関連審決 |
無効2018-800041
無効2020-800080 |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
元本PDF | 裁判所収録の別紙2PDFを見る |
元本PDF | 裁判所収録の別紙3PDFを見る |
事件 |
令和
4年
(行ケ)
10005号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告株式会社フジ医療器 同訴訟代理人弁護士 堀籠佳典牧野知彦 被告 ファミリーイナダ株式会社 同訴訟代理人弁理士 北村修一郎 森俊也 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2022/08/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
特許庁が無効2020-800080号事件について令和3年12月7日にした審決を取り消す。 |
|
事案の概要
本件は、特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟であり、争点は、進歩性についての認定判断の誤りの有無である。 1 手続の経緯 (1) 本件特許の登録 被告は、平成14年4月19日、発明の名称を「マッサージ機」とする発明について、特許出願(特願2002-118191号)をした後、同出願の一部を特願2007-163906号として分割出願し、その一部を特願2008-61992号として分割出願し、その一部を特願2009-275966号として分割出願し、さらにその一部を特願2012-61490号(以下「本件出願」という。)として分割出願して、平成24年6月8日、特許第5009445号として特許権の設定登録(請求項の数6)を受けた(以下、この特許を「本件特許」といい、本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。甲1)。 (2) 前訴(特許無効審判及び審決取消訴訟) 原告は、平成30年4月18日、本件特許の無効審判請求をし、特許庁は、同無効審判請求を無効2018-800041号事件として審理し、平成31年3月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。原告は、同審決に取消事由があると主張して、知的財産高等裁判所に対し、審決取消訴訟を提起し(平成31年(行ケ)第10042号)、同裁判所は、令和2年1月21日、上記審決を取り消すとの決定をした(以下「前訴判決」という。甲22)。特許庁は、上記事件について改めて審理し、同年7月31日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。原告は、同審決に取消事由があると主張して、知的財産高等裁判所に対し、審決取消訴訟を提起したが(令和2年(行ケ)第10109号) 同裁判所は、 、 令和3年5月26日、原告の請求を棄却する判決をした。原告がこれに対し、上告受理の申立てをしたが、同年10月14日、最高裁判所により上告受理申立不受理の決定がされ、上記審決は確定した。 (3) 本件特許に対する再度の無効審判請求に係る審決 原告は、令和2年9月15日、本件特許の無効審判請求をし、特許庁は、同無効審判請求を2020-800080号事件として審理し、令和3年12月7日、 「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。 本件審決の謄本は、同月16日、原告に送達された。原告は、令和4年1月14日、 本件訴訟を提起した。 2 発明の要旨 本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明を、請求項の数字に応じて「本件発明1」などといい、これらを併せて「本件各発明」という。甲1)。 【請求項1】 被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、 前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と、 前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、 前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し、 前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ、 前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されていることを特徴とするマッサージ機。 【請求項2】 前記一対の保持部は、各々の前記開口が真横を向いていることを特徴とする請求項1に記載のマッサージ機。 【請求項3】 前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマッサージ機。 【請求項4】 前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマッサージ機。 【請求項5】 前記背凭れ部は、被施療者の胴体を支持するクッション部と、前記クッション部より前方へ延設され被施療者の上腕及び肩の側部を覆う部分を有するカバー部と、 を有し、 前記カバー部には、膨張及び収縮することにより被施療者の肩に刺激を与えることができる空気袋が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のマッサージ機。 【請求項6】 左腕用の前記保持部に設けられた空気袋と、右腕用の前記保持部に設けられた空気袋と、は、夫々独立に駆動されるよう構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のマッサージ機。 3 本件審決の理由の要点 (1) 原告の主張した無効理由 原告は、本件発明1〜3について、@甲2(中国実用新案2032873号公報及びその翻訳文)記載の発明(以下「甲2発明」という。)により新規性を欠くから特許法29条1項3号により特許を受けることができないことを理由として、本件各発明について、A甲2発明、B甲3(特開平10-263029号公報)記載の発明(以下「甲3発明」という。)、C甲5(特開平10-243981号公報)記載の発明(以下「甲5発明」という。)又はD甲16(特開2001-204776号公報)記載の発明(以下「甲16発明」という。)により進歩性を欠くから同条2項により特許を受けることができないことを理由として、同法123条1項2号により、本件特許を無効とすべきであると主張した。 (2) 無効理由1(甲2発明に基づく新規性・進歩性欠如)について ア 甲2発明は次のとおりと認められる。 「着座できるシートと、使用者が寄りかかれる腰、背部に対応する部位とを備える、座って使用できるエアー式マッサージ、牽引両用の健康機器において、 十字状のアームに取り付けられてシートの両側に夫々配設され、使用者の腕部を部分的に覆って保持するジャケットと、 前記ジャケット内に腕と並列して配置される膨張可能な空気充填腕摩擦器と、を有し、 前記ジャケットは、断面がC字状となっており、腕を挿入する開口が前方に設けられ、かつ前記十字状のアームを広げたり閉じたりできるエアー式マッサージ、牽引両用の健康機器。」 イ 本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 [一致点] 「被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型の健康器具において、 前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と、 前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、 前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し、 前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向いている健康器具。」 [相違点1] 健康器具について、本件発明1は、マッサージ機であるのに対し、甲2発明は、 エアー式マッサージ、牽引両用の健康機器である点。 [相違点2] 空気袋について、本件発明1は、保持部の「内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」ているのに対し、甲2発明は、そのように設けられているか不明な点。 [相違点3] 一対の保持部について、本件発明1は、その「開口同士が互いに対向するように配設されている」のに対し、甲2発明は、そのように配設されているか不明な点。 ウ 相違点3に係る容易想到性等についての判断 (ア) 甲2発明は、断面がC字状となっているジャケットが取り付けられた十字状のアームを広げたり閉じたりできるものであるが、十字状の両アームが、具体的に、 どのような場合に、どのように広げたり閉じたりするのか、その目的やタイミングを含めて一切記載されておらず、また、前方に閉じるのか後方に閉じるのかさえも不明である。 したがって、甲2の「十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるようにした方が好ましい」という記載から、十字状の両アームを上部スリーブ柱に対して前方に回動させて閉じるもの、すなわち、その結果としてジャケットの開口同士が互いに対向するものと一義的に解釈できず、また、その状態で施療を行うものと一義的に解釈できるものではない。 甲2発明は、十字状の両アームを上部スリーブ柱に対して前方に回動させて閉じた状態で施療を行うものと解することはできず、十字状の両アームを上部スリーブ柱に対して前方に回動させて閉じる構成、すなわち、その結果としてジャケットの開口同士が互いに対向するものとはいえない。 (イ) さらに、甲2発明において、十字状の両アームを上部スリーブ柱に対して前方に回動させて閉じた状態で使用することの理由がなく、また、そのような閉じた状態で使用することにより、その機能が制限されるのであるから、甲2発明を十字状の両アームを上部スリーブ柱に対して前方に回動させて閉じる構成、すなわち、 その結果としてジャケットの開口同士が互いに対向する構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 (ウ) 椅子型のマッサージ機において、肘掛け部の上に腕部を保持する保持部を配設することは、甲3、5、16技術事項にみられるように、周知技術(以下、 「周知技術a」という。)であるといえる。 ところで、甲2発明の十字状のアームに取り付けられたジャケットに代えて、上記周知技術aを適用すると、使用者の前腕を肘掛け部上の保持部に配置することにより、使用者の脇が締まり、空気充填腋下摩擦器が腋窩に当接するための空間が大きく減少し、牽引が困難となる。そうすると、甲2発明に上記周知技術aを適用することには、阻害要因があるといえる。 したがって、本件発明1の上記相違点3に係る構成は、甲2発明と上記周知技術aとに基いて、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 (エ) 以上より、本件発明1の相違点3に係る構成は、甲2発明が実質的に備えているものではなく、甲2発明に基いて、又は、甲2発明と周知技術aとに基いて、 当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 (オ) 本件発明2ないし6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、少なくとも相違点3において、本件発明2ないし6と甲2発明とは相違する。 そして、本件発明1は、当業者であっても、甲2発明において、本件発明1の上記相違点3に係る構成とすることを容易に想到できるものではないから、本件発明2ないし6もまた、当業者であっても、甲2発明において、本件発明2ないし6の上記相違点3に係る構成とすることを容易に想到できるものではない。 (3) 無効理由2(甲3発明に基く進歩性欠如)について ア 甲3発明は次のとおりと認められる。 「座部と背凭れ部とを備える手用空気圧マッサージ機において、 両肘掛部の上面に夫々配設され、人体手部が載脱される一対の圧縮吸排気手段を有し、 該圧縮吸排気手段は、固定板と前記固定板の上部左右に一定間隔を存して対設され、圧縮空気吸排装置で膨縮する膨縮袋と、を有する手用空気圧マッサージ機。」 イ 本件発明1と甲3発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 [一致点] 「被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、 前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に保持する一対の保持部と、 前記保持部に設けられる膨張及び収縮可能な空気の袋と、を有するマッサージ機。」 [相違点4] 一対の保持部について、本件発明1は、 「被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部」であって、 「その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し」、 「各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」のに対し、甲3発明は、そのような構成ではない点。 [相違点5] 空気の袋について、本件発明1は、 「保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋」であって、保持部の「内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」ているのに対し、甲3発明は、そのような構成ではない点。 ウ 相違点4に係る容易想到性についての判断 (ア) 甲2発明にあるように、甲2技術事項(甲2に記載された技術的事項)は、 ジャケットの「開口同士が互いに対向するように配設されている」ものではない。 また、甲3発明の「圧縮吸排気手段」は、椅子の肘掛け部上に設けられ、使用者の前腕を保持し、当該前腕をマッサージするものであるのに対し、甲2技術事項の「ジャケット」は、十字状のアームに取り付けられ、使用者の前腕及び上腕を保持し、 当該前腕及び上腕をマッサージするものである。よって、両者は、その配置が異なり、その保持する対象も異なるものであるから、単純に置換できるものとはいえない。 甲2技術事項のジャケットを甲3発明の椅子の肘掛け部上に設け、さらにその前方を向いている開口を、腕部の挿入を容易とするために開口同士が互いに対向するように向けることは、そもそも甲2技術事項のジャケットを甲3発明の椅子の肘掛け部上に設けることの動機付けがなく、本件発明1を知っているからなし得ることであり、いわゆる後知恵といわざるを得ない。 (イ)甲17技術事項(甲17に記載された技術的事項)は、椅子型のマッサージ機ではあるものの、あくまでも軽擦マッサージ装置であり、被施療者の腕部を空気袋によりマッサージするものではない。また、甲17技術事項は、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部を備えるものではなく、保持部の開口同士が互いに対向するように配設されているものでもない。 そうすると、甲3発明に甲17技術事項を適用しても、本件発明1の上記相違点4に係る構成となり得ないことは明らかである。また、甲17技術事項を参酌しても、甲3発明に甲2技術事項を適用する動機付けは見いだせず、仮に、甲3発明に甲2技術事項を適用しても本件発明1の相違点4に係る構成とはなり得ない。 (ウ) 甲18〜21技術事項(これらの甲号証に記載された各技術的事項)は、それぞれの属する技術分野が互いに異なるばかりか本件発明1、甲3発明及び甲2技術事項の属する技術分野とも異なり、それぞれの技術的課題も作用効果も互いに異なるばかりか本件発明1、甲3発明及び甲2技術事項とも共通性を有しないものとなっている。 そうすると、甲3発明に甲18〜21技術事項を適用する動機付けがあったとはいえず、甲18〜21技術事項を参酌しても、甲3発明に甲2技術事項を適用する動機付けは見いだせない。 (エ) したがって、本件発明1の相違点4に係る構成は、甲3発明及び甲2技術事項に基いて、又は、甲3発明、甲2技術事項及び甲17〜21技術事項に基いて、 当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 (オ) 本件発明2ないし6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件発明1は、当業者であっても、甲3発明において、本件発明1の上記相違点4に係る構成とすることを容易に想到できるものではないから、本件発明2ないし6もまた、当業者であっても、甲3発明において、本件発明2ないし6の相違点4に係る構成とすることを容易に想到できるものではない。 (4) 無効理由3(甲5発明に基く進歩性欠如)について ア 甲5発明は次のとおりと認められる。 「座部と背凭れ部とを備える椅子本体及び手用空気圧マッサージ機において、 前記椅子本体の肘掛部の上面に配設され、手先から肘までの手部を出し入れ自在に収納し得るように袋状に形成された収納体と、 前記収納体の周腹部に内装され、圧縮空気給排装置に連通させた袋体と、を有する椅子本体及び手用空気圧マッサージ機。」 イ 本件発明1と甲5発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 [一致点] 「被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、 前記座部の少なくとも一側に配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する保持部と、 前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、 前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられるマッサージ機。」 [相違点6] 保持部について、本件発明1は、 「座部の両側に夫々配設され」 「一対の保持部」 たであるのに対し、甲5発明は、そのように構成されているか不明な点。 [相違点7] 保持部について、本件発明1は「その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し」「各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配 、 設されている」のに対し、甲5発明は、そのような構成ではない点。 ウ 相違点7に係る容易想到性についての判断 (ア) 前記のとおり、甲2技術事項は、ジャケットの「開口同士が互いに対向するように配設されている」ものではない。また、甲5発明の「収納体」は、椅子の肘掛け部上に設けられ、使用者の前腕を保持し、当該前腕をマッサージするものであるのに対し、甲2技術事項の「ジャケット」は、十字状のアームに取り付けられ、 使用者の前腕及び上腕を保持し、当該前腕及び上腕をマッサージするものである。 よって、両者は、その配置が異なり、その保持する対象も異なるものであるから、 容易に置換できるものとはいえない。 甲2技術事項のジャケットを甲5発明の椅子の肘掛け部上に設け、さらにその前方を向いている開口を、腕部の挿入を容易とするために開口同士が互いに対向するように向けることは、そもそも甲2技術事項のジャケットを甲5発明の椅子の肘掛け部上に設けることの動機付けがなく、本件発明1を知っているからなし得ることであり、いわゆる後知恵といわざるを得ない。 (イ) 甲17技術事項は、椅子型のマッサージ機ではあるものの、あくまでも軽擦マッサージ装置であり、被施療者の腕部を空気袋によりマッサージするものではない。また、甲17技術事項は、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部を備えるものではなく、保持部の開口同士が互いに対向するように配設されているものでもない。 そうすると、甲5発明に甲17技術事項を適用しても、本件発明1の相違点7に係る構成となり得ないことは明らかである。また、甲17技術事項を参酌しても、 甲5発明に甲2技術事項を適用する動機付けは見いだせず、仮に、甲5発明に甲2技術事項を適用しても本件発明1の相違点7に係る構成とはなり得ない。 (ウ) 甲18〜21技術事項は、それぞれの属する技術分野が互いに異なるばかりか本件発明1、甲5発明及び甲2技術事項の属する技術分野とも異なり、それぞれの技術的課題も作用効果も互いに異なるばかりか本件発明1、甲5発明及び甲2技術事項とも共通性を有しないものとなっている。 そうすると、甲5発明に甲18〜21技術事項を適用する動機付けがあったとはいえず、甲18〜21技術事項を参酌しても、甲5発明に甲2技術事項を適用する動機付けは見いだせない。 (エ) したがって、本件発明1の相違点7に係る構成は、甲5発明及び甲2技術事項に基いて、又は、甲5発明、甲2技術事項及び甲17〜21技術事項に基いて、 当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 (オ) 本件発明2ないし6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、当業者であっても、甲5発明において、本件発明1の上記相違点7に係る構成とすることを容易に想到できるものではないから、本件発明2ないし6もまた、 当業者であっても、甲5発明において、本件発明2ないし6の相違点7に係る構成とすることを容易に想到できるものではない。 (5) 無効理由4(甲16発明に基く進歩性欠如)について ア 甲16発明は次のとおりと認められる。 「使用者が着座可能な座部と、使用者の上半身が凭れる背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、 前記座部の両側にそれぞれ設けられ、使用者の腕を部分的に覆って保持する一対の腕保持部と、 前記腕保持部の内面に配置される膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、 前記腕保持部は、その幅方向に切断して見た断面において使用者の腕を挿入する開口が形成されており、その内面に互いに対向する部分を有し、 前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のそれぞれに配置され、 前記一対の腕保持部は、各々の前記開口が上を向くように配設されているマッサージ機。」 イ 本件発明1と甲16発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 [一致点] 「被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、 前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と、 前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、 前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し、 前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分に設けられているマッサージ機。」 [相違点8] 空気袋について、本件発明1においては、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられている(構成要件G)のに対して、甲16発明においては、前記内面の互いに対向する部分のそれぞれに設けられている点。 [相違点9] 一対の保持部について、本件発明1においては、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている(構成要件H)のに対して、 甲16発明においては、各々の開口が上を向くように配置されている点。 ウ 相違点9に係る容易想到性についての判断 (ア) 前記のとおり、甲2技術事項は、ジャケットの「開口同士が互いに対向するように配設されている」ものではない。また、甲16発明の「腕保持部」は、椅子の肘掛け部上に設けられ、使用者の前腕を保持し、当該前腕をマッサージするものであるのに対し、甲2技術事項の「ジャケット」は、十字状のアームに取り付けられ、使用者の前腕及び上腕を保持し、当該前腕及び上腕をマッサージするものである。よって、両者は、その配置が異なり、その保持する対象も異なるものであるから、容易に置換できるものとはいえない。 甲2技術事項のジャケットを甲16発明の椅子の肘掛け部上に設け、さらにその前方を向いている開口を、腕部の挿入を容易とするために開口同士が互いに対向するように向けることについて、そもそも甲2技術事項のジャケットを甲16発明の椅子の肘掛け部上に設けることの動機がない。 (イ) 甲17技術事項は、椅子型のマッサージ機ではあるものの、あくまでも軽擦マッサージ装置であり、被施療者の腕部を空気袋によりマッサージするものではない。また、甲17技術事項は、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部を備えるものではなく、保持部の開口同士が互いに対向するように配設されているものでもない。 そうすると、甲16発明に甲17技術事項を適用しても、本件発明1の相違点9に係る構成となり得ないことは明らかである。また、甲17技術事項を参酌しても、 甲16発明に甲2技術事項を適用する動機付けは見いだせず、仮に、甲16発明に甲2技術事項を適用しても本件発明1の相違点9に係る構成とはなり得ない。 (ウ) したがって、本件発明1の相違点9に係る構成は、甲16発明及び甲2技術事項に基いて、又は、甲16発明、甲2技術事項及び甲17技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 (エ) 本件発明2ないし6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件発明1は、当業者であっても、甲16発明において、本件発明1の上記相違点9に係る構成とすることを容易に想到できるものではないから、本件発明2ないし6もまた、当業者であっても、甲16発明において、本件発明2ないし6の上記相違点9に係る構成とすることを容易に想到できるものではない。 (6) 結論 以上の通り、原告の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件各発明に係る特許を無効とすることはできない。 |
|
原告が主張する審決取消事由
原告が主張する審決取消事由は次の四つである。 1 取消事由1(甲2発明に基づく新規性・進歩性欠如についての判断の誤り) 2 取消事由2(甲3発明に基づく進歩性欠如についての判断の誤り) 3 取消事由3(甲5発明に基づく進歩性欠如についての判断の誤り) 4 取消事由4(甲16発明に基づく進歩性欠如についての判断の誤り) |
|
当事者の主張
1 取消事由1(甲2発明に基づく新規性・進歩性欠如についての判断の誤り)について (原告の主張) (1) 本件審決が行った甲2発明の認定については特段の異論はなく、また、形式的な相違点として、相違点1〜3を認定すること自体には特段の異論はないが、これらの点は実質的には相違点とはいえず、また、仮に相違点として理解するとしても、容易想到である。 (2) 本件審決が、相違点3を本件発明1と甲2発明の実質的な相違点と認定したこと、及び、相違点3に係る構成の容易想到性を否定したことは、以下に述べるとおり、誤りである。 ア 甲2発明に開示された断面がC字状となっているジャケットについて、 ほぼ 「十字状(十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるようにしたほうが好ましい)の健康機器主体には四つのエアシリンダ(空気入れ)を配置する。(甲 」2翻訳文4頁6〜8行)と明記されていることについては、当事者間に争いがない。 イ 甲2は、同実用新案に係る健康機器の全体構造について、 「ほぼ十字状(十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるようにしたほうが好ましい) で 」あると説明しているところ、 「図1は、本実用考案の正面図であり、図2は、その側面図である。/図面に示すように、健康機器は、全体として、十字状の中軸を対称軸として左右対称に配置され、左右構造が同じである。(同5頁)などと記載され 」るとおり、甲2では、正面視(一部側面視)に基づく健康機器の説明がなされている。そうすると、ここに言う「閉じたり」は、正面視を前提として「閉じ(る)」こと、すなわち、前方に閉じること(前方に回動すること)、を意味している。 この点、中国語を母国語とし、日本語にも精通している中国の特許事務所の弁理士&法律職業資格 A氏も、 「CN2032873U(注:甲2)の「十字架的?臂最好做成能??合的」の記載は、健康機器の使用に関する記載であり、 「?合」の「合」「閉じ (たり」)は、別紙Aのように、前方に回動して閉じることを意味していることは明らかです。」と述べている(甲72)。 そうすると、甲2には、十字状の両アームを前方に閉じる(回動する)こと、の開示があり、相違点3の構成が記載されている。 ウ 本件審決は、甲2のアームが前方に閉じるのか後方に閉じるのか不明であるとしたが、前記のとおり、甲2は、正面視を前提として「閉じたり」と記載しているのであるから、「閉じたり」は、正面視を前提として「閉じ(る) 」こと、すなわち、前方に閉じること(前方に回動すること)、を意味することは明らかである。 また、本件審決は、甲2はアームを前方に回動させた状態で施療を行うものと一義的に解釈できないとしたが、甲2の (十字状の両アームを広げたり閉じたりする 「ことができるようにしたほうが好ましい) の記載は、 」 健康機器の使用に関する記載であり、アームを閉じた状態で使用することを積極的に許容する記載であることは明らかであって、これを、アームを前方に回動させた状態で施療を行うことを記載したものではないとする本件審決の認定は誤りである。 次に、本件審決は、甲2において、十字状の両アームを閉じた場合、 「エアー式マッサージ、牽引両用の健康器具」において、適切な牽引が受けられなくなってしまう可能性が高いなどと述べ、アームが前方に閉じることを否定したが、甲2の健康機器は、そのあらゆる使用態様において、個別の機能(「牽引」機能)をフルに発揮するものでなければならないと解している点において失当であり、通常は立って行う「牽引」機能を取り上げて、座って行う使用態様での甲2の健康機器の動作(アームが前方に閉じること)を否定するものであって不当である。 本件審決は、甲2において、十字状の両アームを閉じた場合、十分な「腋下のマッサージ」を受けられないなどとも指摘しているが、甲2の健康機器は、そのあらゆる使用態様において、個別の機能(「腋下のマッサージ」機能)をフルに発揮するものでなければならないと解している点で、甲2発明に関する基本的な理解を誤っており、また、甲2におけるエアバッグによるマッサージの主眼は、腕の押圧であるところ、腕の押圧は、アームを前方に回動した状態でも何ら支障なく効果的に提供できることは明らかである。本件審決の認定は「アームを閉じて腕を前にした状態でマッサージ機能を使用するかどうか」という、甲2における相違点3に係る開示の有無とは無関係な認定に終始しており、その誤りは明白である。 本件審決は、甲2には、十字状に手を広げにくい者のために十字状の両アームを広げたり閉じたりする新規健康機器を提供する、という課題は記載も示唆もされていないと認定したが、原告は、甲2の健康機器が「十字状に手を広げにくい者」用の健康機器であるとは主張していない。この点を措くとしても、不自由者や障碍者は言うに及ばず、老弱者(高齢者)にとっても、両腕を十字状に広げる姿勢を取れない者あるいは取りにくい場合があり得ることは自明であり、そのような場合に、 最適なアーム角度に設定することにより、リラックスした状態で使用できることは明らかである。 次に、本件審決は、甲2発明においてアームを広げたり閉じたりすることの意味は、例えば収納性の向上等も十分想定されると認定したが、甲2において、(十字 「状の両アームを広げたり閉じたりすることができるようにしたほうが好ましい) の 」記載は、強度や使用方法などの点で、高齢者、肢体不自由者、障碍者、弱者のニーズに適応することを目的とする甲2の健康機器の全体構造ないしは「本実用新案」の「設計」として、述べたものであること、また、同記載に引き続いて、健康機器の使用に関する構造・機能が説明されていること等に照らせば、上記記載が、収納性の向上についての記載であるなどと解釈するのは不自然である。 エ 本件審決は、甲2発明において、十字状の両アームを上部スリーブ柱に対して前方に回動させて閉じた状態で使用することの理由がなく、また、そのような閉じた状態で使用することにより、その機能が制限されるのであるから、甲2発明を十字状の両アームを上部スリーブ柱に対して前方に回動させて閉じる構成、すなわち、その結果としてジャケットの開口同士が互いに対向する構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえないと認定した。しかしながら、甲2の健康機器は、アームを前方に閉じることのできる客観的構造となっているところ、アームを前方に閉じた状態での使用を否定・制限すべき事情は一切存在せず、可動性が高くそれぞれの利用者が使いやすいような使い方ができるよう自由度を高めるのは当業者として通常の創作にすぎないから、本件審決の上記認定は誤りである。 次に、本件審決は、甲2発明に甲3、5、16技術事項から認定した周知技術a(椅子型のマッサージ機において、肘掛け部の上に腕部を保持する保持部を配設すること)を適用することには阻害要因があるなどとして、相違点3に係る容易想到性を否定したが、原告の主張する周知技術は、本件審決の認定した周知技術aではなく、 「空気圧マッサージ機の分野において、腕用の空気圧マッサージ装置の軸が施療者の前後方向を向くように配置すること」であり、施療者が腕を前方に向けて施療を受けられるようにすることであるから、本件審決は、原告の主張する周知技術についての判断をしていない。そして、甲2発明のジャケットの向きに、原告の主張する周知技術を適用すると、施療者が腕を前方に向けて施療を受けられるようにした場合には、自ずと「前記開口同士が互いに対向するように配設されている」ことになる。 (3) 以上のとおり、本件審決は、相違点3に係る認定(相違点の認定、及び、容易想到性の判断)を誤っており、この誤りが結論に影響を与えることは明らかであるから、本件審決は取り消されるべきである。 (4) 被告の主張は、本件各発明の特許請求の範囲の記載に基づかないものであって失当である。甲2の健康機器がマッサージ機能と牽引機能の両方の機能を個別に実現できる装置である以上、甲2発明は「マッサージ機」であり 、また、椅子が付いているから、本件発明1の「椅子型のマッサージ機」に当たる。 被告の主張は、甲2の「両アームを広げたり閉じたりする」について、 「伸縮」の意味に解釈できるものであるが、日本語の問題としてそのような解釈はできないし、 中国語では「伸縮」を「伸?」と表記するから、被告の主張には理由がない。 被告は甲2発明について、両アームを揺動して閉じた状態で使用すると、 (被 下記告の主張)(3)のような多くの問題があると主張するが、いずれの問題点も、使用者の肩幅に合わせていくつかのサイズを用意したり、ジャケットを前にスライドしたり、斜めの角度に開いて使用したり、設計変更することなどで解消可能である。 (被告の主張) (1) 甲2発明は、エアー式マッサージが行え、かつ、牽引が行える健康機器であることを前提にした発明であり、本件発明1の椅子型のマッサージ機に相当しない。 甲2発明は、使用者の腋窩を持って使用者を上げる牽引のための健康機器に腕、肩甲骨、脇をマッサージする機構を備えた構造を有しており、構造上は、牽引の機能が主で、マッサージの機能が従である。椅子型マッサージ機は座位で使用するものであるのに対し(甲38、39等) 甲2発明は立位と座位で使用可能である。 、 また、 甲2発明では、ジャケット18には上腕と前腕とを左右方向に水平に伸ばした状態で挿入するが、このとき肘は曲がらず、上腕と前腕とは一直線状になる。これに対し、本件発明1では着座し、上腕は体に沿って下に向けられ、前腕は肘を曲げて前方に伸びる姿勢となる。すなわち、本件発明1と甲2発明とでは、腕を保持部に挿入したときの腕を伸ばす方向、及び、腕の曲げ方が全く異なっている。 本件発明1と甲2発明とは、発明(技術分野)、主な機能、使用体位、保持部に載置したときの腕の状態、課題、及び、効果が全く異なっている。 (2) 原告は、甲2の4頁7行〜8行の「十字架的?臂最好做成能??合的」を、 「十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるようにした方が好ましい」(翻訳文4頁6行〜7行)と訳し、 「甲2の『十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるようにした方が好ましい』の『閉じたり』は、前向きに回動して閉じることを意味する」と主張する。 中国語の「?合」は、「広げたり閉じたりする」と訳され、「二つのものを互いに遠ざけたり近づけたりする」という意味合いがあるということであるが(甲30)、 これを甲2についてみると、甲2原文4頁7行〜8行の「十字架的?臂最好做成能??合的」は、ジャケット18a-18dが左右方向に一直線状に延び、ジャケット18a-18dの開口が被施療者の前を向く「広げた状態」(甲2の図1の状態)とジャケット18a-18dの開口が横を向き且つ開口同士が互いに対向する「閉じた状態」に切り替えることができる構造を言っているのではなく、ジャケット18a-18dが左右方向に一直線状に延び、ジャケット18a-18dの開口が被施療者の前を向いた状態のまま、ジャケット18a-18dを上部スリーブ柱40に対して遠ざけたり近づけたりすることができる構造を言っている、と解釈できる。 この場合、 「二つのものを互いに遠ざけたり近づけたりする」の「二つ」とは、右のジャケットと左のジャケットを意味し、したがって、右のジャケット18bと左のジャケット18dとが互いに遠ざかり、また、近づき、右のジャケット18aと左のジャケット18cとが互いに遠ざかり、また、近づくことを意味する(下図参照)。 ジャケット18a、18bと18c、18dとが互いに近づいた「合」の状態 ジャケット18a、18bと18c、18dとが互いに遠ざかった「?」の状態 また、アームが閉じた状態では、両アームはもはや十字状ではないのに対し、上記のように理解すると、両アームが十字状を維持したまま両アームを遠ざけたり近づけたりすることになるので、甲2の実施形態として開示された構造に基づく文言の解釈としても合理的である。 さらに、中国語の「?」には、 「広げる」以外に「伸ばす」という意味があり(甲47、甲48)「伸ばす」と訳するのが適した場合もある。中国語の「合」には、 、 「閉じる」以外に「多くのものを一つに集める」という意味があり(甲49) 「多 、 くのものを一つに集める」と訳するのが適した場合もある。 甲2に、 「十字状の両アームを閉じることができるようにした方が好ましい」とは記載されておらず、 十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるように 「した方が好ましい」と記載されている。 甲2発明は、使用者の腋窩を持って使用者を上げる牽引のための健康機器に腕、 肩甲骨、脇をマッサージする機構を備えた「エアー式マッサージ、牽引両用の健康機器」である。このような甲2発明において、様々な体格を持ち、腕の長さの異なる被施療者に対して適切に施療するためには、ジャケット18a-18dの上部スリーブ柱40に対する長さを変えられるようにする方が好ましい。むしろ、ジャケット18a-18dを甲2の図1の状態から前方にむけて回動させ、ジャケット18a-18dの開口が横を向き且つ開口同士が互いに対向する状態で使用することの方が不自然であり、そのようにする目的も甲2には記載されていない。 したがって、甲2の4頁7行〜8行「十字架的?臂最好做成能??合的」は、その文言の意味に照らしても、甲2に具体的に記載されている実施形態の構造との整合性に鑑みても、ジャケット18a-18dが左右方向に一直線状に延び、ジャケット18a-18dの開口が被施療者の前を向いた状態のまま、右のジャケット18bと左のジャケット18dとが互いに遠ざかり、また、近づき、右のジャケット18aと左のジャケット18cとが互いに遠ざかり、また、近づくことを記載しているとする解釈が合理的である。 (3) 甲2発明の両アームを揺動して閉じた状態で使用すると、以下のような多くの問題があるから、甲2に「ほぼ十字状(十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるようにした方が好ましい)」と記載されていても、それが、十字状の両アームが閉じた状態を、アームを前に向けてジャケット18の開口同士を互いに対向させる方向であって、かつ、その状態が、エアー式マッサージ、牽引両用の健康機器の使用状態であることを前提としているとは到底言えない。 ア 甲2発明は、ジャケット18a-18dの開口が横を向き且つ開口同士が互いに対向する、原告の言う「閉じた状態」では、肩幅の広い人と狭い人の個体差を吸収することができない。 イ 使用者がジャケットに腕を嵌め込む前の高さ合わせにおいて、腕等の身体の一部とジャケット、クロス杆との干渉という不都合が生じる。また、ジャケットから腕を抜き出すのが困難である。 ウ 下側の支持用クロス杆2a、2bが存在するため、腕を肩から下に垂らした状態の姿勢(いわゆる「気を付け」の姿勢)をとることができない。 エ 閉じた状態で被施療者の腋窩を腋下摩擦器38、57で保持した状態で被施療者を牽引して脊椎を引っ張った場合には、腋窩で上方に向けて押し上げ力が作用する領域が、脊椎の左右方向よりも前方寄りに位置してしかも「ハの字」形になるため、腋下摩擦器38、57では被施療者の脊椎を鉛直方向に引っ張ることができない。 (4)ア 原告は、甲2発明は牽引を立って行う使用態様であると主張するが、甲2には、 「健康機器を立ってまたは座って使用できるように、底板は伸縮可能にされている(甲2翻訳文5頁6行)」と記載されており、甲2発明は、座った状態でも腋窩の「牽引」や頸椎の「牽引」を行うことが可能な構成を備えている。 イ 原告は、甲2発明において、アームの角度を設定してリラックスした状態で使用でき、甲2がそのような使用態様を許容していないはずはないなどと主張するが、前記(3)のとおり、そのような使用態様は考慮されていない。甲2発明においてアームを前に向けてジャケット18の開口同士を互いに対向させたときには、腕を肩の高さまで上げて上腕と前腕とを前方に伸ばした姿勢(所謂「前へ倣え」の姿勢)になるので、リラックスできる構造を有しているとは到底言えない。 ウ 本件審決が、甲3、甲5、甲16から認められる周知技術として「椅子型のマッサージ機において、肘掛け部の上に腕部を保持する保持部を配設すること」を「周知技術a」として認定し、これらの証拠から原告が主張する「空気圧マッサージ機の分野において、腕用の空気圧マッサージ装置の軸が施療者の前後方向を向くように配置すること」というような技術的事項を周知技術として認めなかったのは、 「空気圧マッサージ機の分野において、腕用の空気圧マッサージ装置の軸が施療者の前後方向を向くように配置すること」では、恣意的に抽象化した言葉の当てはめとなってしまうからである。甲3、甲5、甲16の椅子型のマッサージ機と、甲2発明とでは、使用者の姿勢が異なるのに、その前提の違いを無視して、 「空気圧マッサージ機の分野において、腕用の空気圧マッサージ装置の軸が施療者の前後方向を向くように配置すること」が周知技術として認められるという原告の主張は誤っており、本件審決の判断に誤りはない。 (5) 以上のように、取消事由1に関し、本件審決の判断は正しく、誤りはない。 2 取消事由2(甲3発明に基づく進歩性欠如についての判断の誤り)について (原告の主張) (1) 本件審決が認定した相違点4及び5が存在すること自体は認める。また、相違点4及び5のうちの「前記開口同士が互いに対向するように配設されている」以外の点は、甲3発明に甲2のジャケットを適用することで容易想到であることは明らかであるから、容易想到性の判断において実質的に問題となるのは、甲3発明の「圧縮吸排気手段」を、 「開口同士が互いに対向するように配設」された甲2の「ジャケット」に代えることが容易か否かである。 (2)ア 本件審決は、甲2のジャケットは、「開口同士が互いに対向するように配設されている」ものではないとしたが、前記1(原告の主張)のとおり、この審決の認定は誤りである。 イ 仮に、相違点4における「前記開口同士が互いに対向するように配設されている」点が甲2に明示的に記載されていないとしても、この点は容易想到である。 相違点4は、座部の両側に配設される一対の「保持部」の形態の違いであるところ、甲3発明では、施療中の使用者の腕は前向きに向けられているのであるから、 甲3発明の「圧縮吸排気手段」を甲2の「ジャケット」に代える場合、施療中の使用者の腕の向きに変更を来さないように置換するのが当業者の通常の思考である。 また、本件審決は、甲3発明の「圧縮吸排気手段」が前腕をマッサージするものであるのに対し、甲2技術事項の「ジャケット」が前腕及び上腕をマッサージするものであることを置換困難な理由として挙げているが、甲2技術事項の前腕用のジャケット18b及び18dを適用すれば良いだけであるから、本件審決のこの点の認定も失当である。 本件審決は、甲3発明の「圧縮吸排気手段」に代えて甲2技術事項の「ジャケット」を採用する動機付けがないとして、例えば、甲2技術事項のジャケットの開口が前方に設けられていることにより、使用者はジャケットに腕部を挿入しやすい、 という効果が得られたとしても、あくまでもジャケットが十字状のアームに取り付けられている場合の効果であり、当該ジャケットを甲3発明の椅子の肘掛け部上に設けても、開口が前方を向いていることから、かえってジャケットに腕部を挿入しにくくなり、腕部を挿入しやすくするという動機付けも成立しないなどとしたが、 甲2のジャケットを甲3発明の椅子の肘掛け部上に取り付ける場合には、甲3発明における施療中の使用者の腕の向きに変更を来さないように、使用者の腕が前方に向くように設置するのが当業者の通常の思考であるのであって、本件審決の認定は、 ほとんど意味不明な認定であると言わざるを得ない(肘掛け部の上で、両腕を十字架上に開く向きに施療装置を設置するはずがない。。 ) ウ さらに審決は、甲17〜21技術事項について縷々述べ、甲3の「圧縮吸排気手段」を甲17〜21に記載された装置に置換することが容易かという点について検討しているが、原告は、そのようなことは主張していない。原告は、椅子の腕部を乗せるところにマッサージ機を乗せる構成が公知であり(甲17)、また、着座ないしは仰臥した使用者が(着座ないしは仰臥の動作を終了した後に)腕を保持部に挿入する動作を行う場合には、腕を横方向に移動させる方が使用者にとって便宜であり、腕を保持する開口同士が互いに対向するように配置されていることが周知である(甲18〜21)から、甲2に接した当業者は、甲2に記載された横方向の開口のメリットを理解できると主張している。 (3) 以上のとおり、本件発明1と甲3発明との相違点4及び5のうちの「前記開口同士が互いに対向するように配設されている」以外の点は、甲3発明に甲2のジャケットを適用することで容易想到であることは明らかであり、また、甲3発明の「圧縮吸排気手段」に代えて甲2技術事項の「ジャケット」を「開口同士が互いに対向するように配設」するように適用することについても容易であるから、この点に関する本件審決の認定は誤りである。そして、本件審決はこのような誤りの結果、 甲3発明に基づく進歩性欠如の主張を否定するという誤った結論に至っているから、 本件審決は取り消されるべきである。 (被告の主張) (1) 甲2発明において、両アームが十字状となるようにジャケット18a-18dが配設されており、開口が前方を向いているのは、甲2発明が牽引機能を発揮することを前提とした健康機器だからである。甲2発明と甲3発明の使い方の違いを無視して、ジャケットの開口が水平に向いていることだけをそのまま維持する恣意的な技術的要素の切り出し、それを、「適用すれば良いだけ」という原告の主張は、 技術の意義に基づく構成のまとまりを無視した典型的な後付けの論理であり、失当である。 (2) 原告は、着座ないしは仰臥した使用者が(着座ないしは仰臥の動作を終了した後に)腕を保持部に挿入する動作を行う場合には、腕を横方向に移動させる方が使用者にとって便宜であり、腕を保持する開口同士が互いに対向するように配置されていることが周知である(甲18〜21)などと主張するが、甲18は「日焼け用椅子」、甲19は「電熱式バスキャビネット」、甲20は「骨粗鬆症等を治療するPEMF(パルス電磁場)刺激装置」、甲21は「多目的病人用ベッド」に関する発明であり、何れも椅子型のマッサージ機に関する発明ではなく、技術分野が異なっている。 (3) 以上のように、取消事由2に関しては、原告の主張は全て失当であり、本件審決の判断は正しく、誤りはない。 3 取消事由3(甲5発明に基づく進歩性欠如についての判断の誤り)について (原告の主張) (1) 本件審決が認定した一致点・相違点について、形式的にそのような一致点・相違点を認定すること自体には異論はない。もっとも、審理事項通知書(甲60)4頁において相違点6が相違点として認定されていないことからも明らかなとおり、 この点が相違点とされているのは、甲5において収納体が一つしか図示されていないという形式的な理由に基づくものであると推測され、例えば甲16のように、手に対するマッサージ器が対の構造になっていることは自明な事項であり、少なくとも、明らかな設計的事項であるから、相違点6は実質的な相違点ではないか、少なくとも、容易想到である。そうすると、実質的な相違点は相違点7である。 (2) 相違点7は、甲3発明との相違点4「前記開口同士が互いに対向するように配設されている」点と同様であって、この点に係る本件審決の判断が誤っていることについては、前記3(原告の主張)のとおりである。 (3) 以上のとおり、本件審決による相違点7の判断は誤っており、その結果、本件審決は本件発明の容易想到性を否定するという誤りを犯しているから、取り消されるべきである。 (被告の主張) (1) 甲2発明におけるアームの動きについては前記1(被告の主張)で主張したとおりであり、本件審決の判断に誤りはない。 (2) 甲2発明の開口の向きの意義は、椅子型マッサージ機における腕の保持部の開口の向きの意義とは異なるのであるから、甲5発明の「収納体」に代えて甲2技術事項の「ジャケット」を採用する動機付けもない」と判断した本件審決は正しく、 原告の主張は失当である。 4 取消事由4(甲16発明に基づく進歩性欠如についての判断の誤り)について (原告の主張) (1) 本件における甲16は前訴判決(甲22)において主引例とされていた甲9であり、本件審決が認定する相違点8および9は前訴判決における相違点1及び2の認定と同じである。原告はこの認定を認める。相違点8が実質的な相違点でないことも認める。 (2)ア 本件審決は、甲2のジャケットは、「開口同士が互いに対向するように配設されている」ものではないとしたが、前記1(原告の主張)のとおり、この審決の認定は誤りである。したがって、甲16に甲2を組み合わせることにより、相違点9の構成は容易に想到できたことである。また、このような甲2技術事項が加わることによって、甲16発明の椅子式マッサージ機の腕保持部の構造を変更しようする動機付けが存在することになる。 イ 仮に、甲2に「開口同士が互いに対向するよう配置されている」が開示されていないとしても、容易想到である。 前訴判決は、 「本件発明1のマッサージ機は、一対の保持部について、開口を横向きとし、互いに対向するように配設したものであるから、腕部を横方向に移動させることで、保持部内に腕部を挿入し、引き出すことが可能であり、保持部内に腕部を位置させた状態で内側に曲げることができ、肘掛け部の上面に一対の保持壁を備える引用発明とは異なり、保持壁に拘束されずに、腕部(肘など)を載せることができる、といった作用効果を奏すると認められる。」としており、この効果をもたらす構成は「開口を横向き」にすることであって、 「互いに対向するように配設」しているかどうか、あるいは本件審決が認定する「椅子型のマッサージ機」であるか否かとは関係がない。そして、本件審決が認定するとおり、甲2のジャケットは横向き開口であるから、甲2に接した当業者はその利点を理解できる。 ウ 以上のとおり、当業者は、横方向の開口のメリットを理解できるのであるから、甲16発明の腕保持部を、甲2に記載された横向き開口のものとすることは当業者にとって容易に想到できたことである。 前記イのとおり、前訴判決は、本件明細書に開示のない「横向開口」に基づいて本件各発明の進歩性を肯定したのであるから、甲2によってこの点がマッサージ機において公知であることが示された以上、本件各発明の進歩性は否定されなければならない。 (被告の主張) 甲16発明においては、肘掛け部22がU字状の凹部25を有して上方を開口させることにより、使用者の膝裏が(椅子型の)マッサージ機10の座部21の直ぐ前に位置するように立った状態から、座面に座る動作と同時に前腕をU字状の凹部25の底に位置するように肘掛け部22に載置することができる。 甲2発明は、脊椎を牽引する健康機器であるため、使用者がジャケット18の高さ合わせをした後に、ジャケット18に腕を嵌め込むのに適した構造となっていて、 ジャケットから腕を抜けばリラックスできる姿勢がとれる、という構造ではない。 したがって、当業者が甲16と甲2とに接したとしても、甲16発明の腕の保持部の開口が上を向いた構造に対して、その開口の方向を横向きに変更するような示唆が甲2に記載されているとは言えない。 |
|
当裁判所の判断
1 本件各発明について (1) 本件明細書(甲1)には次の記載がある。 【技術分野】 【0001】 本発明は、被施療者の身体を施療するマッサージ機に関する。 【背景技術】 【0002】 昨今、椅子型のマッサージ機が広く普及している。図15は、この種のマッサージ機の構成の一例を示す斜視図である。図15に示すように、椅子型のマッサージ機101は、座部102と、背凭れ部103とから主として構成されている。座部102の両側方には、肘掛け部104が設けられている。また、背凭れ部103の内部には、図示しないマッサージ機構が設けられている。被施療者は、座部102に着座し、肘掛け部104を腕置きとして用いて、マッサージ機101を使用する。 また、背凭れ部103の下端部は、座部102の後部で回動自在に枢支されており、 背凭れ部103をリクライニングさせることができるようになっている。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 しかしながら、上述した如き従来のマッサージ機にあっては、肘掛け部104に例えばバイブレータ等の施療装置が設けられていないことが多く、被施療者の腕部を施療することができないという問題があった。 【0007】 本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明に係るマッサージ機は、被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と、前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し、前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ、前記一対の保持部は、 各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されていることを特徴とする。 【発明の効果】 【0028】 以上詳述した如く、本発明に係るマッサージ機によれば、空気袋によって被施療者の腕部を施療することが可能となる。 【発明を実施するための形態】 【0031】 以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。 【0032】(実施の形態1) 図1は、本発明の実施の形態1に係るマッサージ機の構成を示す斜視図である。 図1に示す如く、本実施の形態1に係るマッサージ機1は、座部5、背凭れ部6、 及びフットレスト7から主として構成されている。座部5は、水平配置された棒状の脚部5aをその下部両側に夫々有する基台5bの上部に、クッション部5cが配されて構成されている。クッション部5cは、ウレタンフォーム、スポンジ、又は発泡スチロール製の内装材(図示せず)が基台5bの上面に載置されており、更にこれをポリエステル製の起毛トリコット、合成皮革、又は天然皮革等からなる外装材にて覆って構成されている。 【0036】 また、座部5の両側方には、略前後方向へ延びたガイドレール9が設けられている。このガイドレール9には、夫々被施療者の腕部を保持するための保持部10が係合している。 【0037】 保持部10の構成を更に詳しく説明する。図2は、保持部10の構成を示す斜視図である。図2に示すように、保持部10は、被施療者の上腕を保持するための第1保持部分11と、被施療者の前腕を保持するための第2保持部分12とから主として構成されている。第1保持部分11は、断面視において略C字状の略半円筒形状をなしており、その一端部が背凭れ部6のガイドレール9より上方の箇所に取り付けられている。 【0038】 第1保持部分11の開口部(長手方向へ延びた欠落部分)は、一般的な体格の成人の上腕の太さよりも若干大きい幅とされており、第2保持部分12の開口部は、 一般的な体格の成人の前腕の太さよりも若干大きい幅とされている。従って、施療者の上腕及び前腕を第1保持部分11及び第2保持部分12へ夫々の開口部から挿入することが可能である。 【0039】 図3は、第1保持部分11の背凭れ部6に対する取り付け構造を示す拡大斜視図である。第1保持部分11の一端部には、回転金具13aがその中央部分で枢着されている。この回転金具13aは、略角板状の部材の両端を、夫々略クランク形状に屈曲させた如き形状をなしている。即ち、回転金具13aの両端部は、夫々一方向へ突出した段部とされている。この段部の突出側の夫々には、ローラ13bが各別に枢着されている。 【0040】 従って、回転金具13aは、第1保持部分11に対する取付軸を中心に回動することが可能であり、また、夫々のローラ13bも回転金具13aに対して回転することが可能である。 【0041】 図4は、背凭れ部6に対する第1保持部分11の取付構造を示す断面図である。 図4に示すように、ローラ13bは背凭れ部6の側部に取り付けられたガイドレール14に係合している。このガイドレール14は、背凭れ部6の側部の長手方向に沿って設けられており、ローラ13bがガイドレール14内で転動することが可能である。よって、第1保持部分11は、ガイドレール14に沿って移動することが可能であるとともに、回転金具13aの取付軸を中心として回動することも可能である。 【0042】 図5は、第1保持部分11を幅方向へ切断したときの断面図である。図5に示すように、図5に示すように、第1保持部分11は、比較的硬度が高い材料からなり、 略C字状の断面形状を有する略半円筒形状の外殻部11aを備えている。この外殻部11aの内面の略全体には、空気袋11bが設けられている。また、この空気袋11bの表面には、図2で示すような、複数の空気袋11cが設けられている。かかる空気袋11b、11cは、夫々ポンプ、電磁弁等からなる、座部5又は背凭れ部6に設けられた給排気装置(図示せず)にエアホース(図示せず)によって接続されており、給排気装置の動作によって膨張・収縮することが可能となっている。 また、空気袋11bと空気袋11cとは夫々独立に膨張・収縮するように構成されている。このような構成により、空気袋11cが膨張・収縮することによって、被施療者の上腕部に圧迫刺激を与えたり、それを解放することができ、空気袋11bが膨張・収縮することによって、空気袋11cによる刺激の強さを調節することができる。 【0043】 一方、第2保持部分12は、その下部から係合部12aが下方へ突出している(図1参照)。そして、この係合部12aは、ガイドレール9に係合している。これにより、第2保持部分12は、ガイドレール9に沿って略前後方向へ移動することが可能となっている。 【0044】 また、第2保持部分12の内面であって、被施療者の手首又は掌に相当する部分には、振動装置15が設けられている。この振動装置が振動することにより、被施療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっている。なお、第2保持部分12のその他の構成は、第1保持部分の構成と略同様であるので、その説明を省略する。 【0045】 このような第1保持部分11と第2保持部分12とは、略横方向の枢軸によって枢着されている。これによって、保持部10は、この部分で屈曲することが可能となっている。 【0046】 次に、本発明の実施の形態1に係るマッサージ機の動作について説明する。被施療者は、座部5に着座し、背凭れ部6に上体を凭れかけた状態で、上腕部を第1保持部分11に、前腕部を第2保持部分12に夫々挿入する。背凭れ部6が後方へ傾倒されたとき、第1保持部分11は、背凭れ部6とともに後方へ移動する。背凭れ部6の被施療者の肩に当接する位置(以下、肩位置という)は、背凭れ部6の傾倒前後において異なることとなる。即ち、背凭れ部6の傾倒前における肩位置よりも、 傾倒後における肩位置の方が、背凭れ部6の下側となる。このとき、第1保持部分11は、このような肩位置の変化に合わせて、ガイドレール14に沿って背凭れ部6の長手方向へ移動する。 【0047】 また、第1保持部分11が後方へ移動するため、これに引っ張られて第2保持部分12がガイドレール9に沿って略後方へ移動する。第1保持部分11の背凭れ部6との連結箇所は、背凭れ部6の傾倒とともに後方へ移動しつつ下方へ移動することとなる一方、第1保持部分11の第2保持部分12との連結箇所は、略後方へ移動するのみであり、このため第1保持部分11は、背凭れ部6の傾倒に伴って、略後方へ移動しながら略後方へ傾倒することとなる。これに対して、第2保持部分12は、ガイドレール9に沿って略後方へ移動するのみであるため、その傾倒角度は殆ど変化しない。よって、第1保持部分11と第2保持部分12とがなす角度は、 背凭れ部6の傾倒に伴って変化することとなる。また、第1保持部分11と第2保持部分12との連結箇所は、被施療者の肘位置に相当するため、被施療者は、保持部10の屈曲角度の変化に合わせて、肘の屈曲角度を自然に変化させることができる。これによって、背凭れ部6の傾倒後においても、被施療者は自然な姿勢を保つことができる。 【0048】 また、前述した給排気装置の動作によって、第1保持部分11に設けられた空気袋11b、11c及び第2保持部分12に設けられた空気袋が膨張・収縮する。これにより、被施療者の腕部を略全体に亘って施療することができる。 【0100】 図13は、本発明(図13(a)(c) 、 )及び参考例(図13(b)(d)(e) 、 、 )に係るマッサージ機の保持部の形状を説明する模式的断面図である。以上で説明した実施の形態1〜7においては、被施療者の腕部を保持する保持部を、図13(a)で示すような、幅方向に切断したときの断面視において略C字状の半円筒形状をなしているものとしたが、これに限定されるものではなく、図13(b)〜(e)に夫々示すような形状としてもよい。 【0101】 図13(b)は、保持部の形状を、幅方向の断面視において略L字状とした場合について説明する断面図である。図13(c)は、保持部の形状を、幅方向の断面視において所定角度だけ傾斜させた略チャネル状とした場合について説明する断面図である。図13(d)は、保持部の形状が幅方向の断面視において略L字状となっており、しかも保持部がその角部において屈曲されることが可能な構成について説明する断面図である。また、図13(e)は、保持部の形状を、幅方向の断面視において上方が開口する略チャネル状とした場合について説明する断面図である。 【0102】 また、図13(a)〜(e)で示すように、夫々の保持部をガイドレール等によって左右方向へ移動することが可能に構成してもよい。 【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 【図5】 【図13】 【図15】 (2) 本件各発明の概要 前記(1)の記載によると、本件各発明は、被施療者の身体を施療するマッサージ機に関するものであり(本件明細書の段落【0001】)、従来のマッサージ機において、肘掛け部に施療装置が設けられておらず、被施療者の腕部を施療することができないという問題があったことに鑑み(同【0003】)、被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供することを目的とするものである(同【0007】)。そして、本発明に係るマッサージ機は、被施療者が着座可能な座部と、 被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、 前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と、前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、 前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し、前記空気袋は、 前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ、前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されていることを特徴とするものであって(同【0010】)、本発明に係るマッサージ機によれば、空気袋によって被施療者の腕部を施療することが可能となるという効果を有するものである(同【0028】)。 2 甲2、甲3、甲5及び甲16発明について (1) 甲2発明について ア 甲2には次の記載がある(頁数は甲2の翻訳文中の頁数である。。 ) 「【考案の名称】エアー式マッサージ、牽引両用の健康機器 【要約】 本件実用考案は、消極的な肢体を機械工学の方法によってマッサージし、鍛えるエアー式マッサージ、牽引両用の健康機器に関する。主な特徴として、二組の手動式及び足踏み式のエアシリンダによりマッサージ器具及び牽引器具を駆動して、肩、 腕、脇下、腰、背、手の平、足裏をマッサージして使用者の頸椎、背椎を牽引する。 また、この健康機器に配置された大量の磁性ゴム小突起は、体腔や複数個所のツボを摩擦し、掻き、揉み、刺激することにより、筋脈が疎通し、血行が流暢になり、 病気を予防し、身体を鍛錬することができる。特に老弱、不自由、障碍者等に好適に使用される。(1頁) 」 「【考案の詳細な説明】 ・・・ 早期の技術では、物理療法の手段として、多種のマッサージ機器、牽引機器が消極的な肢体や体腔の特定部位のマッサージや牽引に用いられることは広く知られている。しかしながら、いままで、使用者が自ら空気を充填して空気圧の大きさを自由に調整でき、空気圧によりマッサージ器具及び牽引器具を駆動して身体を摩擦、 押圧、牽引することができるとともに、磁気治療作用を有するマッサージ、牽引両用の健康機器が見られていない。 本実用考案は、マッサージと牽引の二つの機能を健康機器に導入して、老弱、不自由、障碍者等に好適に使用できる新規健康機器を提供することを目的としている。 この機器は、使用者が自ら空気を充填し、マッサージ器具及び牽引器具を空気圧で駆動し、ガスによる圧力調整が十分に緩やかで、簡単かつ気軽に操作できる特徴を利用して、使用者が必要なマッサージ、牽引の力を「楽に」得ることができるとともに、マッサージ及び牽引の動作強度を十分に優しくすることができる。また、本考案は、このマッサージ器具及び牽引器具に新規な設計を与え、使用者がこの健康器具を使用する際に、消極的な肢体に多くの良性反応を生じさせることができるようにする。 本実用考案は、次のように設計される。ほぼ十字状(十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるようにした方が好ましい)の健康機器主体には四つのエアシリンダ(空気入れ)を配置する。そのうち、二つが手動式で、他の二つが足踏み式である。2つの手動式エアシリンダは、手で押すことで空気を充填するように、卵形(血圧計に用いられるバルーンのような)形状にされる。足踏み式エアシリンダは、足で踏んで空気を充填するように、ステップが設置されている。左右の手動式エアシリンダからの空気は、それぞれ両アームに対応する腕、肩、脇エアバッグに注入される。エアバッグの外面及び卵形の手動式エアシリンダの外面は、ともに多数の小突起が形成された粗面にされている。小突起内には、磁石粒が内蔵している。腕と腕エアバッグとは、断面がほぼC字状の管状ジャケット内に並列して置かれる。エアバッグは、空気を充填されてから膨張して腕を押圧する。空気充填中において、腕が回動、伸縮することができる。このように、腕が小突起によって掻かれ、揉まれ、刺激される。(3〜4頁) 」 「支柱には、上げるまたは倒すことが可能なシートが取付けられ、健康機器を着座して使用する場合、シートを上げればよい。 ・・ 図1は、本実用考案の正面図であり、図2は、その側面図である。 図面に示すように、健康機器は、全体として、十字状の中軸を対称軸として左右対称に配置され、左右構造が同じである。(5頁) 」 「空気充填式肩甲摩擦器(17a、b)と、空気充填式腋下摩擦器(38、57)と、空気充填式腕摩擦器(37a、b、c、d)は、連通されているため、手動式エアシリンダ(19a、b)からの空気が、空気充填管(36a、b)を介して充填されると、臀、肩、腋下摩擦器を同時に膨張させることができる。 空気充填式腕摩擦器(37a、b、c、d)は、空気充填式腕摩擦器のジャケット(18a、b、c、d)の中に配置される。このジャケットは、断面がC字状となっている。腕をこのジャケットに入れた後、両手で卵形の手動式エアシリンダ(19a、b)を握ると、空気が充填されることにつれて、空気充填式腕摩擦器(37a、b、c、d)、空気充填式肩甲摩擦器(17a、b)、空気充填腋下摩擦器(判決注: 「空気充填式腋下摩擦器」の誤記と認める。(38、57)は、徐々に腕、肩 )甲骨、腋下等の箇所に加圧する。この過程において、使用者が身体を適当に動ければ、前記摩擦器の表面の小突起に摩擦され、掻かれ、揉まれ、刺激される。 空気充填式腕摩擦器のジャケット(18a,b,c,d)は、支持用クロス杆(1a,b) (2a,b)に接続され、そのフック(35a,b,c,d)は、異なる腕の長さに対応してクロス杆に摺動可能に設置される。クロス杆(1a,b)(2a,b)の寸法がφ15*495mmで、計四本が設置され、ねじによって上部スリーブ柱(40)に固定される。(6頁) 」 「要するに、本実用考案は、マッサージと牽引の機能を有する健康機器であって、 手・足で空気を充填し、空気駆動によって使用者が楽に所要のマッサージと牽引の力を得ることができる。また、その強度が十分に優しい。健康機器に設置された磁気性を有するゴム突起摩擦器で使用者の腕、肩甲骨、脇下、腰、背、臀、股、手の平、足裏を揉み、マッサージし、掻き、刺激することができることで、筋脈が疎通し、血行が流暢になり、病気を予防し、身体を鍛錬することができる。特に老弱、 不自由、障碍者等に好適に使用される。(8頁) 」 図1 図2 イ 甲2発明の概要 前記アの記載によると、甲2発明は、次のとおりと認められる。 「着座できるシートと、使用者が寄りかかれる腰、背部に対応する部位とを備える、座って使用できるエアー式マッサージ、牽引両用の健康機器において、十字状のアームに取り付けられてシートの両側に夫々配設され、使用者の腕部を部分的に覆って保持するジャケットと、前記ジャケット内に腕と並列して配置される膨張可能な空気充填式腕摩擦器と、を有し、前記ジャケットは、断面がC字状となっており、腕を挿入する開口が前方に設けられ、かつ前記十字状のアームを広げたり閉じたりできるエアー式マッサージ、牽引両用の健康機器。」 ウ ここで、「アームを広げたり閉じたり」の意義が問題となるが、次のとおり、 甲2の記載を総合すると、アームの向きはそのままで、ジャケット18a、18bと18c、18dが近づいたり遠ざかること(アームが長さ方向に延びたり縮んだりすること)をいうと理解することが相当である。 (ア) 甲2(翻訳文4頁)には、 「ほぼ十字状(十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるようにした方が好ましい)の健康機器主体には四つのエアシリンダ(空気入れ)を配置する。」との記載があるが、このほかに両アームの動きについての記載はない。 十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるように 「した方が好ましい」の部分は「ほぼ十字状」に続く括弧内に記載されていることから、 「ほぼ十字状」との語句を説明する文言と解するのが自然であるところ、原告が主張するように両アームを「閉じ」ることが前方に閉じること(前方に回動すること)を意味するとするならば、前方に閉じた両アームは「ほぼ十字状」であるとはいえない。 (イ) 甲2(翻訳文6頁)には「空気充填式腕摩擦器のジャケット(18a,b,c,d)は、支持用クロス杆(1a,b) (2a,b)に接続され、そのフック(35a,b,c,d)は、異なる腕の長さに対応してクロス杆に摺動可能に設置される。」との記載があるから、両アームのジャケットは、腕の長さに対応して両アームのクロス杆に沿って可動であって、十字の中心からみて遠ざけたり近づけたりすることができるものであることがわかる。上記記載は、 「十字状の両アームを広げたり閉じたりする」が、アームの向きはそのままで、ジャケット18a、18bと18c、18dが近づいたり遠ざかる(アームが長さ方向に延びたり縮んだりする)ことができることを意味するとした場合に、両アームを広げたり閉じたりする理由が、 腕の長さに対応するためであることと、両アームを広げたり閉じたりする方法が、 ジャケットを摺動可能なフックで支持用クロス杆に接続しておき、フックを摺り動かしてジャケットを移動させることによることを示していると理解することができる。 (ウ) 甲2翻訳文の「広げたり閉じたりすること」に対応する原文は「?合」であるが、中国語の「?」には、(手足などを)広げる」 「 「伸ばす」という意味があり、 「合」には「(もとの状態に)閉める」「一つにする」「多くのものを一つに集める」という意味があることが認められるところ(甲30、47〜49)、日本語の「広げる」には、「幅や面積を大きくする」という意味があり、「閉じる」には「ひろがっていたものを、まとまった状態にする」との意味があることが認められる(甲46)。 これらの字義は、 「広げたり閉じたりすること」をジャケット18a、18bと18c、18dが近づいたり遠ざかる(アームが長さ方向に延びたり縮んだりする)ことを意味するものと解することと整合する。 (エ) 甲2には、前記(ア)のとおり、アームが前方に回動することが好ましい理由や、 前方に回動する方法についての記載がなく、アームが前方に回動することをうかがわせる記載はない。さらに、甲2発明がアームが前方に回動することを想定しているのであるならば、アームのどの位置を起点として前方に回動するのか、回動するアームと空気充填腋下摩擦器(38、57)との位置関係がどうなるのか、腕の挿入とアームの回動の前後関係、肩幅が異なる利用者への対処方法等、甲2発明において生じ得る技術的な問題について、甲2には何ら触れられていないのは不自然である。 (オ) 中国語を母国語とし、日本語も理解できる法律職業資格を有する者2名による陳述書(甲36,37,72,74)には、ジャケット18a、18bと18c、 18dが近づいたり遠ざかる(アームが長さ方向に延びたり縮んだりする)ことを中国語で「伸?」と表現し、「?合」とは表現しない旨の記載があるが、上記(ウ)の文言の意義からすると、 「?合」の文言が、前方に回動することのみを意味すると解することはできない。 (2) 甲3発明について ア 甲3には次の記載がある。 【0007】この種従来の椅子式空気圧マッサージ機においては、空気圧変化によって膨脹及び収縮する袋体を背凭れ部や座部の他、他部位に亙って配設させることができ、これら各袋体に空気を吸排気させて、それぞれ、人体の、腰部や背部の他、頸部や臀部或は大腿部や脚部に適度な空気圧マッサージを施すことができるのであるが、人体の局部における、特に手部に対する空気圧マッサージを施すことができず、またこのような手部を専門的にマッサージできるような局部専用マッサージ機も開発されていないのが現状である。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、手部及び下腕部を容易に載設して、手部や下腕部に対する効果的な空気圧マッサージを行える手用空気圧マッサージ機を提供することを目的としてなされたものである。 【0015】 【発明の実施の態様】以下、本発明の手用空気圧マッサージ機を、図面に示す一実施例に基づいて説明する。図1は、本発明の手用空気圧マッサージ機1の一実施例を示す説明図であり、該手用空気圧マッサージ機1は、椅子本体2の肘掛部21の上面適所に固定板11の上部左右に一定間隔を存して対設される膨縮袋12・12と、各膨縮袋12・12に各々ホース13・13を介して連通される圧縮空気給排装置14とで構成し、図2に示すように、人体手部3を載脱自在で該手部3に膨縮マッサージを付与し得る圧縮空気吸排気手段を配設して構成している。 【0017】また、椅子本体2の両肘掛部21の上面適所に配設される膨縮袋12は、図3及び図4に示したように、固定板11の上部左右に一定間隔を存して重合状に膨縮袋12・12・12・12をそれぞれ対設させることで、これらを圧縮空気吸排気装置で順次膨縮するよう吸排気させ、使用者の人体手部3及び下腕部を両側から順次挟持して、圧迫感のあるマッサージを実施することができる。 【0018】よって、使用者は、椅子本体2の座部に着座して、人体手部3をこれら一対の膨縮袋12・12間に載設し、圧縮空気給排装置14に接続される外部電源(図示せず)を入力するだけで該電源からの電力供給により、人体手部3及び下腕部を各膨縮袋12・12が両側から挟持し、適度な加圧マッサージすることができるのである。 【0025】 【発明の効果】よって本発明の手用空気圧マッサージ機は、椅子本体の肘掛部の上面適所に人体手部を載脱自在で該手部に膨縮マッサージを付与し得る圧縮空気吸排気手段を配設して構成しているため、使用者は着座状態で人体手部を肘掛部に載設して電源を入力するだけで、従来のマッサージ機では行い得ない人体手部及び下腕部のマッサージを適度且つ快適に行うことができる。 【0026】また、本発明の手用空気圧マッサージ機は、前記圧縮空気吸排気手段を、固定板の上部左右に膨縮袋を一定間隔を存して対設してこれを圧縮空気吸排気装置で互いに膨縮するよう吸排気させる構成にしているため、使用者の手部及び下腕部を両側から挟持してマッサージすることができ、指圧効果を付与させることができる。 【図1】 イ 甲3発明の概要 前記アの記載によると、甲3発明は、次のとおりと認められる。 「座部と背凭れ部とを備える手用空気圧マッサージ機において、両肘掛部の上面に夫々配設され、人体手部が載脱される一対の圧縮吸排気手段を有し、該圧縮吸排気手段は、固定板と前記固定板の上部左右に一定間隔を存して対設され、圧縮空気吸排装置で膨縮する膨縮袋と、を有する手用空気圧マッサージ機。」 (3) 甲5発明について ア 甲5には次の記載がある。 【0008】本発明は、 ・・・手部及び下腕部を容易に収納して、手部や下腕部に対する効果的な空気圧マッサージを行える手用空気圧マッサージ機を提供することを目的としてなされたものである。 【0009】 【課題を解決するための手段】すなわち、本発明の手用空気圧マッサージ機は、 椅子本体の肘掛部の上面適所に人体の手部を出入自在に収納し得るよう袋状形成された収納体を設け、該収納体にホースを介して圧縮空気給排装置に連通する膨縮機構を設けて構成することを特徴とするものである。 【0018】 【発明の実施の態様】以下、本発明の手用空気圧マッサージ機を、図面に示す一実施例に基づいて説明する。図1は、本発明の手用空気圧マッサージ機1の一実施例を示す説明図であり、該手用空気圧マッサージ機1は、圧縮空気給排装置3にホース13を介して連通する膨縮機構11を収納体12の周腹部に設けて構成している。 【0019】前記膨縮機構11は、ホース13を介して圧縮空気給排装置3に連通されて、該圧縮空気給排装置3から吸排される圧縮空気によって、前記収納体12を膨脹及び収縮させるようにしたものであり、例えば、図1に示したように、収納体12の周復部(判決注:周腹部の誤記と認める。)に袋体111を内装し、該袋体111にホース13の至部を連通状に接続すると共に、該ホース13の基部を圧縮空気吸排気装置3に連通状に接続することで、圧縮空気吸排気装置3から吸排気される圧縮空気をホース13を介して袋体111に連繋させ、該袋体111を内装した収納体12内部に膨縮を行わせるようにしているのである。 【0024】前記収納体12は、手先から肘までの手部を出入自在に収納し得るよう袋状形成されており、該収納体12は、図1及び図2に示したように、合成繊維等で袋状に形成された外面部の非弾性カバー部材121と、合成ゴム等の弾性材で前記非弾性カバー部材121と略同形の袋状に形成した内面部の弾性カバー部材122とからなり、これら両カバー部材121・122間に前記膨縮機構11を介設し、膨縮機構11を挟持させるよう構成している。 【0026】前記収納体12は、椅子本体の肘掛け部5の上面適所に配設されるのであるが、この配設は、椅子本体に固定してもよいが、例えば、図1及び図4に示したように、ベルベット式ファスナー等の係止部材14を張設することで任意の位置で着脱自在に構成することができ、収納体12の位置を使用者に合わせて調節できるようにすることができる。 【0033】 【発明の効果】よって本発明の手用空気圧マッサージ機は、椅子本体の肘掛部の上面適所に収納体を配設すると共に膨縮機構をこれに内装し、該膨縮機構に給排気制御装置を有する圧縮空気給排装置で圧縮空気を吸排して膨縮させるように構成しているため、安定な座姿勢で、該収納体に手部を装入させて、該手部に適度な空気圧マッサージを施すことができる。 【図1】 【図2】 イ 甲5発明の概要 前記アの記載によると、甲5発明は、次のとおりと認められる。 「座部と背凭れ部とを備える椅子本体及び手用空気圧マッサージ機において、前記椅子本体の肘掛部の上面に配設され、手先から肘までの手部を出し入れ自在に収納し得るように袋状に形成された収納体と、前記収納体の周腹部に内装され、圧縮空気給排装置に連通させた袋体と、を有する椅子本体及び手用空気圧マッサージ機。」 (4) 甲16発明について ア 甲16には次の記載がある。 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はマッサージ機に関し、更に詳細には使用者の全身を効果的にマッサージして筋肉の疲労を取り、且つ精神的なリラクゼーションを与えることが可能なマッサージ機に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、マッサージ機には種々のものがあり、最近では空気袋の膨張収縮により指圧的にマッサージするような機種も開発されている。 【0007】本発明の目的は、かかる従来の問題点を解決するためになされたもので、従来の椅子式エアーマッサージ機を改良して、更に足部や腕部の筋肉疲労も取り除き、同時に身体全体の血行促進を促し、付加的に使用者の現在の身体の状態を本人に確認させ得るようなマッサージ機を提供することにある。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明はマッサージ機であり、前述した技術的課題を解決するために以下のように構成されている。すなわち、本発明のマッサージ機は、座部、この座部の両側に設けられ、上部に腕保持部が設けられた肘掛け部、 及び座部の後端に設けられた傾斜可能な背凭れ部を備える椅子と、この椅子における座部の前端に設けられ、椅子に腰掛けた人の脚を支持する脚保持部と、脚の足部を乗せる足乗せ台とからなり、椅子の座部、背凭れ部、肘掛け部に設けられた腕保持部、及び脚保持部には、圧縮空気給排気機構に連通する空気袋が内部に設けられ、 更に足乗せ台の内部には上下動可能な少なくとも2つの大きさの異なる押圧突起部が設けられていることを特徴とする。 【0017】 ・・・本実施形態のマッサージ機10では、更に肘掛け部22の上部に設けられた腕保持部24を備えている。腕保持部24は、使用者の腕を両側から挟むようにU字状の凹部25を形成する保持壁部24a、24bを備え、各保持壁部内にも前述したと同様な空気袋(図示せず)が配置されている。 【0018】この腕保持部24でも、これを構成している各保持壁部24a、24b内の空気袋に圧縮空気を供給排気することにより膨張と収縮を起こさせて保持壁部間の凹部25に入れられた使用者の腕を保持壁部24a、24bの外装布を介して挟み込むようにして圧迫し、またこの圧迫を解放することによりマッサージを行うようにされている。 【0045】 【発明の効果】以上説明したように、本発明のマッサージ機によれば、椅子に座った使用者は背凭れ部、座部、及び腕保持部の内部に設けられた空気袋の膨張収縮による圧迫と解放によって首部、背部、腰部、尻部及び腕部のエアーマッサージがなされ、 ・・全身が同時にマッサージされ、その結果全身の血行が促されて使用者の疲労を極めて効果的に取り除くことができる。 【図1】 イ 甲16発明の概要 前記アの記載によると、甲16発明は、次のとおりと認められる。 「使用者が着座可能な座部と、使用者の上半身が凭れる背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、前記座部の両側にそれぞれ設けられ、使用者の腕を部分的に覆って保持する一対の腕保持部と、 前記腕保持部の内面に配置される膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、前記腕保持部は、その幅方向に切断して見た断面において使用者の腕を挿入する開口が形成されており、その内面に互いに対向する部分を有し、前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のそれぞれに配置され、 前記一対の腕保持部は、各々の前記開口が上を向くように配設されているマッサージ機。」 3 取消事由1(甲2発明に基づく新規性・進歩性欠如についての判断の誤り)について (1) 一致点及び相違点 本件発明1と前記2(1)イの甲2発明を比較すると、本件審決が認定したとおり、 次の一致点及び相違点があることが認められる。 [一致点] 「被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型の健康器具において、前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と、前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し、前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向いている健康器具」である点。 [相違点1] 健康器具について、本件発明1は、マッサージ機であるのに対し、甲2発明は、 エアー式マッサージ、牽引両用の健康機器である点。 [相違点2] 空気袋について、本件発明1は、保持部の「内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」ているのに対し、甲2発明は、そのように設けられているか不明な点。 [相違点3] 一対の保持部について、本件発明1は、その「開口同士が互いに対向するように配設されている」のに対し、甲2発明は、そのように配設されているか不明な点。 (2) 相違点3について ア 前記2(1)のとおり、甲2には「十字状の両アームを広げたり閉じたりすることができるようにした方が好ましい」との記載があるが、同(1)ウで説示したとおり、 甲2発明において両アームを「広げたり閉じたりすること」は、アームの向きはそのままで、ジャケット18a、18bと18c、18dを近づけたり遠ざけたりすることを意味し、両アームを前方に回動して断面がC字状であるジャケットの開口同士が対応するように配設されることを意味するものではないので、甲2に「開口同士が互いに対向するように配設」する構成が記載されているということはできない。そうすると、甲2に、実質的に相違点3に係る記載がされているとはいえない。 イ そして、甲2発明では、両アームが十字状に設置されているところ、甲2には両アームを対向するよう配設することを示唆する記載はなく、両アームを前方に回動させて、一対の保持部に相当するジャケットの「開口同士が互いに対向するように配設」しようとする動機付けがない。また、甲2発明においては、両アームに配設されたジャケットの開口はいずれも前方を向いており、被施療者は十字状のアームの前方から、C字状のジャケットの開口に腕を挿入するものであるところ、ジャケットの開口を前方に向けずに他のアームに設置されたジャケットの開口と対向するように配設すると、被施療者が腕を挿入することが困難となるから、甲2発明において、ジャケットの「開口同士が互いに対向するように配設」することについて阻害要因があるといえる。そうすると、当業者が、甲2発明に基づいて本件発明1を容易に想到することができるとはいえない。 ウ 原告は、 「空気圧マッサージ機の分野において、腕用の空気圧マッサージ装置の軸が施療者の前後方向を向くように配置すること」という周知技術が認定できるところ、本件審決はこの周知技術についての判断をしていないと主張しており、原告は審判手続において甲3〜5、16から上記原告の主張する周知技術が認定できると主張していたが、甲3、5、16発明の内容は前記2(2)〜(4)のとおり、椅子式マッサージ機に係るものであって、これらから「空気圧マッサージ機」一般について、腕用の空気圧マッサージ装置の軸が施療者の前後方向を向くように配置することが周知技術であったと認めることはできず、また、甲4(特開平10-295750号公報)は、発明の名称を「空気圧マッサージ構造」とする発明に係る公開特許公報であって、手部に対するマッサージ構造を開示したものであるが、甲4をみても、腕用の空気圧マッサージ装置の軸が施療者の前後方向を向くように配置するとの記載はなく、上記原告の主張する周知技術を認定することはできない。 さらに、仮に原告の主張する周知技術を認定することができたとしても、甲2発明において両アームを前方に回動させる理由はなく、甲2には、ジャケットが配置されたアームが十字状であって被施療者の前方向に角度を有していないことによる課題があることの示唆もされていない。原告の主張する周知技術は、肩の高さで広げた腕をマッサージするに当たり、マッサージ装置の軸が施療者の前後方向に向くように配置するというものではなく、肩の高さで広げた腕をマッサージする構成の甲2発明について、原告の主張する周知技術を適用することはできない。 エ したがって、本件発明1について、甲2発明により新規性及び進歩性が欠如するということはできない。 (3) 本件発明2〜6について 本件発明2〜6は本件発明1の従属項に係る発明であり、甲2発明と比較すると、 いずれも本件発明1と同じ相違点を有するところ、本件発明1と同様に、相違点3は、実質的な相違点であって、かつ容易想到とはいえないから、本件発明2及び3について、甲2発明に基づき新規性が欠如するとはいえず、本件発明2〜6について、甲2発明に基づき進歩性が欠如するとはいえない。 (4) 取消事由1についての結論 よって、本件発明1〜3について、甲2発明に基づき新規性を欠くとはいえず、 本件各発明について、甲2発明に基づき進歩性を欠くとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく、原告が主張する取消事由1は理由がない。 3 取消事由2(甲3発明に基づく進歩性欠如についての判断の誤り)について (1) 一致点及び相違点 本件発明1と前記2(2)イの甲3発明を比較すると、本件審決が認定したとおり、 次の一致点及び相違点があることが認められる。 [一致点] 「被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に保持する一対の保持部と、前記保持部に設けられる膨張及び収縮可能な空気の袋と、を有するマッサージ機」である点。 [相違点4] 一対の保持部について、本件発明1は、 「被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部」であって、 「その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し」、 「各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」のに対し、甲3発明は、そのような構成ではない点。 [相違点5] 空気の袋について、本件発明1は、 「保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋」であって、保持部の「内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」ているのに対し、甲3発明は、そのような構成ではない点。 (2) 相違点4について ア 相違点4における「開口同士が互いに対向するように配設されている」という点について、甲3発明に甲2発明を適用することで容易に想到できるか検討する。 まず、前記2(1)のとおり、甲2発明は、腕を肩から広げた状態でマッサージを行うものであるのに対し、前記2(2)のとおり、甲3発明は、椅子型マッサージ機の肘掛部において、手部及び下腕部を容易に載設して、手部や下腕部に対する効果的な空気圧マッサージを行うものであって(甲3・段落【0008】 【0025】、使 、 )用時の被施療者の姿勢や腕の位置が異なるものである。そして、甲3発明は、手部を上下から挟んでマッサージすることを目的とするものではなく、甲3の記載の全体をみても、手部を上下から挟んでマッサージをするという課題が示唆されているものではない。さらに、甲2に記載されたジャケットは、断面がC字状で、中に空気充填式摩擦器が配置されており、腕をジャケットに入れたあと、手動式エアシリンダを握ると、空気充填式摩擦器が腕を加圧するというものであるから、横方向(C字の開口部分)から腕を入れることが予定されているところ、上記のとおり、甲3発明は、「使用者は着座状態で人体手部を肘掛部に載設して電源を入力するだけで」人体手部及び下腕部のマッサージを行えるというものであるから(甲3・段落【0025】、腕を肘掛部に上方から載せることを予定しているものと認められ、甲2 )発明と甲3発明では腕の挿入方向が異なる。そのため、仮に甲3発明の肘掛部の上部に、甲2のC字状のジャケットを、開口同士が互いに対向するように配設したとすると、腕を上方から肘掛部に置くだけではマッサージを行うことができないので、 甲3発明に甲2のジャケットを適用するには阻害要因があるといえる。 以上からすると、甲3発明に甲2に記載されたジャケットを適用する動機付けがあるとはいえない。 イ 原告は、椅子の腕部を乗せるところにマッサージ機を乗せる構成が公知であり(甲17)、また、着座ないしは仰臥した使用者が(着座ないしは仰臥の動作を終了した後に)腕を保持部に挿入する動作を行う場合には、腕を横方向に移動させる方が使用者にとって便宜であり、腕を保持する開口同士が互いに対向するように配置されていることが周知である(甲18〜21)と主張するが、これらの主張の根拠とされる文献(甲17〜21)は、いずれも、腕をマッサージする椅子型マッサージ機に関するものではなく、甲3発明とは技術分野が異なるというほかない。 ウ 以上からすると、甲3発明に甲2のジャケットを適用することはできず、甲3発明の属する椅子型マッサージ機の技術分野において、相違点4に係る周知技術があると認めることもできないから、当業者が、相違点4について、容易に想到できるとはいえない。 (3) 本件発明2〜6について 本件発明2〜6は本件発明1の従属項に係る発明であり、甲3発明と比較すると、 いずれも本件発明1と同じ相違点を有するところ、本件発明1と同様に、相違点4は容易想到とはいえないから、本件発明2〜6について、甲3発明に基づき進歩性が欠如するとはいえない。 (4) 取消事由2についての結論 よって、本件各発明について、甲3発明に基づき進歩性を欠くとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく、原告が主張する取消事由2は理由がない。 4 取消事由3(甲5発明に基づく進歩性欠如についての判断の誤り)について (1) 一致点及び相違点 本件発明1と前記2(3)イの甲5発明を比較すると、本件審決が認定したとおり、 次の一致点及び相違点があることが認められる。 [一致点] 「被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、前記座部の少なくとも一側に配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する保持部と、前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられるマッサージ機」である点。 [相違点6] 保持部について、本件発明1は、 「座部の両側に夫々配設され」 「一対の保持部」 たであるのに対し、甲5発明は、そのように構成されているか不明な点。 [相違点7] 保持部について、本件発明1は「その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し」「各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配 、 設されている」のに対し、甲5発明は、そのような構成ではない点。 (2) 相違点7について 相違点7の「開口同士が互いに対向するように配設されている」について、甲5発明に甲2発明を適用することで容易に想到できるか検討するに、前記2(1)のとおり、甲2発明は、腕を肩から広げた状態でマッサージを行うものであって、開口同士が互いに対向するように配設されているものではないから、甲5発明に甲2発明を適用しても、相違点7が容易に想到できるとはいえない。 そして、前記2(3)イのとおり、甲5発明は、椅子型マッサージ機の肘掛部の上面に設置された、手先から肘までの手部を出し入れ自在に収納し得るように袋状に形成された収納体において手部のマッサージを行うものであって、収納体の開口は手部を、手先から肘方向に、又はその逆方向に出し入れする部分であるから、これを相互に対向するように置くとすると手部の出し入れが困難になるため、開口を相互に対向するように配設することについて阻害要因があるといえる。また、甲2発明と甲5発明は、使用時の被施療者の姿勢や腕の位置が異なるものであって、腕をマッサージする機能を有することのほかにはその課題や効果に共通するところはないところ、甲5の記載の全体をみても、甲5発明の袋状の収納体に代えて、甲2のジャケットを用い、これを肘掛部の上部に開口が横を向き、かつ、前記開口同士が互いに対向するように配設することについて、動機付けがあるとはいえない。 そうすると、当業者が、相違点7について、甲5発明に基づいて容易に想到できるとはいえない。 (3) 本件発明2〜6について 本件発明2〜6は本件発明1の従属項に係る発明であり、甲5発明と比較すると、 いずれも本件発明1と同じ相違点を有するところ、本件発明1と同様に、相違点7は容易想到とはいえないから、本件発明2〜6について、甲5発明に基づき進歩性が欠如するとはいえない。 (4) 取消事由3についての結論 よって、本件各発明について、甲5発明に基づき進歩性を欠くとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく、原告が主張する取消事由3は理由がない。 5 取消事由4(甲16発明に基づく進歩性欠如についての判断の誤り)について (1) 一致点及び相違点 本件発明1と前記2(4)イの甲16発明を比較すると、本件審決が認定したとおり、 次の一致点及び相違点があることが認められる。 [一致点] 「被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と、前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し、前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分に設けられているマッサージ機」である点。 [相違点8] 空気袋について、本件発明1においては、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられているのに対して、甲16発明においては、前記内面の互いに対向する部分のそれぞれに設けられている点。 [相違点9] 一対の保持部について、本件発明1においては、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されているのに対して、甲16発明においては、各々の開口が上を向くように配置されている点。 (2) 相違点9について 相違点9の「開口同士が互いに対向するように配設されている」について、甲16発明に甲2発明を適用することで容易に想到できるか検討するに、前記2(1)のとおり、甲2発明は、腕を肩から広げた状態でマッサージを行うものであって、開口同士が互いに対向するように配設されているものではないから、甲16発明に甲2技術事項を適用しても、相違点9が容易に想到できるとはいえない。 そして、前記2(4)イのとおり、甲16発明は、椅子式マッサージ機において、肘掛部の上部に腕保持部が設けられており(甲16・段落【0008】、その開口が )上を向くように配置されているが、腕保持部の内面には、使用者の腕を両側から挾むようにU字状の凹部を形成する対となる保持壁部が存在し、これらの互いに対向する保持壁部内には空気袋がそれぞれ配置されていて、腕のマッサージがなされるというものであるから(甲16・段落【0017】 【0018】 【0045】、 【図1】、 )各腕保持部の開口を横向きにすると空気袋の配置ができなくなり、また、腕の挿入方向も異なることとなるのであるから、甲16発明において、各腕保持部の開口を横向きにして、かつ、前記開口同士が互いに対向するように配設するような構成にすることについては阻害要因があるといえる。また、甲2発明と甲16発明は、使用時の被施療者の姿勢や腕の位置が異なるものであって、腕をマッサージする機能を有することのほかにはその課題や効果に共通するところはないところ、甲16の記載の全体をみても、甲16発明の腕保持部に代えて、甲2のジャケットを用い、 これを肘掛部の上部に開口が横を向き、かつ開口同士が互いに対向するように配設することについて、動機付けがあるとはいえない。 原告は、前訴判決が、 「本件発明1のマッサージ機は、一対の保持部について、開口を横向きとし、互いに対向するように配設したものであるから、腕部を横方向に移動させることで、保持部内に腕部を挿入し、引き出すことが可能であり、保持部内に腕部を位置させた状態で内側に曲げることができ、肘掛け部の上面に一対の保持壁を備える引用発明とは異なり、保持壁に拘束されずに、腕部(肘など)を載せることができる、といった作用効果を奏すると認められる。 と判示したことをもっ 」て、横向きの構成には利点があり、甲2に接した当業者は、横向き開口のジャケットを採用することの利点を理解できると主張するが、前訴判決は、上記の作用効果を奏することを理由として、互いに対向するよう配設することが単なる設計事項とはいえないと説示しているのであり、そもそも、甲2のジャケットが配設されるアームは肘掛部ではなく、肩から腕を広げた状態で腕を挿入することを予定している部分であって、肘を内側に曲げた場合には、腕は保持部(ジャケット)内に位置することはできなくなるのであるから、甲2のジャケットに接した当業者が、上記利点を理解することができるとはいえない。そうすると、原告の上記主張は採用できない。 したがって、当業者が、相違点9について、甲16発明に基づいて容易に想到できるとはいえない。 (3) 本件発明2〜6について 本件発明2〜6は本件発明1の従属項に係る発明であり、甲16発明と比較すると、いずれも本件発明1と同じ相違点を有するところ、本件発明1と同様に、相違点9は容易想到とはいえないから、本件発明2〜6について、甲16発明に基づき進歩性が欠如するとはいえない。 (4) 取消事由4についての結論 よって、本件各発明について、甲16発明に基づき進歩性を欠くとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく、原告が主張する取消事由4は理由がない。 |
|
結論
以上の次第であるから、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 本多知成 |
---|---|
裁判官 | 浅井憲 |
裁判官 | 勝又来未子 |