関連審決 |
無効2019-800085 |
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事件 |
令和
3年
(行ケ)
10131号
審決取消請求事件
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原告株式会社ホリ 同訴訟代理人弁護士 三浦修 同訴訟代理人弁理士 岩池満 小菅一弘 被告 株式会社IDクリエイト 同訴訟代理人弁護士 飯島歩 藤田知美 溝上武尊 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2022/08/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2019-800085号事件について令和3年9月22日にした審決中、特許第5547792号の請求項1、3、4及び6に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。 |
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事案の概要
本件は、特許無効審判請求に対する一部無効・一部不成立審決のうち一部無効部分に対する取消訴訟である。争点は、請求項1、3、4及び6に係る発明の進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯等 原告は、名称を「シート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法」とする発明についての特許(特許第5547792号。以下「本件特許」という。)の特許権者である。 本件特許は、平成24年12月6日を出願日(国内優先権主張・同年7月31日(以下「本件優先日」という。))とし、特願2012-267651号として出願され、平成26年5月23日に設定登録がされた(甲20。以下、設定登録時の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。 被告は、令和元年10月10日、本件特許(請求項の数は6)について特許無効審判の請求をし、特許庁は、無効2019-800085号事件として審理した。 原告は、令和3年5月28日、本件特許の請求項1〜6について訂正請求をした(甲30(枝番を含む。以下、枝番のある書証については、特に断らない限り、同様である。)。以下、この訂正請求による訂正を「本件訂正」という。なお、本件訂正において、明細書及び図面の訂正はない。)。 特許庁は、令和3年9月22日、「特許第5547792号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、 6について訂正することを認める。特許第5547792号の請求項1、3、4、 6に係る発明についての特許を無効とする。特許第5547792号の請求項2、 5に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年10月1日、原告に送達された。 原告は、令和3年10月29日、本件審決中、請求項1、3、4及び6に係る発明についての本件特許を無効とした部分の取消しを求めて、本件訴えを提起した。 2 本件訂正後の発明の要旨(甲20、30) 本件訂正後の特許請求の範囲のうち請求項1、3、4及び6に係る記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を請求項の番号に対応させて「本件発明1」などといい、本件発明1、3、4及び6を併せて「本件各発明」という。)。 【請求項1】 装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって、接着面を有する保護シートと、 前記接着面を覆うと共に、分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと、 前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と、 前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる仮止部であって、前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置され、前記装置に貼り付け可能であって、前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための前記第1剥離部より小さい1箇所の仮止部と、を備えることを特徴とする保護シート貼付用のシート貼付構造体。 【請求項3】 前記延出部は、前記第1剥離部から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と、 前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の保護シート貼付用のシート貼付構造体。 【請求項4】 前記装置は携帯型であり、 前記第1延出部は、前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びており、 前記第2延出部は、前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びていることを特徴とする請求項3に記載の保護シート貼付用のシート貼付構造体。 【請求項6】 装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって接着面を有する保護シートと、前記接着面を覆うと共に分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと、前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と、前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と、前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられ且つ前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置されると共に前記装置に貼り付け可能な前記第1剥離部より小さい1箇所の仮止部と、を備える保護シート貼付用のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法であって、 前記仮止部を装置の表面に前記保護シートを仮止めする仮止工程と、 前記仮止工程により前記保護シートを前記仮止部で仮止めした後に、前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして、前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第1剥離貼付工程と、 前記第1剥離貼付工程の後に、前記仮止部が設けられる前記第1剥離部を前記第1延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がすと共に前記仮止部を前記装置の表面から剥がして、前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第2剥離貼付工程と、を備えるシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法。 3 本件審決の理由の要旨 本件審決(本件各発明についての特許を無効とした部分)の理由の要旨は、次のとおりである。 (1) 無効理由12、13、15及び16(甲1(韓国公開特許10-2010-0107652号公報)を主引用例とする進歩性欠如)について ア 甲1に記載された発明の認定 甲1には、次の甲1-1発明、甲1-3発明、甲1-4発明及び甲1-6発明(以下、総称して「甲1発明」という。)が記載されている。 (ア) 甲1-1発明 a:携帯電話等の個人携帯用情報端末の画面やキー入力部又は外部表面を保護する保護フィルムであって、底面に接着剤層(12)を有する保護フィルム(11)と、 b:前記接着剤層(12)を覆うと共に、分離ラインを介して並んで配置される左右の仮粘着裏紙(21A、21B)を有する仮粘着裏紙(21)と、 c:前記左右の仮粘着裏紙(21A、21B)から前記保護フィルム(11)のフレームの外に突出する取っ手(24)と、 d:前記仮粘着裏紙(21A)の底面に設けられた粘着剤層(22)であって、 e:前記仮粘着裏紙(21A)の底面に配置され、前記情報端末の表面に対して付け外しを繰り返すことが可能であって、前記保護フィルム(11)を前記情報端末の表面に粘着させるための前記粘着剤層(22)と、を備える携帯用情報端末保護フィルム。 (イ) 甲1-3発明 f:前記取っ手(24)は、前記仮粘着裏紙(21A)の端部から前記保護フィルム(11)のフレームの外に突出する取っ手(24)と、前記仮粘着裏紙(21B)の端部から前記保護フィルム(11)のフレームの外に突出する取っ手(24)と、を有する g:上記aからeまでの構成を有する携帯用情報端末保護フィルム。 (ウ) 甲1-4発明 s:前記仮粘着裏紙(21A)から前記保護フィルム(11)のフレームの外に突出する取っ手(24)は、前記仮粘着裏紙(21A)の端部から分離ラインの延長線上に沿って前記保護フィルム(11)の境界線の外に突出しており、 t:前記仮粘着裏紙(21B)から前記保護フィルム(11)のフレームの外に突出する取っ手(24)は、前記仮粘着裏紙(21B)の端部から分離ラインの延長線上に沿って前記保護フィルム(11)の境界線の外に突出している u:上記f及びgの構成を有する携帯用情報端末保護フィルム。 (エ) 甲1-6発明 h:携帯電話等の個人携帯用情報端末の表面を保護するために付着する保護フィルム(11)であって、底面に接着剤層(12)を有する保護フィルム(11)と、 i:前記接着剤層(12)を覆うと共に分離ラインを介して並んで配置される左右の仮粘着裏紙(21A、21B)を有する仮粘着裏紙(21)と、 j:前記仮粘着裏紙(21A)の端部から分離ラインの延長線上に沿って前記保護フィルム(11)のフレームの外に突出する取っ手(24)と、前記仮粘着裏紙(21B)の端部から分離ラインの延長線上に沿って前記保護フィルム(11)のフレームの外に突出する取っ手(24)と、 k:前記仮粘着裏紙(21A)の底面に設けられて配置されると共に前記携帯用情報端末の表面に対して貼り付け可能な前記粘着剤層(22)と、 l:を備える携帯用情報端末保護フィルムを用いて保護フィルムを貼付する貼付方法であって、 m:前記仮粘着裏紙(21A)を前記携帯用情報端末の表面に対して付け外しを繰り返しながら、前記保護フィルム(11)を粘着させる工程と、 n:該工程の後に、前記仮粘着裏紙(21B)を取っ手(24)を利用して前記保護フィルム(11)から剥ぎ取って、前記保護フィルム(11)を前記携帯用情報端末の表面に貼り付ける工程と、 o:該工程の後に、前記粘着剤層(22)が設けられる前記仮粘着裏紙(21A)を取っ手(24)を利用して剥ぎ取ることにより前記保護フィルム(11)から剥がすと共に、前記粘着剤層(22)を前記携帯用情報端末の表面から剥がして、前記保護フィルム(11)を前記携帯用情報端末の表面に貼り付ける工程と、 p:を備えるフィルム貼付構造体を用いて保護フィルムを貼付する貼付方法。 イ 本件発明1について(ア) 本件発明1と甲1-1発明との対比 (一致点) 装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって、接着面を有する保護シートと、 前記接着面を覆うと共に、分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと、 前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と、 前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる仮止部であって、前記第1剥離部に重なって配置され、前記装置に貼り付け可能であって、前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための1箇所の仮止部と、を備える保護シート貼付用のシート貼付構造体。 (相違点1-1) 仮止部について、本件発明1においては、「第1剥離部の外側にはみ出ないように」されているのに対して、甲1-1発明においては、その点が明らかでない点。 (相違点1-2) 仮止部について、本件発明1においては、「第1剥離部より小さい」のに対して、 甲1-1発明においては、仮粘着裏紙(21A)より小さいといえない点。 (イ) 相違点1-1についての判断 a 甲1-1発明における「取っ手(24)」の機能から検討する。甲1の段落[0038]の「取っ手(24)を用いるとき、仮粘着裏紙(21)を保護フィルム(11)から容易に取り外すことができる」という記載からみて、当該取っ手(24)は、仮粘着裏紙(21A)を剥がす際に取っ手(24)を指でつまんで剥がす方向に引っ張るためのものと読み取れる。 b そうすると、甲1-1発明においては、取っ手(24)に粘着剤層を設ける必要がなく、また、粘着剤層を設けることでユーザーの指に粘着剤が付着するという不都合があるため、取っ手に粘着剤層を設けないことは、必然の事項といえる。 c そうすると、相違点1-1は、実質的な相違点でない。また、仮に実質的な相違点であったとしても、前記bの不都合を回避するために当業者が容易に想到し得る事項ということができる。 (ウ) 相違点1-2についての判断 a 甲1-1発明における粘着剤層(22)は、甲1の段落[0037]に記載されているように、「定位置に仮粘着裏紙(21A)を対象表面に固定」することが本質的な機能である。 b 甲3(国際公開2012/074802号)に記載された第2の部分(本件発明1の「第1剥離部」に相当)に設けられた感圧接着剤(PSA)領域39(本件発明1の「仮止部」に相当)も、第2の部分の一部に設けられている。また、甲19(特開2000-335200号公報)の段落【0012】に記載された左右一対の仮留め部16、16(本件発明1の「仮止部」に相当)も剥離性シート材13(本件発明1の「第1剥離部」に相当)の一部に設けられている。 c ここで、甲3に記載の感圧接着剤(PSA)領域39は、図6によれば4箇所に配置されるものと視認でき、また、甲19に記載の仮留め部16、16は左右一対であることと、図1とから、2箇所に配置されるものであるが、甲3又は甲19における仮止部の配置数について、その技術的意義についての記載は甲3又は甲19においてされておらず、適宜設定し得るものと認められるから、仮止部の配置数に関わりなく、甲3及び甲19に記載のように、仮止部を裏紙の底面全体ではなく裏紙の一部だけに設けることは、本件発明1が属する技術分野における周知の技術的事項であると認められる。 d そうすると、甲1-1発明において一つの領域と認識できる「粘着剤層(22)」を仮粘着裏紙の一部だけに設けることによってなし得る、相違点1-2に係る本件発明1の構成は、例えば甲3又は甲19に記載の周知の技術的事項から当業者が容易に想到し得ることである。 (エ) 作用効果について a 前記(イ)で検討したように、相違点1-1は実質的な相違点ではないから、 作用効果上の相違もないことになる。また、仮に実質的な相違点であったとしても、 取っ手としての作用効果上の相違は当業者が予測可能な程度のものにすぎない。 b 相違点1-2については、本件発明1における「第1剥離部より小さい」という特定事項は第1剥離部より極わずかに小さい場合を含んでいるのであるから、 作用効果上の相違はわずかなものでしかない。 (オ) そうすると、本件発明1と甲1-1発明との相違点はいずれも当業者が容易に想到し得ることであり、また、本件発明1がそれらの相違点に係る構成を有することにより、予測できない効果を奏すると認めることができないので、本件発明1は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。 ウ 本件発明3について(ア) 本件発明3と甲1-3発明とを対比する。 甲1-3発明における取っ手(24)は2つ存在し、本件発明3における第1延出部及び第2延出部に相当することから、本件発明3と甲1-3発明とは、前記イにおいて本件発明1について検討した以外の相違点はない。 (イ) したがって、本件発明3は、甲1-3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、甲1-3発明及び甲3に記載された事項又は甲1-3発明及び甲19に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。 エ 本件発明4について(ア) 本件発明4と甲1-4発明とを対比する。 a 甲1-4発明は、構成uにあるように、「携帯用情報端末」を対象とするものであるから、本件発明4の構成要件「前記装置は携帯型であり」を充足する。 b 甲1-4発明における構成s、tは、本件発明4の構成要件「前記第1延出部は、前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びており」及び「前記第2延出部は、前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びている」にそれぞれ相当し、新たな相違点はないから、本件発明4と甲1-4発明との相違点は、前記イにおいて検討した相違点1-1及び相違点1-2である。 (イ) したがって、本件発明4は、本件発明1と同様に、甲1-4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、甲1-4発明及び甲3に記載された事項又は甲1-4発明及び甲19に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。 オ 本件発明6について(ア) 本件発明6と甲1-6発明との対比 (一致点) 装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって接着面を有する保護シートと、前記接着面を覆うと共に分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと、前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と、前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と、前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられ且つ前記第1剥離部に重なって配置されると共に前記装置に貼り付け可能な1箇所の仮止部と、を備える保護シート貼付用のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法であって、 前記仮止部を装置の表面に前記保護シートを仮止めする仮止工程と、 前記仮止工程により前記保護シートを前記仮止部で仮止めした後に、前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして、前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第1剥離貼付工程と、 前記第1剥離貼付工程の後に、前記仮止部が設けられる前記第1剥離部を前記第1延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がすと共に前記仮止部を前記装置の表面から剥がして、前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第2剥離貼付工程と、を備えるシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法。 (相違点1-1) 仮止部について、本件発明6においては、「第1剥離部の外側にはみ出ないように」されているのに対して、甲1-6発明においては、その点が明らかでない点。 (相違点1-2) 仮止部について、本件発明6においては、「第1剥離部より小さい」のに対して、 甲1-6発明においては、仮粘着裏紙(21A)より小さいといえない点。 (イ) 相違点についての判断 a 相違点1-1及び相違点1-2は、前記イにおいて本件発明1について検討したのと同じ相違点であるから、相違点1-1及び1-2についての判断も前記イにおける判断と同じである。 b そうすると、本件発明6は、甲1-6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、甲1-6発明及び甲3に記載された事項又は甲1-6発明及び甲19に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。 カ 小括 本件各発明は、甲1発明及び甲3に記載された事項又は甲1発明及び甲19に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、 特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。本件各発明に係る本件特許は、特許法123条1項2号の規定により無効とされるべきものである。 キ 無効理由12、13、15及び16についての判断のまとめ(ア) 前記カのとおり、本件各発明は、甲1発明及び甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、同趣旨の無効理由12は理由がある。 (イ) 前記カのとおり、本件各発明は、甲1発明及び甲19に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、同趣旨の無効理由13は理由がある。 (ウ) 前記(ア)の無効理由12と同様に、本件各発明に対する無効理由15は理由がある。 (エ) 前記(イ)の無効理由13と同様に、本件各発明に対する無効理由16は理由がある。 (2) 無効理由4(甲3を主引用例とする進歩性欠如)について ア 甲3に記載された発明の認定 甲3には、次の甲3-1発明及び甲3-6発明(以下、併せて「甲3発明」という。)が記載されている。 (ア) 甲3-1発明 a:17〜82インチの電子ディスプレイデバイスの表面に貼り付けられて前記表面を保護する光学フィルム32であって、接着剤層14を有する光学フィルム32と、 b:前記接着剤層14を覆うと共に、分離ラインを介して並んで配置される第1の部分38a及び第2の部分38bを有する分割剥離ライナーと、 d:前記第2の部分における前記光学フィルムとは反対側の面に設けられる感圧接着剤(PSA)領域39であって、 e:前記第2の部分38bの外側にはみ出ないように前記第2の部分38bに重なって配置され、前記電子ディスプレイパネルに貼り付け可能であって、前記光学フィルム32を前記電子ディスプレイパネルの表面に接着するためのPSA領域39と、を備える光学フィルム貼付用のフィルム貼付構造体。 (イ) 甲3-6発明 h:17〜82インチの電子ディスプレイデバイスの表面に貼り付けられて前記表面を保護する光学フィルム32であって、接着剤層14を有する光学フィルム32と、 i:前記接着剤層14を覆うと共に分離ラインを介して並んで配置される第1の部分38a及び第2の部分38bを有する分割剥離ライナーと、 k:前記第2の部分38bにおける前記光学フィルム32とは反対側の面に設けられ且つ前記第2の部分38bの外側にはみ出ないように前記第2の部分38bに重なって配置されると共に前記電子ディスプレイデバイスに接着可能な感圧接着剤(PSA)領域39と、 l:を備える光学フィルム貼付用のフィルム貼付構造体を用いて光学フィルム32を貼付する貼付方法であって、 m:前記PSA領域39を電子ディスプレイパネルの表面に接着させ前記光学フィルム32を配置する工程と、 n’:前記工程により前記光学フィルム32を前記PSA領域39で配置した後に、前記第1の部分38aを前記光学フィルム32から剥がして、前記光学フィルム32を前記電子ディスプレイパネルの表面に配置する工程と、 o’:前記工程の後に、前記PSA領域39が設けられる前記第2の部分38bを前記光学フィルム32から剥がすと共に前記PSA領域39を前記電子ディスプレイデバイスの表面から剥がして、前記光学フィルム32を前記電子ディスプレイデバイスの表面に配置する工程と、 p:を備えるフィルム貼付構造体を用いて光学フィルム32を貼付する貼付方法。 イ 本件発明1について(ア) 本件発明1と甲3-1発明との対比 (一致点) 「装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって、接着面を有する保護シートと、 前記接着面を覆うと共に、分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと、 前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる仮止部であって、 前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置され、 前記装置に貼り付け可能であって、前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための前記第1剥離部より小さい仮止部と、を備えることを特徴とする保護シート貼付用のシート貼付構造体。」である点。 (相違点3-1) 本件発明1が、「前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と、」を有するのに対し、甲3-1発明は「延出部」を有しない点。 (相違点3-2) 仮止部について、本件発明1の仮止部が1箇所であるのに対して、甲3-1発明におけるPSA領域は個数が特定されていない点。 (イ) 相違点3-1についての判断 a 甲4(特開2006-168344号公報)に記載された事項(「c:前記第二の離型膜342及び前記第一の離型膜341それぞれから前記スクリーン保護膜30の外側に延びる第二の突起部344及び第一の突起部343」)における「第二の突起部」及び「第一の突起部」は、その剥離の順番から、それぞれ、本件発明1の「第1剥離部」の「延出部」及び「第2剥離部」の「延出部」に相当する。 b 甲4の段落【0025】には、「第一の突起部343は第一の離型膜341と異なり、粘着層32上に貼り付けられないので、使用者は手で第一の突起部343を持って便利に剥すことができる。」と記載されており、甲3-1発明においても「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」を剥がすための利便のために、 「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」のそれぞれから「光学フィルム32」の外側に延びる突起部を設けることは当業者が容易になし得ることといえる。 (ウ) 相違点3-2についての判断 a 甲1には、一つの領域として、1箇所の仮止部とすることが開示されている。 ここで、甲1発明において、粘着剤層22を仮粘着裏紙21や保護フィルム11よりも小さくしないことが必須であるとは認められず、仮粘着裏紙より小さい1箇所の仮止部を設けることは、本件各発明が属する技術分野における通常の技術的手段であるといえる。 b そうすると、上記甲3-1発明におけるPSA領域の個数を1つと特定することは、前記aに記載の通常の技術的手段から当業者が容易に行い得ることにすぎない。 (エ) 効果について 前記相違点3-1が奏する効果は、剥離部を容易に剥離することができること(本件明細書の【0064】)であるところ、当該効果は、上記(イ)bに記載したように、甲4の突起部により便利に剥すことができることから、当業者が予測可能な効果にすぎない。 また、前記相違点3-2が奏する効果について、本件発明1の仮止部が「1箇所」であること(本件明細書の【0100】)による効果は、本件明細書に明記されていないところ、保護シートの容易な位置決めによる位置ずれの低減、気泡やホコリが入ることを低減した状態での簡単な貼付という本件発明1の仮止部による効果(【0054】)は、甲3-1発明も、「容易に移動しないようにする」として、 位置ずれを低減するものであり、それにより、貼付直しがなくなることで気泡やホコリが入ることを低減した状態での簡単な貼付ができることも、当業者が予測可能な効果であって、当該効果は、仮止部が「1箇所」であるかどうかによるものではない。 よって、前記相違点に係る構成を有することによって、本件発明1が格別の作用効果を奏するということはできない。 (オ) 小括 したがって、本件発明1は、甲3-1発明並びに甲4に記載された事項及び甲1、 甲7(実用新案登録第3141815号公報)に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。 ウ 本件発明3について(ア) 本件発明3における構成要件「前記延出部は、前記第1剥離部から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と、前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と、を有する」は、本件発明1の構成要件「前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と、」と相違がないから、本件発明3は、甲3-1発明との間に新たな相違点を有さない。 (イ) したがって、本件発明3は、本件発明1と同様に、甲3-1発明並びに甲4に記載された事項及び甲1、7に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。 エ 本件発明4について(ア) 本件発明4における構成要件「前記第1延出部は、前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びており、前記第2延出部は、前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びている」点は、甲3-1発明との相違点(以下「相違点3-4」という。)になるが、甲4の段落【0025】の「第一の離型膜341は第一の突起部343を含む。第一の突起部343は第一の離型膜341の所定位置から延伸されるものであり、当該所定位置は、使用者が手で第一の突起部343を持って、第一の離型膜341を便利に剥がせることができれば、どこでも良い。」との記載及び同段落の「同様に、第二の離型膜342は第二の突起部344を含み、第二の突起部344の機能と形成方法は第一の突起部343の機能と形成方法と同じである。」という記載に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。 (イ) また、本件発明4における「前記装置は携帯型であり、」という構成は、 甲3-1発明が17インチのディスプレーを含む以上、社会通念上17インチのディスプレーを持つ機器は携帯可能であるから、実質的な相違点にはならない。 (ウ) したがって、本件発明4は、甲3-1発明並びに甲4に記載された事項及び甲1、7に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。 オ 本件発明6について (ア) 本件発明6と甲3-6発明との対比 本件発明6と甲3-6発明とを対比すると、前記イ(ア)の相違点3-1及び相違点3-2並びに前記エ(ア)の相違点3-4に加えて、次の点で相違する。 (相違点3-5) 本件発明6においては、「前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥が」すのに対し、甲3-6発明においては剥がす方法に特定がない点。 (相違点3-6) 本件発明6においては、「前記第1剥離部を前記第1延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がす」のに対し、甲3-6発明においては、剥がす方法に特定がない点。 (イ) 相違点についての判断 a 相違点3-1及び3-2並びに相違点3-4については、それぞれ前記イ(イ)及び(ウ)並びにエ(ア)で検討したとおりである。 b また、甲4における「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」はいずれも剥がす際に引っ張るためのものであるから、相違点3-5及び相違点3-6も甲3-6発明に甲4に記載された事項を適用することで自然と達成されるものである。 c したがって、本件発明6は、甲3-6発明並びに甲4に記載された事項及び甲1、7に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。 カ 小括 本件各発明は、甲3発明並びに甲4に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。 キ 無効理由4についての判断のまとめ 前記カにおいて検討したように、本件各発明は、甲3発明並びに甲4に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえるから、本件各発明に対する無効理由4は理由がある。 (3) むすび 本件各発明に係る本件特許は、特許法123条1項2号の規定により無効とされるべきものである。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(相違点の看過・無効理由12、13、15及び16関係)について 本件審決は、甲1-1発明につき、「仮粘着裏紙(21A)は、仮止部である」、 「粘着剤層(22)は一つの領域と認識できる」と認定した上、本件発明1と甲1-1発明とが「1箇所の仮止部」において一致すると認定し、次の相違点を認定しなかった。 しかしながら、甲1-1発明には、保護フィルムの裏面全体に仮粘着裏紙(21)とその粘着剤層(22)を設ける必要があるとの技術的思想があるだけであって、 そこには、仮止部を幾つ設けるかという仮止部の個数についての認識は存在しない。 そうすると、本件発明1と甲1-1発明は、「1箇所の仮止部」において一致せず、両発明の間には、次の相違点が存在することになる。本件審決には、これを看過した誤りがある。 「本件発明1は、仮止部を1箇所備えるのに対し、甲1-1発明には、仮止部の個数についての概念が存在しない点。」 2 取消事由2(相違点1-2についての判断の誤り・無効理由12、13、15及び16関係)について 甲1-1発明は、携帯用情報端末の液晶画面に保護フィルムを付着する構造に関するものである。従来の一般的な保護フィルムは、携帯用情報端末に保護フィルムを貼り付ける際、事前に対象面を清潔に清掃する必要があり、また、1回目の貼付において正確に貼り付けなければならなかったところ、この作業は極めて難しく、 1回で正確に貼り付けることができなかった場合、ずれた保護フィルムを取り外して直す必要があり、その付け外しの過程において、接着剤に異質物が投入されてしまうという問題があった。甲1-1発明の保護フィルムは、1回の作業において、 極めて難しかった定位置に正確に貼り付けることを可能にすると同時に、異質物を吸着除去して保護フィルムを取り付けるときに清潔な面を取得することができるようにしたものである。 そうすると、仮粘着裏紙(21)とその粘着剤層(22)が保護フィルム(11)の底面全体に設けられているとの構成は、甲1-1発明における必須の構成であるといえる。なぜなら、仮粘着裏紙(21)とその粘着剤層(22)が保護フィルム(11)の底面全体に設けられていないと、対象面への付け外しに伴う異質物の吸着除去において、対象面のどの部分の異質物を除去できているか分からなくなるし、 付け外しの作業に伴って投入された異質物の除去も不可能となるからである。このように、甲1-1発明が効果を奏するためには、粘着剤層(22)と保護フィルム(11)を同じ大きさにする必要がある。 したがって、甲1-1発明に甲3又は甲19に記載された事項を適用することには、阻害要因があるから、甲1-1発明にこれらの事項を適用することはできない。 以上のとおりであるから、当業者において、甲1-1発明及び甲3又は甲19に記載された周知の技術的事項から相違点1-2に係る本件発明1の構成に容易に想到し得るとした本件審決の判断は、誤りである。 3 本件発明3、4及び6について 本件審決は、甲1を主引用例として、本件発明1が容易に発明をすることができたと判断した上、本件発明1に従属する本件発明3及び4も、容易に発明をすることができたと判断し、また、本件発明1の構成を有するシート貼付構造体を対象とした本件発明6に係る貼付方法についても、容易に発明をすることができたと判断した。 しかしながら、本件発明1が容易に発明をすることができたといえないことは、 取消事由1及び2のとおりであるから、同様に、本件発明3、4及び6についても、 容易に発明をすることができたとはいえない。これと異なる本件審決は、取り消されるべきである。 4 取消事由3(相違点3-1についての判断の誤り・無効理由4関係)について (1) 甲3の「要約」、「背景」及び請求項1の記載によると、甲3-1発明の光学フィルムは、超大型のディスプレイパネル(最低でも17インチのものであり、 適するのは82インチのものであり、更にそれより大きいものを含む。)に貼り付けられることを想定しており、一般消費者にとっては、取扱いが非常に困難なものである。加えて、甲3-1発明の光学フィルムが相当に高価なものであることも併せ考慮すると、甲3-1発明の光学フィルムは、一般消費者ではなく、専門業者のような貼付作業に極めて習熟した技術者がその貼付を行うことを想定しているといえる。このような技術者にとって、本件発明1の「延出部」のような部材は不要である。 (2) 甲3-1発明の光学フィルムの貼付作業は、甲3の図4bに示されているように、両手で光学基材16と剥離ライナー18を把持して実施されるものである。 この作業において、貼付作業に利用できるように把持部を形成する場合、最低でも10cm程度の大きさが必要になると見込まれるところ、甲3によると、甲3-1発明の光学フィルムをディスプレイパネルに配置した際、光学フィルムの縁部とディスプレイパネルの縁部との間に約3mm未満のギャップを有することのみが許容されるのであるから(図7a〜7dに示された実施例)、10cmもの大きさの把持部が剥離ライナー38に設けられていては、そのような精度の作業を行うことはできない。さらに、甲3の図面によると、貼付対象のディスプレイパネルの周囲に大きな段差のあるフレームがあることが想定されているところ、このような段差のあるフレームに光学フィルムを貼り付ける場合、10cmもの大きさの把持部があると、正確な位置決めに支障が生じるし、フレームと把持部が干渉するので、そもそも位置決めは不可能である。このように、甲3-1発明においては、本件発明1の「延出部」のような部材があると、甲3-1発明が想定している貼付作業が不可能になる。 (3) 以上のとおり、甲3-1発明に相違点3-1に係る「延出部」を設けることはできないから、相違点3-1についての本件審決の判断は、誤りである。 5 取消事由4(相違点3-2についての判断の誤り・無効理由4関係)について (1) 取消事由3において主張したとおり、甲3-1発明の光学フィルムは、超大型のディスプレイパネル(最低でも17インチのものであり、適するのは82インチのものであり、更にそれより大きいものを含む。)に貼り付けられることを想定している。 また、甲3には、「PSA領域39」の全てにつき、「regions」と複数形が用いられており(なお、「剥離ライナー」については、「one or more」という表現が用いられている。)、さらに、甲3の図面にも、「PSA領域39」が4箇所であることが示されている。 以上によると、甲3-1発明の「PSA領域39」は、4箇所存在するか、少なくとも複数箇所存在するものである。そして、超大型のディスプレイパネルに貼り付けられる光学フィルムは、必然的に巨大なものとなり、そのような巨大な光学フィルムを対象面に仮止めするとなると、仮止部が1つでは作業ができないことからすると、甲3-1発明において、「PSA領域39」を4箇所設けることは、必須の構成であり、これを1箇所に変更すると、甲3-1発明は、発明として機能しないことになる。なお、仮に4つの「PSA領域39」を一体のものとした場合、それは、大きなものとならざるを得ず、もはや「仮止部」の範ちゅうに入るものではないし、「PSA領域39」が大きくなる結果、作業性が著しく低下することになる。 (2) 本件審決は、仮止部を1箇所にすることの根拠を甲1に求めている。しかしながら、取消事由1において主張したとおり、甲1は、粘着剤層(22)は仮粘着裏紙(21A)の底面全面に形成される必要があるとの技術的思想を開示するのみであって、甲1から、仮止部を1箇所設けるとの技術的思想を抽出することはできない。 (3) 以上のとおりであるから、相違点3-2についての本件審決の判断は、誤りである。 6 本件発明3、4及び6について 本件審決は、甲3を主引用例として、本件発明1が容易に発明をすることができたと判断した上、本件発明1に従属する本件発明3及び4も、容易に発明をすることができたと判断し、また、本件発明1の構成を有するシート貼付構造体を対象とした本件発明6に係る貼付方法についても、容易に発明をすることができたと判断した。 しかしながら、本件発明1が容易に発明をすることができたといえないことは、 取消事由3及び4のとおりであるから、同様に、本件発明3、4及び6についても、 容易に発明をすることができたとはいえない。これと異なる本件審決は、取り消されるべきである。 |
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被告の主張
1 取消事由1(相違点の看過・無効理由12、13、15及び16関係)について 甲1には、粘着剤層(22)が抽象的な仮止部材として開示されているのみならず、図5aにおいて、仮粘着裏紙(21A)の底面全部に分割されるなどすることなく単一の部材として配された構造が具体的に開示されている。したがって、甲1に接した当業者が「1箇所」の粘着剤層(22)を有する具体的構造を認識するのに特段の困難はなく、甲1-1の仮止部は、「1箇所」であると認められる。 以上のとおりであるから、本件審決に相違点を看過した誤りはない。 2 取消事由2(相違点1-2についての判断の誤り・無効理由12、13、15及び16関係)について 甲1の段落【0024】によると、甲1-1発明が解決しようとする課題は、1回で正確に保護フィルムを情報端末に貼付可能にすることにあるといえる。これに対し、段落【0023】には、異質物への言及があるものの、これは、保護フィルムを1回で正確に貼り付けられなかった場合に生じる悪影響を説明したものにすぎず、異質物の除去自体が解決課題であると認識されているわけではない。 甲1-1発明の作用効果をみても、甲1の段落【0034】には、保護フィルムが正確に貼り付けられるという効果を奏することが詳細に説明されている。これに対し、段落【0035】には、異質物の吸着除去が効果として記載されているものの、これは、保護フィルムが正確に貼り付けられることに付随する効果にすぎない。 そうすると、甲1-1発明の主眼は、あくまで保護フィルムの正確な貼付にあるといえるから、甲1-1発明に接した当業者において、粘着剤層(22)が設けられた部分につき異質物の吸着除去という付随的な効果が期待でき、また、粘着剤層(22)を仮粘着裏紙(21A)の全面に設ける構成があり得ると理解することはあっても、粘着剤層(22)を仮粘着裏紙(21A)の全面に設けることが必須の構成であるとまで考えることはない。したがって、甲1-1発明に甲3又は甲19に記載された発明を組み合わせ、甲1-1発明の粘着剤層(22)を仮粘着裏紙(21A)より小さくすることに阻害要因はない。 仮に、甲1-1発明が保護フィルムの正確な貼付及び異質物の吸着除去という2つの効果を奏するものであるとしても、甲1-1発明に他の発明を組み合わせるに当たり、後者の効果を奏する甲1-1発明の構成を維持するか、当該効果を奏する他の代替的手段を採用するかは、当業者が適宜選択する事項である。したがって、 甲1-1発明の効果に関する原告の主張を前提にしても、甲1-1発明の粘着剤層(22)を仮粘着裏紙(21A)より小さくすることにつき、阻害要因は認められない。 以上のとおりであるから、相違点1-2についての本件審決の判断に誤りはない。 3 本件発明3、4及び6について 原告は、本件発明1が容易に発明をすることができたといえないことを前提に、 本件発明3、4及び6も容易に発明をすることができたとはいえない旨主張するが、 取消事由1及び2はいずれも理由がないから、原告の上記主張は、前提を欠くものとして失当である。 4 取消事由3(相違点3-1についての判断の誤り・無効理由4関係)について (1) 原告は、甲3-1発明の光学フィルムは一般消費者ではなく、専門業者のような貼付作業に極めて習熟した技術者がその貼付を行うことを想定している旨主張する。しかしながら、原告の主張は、本件明細書に根拠がなく、それを裏付ける技術常識もない。また、甲3-1発明の実施品の実際の利用者が誰であるかは、発明の構成に影響するものではないし、特許要件の充足の判断における開示の有無とは関係のない事情である。さらに、現に延出部のないフィルムも消費者向けに販売されているから。甲3に接した当業者において、甲3-1発明が専門の技術者による貼付を想定したものであると考えることはない。仮に、甲3-1発明において、 延出部が不要であるとしても、延出部を備えればその利便性を享受できるのであるから、単に不要であることは、甲3-1発明と他の発明の組合せを困難にしたり、 阻害したりするものではない。 原告は、甲3-1発明の光学フィルムが超巨大なディスプレイパネル(最低でも17インチのものであり、適するのは82インチのものであり、更にそれより大きいものを含む。)に貼り付けられることを想定しているとも主張する。しかしながら、甲3には、「少なくとも17インチ」及び「17から82インチ」との記載があるほか、その実施例1は40インチの大型液晶ディスプレイテレビの例であり、 実施例2は23インチのコンピュータディスプレイの例である。このように、甲3には、82インチのディスプレイに適するという記載も示唆もないから(なお、 「要約」にもそのような記載及び示唆はない。)、甲3-1発明は、17インチ以上のディスプレイを対象としており、超巨大なディスプレイのみを対象とするものではない。 (2) 原告は、甲3-1発明において把持部を形成する場合、最低でも10cm程度の大きさが必要になるし、また、甲3-1発明においては貼付対象のディスプレイパネルの周囲に大きな段差のあるフレームがあることが想定されているから、 甲3-1発明において把持部を形成すると、貼付作業が不可能になる旨主張する。 しかしながら、上記主張のうち最低でも10cmの把持部が必要であるとの点は、 何ら根拠がないものである。また、貼付の対象が23インチ程度の面積を有するものであれば、一般ユーザにおいて、左右のギャップを2.5mm以下に抑えて適切に貼り付けることに、特段の問題はない。さらに、甲3-1発明においては、貼付対象は17〜82インチの大型ディスプレイであって、それ以外に特段の限定はないから、ディスプレイの周囲に段差がないものも当然に貼付の対象に含まれる。このように、甲3-1発明に把持部を設けたとしても、貼付作業が不可能又は困難になることはない。 (3) 以上のとおりであるから、相違点3-1についての本件審決の判断に誤りはない。 5 取消事由4(相違点3-2についての判断の誤り・無効理由4関係)について 取消事由3において主張したとおりであるから、甲3に接した当業者において、 甲3-1発明が特に82インチのディスプレイに適すると理解することはない。 また、甲3-1発明においては、貼付の対象の面積の幅が大きく、「PSA領域39」をこれらの全ての面積に適する特定の構成に限定することは技術常識に照らして容易でないし、甲3-1発明の目的に照らし、「PSA領域39」の構成を特定の大きさや個数に限定することに技術的意味はない。そうすると、甲3において、 「領域」に相当する「regions」という複数形が用いられているのは、「PSA領域39」の個数をあえて特定しない趣旨であると理解するのが素直であり、甲3に接した当業者は、「PSA領域39」の個数は限定されていないと理解するといえる(なお、英語の複数形が常に単数を含まないと解することはできない。)。 さらに、光学フィルムの貼付時に用いる仮止部材の個数は、本来的に、光学フィルムの材質、大きさ、重さ及び硬さ並びに仮止部材の材質、大きさ及び固定力といった要因の相関関係により、適宜決定されるものである。 加えて、1個の「PSA領域39」を配置した光学フィルムを23インチや82インチのディスプレイパネルに適用しても、貼付に特段の支障は生じない。 以上によると、甲3-1発明の「PSA領域39」の個数を1個とすることは、 生産の容易さ、コスト等の観点から、当業者であればまず不可避的に考慮することとなる選択肢であり、極めて容易になし得たことである。 したがって、相違点3-2についての本件審決の判断に誤りはない。 6 本件発明3、4及び6について 原告は、本件発明1が容易に発明をすることができたといえないことを前提に、 本件発明3、4及び6も容易に発明をすることができたとはいえない旨主張するが、 取消事由3及び4はいずれも理由がないから、原告の上記主張は、前提を欠くものとして失当である。 |
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当裁判所の判断
1 本件各発明の概要(1) 本件明細書の記載 本件明細書には、次の記載がある。 【技術分野】【0001】 本発明は、ゲーム機などの装置における表示面などの表面を保護するための保護シートを有するシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法に関する。 【背景技術】【0002】 従来、ゲーム機(装置)などの被貼付部材の表示面(表面)を保護するための保護シートと、保護シートの接着面を保護する剥離シートと、剥離シートに形成され保護シートからはみ出す大きさのフリー部分と、保護シートの一端側を仮止めするための仮止シールと、を備えるシート貼付構造体が知られている。このシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法であって、保護シートの一端側を表示面の外側の枠体部分に仮止シールで上方側から仮止めした状態で、保護シートを上側から押さえつけて保護シートの接着面と被貼付部材の表示面を密着させながらフリー部分を引っ張ることで、接着面と被貼付部材の表示面とを密着させた状態で剥離シートを剥離して、保護シートを被貼付部材の表示面に貼り付けることができるシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。 【0003】 特許文献1に記載のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法においては、被貼付部材の表示面と保護シートとの間に気泡やホコリ等が入ることが抑制されることが開示されている。 【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0005】 特許文献1に記載のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法においては、保護シートの一端側を表示面の外側の枠体部分に仮止シールで上方側から貼り付けた状態で、保護シートをゲーム機の表示面に貼り付けている。仮止シールにより仮止めした部分において、シート貼付構造体の厚さの分だけ段差が生じる。 これにより、シート貼付構造体から剥離シートをフリー部分を引っ張って剥がす際に、仮止シールがシート貼付構造体の厚さの分だけ水平方向に移動しやすく、保護シートの水平方向への位置ずれが起こりやすいことが分かった。 また、特許文献1に記載のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法においては、シート貼付構造体から剥離シートを剥がす際に、もし剥離シートを斜めに引っ張ると、仮止シールが傾きやすく、保護シートの位置ずれが生じる可能性があることが分かった。 そのため、保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法が望まれる。 【0006】 本発明は、保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】【0007】 本発明は、装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって、 接着面を有する保護シートと、前記接着面を覆うと共に、分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと、前記第1剥離部及び/又は前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる延出部と、を備えることを特徴とする保護シート貼付用のシート貼付構造体に関する。 【0008】 また、前記第1剥離部又は前記第2剥離部に設けられ、前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための仮止部を更に備えることが好ましい。 【0009】 また、前記仮止部は、前記装置に貼り付け可能であることが好ましい。 【0013】 また、前記延出部は、前記第1剥離部から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と、前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と、を有することが好ましい。 【0014】 また、前記第1延出部は、前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びており、前記第2延出部は、前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びていることが好ましい。 【0018】 また、本発明は、装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって接着面を有する保護シートと、前記接着面を覆うと共に分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと、前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と、前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と、前記第1剥離部に設けられた仮止部と、を備える保護シート貼付用のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法であって、 前記仮止部を装置の表面に前記保護シートを仮止めする仮止工程と、前記仮止工程により前記保護シートを前記仮止部で仮止めした後に、前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして、前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第1剥離貼付工程と、前記第1剥離貼付工程の後に、前記仮止部が設けられる前記第1剥離部を前記第1延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がすと共に前記仮止部を前記装置の表面から剥がして、前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第2剥離貼付工程と、を備えるシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法に関する。 【発明の効果】【0019】 本発明によれば、保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法を提供することができる。 【発明を実施するための形態】【0044】 まず、仮止工程において、図3及び図4に示すように、シート貼付構造体1を使用する使用者は、仮止貼付部30から仮止保護シート40を剥離させて仮止貼付部30の粘着面30aを露出した状態で、仮止貼付部30をゲーム機8の表示面81に貼付する。これにより、保護シート10をゲーム機8の表示面81に位置決めした状態で、保護シート10をゲーム機8の表示面81に仮止めする。ここで、仮止貼付部30の大きさは、第1剥離部21よりも小さい。そのため、保護シート10の接着面10aが露出していない状態で仮止貼付部30を表示面81に位置決めして貼り付けることで、保護シート10の位置決めを容易に行うことができる。 【0045】 次に、第1剥離貼付工程において、シート貼付構造体1の使用者は、仮止工程により保護シート10を仮止貼付部30で仮止めした後に、図4に示す状態から、第2剥離部22を第2延出部221を引っ張ることにより保護シート10から剥がして、保護シート10をゲーム機8の表示面81に貼付する。 具体的には、シート貼付構造体1を使用する使用者は、保護シート10をゲーム機8の表示面81に押さえ付けながら、第2延出部221の端部224を把持して、 第2延出部221をX方向のX2側に引っ張る。 【0046】 これにより、第2剥離部22は、切断可能ライン23により切断されると共に、 第2剥離部22の切断可能ライン23寄りのY方向のY2側の端部から外側に向けて順に剥離される。詳細には、第2延出部221をX方向のX2側に引っ張ることにより、第2剥離部22は、第2延出部221により引っ張られて、折り返し傾斜ライン223が斜め上方側に平行移動して、図4における斜め右上方側に向けて剥離されていく。 【0047】 ここで、第2延出部221は、図2に示すように、第2剥離部22の保護シート10側の面22aにつながる面221aが外側に配置されるように、折り返し傾斜ライン223を介して、折り返されている。これにより、第2延出部221をX方向のX2側に引っ張った場合に、第2剥離部22における保護シート10の接着面10a側の面22aを折り返し傾斜ライン223を境にゲーム機8の表示面81側に反転させながら第2剥離部22を移動させて、保護シート10の接着面10aから第2剥離部22を剥離することができる。 【0048】 また、第2延出部221は、切断可能ライン23寄りに配置されている。そのため、第2延出部221を引っ張ることにより、切断可能ライン23を容易に切断することができる。更に、本実施形態においては、第2延出部221の一辺222は、 切断可能ライン23のY方向のY2側の端部から延びている。そのため、第2延出部221を引っ張るだけで、切断可能ライン23を一層容易に切断することができる。 【0049】 保護シート10をゲーム機8の表示面81に押さえ付けながら保護シート10から第2剥離部22が剥離されることで、保護シート10は、第2剥離部が剥離された部分である切断可能ライン23寄りの部分から順に、ゲーム機8の表示面81に貼付される。ここでは、保護シート10の接着面10aとゲーム機8の表示面81とを密着させながら第2剥離部22を剥離させて、保護シート10における第2剥離部22が貼付されていた部分を、ゲーム機8の表示面81に貼付することができる。 これにより、図5に示すように、保護シート10は、第2剥離部22を剥離することで、ゲーム機8の表示面81のX方向のX2側の略半分の部分に貼り付けられる。 【0050】 次に、第2剥離貼付工程において、シート貼付構造体1の使用者は、第1剥離貼付工程の後に、図5に示す状態から、仮止貼付部30が設けられる第1剥離部21を第1延出部211を引っ張ることにより保護シート10から剥がすと共に仮止貼付部30をゲーム機8の表示面81から剥がして、保護シート10をゲーム機8の表示面81に貼付する。 【0051】 具体的には、シート貼付構造体1を使用する使用者は、第1剥離部21を保護シート10から剥離させる。第2剥離貼付工程においては、第1剥離貼付工程と同様に、保護シート10をゲーム機8の表示面81に押さえ付けながら、第1延出部211の端部214を把持して、第1延出部211をX方向のX1側に引っ張る。 第1剥離部21を保護シート10から剥離させる手順は、第2剥離部22を剥離させるために第2延出部221をX2側に引っ張る手順に代えて第1剥離部21を剥離させるために第1延出部211をX1側に引っ張ることが異なるのみで、前述の第2剥離部22を保護シート10から剥離させる第1剥離貼付工程とほぼ同様である。そのため、第2剥離貼付工程における第1剥離貼付工程と同様の動作は、第1剥離貼付工程の説明を援用して、その説明を省略する。この場合、第2剥離貼付工程においては、第1剥離貼付工程と同様の作用効果が奏される。 【0052】 また、第2剥離貼付工程においては、第1剥離貼付工程と同様の動作を行うことによって、第1剥離部21を保護シート10から剥離させる際に、第1剥離部21とともに、仮止貼付部30は、ゲーム機8の表示面81から剥離される。ここで、 第2剥離貼付工程は、第1剥離貼付工程の後に行われる。そのため、保護シート10における第2剥離部22が貼付されていた部分は、第1剥離貼付工程により、ゲーム機8の表示面81に貼付されている状態である。これにより、保護シート10における第2剥離部22が貼付されていた部分がゲーム機8の表示面81に貼付されているため、第1剥離部21を安定して保護シート10から剥離させることができ、仮止め用に使用した仮止貼付部30を第1剥離部21とともに容易に除去することができる。 【0053】 そして、第2剥離貼付工程においては、第1剥離貼付工程と同様に、保護シート10の接着面10aとゲーム機8の表示面81とを密着させながら第1剥離部21を剥離させて、保護シート10における第1剥離部21が貼付されていた部分を、 ゲーム機8の表示面81に貼付する。第2剥離貼付工程においては、保護シート10における第2剥離部22が貼付されていた部分がゲーム機8の表示面81に貼付されているため、保護シート10における第1剥離部21が貼付されていた部分をゲーム機8の表示面81に安定して貼付することができる。 以上により、保護シート10の全体をゲーム機8の表示面81に貼付することができる。 【0054】 以上のように構成されるシート貼付構造体1は、仮止貼付部30により保護シート10を位置決めした状態で仮止めすることで、保護シート10を容易に位置決めすることができる。これにより、保護シート10の位置ずれを低減することができる。そして、保護シート10とゲーム機8の表示面81との間に気泡やホコリが入ることを低減した状態で、簡単に、保護シート10をゲーム機8の表示面81に貼付することができる。 【0055】 以上に説明した第1実施形態のシート貼付構造体1によれば、例えば、次のような効果が奏される。 【0056】 第1実施形態においては、ゲーム機8の表示面81に貼り付けられてゲーム機8の表示面81を保護する保護シート10であって、接着面10aを有する保護シート10と、接着面10aを覆うと共に、分離ライン23を介して並んで配置される第1剥離部21及び第2剥離部22を有する剥離シート20と、第1剥離部21及び第2剥離部22から保護シート10の外側に延びる延出部211、221と、を備える。そのため、第1延出部211及び第2延出部221を引っ張るだけで、第1剥離部21及び第2剥離部22を保護シート10から容易に剥離させて、保護シート10をゲーム機8の表示面81に容易に貼付することができる。 【0057】 また、第1実施形態においては、第1剥離部21に設けられ、保護シート10をゲーム機8の表示面81に仮止めするための仮止貼付部30を更に備える。そのため、仮止貼付部30により保護シート10を位置決めした状態で仮止めすることで、 保護シート10を容易に位置決めすることができる。これにより、保護シート10の位置ずれを低減することができる。また、仮止貼付部30により保護シート10をゲーム機8に仮止めできるため、保護シート10をゲーム機8の表示面81に容易に貼付することができる。 【0058】 また、第1実施形態においては、仮止貼付部30は、ゲーム機8に貼り付け可能である。そのため、仮止貼付部30をゲーム機8に貼り付けるだけで、保護シート10をゲーム機に容易に仮止めすることができる。 【0059】 また、第1実施形態においては、仮止貼付部30は、第1剥離部21における切断可能ライン23寄りに配置される。そのため、仮止貼付部30を切断可能ライン23側に貼り付けた安定した状態で、保護シート10から第2剥離部22を剥離させることができる。これにより、安定した状態で保護シート10を表示面81に貼付することができるため、保護シート10の位置ずれを低減することができる。 【0060】 また、第1実施形態においては、第1延出部211は、第1剥離部21における切断可能ライン23寄りの部分から保護シート10の外側に延びており、第2延出部221は、第2剥離部22における切断可能ライン23寄りの部分から保護シート10の外側に延びている。そのため、第1剥離部21及び第2剥離部22を、切断可能ライン23側から剥離することができる。これにより、保護シート10を端部側から貼り付けるよりも、保護シート10を安定した状態で貼り付けることができ、保護シート10とゲーム機8の表示面81との間に気泡やホコリが入ることを低減することができる。 【0061】 特に、第1実施形態においては、切断可能ライン23は、保護シート10のX方向の略中央に形成される。そのため、保護シート10をX方向の略中央側から端部側に拡がるように、ゲーム機8の表示面81に貼り付けることができる。これにより、保護シート10とゲーム機8の表示面81との間に気泡やホコリが入ることを一層低減することができる。 【0062】 また、第1実施形態においては、第1延出部211は、第1剥離部21の保護シート10側の面21aにつながる面211aが外側に配置されるように折り返されると共に、切断可能ライン23に交差する方向Xで且つ第2剥離部22から遠ざかる方向(X1側)に延びており、第2延出部221は、第2剥離部22の保護シート10側の面22aにつながる面221aが外側に配置されるように折り返されると共に、切断可能ライン23に交差する方向Xで且つ第1剥離部21から遠ざかる方向(X2側)に延びている。 【0063】 そのため、第1延出部211及び第2延出部221をX方向のX1側又はX2側に引っ張ることにより、第1剥離部21及び第2剥離部22を切断可能ライン23側から順に剥離することができる。これにより、第1延出部211及び第2延出部221を引っ張るだけで、第1剥離部21及び第2剥離部22を保護シート10から容易に剥離させて、保護シート10をゲーム機8の表示面81に容易に貼付することができる。 【0064】 また、第1延出部211は、第1剥離部21の保護シート10側の面21aにつながる面211aが外側に配置されるように折り返される。第2延出部221は、 第2剥離部22の保護シート10側の面22aにつながる面221aが外側に配置されるように折り返される。そのため、第1延出部211及び第2延出部221をX方向のX1側又はX2側に引っ張った場合に、第1剥離部21及び第2剥離部22における保護シート10の接着面10a側の面21a、22aを折り返し傾斜ライン223を境に反転させながら、保護シート10から第2剥離部22を剥離するように移動させることができる。これにより、第1延出部211及び第2延出部221をX方向のX1側又はX2側に引っ張ることにより、第1剥離部21及び第2剥離部22を、保護シート10の接着面10aから容易に剥離させることができる。 【0065】 また、第1実施形態においては、仮止貼付部30をゲーム機8の表示面81に保護シート10を仮止めする仮止工程と、仮止工程により保護シート10を仮止貼付部30で仮止めした後に、第2剥離部22を第2延出部221を引っ張ることにより保護シート10から剥がして、保護シート10をゲーム機8の表示面81に貼付する第1剥離貼付工程と、第1剥離貼付工程の後に、仮止貼付部30が設けられる第1剥離部21を第1延出部211を引っ張ることにより保護シート10から剥がすと共に仮止貼付部30をゲーム機8の表示面81から剥がして、保護シート10をゲーム機8の表示面81に貼付する第2剥離貼付工程と、を備える。 これにより、仮止貼付部30により保護シート10を位置決めした状態で仮止めすることで、保護シート10の位置ずれを低減することができる。 【0066】 また、第1実施形態においては、接着面10aを有し、接着面10aがゲーム機8の表示面81に貼付される保護シート10と、接着面10aを覆うように接着面10aに貼付され、ゲーム機8の表示面81に保護シート10が貼付される際に接着面10aから剥離される剥離シート20であって、分離ライン23を介して並んで配置される第1剥離部21及び第2剥離部22を有する剥離シート20と、第1剥離部21から保護シート10の外側に延びる第1延出部211と、第2剥離部22から保護シート10の外側に延びる第2延出部221と、第1剥離部21におけるゲーム機8の表示面81側に設けられ、第1剥離部21の大きさよりも小さい仮止貼付部30であって、仮止貼付部30がゲーム機8の表示面81に貼付された後において、第1剥離部21が接着面10aから剥離されるときにゲーム機8の表示面81から剥離される仮止貼付部30と、を備える。 【0067】 そのため、仮止貼付部30により保護シート10を位置決めした状態で仮止めすることで、保護シート10を容易に位置決めすることができる。これにより、保護シート10の位置ずれを低減することができる。 また、第1剥離部21を剥離させるだけで、ゲーム機8の表示面81に貼付した仮止貼付部30を剥離することができるため、仮止め用に使用した仮止貼付部30を容易に除去することができる。 【0068】 また、仮止貼付部30の大きさは、第1剥離部21よりも小さい。そのため、保護シート10を位置決めする際のシート貼付構造体1の取り扱いが容易である。 また、仮止貼付部30は、第1剥離部21におけるゲーム機8の表示面81側に設けられている。そのため、表示面81の周囲に段差が形成されている場合や、ゲーム機8の表示面81の外側に仮止めするための部分がない場合においても、ゲーム機8の表示面81上に仮止貼付部30を貼り付けて位置決めをすることができる。 これにより、ゲーム機8の表示面81上に仮止貼付部30を直接貼付するだけで、 保護シート10の位置決めを容易に行うことができる。 (2) 本件各発明の概要 上記(1)の記載によると、本件各発明の概要は、次のとおりであると認められる。 すなわち、本件各発明は、ゲーム機等の装置における表示面等の表面を保護するための保護シートを有するシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法に関するものである。従来から、保護シートの一端側を表示面の外側の枠体部分に仮止シールで上方側から仮止めした状態で、保護シートを上側から押さえつけて保護シートの接着面と被貼付部材の表示面を密着させながらフリー部分を引っ張ることで、接着面と被貼付部材の表示面とを密着させた状態で剥離シートを剥離して、保護シートを被貼付部材の表示面に貼り付けることができる貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法が知られていた。しかし、上記の貼付方法においては、仮止シールにより仮止めした部分において、シート貼付構造体の厚さの分だけ段差が生じ、これにより、仮止めシールがシート貼付構造体の厚さの分だけ水平方向に移動しやすく、保護シートの水平方向への位置ずれが起こりやすいという課題があり、また、シート貼付構造体から剥離シートを剥がす際に、 もし剥離シートを斜めに引っ張ると、仮止シールが傾きやすく、保護シートの位置ずれが生じる可能性があるとの課題があった。かかる課題を解決し、保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法を提供することを目的として、本件各発明は、装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって、接着面を有する保護シートと、前記接着面を覆うとともに、分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと、前記第1剥離部及び/又は前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる延出部と、を備えることを特徴とする保護シート貼付用のシート貼付構造体(前記第1剥離部に設けられ、前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための仮止部を備えるとともに、仮止部の大きさを前記第1剥離部よりも小さくしたもの)並びにこのようなシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法であって、前記仮止部を装置の表面に前記保護シートを仮止めする仮止工程と、前記仮止工程により前記保護シートを前記仮止部で仮止めした後に、前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして、前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第1剥離貼付工程と、前記第1剥離貼付工程の後に、前記仮止部が設けられる前記第1剥離部を前記第1延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がすとともに前記仮止部を前記装置の表面から剥がして、前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第2剥離貼付工程と、を備えるシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法を採用したものである。これにより、本件各発明は、保護シートの位置決めをした状態で仮止めをすることで、保護シートの位置決めを容易に行うことができ、 保護シートの位置ずれを低減するなどの効果を奏する。 2 取消事由3(相違点3-1についての判断の誤り・無効理由4関係)について 事案に鑑み、取消事由3から検討する。 (1) 甲3の記載 甲3には、次の記載がある。 ア 「要約 大型ディスプレイパネルに光学フィルムを貼り付ける方法が記載される。この方法はパネルの所与の領域を覆うようにプレカット光学フイルム(20)を利用し、 その結果、フィルムは、パネルに接着された後に切断又はトリミングされる必要がない。この方法は、対角線208cm(82インチ)の可視領域を有するような大型ディスプレイパネルでの使用に適している。」(表紙の下から4〜1行目) イ 「技術分野 本開示は、光学フィルムを大型ディスプレイパネルに貼り付ける方法に関する。」(1頁6〜8行目) ウ 「背景 手持ちデバイス、コンピュータのモニタ及びテレビなどの電子デバイスは、デバイスが開梱された瞬間から損傷を受けやすい、壊れやすい新品のディスプレイパネルを含む。光学的品質の保護フィルムが利用可能であり、デバイスが購入された後又はデバイスの製造中に、消費者によって、ディスプレイパネルの露出した表面に貼り付けられる。一般に、保護フィルムで覆われるディスプレイパネルの面積が小さいほど、より容易に、光学的欠陥がほとんど又は全くない状態でパネルにフィルムを貼り付けることができる。テレビ、サイネージ及び情報ディスプレイのような大型電子デバイスは、大きな表示領域を有するディスプレイパネルを用いて開発されており、例えば、混雑した鉄道駅において移り変わる時刻表を通信するために使用されるタッチスクリーンが開発されており、208cm(82インチ)以上の大きさとすることができる。」(1頁11〜20行目) エ 「図面の簡単な説明 本発明の利点及び特徴は、以下に提供される詳細な説明に関連して以下の図面を考慮することによって、より完全に理解され得る。図面は概略図及び例示であり、 必ずしも一定の縮尺で描かれていない。 図1は、例示的な積層体の概略断面図を示す。… 図5〜6は、例示的な積層体の概略斜視図を示す。 図7a〜7dは、垂直位置にない電子デバイスの大型ディスプレイパネルに光学フィルムが貼り付けられる方法の実施形態を示す。」(2頁25行目〜3頁7行目) オ 「片面に接着剤層を有する光学フィルムは、フィルムをパネルに単に接触させ、続いてフィルムをパネル上に手又は工具のいずれかでなでつけることによって、 ディスプレイパネルに貼り付けることができる。この方法は実施が困難な場合がある。例えば、フィルムとパネルとの間に空気が入り込みやすく、フィルムとパネルとを位置合わせすることが難しいからである。許容可能な結果が得られるまで、剥がして貼り付けることを数回繰り返すことができる光学フィルムもある。この方法は、手持ち式デバイス、ネットブック、ラップトップ及び幾つかのコンピュータモニタの小型ディスプレイパネルを覆うためのフィルムなど、そのサイズのおかげで取扱いが容易なフィルムと共に使用するのに適しているかもしれない。」(3頁27行目〜4頁2行目) カ 「しかしながら、接着剤層を有する光学フィルムを使用する方法は、大型ディスプレイパネルを覆うために必要とされる光学フィルムと共に使用するのに適していない。大型ディスプレイパネルと共に使用される光学フィルムは面積が大きく、 特に、空気の入り込み及び接着剤層上に望ましくない破片が付着することを最小限にしようとするときに、折り目又はしわを生じることなくフィルムを取り扱うことが困難である。また、これらの大きな光学フィルムは取扱いが困難であり得るので、 フィルムが最終サイズにプレカットされている場合、フィルム及びパネルを許容可能な状態に位置合わせすることは、ほとんど不可能である。」(4頁3〜9行目) キ 「本明細書に開示される方法は、大型光学フィルムを大型ディスプレイパネルに比較的容易かつうまく貼り付けるために使用できるという利点がある。本方法は、ディスプレイパネルの特定の領域を覆うようにサイズ決めされ、プレカットされた光学フィルムを利用する。この方法は、いかなる種類の液体も用いずに実施することができる。いくつかの実施形態では、本方法は、積層体又は光学フィルムがディスプレイパネルと一旦接触した後に、積層体又は光学フィルムを切断することなく実施することができる。本明細書に開示される方法は、光学基材上の接着剤層の形態の「ドライ貼り付け(dry-apply)」接着剤を利用する。ドライ貼り付け接着剤層は、所望されるとおりに完全に又は部分的に再配置され得るように、 自己湿潤性及び/又は除去可能であり得る。」(4頁10〜18行目) ク 「本明細書で開示される方法は、液晶ディスプレイ(LCD)パネル又はプラズマディスプレイパネルを有するデバイスなど、任意のタイプの電子ディスプレイデバイスで有用である。パネルの主面(典型的にはガラス)はデバイスの最外面を形成し、パネルの可視領域を構成する。本明細書で使用されるとき、用語「ディスプレイパネル」は、パネルのこの最も外側の表面を指し、また、最も外側の表面と同一平行又は同一平面にある任意の連続した滑らかな表面を含むことができる。 例えば、ディスプレイパネルは、可視領域のみを含むことができる。あるいは、ディスプレイパネルは、可視領域に加えて、しばしばフレームによって覆われる非可視領域を、可視領域の周囲に含むことがある。」(4頁24〜32行目) ケ 「本明細書で開示される方法は、大型ディスプレイパネルを有する電子ディスプレイデバイスに有用である。「大型」とは、光学フィルムが貼り付けられるディスプレイパネルの面積を指す。その面積は、ある共通のアスペクト比、例えば、 16:9のアスペクト比を有する、少なくとも432mm(17インチ)の対角測定値を有する。大型ディスプレイパネルは、16:9のアスペクト比において、432、508、610、838、914、1016、1067、1168、1219、1270、1397、1524、1575又は2083mm(17、20、24、33、36、40、42、46、48、50、55、60、62又は82インチ)などの対角測定値を有する可視領域を有することがある。」(5頁1〜7行目) コ 「ここに開示された方法は、プレカット積層体を必要とする。図1は、プレカットフォームであってもなくてもよい積層体10の概略断面図を示す。積層体10は、光学基材16と基材上に配置された接着剤層14とを有する光学フィルム12を含む。積層体10は、光学基材16の反対側の接着剤層14上に配置された剥離ライナー18を含む。」(5頁8〜12行目) サ 「図6は、プレカットフォームであってもなくてもよい例示的な積層体の概略斜視図を示す。積層体30は、光学基材と基材上に配置された接着剤層とを含む光学フィルム32を有する。積層体30は、第1の部分38a及び第2の部分38bを有する分割剥離ライナーを含む。前記ライナーは、接着剤層上に配置される。 第2の部分38b上には、感圧接着剤(PSA)の領域39が配置されている。これらの領域は、光学フィルム32の接着剤層の反対側にある。図6には、使用されるまでPSA領域を保護するために用いられる1つ又は複数の剥離ライナーは示されていない。」(7頁25〜32行目) シ 「図7a〜7dは、垂直位置にない電子デバイスの大型ディスプレイパネルに光学フィルムが適用される方法の実施形態を示す。この実施形態は、例示的な積層体30を使用する。図7aに示すように、積層体30は、PSA領域39がパネルと接触した状態でディスプレイパネル上に配置される。これらの領域は、斜視図に示すように、光学フィルム32の下にあることを表すために点線で示されている。 第1・第2の部分38a・38bはそれぞれ、これらの部分がどこで当接するかを表すために、点線38cで示されている。積層体30の第2の部分30b(図7b参照)は、剥離ライナー38の第2の部分38bの全部又は大部分を含む積層部を含む。PSA領域39は、第2の部分30bをディスプレイパネルに接着することで、図7bに示されるステップの間に第2の部分が容易に移動しないようにする。」(8頁1〜11行目) ス 「図7bに示されるように、剥離ライナー38の第1の部分38aは、接着剤層から分離されて、接着剤層の一部、例えば、上記のように接着剤層の全面積の25%未満又は10%未満を露出する。第1の部分38aが除去された後、接着剤層の露出部分は、この場合パネルの可視領域であるディスプレイパネルの一部と接触する。図7bに示すステップは、図3bについて上述したように、露出した接着剤層を有する光学フィルムの部分について許容可能なアライメントが得られるように実行される必要がある。いくつかの実施形態では、露出した接着剤層を有する光学フィルムの部分の縁部と、覆われるディスプレイパネルの縁部との間に、約3mm未満のギャップを有することが許容され得る。好ましくは、そのギャップは可能な限り小さく、5mm未満又は1mm未満であってもよい。」(8頁12〜22行目) セ 「次のステップが図7cに示されている。積層体30の第2の部分30bがディスプレイパネルから分離されている(PSA領域39は、以下に説明するように除去可能なPSA(感圧接着剤)である。)。第2の部分30bを持ち上げ、剥離ライナー38の第2の部分38bを接着剤層から分離して接着剤層の残りの部分を露出させ、接着剤層の残りの部分をディスプレイパネルと接触させて、光学フィルムがディスプレイパネルの少なくとも約95%を覆うようにする。幾つかの実施形態では、光学フィルムがディスプレイパネルの少なくとも約90%、92%、95%、98%又は少なくとも約100%を覆うことが許容され得る。幾つかの実施形態では、光学フィルムがディスプレイパネルの約90%〜少なくとも約100%、 約92%〜少なくとも約100%又は約95%〜約98%を覆っていてもよい。図7dに示すように、剥離ライナー38の第2の部分38bが接着剤層から除去された後、光学フィルム32の残りの部分がディスプレイパネルに接着される。」(8頁23行目〜9頁2行目) ソ 「実施例1 以下の方法を使用して、3M(商標)社のG1ossy Low Reflection Removable Protection Film(容易に貼り付けできるPSAを有する。)を含む光学フィルムを、対角1016mm(40インチ)を有する大型液晶テレビに貼り付けた。この方法を開始する前に、光学フィルムを、ディスプレイパネルの半分を覆うようにプレカットした。 - 剥離ライナーを接着剤層から、フィルムの頂部から76〜102mm(3〜4インチ)までのみ、除去した。 - フィルムを、ディスプレイパネルの頂部及び一方の縁部に沿って位置合わせした。 - フィルムの上部をディスプレイパネルの上部に接着した。 - 接着剤層をディスプレイパネルの表面の大部分に自己湿潤させつつ、剥離ライナーを除去した。 - フィルムをコーナーから引いて大きなグループの気泡を除去し、実質的に気泡のないフィルムのその部分を再び貼り付けた。 - 3mm(1/8インチ)を超える大きな気泡を、スキージ工具をフィルムの表面に沿って滑らせることによって押し出した。 - 3mm(1/8インチ)未満の小さな気泡は、テレビをオンにした48時間後に消失した。」(14頁25行目〜15頁9行目) タ 「実施例2 以下の方法を使用して、寸法287×509mm(11.3×20.0インチ)の3M(商標)社のG1ossy Low Reflection Removable Protection Film(容易に貼り付けできるPSAを有する。)を含む光学フィルムを、対角線が590mm(23インチ)で寸法が292×514mm(11.5×20.2インチ)であるAcer Model Z5610AIOのコンピュータディスプレイに貼り付けた。この方法を開始する前に、 光学フィルムをプレカットした。 - ディスプレイ表面を3M(商標)SCOTCH-BRITE Microfiber Clothで拭いて、微粒子を除去した。 - ライナーをフィルムの長縁から約60mm(2.4インチ)引き剥がした。 - フィルム上の露出したPSAをディスプレイ表面の上部に接着し、フィルム縁部とディスプレイベゼルとの間の上部ギャップ全体が5mm未満であり、フィルムとベゼルとの間の左縁部に沿ったギャップが、PSAがディスプレイ表面に接着された場所で5mm未満であるように位置合わせした。 - フィルムはフィルム全体がディスプレイのべゼル内にあることを確実にするために、残りのライナーが所定の位置にある状態で、可能な限り平坦に置かれた。 - 次いで、残りのライナーをゆっくりと剥がし、新しいPSAは露出すると濡れてディスプレイの表面に接着した。全てのライナーが除去されるまでプロセスを続けた。 - 直径3mmを超える気泡を、フィルムの上面に沿って平坦なエッジスキージを用いて静かに押し出した。直径3mm未満の気泡は48時間後に消失した。」(15頁11〜31行目) チ 「実施例3 大型液晶テレビに光学フィルムを貼り付けるために、以下の方法を用いることができる。積層体は、光学フィルムと、接着剤層上の分割剥離ライナー(上部及び下部)と、第2の剥離ライナーによって保護された、下部に存在する除去可能なPSA(3M(商標)社からのPOST-IT接着剤に類似する。)の領域とを含む。 この方法を開始する前に、光学フィルムをプレカットする。 - 第2の剥離ライナーを剥がして、除去可能なPSAの領域を露出させる。 - 積層体は、パネルを取り外し可能なPSAの領域と接触させることによって、 ディスプレイパネルの下部に配置され、位置合わせされる。 - 一旦位置合わせされると、積層体の上部はディスプレイパネルから折り返され、剥離ライナーは接着剤層の一部を露出させるために分離される。 - 接着剤層の露出した上側部分は、中央から始まって、ディスプレイと位置合わせするように、ディスプレイパネルと接触する。除去可能なPSAの領域を有する下部ライナーがディスプレイパネルに接着されたままであるため、光学フィルムは位置合わせされたままである。 - 光学フィルムの上部がディスプレイパネルの上部に接着されると、分割剥離ライナーの下部はディスプレイパネルから持ち上げられ、接着剤層の残りの部分を露出させるために除去される。 - 接着剤層は、ディスプレイパネルの表面を自己湿潤させることができる。 - フィルムをコーナーから引いて大きなグループの気泡を除去し、実質的に気泡のないフィルムのその部分を再び貼り付けた。 - 3mm(1/8インチ)を超える大きな気泡を、スキージ工具をフィルムの表面に沿って滑らせることによって押し出した。 - 3mm(1/8インチ)未満の小さな気泡は、テレビをオンにして48時間後に消失した。」(16頁1〜24行目) ツ 「特許請求の範囲1.光学フィルムを大型ディスプレイパネルに貼り付ける方法であって、 (a) 少なくとも約432mm(17インチ)の対角線を有する大型ディスプレイパネルを提供するステップ; (b) 光学基材上に配置された接着剤層を含む光学フィルムと、前記接着剤層上において光学基材の反対側に配置された剥離ライナーとを含むプレカット積層体を提供するステップ; (c) 剥離ライナーを接着剤層から分離して接着剤層の一部を露出させるステップであって、露出部分は接着剤層の全面積の25%未満を構成するステップ;(d) 接着剤層の露出部分とディスプレイパネルとを接触させるステップ; (e) 剥離ライナーを接着剤層からさらに分離して、接着剤層の残りの部分を露出させるステップ;及び (f) 光学フィルムがディスプレイパネルの少なくとも95%を覆うように、接着剤層の残りの部分をディスプレイパネルと接触させるステップ;を含み、 液体なしで実施される方法。」(17頁1〜18行目)「16.光学フィルムを大型ディスプレイパネルに貼り付ける方法であって、 (a) 少なくとも約432mm(17インチ)の対角線を有する大型ディスプレイパネルを提供するステップ; (b) 光学基材上に配置された接着剤層を含む光学フィルムと、接着剤層上で光学基材の反対側に配置された第1及び第2の部分を含み、第2の部分が接着剤層の反対側に感圧接着剤の領域を含む分割剥離ライナーとを含むプレカット積層体を提供するステップ; (c) パネルを感圧接着剤の領域と接触させることによって、プレカットされた積層体をディスプレイパネルに接着するステップ; (d) 剥離ライナーの第1の部分を接着剤層から分離して接着剤層の一部を露出させるステップであって、露出された部分は接着剤層の全面積の25%未満を構成するステップ;(e) 接着剤層の露出部分をディスプレイパネルに接触させるステップ;(f) 感圧接着剤の領域をディスプレイパネルから分離するステップ; (g) 剥離ライナーの第2の部分を接着剤層から分離して、接着剤層の残りの部分を露出させるステップ; (h) 光学フィルムがディスプレイパネルの少なくとも95%を覆うように、接着剤層の残りの部分をディスプレイパネルと接触させるステップ;を含み、液体なしで実施される方法。 17.前記プレカット積層体をトリミング又は切断することなく実施される、請求項16に記載の方法。 18.ディスプレイパネルに光学フィルムを貼り付けた後、光学フィルムの縁部とディスプレイパネルの縁部との間に約3mm未満のギャップが存在する、請求項16に記載の方法。」(18頁30行目〜19頁25行目)図1図6図7a図7b図7c図7d(2) 甲4の記載 甲4には、次の記載がある。 【特許請求の範囲】【請求項1】 スクリーン保護膜と、 前記スクリーン保護膜の表面上に設けられる粘着層と、 前記粘着層上に貼り付けられ、スリットを含む離型膜と、 を有する スクリーン保護シート。 【請求項2】 前記離型膜のサイズは、前記スクリーン保護シートのサイズと同じであり、前記離型膜は突起部を含む 請求項1に記載のスクリーン保護シート。 【請求項3】 前記スリットは、前記離型膜を第一の離型膜と第二の保護膜に分割し、当該第一の離型膜は第一の突起部を含み、当該第二の離型膜は第二の突起部を含む 請求項2に記載のスクリーン保護シート。 【技術分野】【0001】 本発明は、スクリーン保護シート及びその製作方法に関し、特に、より貼り付けやすく、皺と泡の形成確率を減少することができるスクリーン保護シート及びその製作方法に関する。 【背景技術】【0002】 科学技術の進歩に伴い、現在の電子デバイスは通常スクリーンを有し、当該電子デバイスの動作状態などを表示することにより、使用者は当該電子デバイスを簡単に操作することができる。前記スクリーンは、一般的に液晶スクリーンであり、薄くて軽く及び競争力のある価格などの優れた点がある。しかし、前記液晶スクリーンは、一つの欠点があり、即ち、その表面は耐擦傷性が低く且つ衝撃で壊れやすい。 これにより、従来技術においては、通常スクリーン保護シートをスクリーン表面に貼り付けることにより、スクリーンの耐擦傷性と耐衝撃性を向上する。 【0003】 図1は、従来技術のスクリーン保護シート1を示す図であり、スクリーンに貼り付けられていない時のスクリーン保護シート1の断面図である。通常、スクリーン保護シートのスクリーン保護膜10は、ゴム類の材料より形成され、透光性と柔軟性を有する。スクリーン保護膜10の表面上に粘着層12を有し、スクリーン保護膜10に粘着性を持たせることにより、スクリーンに直接貼り付けることができる。 スクリーン保護膜10がスクリーンに貼り付けられていないときには、一般的に粘着層12上に貼り付けられる離型膜14を有し、スクリーン保護膜10を保護する。 使用者は、スクリーン保護シート1を使用しようとするときに、離型膜14を剥し、 スクリーン保護膜10の粘着層12を露出させ、スクリーン保護膜10を直接スクリーンに貼り付ける。 【0004】 図2は、従来技術のスクリーン保護膜10の貼り付け方法を示す図である。使用者はまず離型膜14の一辺を剥し上げて、当該一辺を基準として、スクリーン保護膜10の粘着層12の表面を電子デバイス2のスクリーン20の一辺に貼り付け、 そして、徐々に離型膜14を剥しながら、スクリーン保護膜10を伸ばして平らにすることで、スクリーン保護膜10は電子デバイス2のスクリーン20に貼り付けられ、スクリーン20に良い耐擦傷性と耐衝撃性を持たせる。 【0005】 しかし、上述した方法は一般的に小スクリーンに適する。例えば、スクリーンのサイズは1.5インチから7インチまでの場合、あまり問題が生じない。しかし、 スクリーンのサイズが7インチ以上の場合、スクリーン全体の面積が大きくなり、 対応するスクリーン保護シートが大きくなり、離型膜の面積も大きくなる。使用者は大きなサイズの離型膜を連続的に剥がした後に、スクリーン保護膜を直接スクリーンに貼り付けるときに、スクリーン保護膜に皺と泡が生じやすく、スクリーン膜の透光性と外観に影響することがある。 【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】【0006】 本発明の目的は、使用者がスクリーンにスクリーン保護膜を貼り付ける時に、大きなサイズのスクリーン保護膜を一回に貼り付ける場合に、スクリーン保護膜に皺と泡が生じる欠点を克服することができるスクリーン保護シート及びその製作方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】【0007】 本発明は、スクリーン保護膜と、当該スクリーン保護膜の表面上に設けられる粘着層と、当該スクリーン保護膜の粘着層上に貼り付けられてスリットを有する離型膜とを含むスクリーン保護シート提供する。 【0008】 前記離型膜のサイズは、前記スクリーン保護シートのサイズと同じである。 【0009】 前記離型膜は突起部を含む。 【0010】 前記離型膜のスリットは、離型膜を第一の離型膜と第二の離型膜に分割する。 【0011】 前記第一の離型膜は第一の突起部を含む。 【0012】 前記第二の離型膜は第二の突起部を含む。 【発明の効果】【0022】 本発明のスクリーン保護シートを用いることにより、大きなサイズのスクリーン保護膜を一回に貼り付けるときに、スクリーン保護膜に皺と泡が生じる欠点を克服することができる。 【発明を実施するための最良の形態】【0024】 実施形態 図3は、本発明の実施形態に係る図であり、具体的に、本発明のスクリーン保護シート3がスクリーンに貼り付けられていない時の断面図である。図3に示すように、本発明のスクリーン保護シート3は、スクリーン保護膜30、粘着層32、第一の離型膜341及び第二の離型膜342を含む。スクリーン保護膜30は、従来技術のようにゴム類の材料から形成され、透光性と柔軟性を有する。スクリーン保護膜30の表面上に粘着層12を設け、スクリーン保護膜30に粘着性を持たせることにより、スクリーン保護膜30は、スクリーンに直接貼り付けることができる。 また、スクリーン保護膜30がスクリーンに貼り付けられていないときには、スクリーン保護膜30の粘着層31上に第一の離型膜341と第二の離型膜342を有する。第一の離型膜341と第二の離型膜342との間にスリット35を有する。 【0025】 好ましくは、図4に示すように、第一の離型膜341は第一の突起部343を含む。第一の突起部343は第一の離型膜341の所定位置から延伸されるものであり、当該所定位置は、使用者が手で第一の突起部343を持って、第一の離型膜341を便利に剥がせることができれば、どこでも良い。第一の突起部343と第一の離型膜341とは、材料が同じであり、且つ互いに連接し、製作プロセスにおいては、一体成型により形成される。また、第一の突起部343と第一の離型膜341とは、それぞれの材料が異なっても良い。しかし、この場合、第一の突起部343は第一の離型膜341と異なり、粘着層32上に貼り付けられないので、使用者は手で第一の突起部343を持って便利に剥すことができる。同様に、第二の離型膜342は第二の突起部344を含み、第二の突起部344の機能と形成方法は第一の突起部343の機能と形成方法と同じである。 【0026】 図5と図6は、本発明のスクリーン保護シート3の使用方法を詳細に説明するための図である。本発明のスクリーン保護シート3は、第一の離型膜341と第二の離型膜342を含む。使用時に、使用者はまず第一の離型膜341を一辺から剥す。 好ましくは、使用者は手で第一の突起部343を剥してから第一の離型膜341を一辺から剥す。これにより、スクリーン保護膜30の一辺の粘着層32を露出させ、 スクリーン保護膜30の当該一辺を電子デバイス4のスクリーン40の一辺と合わせて、スクリーン保護膜30を直接スクリーン40の当該一辺に貼り付ける。そして、図5に示すように、使用者は徐々に第一の離型膜341を剥しながら、スクリーン保護膜30を伸ばして平らにすることで、スクリーン保護膜341の一部の貼り付け作業を完成する。続いて、使用者は手で第二の離型膜342を剥す。より好ましくは、使用者は手で第二の突起部344を剥してから第二の離型膜342を一辺から剥す。その後、図6に示すように、使用者は徐々に第二の離型膜342を剥しながら、スクリーン保護膜30を伸ばして平らにすることで、スクリーン保護膜30の全体の貼り付け作業を完成する。これにより、スクリーン保護膜30は、完全に電子デバイス4のスクリーン40に貼り付けられる。 【0027】 本発明の実施形態は、例えば、上述した方法でスクリーン保護膜30を電子デバイス4のスクリーン40に貼り付ける。前記方法は、順番に第一の離型膜341と第二の離型膜342を剥すことにより、元々大きなサイズのスクリーン保護膜を段階的にスクリーン40に貼り付ける。これにより、大きなサイズのスクリーン保護膜の貼り付け作業の欠点(例えば、皺と泡等が生じる)を克服し、従来技術のような問題が生じない。また、本実施形態に開示された技術特徴は、二つ以上の離型膜を含むスクリーン保護シートにおいて用いられることが可能であり、スクリーン保護シートのサイズの増大により生じる欠点を克服することが可能である。 【図3】【図4】【図5】【図6】(3) 前記(2)の記載によると、甲4の「スクリーン保護膜30」が本件発明1の「保護シート」に相当し、「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」がそれぞれ本件発明1の「第2剥離部」及び「第1剥離部」に相当することは明らかである。そして、甲4の「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」は、 それぞれ「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」から、「スクリーン保護膜30」の外側に延びるように設けられ、「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」を剥がす際に手で持つ部分であるから(段落【0025】、【0026】、【図4】〜【図6】)、いずれも本件発明1の「延出部」に相当するといえる。 ここで、甲4において「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」を設けたのは、手で「第一の突起部343」又は「第二の突起部344」を持って、それぞれ「第一の離型膜341」又は「第二の離型膜342」を便利に剥がせるようにするためである(段落【0025】)。そうすると、甲4に記載された発明とその属する技術分野を同じくする甲3-1発明(その内容は、前記第2の3(2)ア(ア)のとおり)においても、そのような利便性を図るため、甲4に記載された「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」の構成を適用して本件発明1の「延出部」を設けることは、本件優先日当時の当業者において容易に想到し得たことであると認められる。 (4) この点に関し、原告は、甲3-1発明に甲4に記載された「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」の構成を適用することには、阻害要因がある旨主張するが、以下のとおり、これを採用することはできない。 ア 原告は、まず、甲3-1発明はその貼付の対象として超大型のディスプレイパネル(最低でも17インチのものであり、適するのは82インチのものであり、 更にそれより大きいものを含む。)を想定しており、その貼付を行うのは専門の技術者であるから、本件発明1の「延出部」のような部材は不要である旨主張する。 そこで検討するに、前記(1)のとおり、甲3には、甲3-1発明の光学フィルムを貼付する対象が「大型ディスプレイパネル」であり、「大型」とは17インチから82インチ程度までのものをいう旨の記載がある(前記(1)イ、ケ等)。また、 特許請求の範囲においては、保護フィルムの貼付の対象となる大型ディスプレイパネルが少なくとも17インチのものである旨の特定がされている(前記(1)ツ)。 さらに、実施例1においては、甲3-1発明の光学フィルムは40インチの大型液晶テレビに貼付され、実施例2においては、甲3-1発明の光学フィルムは23インチのコンピュータディスプレイに貼付されている(前記(1)ソ及びタ)。これら甲3全体の記載を参酌すると、甲3の「要約」に、「この方法は、対角線208cm(82インチ)の可視領域を有するような大型ディスプレイパネルでの使用に適している。」との記載があること(前記(1)ア)を考慮しても、甲3-1発明が82インチ程度の大型ディスプレイパネルのみをその貼付の対象としていると認めることはできず、甲3-1発明は、幅広い大きさの範囲(17インチないし82インチ程度)のディスプレイパネルをその貼付の対象とするものであると認めるのが相当である。そして、17インチ程度の大きさのディスプレイパネルに光学フィルムを貼付することが専門の技術者でなければ行えないとみるべき事情もない。そうすると、甲3-1発明の光学フィルムの貼付については、専門の技術者がこれを行うことを常に想定しているということはできないから、原告の上記主張は、その前提を欠くものとして失当である(なお、原告が主張する「把持部」(本件発明1の「延出部」に相当する部材)は、甲4における「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」を剥がすのに便利な「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」と同様の機能を有するものであるところ(甲4の段落【0025】等参照)、甲4の「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」は、甲3―1発明の分離剥離ライナーである「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」に対応するものである。専門の技術者であったとしても、分離剥離ライナーを剥がすために「把持部」を設けることは便利となるものであって、仮に、甲3-1発明の光学フィルムがその貼付を専門の技術者が行うことを想定しているとしても、そのことから直ちに、甲3-1発明の光学フィルムにおいて、分離剥離ライナーである「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」を剥がすのに便利な「把持部」を設けることが不要になるわけではない。)。 イ 原告は、また、甲3-1発明の光学フィルムの貼付作業に利用できるように「把持部」を形成する場合、最低でも10cm程度の大きさ(これは、「把持部」と「第1の部分38a」又は「第2の部分38b」が接する部分の長さをいうものと解される。)が必要になるところ、そのような大きさの「把持部」が形成されると、甲3が想定する精度で貼付作業を行うことができなくなる旨主張する。 しかしながら、甲3-1発明の光学フィルムに「把持部」を形成する場合、最低でも10cm程度の大きさを必要とするとの原告の主張は、何ら客観的な根拠を有するものではないし、上記アのとおり、甲3-1発明の光学フィルムは、17インチのディスプレイパネルをもその貼付の対象とするものであるから、その場合にも、 「把持部」を形成するのであれば最低でも10cm程度のものが必要であるということはできない(なお、原告の上記主張は、甲3-1発明の光学フィルムの貼付の対象として、82インチ程度の超大型ディスプレイパネルのみが想定されていることを前提とするものと解されるが、その前提が成り立たないことは、前記アのとおりである。)。したがって、原告の上記主張も、前提を誤るものとして失当である。 ウ 原告は、さらに、甲3-1発明の光学フィルムは、ディスプレイパネルの周囲に大きな段差のあるフレームがあるような場合に使用されることを想定しているところ(甲3の図面)、そのような場合に「把持部」を形成すると、フレームと「把持部」が干渉してしまい、甲3-1発明の光学フィルムの位置決めが不可能になる旨主張する。 確かに、甲3の図面の中には、ディスプレイパネルの周囲にフレームがあり、段差が生じていると見て取れるもの(図7a等)がある。しかしながら、実施例1においては、甲3-1発明の光学フィルムは大型液晶テレビに貼付され、実施例2においては、甲3-1発明の光学フィルムはコンピュータディスプレイに貼付されているところ(前記(1)ソ及びタ)、大型液晶テレビやコンピュータのディスプレイパネルの周囲に必ず段差のあるフレームが存在するわけではないから、甲3-1発明の光学フィルムが、常にディスプレイパネルの周囲に大きな段差のあるフレームがあるような場合に使用されることを想定しているということはできない。したがって、原告の上記主張も、その前提を誤るものとして失当である。 エ なお、原告は、実験報告書(甲28の3、甲36)を根拠に、甲3-1発明の光学フィルムを巨大なディスプレイパネルに貼付する場合、「把持部」があると、 かえって作業に支障を来す旨主張する。 しかしながら、上記実験において用いられたのは、82インチの光学フィルムのみであるところ、前記アのとおり、甲3-1発明は、常に82インチ程度の光学フィルムであることを前提としているわけではないから、82インチよりも小さいサイズの光学フィルムを用いた実験を省略する上記実験は、17インチないし82インチ程度といった幅広い大きさの範囲でディスプレイパネルに貼付することを前提とする甲3-1発明の光学フィルムに「把持部」を設けることの不都合さを示す実験としては、十分なものではない。加えて、23インチのディスプレイパネル及び82インチのディスプレイパネルに貼付することのできる2種類の光学フィルムを用いた被告の実験結果(「延出部」を設けても貼付作業に支障を来さず、むしろ有用であったとするもの。乙1、2)にも照らすと、原告の上記実験結果によっても、 甲3-1発明の光学フィルムに「把持部」を設けると貼付作業に支障を来すことになると認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。 (5) 小括 以上によると、本件優先日当時の当業者は、相違点3-1に係る本件発明1の構成に容易に想到することができたと認めるのが相当である。取消事由3は理由がない。 3 取消事由4(相違点3-2についての判断の誤り・無効理由4関係)について 次いで、取消事由4について検討する。 (1)ア 原告は、甲3-1発明の光学フィルムは超大型のディスプレイパネル(最低でも17インチのものであり、適するのは82インチのものであり、更にそれより大きいものを含む。)に貼り付けられることを想定しているところ、そのような光学フィルムは、必然的に巨大なものとなり、これを対象面に仮止めするとなると、仮止部が1つでは作業ができないから、甲3-1発明の「PSA領域39」を「1箇所」にすると、甲3-1発明は、発明として機能しないことになる旨主張する。 しかしながら、前記2(4)アにおいて説示したとおり、甲3によっても、甲3-1発明が82インチ程度の大型ディスプレイパネルのみをその貼付の対象としていると認めることはできず、甲3-1発明は、幅広い大きさの範囲(17インチないし82インチ程度)のディスプレイパネルをその貼付の対象とするものであるから、 甲3-1発明の光学フィルムが超大型のディスプレイパネルに貼付されるものであることを前提として、その「PSA領域39」を「1箇所」にすることが不可能であるということはできない(そもそも、「PSA領域39」を「1箇所」にするというときの「1箇所」とは、「PSA領域39」が設けられている場所の個数のみを示す概念であって、「PSA領域39」の大きさその他の属性について言及するものではないから、「PSA領域39」の個数が「1箇所」であることは、「PSA領域39」が「複数箇所」である場合に比してその固定力(粘着力)が劣ることを必ずしも意味しない。)。なお、甲3-1発明の光学フィルムが17インチ程度の大きさのディスプレイパネルに貼付される場合に、その「PSA領域39」を「1箇所」にすることが不可能であるとみるべき事情はない。 この点に関し、原告は、実験報告書(甲28の3、甲36)を根拠に、甲3-1発明において「PSA領域39」を「1箇所」にするのは現実的でない旨主張する。 しかしながら、前記2(4)エのとおり、上記実験において用いられたのは、82インチの光学フィルムのみであるから、上記実験は、甲3-1発明の「PSA領域39」を「1箇所」にすることの不都合さを示す実験としては、十分なものではない。 加えて、23インチのディスプレイパネル及び82インチのディスプレイパネルに貼付することのできる2種類の光学フィルムを用いた被告の実験結果(「仮止部」を「1箇所」にしても貼付作業に支障を来さなかったとするもの。乙1、2)にも照らすと、原告の上記実験結果によっても、甲3-1発明の「PSA領域39」を「1箇所」にすることが現実的でないと認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の上記主張を採用することはできない。 イ 原告は、甲3には「PSA領域39」の全てにつき、「regions」と複数形が用いられており、図面にも「PSA領域39」が4箇所であることが示されているから、甲3―1発明の「PSA領域39」は4箇所又は複数箇所存在するものであり、これを「1箇所」にすることはできない旨主張する。 確かに、甲3において、例えば「剥離ライナー」については、「one or morerelease liners」などの語が用いられているのに対し、「PSA領域39」については、「regions」という複数形のみが一貫して用いられており、これに加え、図6等の図示(「PSA領域39」が4箇所に設けられている。)も併せ考慮すると、 甲3-1発明は、「PSA領域39」を複数設けることを想定しているものと認められる。しかしながら、甲3には、「PSA領域39」を1箇所ではなく複数箇所に設けることの技術的意義について何らの記載もなく、「PSA領域39」の機能(「第2の部分30b」をディスプレイパネルに接着することにより、「第1の部分38a」を除去し、「接着剤層」をディスプレイパネルに接触させるなどする作業の間、「第2の部分30b」が容易に移動しないようにすること(前記2(1)シ))にも照らすと、「PSA領域39」を複数箇所に設けることが甲3-1発明の必須の構成であるということはできない。したがって、原告の上記主張は、結論において誤りである。 ウ 以上のとおりであるから、甲3-1発明の「PSA領域39」を「1箇所」にすることにつき、阻害要因はないと認めるのが相当である。 (2) 上記(1)イにおいて説示したところによると、甲3-1発明の「PSA領域39」を複数箇所に設けることにつき特段の技術的意義があるとは認められない。 また、「PSA領域39」の機能は、上記(1)イのとおりであるところ、上記(1)アのとおり、「PSA領域39」の個数が「1箇所」であることは、「PSA領域39」が「複数箇所」である場合に比してその固定力(粘着力)が劣ることを必ずしも意味せず、「PSA領域39」の大きさ等を適宜調節することにより、所望の固定力(粘着力)を「PSA領域39」に付与することができるものと考えられる。 そうすると、幅広い大きさの範囲(17インチないし82インチ程度)のディスプレイパネルをその貼付の対象とする甲3-1発明の光学フィルムにおいて、「PSA領域39」の個数を幾つにするかは、「積層体30」の材質、大きさ、重さ、硬さ、「PSA領域39」の材質、大きさ等の諸般の考慮要素を調節し、当業者において適宜選択し得る設計的事項であるということができる。したがって、本件優先日当時の当業者は、甲3-1発明の「PSA領域39」を「1箇所」とすることに容易に想到し得たものと認めるのが相当である。 (3) この点に関し、原告は、甲3-1発明において「PSA領域39」を「1箇所」とすることは設計的事項ではなく、本件発明1のように「仮止部」を「1箇所」とすることには、技術的意義がある旨主張する。 しかしながら、本件明細書において、「仮止部」を「1箇所」にすることの技術的意義について述べた部分はなく、かえって、本件明細書には、「前記第1実施形態においては、仮止貼付部30を第1剥離部21の1箇所に設ける構成としたが、 これに制限されない。仮止貼付部30を第1剥離部21に加えて第2剥離部22にも設けてもよい。」との記載(段落【0100】)もみられるところであるから、 本件発明1の「仮止部」を「1箇所」にすることにつき格別の技術的意義があるということはできない。原告の上記主張を採用することはできない。 (4) 小括 以上のとおり、本件優先日当時の当業者は、相違点3-2に係る本件発明1の構成に容易に想到することができたものであるから、取消事由4は理由がない。 4 本件発明3、4及び6について 原告は、本件発明1が進歩性を有することを根拠に、本件発明3、4及び6も進歩性を有する旨主張するが、本件発明1が進歩性を有しないことは、前記2及び3のとおりであるから、原告の主張は、その前提を欠くものとして失当である。本件発明3、4及び6が進歩性を欠くとした本件審決の判断に誤りはない。 5 結論 以上の次第であり、取消事由3及び4はいずれも理由がないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。 |
裁判長裁判官 | 本多知成 |
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裁判官 | 浅井憲 |
裁判官 | 中島朋宏 |