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審判番号(事件番号) データベース 権利
令和4ネ10002特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
令和2行ケ10144 審決取消請求事件 判例 特許
令和3行ケ10021 審決取消請求事件 判例 特許
令和2行ケ10079 審決取消請求事件 令和2行ケ10083 審決取消請求事件 判例 特許
令和4ネ10003特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
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事件 令和 4年 (ネ) 10017号 特許権侵害差止請求控訴事件
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/06/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の医薬品を製造し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。
3 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。
4 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
5 2項及び3項についての仮執行宣言
事案の概要
1 控訴人は、発明の名称を「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」とする特許に係る特許権者であり、被控訴人は、ジェネリック医薬品の販売等を業とする会社である。本件は、控訴人が、被控訴人が原判決別紙物件目録記載の医薬品を販売するなどすることは控訴人の特許権を侵害すると主張し、特許法100条1項及び同条2項に基づいて、被控訴人に対し、上記医薬品の製造、販売等の差止め及び上記医薬品の廃棄を求める事案である。
原審は、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張 次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の2から4までに摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁18行目の「前記特許権」を「後記特許権」と改める。
(2) 原判決2頁22行目の末尾に「(甲1、2、5、弁論の全趣旨)」を加える。
(3) 原判決2頁24行目を「被控訴人は、ジェネリック医薬品の販売等を業とする会社である(甲8)。」と改める。
(4) 原判決4頁1行目の「請求項1の式T記載の化合物を「本件化合物」といい」を「請求項1記載の化合物を「本件化合物1」といい、請求項2記載の化合物を「本件化合物2」といい、本件化合物1及び2を併せて「本件化合物」といい」と改める。
(5) 原判決5頁19行目(なお、行数は、原判決左余白欄の付記による。以下同じ。)の「「本件訂正請求」という」を「「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。」と改める。
(6) 原判決6頁11行目から12行目にかけての「R 1は-(CH 2 )0-2-iC4 H 9である)の化合物」を「R1は-(CH2)0-2-iC4H9である)の化合物」と改める。
(7) 原判決7頁9行目及び10行目の各「訂正を」をいずれも「訂正事項を」と改める。
(8) 原判決9頁9行目の「「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」」を「「神経障害性疼痛」(ただし、同年9月に「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」と変更する旨の承認を受けた。)」と改める。
(9) 原判決9頁12行目の「取得した」の次に「(甲12、13)」を加える。
(10) 原判決10頁7行目及び8行目の各「訂正事項1及び2」をいずれも「訂 正事項1及び2に係る本件訂正」と改める。
(11) 原判決11頁9行目、14行目、22行目から23行目にかけて及び26行目並びに12頁5行目から6行目にかけての各「本件発明1及び2の化合物」をいずれも「本件化合物」と改める。
(12) 原判決12頁8行目の「本件特許1及び2」を「本件発明1及び2に係る特許」と改める。
(13) 原判決12頁8行目から9行目にかけての「特許法36条4項違反」を「平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項(以下「特許法36条4項」という。)違反」と改める。
(14) 原判決15頁4行目及び7行目から8行目にかけての各「本件発明1及び2の化合物」をいずれも「本件化合物」と改める。
(15) 原判決15頁13行目の「本件特許1及び2」を「本件発明1及び2に係る特許」と改める。
(16) 原判決15頁16行目の「前記(1)」を「前記(1)【控訴人の主張】ア」と改める。
(17) 原判決15頁26行目の「本件化合物」を「本件化合物1」と改める。
(18) 原判決16頁18行目の「訂正事項1及び2」を「訂正事項1及び2に係る本件訂正」と改める。
(19) 原判決16頁20行目の「訂正事項1及び2」から同行目から21行目にかけての「訂正された」までを「訂正事項1及び2に係る本件訂正は、次のとおり、
いずれも本件明細書に記載した事項の範囲内でされる」と改める。
(20) 原判決16頁23行目、24行目及び25行目並びに17頁3行目の各「本件化合物」をいずれも「本件化合物1」と改める。
(21) 原判決17頁1行目の「前記(1)」を「前記(1)【控訴人の主張】ア」と改める。
(22) 原判決17頁4行目の「本件化合物」を「本件化合物2」と改める。
(23) 原判決17頁17行目並びに18頁10行目及び18行目の各「請求項1に係る化合物」をいずれも「本件化合物1」と改める。
(24) 原判決18頁22行目から23行目にかけての「その内容に照らし、本件発明1に係る訂正も認められない」を「請求項2と共に一群の請求項を構成する請求項1に係る本件訂正も認められない」と改める。
(25) 原判決19頁6行目並びに20頁2行目及び8行目の各「請求項2に係る化合物」をいずれも「本件化合物2」と改める。
(26) 原判決20頁12行目の「訂正事項1及び2」を「訂正事項1及び2に係る本件訂正」と改める。
(27) 原判決20頁16行目及び21頁4行目の各「前記(1)」をいずれも「前記(1)【控訴人の主張】ア」と改める。
(28) 原判決20頁23行目及び21頁4行目から5行目にかけての各「優先日当時」をいずれも「本件優先日当時」と改める。
(29) 原判決21頁13行目の「無効理由1」を「実施可能要件違反」と改める。
(30) 原判決22頁8行目の「したがって」を「よって」と改める。
(31) 原判決22頁9行目から10行目にかけての「本件発明1及び2の化合物」を「本件化合物」と改める。
(32) 原判決22頁15行目の「無効理由2」を「サポート要件違反」と改める。
(33) 原判決23頁8行目の「前記(1)」を「前記(1)【控訴人の主張】ア」と改める。
(34) 原判決23頁15行目の「前記(1)」を「前記(1)【控訴人の主張】イ」と改める。
(35) 原判決24頁19行目の「本件無効審判の本件発明の訂正の手続」を「本件訂正請求の手続」と改める。
(36) 原判決25頁14行目の「本件化合物」を「本件訂正後の請求項3に記載の化合物(以下「本件化合物3」という。)又は本件訂正後の請求項4に記載の化 合物(以下「本件化合物4」という。)」と改める。
(37) 原判決25頁19行目、23行目及び26行目並びに26頁4行目の各「本件化合物」をいずれも「本件化合物3又は4」と改める。
(38) 原判決26頁5行目の「優先日当時」を「本件優先日当時」と改める。
(39) 原判決26頁16行目及び20行目の各「本件無効審判」をいずれも「特許無効審判請求の手続」と改める。
(40) 原判決26頁16行目の「本件訂正発明3」を「本件発明3」と改める。
(41) 原判決26頁20行目から21行目にかけての「本件化合物」を「本件発明3に係る化合物」と改める。
(42) 原判決26頁24行目から25行目にかけての「本件訂正発明3(や本件訂正発明4)に含まれる化合物」を「本件化合物3」と改める。
(43) 原判決26頁26行目の「試験結果である」の次に「。」を加える。
(44) 原判決27頁1行目及び5行目の各「本件化合物」をいずれも「本件化合物3」と改める。
(45) 原判決27頁11行目の「及び4」を削る。
(46) 原判決28頁7行目から8行目にかけて及び21行目から22行目にかけて並びに29頁4行目の各「本件訂正発明3及び4の化合物」をいずれも「本件化合物3及び4」と改める。
(47) 原判決28頁18行目の「本件特許3,4」を「本件訂正発明3及び4に係る特許」と改める。
(48) 原判決29頁9行目及び22行目並びに30頁12行目の各「本件特許3及び4」をいずれも「本件訂正発明3及び4に係る特許」と改める。
(49) 原判決30頁12行目の「訂正」を「本件訂正」と改める。
(50) 原判決30頁18行目、20行目及び24行目並びに31頁1行目の各「本件化合物」をいずれも「本件化合物3及び4」と改める。
(51) 原判決30頁22行目の「前記(1)」を「前記(1)【控訴人の主張】」と改 める。
(52) 原判決31頁16行目の「本件化合物」を「本件化合物1等の特定の化合物」と改める。
(53) 原判決31頁24行目の「延長後」を「延長登録後」と改める。
(54) 原判決32頁6行目の「延長登録1ないし12」を「前記2(2)イの各延長登録(以下「本件各延長登録」という。)」と改める。
(55) 原判決32頁13行目、15行目、22行目から23行目にかけて及び24行目から25行目にかけての各「延長登録1ないし12」をいずれも「本件各延長登録」と改める。
(56) 原判決32頁17行目の「これらの延長登録(延長登録1ないし12)」を「本件各延長登録」と改める。
(57) 原判決32頁17行目及び25行目の各「本件特許発明」をいずれも「本件発明」と改める。
(58) 原判決32頁18行目の「旧特許法第67条第2項」を「平成28年法律第108号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)67条2項」と改める。
(59) 原判決33頁3行目の「本件延長登録」を「本件各延長登録」と改める。
(60) 原判決33頁4行目の「延長登録7ないし9」を「前記2(2)イ(ウ)」と改める。
(61) 原判決33頁8行目及び22行目並びに34頁1行目の各「延長登録7ないし9」をいずれも「前記2(2)イ(ウ)の延長登録」と改める。
(62) 原判決34頁4行目の「本件特許の出願日」を「本件出願日」と改める。
(63) 原判決34頁6行目の「これらの延長登録(延長登録7ないし9)」を「前記2(2)イ(ウ)の延長登録」と改める。
(64) 原判決34頁9行目の「延長登録」を「本件各延長登録」と改める。
(65) 原判決34頁17行目の「本件延長登録」を「本件各延長登録」と改める。
当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は全部理由がないものと判断する。その理由は、
次のとおり改め、当審における控訴人の主張に鑑み後記2を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第3に説示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決35頁10行目の「アないしウの記載及び次のエの旨の記載」を「アないしクの記載」と改める。
(2) 原判決36頁6行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「ウ 【図面の簡単な説明】図1.ギャバペンチン[1-(アミノメチル)-シクロヘキサン酢酸]、CI-1008[(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸]、および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸のラット足蹠ホルマリン試験における効果。」(3) 原判決36頁7行目の「ウ」を「エ」と改める。
(4) 原判決36頁21行目から37頁25行目までを以下のとおり改める。
「オ ラットホルマリン足蹠試験におけるギャバペンチン、CI-1008、および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の効果雄性Sprague-Dawleyラット(70〜90g)を試験前に少なくとも15分間パースペックスの観察チャンバー(24cm×24cm×24cm)に馴化させた。ホルマリン誘発後肢リッキングおよびバイティングを5%ホルマリン溶液(等張性食塩溶液中5%ホルムアルデヒド)50μlの左後肢の足蹠表面への皮下注射によって開始させた。ホルマリンの注射直後から、注射した後肢のリッキング/バイティングを60分間5分毎に評価した。結果はリッキング/バイティングを合わせた平均時間として初期相(0〜10分)および後期相(10〜45分)について示す。
ギャバペンチン(10〜300mg/kg)またはCI-1008(1〜100mg/kg)のホルマリン投与1時間前の皮下投与は、ホルマリン応答の後期相におけるリッキング/バイティング行動を、それぞれ最小有効用量(MED)30およ び10mg/kgで用量依存性にブロックした(図1)。しかしながら、いずれの化合物も試験した用量では初期相には影響しなかった。3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kgで後期相の中等度のブロックを生じたのみであった。
カ ギャバペンチンおよびCI-1008のカラゲニン誘発痛覚過敏に対する効果試験日にラット(雄性Sprague-Dawley70〜90g)に2〜3のベースライン測定を行ったのち、2%カラゲニン100μlを右後肢の足蹠表面に皮下注射した。痛覚過敏のピークの発症後、動物に試験薬物を投与した。機械的および熱的痛覚過敏に対する試験には別個の動物群を使用した。
A.機械的痛覚過敏侵害受容圧閾値を、ラット足蹠加圧試験により鎮痛計(Ugo Basile)を用いて測定した。足蹠への傷害を防止するため、250gのカットオフ点を使用した。カラゲニンの足蹠内注射は注射後3〜5時間の間侵害受容圧閾値を低下させ、
痛覚過敏の誘発を示した。モルヒネ(3mg/kg、皮下)は痛覚過敏の完全なブロックを生じた(図2)。ギャバペンチン(3〜300mg/kg、皮下)およびCI-1008(1〜100mg/kg、皮下)は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し、
MEDはそれぞれ10および3mg/kgであった(図2)。
B.熱痛覚過敏ベースライン足蹠回避潜時(PWL)を各ラットについてHargreavesモデルを用いて測定した。上述のようにカラゲニンを注射した。カラゲニン投与2時間後に、動物を熱痛覚過敏について試験した。ギャバペンチン(10〜100mg/kg)またはCI-1008(1〜30mg/kg)は、カラゲニン投与後2.5時間に皮下に投与し、PWLをカラゲニン投与3および4時間後に再評価した。
カラゲニンは注射後2、3および4時間に足蹠回避潜時の有意な低下を誘発し、熱痛覚過敏の誘発を示した(図3)。ギャバペンチンおよびCI-1008は用量依 存性に痛覚過敏に拮抗し、MEDは30および3mg/kgを示した(図3)。
これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。
キ Bennet G.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain、1988;33:87-107)。
Kim S.H.らのアッセイは、ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain、1990;50:355-363)。
ク 術後疼痛のラットモデルも報告されている(Brennanら、1996)。
それには、後肢足蹠面の皮膚、筋膜および筋肉の切開が包含される。これは数日間続く再現可能かつ定量可能な機械的痛覚過敏の誘発を招く。このモデルはヒトの術後疼痛状態にある種の類似性を示す。本研究においては、本発明者らは術後疼痛のこのモデルでギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバの活性を調べ、モルヒネの場合と比較した。
方法Bantin and Kingmen(Hull、U.K.)から入手した雄性Sprague-Dawleyラット(250〜300g)をすべての実験に使用した。手術の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ、12時間明暗サイクル(07時00分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物は手術後、
同じ条件下に、空気を含んだセルロースから構成される“Aqua-sorb”床(Beta Medical and Scientific,Sale、U.K.)上に対で収容した。すべての実験は薬物処置に盲検とした観察者により行われた。
手術動物は2%イソフルオランおよび1.4O 2 /NO2 混合物で麻酔し、鼻円錐によ り手術中を通じて麻酔下に維持した。右後肢足蹠表面を50%エタノールで準備して踵の端から0.5cmに開始し足指の方向に皮膚および筋膜を通して1-cm縦に切開した。足蹠の筋肉は鉗子によって持ち上げ縦に切開した。傷口を編んだ絹の縫合糸によりFST-02の針を用いて2個所で閉じた。傷口の部位はテラマイシンスプレーおよびオーロマイシン末で被覆した。手術後、すべての動物において感染の徴候は認められず、創傷は24時間後には良好に治癒した。縫合糸は48時間後に抜糸した。
熱痛覚過敏の評価熱痛覚過敏はラット足蹠試験(Ugo Basile、Italy)を用い、Hargreavesらの方法(1988)の改良法に従い評価した。ラットは上方に傾斜したガラステーブル上3個の個々のパースペックスの箱からなる装置に順化させた。テーブルの下に可動性放射熱源を置き、後肢足蹠に焦点を合わせ足蹠回避潜時(PWL)を記録した。組織の傷害を回避するため、自動カットオフ点を22.5秒に設定した。各動物の両後肢について2〜3回PWLを測定し、その平均を左右後肢のベースラインとした。装置は約10秒のPWLが得られるように検量した。
PWL(秒)は上述のプロトコールに従い術後2、24、48および72時間に再評価した。
接触異痛の評価接触異痛はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛(Stoelting、Illinois、USA)を用いて測定した。動物は、針金の網の底のケージに収容して、足蹠に接触できるようにした。動物は実験の開始前に、この環境に順化させた。接触異痛試験は動物の後肢の足蹠表面に、順次力を増大させて(0.7、1.2、1.5、2、3.6、5.5、8.5、11.8、15.1、および29g)フライの毛で触れ、後肢の回避が誘発されるまで試験した。フライの毛はそれぞれ6秒間または反応が起こるまで後肢に適用した。回避反応が確立されたならば、後肢を次に下降するフライの毛で試験を始めて反応が起こらなくなるまで再 試験した。したがって、後肢を上げて反応が誘発される最高の力29gがカットオフ点となった。各動物を、この様式で両後肢について試験した。反応が誘発されるのに必要な最低の力量を回避閾値としてグラムで記録した。化合物を手術前に投与する場合には、接触痛覚過敏、接触異痛および熱痛覚過敏に対する薬物効果の試験に同一の動物を使用し、各動物について熱痛覚過敏試験の1時間後に接触異痛の試験を行った。術後にS-(+)-3-イソブチルギャバを投与する場合には、接触異痛および熱痛覚過敏の検査に別個の群の動物を使用した。
統計熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVAに付し、ついでDunnett‘s t-検定を実施した。フライの毛で得られた接触異痛の結果は個別のMann Whitney t-検定に付した。
結果ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達し、3日間維持された。実験期間中、動物はすべて良好な健康状態を維持した。
手術前に投与したギャバペンチン、S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの熱痛覚過敏に対する効果手術1時間前におけるギャバペンチンの単回用量投与(3〜30mg/kg、皮下)は、用量依存性に熱痛覚過敏の発生を遮断し、MEDは30mg/kgであった(図4b)。最大用量のギャバペンチン30mg/kgは痛覚過敏の反応を24時間防止した(図4b)。S-(+)-3-イソブチルギャバを同様に投与した場合も用量依存性(3〜30mg/kg、皮下)に熱痛覚過敏の発生が遮断され、MEDは30mg/kgであった(図4c)。30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバは3日まで有効であった(図4c)。手術0.5時間前のモルヒネの投与は、用量依存性(1〜6mg/kg、皮下)は熱痛覚過敏の発生に拮抗し、
MEDは1mg/kgであった(図4a)。この作用は24時間維持された(図4 a)。
手術前に投与したギャバペンチン、S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの接触異痛に対する効果接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間隔を置いた。ギャバペンチンは、用量依存性に接触異痛の発生を防止し、MEDは10mg/kgであった。ギャバペンチン10および30mg/kgの用量はそれぞれ25および49時間有効であった(図5b)。S-(+)-3-イソブチルギャバも同様に用量依存性(3〜30mg/kg)に接触異痛の発生を遮断し、MEDは10mg/kgであった(図5c)。この侵害受容応答の遮断は30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して、モルヒネ(1〜6mg/kg)は、6mg/kgの最大用量で術後3時間、接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。
手術1時間後に投与したS-(+)-3-イソブチルギャバの接触異痛および熱痛覚過敏に対する効果接触異痛および熱痛覚過敏はすべての動物で1時間以内にピークに達し、以後5〜6時間維持された。30mg/kgのS-(+)-3-イソブチルギャバの手術1時間後における皮下投与は接触異痛および熱痛覚過敏の維持を3〜4時間ブロックした。この時間後に、侵害受容の両応答はいずれも対照レベルに復し、これは抗熱痛覚過敏および抗接触異痛作用の消失を示す(図6)。
ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバは、すべての実験で試験された最大用量まで、対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPWLに影響しなかった。これに反して、モルヒネ(6mg/kg、皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWLを増大させた(データは示していない)。
ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発することを示している。本試験の主要な所見は、ギャバペンチン およびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。これに反し、モルヒネは接触異痛よりも熱痛覚過敏に有効であることが見出された。さらに、S-(+)-3-イソブチルギャバは接触異痛および熱痛覚過敏の誘発および維持を完全に遮断した。」 (5) 原判決38頁4行目の「有用性を見出した」を「用途を見いだした」と改める。
(6) 原判決38頁7行目から17行目までを以下のとおり改める。
「(1) 特許法36条4項は、明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明については、その物の使用等をする行為をいうのであるから(特許法2条3項1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を使用することができる程度のものでなければならない。
そして、医薬用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、その有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に、
医薬の有効量、投与方法等が記載されていても、それだけでは、当業者において当該医薬が実際にその用途において使用できるかを予測することは困難であるから、
当業者が過度の試行錯誤を要することなく当該発明に係る物を使用することができる程度の記載があるというためには、明細書において、当該物質が当該用途に使用できることにつき薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、
出願時の技術常識に照らして、当該物質が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるようにする必要があると解するのが相当である。」 (7) 原判決39頁12行目の「本件明細書」から15行目末尾までを「本件明細書において、本件化合物があらゆる「痛み」の処置における鎮痛剤の用途に使用 できることにつき薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、
本件出願日当時の技術常識に照らして、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるようにする必要がある。」と改める。
(8) 原判決39頁16行目から17行目にかけての「本件化合物に係る本件各薬理試験」を「本件明細書に記載されたホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験(以下、併せて「本件各薬理試験」ということがある。)」と改める。
(9) 原判決39頁18行目の「内容」の次に「及び本件明細書の記載」を加える。
(10) 原判決40頁15行目の「関連するのも」を「関連するもの」と改める。
(11) 原判決40頁25行目の「指す」を「刺す」と改める。
(12) 原判決42頁24行目の「炎症性疼痛(乙25の5),」を削る。
(13) 原判決43頁11行目の「乙25の3」の次に「、25の6」を加える。
(14) 原判決43頁22行目の「に関する技術常識」を削る。
(15) 原判決43頁24行目の「医学文献」の次に「(いずれも本件出願日前のもの)」を加える。
(16) 原判決45頁9行目の「これらによれば」を「上記各記載及び本件明細書の記載によると」と改める。
(17) 原判決45頁10行目の「痛みの発現を示す侵害受容反応」を「痛みの発現の様子」と改める。
(18) 原判決45頁17行目の「医学文献」の次に「(いずれも本件出願日前のもの)」を加える。
(19) 原判決46頁15行目の「これらによれば」を「上記各記載及び本件明細書の記載によると」と改める。
(20) 原判決46頁18行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「c そして、前記1(1)カのとおり、本件明細書には、カラゲニン試験のデータは本件化合物が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す旨の記載があるから、
本件明細書に記載されたカラゲニン試験は、本件化合物の炎症性疼痛に対する鎮痛効果を確認するための試験であると認められる。」 (21) 原判決46頁20行目から47頁2行目までを以下のとおり改める。
「 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によると、本件化合物について実施された術後疼痛試験は、ラットの足蹠の筋肉等を切開してから縫合する手術を行い、その手術前又は手術後に本件化合物を投与し、熱痛覚過敏及び接触異痛を評価する試験であると認められる。乙25の6文献に、術後疼痛が侵害受容性疼痛の典型例として記載されていることも踏まえると、術後疼痛試験は、手術によって生じる侵害受容性疼痛に対する薬物の鎮痛効果を測定する試験であるものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。」 (22) 原判決47頁4行目から48頁18行目までを以下のとおり改める。
「 前記1(1)オ、カ及びクのとおり、本件明細書には、薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項として、本件化合物がホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験において効果を奏した旨の記載がある。しかしながら、後記(5)において説示するとおり、本件出願日当時、慢性疼痛は全て末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常により生じる痛覚過敏や接触異痛の痛みであり、原因にかかわらず神経細胞の感作を抑制することにより痛みを治療できるとの控訴人主張の技術常識が存在していたとは認められないから、本件化合物がホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験において引き起こされた各痛みの処置において効果を奏した旨の記載があるからといって、そのことをもって、当業者において、本件化合物が原因を異にするあらゆる「痛み」の処置においても効果を奏すると理解したとは到底いえない。したがって、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験の結果に係る上記記載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明において、本件化合物が「あらゆる全ての痛みの処置における鎮痛剤」の用途に使用できることにつき薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の当業者において、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを理解できた と認めることはできない。
その他、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件化合物が「あらゆる全ての痛みの処置における鎮痛剤」の用途に使用できることにつき、薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の当業者において、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを理解できたと認めるに足りる的確な証拠はない。
以上のとおり、本件明細書については、本件化合物があらゆる「痛み」の処置における鎮痛剤の用途に使用できることにつき、薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項が記載され、本件出願日当時の技術常識に照らして、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できたとはいえないから、
本件発明1及び2に係る本件特許は、実施可能要件に係る特許法36条4項に違反するものとして、特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。」(23) 原判決49頁22行目の「記載がない。」の次に「また、上記記載によっても、発症の原因を異にする痛覚過敏の痛みの全てにおいて「末梢又は中枢の感作あるいはその両方を伴う侵害受容系の混乱」が生じ、それが発症の原因を異にする全ての痛覚過敏の痛みの発症メカニズムであるとまで理解することはできない。」を加える。
(24) 原判決50頁9行目の「侵害受容性疼痛に分類される」を削る。
(25) 原判決50頁11行目の「説明したものではない」を「説明したものではなく、上記記載によっても、末梢性感作及び中枢性感作が発症の原因を異にする全ての痛覚過敏の痛みの発症メカニズムであると理解することはできない」と改める。
(26) 原判決50頁20行目末尾に「(本件出願日前のもの)」を加える。
(27) 原判決51頁1行目の「示すものにすぎず,」の次に「発症の原因を異にする」を加える。
(28) 原判決51頁9行目末尾に「(本件出願日前のもの)」を加える。
(29) 原判決51頁23行目の「説明しているにすぎず,」の次に「発症の原因 を異にする」を加える。
(30) 原判決52頁19行目末尾に「(本件出願日前のもの)」を加える。
(31) 原判決53頁6行目から13行目までを以下のとおり改める。
「 確かに、上記記載は、本件出願日当時、ケタミンがホルマリンによって誘発された中枢性感作を抑制するものと捉える知見が存在したことをうかがわせるが、
控訴人が提出するその他の文献(いずれも本件出願日前のもの)に、「ケタミン鎮痛の薬理学的機序は不明である。」(甲52)、「この薬物が鎮痛を引き起こす機序は証明されていない。」(甲54)などの記載があることも併せ考慮すると、甲46文献の上記記載が本件出願日当時の確立された技術常識を示すものと認めることはできない。したがって、甲46文献から、ケタミンが神経細胞の中枢性感作を阻害することにより全ての痛覚過敏の痛みや接触異痛に対して鎮痛効果を奏するとの技術常識が存在していたとは認められない。」(32) 原判決53頁23行目の「訂正事項1及び2」を「訂正事項1及び2に係る本件訂正」と改める。
(33) 原判決54頁9行目から55頁11行目までを以下のとおり改める。
「(2) 訂正事項2に係る本件訂正について ア 訂正事項2に係る本件訂正の内容 前記第2の2(2)ウ(ア)b及びエ(ア)bのとおり、訂正事項2に係る本件訂正は、
「請求項1記載の鎮痛剤」(「痛みの処置における鎮痛剤」)とあるのを「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」と訂正することにより、本件発明2の処置の対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に特定するものである。
イ 本件化合物2が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置において効果を奏することにつき本件明細書に明示の記載があるかについて (ア) 前記1(1)イのとおり、本件明細書には、発明の概要として、本件化合物 2が使用される疼痛性障害の中に神経障害及び線維筋痛症が含まれる旨の記載があるが、この部分には、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。
(イ) 前記1(1)エのとおり、本件明細書には、発明の詳述として、本件化合物2が鎮痛剤として使用される対象の痛みに神経障害の痛みが含まれる旨の記載があるが、この部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。
(ウ) 前記1(1)オのとおり、本件明細書には、ホルマリン試験に関し、本件化合物2がホルマリン試験の後期相において効果を奏し、初期相においては影響がなかった旨の記載があるが、この部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。
(エ) 前記1(1)カのとおり、本件明細書には、カラゲニン試験に関し、本件化合物2が機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏の痛みに対して効果を奏した旨の記載があるが、この部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない(かえって、本件明細書の当該部分には、本件化合物2が「炎症性疼痛」の処置に有効であることを示す旨の記載がある。)。
(オ) 前記1(1)クのとおり、本件明細書には、術後疼痛試験に関し、本件化合物2が熱痛覚過敏及び接触異痛の痛みに対して効果を奏した旨の記載があるが、この部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。
(カ) その他、本件明細書には、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載がないから、本件明細書には、その旨の明示の記載がないと認めるのが相当である。
ウ 本件化合物2が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置において効果を奏することが本件明細書に記載されているに等しいと 本件出願日当時の当業者が理解したといえるかについて (ア) 控訴人は、痛覚過敏や接触異痛の痛みはその原因にかかわらず全て末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常により生じることが本件優先日当時の技術常識であったと主張するが、本件出願日当時にそのような技術常識が存在していたと認められないことは、前記2(5)において説示したとおりである。
(イ) また、控訴人は、後記(4)のとおりの本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識によると、本件明細書には本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に効果を奏する旨の開示があるに等しいとの趣旨の主張をするが、当該主張を採用することができないことは、後記(4)において説示するとおりである。
(ウ) そうすると、本件出願日当時の当業者において、本件化合物2が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置に効果を奏することが本件明細書に記載されているに等しいと理解したとは認められず、その他、本件出願日当時の当業者がそのように理解し得たものと認めるに足りる的確な証拠はない。
エ 以上によると、訂正事項2に係る技術的事項は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものというほかない。したがって、訂正事項2に係る本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるということができず、特許法134条の2第9項において準用する同法126条5項に違反し、許されない。
(3) 訂正事項1に係る本件訂正について 本件訂正前の請求項1及び2は、請求項2が請求項1の記載を引用する関係にあるから、請求項1及び2に係る本件訂正(訂正事項1及び2に係る本件訂正)は、
一群の請求項1及び2についてされるものであるところ、前記(2)において説示したとおり、訂正事項2に係る本件訂正は許されないから、請求項2と共に一群の請 求項を構成する請求項1に係る本件訂正(訂正事項1に係る本件訂正)も、許されない。」(34) 原判決55頁13行目の「@」から17行目の「A」までを削る。
(35) 原判決55頁17行目の「本件化合物」を「本件化合物2」と改める。
(36) 原判決55頁21行目の「しかし」から56頁12行目の「上記主張Aについては,」までを削る。
(37) 原判決56頁12行目、16行目及び18行目の各「本件化合物」をいずれも「本件化合物2」と改める。
(38) 原判決56頁14行目から15行目にかけての「前記説示のとおり」から17行目の「そうすると」までを「当該箇所には、各痛みに対し本件化合物がどのように作用して鎮痛効果をもたらすのかについての記載はなく、本件化合物がそれらの痛みに対して鎮痛効果を有することの裏付けになるような記載もないし、また、
神経障害又は線維筋痛症において必ず痛覚過敏の痛みや接触異痛を生ずることが本件出願日当時の技術常識であったと認めるに足りる証拠はないから」と改める。
(39) 原判決56頁18行目の「本件発明1及び2」を「本件発明2」と改める。
(40) 原判決56頁19行目の「痛み」を「痛覚過敏の痛みや接触異痛」と改める。
(41) 原判決56頁22行目の「いずれも」を削る。
(42) 原判決56頁25行目から58頁3行目までを以下のとおり改める。
「(1) 本件訂正発明3について ア 構成要件3Bのうち「炎症を原因とする痛み」の意義について(ア) 本件明細書の記載 本件明細書には、「炎症を原因とする痛み」について説明した記載はない。
(イ) 本件訂正の経緯 証拠(甲3、4)によると、控訴人は、特許庁に対し、令和元年7月1日付けで本件訂正に係る訂正請求書を提出し、同年8月7日付けでこれに係る手続補正書 (方式)を提出したものであるが、控訴人は、上記補正後の訂正請求書(甲4の17〜19頁)において、請求項3に係る本件訂正につき、「「炎症を原因とする痛み…の処置における」との記載により、訂正後の請求項3に係る発明における鎮痛剤の処置対象となる痛みをより具体的に特定し、更に限定するものである。」、
「明細書のカラゲニン試験…では、炎症性物質であるカラゲニンを用いて、炎症を原因とする痛みを引き起こし、この痛みの処置に式Tの化合物を用いている。」などと主張していたものと認められる。
(ウ) カラゲニン試験について カラゲニン試験が生体に炎症とそれによる痛覚過敏を生じさせる刺激薬であるカラゲニンを注射して、皮膚痛覚過敏等に対する薬物の鎮痛効果を測定する試験であり、本件明細書に記載されたカラゲニン試験が本件化合物の炎症性疼痛に対する鎮痛効果を確認するための試験であることは、前記2(3)イ(イ)b及びcにおいて説示したとおりである。カラゲニン試験の上記内容に照らすと、カラゲニン試験は、
侵害受容器に侵害刺激が加えられることによるのではなく、神経そのものが損傷したり興奮したりすることによって生じる痛み」である神経障害性疼痛や、「原因となるような器質的病変ないし病態生理的機序が見いだされないような場合にも訴えられる疼痛」である心因性疼痛に分類される線維筋痛症に伴う痛み(前記2(3)ア(イ)b及びc)に対する鎮痛効果を裏付けるものではないというべきである。
(エ) 以上によると、本件訂正発明3の構成要件3Bのうち「炎症を原因とする痛み」とは、本件明細書に記載されたカラゲニン試験によって本件化合物3の鎮痛効果が確かめられた「炎症を原因とする痛み」を指すものの、カラゲニン試験の内容に照らすと、これは、神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みを含まないと解するのが相当である。
構成要件3Bのうち「手術を原因とする痛み」の意義について (ア) 本件明細書の記載 本件明細書には、「手術を原因とする痛み」について説明した記載はない。
(イ) 本件訂正の経緯 前記ア(イ)のとおり、控訴人は、特許庁に対し、令和元年7月1日付けで本件訂正に係る訂正請求書を提出し、同年8月7日付けでこれに係る手続補正書(方式)を提出したものであるが、証拠(甲4)によると、控訴人は、上記補正後の訂正請求書(17、19頁)において、請求項3に係る本件訂正につき、「「…手術を原因とする痛みの処置における」との記載により、訂正後の請求項3に係る発明における鎮痛剤の処置対象となる痛みをより具体的に特定し、更に限定するものである。」、「明細書の術後疼痛試験…では、手術を原因とする痛みを引き起こし、この痛みの処置に式Tの化合物を用いている。」などと主張していたものと認められる。
(ウ) 術後疼痛試験について 術後疼痛試験が手術によって生じる侵害受容性疼痛に対する薬物の鎮痛効果を測定する試験であることは、前記2(3)イ(ウ)において説示したとおりである。術後疼痛試験の上記内容に照らすと、術後疼痛試験は、「侵害受容器に侵害刺激が加えられることによるのではなく、神経そのものが損傷したり興奮したりすることによって生じる痛み」である神経障害性疼痛や、「原因となるような器質的病変ないし病態生理的機序が見いだされないような場合にも訴えられる疼痛」である心因性疼痛に分類される線維筋痛症に伴う痛み(前記2(3)ア(イ)b及びc)に対する鎮痛効果を裏付けるものではないというべきである。
(エ) 以上によると、本件訂正発明3の構成要件3Bのうち「手術を原因とする痛み」とは、本件明細書に記載された術後疼痛試験によって本件化合物3の鎮痛効果が確かめられた「手術を原因とする痛み」を指すものの、術後疼痛試験の内容に照らすと、これは、神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みを含まないと解するのが相当である。
ウ 被告医薬品の構成について 前記第2の2(3)イのとおり、被告医薬品の構成(被告医薬品の用途に係る部分) は、「効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする、」(構成b)である。
エ 小括 以上のとおりであるから、被告医薬品の構成bは、本件訂正発明3の構成要件3Bを充足しない。したがって、被告医薬品は、本件訂正発明3の技術的範囲に属しない。
(2) 本件訂正発明4について 本件明細書には、本件訂正発明4の構成要件4Bにいう「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」又は「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」について説明した記載はないところ、前記第2の2(2)ウ(ア)d及びエ(ア)dのとおり、請求項4に係る本件訂正(本件訂正発明4の用途に係る部分)は、「痛みが…神経障害による痛み、…または線維筋痛症である」とあるのを「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」と訂正するものであり、これは、本件発明4の用途から「神経障害による痛み」及び「線維筋痛症」を明示的に除外するものである。
そうすると、本件訂正発明4にいう「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」又は「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」は、いずれも神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みを含まないものと解するのが相当である。
したがって、被告医薬品の構成b(前記第2の2(3)イ)は、本件訂正発明4の構成要件4Bを充足せず、被告医薬品は、本件訂正発明4の技術的範囲に属しない。」 (43) 原判決58頁4行目の「(2)」を「(3)」と改める。
(44) 原判決58頁14行目の「認められず」の次に「、そうである以上」を加える。
(45) 原判決58頁16行目の「カラゲニン試験」から19行目末尾までを「したがって、カラゲニン試験及び術後疼痛試験が、麻薬性鎮痛剤やNSAIDでは不 十分な効果しか有しない慢性疼痛一般に対する鎮痛剤の効果を確かめる試験であることが明らかであるということはできない。」と改める。
(46) 原判決58頁21行目の「,本件優先日当時」を削る。
(47) 原判決59頁14行目の「,甲93文献」から15行目の「また」までを削る。
(48) 原判決59頁23行目から24行目にかけての「本件優先日当時の」を削る。
(49) 原判決60頁1行目の「原告」から4行目の「足りるものとはいえない」までを「控訴人が提出するその余の文献(甲92、94〜96等)も、その内容に照らし、控訴人が主張する上記技術常識を認めるに足りるものとはいえない」と改める。
(50) 原判決60頁9行目の「前記説示のとおり」から15行目の「被告医薬品は」までを「前記4において説示したとおり、本件訂正発明3の「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」(構成要件3B)及び本件訂正発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」(構成要件4B)は、いずれも神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みを含まないものと解するのが相当であるから、被告医薬品の構成bは」と改める。
(51) 原判決61頁9行目の「明細書」を「本件明細書」と改める。
(52) 原判決61頁10行目の「本件化合物」を「本件化合物3及び4」と改める。
(53) 原判決61頁13行目の「有用性を見出した」を「用途を見いだした」と改める。
(54) 原判決61頁15行目の「本件化合物」を「本件化合物3又は4」と改める。
(55) 原判決61頁18行目の「侵害受容性疼痛に分類される」を「神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みに該当しない」と改める。
(56) 原判決61頁21行目の「被告医薬品」から26行目から62頁1行目にかけての「置換するものであり」までを「被告医薬品の効能・効果(構成b)は、
「神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛」である。そうすると、本件相違部分は、医薬品の用途を、神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みに該当しない痛みからこれらに該当する痛みへと置換するものであり」と改める。
(57) 原判決62頁10行目の「の特許発明」を削る。
(58) 原判決62頁12行目の「本件化合物」を「本件化合物3又は4」と改める。
(59) 原判決62頁17行目の「本件化合物」を「本件化合物3及び4」と改める。
(60) 原判決62頁20行目の「侵害受容性疼痛に分類される」を「神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みに該当しない」と改める。
(61) 原判決62頁26行目の「結論」を「小括」と改める。
(62) 原判決63頁2行目の「訂正事項1及び2は新規事項の追加に当たるから」を「訂正事項1及び2に係る本件訂正は許されないから」と改める。
(63) 原判決63頁4行目の「成立しない」の次に「。」を加える。
(64) 原判決63頁5行目の「理由」から6行目末尾までを「理由がない。」と改める。
2 当審における控訴人の主張について (1) 控訴人は、本件優先日当時、原因にかかわらず神経細胞の感作により痛覚過敏の痛みや接触異痛が生じることから、当業者はホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験を神経細胞の感作の試験として用いていたと主張する。
しかしながら、控訴人の上記主張は、カラゲニン試験のデータが炎症性疼痛の処置における本件化合物の有効性を示すとの本件明細書の記載(補正して引用する原判決第3の1(1)カ)と符合しないものであるし、また、本件出願日当時、原因にかかわらず神経細胞の感作により痛覚過敏の痛みや接触異痛(慢性疼痛)が生じる との技術常識が存在していたと認められないことは、補正して引用する原判決第3の2(5)において説示したとおりであるから、控訴人の上記主張は、前提を誤るものとして失当である。
(2)ア 控訴人は、本件優先日当時、ホルマリン試験の後期相は中枢性感作の研究に用いられていたと主張する。
イ この点に関し、甲43文献(昭和52年発行)、甲45文献(平成4年発行)、甲46文献(平成2年発行)、甲47文献(平成4年発行)、甲48文献(平成8年発行)、甲49文献(平成4年発行)、甲51文献(平成6年発行)、
甲161文献(平成6年発行)、甲164文献(平成4年発行)及び甲168文献(平成7年発行)には、次の記載がある。
(ア) 「要するに、ホルマリンテストは、…疼痛の閾値を測定するものではないけれども、むしろ比較的長く続く疼痛刺激に対する行動的反応を定量化するものである。したがって、これは、実際の病的な状態において見られるような痛みに類似している。このテストは、それ故に、疼痛を評価するために現在利用可能な方法への価値ある追加である。」(甲43) (イ) 「ホルマリンへの応答は、初期相と後期相を示す。初期相は、主に末梢刺激によるC-線維活性化によって引き起こされるように思われるが、後期相は、末梢組織における炎症反応と脊髄後角の機能的変化の組合せに依存するように思われる。」、「結論として、ホルマリン試験は、侵害受容を研究するために利用可能な一連の方法への価値ある追加である。」(甲45) (ウ) 「ホルマリンによって生成される求心性集中砲火は、比較的短いタイムスパンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し、この誘発された活性が長期間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能性があると思われる。」、「ホルマリンの皮下注射は、短時間持続する一過性の活性を生み出すことが示されてきており、侵害受容の長引く持続期がこの後に発生し、これは、
様々な種における行動学的研究によって評価されており、持続した侵害刺激の有用 なモデルであると考えられる。」(甲46)(エ) 「ラットにおける組織損傷に反応した中枢の感作と持続性侵害受容の発生への興奮性アミノ酸の寄与が後肢へのホルマリンの皮下注射後に調べられた。」、
「我々は、以前、損傷に誘導される中枢性感作の行動モデルとして、ホルマリン試験を用いた。」、「リドカイン又は μ-オピオイドDAMGOのいずれかのくも膜下腔投与が、ホルマリン試験の第1相の直後ではなく、前に投与されれば、皮下ホルマリンに対する行動反応及び後角ニューロン反応を阻害することが証明された。
これは、ホルマリン応答の初期相の間に生じた神経作用が中枢神経系の機能の変化(すなわち、中枢性感作)を引き起こし、それが次いで後期相の間の処理に影響することをもたらし得ることを示唆する。」(甲47)(オ) 「ホルマリン誘発性の行動の第1相は、ホルマリン誘発性のC線維の一次求心性侵害受容器の活性化を反映しており、第2相は、第1相の間の一次求心性インプットの初期の集中砲火により後角ニューロンが感作(中枢性感作)した結果か、
炎症に誘発された一次求心性侵害受容器の活性化の結果か、又はその両方の組合せであるとの仮説が立てられてきた。ホルマリンに対する行動反応の第2相への末梢性侵害受容作用の寄与については、議論が引き起こされている。」、「総合すれば、
これらのデータは、一次求心性作用が第2相の侵害受容行動の発現に必要とされること及び中枢性感作が第2相の単独の根拠ではないことを示唆している。」(甲48)(カ) 「ラットにおける組織損傷に対する応答である中枢性感作及び持続性侵害受容への細胞内カルシウムの貢献が、後肢へのホルマリンの皮下注射の後に調べられた。」、「ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作及び持続性侵害受容は、主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。」(甲49)(キ) 「この結果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作及び持続性侵害受容並びにL-グルタミン酸及びサブスタンスPにより引き起こさ れたホルマリン試験における痛覚過敏は、細胞内メッセンジャーである一酸化窒素、
アラキドン酸及びプロテインカイネースCに依存することを示す。」(甲51) (ク) 「多くの研究は、ホルマリンの痛みの後期相の発達が初期相の間に生じた神経活動によって生み出された中枢ニューロンの長期的な機能変化(すなわち、中枢性感作)に依存することを示している。…抹消の神経や組織の損傷後に発生する痛みは、損傷によって引き起こされる中枢神経系機能の長期的な変化(すなわち、
中枢性感作)に関連しているという十分な証拠がある。」(甲161) (ケ) 「アミトリプチリンの20mg/kgの投与は、ヒトにおける長く続く痛みの動物モデルであるホルマリン試験の第2相の痛みを減少させた。…本研究では、
持続性の臨床的疼痛のモデルと考えられているホルマリン試験…を使用して、アミトリプチリンの単回投与の効果を調査した。…最近の研究で、…ホルマリン試験の第2相における痛みの表現は、大部分が第1相に誘起された中枢ニューロンの活動に依存することが示された。」(甲164) (コ) 「このモデル(判決注:ホルマリンの後肢への注入)は、持続する痛みの説明に対する中枢性感作(脊髄ニューロンの過興奮)の寄与を裏付ける決定的な証拠を提供した。」(甲168) ウ 上記イの各記載によると、本件出願日当時、ホルマリン試験の後期相が中枢の神経細胞の感作(中枢性感作)を反映するものと捉える知見が存在したことがうかがわれるものの、ホルマリン試験の後期相は、それにとどまらず、補正して引用する原判決第3の2(3)イ(ア)bのとおり、生体に炎症を生じさせる刺激薬を注射して痛みの発現の様子を観察するなどするためのモデルとして考えられていたとも認められるから、上記イの各記載によっても、本件明細書に記載されたホルマリン試験の後期相が専ら中枢性感作を反映したものであると本件出願日当時の当業者が認識していたと認めることはできない。
エ 以上のとおりであるから、控訴人の上記アの主張を考慮しても、本件出願日当時の当業者において、ホルマリン試験の後期相が専ら中枢性感作を反映したもの であると認識していたとはいえない。
(3) 控訴人は、本件優先日当時、ケタミンに限らず、アミトリプチリン及びギャバペンチンのような中枢神経に作用する薬剤により、原因にかかわらず神経細胞の感作による痛覚過敏の痛みや接触異痛を鎮痛できるとの技術常識が存在したと主張する。
しかしながら、控訴人が上記主張の根拠として挙げる甲136文献(平成7年発行)、甲146文献(平成7年発行)及び甲164文献(平成4年発行)には、いずれも控訴人が主張する上記技術常識が存在したものと認めるに足りる的確な記載はみられず、その他、控訴人が主張する上記技術常識が存在したものと認めるに足りる証拠はない。
したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。
3 結論 よって、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
裁判官 中島朋宏