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関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  信義則 /  実施 /  構成要件 /  具体的態様 /  侵害 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 427号 審決取消請求事件
原告 東芝テック株式会社
訴訟代理人弁護士 大場正成
同 尾崎英男
同 嶋末和秀
同 飯塚暁夫
訴訟代理人弁理士 鈴江武彦
同 峰隆司
被告 ファミリー株式会社
訴訟代理人弁理士 角田嘉宏
同 高石郷
同 西谷俊男
同 幅慶司
同 古川安航
同 内山泉
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/03/23
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が,無効2001-35499号事件について,平成14年7月31日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「エアマッサージ装置」とする特許第3012127号の特許(平成5年10月29日出願(以下「本件出願」といい,同出願に添付された明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。甲第2号証及び乙第17号証は,その内容を示す特許公報である。ただし,後記本件訂正により,請求項1の文言が訂正されている。),平成11年12月10日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。
被告は,平成13年11月8日,本件特許を請求項1に関して無効にすることについて,審判を請求した。特許庁は,これを,無効2001-35499号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,本件明細書の訂正を請求した(以下,これを「本件訂正」という。)。特許庁は,審理の結果,平成14年7月31日,「訂正を認める。特許第3012127号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本を,平成14年8月12日,原告に送達した。
2 特許請求の範囲(請求項1)(別紙1参照) 空気袋と,この空気袋に対してエアを給排気するエア給排気装置とからなり,前記空気袋を膨張・収縮させて前記空気袋によってマッサージを行うエアマッサージ装置であって,上方および前後端が開放されるとともに人体の脚部を載せる一対の凹状受部を形成し,前記各凹状受部の相対向する側面には膨張により前記脚部を挟み付ける 空気袋をそれぞれ配設したことを特徴とするエアマッサージ装置。
(下線部は,本件訂正により付加訂正された部分である。本件訂正後の請求項1の発明を,審決と同じく「本件発明1」という。) 3 審決の理由 (1) 審決の理由は,別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明1は,特公昭52-28517号公報(審判甲第1号証・本訴甲第3号証,以下「甲3公報」という。)に記載された発明(以下「甲3発明」という。)及び意匠登録第296760号公報(審判甲第2号証・本訴甲第4号証の1,以下「甲4公報」という。)に記載された発明(以下「甲4発明」という。),並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
(2) 審決が上記結論を導くに当たり認定した甲3発明の内容,本件発明1とこれとの一致点・相違点は,次のとおりである。
ア 甲3発明の内容 「指圧頭30,31が固設された指圧筒28,29と,この指圧筒28,29に対して空気圧生成装置によって生成された空気圧を給排できる手段とからなり,前記指圧筒28,29を伸縮作動させて前記指圧筒28,29によって指圧を行う指圧装置であって,凹状固定枠24と凹状可動枠25により,前後端が開放され,上方が凹状可動枠25が開くことで開放されるとともに人体の脚部を抱持し得る一対の凹状可動枠27,27を形成し,前記各凹状抱持枠27,27の相対向する側面には伸長により前記脚部を挟み付ける指圧筒28,29をそれぞれ固着して,もみ作用を与えるようにした指圧装置。」(審決書4頁20行目〜28行目) イ 一致点 「「押圧子と,この押圧子に対してエアを給排気するエア給排気装置とからなり,前記押圧子を膨張・収縮させて前記押圧子によってマッサージを行うマッサージ装置であって,前後端が開放されるとともに人体の脚部を位置させる一対の凹状受部を形成し,前記各凹状受部の相対向する側面には膨張により前記脚部を挟み付ける押圧子をそれぞれ配設したマッサージ装置」である点」(審決書6頁16行目〜21行目) ウ 相違点 (ア) 「本件発明1が,押圧子を「空気袋」とした「エアマッサージ装置」であるのに対し,甲第1発明(判決注・甲3発明)は,押圧子を「指圧頭が固設された指圧筒」とした「指圧装置」である点」(審決書7頁22行目〜24行目) (イ) 「「人体の脚部を位置させる前後端が開放された一対の凹状受部」に関し,本件発明1が,「上方が開放され」,かつ,脚部を「載せる」としているのに対し,甲第1発明は,「上方が凹状可動枠25が開くことで開放され」,かつ,脚部を「抱持し得る」としている点」(審決書6頁25行目〜28行目) (以下,審決と同じく,順番に「相違点a」,「相違点b」という。)
原告の主張の要点
審決は,本件発明1と甲3発明との一致点・相違点の認定を誤って,相違点を看過し,さらに,自らが認定した相違点(相違点a及び相違点b)についての判断においても誤りを犯した。
これらの誤りが,結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は取り消されるべきである。
1 本件発明1の構成・特徴 (1) 本件発明1を構成要件ごとに分節すると,以下のとおりとなる。
A 空気袋と, B この空気袋に対してエアを給排気するエア給排気装置とからなり, C 前記空気袋を膨張・収縮させて前記空気袋によってマッサージを行うエアマッサージ装置であって, D 上方および前後端が開放されるとともに人体の脚部を載せる一対の凹状受部を形成し, E 前記各凹状受部の相対向する側面には膨張により前記脚部を挟み付ける空気袋をそれぞれ配設したことを特徴とする F エアマッサージ装置。
(2) 人間のふくらはぎには,その筋肉の運動により脚部の静脈の血液を心臓に戻す役割があるので,それに対するマッサージは疲労回復の効果が大きい。しかし,従来の機械式(もみ玉等により筋肉を叩打,押圧する方式)のマッサージ機では,脚部(ふくらはぎ)に対するマッサージを有効に行うことができなかった。
これに対し,本件発明1は,脚部に対するマッサージを,空気袋で行うものであり,特に,脚部を凹状受部に載せて,空気袋の膨縮により脚部を側面から挟み付け,包み込むように押圧してマッサージするという,全く新しい方式のマッサージ機である。
2 一致点・相違点の認定の誤りによる相違点の看過 (1) 審決は,上記第2の3(2)イ記載のとおり,本件発明1と甲3発明との一致点を認定している。
(2)ア 本件発明1と甲3発明とが「押圧子を膨張・収縮させて前記押圧子によってマッサージを行うマッサージ装置」である点で一致している,という事実はない。
本件発明1は,空気袋を膨張・収縮させ,その空気袋によりマッサージを行う装置である。これに対し,甲3発明においては,その指圧子である指圧頭30,31は膨張・収縮しない。
甲3発明は,「マッサージ」装置ではなく,「指圧」装置である。
イ 審決は,この点について, 「指圧装置における指圧頭は,所定の接触面積を有するため,人体に点接触することはありえず,少なからず筋肉をも押圧するものであること,一方,エアマッサージ装置は,空気袋による押圧部位にツボが含まれること,また,両者はいずれも,押圧により揉み作用を与えるものであること,等を総合的に勘案すれば,指圧装置とエアマッサージ装置とが目的・機能において格別に異なるものであるとは認められない。」(7頁18行目〜23行目) と補足して述べている。
ウ しかし,本件発明1は,筋肉のもみほぐしを目的として,空気袋の膨縮によって脚部の筋肉を広範囲にわたってマッサージするものである。これに対し,甲3発明は,つぼへの刺激を目的として,指圧頭30,31によりピンポイントで指圧を行うものである。施療動作として全く異なる。
エ 接触面積の小さな指圧頭が人体の部位に与える効果と,接触面積の大きな空気袋が人体の部位に与える効果とを,同一視することもできない。
甲3発明は,広い範囲に揉み作用を施すものであるとはいえ,点接触する指圧頭が伸縮方向と略直交する方向に往復運動をしてのことであり(甲3公報2頁4欄26行目〜35行目参照),本件発明1の,周囲から包み込むようにマッサージを行う,という作用はない。
オ 被告は,本件発明1の空気袋の大きさ及び材質,甲3発明の指圧頭の大きさ及び材質は,いずれも特定されていないから,両発明それぞれの実施態様によっては,実質的に異ならない押圧になることもあり得る,と主張する。
甲3発明の指圧頭の大きさは,甲3公報の第2,第3図に記載されている。また,材質は,明記されていない以上,通常の材料である硬質ゴム製と解すべきである(2頁3欄27行目〜28行目)。
カ 「指圧筒と指圧頭の組合せ」と「空気袋」とを,押圧子という上位概念でくくることは適切でない。指圧装置とマッサージ装置とは格別異なるものではない,とする審決の判断は誤っている。
審決は,本件発明1がマッサージ装置であるのに対し,甲3発明が指圧装置である点を相違点として摘示すべきであった。
(3)ア 本件発明1と甲3発明とが,「人体の脚部を位置させる一対の凹状受部を形成」しているとの点で一致している,ということもない。
イ 本件発明1は,人体の脚部を載せる一対の凹状受部を形成している(別紙1参照)。甲3発明は,人体の脚部は指圧台1に載せられ,固定枠24と可動枠25とからなる抱持枠27は,可動枠25が閉じたときに被指圧部を抱持し,指圧頭を脚部の指圧位置に対して保持する機能を有するだけである。凹状受部は全く存在しない(甲3公報第1図ないし第4図。別紙2及び3 参照)。
ウ したがって,審決は,本件発明1が「人体の脚部を載せる一対の凹状受部を形成」しているのに対し,甲3発明が,「人体の脚部を載せるのは指圧台であり,抱持枠27は可動枠25が閉じたときに被指圧部を抱持する機構」である点を,相違点として摘示すべきであった。
3 相違点aについての判断における誤りの1(周知技術の認定の誤り) (1) 審決は,相違点aに係る本件発明1の構成の進歩性を判断するに当たり,次のように周知技術を認定し,この認定を前提に進歩性を否定した。
「一般的に,マッサージ装置として,指圧頭が固設された指圧筒を押圧部材として備えた指圧式のもの(実公昭61-39470号公報,特公昭44-13638号公報(判決注・本訴乙第1号証及び第2号証)参照。)や空気袋を押圧部材として備えたエア式のもの(甲第4及び5号証(判決注・本訴甲第6号証及び第7号証)参照。)があることは良く知られているところである。」(甲第1号証6頁32行目〜35行目) しかし,指圧頭が固設された指圧筒を備えた指圧装置も,空気袋を押圧部材として備えたエアー式のマッサージ装置も,周知技術ではない。
(2) 当業者に周知の技術とは,その技術分野において一般的に知られている技術であって,例えば,これに関し,相当程度多数の公知文献が存在するなどのものである。
エアー式のマッサージ機を実用化したのは,原告が初めてである。空気袋を用いるマッサージ機についての実用新案の出願(出願者は原告の親会社である東京芝浦電気株式会社)は既になされていたものの,単に空気袋の上にある背部や臀部を押圧するだけで,機械式のものより性能が劣るため,実用化されるに至っていない。また,エアーバッグ式の圧迫治療器はあったものの,これはマッサージ機ではない(甲第6号証,第7号証,第10号証及び第11号証)。
これらの証拠をもって,空気袋を押圧部材とするエア式のマッサージ機が周知であった,と認定することはできない。
(3) 被告が提示する乙第1号証ないし第8号証に示されているものは,いずれも,指圧頭により点接触的に人体を指圧するものである。空気袋によるマッサージを開示も示唆もしていない。
乙第9号証は,エアーバッグ式圧迫治療器に関するものである。マッサージ装置ではない。乙第10号証ないし第15号証は,背中等を広い範囲にわたって押圧するものであり,空気袋によるマッサージが,指圧筒と指圧頭による指圧に代わり得るものであることを示唆するものではない。
4 相違点aについての判断における誤りの2(進歩性の判断の誤り) (1) 審決は,前記3(1)で引用した説示に続き, 「そうすると,マッサージ装置として,上記二つの内のいずれのタイプを採用するかは,当業者が必要に応じて適宜選択しうる事項であると認められ,甲第1発明において,押圧部材として「指圧頭が固設された指圧筒」の替わりに「空気袋」を採用することにより,空気袋によってマッサージを行う「エアマッサージ装置」に改変することは,当業者であれば容易に想到し得ることであり,その際に格別な技術的困難性を伴うものとも認められない。」(甲第1号証6頁36行目〜7頁2行目), とした。
しかし,前記のとおり,指圧装置とマッサージ装置とは,作用からして根本的に異なるものである。これらが格別異ならないとする審決の判断には,誤りがある。
特に,本件発明1の持つ,包み込むように押圧してマッサージするという効果は,「指圧筒+指圧頭」の構成では決して得られないものである。
被告は,本件出願後の平成9年12月に,「指圧筒+指圧頭」による「チェアロ」という製品を発表したものの,このような機構では使用者の脚部に痛みを与えかねないことから,平成11年1月に,脚部の押圧をエアーバッグにより行う「ハイブリッド」に商品を切り換えた。
指圧筒と指圧頭との組合せと,エアーバッグとが異なることは,このことからも明らかである。
5 相違点bについての判断における誤り (1) 審決は,相違点bについての判断において, 「甲第2号証(判決注・甲4公報を指す。)には,上方及び前後端が開放された一対の凹状受部に人体の脚部を載せるようにした指圧椅子が記載されている。
甲第1発明(判決注・甲3発明)と甲第2号証に記載の指圧椅子とは,指圧装置という同一技術分野に属するものであるから,甲第1発明において,前後端が開放された一対の凹状受部に,上記甲第2号証に記載の技術を適用し,相違点bにおける本件発明1の構成とすることは,当業者にとって容易である。」(甲第1号証7頁4行目〜9行目) としている。
しかし,甲3発明では,人体の脚部は指圧台1に載せられる。指圧頭30,31を固設した指圧筒28,29が配設されている抱持枠27は,指圧台1の上に載せられた脚部を抱持して指圧動作を行うものである。これに対し,甲4発明の一対の凹状受部(別紙4,5参照)は,単に人体の脚部を載せるだけのものであり,指圧動作に用いられるものではない。
(2) 甲3発明と甲4発明とは,いずれも指圧装置ではあるものの,甲3発明は指圧台の上で施療を行う装置,甲4発明は椅子式の装置であって(しかも,審決は,甲4発明において,指圧子がどのように配設されているか認定していない。),基本的な構造が全く異なる。甲4発明の単なる脚載置部をもって,甲3発明の抱持枠27や,指圧台そのものを置換することはできない。少なくとも,基本的な構造の変更となるものであるから,当業者が容易に推考できるものではない。
被告は,甲4発明には「出っ張り部分」があり,これは指圧子である,と主張する。しかし,単に「出っ張り部分」がある,というだけでこれを指圧子と認定するのは,誤っている。
(3) 指圧筒との指圧頭の組合せをエアーバッグに置換することは,それぞれによるマッサージ作用について,十分な知識を有していることが前提となる。しかし,本件出願当時,当業者がそのような知識を有していたとは認められない。
被告の主張の要点
1 原告の主張2(一致点・相違点の認定の誤りによる相違点の看過)に対して (1)ア 原告は,本件発明1は膨縮する空気袋によりマッサージを行う装置であるのに対し,甲3発明は膨縮しない指圧子による指圧装置であり,審決には一致点・相違点の認定を誤って相違点を看過した誤りがある,と主張する イ 甲3公報には,「以上のように本発明によれば,・・・それらの内面に設けた指圧筒28,29によつて前記指圧部を両側より指圧することができ」(3頁5欄7行目〜11行目)との記載がある。すなわち,甲3発明は,伸縮(=膨張・収縮)する指圧筒と一体となった指圧頭により指圧するものであり,「(膨縮する)指圧筒により指圧する」という技術思想が開示されているといって差し支えない。
甲3発明の,指圧頭が固設された指圧筒を,「押圧子」という上位概念に当たる技術思想でとらえた審決の認定は,正当である。
ウ 原告は,本件発明1における,空気袋による広い範囲のマッサージと,甲3発明の指圧子によるピンポイントの指圧とは,施療動作として異なり,作用・効果も異なる,と主張する。
甲3発明において,指圧子は,その材質も大きさも何ら特定されていない。押圧する範囲の広狭は明らかでない。また,膨縮しないとも断定できない。他方,本件発明1においても,空気袋は,その材質,大きさは何ら特定されていないから,接触面積が小さいものも含まれる。
そうすると,甲3発明の指圧子と,本件発明1の空気袋とが,同様な指圧作用を奏することはない,と決めつけることはできない。
エ 空気袋によるマッサージにもつぼを刺激する作用があり,指圧子によるもみにも筋肉をマッサージする作用がある。この点によっても,原告の主張は失当である。
例えば,本件明細書には「【0022】空気袋23a,23bは人体の下肢部に位置するツボの承山(しょうざん)等に対応していて,対応する空気袋23a,23bの膨張によりこの承山近傍の下腿部を挟み付けることにより筋肉のマッサージ並びにツボへの刺激を行なう。」(3頁左欄29行目〜33行目)との記載がある。空気袋が,つぼへの刺激を行うことができることは,このように原告自身認めているところである。
乙第1号証(実公昭61-39470号公報)には,「本考案は,自然な仰臥状態で人体の肩の経絡(つぼ)に効果的な指圧マツサージを施すことのできるマツサージ装置に関する」(1頁1欄11行目〜13行目)との記載がある。すなわち,指圧頭によりマッサージが行われることを述べている。
指圧とマッサージとは,もともと区別されるものではない。
(2)ア 原告は,甲3発明の抱持枠27は,被指圧部を抱持するだけであるから,同発明と本件発明1とが「人体の脚部を位置させる一対の凹状受部を形成」しているとの点で一致している,ということはない,と主張する。
イ 甲3公報には「第2〜4図に実線で示すように・・・指圧筒保持アーム37,38に固着した指圧頭39,40を大腿部イに当接させる。」(2頁4欄12行目〜17行目)との記載があり,第2図と第3図には,大腿部イが指圧頭39,40に載った(当接した)状態が記載されている(別紙2,3参照)。
そうすると,「前後端が開放された一対の凹状受部」に相当する抱持枠27は,脚部を載せたり,脚部を位置させるためのものであると認定することができる。
審決の認定に誤りはない。
2 原告の主張3(相違点aについての判断の誤りの1)に対して (1) 原告は,指圧頭が固設された指圧筒による指圧装置は周知ではない,と主張する。しかし,この主張は事実に反する。
審決が摘示した実公昭61-39470号公報(乙第1号証),特公昭44-13638公報(乙第2号証)以外にも,そのような指圧装置を示すものは多数存在する(乙第3号証〜第8号証)。
(2) エアーバッグを備えた指圧装置を示すものも,審決が摘示した乙第9号証,第10号証(それぞれ,審判甲第4号証及び第5号証)のほかに,多数存在する(乙第1号証,第11号証ないし第15号証)。
3 原告の主張4(相違点aについての判断における誤りの2(進歩性の判断の誤り))に対して 原告は,指圧子とエアーバッグとは,適宜選択し得る関係にはない,と主張する。しかし,両者は目的,機能において格別異ならず,適宜選択し得るものである。
(1) 指圧子は,つぼを刺激するのみならず筋肉のマッサージをも行うものである。他方,エアーバッグ(空気袋)も,筋肉のマッサージだけでなくつぼの刺激も行い得る。両者は,当業者であれば適宜置換することが可能である。
(2) 指圧子でマッサージ効果が得られることについて,例えば,乙第1号証(実公昭61-39470号公報)には「以上のように本考案によれば,使用者の体形に適合した曲面上に仰臥した安楽な姿勢で肩の経絡(つぼ)を空気圧の膨縮運動により指圧部材1で押圧を繰り返し行なうため,所要押圧力のマツサージを効果的,且つ,安全に行なうことができる」(3頁5欄9行目〜13行目),と記載されている。この「指圧部材1」とは,空気袋の先端に取り付けられた指圧頭のことである。
甲3公報自体にも「指圧頭30,31,39,40はその伸縮方向と略直交する方向に往復移動することができる。したがつて大腿部にもみ作用を与えながら指圧することができる。」(2頁4欄32行目〜35行目)と記載されている。
この「もみ作用」とは,筋肉をもみほぐすようなマッサージ作用のことである。
(3) エアーバッグで,つぼに対する指圧作用を与えられることについて,例えば乙第14号証(特開昭61-16178号公報)には,「空気充満袋」を用いるものについて,「腰や背等に存在する経穴部に対してきわめて柔軟にかつ適確にマツサージ効果をもたらすことができるようにすることを目的として開発した椅子に関するもので,」(2頁3欄3行目〜6行目),と記載されている。腰や背の経穴部にマッサージ効果を与えるというのは,つぼを刺激することにほかならない。
本件明細書にも,「【0022】空気袋23a,23bは人体の下肢部に位置するツボの承山(しょうざん)等に対応していて,対応する空気袋23a,23bの膨張によりこの承山近傍の下腿部を挟み付けることにより筋肉のマッサージ並びにツボへの刺激を行なう。」(3頁左欄29行目〜33行目)と記載されている。
同旨の記載は,乙第18号証(特開平7-124212号公報。これは,本件出願と同日に出願された特許の公報である。)にもある。
(4) 以上のとおり,指圧子と空気袋とは,いずれも,つぼに刺激を与えるためにも,筋肉をもみほぐすマッサージ効果を与えるためにも使用されるものであるから,当業者であれば適宜選択・置換することが可能なものである。
(5) 原告は,指圧子と空気袋の,それぞれによるマッサージ作用について十分な知識を有していなければ,空気袋を指圧筒と指圧頭との組合せと置換することに想到するのは容易でない,と主張する。
指圧子によるマッサージ作用がよく知られていたこと,甲3公報自体にもこの作用が記載されていることは,前述のとおりである。乙第9号証(実開昭59-100410号公報,公開日昭和59年7月6日)には,「さらに,収縮時間経過後,再び電磁弁15が開くと圧縮空気がエアーバツグ4a〜4f内に供給されて脹らみ,患部要所が圧迫される。このような動作が繰り返し行なわれることにより,肩部の肩甲骨内側縁や棘下窩等の要部が適度にもみほぐされ,血行を良くすると共に沈痛(判決注・「鎮痛」の誤記と認める。)効果が生じ,」(5頁19行目〜6頁5行目)と記載されている。
当業者が,本件出願前に,空気袋によるマッサージ効果について十分な知識を有していたことも明らかである。
(6) 原告は,審決が,甲4発明において指圧子がどこにどのように配置されているか認定していないことを問題とする。しかし,このようなことを認定する必要はない。
審決は,甲4発明の「上方が開放され」かつ「脚部を載せる」とした点を,同一技術分野に属する甲3発明に適用する,としているにすぎない。
なお,別件の無効審判(無効2001-35526)において,甲4発明の脚載置部には「出っ張り部分」があり,この「出っ張り部分」が指圧子である,と認定されている。すなわち,実際には,甲4発明には脚部を押圧する押圧子が存在するのである。
(7) 原告は,甲3発明は指圧台の上で施療を行う装置,甲4発明は椅子式の装置であって,基本的な構造が全く異なるから,甲4発明の単なる脚載置部をもって,甲3発明の抱持枠27や,指圧台そのものと置換することに想到することは容易ではない,と主張する。
前記のとおり,甲3発明の抱持枠27には,脚を載せ,また脚の位置決めをする機能もある。脚を載せるのは,指圧台の部分だけであると決めつけられるものではない。したがって,甲4発明の脚載置部を甲3発明に適用することは,想到困難なことではない。
(8) 信義則違反の主張 原告は,被告を相手方として,本件特許に基づく侵害訴訟を提起している。その訴訟提起に至る前,被告に対し文書(乙第21号証,第22号証)を送付し,被告製品「チェアロ」の蛇腹式の指圧筒の先端に指圧頭(キャップ)が取り付けられたものを指して,空気袋であると言っている。
このような原告が,指圧子と空気袋(すなわちエアーバッグ)との置換性を否定するのは,信義側に反する。
当裁判所の判断
1 原告の主張2(一致点・相違点の認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 原告は,本件発明1と甲3発明とが,「押圧子を膨張・収縮させて前記押圧子によってマッサージを行うマッサージ装置」である点で一致している,との審決の認定を争い,前者が空気袋を膨張・収縮させて空気袋によってマッサージを行うマッサージ装置であるのに対し,後者は,指圧筒を伸縮させてその先端に固接された指圧頭によって指圧を行う指圧装置であるから,甲3発明が指圧装置であり,本件発明1がマッサージ装置である,という点が相違点として認定されるべきであった,と主張する。
(2)ア 本件発明1における空気袋は,その構成要件「空気袋を膨張・収縮させてマッサージを行う」から明らかなとおり,一定の態様で人体を押圧する部材である。審決が,本件発明1における空気袋を「押圧子」と認定しているのは,人体を押圧する部材という抽象度で把握したときのこの空気袋を表現するためであることは,その説示自体で明らかである。
甲3発明における指圧筒の先端に固設された指圧頭は,指圧筒の伸縮作動に伴い,人体を指圧するものである。この指圧は,人体を押圧する態様の一つであることが明らかである。審決が,甲3発明の指圧頭及びこれと一体となる指圧筒(以下,指圧筒と指圧頭との組合せを「指圧筒・頭」ということがある。)を「押圧子」と認定しているのは,人体を押圧する部材という抽象度で把握したときのこれを表現するためであることは,その説示自体で明らかである。
本件発明1における空気袋と,甲3発明における指圧筒・頭とが,上記の抽象度で把握する限り,押圧子である点で一致することは,明らかである。審決がこの点を一致点としたことについて,何ら誤りはない。
イ 原告は,甲3発明は指圧装置であってマッサージ装置ではなく,審決が,本件発明1と甲3発明とが「マッサージ装置」である点で一致するとしたのは,誤りである,と主張する。
しかしながら,審決が,マッサージ装置である点において両発明が一致するとしたのは,押圧子により押圧する装置である点で一致することをいっただけのことであり,それ以上の意味ではないことは,審決が押圧子の具体的態様の相違を相違点として認定して,これに対して検討を加えていることなど,審決の説示自体で明らかである。
仮に,「マッサージ装置」という言葉を指圧装置に用いることが,言葉の用法としては不正確であるとしても,そのことは,審決の上記認定自体を何ら誤りとするものではない。
ウ 原告が,看過されたと主張する相違点は,相違点aとして認定されている。
すなわち,審決は,「押圧子」や「マッサージ機」等の上位概念を用いて一致点を認定した上で,両者の具体的な機器構成の相違を,相違点aとして,本件発明1が,押圧子を「空気袋」とした「エアマッサージ装置」であるのに対し,甲3発明は,押圧子を「指圧頭が固設された指圧筒」とした「指圧装置」である点,として認定しており,相違点aには,原告の主張する本件発明1と甲3発明との相違である,エアマッサージ装置と指圧装置という相違及び空気袋と指圧頭という相違が抽出されている。
原告が,看過されたと主張する相違点が,認定されていることは明らかである。
(3)ア 原告は,甲3発明において,人体の脚部を載せるのは指圧台であり,抱持枠27は可動枠25が閉じたときに被指圧部を抱持する機構である,として,これを根拠に甲3発明の「一対の凹状抱持枠27,27」が本件発明1の「一対の凹状受部」に相当するとした審決の認定は誤っている,と主張する。
イ 上記原告の主張は,甲3発明の理解としては適切である,と認められる。
しかし,審決は,相違点bの認定の前提として,「甲第1発明(判決注・甲3発明)における「人体の脚部を抱持し得る」ことと,本件発明1における「人体の脚部を載せる」こととは,「人体の脚部を位置させる」という概念で共通している。」(6頁12行目〜14行目)との前提を立てた上で,前記のとおり,人体の脚部を位置させる前後端が開放された一対の凹状受部に関し,本件発明1が,上方が開放されかつ脚部を載せるとしているのに対し,甲3発明は,上方が可動枠25が開くことで開放され,かつ,脚部を抱持し得るとしている点を相違点の1つ(相違点b)として認定している。
審決の上記前提は正しいと認められ,かつ,原告の主張する正しい相違点も,実質的に相違点bで認定されている。
(4) 以上のとおり,原告の主張2は理由がない。
2 原告の主張3(相違点aについての判断における誤りの1(周知技術の認定の誤り))について 原告は,指圧頭が固設された指圧筒を押圧部材として備えた指圧式のマッサージ装置も空気袋を押圧部材として備えたエア式のマッサージ装置も周知であったという,審決の認定は誤りである,と主張する。
しかしながら,空気圧を利用した指圧式のマッサージ機も,空気袋を利用したエアマッサージ機も種々出願され,公開・公告されており,本件出願当時,既に周知となっていた,と認めることができる。
(乙第1号証ないし第15号証)。
この点についての原告の主張は,理由がない。
3 原告の主張4(相違点aについての判断における誤りの2(進歩性の判断の誤り))について ア 原告は,押圧部材として,指圧筒・頭と空気袋とのどちらを採用するかは,当業者が必要に応じて適宜選択し得る事項である,とする審決の判断は誤りである,と主張する。
イ 原告の主張する,指圧が点接触的に人体を押圧し,専らつぼを刺激するものであるのに対し,マッサージは,広範囲にわたって人体を押圧し,広い範囲の筋肉に対し刺激を与えるものであって,両者は一応区別され得る,との前提に立ったとしても,押圧部材として,指圧筒・頭と,空気袋とのいずれを採用するかは,以下のとおり,当業者が適宜選択し得る設計事項であると認められる。
ウ 筋肉の緊張を解いて血行を良くする,神経を刺激するなどの目的で,人体に対し人が物理的な力を加える療法,すなわち,指先,あるいは手の平全体などを使って,人体をさすったり,たたいたり,もんだり,押したりする療法が,それらそれぞれが正確にはどのように呼ばれてきたかはともかく,古来存在したことは周知である。そして,これら人手によって行われた療法の中には,つぼと呼ばれる部位を押圧することに重点を置いて,狭い当接面積を押圧する,一般に指圧と呼ばれているもの,筋肉をもみほぐすものなど,種々の態様のものがあることも,よく知られたことである。
そうだとすると,これらを,人手でなく,機械により実現しようとする場合,技術的に可能である限り,人手による場合に倣って(本件発明も,「人手によるような挟み揉み効果」を得ようとするものである。本件明細書の後掲「作用」の記載参照),狭い当接面積を押圧(指圧)するような部材を設けようとすることも,広い当接面積を押圧するような部材を設けようとすることも,極めて自然に出てくる発想であって,これらのうち,いずれを採用するか,いずれも採用するかなどは,施療部位と施療効果に応じて,当業者が適宜選択できる設計事項であるということができる。当然のことながら,このような発想を抱くことの困難性と,当該発想を技術的に実現することの困難性は別であるから,このような発想を技術的に実現したものに特許権が認められることは,十分あり得る。しかし,それは,当該技術的困難をいかに解決したかを開示し,かつ,その開示に見合う範囲においてだけ特許を求める場合に限られる。本件発明1がこのような場合に当たるものではないことは,明らかである。
エ したがって,指圧子とエアバッグとの二つの要素を,施療部位と施療効果に応じ,取捨選択し,組み合わせるなどして採用することそのものは,当業者であれば適宜選択できる設計事項であるということができる。
人間の脚部には,筋肉もつぼも両方存在すると認められる(つぼにつき,乙2公報8図参照)から,脚部についても,広い範囲のマッサージ効果をねらうか,つぼ刺激をねらうかで,押圧部材としての指圧筒・頭と空気袋とのいずれも,適宜選択し得ることは当然である。
原告の主張は,採用できない。
4 原告の主張5(相違点bについての判断における誤り)について (1) 審決は,相違点bについて 「甲第2号証(判決注・甲4公報)には,上方および前後端が開放された一対の凹状受部に人体の脚部を載せるようにした指圧椅子が記載されている。・・・ 甲第1発明(判決注・甲3発明)において,前後端が開放された一対の凹状受部に,上記甲第2号証に記載の技術を適用し,相違点bにおける本件発明1の構成とすることは当業者にとって容易である。」(7頁4行目〜9行目) としている。
(2) 甲3発明は,「従来の指圧装置にあつては単に指圧頭を身体に向けて間歇的に押圧するようにしているだけなので,身体が指圧力の作用方向に逃げてしまい指圧効果が損われ,特に腕部,脚部のように体重をかけにくい部分ではその傾向が大きく,実質的な指圧効果が得られない欠点があつた。」(甲3公報1頁1欄34行〜2欄2行)という問題点を解決するために,「利用者2が仰臥して自己の脚の大腿部イを前部のように開放している抱持枠27内に挿入した後,図示しない運転釦を押すと,流体圧シリンダ43が伸長作動して可動枠25を蝶着部26まわりに閉じ方向に回動して・・・指圧頭39,40を大腿部イに当接させる。・・・この場合に指圧頭30,39上,31,40は大腿部イを挟んで相対向しているので,恰も指圧師が大腿部イを握持して指圧する場合と同じような指圧効果を与えることができる。」(2頁4欄8行目〜25行目)との構成を採用したものである。
すなわち,甲3発明にあっては,使用時には可動枠25が回動して指圧頭30,31が大腿部イを挟んで当接関係になることによって,「身体が指圧力方向に逃げる」という従来技術の欠点を解消しているものである。
(3) 他方,本件発明1に関して,本件明細書には,次のような記載かある。
「【作用】凹状受部の上方および前後端が開放されているので,人体の脚部をその凹状受部に簡単に載せることができる。そして,凹状受部の側面に設けた空気袋の膨張・収縮により脚部が両側から押圧されたり,開放されたりするので,人手によるような挟み揉み効果が得られる。しかも,凹状受部に脚部を載せるものであるからこの脚部をリラックスした状態にすることができ,このリラックスにより脚部が柔らかくなり,その脚部が十分にマッサージされる。このため,人手によるような挟み揉み効果が十分に得られることになる。」(本件明細書2頁左欄47行目〜右欄7行目)。
本件発明1の「凹状受部」は,このような作用効果を奏するものであり,そうすると,それは,脚を載せてこれをリラックスさせられるようなものであり,かつ簡単に脚を載せられるようなものと理解されるべきである。
(4) 甲3発明の前記凹状受部は,脚を収容するためにはその可動枠を回動させる必要がある。また,幅もかなり狭いものであって,固定枠24が脚部に当接し,その重量の一部を支えるものではあるものの,仰臥した人体の大部分を支えるのは指圧台そのものであるから,甲3発明の凹状受部を,人体を載せてそれをリラックスさせるものと認めることはできない。
本件明細書の記載,とりわけ【作用】の記載から合理的に理解される本件発明1の凹状受部と,審決のいう甲3発明の凹状受部とでは,形態が大きく異なるといわざるを得ない。
(5) 甲4公報記載の発明は「指圧椅子」であって,参考図等によれば,「上方および前後端が開放されるとともに人体の脚部を載せる凹状受部」が看取できる。
審決が認定するとおり,甲3発明の固定枠24と可動枠25は,前後端が開放され,可動枠25が開くことで上方が開放され,人体の脚部を抱持し得るものであり,一対の凹状枠27,27を構成するものである。
しかし,前記のとおり,甲3公報に開示されている発明(甲3発明)は,ごく狭い幅で人体を抱持するにすぎず,甲4発明の,脚部(下腿部)をまるまる収容し得る一対の溝状の脚載置部とは,形状が大きく異なる。しかも,甲3発明の凹状枠は,その可動性,その可動の機構(開閉自在に蝶着),さらに,前記認定のとおり,それに備え付けられた指圧頭が,指圧筒の伸縮方向と略直交する方向に往復移動する,というその構成を考慮すると,これを甲4発明の長い一対の溝状にすることには,阻害要因がある,というべきである。
審決の説示を文字どおり理解する限り,その結論には疑問がある。
(6) しかしながら,審決の説示の根幹は,甲3発明と甲4発明とが共に指圧椅子であり,指圧装置という同一技術分野に属することを前提に,両者の技術を組み合わせることを検討する,というものである。審決の説示は,甲3発明の構成中,脚部を両側面から挟み付けるように押圧するという構成のみを残し,これに,甲4発明の構成を適用すること,すなわち,甲3発明の,人体の脚部を両側面から押圧する押圧部材(指圧筒・頭)を備えた凹状枠(抱持枠)を,甲4発明の,開放面が広がったり狭まったりという意味で可動性のものではなく,かつ,指圧筒・頭が伸縮する方向に略直交する方向に往復移動しない,という意味でも可動性のものではない,一対の溝状の脚載置部の両側壁及び中間壁の壁面の形状にする,ということの容易推考性を肯定した,と理解することも可能である。
およそ,指圧装置ないしマッサージ装置において,製造技術上問題なく,製造コストが許す限り,人体に当接ないし近接する箇所に,押圧部材を設けようとすること自体は,当然であり(そのような構成は,本件証拠において開示されている,指圧装置ないしマッサージ装置に共通していえることである。),そうすると,甲3発明の,脚を側面から押圧する押圧部材を設ける部分を,同じく脚を側面から押圧するのに適した甲4発明の一対の溝状の脚載置部の形状とすることに,何ら阻害理由はない。また,これに伴い,甲3発明では,人体脚部の長手方向に往復移動する押圧部材をそうしないようにしたり,また,開閉する甲3発明の凹状受部を,開閉しないようにすることも,より簡易な機構にするものであるから,やはり困難なものとは認められない。
そうである以上,審決の相違点bの判断にも誤りがあるとは認められない,というべきである。
5 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。他にも,審決に,これを取り消すべき誤りは認められない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久