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事件 令和 3年 (ワ) 2736号 特許使用料請求事件
5
原告新宅工業株式会社
同 代表者代表取締役
同 訴訟代理人弁護士小堀秀行
同 太田圭一 10
被告 有限会社サンワールド川村
同 代表者取締役
同 訴訟代理人弁護士西晃
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2022/08/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 15 1 被告は、原告に対し、1080万円及びうち756万円に対する平成30年3月29日から、うち324万円に対する同年7月30日から各支払済みまで、年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
20 事 実 及 び 理 由第1 請求主文同旨第2 事案の概要等原告は、「食品の保存方法およびその装置」等と題する発明について2件の特許25 権を有し、当時、別途特許を出願中(以下、前記2件の特許権及び特許出願中の発明を含め、「本件特許権等」という。)であった被告との間で、本件特許権等の使1用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」という。)を締結し、その使用料を支払ったが、被告の債務不履行を理由に本件使用許諾契約を解除したと主張し、被告に対し、解除に伴う原状回復請求として支払済みの特許使用料の返還を求めるとともに、
これに対する同使用料の受領の日(平成30年3月29日及び同年7月30日)か5 らの商事法定利率年6分(平成29年法律第45号による改正前のもの。以下「旧商法」という。)の割合による利息の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げていない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者10 ア 原告は、食品関連機械及び機器の製造、販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告は、冷凍冷蔵庫の斡旋販売等を目的とする特例有限会社である。
(2) 被告の特許権被告は、発明の名称を「食品の保存方法およびその装置」とする特許第4932255号の特許及び発明の名称を「食品の保存方法」とする特許第609514915 号の特許に係る各特許権(以下「本件各特許権」という。)を有している。
(3) 業務提携基本契約の締結原告と被告は、平成30年2月1日、本件各特許権を用いて、被告の抗酸化特殊冷凍機新「NICE−01」シリーズ(以下「本件機械」という。)の適応用途を拡大し販売することを目的として、業務提携基本契約を締結した(甲3)。
20 (4) 特許使用許諾契約の締結原告、被告及び被告の業務委託先であるK&M GBP株式会社(以下「丙」という。)は、平成30年3月1日、本件各特許権について、被告を特許権使用許諾者、原告を特許権使用者として、次のとおり、特許使用許諾契約を締結した(甲4)。
ア 特許使用料(第3条)25 特許使用期間中の特許使用料1000万円(消費税別)イ 支払期限(第3条)2平成30年3月30日までに700万円(消費税別)平成30年7月31日までに300万円(消費税別)ウ 技術情報の開示(第8条)本契約の業務遂行を円滑に進めることを目的として、被告及び丙は、原告の要求5 があった場合は技術情報を開示しなければならない。
(ア) 原告が、本件各特許権を用いて、機器を製造するための特許技術・電子制御技術・通電貯蔵タンク・通電ボックス・通電トンネルに関する技術等(イ) 原告が、本件各特許権を用いて、機器を製造する場合、電子制御部分・機器製造を委託している企業と直接の技術情報収集を要求した場合、被告及び丙は技術10 情報収集の場を1カ月以内に設定するものとする。
契約の解除第10条)(ア) 原告、被告及び丙は、相手方に重大な過失又は背信行為があった場合、何ら催告を要せず直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
(イ) 原告、被告及び丙は、相手方に本契約上の義務の不履行があり、相当期間を15 定めて催告したにもかかわらず是正されない場合は、本契約の全部又は一部を解除することができる。
オ 契約の有効期間(第15条)平成30年3月1日から令和3年9月30日まで(5) 特許使用料の支払20 原告は、被告に対し、前記(4)の特許使用許諾契約に基づく特許使用料として、平成30年3月29日に756万円を支払い、同年7月30日に324万円を支払った。
(6) 本件使用許諾契約の締結原告、被告及び丙は、本件各特許権に被告が出願中であった特許(出願番号特願25 2018−53695)を加えた本件特許権等について前記(4)の特許使用許諾契約の対象とすることとし、平成30年12月27日、特許使用許諾書(甲5)により、
3再度、特許使用許諾契約(本件使用許諾契約)を締結した。なお、本件使用許諾契約の有効期間は、前記出願中の特許の特許確定日より3年6か月とされた(甲5)。
(7) 催告原告は、令和2年12月28日及び令和3年1月28日、被告に対し、本件使用5 許諾契約に基づき、@電子制御盤の電気回路図、電子制御盤製作及び利用の注意点、
システム回路図等、原告が電子制御盤を製造するために必要な技術情報(以下「本件技術情報」という。)の開示、A原告が、直接、被告が電子制御機器の製造を委託している企業から技術情報を収集する場を設定することを求めたが、被告はこれらに応じない。
10 (8) 解除の意思表示ア 原告は、被告に対し、令和3年3月31日に被告に送達された本訴状をもって、本件使用許諾契約を解除する旨の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。
イ 原告は、令和4年7月12日の第1回弁論準備手続期日において、被告に対し、被告に重大な背信行為があったことを理由に、本件使用許諾契約を解除する旨15 の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。
(9) 被告の元代表取締役の死亡被告の代表取締役であったP1氏は、令和3年6月28日、死亡した。
被告のもう一名の代表取締役は同年7月1日に辞任し、唯一の取締役が現代表者である。
20 2 争点(1) 非開示特約の有無(争点1)(2) 背信行為の有無(争点2)第3 争点についての当事者の主張1 非開示特約の有無(争点1)25 (被告の主張)被告は、土佐電子工業株式会社(以下「土佐電子」という。)との間で、本件特4許権等を含む被告保有の特許技術について、業務委託契約を締結したところ、被告の代表取締役であったP1氏は、本件使用許諾契約を締結する際、原告の会長であったP2氏との間で、被告と土佐電子との間の秘密保持契約に基づく情報秘匿義務があることから、製造技術に関するCоre部分に関しては、本件使用許諾契約に係5 る原告への技術情報開示の対象に含めない旨の口頭での合意をした(以下「非開示特約」という。)。
本件使用許諾契約において、当初は、本件機械を土佐電子が製造する旨の文言があったが、内容調整の段階で、P2氏(原告会長)から、当該文言を削除してほしいとの依頼があり、P1氏がこれに応じたという経緯があった。
10 本件使用許諾契約締結後、関係者間において協議が行われ、被告は、原告に対し、
被告の保有している技術情報を開示していたが、ある段階から、原告は、被告に対し、原告が本件機械を開発することを前提として、本件機械を実用化し、製造するための本件技術情報の開示を求めるようになった。しかし、本件技術情報は、非開示特約のCоre部分に該当する情報を含むものである。
15 したがって、仮に、被告において開示していない技術情報があったとしても、それには正当な事由が存在するから、被告の行為は債務不履行には該当しない。
(原告の主張)P2氏は、P1氏から、非開示特約に関する話は一切聞いておらず、そのような口頭合意は存在しない。
20 原告は、原告自身が業者に委託するなどして制御盤を製造することも考えていたことから、被告から製造技術に関するCоre部分というものがあり、それは土佐電子との関係で秘匿義務があるから開示の対象とならないとの説明を受けていれば、
被告との間で本件使用許諾契約を締結することはあり得ない。
また、本件使用許諾契約に係る契約書を作成したのは被告側であるところ、同契25 約書の技術情報開示条項に、「Cоre部分の開示は除く」等の開示情報に関する例外規定がない以上、非開示特約の存在は認められない。
52 背信行為の有無(争点2)(原告の主張)仮に、技術情報不開示を理由とする原告からの債務不履行解除が認められないとしても、被告が、土佐電子との間で業務委託契約を締結し、土佐電子に対し、被告5 保有の全ての特許技術の利用に関する権限を与えたことは、原告に対する背信行為に該当する。
(被告の主張)被告が、土佐電子との間で業務委託契約を締結したのは、P1氏亡きあと、何とか被告の経営を再建して、会社倒産による損害を防ぐためにとった防衛措置である。
10 また、被告保有の特許技術の利用に関する権限を土佐電子に与えたとしても、原告に対する専用実施権が消滅するわけではなく、本件使用許諾契約は存続しているから、原告はいつでも本件機械をビジネス化することが可能である。
したがって、被告の行為は原告に対する背信行為には該当しない。
第4 当裁判所の判断15 1 非開示特約の有無(争点1)について被告は、本件使用許諾契約を締結する際、P1氏とP2氏との間で、非開示特約を口頭で締結した旨を主張する。
しかし、非開示特約を直接裏付ける証拠はない。前提事実(4)及び(6)のとおり、
本件使用許諾契約は、書面(甲5)によりなされており、原告の要求があった場合、
20 被告及び丙において、原告が本件機械を製造するために必要な技術情報を開示する義務が生じる旨の技術情報開示に関する条項(第8条)が存在するところ、仮に、
被告と土佐電子との間で秘密保持契約に基づく情報秘匿義務が存在したのであれば、
その旨を本件使用許諾契約の契約書上明記しておくのが通常であると考えられ、全証拠を精査しても、これを阻害するような事情があったとは認められない。そうで25 あるにもかかわらず、非開示特約については口頭で合意をしたということ自体が不自然である。また、前提事実(7)のとおり、原告は、被告に対し、本件技術情報の開6示等を求めたが、被告は、本訴訟に至るまでの間において、原告に対し、非開示特約の存在について言及等したことはうかがえない。さらに、そもそも、被告と土佐電子間の業務委託契約や秘密保持契約の存在を裏付ける客観的証拠は提出されておらず、また、技術情報のCore部分の内容自体が判然とせず不明確であるといわ5 ざるを得ない。
以上の諸事情に照らすと、非開示特約があったとは認めるに足りない。
2 以上によれば、争点2について判断するまでもなく、被告の債務不履行により本件使用許諾契約が解除されたとして支払済みの特許使用料の返還を求める原告の請求は理由があり、この場合、被告は、民法545条2項により、特許使用料の10 受領の時からの利息を付さなければならず、本件使用許諾契約は株式会社が令和2年4月1日以前に締結したものであるから、その利率は旧商法所定年6分の割合となる。
よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。
15 大阪地方裁判所第21民事部裁判長裁判官20 武 宮 英 子裁判官25 杉 浦 一 輝7裁判官峯 健 一 郎8
事実及び理由
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