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関連審決 無効2020-800118
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事件 令和 4年 (行ケ) 10021号 審決取消請求事件

原告 株式会社トラストクルー
同訴訟代理人弁護 士服部謙太朗
同訴訟代理人弁理 士藤野清規 山本洋三
被告 株式会社ダイセイコー
同訴訟代理人弁護 士小林幸夫 木村剛大 河部康弘 平田慎二
同訴訟代理人弁理 士松浦憲三 飯田啓之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/11/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2020-800118号事件について令和4年2月9日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は、特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は、進歩性についての判断の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は、平成23年9月13日、発明の名称を「吹矢の矢」とする発明について特許出願(特願2011-199686号。以下「本件出願」という。)をし、
平成24年1月20日、その設定登録を受けた(特許第4910074号。請求項の数11。以下、この特許を「本件特許」といい、本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。。
)(甲30) (2) 原告は、令和2年12月11日、本件特許の特許請求の範囲の請求項2に係る発明についての特許の無効審判の請求をし(無効2020-800118号事件。
以下「本件審判請求」という。、特許庁は、令和4年2月9日、本件審判請求につ )いて、
「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、本件審決の謄本は、同月18日に原告に送達された。
2 本件特許に係る発明の要旨 本件特許の特許請求の範囲の請求項2の記載は、次のとおりである(以下、同請求項に係る発明を「本件発明」という。。
)(甲30)【請求項2】 吹矢に使用する矢であって、
長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピンと、
円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、
からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された矢。
3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は、以下のとおり、原告(本件審決における請求人。以下同じ。)主張に係る無効理由1(甲1に記載された発明及び甲2〜5に記載された事項に基づく進歩性の欠如)及び無効理由2(甲5に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基づく進歩性の欠如)は、いずれも理由がなく、本件発明に係る特許を無効とすることはできないというものである。
(1) 引用発明の認定 ア 甲1(実願昭55-175099号(実開昭57-114294号)のマイクロフィルム)に記載された発明(以下「甲1発明」という。) 「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した、横断面の直径が円頭形の矢じり4の横断面の直径よりも小さい円柱からなる金属製の矢軸5の後方に、紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6を嵌合固着して全長約10cmに形成してなる吹矢7。」 イ 甲5(登録実用新案第3128332号公報)に記載された発明(以下「甲5発明」という。) 「シート材よりなるスカート部6が先端に開口6aを有して円錐筒に形成され、
円柱状部分と円柱状部分の一方の端部に連続し円柱状部分が先細りして先端が尖った部分とから構成された胴部4bと、円柱状部分の他方の端部に連続した側面視が略半円形状の丸い頭部4aとからなり、丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4が、スカート部6の先端に、前記側面視が略半円形状の丸い頭部4aを露出させて、その胴部4bを開口6a内に収納した状態で接着剤により固着されている、
吹矢の矢5。」 (2) 対比 ア 本件発明と甲1発明の対比 本件発明と甲1発明は、次の一致点において一致し、次の相違点において相違する(下線は、相違点などを明らかにするため、本件審決で付与されたものである。
以下同じ。。
) (一致点) 「吹矢に使用する矢であって、
先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記先端部の横断面の直径よりも小さいピンと、
円錐形の中空部材であって、先端部に前記ピンの円柱部が差し込まれ固着された中空部材と、
からなり、前記中空部材の先端部に連続して前記ピンの先端側の部分が接続された矢。」 (相違点1-1) 「ピン」の「先端部」について、本件発明では、「長手方向断面が楕円形」である先端部であるのに対して、甲1発明では、「円頭形の矢じり4」である先端部である点。
(相違点2-1) 「円錐形の中空部材であって、先端部に前記ピンの円柱部が差し込まれ固着された中空部材とからなり、前記中空部材の先端部に連続して前記ピンの先端側の部分が接続された」ことについて、本件発明では、「円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された」ものであるのに対して、甲1発明では、「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した、横断面の直径が円頭形の矢じり4の横断面の直径よりも小さい円柱からなる金属製の矢軸5の後方に、紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6を嵌合固着して全長約10cmに形成してなる」点。
イ 本件発明と甲5発明の対比 本件発明と甲5発明は、次の一致点において一致し、次の相違点において相違する。
(一致点) 「吹矢に使用する矢であって、
先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンと、
円錐筒に形成されたシートであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたシートと、
からなり、前記シートの先端部に連続して前記ピンの先端部が錘として接続された矢。」 (相違点1-5) 「ピン」の「先端部」の形状について、本件発明は、「長手方向断面が楕円形である」先端部であり、「楕円形の部分」であるのに対して、甲5発明は、「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」であり、「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい」点。
(相違点2-5) 「ピン」について、本件発明は、「該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さい」ピンであるのに対して、甲5発明は、「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4」である点。
(相違点3-5) 「円錐筒に形成されたシート」について、本件発明は、「円錐形に巻かれたフィルム」であるのに対して、甲5発明は、そのように特定されていない点。
(相違点4-5) 「ピンの先端部が錘として接続された」ことについて、本件発明は、ピンの「楕円形の部分」が錘として接続されたのに対して、甲5発明は、「釘4」の「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」が錘として接続された点。
(3) 判断 ア 甲1発明について (ア) 相違点1-1について a 甲2(特開2000-130989号公報)にも、甲3(特開平11-201692号公報)にも、「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンを備えた吹矢に使用する矢」(以下「甲2・3技術事項」ということがある。)が記載されているといえる。
b 甲1発明と甲2・3技術事項とは「吹矢に使用する矢」という技術分野において共通しているが、甲2のヘッド(甲2の段落【0016】及び【0021】参照)及び甲3のヘッド(甲3の段落【0017】参照)は甲1発明の「矢じり4」(甲1の明細書1頁3行目〜2頁2行目参照)とは材質が異なり、また、甲2及び3はいずれも円錐状の中空部材で構成されている羽根を備えるものではない(甲2の上記各段落及び甲3の段落【0008】参照)から、矢じりが金属製であり円錐状の中空部材で構成されている羽根を備えている甲1発明とは、主に羽根の部分などの構造や機序が異なり(甲2の段落【0011】〜【0014】、甲3の段落【0008】及び【0017】等参照)、全体的にみると材質ないし構造や機能が大幅に異なる。そうすると、直ちに甲1発明に甲2・3技術事項を適用しようとする動機付けはない。
そして、甲1発明では、「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有」することで、形状について既に安全吹矢を実現できているから、安全吹矢とすることを課題として、「円頭形の」「矢じり4」を「円頭形」以外の形状とする動機付けはない。
以上を総合すると、当業者であれば、甲1発明において、既に安全性が確保されている「吹矢7」の「円頭形の矢じり4」を、長手方向断面が楕円形である矢じり(先端部)に、わざわざ変更するようなことはしない。
c したがって、甲1発明に甲2・3技術事項を適用し、相違点1-1に係る本 件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
(イ) 相違点2-1について a 相違点2-1は、実質的に、次の3つの相違点に分けられる。
(相違点2-1-a) 「円錐形の中空部材」について、本件発明では、「円錐形に巻かれたフィルム」であるのに対して、甲1発明では、「紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6」である点。
(相違点2-1-b) 「円錐形の中空部材の先端部に連続して」「接続された」「ピンの先端側の部分」について、本件発明では、「錘として接続された」のに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点。
(相違点2-1-c) 「先端部に」「ピンの円柱部が差し込まれ固着された中空部材」及び「中空部材の先端部に連続して」「ピンの先端側の部分が接続された」ことについて、本件発明では、「先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルム」及び「前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が」「接続された」ものであるのに対して、甲1発明では、「円頭形の矢じり4を有した」「矢軸5の後方に」「中空円錐状の羽根部6を嵌合固着し」た点。
b(a) 甲2及び3は、そもそも円錐形のフィルムを備えた矢ではなく、甲4(登録実用新案第3051432号公報)は、矢の先端側に釘の頭部が位置しておらず釘の向きが逆であって釘の円柱部全てがプラスチックフィルム(円錐形の中空部材)に差し込まれていないから、甲2〜4には、先端部にピンの円柱部全てが差し込まれ固着された円錐形のフィルムは記載されていない。
(b) 甲1発明では、「羽根部6を嵌合固着」する位置が「金属製の矢軸5の後方」に定まっており、「金属製の矢軸5」の先端側の部分は、羽根部6で覆われずに露 出している。この定まっている嵌合固着する位置を変えることについては、甲1には何ら記載されておらず、それを示唆する記載もないから、甲1発明において、上記嵌合固着する位置を変えようとする動機付けはない。
また、甲1発明の「金属製の矢軸5の後方に」「羽根部6を嵌合固着して」いることの技術的意義は、「羽根部6を嵌合固着して」いる「金属製の矢軸5の後方」よりも前方における「金属製の矢軸5」の全部分、要するに、羽根部6で覆われずに露出している、「金属製の矢軸5」の先端側の部分(以下「矢軸5の露出している先端側の部分」ということがある。)が、発泡性素材のクッションボードに突きささって、深く侵入する(例えば、吹矢(7)の先端が台板(8)に当るまで深く侵入する)ことで、小気味の良い音を発することと、吹矢が抜けにくくなることにあるといえる(甲1の明細書3頁2行目〜7行目及び5頁8行目〜16行目並びに第6図)。そうすると、甲1発明において、相違点2-1-cに係る本件発明の構成を想到しようと試みて、「羽根部6」の先端部に連続して「円頭形の矢じり4」を接続すると、矢軸5の露出している先端側の部分が存在しなくなり、発泡性素材のクッションボードに突きささっても、固着されている羽根部6が矢軸5のクッションボードへの侵入の際の抵抗となるなどして、深く侵入する(例えば、吹矢(7)の先端が台板(8)に当るまで深く侵入する)ことができなくなり、小気味の良い音が得られなくなり、かつ、矢が抜けやすくなるおそれもあることが明らかであり、甲1発明において、「羽根部6」が「嵌合固着」している位置を変え、矢軸5の露出している先端側の部分がない構成にして、「羽根部6」の先端部に連続して「円頭形の矢じり4」を接続することには、阻害要因がある。
c 以上より、甲1発明に、先端部にピンの円柱部全てが差し込まれ固着されたシートを備えている甲5発明などを適用して、「羽根部6」が「嵌合固着」している位置を変え、「羽根部6」の先端部に連続して「円頭形の矢じり4」を接続しようとしても、甲1発明においては、そうする動機付けはなく、阻害要因も存在するから、相違点2-1-cに係る本件発明の構成とすることはできず、その余の相違 点2-1-a及び相違点2-1-bについて検討するまでもなく、相違点2-1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
(ウ) 本件発明の作用効果 本件発明は、「矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ、ダブル突入の場合でも後ろの矢のピンが前の矢のフィルムに食い込みにくい」(本件明細書の段落【0035】。なお「ダブル突入」又は「ダブル」とは、前の吹矢の矢に後の吹矢の矢が刺さることをいう。)という、甲1〜5には記載されていない格別な作用効果を有する。
(エ) 小括 よって、本件発明は、甲1発明及び甲2〜甲5に記載された技術事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 甲5発明について (ア) 相違点1-5について a 甲5の図3に記載されたような丸頭の釘が中空ではなく中実となっていることは技術常識であるから、甲5発明の「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」は、
中実であることが明らかであり、その構造は、実質的に略半球形状であるといえる。
甲5発明では、上記の略半球形状の平面部分が円柱状部分の他方の端部に接続されていることが明らかであり、当該平面部分は、「胴部4b」の「円柱状部分の他方の端部」から径方向外側に突出し、当該平面部分と「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」(略半球形状)の先端側の丸い曲面とが接する部分が、尖った角部を形成していることが明らかである。
b そして、甲5では、「後に吹いた矢が、的に刺さった前の矢に重なって刺さってしまうことがある。矢にスピードがあるため、後に吹いた矢は、釘の部分が前の矢の内部に強く接合されてしまう。」という事象が発生し、この事象が前提となり、「前の矢は、後の矢が引き剥がされると、釘だけが中に取り残されてしまうことがよくある。このように矢の中に取り残された釘を取り外すには、矢を持って根 気良くもみ出すしかなく不便であった。」という問題が発生し、その問題に対処するために、甲5では、「矢の中に取り残された釘を容易に取り外すことのできる釘取り外し具を提供すること」を課題としているといえる(甲5の段落【0004】〜【0007】参照)。
c これに対して、本件発明では、「1.的に刺さった矢を的から外すときに丸釘のピンだけ的に残ってフィルムだけ引き抜かれてしまう。」、「2.的に刺さっている矢に次に吹いた矢が前の矢のフィルムの円錐形奥深くに突入し・・・、丸釘の頭部のカエシが前の矢のフィルムに食い込んでしまう(図23参照) この場合、

後ろの矢を引き抜いたときにフィルムだけが引っ張られてフィルムが丸釘のピンから抜け、後ろの矢のピンが前の矢のフィルム内に残ってしまう。」という事象が前提となり(本件明細書の段落【0004】〜【0006】)、「1.矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ、2.ダブル突入の場合でも後ろの矢のピンが前の矢のフィルムに食い込みにくい、3.円柱部がヘッドの中心を通り飛行中のブレを少なくする、矢を提供すること」(同【0012】)を課題としている。
d このように、本件発明は、「矢を提供する」ことが課題であり、甲5は「釘取り外し具を提供すること」ことが課題であり、本件発明と甲5発明は、解決しようとする課題が相違している。
そして、甲5発明の釘は、その形状や構造から、広く流通している尖った角部がある釘と同様の構成を備えているといえるもので(甲5の図3も参照) 甲5では、

この尖った角部を備えること(前記a)及び強く接合されてしまうという事象(前記b)が課題の前提となっており、要するに、甲5の課題は尖った角部を有したまま解決されるものであり、その尖った角部の形状を変えようとすることは、甲5に記載も示唆もされていない。
また、釘の形状に着目して釘の尖った角部自体をなくすようにすることは、原告が提出した証拠のうち本件出願前の公知文献には、記載も示唆もされていない。
したがって、甲5発明において、尖った角部をなくすようにする動機付けは存在しない。
e さらに、甲5には、安全性について記載されていないから、安全性の課題が共通することを動機付けとして、甲5発明に甲2・3技術事項を適用することはできず、仮に、甲5に安全性が示唆されていたとしても、甲5発明の「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」(略半球形状)は、先端側が丸いから、前記ア(ア)bと同様の理由が成立し、さらに、甲2・3技術事項は、広く流通しているような釘の頭部を改良したものではなく、甲5発明の「矢5の重しとなる釘4」(広く流通しているような釘といえる。)とは構造が異なるものであるから、甲5発明に、甲2・3技術事項を適用する動機付けはない。
f 甲5にはカエシについての記載はないから、前記bの事象がカエシによると直ちにいうことはできないが、甲5の図3の「吹矢の矢5」が本件明細書の図20の「従来の矢24」と同様の構造であることから、仮に、甲5発明の尖った角部がカエシであり、前記bの事象がカエシによるとしても、前記dのとおりであり、甲5発明の尖った角部(カエシ)を、なくすようにする動機付けは存在しない。
g そして、本件発明は、「ピン」が「長手方向断面が楕円形である先端部」を有しており、尖った角部(カエシ)を備えないから、「矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ、ダブル突入の場合でも後ろの矢のピンが前の矢のフィルムに食い込みにくい」(本件明細書の段落【0035】)という格別の作用効果を奏するといえる。
h 以上より、甲5発明において、釘4の尖った角部(カエシ)をなくすようにすることを着想し、さらに、釘4の頭部の形状として楕円形という特定の形状を選定すること、要するに、広く流通しているような尖った角部(カエシ)がある釘を、
特定の構造や機能を備えるピンとして構成することで、「長手方向断面が楕円形である」先端部すなわち相違点1-5に係る本件発明の構成を想到することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。
(イ) 相違点2-5について a 甲5発明の「丸い頭部4a」については、前記(ア)aのとおりである。
b 前記aを踏まえると、甲5発明の「丸い頭部4aの最大幅」とは、略半球形状(先端部)の平面部分の直径であることが明らかである。
この略半球形状の平面部分は、略半球形状の端面であり、横断面ではないが、形状の直径(最大径)を比較することに限れば、実質的に横断面に対応する面であるといえる。
そうすると、甲5発明の「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、
矢5の重しとなる釘4」と、本件発明の「該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピン」とは、実質的に、「該円柱部の横断面の直径が前記先端部の横断面の直径よりも小さいピン」において共通しているとはいえる。
c しかし、前記aを踏まえると、甲5発明の「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4」の「丸い頭部4a」について、前記(ア)と同じことがいえるから、甲5発明の当該「丸い頭部4a」すなわち「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」の尖った角部(カエシ)をなくすようにし、長手方向断面が楕円形である先端部を想到することは、当業者であっても容易であるとはいえない。
そうすると、「楕円形の先端部」を含んでいる上記相違点2-5に係る本件発明の構成を想到することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。
(ウ) 相違点4-5について 本件発明の「ピンの楕円形の部分」は、「長手方向断面が楕円形である先端部」と同じものであるから、前記(ア)と同様のことがいえ、「楕円形の部分」を含んでいる相違点4-5に係る本件発明の構成を想到することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。
(エ) 小括 その余の相違点3-5について検討するまでもなく、本件発明は、甲5発明並びに甲2及び3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 原告の主張について (ア) 原告は、甲1発明に係る矢を製造する場合、矢軸に接着剤をつけてピンとフィルムを固定するところ、羽根部分がピンから外れ、又は前側(円頭形部分側)にフィルムがずれてしまうことから(甲12)、甲1に接した当業者であれば、甲5に開示のようにフィルムに円柱部を全て差し込む構成とする必要があることは自明であり、甲1発明に甲5に開示の構成を適用する動機付けがあるといえる旨を主張する。
しかし、羽根部分が外れ、又はフィルムの位置がずれてしまうのであれば、強固に固着すれば済むことであるし、そもそも甲1発明において「羽根部6」がフィルムであるのか否かも、どのような手段により「嵌合固着」されているのかも不明であって、矢軸に接着剤をつけてピンとフィルムを固定した矢を用いた甲12における実験は、甲1発明に基づく実験とはいえないから、甲12の実験結果を根拠に、
甲1発明において、羽根部分が外れ、又はフィルムの位置がずれることを前提とした上記主張は採用できない。仮に、上記主張が採用できたとしても、前記ア(イ)b(b)のとおり、甲1発明への甲5に記載された技術事項の適用には阻害要因がある。
(イ) 原告は、甲1の「円頭形」のピンは少なくとも「球形」であるといえるところ、これと「楕円形」のピンとで作用効果に差異はないことや、被告が主張する「楕円形」の定義が非常に広範で甲1には実質的には「楕円形」の開示があるといえること等も踏まえると、相違点1-1は、実質的な相違点ではないか、ごくわずかな差異であり、より得点性能の良い矢を開発するに際して当業者として楕円形のピンを試すことはごく自然に行う(設計事項に等しい)ものであることからすると、動機付けは十分にあると主張する。
しかし、「楕円」は、「長円」を意味し、「円」は、「まるいこと」を意味し、
これらは別々のものであるから、「楕円形」(楕円形状)と「円形」(円形状)も意味が異なり、形状も異なり、作用効果も異なるといえる(吹き矢のように高速で飛行する物体は、わずかな形状の相違であっても重心の位置に違いが生じ飛行のブレに影響することは、技術常識である。)。そうすると、矢じり4の形状について「円頭形」が開示されているだけの甲1は、実質的に「長手方向断面が楕円形」であるとはいえないし、「長手方向断面が楕円形」のピンの先端部とでは作用効果に差異がないともいえないから、相違点1-1が実質的な相違点でないとはいえない。
そして、前記ア(ア)のとおり、甲1発明に、甲2・3技術事項を適用する動機付けはない。
(ウ) 原告は、甲5には、従来技術に係る吹矢ではダブル時に後の矢の釘が前の矢のフィルムに食い込んで外す際に抜けてしまうという本件発明の課題が開示されており、そのような周知の課題を解決すべく、甲2や甲3に開示のピンの形状(先端部が楕円形のピン)を適用し、かかる課題を解決できないかを検討することは当然のことであるから動機付けがあるといえる旨を主張する。
しかし、前記イ(ア)b〜dのとおり、甲5発明の課題と本件発明の課題は相違しているから、甲5に本件発明の課題が開示されているとはいえない。
そして、同d及びfのとおり、本件発明のように、釘の頭部の形状を変えて尖った角部(カエシ)をなくすようにする手段が、本件出願前に周知ないし公知であったといえる根拠は存在せず、この手段を着想したこと自体が新規であるといえる。
さらに、同eのとおり、甲5発明に甲2及び3に係る構成を採用することについて動機付けがあるとはいえない。
(エ) 原告は、甲18の1〜甲21に基づき、甲5発明のピンの先端部の形状を楕円形とすることが当業者にとって容易である旨、甲22等に基づき、甲5発明においてカエシの有無は阻害要因とならない旨、甲23(特開2021-81125号公報)によると甲12の実験が正しいことが理解できる旨を主張する。
しかし、甲18の2〜甲21の内容を総合すると、甲18の1は、特定のUSB に格納されたデジタル情報を印刷したもので、当該USBのデジタル情報は、甲18の3に示される日時に作成、更新されたものであったとしても一部の限られた者しか知ることができないものであったと解するのが妥当であり、本件出願前に周知ないし公知であったとはいえないから、本件発明の容易想到性の判断に参酌されるべきものではない。また、「ピン」の「先端部」の形状に係る相違点1-5の判断は、前記イ(ア)のとおりである。そして、本件出願後に出願公開された甲23を参酌したとしても、甲12の実験結果を根拠に甲1発明において円柱部の全てをフィルムに差し込むことが容易であるといえないことは、前記(ア)及び前記ア(イ)のとおりである。
原告主張の取消事由
1 取消事由1(甲1発明を主引用例とする容易想到性の判断についての誤り) (1) 相違点1-1に関する容易想到性の判断の誤り ア(ア) 「円頭形」 「 は、(柄頭など)頭部のまるいこと。、
」「剃髪した頭。僧侶の頭。」であるところ(甲29)、人間の頭部は、球形(真円)でなく、上下の長さと左右の長さが異なるもので、
「円」よりはむしろ「楕円」に近い形状である(なお、甲10(米国特許第4586482号明細書)では、
「実質的に球形の閉止端24」と称する部材について、図3aでは実際には球形よりもむしろ「楕円」に近い形状となっている。このことからすると、球形か楕円形かにつき、当業者は厳密には解していない。。
) この点、「円頭」という語は、甲1発明において、「球形部分」と「矢じり部分の位置関係を特定するのみならず、ピンの先端部の形状を形容するものであることが自明であり、また、あえて「円頭形」という表現を用いている以上、その形状については「円頭」という語句の通常の意義を参酌しなければならない。
(イ) 本件発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明(ピンの先端部を球形とした矢)の変形例として紹介されており、また、本件明細書には球と楕円の形状の差異による作用効果の差異について記載がない。
この点、球と楕円の違いにより飛行が安定するか否かについて、本件明細書には何ら裏付けがない。被告の主張を前提としても、飛行性能に影響するのは重心位置が前側か否かという点であるところ、本件明細書の図17及び図18によると、球ピンと楕円ピンとでは重心位置は平均値ではわずか0.1%しか変わらない。
(ウ) このように、甲1発明の「円頭形」はむしろ「楕円形」に近い形を含むものであり、また、本件明細書に「球形」と「楕円形」の違いによる作用効果の差異について記載がないことからすると、甲1発明の「円頭形」と「楕円形」の相違は表現が異なるという程度のことにすぎず、実質的な相違点ではなく、設計事項に等しい事項である。さらに、吹矢においては、本件審決も認めるように、甲2や甲3に先端部の形状を「楕円形」とした例が開示されている。
(エ) 本件審決は、材質等が異なることから甲1発明に甲2・3技術事項を適用する動機付けはないとするが、本件では、甲1発明につき矢の材質等を変えるというような大幅な変更を要するものではなく、
「円頭形」の形状を従来技術の形状も参酌しつつ、「楕円形」(球形と作用効果の相違も認められないような形状、設計事項に等しい形状)に変更するという程度のことにすぎない。前記(イ)のとおり、本件明細書にピンの先端部を球形とした場合と楕円形とした場合の作用効果の差異について明示的な記載がないことからして、球形から楕円形とすることについて高い動機付けを要求すべきではない。
そして、甲1発明も甲2及び3に記載された発明も競技用の吹矢であり、より得点性能の良い矢を開発するに際して当業者として楕円形のピンを試すことはごく自然に行う(設計事項に等しい)ものであることも踏まえると、甲1発明に甲2・3技術事項を適用することは容易である。
(オ) 被告は、本件発明の課題について指摘するが、ピンの引き抜け防止という課題は、ピンとして釘を使用していることにより生じるものであって、甲1〜3では先端部の形状が既に引き抜け防止に適した形状となっている。
また、吹矢協会の競技規則では、矢が的から抜けた場合は「撥ね矢」として吹き 直しとなり、零点になるのではないから、的に突き刺さり抜け難い方がよいということもない。
他方、飛行中のブレを少なくするという課題は、吹矢である以上は命中精度に関連する普遍的なものであり、甲1発明自体もそのような課題を有していることは自明である。そうすると、当業者において、甲1発明の飛行中のブレ防止・命中精度向上のため、先端部の形状として適宜公知の形状を試してみることはごく当たり前なことであり、動機付けとして十分である。
また、被告は、楕円形よりも球形の方が重心の位置に違いが生じにくいと主張するが、本件明細書に上記主張を裏付ける記載はない。
イ 本件審決は、「楕円」と「円」の意味が異なるとするが、甲1では「円頭形」と特定されており、「円形」と特定されているのではないから、「楕円」と「円」を対比すること自体失当である。
また、本件審決は、わずかな形状の相違であっても重心の位置に違いが生じ飛行のブレに影響すると述べるが、本件明細書の図17(楕円ピン)では重心位置は26.5%〜26.6%(平均26.6%)であるのに対し、図18(球ピン)では重心位置は26.2%〜27.0%(平均26.7%)となっており、平均値ではわずか0.1%しか変わらないから、図17と図18からは球ピンと楕円ピンにおいて作用効果の違いは不明であり、本件審決の判断は本件明細書の記載を無視した独自の見解にすぎない。
ウ したがって、本件審決は、相違点1-1につき容易想到性の判断を誤ったもので、取り消されるべきである。
(2) 相違点2-1-cに関する容易想到性の判断の誤り ア(ア) 甲1に「篏合固着」の手段について記載がないこと及び甲1の第3図の構成を踏まえると、甲1発明ではごく一般的な固着手段である接着剤を用いて矢軸と羽根部6が篏合固着されていると考えるのが合理的である。
そして、甲23の段落【0047】に、
「時速100km程度の高速で矢が的にぶ つかり刺さるので、フィルムが支持部14に糊付けされていても的にぶつかった衝撃で慣性の法則によりフィルム先端部が多少前にずれる」とあること(これは、慣性の法則等に基づく説明で、出願日の前後を問わず当然に生じる結果を述べるものであるから、同段落の記載を参酌できる。)からすると、甲12の実験は、甲1を再現したものであるといえる。矢が前にずれるといったことを避けるため、甲1発明に甲5発明を適用する動機付けがあるといえ、強固に固着すれば足りるという本件審決の判断は失当である。
また、@矢軸の途中にフィルムを巻き付ける構成とした場合、ピンの軸がフィルムの中央を通るように固定することが困難となり、上下方向で重心のブレを生じ、
命中精度に影響し得ること、A上記構成とすると、吹矢を量産する際に差し込む部分の長さを一定にするための位置決めが困難であるのに対し、フィルムに円柱部を全て差し込む構成とすると、同じ長さの吹矢を容易に製造することが可能となるといった点を踏まえても、甲1発明に甲5発明を適用する動機付けがある。
(イ) 被告は、甲1及び5にフィルムの上下方向の重心等に着目した記載がないと指摘するが、本件明細書の段落【0049】の記載から明らかなとおり、飛行中のブレ防止といった作用効果は、ピンの円柱部全てが差し込まれ固着することによって得られるのではない。羽根部分がピンから外れる、又は前側(円頭形部分側)にフィルムがずれてしまうという現象が条件によって起こり得る以上、そのような現象を回避すべく、当業者としては羽根部6が矢軸5を全て覆う形状とすることについて動機付けがあり、容易想到である。
イ(ア) 本件審決は、阻害要因があると判断したが、前記アのとおり、吹矢の矢は時速100kmを超える速度で的に突き刺さるから、矢軸の先端部分が露出しない構成(円柱部が全てフィルムで覆われた構成)とした場合に、羽根部6が矢軸5のクッションボードヘの侵入の際の抵抗となるなどして深く侵入する(例えば、吹矢(7)の先端が台板(8)に当るまで深く侵入する)ことができなくなるなどという現象が起こるはずがない。このことは、円柱部全てがフィルムに差し込まれてい る本件発明の矢や本件発明の従来技術の矢(先端部に釘を使用した矢)が的に食い込んでいる(むしろ従来技術では矢が的に食い込んだ際、釘のカエシの部分が引っ掛かって的から抜く際にピン抜けが生じる)ことからも明らかである。
被告は、物体が軽ければ上記現象が起こることも十分考えられる旨を主張するが、
裏付けを欠くものである。甲1発明に係る矢と被告が販売する矢(甲23の出願の前提となる矢)はその基本的な構成を同じくしており、重量はほぼ同じであるといえるが、後者の矢はクッションボードに深く突き刺さっていて、矢の抜け落ちといった現象は生じておらず、フィルムが侵入の際の抵抗となっていない。
(イ) 同様に、矢が的に刺さった際に小気味のいい音が生じるのは、矢が時速100kmを超えたスピードで的に刺さるからであり、このような音は甲1発明の矢軸の先端部分が露出しない構成(円柱部が全てフィルムで覆われた構成)としたからといって何ら変わりがない。また、小気味いい音が生じる原理は、的の表面に紙等が貼られてあり、矢がこの紙等を破って突入する際に生じるというのが実際である。
この点、矢が的に刺さった際の音に的とフィルムの擦過音が混じるという点や、
「小気味いい音」がクッションボードに深く突き刺さった音であるといった点について、被告は根拠を示していない。むしろ、証拠(甲31〜35)によると、矢軸を全てフィルムが覆った構成である矢(被告が販売している矢)でも、矢が的に刺さった際に「小気味いい音」が生じると認められる。したがって、甲1発明に係る矢について、羽根部6が矢軸5を全て覆う形とした場合でも、クッションボードに突き刺さる音に差異が生じるとは考え難い。
(ウ) それゆえ、相違点2-1-cについて阻害要因があるとした本件審決の判断は誤りである。
ウ したがって、本件審決は、容易想到性の判断を誤ったもので、取り消されるべきである。
(3) 作用効果の格別性(顕著性)に関する判断の誤り 本件発明についてカエシのない構成とした場合に食い込みが減るといった作用効 果は、容易に想像できるものであり、このことは甲18及び20からも明らかである。そもそも本件のような作用効果が容易に想像可能な機械系の技術分野において、
作用効果の顕著性に基づき特許が有効となることは到底考えられない。
この点においても、本件審決の判断には誤りがある。
(4) 予備的主張 前記(1)〜(3)により容易想到性についての本件審決の判断が誤っていた場合、本件審決は取り消されるべきであるが、予備的に、@甲1では羽根部6は「紙又は合成樹脂材及び金属箔」からなるもので、このような素材がフィルムに該当することは自明であるから(甲26参照) 本件審決の相違点2-1-aの認定には誤りがあ 、
ること、A甲1発明の矢の矢軸が金属でできており、特に先端部が「円頭形」であり、重量があることからすると、このような先端部が「錘」に該当することは自明であるから(甲26参照) 本件審決の相違点2-1-bの認定には誤りがあること 、
を主張する。
2 取消事由2(甲5発明を主引用例とする容易想到性の判断についての誤り) (1) 相違点1-5、相違点2-5及び相違点4-5に関する容易想到性の判断の誤り ア 甲5発明に甲2及び3を適用する動機付けがあること (ア) 甲5に課題の開示があること(引用例中の示唆) a 甲5の段落【0002】〜【0004】及び【0014】の記載並びに図3からすると、甲5発明の吹矢(甲5の背景技術の吹矢)が被告の販売していた吹矢(甲6以下)であることは明白である。
そして、甲5の図3(a)には、後の矢5eが前の矢5のスカート部6内に「ダブル突入」した状態が示されてあり、後の矢5eの円錐形のスカート部(本件発明の「フィルム」に相当する。)は既に引き剥がされ、後の矢5eの丸釘ピン4eだけが前の矢の丸釘ピン4bに接合したままで前の矢5のスカート部6内に取り残されている状態が図示されている。
したがって、甲5には、従来技術に係る吹矢(すなわち被告の販売に係る吹矢)ではダブル時に後の矢の釘が前の矢のフィルムに食い込んで外す際に抜けてしまうという、本件発明の課題が開示されている。
b さらに、甲5に係る「釘取り外し具」は、この不具合の事態に備えるために考案された器具であって、その操作方法は、まず、前の矢5のスカート部6の内側に、挿入具3を内挿した釘受け筒2を差し込んで、挿入具3の棒状部分3bの先端に設けたテーパー状のくさび部3cを釘受け筒2の内壁と後の矢5eの丸釘ピン4eのカエシに当接するか又は当接する直前まで深く挿入して固着させ、釘受け筒2の内壁と後の矢の丸釘ピン4eの間の隙間をなくすことによって、前の矢5のスカート部6に丸釘ピン4eのカエシが引っかかっていても、釘受け筒2を引き上げると、後の矢の丸釘ピン4eを挿入具3と共に引き抜くことができるというものである(甲5の図3(b)及び(c)。
) このような器具を用いて後の矢5eの丸釘ピン4eの引き抜き作業をしなければならない理由は、丸釘ピン4eの半球状の頭部にあるカエシが前の矢5のスカート部6の内壁に引っかかっているからであること、すなわち、丸釘ピンの頭部(先端部)にカエシがあることが後の矢が取り残されている原因であることが一目瞭然のこととして理解できる。
このように、甲5には、上記のような問題が生じるのは従来技術でピンとして釘を利用した場合に、釘のカエシの部分がフィルムに食い込むことが原因であることについて、実質的に開示がある。
甲5にはダブル突入時に後に吹いた矢の「釘の部分が前の矢の内部に強く接合されてしまう。」という事象が発生する旨明記されており(甲5の段落【0004】、
)本件発明と同様の事象について言及があるのであって、甲5自体はこのような事象に対して釘取り外し具を提供することを考案の内容としているが、甲5の上記課題(上記事象)に接した当業者として、釘取り外し具を開発するのではなく、矢自体を改良しようと考えることは十分に考えられる。
(イ) 本件発明の課題が本件出願前に周知であったこと a 本件出願前のブログ記事(甲14)及び本件出願から1か月後のブログ記事(甲15)には、本件発明の従来技術である吹矢について、ダブルが生じた際に後の吹矢の矢のピンが前の吹矢の矢のフィルムに食い込むという、本件発明の課題が開示されており、それが公知であったことが読み取れる。
b 被告が発売した「スポーツ吹矢ガイドブック」という書籍(甲16)にも、
的から外す時又はダブル時に、先端についている釘が抜ける、すなわち、
「矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ」ないという本件発明の課題があることが開示されていた。
c また、本件出願前から、従来技術品の矢でダブルが生じること及びその際後の矢のピンが抜けるということが生じることは公知であったところ、ダブルが生じた吹矢を見れば、その原因が釘のカエシ部分が前の矢のフィルムに食い込んでいることが原因であることも一目瞭然であった(甲17)。
d 以上のように、甲5自体の記載及びブログ記事等の記載からすると、甲5の背景技術の矢について本件発明に係る課題があることは、周知又は公知であったといえる。したがって、甲5の背景技術に関する記載及び図面に接した当業者は、本件発明の課題を読み取ることができる。
なお、本件審決は、甲5発明(従来技術の矢)と甲5に記載の事項(釘取り外し具の考案)を混同するものである。甲5に「釘取り外し具」との考案が開示されているとしても、そのことは、動機付けや阻害要因に影響するものではない。
イ 甲2及び3について (ア) 甲2及び3には、ピンの先端部の長手方向断面が「楕円形」である吹矢の矢が開示されているから、前記アのとおり、甲5に係る背景技術の矢に周知の課題が存在する場合、かかる課題を解決すべく、甲2及び3に開示のピンの形状(先端部が楕円形のピン)を適用し、当該課題を解決できないかを検討することは当然のことである。
(イ) 上記に関し、吹矢の一愛好家にすぎないA及びBは、本件出願前に、
「広く流通しているような釘」について、先端部が球形又は楕円形と表現すべき形状の「特殊な釘を作成」し、これを矢の先端部に使用するということを提案していたもので(甲18の1、甲20)、Bの陳述書(甲20)における説明は、正に、甲5発明に接した当業者において、釘抜けが生じないような矢を開発することが可能であることを示すものである。
なお、甲18の1が本件出願前に周知又は公知であったか否かは、上記の点に影響しない。また、本件審決は、甲20について一切言及しておらず、審理の遺脱がある。
ウ 小括 以上を踏まえると、甲5発明について、先端部を釘のような半円形から甲2及び3に開示の楕円形とすることは容易に想到できるものである。
したがって、本件審決が甲5発明の先端部の形状を「楕円形」とすることは容易想到ではないと判断したことは誤りであり、本件審決の相違点1-5に関する容易想到性の判断は誤りである。そして、実体的な内容を同じくする、本件審決の相違点2-5及び相違点4-5に関する容易想到性の判断も、当然に誤りとなる。
(2) 作用効果の格別性(顕著性)に関する判断の誤り 本件発明について、作用効果に格別性(顕著性)がないことは、前記1(3)のとおりである。
(3) 予備的主張 前記(1)及び(2)により容易想到性についての本件審決の判断が誤っていた場合、
本件審決は取り消されるべきであるが、予備的に、甲5には「スポーツ吹矢用の矢」と記載されているところ、
「スポーツ吹矢」が被告及び被告代表者の保有する登録商標であることも踏まえると、甲5で説明されている矢は被告が販売する矢(本件発明の従来技術の矢)であり、
「円錐形に形成されたシート」がフィルムであることは明らかであるから、本件審決の相違点3-5の認定には誤りがあることを主張する。
被告の主張
1 取消事由1(甲1発明を主引用例とする容易想到性の判断についての誤り)について (1) 相違点1-1に関する容易想到性の判断の誤りについて ア 原告が主張する語義は「円頭形」ではなく「円頭」の語義であり、「円頭形」という言葉自体あまり使われないものであるところ、甲1の第3図及び第6図の内容からすると、
「円頭形」の意味は、球形部分を頭、それに続く矢じり部分を首に見立てているだけで、厳密な意味での人間の頭部を表現している言葉ではないと考えるべきである。
また、本件明細書の図17と図18の表を比較すれば明らかなとおり、楕円ピンタイプの矢は、球ピンタイプの矢に比べて重量が重くなり、重心も前寄りになる傾向があり、球ピンタイプの矢に比べて飛行が安定するという作用効果の違い(球形にはない利点)がある。重量を重くするためには、素材を比重の重い物にするということも考えられるが、これは現実的ではないため、矢の重量を重くするためには球を側方に伸ばし楕円形にするのが最も簡易な方法である。なお、仮に、先端部が球形の矢と先端部が楕円形の矢との間に特段の作用効果の差異がないとしても、そのことは、甲1に楕円形の先端部が開示されていることにつながるものではない。
イ 本件発明の課題及び効果(特に、本件明細書の段落【0072】及び図17のとおり、ピンの先端部が楕円形であることにより、重心比率が従来の矢よりも平均で5.1%先端方向に位置した状態になっており、これにより7点的中率が格段に上がるという効果を奏する。)からして、本件発明は、球形の先端部を楕円形の先端部に替えるという技術的思想に基づくものではなく、従来の課題を解決すべく、
楕円形の先端部によって奏する作用効果に着目したものである。
これに対し、甲1〜3には、本件発明が解決する課題(ピンの引き抜け防止、飛行中のブレを少なくする等)はもちろん、ピン先端部の後方側の形状や重心に着目した技術は皆無であり、何らピン先端部の後方側の形状や重心に着目した記載がな い。
したがって、甲1〜3のいずれにおいても、本件発明の課題や作用効果は開示されていないから、甲1発明において矢の先端部を楕円形にする動機付けはない。
この点、本件審決が認定するとおり、吹き矢のように高速で飛行する物体については、わずかな形状の相違であっても重心の位置に違いが生じ飛行のブレに影響することが技術常識である以上、大きく材質・構造・機能が異なる甲2や甲3で好適な矢じりの先端を、既に安全吹矢を実現している甲1に適用する動機付けはないといえる。
また、得点性能を追及すると、的に突き刺さり抜けにくい方が性能が良いということになるから、あえてカエシのない楕円形のピンを試すことは、得点性能を追及することと関係せず、ましてやごく自然に行うことではない。同様に、楕円形よりも球形の方が重心の位置に違いが生じにくいのであり、既に重心の位置が安定しやすい球形にしているのに、あえてブレる可能性のある楕円形の形状にする動機はないというべきである。
(2) 相違点2-1-cに関する容易想到性の判断の誤りについて ア(ア) 矢が的に当たった衝撃で、羽根部分が慣性の法則でピンから外れる、あるいは前側(円頭形部分側)にフィルムがずれてしまうという現象が条件によって起こり得るとしても、そのことと、甲1の円柱部を全てフィルムに差し込むこととは無関係である。
本件発明は、「先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルム」という構成を備えることによって、フィルムの上下方向の重心を均等にすることができて飛行中のブレが小さくなり、軽量化も図るという効果を奏するものである(本件明細書の【0049】等参照)。これに対し、甲1及び5には、フィルムの上下方向の重心、飛行中のブレ、軽量化について着目した記載はない。また、甲1の矢軸5は、甲1の第6図等から看取されるとおり、クッションボード(ターゲットボード)12に刺さる部分は全くフィルムで覆われていないものであり、仮に矢 軸5をフィルムで覆うとしても、矢軸5の後方に設けられた中空円錐状の羽根部6の部分をフィルムで覆うことになるだけで、矢軸5全体をフィルム覆うことにはならない。
したがって、甲1発明において、矢軸5全体をフィルム覆うことは、容易想到ではない。
(イ) 甲12は、羽根部分と矢軸を接着剤で固着しているという推測の上で矢の作成を行っているが、「嵌合固着」(甲1)と「接着」とは異なる概念である。
また、甲1では、矢の刺さる的の厚さを約20mm程度と指定し、的に刺さる部分をフィルムの付いていない部分に限定するような工夫を行っていることが看取できる(甲1の3頁6行目及び第6図)から、フィルムに円柱部を全て差し込む構成(甲12)としなければならないことなどない。
さらに、甲12の実験結果では、5本の矢を各20射行うと4本が破損してしまうとされているが、甲1の実用新案登録願は昭和55年に出願され昭和57年に手続補正が行われているところ、この時期に5本×20射=100本程度の試射・競技が行われていないとは考え難く(なお、甲1の4頁9行目には、矢を5本吹くのを2分30秒以内で行う旨の記載があるから、20射を行うのに要する時間は連続で行えば46分にすぎない。 、試射・競技中に破損してしまうようなものであるは )ずがないから、破損が多いということは甲12の矢の再現方法が誤っていることの証左である。
この点、被告も同様の実験を行ったところ、各20射終了時の矢の破損数はなく、
各30射終了時においても破損は1本のみであり、4本については破損がなかった。
また、必ずしもピンの先端部とフィルムが接触した状態にはならなかった。原告が行った甲1発明の再現及び実験の結果(甲12)は、被告が行ったもの(乙1)と異なるもので、信用性があるとはいえない。
イ(ア) たとえ、時速100kmを超える速度で的に突き刺さるとしても、吹矢の矢自体は非常に軽いものであるから、固着されている羽根部6が矢軸5のクッション ボードへの侵入の際の抵抗となることは十分に考えられる。また、吹矢競技の競技者は高齢者も多く、全ての競技者の吹矢が時速100kmを超える速度で的に突き刺さるわけでもない。競技に熟達していない者や体力の衰えた者であっても、矢が刺さった際に「小気味いい音」がすれば、それが吹矢競技への参加の原動力となるから、どんな競技者でも「小気味いい音」がするよう、あえて円柱部全てがフィルムに差し込まれていない構成を採用しているにもかかわらず、当業者においてそれを特段の事情もなく変えようとは考えない。
この点、甲1発明の矢軸の先端部分が露出しない構成(円柱部が全てフィルムで覆われた構成)になっていた場合、矢が的に刺さった際の音に的とフィルムの擦過音が混じり、金属製の矢じり部分のみが刺さった場合とは音が変わる。また、甲1は、クッションボードに突き刺さることによって生じる音を「小気味のいい音」としているところ、矢が的に当たった際に生じる音の中に、的の表面に貼られた紙等を矢が破って突入する際に生じる音が混じっているとしても、紙が破れる音とクッションボードに突き刺さる音のうち、競技者が「小気味のいい音」と感じるのは、
自らの矢の威力を示す、クッションボードに深く突き刺さった音であると解される。
したがって、原告の主張によっても、阻害要因が存在することに変わりはない。
この点、原告は、被告が販売する矢に係る事情を理由として、クッションボードに突き刺さる音に差異が生じるとは考え難いなどと主張するが、事後分析的思考であり、当時の当業者がどのように考えるかが重要な進歩性の判断に当たっての考慮として相当でない。
(イ) さらに、甲1の第6図の的と吹矢の関係からすると、甲1発明については、矢軸部分のみが的に突き刺さり、フィルム部分が傷つかないようにしていると考えられる。しかるに、フィルムが矢軸全てを覆えば、フィルムが傷ついてしまい、空気抵抗などが変わってしまう可能性があるから、阻害要因が存在するというべきである。
(3) 作用効果の格別性(顕著性)に関する判断の誤りについて 本件審決は、本件発明が顕著な作用効果を有することから本件発明が有効であると判断したものではなく、原告の主張は、その前提を誤るもので、審決取消事由に当たらない。
2 取消事由2(甲5発明を主引用例とする容易想到性の判断についての誤り)について (1) 甲5発明の釘4の丸い頭部4aを楕円状の形状にすると、ダブル突入の状態になっても、後ろの矢を引き抜いたときにフィルムだけが引っ張られて後ろのフィルムからピンが抜けてピンが前の矢のフィルム内に残るということも防止できるようになり、甲5の課題が解決されるから、釘取り外し具が不要となる。そのように、
甲5発明の釘4の丸い頭部4aを楕円状の形状にすることは、甲5の釘取り外し具の技術的意義をなくしてしまうことであるから、甲5にその動機付けはなく、むしろ阻害要因がある。
(2) 甲5の吹矢にはカエシが存在する(甲5の【図3】)ところ、カエシには抜け防止の作用効果が存在し、また、吹矢競技は1点が争われる競技である(原告自身、
これらを認めている(乙2)) 。。しかるに、カエシの抜け防止効果をなくせば、せっかく的に命中した吹矢が的から抜けてしまうおそれがあり、競技者にとっては致命的なダメージになる可能性があるから、カエシをなくしてしまうことは、そう簡単な決断ではない。したがって、釘取り外し具によってダブル突入の状態になった場合の課題を既に解決しているにもかかわらず、あえて矢自体のカエシをなくす構成とする動機付けはなく、阻害要因が存在するというべきである。
(3) なお、甲18の1に何が記載されていようと、それを知るのはBとその提供を受けたスポーツ吹矢用具審査委員会の参加者だけであり、当業者一般の技術水準を示すものにはなり得ない。あくまでBらの技術水準を示すのみである。甲18の1は、無効理由の有無に関係しない。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書の記載 本件特許における特許請求の範囲の請求項1並びに本件明細書(甲30)の発明の詳細な説明及び図面には、次の記載がある(なお、本件明細書中の「特許文献1」は、甲4である。。
) 【請求項1】 吹矢に使用する矢であって、
球形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、
該円柱部の横断面の直径が前記球形の直径よりも小さいピンと、
円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、
からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの球形の部分が錘として接続された矢。
発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、吹矢に使用する矢に関する。
【背景技術】 【0002】 近年、矢を吹く際の呼吸が腹式呼吸であり健康によいという理由から、スポーツや娯楽としての吹矢が普及している。
【0003】 スポーツや娯楽としての吹矢は、フィルムを円錐状に巻いてフィルムの先端に錘としてのピンを差し込んだ矢を用いて行われ、この矢を筒に入れ、筒の後端部から筒内に息を吹き込むことにより、矢を発射させてウレタン製の的に当てる。矢としては、略長方形状のプラスチックフィルムを円錐状に巻いてその先端に錘としての釘を脚の部分から差し込み固着したものが用いられている(例えば、特許文献1参 照)。釘としては、一般に真鍮製か鉄製の丸釘が用いられる。この従来の矢は次の3つの課題がある。
【0004】 まず、上述した従来の矢24は、図20に示すように、フィルム28の先端部に丸釘26が差し込まれた形状になっている。丸釘26は、図21に示すように、頭部29にカエシが形成されており、頭部29には後方に向かって尖っている円柱部30が一体接続されている。このカエシの存在により、次の2つの事象がしばしば生じている。
【0005】 1.的に刺さった矢を的から外すときに丸釘のピンだけ的に残ってフィルムだけ引き抜かれてしまう。
【0006】 2.的に刺さっている矢に次に吹いた矢が前の矢のフィルムの円錐形奥深くに突入し(この事象を以降「ダブル突入」と呼ぶ)、丸釘の頭部のカエシが前の矢のフィルムに食い込んでしまう(図23参照)。この場合、後ろの矢を引き抜いたときにフィルムだけが引っ張られてフィルムが丸釘のピンから抜け、後ろの矢のピンが前の矢のフィルム内に残ってしまう。
【0007】 上述の1の場合、ピンが抜けた矢は以降、使用できなくなる。上述の2の場合、
前の矢のフィルム内にはピンが2本存在する状態になり、後ろの矢にはピンが存在しない状態になるため、前の矢、後ろの矢共に使用できなくなる。
【0008】 また、丸釘は市販のJIS規格のものを用いているが、市販のものは木材などの固定が主な目的であるので、円柱部30が頭部29の中心を必ずしも通っているわけではなかった。
【0009】 さらに、特許文献1に開示の略長方形状のプラスチックフィルムを円錐状に巻くと、巻いた状態でのフィルム28後端部のフィルム重なりしろ36が図22に示すように大きくなっていた。
【0010】 3.この構造だと上下方向の重心に偏りがあり、フィルムを転がしたときに同じ箇所で止まる傾向があった。矢が飛行中にもこの重心の偏りは影響しており、ブレの原因になっていた。
発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、1.矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ、2.ダブル突入の場合でも後ろの矢のピンが前の矢のフィルムに食い込みにくい、3.円柱部がヘッドの中心を通り飛行中のブレを少なくする、矢を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】 【0013】 請求項1に係る発明は、前記目的を達成するために開発された、吹矢に使用する矢である。この矢は、球形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記球形の直径よりも小さいピンと、
円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの球形の部分が錘として接続された矢、からなる。
【0014】 本発明によれば、1.ピンの先端部が球形のため、的に刺さった矢を的から外すときに釘の頭部にかえしがないので、矢が抜きやすくなり、ピンだけが的に残ってフィルムだけ引き抜かれることが極力防止できる。2.的に刺さっている矢に次に 吹いた矢が重なって前の矢のフィルム奥深くに食い込んでダブル突入の状態になっても、後ろの矢を引き抜いたときにフィルムだけが引っ張られて後ろのフィルムからピンが抜け、ピンが前の矢のフィルム内に残ることも極力防止できる。3.前記球形の中心部に対する前記円柱部の配置誤差が極めて小さく製造でき、矢全体の重心も前寄りになるので矢の飛行中におけるフィルム後端の上下左右方向のブレが少なくなり、的への命中率が高まる。
【0015】 請求項2に係る発明は、前記目的を達成するために、吹矢に使用する矢であって、
長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピンと、円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された矢、からなる。
【0016】 本発明によれば、円錐形の前記フィルムの先端部に前記ピンの縦断面楕円形の部分が錘として接続されている。1.ピンの先端部が縦断面楕円形のため、的に刺さった矢を的から外すときに矢が抜きやすくなり、ピンだけが的に残ってフィルムだけ引き抜かれることが極力防止できる。2.的に刺さっている矢に次に吹いた矢が重なって前の矢のフィルム奥深くに食い込んでダブル突入の状態になっても、後ろの矢を引き抜いたときにフィルムだけが引っ張られて後ろのフィルムからピンが抜け、当該ピンが前の矢のフィルム内に残る事態も極力防止できる。3.前記楕円形の中心部に対する前記円柱部の配置誤差が極めて小さく製造でき、矢全体の重心も前寄りになるので矢の飛行中におけるフィルム後端の上下方向のブレが少なくなり、
的への命中率が高まる。
【発明の効果】 【0035】 本発明によれば、矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ、ダブル突入の場合でも後ろの矢のピンが前の矢のフィルムに食い込みにくい矢を得ることができる。また、前記球形や前記楕円形の中心部に対する前記円柱部の配置誤差が極めて小さく製造できる。さらに、本発明によれば、上下方向の重心を均等にすると共に長手方向の重心を前寄りに寄せた、飛行中のブレの少ない的中率の高い矢を得ることができる。
【発明を実施するための形態】 【0037】 以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について詳説する。
【0038】 図1は、本実施の形態の矢の構成を示す縦断面図である。
【0039】 同図に示すように、矢2は丸ピン4と円錐形に巻かれたフィルム6とからなる。
【0040】 丸ピン4は、図2に示すように、球形である丸型ヘッド8と該丸型ヘッド8と連続していて該丸型ヘッド8から後方に延びる円柱部10とからなる。丸ピン4は鉄製で表面にメッキが施されている。該円柱部10の横断面の直径は前記丸型ヘッド8の直径よりも小さい。円柱部10の、丸型ヘッド8の横断面中心に対する配置誤差は、一体成型のため1/100mm以下に抑えることができる。
【0041】 フィルム6は、図4に示すように、向かい合う二辺が長辺になっている略長尺状のオリエンテッドポリプロピレンシートからなる。前記長辺のうちの一方がゆるやかな円弧状に内側に湾曲している円弧部18となっている。円弧部18に隣接する角部には円弧部18よりもカーブが急な円弧状の湾曲部20が形成されている。円弧部18と向かい合う長辺は、略直線状に形成されている直線部22となっている。
直線部22の両端の角部は、角が切断された形状になっている。また、円弧部18 の、湾曲部20と逆の隣接部も角が切断された形状になっている。手元辺32は曲線、並びに先端辺34は直線状になっている。
【0042】 次に、矢2を作成する方法を説明する。
【0043】 図5は、フィルムとフィルムを巻く際に用いる治具を示した図である。フィルム6は治具を用いて円錐形に巻いていく。まず、手元辺32を治具に巻く。次に、巻いた部分を押えて治具をフィルム6を巻いていく方向に回転させていく。巻いた状態の最先端部は湾曲部20が円周を形成した状態になる。
【0044】 フィルム6を円錐形に巻き終えたら、丸ピン4の円柱部10をフィルム6の先端にすべて差し込んで丸型ヘッド8がフィルム6の先端部と隣接するようにする。この際、フィルム6の先端から接着剤を吸い込ませて円柱部10をフィルム6の先端部内部に固着させる。この結果、丸ピン4をフィルム6に固着させることができる。
【0045】 フィルム6は円錐形に巻かれたときの円弧部18と直線部22との重なりしろは、
フィルム6全長の、後端から5分の1の部分で1cm以内であるが、先端に向かって徐々に幅広になって長手方向中央部で最も幅広であり、先端にいくにつれて徐々に何重にも重なっていく状態になっている。
【0046】 ここで、矢の明細データについて述べる。従来の矢の明細及び本実施形態の矢の明細は次の通りである。従来の矢は、上述の丸釘と略長方形フィルムとを組み合わせたものである。
【0047】 <従来の矢の明細>下記±の値は手作業製造による製造誤差範囲である。
【0048】 全長・・・200mm±5mm 手元側外径・・・13.0mm±0.2mm 重量・・・0.72g±0.02g 丸釘の重量・・・0.250g 重心の位置・・・先端から63mm±2mm <本実施形態の矢の明細>下記±の値は手作業製造による製造誤差範囲である。
【0049】 全長・・・200mm±5mm 手元側外径・・・13.0mm±0.2mm 重量・・・0.80g±0.02g 丸ピンの重量・・・0.353g 重心の位置・・・先端から53mm±2mm 従来の略長方形状のフィルム28を円錐形に巻いた状態では、図22に示すように後端部の重なりしろが大きかったが、上述のフィルム形状を採用することによって、上述のように重なりしろを小さくすることができたので、フィルムの上下方向の重心を均等にすることができて飛行中のブレが小さくなり、軽量化も図ることができた。
【0050】 ピンは本実施形態の丸ピン4を採用することによって従来の丸釘26よりも0.1g重くなったが、フィルムの軽量化を図ることができたので、矢全体としては0.08g重くなったのみである。
【0051】 また、本実施形態では、ピンを従来の丸釘から先端球形に変更することによって矢の長手方向の重心位置を矢の先端方向に寄せることができた。これによって、飛行中のブレがさらに小さくなり、的への的中率が向上した。
【0052】 ここで、従来の矢の重心比率及び本実施形態の矢の重心比率をそれぞれ実際に製造した矢5本をサンプル抽出して調べた結果を検討する。図16は従来型の矢24を5本抽出して重心比率を調べた結果を示した表、図18は本実施形態の矢2を5本抽出して重心比率を調べた結果を示した表、である。
【0053】 これらの表において「重心」は、重心が矢の先端から何cmの位置にあるかを示している。
「比率」は、重心位置が矢先端から矢全長の何%の位置にあるかを示している。
【0054】 従来例、本実施形態共に5本のなかで若干の個体差はあるものの、重心比率は本実施形態の矢2が従来の矢24よりも平均で5.0%先端方向に位置した状態になっている。
【0064】 本実施の形態の変形例を説明する。
【0065】 上述の実施形態では、矢2のピンに丸ピン4を用いたが、丸ピン4の代わりに楕円ピン12を用いることもできる。図3は、楕円ピン12の側面図である。
【0066】 楕円ピン12は、図3に示すように、長手方向断面楕円形であって横断面が円形である楕円型ヘッド14と該楕円型ヘッド14と連続していて該楕円型ヘッド14から後方に延びる円柱部10とからなる。楕円ピン12も鉄製で表面にメッキが施されている。該円柱部10の横断面の直径は前記楕円型ヘッド14の横断面の直径よりも小さい。楕円ピン12の全長は21mmで、フィルムを含めると平均で201mmである。円柱部10の、楕円型ヘッド14の横断面中心に対する配置誤差は、
一体成型のため1/100mm以下に抑えることができる。
【0067】 この変形例の矢の明細は次の通りである。
【0068】 <変形例の矢の明細>下記±の値は手作業製造による製造誤差範囲である。
【0069】 全長・・・201mm±5mm 手元側外径・・・13.0mm±0.2mm 重量・・・0.89g±0.02g 楕円ピンの重量・・・0.406g 重心の位置・・・先端から52.8mm±2mm ここで、本変形例の矢の重心比率をそれぞれ実際に製造した矢5本をサンプル抽出して調べた結果を検討する。図17は本変形例の矢16を5本抽出して重心比率を調べた結果を示した表である。この例ではフィルムは従来のものを用いた。
【0070】 これらの表において「重心」は、重心が矢の先端から何cmの位置にあるかを示している。
「比率」は、重心位置が矢先端から矢全長の何%の位置にあるかを示している。5本のなかで若干の個体差はあるものの、重心比率は本変形例の矢16が従来の矢24よりも平均で5.1%先端方向に位置した状態になっている。重量は平均で従来型の矢24よりも0.174g増加した。
【0071】 この変形例の矢16を用いて実際に矢を飛ばした。図19は、6段・男性が立ち姿勢の腹式呼吸で従来型の矢と楕円ピンを装着した本変形例の矢とを飛ばした実施結果の比較を示した表である。実施は、各499回のプレイのなかで10mの距離で7点(的の中心の直径は6cm)に何本当たったかを測定することによって行った。
【0072】 結果は、7点的中率が格段に上がった。これによって、ピンを丸釘から楕円ピン に変更するだけでも的中率はかなり良くなることがわかる。
【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 【図5】 【図16】 【図18】【図17】 【図19】【図20】 【図23】【図21】【図22】 (2) 本件発明の概要 ア 技術分野 本件発明は、吹矢に使用する矢に関する。(本件明細書の段落【0001】) イ 背景技術 (ア) 近年普及しているスポーツや娯楽としての吹矢は、フィルムを円錐状に巻いてフィルムの先端に錘としてのピンを差し込んだ矢を用いて行われ、この矢を筒に入れ、筒の後端部から筒内に息を吹き込むことにより、矢を発射させてウレタン製の的に当てるところ、矢としては、従来、略長方形状のプラスチックフィルムを円錐状に巻いてその先端に錘としての釘(一般に真鍮製か鉄製の丸釘)を脚の部分から差し込み固着したものが用いられるが、この従来の矢には3つの課題がある。
(同【0003】) (イ) 丸釘の頭部のカエシの存在により、@的に刺さった矢を的から外すときに丸釘のピンだけ的に残ってフィルムだけ引き抜かれてしまうこと(この場合、ピンが抜けた矢は、それ以降、使用できなくなる。、A的に刺さっている矢に次に吹いた )矢が前の矢のフィルムの円錐形奥深くに突入(ダブル突入)し、丸釘の頭部のカエシが前の矢のフィルムに食い込んでしまった場合、後ろの矢を引き抜いたときにフィルムだけが引っ張られてフィルムが丸釘のピンから抜け、後ろの矢のピンが前の矢のフィルム内に残ってしまうこと(この場合、前の矢のフィルム内にはピンが2本存在する状態になり、後ろの矢にはピンが存在しない状態になるため、前の矢、
後ろの矢ともに使用できなくなる。)という二つの事象がしばしば生じる。(同【0004】〜【0007】) (ウ) また、丸釘に用いる市販のJIS規格のものでは、円柱部が頭部の中心を必ずしも通っているわけではなく、さらに、略長方形状のプラスチックフィルムを円錐状に巻くと、巻いた状態でのフィルム後端部のフィルム重なりしろが大きくなるため、
Bこの構造だと上下方向の重心に偏りがあり、フィルムを転がしたときに同じ箇所で止まる傾向があり、矢が飛行中にもこの重心の偏りが影響し、ブレの原因になっ ていた。(同【0008】〜【0010】) ウ 発明が解決しようとする課題 本件発明は、@矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ、Aダブル突入の場合でも後ろの矢のピンが前の矢のフィルムに食い込みにくい、B円柱部がヘッドの中心を通り飛行中のブレを少なくする矢を提供することを目的とする。(同【0012】) エ 課題を解決するための手段 (ア) 本件発明は、吹矢に使用する矢であって、長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピンと、円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部全てが差し込まれ固着されたフィルムとからなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された矢からなる。(同【0015】) (イ) 本件発明によると、円錐形の前記フィルムの先端部に前記ピンの縦断面楕円形の部分が錘として接続されており、@ピンの先端部が縦断面楕円形のため、的に刺さった矢を的から外すときに矢が抜きやすくなり、ピンだけが的に残ってフィルムだけ引き抜かれることが極力防止でき、A的に刺さっている矢に次に吹いた矢が重なって前の矢のフィルム奥深くに食い込んでダブル突入の状態になっても、後ろの矢を引き抜いたときにフィルムだけが引っ張られて後ろのフィルムからピンが抜け、当該ピンが前の矢のフィルム内に残る事態も極力防止でき、B前記楕円形の中心部に対する前記円柱部の配置誤差が極めて小さく製造でき、矢全体の重心も前寄りになるので矢の飛行中におけるフィルム後端の上下方向のブレが少なくなり、
的への命中率が高まる。(同【0016】) オ 発明の効果 本件発明によると、矢を的から外すときにピンとフィルムとを一体で引き抜くことができ、ダブル突入の場合でも後ろの矢のピンが前の矢のフィルムに食い込みに くい矢を得ることができ、また、前記楕円形の中心部に対する前記円柱部の配置誤差が極めて小さく製造でき、さらに、上下方向の重心を均等にすると共に長手方向の重心を前寄りに寄せた、飛行中のブレの少ない的中率の高い矢を得ることができる。(同【0035】) 2 甲1発明について (1) 甲1は、昭和57年に公開された考案の名称を「競技用安全吹矢」とする実用新案登録出願に係るものであり、甲1には次の記載がある。
ア 実用新案登録請求の範囲 「1.・・・先端に円頭状の金属製の矢じりを備え、その後部に紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより形成した・・・中空円錐形状の羽根を一体に設けた吹矢と、・・・台板の表面に、前記吹矢がささつたまゝの状態を保持できるよう・・・標的面を有するターゲツト印刷用紙をクツシヨンボードを介して止着した標的台とから成る競技用安全吹矢。」(甲1の明細書1頁5行目〜16行目) イ 考案の詳細な説明 (ア) 本案は吹矢筒と吹矢と簡単に取替え出来る標的とよりなる競技用安全吹矢に係り、競技勝負の妙味とスリル感及び精神的鍛練と健康維持を兼ねた一種のスポーツ競技として普及せしめる事を目的としたものである。(明細書1頁18行目〜2頁2行目) (イ) 「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり(4)を有した金属製の矢軸(5)の後方に、紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された前記吹矢筒(3)にフイツトする最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部(6)を嵌合固着して全長約10cmに形成してなる吹矢(7)」(明細書2頁10行目〜16行目) (ウ) 「高さ1mの縦長の長方形の木製又は合成樹脂及び金属からなる台板(8)を・・・2つ折り自在に形成すると共に、背面の下部両側に・・・支持板(11)(11)を取付けて台板(8)を約15度の角度で地上面に後傾状に設置出来るようなし、台 板(8)の上部表面には下端より40cm離れ、発射された前記吹矢(7)が貫通又ははね返えらないで標的面上にささつたまゝの状態を保持出来るよう所定厚さ(約20mm程度)の発泡プラスチツク板その他類似の発泡状素材のクツシヨンボード(12)を貼着し、該クツシヨンボードの表面に・・・ターゲツト印刷用紙(14)を貼付けてなる標的台(15)とからなる競技用安全吹矢の構造」(明細書2頁16行目〜3頁13行目) (エ) 「以上の説明から明らかなように、この考案の競技用吹矢は矢じり先端が危険な突起のない円頭状としてあるので安全であるばかりでなく、之れが標的面に当ると発泡性素材のクツシヨンボードに突きささると同時に小気味の良い音を発して爽快感と競技勝負のスリル感も高く、一般の人はもとより身体障害者の屋外スポーツ競技の一種として興味を与え充分楽しむ事が出来、又吹矢は肺活量や精神統一も必要で心身の鍛練にも最適である。」(明細書5頁8行目〜16行目) (オ) 「図はこの考案の競技用吹矢を示すもので・・・第6図は標的台の一部拡大断面図で、吹矢の当つた状態を示す。」(明細書6頁1行目〜6行目) ウ 図面 (2) 前記(1)によると、甲1には、前記第2の3(1)アのように本件審決が認定した次の甲1発明が記載されていると認められる。
「先端に危険の無いよう円頭形の矢じり4を有した、横断面の直径が円頭形の矢じり4の横断面の直径よりも小さい円柱からなる金属製の矢軸5の後方に、紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより次第に拡大形成された最大外径10〜12mmの軽量な中空円錐状の羽根部6を嵌合固着して全長約10cmに形成してなる吹矢7。」 (3) その上で、本件発明と甲1発明を対比すると、それらの間には、前記第2の3(2)ア及び同(3)ア(イ)aのように本件審決が認定したもののうち少なくとも次の相違点1-1及び相違点2-1-cが存在すると認められる。
(相違点1-1) 「ピン」の「先端部」について、本件発明では、「長手方向断面が楕円形」である先端部であるのに対して、甲1発明では、「円頭形の矢じり4」である先端部である点。
(相違点2-1-c) 「先端部に」「ピンの円柱部が差し込まれ固着された中空部材」及び「中空部材の先端部に連続して」「ピンの先端側の部分が接続された」ことについて、本件発明では、「先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルム」及び「前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が」「接続された」ものであるのに対して、甲1発明では、「円頭形の矢じり4を有した」「矢軸5の後方に」「中空円錐状の羽根部6を嵌合固着し」た点。
3 甲5発明について (1) 甲5は、平成19年1月11日に発行された考案の名称を「釘取り外し具」とする実用新案に係る登録実用新案公報であり、甲5には次の記載がある。
【考案が解決しようとする課題】 【0004】 スポーツ吹矢は、練習中に、後に吹いた矢が、的に刺さった前の矢に重なって刺さってしまうことがある。矢にスピードがあるため、後に吹いた矢は、釘の部分が前の矢の内部に強く接合されてしまう。このような場合、前の矢は、後の矢が引き剥がされると、釘だけが中に取り残されてしまうことがよくある。このように矢の中に取り残された釘を取り外すには、矢を持って根気良くもみ出すしかなく不便であった。
【0005】 この考案は、上記課題を解決するために、スポーツ吹矢において、矢の中に取り残された釘を容易に取り外すことのできる釘取り外し具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】 【0006】 上記課題を解決するために、請求項1記載の考案は、スポーツ吹矢用の矢の中に取り残された釘を取り外すための釘取り外し具において、一端が先細りの円錐形であるとともに前記釘の胴部が挿通可能な第1開口を有し、他端に前記第1開口よりも径の大きい第2開口を有する筒体と、前記第2開口から前記筒体内に挿入されると前記第1開口の近傍に到達可能な長さの棒状部分を有するとともに、前記棒状部分が前記釘と前記筒体の内壁との間に挿入されるくさび部を備えた挿入具とから構成されることを特徴とする釘取り外し具である。
【考案の効果】 【0007】 本考案の釘取り外し具によれば、スポーツ吹矢において、矢の中に取り残された釘を容易に取り外すことができる。
【考案を実施するための最良の形態】 【0008】 以下、図面に基づいて本考案の実施の形態を説明する。
実施例】 【0009】 図1は、本考案に係る釘取り外し具の実施例の分解正面図、図2(a)は、図1の釘取り外し具の使用状態を示す正面図、図2(b)は、図2(a)のA-A線における拡大断面図、図3(a)(b)(c)は、図1の釘取り外し具の使用状態を説明するための矢先端部分の拡大断面図である。
【0010】 図1において、釘取り外し具1は、釘受け筒2とその筒内に一部が収納される挿入具3とから構成されている。釘受け筒2は、一端が先細りの円錐形であって、この先細りの端部に釘4の胴部4aが挿通可能な第1開口2aを有するとともに、他端に第1開口2aよりも径の大きい第2開口2bが設けられた筒体である。また、
挿入具3は、取っ手3aから棒状部分3bが突出して形成されており、棒状部分3bの先端は、先の細いテーパー状のくさび部3cとなっている。
【0011】 次に、図2及び図3を参照して、釘取り外し具1の使い方について説明する。
【0012】 図2(a) (b)において、吹矢の矢5は、シート材よりなるスカート部6が先端に開口6aを有して円錐筒に形成されている。そして、矢5の重しとなる釘4が、
スカート部6の先端に丸い頭部4aを露出させて、その胴部4bを開口6a内に収納した状態で接着剤により固着されている。
【0013】 次に、図3(a)〜(c)を参照して、釘取り外し具1により矢5のスカート部6の中に取り残された釘4eを取り外す際の手順について説明する。
【0014】 図3(a)において、後の矢5eは、前の矢5にスカート部6後端の開口6bから入り込んで、重なって刺さっていたものである。前の矢5は、後の矢5eのスカ ート部6eを持って引き剥がした際に、後の矢5eの釘4eが、スカート部6の中に取り残された状態である。
【0017】 このように、本考案の釘取り外し具によれば、スポーツ吹矢において、矢のスカート部の中に釘が取り残されている場合に、スカート部の中に釘受け筒を挿入して取り残されている釘に被せ、続いて釘受け筒の内壁と釘との間に挿入具の棒状部分先端に設けたくさび部を挿入して釘受け筒内に釘を強固に保持して釘取り外し具を取り出すことで、矢のスカート部に取り残されている釘を容易に取り外すことができる。
【図1】 【図2】 【図3】 (2) 前記(1)によると、甲5には、前記第2の3(1)イのように本件審決が認定した次の甲5発明が記載されていると認められる。
「シート材よりなるスカート部6が先端に開口6aを有して円錐筒に形成され、
円柱状部分と円柱状部分の一方の端部に連続し円柱状部分が先細りして先端が尖った部分とから構成された胴部4bと、円柱状部分の他方の端部に連続した側面視が略半円形状の丸い頭部4aとからなり、丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4が、スカート部6の先端に、前記側面視が略 半円形状の丸い頭部4aを露出させて、その胴部4bを開口6a内に収納した状態で接着剤により固着されている、
吹矢の矢5。」 (3) その上で、本件発明と甲5発明を対比すると、それらの間には、前記第2の3(2)イのように本件審決が認定したもののうち少なくとも次の相違点1-5、2-5及び4-5が存在すると認められる。
(相違点1-5) 「ピン」の「先端部」の形状について、本件発明は、「長手方向断面が楕円形である」先端部であり、「楕円形の部分」であるのに対して、甲5発明は、「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」であり、「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい」点。
(相違点2-5) 「ピン」について、本件発明は、「該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さい」ピンであるのに対して、甲5発明は、「丸い頭部4aの最大幅が円柱状部分の幅よりも大きい、矢5の重しとなる釘4」である点。
(相違点4-5) 「ピンの先端部が錘として接続された」ことについて、本件発明は、ピンの「楕円形の部分」が錘として接続されたのに対して、甲5発明は、「釘4」の「側面視が略半円形状の丸い頭部4a」が錘として接続された点。
4 甲2〜4の記載事項 (1) 甲2の記載事項 甲2は、平成12年5月12日に公開された発明の名称を「吹矢」とする発明に係る公開特許公報であり、甲2には次の記載がある。
発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、呼気の風圧により飛び道具の矢を発射するゲー ム用吹矢において、飛び道具の矢と、該矢で狙う目標のまと、該矢を予納するマガジン、そして、マガジン内に予納した飛び道具の矢をブローパイプへ中継装填するためのブリッジボックス等に関する。
【0002】 【従来の技術】飛び道具の矢じりの切っ先がある程度鈍様な形態に改造され、人や動物を損傷することがないように安全化されたものがあり、一方矢羽は合成樹脂類等軽薄な新素材を用いて呼気を有効に受け易いように改良されたもの等がある。
【0003】 目標のまとが柔軟盤又は藁・草束等に加え、新素材等を用いて前項0002の鈍様な矢じりが突き刺さり、且つ引き抜けるように改善されたものがある。
【0005】 【発明が解決しようとする課題】吹矢の原初が武器又は狩具であり、後に射的ゲーム機となったという歴史的由来に起因して、その矢じりが鋭利であり、硬質であるという元来の形質を残存すること等に対する危険性がなお払拭されていないという問題点があった。
【0006】丸坊頭の矢じりの命中を確保することに万全有効な目標のまとが、
必ずしも未だ実施されていないという問題点があった。
【0008】 【課題を解決するための手段】矢じりが木竹、獣骨、石器、銅器、鉄器その他の強固且つ鋭利なものでなければいけないという固定観念を排し、飛び道具の矢の矢じり及び矢羽双方をソフトヘッドで代替し、実質ばかりでなく感覚的にも十分な安全性を追求する。
【0009】前項のように矢じりをソフトヘッドで代替するために、飛び道具の矢の目標のまとを逆に生け花の剣山に類似するブラシ構造に逆転する。
【0011】 【発明の実施の形態】本発明の飛び道具の矢はシャフトとその両端に装着する一 対のヘッドとよりなるものであるが、外形的に形容すれば、大きいものではパレードなどで用いる装飾的な指揮杖のバトン、また小さなものでは耳鼻科医療用の綿棒などより類推される形状を有する。前記のようなダブルヘッドであり首尾の区別がないので一方をやじりとすれば他方がおのずから矢羽となる。素材としては木材・ゴム等自然物類を初め、比較的柔軟な合成樹脂類に至るまで特に限定しないが、自然保護及び資源再利用の見地からは再生紙などによる一体成型等で実施する。
【0012】前記0011項の飛び道具の矢のヘッド先端にそれぞれピンホールを貫通してあり、このピンホールが目標のまとのマークピンに突き刺される形態をとる。
【0013】前記0012項のピンホールを更に延伸しシャフトを貫通させる形態にし、シャフトをストロー管などで軽量化するほか、該シャフトの中を前後に自由に転動する小ボールを封入することによりシャフト全体に矢羽機能を付加する。
【0014】本発明の吹矢の目標のまとは一見生け花の剣山に類する形態を有し、
円形・方形等の平板なマーク盤にマークピンを一定間隔に多数連鎖して打ち並べて作るブラシによって、命中した飛び道具の矢のヘッドを捕捉させる。
【0016】 【実施例】実施例について図面を参照して説明すると、図1及び図2における飛び道具の矢D及び目標のまとEは共に最小の実施例であり、最大の実施例では2倍以上の大きさに達するが、基本的な構造・仕様は共通である。先ず図1において飛び道具の矢Dのシャフト33は長さ7cm、太さ直径4mmの再生紙、木竹又はプラスチックス製丸棒であり、そのシャフト33両端切り口にゴム又はポリエチレンその他の軟質材料で作る長径10mm短径7mmの円柱体乃至長球体ヘッドa34とヘッドb44とを固着してある。そして、飛び道具の矢Dが命中した目標のまとEはマーク盤10面に植えられているマークピン11の中の6本がヘッドb44に外接して確保している状態を示す。図2は図1XX面の断面図であり、ヘッドに外接する正6角形の6頂点にピンを打ち、さらに合同の正6角形を連鎖した図形の各頂点にそ れぞれピンを配植してある。
【0020】 【発明の効果】本発明は、以上説明したような形態で実施され、以下に記載されるような効果を奏する。
【0021】飛び道具の矢の矢じり及び矢羽双方を丸坊頭のソフトヘッドで代替することにより、プレーヤーはもとより観戦者にも、また器物に対しても傷害を及ばさないという実態とともに、感覚的にも十分な安全性を実現できる。
【0022】矢じりをソフトヘッドで代替したかわりに、飛び道具の矢の目標のまとを逆にブラシ構造に逆転したので、矢じりが先鋭でない飛び道具の矢がマークピンによって捕捉され、その命中が確保される。
【図1】 【図2】 (2) 甲3の記載事項 甲3は、平成11年7月30日に公開された発明の名称を「蓄気吹き矢」とする発明に係る公開特許公報であり、甲3には次の記載がある。
発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、呼気の風圧により飛び道具の矢を発射する吹き矢装置において、一定量の呼気を一時保留して増圧する呼気コンプレッサーと、
該呼気コンプレッサーと気密にドッキングする飛び道具の矢、及びそのドッキングを補助する射庫又は自動給矢器に関する。
【0002】 【従来の技術】従来の吹き矢装置においては、筒身の矢弾装填口と吹き口とを離して設けたもの、また、給矢装置については弾倉部材を突出設置したもの等があった。・・・ 【0003】 【発明が解決しようとする課題】従来の吹き矢はいずれもプレーヤーの呼気をストレートに矢羽に吹き当てるようになっていたため、息を吹き出す力が必ずしも十分ではない高齢者、身体障害者或は幼少年者等がプレーする場合、一般人に比較して飛び道具の矢の飛距離をのばしにくいという問題点があった。
【0004】旧来の吹き矢が戦闘用であり、又は狩猟用であり、下って射的ゲーム用であったという歴史的由来に起因して、矢じりが鋭利であり、硬質であったこと等を原因とする傷害・物損等が発生するおそれがあるという問題点があった。
【0007】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明における吹き矢は、飛び道具の矢を吹く呼気が一定の気圧に達するまで何度でも息を吹き溜めることができる呼気コンプレッサーと飛び道具の矢とを気密にドッキングすることとしている。そして、このような呼気の備蓄増圧により何人も飛び道具の矢をある一定の距離まで比較的容易に飛ばすことができる。
【0008】前項の0007に記載した呼気コンプレッサーとドッキングする飛び道具の矢のドッキング部材は半球体のテールカップとし、そしてヘッドも相似の球体を形づくることとしている。それ故、仮に人体その他の器物と衝突してもそれらに損傷を与える恐れがなくなる。
【0017】 【実施例】実施例について図面を参照して説明すると、図1及び図2において、
呼気コンプレッサーAの筒体1とマウスピース2とを嵌合し、その中間に弁室3を設け、筒体1の中の空気がマウスピース2の方へ漏れることを防止する逆止弁4を該弁室3の中に封入する。筒体1の他の切り口は開いたままとし、その外形を乳頭 状に成型してノズル5を作る。ノズル5は飛び道具の矢Bのテールカップ7に内接してドッキングするための部材であるから、その大きさは飛び道具の矢Bの大きさに規定される。そして、ノズル5とテールカップ7とのドッキングを確保するスナップ凹部6をノズル5の外周に設ける。一方、筒体1の長さは飛び道具の矢Bを射筒12の装填口13の中に送致するまでの距離に規定されるが、飛び道具の矢Bは、
テールカップ7とヘッド10及びそれらを繋ぐシャフト9の3部分よりなるものである。テールカップ7とヘッド10はいずれも飛翔方向の軸の長さが、直交する軸よりも長い長球体乃至は軸の長短が逆の稍扁平な短球体に成型する。そして、テールカップ7は飛翔軸の約2分の1付近を軸に垂直な平面で切断し、チューリップ形の開口とする。そして、テールカップ7の内面にはスナップ凸部8を設けておき、
ドッキングに際してノズル5のスナップ凹部6とかみ合わせる。飛び道具の矢Bはテールカップ7とシャフト9及びヘッド10とをプラスチックスで一体成型して作ることができるが、テールカップ7が中空であるのとは逆にヘッド10の内部を充実させ、重心を飛翔の方向に寄せて製する。飛び道具の矢Bの大きさは、全長約5〜10cmとし、従って、テールカップ7とヘッド10の太さは約1.0〜1.5cmとする。このテールカップ7に呼気コンプレッサーAのノズル5を挿入してドッキングさせるものが本発明の実施例の原形であり、基本的には、呼気コンプレッサーAと飛び道具の矢Bの2部材の組み合わせだけでも吹き飛ばすことができる。
【0020】 【発明の効果】本発明は、以上説明したような形態で実施され、以下に記載されるような効果を奏する。
【0021】飛び道具の矢と呼気コンプレッサーとを気密ドッキングさせることにより、飛び道具の矢を吹き飛ばす圧力が増し、何人も或る一定の距離まで比較的安楽に飛ばして楽しむことができる。
【0022】飛び道具の矢のヘッドを球体とすることにより、吹き矢を安全なゲームとすることができる。
【図1】 【図2】 (3) 甲4の記載事項 甲4は、平成10年8月25日に発行された考案の名称を「吹き矢の矢」とする実用新案に係る登録実用新案公報であり、甲4には次の記載がある。
【実用新案登録請求の範囲】 図1に示すような短冊形のプラスチックフィルム@を円錐形に巻き、形が崩れないように糊でプラスチックフィルムを接着し、円錐形の矢の先端に重りの釘Aを固着した吹き矢の矢。
【図面の簡単な説明】 図1は本案の短冊形プラスチックフィルム@、図2はプラスチックフィルム@を巻いて円錐形にした矢の側面図と正面図である。
【図1】 【図2】 5 取消事由1(甲1発明を主引用例とする容易想到性の判断についての誤り)について (1) 相違点2-1-cに関する容易想到性の判断の誤りについて ア 事案の内容に鑑み、まず、相違点2-1-cに関する容易想到性について検討する。
イ 前記4(1)及び(2)によると、甲2及び3には、前記第2の3(3)ア(ア)aのように本件審決が認定する「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンを備えた吹矢に使用する矢」(甲2・3技術事項)が記載されていると認められるが、それら甲2及び3に記載された矢は、いずれも、
(円錐形の)フィルムを備えたものではない。
また、前記4(3)によると、甲4において、重りの釘Aは頭部を矢の後方(プラスティックフィルム@が巻かれた側)に位置しており、フィルムに釘の円柱部全てが差し込まれているものではなく、フィルムの先端部に重りの釘Aの頭部が接続されているものでもない。
したがって、仮に、甲1発明に甲2〜4を適用しても、相違点2-1-cに係る本件発明の構成には至らないから、甲2〜4は相違点2-1-cについての容易想到性を基礎付けるものではない。
ウ(ア) これに対し、甲5発明の矢については、釘4の円柱状部分全てがスカート部6に差し込まれて固着されるとともに、スカート部6の先端部に連続して釘4の丸い頭部4aが接続されているといえる。
(イ) しかし、甲1発明の矢は、矢軸5の後方に中空円錐状の羽根部6が篏合固着されており、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着することについて、甲1にこれを示唆し、又は動機付ける記載があるとは認められない。
この点、甲1において、矢じりは金属製とされ、標的台は台板と紙とクッションボードから成るものとされ、クッションボードについては所定厚さ(約20mm)が明記され、全長約10cmの吹矢の約5分の1程度を矢じり4及び矢軸5が占める第 3図が掲載され、吹矢の当たった状態を示すとされる第6図においては矢じり4の先端が台板8に接している状態が示されていることを考慮すると、甲1において吹矢が標的面に当たり「小気味の良い音」を発するについては、矢じり4の先端が台板に到達することが少なからず寄与していることが窺われる。それにもかかわらず、
仮に矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着した場合、第6図のように矢じり4の先端が台板に到達するかには疑問を差し挟む余地がある。このことは、甲1発明の矢について、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採用することを阻害する事情となり得るところである。
(ウ) そうすると、甲1発明に甲5発明を適用することについては、示唆も動機付けもなく、むしろ阻害要因があるともいえるから、甲1及び5に基づいて、当業者において相違点2-1―cに係る本件発明の構成とすることが容易になし得たものとはいえない。
エ したがって、相違点2-1のうちその余の点について判断するまでもなく、
相違点2-1に係る本件発明の構成が容易想到であるとはいえない。
オ 原告の主張について (ア) 原告は、羽根部分がピンから外れ、又は前側(円頭形部分側)にフィルムがずれてしまうことから、甲1に接した当業者であれば、甲5に開示のようにフィルムに円柱部を全て差し込む構成とする必要があり、動機付けがある旨を主張する。
原告の上記主張は、動機付けとして、甲1や甲5の記載を根拠とするものではなく、物理法則ないし技術常識を指摘するものと解されるところ、原告が上記主張の根拠として提出する実験結果報告書(甲12)については、実験に用いられた吹矢の矢の素材や寸法等も明らかでなく(なお、甲1においては、羽根は、紙又は合成樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより形成された最大外径10〜12mmの軽量なものとされ、矢の全長は約10cmであるとされている。)、甲1発明の矢を適切に再現した上でされた実験であることが担保されているとはみられない。また、その内容に沿わない被告提出の報告書(乙1)も存在する。さらに、接着剤の詳細に ついても不明であり、より強固な接着力を有する接着剤を選択するという方法が存在しないことも裏付けられていない。したがって、前記報告書(甲12)に基づいて原告の主張するような動機付けがあると認めることはできず、その他、甲1発明について矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採る動機付けとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。
したがって、原告の上記主張は前記イ〜エの判断を左右するものではない。
(イ) 原告は、@矢軸の途中にフィルムを巻き付ける構成とした場合、ピンの軸がフィルムの中央を通るように固定することが困難となり、上下方向で重心のブレを生じ、命中精度に影響し得ること、A上記構成とすると、吹矢を量産する際に差し込む部分の長さを一定にするための位置決めが困難であるのに対し、フィルムに円柱部を全て差し込む構成とすると、同じ長さの吹矢を容易に製造することが可能となるといった点を踏まえても、甲1発明に甲5発明を適用する動機付けがあると主張するが、命中精度や製造の容易性に関して甲1に示唆や動機付けというべき記載は認められず、他に上記@及びAの点に関して甲1発明に甲5発明を適用する動機付けとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。
したがって、原告の上記主張も前記イ〜エの判断に影響しない。
(2) まとめ よって、その余の点について判断するまでもなく、取消事由1は認められない。
6 取消事由2(甲5発明を主引用例とする容易想到性の判断についての誤り) (1) 相違点1-5に関する容易想到性の判断の誤りについて ア 前記3(1)の甲5の記載を踏まえると、甲5発明における釘4の丸い頭部4aが略半球状のもので、後部(円柱状部分側)にカエシのある形状であることは明らかであるというべきところ、丸い頭部4aの形状を変更することについて、甲5にこれを示唆し、又は動機付ける記載があるとは認められない。
この点、甲5は、そのようなカエシのある釘4を用いた吹矢の矢を使用する際に生じる問題のうち、特に、前の矢の中に取り残された後の矢の釘を取り出すという 課題(甲5の段落【0004】、【0005】及び【0017】参照)を解決するための発明であり、甲5において頭部4aの上記形状はその課題の前提となっているものである。しかるに、頭部4aの上記形状を変更することは、そもそも当該課題を失わせるものともなりかねない。このことは、甲5発明の矢について、丸い頭部4aの形状を変更することを阻害する事情となり得るところである。
イ また、甲5発明の矢に用いられている釘については、一般的には金属製のものが用いられるとみられる(弁論の全趣旨。なお、本件明細書の段落【0003】参照)ところ、甲2・3技術事項の矢の先端部は、安全性を考慮して、ソフトヘッドやプラスチックとしているのであって(前記4(1)及び(2))、素材という観点からも、甲5発明に直ちに甲2・3技術事項を適用し得るものとは解し難い。
ウ そうすると、甲5発明の矢の頭部の形状を変更することについては、示唆も動機付けもなく、むしろ阻害要因があるともいえるから、当業者において相違点1-5に係る本件発明の構成とすることが容易になし得たものとはいえない。
エ 原告の主張について (ア) 原告は、甲5には、従来技術に係る吹矢ではダブル時に後の矢の釘が前の矢のフィルムに食い込んで外す際に抜けてしまうという、本件発明の課題が開示されており、上記課題に接した当業者として、釘取り外し具を開発するのではなく、矢自体を改良しようと考えることは十分に考えられると主張する。
しかし、仮に、ダブル時に後の矢の釘が前の矢のフィルムに食い込んで外す際に抜けてしまうという課題が甲5に開示されているとしても、そのことから直ちに、
甲5に甲5発明の矢の頭部の形状を変更することについての示唆や動機付けがあるとは認められない。そして、その他、上記課題が開示されていることをもって、甲5発明の矢の頭部の形状を変更することについての示唆や動機付けがあると解すべき技術常識等を認めるに足りる証拠もない。
したがって、原告の上記主張は前記ア〜ウの判断を左右するものではない。
(イ) 原告は、本件発明の課題が本件出願前に周知であったことを主張するが、前 記(ア)で判示したところと同様に、そのことから直ちに、甲5発明の矢の頭部の形状を変更することについての示唆や動機付けがあると認めることはできない。この点、
原告は、AやBの認識について主張し、証拠(甲18の1、甲20)を提出するが、
同人らの認識をもって直ちに当業者の認識と認めることはできない。
なお、甲5に係る実用新案が出願された平成18年10月23日(甲5)の時点において、当該出願の出願者は、甲5発明の矢の頭部の形状を変更するという方法ではなく、従来のままの頭部の形状を前提として生じる課題を釘取り外し具という手段によって解決することを想到しているのであって、このことは、同日時点において、甲5発明の矢の頭部の形状を変更することが容易想到ではなかったことを窺わせる一事情であるとみることもできるところ、同日から本件出願の日である平成23年9月13日までの間に、上記の変更が容易想到となったとみるべき技術常識等も認められないところである。
したがって、原告の上記主張も前記ア〜ウの判断に影響しない。
(2) 相違点2-5及び相違点4-5に関する容易想到性の判断の誤りについて 相違点1-5に関する容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張が採用できないことは、前記(1)のとおりであるから、それと実体的な内容を同じくするものとして原告が主張する相違点2-5及び相違点4-5に関する容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張も、いずれも採用できない。
(3) まとめ よって、取消事由2は認められない。
結論
以上の次第で、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。