関連審決 | 無効2001-35508 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13行ケ434審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10380審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10735審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 新規性 / 公然実施(29条1項2号) / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 国内優先権 / 着想 / 抵触 / 優先日 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
460号
審決取消請求事件
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原告 ファミリー株式会社 訴訟代理人弁理士 角田嘉宏 同 高石郷 同 西谷俊男 同 幅慶司 同 古川安航 同 内山泉 被告 東芝テック株式会社 訴訟代理人弁護士 大場正成 同 尾崎英男 同 嶋末和秀 同 飯塚暁夫 訴訟代理人弁理士 鈴江武彦 同 峰隆司 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/03/23 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2001−35508号事件について,平成14年7月31日にした審決の第3項「特許第3012780号の請求項2乃至4に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「エアーマッサージ機」とする特許第3012780号の特許(平成6年7月29日になされた出願に基づく国内優先権を主張して(以下,この日を「本件優先日」という。),平成7年3月23日出願(以下「本件出願」という。同出願に係る願書に添付された明細書及び図面を併せて,以下,「本件明細書」という。甲第2号証は,登録時におけるその内容を示す特許公報である。なお,後記本件訂正により,請求項3の訂正がなされている。),平成11年12月10日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は4である。)の特許権者である。 原告は,平成13年11月16日,本件特許をすべての請求項について無効にすることについて,審判を請求し,特許庁は,これを,無効2001-35508号事件として審理した。被告は,審理の過程で,本件明細書の訂正を請求した(以下,この訂正を「本件訂正」という。)。特許庁は,審理の結果,平成14年7月31日,「訂正を認める。特許第3012780号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。特許第3012780号の請求項2乃至4に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下単に「審決」という。)をし,その謄本を,平成14年8月12日,原告に送達した。 2 特許請求の範囲(本件訂正による訂正後のもの)(別紙1参照) (1) 請求項1 座部及び背凭れ部を有した椅子本体と,前記座部前側に配置して前記椅子本体に取付けられ,かつ,両側壁及び中間壁を有し,これら側壁と中間壁との間に上面及び前後両端を開放して前記椅子本体に座った使用者の下肢を収容し得る一対の施療凹部が形成され,前記中間壁の両側面に脚用空気袋が夫々取付けられるとともに,前記両側壁の内側面にも脚用空気袋が夫々取付けられた脚載置部と, 前記各脚用空気袋に連通して設けられこれら脚用空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置と, を具備した椅子式のエアーマッサージ装置。 (2) 請求項2 前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面部に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した前記請求項1に記載のエアーマッサージ機。 (3) 請求項3 底部空気袋を前記施療凹部の底面に配置し,前記各空気袋による下肢に対する圧迫動作において前記底部空気袋用の弁手段を前記脚用空気袋用の弁手段よりも遅れて開くように制御し た前記請求項1又は2に記載のマッサージ機。 (下線部は,本件訂正により付加訂正された部分である。。) (4) 請求項4 前記脚用空気袋の膨張完了時期よりも遅く前記底部空気袋の膨張が完了するようにした前記請求項3に記載のエアーマッサージ機。 (以下,個別に「本件発明1」,「本件発明2」などと呼称する。) 3 審決の理由(請求項2ないし4に関する部分) (1) 原告(審判請求人)は,請求項2ないし4についての無効理由を,次のように主張した。 c 本件発明2は,平成6年10月17日に株式会社フジ医療器が大阪で主催した新商品発表会(以下「フジ医療器新商品発表会」という。)において公然実施をされた発明(以下「フジ発明」という。)及び甲第4号証(審判甲第5号証,以下「甲4公報」という。)に記載された発明(以下「甲4発明」という。)若しくは甲第7号証(審判甲第14号証,以下「甲7公報」という。)に記載された発明(以下「甲7発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明できたものである(本件発明2は,本件特許の基礎出願に添付された明細書に記載された発明ではないから,国内優先権(優先権主張日平成6年7月29日)主張の効果はなく,フジ発明は先行技術となる。)。 d 本件発明2は,甲第5号証の1の意匠公報(審判甲第12号証,以下「甲5公報」という。甲第6号証(審判甲第13号証)は,この公報に係る意匠の登録証及びそれに添付された図面代用写真である。以下「甲6文書」という。)に記載された発明(以下「甲5発明」という。)及び甲4発明若しくは甲7発明に基づき,当業者が容易に発明できたものである, e 本件発明3は,フジ発明及び甲4発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである(前記のとおり,フジ発明は先行技術となる。), f 本件発明3は,甲5発明及び甲4発明に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである, g 本件発明4は,フジ発明及び甲4発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである(同じく,フジ発明は先行技術となる), h 本件発明4は,甲5発明及び甲4発明に基づき,当業者が容易に発明できたものである, と主張した(以下,審決と同じく,順に「無効理由c」,「無効理由d」等という。)。 (2) 審決は,請求項1については,本件発明1の容易推考性を肯定して,原告の主張を認めたものの,請求項2ないし4については,以下のように述べて,原告の主張をすべて排斥した。 ア 本件発明2の容易推考性についての説示 「本件発明2は,本件発明1にさらに,「施療凹部に収容された使用者の下肢に対する脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した」という構成を限定付加したものである。・・・ 上記フジ医療器新商品発表会において公然実施された発明(判決注・フジ発明),上記甲第13号証の発明及び甲第5,12,14号証(判決注・順に,甲6文書,甲4公報,甲5公報,甲7公報)に記載された発明のいずれにも,少なくとも,本件発明2の上記限定付加された構成は存在しない。 そして,この構成は,「施療凹部に収容された使用者の下肢を,各脚用空気袋で下肢が施療凹部の開放上面側に押出されないように保持して,側面方向から空気袋で確実に圧迫できるので,マッサージ効果を向上できる」(判決注・甲第2号証6頁左欄8行目〜11行目)との格別の効果を奏する。 そうすると,本件発明2について,仮に,国内優先権主張の効果が認められないとしても,本件発明2が,上記公然実施された発明或いは上記甲各号証に記載された発明であるとも,また,それらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。」(審決書11頁15行目〜12頁1行目) イ 本件発明3の容易推考性についての説示 「本件発明3は,本件発明1又は2にさらに,「底部空気袋を施療凹部の底面に配置し,各空気袋による下肢に対する圧迫動作において前記底部空気袋用の弁手段を脚用空気袋用の弁手段よりも遅れて開くように制御した」という構成を限定付加したものである。 これに対し,上記フジ医療器新商品発表会において公然実施された発明,上記甲第13号証の発明及び甲第5,12号証に記載された発明のいずれにも,少なくとも,本件発明3の上記限定付加された構成は存在しない。 そして,本件発明3は,かかる構成により,「施療凹部に収容された下肢をその側面方向および施療凹部の底面側から圧迫できる」(判決注・甲第2号証6頁13行目〜15行目)と共に「各脚用空気袋のストッパ作用で,施療凹部に収容された下肢が底部空気袋の膨張に伴い施療凹部の開放上面方向へ押出されることを防止できるので,多方面から確実に下肢を圧迫してマッサージすることができる」(判決注・甲第2号証16行目〜19行目)という格別の効果を奏するものである。 そうすると,本件発明3について,仮に,国内優先権主張の効果が認められないとしても,本件発明3が,上記公然実施された発明或いは上記甲各号証に記載された発明であるとも,また,それらの発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるとも,認めることはできない。」(審決書12頁18行目〜34行目) ウ 本件発明4の容易推考性についての説示 「本件発明4は,本件発明3にさらに,「脚用空気袋の膨張完了時期よりも遅く底部空気袋の膨張が完了するようにした」という構成を限定付加したものである。 上記「(3)本件発明3について」の項で述べたように,上記フジ医療器新商品発表会において公然実施された発明,上記甲第13号証の発明及び甲第5,12号証に記載された発明によっては,本件発明3の新規性・進歩性を否定できない以上,本件発明4も同様に,仮に,国内優先権主張の効果が認められないとしても,上記公然実施された発明或いは上記甲各号証に記載された発明であるとも,また,それらの発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも,認めることはできない。」(審決書13頁12行目〜21行目) |
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原告の主張の要点
審決は,本件発明2ないし4のいずれについても容易推考性の判断を誤っているから,請求項2ないし4に関する部分は,すべて取り消されるべきである。 1 本件発明2の容易推考性について (1) 審決は,甲7発明(審判甲第14号証に記載された発明)に,「施療凹部に収容された使用者の下肢に対する脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した」(11頁15行目〜18行目)構成は存在しない,と認定している(11頁29行目〜31行目)。 しかし,上記認定は誤っている。 (2)ア 甲7公報の2図,3図には,下肢(大腿部イ)を収容する施療凹部の内側に,指圧筒28,29が配置された状態が示されている。指圧筒28,29は,空気の給排気によって伸縮する空気袋である。指圧筒28,29の最大圧迫部である指圧頭30,31は,施療凹部の開放上面側に位置する下肢(大腿部イ)の表側部分に接するように配置されている(別紙2,3参照)。 以上のように,審決が摘示する本件発明2の特徴は,甲7発明に現れている。 イ 被告は,甲7発明には施療凹部がないとの主張をする。しかし,甲7公報には,「前記取付板23の端部には,大腿部に対面する内面が凹状になるように屈曲させた固定枠24が一体的に形成され,この固定枠24の一端縁には同じく前記被指圧部に対面する内面が凹状になるように屈曲させた可動枠25がその固定枠24に対して開閉自在に蝶着26されており,前記固定枠24と可動枠25とによって前記被指圧部を抱持し得る抱持枠27を構成する。」(2頁3欄12行目〜19行目),と記載されており,その2図及び3図には,固定枠24と可動枠25とによって下肢を抱持した,凹状の抱持枠27が明確に現れている。すなわち,固定枠24と可動枠25とによって構成された抱持枠27は,本件発明2の施療凹部に該当する。 ウ 被告は,甲7発明には,本件発明2の最大圧迫部がない,と主張する。 本件発明2の最大圧迫部とは,施療凹部に収容された身体部分が空気袋により施療凹部の開放上面側に押し出されないように保持するための概念である。 甲7発明の指圧筒28,29の先端にある指圧頭30,31は,下肢の表側部分に接して,脚が施療凹部の開放上面側に押し出されないように保持し,その圧迫力は,この指圧頭を介しているものの,指圧筒から与えられている。 したがって,甲7発明の指圧頭30,31は,本件発明2の最大圧迫部に該当する。 エ 原告は,審判手続において,甲7発明に,本件発明2の上記構成が現れていることを主張し,かつ,甲7発明によっても,施療凹部に収容された身体部分を各空気袋で施療凹部の開放上面側に押し出されないように保持して,側面方向から空気袋で確実に圧迫できるという,本件発明2と同様の効果を得ることかできる,との主張をしてきた(甲第3号証)。 審決は,原告の上記主張について審理していない。このことは,審決が,甲4発明に上記本件発明2の構成が現れていないとの認定については, 「なお,請求人は,甲第5号証(判決注・甲4公報)第3図の4fで示される空気袋が,その最大圧迫部が,施療凹部の開放上面側に位置する人体の表側部分に接するように配置されている旨主張する。 しかしながら,本件発明2は,脚用空気袋が施療凹部の両側面に配置されると共にその最大圧迫部が下肢の表側部分に接するように配置したことにより,下肢が施療凹部の開放上面側に押出されるという課題を解決したものであるのに対し,甲第5号証に記載のものは,その第1,2図に明確に示されているように,空気袋4fが殻体1の開放上面側にのみ配置されているため,人体を単に下方側に圧迫するだけのものであり,しかも,人体の肩部を包囲する殻体1を用いるものであるから,基本的に空気袋により人体が殻体1の開放上面側に押出されない構成になっており,本件発明2の課題自体を有さないものである。」(12頁3行目〜14行目) と具体的に説示しているにもかかわらず,甲7発明については,このような説示を全くしていない,ということからも明らかである。 オ 被告は,甲7発明には本件発明2の空気袋がない,との主張をする。しかし,この主張は,信義側に反する。すなわち,被告は,原告に対し,文書(甲第12号証,第13号証)を送付し,被告製品「チェアロ DX FAC-451」等(蛇腹式の指圧筒の先端に塩化ビニール製の指圧頭(キャップ)が取り付けられたもの)が,本件特許等に抵触する,と主張している。これは,上記蛇腹式の指圧筒と指圧頭との組合せが,本件発明の空気袋に該当することを前提とするものである。 このような原告が,上記指圧筒と指圧頭との組合せにつき,空気袋に該当しないと主張することは,信義側上許されない。 (3) 甲7発明は上記のとおり理解すべきものであり,そうすると,これとフジ発明とを組み合わせて,本件発明2を推考することは容易となる。 また,甲7発明と甲5発明との組合せによっても,本件発明2を推考するのは容易である。 したがって,本件特許は,請求項2については,無効理由c及びdのいずれによっても,無効とされるべきである。 2 本件発明3の容易推考性について (1) 甲4公報には,「一方,上記の実施例では複数のエアーバッグに対し一度に空気を供給したが,順次供給を行って,複数のエアーバッグを順次膨らませて要所を圧迫することも可能である。」(7頁8行目〜11行目)との記載があり,1図ないし3図には殻体1の底面や両側壁にエアーバッグを設けた構成が記載されている(別紙4ないし6参照)。 (2) 審決は,甲5発明と周知技術とを組み合わせることにより,本件発明1を容易に想到することができる,としている。そして,本件発明1と,甲4発明の,底面や両側壁のエアーバッグに空気を順次供給するという構成とを組み合わせれば,本件発明3に容易に想到することができる。 なぜなら,底面と両側壁のエアーバッグに空気を順次供給する,ということは,底面と両側壁のエアーバッグとが同時に膨張せず,一方が他方に遅れて膨張することを意味する。一方が他方に遅れる態様については,底面のエアーバッグが両側壁のそれに遅れるか,両側壁のエアーバッグが底面のものに遅れるかの2通りしかない。この膨張の順序を決定するに当たり,当業者であれば,底面のエアーバッグを両側壁のそれに遅れて膨張させることも当然に試みることになる(このような順序を採用することについて,特段の阻害事由はない。)。このような順序で各エアーバッグを膨張させることは,当業者が通常着想できる程度の事項である。 (3) 審決は,本件発明3の上記構成により,格別の効果を奏することができるものであり,そのような効果を奏する動作順序の特定が単なる設計的事項であるとはいえない,と主張する。 しかし,格別の効果が得られるからといって,動作順序の特定が単なる設計的事項ではない,ということになるものではない。甲4公報には,底面や両側壁のエアーバッグに順次空気を供給することが記載されている。このような記載がある以上,空気の供給順序をどのようなものにするかは,どのようなマッサージ効果を得ることを目的とするかに応じて,当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎない。 (4) 本件発明3の付加限定事項は,底部空気袋用の弁手段が脚用空気袋用の弁手段よりも遅れて開くことである。これも,甲4公報の「第4図は圧迫治療器の本体5の概略構成図を示している。11は十分な風量をもつ大型のエアコンプレツサであり,本体5とは別に設置される。治療器の本体5内には,エアコンプレツサ11からの空気供給管路に,圧力調整機構をもつレギユレータ12,異常高圧力を検出して圧迫動作を停止させる圧力スイツチ13,風量調整器14,及び電磁弁6が設けられ,図示しない制御回路により電磁弁6を設定された開時間と閉時間で開閉動作させる構造である。16は本体5からの空気供給用のホース6の一部に接続された圧力調整排気弁であり,各エアーバツグ4a〜4fの圧力が設定圧に達した際弁を閉じてエアーバツグ4a〜4fへの空気の供給を停止すると共に,本体5の電磁弁15が閉鎖され,空気圧が低下した際排気弁を開いてエアーバツグ4a〜4f内の空気を排気するように動作する。」(4頁3行目〜19行目)との記載から分かるように,甲4発明が備えているものである。 (5) したがって,本件特許は,請求項3については,無効理由e及びfのいずれによっても,無効とされるべきである。 3 本件発明4の容易推考性について 前項において述べたように,底面の空気袋(底部空気袋)を両側壁の空気袋(脚用空気袋)に遅れて膨張させる程度のことは,甲4発明から容易に推考できる程度のことであり,底部空気袋を,脚用空気袋に遅れて膨張させることにより,前者の膨張完了時期が後者のそれより遅れることは,当然に予測できる程度のことである。 本件発明4も,甲4発明及びフジ発明ないし甲5発明から,当業者が容易に推考できるものであり,本件特許は,請求項4については,無効理由g及びhのいずれによっても,無効とされるべきものである。 |
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被告の主張の要点
1 原告の主張1(本件発明2の容易推考性)に対して (1) 本件発明2の内容 ア 本件発明2を構成要件ごとに分節すると,以下のとおりとなる。 A 座部及び背凭れ部を有した椅子本体と, B1 前記座部前側に配置して前記椅子本体に取付けられ, B2 かつ,両側壁及び中間壁を有し,これら側壁と中間壁との間に上面及び前後両端を開放して前記椅子本体に座った使用者の下肢を収容し得る一対の施療凹部が形成され, B3 前記中間壁の両側面に脚用空気袋が夫々取付けられるとともに,前記両側壁の内側面にも脚用空気袋が夫々取付けられた B4 脚載置部と, C 前記各脚用空気袋に連通して設けられこれら脚用空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置とを具備した D 椅子式のエアーマッサージ装置(以上は本件発明1の請求項) E 前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が, F 前記施療凹部の開放上面部に位置する前記下肢の表側部分に接するように G 前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した H 前記請求項1に記載のエアーマッサージ機 イ 本件発明2は,本件発明1の構成に加え,「施療凹部に収容された使用者の下肢を,各脚用空気袋で下肢が施療凹部の開放上面側に押出されないように保持して,側面方向から空気袋で確実に圧迫できるので,マッサージ効果を向上できる」(甲第2号証6頁左欄8行目〜11行目)という,特有の作用効果を有する。。 (2) 原告は,甲7発明から本件発明2を容易に推考することができる,と主張している。しかし,原告が審判手続において主張していた無効理由(無効理由c)は,フジ発明が公然実施されていた,という事実を前提とするものである。しかし,審決は,公然実施の事実の存在を認定していない。原告が,フジ発明の公然実施についての主張・立証をせず,単に甲7発明に基づく容易推考性を主張する,というのであれば,甲7発明は椅子式マッサージ機に関するものではないから,容易推考性がないことは明らかである。 (3) 仮にフジ発明が公然実施されていたとしても,本件発明2を容易推考であるとすることはできない。そのわけは,審決が説示するとおりである。 甲7発明には,施療凹部が存在せず,指圧筒28,29は「下肢に対する脚用空気袋」ではない。したがって,甲7発明には,「施療凹部に収容された使用者の下肢に対する脚用空気袋の最大圧迫部が施療凹部の開放上面側に位置する下肢の表側部分に接するように凹部側面に対し脚用空気袋を配置した」という構成は存在しない。 本件発明2における施療凹部とは,「両側壁及び中間壁を有し,これら側壁と中間壁との間に上面及び前後両端を開放して前記椅子本体に座った使用者の下肢を収容し得る一対の」もの(構成要件B2)のことである。甲7発明に,そのようなものはない。 (4) 本件発明2における空気袋は,「中間壁の両側面及び両側壁の内側面に取り付けられた脚用」空気袋(構成要件B3)であり,下肢に対して圧迫作用を行い,最大圧迫部を有するものである。甲7発明にそのようなものはない。 原告は,指圧頭30,31が最大圧迫部に該当する,としている。本件発明2における「最大圧迫部」とは,脚用空気袋が膨張して,下肢に対して最大の圧迫を行う部分のことである。この「最大圧迫部」という概念は,他の部分にも圧迫力が存在することを前提にしてのみ,成り立ち得る。ところが,甲7発明において,人体に接触しているのは指圧筒28,29に固設された指圧頭30,31だけである。「脚用空気袋の最大圧迫部」は存在しない。 (5) 甲7発明には,本件発明2の課題,すなわち,施療凹部に収容した下肢を,空気袋を膨張させて側面より圧迫してマッサージする椅子式マッサージ機において,空気袋膨張時に,下肢が施療凹部の開放上面側に押し出されるという課題がそもそもなく,これを解決しようという目的もない。 すなわち,甲7発明の指圧筒28,29と指圧頭30,31は,使用時に使用者の下肢を斜め上方と斜め下方との両方から挟み付けるように押さえるだけのものである。 (6) 同様に,施療凹部や空気袋を備えた本件発明1と,甲7発明とでは,技術思想も基本的な構成も全く異なる。 原告が主張する,フジ発明の公然実施の事実が存在したとしても,これと甲7発明とを組み合わせて本件発明2を推考することは,容易ではない。 (7) 原告の無効理由dの主張は,甲5発明を引用例とするものである。しかし,甲5公報には,甲5発明が空気袋によるマッサージ機であるとの記載はなく,そのようなものであるとの認定もできない。 2 原告の主張2(本件発明3の容易推考性)に対して (1) 本件発明3の内容 ア 本件発明3を構成要件ごとに分節すると,以下のとおりとなる。 A 底部空気袋を前記施療凹部の底面に配置し, B 前記空気袋による下肢に対する圧迫動作において前記底部空気袋用の弁手段を前記脚用空気袋用の弁手段よりも遅れて開くように制御した C 前記請求項1又は2に記載の D エアーマッサージ機 イ 本件発明3は,側面部空気袋に加え,施療凹部の底面空気袋を配置することにより,下肢を側面から挟み揉みするだけでなく底面部からも押圧することを可能とし,加えて,底部空気袋用の弁手段を側面部空気袋用の弁手段よりも遅れて開くように制御することにより,底部空気袋の膨張に伴って下肢が施療凹部の開放上面側に押し出されることを防止する。 これにより,本件発明2の効果に加え,「施療凹部に収容された下肢をその側面方向および施療内部の底面側から圧迫できる」ようにするものである。 (2) 原告は,甲4発明(エアーバッグ式圧迫治療器)に基づく,本件発明3の容易推考性を主張している。 無効審判において原告が主張していた無効理由eは,フジ発明が公然実施されていたことを前提とするものである。この点についての主張・立証がない以上,甲4発明は椅子式マッサージ装置でないから,原告の主張が成立しないことは明らかである。 (3) 甲4発明には,使用者の下肢を収容し得る一対の施療凹部も,同施療凹部に配置される側面部空気袋及び底部空気袋も存在しない。底部空気袋の膨張のタイミングも側面部空気袋のタイミングより遅らせる,ということもあり得ない。 なお,フジ発明にも,施療凹部の底部空気袋が存在しない。 (4) 原告は,甲4公報に,複数のエアーバッグに順次空気を供給して,順次膨らませる構成が記載されていることを根拠に,甲4公報には複数のエアーバッグへの空気の供給順序を弁手段によって制御する技術が開示されており,これを,本件発明1に組み合わせることにより,本件発明3を容易に推考できる,と主張する。 すなわち,底部空気袋を側面部空気袋よりも遅れて膨張させることは,単なる設計的事項である,とする。 しかし,甲4公報は,施療凹部の底部空気袋と両内側面部の脚用空気袋という2種類の空気袋の動作タイミングに言及したものではない。しかも,前記のとおり,本件発明3の構成により,脚部を側面及び底部から圧迫でき,かつ,下肢が施療凹部から押し出されることを防止できるという格別の作用効果を有するものであるから,この動作順序の設定を単なる設計事項ということはできない。 (5) 原告の無効理由fの主張は,甲5発明を引用例としているものである。しかし,前記のとおり,これには空気袋によるマッサージ作用のことは何ら記載されていない。 3 原告の主張3(本件発明4の容易推考性)に対して (1) 本件発明4の内容 ア 本件発明4を構成要件ごとに分節すると,以下のとおりとなる。 A 前記脚用空気袋の膨張完了時期よりも遅く前記底部空気袋の膨張が完了するようにしたし, B 前記請求項3に記載の C エアーマッサージ機 イ 本件発明4は,上記の構成を取ることによって,本件発明3と同様に,「各脚用空気袋のストッパ作用で,施療凹部に収容された下肢が底部空気袋の膨張に伴い施療凹部の開放上端方向へ押出されることを防止できるので,多方面から確実に下肢を圧迫してマッサージすることができる」(甲第2号証6頁左欄16行目〜20行目)ものである。 (2) 本件発明4と甲4発明(エアーバッグ式圧迫治療器)との相違は,2において述べたとおりである。 また,フジ発明が公然実施されていたとの事実が認められたとしても,甲4発明から本件発明3を容易に推考できるものでない以上,本件発明4の容易推考性も認められない。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明2の理解について (1) 本件発明2を構成要件ごとに分節すると, A 座部及び背凭れ部を有した椅子本体と, B1 前記座部前側に配置して前記椅子本体に取付けられ, B2 かつ,両側壁及び中間壁を有し,これら側壁と中間壁との間に上面及び前後両端を開放して前記椅子本体に座った使用者の下肢を収容し得る一対の施療凹部が形成され, B3 前記中間壁の両側面に脚用空気袋が夫々取付けられるとともに,前記両側壁の内側面にも脚用空気袋が夫々取付けられた B 4 脚載置部と, C 前記各脚用空気袋に連通して設けられこれら脚用空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置とを具備した D 椅子式のエアーマッサージ装置(以上は本件発明1の請求項) E 前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が, F 前記施療凹部の開放上面部に位置する前記下肢の表側部分に接するように G 前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した H 前記請求項1に記載のエアーマッサージ機 となる。 (2) 本件明細書には,次のような記載がある。 ア「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかし,従来のものはブーツタイプであるために,筒状をなす本体1に対して脚を出し入れしなければならないから,取扱いが面倒であるという問題がある。特に,足Aを本体1の足収納部1aの上側の壁で支持し,それにより第1空気袋2でのマッサージを可能としているので,仮に下腿収納部1bを省略できるとしても本体1への足Aの出し入れが面倒であるという問題がある。 【0006】本発明の第1の目的は,容易に取り扱うことができるエアーマッサージ機を得ることにある。 【0007】本発明の第2の目的は,前記第1の目的に加えて,より多くの方向からマッサージができるエアーマッサージ機を得ることにある。」(甲第2号証2頁左欄24行目〜38行目) イ「【0010】また,前記第2の目的を達成するために,請求項2の発明に係るエアーマッサージ機は,前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置したものである。」(甲第2号証2頁右欄5行目〜10行目) ウ「【0012】 【作用】前記請求項1の構成においては,座部の前側に配置された足載置部が,両側壁及び中間壁を有していて,これら各壁間の一対の施療凹部はその上面および前後両端が開放されているから,椅子本体に座った使用者の両方の下肢を脚載置部の上方から下肢を施療凹部に容易に収容できるとともに,同様の理由から施療凹部より下肢を容易に出すことができる。そして,脚載置部の中間壁の両側面および両側壁の内側面に夫々取付けられた脚用空気袋を,施療凹部に下肢を収容した状態で,エアー給排気装置の動作により繰り返し膨張・収縮させて,両方の下肢を側方から同時に圧迫および弛緩させる。それにより,マッサージをすることができる。前記請求項2の構成において,両側壁及び中間壁に夫々取付けられた脚用空気袋が膨張した際には,その最大圧迫部が施療凹部に収容された使用者の下肢における前記施療凹部の開放上面側に位置する表側部分に圧接する。それにより,脚用空気袋は,その膨張力で下肢を施療凹部の底面側に押付けて,下肢が施療凹部の開放上面側に持ち上げられることを防止し,施療凹部内に下肢を確実に保持すると共に,この下肢をその側面方向から圧迫する。」 (3) 本件明細書の上記記載から分かるとおり,本件発明2の,使用者の下肢を収容し得る一対の施療凹部の,中間壁の両側面と両側壁の内側面に設けられた脚用空気袋は,膨張した状態で下肢を脚の側方から同時に圧迫して,マッサージできるとともに,その最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面側に位置する,使用者の下肢の表側部分を圧迫し,もって,下肢を施療凹部に確実に保持できる,というものである。 本件発明2の上記各空気袋は,「最大圧迫部」を有する。「最大圧迫部」という語は,最大でない圧迫部の存在を前提としてのみ意味を有するから,本件発明2の上記各空気袋は,最大圧迫部とそうでない圧迫部を有するものであることが明らかである。このことから,上記各空気袋は,膨張状態においてある程度の面積を持って人体に当接し得るものであると認められる(ただし,その面積については,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明中に,具体的な記載はない。)。 また,施療凹部の中間壁の両側面と,両側壁の内側面に設けられた空気袋(合計4個の空気袋となり,相対向する空気袋が一対となって,一本の脚部の両側面を押圧することになる。以下,これら相対向する二つの空気袋を「一対の脚用空気袋」ということもある。)により脚部の側面を押圧するに当たり,本件発明2の一対の脚用空気袋は,その各最大圧迫部(人体を最も強く圧迫する部分)が,前記施療凹部の開放上面側に位置する使用者の下肢の,表側部分に当接することにより,脚を底面側に押し付ける作用を有する。すなわち,本件発明2の一対の脚用空気袋は,脚部の側面を圧迫しつつ,脚部を施療凹部の底面側に押し付けるという押圧作用を有するものである,と理解することができる。 本件発明2の一対の脚用空気袋の設置位置,大きさ,膨張の態様は,必ずしも詳細に定められているとはいえないものの,以上のようなものと理解されるべきである。 2 原告の主張1(本件発明2の容易推考性)について (1) 審決は,(本訴の対象となっていない)本件発明1について,その容易推考性を肯定してこれを無効としつつ,本件発明2については, 「本件発明2は,本件発明1にさらに,「施療凹部に収容された使用者の下肢に対する脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した」という構成を限定付加したものである。・・・ 上記フジ医療器新商品発表会において公然実施された発明(判決注・フジ発明),上記甲第13号証の発明及び甲第5,12,14号証(判決注・順に,甲6文書,甲4公報,甲5公報,甲7公報)に記載された発明のいずれにも,少なくとも,本件発明2の上記限定付加された構成は存在しない。 そして,この構成は,「施療凹部に収容された使用者の下肢を,各脚用空気袋で下肢が施療凹部の開放上面側に押出されないように保持して,側面方向から空気袋で確実に圧迫できるので,マッサージ効果を向上できる」(判決注・甲第2号証6頁左欄8行目〜11行目)との格別の効果を奏する。 そうすると,本件発明2について,仮に,国内優先権主張の効果が認められないとしても,本件発明2が,上記公然実施された発明或いは上記甲各号証に記載された発明であるとも,また,それらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。」(審決書11頁15行目〜12頁1行目) と述べて,原告主張の無効理由c及びdのいずれも排斥している。 (2) 甲7発明の理解について ア 原告は,甲7発明には,施療凹部に収容された使用者の下肢に対する脚用空気袋の最大圧迫部が,施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように施療凹部側面に対し脚用空気袋を配置した構成はない,との審決の認定を争っている。 イ 甲7公報には,次のような記載がある。 (ア) 「・・・従来の指圧装置にあつては単に指圧頭を身体に向けて間歇的に(ア)押圧するようにしているだけなので,身体が指圧力の作用方向に逃げてしまい指圧効果が損われ,特に腕部,脚部のように体重をかけにくい部分ではその傾向が大きく,実質的な指圧効果が得られない欠点があった。」(1頁1欄34行目〜2欄2行目) (イ) 「指圧筒28,29にはそれぞれ図示しない空気圧生成装置によつて生成された空気圧が導管32を介して給排できるようになつており,指圧筒28,29を伸縮作動させることができる。」(2頁3欄23行目〜27行目) (ウ) 「・・・本発明によれば,固定枠24とこれに蝶着26される可動枠25とによつて身体の脚部,腕部等の筒状をなす被指圧部を抱持し,それらの内面に設けた指圧筒28,29によつて前記指圧部を両側より指圧することができ,しかも,太つた人,痩せた人の場合でも前記指圧筒28,29を略相対向させることができ,従来の指圧装置では指圧が困難であつた脚部,腕部等も恰も指圧師が指先で抱持して指圧する場合と同じように指圧することができ・・・」(3頁5欄7行目〜6欄1行目) (エ) 2図及び3図には,下腿部を略対向する方向から挟み付け,押圧する一対の指圧筒(28,29)が開示されている(ただし,押圧個所は,脚部のやや斜め上方(表側)の側部及び斜め下方(裏側)の側部である。押圧方向は,厳密に180度対向する方向というわけではない。)。 ウ 上記のとおり,甲7発明は,(蛇腹状で給排気により)伸縮する指圧筒28,29(及びその先端に固設された指圧頭30,31。指圧筒と指圧頭を併せて「指圧筒・頭」ということがある。)が,被指圧部を指圧するものであり,指圧に当たり,被指圧部を抱持した上,両側から挟み付けるように指圧することにより,指圧する方向に,人体が逃げることを防止して,「恰も指圧師が指先で抱持して指圧する場合と同じように指圧する」ための装置である。 甲7公報の固定枠24及び可動枠25からなる凹状枠も,「凹部」であることは間違いない。また,それは,伸縮作動して人体を押圧する指圧筒を備えているから,指圧という施療を行うものである(別紙2,3参照)。これが,「施療凹部」であるとした審決(審決書8頁22行目〜24行目)の認定に,誤りはない。 他方,甲7発明には,その開放上面側に人体が逃げていくことを防止しようという直接の意図も発想もない。また,甲7公報に開示されている指圧筒は,点接触的に人体に当接し,これを圧迫するものであるから,最大圧迫部とそれ以外の部分を持つと認めることはできない。 したがって,「施療凹部に収容された使用者の下肢に対する脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した」構成が,甲7発明にはない,とした審決の認定自体に誤りはない (3) 以上に基づき,本件発明2の「前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面部に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した前記請求項1に記載のエアーマッサージ機」という構成につき,容易推考性は認められないとした,審決の判断について検討する。 ア 前記のとおり,甲7発明は,指圧筒・頭により指圧するものであり,指圧に当たり,被指圧部を抱持した上,これを両側から挟み付けるようにして指圧することにより,指圧する方向に人体が逃げることを防止して,「恰も指圧師が指先で抱持して指圧する場合と同じように指圧する」ことを目的とするものである。 人体の脚部を挟み付けて押圧しようとする場合,その態様は,大きくいえば,脚部の略中心点に対する点対称の位置から押圧するか,押圧の位置をそこから偏らせるか,の2通りしかない。また,人体を左右対称に押圧するという態様は,普通の,ごくありふれたものであると認められ,この態様を採用するときは,脚部を真横から挟み付けるか,押圧の位置を脚部の表側に偏らせるか,裏側に偏らせるかの3通りしかないことになる。そして,押圧方向として,真横から,あるいは脚部の裏側からのみを採用しなければならない理由は見いだし難い。そうだとすれば,甲7発明の上記開示内容を参酌しつつ,甲5発明の凹状の脚載置部(別紙7,8参照)に設けられて脚部を挟み付けて押圧する空気袋(指圧子を用いるものと空気袋を用いるもののいずれを採用するかが,当業者が必要に応じて適宜選定し得る事項であることは,審決自体,本件発明1についての判断において明言している。本件発明2についての判断も,これを当然の前提とするものであることは,いうまでもないところである。)の押圧位置を,脚部の表側にすることに想到することは,当業者にとってむしろ極めて容易なことというべきである(このような押圧態様を採用すれば,脚部は底部に押しつけられ,押圧する方向に逃げることがなくなることは明らかである。この態様は,正に甲7発明の目的に適うものである。)。 イ 「最大圧迫部」を,下肢の表側部分に接するようにすることの容易推考性について述べる。 およそ空気袋を押圧部材として,これを膨張させる場合,部分的に平面の状態を保ったまま膨張する態様のものも考えられるものの,略球状に膨張するもの,すなわち人体に当接させた場合,最大圧迫部が生じるものが,ごく一般的であると認められる。すなわち,膨縮する空気袋の最大圧迫部を観念することは,極めて容易なことである。 空気袋における最大圧迫部は,多くの場合,押圧による施療効果を最も高く発揮できる箇所であると思われる。したがって,わざわざ脚部の表側を選んで圧迫する以上,その「最大圧迫部」を,脚部の表側に当接させることは,むしろ自然なことであり,当業者が容易に想到できることと認められる。 ウ 被告が主張するとおり,甲5発明,甲7発明のいずれにおいても,本件発明2の有する,空気袋の押圧により,下肢を施療凹部の底面側に押し付け,保持するという思想は見いだし得ない。また,これらを組み合わせても,そのような思想自体が出てくるとは認められない。 しかし,被告が主張する上記効果は,本件発明2の構成の自明の効果というべきものである。上記効果がこのようなものである以上,それを発揮させるという思想がない,あるいは,そのような思想に想到できない,ということだけをもって,構成自体については容易推考性の認められる発明の容易推考性が否定されるものではない( 発明の進歩性は,原則として客観的な構成により判断されるべきである。その構成により特定の課題を解決しようとすること自体は,つまるところ,発明者の主観的な意図にすぎず,そのような意図の存在をもって特許性を肯定することは,結局,客観的には同じ構成の特許を複数認める結果を招来するものであって,採用することができない。ただし,当該構成のものとしても,当業者が容易に予想も発見もし得ないような効果を発見したときなどに,例外的に,構成自体は容易に推考できる発明にも,特許を認める余地はあろう。しかし,本件発明2については,このようなことはおよそ問題とならない。)。 エ 審決は,甲7発明など原告の挙げる発明のいずれにも,本件発明2の「前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面部に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した前記請求項1に記載のエアーマッサージ機」という構成が含まれていないことを根拠に,本件発明2の容易推考性を否定している。しかし,本件発明2の上記構成そのものを含むものが引用発明中に見られないからといって,常に同構成の容易推考性が否定されることになるわけではない。これは,当然のことである。審決は,引用発明中に,上記構成を含むものが存在しないことを認定した後にも,そのことを前提に同構成の容易推考性につき更に検討すべきであったのに,これを怠っているという以外にない。 (4) 以上のとおりであるから,上記理由により,本件発明2の容易推考性を否定して無効理由dは理由がないとした審決の判断は誤りである。 3 本件発明3の容易推考性について (1) 本件発明3は,本件発明1又は2に,@施療凹部の底面に底部空気袋を配置し,A底部空気袋用の弁手段を,一対の脚用空気袋の弁手段よりも遅れて開くようにした,ものである。 脚部を押圧するマッサージ装置において,足の両側面を押圧する一対の空気袋に加え,底部に押圧する空気袋を備えた装置が従来知られていたことは,本件明細書自体に記載されているところである(甲第2号証)。 (2) 原告が主張するとおり,甲4発明には,複数の空気袋に,順次空気を供給する構成が開示されている。 そうすると,施療凹部の複数の空気袋に空気を順次供給すること自体は,容易に推考できる。そして,その順序は,一対の脚用空気袋には同時に空気を供給するとの前提に立った場合,底部空気袋に先に供給する(弁手段を開く。),一対の空気袋に先に空気を供給する,すべての空気袋に同時に空気を供給する,の3通りしかない。 3通りしかない構成のうちの一つである,一対の脚用空気袋に空気を供給する弁手段を,底部空気袋のそれより先に開くようにして,一対の脚用空気袋を先に膨張させるようにする構成に想到することは,当業者にとって容易であり,かつ,これを選択することに,格別阻害要因があると認めることもできない。むしろ,このような構成を採れば,先に脚部を施療凹部内部に向けて押し込んで確実に保持することにより,底部空気袋による押圧がより効果的なものとなることは明らかであり,かつ,このことも当業者が容易に想到できるものであると認められる(前記のとおり,甲5発明,甲7発明を組み合わせた結果を当業者がみれば,脚部を施療凹部の底面側に押し込んで保持するという働きを容易に認識できる。) 審決は,「・・・フジ医療器新商品発表会において公然実施された発明(判決注・フジ発明),上記甲第13号証(判決注・本訴甲第6号証)の発明及び甲第5(判決注・甲4公報),12号証(判決注・甲5公報)に記載された発明のいずれにも,少なくとも,本件発明3の上記限定付加された構成は存在しない。」(審決書12頁22行目〜24行目),「甲第5号証には,「複数のエアーバッグを順次膨らませて」と記載されているだけであり,「複数のエアーバッグ」として施療凹部の「底部空気袋」と「両内側面部の脚用空気袋」という2種類の空気袋の間の動作タイミングについて言及したものではない。」(同13頁3行目〜6行目),としている。 しかし,2(3)エについて述べたところと同じく,本件発明3の上記構成そのものを含むものが引用発明中に見られないからといって,常に同構成の容易推考性が否定されることになるわけではない。審決は,ここでも,上記構成を含むものが存在しないことを認定した後にも,そのことを前提に同構成の容易推考性につき更に検討すべきであった。審決はこれを怠っている。 上記のとおり,甲5発明と,甲4発明とを組み合わせると,本件発明3の構成に容易に想到することができる,と認められる。上記の検討をしないままに,無効理由fを排斥した審決の判断には,誤りがある。 4 本件発明4について 本件発明3についての審決の判断に誤りがあることは上述のとおりである。 本件発明4についての審決の判断は,本件発明3についての判断に依拠するものであるから,これもまた誤りである。 5 結論 以上のとおり,審決は,本件発明2ないし4のいずれについても容易推考性の判断を誤っており,原告の本訴請求は,いずれの請求項についても理由がある。 そこで,これを認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 阿部正幸 |
裁判官 | 高瀬順久 |