運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2020-800102
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 令和 4年 (行ケ) 10027号 審決取消請求事件
5
原告松山株式会社
同訴訟代理人弁理士 樺澤聡
同 山田哲也 10
被告小橋工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋雄一郎
同 阿部実佑季 15 同訴訟代理人弁理士 林佳輔
同 福永健司
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/12/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由第1 請求特許庁が無効2020−800102号事件について令和4年3月17日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要25 1 特許庁における手続の経緯等? 被告は、名称を「耕耘爪」とする発明に係る特許(特許第66644391号、以下「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許は、平成25年10月18日を出願日とする特願2013−217312号(原出願)の一部を平成30年6月27日に分割出願した特願2018−122389号に係るものであり、出願人である被告は、令和元年7月2日に拒絶理由通知を5 受け、同年8月20日に手続補正書を提出して特許請求の範囲を補正し、令和2年2月20日、設定登録を受けた(出願時及び特許査定時の請求項の数5。以下、本件特許の願書に添付した明細書及び願書に添付した図面を併せて「本件明細書等」という。補正後の特許請求の範囲及び本件明細書等の内容は、別紙特許公報のとおりである。。
)10 ? 原告は、令和2年10月12日、特許庁に本件特許の請求項1ないし5に係る発明の特許につき無効審判請求をし、特許庁は上記請求を無効2020−800102号事件として審理した(以下「本件無効審判」という。。
)特許庁は、令和4年3月17日、結論を「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」とする審決(以下「本件審決」とい15 う。)をし、その謄本は同月28日に原告へ送達された。
? 原告は、令和4年4月21日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載本件特許の特許請求の範囲の請求項の記載は、次のとおりである(以下、本20 件特許の請求項1ないし5記載の発明を、請求項の番号に応じて、それぞれ「本件発明1」等といい、本件発明1ないし5を併せて「本件発明」という。)(請求項の構成要件の符号は、原告が本件無効審判において付したものである。本件審決第3の3?〔本件審決6〜7頁〕)。
? 請求項1(本件発明1)25 1A 耕耘軸に取り付けられる取付基部と、前記取付基部から連続して延びる縦刃部と、前記縦刃部から連続して延びる横刃部と、を有し、前記縦2刃部から前記横刃部に渡って前記耕耘軸の回転方向と逆方向に湾曲させ、
前記縦刃部に対して前記横刃部が前記耕耘軸の回転軸方向の一方に湾曲させた耕耘爪であって、
1B 前記縦刃部及び横刃部の刃縁側には、前記縦刃部から前記横刃部に渡5 って他の部分よりも硬度が高い硬質合金部が設けられ、
1C 前記硬質合金部の前記取付基部側の端部は、前記縦刃部の刃付け端部と略同じ位置に位置しており、
1D 前記硬質合金部の切っ先側の端部は、前記横刃部の端部近傍に位置しており、
10 1E 前記硬質合金部の峰側の端部は、前記取付基部側の端部から前記切っ先側の端部に至るまで、前記縦刃部及び前記横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている1F ことを特徴とする耕耘爪。
? 請求項215 2A 前記硬質合金部は、前記縦刃部及び前記横刃部における、前記縦刃部に対して前記横刃部が湾曲する方向と逆側の面に設けられている2B ことを特徴とする請求項1に記載の耕耘爪。
? 請求項33A 前記縦刃部と前記横刃部との境界線と刃縁との交点は、前記取付基部20 の延びる方向に前記取付基部から最も離れている3B ことを特徴とする請求項1又は2に記載の耕耘爪。
? 請求項44A 前記耕耘軸は、畦塗り機の旧畦を耕耘して土盛りを行う前処理部に用いられるものである25 4B ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の耕耘爪。
? 請求項535A 前記取付基部が装着される取付部の耕耘軸の回転方向の一方側を覆うと共に前記取付基部から縦刃部側に延びるように形成され、前記耕耘軸の軸方向端部を覆うカバー体の内面に付着した土を除去する土除去部材を備えた5 5B ことを特徴とする請求項4に記載の耕耘爪。
3 本件無効審判における原告主張の無効理由本件無効審判において、原告は、次のような無効理由を主張した(本件審決第3の1〔本件審決3〜5頁〕。
)? 無効理由1(甲1を主引用例とする新規性進歩性の欠如)10 ア 無効理由1−1(新規性欠如)本件発明1及び2は、甲1に記載された発明と同一であるから、特許法(以下「法」という。)29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであって、本件発明1及び2についての特許は、法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
15 イ 無効理由1−2(進歩性欠如)本件発明1及び2は、甲1に記載された発明に基づいて、又は甲1に記載された発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、
本件発明3は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基づいて、又は甲1に記載された発明、甲2に記載された技術的事項及20 び甲5に記載された技術的事項に基づいて、
本件発明4及び5は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術的事項に基づいて、又は甲1に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、
それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、法225 9条2項の規定により、特許を受けることができないものであって、本件発明1ないし5についての特許は、法123条1項2号に該当し、無効と4すべきものである。
? 無効理由2(甲5を主引用例とする進歩性の欠如)本件発明1及び2は、甲5に記載された発明並びに甲1、甲2、甲6、甲7及び甲8に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、
5 本件発明3は、甲5に記載された発明、甲2に記載された技術的事項及び上記周知技術又は公知技術に基づいて、
本件発明4及び5は、甲5に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び上記周知技術又は公知技術に基づいて、
それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、法2910 条2項の規定により、特許を受けることができないものであって、本件発明1ないし5についての特許は、法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
? 無効理由3(甲7を主引用例とする進歩性の欠如)本件発明1及び2は、甲7に記載された発明並びに甲1及び甲5に記載さ15 れた周知技術又は公知技術に基づいて、
本件発明3は、甲7に記載された発明、甲2に記載された技術的事項及び上記周知技術又は公知技術に基づいて、
本件発明4及び5は、甲7に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び上記周知技術又は公知技術に基づいて、
20 それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、法29条2項の規定により、特許を受けることができないものであって、本件発明1ないし5についての特許は、法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
? 無効理由4(明確性要件違反。構成1Cの「略同じ位置」という記載に関25 する主張)本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1の構成1C「略同じ位置」( )5が不明確であるから、法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件発明1ないし5についての特許は、法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。
? 無効理由5(明確性要件違反。構成1Eの「略一定の距離」という記載に5 関する主張)本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1の構成1E 「略一定の距(離」 が不明確であるから、
) 法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件発明1ないし5についての特許は、法123条1項4号10 に該当し、無効とすべきものである。
? 無効理由6(サポート要件違反。請求項1に記載された文言に関する主張)本件特許の特許請求の範囲の記載は、請求項1に記載された文言が発明の詳細な説明に記載されていないから、法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
15 したがって、本件発明1ないし5についての特許は、法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。
? 無効理由7(サポート要件違反。課題解決手段に関する主張)本件特許の特許請求の範囲の記載は、請求項1において発明の詳細な説明に記載された課題解決手段が反映されていないから、法36条6項1号に規20 定する要件を満たしていない。
したがって、本件発明1ないし5についての特許は、法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。
4 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は、別紙審決書(写し)のとおりであり、その理由の要旨は25 次のとおりである。
? 主引用発明の認定6ア 甲1記載の発明本件審決が認定した甲1(特開昭51−28274号公報)記載の発明(以下「甲1発明」という。)は、次のとおりである(本件審決第5の1?サ〔本件審決38頁〕)。
5 耕耘機の軸に取り付けられる取り付け部と、取り付け部に続く平板状の部分と、平板状の部分に続く湾曲した部分とを有し、
刃板類の刃先線の土との摩擦が激しい一側面に鋼より硬い、耐磨耗性の大なる金属に依って構成される硬質金属薄板を溶着して取付け、
硬質金属薄板は平板状の部分及び湾曲した部分に設けられており、
10 硬質金属薄板の峰側の端部は、平板状の部分と湾曲した部分との境界の断面においては、両刃のうちの硬質金属薄板がある側の刃の峰側の端部と同じ位置に位置する一方、硬質金属薄板がない側の刃の峰側の端部とは異なる位置に位置しており、
硬質金属薄板がある側では硬質金属薄板の切っ先側の端部が湾曲した部15 分の端部に位置しており、
硬質金属薄板の峰側の端部と刃板類の峰との距離が、硬質金属薄板側からの平面視で、湾曲した部分の切っ先側で小さくなっている耕耘機の爪。
イ 甲5記載の発明20 本件審決が認定した甲5(特開昭63−71102号公報)記載の発明(以下「甲5発明」という。)は、次のとおりである(本件審決第5の1?サ〔本件審決46〜47頁〕)。
トラクターの軸への取付用の爪柄部と、爪柄部に続く平板状の部分と、
平板状の部分に続く湾曲した部分とを有し、
25 平板状の部分と湾曲した部分とに刃部が設けられており、
刃部には二層鋼板を使用しており、
7二層鋼板は軟質の地鉄部と硬質の刃鋼部とが一体となって構成された鋼板であり、
刃部には多少の刄を形成してあり、
平板状の部分及び湾曲した部分には刃鋼部が設けられており、
5 刃鋼部の切っ先側の端部は、湾曲した部分の切っ先側の端部と概ね同じ位置に位置しており、
刃鋼部の峰側の端部と本体部の峰との距離が、地鉄部側からの側面視で、
湾曲した部分の切っ先側で大きくなっているトラクター用耕耘爪。
10 ウ 甲7記載の発明本件審決が認定した甲7(特開昭51−85905号公報)記載の発明(以下「甲7発明」という。)は、次のとおりである(本件審決第5の1?ク〔本件審決50頁〕)。
縦刃と、その先端を三次元的に屈曲して形成した横刃とによって構成さ15 れており、
縦刃は耕耘作業機の軸に取り付けられる取り付け部を有しており、
取り付け部に縦刃の他の部分が連続し、当該縦刃の他の部分に横刃が連続しており、
耕耘刃が実際の耕耘作業時に耕土中に潜る部分である作用部域におけ20 る縦刃の外側面であって、縦刃の先端に形成した横刃の屈曲した方向と反対側の面と、この面に連続する横刃の外側面に沿って、硬質合金による硬化層であって母材と別の金属による硬化層を層設し、
耕耘刃の切っ先側において硬質層が峰縁に達しており、硬質層の切っ先側の端部は横刃部の端部に達している25 耕耘作業機に用いられる耕耘刃。
? 無効理由に対する判断の要旨8各無効理由に対する本件審決の判断の要旨は次のとおりである。
ア 無効理由1(甲1を主引用例とする新規性進歩性の欠如)について(ア) 本件発明1についてa 本件発明1と甲1発明の対比5 本件審決が認定した本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、
次のとおりである(本件審決第5の3?ア〔本件審決62〜63頁〕。
)? 一致点耕耘軸に取り付けられる取付基部と、前記取付基部から連続して延びる縦刃部と、前記縦刃部から連続して延びる横刃部と、を有す10 る耕耘爪であって、
前記縦刃部及び横刃部の刃縁側には、前記縦刃部から前記横刃部に渡って他の部分よりも硬度が高い硬質合金部が設けられ、
前記硬質合金部の切っ先側の端部は、前記横刃部の端部近傍に位置している耕耘爪。
15 ? 相違点(i) 相違点1耕耘爪が、本件発明1では「縦刃部から横刃部に渡って耕耘軸の回転方向と逆方向に湾曲させ、縦刃部に対して横刃部が耕耘軸の回転軸方向の一方に湾曲させた」のに対して、甲1発明では「湾20 曲した部分」を有するものの「耕耘軸」との位置関係が明らかでない点。
(ii) 相違点2本件発明1では「硬質合金部の取付基部側の端部は、縦刃部の刃付け端部と略同じ位置に位置して」いるのに対して、甲1発明25 では「硬質金属薄板の端部は、平板状の部分と湾曲した部分との境界の位置においては、硬質金属薄板がある側では両刃の一側の9刃の端部と同じ位置に位置しており、硬質金属薄板がない側では両刃の他側の刃の端部と異なる位置に位置している」ものの、
「硬質合金部の取付基部側の端部」(「硬質金属薄板」 「取り付け部」の側の端部)と「縦刃部の刃付け端部」「平板状の部分」の「刃の(5 端部」)との位置関係が明らかでない点。
(iii) 相違点3本件発明1では「硬質合金部の峰側の端部は、取付基部側の端部から切っ先側の端部に至るまで、縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」のに対して、
10 甲1発明では「硬質合金部の峰側の端部」「硬質金属薄板」の峰(側の端部)と「縦刃部及び横刃部の峰」(「平板状の部分」及び「湾曲した部分」の峰)との位置関係が明らかでない点。
b 無効理由1−1(新規性欠如)について本件発明1は、相違点3において甲1発明と異なるから、本件発明15 1は甲1発明ではない(本件審決第5の3?イ(ア)〔本件審決63〜65頁〕。
)c 無効理由1−2(進歩性欠如)について本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができ20 たものではない。また、本件発明1は、甲1発明及び甲5に加えて、
甲6ないし甲9、甲13ないし甲19を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない(本件審決第5の3?イ(イ)〔本件審決65〜66頁〕)。
(イ) 本件発明2について25 本件発明2は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えたものである。そうすると、本件発明1が、甲1発明ではなく、甲1発明に10基づいて、又は甲1発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2も同様に、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をするこ5 とができたものでもない(本件審決第5の3?〔本件審決66頁〕。
)(ウ) 本件発明3について本件発明3は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えたものである。甲2に記載された技術的事項(以下「甲2技術的事項」という。本件審決第5の1?〔本件審決40〜41頁〕)は、相違点3に係る10 本件発明1の構成1Eを備えるものではない。そうすると、本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3は、甲1発明及び甲2技術的事項に基づいて、又は甲1発明並びに甲2及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が15 容易に発明をすることができたものではない(本件審決第5の3?〔本件審決66〜67頁〕。
)(エ) 本件発明4及び5について本件発明4は本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えたものであり、本件発明5は本件発明4にさらに限定を加えたものである。甲20 3に記載された発明(以下「甲3発明」という。本件審決第5の1?〔本件審決42頁〕)は、本件発明1の「硬質合金部」に相当する構成を有さないから、相違点3に係る本件発明1の構成を備えるものでないことは明らかである。そうすると、本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に25 発明をすることができたものではないから、本件発明4及び5は、甲1発明及び甲3に記載された技術的事項に基づいて、又は甲1発明並びに11甲3及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない(本件審決第5の3?〔本件審決67頁〕。
)イ 無効理由2(甲5を主引用例とする進歩性の欠如)について5 (ア) 本件発明1についてa 本件発明1と甲5発明の対比本件審決が認定した本件発明1と甲5発明の一致点及び相違点は、
次のとおりである(本件審決第5の4?ア〔本件審決68〜69頁〕。
)? 一致点10 耕耘軸に取り付けられる取付基部と、前記取付基部から連続して延びる縦刃部と、前記縦刃部から連続して延びる横刃部と、を有する耕耘爪であって、
前記縦刃部及び横刃部の刃縁側には、前記縦刃部から前記横刃部に渡って他の部分よりも硬度が高い硬質合金部が設けられ、
15 前記硬質合金部の切っ先側の端部は、前記横刃部の端部近傍に位置している耕耘爪。
? 相違点(i) 相違点A耕耘爪が、本件発明1では「縦刃部から横刃部に渡って耕耘軸20 の回転方向と逆方向に湾曲させ、縦刃部に対して横刃部が耕耘軸の回転軸方向の一方に湾曲させた」のに対して、甲5発明では「湾曲した部分」を有するものの「耕耘軸」との位置関係が明らかでない点。
(ii) 相違点B25 本件発明1では「硬質合金部の取付基部側の端部は、縦刃部の刃付け端部と略同じ位置に位置して」いるのに対して、甲5発明12では「硬質合金部の取付基部側の端部」「刃鋼部」の「爪柄部」(側の端部)と「縦刃部の刃付け端部」「平板状の部分」の「刄」(の端部)との位置関係が明らかでない点。
(iii) 相違点C5 本件発明1では「硬質合金部の峰側の端部は、取付基部側の端部から切っ先側の端部に至るまで、縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」のに対して、
甲5発明では「硬質合金部の峰側の端部」「硬質の刃鋼部」の峰(側の端部)と「縦刃部及び横刃部の峰」(「平板状の部分」及び「湾10 曲した部分」の峰)との位置関係が明らかでない点。
進歩性について本件発明1は、甲5発明、並びに甲1、甲2、甲6、甲7及び甲8に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない(本件審決第5の4?イ〔本件審決15 69〜70頁〕。
)(イ) 本件発明2及び3について本件発明2及び3は本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えたものである。そうすると、本件発明1が、甲5発明、並びに甲1、甲2、甲6、甲7及び甲8に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、
20 当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2も同様に、甲5発明、並びに甲1、甲2、甲6、甲7及び甲8に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件発明3は、甲5発明、甲2技術的事項、並びに甲1、甲2、甲6、甲7及び甲8に記載された周知技術又は25 公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない(本件審決第5の4?〔本件審決70頁〕。
)13(ウ) 本件発明4及び5について本件発明4は本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えたものであり、本件発明5は本件発明4にさらに限定を加えたものである。また、甲3発明は、本件発明1の「硬質合金部」に相当する構成を有さな5 いから、相違点Cに係る本件発明1の構成を備えるものでないことは明らかである。そうすると、本件発明1が、甲5発明、並びに甲1、甲2、
甲6、甲7及び甲8に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明4及び5は、甲5発明、甲3に記載された技術的事項、並びに甲1、甲2、
10 甲6、甲7及び甲8に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない(本件審決第5の4?〔本件審決70頁〕。
)ウ 無効理由3(甲7を主引用例とする進歩性の欠如)について(ア) 本件発明1について15 a 本件発明1と甲7発明の対比本件審決が認定した本件発明1と甲7発明の一致点及び相違点は、
次のとおりである(本件審決第5の5?ア〔本件審決71〜72頁〕。
)? 一致点耕耘機に取り付けられる取付基部と、前記取付基部から連続して20 延びる縦刃部と、前記縦刃部から連続して延びる横刃部と、を有する耕耘爪であって、
前記縦刃部及び横刃部の刃縁側には、前記縦刃部から前記横刃部に渡って他の部分よりも硬度が高い硬質合金部が設けられ、
前記硬質合金部の切っ先側の端部は、前記横刃部の端部近傍に位25 置している耕耘爪。
? 相違点14(i) 相違点a耕耘爪が、本件発明1では「縦刃部から横刃部に渡って耕耘軸の回転方向と逆方向に湾曲させ、縦刃部に対して横刃部が耕耘軸の回転軸方向の一方に湾曲させた」のに対して、甲7発明では「そ5 の先端を三次元的に屈曲して形成した横刃」を有するものの「横刃」と「耕耘軸」との位置関係が明らかでない点。
(ii) 相違点b本件発明1では「硬質合金部の取付基部側の端部は、縦刃部の刃付け端部と略同じ位置に位置して」いるのに対して、甲7発明10 では「耕耘刃の切っ先側において、硬質層の峰側の端部が切っ先の手前で峰縁に達して」いる点。
(iii) 相違点c本件発明1では「硬質合金部の峰側の端部は、取付基部側の端部から切っ先側の端部に至るまで、縦刃部及び横刃部の峰から刃15 縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」のに対して、
甲7発明では「耕耘刃の切っ先側において硬質層が峰縁に達しており」切っ先側の端部では硬質層の峰側の端部と横刃の峰との間、
に距離がない点。
進歩性について20 本件発明1は、甲7発明、並びに甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない(本件審決第5の5?イ〔本件審決72〜73頁〕。
)(イ) 本件発明2について本件発明2は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えたも25 のである。そうすると、本件発明1が、甲7発明、並びに甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、当業者が容易に発明を15することができたものではないから、本件発明2も同様に、甲7発明、
並びに甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない(本件審決第5の5?〔本件審決73頁〕。
)5 (ウ) 本件発明3について本件発明3は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えたものである。また、甲2技術的事項も相違点cに係る本件発明1の構成を備えるものではない。そうすると、甲2技術的事項、並びに甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術から、当業者が相違点cに係る本10 件発明3の構成を想到することができたとはいえない。してみると、本件発明3は、甲7発明、甲2技術的事項、並びに甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない(本件審決第5の5?〔本件審決73頁〕。
)(エ) 本件発明4及び5について15 本件発明4は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えたものであり、本件発明5は本件発明4に更に限定を加えたものである。また、甲3発明は、本件発明1の「硬質合金部」に相当する構成を有するものではないから、相違点cに係る本件発明1の構成を備えるものでないことは明らかである。そうすると、本件発明1が、甲7発明、並びに20 甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明4及び5は、
甲7発明、甲3に記載された技術的事項、並びに甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない(本件審決第5の5?〔本件審決73頁〕。
)25 エ 無効理由4(明確性要件違反。構成1Cの「略同じ位置」という記載に関する主張)について16当業者は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、出願当時における技術常識を基礎として、本件特許請求の範囲の請求項1の「前記硬質合金部の前記取付基部側の端部は、前記縦刃部の刃付け端部と略同じ位置に位置しており」(構成1C)という記載の意味を理解すること5 ができるから、当該記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとまではいえない(本件審決第5の6?〔本件審決77頁〕。
)オ 無効理由5(明確性要件違反。構成1Eの「略一定の距離」という記載に関する主張)について当業者は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、出願10 当時における技術常識を基礎として、本件特許請求の範囲の請求項1の「前記縦刃部及び前記横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」(構成1E後半)という記載の意味を理解することができるから、当該記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとまではいえない(本件審決第5の2?〔本件審決61頁〕。
)15 カ 無効理由6(サポート要件違反。請求項1に記載された文言に関する主張)について本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである(本件審決第5の7?〔本件審決77〜78頁〕。
)20 キ 無効理由7(サポート要件違反。課題解決手段に関する主張)について本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである(本件審決第5の8?〔本件審決79頁〕。
)5 原告主張に係る取消事由25 ? 取消事由1(無効理由5(明確性要件違反)関係)? 取消事由2(無効理由4(明確性要件違反)関係)17? 取消事由3(無効理由6(サポート要件違反)関係)? 取消事由4(無効理由7(サポート要件違反)関係)? 取消事由5(無効理由1(甲1を主引用例とする新規性進歩性の欠如)関係)5 ア 取消事由5−1(甲1発明の認定の誤り)イ 取消事由5−2(本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定の誤り)ウ 取消事由5−3(甲1発明を主引用例とする本件発明1の新規性進歩性の判断の誤り)10 ? 取消事由6(無効理由2(甲5を主引用例とする進歩性欠如)関係)ア 取消事由6−1(甲5発明の認定の誤り)イ 取消事由6−2(本件発明1と甲5発明の一致点及び相違点の認定の誤り)ウ 取消事由6−3(甲5発明を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断15 の誤り)? 取消事由7(無効理由3(甲7を主引用例とする進歩性欠如)関係)ア 取消事由7−1(甲7発明の認定の誤り)イ 取消事由7−2(本件発明1と甲7発明の一致点及び相違点の認定の誤り)20 ウ 取消事由7−3(甲7発明を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)第3 当事者の主張1 取消事由1(無効理由5(明確性要件違反)関係)について〔原告の主張〕25 本件明細書等の段落【0042】の「所定の距離」は「一定の距離」を意味するものではなく(所定の距離≠一定の距離)、本件発明1の構成1Eの「略一18定の距離」という記載は不明確である。その理由は、次の理由1ないし6のとおりである。
? 理由1(図6の記載)本件明細書等の図6では、硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部5 の峰との距離は、徐々に減少しており、少なくとも平板状の縦刃部で、硬質合金部の峰側の端部と縦刃部の峰との距離が徐々に減少しているから、本件明細書等の段落【0042】の「所定の距離」の「所定」とは、
「一定」という意味ではなく、図6に示されたように徐々に減少するように定まっているという意味である。
10 ? 理由2(図6と甲5に関する判断の矛盾)本件審決が、本件明細書等の図6から、本件発明1の硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離が一定であると判断する一方で、甲5について、「第1図ないし第3図を総合しても、・・・「二層鋼板(2)」の峰側の端部と「本体部(1)」の峰との距離を正確に把握することまではでき15 ず」(本件審決第5の1?ク〔本件審決45頁〕)と判断したのは、矛盾である。
? 理由3(本件発明1によれば側面の摩耗が不均一であること)甲26(被告提出の令和3年7月26日付け口頭審理陳述要領書)の図10(本件発明1に係る構造を備える縦刃部及び横刃部の側面の、使用による20 摩耗が生じた状態の写真、甲26〔12頁〕)を見ると、縦刃部側面は赤の塗装が剥がれて銀色となって摩耗が進行しているのに対し、横刃部側面は赤の塗装が残っていてほとんど摩耗していないから、縦刃部と横刃部の側面の摩耗の進行は明らかに異なり、縦刃部側面は横刃部側面よりも摩耗しやすい。
そのため、硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離を一25 定としても、「カバー体55の後板部55cに付着した土を除去することで生じる縦刃部54b及び横刃部54cの側面の摩耗が、縦刃部54b及び横19刃部54cに渡って均一となるので、さらに第3耕耘爪54の長寿命化を図ると共に耕耘性能の低下を防止すること可能となる。」という本件明細書等の段落【0042】に記載された作用効果を奏することはなく、同段落の記載の内容は不明であり、そこにいう「所定の距離」は「一定の距離」を意味5 するものではない(所定の距離≠一定の距離)ことは明白であるから、同段落の「所定の距離」は「略一定の距離」であるとした本件審決の判断は誤りである。
また、カバー体の後板部の付着土を除去することで生じる縦刃部側面の摩耗と、横刃部側面の摩耗とを均一とするためには、縦刃部側面のみに硬質合10 金部を設ければよく、それによって長寿命化を図ることができる。
? 理由4(甲26によれば摩耗が均一とはいえないこと)被告が甲26〔12頁〕で、本件発明1に係る構造を備える縦刃部及び横刃部の側面について、使用前の状態を撮影した写真である図9と使用による摩耗が生じた状態を撮影した写真である図10を並べて表示していることか15 らすれば、被告自身が、本件明細書等の段落【0042】の「所定の距離」が「一定の距離」を意味しないことを示しているものである。
? 理由5(本件明細書等の図4(a)の記載)本件明細書等の図4(a)では、第3耕耘爪54の横刃部54cは湾曲しているためカバー体55の後板部55cに近接していないから、後板部55cに20 こびり付いた土と直接接触するのは、縦刃部54bのみであり、横刃部54cより縦刃部54bの方が摩耗しやすいことは明らかであり、本件発明1の構成1Eのように硬質合金部の峰側の端部が縦刃部及び横刃部の峰から略一定の距離をおいて峰に沿っているとしても、縦刃部と横刃部の側面の摩耗は均一にはならず、縦刃部側面が先にすり減ってしまう。
25 ? 理由6(出願当初の請求項1の記載)本件特許の出願当初の請求項1は、
「前記耕耘爪は、前記耕耘軸の軸方向端20部を覆うカバー体に隣接する位置に配置され、前記横刃部は、前記耕耘軸の軸方向のうち前記カバー体とは反対方向に湾曲」するという構成(以下「構成X」という。(甲28、特開2018−157831号公報)により限定)されており、この構成Xは、本件明細書等の段落【0042】記載の作用効5 果を奏するために必要であったが、その後補正により削除され、本件発明1は、構成Xにより限定されたものでなくなり、同段落記載の作用効果を奏することはなくなった。それにもかかわらず、本件審決が、本件発明1が本件明細書等の段落【0042】記載の作用効果を奏することを前提として、同段落の「所定の距離」が「略一定の距離」を意味すると判断したのは誤りで10 ある。
〔被告の主張〕本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」という記載は不明確ではない。
? 原告主張の理由1(図6の記載)について本件発明1の構成1Eは「略一定の距離をおいて」という記載を含み、本15 件明細書等の段落【0042】には「所定の距離をおいて」と記載されているところ、「所定」という言葉の意味は、「定まっていること。定めてあること。」であるから、
「一定」の語義は、
「所定」の語義と矛盾するものではない一方、
「所定」という言葉自体は、「徐々に変化する」ように定まることを明示的に意味するものではない。原告の主張は、本件明細書等の図6の図面の20 みに依拠するものであって、本件特許明細書の記載についての検討を欠いている。したがって、原告主張の理由1は、構成1Eの「略一定の距離」という記載が不明確であることの根拠とはなり得ない。
? 原告主張の理由2(図6と甲5に関する判断の矛盾)について原告主張の理由2は、理由1を前提とする点から誤りである。また、本件25 明細書等の記載と甲5の記載は異なるから、本件審決が、本件発明1の硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離が一定であると判断21する一方で、甲5について、
「第1図ないし第3図を総合しても、
・・・『二層鋼板(2)』の峰側の端部と『本体部(1)』の峰との距離を正確に把握することまではできず」(本件審決第5の1?ク〔本件審決45頁〕)と判断したことに誤りはない。
5 ? 原告主張の理由3(本件発明1によれば側面の摩耗が不均一であること)、
理由4(甲26によれば摩耗が均一とはいえないこと)、理由5(本件明細書等の図4(a)の記載)について原告主張の理由3ないし5は、発明の明確性とは無関係の議論であり、本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」という記載が不明確であることの根10 拠とはなり得ない。
? 原告主張の理由6(出願当初の請求項1の記載)について本件発明1に係る耕耘爪が奏する作用効果(耕耘抵抗の増加を避けつつ、
くびれ摩擦を防ぐこと)は、構成Xを備えるか否かにかかわらず生じる作用効果であるから、そのような作用効果発生のために構成Xを備えることは不15 要であり、原告主張の理由6は、構成1Eの「略一定の距離」という記載が不明確であることの根拠とはなり得ない。
2 取消事由2(無効理由4(明確性要件違反)関係)について〔原告の主張〕本件明細書等の図5と図6には、硬質合金部の取付基部側の端部と縦刃部の20 刃付け端部とが大きくずれて明らかに異なる箇所に位置する状態が図示されており、そのずれの寸法は、挿入孔54dの孔径と同程度で約12o以上はあるので、このずれは誤差範囲とはいえず、硬質合金部の取付基部側の端部と縦刃部の刃付け端部とを「同じ位置」に設けるという技術的思想は、本件明細書等には開示されておらず、本件明細書等には「刃付け端部」という文言すら見25 当たらない。
したがって、本件発明1の構成1Cの「略同じ位置」という記載は不明確で22ある。
〔被告の主張〕本件発明1の構成1Cの「略同じ位置」という記載は不明確ではない。
発明が明確であるかどうかは、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常5 識を考慮して、発明の範囲を理解できるか否かにより判断されるべきものであり、本件審決の判断に誤りはなく、原告の主張は、図面に対する単なる原告の主観を述べたものにすぎず、本件審決に取り消すべき違法があることを裏付けるに足りるものではない。
3 取消事由3(無効理由6(サポート要件違反)関係)について10 〔原告の主張〕本件発明1の「略一定の距離」(構成1E)及び「略同じ位置」(構成1C)という構成は、いずれも本件明細書等にその記載及び示唆がなく、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許の請求項1の記載はサポート要件を充足しない。また、本件明細書等の段落【0042】に記15 載された「第3耕耘爪54の長寿命化を図ると共に耕耘性能の低下を防止する」という作用効果を実現するためには、出願当初の請求項1に記載された「前記耕耘爪は、前記耕耘軸の軸方向端部を覆うカバー体に隣接する位置に配置され、
前記横刃部は、前記耕耘軸の軸方向のうち前記カバー体とは反対方向に湾曲」するという構成(構成X)を備えることは必須であり、補正により構成Xが削20 除された現在の請求項1により定められる本件発明1は、本件明細書等の同段落に記載された作用効果を奏することはなく、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
したがって、本件特許の請求項1の記載はサポート要件を充足しない。
〔被告の主張〕25 原告の主張は、実質的には、取消事由1(無効理由5関係)及び取消事由2(無効理由4関係)における原告の主張の繰り返しであり、いずれも誤りであ23る。本件発明1の「略一定の距離」(構成1E)及び「略同じ位置」(構成1C)という構成は、いずれも不明確ではなく、また、本件発明1が構成Xを備えない限り本件明細書等の段落【0042】記載の作用効果を奏しないとはいえない。
5 したがって、原告の主張は失当である。
4 取消事由4(無効理由7(サポート要件違反)関係)について〔原告の主張〕本件明細書等の段落【0042】の「所定の距離」は、
「一定の距離」を意味するものではないから(所定の距離≠一定の距離)、本件発明1の構成1E(前10 記硬質合金部の峰側の端部は、前記取付基部側の端部から前記切っ先側の端部に至るまで、前記縦刃部及び前記横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている)は、本件明細書等の同段落記載の手段に対応するものではなく、同段落記載の作用効果は、補正により請求項1から削除された構成Xを備えなければ生じない。
15 したがって、請求項1には発明の詳細な説明に記載された課題解決手段が反映されておらず、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えたものである。
〔被告の主張〕本件明細書等の段落【0042】の「所定の距離」は、本件発明1の構成120 Eの「略一定の距離」と異なる意味とは解されず、また、同段落に記載された耕耘爪の長寿命化等を図るという作用効果は、構成Xを備えない耕耘爪にも生じる作用効果であるから、原告の主張は失当である。
5 取消事由5(無効理由1(甲1を主引用例とする新規性進歩性の欠如)関係)について25 ? 取消事由5−1(甲1発明の認定の誤り)について〔原告の主張〕24本件発明1の構成1C(前記硬質合金部の前記取付基部側の端部は、前記縦刃部の刃付け端部と略同じ位置に位置しており、)の「略同じ位置」の意味について、被告が「完全に同じではないが、同じに近い状態である位置」であるとして、完全に同じ位置を積極的に除外していることも考慮すると、上5 記の「略同じ位置」は、そこに含まれる範囲は広く、広義の意味に解釈すべきである。そして、例えば甲13ないし甲18等からみて明らかなように、
縦刃部の刃付け端部(刃付け部分の取付基部側の端部)が、耕耘爪のうち回転方向前縁部の取付基部側の端部付近に位置することは、当業者の技術常識である。そのため、甲1発明も構成1Cを備えているといえる。
10 また、本件発明1の構成1E(前記硬質合金部の峰側の端部は、前記取付基部側の端部から前記切っ先側の端部に至るまで、前記縦刃部及び前記横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている)の「略一定の距離」の意味について、被告が「完全に同じではないが、一定に近い状態である距離」であるとして、完全に同じである場合を積極的に除外してい15 ることも考慮すると、上記の「略一定の距離」は、そこに含まれる範囲は広く、広義の意味に解釈すべきであり、そのため、甲1発明も構成1Eを備えているといえる。
したがって、本件審決による甲1発明の認定には誤りがある。
〔被告の主張〕20 原告は、構成1Cの「略同じ位置」の意味について、その範囲が広いということから、どんな位置関係でも「略同じ位置」に含まれるかのように主張するが、その主張には根拠がなく、そもそも、広いとなぜ甲1に構成1Cが記載されているといえるのかについては説明できておらず、原告の主張は誤りである。甲1発明では、硬質合金部の取付基部側の端部」「 (「硬質金属薄板」25 の「取り付け部」側の端部)と「縦刃部の刃付け端部」「平板状の部分」の(「刃の端部」 との位置関係が明らかでない。
) そして、原告がいうところの「耕25耘爪のうち回転方向前縁部の取付基部側の端部」という部分がどこの部分を指すのかがそもそも不明であるし、甲13ないし甲18に記載された耕耘爪における「刃付けされた部分」は、それぞれ、任意の位置から任意の位置まで配置されているにすぎず、「耕耘爪のうち回転方向前縁部の取付基部側の5 端部」なる部分から始まっているなどということは認識できない。そのため、
甲1には構成1Cは記載されていない。
また、構成1Eの「略一定の距離」は、その言葉の意味から、
「完全に一定ではないが、一定に近い状態である距離」と解釈され、当業者であれば、これに該当するか否かを理解することができる。原告は、構成1Eの「略一定10 の距離」の意味について、その範囲が広いということから、どんな距離でも「略一定の距離」に含まれるかのように主張するが、その主張には根拠がなく、そもそも、広いとなぜ甲1には構成1Eが記載されているといえるのかは説明できておらず、原告の主張は誤りである。甲1発明では、
「硬質合金部の峰側の端部」(「硬質金属薄板」の峰側の端部) 「縦刃部及び横刃部の峰」と15 (「平板状の部分」 「湾曲した部分」及び の峰)との位置関係が明らかでない。
そのため、甲1には構成1Eは記載されていない。
したがって、本件審決による甲1発明の認定に誤りはない。
? 取消事由5−2(本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定の誤り)について20 〔原告の主張〕本件審決における甲1発明の認定は誤りであるから、その甲1発明の認定を前提とした、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定も誤りであり、本件発明1と甲1発明との間に相違点はない。
〔被告の主張〕25 本件審決による本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定に誤りはない。
26? 取消事由5−3(甲1発明を主引用例とする本件発明1の新規性進歩性の判断の誤り)について〔原告の主張〕ア 本件発明1と甲1発明の間には相違点がなく又は実質的な相違点がない。
5 本件審決は、本件発明1は、相違点3に係る構成(構成1Eに対応するものであり、硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離が「略一定の距離」であることを含む。)を備えることにより、本件明細書等の段落【0042】に記載された効果を奏すると判断したが(本件審決第5の3?イ(ア)e〔本件審決64頁〕、本件明細書等の段落【0042】の)10 「所定の距離」は、「一定の距離」を意味するものではない(「所定の距離≠一定の距離」)から、同段落に記載された効果は、本件発明1の構成1Eに基づく効果ではなく、本件発明1の効果に関する本件審決の上記判断も誤りである。本件発明1の構成1E(「前記硬質合金部の峰側の端部は、前記取付基部側の端部から前記切っ先側の端部に至るまで、前記縦刃部及び15 前記横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」)の「略一定の距離」は広義の意味に解釈すべきであり、甲1発明も構成1Eを備える。
したがって、甲1発明を引用例とした場合に本件発明1には新規性がない。
20 イ 本件審決は、甲1発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて本件発明1の相違点3に係る構成(構成1E)を当業者が容易に想到することができなかった旨判断したが(本件審決第5の3?イ(イ) a〜e〔本件審決65頁〕、本件審決の上記の判断は誤りであり、本件発明1には進歩性が)ない。
25 〔被告の主張〕甲1発明を主引用例とした場合に本件発明1に新規性進歩性があるとし27た本件審決の判断(本件審決第5の3?イ〔本件審決63〜66頁〕)に誤りはない。
6 取消事由6(無効理由2(甲5を主引用例とする進歩性欠如)関係)について5 ? 取消事由6−1(甲5発明の認定の誤り)について〔原告の主張〕本件発明1の構成1C(前記硬質合金部の前記取付基部側の端部は、前記縦刃部の刃付け端部と略同じ位置に位置しており、)の「略同じ位置」は、広義の意味に解釈すべきであり、甲5発明は構成1Cを備える。
10 〔被告の主張〕原告は、構成1Cの「略同じ位置」の意味について、広義の意味に解釈すべきであることから、どんな位置関係や距離であっても、
「略同じ位置」に含まれるかのように主張するが、その主張には根拠がなく、そもそも、広義の意味に解釈するとなぜ甲5に構成1Cが記載されているといえるのかについ15 ては説明できておらず、原告の主張は誤りである。甲5発明では、
「硬質合金部の取付基部側の端部」「刃鋼部」の「爪柄部」側の端部)と「縦刃部の刃(付け端部」「平板状の部分」の「刄の端部」( )との位置関係が明らかでない。
そのため、甲5には構成1Cは記載されていない。
? 取消事由6−2(本件発明1と甲5発明の一致点及び相違点の認定の誤り)20 について〔原告の主張〕本件審決における甲5発明の認定は誤りであるから、その甲5発明の認定を前提とした、本件発明1と甲5発明の一致点及び相違点の認定も誤りであり、本件発明1と甲5発明との間に相違点はない。
25 〔被告の主張〕本件審決が認定した本件発明1と甲5発明の一致点及び相違点の認定に誤28りはない。
? 取消事由6−3(甲5発明を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)について〔原告の主張〕5 ア 本件発明1と甲5発明の間に相違点はない。また、本件発明1の構成1Cの「略同じ位置」は広義の意味に解釈すべきであり、甲5発明は構成1Cを備える。
したがって、甲5発明を引用例とした場合に本件発明1には新規性がない。
10 イ 本件審決は、本件発明1は、甲5発明、並びに甲1、甲2、甲6ないし甲8に記載された周知技術又は公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨判断したが(本件審決第5の4?イ〔本件審決69〜70頁〕、本件審決の上記の判断は誤りであり、本件発明1)に進歩性はない。
15 〔被告の主張〕原告は、構成1Cの「略同じ位置」の意味について、広義の意味に解釈すべきことから、どんな距離でも「略一定の距離」に含まれるかのように主張するが、その主張には根拠がなく、そもそも、広義の意味に解釈するとなぜ甲5には構成1Cが記載されているといえるのかは説明できておら20 ず、原告の主張は誤りである。
本件発明1と甲5発明の間に相違点Cがあるとして、甲5発明を主引用例とした場合に本件発明1に進歩性があるとした本件審決の判断(本件審決第5の4?イ〔本件審決69〜70頁〕)に誤りはない。
7 取消事由7(無効理由3(甲7を主引用例とする進歩性欠如)関係)につい25 て? 取消事由7−1(甲7発明の認定の誤り)について29〔原告の主張〕本件審決における甲7発明の認定は誤りである。
〔被告の主張〕本件審決における甲7発明の認定に誤りはない。
5 ? 取消事由7−2(本件発明1と甲7発明の一致点及び相違点の認定の誤り)について〔原告の主張〕本件審決における甲7発明の認定は誤りであるから、その甲7発明の認定を前提とした、本件発明1と甲7発明の一致点及び相違点の認定も誤りであ10 り、本件発明1と甲7発明の相違点は相違点α(本件発明1では、
「硬質合金部の峰側の端部は、取付基部側の端部から切っ先側の端部に至るまで、縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」(構成1E)のに対して、甲7発明では、硬質合金部の峰側の端部(硬化層2の峰側の端部)と縦刃部及び横刃部の峰との位置関係が明らかでない点。)15 のみである。
〔被告の主張〕本件審決が、本件発明1と甲7発明の相違点として相違点aないしcを認定したことに誤りはない。
? 取消事由7−3(甲7発明を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の20 誤り)について〔原告の主張〕本件発明1と甲7発明の相違点は相違点αであり、相違点αに係る本件発明1の構成は構成1Eであるところ、構成1Eは甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術にすぎないから、甲1及び甲5から容易に想到し得た25 のであり、甲7発明を主引用例とした場合に本件発明1は進歩性がない。
〔被告の主張〕30本件発明1と甲7発明の相違点cに係る本件発明1の構成(構成1E)は、
甲1及び甲5に記載された技術的事項から容易に想到することができなかったから、本件発明1は、甲7発明並びに甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではな5 いという本件審決の判断(本件審決第5の5?イ〔本件審決72〜73頁〕)に誤りはない。
第4 当裁判所の判断1 取消事由1(無効理由5(明確性要件違反)関係)について? 判断基準10 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、その技術的範囲に属するか否かの判断が困難となることにより第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断するのが相当15 である。
? 本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」という記載の明確性についてア 明確性の有無本件発明1の構成1E「前記硬質合金部の峰側の端部は、前記取付基部側の端部から前記切っ先側の端部に至るまで、前記縦刃部及び前記横刃部20 の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」には、
「略一定の距離」という記載がある。
「略」とは、
「はぶく。簡単にする。 の他、
」「ほぼ。おおよそ。あらまし。(大辞林第4版)を意味するところ、
」 「略一定の距離」における「略」は、このうち「ほぼ。おおよそ。あらまし。」を意味すると解され、「一定」とは、「一つに決まっていて変わらないこと。
25 また、決まっているもの。(大辞林第4版)を意味し、
」 「距離」とは、「二つの物・場所などの空間的な離れ方の大きさ。へだたり。」(大辞林第4版)31を意味するから、
「略一定の距離」とは、その通常の言葉の意味によれば、
「おおよそ、一つに定まって変わらない、二つの場所の間の隔たり」を意味すると解される。そうすると、上記構成1Eにおいて、
「略一定の距離をおいて」とは、その通常の意味によれば、硬質合金部の峰側の端部が、縦5 刃部及び前記横刃部の峰から、おおよそ、一つに定まって変わらない隔たりをおいて延びていることを意味するものと認められる。本件発明1が、
土からの作用により摩耗を受ける耕耘爪にかかる発明であることからすると、硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離は、作業機の耕耘爪にその性質上要求される精度の観点からして、厳密に寸分違10 わず一定の距離であることを必須とすると解すべき理由はないから、本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」とは、その通常の言葉の意味と異なるところはなく、硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との隔たりが、おおよそ一つに定まって変わらない隔たりであること、すなわち、上記の隔たりが厳密な意味で寸分違わず一つに定まって変わらないと15 いうまでの必要はないものの、一つに定まって変わらないとはおよそ言い難い隔たりとなるような態様を含まないこと、を意味するものと解される。
そして、本件明細書等の【発明が解決しようとする課題】に、
「本発明の目的とするところは、偏摩耗を生じにくくすることで、長寿命化を図ると共に耕耘性能の低下を防止することのできる耕耘爪を提供することにあ20 る。(段落【0007】」 )との記載があり、また、
【発明の効果】に、
「本発明によれば・・・横刃部に対して縦刃部が大きく摩耗する偏摩耗の発生を抑制することができ」(段落【0009】)という記載があることからすれば、本件発明1の構成1Eにおいて、
「略一定の距離」といえるかどうかは、
それによって、硬質合金部が設けられていない部分を含めて、
「横刃部に対25 して縦刃部が大きく摩耗する偏摩耗の発生を抑制することができ」(段落【0009】)るといえるような距離であればよく、その程度は、当業者で32あれば本件明細書等の記載等を勘案して理解することができるものと解される。
一方、本件明細書等の段落【0032】には「硬質合金部54eの峰側の端部は、縦刃部54b及び横刃部54cの峰から刃縁側に所定の距離を5 おいて峰に沿って延びている。」との記載があり、また、段落【0042】には「第3耕耘爪54の硬質合金部54eの峰側の端部は、縦刃部54b及び横刃部54cの峰から刃縁側に所定の距離をおいて峰に沿って延びている。」との記載があり、硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離が「所定の距離」をおいて延びている旨が記載されている。
10 「所定」とは、
「決められていること。(大辞林第4版)を意味し、決めら」れている内容として、隔たりが、おおよそ一つに定まって変わらないように決められていると解することは可能であるから、
「所定の距離」とは、その言葉の通常の意味として、上記で述べた「略一定の距離」を含むものと解される。そして、本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」という記載15 も、本件明細書等の段落【0032】及び【0042】の「所定の距離」という記載も、硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離について用いられていることからすれば、後者の「所定の距離」は、前者の「略一定の距離」と同じ意味を表すと解するのが自然である。そして、
そのように解することによって、本件発明1やその実施例が、本件明細書20 等に記載された作用効果を奏するものと理解することができる。
これに対し、後者の「所定の距離」を前者の「略一定の距離」ではないとする場合には、本件明細書等の段落【0032】及び【0042】の技術的な意味は明らかでなくなり、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明の記載によって合理的な発明の内容を具体的に把握することができ25 なくなるから、当業者が後者の「所定の距離」を前者の「略一定の距離」と異なる意味として解するとはいえず、後者の「所定の距離」は前者の「略33一定の距離」を意味するものと認められ、
「所定の距離」 「略一定の距離」がとは異なる意味を含む多義的な記載であると理解しなければならないとする理由はない。
そうであるとすると、当業者であれば、請求項1及び本件明細書等の記5 載を考慮して、本件発明1の構成1Eの、硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離が「略一定の距離」であることの意味を理解することができ、ある具体的な物(耕耘爪)について、硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離が、
「略一定の距離」に入るか否かを理解できるものと認められる。
10 したがって、本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」という記載は明確であると認められ、本件発明1に「略一定の距離」という記載があることをもって、発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されるとは認められないから、本件発明1は不明確であるとは認められない。
15 イ 原告の主張に対する判断原告は、原告主張の理由1ないし6を挙げて、本件明細書等の段落【0042】の「所定の距離」は「一定の距離」を意味するものではなく(所定の距離≠一定の距離)、本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」という記載は不明確であると主張するので、これについて検討する。
20 (ア) 原告主張の理由1(図6の記載)について原告は、本件明細書等の図6では、硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離は、徐々に減少しているから、本件明細書等の段落【0042】の「所定の距離」の「所定」とは、
「一定」という意味ではなく、図6に示されたように徐々に減少するように定まっている25 という意味である旨主張する。
しかし、本件明細書等の図6は、「第3耕耘爪の背面図」(段落【003410】で、
) 本件発明の一実施形態を示すとされている(段落【0011】)ものであり、具体的な寸法比率等を示す記載もないから、その性質及び態様からして、発明の内容を説明するための概要図であると認められ、
正確な寸法を示すものであると解すべき理由はない。そのため、図6か5 ら正確な寸法を見出すことはできないし、図6において、硬質合金部の峰側の端部と縦刃部の峰との距離が徐々に減少するように見えるとしても、本件発明1は、
「縦刃部に対して横刃部が耕耘軸の回転軸方向の一方に湾曲させた」(構成1Aの一部)という構成を備えるから、耕耘爪が横刃部にかけて遠方に向けて湾曲していることを表すためにそのような描10 き方をしたとも解される余地があり、図6においてそのように見えることから直ちに、本件発明1において、硬質合金部の峰側の端部と縦刃部の峰との距離が徐々に減少すると認めることはできない。本件明細書等の段落【0042】の「所定の距離」の「所定」の意味は、本件発明1の構成Eの記載や本件発明の作用効果等も考慮して解釈されるべきもの15 であり、原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 原告主張の理由2(図6と甲5に関する判断の矛盾)について原告は、本件審決が、本件明細書等の図6から、本件発明1の硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離が一定であると判断する一方で、甲5について、
「第1図ないし第3図を総合しても、
・・・20 『二層鋼板(2)』の峰側の端部と『本体部(1)』の峰との距離を正確に把握することまではできず」本件審決第5の1?ク( 〔本件審決45頁〕)と判断したのは、矛盾である旨主張する。
しかし、本件審決は、本件明細書等の段落【0042】の記載も考慮した上で、本件発明1の硬質合金部の峰側の端部と、縦刃部及び横刃部25 の峰との距離が一定であると判断したものであるところ(本件審決第5の2?イ〜カ〔本件審決59〜60頁〕、甲5には、本件明細書等の段)35落【0032】及び【0042】の「硬質合金部54eの峰側の端部は、
縦刃部54b及び横刃部54cの峰から刃縁側に所定の距離をおいて峰に沿って延びている。 という記載と同様の記載はないから、
」 本件審決の上記判断に矛盾はなく、原告の上記主張は採用することができない。
5 (ウ) 原告主張の理由3(本件発明1によれば側面の摩耗が不均一であること)についてa(a) 原告は、甲26の図10を見ると、縦刃部側面は赤の塗装が剥がれて銀色となって摩耗が進行しているのに対し、横刃部側面は赤の塗装が残っていてほとんど摩耗していないから、硬質合金部の峰側10 の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との距離を一定としても、本件明細書等の段落【0042】に記載された作用効果を奏することはなく、同段落の「所定の距離」は「略一定の距離」であるとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
(b) しかし、本件発明は、従来技術における耕耘爪は、耕土に接触す15 る横刃部の刃縁部にのみ硬質合金部が設けられていたところ(段落【0003】、横刃部のみに硬質合金部を設けた場合には、縦刃部)がカバー体の内面に付着した土により摩耗することで「横刃部よりも縦刃部が大きく摩耗する偏摩耗」が生じていたことを課題とし(段落【0006】、そのような、横刃部よりも縦刃部が大きく摩耗す)20 る「偏摩耗を生じにくくすることで、長寿命化を図ると共に耕耘性能の低下を防止する」ことを目的とする(段落【0007】)ものであって、本件発明は、縦刃部側面及び横刃部側面に対して必ず同じ摩耗が生じるようにすることを目的としたものとはいえないから、
両者に同じ摩耗が生じなければならないことを前提とする原告の主25 張は採用できない。
また、甲26の図10の写真は、耕耘爪の縦刃部側面及び横刃部36側面に対してどのような力が作用した結果によるものか不明であり、図10から、どのような力が作用しても必ず「縦刃部側面が横刃部側面よりも摩耗しやすい」とはいえない。図10の写真の縦刃部の塗料が土との摩擦によって剥離していたとしても、縦刃部に硬5 質合金部が設けられることにより、縦刃部の摩耗が抑制されれば、
「横刃部よりも縦刃部が大きく摩耗する偏摩耗」を防ぐことができ、
側面の摩耗が縦刃部と横刃部に渡って均一になると評価することも可能である。そうであるとすると、甲26の図10において縦刃部側面の塗料が剥離していることによって、本件発明1が本件明細10 書等の段落【0042】に記載された作用効果を奏することはないということはできず、
「所定の距離」が「略一定の距離」を意味しないということもできない。
さらに、甲26では、10頁及び11頁において、
「硬質合金部が取付基部側の端部から切っ先側の端部に至るまで峰に沿って伸び15 ていない場合、すなわち、峰から硬質合金部の峰側の端部までの距離が、取付基部側の端部から切っ先側の端部に至るまで所定の距離(本件特許の図5及び図6に示した実施例のような略一定の距離)でない構造の耕耘爪」〔10頁〕について、図7〔10頁〕及び図8〔11頁〕のように、縦刃部側面が摩耗により薄くなっていること20 が示されており、これらを比較対象として、12頁においては、
「これと異なり、本件発明1に係る耕耘爪においては、硬質合金部の峰側の端部が、縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に所定の距離(本件特許の図5及び図6に示した実施例においては略一定の距離)をおいて峰に沿って延びていますので、縦刃部及び横刃部の側面は略均25 一に摩耗することになります(図9乃至図12参照。。〔12頁〕)」と記載されている。そして、甲26の図7〔10頁〕及び図8〔1371頁〕において、横刃部の先端側は塗料が剥離しておらず、摩耗していないのであるから、図10〔12頁〕において横刃部の先端側の塗料が剥離しておらず、摩耗していないことは不自然ではなく、
図7〔10頁〕及び図8〔11頁〕と対比することにより、図105 〔12頁〕から、硬質合金部の峰側の端部が、縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に所定の距離(略一定の距離)をおいて峰に沿って延びている耕耘爪(図10の耕耘爪)において、縦刃部と横刃部の側面が略均一に摩耗することを認定することは可能である。
したがって、前記(a)の原告の主張は採用することができない。
10 b 原告は、カバー体の後板部の付着土を除去することで生じる縦刃部側面の摩耗と横刃部側面の摩耗とを均一とするためには、縦刃部側面のみに硬質合金部を設ければよく、それで長寿命化を図ることができると主張する。
しかし、本件明細書等によれば、従来技術においては横刃部にのみ15 硬質合金部が設けられていたものであり(段落【0003】、そのよ)うな横刃部のみに硬質合金部が設けられている耕耘爪においては、カバー体の内面に付着した土に縦刃部が接触し続けて横刃部よりも縦刃部が大きく摩耗する偏摩耗が生じるとされている(段落【0006】。
)耕耘爪は、耕耘軸に取り付けられてその周りを回転し、耕耘のために20 耕作地の土中に挿入されるものであるから、耕耘爪の摩耗は、耕耘する土との摩擦によって主に生ずるものと推認され、カバー体の土のみによって生じるものではなく、縦刃部側面のみに硬質合金部を設けるならば、横刃部が大きく摩耗する偏摩耗が生じることは容易に推認されるところであって、縦刃部側面のみに硬質合金部を設ければ縦刃部25 側面の摩耗と横刃部側面の摩耗とを均一とすることができると認めることはできない。
38したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 原告主張の理由4(甲26によれば摩耗が均一とはいえないこと)について原告は、被告が甲26〔12頁〕で、図9と図10を並べて表示して5 いることからすれば、被告自身が、本件明細書等の段落【0042】の「所定の距離」が「一定の距離」を意味しないことを示しているものである旨主張する。
しかし、前記(ウ)aのとおり、甲26の図10において縦刃部側面の塗料が剥離していることによって、本件発明1が本件明細書等の段落【010 042】に記載された作用効果を奏することはないということはできず、
「所定の距離」が「略一定の距離」を意味しないということはできないから、原告の上記主張は採用することができない。
(オ) 原告主張の理由5(本件明細書等の図4(a)の記載)について原告は、本件明細書等の図4(a)から、横刃部54cより縦刃部54b15 の方が摩耗しやすいことは明らかであり、本件発明1の構成1Eのように硬質合金部の峰側の端部が縦刃部及び横刃部の峰から略一定の距離をおいて峰に沿っているとしても、縦刃部と横刃部の側面の摩耗は均一にはならず、縦刃部側面が先にすり減ってしまう旨主張する。
しかし、耕耘爪は、耕耘軸に取り付けられてその周りを回転し、耕耘20 のために耕作地の土中に挿入されるものであるから、耕耘爪の摩耗は、
耕耘する土との摩擦によって主に生ずるものと推認され、カバー体の後板部にこびり付いた土による摩耗のみを考慮して縦刃部と横刃部の側面の摩耗が均一にならないということはできないし、横刃部のみに硬質合金部が設けられていた従来の耕耘爪において、横刃部よりも縦刃部が大25 きく摩耗する偏摩耗が生じていたこと(段落【0006】を勘案すれば、
)偏摩耗をなくすために、縦刃部にも横刃部と同じような硬質合金部を設39けるべく、本件発明1が構成1Eを備えることは理解できるから、原告の上記主張は採用することができない。
(カ) 原告主張の理由6(出願当初の請求項1の記載)について原告は、本件特許の出願当初の請求項1を限定していた構成Xは本件5 明細書等の段落【0042】記載の作用効果を奏するために必要であったが、その後補正により削除され、本件発明1は同段落記載の作用効果を奏することはなくなったとし、それにもかかわらず、本件審決が、本件発明1が同段落記載の作用効果を奏することを前提として、同段落の「所定の距離」が「略一定の距離」を意味すると判断したのは誤りであ10 る旨主張する。
構成Xが補正により削除された後の請求項1により定められた本件発明1は、カバー体に隣接する耕耘爪に限定されるものではなく、本件発明の効果を記載した本件明細書等の段落【0009】には、
「本件発明によれば、耕耘軸の軸方向端部を覆うカバー体に隣接する耕耘爪として用15 いた場合に、カバー体の内面に付着した土に対して硬質合金部を接触させることが可能となる」と記載されており、本件発明が、カバー体に隣接しない耕耘爪として用いられることも示唆されている。他方で、本件発明1に係る耕耘爪は、カバー体に隣接する耕耘爪を排除するものではなく、それが、カバー体に隣接した耕耘爪として使用される場合には、
20 本件明細書等の段落【0042】に記載された作用効果を奏すると認められる。そうすると、本件発明1は、構成Xを備えていないことをもって、本件明細書等の段落【0042】に記載された作用効果を奏しないとはいえない。
したがって、原告の上記主張は、その前提において採用することがで25 きず、理由がない。
(キ) 原告主張の理由1ないし6の成否40前記(ア)ないし(カ)のとおり、原告主張の理由1ないし6はいずれも採用することはできず、それらに基づいて、本件明細書等の段落【0042】の「所定の距離」は「一定の距離」を意味するものではなく(所定の距離≠一定の距離)、本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」という記載5 は不明確であるという原告の主張は採用することができない。
? 以上のとおり、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(無効理由4(明確性要件違反)関係)について? 本件発明1の構成1Cの「略同じ位置」という記載の明確性についてア 明確性の有無10 本件発明1は「前記縦刃部及び横刃部の刃縁側には、前記縦刃部から前記横刃部に渡って他の部分よりも硬度が高い硬質合金部が設けられ、(構」成1B)という構成を備えているところ、硬質合金部が縦刃部から設けられるに当たり、硬質合金部で縦刃部の刃付け部が覆われない場合には、薄い刃付け部がすぐに摩耗してしまい、「横刃部に対して縦刃部が大きく摩15 耗する偏摩耗の発生を抑制する」という本件発明の効果(段落【0009】)を実現することができないし、他方、刃付け部にとどまらず耕耘爪全体に硬質合金部を施した場合には、耕耘爪の厚さが増し、耕耘時の土による抵抗が増してしまうから、耕耘時の抵抗を減らしつつ、耕耘爪の摩耗を防止するための構成として、本件発明1は、硬質合金部で縦刃部の刃付け部を20 覆うものとしたと解される。
一方、前記1?アのとおり、「略」が「ほぼ。おおよそ。あらまし。」を意味することからすると、
「略同じ位置」とは、その通常の言葉の意味によれば、
「おおよそ同じ位置」を意味するものと認められる。本件発明1が、
土からの作用により摩耗を受ける耕耘爪に係る発明であることからする25 と、作業機の耕耘爪にその性質上要求される精度の観点からして、硬質合金部の取付基部側の端部と、縦刃部の刃付け端部が、厳密な意味で同じ位41置であることを必須とすると解すべき理由はないから、本件発明1の構成1Cの「略同じ位置」とは、その通常の言葉の意味と異なるところはなく、
硬質合金部の取付基部側の端部と、縦刃部の刃付け端部が、おおよそ同じ位置にあること、すなわち、上記端部同士が厳密な意味で同じ位置である5 必要はないものの、同じ位置とはおよそ言い難いほど異なる位置となる態様を含まないこと、を意味すると解される。
そして、本件明細書等の【発明の効果】に、
「本発明によれば・・・横刃部に対して縦刃部が大きく摩耗する偏摩耗の発生を抑制することができ」(段落【0009】 という記載があることからすれば、
) 上記端部同士が「略10 同じ位置」といえるかどうかは、それによって、硬質合金部が設けられていない部分を含めて「横刃部に対して縦刃部が大きく摩耗する偏摩耗の発生を抑制する」といえる程度に硬質合金部で縦刃部の刃付け部が覆われるような位置であればよく、その程度も当業者であれば本件明細書等の記載等を勘案して理解することができるものと解される。
15 そうであるとすると、当業者であれば、本件発明1の構成1Cの、硬質合金部の取付基部側の端部と縦刃部の刃付け端部が「略同じ位置」であることの意味を理解でき、ある具体的な物(耕耘爪)について、硬質合金部の取付基部側の端部と、縦刃部の刃付け端部が、
「略同じ位置」にあるか否かを理解できるものと認められる。
20 したがって、本件発明1の構成1Cの「略同じ位置」という記載は明確であると認められ、本件発明1に「略同じ位置」という記載があることをもって、発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されるとは認められないから、本件発明1は不明確であるとは認められない。
イ 原告の主張に対する判断25 原告は、本件明細書等の図5と図6には、硬質合金部の取付基部側の端部と縦刃部の刃付け端部とが大きくずれて明らかに異なる箇所に位置す42る状態が図示されており、硬質合金部の取付基部側の端部と縦刃部の刃付け端部とを「同じ位置」に設けるという技術的思想は、本件明細書等には開示されておらず、したがって、本件発明1の構成1Cの「略同じ位置」という記載は不明確である旨主張する。
5 しかし、本件明細書等の図5は、
「第3耕耘爪の正面図」、図6は、
「第3耕耘爪の背面図」で(段落【0010】、本件発明の一実施形態を示すと)されている(段落【0011】)ものであり、具体的な寸法等を示す記載もないから、その性質及び態様からして、発明の内容を説明するための概要図であると認められ、正確な寸法を示すものであると解すべき理由はない。
10 そうであるとすれば、図5と図6から、硬質合金部の取付基部側の端部と縦刃部の刃付け端部との位置がずれているように見えるとしても、そのことから、前記アで述べた特許請求の範囲及び本件明細書等の解釈が否定されるとする理由はなく、本件発明1が不明確であるということはできない。
? 以上のとおり、取消事由2は理由がない。
15 3 取消事由3(無効理由6(サポート要件違反)関係)について? 判断基準特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な20 説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
? サポート要件充足性の有無25 原告は、本件特許の請求項1の記載はサポート要件を充足しないと主張するので、以下、原告の主張について検討する。
43ア 原告は、本件発明1の「略一定の距離」(構成1E)及び「略同じ位置」(構成1C)という構成は、いずれも本件明細書等にその記載及び示唆がなく、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許の請求項1の記載はサポート要件を充足しないと主張する。
5 しかし、前記1?及び2?で述べたところによれば、
「略一定の距離」(構成1E)及び「略同じ位置」(構成1C)の意義を当業者は理解することができ、本件発明1は発明の課題を解決することができるものであって、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるから、サポート要件を充足すると認められる。
10 イ また、原告は、本件明細書等の段落【0042】に記載された作用効果を実現するためには、出願当初の請求項1に記載された構成Xを備えることは必須であり、補正により構成Xが削除された現在の請求項1により定められる本件発明1は、本件明細書等の同段落に記載された作用効果を奏することはなく、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。
15 しかし、前記1?イ(カ)で述べたところによれば、本件発明1は、本件明細書等の段落【0042】に記載された作用効果を奏するものであり、構成Xを備えていないことをもって、同段落に記載された作用効果を奏しないとはいえない。
したがって、原告の上記主張は採用することはできない。
20 ? 以上のとおり、取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(無効理由7(サポート要件違反)関係)について原告は、本件明細書等の段落【0042】 「所定の距離」 「一定の距離」の は、
を意味するものではないから(所定の距離≠一定の距離) 本件発明1の構成1、
Eは、本件明細書等の同段落記載の手段に対応するものではなく、同段落記載25 の作用効果は、補正により請求項1から削除された構成Xを備えなければ生じないとし、したがって、請求項1には発明の詳細な説明に記載された課題解決44手段が反映されておらず、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えたものであると主張する。
しかし、前記1?アのとおり、当業者が「所定の距離」を「略一定の距離」と異なる意味として解するとはいえず、
「所定の距離」は「略一定の距離」を意5 味するものと認められ、
「所定の距離」が「略一定の距離」とは異なる意味を含む多義的な記載であると理解しなければならないとする理由はないから、原告の上記主張は、その前提において採用することができない。また、前記1?イ(カ)で述べたところによれば、本件発明1は、本件明細書等の段落【0042】に記載された作用効果を奏すると認められ、同段落に記載された作用効果を奏10 するために構成Xは必須ではない。
したがって、取消事由4は理由がない。
5 取消事由5(無効理由1(甲1を主引用例とする新規性進歩性の欠如)関係)について? 取消事由5−1(甲1発明の認定の誤り)について15 ア 原告は、本件発明1の構成1Cの「略同じ位置」の意味について、そこに含まれる範囲は広く、広義の意味に解釈すべきであるとし、そのため、
甲1発明も構成1Cを備えているといえる旨主張し、また、本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」の意味について、そこに含まれる範囲は広く、
広義の意味に解釈すべきであるとし、そのため、甲1発明も構成1Eを備20 えているといえる旨主張し、本件審決による甲1発明の認定には誤りがあると主張する。
イ しかし、前記2?アのとおり、構成1Cの「略同じ位置」とは、硬質合金部の取付基部側の端部と縦刃部の刃付け端部同士が厳密な意味で同じ位置である必要はないものの、同じ位置とはおよそ言い難いほど異なる位置25 となる態様を含まないこと、を意味すると解され、また、前記1?アのとおり、本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」とは、硬質合金部の峰側45の端部と、縦刃部及び横刃部の峰との隔たりが、厳密な意味で寸分違わず一つに定まって変わらないというまでの必要はないものの、一つに定まって変わらないとはおよそ言い難い隔たりとなるような態様を含まないこと、
を意味すると解され、上記の「略同じ位置」及び「略一定の距離」は、一5 概に広い範囲を含むものと認めることはできず、これらを広義の意味に解釈すべきであるとはいえない。そして、甲1発明の技術的意義は、摩耗によって刃先線(1’ が常に尖った良く切れる状態に保たれることにあるも)のと認められ(甲1〔2枚目左上欄17行目〜右上欄4行目〕、
) 甲1には、
硬質合金部の取付基部側の端部に相当する「硬質金属薄板」の「取り付け10 部」側の端部と、縦刃部の刃付け端部に相当する「平板状の部分」の「刃の端部」との位置関係についての記載や示唆はなく、これらが同じ位置とはおよそ言い難いほど異なる位置となる態様を含まないこと、が記載されているとは認められず、その示唆があるとは認められないし、また、硬質合金部の峰側の端部に相当する「硬質金属薄板」の峰側の端部と、縦刃部15 及び横刃部の峰に相当する「平板状の部分」及び「湾曲した部分」の峰との距離についての記載や示唆はなく、これらが一つに定まって変わらない隔たりとはおよそ言い難い隔たりとなるような態様を含まないこと、が記載されているとは認められず、その示唆があるとは認められない。
したがって、甲1発明は、本件発明1の構成1Cや構成1Eを備えるも20 のとは認められず、本件審決の甲1発明の認定に誤りがあるとは認められない。
? 取消事由5−2(本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定の誤り)についてア 原告は、本件審決における甲1発明の認定は誤りであるから、その甲125 発明の認定を前提とした、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定も誤りであり、本件発明1と甲1発明との間に相違点はないと主張する。
46本件審決は、本件発明1と甲1発明の間に相違点1ないし3の存在を認定し、相違点3(本件発明1では「硬質合金部の峰側の端部は、取付基部側の端部から切っ先側の端部に至るまで、縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」のに対して、甲1発明5 では、
「硬質合金部の峰側の端部」「硬質金属薄板」の峰側の端部)と「縦(刃部及び横刃部の峰」「平板状の部分」及び「湾曲した部分」の峰)との(位置関係が明らかでない点。 について検討し、
) 相違点3が存在することから本件発明1に新規性及び進歩性がある旨判断したので、相違点3の認定に誤りがあれば、本件審決の結論に影響する誤りがあることになる。そこ10 で、本件審決の相違点3の認定に誤りがあるか否かについて検討する。
イ 甲1には、「この発明の方法は耕耘機の爪や草刈機の刃板の様な磨耗の激しい刃板類(1)の刃先線(1’)の一側面に(普通は土との摩擦が激しい側面に)タングステン、モリブデン等の更に必要な場合にはコバルト、
ニツケル、クローム等の金属の1つ又は1つ以上と鉄との合金又は是等金15 属と鉄との合金に是等金属の粉末を混有させた鋼より硬い、耐磨耗性の大なる金属に依つて構成される硬質金属薄板(2)を溶着して取付けるものである。(1枚目右下欄16行目〜2枚目左上欄4行目)「この実施例に」 、
依る耕耘機の爪は、刃先の一側面に硬質金属薄板(2)が溶着して取付けてあるので、刃先の部分に必要な硬度と耐磨耗性とを与えて耐久力が大に20 なり、刃先線(1’)の一側の硬質金属薄板(2)側の磨耗が少なく、他側の鋼材側の磨耗が多くなつて、刃先線(1’)が常に尖つた良く切れる状態に保たれて、従来の高周波焼入れを行つた爪の2倍以上の耐久力を保つことが出来たのである。(2枚目左上欄17行目〜右上欄4行目)という記」載がある。そして、甲1には、次のような第1図が掲載されている。
475上記のような甲1の記載によれば、甲1には、硬質金属薄板(2)が爪の刃先線(1’)に沿って溶着されており、当該硬質金属薄板(2)が爪の刃先線(1’)を基準に設けられていることが記載されているとともに、第1図においては、当該硬質金属板(2)の峰側の端部が刃先線(1’)に沿10 った形状で設けられている様子が示されているものと認められる。そのため、
「硬質金属薄板」の峰側の端部(本件発明1の硬質合金部の峰側の端部に相当する。)が、「平板状の部分」及び「湾曲した部分」の峰(本件発明1の縦刃部及び横刃部の峰に相当する。)から略一定の距離をおいて峰に沿って伸びていることは認められず、また、そのことについての示唆もな15 い。
そうであるとすれば、本件審決が、相違点3に係る構成を備えていないものとして甲1発明を認定した点に誤りはなく、本件審決の相違点3の認定にも誤りがあるとは認められない。
? 取消事由5−3(甲1発明を主引用例とする本件発明1の新規性進歩性20 の判断の誤り)についてア 新規性について原告は、甲1発明を引用例とした場合に本件発明1には新規性がない旨主張するので、その点に関する原告の主張について検討する。
(ア) 原告は、本件発明1と甲1発明の間には相違点がなく又は実質的な相25 違点がないと主張する。
しかし、前記?のとおり、本件発明1と甲1発明は少なくとも相違点483において異なるから、原告の上記主張は採用することはできない。
(イ) 原告は、本件審決が、本件発明1は相違点3に係る構成(構成1E)を備えることにより本件明細書等の段落【0042】に記載された効果を奏すると判断したこと(本件審決第5の3?イ(ア)e〔本件審決64頁〕)5 について、同段落の「所定の距離」は、
「一定の距離」を意味するものではない 「所定の距離≠一定の距離」 から、
( ) 同段落に記載された効果は、
本件発明1の構成1Eに基づく効果ではなく、本件発明1の効果に関する本件審決の上記判断も誤りである旨主張する。
しかし、前記1?アのとおり、本件明細書等の段落【0042】の「所10 定の距離」は、
「略一定の距離」を意味するものと認められるから、原告の上記主張は採用することはできない。
(ウ) また、原告は、本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」について、
広義の意味に解釈すべきであるとし、甲1発明も構成1Eを備えると主張する。
15 しかし、甲1には、前記?イの記載があり、甲1の全体を見ても、
「硬質金属薄板」の峰側の端部(本件発明1の硬質合金部の峰側の端部に相当する。)と、「平板状の部分」及び「湾曲した部分」の峰(本件発明1の縦刃部及び横刃部の峰に相当する。)との距離について、「略一定の距離」であることを想起させる記載も示唆もないから、本件発明1の「略20 一定の距離」について広義の意味に解釈するかどうかにかかわらず、甲1発明は、構成1Eの記載も示唆もなく、構成1Eを備えると認めることはできない。
したがって、原告の上記主張は採用することはできない。
(エ) そうすると、甲1発明を引用例とした場合に本件発明1には新規性が25 ない旨の原告の主張は理由がない。
進歩性について49本件発明1の進歩性に関し、本件審決は、甲1発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて本件発明1の相違点3に係る構成(構成1E)を当業者が容易に想到することができなかった旨判断したが(本件審決第5の3?イ(イ)a〜e〔本件審決65頁〕、原告は、本件審決の上記の判断は)5 誤りであり、本件発明1に進歩性はない旨主張するので、この点について検討する。
(ア) 甲5には、次のような記載がある。
「トラクター用耕耘爪において、その本体部(1)には中鋼板を使用し、
刃部(2)には二層鋼板を使用して一体となし、且つ当該二層鋼板の刃10 鋼部(3)はトラクター機巾の中心線に対して外側に面し地鉄部(4)は内側に面して回転するように構成し、刃部(2)に使用した鋼板の摩耗差を利用したことを特徴とする構造のトラクター用耕耘爪。(1枚目」左欄4〜11行目)「第1図は本発明爪の拡大横断面説明図であり第2、
図は側面図であるが、本発明爪は爪の本体部(1)には中鋼板を使用し、
15 刃部(2)には二層鋼板を使用して両鋼板(1)(2)を例えば圧延などによって一体化して爪を構成する。二層鋼板(2)は軟質の地鉄部(4)と硬質の刃鋼部(3)とが一体となって構成された鋼板であるが、本体部(1)にたいする接合はトラクター機巾の中心線に対して刃鋼部(3)が外側に面するように、又地鉄部(4)は内側に即ち中心線に面するよ20 うに本体(1)の中鋼板と一体化して構成した構造からなっている。然るときはトラクターの耕耘機部は、爪の地鉄部(4)が内側に面し、刃鋼部(3)は外側に面して耕耘回転するように多数の爪が配設された構造となる。
(5)は中鋼と二層鋼板の接合一体部である。第2図は本発明爪の一例でその側面図であり、第3図は平面図であるがその(6)は取25 付用のボルト穴で、
(7)は取付用の爪柄部である。又刃部(2)には多少の刄(2’ を形成してある。
) 」(2枚目右上欄9行目〜左下欄9行目)。
50甲5には、次のような図が掲載されている。
51015 (イ) 前記(ア)のような甲5の記載によれば、甲5の刃鋼部(3)は地鉄部(4)と一体となって二層鋼部(2)を形成するものであるが、甲5の全体を見ても、二層鋼部、刃鋼部、地鉄部のいずれについても、それらの峰側の端部が縦刃部及び横刃部の峰から略一定の距離をおいて峰に沿って伸びていることについて記載も示唆もないし、中鋼板を使用した爪の本体20 部(1)の幅についての記載もない。
また、甲5には、刃部(2)には多少の刄(2’)を形成してあると記載されているところ、第2図において、刃部の刄(2’)が横刃部の先端側で峰に至るまで形成されていることからすれば、刃鋼部(3)と地鉄部(4)が一体となった二層鋼部(2)が横刃部の峰に至るまで形成さ25 れており、二層鋼部(2)の刃鋼部(3)も横刃部の峰に至るまで形成されて横刃部の峰に交差していることとなるから、刃鋼部(3)の峰側51の端部が縦刃部及び横刃部の峰から略一定の距離をおいて峰に沿って伸びていることにはならない。
そうであるとすれば、甲5には、本件発明1の相違点3に係る構成(構成1E「硬質合金部の峰側の端部は、取付基部側の端部から切っ先側の5 端部に至るまで、縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」 が記載されているとは認められず、
) その示唆があるとも認められない。
(ウ) また、その他に、甲1発明において本件発明1の相違点3に係る構成(構成1E)を採用することを示唆する証拠はない。
10 (エ) したがって、甲1発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて本件発明1の相違点3に係る構成(構成1E)を当業者が容易に想到することができたとは認められないから、本件発明1が、甲1発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないという本件審決の判断に誤りはない。
15 ? 以上のとおり、取消事由5は理由がない。
6 取消事由6(無効理由2(甲5を主引用例とする進歩性欠如)関係)について? 取消事由6−1(甲5発明の認定の誤り)について原告は、本件発明1の構成1Cの「略同じ位置」について、広義の意味に20 解釈すべきであるとし、甲5発明は構成1Cを備える旨主張する。また、本件発明1の構成1Eの「略一定の距離」について、広義の意味に解釈すべきであるとし、甲5発明は構成1Eを備える旨主張する。
しかし、前記5?のとおり、構成1Cの「略同じ位置」及び構成1Eの「略一定の距離」は、広い範囲を含むものと認めることはできず、広義の意味に25 解釈すべきであるとはいえない。そして、甲5には、本件発明1の「硬質合金部の取付基部側の端部」に相当する「刃鋼部の爪柄部側の端部」と本件発52明1の「縦刃部の刃付け端部」に相当する「板状の部分の刄の端部」との位置関係についての記載や示唆はなく、これらが、同じ位置とはおよそ言い難いほど異なる位置となる態様を含まないこと、が記載されているとは認められないから、甲5発明が本件特許発明1の構成1Cを備えるものとは認めら5 れず、その示唆があるとも認められず、また、前記5?イ(イ)のとおり、甲5には本件発明1の構成1Eが記載されているとは認められず、その示唆があるとも認められない。
したがって、原告の上記主張は採用することができず、本件審決による甲5の認定に誤りがあるとは認められない。
10 ? 取消事由6−2(本件発明1と甲5発明の一致点及び相違点の認定の誤り)についてア 原告は、本件審決における甲5発明の認定は誤りであるから、その甲5発明の認定を前提とした、本件発明1と甲5発明の一致点及び相違点の認定も誤りであり、本件発明1と甲5発明との間に相違点はないと主張する。
15 本件審決は、本件発明1と甲5発明の間に相違点AないしCの存在を認定し、相違点C(本件発明1では「硬質合金部の峰側の端部は、取付基部側の端部から切っ先側の端部に至るまで、縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」のに対して、甲5発明では「硬質合金部の峰側の端部」「硬質金属薄板」の峰側の端部)と「縦(20 刃部及び横刃部の峰」「平板状の部分」及び「湾曲した部分」の峰)との(位置関係が明らかでない点。 について検討し、
) 相違点Cが存在することから本件発明1に進歩性がある旨判断したので、相違点Cの認定に誤りがあれば、本件審決の結論に影響する誤りがあることになる。そこで、本件審決の相違点Cの認定に誤りがあるか否かについて検討する。
25 イ 本件発明1と甲5発明の相違点Cは、本件発明1と甲1発明の相違点3とその内容は同じであり、甲5に、本件発明1の相違点3に係る構成(構53成1E「硬質合金部の峰側の端部は、取付基部側の端部から切っ先側の端部に至るまで、縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」 が記載されているとは認められず、
) その示唆があるとも認められないことは、前記5?イ(イ)のとおりである。そうであると5 すれば、本件審決が、相違点Cに係る構成を備えていない甲5発明を認定した点に誤りはないし、本件審決の相違点Cの認定に誤りはない。
? 取消事由6−3(甲5発明を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)についてア 原告は、甲5発明を引用例とした場合に本件発明1には新規性がない旨10 主張するので、その点に関する原告の主張について検討する。
原告は、本件発明1と甲5発明の間に相違点はないと主張する。
しかし、前記?のとおり、本件発明1と甲5発明は少なくとも相違点Cにおいて異なるから、原告の上記主張は採用することはできない。
原告は、本件発明1の構成1Cの「略同じ位置」について、広義の意味15 に解釈すべきであるとし、甲5発明は構成1Cを備えると主張する。
しかし、甲5に本件発明1の構成1Cが記載されているとは認められず、
その示唆があるとも認められないことは、前記?のとおりである。
そうすると、甲1発明を引用例とした場合に本件発明1には新規性がない旨の原告の主張は、採用することができない。
20 イ 本件発明1の進歩性に関し、本件審決は、本件発明1は、甲5発明、並びに甲1、甲2、甲6ないし甲8に記載された周知技術又は公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨判断したが(本件審決第5の4?イ〔本件審決69〜70頁〕、原告は、本件審決の)上記の判断は誤りであり、本件発明1に進歩性はない旨主張するので、こ25 の点について検討する。
甲5及び甲1のいずれにも相違点Cに係る本件発明1の構成(構成1E)54は開示されておらず、示唆もされていないから(前記?イ、5?イ(イ)、5?イ)、甲5発明及び甲1に記載された技術的事項に基づいて本件発明1の相違点Cに係る発明を当業者が容易に想到することができたとは認められない。甲2、甲6、甲7及び甲8の記載に照らして、それらに記載さ5 れた事項から、当業者が相違点Cに係る本件発明1の構成(構成1E)を想到することができたとも認められない。
したがって、本件発明1は、甲5発明、並びに甲1、甲2、甲6ないし甲8に記載された周知技術又は公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないという本件審決の判断に誤りはない。
10 ? 以上のとおり、取消事由6は理由がない。
7 取消事由7(無効理由3(甲7を主引用例とする進歩性欠如)関係)について? 取消事由7−1(甲7発明の認定の誤り)、取消事由7−2(本件発明1と甲7発明の一致点及び相違点の認定の誤り)について15 ア 原告は、本件審決における甲7発明の認定は誤りであると主張し(取消事由7−1)、そのため、その甲7発明の認定を前提とした、本件発明1と甲7発明の一致点及び相違点の認定も誤りであり、本件発明1と甲7発明の相違点は相違点αのみであると主張する(取消事由7−2)。
本件審決は、本件発明1と甲7発明の間に相違点aないしcの存在を認20 定し、相違点c(本件発明1では「硬質合金部の峰側の端部は、取付基部側の端部から切っ先側の端部に至るまで、縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている」のに対して、甲7発明では「耕耘刃の切っ先側において硬質層が峰側に達しており」 切っ先側の、
端部では硬質層の峰側の端部と横刃の峰との間に距離がない点。)につい25 て検討し、相違点cが存在することから本件発明1に進歩性がある旨判断したので、相違点cの認定に誤りがあれば、本件審決の結論に影響する誤55りがあることになる。そこで、本件審決の相違点cの認定に誤りがあるか否かについて検討する。
イ 甲7の第1図は、次のとおりである。
510甲7の「図面の簡単な説明」には、次のような記載がある。
15甲7には「横刃の外側面において刃縁側から一定の幅寸法で硬化層を形20 成し、(1枚目右下欄15行目〜16行目)と記載されており、硬化層が」刃縁側を基準に設けられていることが記載されているとともに、第1図によれば、硬化層2は横刃部12に達する前に峰と交差しており、本件発明1の硬質合金部のように、硬質合金部の峰側の端部が縦刃部及び横刃部の峰から刃縁側に略一定の距離をおいて峰に沿って延びている構成とはい56えない。また甲7には、硬質層の峰側の端部が、峰から略一定の距離をおいて峰に沿って伸びていることの示唆もない。そうであるとすれば、本件審決が、相違点cに係る構成を備えていない甲7発明を認定した点に誤りはないし、本件発明1と甲7発明の相違点として相違点cを認定した点に5 も誤りはない。
? 取消事由7−3(甲7発明を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)について本件発明1と甲7発明の相違点cに係る本件発明1の構成(構成1E)は、
本件発明1と甲1発明の相違点3に係る本件発明1の構成(構成1E)と同10 じである。前記5?イ(イ)及び5?イのとおり、甲5及び甲1のいずれにも構成1Eは開示されておらず、示唆もされておらず、甲7発明において本件発明1の相違点cに係る構成(構成1E)を採用することを示唆する証拠はない。そうすると、本件発明1は、甲7発明、並びに甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた15 ものではない。
原告は、本件審決による本件発明1と甲7発明の一致点及び相違点の認定に誤りがあることを前提として、甲7発明を主引用例とした場合に本件発明1は進歩性がないと主張するが、前記?のとおり、本件審決が本件発明1と甲7発明の相違点として相違点cを認定した点に誤りはないから、原告の上20 記主張は採用することができない。
したがって、本件発明1は、甲7発明、並びに甲1及び甲5に記載された周知技術又は公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないという本件審決の判断に誤りはない。
? 以上のとおり、取消事由7は理由がない。
25 8 本件審決の判断の誤りの有無以上のとおり、取消事由1ないし7はいずれも理由がない。本件発明2ない57し5は、いずれも本件発明1の構成をすべて含むから、以上に述べたことは、
本件発明2ないし5についても当てはまる。したがって、本件発明1ないし5の特許に対する本件無効審判請求は理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法はない。
5 9 結論よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部10裁判長裁判官東 海 林 保15裁判官中 平 健20裁判官都 野 道 紀58
事実及び理由
全容