関連審決 |
無効2020-800004 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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令和4行ケ10048 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
令和4行ケ10046 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
令和
4年
(行ケ)
10049号
審決取消請求事件
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原告沢井製薬株式会社 同訴訟代理人弁護 士小松陽一郎 原悠介 千葉あすか 被告東レ株式会社 同訴訟代理人弁護 士重冨貴光 長谷部陽平 秋田康博 鷲見健人 同訴訟代理人弁理 士皆川量之 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2022/11/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2020-800004号事件について令和4年3月15日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は、特許権の存続期間延長登録の無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は、無効理由についての判断の誤りの有無(より具体的には、審決を取り消した判決の拘束力の理解の誤りの有無)及び手続上の瑕疵の有無である。 1 手続の経緯 (1) 被告の特許権 被告は、名称を「止痒剤」とする発明について、平成9年11月21日に特許出願(特願平10-524506号。優先日:平成8年11月25日、優先権主張国:日本)をし、平成16年3月12日、その設定登録を受けた(特許第3531170号。請求項の数36。以下「本件特許」といい、本件特許の特許請求の範囲の各請求項に係る発明を、項数に従い「本件発明1」などといい、本件発明1〜36を併せて「本件発明」という。また、本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。)(甲1、2)。 (2) 存続期間延長登録の出願 ア 被告は、平成29年11月20日、本件特許について、存続期間延長登録の出願(出願番号2017-700310号。以下「本件延長登録出願」という。)をし(甲1、123)、平成30年4月20日付け手続補正書(甲148)により補正をした。上記補正後の本件延長登録出願は、延長を求める期間及び特許発明の実施について、平成28年法律第108号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)67条2項の政令に定める処分を受けることが必要であった処分(以下「本件処分」という。 を次のとおりとするものである ) (甲1、123、148、166)。 (ア) 延長を求める期間 5年 (イ) 延長登録の理由となる処分 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「医薬品医療機器等法」という。)14条1項に規定する医薬品に係る同条9項(ただし、令和元年法律第63号による改正前のもの。以下同じ。)の承認 (ウ) 処分を特定する番号 22900AMX00538000 (エ) 処分を受けた日 平成29年9月22日 (オ) 処分の対象となった医薬品(以下「本件医薬品」という。また、以下、本件医薬品の添付文書(甲25)を「本件添付文書」と、本件医薬品と剤形のみを異にする「レミッチカプセル2.5μg」と同一製剤である「ノピコールカプセル2.5μg」(甲150参照)の「医薬品インタビューフォーム」(甲9)を「本件インタビューフォーム」とそれぞれいう。) 販売名 レミッチOD錠2.5μg 有効成分 ナルフラフィン塩酸塩 (カ) 処分の対象となった医薬品について特定された用途次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)透析患者(血液透析患者を除く)、慢性肝疾患患者 イ 本件医薬品については、本件処分に先立ち、平成29年3月30日に医薬品医療機器等法14条1項に基づく医薬品製造販売承認(以下「先行処分」という。)がされていた(甲38、111)。 ウ 本件延長登録出願については、平成30年7月25日付けで延長登録(以下「本件延長登録」という。)がされた(甲1)。 (3) 無効審判の請求等 ア 原告は、令和2年1月23日、本件延長登録について無効審判の請求をし(無効2020-800004号事件)、特許庁は、同年7月28日、「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2017-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」という。)をした(甲62、65)。 イ 被告は、令和2年8月25日、当庁に対し、第1次審決の取消しを求める訴えを提起し(当庁平成2年(行ケ)第10098号事件。以下「前訴」という。、 )当庁は、令和3年3月25日、第1次審決のうち「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2017-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る) との部分を 』無効とする。 という部分以外を取り消す旨の判決(以下「前訴判決」という。また、 」以下、前訴判決に記載された上記事件における原告の取消事由を「前訴取消事由」ということがある。)をし、その後、前訴判決は確定した(甲161)。 ウ 特許庁は、令和4年3月15日、前記アの無効審判請求事件について、 「本件審判の請求は、「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2017-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』 『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善 が (既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分を無効とする。」という部分以外については、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、 同年4月20日に原告に送達された。 2 本件発明の要旨 本件特許の特許請求の範囲の請求項の記載は、次のとおりである(甲2)。 (1) 請求項1〜20 請求項1、10、15及び20は、次のとおりであり、@請求項2〜9は、請求項1に従属し、請求項1の一般式(I)における置換基を限定するもの、A請求項11〜14は、請求項10に従属し、請求項10の一般式(II)における置換基を限定するもの、B請求項16〜19は、請求項15に従属し、請求項15の一般式(III)における置換基を限定するものである。 【請求項1】下記一般式(I)[式中、 は二重結合又は単結合を表し、R1は炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数6から12のアリール、炭素数7から13のアラルキル、炭素数4から7のアルケニル、アリル、炭素数1から5のフラン-2-イルアルキルまたは炭素数1から5のチオフェン-2-イルアルキルを表し、R2は水素、ヒドロキシ、ニトロ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルキルまたは-NR9R10を表し、R9は水素または炭素数1から5のアルキルを表し、R10は水素、炭素数1から5のアルキルまたは-C(=O)R11-を表し、R11は、水素、 フェニルまたは炭素数1から5のアルキルを表し、R3は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシまたは炭素数1から5のアルコキシを表し、Aは-XC(=Y)-、-XC(=Y)Z-、-X-または-XSO2-(ここでX、Y、Zは各々独立してNR4、SまたはOを表し、R4は水素、炭素数1から5の直鎖もしくは分岐アルキルまたは炭素数6から12のアリールを表し、式中R4は同一または異なっていてもよい)を表し、Bは原子価結合、炭素数1から14の直鎖または分岐アルキレン(ただし炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、 ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチルおよびフェノキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)、2重結合および/または3重結合を1から3個含む炭素数2から14の直鎖もしくは分岐の非環状不飽和炭化水素(ただし炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチルおよびフェノキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)、またはチオエーテル結合、エーテル結合および/もしくはアミノ結合を1から5個含む炭素数1から14の直鎖もしくは分岐の飽和もしくは不飽和炭化水素(ただしヘテロ原子は直接Aに結合することはなく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)を表し、R5は水素または下記の基本骨格:のいずれかを持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、 ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)を表し、R6は水素、R7は水素、ヒドロキシ、 炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、もしくは、 R6とR7は一緒になって-O-、-CH2-、-S-を表し、R8は水素、炭素数1から5のアルキルまたは炭素数1から5のアルカノイルを表す。また、一般式(I)は(+)体、(-)体、(±)体を含む]で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤。 【請求項10】下記一般式(II)[式中は二重結合又は単結合を表し、R1は炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数7から13のアラルキル、炭素数4から7のアルケニルまたはアリルを表し、R2は水素、ヒドロキシ、ニトロ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、炭素数1から5のアルコキシまたは炭素数1から5のアルキルを表し、R3は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、または炭素数1から5のアルコキシを表し、 R4は水素、炭素数1から5の直鎖もしくは分枝アルキル、または炭素数6から12のアリールを表し、Aは炭素数1から6のアルキレン、-CH=CH-または-C≡C-を表し、R5は下記の基本骨格:のいずれかを持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、 ヨウ素、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)を表し、R6は炭素数1から5のアルキル、アリルであり、Xはその薬理学的に許容される対イオン付加塩を表す。また、一般式(II)は(+)体、(-)体、(±)体を含む]で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤。 【請求項15】下記一般式(III)[式中、 は二重結合又は単結合を表し、R1は炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数7から13のアラルキル、炭素数4から7のアルケニルまたはアリルを表し、R2は水素、 ヒドロキシ、ニトロ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、炭素数1から5のアルコキシまたは炭素数1から5のアルキルを表し、R3は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシまたは炭素数1から5のアルコキシを表し、R4は水素、炭素数1から5の直鎖もしくは分岐アルキルまたは炭素数6から12のアリールを表し、Aは炭素数1から6のアルキレン、-CH=CH-または-C≡C-を表し、 R5は下記の基本骨格:のいずれかを持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、 ヨウ素、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)を表す。また、一般式(III)は(+)体、 (-)体、 (±)体を含む]で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする止痒剤。 【請求項20】 そう痒が皮膚疾患あるいは内蔵疾患に伴うものである、請求項1ないし19のいずれかに記載の止痒剤。 (2) 請求項21〜36 請求項21、26及び31〜36は、次のとおりであり、@請求項22〜25は、 請求項21に従属し、請求項21の一般式(II) (請求項10に記載のものと同じ。)における置換基を限定するもの、A請求項27〜30は、請求項26に従属し、請求項26の一般式(III) (請求項15に記載のものと同じ。)における置換基を限定するものである(以下、前記一般式(I)〜(III)については、いずれもその記載を省略する。)。 【請求項21】一般式(II)で表されるモルヒナン4級アンモニウム塩誘導体。 【請求項26】一般式(III)で表されるモルヒナン-N-オキシド誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩。 【請求項31】 請求項21ないし25記載のモルヒナン4級アンモニウム塩誘導体を含んでなる医薬。 【請求項32】 請求項26ないし30記載のモルヒナン-N-オキシド誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩を含んでなる医薬。 【請求項33】 一般式(VIII)で表される3級アミンを、アルキル化剤を用いて4級アンモニウム塩化することを特徴とする一般式(II)(上記一般式(VIII)および(II)において、 は二重結合又は単結合を表し、R1は炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数7から13のアラルキル、炭素数4から7のアルケニルまたはアリルを表し、R2は水素、ヒドロキシ、ニトロ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、炭素数1から5のアルコキシまたは炭素数1から5のアルキルを表し、R3は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシまたは炭素数1から5のアルコキシを表し、R4は水素、炭素数1から5の直鎖もしくは分岐アルキル、または炭素数6から12のアリールを表し、Aは炭素数1から6のアルキレン、-CH=CH-または-C≡C-を表し、R5は下記の基本骨格:のいずれかを持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、 ヨウ素、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)を表す。)で表される化合物の製造法。 【請求項34】 アルキル化剤が炭素数1から5のヨウ化アルキル、炭素数1から5の臭化アルキル、炭素数1から5の塩化アルキル、炭素数1から5のメタンスルホン酸アルキル、 炭素数1から5のジアルキル硫酸、ヨウ化アリル、臭化アリルまたは塩化アリルである請求項33記載の製造法。 【請求項35】 一般式(IX)で表される3級アミンを、酸化剤を用いて酸化することを特徴とする一般式(III)で表される化合物の製造法。 (上記一般式(IX)および(III)において、 は二重結合又は単結合を表し、R1は炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数7から13のアラルキル、炭素数4から7のアルケニルまたはアリルを表し、R2は水素、ヒドロキシ、ニトロ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、炭素数1から5のアルコキシまたは炭素数1から5のアルキルを表し、R3は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシまたは炭素数1から5のアルコキシを表し、R4は水素、炭素数1から5の直鎖もしくは分岐アルキルまたは炭素数6から12のアリールを表し、Aは炭素数1から6のアルキレン、-CH=CH-または-C≡C-を表し、R5は下記の基本骨格:のいずれかを持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、 ヨウ素、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)を表す。) 【請求項36】 酸化剤が有機カルボン酸の過酸化物、過酸化水素、第3ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドまたはオゾンである請求項35記載の製造法。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 第1次審決の理由の要旨及び前訴判決について(本件審決の第4) ア 第1次審決の理由の要旨(本件訴訟と直接関連する「無効理由1」に係る部分に限る。) (ア) 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の記載に照らすと、本件特許の特許請求の範囲は、塩を含むか否かを明示的に記載するものであって、一般式(II)及び(III)の化合物に関しては塩を含むが、一般式(I)の化合物に関しては塩を含まないものであると解するのが相当である。 そうすると、ナルフラフィン塩酸塩を有効成分とする本件医薬品は、本件発明1の発明特定事項を備えておらず、本件発明2〜36の発明特定事項も備えていないから、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。 (イ) 本件特許の審査経過に照らすと、ナルフラフィン塩酸塩などの「一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物の薬理学的に許容される酸付加塩」を有効成分とする止痒剤は、出願当初は特許請求の範囲に含まれていたものの、手続補正により特許請求の範囲から除外されたものと解するよりほかない。仮に、手続補正をした者の意図がそうでなかったとしても、外形的にこう解されることが否定されるわけではない。 したがって、本件特許の審査経緯に照らしても、本件発明は、ナルフラフィン塩酸塩を有効成分とする本件医薬品を含むものではないといえる。一方、本件医薬品の有効成分はナルフラフィン塩酸塩であるから、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったと認めることはできない。 イ 前訴判決における取消事由と結論 前訴判決における原告主張の審決取消事由は、前訴取消事由1(本件医薬品の有効成分に関する事実認定の誤り)、前訴取消事由2(本件発明1の解釈の誤り)及び前訴取消事由3(法令解釈の誤り)であり、前訴判決の結論は、前訴取消事由1は理由があり、第1次審決にはその結論に影響を及ぼす違法があるものの、本件審決が、本件延長登録のうち「処分の対象となった医薬品について特定された用途」を「慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」とする部分を無効にしたことは正当であるから、第1次審決のうち「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2017-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分を無効とする。」という部分以外を取り消し、その余の請求を棄却するというものである。 ウ 前訴判決の拘束力について 審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるから、本件審決に係る審理は、前訴判決の判決主文が導き出されるのに必要な判示事項である、前訴判決が認定した事実関係及び当該事実関係を基にして検討された次の(ア)〜(カ)の事項に拘束される。 (ア) 本件処分は、医薬品医療機器等法14条9項に基づく医薬品製造販売承認事項一部変更承認であるから、本件処分においては(判決注: 「本件処分は」の誤記とみられる。、 )「有効成分」を始めとする先行処分に係る製造販売承認書の記載に基づくものであると認められる。 (イ) 特許権の存続期間の延長登録の制度は、政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものであるから、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったかどうかは、このような特許法の存続期間延長の制度が設けられている趣旨に照らして判断されるべきであり、その場合における本件処分の内容の認定についても、このような観点から実質的に判断されるべきであって、承認書の「有効成分」の記載内容から形式的に判断すべきではない。このように解することは、最高裁平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判決・民集69巻7号1912頁の趣旨にも沿うものということができる。 (ウ) 医薬品について、良好な物性と安定性の観点からフリー体に酸等が付加されて、フリー体とは異なる化合物(付加塩)が医薬品とされる場合があること、そのような医薬品が人体に取り込まれたときには、付加塩からフリー体が解離し、フリー体が薬効及び薬理作用を奏すること、ナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩についても同様の関係にあり、ナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩で薬効及び薬理作用に違いがないことは、平成28年3月31日に先行処分に係る製造販売の承認申請がされた時までに、当業者に広く知られていたものと認められる。 (エ) 医薬品分野の当業者は、医薬品の目的たる効能、効果を生ぜしめる作用に着目して、付加塩だけでなく、そのフリー体も「有効成分」と捉えることがあるものと認められる。 (オ) 先行処分に係る製造販売承認書には、「成分」として「ナルフラフィン塩酸塩」と記載されており、本件添付文書にも「有効成分に関する理化学的知見」として、 「ナルフラフィン塩酸塩」と記載され、その構造式や性状などが記載されているが、これは、賦形剤などの製剤補助剤と区別する観点から、実際に医薬品に配合されている原薬(付加塩)を有効成分として捉えていることに基づく記載であると解される。これに対し、本件添付文書の「有効成分・含量(1カプセル中)」の欄に、 「ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)」と記載されており、本件インタビューフォームには、和名は「ナルフラフィン塩酸塩」と記載されているものの、洋名については「ナルフラフィン塩酸塩」と「ナルフラフィン」が併記されているし、「有効成分(活性成分)の含量」として、「カプセル:1カプセル中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)含有OD錠:1錠中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)含有」と記載されている。そして、先行処分に係る製造販売承認書では、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●同じく本件添付文書や本件インタビューフォームにおける、本件医薬品の「薬物動態」の血漿中濃度推移や薬物動態パラメータもナルフラフィン塩酸塩ではなく、ナルフラフィンを測定して得られたものとなっている。 (カ) 以上のことを考え併せると、本件処分の対象となった本件医薬品の有効成分は、先行処分に係る製造販売承認書に記載された「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するのではなく、実質的には、本件医薬品の承認審査において、効能、効果を生ぜしめる成分として着目されていたフリー体の「ナルフラフィン」と、本件医薬品に配合されている、その原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当である。 したがって、「ナルフラフィン塩酸塩」のみを本件医薬品の有効成分と解し、「ナルフラフィン」は、本件医薬品の有効成分ではないと認定して、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえないと判断した第1次審決の認定判断は誤りであり、前訴取消事由1は理由がある。 (2) 「当審の判断」(本件審決の第5) ア 無効理由1について 前訴判決の拘束力からみて、無効理由1を検討する。 (ア) 医薬品について、良好な物性と安定性の観点からフリー体に酸等が付加されて、フリー体とは異なる化合物(付加塩)が医薬品とされる場合があること、そのような医薬品が人体に取り込まれたときには、付加塩からフリー体が解離し、フリー体が薬効及び薬理作用を奏すること、ナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩についても同様の関係にあり、ナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩で薬効及び薬理作用に違いがないことは、平成28年3月31日に先行処分に係る製造販売の承認申請がされた時までに、当業者に広く知られていたものと認められる。 (イ) 医薬品分野の当業者は、医薬品の目的たる効能、効果を生ぜしめる作用に着目して、付加塩だけでなく、そのフリー体も「有効成分」と捉えることがあるものと認められる。 (ウ) 先行処分に係る製造販売承認書には、「成分」として「ナルフラフィン塩酸塩」と記載されており、本件添付文書にも「有効成分に関する理化学的知見」として、「一般名:ナルフラフィン塩酸塩 Nalfurafine Hydrochloride」と記載され、 そ の 化 学 名 や 構 造 式 、 性 状 な ど が 、 化 学 名 : (2E)-N- 「 [(5R,6R)-17-(Cyclopropylmethyl)-4,5-epoxy-3,14-dihydroxymorphinan-6-yl]-3-(furan-3-yl)-N-methylprop-2-enamide monohydrochloride構造式:・・・性状:白色〜ごくうすい黄色の粉末である。吸湿性が高く、光にやや不安定である。 溶解性は、水、メタノールに対して溶けやすく、エタノール(95)に対しては溶けにくく、酢酸エチルとジエチルエーテルにはほとんど溶けない。 と記載されている 」が、これは、賦形剤などの製剤補助剤と区別する観点から、実際に医薬品に配合されている原薬(付加塩)を有効成分として捉えていることに基づく記載であると解される。これに対し、本件添付文書の「有効成分・含量(1カプセル中)」の欄に、 「ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)」と記載されており、本件インタビューフォームには、和名は「ナルフラフィン塩酸塩」と記載されているものの、洋名については「ナルフラフィン塩酸塩」と「ナルフラフィン」が併記されているし、「有効成分(活性成分)の含量」として、「カプセル:1カプセル中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)含有OD錠:1錠中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)含有」と記載されている。そして、先行処分に係る製造販売承認書では、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●同じく本件添付文書や本件インタビューフォームにおける、本件医薬品の「薬物動態」の血漿中濃度推移や薬物動態パラメータもナルフラフィン塩酸塩ではなく、ナルフラフィンを測定して得られたものとなっている。 (エ) そうすると、本件処分の対象となった本件医薬品の有効成分は、先行処分に係る製造販売承認書に記載された「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するのではなく、実質的には、本件医薬品の承認審査において、効能、効果を生ぜしめる成分として着目されていたフリー体の「ナルフラフィン」と、本件医薬品に配合されている、その原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当である。 (オ) 一方、本件発明は、前記2のとおりの36の請求項に係る発明からなるところ、化合物の一般式、引用関係からみて、次のa〜cの3つに大別することができる。 a 一般式(I)で表される化合物に関する発明(本件発明1〜9及び20) b 一般式(II)で表される化合物に関する発明(本件発明10〜14、20〜25、31、33及び34) c 一般式(III)で表される化合物に関する発明(本件発明15〜20、26〜30、32、35及び36) そして、ナルフラフィンは、本件発明1の一般式(I)のオピオイドκ受容体作動性化合物において、式中のが「単結合」を表し、R1が「炭素数4のシクロアルキルアルキル」である「シクロプロピルメチル」を表し、R2及びR3が「ヒドロキシ」を表し、Aが「-XC(=Y)-」であって、Xが「NR4」を表し、Yが「O」を表し、R4が「炭素数1の直鎖アルキル」である「メチル」を表し、Bが「2重結合を1個含む炭素数2の直鎖の非環状不飽和炭化水素」である「-CH=CH-」を表し、R 5がであってQは「O」を表す有機基である「フラン-3-イル」を表し、R 6とR7が一緒になって「-O-」を表し、R8が「水素」を表す化合物に相当するから、一般式(I)に含まれ、一般式(II)及び(III)には含まれないものである。 (カ) したがって、本件医薬品の承認審査における有効成分はフリー体の「ナルフラフィン」と原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認められ、本件発明1は、ナルフラフィンを有効成分とする止痒剤を含むものであるといえるから、 本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったと認められる。 イ 無効理由1に対する原告の主張について 原告の主張は、本件医薬品の有効成分は「ナルフラフィン塩酸塩」であることを前提とするものであるが、前記ア(ア)〜(エ)のとおり、本件処分の対象となった本件医薬品の有効成分は、フリー体の「ナルフラフィン」と「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当であるから、その前提において誤っており、採用することができない。 |
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原告主張の取消事由
1 取消事由1(無効理由についての判断の誤り) 前訴判決は、「本件医薬品の有効成分」についての判断に基づき判決したのみで、 本件発明1の「ナルフラフィンを有効成分とする」 「止痒剤」の技術的範囲(無効理由)については何らの判断をしなかった。しかるに、本件審決は、上記の点について明確な誤解・混同をし、本件発明の技術的範囲の属否についての判断をしないまま審決をしたもので、本件審決には初歩的な違法がある。具体的には、次のとおりである。 (1) 前訴判決の拘束力の範囲 前訴判決は、前訴取消事由1(本件医薬品の有効成分に関する事実認定の誤り)についてのみ判断して第1次審決を取り消したもので、前訴取消事由2の技術的範囲論については一切判断していない。 (2) 本件延長登録に係る前訴判決の拘束力についての明らかな判断の誤り ア 本件審決の内容 本件審決は、前訴判決の拘束力からみて検討すべき無効理由1の内容については、 本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載や審査経過等から、本件発明1〜36は、ナルフラフィン塩酸塩を有効成分とする本件医薬品を含むものではないとするものであると主張整理した。 そして、本件審決は、前訴判決における取消事由と結論を記載するに当たり、前訴取消事由1(本件医薬品の有効成分に関する事実認定の誤り)、前訴取消事由2(本件発明1の解釈の誤り)及び前訴取消事由3(法令解釈の誤り)を摘示した上で、前訴判決が前訴取消事由1についてのみ判断したことを正確に指摘した。 イ 本件審決の明白な誤解 (ア) しかるに、本件審決は、前訴判決の拘束力について、前訴判決が認定した事実関係及び当該事実関係を基にして検討された事項に拘束される旨を記載した上で判断を示したが、 「第5 当審の判断」には、無効理由1について、本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載や審査経過等を検討した形跡がない。本件審決は、 クレームの文言解釈や出願経過の主張に係る判断を脱漏したものである。 (イ) そもそも、本件発明における「・・・を有効成分とする止痒剤」の技術的範囲という審判対象と、本件医薬品の有効成分は何かという審判対象とは明確に異なる。 そして、取消判決の採用した無効理由と異なる無効理由により無効判決をすることや、取消判決の採用した引用例とは異なる引用例により容易想到であると判断することは、取消判決の拘束力に反するものではないと理解されているところである。 前訴判決は、前訴取消事由1を認めてそれが結論に影響するとして第1次審決を取り消したにすぎないから、本件審決が、他の無効理由(クレーム解釈論)についての判断がなくてもそれにも拘束力が及ぶと考えたのであれば(その可能性が高い。、誤りである(なお、審決取消訴訟において複数の取消事由が主張された場合 )に、その1つが認められれば直ちに審決全体を取り消すという実務も、現実に存在している。。 ) (3) まとめ 以上のとおり、本件審決は、前訴判決においては本件発明1の「ナルフラフィンを有効成分とする」「止痒剤」の技術的範囲については何ら判断をしていないのに、 その点について明確な誤解・混同をし、本件発明の技術的範囲の属否についての判断をしないままで審決をしたものであって、本件審決には初歩的な実体法上の瑕疵に基づく違法がある。 2 取消事由2(手続上の瑕疵) 本件審決は、前訴判決の確定により差戻しとなった段階で、当事者には何ら意見書等の提出を求めることなく、直ちに第1次審決と異なる審決をした。 第1次審決が(部分的に)取り消され特許庁に差し戻されたのであって、新たな論点が発生したのであるから、原告には、何らかの弁駁の機会を与えてこそ、充実した審理、行政処分が期待できる。 したがって、本件のような場合に、適正手続との関係でも、当事者に意見を述べる機会が付与されなかったことは、本件審決に手続上の瑕疵があったというべきであり、それは、本件審決の結論に影響するものである。 |
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被告の主張
1 取消事由1(無効理由についての判断の誤り)について 前訴判決は、本件医薬品が本件発明の技術的範囲に属すると判断したもので、本件審決も、本件医薬品が本件発明の技術的範囲に属すると判断したものであるから、 原告の主張は、その前提とする理解に誤りがある。具体的には、次のとおりである。 (1) 前訴判決について ア 前訴判決は、前訴取消事由1について、 「本件処分の対象となった本件医薬品の有効成分は、 ・・・実質的には、本件医薬品の承認審査において、効能、効果を生ぜしめる成分として着目されていたフリー体の『ナルフラフィン』と、 ・・・その原薬形態の『ナルフラフィン塩酸塩』の双方である」と判断して、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえないと判断した第1次審決の認定判断が誤りであるとの結論を示したところ、前訴判決の上記判断は、本件医薬品が(ナルフラフィン塩酸塩のみではなく)ナルフラフィン(フリー体)を有効成分とする止痒剤である旨の判断であり、それにより、本件医薬品が本件発明1 「一般式 ( (T)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」)の発明特定事項を全て備えるとの判断である。この判断により、前訴判決は、本件医薬品の製造販売が「本件発明の実施」に該当するものとして、 「本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であった」との結論を導いている。 審決取消事由は審決の結論に影響を及ぼす違法事由であるとされているところ、 第1次審決の結論に影響を及ぼす違法事由とは、いうまでもなく、第1次審決の「延長登録要件を充足していない」旨の審決の結論としての判断に影響を及ぼす誤りである。前訴取消事由1は第1次審決のかかる判断の違法を指摘するものであるから、 前訴判決は、 「延長登録要件を充足する」旨の結論に影響を及ぼす判断の誤りを指摘したものである。より分析的には、前訴判決は、@本件医薬品が(ナルフラフィン塩酸塩のみではなく)ナルフラフィン(フリー体)を有効成分とする止痒剤であり、 Aかような本件医薬品が本件発明の構成要件「一般式(T)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」を全て充足することから、B本件医薬品の製造販売は本件発明の実施に該当し、Cそれゆえに「本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であった」と判断し、Dしたがって、 「延長登録要件を充足していない」旨の第1次審決の判断は誤りであると結論付けた。 したがって、前訴判決が、本件医薬品が本件発明の技術的範囲に属するとの判断を含むものであることは明白である。 なお、前訴判決が、前訴取消事由1の判断をするに当たり、 「本件処分に係る本件医薬品の製造販売が本件発明の実施行為に該当するか否か」を明示的に取り込んで判断したことは、前訴判決が、前訴取消事由1に関し、 「本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったかどうかについて検討する」と明記した上で、ナルフラフィンが本件医薬品の有効成分ではないと第1次審決が認定したことの誤りを判示したことからも明らかである。 イ 原告は、本件医薬品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて前訴判決が判断しておらず、前訴判決には理由不備又は理由齟齬の違法がある等と主張して、最高裁判所に対して上告及び上告受理申立てを行ったが、最高裁判所は、原告の上告を棄却し、上告受理申立ての不受理決定をした。すなわち、既に最高裁判所において、前訴判決は、本件医薬品が本件発明の技術的範囲に属すると判断したとの結論が出されているところであり、原告の主張は、既に確定した判決が解決済みの争点を不当に蒸し返すものにすぎない。 (2) 本件審決について 本件審決も、本件医薬品が本件発明の技術的範囲に属するとの判断を前提として、 「本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であった」と判断していることが明らかである。本件審決は、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったか否かにつき、 「本件発明1は、ナルフラフィンを有効成分とする止痒剤を含むものであるといえる」と判示しているところである。上記の判示は、本件発明1の技術的範囲を示すとともに、 「ナルフラフィンを有効成分とする止痒剤」であると認定判断された本件医薬品が本件発明1の技術的範囲に含まれると判断したものである。 したがって、本件審決が本件発明の技術的範囲の属否について判断していないとの原告の主張は、本件審決に対する誤った理解に基づくものである。 2 取消事由2(手続上の瑕疵)について 差戻審において当事者に意見を述べる機会が付与されなければ違法であるとの原告の主張は、法令上の根拠すら示されていないもので、失当である。その点を措くとしても、前記1(1)イとおり、前訴判決は最高裁判所により支持され、確定しているのであって、特許庁が本件審決を出すに当たり、当事者の意見を聞いて審理判断しなければならない新たな争点・検討事項は存在しないから、本件審決をするに当たり当事者に改めて意見を求める必要など全くない。 したがって、原告の主張は、理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(無効理由についての判断の誤り)について (1) 本件審決の理由の要旨は、前記第2の3のとおりであるところ、本件審決の記載内容からは、次の点を指摘することができる。 ア 本件審決は、前訴判決の拘束力について、本件審決が拘束される前訴判決が認定した事実関係等の事項を、六つに整理しているところ(前記第2の3(1)ウ(ア)〜(カ))、そこに記載された事項は、あくまで「本件医薬品の有効成分」についての判断に係る事項に限定されているといえる(特に同(カ)参照)。 イ その上で、本件審決は、 「当審の判断」と題する項中、 「無効理由1について」と題する項において、前記アのとおり六つに整理した事項のうち四つ(前記第2の3(1)ウ(ウ)〜(カ))に対応するとみられる四つの事項(同(2)ア(ア)〜(エ))を指摘した上で、さらに、本件発明の特許請求の範囲を検討して、本件発明を「一般式(I)で表される化合物に関する発明」を含む三つに大別し、ナルフラフィンが一般式(I)に含まれ、一般式(II)及び(III)には含まれないと認定している(同(2)ア(オ))。 その上で、本件審決は、 「本件医薬品の承認審査における有効成分はフリー体の「ナルフラフィン」と原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認められ、 本件発明1は、ナルフラフィンを有効成分とする止痒剤を含むものであるといえる」と結論付けている(同(2)ア(カ))。 上記に関し、本件審決は、 「当審の判断」と題する項中、無効理由1に対する原告の主張についての判断として、本件処分の対象となった本件医薬品の有効成分がフリー体の「ナルフラフィン」と「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当であると改めて説示するに当たり、 「無効理由1について」と題する項で指摘した事項のうち前訴取消判決の拘束力について指摘した事項と共通するとみられる四つの事項のみを援用するにとどめている(同(2)イ)。 ウ 本件審決は、「当審の判断」において、「無効理由1を検討する」と記載しているところ、本件審決の第3の1の「請求人の主張及び証拠方法」と題する項において、(1) 無効理由1の概要」は、 「 「本件発明に係る「止痒剤」は、 「一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする」ものであって、 「一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物」の酸付加塩である「ナルフラフィン塩酸塩」を発明特定事項として含んでいない。本件特許明細書において、 塩を形成していないフリー体と酸付加塩とは区別して記載されており、出願経過において、酸付加塩は特許請求の範囲から意識的に除外されたものである。、 」「これに対して、本件医薬品の有効成分は「ナルフラフィン塩酸塩」であるから、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。、 」「したがって、 本件延長登録は、同法第125条の2第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。」と整理されている(なお、本件審決の第5の2の「(1) 請求人の主張」に「上記第4の1(1)」とあるのは、「上記第3の1(1)」の誤記と認められる。。 ) (2) 前記(1)ア〜ウで指摘した点からすると、本件審決が、前訴判決で判示され拘束力を有すると解する事項を踏まえた上で、必要と考える事項を新たに追加して、 それらの事項全体を考慮して「本件発明1は、ナルフラフィンを有効成分とする止痒剤を含むものであるといえる」 (前記第2の3(2)ア(カ))と判断したことは明らかである。 (3) 原告は、本件発明における「・・・を有効成分とする止痒剤」の技術的範囲という審判対象と本件医薬品の有効成分は何かという審判対象とは明確に異なるところ、前訴判決では後者(前訴取消事由1)について判断がされたのみであるにもかかわらず、本件審決においては、他の無効理由(クレーム解釈論)についての判断がなくてもそれにも拘束力が及ぶと考えられた可能性が高いと主張するが、前記のとおり、本件審決が上記二つの審判対象のいずれについても判断していることは明らかであり、原告の上記主張は採用することができない。 上記に関し、原告は、本件審決の「第5 当審の判断」に、本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載や審査経過等を検討した形跡がないと主張するが、前記(1)のとおり、本件審決が本件発明の特許請求の範囲等を検討したことは明らかである。出願経過についての検討結果が具体的に示されていないことは、前記(2)の判断を左右するものではない。本件審決において、クレームの文言解釈や出願経過の主張に係る判断について、原告が求める程度の理由が記載されていないとしても、 そのことから本件審決がそれらについての判断を脱漏したものとは認められない。 (4) したがって、本件審決が前訴判決の拘束力について誤解・混同をし、本件発明の技術的範囲の属否について判断しなかったという取消事由1は、認められない。 2 取消事由2(手続上の瑕疵) 証拠(甲62、65、161)に照らすと、前訴判決に至るまでの間に、原告には、審判段階においても、本件発明の技術的範囲について自らの主張立証を尽くす機会が与えられていたもので、それにもかかわらず、前訴判決の確定後、本件審決に至るまでの間に、原告に改めて主張の機会等が与えられなかったことをもって手続に瑕疵があったというべき事情は認められない。本件発明の技術的範囲に係る点は、原告による本件延長登録についての無効審判の請求の当初から、無効理由に含められていたもので、前訴判決後に新たな論点が発生したなどという原告の主張は、 採用することができない。 |
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結論
以上の次第であるから、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 本多知成 |
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裁判官 | 中島朋宏 |
裁判官 | 勝又来未子 |