、本件通知3により、オングに、本件写真の掲載を取りやめさせた。前記(イ)と同様に、掲載取りやめにより一審原告らに生じた損害は50万円を下らない。 (エ) 一審原告らは、本件グループ名を使用することができず、A’名義でコンサート(ライブ等)を行わざるを得ず、本件グループ名の顧客吸引力を高め、広告宣伝する機会を失った。その損害額は、コンサート1回当たり10万円は下らないところ、A’名義で行われたコンサートは36回あったから、合計360万円である。 (オ) 一審原告らは、本件グループ名を使用することができず、A’名義での活動を余儀なくされたため、A’名義のグッズを仕入れたが、その後、A’名義での活動をしなくてもよくなったことから、現存する同グッズの仕入れのために支払った金員は損害に当たる。その額は、タオル8万8000円(500円×176枚)、 シャツ2万8080円(1040円×27枚)の合計11万6080円である。 (カ) 一審原告らは、本件グループ名を使用することができなかったことから、令和元年10月27日を予定していた本件グループによるCDの発売を、令和2年10月3日まで延期せざるを得なくなった。同日(発売日)からの1か月間における同CDの売上げは47万2230円であったところ、一審原告らには、少なくとも、 同額に対する延期期間に相当する法定利息分2万2123円(47万2230円×5分×342日÷365日)の損害が生じた。 (キ) 一審原告らは、本件グループ名を使用することができなかった約10か月の間、本件グループでの単独公演を開催することができなかった。一審原告らが本件グループとしてライブ活動を行った場合の収益は、1公演当たり54万4603円であり、上記期間中に少なくとも19回の単独公演を行うことができなかったことから、合計1034万7457円の損害が生じた。 (ク) 以上の合計額は1548万5660円であるから、一人当たり387万141315円であるところ、一審原告らは、それぞれ、そのうちの70万円を請求する。 イ 精神的損害について一審被告らの本件各通知により、一審原告らの名誉及び信用が毀損され、グループ名の変更を余儀なくされ、また、本件グループ名を表示することができなかったことにより、一審原告らは精神的損害を受けた。その額は一人当たり205万円である。 一審原告らは、それぞれ、そのうちの20万円を請求する。 ウ 弁護士費用 各9万円が相当である。 エ 合計額 各99万円である。 (一審被告らの主張)一審原告らは、本件グループと同一グループであるA’名義で予定どおりの活動をしており、本件グループ名を使用できなかったから売上げが下がったとの事実もなく、損害が生じていない。CDの発売を延期したのは、グループ名の問題だけではなく、準備が整わなかったという事情もあったことが明白である。 仮に何らかの損害が生じていたとしても、それは、一審原告らが、一審被告らからの再三にわたる警告にもかかわらず、関係者に何ら説明をすることもなく、A’名義でのライブ活動を強行するという脱法的手段をとったことにより生じた損害であるから、一審被告らがその責任を負う理由はない。 第3 当裁判所の判断1 前提事実のほか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。 (1) 本件契約書の記載平成30年1月1日付けの本件契約書には、次の記載があり、末尾に一審被告会社代表取締役として一審被告Yの記名押印があり、「実演家グループ「A」」の記載があるとともに各実演家として一審原告らの署名押印がある。(甲4)「有限会社Sirene(以下「甲」という)と、実演家グループ「A」(各実14演家:X1、X2、X3、X4、以下併せて「乙」という。)とは、以下のとおり専属契約を締結する(以下「本契約」という)。 第1条 乙は、実演家として、本契約に定める各条項に基づき甲の専属である事を約し、甲以外の為に、いかなる実演の為の交渉及び実演(以下「実演活動」という)を行わないものとする。 第2条 前項に定める「実演活動」とは以下のものをいう。 @ テレビ、ラジオ、映画等への出演、実演A コマーシャルフィルム、コマーシャルミュージックへの出演、実演B レコード(CD、MD、その他あらゆる音の固定物及びその複製物をいう)及びビデオグラム(DVD、VHS、LD、ブルーレイディスク、その他あらゆる音及び映像、または映像の固定物及びその複製物をいう)への実演、出演C 興行、コンサート、イベントへの出演、実演D 出版物、書籍の出版を含む出演、執筆E 作家としての活動(日本音楽著作権協会の規定に基づく)F 乙関連のキャラクターグッズへの出演、名称、肖像等の使用G 乙関連のファンクラブ、ファンサイトへの出演、名称、肖像等の使用H その他、上記各号に付帯する一切の芸能活動第3条 甲は、本契約期間中、乙のマネージメントの一切を引き受け、その芸能活動が成果を収めるよう努力するものとする。」「第5条 甲は、本契約期間中、広告・宣伝及び販売促進のため、乙の芸名、本名、写真、肖像、筆跡、経歴、音声等、その他の人格的権利を、甲の判断により自由に無償で利用開発することができる。 第6条 本契約期間中に制作された原盤及び原版等に係る乙の著作権上の一切の権利(複製権、譲渡権、頒布権、上演権、上映権、送信可能化権、著作隣接権、二次使用料請求権、貸与報酬請求権、私的録音録画補償金請求権を含む著作権上の一切の権利、所有権を含む)ならびに、乙に関する商標権、知的財産権、及び商品化15権を含む一切の権利はすべて甲に帰属する。」「第9条 契約期間及び解約期間終了後の措置は以下のとおりとする。 (1)本契約の有効期間は、平成30年1月1日より2年間とする。 (2)甲または乙が、本契約満了3ヶ月までに相手方に対して契約終了の意思表示をしない限り、本契約は自動的に2年間延長継続しその後も同様とする。 ・・・(5)実演家は、契約期間終了後6ヶ月間、甲への事前の承諾なく、甲以外の第三者との間で、マネージメント契約等実演を目的とするいかなる契約も締結することはできない。」(2) 本件グループの従前の活動状況等ア(ア) 一審原告X1、同X2、D、Eの4名は、実演家グループ「A」として、 平成22年8月1日、一審被告会社との間でマネージメント専属契約を締結した。 (乙28、37)(イ) 本件グループから、平成24年5月20日、Eが脱退し、平成24年7月14日、一審原告X3及び同X4が加入し、平成29年4月26日、ドラマーであったDが脱退した。(甲2、106、乙37)(ウ) 一審原告X1及び同X2は、平成22年8月1日から現在に至るまで、一審原告X3及び同X4は、平成24年7月14日から現在に至るまで、本件グループを構成している。 (エ) 一審原告らは、本件グループにおいて、ヴォーカルのX2’(一審原告X2)、ギターのX3’(一審原告X3)及びX4’(一審原告X4)並びにベースのX1’(一審原告X1)として活動している。(甲2、106、乙6、37)イ(ア) 本件グループは、平成22年12月以降、本件専属契約終了前の活動休止(後記ウ)までの間に、9枚のシングルを発売し、7枚目のシングルはオリコン週間ランキングで17位、8枚目のシングルは同8位の売上げを記録した。そのほか、 本件グループは、1枚の配信限定シングル、3枚のアルバム、3枚のミニアルバム、 161枚のベストアルバム、2枚のコンセプトアルバム等を発売した。(甲60)(イ) 本件グループは、平成22年12月5日に単独ライブを行い、平成23年及び平成25年から平成30年まで、年に複数回の単独ライブ(ツアーを含む。)を開催した。(甲61)(ウ) 前記(ア)の期間に、ヴィジュアル系インディーズバンド専門誌Cureの表紙又は裏表紙に本件グループが計4回掲載されたほか、本件グループ又はそのメンバーの一部が、SHIBUYA−REXフリーペーパー「VR-Virtual Reality-」、 Motto、Gab、ZEAL LINKフリーペーパー、SEVEN、Vijuttoke、Club Zy.Magといった雑誌の表紙に写真付きで掲載されたことがある。(甲62)(エ) 本件グループの楽曲は、TBS系テレビ番組「アッコにおまかせ!」の平成28年4月度のエンディングテーマに起用された。本件グループは、テレビ、ラジオにも出演実績があった。(甲62)ウ 本件グループは、平成30年10月28日に大阪なんばHatchにおいて行われたライブをもって、グループとしての活動を1年間休止した。本件グループの活動休止中、一審原告らは、ソロ活動を行った。(甲3、乙6)エ 上記活動休止時点において、本件グループのファンクラブの会員数は928名であった。(甲35)オ 一審被告会社は、一審原告らに対し、平成28年分から令和元年分の報酬として、それぞれ、年120〜220万円程度を支払った。(乙12)(3) 本件専属契約終了に至る経緯ア 一審原告らは、平成31年4月9日又は同月10日付け文書により、代理人弁護士を通じ、一審被告会社に対し、平成24年7月14日付けマネージメント専属契約書9条(2)により、本件専属契約を、令和元年7月13日をもって終了する旨通知した。なお、平成24年7月14日付けマネージメント専属契約書9条(2)は本件契約書の9条(2)と同じものであるが、一審原告ら及び一審被告ら17は、本件契約書の存在を失念していたことから、上記通知は、平成24年7月14日付けマネージメント専属契約書(契約期間は同日からの3年間)の記載をもとに、 本件専属契約の契約期間の終了時期が令和元年7月13日であることを前提として、 本件専属契約を更新することなく終了する旨の意思表示であるものと理解していた。 (甲2、5、乙22)イ 一審被告Yは、平成31年4月12日、本件グループの活動に関係していた一審被告会社の従業員らと前記アの文書について会話をした際、段取りに腹が立つ、 本件グループ名は使わせない、損害賠償請求をするなどと述べた。(甲22、82、 乙32)ウ 一審被告Yは、同月21日、一審原告らと、一審被告会社の事務所で打合せを行った。その後、一審被告Yと一審原告X3が二人だけで会話をし、一審被告Yは、契約更新しないことを悪いとは思っていないが、やり方がおかしいのではないか、全て契約違反に触れる、俺が回答するんだったら「潰す」で終わり、10月の再始動に向けて100万円かけて表紙をとっている、弁護士と契約書の内容を理解してください、大きな勘違いしているなどと述べた。(甲23、乙31、37)エ 一審原告らは、平成31年4月24日付け文書により、代理人弁護士を通じ、 一審被告会社に対し、令和元年7月13日の契約終了後の活動について、同月から同年9月までに出演が確定している一審原告らのソロ活動は予定通り行うが、それ以外の実演活動については取り消すよう要望するとともに、本件専属契約終了後6か月の間にアルバムを制作する予定がない旨伝えた。(乙7)オ 一審被告会社は、同年6月12日、一審原告らに対し、代理人弁護士を通じ、 文書により、同年11月に本件グループのアルバムをリリースすることを予定し、 平成31年4月23日にレコーディングを開始していたことや、令和元年10月25日以降に復活ライブやワンマンツアーを予定しており、広報宣伝活動に着手していたことから、損害について協議をする必要があり、また、ファンクラブの閉鎖の手続に時間を要することを踏まえ、一審原告らによるファンクラブ閉鎖の告知を延18期し、一審被告会社との協議を開始するよう催告した。(乙8)カ 一審原告らは、同年6月14日及び同年7月9日、一審被告会社に対し、代理人弁護士を通じ、回答書をそれぞれ送付し、一審被告Yが、一審原告X4の出演を予定していた同年8月9日のイベントについて、一審原告X4の承諾なしに、主催者に連絡し、出演をキャンセルしたことが、一審原告X4の芸能活動に対する妨害行為であるとして抗議した。(乙9、10)キ 一審原告X1が、同年6月2日、SKIYAKIの担当者に、本件専属契約終了後に新たなウェブサイトを開設することにつき、同社に依頼したい旨LINEで連絡をしたところ、同担当者は、一審被告Yが邪魔をしてくることが考えられるから、一審被告Yの承諾が必要であり、弁護士に相談してもらいたい旨回答した。 (甲55)ク 本件専属契約は、同年7月13日、一審原告らと被告会社との合意により終了した。なお、一審原告X1、同X2及び同X4は、本件専属契約終了後も、同年9月上旬まで、一審被告会社によるマネージメントの下でソロ活動を行った。(甲48、乙37)(4) 本件仮処分事件の状況等ア 一審原告らは、令和元年8月3日、東京地方裁判所に対し、一審被告らによる本件グループ名の使用妨害行為の禁止や、本件条項所定の競業避止義務がないことの確認等を求めて仮処分を申し立てした。本件仮処分事件における審尋において、 一審被告会社代理人は、本件専属契約はバンドとしての活動に関するものであって、 一審原告ら個人のソロ活動を制約するものではないと述べた。(甲10、20、48)イ 東京地方裁判所は、同年10月9日、本件契約書6条は、本件グループ名の使用権が一審被告会社に帰属すると定めるものであり、また、本件グループ名を使用することができないことにより、本件グループの活動が事実上困難になるとはいえないなどとして、本件却下決定をした。なお、一審原告らは、本件グループ名の19使用妨害行為の禁止を求める部分以外の申立てについては、本件却下決定前の同月2日に取り下げた。一審原告らは、本件却下決定に対し、即時抗告をした。(甲10、41)ウ 東京高等裁判所は、同抗告事件において、令和2年7月10日、本件却下決定を取り消し、一審原告らには、本件グループ名に係るパブリシティ権が認められ、 本件グループ名の使用権を有するのに対し、一審被告会社には本件グループ名を利用する権利はないと判断して、一審被告会社に対し、一審原告らが本件グループ名を使用することの妨害を禁止する旨の決定をした。(甲41)(5) 本件専属契約終了後の本件グループの活動状況等ア 一審原告らは、令和元年8月10日、同年10月27日に赤羽ReNY alpha、同年11月1日に名古屋ReNY limited、同年11月8日に大阪のamHALLにおいて、本件グループのライブ(TOUR「ReBIRTH」)を行うことを発表し、チケットの販売を開始した。なお、一審原告X1は、 同年6月28日、上記ライブのため、赤羽ReNY alpha及び名古屋ReNY limitedの会場を予約した。(甲111、乙29)イ 一審原告らは、一審被告らの本件通知1〜4等によりライブハウス等の関係者に大きな迷惑をかけることとなり、本件グループ名での活動は極めて困難な状況となったと考え、異なる名義で活動することとし、同年9月27日、従前、本件グループのオフィシャルウェブサイトに利用していたのと同じドメイン名(A.jp。 以下「本件ドメイン名」という。)のウェブページにおいて、「A’」というグループ名で3件のライブ(A’2019Tour「ReBIRTH」。以下、各ライブ又は3件のライブを併せて「本件公演」という。なお、前記アと同日程、同会場である。)を行う旨の告知をした。同告知には、本件公演に出演予定のA’のメンバーとして、一審原告ら4名に加え、ドラマーとしてF’(F。以下「F」という。)又はG(G。以下「G」という。)が掲載されていた。(甲3、73、76、101、 102、乙13)20ウ 一審原告X1は、同日、「X1’(A) 「@省略」名義のツイッターアカウ」ントで、「ファンのみんなに伝えなければいけないことをまとめたので読んでほしいです」などと記載した上で、「今回のReBIRTH東名阪ツアーは出演名義を『A’』に変更することになりました。今は事情があり明確な理由をお伝えすることができず、僕たちとしてもとても不本意な決断ですが、ライブを無事に開催することだけを第一優先に考えてのことです。」などと記載された画像を添付したツイートをした。(乙14)エ 一審原告らのうちの1名は、同年10月28日、ヴィジュアル系の情報サイトである「VISUNAVI(びじゅなび)」及び「ViSULOG」に対し、翌年のライブツアーに関する記事の掲載を依頼するメールを送信したが、返信を受けることはできず、記事は掲載されなかった。(甲37、38、126)オ 一審原告らは、A’とのグループ名で、令和元年に前記イで告知した3件の本件公演を開催し、令和2年に「A’2020TOUR「ReGENERATION」」として15件の単独ライブを開催した。その際、一審原告らの他に、ドラマーとして、F、G、H又はその他の者のうちの 1 人が参加した。一審原告らは、上記のほかに、令和元年12月から令和2年6月までの間に、A’として、ライブイベントに一度出演し、配信ライブを一度行ったほか、トークイベントを14回行った。また、一審原告らは、A’名義のグッズを作成し、単独ライブの際等に販売した。(甲59、66、72、84、90、101、102、107、108、125、乙15、16、34、35、41)カ 一審原告らは、令和元年9月までに、新しいアルバムの制作準備を開始し、 同月下旬にはレコーディングをしていたが、同月28日時点において、本件グループ名を使用できないことや、ミュージックビデオの撮影が遅れたことなどから、発売日を決めていなかった。その後、一審原告らは、同年11月12日までにミキシングも終了していたものの、令和2年1月14日時点において、本件グループ名で発売したい、裁判待ち(本件仮処分事件の抗告審の判断待ち)であるといったメッ21セージのやり取りをしていた。(甲63、130〜132)キ 一審原告X1は、同年4月1日、本件グループの出演が予定されていた同年7月8日のイベントの共同主催者であるグループのマネージャーから、一審被告Yから下げる(同イベントへの本件グループの出演を取りやめてもらうとの意味)ように言われたことを理由として、本件グループの出演を取り消す旨伝えられた。なお、同イベントは、その後、新型コロナウィルス感染拡大のため緊急事態宣言が発令されたことを理由として、中止された。(甲40、乙38)ク 一審原告らは、同月14日、本件ドメイン名のウェブページにおいて、「A活動再開後、初のリリースとなるALBUM 『ReGENERATION』より『STELLA』Music Video公開!!」と題する記事を掲載した。同記事には、「1年間の活動休止を経て2019年10月27日に『A’』として活動を再開し、そしてついに2020年7月14日より「「A」」として完全復活を遂げた。LIVEで披露していた新曲6曲が『ReGENERATION』としてリリース決定!」という記載があった。(乙17)ケ 本件グループは、令和2年8月21日、赤羽ReNY alphaにおいて、 無観客無料配信ライブを行った。本件ドメイン名のウェブサイトに掲載された同ライブを告知する同年7月28日付けの記事には、「2019/10/27は僕達にとって活動再開のライブでしたが、悔しくもバンド名を変えての「ReBIRTH」公演となりました。」と記載されている。(乙18)コ 本件グループは、令和2年10月3日、アルバム「ReGENERATION」を発売し、これにより、同日から同年11月2日までの間に、47万2230円の売上げを得た。(甲80)サ 一審原告X1は、同年6月26日、同年7月14日、同年10月24日及び令和4年4月24日に、「VISUNAVI(びじゅなび)」の担当者に対し、本件グループのライブや、本件グループ名を使用しての活動の再開、ミュージックビデオの公開等についての記事の掲載を依頼するメールを送信したが、いずれの記事も22掲載されなかった。(甲126、127)シ(ア) 一審原告X1は、平成31年4月9日、第41類「音楽の演奏」等を指定役務として、本件グループ名の標準文字からなる標章について商標登録出願をし、 他の一審原告らの承諾を得て、令和2年10月9日、登録査定を受けた。(甲46、 47、67)(イ) 一審被告会社は、上記商標登録につき、本件専属契約に違反して出願されたもので公序良俗に反し、商標法4条1項7号に該当するから、商標法43条の2第1号により取り消されるべきであるとして異議を申し立てたが、特許庁は、令和3年10月14日、登録を維持する旨の決定をした。(甲97)(ウ) 一審原告X1は、第9類「録音済みのコンパクトディスク」等を指定商品とする本件グループ名の標準文字からなる標章についても出願していたが、同出願は著名なロックバンドのグループ名を表したものと認識されるものであることや上記指定商品等に使用するときは、取引者・需要者は、収録曲を歌唱・演奏する者が本件グループであることを理解・認識するにとどまること等を理由として、拒絶査定を受けた。(乙23、26、27)(6) 本件専属契約終了後の一審被告らの行為ア 一審被告Yは、令和元年7月14日、ヴィジュアル系ポータルサイト「ViSULOG」に、本件グループが一審被告会社との間の本件専属契約を解除し、音楽活動を再開する旨を記載したニュースが掲載されたことに関し、同サイトを運営する株式会社フェイクスターの代表者である訴外Bに対し、電話で、「商標の話をまだしているところだから、とりあえず、一回取り下げてくれない」と強めに述べた(本件要請)。そのため、訴外Bは、上記ニュースの掲載を取りやめた。(甲56、 73)イ 一審被告Yは、同月16日、エグジットチューンズの I に対し、同社の J がインターネットメディア「BARKS」宛てに送付した、前記アのニュース記事の掲載依頼に係るメールを引用した上で、エグジットチューンズと本件グループとの23間に契約があるのか確認するとともに、本件グループの記事に係るエグジットチューンズの対応について、一審被告Yが顧問弁護士と相談する旨を記載したメールを送付した。(甲29)ウ 一審被告会社は、同月21日頃、文書により、代理人弁護士を通じ、音楽CD等の販売店である大阪ZEAL LINKを運営するオングに対し、本件グループが同年8月6日に大阪ZEAL LINKの閉店イベントに出演を予定していたこと及びその旨の告知に関し、本件グループ名に係る商標権及び本件写真に係る著作権が一審被告会社に帰属するが、一審被告会社はこれらの使用を承諾しないと伝え、オングが関係する全ての媒体における本件グループ名と本件写真を削除しないときは、1日当たり10万円の損害賠償を請求する旨通知した(本件通知3)。その後、オングの代表者は、一審原告X1に対し、電話で、上記文書の内容を知らせるとともに、「Yさんなんか脅してきた」「紛れもない妨害じゃんとは思う」などと述べた。(甲64、65)エ 一審被告Yは、同年7月23日頃、コンサート制作会社「夢番地」の担当者に対し、本件グループのツアーの会場を確認するとともに、差押えの必要があるなどと述べた。(甲54)オ 一審被告会社は、同月26日付け文書により、代理人弁護士を通じ、エグジットチューンズに対し、同社が、本件専属契約の終了の翌日である同月14日に、 本件専属契約の終了及び本件グループのライブスケジュール等に関するニュース記事をインターネットメディア「BARKS」において公表したことに関し、@本件グループ名に係る商標権が一審被告会社に帰属すること、A本件専属契約終了後6か月間、本件グループは、一審被告会社の承諾なく、実演を目的とするいかなる契約も締結できないこと、B一審被告会社は、本件グループ名やロゴの使用及び活動について、いかなる承諾も与えていないことを通知し、エグジットチューンズがいかなる権限で上記プレスリリースを行ったのか説明を求めた。(本件通知4。甲30)24カ 一審被告会社は、同年8月2日又は同月5日付け文書により、代理人弁護士を通じ、ライブハウスである赤羽ReNY alpha、名古屋ReNY limited及びamHALLに宛て、@本件グループは、本件専属契約に基づき、契約終了後6か月間は、一審被告会社の承諾なしに実演を目的とするいかなる契約も締結することができないこと、A本件グループ名の商標権が一審被告会社に帰属すること、B一審被告会社は、本件公演の実施につき承諾しておらず、本件グループ名の使用も許諾しないことを通知し、C書面到達から3日以内に、本件公演に係る契約を解除するよう催告した。(本件通知1。甲25〜27)キ 一審被告会社は、同月7日、一審原告らのホームページを管理していたSKIYAKIその他の関係者に対し、@本件グループ名に係る商標は同年12月31日まで一審被告会社に帰属すること、A一審原告らは、本件専属契約に基づき、契約終了後6か月間は、一審被告会社の承諾なしに実演を目的とするいかなる契約も締結することができないこと、B一審被告会社は、一審原告らが発表しているライブの実施につき承諾しておらず、本件グループ名の使用も許諾しないことを通知するメールを送付した。(本件通知2。甲28、69、83)ク 一審被告会社は、本件却下決定を踏まえ、同年10月9日付け文書により、 代理人弁護士を通じ、一審原告らに対し、本件専属契約の債務不履行により、レコード制作費及びライブのキャンセル費用等283万0021円の損害が生じており、 また、本件グループが活動していれば一審被告会社が得られたはずの逸失利益が1563万8547円であると主張して、債務不履行に基づく損害賠償として1563万8547円の支払を求めた。(甲35)ケ 一審被告会社は、同日付け文書により、代理人弁護士を通じ、赤羽ReNYalpha等のライブハウスを運営するアズミックスに対し、本件却下決定の内容を通知し、かつ、一審原告らについて「立場の悪くなりそうな申立ては突如取下げをし、さらには今回のツアーに限り出演名義を「A’」とすると発表するなど、一般常識からは到底許されない行動を繰り返し、自分勝手なやり方を強引に押し通そ25うとしています。」と記した。(本件通知5。甲31)コ 一審被告会社は、同月29日付け文書により、代理人弁護士を通じ、アズミックスに対し、一審原告らが同年11月1日に予定している名古屋での本件公演を行うことは、本件専属契約に違反するものであり、アズミックスに対しても損害賠償請求をせざるを得ないと通知した。(本件通知6。甲33)サ 一審被告会社は、同年10月17日付け文書により、代理人弁護士を通じ、 本件公演のチケットの販売を予定していたイープラスに対し、一審原告らは令和2年1月13日まで、一審被告会社の承諾なしにライブ活動を行うことができないから、本件公演の実施は本件専属契約に違反すること、及び、本件グループ名は当事者間では一審被告会社に帰属することを告知し、本件公演に係るチケットの販売を中止するよう催告するとともに、一審原告らについて「立場の悪くなりそうな申立ては突如取下げをし、さらには今回のツアーに限り出演名義を「A’」とすると発表するなど、一般常識からは到底許されない行動を繰り返し、自分勝手なやり方を強引に押し通そうとしています。」と記した。なお、同文書には、本件契約書の写しが添付されていた。(本件通知7。甲32)シ 一審被告会社は、令和元年11月11日、アズミックスを含む複数の関係者に対し、メールで、本件却下決定がされた後に、一審被告会社が一審原告らに損害賠償請求をしたこと、一審被告会社が中止を求めていたにもかかわらず本件公演が実施されたこと、一審原告らに対する訴訟の準備に入ること、本件公演が実施されたライブハウスに対しても損害賠償請求を検討することを通知した。(本件通知8。 甲34、68、83)2 争点1(一審被告Yが本件要請をしたか)について前記1(6)アのとおり、一審被告Yが本件要請をし、これを受けて、訴外Bが、 本件グループに係る記事の掲載を取りやめたことが認められる。 一審被告らは、前記1(6)アの一審被告Yの発言について、一審原告らに関する発言ではないなどと主張するが、証拠(甲56)によると、一審被告Yの発言は、 26本件グループの記事が掲載された後、同日中に訴外Bに対してされたものであり、 訴外Bが、その時期や内容から、一審被告Yの発言が本件グループに関するものであると認識して一審被告Yと会話をしたこと、その上で、本件グループに係るニュース記事の掲載を取りやめたことが認められることからして、一審被告Yの上記発言は一審原告らに関するものであったと認めるのが相当である。 3 争点2(本件各通知及び本件要請は不法行為に該当するか)について(1) 本件各通知及び本件要請について本件各通知及び本件要請は、前記1(6)ア、ウ、オ〜キ、ケ〜シのとおりのものであって、これらの内容に、前記1(3)イ、ウの本件専属契約終了前の一審被告Yの言動及び前記1(6)の本件専属契約終了後の一審被告らの行為を総合すると、一審被告Yは、@本件条項により、本件専属契約終了後6か月間、一審原告らが本件グループとして活動をするためには一審被告会社の承諾が必要であり、A本件グループ名について商標権又は排他的使用権を一審被告会社が有しており、B本件写真の著作権は一審被告会社に帰属すると理解しており、本件専属契約終了の翌日である令和元年7月14日から同年11月11日までの間、一審原告らが本件グループとして活動することや、本件グループ名を使用することを禁止しようという強い意思を有し、その実現のために、本件各通知及び本件要請を含む一連の行動により、 一審原告らの取引先又は取引先となる可能性のある関係者に対し、上記@〜Bを伝えて、一審原告らの実演等の実現を妨げようとし、また、一審被告らの要望に従わない取引先に対しては、損害賠償請求をする意思があることまで示して、一審被告らの要望に従わせようとしていたものと認められる。 もっとも、一審被告らの理解による上記@〜Bが事実であれば、その行使方法が相当性を超えるものでない限り、一審被告らの行為は正当な権利行使に当たり得ることから、以下、上記理解が事実といえるか検討する。 (2) 本件条項の有効性についてア 前記(1)の@「本件条項により、本件専属契約終了後6か月間、一審原告ら27が本件グループとして活動をするためには一審被告会社の承諾が必要」であるとの理解は、本件条項が有効であることを前提とするものであるから、本件条項の有効性について検討する。 イ 本件条項は、前記1(1)のとおり、「実演家は、契約期間終了後6ヶ月間、甲(一審被告会社)への事前の承諾なく、甲以外の第三者との間で、マネージメント契約等実演を目的とするいかなる契約も締結することはできない。」とするものであり、一審原告らが、本件専属契約終了後6か月間、一審被告会社以外の者との間で実演を目的とする契約を締結することを、実質的に禁止するものである。本件専属契約における「実演」は、前記1(1)の本件契約書の第2条に規定されるもので、 演奏活動以外にも、コマーシャルフィルムへの出演や、執筆、キャラクターグッズ関連の活動、ファンクラブやファンサイトに関する活動も含むものであって、一審原告らの実演家ないしアーティストとしての活動一般を広く含むものと認められる。 ウ 本件専属契約は、実演家である一審原告らと一審被告会社との間において、 一審被告会社が一審原告らのマネージメントを行うことを目的として締結されたものであり、本件専属契約中の各条項は、当事者間で合意されたものとして特段の事情がない限り有効と考えらえるところである。しかしながら、前提事実(2)及び前記1(2)のとおり、本件グループは、平成22年12月以降、シングルやアルバムを発売したり、単独ライブを開催したり、雑誌の表紙を飾るなど精力的な活動をしていたものであり、特に平成24年7月以降は一審原告ら4名ともが構成メンバーとして、長期間にわたり本件グループとしてバンド活動をすることにより実演家としての活動を行ってきたところ、本件条項は、本件専属契約の終了後において、上記のような一審原告らの実演家としての活動を広範に制約し、一審原告らが自ら習得した技能や経験を活用して活動することを禁止するものであって、一審原告らの職業選択の自由ないし営業の自由を制約するものである。そうすると、本件条項による制約に合理性がない場合には本件条項は公序良俗に反し無効と解すべきであり、 合理性の有無については、本件条項を設けた目的、本件条項による保護される一審28被告会社の利益、一審原告らの受ける不利益その他の状況を総合考慮して判断するのが相当である。 エ そこで検討するに、一審被告らは、本件条項について、先行投資回収のために設けたものであると主張しているところ、一審原告らの需要者(一審原告らのファン)に訴求するのは一審原告らの実演等であって、一審被告会社に所属する他の実演家の実演等ではないのであるから、本件条項により一審原告らの実演活動を制約したとしても、それによって一審被告会社に利益が生じて先行投資回収という目的が達成されるなどということはなく、本件条項による一審原告らの活動の制約と一審被告会社の先行投資回収には何ら関係がないというほかない。また、仮に、一審被告会社に先行投資回収の必要性があり、それに関して一審原告らが何らかの責任を負うような場合であったとしても、これについては一審原告らの実演活動等により生じる利益を分配するなどの方法による金銭的な解決が可能であるから、上記必要性は、本件専属契約終了後の一審原告らの活動を制約する理由となるものではない(加えて、本件専属契約の合意解約がされた令和元年7月13日までに、本件専属契約が締結された平成22年8月1日から約9年間、一審原告ら全員が本件グループに加入することとなった平成24年7月からでも約7年間が経過しており、 また、本件専属契約も数回にわたり更新されてきたものであること(前提事実(2))からすると、本件においては、一審被告会社による先行投資の回収は当然に終了しているものと考えられるところである。 。 )そうすると、その余の点につき検討するまでもなく、本件条項による制約には何ら合理性がないというほかないから、本件条項は公序良俗に違反し無効であると解するのが相当である。 オ したがって、前記(1)の@はその根拠とする本件条項が有効ではないから、 事実であると認めることができない。 (3) 商標権及び本件グループ名についてア 前記(1)のAの「本件グループ名について商標権又は排他的使用権を一審被29告会社が有して」いるかについて検討する。 イ 一審被告らが、本件要請及び本件各通知当時、本件グループ名に係る商標権を有していなかったことについて、当事者間に争いがない。 ウ 次に、本件グループ名の排他的使用権の根拠としては、いわゆるパブリシティ権が考えられる。 人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解され、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)は、 肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる(最高裁平成21年(受)第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁)。そして、実演家団体に付されたグループ名についても、その構成員の集合体の識別情報として特定の各構成員を容易に想起し得るような場合には、芸名やペンネーム等と同様に、各構成員個人の人格権に基づき、グループ名に係るパブリシティ権を行使できると解される。 本件では、前記1(2)の本件グループの従前の活動状況等に照らすと、本件グループは一定の顧客吸引力を有すると認められるというべきであり、また、一審原告X1及び同X2は平成22年8月1日から、一審原告X3及び同X4は平成24年7月14日から、本件専属契約が終了する令和元年7月13日までの相当期間にわたり、本件グループの構成員として活動していたこと、本件グループの構成員が一審原告ら4名であることや一審原告らの肖像及び芸名は一般に広く公表されており、 本件グループとしてライブ等に出演する際には一審原告ら4名ともが出演していたこと、本件グループとして雑誌等に掲載される際には一審原告らの写真や芸名が掲載されていたこと、その他前記1(2)の一審原告らの活動内容等に照らすと、本件グループ名は、その構成員である一審原告らの集合体の識別情報として、その構成30員である一審原告らを容易に想起し得るものであったと推認される。 そうすると、一審原告らは、本件グループ名についてパブリシティ権を行使することができる。 ところで、パブリシティ権は人格権に基づく権利であって一審被告会社に譲渡できるとは考え難い上、本件契約書をみても、一審原告らが一審被告会社に対してパブリシティ権を譲渡する旨の記載はなく、また、本件専属契約終了後において、一審原告らによるパブリシティ権の行使を制限する根拠となるような記載もない。本件契約書5条は、「甲(一審被告会社)は、本契約期間中、広告・宣伝及び販売促進のため、乙(一審原告ら)の芸名、本名、写真、肖像、筆跡、経歴、音声等、その他の人格的権利を、甲の判断により自由に無償で利用開発することができる。」と規定するが、これは、一審原告らが、本件専属契約期間中、一審被告会社に対し、 パブリシティ権を行使しないことを約束したものと解するのが相当であり、上記規定をもって、本件専属契約終了後のパブリシティ権の行使について何らかの合意がされているということはできない。また、本件契約書6条によって、人格権に由来するパブリシティ権の帰属を、一審被告会社に定めたなどということはできない。 そうすると、一審被告会社には、本件専属契約終了後、本件グループ名についてのパブリシティ権を行使する権原がないというべきである。また、本件契約書の記載やその他の事情を総合考慮しても、一審被告会社が、本件専属契約の終了後において、本件グループ名の排他的使用権を有すると認めることはできない。 エ なお、このことは、実演家人格権である氏名表示権(著作権法90条の2)についても同様であり、本件専属契約終了後において、一審被告会社に、一身専属権である実演家人格権としての氏名表示権、すなわち、本件グループの実演時に本件グループ名を表示するか否か等を決定する権利が帰属することはないから、一審被告会社は、本件グループ名について氏名表示権を行使することもできない。 オ したがって、一審被告会社は、本件グループ名について、商標権及びパブリシティ権、実演家人格権(氏名表示権)その他の排他的使用権を有していないから、 31前記(1)のAは事実ではないというほかない。 カ 一審被告らは、本件各通知において一審原告らが本件グループ名を使用することができないと記載したことについて、本件専属契約に違反する旨を告知したものであり、本件契約書6条により、一審原告らと一審被告会社との間で、本件グループ名について、商標登録がされていない場合であっても、商標法上の商標権と同様の排他的利用権を一審被告会社に認める合意をしたと主張する。 しかしながら、本件契約書6条は、「本契約期間中に制作された原盤及び原版等に係る乙(一審原告ら)の著作権上の一切の権利(省略)ならびに、乙に関する商標権、知的財産権、及び商品化権を含む一切の権利はすべて甲(一審被告会社)に帰属する。」というものであって、その文言及び本件専属契約が一審被告会社による一審原告らのマネージメントを目的とするものであることからして、本件専属契約期間中の一審被告会社によるマネージメントの便宜のために、同期間中に取得された著作権等の財産的権利について一審被告会社に帰属すると合意したものと認めるのが相当であるところ、同条において、本件専属契約終了後における本件グループ名に係る取決めは存在しない。 以上によると、本件契約書6条により、一審原告らと一審被告会社との間で、本件専属契約終了後における本件グループ名の使用について何らかの合意がされたということはできず、本件契約書のその余の記載をみても、一審原告らが、本件専属契約終了後に本件グループ名を使用することが、本件専属契約に違反すると認めることはできない。 そうすると、一審被告らの上記主張は採用できない。 (4) 本件写真について前記(1)のBの「本件写真の著作権は一審被告会社に帰属する」について検討する。 証拠(甲133)によると、訴外CとGloria Music代表一審原告X1との間で、令和4年9月28日に著作物使用許諾同意書が作成されたこと、同同32意書は、訴外Cが、本件写真について著作権を有することを確認し、その使用をGloria Musicに対して許諾することを内容とするものであることが認められる。そうすると、本件写真の著作権は訴外Cに帰属すると認めるのが相当であるから、前記(1)のBの「本件写真の著作権は一審被告会社に帰属する」は事実ではない。 なお、上記同意書は、本件各通知から約3年が経過した令和4年9月28日に作成されたものであるものの、その成立の真正自体には争いがないところ、本件訴訟で本件写真の著作権の帰属が問題となったことから、一審原告X1において、著作権の帰属を明らかにするために新たに作成したものと考えられ、その作成経緯や内容に不自然なところはなく、これによると、本件写真は訴外Cが撮影したものであって、訴外Cは、その著作権が自らに帰属していると認識しているものと認められる。そして、本件写真の著作権は撮影者である訴外Cに原始的に帰属するものであって、訴外Cから一審被告会社に譲渡しない限り一審被告会社に帰属することはないこと、一審被告らの認識においても、本件写真の帰属について、どのような内容でその撮影をしたカメラマンと契約していたのか明らかではないことを考慮すると、 訴外Cの認識するとおり、本件写真の著作権は訴外Cに帰属すると認めるのが相当である。 (5) 本件各通知及び本件要請の不法行為該当性ア 以上によると、前記(1)の@〜Bはいずれも事実ではないというほかない。 そうすると、前記1(6)ア、ウ、オ〜キ及びコ〜シのとおり、一審被告Y又は一審被告会社が、?商標権の問題があるなどとして本件要請をして、訴外Bに本件グループに係るニュース記事の掲載を取りやめさせたこと、?オングに対して、本件グループ名及び本件写真を削除しないときは1日10万円の損害賠償請求をする旨通知したこと(本件通知3)、?エグジットチューンズに対して、一審被告会社が本件グループ名に係る商標権を有しており、一審原告らは本件グループ名の使用やライブ活動をすることができない旨通知したこと(本件通知4)、?本件公演の開催33を予定していたライブハウスに対し、一審被告会社が本件グループ名に係る商標権を有しており、一審原告らは本件グループ名の使用やライブ活動をすることができないことを伝え、本件公演に係る契約を解除するよう催告したこと(本件通知1)、 ?SKIYAKIその他の関係者に対し、商標が一審被告会社に帰属し、一審原告らはライブ活動や本件グループ名の使用ができないと通知したこと(本件通知2)、 ?アズミックスに対し、本件公演を実施することは本件専属契約に違反するものであって、アズミックスに対しても損害賠償を請求せざるを得ないと通知したこと(本件通知6)、?イープラスに対し、本件公演を実施することは本件専属契約に違反し、本件グループ名は当事者間では一審被告会社に帰属するとして、本件公演のチケットの販売を中止するよう催告したこと(本件通知7)、?アズミックスを含む関係者らに対し、本件公演の実施に同調したライブハウスに損害賠償を請求すると通知したこと(本件通知8)は、いずれも、前記(1)の@〜Bの一部が事実であることを前提としたものであって、事実と異なる言動や記載により一審原告らの活動を妨げようとしたものというほかなく、これらにより、一審原告らの取引相手は、一審原告らと取引をすることについて躊躇し、委縮することとなったものと容易に推認され、一審原告らは、ライブの開催や出演を含む営業を円滑に進めることが困難となったものと認められる。そうすると、本件要請及び本件各通知は、実演家である一審原告らの活動を不当に妨害するものであって、一審原告らの営業権を侵害するものというべきである。 イ また、前記1(6)ケ及びサのとおり、本件通知5及び7には、一審原告らについて、「立場の悪くなりそうな申立ては突如取下げをし、さらには今回のツアーに限り出演名義を「A’」とすると発表するなど、一般常識からは到底許されない行動を繰り返し、自分勝手なやり方を強引に押し通そうとしています。」との記載があり、同記載は、一審原告らが本件公演を実施することは、本件専属契約に違反する行為であるという事実を前提として、一審原告らの行為が「一般常識からは到底許されない行動」であり、「自分勝手なやり方を強引に押し通そう」とするもので34あると論評するものであるところ、これらの記載は一審原告らの社会的評価を下げ、 業務上の信用を損なうものであって、一審原告らの名誉及び信用を毀損するものといえる。ところが、一審原告らが本件公演を実施することは本件専属契約に違反するものではなく、上記記載の前提となる事実は真実ではない。 ウ 加えて、本件各通知は、一審原告らが本件専属契約に違反している旨を通知するものであり、契約違反をしているとの事実を指摘することは、一審原告らの社会的評価を下げ、また、取引相手をして一審原告らとの取引を躊躇させ得るものであって、一審原告らの業務上の信用を損なうものであるから、本件各通知はいずれも、一審原告らの名誉及び信用を毀損するものである。 エ そして、音楽事務所である一審被告会社の代表者としてこれを経営する一審被告Yにおいては、本件条項を設けた目的と考え得る先行投資の回収と、一審原告らの実演を禁止することとの間に何ら因果関係がないことは明らかであって、本件条項が無効であることを認識し得たといえ、また、一審被告会社が本件グループ名に関する商標権を取得していないことを認識するとともに、本件グループ名についてのパブリシティ権等も一審被告会社に帰属しないものであり、さらに、本件写真の著作権も一審被告会社に帰属するものでないことを認識し、又は認識し得たといえる。 そうであるから、一審被告らには、本件要請及び本件通知1〜4、6〜8が真実でないこと、また、本件通知5及び7の前提となる事実が真実ではないことについて、少なくとも過失があるというべきである。 オ したがって、本件各通知及び本件要請は、一審原告らの営業権を侵害し、名誉及び信用を毀損するものであって、一審原告らに対する不法行為に当たると認めるのが相当である。 この点、一審被告らは、正当な権利行使であると信じており、本件却下決定を踏まえると過失がないと主張する。しかしながら、前記エのとおり、一審被告らは、 本件条項が無効であることについて認識し得たということができるし、商標権を有35しないことや本件写真の著作権を有しないことについても認識していたか、少なくとも容易に認識し得たのであるから、本件要請及び本件各通知について、一審被告らに過失があるのは明らかである。そして、本件却下決定は保全手続において疎明に基づいて判断されたものであるが、本件却下決定は抗告審において取り消されて一審原告らが本件グループ名を使用することの妨害の禁止が命じられているところ(前提事実(9)及び(13)、前記1(4))、保全手続が疎明に基づいて仮の処分をするものであることに照らすと、一審被告らが、本件却下処分を信用したことをもって、 同人らに過失がないということはできない。 カ そして、一審被告Yは、一審被告会社代表者として、本件各通知を自ら又は代理人弁護士を通じて送付、送信し、又は自ら本件要請をしたものであるから、一審被告らは、連帯して、上記不法行為について責任を負うと認めるのが相当である。 4 争点3(一審原告らの損害の発生及びその額)について(1) 財産的損害についてア 前記1(5)によると、一審原告らは、一審被告らの本件要請及び本件各通知により、本件グループでの活動及び本件グループ名の使用を執拗に妨害されたために、A’の名称を用いて本件ライブを行った令和元年10月27日以降、令和2年7月14日に本件グループ名での活動再開を告知するまでの間、本件グループ名の使用を回避せざるを得なかったものと認められ、それに起因して生じた損害は、本件の一審被告らによる不法行為と相当因果関係のある損害といえる。 そして、A’名義でのグッズの作成費用は、一審原告らが本件グループ名の使用を回避し、A’名義で活動するために要したものであるから、一審原告らが現時点で保有する上記グッズの作成費用は、一審被告らの不法行為と相当因果関係のある損害に当たる。証拠(甲90)によると、一審原告らは、A’名義のグッズとして、 シャツ27枚、タオル176枚を保有していること、これらを仕入れるために、シャツ一枚当たり1040円、タオル一枚当たり500円を支払ったことが認められ、 その額は合計11万6080円(1040円×27枚+500円×176枚)であ36る。 したがって、上記グッズに関し、一審原告らに生じた損害額は11万6080円である(一審原告ら各2万9020円)。 イ その余の損害について(ア) 証拠(甲40)によると、本件グループは、令和2年7月8日に予定されていたイベントに出演予定であったところ、一審被告Yが本件グループの出演を取りやめるよう主催者に要請したことから、主催者により、本件グループの出演予定が取り消されたことが認められるものの、同イベントは、緊急事態宣言が発令されたために中止されており、直ちに本件の不法行為により一審原告らに出演料相当の損害が生じたとは言い難い。また、一審原告らは、本件グループ名が使用できなかったために、アルバムの発売を10か月延期せざるを得なかったと主張するところ、 当初の発売予定日を認めるに足りる証拠がなく、具体的な延期期間を認定することができない。 (イ) もっとも、一審被告らの本件要請及び本件各通知により、一審原告らは、令和元年10月27日から令和2年7月13日までの8か月17日の間、本件グループ名の使用を回避せざるを得なかったこと、前記1(5)及び(6)によると、一審原告らは、同期間において、一定の知名度を有していた本件グループ名を使用できず、 また、インターネット上のサイトにおいて本件グループが取り上げられないこととなったため、本件グループ名を知る需要者に対する訴求力が低減し、本件公演等の宣伝活動が奏功しないことがあったと認められること、前記(ア)のとおり、アルバムの発売日を延期せざるを得なかった確定的な期間までを認定することができないものの、本件グループ名を使用できないために新しいアルバムの発売が遅れるなどしたことが認められる。これらの一審被告らによる妨害の内容及びそれにより生じた一審原告らの損害の内容に照らすと、一審原告らに生じた財産的損害は、一審原告らそれぞれについて、本件グループ名の使用を回避せざるを得なかった期間(8か月17日)について月10万円と認めるのが相当であり、85万5268円(1370万円×(令和元年10月27日〜令和2年6月26日の8か月+(同月分の4日÷30日+同年7月分の13日÷31日)(円未満切捨て)となる。 )なお、一審被告らは、本件要請は一審原告らのアーティスト活動を妨害するものではないとか、本件グループ名の使用をしていなかった期間に売上げが下がったという事実はないから、本件各通知により一審原告らに損害が生じていないなどと主張するが、本件要請及び本件各通知は上記のとおり一審原告らの本件公演に伴う宣伝活動等に影響するものであって、一審原告らの活動を妨害するものというほかなく、また、上記のとおり一審原告らに損害を生じさせたと認められるから、一審被告らの主張は採用できない。 ウ したがって、一審原告らに生じた財産的損害はそれぞれ88万4288円(2万9020円+85万5268円)であるが、一審原告らは、財産的損害について一部請求として各70万円を請求しているので、同額の限度で認める。 (2) 精神的損害について前記3(5)のとおり、本件各通知により、一審原告らの名誉及び信用が毀損され、 また、前記1(5)及び(6)によると、本件要請及び本件各通知によって、一審原告らは、令和元年10月27日から令和2年7月13日までの8か月17日の間、本件グループ名の使用を回避せざるを得ず、ライブ活動や宣伝活動に当たって本件グループ名を使用しないよう工夫をすることとなり、また、ライブハウスその他の取引先に対し、本件各通知の内容に関する説明や協力依頼をするなどの相当程度の労力を要することとなって精神的な苦痛を受けたものと推認されるところ、これに対する慰謝料は、一審原告らそれぞれについて20万円を下らないと認めるのが相当である。 (3) 弁護士費用事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌すると、本件の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は、一審原告らそれぞれについて9万円が相当である。 38(4) 合計額上記を合計すると、一審原告らについて各99万円である。 5 結論以上の次第で、一審原告らの請求はいずれも理由があるから全部認容すべきところ、これと異なり、それぞれ22万円及びこれに対する遅延損害金の限度で各請求を一部認容し、その余をそれぞれ棄却した原判決は、一部失当であって、一審原告らの本件控訴はいずれも理由があるから、一審原告らの控訴に基づき原判決を変更し、一審被告らの控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官本 多 知 成裁判官浅 井 憲裁判官勝 又 来 未 子39(別紙)当 事 者 目 録控訴人兼被控訴人(一審原告) X1(以下「一審原告X1」という。)控訴人兼被控訴人(一審原告) X2(以下「一審原告X2」という。)控訴人兼被控訴人(一審原告) X3(以下「一審原告X3」という。)控訴人兼被控訴人(一審原告) X4(以下「一審原告X4」といい、一審原告X1、同X2、同X3と併せて「一審原告ら」という。)上記4名訴訟代理人弁護士 佐 藤 大 和舟 橋 和 宏被控訴人兼控訴人(一審被告) 有限会社Sirene(以下「一審被告会社」という。)被控訴人兼控訴人(一審被告) Y(以下「一審被告Y」といい、一審被告会社と併せて「一審被告ら」という。)上記両名訴訟代理人弁護士 島 昭 宏40 |
事実及び理由 | |
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全容
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