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事件 |
令和
3年
(ワ)
4920号
特許権侵害行為差止等請求事件
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5 原告P1 同 訴訟代理人弁護士速見禎 同 溝内伸治郎 同 訴訟代理人弁理士片岡泰明 10 同補佐人弁理士後藤幸久 同 羽明由木 被告 株式会社ライフピース 同 代表者代表取締役 15 同訴訟代理人弁護士玉井秀樹 同訴訟復代理人弁護士 角憲和 同 補佐人弁理士大槻聡 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2022/12/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 20 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は、別紙「被告製品目録」記載の製品(以下「被告製品」という。) を製造し、販売し、販売の申出をしてはならない。 25 2 被告は、被告製品を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、331万9000円及びこれに対する令和3年6月 1 17日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、発明の名称を「機能水」とする特許(以下「本件特許」という。)に 係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が本件特許の 5 特許請求の範囲請求項3記載の発明の技術的範囲に属する被告製品を製造し、販 売することは本件特許権の侵害に当たると主張して、被告に対し、特許法100 条1項及び2項に基づき、被告製品の製造、販売等の差止め及び廃棄を求めると ともに、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償331万9000円及びこ れに対する不法行為の日の後(本訴状送達の日の翌日)である令和3年6月1710 日から支払済みまで民法所定年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案 である。 1 前提事実(証拠等を掲げていない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣 旨により容易に認められる事実) (1) 当事者15 原告は、飲食関係の衛生管理等のコンサルタント等を行う者であり、有限会社 リベラル(以下「リベラル社」という。)及び株式会社ATW(以下「ATW社」 という。)の代表者である。 被告は、飲料水の販売等を目的とする株式会社である。 (2) 本件特許権20 原告は、次の本件特許権を有している。本件特許権の特許請求の範囲、明細書 及び図面(以下、明細書及び図面を「本件明細書」という。)の記載は、別紙「特 許公報」のとおりである(甲2)。 ア 登録番号 特許第6708764号 イ 優先日 平成31年1月28日25 ウ 出願日 平成31年2月7日 エ 登録日 令和2年5月25日 2 オ 発明の名称 機能水 (3) 構成要件 本件特許の特許請求の範囲請求項3に係る発明(以下「本件発明」という。) の構成要件は、次のとおり分説される。 5 A 多価アミン及び/又はその塩を機能成分として含有し、水、多価アミン、 多価アミンの塩の総含有量が95重量%以上である機能水であって、 B 前記多価アミンが、下記式(3') 【化3】10 で表される不飽和アミンに由来する構造単位を有するポリマー(式中、nは0又 は1を示し、pは1又は2を示し、R?、R?、R?は水素原子を示す)のうち、重 量平均分子量500〜50000の、ポリアリルアミン又はジアリルアミン重合 体であり、 C 前記機能成分の有する機能が、前記式(3')で表される不飽和アミンに15 由来する構造単位を有するポリマーがポリアリルアミンである場合は、魚介類又 は精肉の鮮度保持、魚介類又は精肉の熟成、植物の成長調整、切り花の延命、切 り花の開花調整、害虫駆除、アニサキス防除、抗微生物、抗ウイルス、便臭軽減、 血圧低下、体温上昇、及び口腔内環境の改善のうちの少なくとも1つであり、前 記式(3')で表される不飽和アミンに由来する構造単位を有するポリマーがジ20 アリルアミン重合体である場合は、切り花の延命である D 機能水。 (4) 被告製品の構成 被告製品の構成については当事者間に争いがあるが、被告製品が、構成要件A 及びBに規定される組成を有し、水及びポリアリルアミン重合体の総含有量が9 3 5重量%以上であることを充足することは当事者間に争いがない。 (5) 被告の行為等 ア 被告は、平成30年10月頃から、リベラル社より水溶液「ATW-01」 (以下「旧ATW」という。)を購入して、「無限七星ボトルドウォーター」(旧 5 ATWと後記「現ATW」の成分の同一性に争いがあるため、旧ATWを使用し た「無限七星ボトルドウォーター」を、以下「旧被告製品」という。)を製造し、 販売していた。 また、被告は同じ頃から「無限七星FISH」(「無限七星Fish」と表記 される場合もある。)と呼ばれる製品も販売していた(甲20)。 10 イ 被告は、本件特許の出願後から令和2年2月頃までの間、リベラル社又は リベラル社の代理店であるATW社より本件特許に規定される組成を有する水溶 液「ATW-1」(以下「現ATW」という。)を購入して、被告製品を製造し、 販売していた。 ウ 被告は、令和2年6月頃から、ニットーボーメディカル株式会社(以下「メ15 ディカル社」という。)より原材料を購入して、「無限七星ボトルドウォーター」 (原材料は現ATWではないものの、構成要件A及びBに規定される機能成分を 有することは争いがないため、メディカル社製の原材料を使用した「無限七星ボ トルドウォーター」も、以下「被告製品」と呼称する。)を製造し、販売してい る。 20 2 争点 (1) 本件発明の技術的範囲への属否(争点1) (2) 本件発明の無効理由の有無(争点2) ア 公然実施発明(製品名「無限七星FISH」の成分に係る発明。以下「引 用発明」という。)に基づく新規性欠如の有無(争点2-1)25 イ 本件特許出願の冒認出願該当性(争点2-2) (3) 先使用権の成否(争点3) 4 (4) 消尽又は黙示の実施許諾の成否(争点4) (5) 損害の発生及びその額(争点5) (6) 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点6) |
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争点についての当事者の主張
5 1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1) (原告の主張) (1) 被告製品の構成 被告製品の構成は、別紙「被告製品の構成」の「原告の主張」欄記載のとおり である。 10 (2) 構成要件Cの充足性 被告製品の販売代理店の一つである株式会社時間グループ(以下「時間グルー プ」という。)は、ウェブサイトにおいて、「「水・花・魚・果物野菜・肉・金 属・医療」7つの分野で無限の可能性を持つお水」「魚の切り身が生のままで7 日間もつ魔法の水」等と記載して、魚介類や精肉の鮮度保持用途に被告製品を使15 用できることを紹介しており、被告は、ウェブサイトにおいて、「無限七星ボト ルドウォーターは食品ロス問題や物流で未来のカタチとして第五次産業革命を起 こせるのではないかと期待されています。」等と記載し、無限七星を魚介類の鮮 度保持用途で紹介したテレビ番組が放映された旨を記載するなど、魚介類の鮮度 保持用途を謳って被告製品の営業を行っている。 20 したがって、被告製品は、魚介類又は精肉の鮮度保持の機能を有するものであ り、構成要件Cを充足する。 (3) 構成要件Dの充足性 構成要件Dの「機能水」とは、構成要件Aの「機能成分」を含む水という程度 の意味であるから、構成要件A及びBに規定される機能成分を充足する被告製品25 は、当然構成要件Dを充足する。 (被告の主張) 5 (1) 被告製品の構成 被告製品の構成は、別紙「被告製品の構成」の「被告の主張」欄記載のとおり である。 (2) 構成要件C及びDの非充足性 5 被告は、平成30年9月に清涼飲料水の製造許可を取得し、同年10月に旧被 告製品の販売を開始したが、平成31年3月19日、愛媛県から、清涼飲料水に ついて特定の効果を謳うことには問題があるとの指導を受け、その後は用途や効 果を謳うことがないよう細心の注意を払って、清涼飲料水として被告製品を販売 している(なお、被告は、平成30年10月から、旧被告製品と成分・濃度が同10 一で、魚の鮮度保持を主な用途とする「無限七星FISH」(引用発明)も販売 を開始したが、愛媛県から指導を受けたことで存在意義が失われたため、販売を 中止した。)。 被告のウェブサイトでは、被告製品について「※こちらの商品は清涼飲料水で す。」「お客様の判断で色々なものにお使いになられています。一度使ってみて15 下さい。その可能性は無限大!!」と記載しているのみであり、具体的な用途や 効果は一切記載しておらず、また、具体的な使用方法についても一切記載してい ない。 したがって、少なくとも平成31年3月以降に販売した被告製品は、特定の用 途を目的とする製品として製造、販売されたものではないから、特定の機能を発20 揮させる用途に使用するための機能水には該当せず、構成要件C及びDを充足し ない。 2 公然実施発明(引用発明)に基づく新規性欠如の有無(争点2-1) (被告の主張) (1) 被告は、本件特許の優先日前である平成30年10月頃から、日本国内に25 おいて、不特定多数の者に対し、無限七星FISHを販売していた。 (2) 無限七星FISHの構成について 6 ア リベラル社が提供する旧ATW及び現ATWは、濃度のみが異なり、成分 が同一であるから、現ATWが本件発明の構成要件A及びBを充足するのであれ ば、旧ATWも同構成要件A及びBを充足することは当然である。 また、核磁気共鳴分光法による解析及び質量分析(乙18。以下「乙18分析」 5 という。)の結果によれば、無限七星FISHの含有成分はポリアリルアミン又 はその塩であることが判明し、ゲル浸透クロマトグラフィ測定(乙24。以下「乙 24分析」という。 の結果によれば、 ) 重量平均分子量は4.5×10?であった。 イ リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分は重合アミンと水であるとの 表記がされているところ、無限七星FISHは、旧ATWを使用して製造され、 10 その成分が同じであるから、無限七星FISHのポリアリルアミン又はその塩の 総含有量は95重量%以上である。 ウ 被告は、魚介類の鮮度保持に使用するための機能水として無限七星FIS Hを販売していた。 エ 以上から、無限七星FISHは、ポリアリルアミン又はその塩を機能成分15 として含有し、 ポリアリルアミンの総含有量が95重量%以上である水であっ 水、 て(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜50000であって (b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能水(d’)という構 成を有するものであるといえる。 (3) したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足し、本件特許の優20 先日前に公然と実施されたものであるから、本件特許は、無効審判により無効に されるべきものである。 (原告の主張) 旧ATWと本件特許出願後の現ATWの製造方法は異なるから、両者の成分は 当然異なる。すなわち、原告及び関連会社は、別件の特許(特許第54429425 8号。甲21。以下「別件特許」という。)の明細書に記載されている「パルプ アミノボール(PAB)」を使用して旧ATWを製造していたが、PABは通常 7 流通品ではなく、原告があるメーカーから特別なルートで入手していた。原告は、 PABの入手に限界が生じることを懸念していたこともあり、アミノ基を有する グラフト重合体が別件特許の用途に有効であるとの知見に基づき、入手可能な様々 な多価アミンがどのような効果を示すのかを網羅的に確認したところ、本件発明 5 が生まれた。本件発明の実施品は、特定の物質を購入して水で希釈するだけで製 造が可能であり、旧ATWの製造方法と比較しても、原料の入手が安定的に可能 で、製造工程も簡易であるから、以後、原告及び関連会社は、本件発明において 発見した知見を利用した新たな製造方法を使用して、現ATWを製造するように なった。 10 また、乙18分析の結果をみると、分析対象として、単に「保管されている初 代無限七星100mL」との記載があるだけで、どの時期に製造、販売されたど のような製品が、どういう形で試験に供されたのか全く不明である。また、その 内容をみても、@乙18分析のFig.1のスペクトル面積比を理由に高分子化合 物の繰り返し構造をCH?-CH-CH?と推定することが困難なこと、A3pp15 m付近のシグナルの変化を理由に当該シグナルがアミン(CH?-NH?)である と推定できる根拠が不明であること、BFig.1とFig.4a)のスペクトル が異なることといった疑問点がある。 さらに、乙24分析の結果についても、分析対象は、単に「ポリアミン・無限 七星Fish(ATW01)」と記載されているだけで、どの時期に製造、販売20 されたどのような製品が、どういう形で試験に供されたのか全く不明である。 3 本件特許出願の冒認出願該当性(争点2-2) 先使用権の成否 、 (争点3) 及び消尽又は黙示の実施許諾の成否(争点4) 別紙「無効主張等一覧表」記載のとおり。 4 損害の発生及びその額(争点5)25 (原告の主張) (1) 被告は、少なくとも、本件特許の登録日である令和2年5月25日から現 8 在までの間、被告製品を1000万円売り上げたところ、原告は、被告の本件特 許権の侵害行為により、少なくとも被告の売上額に対する10%の実施料相当額 100万円の損害を被った。 (2) 原告は、被告製品の測定に係る費用として、株式会社東レリサーチセン 5 ターに対し、31万9000円を支払ったところ、これは、被告の本件特許権侵 害行為と相当因果関係のある損害である。 (3) 原告は、本件の対応を弁護士及び弁理士に依頼し、200万円をくだらな い費用を出捐したところ、これは、被告の本件特許権侵害行為と相当因果関係の ある損害である。 10 (4) 以上から、原告は、被告の本件特許権侵害行為により、合計331万90 00円の損害を被った。 (被告の主張) 争う。 5 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点6)15 (原告の主張) 被告の本件特許権侵害行為を停止又は予防するため、被告製品の製造、販売及 び販売の申出の差止めと、被告が所持する被告製品の廃棄を求める 必要がある。 (被告の主張) 争う。 20 第4 当裁判所の判断 1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1) (1) 被告製品の構成について 被告製品が、構成要件A及びBに規定される組成を有し、水及びポリアリルア ミン重合体の総含有量が95重量%以上であることは当事者間に争いがない。争25 いのある構成要件C(「魚介類又は精肉の鮮度保持」の機能を有するか)及びD (「機能水」であるか)の充足性について検討する。 9 (2) 構成要件C(「魚介類又は精肉の鮮度保持」の機能を有するか)について 証拠(甲3の1、4、14〜16、19、20、乙27〜32)及び弁論の全 趣旨によれば、被告は、そのウェブサイトのトップページ(令和3年10月現在) において、被告製品は食品ロス問題や物流で未来のカタチとして第五次産業革命 5 を起こせるのではないかと期待されている旨を記載し、 「TOPICS」欄には、 テレビ番組で放映された旨の紹介をしていること、前記ウェブサイトのうち被告 製品を紹介するウェブページ(令和3年5月現在)において、被告製品は清涼飲 料水である旨、お客様の判断で色々なものに使われており、その可能性は無限大 である旨を記載していること、時間グループは、そのウェブサイト(令和3年210 月現在)において、被告製品について「水・花・魚・果物野菜・肉・金属・医療」 の分野で無限の可能性を持つ水として研究され、「魚の切り身が生のままで7日 間もつ魔法の水」としてテレビ番組で紹介され、魚への新しい保存技術として注 目されている旨を記載していること、被告の販売代理店の一つである株式会社ユ ニークBiz(以下「ユニークBiz」という。)は、そのウェブサイト(令和15 4年2月現在)において、前記テレビ番組で「紹介された「無限七星」は、放送 では刺身が1週間冷蔵保存できることから、大変ご好評をいただいている商品で す」と記載して、被告製品の広告をしていることが認められる。そして、平成3 1年2月に放送された当該番組では、「無限七星Fish」ないし「無限七星」 と呼ばれる水をかけた魚の切り身とかけていない魚の切り身を7日間冷蔵庫に保20 存し、前者は問題なく食べられたが、後者は臭いがして食べられなかったことが 紹介されている。また、被告は、販売代理店との間で被告製品に係る販売代理店 契約を締結するに当たり、平成31年3月18日までの時点においては、「無限 七星」は鮮魚の洗浄・制菌を目的とするものである旨を記載した無限七星ボトル ドウォーター及び無限七星FISHに関する契約書のひな形を使用していたが、 25 同月19日に愛媛県から清涼飲料水について公的な認定を受けることなく特定の 効果を謳うことは問題がある旨指導されたことを踏まえ、令和元年5月及び7月 10 時点においては、被告製品は清涼飲料水である旨を記載し、無限七星FISHに 関する記載のない契約書のひな形を使用していたことが認められる。 以上の事実関係に照らすと、被告は、平成31年3月18日までの時点におい ては、「無限七星」は鮮魚の洗浄・制菌を目的とするものであるとして無限七星 5 FISH、旧被告製品ないし被告製品の販売代理店契約を締結しており、その後、 販売代理店契約書上は、被告製品は清涼飲料水である旨が記載されるようになっ たものの、被告製品の販売代理店である時間グループやユニークBizは、各ウェ ブサイトにおいて、被告製品が「無限の可能性を持つ水」であることや「魚の切 り身が生のままで7日間もつ魔法の水」であるなどと広告し、被告も、そのウェ10 ブサイトにおいて、鮮魚等の鮮度を維持する保存技術等を放送したテレビ番組を 紹介して、被告製品の可能性は無限大である旨を記載しているのであるから、被 告製品は、少なくとも魚介類の鮮度を保持する機能を有し、かつ、被告は、少な くとも魚介類の鮮度を保持する用途として被告製品を販売しているものと認めら れる。 15 したがって、被告製品は、構成要件Cに係る構成を有するものと認められる。 (3) 構成要件D(「機能水」であるか)について 被告製品は、構成要件A及びBに規定される組成を有し、水及びポリアリルア ミン重合体の総含有量が95重量%以上であって、構成要件Cに係る構成を有す るから、機能水であると認められ、構成要件A〜Dに係る構成をいずれも有する。 20 (4) 被告の主張について 被告は、被告製品を清涼飲料水として販売しているから、少なくとも平成31 年3月以降に販売した被告製品は、特定の用途を目的とする製品として製造され 販売されたものではない旨を主張し、これを裏付ける証拠として、被告製品の販 売代理店である時間グループ及びユニークBizの代表取締役の陳述書(乙34、 25 35)を提出する。 しかし、前記陳述書は、被告製品を清涼飲料水として販売した実績はあるが、 11 魚介類又は精肉の鮮度保持の用途に使用することを目的として販売したことはな い旨が記載されているにとどまることに加え、その記載内容は、前記(2)の時間グ ループ等の各ウェブサイトの掲載内容等に反するものである。 したがって、被告が提出する前記陳述書の内容は直ちに信用することができず、 5 被告の前記主張は採用できない。 (5) 以上から、被告製品は、本件発明の各構成要件を充足し、その技術的範囲 に属する。 2 公然実施発明(引用発明)に基づく新規性欠如の有無(争点2-1) (1) 前提事実に加え、後掲各証拠(特に明示する場合を除き、枝番があるもの10 は枝番を含む)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア リベラル社は、平成30年7月5日、発明の名称を「活量調質水溶液及び 活量調質媒体の製造方法」とする別件特許により、水酸化物イオン活量調質水溶 液を製造し、用途に応じてこれを希釈して、「ATW-1、ATW-01、AT W-001」を製造する旨を記載した「アミノミネラル製造フローチャート」を15 作成した(甲21、乙1)。なお、前記フローチャートでは、別件特許により「ア ミノ基水溶液」を製造する旨が記載されており、当該水溶液はアミノ基を含む成 分が入っていることがうかがえるところ、別件特許の公報に記載されている方法 のみから当該水溶液を製造する趣旨かどうかについては明らかでない。 イ 被告は、平成30年9月、清涼飲料水製造業の営業許可を受けた(乙8)。 20 被告は、同年10月頃から、リベラル社より旧ATWを購入し、そのままボト ルに詰め、又は、ラベルを貼り替える方法により、飲用を主な用途とする旧被告 製品のほか、魚の鮮度保持を主な用途とする無限七星FISHを製造し、販売し ていた(乙2、4、5)。 リベラル社は、同月20日付けの請求書において、被告に対し、1リットル当25 たりの単価を3000円として旧ATWの売買代金を請求した(乙2)。 ウ 被告は、平成30年11月28日までの間に、テレビ局から、無限七星F 12 ISHの取材依頼を受け、平成31年2月10日、無限七星FISHに鮮魚の鮮 度を保持する機能があること、無限七星FISHに含まれるアミノ基により前記 機能を奏すること等を紹介するテレビ番組が放送された(甲20、乙6)。 エ 被告は、原告による平成31年2月7日の本件特許出願の後から、リベラ 5 ル社より、本件特許に規定される組成を有する現ATWを購入し、それを10倍 に希釈して、被告製品及び無限七星FISHを製造し、販売するようになった。 リベラル社は、同月12日付けの請求書において、被告に対し、1リットル当 たりの単価を3万円として現ATWの売買代金を請求した(乙3)。 被告は、愛媛県からの指導を踏まえ、同年3月頃から、無限七星FISHの製10 造販売を中止した。 オ 被告、リベラル社及びATW社は、令和元年12月5日、ATW社が、リ ベラル社のATW水溶液に関する被告との取引を引き継ぎ、被告がATW社のA TW水溶液の販売事業に関する代理店となること、ATW水溶液の仕様は、別件 特許の製造方法によること、ATW水溶液の品質は標準仕様と10倍濃縮仕様が15 あること等を合意し(以下「本件代理店契約」という。)、以後、被告は、AT W社から現ATWを購入するようになった(乙9)。 カ 被告は、令和2年6月24日、リベラル社及びATW社に対し、リベラル 社らが現ATWの内容物の開示を拒否すること等により信頼関係が破壊されたと 主張して、本件代理店契約を解除する旨を記載した通知書を送付し、同年7月頃、 20 本件代理店契約は解除された(乙10、11)。 キ ATW社は、令和2年8月21日、神戸地方裁判所に対し、本件の被告を 被告として、本件代理店契約に基づく売買代金の支払を求める訴えを提起した(神 戸地方裁判所令和2年(ワ)第1296号売買代金請求事件。以下「別件訴訟」 という。乙38)。 25 別件訴訟において、被告(本件の被告)が、「被告は従来、原告側から旧AT Wと現ATWは希釈率が異なるだけだと説明を受けてきたが、原告側は特許侵害 13 訴訟(本件)の訴状にて旧ATWと現ATWとが全く別の商品であるとの主張を した」旨を指摘したことに対し、ATW社は、旧ATWと現ATWは、いずれも アミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧AT Wである旨を記載した準備書面を提出した(乙26の1・2)。 5 (2) 無限七星FISHの構成について ア 前記(1)アによれば、リベラル社は、平成30年7月5日時点において、別 件特許(「活量調質水溶液及び活量調質媒体の製造方法」)により、水酸化物イ オン活量調質水溶液を製造し、これを希釈して、旧ATWのほか「ATW-1、 ATW-001」を製造していたことが認められるところ、前記(1)イのとおり、 10 被告は、当初、リベラル社から購入した旧ATWをそのままボトルに詰め、又は、 ラベルを貼り替える方法により、旧被告製品や無限七星FISHを製造し、販売 していたのであるから、これらの製品は、前記水溶液を希釈したものであると認 められる。一方、前記(1)エ及びオのとおり、被告は、原告の本件特許出願の後か らは、リベラル社から購入した本件特許に規定される組成を有する現ATWを115 0倍希釈して被告製品や無限七星FISHを製造、販売するようになったところ、 本件代理店契約においては、現ATWを含めたATW水溶液は、別件特許の製造 方法による旨の合意がなされている。 また、原告が代表取締役を務めるATW社は、別件訴訟において、旧ATWと 現ATWは、いずれもアミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを1020 倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した準備書面を提出しているところ、リ ベラル社が発行した請求書では、現ATWの1リットル当たりの単価は旧ATW の同単価の10倍になっていること、本件代理店契約においてATW水溶液の品 質として標準仕様と10倍濃縮仕様がある旨の記載があることのほか、原告も、 本件訴訟において、現ATWは旧ATWの10倍の濃度である旨を主張している25 (原告準備書面(4)第2の2(3)イ)。 これらの事実関係に照らすと、旧ATW及び現ATWは、一貫して、同様の製 14 造方法により製造された、アミノ基を含む成分が水溶、濃縮された水酸化物イオ ン活量調質水溶液を希釈したものであり、本件特許に規定される組成を有する現 ATWを10倍希釈したものが旧ATWであると認められる。 イ また、証拠(乙2、18、24、25、33、36、37)及び弁論の全 5 趣旨によれば、次の事実が認められる。 すなわち、被告が平成30年11月10日にリベラル社に対して発注し同月1 2日に納品された旧ATWのボトル20本のうち、開封せずに保管していたもの (以下「保管ボトル」という。)について、被告がそのうち1本を開封し、10 0ml分(以下「分析対象物」という。)を小分けにして、愛媛大学のP2名誉10 教授に提供した。同教授は、令和3年9月30日、分析対象物について、乙18 分析をした結果、分析対象物の含有成分はポリアリルアミンであることが判明し た。また、被告は、保管ボトルのうち1本(被告が「無限七星FISH」のラベ ルを貼付したもの)を、株式会社東ソー分析センターに提供し、前記センターは、 同年10月19日、保管ボトルの内容物について乙24分析をした結果、その重15 量平均分子量は、4.5×10?であった。 ウ 前記(1)イ及びウのとおり、無限七星FISHは、鮮魚の鮮度を保持する機 能があり、魚の鮮度保持を主な用途として販売されており、また、証拠(乙19) 及び弁論の全趣旨によれば、リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分表記に は「重合アミン、水」との記載があったことが認められる。 20 エ 前記ア〜ウの事実関係に照らすと、現ATWが10倍に希釈化された旧A TWと同一成分である無限七星FISHに係る引用発明は、ポリアリルアミン又 はその塩を機能成分として含有し、 ポリアリルアミンの総含有量が95重量% 水、 以上である水であって(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜 50000であって(b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能25 水(d’)という構成を有するものと認められるから、被告製品のみならず、旧 被告製品や無限七星FISHも本件発明の各構成要件を充足するものと認められ 15 る。 したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足する。 (3) 公然実施について 特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者 5 が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)イのとおり、 被告は、本件特許の優先日前の平成30年10月から、無限七星FISHを製造 及び販売して、引用発明を実施した。 (4) 原告の主張について ア 原告は、旧ATWは、別件特許に基づく方法により製造されているのに対10 し、現ATWは、ポリアリルアミンを使用して製造されているから、両者の成分 は異なる旨を主張する。 しかし、両者の成分の違いを明らかにする証拠はなく、前記(1)オ及びキのとお り、被告は、本件代理店契約において、リベラル社及びATW社との間で、AT W水溶液の仕様は、別件特許の製造方法によることを合意したことや、ATW社15 が、別件訴訟において、旧ATWと現ATWは、いずれもアミノ基という原子団 を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した 準備書面を提出したのであるから、旧ATWと現ATWの製造方法が異なる旨や 両者の成分が異なる旨の原告の主張は直ちに採用することはできず、その他、原 告の主張事実を裏付ける証拠はない。 20 イ また、原告は、乙18分析及び乙24分析は、いずれも、測定対象の水溶 液がどの時期に製造、販売され、どういう形で試験に供されたのか全く不明であ ることを指摘し、さらに、乙18分析の内容については、@乙18のFig.1の スペクトルの面積比を理由に高分子化合物の繰り返し構造をCH?-CH-CH? と推定することが困難なこと、A3ppm付近のシグナルの変化を理由に当該シ25 グナルがアミン(CH?-NH?)であると推定できる根拠が不明であること、B Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なることといった疑問点があるから、 16 いずれも信用性がない旨を主張する。 しかし、前記(1)認定の事実からすれば、乙18にいう「2018年10月に販 売が始まった初代無限七星」とは、旧ATWと成分を同じくする旧被告製品又は 無限七星FISHであると理解できるし、乙24は保管ボトルのうち1本を分析 5 した結果であることが明らかであり、これに反する証拠はない。そして、乙18 分析は、核磁気共鳴分光法及び質量分析法により、分析対象物の含有成分がポリ アリルアミンであることを推定した上で、それを踏まえて、分析対象物と市販の ポリアリルアミンの水溶液について核磁気共鳴分光法のスペクトルを比較して、 分析対象物の含有成分がポリアリルアミンであると結論づけているところ、原告10 の主張@について、原告主張のように、ポリマーのNMRはピーク(スペクトル) がブロードになりやすく、面積比を算出する切断箇所の設定によって面積比の値 が異なり得ることから、Fig.1のスペクトルの面積比「1.00:0.55: 0.80」が完全に「2:1:2」に一致しなくとも、同一環境の水素の数の比 を「2:1:2」とみなし、CH?-CH-CH?の部分構造が考えられるとする15 ことは不合理ではない。また、原告の主張Aについて、3ppm近辺のCH?に対 応するシグナルの位置は、隣に窒素原子が繋がっていることを示唆するところ、 トリフルオロ酢酸を加えると、2.7〜3.3ppmのシグナルが3.0ppm のシグナルに変化したというのであるから、分析対象物にトリフルオロ酢酸によ り塩を形成するアミン(CH?-NH?)が存在すると考えて矛盾はないというべ20 きである。さらに、原告の主張Bについては、確かに、Fig.1とFig.4a) のスペクトルは一致していないが、一方で、トリフルオロ酢酸塩のスペクトルで あるFig.2a)とFig.4b)は、ほぼ一致している(乙18、25)。こ の点について、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、ポリアリルアミンは、 共存物の影響でアミン部位が塩の状態になっている場合、スペクトルのピーク位25 置の出現がシフトする可能性があり、ポリアリルアミンの塩の形成状況によって スペクトルの形状が変化し、複雑になるものと認められ、一方で、強い酸である 17 トリフルオロ酢酸を加えて、全てのアミノ基をアンモニウムに変換し、均一な状 況にすることにより、一定の分析結果を得ることができたものと認められるから、 Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なるからといって、乙18分析の信 用性に疑義を生じさせることにはならない。 5 ウ したがって、原告の主張はいずれも採用することができない。 (5) 以上から、本件発明は、本件特許の優先日前に日本国内において公然実施 された発明であるから、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきもので あって、原告は、被告に対し、本件特許権を行使することができない(特許法1 23条1項2号、29条1項2号、104条の3第1項)。 10 3 結論 以上から、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がな いから棄却することとし、主文のとおり判決する。 |