関連審決 |
無効2020-800041 |
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事件 |
令和
1年
(ワ)
9842号
特許権侵害差止等請求事件
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5 原告株式会社オーエス 同 代表者代表取締役 同 訴訟代理人弁護士速見禎 同 溝内伸治郎 10 同訴訟代理人弁理士柳野隆生 同 森岡則夫 同 補佐人弁理士柳野嘉秀 被告プラス株式会社 15 同代表者代表取締役 同 訴訟代理人弁護士小松陽一郎 同 中原明子 同 千葉あすか 同 江森史麻子 20 同波床有希子 同訴訟復代理人弁護士 松川友美 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2022/06/09 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は、別紙「被告製品目録」記載の製品を製造し、販売し、輸入し、又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。 25 2 被告は、原告に対し、1億7590万6278円及びこれに対する令和元年11月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 13 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、これを25分し、その13を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。 5 事 実 及 び 理 由第1 請求1 第1項と同旨2 被告は、別紙「被告製品目録」記載の製品(以下「被告製品」という。)及びその半完成品(被告製品の構造を具備しているが製品として完成するに至らない10 もの)を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、朝日新聞全国版、読売新聞全国版、毎日新聞全国版の三新聞に、別紙「謝罪広告目録」記載の謝罪文を、その表題及び原被告の各商号は4号活字、その他は8ポイント活字で、引き続き2回掲載せよ。 4 被告は、原告に対し、3億4320万円及びこれに対する令和元年11月115 5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、発明の名称を「自立式手動昇降スクリーン」とする特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が本件特許の特許請求の範囲請求項1から3記載の各発明(後記本件訂正後のも20 の)の技術的範囲に属する被告製品を製造し、販売等することは本件特許権の侵害に当たると主張して、被告に対し、特許法100条1項に基づき、被告製品の製造、 販売等の差止めを、同条2項に基づき、被告製品及びその半完成品の廃棄を、同法106条に基づき、謝罪広告の掲載を求めるとともに、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償3億4320万円及びこれに対する不法行為の日の後(本訴状送25 達の日の翌日)である令和元年11月15日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で2ある。 1 前提事実(証拠等を掲げていない事実は争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)(1) 当事者5 原告は、映像、音響、照明等の装置に関するシステム機器及びその周辺機器の企画、設計開発、製造、販売等を目的とする株式会社である。 被告は、電子光学機器、光学応用機器、電子・電気応用機器等の商品開発、製造、 販売等を目的とする株式会社である。 (2) 本件特許権10 ア 原告は、次の本件特許権を有している。 (ア) 登録番号 第4141864号(イ) 出願日 平成15年3月10日(ウ) 公開日 平成16年2月12日(エ) 登録日 平成20年6月20日15 (オ) 発明の名称 自立式手動昇降スクリーンイ 被告は、令和2年4月13日、本件特許の特許請求の範囲請求項1から4に係る発明について、特許無効審判の請求(無効 2020−800041 号事件)をした。 原告は、同無効審判事件において、同年8月24日、本件特許の特許請求の範囲を、後記(3)のとおりに訂正する旨の訂正請求をした(以下「本件訂正」という。)。 20 特許庁は、令和3年9月16日、同無効審判事件において、本件訂正を認め、被告の審判の請求は成り立たないとの審決をした(以下「本件審決」という。)。被告は、その後、知的財産高等裁判所に対し、本件審決の取消訴訟を提起した。ただし、本件訴訟において、被告は、本件訂正が訂正要件を満たすか否かにつき争っていない。(以上につき、甲8、乙73、弁論の全趣旨。特に明記する場合を除き枝25 番号があるものは、各枝番号を含む(以下同じ)。)なお、本件訂正前の本件特許の特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、明細書3及び図面を「本件明細書」という。)の記載は、別紙「特許公報」のとおりである(甲2)。 (3) 構成要件本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲請求項1〜3に係る発明(以下、項順に5 「本件訂正後発明1」などといい、これらを「本件各訂正後発明」と総称する。)の構成要件は、次のとおり分説される(下線部が本件訂正部分)。 ア 請求項1(本件訂正後発明1)A ベース部材に、スクリーンを巻き取るために一端が連結された巻き取り部材を巻き取り付勢した状態で取り付け、 10 B 前記スクリーンの他端が連結された上端支持部材と前記ベース部材とを、上部側アームと下部側アームとが枢支連結されてなるリンク機構にてスクリーン左右幅方向ほぼ中央を挟んで左右両側に振り分けた状態でそれぞれ枢支連結し、 C 前記スクリーン左右幅方向左側に配置された上部側アームと同一側に配置された下部側アームの枢支連結部を前記上端支持部材の左右中心部に対して右側に配15 置し、 D かつ、前記スクリーン左右幅方向右側に配置された上部側アームと同一側に配置された下部側アームの枢支連結部を前記上端支持部材の左右中心部に対して左側に配置し、 E 前記下部側アームを上方へ移動付勢するための付勢手段を該下部側アームと20 前記ベース部材との間に設け、 F 前記左右の上部側アーム及び前記左右の下部側アームのうちの少なくとも一方に、断面形状が矩形状で軸方向に長い筒状部からなり、断面形状が矩形状のアーム外周面上にスライド自在に外嵌される、スライド自在なスライド部材を取り付け、 G それら左右のスライド部材を前記スクリーンの前記スクリーン左右幅方向ほ25 ぼ中央に位置する上下の垂線上で相対回転自在に連結したH ことを特徴とする自立式手動昇降スクリーン。 4イ 請求項2(本件訂正後発明2)I 前記左右のアームが水平姿勢に姿勢変更された場合に、該アームに取り付けられた左右のスライド部材がアーム長手方向へ移動することを接当阻止するためのストッパー部材を該アームに備えさせてなる請求項1記載の自立式手動昇降スクリ5 ーン。 ウ 請求項3(本件訂正後発明3)F3 前記左右の上部側アーム及び前記左右の下部側アームの双方に、それぞれ前記スライド部材を取り付けてなり、 J 前記下部側アームに備えさせる前記ストッパー部材が、前記付勢手段の一端10 をアームに取り付けるための取付部材でなる請求項2記載の自立式手動昇降スクリーン。 (4) 被告製品の構成については当事者間に争いがあるが、被告製品が、本件訂正後発明1に係る構成要件 C、D、F 及び H を充足すること、本件訂正後発明3に係る構成要件 F3 を充足することは当事者間に争いがない。 15 (5) 被告の行為等被告は、平成25年頃から被告製品の輸入を開始して被告製品を販売していたが、令和元年12月3日をもって、被告製品を全て廃棄した(乙132、弁論の全趣旨)。 2 争点20 (1) 本件各訂正後発明の技術的範囲への属否(争点1)ア 本件訂正後発明1の技術的範囲への属否(争点1−1)イ 本件訂正後発明2及び3の技術的範囲への属否(争点1−2)ウ 作用効果不奏功の抗弁の成否(争点1−3)(2) 無効理由の有無(争点2)25 ア 大韓民国登録特許公報(特 0167030。1999年3月30日公開。乙101。 以下「乙101公報」という。)記載の発明(以下「乙101発明」という。)に5基づく進歩性欠如の有無(争点2−1)イ 明確性要件違反の有無(争点2−2)ウ サポート要件違反の有無(争点2−3)エ 実施可能要件違反の有無(争点2−4)5 (3) 損害の発生及びその額等(争点3)(4) 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点4)(5) 謝罪広告掲載の必要性の有無(争点5)第3 争点についての当事者の主張1 本件訂正後発明1の技術的範囲への属否(争点1−1)10 (原告の主張)(1) 被告製品の構成について被告製品の形状は、別紙「写真目録」のとおりであり、本件訂正後発明1に対応する被告製品の構成は、別紙「被告製品説明書(原告)」1記載のとおりである。 (2) 構成要件 A の充足性15 ア 「ベース部材」とは、特許請求の範囲や本件明細書の記載、「ベース」の字義に照らすと、巻き取り部材を取り付け、リンク機構にて上部支持部材を枢支連結する土台となる部材であると解される。 被告製品は、水平板部 3D'とケース本体 3A'が一体の部材であり、これらに端部キャップ 3B'を介して巻き取り部材が取り付けられているところ、少なくとも水平板20 部 3D'は「ベース部材」を構成し、また、一体である水平板部 3D'及びケース本体3A'が「ベース部材」を構成するともいえる。 イ これに対し、被告は、「ベース部材」は「ケース本体」や「端部キャップ」とは異なるものである旨、「取り付け」とは「ベース部材」に直接巻き取り部材を取り付けることを意味し、間接的に取り付けることを含まない旨を主張する。 25 しかし、本件訂正後発明1の特許請求の範囲の記載によれば、本件訂正後発明1は「ケース本体」を構成要件として特定しておらず、「ベース部材」と「ケース本6体」の関係を特定するものではないから、本件訂正後発明1における「ベース部材」は「ケース本体」と別部材であるということはできない。 また「取り付け」とは、土台となる「ベース部材」に適宜の手段で固定することを意味し、取り付け部材等を介して間接的に取り付けることも当然含まれる。本件5 明細書の図2、6等においても、巻き取りロールは水平板部から立ち上がるようにして設けられた、ベース部材とは別の立ち上がり部を介して取り付けられている。 ウ したがって、被告製品は、構成要件 A を充足する。 (3) 構成要件 B の充足性ア 被告製品の上部側アーム及び下部側アームは、左右両側に振り分けられた状10 態でそれぞれ枢支連結されており、また、被告製品は、ケース本体と一体の水平板部と上端支持部材とがリンク機構で枢支連結されている。 イ これに対し、被告は、上部側アーム及び下部側アームが枢支連結される位置が限定される旨を主張する。 しかし、構成要件 B の文言や本件明細書の記載に照らし、被告主張のような限定15 が付されるとは解されない。被告は、本件各訂正後発明が有する複合的な作用効果のうちの一つを取り上げ、通常の使用者が行わないような、あえて機械及び装置を壊すような極端な操作をしても当該作用効果を奏するという理解に基づく主張をしているが、失当である。 なお、上部側アームの枢支連結位置に関する被告の主張は、てこの原理により、 20 端部から枢支連結させる位置が離れるほど、一方のリンク機構のみが大きく傾き、 スムーズに伸縮せずに、スライド部材は上下の垂線上から外れて、移動することとなる旨であるところ、てこの原理は支点が上下に動かないことが前提条件であるが、 実際には力点に力が下方に加われば支点も下方へ移動するのであり、上記前提条件を欠いていることから失当である。下部側アームに関する被告の主張は、本件訂正25 後発明1を実施例に限定し、さらにそれ以上に限定を加えるものであること、前記上部側アームに関する本件明細書の記載は、下部側アームについても当然参酌され7るものであることから失当である。 ウ したがって、被告製品は構成要件 B を充足する。 (4) 構成要件 E の充足性ア 被告製品の付勢手段 16'は、下部側アームと、一体の水平板部 3D'とケース本5 体 3A'との間に設けられている。 イ これに対し、被告は、付勢手段は「ハの字状」に設ける構成と限定解釈すべきである旨を主張する。 しかし、構成要件 E は、付勢手段の取付位置について、ベース部材との関係で限定しておらず、構成要件 C 及び D は、付勢手段について規定するものではないから、 10 「ハの字状」に設ける構成と限定解釈すべき理由は全くない。 ウ したがって、被告製品は構成要件 E を充足する。 (5) 構成要件 G の充足性ア 被告製品のスライド部材 20'は、スクリーン 1'左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上で相対回転自在に連結されている。 15 イ これに対し、被告は、上下の垂線上で相対回転自在に連結するとは、使用姿勢ないし水平姿勢の間、常にスライド部材が垂線上で相対回転自在に連結することと解される旨を主張する。 しかし、構成要件 G は、スライド部材の上下方向の移動そのものを特定したものではなく、スライド部材の連結態様を特定したものであって、スライド部材が常に20 垂線上を移動することを要求するものではない。仮に、スライド部材の上下方向の移動に着目するとしても、ことさらに被告製品を外側に向かって引き下げるような異常な態様で使用しない限りは、被告製品のスライド部材は垂線上を上下に移動するから、いずれにしても、被告の主張は失当である。 ウ したがって、被告製品は構成要件 G を充足する。 25 (6) 以上から、被告製品は、本件訂正後発明1の技術的範囲に属する。 (被告の主張)8(1) 被告製品の構成について原告の主張のうち、被告製品の形状が別紙「写真目録」のとおりであること(ただし、22'(ピン)の頭部の片方は径が小さい。)、被告製品の構成 c、d、f 及び hは認め、その余は否認する。 5 本件訂正後発明1に対応する被告製品の構成は、別紙「被告製品説明書(被告)」1記載のとおりである(なお、下線部分は原告主張に係る被告製品の構成との相違点である。)。 また、被告製品が、本件訂正後発明1の構成要件 C、D、F 及び H を充足することは認め、その余は争う。 10 (2) 構成要件 A の非充足性ア 本件明細書では、「ベース部材」、「ケース本体」、「巻き取り部材」、「キャップ」はそれぞれ異なる別の部材として特定されており、それを前提に特許請求の範囲の記載がなされているのであるから、「ベース部材」は「ケース本体」や「端部キャップ」とは異なるものである。 15 また、請求項1においては、土台として設けられた「ベース部材」に「巻き取り部材を…取り付け」と明確に記載されており、「ベース部材に間接的に取り付けられた」というような構成の記載は、本件明細書中に一切ない。そうである以上、構成要件 A を素直に解釈すれば、ベース部材に直接巻き取り部材を取り付けることを意味するものと解するほかない。 20 イ 被告製品には、ケース本体の底部に水平な土台となっている部分が存在するが、同部分はケース本体の一部にすぎず、ケース本体の底部に水平板部なる部材を別途設けているものではないし、床面に接して製品の姿勢を支える機能を有しておらず、「ベース部材」たり得ない。他にベース部材となり得る部材を備えていないから、被告製品にはベース部材が存在しない。また、被告製品の巻き取り部材は、 25 ケース本体の両端に取り付けられるキャップ端部に直接取り付けられているから、 被告製品にベース部材が存在するか否かにかかわらず、被告製品は構成要件 A を充9足しない。 (3) 構成要件 B の非充足性ア 構成要件 B の文言によれば、リンク機構を構成する上部側及び下部側アームは、それぞれ左右両側の位置で上端支持部材及びベース部材と枢支連結されること5 になるが、左右両側のどの位置で枢支連結させるかについて、特許請求の範囲には明記されておらず、当該文言からはその技術的範囲を画定することはできないが、 他の構成要件や本件明細書を参酌すると、上部側及び下部側アームが枢支連結される位置は、次のとおり限定されるべきである。 すなわち、本件明細書の図面上、上部側アームは、左右両端部にかなり近い位置10 で上端支持部材と枢支連結されている。また、本件訂正後発明1は、上端支持部材の中央部ではなく、端部を持って、スクリーンの昇降動作をすることを想定し、その際に、「上端支持部材が押される側が先に大きく下降した傾斜姿勢になってし」まい、リンク機構の変形等を招くとの課題を解決するために、スライド部材を上下の垂線上で相対回転自在に連結し、端部を押し下げたり、引き上げようとしても、 15 左右のリンク機構の伸縮量が同一にならなければ、リンク機構の伸縮作動がスライド部材にて強制的に停止されるようにすることで、「従来のように一方のリンク機構のみが大きく伸縮作動されて」、変形等を招くのを防止し、「左右のリンク機構を常に決められた所定の動作にて行わせ」「スムーズかつ安定よく伸縮させる」との作用効果を奏するとするものであるから、リンク機構が枢支連結される位置は、 20 このような作用効果を奏するものに限定されるべきである。ここで、上端支持部材のいずれか一端を持ってスクリーンを押し下げる力の作用については、てこの原理を考慮すると、端部(力点)からリンク機構を枢支連結させる位置(作用点)が離れるほど、スクリーンを押し下げる力が増大し、より急に傾きやすくなることから、 端部からリンク機構を枢支連結させる位置が離れるほど、一方のリンク機構のみが25 大きく傾き、スムーズに伸縮せず、スライド部材は上下の垂線上から外れて移動することとなる。以上から、上部側アームを枢支連結させる位置は、端部を持ってス10クリーンを押し下げた際に、大きく傾くことなく、スライド部材が上下の垂線上から外れて移動しない位置でなければならない。 下部側アームも同様に、本件明細書の図面上、ベース部材の左右両端部にかなり近い位置で枢支連結されている。また、本件明細書で開示される付勢手段をハの字5 に配置した構成では、ベース部材の両端ないしはそれに近い位置に下部側アームを枢支連結しなければ、角度を大きく取れず、付勢手段の付勢力を効率よく生かせない。そして、本件明細書には、上部側アームについては、左右方向中央に近い位置に枢支連結してもよい旨の記載があるのに対し、下部側アームについては同様の記載が存在しない。以上から、下部側アームについては、ベース部材の左右両端に近10 い位置で枢支連結されることに限定されるものと解すべきである。 イ 被告製品は、いずれの型式のものも、その上部側アームの枢支連結位置は、 左右両端部寄りからさらに中央寄りであり、スライド部材が上下の垂線上から外れて移動する位置であることは明らかであり、その下部側アームの枢支連結位置は、 左右両端部ではなく、明らかに中央寄りであるから、構成要件 B を充足しない。 15 (4) 構成要件 E の非充足性ア 構成要件 E では、「付勢手段」を「該下部側アームと前記ベース部材との間に設け」と記載されているのみで、これを具体的にどのような位置と態様で設けるかについては文言上明らかにされていない。構成要件 C 及び D を参照すると、枢支連結部を左右に配置する構成を発明特定事項としているものといえるところ、構成20 要件 E の構文を素直に読めば、左右それぞれの下部側アームと左右それぞれのベース部材との間に、それぞれ付勢手段が設けられることを意味するものと解するのが自然である。そうすると、構成要件 E の文言上は、付勢手段を「ハの字状」に設ける構成が記載されているものと解するべきである。 イ 被告製品の付勢手段は「クロス状」に取り付けられており、また、被告製品25 にはそもそもベース部材が存在しないから、ケース本体に付勢手段が取り付けられている。 11したがって、被告製品は、構成要件 E を充足しない。 (5) 構成要件 G の非充足性ア 本件明細書の記載によれば、本件訂正後発明1は、上端支持部材の左右端部の一端を持ってスクリーンの昇降動作をすることを想定し、「左右のリンク機構を5 常に決められた所定の動作にて行わせ」「スムーズかつ安定よく伸縮させる」との作用効果を奏するために、スライド部材は、使用姿勢ないし水平姿勢の間、常に垂線(中心線)上で存在することが求められ、そのことこそが、本件訂正後発明1の技術的特徴であるとされているものと一応理解できる。 したがって、構成要件 G の上下の垂線(中心線)上で「相対回転自在に連結」す10 るとの文言は、左右いずれかの端部を持って昇降動作をさせた場合にも、使用姿勢ないし水平姿勢の間、常にスライド部材が垂線(中心線)上で相対回転自在に連結することと解される。 イ 被告製品は、常に左右のアームの伸縮動作を同じ動きに規制する前提となっておらず、また、上端支持部材の両端部からリンク機構を枢支連結する位置まで一15 定の距離があって同じ力で押し下げても急に傾きやすい構成であることから、スライド部材は、使用姿勢ないし水平姿勢の間、常に垂線上を移動するものではないから、上端支持部材の一端を持って押し下げると、スライド部材が垂線上から外れ、 スムーズかつ安定よく伸縮させることはできない。 したがって、被告製品は構成要件 G を充足しない。 20 (6) 以上から、被告製品は、本件訂正後発明1の技術的範囲に属さない。 2 本件訂正後発明2及び3の技術的範囲への属否(争点1−2)(原告の主張)(1) 本件訂正後発明2及び3に対応する被告製品の構成は、別紙「被告製品説明書(原告)」2及び3記載のとおりである。 25 (2) 構成要件 I 及び J の充足性ア 被告製品のストッパー部材 23'及び 26'は、スライド部材 20'がアーム長手方12向へ移動することを接当阻止している。 イ これに対し、被告は、ストッパー部材とは、スライド部材を移動させないものであり、接当阻止とは、文字どおりスライド部材とストッパー部材の間にクリアランスがない状態をいうものと解すべきである旨を主張する。 5 しかし、接当阻止とは、スクリーンを収納状態に切り換えた状態において、フリー状態となるスライド部材がストッパー部材により移動を阻止されることによりスライド部材が所定の位置(スクリーンを使用状態に切り換える際にスライド部材の位置調節を不要にすることができる範囲)に維持できるものであれば十分であり、 常に接当する必要はない。 10 ウ したがって、被告製品は、構成要件 I 及び J を充足し、本件訂正後発明2及び3の技術的範囲に属する。 (被告の主張)(1) 被告製品の構成について原告の主張のうち、構成 f3 は認め、その余は否認する。本件訂正後発明2の構成15 要件 I 及び本件訂正後発明3の構成要件 F3 及び J に対応する被告製品の構成は、 別紙「被告製品説明書(被告)」2及び3記載のとおりである(なお、下線部分は原告主張に係る被告製品の構成との相違点である。)。 また、被告製品が、本件訂正後発明2及び3の構成要件 F3 を充足することは認め、その余は争う。 20 (2) 構成要件 I 及び J の非充足性ア ストッパー部材は、「該アームが取り付けられた左右のスライド部材がアーム長手方向へ移動することを接当阻止するための」もの、すなわち、その役割が、 スライド部材の移動の阻止にあることは明らかである。また、本件明細書にも「収納姿勢から使用姿勢にスクリーンを切り換える場合に、スライド部材を所定位置、 25 つまりスライド部材の連結位置がスクリーン左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上にある状態に一々スライド部材を位置調節することを不要にすることができ13る。」などと記載されており、ストッパー部材は、一々スライド部材を位置調整することなく姿勢変更を可能にするという役割を有するものであることがわかる。そうすると、このような目的・役割を有さない部材が付されているにすぎない場合には、構成要件 I 及び J の「スライド部材が…移動することを接当阻止するための」5 「ストッパー部材」という構成が存しないと解すべきである。 また、接当阻止とは、文字どおり、スライド部材とストッパー部材が接し当たっていること、すなわち両者間にクリアランスがない状態をいうものと解すべきである。 イ 被告製品の上部側アームに固定されているストッパー部材は、「左右のスラ10 イド部材がアーム長手方向へ移動すること」を接当阻止するという役割において設置されたものではなく、@上端支持部材の端を持ってスクリーンを上げ下げした際に、上部側アームの傾きを止める役割、及びAスクリーンを収納したときに上部側アーム同士を平行に保つため、一定の間隔をあける役割を有するものであって、本件訂正後発明2及び3とは別の目的・役割を有するものである。また、被告製品で15 は、左右のアームが水平姿勢状態にある場合に、スライド部材とストッパー部材との間には、数pのクリアランスが存在する。 したがって、被告製品は、構成要件 I 及び J を充足せず、本件訂正後発明2及び3の技術的範囲に属さない。 3 作用効果不奏功の抗弁の成否(争点1−3)20 (被告の主張)本件各訂正後発明は、スクリーンの上部支持部材のスクリーン左右幅方向右端側(又は左端側)を押し下げる、又は、引き上げる場合でも、左右のリンク機構の伸縮量が同一にならなければ、リンク機構の伸縮作動がスライド部材にて強制的に停止され、常に左右のスライド部材が垂線上で上下するという作用があるため、連結25 されたスライド部材にて左右のアームを同一揺動角度にて揺動させることができるから、左右のリンク機構を常に決められた所定の動作にて行わせることができ、ス14ムーズかつ安定よく伸縮させるという効果を奏する。 一方、被告製品は、常に左右のアームの伸縮動作を同じ動きに規制する前提をとっておらず、スライド部材が常に垂線上で上下するとの作用はないため、左右のリンク機構が常に決められた所定の伸縮動作をするとの効果を奏しない。すなわち、 5 被告製品のスライド部材は、左右のアーム間の距離が近づきすぎたり離れすぎたりして、スクリーンが安定せず波打ったりしないようにするために設けられたものであって、本件各訂正後発明のように、スムーズかつ安定よく昇降させるために、スライド部材で左右のアームを同一揺動角度で揺動させるといったような技術思想に基づくものではない。また、被告製品のリンク機構は、いわゆる「不限定連鎖」(一10 つのリンクに運動を与えたとき、残りのリンクは二通り以上の運動をして、運動が限定されないもの)であって、各リンクの運動は限定されず、各スライド部材も、 それぞれ各アームに対するスライド(移動)及び互いの相対回転を何ら規制されていないことから、被告製品において、上端支持部材の一端を持って押し下げた場合、 リンク機構は不規則かつ不揃いに伸縮動作し、スライド部材によってかかる伸縮動15 作を強制的に停止されることはない。 したがって、被告製品は、本件各訂正後発明が解決しようとする課題に対して効果を奏さず、その技術的範囲に属するものではない。 (原告の主張)少なくとも本件各訂正後発明のような機械の分野において、構成要件を満たしな20 がらその作用効果を奏しないということは想定できず、被告の主張は失当である。 被告製品は、スライド部材等の本件訂正後発明1又は3に該当する構成によって、 スクリーンをスムーズかつ安定よく支持することができるといった作用効果を奏し、 スクリーンの上げ下げを長期間に渡って変形や損傷等のトラブル発生のない状態で行うことができると共に、そのための構成を簡素にすることができる自立式手動昇25 降スクリーンを提供するという課題を解決している。また、被告製品は、ストッパー部材等の本件訂正後発明2に該当する構成によって、スライド部材を位置調節す15ることを不要にすることができる等の作用効果を奏している。 さらに、被告製品に被告が主張するような作用効果があったとしても、それは、 本件各訂正後発明の作用効果の他に付加されたものを主張しているにすぎず、被告製品が本件各訂正後発明の技術的範囲に属することに影響を与えるものではない。 5 なお、被告は、本件審決の内容を踏まえた主張(令和3年12月24日付け第13準備書面)をして証拠(乙137〜141)を提出するとともに、同主張に関する証拠として従前提出していた意見書(乙27〜31)を援用するが、これらは時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。 4 乙101公報記載の乙101発明に基づく進歩性欠如の有無(争点2−1)10 (被告の主張)(1) 乙101発明の構成乙101公報に開示された乙101発明の構成は、 「乙101発明説明書別紙 (被告)」記載のとおりである。 (2) 本件訂正後発明1について15 ア 相違点(ア) 相違点1−1本件訂正後発明1の付勢手段は、下部側アームを上方へ移動付勢するための構成であると特定されている(構成要件 E)のに対し、乙101発明のテンションバーは、昇下降台の昇下降を円滑にするための構成である点20 (イ) 相違点1−2本件訂正後発明1は、手動でスクリーンを昇降させる構成(構成要件 H)であるのに対し、乙101発明は駆動モータにより昇降させる構成である点イ 容易想到性(ア) 相違点1−1について25 a 本件訂正後発明1の構成要件 E は「前記下部側アームを上方へ移動付勢するための付勢手段…」と特定されており、当該付勢手段がアームを下方へ移動付勢す16ることに触れていない。しかし、本件明細書において「図2及び図3に示すように、 前記下部側アーム 13、13 を上方へ移動付勢するための付勢手段としてのガススプリング(他の構成のものであってもよい)16、16 を、下部側アーム 13、13 の長手方向ほぼ中央箇所とベース部材 3D の前記支持板 14、14 よりも左右方向中央側に寄5 った位置に固定されたブラケット 17、 の間に取り付けて、スクリーン 1 の下降が17ゆっくり行われるようにすることができると共に、任意の高さ位置でスクリーン 1を位置保持させることができる。」との記載があり、該付勢手段がスクリーンの上方への移動以外に下降の際にも機能することが説明されている。したがって、付勢手段が下部側アームを上方へ移動付勢するという上記発明特定事項は、付勢手段の10 機能の一部(片方)を例示しているものにすぎない。そして、「スプリング」は「ばね」であり、一般的にスプリングを使用した付勢手段はその弾性による伸び縮みによって対象物を往復移動させる機能を有するものであることは、当業者に知られている技術常識である。 以上から、相違点1−1は、技術常識に基づく設計事項等(一定の課題を解決す15 るための公知材料(付勢手段)の中からの最適材料の選択、均等物による置換、技術の具体的適用に伴う設計変更等)にすぎず、予想以上の効果もないことは明らかである。 b 相違点1−1に関する事項は、自立式昇降スクリーンの分野において、公開実用新案公報等(乙102〜105)記載のとおり、多数の公知文献に開示されて20 いるから、周知技術である。 c なお、主引用発明に技術常識や周知技術を適用する場合は、当業者はこれらを周知しているから、その組み合わせに動機付けは必要としない。 (イ) 相違点1−2について公開実用新案公報等(乙102〜108)記載のとおり、手動及び電動でスクリ25 ーンを昇降させる構成は多数開示されており、手動と電動による昇降手段は古くから存在していたもので、この相違点は単なる周知技術にすぎない。 17(ウ) 以上から、本件訂正後発明1は、当業者が容易に想到し得たものであり、進歩性が欠如している。 ウ 原告の主張について(ア) 原告は、乙101発明においては、本件訂正後発明1におけるスライド部材5 を備えない点(相違点1−3’)で相違する旨を主張する。 しかし、乙101公報の記載によれば、乙101発明における昇降案内具の目的や作用効果が、両昇下降台を滑らかに回転動作させ、結果としてスクリーンを滑らかに上下伸縮させるという点にあることは明らかであり、スライド部材の作用効果と共通している。また、スライド部材の形状と昇降案内具の形状とは、形式的には10 相違し得るが、いずれも断面が矩形のアームを通してそれをスライドさせること、 中心を軸に回転することは全く同じである。なお、乙101発明には減速機や駆動軸が存在するとしても、乙101公報の記載上、これにより両減速機に軸結合された両昇下降台が同じ角度で動作するとは限らないというべきであるから、昇下降台に別途の部材を取り付ける必要がないことにはならない。 15 (イ) 仮に、原告が主張する相違点1−3’が相違点とされるとしても、当業者にとって容易想到である。 すなわち、乙101発明の昇降案内具も本件訂正後発明1のスライド部材も、いずれも断面が矩形のアームを通してそれをスライドさせること、中心を軸に回転することは全く同じである。そして、乙101発明のような移動式スクリーンの場合、 20 その利用形態などに鑑みれば、「小型化」が自明かつありふれた課題であるといえるから、装置全体が大型化してしまう乙101発明の昇降案内具の代わりに、四角柱型の昇下降台の外周面上に取り付けるコンパクトなスライド部材として、矩形状の筒状部からなるスライド部材を設けることは、なんら特別な技術的意味もなく、 一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択又は技術の具体的25 適用に伴う設計変更という意味で設計事項にすぎない。また、仮に設計事項である点を措くとしても、公開実用新案公報等(乙113〜118)のとおり、アーム相18当部分の外周面上を取り囲むようにしてスライド部材を設置することは周知技術であった。したがって、乙101発明の構成にスライド部材を適用することは、当業者が適宜採用し得る設計事項にすぎず、容易に想到し得るし、また、相違点1−3’に係る構成については、乙101発明に係る周知技術を組み合わせることでも容易5 に想到し得るものである。 (3) 本件訂正後発明2についてア 相違点(相違点2)本件訂正後発明2は「前記左右のアームが水平姿勢に姿勢変更された場合に、該アームに取り付けられた左右のスライド部材がアーム長手方向へ移動することを接10 当阻止するためのストッパー部材を該アームに備えさせてなる」ものであるのに対し、乙101発明は当該ストッパー部材を有しない点イ 容易想到性ストッパーの意義は「動きを止めるもの。ドアや機械などの停止・固定装置」などと説明されているように、当業者にとって、ストッパーは種々の構造物に利用さ15 れるごく一般的・慣用的な技術である。 また、公開特許公報等(乙111〜118)によれば、スライド部材を用いて折り畳み可能とする構造を有するものについて、当該スライド部材の移動を抑止するためのストッパー部材を設けることは周知技術であるといえる。 さらに、ストッパー部材を設ける構成を適用することは、格別の効果をもたらす20 ものでもない。 ウ 以上から、本件訂正後発明2は、当業者が容易に想到し得たものであり、進歩性が欠如している。 (4) 本件訂正後発明3についてア 相違点(相違点3)25 本件訂正後発明3は、「前記ストッパー部材が、前記付勢手段の一端をアームに取り付けるための取付部材でなる」ものであるのに対し、乙101発明は付勢手段19の取付部材がストッパー部材を兼ねる構成を有しない点イ 容易想到性複数の部材を兼用させ部材点数の削減を図ることは、一般的な技術常識に基づく設計事項等であるし、公開特許公報(乙108、119、120)によれば、周知5 技術であるといえる。また、付勢手段の取付部材を兼ねるストッパー部材を有する構成を適用することは、格別に顕著な効果をもたらすものでもない。 ウ 以上から、本件訂正後発明3は、当業者が容易に想到し得たものであり、進歩性が欠如している。 (原告の主張)10 (1) 乙101発明の構成乙101発明の構成は、別紙「乙101発明説明書(原告)」記載のとおりである。 (2) 本件訂正後発明1についてア 相違点15 (ア) 相違点1−1’本件訂正後発明1は、上部側アームと下部側アームとが枢支連結されてなるリンク機構にて上端支持部材とベース部材とをそれぞれ枢支連結するものであるのに対し、乙101発明では、昇下降台(21)、(21)はスクリーン昇下降装置(3)をなす減速機(31)、(31)に回動可能に軸結合されている点20 (イ) 相違点1−2’本件訂正後発明1は、下部側アームを上方へ移動付勢するための付勢手段を下部側アームとベース部材との間に設けるものであるのに対し、乙101発明では、支持台(24)、(24)を下方へ引っ張るための引張スプリング(27)、(27)を有するテンションバー(26)、(26)を支持台(24)、(24)の折曲部(24a)、(24a)と減速機(31)、(31)25 との間に設けるものである点(ウ) 相違点1−3’20本件訂正後発明1は、前記左右の上部側アーム及び前記左右の下部側アームのうち少なくとも一方に、断面形状が矩形状で軸方向に長い筒状部からなり、断面形状が矩形状のアーム外周面上にスライド自在に外嵌される、スライド自在なスライド部材を取り付け(構成要件 F)との構成を有するのに対し、乙101発明は、この5 ような構成を有さず、本体(22a)、(22b)は、円盤状の板本体と、その周縁部の昇下降台(21)が通る位置を除く部分から垂直に立ち上がる一対の立ち上がり片と、板本体の昇下降台(21)に対向する面に、該昇下降台(21)を挟み込むようにして設けられ、 該昇下降台(21)の上下の面上を転動して板本体を昇下降台(21)の軸方向に沿って案内する複数のローラー案内ベアリング(23)とから構成される昇降案内具(22)を有す10 る点(エ) 相違点1−4’本件訂正後発明1は、自立式手動昇降スクリーンであるのに対し、乙101発明は、駆動モータにより昇降するスクリーンである点イ 容易想到性15 (ア) 相違点1−1'について本件訂正後発明1は、上端支持部材を手で持ち上げて枢支連結されたリンク機構を伸長作動することによりスクリーンを展張させる一方で、上端支持部材を手で押し下げ、上記枢支連結されたリンク機構を短縮作動することによりスクリーンを収納状態にする手動式の昇降スクリーンとして構成されるものである。これに対し、 20 乙101発明は、駆動軸でつながれた減速機によって昇下降台を回動させてスクリーンを上昇させる一方で駆動軸でつながれた減速機によって昇下降台を回動させてスクリーンを下降させる電動式の昇降駆動機構である。 したがって、本件訂正後発明1と乙101発明は、構成及び作用効果を異にしており、当業者は、乙101発明に基づいて相違点1−1'に係る構成を容易に想到す25 ることはできない。 (イ) 相違点1−2'について21本件訂正後発明1の付勢手段は、上方へ移動付勢するものであり、下部側アームとベース部材との間に設けるものであるのに対し、乙101発明のテンションバーは、下方へ引っ張るものであり、支持台の折曲部と減速機との間に設けるものであるから、両者は力の方向や設ける場所が全く異なる。本件訂正後発明1の付勢手段5 は、スクリーンの下降がゆっくり行われるようにすることができると共に、任意の高さ位置でスクリーンを位置保持させることができるのに対し、乙101発明のテンションバーは、スクリーン上昇駆動時、昇下降台が一定の速度で上昇するようにすると同時に第1駆動モータに無理がいくのを防止するものであるから、両者は その作用効果も異にしている。また、乙101発明は駆動軸でつながれた電動の減速10 機によって昇下降台を回動させてスクリーンを上昇又は下降させるので、本件訂正後発明1の付勢手段を設けるべき理由は全くない。さらに、前記のとおり、乙101発明のテンションバーは、電動スクリーンを前提とするものであり、手動の昇降スクリーンに適用することはできない。したがって、本件訂正後発明1の付勢手段と乙101発明のテンションバーは、均等な置換物等ではなく、相違点1−2'に係15 る構成を得ることは設計事項などではない。 また、乙101発明のテンションバーと公開実用新案公報等(乙102〜105)記載のガススプリング等は、構成も作用効果も全く異なるものであり、当業者が、 これらに基づいて乙101発明のテンションバーを被告が主張する周知技術等に置換すべき動機付けは全くない。 20 以上から、相違点1−2'に係る構成を容易に想到することはできない。 (ウ) 相違点1−3'について本件訂正後発明1のスライド部材は、左右のリンク機構を一体的に連動させて同じ動きで安定良く伸縮させることができ、常に左右のアームの伸縮動作を同じ動きに規制することができるから、スクリーンの上げ下げをスムーズに行うことができ25 るという作用効果を奏するものである。これに対し、乙101発明は、左右の昇下降台が電動の減速機を介して駆動軸により互いに連動して同じ角度で動作するため、 22昇下降台に、別途の部材を取り付ける必要がない。 被告は、乙101発明において、昇降案内具を構成する本体がスライド部材に相当すると主張するが、両者は、その目的及び構成が全く異なるものである。すなわち、前記本体の目的は、両昇下降台が互いに前後方向に広がらないようにするもの5 である。また、本件訂正後発明1のスライド部材は、断面形状が矩形状で軸方向に長い筒状部からなり、断面形状が矩形状のアーム外周面上にスライド自在に外嵌される構成であるのに対し、乙101発明の昇降案内具を構成する本体は、円盤状の板本体と、その周縁部の昇下降台が通る位置を除く部分から垂直に立ち上がる一対の立ち上がり片と、板本体の昇下降台に対向する面に、該昇下降台を挟み込むよう10 にして設けられ、該昇下降台の上下の面上を転動して板本体を昇下降台の軸方向に沿って案内する複数のローラー案内ベアリングとから構成されている。 さらに、乙101発明は、装置全体が大型化し、不安定であるため持ち運びに適した構造ではない。 したがって、相違点1−3'に係る構成を容易に想到することはできない。 15 (エ) 相違点1−4'について乙101発明は、モータにより駆動することを必須の本質的構成とするものであり、これを手動式に変更することはできない。また、乙101発明は、減速機を駆動軸の両端につなぎ、一方の減速機に設けた第1駆動モータを駆動してスクリーン支持装置を昇降するものであり、大きな装置とコストを要するものであるのに対し、 20 本件訂正後発明1は、構成の簡素化を図ることができるから装置の大型化やコストアップを抑制することができる利点がある。 したがって、相違点1−4'に係る構成を容易に想到することはできない。 (3) 本件訂正後発明2についてア 相違点2'25 (前記相違点1−1'〜相違点1−4'に加え、)本件訂正後発明2は、左右のアームが水平姿勢に姿勢変更された場合に、アームに取り付けられた左右のスライド23部材がアーム長手方向へ移動することを接当阻止するためのストッパー部材を該アームに備えさせてなるものであるのに対し、乙101発明は、ストッパー部材を備えず、本件訂正後発明2のような構成を有しない点イ 容易想到性5 乙101発明には、スライド部材はもちろん昇降案内具の本体にストッパーを設けることやその構成及び効果について何ら示唆されておらず開示もされていない。 被告は、スライド部材のストッパーは周知技術である旨を主張する。しかし、被告が指摘をする公開特許公報等(乙111〜118)は、本件訂正後発明2とは全く別の技術分野であることに加え、これらはそれぞれ別の技術分野ないし技術に関10 するものでスライド部材一般についてストッパーを設けるという周知技術を抽出できるものでない上に、そもそも各種のスライド部材はその構成や用途等に応じてストッパー等の要否が検討されるもので、スライド部材一般についてストッパーを設けるという周知技術は存在しない。 したがって、相違点2'に係る構成を容易に想到することはできない。 15 (4) 本件訂正後発明3についてア 相違点前記相違点1−1'〜相違点2'に加え、次の相違点がある。 (ア) 相違点3−1'本件訂正後発明3は、左右の上部側アーム及び左右の下部側アームの双方に、そ20 れぞれスライド部材を取り付けてなる構成を有するものであるのに対し、乙101発明は、スライド部材に相当する部材を備えておらず、本件訂正後発明3のような構成を有しない点(イ) 相違点3−2'本件訂正後発明3は、下部側アームに備えさせるストッパー部材が、付勢手段の25 一端をアームに取り付けるための取付部材でなるものであるのに対し、乙101発明は、ストッパー部材も付勢手段も備えておらず、本件訂正後発明3のような構成24を有しない点イ 容易想到性(ア) 相違点3−1'について乙101発明は、スライド部材に相当する部材を備えておらず、その示唆もない。 5 仮に、乙101発明の昇降案内具を構成する本体(22a)、(22b)がスライド部材に対応すると仮定したとしても、乙101発明には上側の支持台にも昇降案内具の(22a)、 (22b)を設けるべき示唆がないのみならず、相当な高さを有する昇降案内具(22a)、 (22b)を下側の昇下降台に加えて上側の支持台にも設けるとすると、収納しようとした際に、下側の昇下降台に設けられた昇降案内具の(22a)、(22b)と当たって収納10 が困難になるので、上側の支持台にも昇降案内具(22a)、(22b)を設けることについて阻害要因がある。 したがって、相違点3−1'に係る構成を容易に想到することはできない。 (イ) 相違点3−2'について乙101発明は、ストッパー部材はもちろん、付勢手段も備えておらず、相違点15 3−2'に係る構成が設計事項でないことは明らかである。 被告は、公開特許公報(乙108、119、120)を引用して他部材とストッパー部材を兼用させることは周知技術である旨を主張する。しかし、これらは、それぞれ全く別の技術分野に属する全く別の技術に係るもので、一般的に他部材とストッパー部材を兼用させるということを抽出できないのみならず、そもそも各種の20 ストッパー部材はその構成や用途等に応じて他部材との兼用の可否や要否が検討されるもので、ストッパー一般について他部材と兼用する周知技術が存在するわけではない。 したがって、相違点3−2'に係る構成を容易に想到することはできない。 5 明確性要件違反の有無(争点2−2)25 (被告の主張)本件訂正後発明1は、その発明特定事項である「それら左右のスライド部材を前25記スクリーンの前記スクリーン左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上で相対回転自在に連結した」(構成要件 G)という構成を含むが、その技術的範囲が不明確であって、第三者に不測の不利益を及ぼすことが明らかであるから、その従属項で構成される本件訂正後発明2及び3を含め、明確性要件に違反するものである。 5 すなわち、本件訂正後発明1は、構成要件 G において、「左右のスライド部材」が、「スクリーン左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線(S)上で」「相対回転自在に連結され」ており、左右のスライド部材が垂線上で(常に)上下するという作用があり、本件明細書の記載によれば、「左右のリンク機構(5)を常に決められた所定の伸縮動作、つまり左右のアームの揺動角度を常に同一にさせることにより10 行わせることができ、左右のリンク機構を常に決められた所定の動作にて行わせることができ」、「連結されたスライド部材にて左右のアームを同一揺動角度にて揺動させることができるから、左右のリンク機構を常に決められた所定の動作にて行わせることができ」るという効果を奏するものである。しかし、本件明細書には、 なぜ常にそのような作用効果が生じるのか、具体的な技術は何ら開示されていない。 15 また、本件明細書には、「本発明のように左右のアームに備えさせた2つのスライド部材を連結するだけで、常に左右のアームの伸縮動作を同じ動きに規制することができるから、スクリーンの上げ下げをスムーズに行うことができる。」と記載されている。しかし、本件訂正後発明1の左右のスライド部材は、それぞれリンク機構の一部である左右の下部側アームにスライド自在に取り付けられ、かつ互いに相20 対回転自在に連結されているため、このリンク機構では、一方のスライド部材に対する一方の下部側アームのスライドと、他方のスライド部材に対する他方の下部側アームのスライドと、各スライド部材同士の相対回転とがそれぞれ許容されることになる。これは、リンクの運動のうち「不限定連鎖」であって、リンク機構としては利用できないものである。 25 原告は、左右のアームに伸縮動作が異なるような力がかかると、スライド部材に抵抗が生じ、左右のアームの異なるような伸縮動作が規制されていることが理解で26きる旨を主張するが、本件訂正前後と通じて、本件明細書等から読み取れるものではない。また、仮に、本件訂正後発明1のリンク機構が不限定連鎖ではなく限定連鎖になるとするなら、不限定連鎖の動きを限定する構成について何らかの特定をしなければならないが、その発明特定事項が不足している。 5 (原告の主張)本件各訂正後発明の請求項の記載は明確であり、明確性要件に欠けることはない。 すなわち、本件訂正後発明1のスライド部材は、断面形状が矩形状で軸方向に長い筒状部からなり、断面形状が矩形状のアーム外周面上にスライド自在に外嵌される、スライド自在なスライド部材という構成を有するものであるところ、本件明細10 書の記載に照らすと、左右のアームに伸縮動作が異なるような力がかかると、スライド部材によりアームから押し付け力を受けて抵抗が生じ、これにより左右のアームの異なるような伸縮動作が規制されることが理解でき、本件訂正後発明1の構成によって、本件明細書記載の効果を奏し、課題が解決されることが理解できる。 また、構成要件 G は、スライド部材の上下方向の移動そのものを特定したものではな15 く、スライド部材の連結態様を特定したものであって、その意義についても理解できる。 被告は、本件訂正後発明1のリンク機構は、不限定連鎖といわれるもので、リンク機構として利用できないものである旨を主張する。しかし、本件訂正後発明1は、 リンク機構に関連して、スクリーン、付勢手段、巻き取り部材及びスライド部材等20 を有しており、これらが有機的に関連して動作するものであり、リンク機構には、 スライド部材に加えて、スクリーンの平面保持力(復元力)、付勢手段による左右二つの下部側アームの傾きの支持、上端支持部材を介して働くスクリーンの巻き取り付勢力等が作用している。被告の主張は、これらの規制力を捨象したものであって、その前提を欠き理由がない。 25 また、被告は、仮に、本件訂正後発明1が限定連鎖であるとすれば、不限定連鎖の動きを限定する構成についての発明特定事項が不足している旨を主張するが、同27主張は、時機に後れた攻撃防御方法であり、却下されるべきである。 6 サポート要件違反の有無(争点2−3)(被告の主張)本件訂正後発明1は、その発明特定事項である「それら左右のスライド部材を前5 記スクリーンの前記スクリーン左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上で相対回転自在に連結した」(構成要件 G)という構成を含み、前記5(被告の主張)のとおりの作用効果を奏するところ、本件明細書には、なぜ当該発明の課題を解決できるのか、なぜ常にそのような作用効果が生じるのかについて、その具体的な技術は何ら開示されておらず、出願時の当業者の技術常識を参酌しても、当業者が当該発10 明の課題を解決できると認識できる程度に記載されていないため、その従属項である本件訂正後発明2及び3を含め、サポート要件に違反するものである。 (原告の主張)本件明細書の記載に照らすと、本件各訂正後発明が特定する構成によって発明の課題が解決されることは理解できる。 15 すなわち、スライド部材の働きについては、左右のアームに伸縮動作が異なるような力がかかると、アームから押し付け力を受けてスライド部材に抵抗が生じ、これにより左右のアームの異なるような伸縮動作が規制されることが理解でき、本件訂正後発明1の構成によって、スクリーンを引き上げて使用姿勢にしたり、スクリーンを押し下げて収納姿勢にする場合には、左右に配置されたリンク機構が伸縮す20 ることによりスクリーンをスムーズかつ安定よく支持することができること等の効果を奏し、スクリーンの上げ下げを長期間に渡って変形や損傷等のトラブル発生のない状態で行うことができると共に、そのための構成を簡素にすることができる自立式手動昇降スクリーンが提供され、課題が解決されることが理解できる。 7 実施可能要件違反の有無(争点2−4)25 (被告の主張)本件訂正後発明1は、その発明特定事項である「それら左右のスライド部材を前28記スクリーンの前記スクリーン左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上で相対回転自在に連結した」(構成要件 G)という構成を含み、前記5(被告の主張)のとおりの作用効果を奏するところ、本件明細書には、なぜ当該発明の課題を解決できるのか、なぜ常にそのような作用効果が生じるのかについて、その具体的な技術は5 何ら開示されておらず、出願時の当業者の技術常識を参酌しても、本件明細書の記載からは当業者がこれを実施できないため、その従属項である本件訂正後発明2及び3を含め、実施可能要件に違反するものである。 (原告の主張)本件明細書には実施例が具体的に記載されており、少なくとも実施例の記載に基10 づいて本件各訂正後発明を実施できることは明らかであり、また、本件明細書の記載内容に照らすと、当業者は、本件明細書の記載に基づいて本件各訂正後発明を実施することができるから、実施可能要件に欠けることはない。 被告の主張は、明細書の記載から作用効果が生じる理由がわからないというものにすぎず、特許請求の範囲の記載によって特定された発明が実施できないことを理15 由とするものではない。 8 損害の発生及びその額等(争点3)(原告の主張)(1) 被告製品の売上等ア 原告は、被告が被告製品を販売したことによって、平成27年11月25日20 から販売を開始した原告の対応製品(以下「原告製品」という。)の販売数量が落ち込み、損害を受けた。 イ 平成25年から原告製品の販売開始日前日である平成27年11月24日までの被告製品の売上は1億3814万3836円であり、その利益は7054万1766円である。また、原告製品の販売開始日である同月25日から令和元年7月25 までの被告製品の売上は3億3613万9283円であり、その利益は1億8449万0622円である。 29(2) 損害額(特許法102条2項に基づくもの)ア 推定される損害額前記(1)のとおり、原告製品の販売期間である平成27年11月25日から令和元年7月までにおける特許102条2項の利益の額は、1億8449万0622円5 である。 イ 推定覆滅事由の不存在(ア) 市場の同一性について被告製品と原告製品は、その用途、形状、価格等が極めて類似している。 原告は、国内の大手スクリーン専業メーカーであって、オフィス向けの商社ルー10 ト、ウェブサイトを経由するルート、家電量販店や特約代理店等、被告製品を購入する需要者を含め幅広く製品を供給することができる販路を有しており、原告と被告の市場や需要者は完全に一致している。 (イ) 競合品について原告製品及び被告製品は、パンタグラフ式の中でも、上部2点で支持し、かつ、 15 リンク機構をスライド部材で結合している製品であることから、幕面の平面性が高く、空調の風等による揺れも少なく、また、スクリーンの上げ下げを長期間行っても変形や損傷等のトラブル発生のない状態で行うことができるという本件各訂正後発明の効果を奏するものである。したがって、被告製品の代替品の第一候補は、被告製品と形状がほとんど同一で、価格等が近く、スクリーンメーカーとして国内大20 手で、広い販路を有する原告の原告製品となることはおおよそ明らかである。 したがって、被告製品には、原告製品以外に競合品は存在しない。 (ウ) 被告の営業努力(ブランド力、宣伝広告)について原告のビジネスユーススクリーン(文教ユーズのスクリーンを含むがこれに限られない)の国内シェアは16.7%であり、国内のいわゆるトップ4に一角を占め25 ているなど、原告は、原告製品のようなスクリーンに関しては、紛れもない国内トップメーカーの一つであり、多数のオフィス用品商社と取引をし、原告のスクリー30ンが被告とほぼ同様の商流で需要者に販売されているから、原告のブランド力も被告のそれに何ら劣る点はない。 (エ) 侵害品の性能について本件特許に係るスライド部材は、簡便な機構により、スクリーンの上げ下げを長5 期間に渡って変形や損傷等のトラブルの発生のない状態で行うことができるという効果を奏し、スクリーン装置の技術として優位性があるものである。 被告は、被告製品は原告製品より軽量であり、製品として優位である旨を主張する。しかし、重量の比較的大きい被告製品のようなパンタグラフ式のスクリーン装置の需要者は、持ち運びの際の重量の軽重よりも、スクリーンの安定性や映りの良10 さ、壊れにくさ、操作のしやすさを重視して購入する。原告製品は確かに同サイズの被告製品よりも重量があるが、被告製品以上に映りが良く、壊れにくく、操作がしやすいのであるから、総合的にみて被告製品に優位性は認められない。 (オ) 以上のとおり、被告が主張する事由は、特許法102条2項の推定を覆滅するものとして妥当でなく、覆滅は認められない。 15 (3) 損害額(特許法102条3項に基づくもの)ア 売上前記(1)のとおり、平成25年から平成27年11月24日までの被告製品の売上は1億3814万3836円であり、同月25日から令和元年7月までの被告製品の売上は3億3613万9283円である。 20 イ 実施料率相当な実施料率は、次の諸事情を総合考慮すると、被告製品1台当たり1万円(率にすれば23.6%)が妥当である。 (ア) 他社との和解原告は、●(省略)● また、原告は、●(省略)●25 上記和解内容を踏まえると、原告は、少なくとも同程度の相当実施料額である製品1台当たり1万円とするのが妥当である。 31(イ) 業界における実施料の相場被告は、業界における実施料率は3%であると主張するが、本件特許の価値をより正しく示すものは、実際の本件特許の和解例である。仮に、業界における実施料率が参酌されるとしても、当該料率はあくまでも侵害訴訟を前提としない料率であ5 るから、相当実施料率はこれより高額となるのが妥当である。 (ウ) 本件各訂正後発明の価値本件各訂正後発明は、スライド部材という簡素な構成によって前記(2)イ(エ)のような重要な効果を実現するものであり、かつ、安価な製造が可能となるから、スクリーンにとって重要性が高いものである。 10 (エ) 被告製品の売上への貢献被告は、本件各訂正後発明を実施することにより、簡素な構成で、優れた機能を有するパンダグラフ式のスクリーンを販売することが可能となったのであり、三脚式やポール式といった他社製品とは異なる需要を獲得することが可能となった。 したがって、被告製品の売上への本件各訂正後発明の貢献は大きいものがある。 15 (オ) 競業関係被告は、原告にとってスクリーン製品の大口の取引先の一つであり被告が、原告の特許権の侵害品を独自に取り扱うこととなると、原告製品の販路が確実に狭まってしまうから、原告は、通常、被告のような立場の会社に本件特許を実施許諾することはなく、仮に実施許諾するとすれば、その料率は必然的に高いものにならざる20 を得ない。 (4) 弁護士費用本件特許権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は3120万円が相当である。 (5) 特許法102条2項及び3項に基づく主張の関係25 原告は、被告製品の販売のうち、特許法102条2項が適用されない部分があった場合(例えば、原告製品の販売より前の期間に販売された被告製品に同条2項が32適用されない場合)や、同条2項が適用されるものの、推定が覆滅される部分がある場合、当該被告製品の販売については、同条3項を重畳的に適用し、損害賠償を請求する。また、同条2項が適用される被告製品の販売について、推定が覆滅する部分があり、当該覆滅部分に同条3項の重畳適用が否定された結果、同条2項によ5 る損害賠償額より、同条3項による損害賠償額の方が高額になる場合、同条3項による損害賠償を請求する。 (被告の主張)(1) 損害額(特許法102条2項に基づくもの)についてア 特許法102条2項の適用時期等10 原告の主張(1)アは否認し、同イは認める。 特許法102条2項の適用があるのは、原告製品の販売開始日である平成27年11月25日以降である。 イ 推定覆滅事由の存在本件には、次の事由が存在し、被告の限界利益をもって原告の損害とする推定を15 大きく覆滅するものであるから、特許法102条2項により原告の損害と推定されるのは、被告の限界利益のせいぜい2%にとどまる。 (ア) 市場の非同一性について原告製品の販売経路は、オフィス等の内装業者又はそれへの卸売業者への卸販売、 オーディオビジュアル系特約店への卸販売、原告の関連会社その他の通信販売会社20 に対する販売、家電量販店への卸売であると推測される。 これに対し、被告では、カンパニー制を採っており、主に@ステーショナリーカンパニー(VISION 事業部を除く) A同カンパニー内で独立した事業部である VISION、 事業部、Bジョインテックスカンパニー、Cファニチャーカンパニーが被告製品を扱っており、被告製品の販売経路は、@では文具卸売業者及び大手文具販売店、A25 ではアスクル株式会社(以下「アスクル」という。)その他の事業者、Bでは販売店、Cではオフィスを構える顧客やオフィス内装業者である。 33被告が販売した被告製品の合計1万1193台のうち、AVISION 事業部からアスクルに販売した4641台及びBジョインテックスカンパニーが販売した5197台は、原告製品とその販売経路が重ならないから、これら特定の販売経路により販売されたものについては全量(総販売数の87.89%)が推定覆滅され、その他5 の販路での販売を含めても、90%は推定が覆滅されると考えるべきである。すなわち、Aアスクルを通して商品を購入するためには登録をする必要があり、いったんアスクルに登録をしたユーザーは、販売店との間で継続的に売買契約を締結して月次で支払を行うことになるため、購入の都度、複数のオフィス向け通販業者を比較検討したり、新規のオフィス向け通販業者に登録を行うことは考えられない。ア10 スクルのユーザーが商品を選択する冊子及びウェブカタログには、被告製品と比較対象となり得る原告製品の掲載はなく、かえって、被告製品と外観において類似する競合品が複数掲載されているのであるから、被告製品がなかったとした場合、販売できたのはこれらの競合品であって、原告製品ではない。また、Bジョインテックスカンパニーを通して商品を購入する場合も、登録をする必要があることから、 15 上記と同様、被告製品がなかったとした場合に販売できたのは他の競合品であって原告製品ではない。 さらに、AVISION 事業部からアスクル以外に販売されたものについても、ユーザーは、各事業者が運営しているオフィス向け通信販売サイト等の中から商品を選択するという行動は同じであり、そのうちの相当数については被告製品がなかったと20 しても当該ユーザーが原告製品を選択肢の一つとすることはなかった。 (イ) 市場における競合品の存在についてスクリーンは、オーディオビジュアルを楽しむ需要者に向けたものと、オフィス・学校向けのものに大別されるが、そのいずれにおいても、原告製品と競合する、可搬性があり脚で支える映写用スクリーン、及びそのうち原告製品と正面外観が類似25 するスクリーンは、かなり多くのものがあるから、市場に被告製品がなかったと すれば原告製品が販売できたという事実上の推定を維持することはできない。 34a 通信販売原告製品は、オフィス向け通信販売大手のカタログ等に掲載されていない。個人向け通信販売大手であるアマゾンでは、1000件以上の商品のうち原告製品はその競合品を含めて3件にすぎず、レビューの評価順では第96位までには入ってい5 ないことから、仮に、市場に被告製品しなかった場合、需要者がアマゾンで代替品として原告製品を購入したと考えられるのは、せいぜい5%程度にすぎない。 b オフィス内装業者又はその卸売業者への販売被告及びその他のオフィス家具販売大手のカタログにおいて、被告製品のスクリーンと原告製品が共に掲載されている例はない。 10 c 家電量販店等平成26年から令和元年にかけて量販店等で販売されたスクリーンで各年の販売数上位20種(合計46種類)のうち、被告製品と正面外観が類似するものは16種類あるが、原告製品は含まれてない。平成26年から令和元年のスクリーン分野の販売数上位20種の家電量販店におけるシェア割合は50%を超えている一方、 15 各年の第20位のシェア割合は1%前後であることから、原告製品の家電量販店におけるシェア割合は1%に満たないと考えるのが合理的である。 (ウ) 被告の営業努力(ブランド力、宣伝広告)について被告は、総合文房具メーカーとして我が国2位であり、現在は文房具・オフィス用品のみならずオフィス家具の分野やオフィス関連の流通の場面においても、揺る20 ぎない地位を占めている。継続的に多種多様なメディアで取り上げられているなど、 その社会的イメージは、被告製品の売上に間違いなく貢献しており、「被告の営業努力(ブランド力)」には顕著なものがある。 これに対し、被告製品のユーザーであるオフィス、学校、病院等を有する事業者にとって、オーディオビジュアル愛好家を主たる顧客層とする原告や原告ブランド25 は知られておらず、被告製品がなかったとしても原告製品が販売できたということはできない。 35(エ) 侵害品の性能について被告製品は、原告製品と比較して、重さ、使用時の扱いやすさのいずれの面においても優位に立つ。そして、前記(ウ)の被告のブランド力やメーカーとしての信頼性も加わって、被告製品が原告製品より優位に立つことは明らかである。 5 本件特許は、自立式スクリーンの従来技術にスライド部材を加えただけのものであって、その機能は、せいぜいアームが前後に離れてしまわないように規制しているのみである。従来型のスクリーンで使用されている回動自在なネジ止めであっても実現可能な効果を超える顕著な効果もないので、本件特許の果たすべき機能の重要性は極めて低いといわざるを得ない。 10 (2) 損害額(特許法102条3項に基づくもの)について本件特許のロイヤルティ料率については、国際特許分類(Int.Cl.)に基づき、光学機器及び家具、ゲームの技術分野におけるロイヤルティ料率を参照すべきである。これらの技術分野における正味販売高に対するロイヤルティ料率は、光学機器については、 平均3.5%、家具、ゲームについては、平均2.5%であって、これらを平均すれば、 15 3%となる。 また、本件特許には無効理由があることが明らかで、本来無価値である。本件特許が有効であることを前提としても、前記(1)イ(エ)のとおり、本件特許の重要性は極めて低いといわざるを得ない。したがって、本件特許を被告製品に用いたことによる売上への貢献度はごく限定的である、 20 前記(1)イ(ウ)のとおり、市場における被告の地位は極めて大きく、また、被告の営業力は原告の営業力を大きく上回る。 以上を踏まえると、本件特許の実施につき、実施品の正味販売高に対するロイヤルティ料率は、訴訟の場面であることを考慮しても、せいぜい2%と解するのが相当である。 25 (3) 特許法102条2項及び3項に基づく主張の関係について特許法102条2項の推定覆滅部分に同条3項の適用があることは認め、また、 36同条2項が適用されない部分について、同条3項の実施料相当額を請求するという原告の主張は、一般論としては争わない。 9 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点4)(原告の主張)5 被告が本件特許権の非侵害を主張している状況においては、被告製品の在庫を廃棄したことを考慮しても、依然として差止請求の必要性がある。 (被告の主張)被告は、令和元年12月3日をもって、被告製品を全て廃棄しており、今後も被告製品を製造販売する意思は全くない。したがって、被告製品の製造、販売等の差10 止め並びに被告製品及びその半完成品の廃棄の必要性はない。 10 謝罪広告掲載の必要性の有無(争点5)(原告の主張)原告は、被告に対し、朝日新聞全国版、読売新聞全国版及び毎日新聞全国版に謝罪文を掲載することを求める。 15 (被告の主張)争う。 第4 当裁判所の判断1 本件明細書の記載本件明細書には次の記載がある。 20 (1) 発明の属する技術分野「本発明は、上端支持部材を手で持ち上げることにより、スクリーンを上方に向けて展張させたり、上端支持部材を下方へ押し下げることにより展張させたスクリーンをケーシング内に巻き取り収納させて持ち運ぶことができるように構成した自立式手動昇降スクリーンに関する。」(【0001】)25 (2) 従来の技術「上記自立式手動昇降スクリーンにおいては、各種のものが提案され、例えばス37クリーンの上端支持部材のスクリーン左右幅方向ほぼ中央にパンタグラフ式のリンク機構の上端を枢支連結してスクリーンを展張させた姿勢で保持させることが行われている。 しかしながら、前記のようにスクリーンの上端支持部材のスクリーン左右幅方向5 ほぼ中央にのみリンク機構の上端を枢支連結しているものでは、リンク機構のスムーズな伸縮動作を安定良く行わせることやスクリーンを安定良く自立させるためには左右のバランス調節等を精度良く行わなければならないだけでなく、上端支持部材の左右方向中央を持ってスクリーンの上げ下げを行わなければスムーズな上げ下げを行うことができず、操作性が低下することもあった。」(【0002】)10 (3) 発明が解決しようとする課題「上記不都合を解消するものとしては、例えば、上端支持部材の左右両端と支持フレームの左右両端とを上端側アームと支持フレーム側アームとからなる左右のリンク機構にて連結支持させて、リンク機構のスムーズな伸縮動作を安定良く行わせることやスクリーンを安定良く自立させることができるように構成されたものが既15 に提案されている(例えば特許文献1参照)。」(【0003】)「しかしながら、上記特許文献1のものは、左右のリンク機構がそれぞれ単独で自由に伸縮できる構成であり、上端支持部材に一端がそれぞれ連結されてなる左右のリンク機構を連動している構成であるため、展張状態のスクリーンの上端支持部材の左右一端部を持ってスクリーンを押し下げると、上端支持部材が押される側が20 先に大きく下降した傾斜姿勢になってしまい、その下降した側のリンク機構が大きく短縮作動される。このため、短縮される側のリンク機構のみに大きな負荷が加わり、リンク機構の変形や損傷を招いてしまうことがあった。」(【0004】)「本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、スクリーンの上げ下げを長期間に渡って変形や損傷等のトラブル発生のない状態で行うことができると25 共に、そのための構成を簡素にすることができる自立式手動昇降スクリーンを提供する点にある。」(【0005】)38(4) 課題を解決するための手段「本発明の自立式手動昇降スクリーンは、前述の課題解決のために、ベース部材に、スクリーンを巻き取るために一端が連結された巻き取り部材を巻き取り付勢した状態で取り付け、前記スクリーンの他端が連結された上端支持部材と前記ベース5 部材とを、上部側アームと下部側アームとが枢支連結されてなるリンク機構にてスクリーン左右幅方向ほぼ中央を挟んで左右両側に振り分けた状態でそれぞれ枢支連結し、前記スクリーン左右幅方向左側に配置された上部側アームと同一側に配置された下部側アームの枢支連結部を前記上端支持部材の左右中心部に対して右側に配置し、かつ、前記スクリーン左右幅方向右側に配置された上部側アームと同一側に10 配置された下部側アームの枢支連結部を前記上端支持部材の左右中心部に対して左側に配置し、前記下部側アームを上方へ移動付勢するための付勢手段を該下部側アームと前記ベース部材との間に設け、前記左右の上部側アーム及び前記左右の下部側アームのうちの少なくとも一方にスライド自在なスライド部材を取り付け、それら左右のスライド部材を前記スクリーンの前記スクリーン左右幅方向ほぼ中央に位15 置する上下の垂線上で相対回転自在に連結したことを特徴としている。 スクリーンを引き上げて(立ち上げて)使用姿勢にしたり、スクリーンを押し下げて収納姿勢にする場合には、左右に配置されたリンク機構が伸縮することによりスクリーンをスムーズかつ安定良く支持することができる。又、例えば、展張状態(使用状態)のスクリーンの上端支持部材のスクリーン左右幅方向右端側(又は左20 端側)を押し下げる、又は収納状態のスクリーンの上端支持部材のスクリーン左右幅方向右端側(又は左端側)を引き上げようとしても、左右のリンク機構の伸縮量が異なる、換言すれば左右のアームの揺動角度が異なることから、連結されているスライド部材がスライド(移動)することができない。つまり、左右のリンク機構の伸縮量が同一にならなければ、リンク機構の伸縮作動がスライド部材にて強制的25 に停止される。要するに、スクリーンの上げ下げを行うためには、左右のリンク機構を常に決められた所定の伸縮動作、つまり左右のアームの揺動角度を常に同一に39させることにより行わせることができ、左右のリンク機構を一体的に連動させた同じ動きで安定良く伸縮させることができるのである。又、左右のリンク機構を安定良く伸縮させるために、例えば左右バランス機構等の大掛かりな装置を取り付けることが考えられるが、この場合には装置の大型化やコストアップを招くことになる。 5 そして、本発明のように左右のアームに備えさせた2つのスライド部材を連結するだけで、常に左右のアームの伸縮動作を同じ動きに規制することができるから、スクリーンの上げ下げをスムーズに行うことができる。」(【0006】)「前記左右のアームが水平姿勢に姿勢変更された場合に、該アームに取り付けられた左右のスライド部材がアーム長手方向へ移動することを接当阻止するためのス10 トッパー部材を該アームに備えさせている。 従って、スクリーンの使用姿勢から収納姿勢に切り換えることによって、左右のアーム、つまり左右の上部側アーム又は左右の下部側アーム又はそれら左右のアームの2組が水平姿勢になることで、アームに対して移動自在となった左右のスライド部材がストッパー部材に接当して、スライド部材を所定位置に維持させることが15 できる。この結果、収納姿勢から使用姿勢にスクリーンを切り換える場合に、スライド部材を所定位置、つまりスライド部材の連結位置がスクリーン左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上にある状態に一々スライド部材を位置調節することを不要にすることができる。」(【0007】)(5) 発明の実施の形態20 「図1及び図5に示すように、前記ケーシング 3 は、前述した上方開口部 3K が形成された断面形状がほぼコの字状で筒状のケース本体 3A と、このケース本体 3A の左右両端の開口部を閉じるための端部キャップ 3B、3B と、前記ケース本体 3A の下面のうちの左右の特定2箇所に回転自在に取り付けられた平面視においてほぼ長方形状の脚部 3C、3C とからな…る。」(【0012】)25 「前記ケース本体 3A の底部には、図 5 に示すように、少し上部に位置させた水平板部 3D を備えており、その水平板部 3D が、前記リンク機構 5、5 等を固定するため40のベース部材に兼用構成しているが、別のベース部材をケース本体 3A に取り付けて実施することもできる。」(【0013】)「前記スクリーン 1 は、図5 に示すように、前記ケーシング 3 内に支持された巻き取り部材としての円筒状の巻き取りパイプ 9 に巻き取られており、その巻き取り5 パイプ 9 は、図示していないスプリング等の付勢手段により巻き取り付勢(一方向に回転付勢)されている。…」(【0014】)「前記リンク機構 5、5 について説明すれば、図2〜図4に示すように、前記上端支持部材 4 の左右両端部(それら周辺であれば両端部から少し中央側の部位でもよい)に左右の角筒状(円筒状等でもよい)で金属製(金属とほぼ同等の強度を有す10 るものであれば他の材料であってもよい)の上部側アーム 11、 の上端をブラケッ11ト 12 を介してそれぞれ枢支連結し、前記ベース部材 3D の左右両端部(それら周辺であれば両端部から少し中央側の部位でもよい)に固定された支持板 14、14 に、 左右の角筒状(円筒状等でもよい)で金属製(金属とほぼ同等の強度を有するものであれば他の材料であってもよい)の下部側アーム 13、 の下端をそれぞれ枢支連1315 結し、前記左右の上部側アーム 11、11 の下端と前記左右の下部側アーム 13、13 の上端を同一側同士でそれぞれ枢支連結することにより伸縮自在な左右のリンク機構5、5 を構成している。前記のように上端支持部材 4 の左右両端に近い位置に上部側アーム 11、11 の上端を枢支連結することによって、スクリーン 1 の上げ下げをより一層安定よく行うことができる利点があるが、場合によっては左右方向中央に近20 い位置に上部側アーム 11、11 の上端を枢支連結してもよい。」(【0015】)「図2及び図3に示すように、前記下部側アーム 13、13 を上方へ移動付勢するための付勢手段としてのガススプリング(他の構成のものであってもよい) 16 を、 16、 下部側アーム 13、13 の長手方向ほぼ中央箇所とベース部材 3D の前記支持板 14、14よりも左右方向中央側に寄った位置に固定されたブラケット 17、17 の間に取り付25 けて、スクリーン 1 の下降がゆっくり行われるようにすることができると共に、任意の高さ位置でスクリーン 1 を位置保持させることができる。…」(【0017】)41「…図10(a)、(b)に示すように、ピン 22 を介して回転自在に枢支連結された分割ケース 18、19 を下部側アーム 13、13 にスライド自在に外嵌固定することによって、スクリーン1を使用姿勢から収納姿勢に切り換える際に、下部側アーム 13、13が任意の高さ位置で常に左右対称となる状態でスライド部材 20、20 にて連結され5 ている状態であるから、左右のリンク機構 5、 を常にスムーズかつ安定良く作動さ5せることができる。そして、図4、図7及び図8(c)に示すように、下部側アーム 13、 13 が収納姿勢となる水平姿勢の状態になると、前記スライド部材 20、20 が水平方向に移動可能なフリー状態になるが、該スライド部材 20、 がガススプリング 16、 2016 の上端のほぼコの字状のストッパー部材としての取付部材 23、23 に接当するこ10 とによりスライド部材 20、20 の移動が阻止され、その位置(垂線 S 上)にスライド部材 20、20 を維持することができるようにしている。このように取付部材 23、23にてスライド部材 20、 の位置を規制することによって、収納姿勢から使用姿勢に20スクリーン 1 を切り換える場合に、スライド部材 20、20 を所定位置(垂線 S 上)に移動させることなく、直ちに姿勢変更することができる利点があるが、取付部材 23、 15 23 を省略して実施することもできる。…」(【0019】)「前記昇降スクリーン 2 を立ち上げて展張させる場合には、まず昇降スクリーン2 を所定位置に移動させてから、前記脚部 3C、3C を図1〜 図4に示すようにケーシング 3 の長手方向と直交する使用姿勢に切り換える。この状態から、図5で示したカバー部材 6 を矢印の方向に移動させることにより、上方開口部 3K を開ける。次20 に、取っ手 4A を所定高さまで持ち上げることにより、図1〜図3に示すように展張させることができる。前記昇降スクリーン 2 の立ち上げに伴って、リンク機構 5、5が伸長作動する場合に、図6及び図8(b)に示すように、スライド部材 20、20 が左右の下部側アーム 13、13 揺動に追従して互いに反対方向に回転しながら下部側アーム 13、13 上をスライド(移動)することで結果として垂線 S を上方へ移動して、 25 下部側アーム 13、 がスライド部材 20、 にて同一角度に揺動されることにより、 13 20安定良く昇降スクリーン 2 の立ち上げを行うことができる。…前記展張させた昇降42スクリーン 2 を収納状態にする場合には、前記取っ手 4A を持って押し下げることによって、リンク機構 5、5 を短縮作動させて、ケーシング 3 内にスクリーン 1 を巻き取り収納させるのである。前記昇降スクリーン2の押し下げに伴って、リンク機構 5、5 が短縮作動する場合に、図6及び図8(b)に示すように、スライド部材 20、 5 20 が下部側アーム 13、13 の揺動に追従して互いに反対方向に回転しながら下部側アーム 13、13 上をスライド(移動)することで結果として垂線 S を上方へ移動して、下部側アーム 13、13 がスライド部材 20、20 にて同一角度に揺動されることにより、安定良く昇降スクリーン 2 の押し下げを行うことができる。…前記リンク機構 5、5 の短縮作動が完了したときに、図7及び図8(c)に示すように、スライド部10 材 20、20 が取付部材 23、23 に接当してその位置(垂線 S 上の位置)が維持されることになる。…」(【0020】)(6) 発明の効果「請求項1の発明によれば、スクリーンを引き上げて(立ち上げて)使用姿勢にしたり、スクリーンを押し下げて収納姿勢にする場合には、左右に配置されたリン15 ク機構が伸縮することによりスクリーンをスムーズかつ安定良く支持することができる。又、例えば、展張状態(使用状態)のスクリーンの上端支持部材のスクリーン左右幅方向右端側(又は左端側)を押し下げる、又は収納状態のスクリーンの上端支持部材のスクリーン左右幅方向右端側(又は左端側)を引き上げることを、スライド部材にて阻止することができるから、従来のように一方のリンク機構のみが20 大きく伸縮作動されて変形や損傷等のトラブル発生を招くことがなく長期間に渡って良好に使用することができる自立式手動昇降スクリーンを提供することができる。 又、連結されたスライド部材にて左右のアームを同一揺動角度にて揺動させることができるから、左右のリンク機構を常に決められた所定の動作にて行わせることができ、左右のリンク機構を一体的に連動させた状態でスムーズかつ安定良く伸縮さ25 せることができる。しかも、左右のリンク機構を安定良く伸縮させるために、例えば左右バランス機構等の大掛かりな装置を取り付ける場合に比べて本発明では構成43の簡素化を図ることができるから、装置の大型化やコストアップを抑制することができる利点がある。」(【0022】)「請求項2の発明によれば、スクリーンの使用姿勢から収納姿勢に切り換えることによって、フリー状態となるスライド部材をストッパー部材にて所定位置に維持5 させることができるから、収納姿勢から使用姿勢にスクリーンを切り換える場合に、 スライド部材を所定位置、つまりスライド部材の連結位置がスクリーン左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上にある状態に一々スライド部材を位置調節することを不要にすることができ、使用面において有利になる。」(【0023】)「請求項3の発明によれば、ストッパー部材を、付勢手段の一端をアームに取り10 付けるための取付部材で兼用構成することによって、部材点数の削減化を図ることができ、コスト面及び組付面において有利になる。」(【0024】)2 本件訂正後発明1の技術的範囲への属否(争点1−1)について(1) 被告製品の構成について被告製品の形状等は別紙「写真目録」の写真のとおりであること(ただし、 (ピ22'15 ン)の形状に若干の争いはあるが、その存在に争いはない。)、被告製品が別紙「被告製品説明書(原告)」1記載の c、d、f 及び h の構成を有することは、当事者間に争いがない。また、証拠(甲6、11、乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、 被告製品のスクリーン 1'を巻き取るための上端支持部材 4'に一端が連結された巻き取りパイプ(巻き取り部材)9'が、ケース本体 3A'の端部に取り付けられた端部20 キャップ 3B'によって支持されていること、水平板部 3D'がケース本体 3A'の底部に備えられていること、下部側アーム 13'の一端が水平板部 3D'に連結されていることが認められる。 被告製品が、本件訂正後発明1の構成要件 C、D、F 及び H を充足することは当事者間に争いがない。争いのある同構成要件 A、B、E 及び G の充足性につき、以下検25 討する。 (2) 構成要件 A の充足性44ア 被告製品において、「ベース部材」に「巻き取り部材」が取り付けられているかが争われている。 「ベース」の字義は、土台、基礎、基本である(乙7)。 本件訂正後発明1に係る請求項の記載のうち、「ベース部材」に関するものは、 5 「ベース部材にスクリーンを巻き取るために一端が連結された巻き取り部材を巻き取り付勢した状態で取り付け、」(構成要件 A)、「前記スクリーンの他端が連結された上端支持部材と前記ベース部材とを、上部側アームと下部側アームとが…それぞれ枢支連結し、」(構成要件 B)、「前記下部側アームを上方へ移動付勢するための付勢手段を該下部側アームと前記ベース部材との間に設け、」(構成要件 E)で10 あり、これによれば、ベース部材には、巻き取り部材が巻き取り付勢した状態で取り付けられており、また、上部側アームと下部側アームとが枢支連結されてなるリンク機構によって上端支持部材と枢支連結され、下部側アームとの間に付勢手段が設けられたとの配置が示されているが、それ以上の特定はなされていない。また、 本件明細書においても、「ベース部材」の意義等について明示する記載はない。 15 もっとも、本件明細書には、符号の説明として「3D 水平板部(ベース部材)」との記載や「前記ケース本体 3A の底部には、図5に示すように、少し上部に位置させた水平板部 3D を備えており、その水平板部 3D が、前記リンク機構 5、5 等を固定するためのベース部材に兼用構成しているが、別のベース部材をケース本体 3A に取り付けて実施することもできる。」(【0013】)との記載があり、これらによれ20 ば、ケース本体 3A の底部に水平板部 3D が備えられており、水平板部 3D はリンク機構 5、5 等を固定するためのベース部材に兼用されることが想定されているといえる。また、本件明細書の他の記載、すなわち「…ケーシング 3 は、…ケース本体3A と、このケース本体 3A の左右両端の開口部を閉じるための端部キャップ 3B、3Bと…脚部 3C、3C とからなり…」(【0012】)、「前記スクリーン 1 は、図5に示す25 ように、前記ケーシング 3 内に支持された巻き取り部材としての円筒状の巻き取りパイプ 9 に巻き取られており、その巻き取りパイプ 9 は、図示していないスプリン45グ等の付勢手段により巻き取り付勢(一方向に回転付勢)されている。 (…」【0014】 、 )「…前記ベース部材 3D の左右両端部に固定された支持板 14、14 に…下部側アーム13、13 の下端をそれぞれ枢支連結し…」(【0015】)、「…前記下部側アーム 13、 13 を上方へ移動付勢するための付勢手段としてのガススプリング…16、 を、 16 下部5 側アーム 13、13 の長手方向ほぼ中央箇所とベース部材 3D の前記支持板 14、14 よりも左右方向中央側に寄った位置に固定されたブラケット 17、17 の間に取り付けて…」(【0017】)に照らすと、ケーシング 3 は、ケース本体 3A、端部キャップ 3B、 脚部 3C からなるところ、ケース本体 3A の一部を構成する水平板部 3D とリンク機構 5、5 を構成する下部側アーム 13、13 との間に付勢手段としてのガススプリング10 16、16 が取り付けられており、巻き取りパイプ 9 はケーシング内で支持されていることから、土台を形成する部材はケーシング 3 全体であり、前記請求項の記載をも踏まえると、「ベース部材」に相当する部材は、水平板部(ベース部材)3D のみではなく、これを含むケーシング 3 全体と解するのが相当である。 以上のとおり、前記「ベース」の字義、本件訂正後発明1に係る請求項及び本件15 明細書の記載内容に照らすと、「ベース部材」とは、水平板部 3D、ケース本体 3A、 端部キャップ 3B 及び脚部 3C のように、一体的に、製品の基礎や土台を構成する部材全体を意味すると解するのが相当である。 イ 前記(1)のとおり、被告製品は、スクリーンを巻き取るための巻き取りパイプ(巻き取り部材)9'がケース本体 3A'の端部に取り付けられた端部キャップ 3B'に20 よって支持され、ケース本体 3A'の底部に水平板部 3D'が備えられ、上部側アーム11'と下部側アーム 13'が枢支連結されてなるリンク機構 5'は上端支持部材 4'と水平板部 3D'とを枢支連結しており、下部側アーム 11'と水平板部 3D'との間にガススプリング(付勢手段)16'が設けられている。また、ケース本体 3A'及び水平板部 3D'は、被告製品の土台を構成している。 25 そうすると、被告製品のケース本体 3A'及び水平板部 3D'は、製品の土台を構成するものとして「ベース部材」に相当すると解され、また、巻き取りパイプ(巻き取46り部材)9'はケース本体 3A'の端部に取り付けられた端部キャップ 3B'によって支持されているから、「ベース部材」に巻き取り部材が取り付けられているものと解される。 したがって、被告製品は構成要件 A を充足する。 5 ウ 被告は、「ベース部材」は「ケース本体」や「端部キャップ」とは異なるものであること、被告製品には、ケース本体の底部に水平な土台となっている部分が存在するが、これは「ベース部材」たり得ないことを指摘して、被告製品にはベース部材が存在しない旨を主張し、また、被告製品の巻き取り部材はキャップ端部に取り付けられているから、被告製品は構成要件 A を充足しない旨を主張する。 10 しかし、「ベース部材」の意義については、前記アのとおりに理解されるのであり、被告製品においても、ケース本体 3A'、水平板部 3D'及び端部キャップ 3B'の全体がベース部材を構成すると解するのが相当であるから、被告の主張は採用できない。 なお、端部キャップ 3B’が「ベース部材」を構成するかは措くとしても、証拠(甲15 6、乙1、2)によれば、被告製品の端部キャップ3B’はケース本体 3A’に一体的に取り付けられているから、巻き取りパイプ(巻き取り部材)9’は、端部キャップ 3B’を介してケース本体 3A’(ベース部材を構成)に取り付けられていることに変わりはないものというべきである。 (3) 構成要件 B の充足性20 ア 前記(1)及び(2)のとおり、被告製品は、スクリーン 1'の他端が連結された上端支持部材 4'と、ケース本体 3A'及び水平板部 3D'(ベース部材に相当)とを、上部側アーム 11'と下部側アーム 13'とが枢支連結されてなるリンク機構 5'にてスクリーン左右幅方向ほぼ中央を挟んで左右両側に振り分けた状態でそれぞれ枢支連結しており、構成要件 B を充足する。 25 イ(ア) これに対し、被告は、上部側アーム及び下部側アームが枢支連結される位置は限定して解釈すべきであるとして争っている。 47すなわち、被告は、本件明細書に、左右のリンク機構を常に決められた所定の動作にて行わせ、スムーズかつ安定良く伸縮させる旨の記載があることを指摘して 、 上部側アームを枢支連結させる位置は、端部を持ってスクリーンを押し下げた際に、 大きく傾くことなく、スライド部材が上下の垂線上から外れて移動しない位置でな5 ければならず、下部側アームを枢支連結させる位置は、ベース部材の左右両端に近い位置でなければならない旨を主張する。 (イ) しかし、本件訂正後発明1に係る請求項1において、上部側アーム及び下部側アームが枢支連結される位置に関しては、「スクリーン左右幅方向ほぼ中央を挟んで左右両側に振り分けた状態で」(構成要件 B)との記載があるのみで、それ以10 上の特定はなされていない。一方、本件明細書には、「…上端支持部材 4 の左右両端に近い位置に上部側アーム 11、11 の上端を枢支連結することによって 、スクリーン 1 の上げ下げをより一層安定よく行うことができる利点があるが、場合によっては左右方向中央に近い位置に上部側アーム 11、 の上端を枢支連結してもよい。 11 」(【0015】)との記載があり、上部側アームについては、中央に近い位置に枢支連15 結させることを許容している。 (ウ) また、本件明細書によれば、従来、自立式手動昇降スクリーンにおいては、 スクリーンの上端支持部材の左右幅方向ほぼ中央にパンタグラフ式のリンク機構の上端を枢支連結して、スクリーンを展張させた姿勢で保持させることが行われていたが、かかる構成では、リンク機構のスムーズな伸縮動作を安定良く行わせること20 やスクリーンを安定良く自立させるためには、左右のバランス調節等を精度良く行わなければならないだけでなく、上端支持部材の左右方向中央を持ってスクリーンの上げ下げを行わなければスムーズな上げ下げを行うことができず、操作性が低下するという課題があった(【0002】)。このような課題を解決するものとしては、 上端支持部材の左右両端と支持フレームの左右両端とを上端側アームと支持フレー25 ム側アームとからなる左右のリンク機構にて連結支持させて、リンク機構のスムーズな伸縮動作を安定良く行わせることやスクリーンを安定良く自立させることがで48きるように構成されたもの(特開平 6-235973。以下「従来発明」という。別紙「従来発明の図」参照)がある(【0003】)。これによれば、パンタグラフ式のリンク機構において、中央のみで支持するものに比べて、左右の2点で支持するものの方が、スクリーンの安定性、操作性において有利であることが理解される。しかし、 5 従来発明は、左右のリンク機構がそれぞれ単独で自由に伸縮できる構成であり、上端支持部材に左右のリンク機構が連動された構成であるため、展張状態のスクリーンの上端支持部材の左右一端部を持ってスクリーンを押し下げると、上端支持部材が押される側が先に大きく下降した傾斜姿勢になってしまい、その下降した側のリンク機構が大きく短縮作動される。このため、短縮される側のリンク機構のみに大10 きな負荷が加わり、リンク機構の変形や損傷を招いてしまう課題があった 【0004】 。 ( )本件各訂正後発明は、このような課題に対し、ベース部材に、スクリーンを巻き取るために一端が連結された巻き取り部材を巻き取り付勢した状態で取り付け、前記スクリーンの他端が連結された上端支持部材と前記ベース部材とを、上部側アームと下部側アームとが枢支連結されてなるリンク機構にてスクリーン左右幅方向ほぼ15 中央を挟んで左右両側に振り分けた状態でそれぞれ枢支連結し、前記スクリーン左右幅方向左側に配置された上部側アームと同一側に配置された下部側アームの枢支連結部を前記上端支持部材の左右中心部に対して右側に配置し、かつ、前記スクリーン左右幅方向右側に配置された上部側アームと同一側に配置された下部側アームの枢支連結部を前記上端支持部材の左右中心部に対して左側に配置し、前記下部側20 アームを上方へ移動付勢するための付勢手段を該下部側アームと前記ベース部材との間に設け、前記左右の上部側アーム及び前記左右の下部側アームのうちの少なくとも一方にスライド自在なスライド部材を取り付け、それら左右のスライド部材を前記スクリーンの前記スクリーン左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上で相対回転自在に連結するという構成をとることで、スクリーンの上げ下げを長期間に25 渡って変形や損傷等のトラブル発生のない状態で行うことができると共に、そのための構成を簡素にすることができる自立式手動昇降スクリーンを提供することを目49的とするものである(【0005】、【0006】)。一方で、従来技術の課題である、左右のリンク機構を安定良く伸縮させるためには、例えば左右バランス機構等の大掛かりな装置を取り付ける方法が考えられるが、この場合には装置の大型化やコストアップを招くことになるから、本件各訂正後発明ではそのような構成を採用するこ5 となく、前記の簡素な構成を採用したものである(【0006】)。 また、本件明細書によれば、「…取っ手 4A を所定高さまで持ち上げることにより、図1〜図3に示すように展張させることができる。…前記展張させた昇降スクリーン 2 を収納状態にする場合には、前記取っ手 4A を持って押し下げることによって、リンク機構 5、5 を短縮作動させて、ケーシング 3 内にスクリーン 1 を巻き取10 り収納させるのである。…」(【0020】)と記載されているとおり、上端支持部材の中央部分に取り付けられた取っ手 4A を持って、スクリーンの昇降が行われることを基本としている。一方、「…例えば、展張状態(使用状態)のスクリーンの上端支持部材のスクリーン左右幅方向右端側(又は左端側)を押し下げる、又は収納状態のスクリーンの上端支持部材のスクリーン左右幅方向右端側(又は左端側)を15 引き上げようとしても、左右のリンク機構の伸縮量が異なる、換言すれば左右のアームの揺動角度が異なることから、連結されているスライド部材がスライド(移動)することができない。…」(【0006】)、「…例えば、展張状態(使用状態)のスクリーンの上端支持部材のスクリーン左右幅方向右端側(又は左端側)を押し下げる、又は収納状態のスクリーンの上端支持部材のスクリーン左右幅方向右端側(又20 は左端側)を引き上げることを、スライド部材にて阻止することができる…」(【0022】)と記載されているように、上端支持部材の左右両端側の一方に押し下げる、又は、 引き上げようとする力が加わった場合には、スライド部材によりそのような動きを規制する力が働くことになる。 このような本件各訂正後発明の課題や課題を解決するための手段、目的等に照ら25 すと、本件各訂正後発明は、上部側アームと下部側アームとが枢支連結されてなるリンク機構及びスライド部材を備える構成をとることで、簡素な構成にしつつ、上50端支持部材の中央付近に力が加えられる通常の使用態様のほか、左右両端部の一方に力が加えられた場合においても、上端支持部材の力が加えられた側が先に大きく下降あるいは上昇した傾斜姿勢になることを防ぎ、リンク機構の変形や損傷等のトラブル発生を防止することを可能とするものであると認められる。したがって、本5 件明細書の「連結されたスライド部材にて左右のアームを同一揺動角度にて揺動させることができるから、左右のリンク機構を常に決められた所定の動作にて行わせることができ、左右のリンク機構を一体的に連動させた状態でスムーズかつ安定良く伸縮させることができる」(【0022】)との記載は、左右両端部の一方に力が加えられた場合においても、スライド部材により、上端支持部材の力が加えられた側10 が先に大きく下降あるいは上昇した傾斜姿勢になることを規制する力が働くため、 左右のアームを同一揺動角度にて揺動させることができ、そうすることで、左右のリンク機構の動作が、スライド部材が上下の垂線上を維持するような動作に収束することとなるから、左右のリンク機構をスムーズかつ安定良く伸縮させることができることを意味しているにすぎず、いかなる場合であっても常に、スライド部材が15 上下の垂線上を移動することを要するとの趣旨とは解されない。また、上端支持部材の力が加えられた側が先に大きく下降あるいは上昇した傾斜姿勢になることを規制する力は、上部側アーム、下部側アームの枢支連結位置が中央寄りであっても端部寄りであっても、働くことに変わりはないことは明らかであるから、上部側アーム及び下部側アームが枢支連結する位置を限定するものとも解されない。 20 なお、被告は、上部側アームの枢支連結位置に関し、てこの原理により端部(力点)からリンク機構を枢支連結する位置が離れるほど、一方のリンク機構が傾き、 スライド部材が上下の垂線上から外れて移動する旨主張する。しかし、前記のとおり、パンタグラフ式のリンク機構において、中央のみで支持するものに比べて、左右の2点で支持するものの方が、スクリーンの安定性、操作性において有利である25 ことに加え、スライド部材により、上端支持部材の力が加えられた側が先に大きく下降あるいは上昇した傾斜姿勢になることを規制する力は、その程度に差はあるも51のの、上部側アーム及び下部側アームの枢支連結位置が中央寄りであっても端部寄りであっても働くことに変わりはない。また、被告は、スライド部材が、常に上下の垂線上を移動することを前提として前記主張をし、上部側アームの枢支連結位置が限定されるというが、本件各訂正後発明においては、その前提を欠くことは前記5 したとおりである。さらに、被告は、下部側アームの枢支連結位置に関し、本件明細書の図面の記載を根拠に、ベース部材の左右両端に近い位置に限定される旨主張するが、実施例の記載から下部側アームの枢支連結位置を限定することは相当でなく、採用できない。 (エ) 以上から、被告の前記主張は採用できない。 10 (4) 構成要件 E の充足性ア 前記(1)及び(2)のとおり、被告製品は、下部側アーム 13'を上方へ移動付勢するためのガススプリング(付勢手段)16'を下部側アーム 13'と、ケース本体 3A'及び水平板部 3D'(ベース部材に相当)との間に設けていることから、構成要件 E を充足する。 15 イ 被告は、構成要件 E の文言上は、付勢手段を「ハの字状」に設ける構成が記載されているものと解するべきである旨を主張する。 しかし、本件訂正後発明1に係る請求項1のうち、付勢手段に関するものは「…付勢手段を該下部側アームと前記ベース部材との間に設け、」(構成要件 E)との記載があるのみで、それ以上の特定はなされていない。 20 確かに、本件明細書では、実施例として「ハの字状」の付勢手段が開示されている(図2、図6、図11)が、これらは実施例にすぎず、その他、付勢手段が「ハの字状」に限定されることをうかがわせる記載はない。 したがって、被告の前記主張は採用できない。 (5) 構成要件 G の充足性25 ア 被告製品が、「左右のスライド部材が…上下の垂線上で相対回転自在に連結した」との構成を有するかが争われている。 52本件訂正後発明1に係る請求項1には、スライド部材に関して、「左右の上部側アーム及び前記左右の下部側アームのうちの少なくとも一方に、…スライド自在なスライド部材を取り付け、」(構成要件 F)、「それら左右のスライド部材を前記スクリーンの前記スクリーンの左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上で相対回5 転自在に連結した」(構成要件 G)との記載があり、これらの記載から、左右の上部側アーム又は左右の下部側アームに取り付けられた左右のスライド部材の相対的な角度が変化するが、左右のスライド部材は、スクリーンの幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上を移動するように連結されていることが特定されていると解される。 また、本件明細書では、「…左右のスライド部材を前記スクリーンの前記スクリ10 ーン左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上で相対回転自在に連結したことを特徴としている。」(【0006】)、「左右のスライド部材 20、20 を前後方向で、かつ、左右方向ほぼ中央部に位置する上下の垂線 S で相対回転自在に連結してあり、 左右のリンク機構 5、5 をスムーズかつ安定良く伸縮作動させることができるようにしている。」(【0018】)との記載があり、同様に左右のスライド部材が上下の15 垂線上を移動することを意味していると解される。 この点、被告は、「上下の垂線上で相対回転自在に連結した」というためには、 スライド部材は、左右いずれかの端部を持って昇降動作させた場合にも、使用姿勢ないし水平姿勢の間、常に垂線上で相対回転自在に連結される必要がある旨を主張する。しかし、前記(3)のとおり、本件各訂正後発明は、上部側アームと下部側アー20 ムとが枢支連結されてなるリンク機構及びスライド部材を備える構成をとることで、 構成を簡素にしつつ、上端支持部材の中央付近に力が加えられる通常の使用態様のほか、左右両端部の一方に力が加えられた場合においても、上端支持部材の力が加えられた側が先に大きく下降あるいは上昇した傾斜姿勢になることを防ぎ、リンク機構の変形や損傷等のトラブル発生を防止することを可能とするものである。そう25 すると、「上下の垂線上で相対回転自在に」とは、いかなる場合であっても常に左右のスライド部材が上下の垂線上を移動することを意味するものではなく、通常の53使用態様では左右のスライド部材が上下の垂線上を移動し、左右両端部の一方に力が加えられた場合においても、スライド部材に対し、上下の垂線上の位置を維持するような規制力、あるいは、上下の垂線上を一旦離れたスライド部材が上下の垂線上に復帰するような復元力が働くようスライド部材が連結されていることを意味す5 ると解するのが相当である。したがって、被告の主張は採用できない。 イ 証拠(甲4、10、13〜17、乙3、6、15、123、127)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品のスライド部材 20'は、スクリーン 1'左右幅方向ほぼ中央に位置するところ、通常の使用態様(取っ手を持って、スクリーンを引き出しゆっくり持ち上げ又はゆっくり引き下ろす。)では、上下の垂線上を移動し、上10 端支持部材 4'の一方に力が加えられた場合においても、スライド部材 20'が、上下の垂線上の位置を維持するような規制力、あるいは、復元力が働くように連結されていることが認められる。 したがって、被告製品のスライド部材 20'は、上下の垂線上で相対回転自在に連結されているものといえるから、被告製品は、構成要件 G を充足する。 15 3 本件訂正後発明2及び3の技術的範囲への属否(争点1−2)について(1) 被告製品の構成について被告製品が、別紙「被告製品説明書(原告)」3記載の f3 の構成を有することは当事者間に争いがなく、被告製品が、本件訂正後発明3の構成要件 F3 を充足することは当事者間に争いがない。争いのある本件訂正後発明2の構成要件 I 及び本件訂20 正後発明3の構成要件 J につき、以下検討する。 (2) 構成要件 I 及び J の充足性ア 本件訂正後発明2及び3に係る請求項のうち、構成要件 J 及び I には、「前記左右のアームが水平姿勢に姿勢変更された場合に、該アームに取り付けられた左右のスライド部材がアーム長手方向へ移動することを接当阻止するためのストッパ25 ー部材」との記載があるところ、被告製品がこの構成を有するかが争われている。 ストッパー部材は、上記請求項の記載からは、左右のアームが水平姿勢となった54場合に、接当する態様でスライド部材が移動することを阻止する機能を有することが理解できるが、「接当阻止」の語が、常にストッパー部材とスライド部材との間にクリアランスがない状態で阻止することまで意味するとは解されない。 また、本件明細書には、「…下部側アーム 13、13 が収納姿勢となる水平姿勢の状5 態になると、前記スライド部材 20、20 が水平方向に移動可能なフリー状態になるが、該スライド部材 20、20 がガススプリング 16、16 の上端のほぼコの字状のストッパー部材としての取付部材 23、23 に接当することによりスライド部材 20、20 の移動が阻止され、その位置(垂線 S 上)にスライド部材 20、20 を維持することができるようにしている。このように取付部材 23、23 にてスライド部材 20、20 の位置10 を規制することによって、収納姿勢から使用姿勢にスクリーン 1 を切り換える場合に、スライド部材 20、20 を所定位置(垂線 S 上)に移動させることなく、直ちに姿勢変更することができる利点がある…」(【0019】)、「前記リンク機構 5、5 の短縮作動が完了したときに、図7及び図8(c)に示すように、スライド部材 20、20 が取付部材 23、 に接当してその位置23 (垂線 S 上の位置)が維持されることになる。」15 (【0020】)などと記載されている。これらによれば、ストッパー部材は、スクリーンの収納姿勢時において、スライド部材が水平方向に自由に移動することを阻止し、スライド部材を垂線上に維持する機能を有し、収納姿勢から使用姿勢に切り替える際に、使用者がスライド部材を垂線上に移動させることなく姿勢変更することができるとの効果を奏するものであると認められる。そして、この機能及び効果か20 らすれば、「接当阻止」とは、ストッパー部材がスライド部材に接し当たることで、 その移動を阻止することと解されるものの、両者が常に接してその間にクリアランスがないことまで要するものとは解されない。 したがって、「接当阻止」とは、スクリーンを収納姿勢から使用姿勢に切り替える際に、スライド部材を垂線上に配置することが可能な位置にストッパー部材を備25 え、ストッパー部材と接して当たることで、スライド部材が水平方向に自由に移動することを阻止することを意味すると解するのが相当である。 55イ 前記2(1)並びに証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品のストッパー部材 26'は、収納姿勢において、スライド部材 20'が水平方向に左右3mm(合計6mm)程度移動可能な位置に備えられ、ストッパー部材 26'と接することでその移動を阻止する機能を有しており、また、取付部材(ストッパー部材)23'は、ガスス5 プリング(付勢手段)17'の一端を下部側アームに取り付けるための取付部材であると共に、収納姿勢において、スライド部材 20'が水平方向に左右3mm 程度移動可能な位置に備えられ、取付部材(ストッパー部材)23'と接することでその移動を阻止していることから、構成要件 I 及び J を充足する。 ウ 被告は、接当阻止とは、文字どおり、スライド部材とストッパー部材が接し10 当たっていること、すなわち両者間にクリアランスがない状態をいうものと解すべきである旨、被告製品のストッパー部材は、本件訂正後発明2及び3とは別の目的・役割を有するものである旨を主張する。 しかし、前記アのとおり、本件訂正後発明2に係る請求項2及び本件明細書の記載内容によれば、「接当」がストッパー部材とスライド部材との間に常にクリアラ15 ンスがない状態をいうものと解することはできず、その他、本件明細書等において、 これをうかがわせる記載はない。また、前記イのとおり、被告製品のストッパー部材は、本件訂正後発明2及び3に係るストッパー部材の役割を果たすものであり、 仮に、被告製品のストッパー部材に別の目的や役割があったとしても、前記認定を左右するものではない。 20 したがって、被告の前記主張は採用できない。 4 作用効果不奏功の抗弁の成否(争点1−3)について(1) 被告は、被告製品は、常に左右のアームの伸縮動作を同じ動きに規制する前提をとっておらず、スライド部材が常に垂線上で上下するといった作用はなく、左右のリンク機構が常に決められた所定の伸縮動作をするとの効果を奏しない旨、被25 告製品のリンク機構は不限定連鎖であって、各リンクの運動は限定されず、各スライド部材も、それぞれ各アームに対するスライド(移動)及び互いの相対回転を何56ら規制していないことから、被告製品において、上端支持部材の一端を持って押し下げた場合、リンク機構は不規則かつ不揃いに伸縮動作し、スライド部材によってかかる伸縮動作を強制的に停止されることはない旨を指摘して、被告製品は、本件各訂正後発明が解決しようとする課題に対して効果を奏さず、その技術的範囲に属5 するものではないと主張する。 (2) しかし、前記2(3)イのとおり、本件各訂正後発明は、簡素な構成により、 従来技術の課題を解決することを目的とする発明であり、いかなる場合であっても、 常に左右のアームの伸縮動作を同じ動きに規制することなどを目的とするものではない。そして、前記2及び3のとおり、被告製品は、本件各訂正後発明の各構成要10 件を充足するものであるところ、証拠(甲4、10、13〜17)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、上部側アームと下部側アームとが枢支連結されてなるリンク機構やスライド部材等の本件各訂正後発明の各構成要件に該当する構成によって、スクリーンをスムーズかつ安定良く支持することができ、上端支持部材の左右両端部の一方に力を加える使用態様であっても、上端支持部材の力が加えられた側15 が先に大きく下降あるいは上昇して傾斜姿勢になることを防ぎ、左右のリンク機構が所定の伸縮動作をするという作用効果を奏し、本件訂正後発明2及び3の構成要件に該当するストッパー部材によって、スライド部材を位置調節することを不要とする作用効果を奏することが認められる。したがって、被告製品は、本件各訂正後発明が解決しようとする課題に対して効果を奏しているものといえる。 20 被告は、本件各訂正後発明の作用効果や被告製品のリンク機構が不限定連鎖であることに関する証拠として、動画(乙3、15、122、127)及び専門家の意見書(乙27〜31、129、133、135)を提出する(なお、原告は、本件審決の内容を踏まえた主張立証は時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである旨を主張するが、これによって、訴訟の完結を遅延させることとなるとは認25 められないから、採用できない。)。しかし、前記動画は、スクリーンの操作者が、 斜め外側に向けて引っ張るような力を加えていることがうかがわれ(甲5、12)、 57簡素な構成により課題を解決しようとする本件各訂正後発明が想定している使用態様を超えたものである。また、前記意見書は、左右のアームに伸縮動作が異なるような力がかかると、スライド部材から押し付け力を受けて抵抗が生じ、これにより伸縮動作が規制され、一方のリンク機構のみが大きく伸縮作動されてトラブル発生5 を招くことがない旨の効果を奏するかとの命題を設定しつつ、スライド部材の有無による臨界荷重の変化を具体的に示すことなく当該効果を否定するもの、当該効果とは必ずしも一致しない上部支持部と下部支持部が平行になる状態を、スライド部材が能動的に実現するものではないとして当該効果を否定するもの、あるいは、 スライド部材によってリンク機構が左右に傾くことなく常に左右対称に上下動する効10 果を奏するかや妥当な一般的諸条件全般でスクリーンを水平に保つという復元力が実用上効果的に発生するかなどといった命題を設定したりするなどして(それらの命題に係る作用効果が本件各訂正後発明の作用効果とは解されないことは前示のとおりである。)、リンク機構の動作に関する機構学上の可能性を指摘するものにすぎない。したがって、これらの証拠があるからといって、被告製品が本件各訂正後15 発明の効果を奏さないことにはならない。 よって、被告の前記主張は採用できない。 (3) 以上から、被告製品は、本件各訂正後発明の技術的範囲に属する。 5 乙101公報記載の発明(乙101発明)に基づく進歩性欠如の有無(争点2−1)について20 (1) 乙101公報は、直立昇下降式スクリーン装置に関する発明の大韓民国公開特許公報であり、次の記載がある。 ア 特許請求の範囲(ア) 請求項1スクリーン(1)と 一端が減速機(31)(31)にそれぞれ回動可能に軸結合されて昇降;25 案内具(22)によって誘導可能に x 字に結合される昇下降台(21)(21)と、一端が、上記昇下降台(21)(21)の他端にそれぞれリンク結合されて x 字に交差されるように設58置され、他端は、スクリーン(1)上部の固定枠(25)に軸結合される支持台(24)(24)と、 一側がベース(6)に連結固定され、他側は、上記支持台(24)(24)の折曲部(24a)(24a)に互いに交差されるように連結されるテンションバー(26)(26)とで構成されるスクリーン支持装置(2)と;両側に減速機(31)(31)を設置するものの、そのうち一方の減5 速機(31)上には、第1駆動モータ(M1)を設置して多数のギア(8)および駆動軸(32)で各減速機(31)(31)に駆動力が伝達されるようにし、上記スクリーン(1)が巻き取られる外筒(41)の一側を上記減速機(31)(31)うちのいずれか一側の減速機(31)に連結構成したスクリーン昇下降装置(3)と;上記外筒(41)内部にこの外筒(41)と固定されて中央に中空のスプリング巻取軸(42)が固定設置される固定具(43)と、この固定具10 (43)に一端が固定され、他端は、上記スプリング巻取軸(42)の中空部に一定長さだけ嵌められて設置される減速機(31)の回転軸(31a)に連結されてスプリング巻取軸(42)に外嵌されるテンションスプリング(44)とで構成されるスクリーンテンション装置(4)と;上記スクリーン昇下降装置(2)が設置されるベース(6)の内部中央に設置される第2駆動モータ(M2)によって駆動される作動ギア(51)の両側に、ベース(6)15 に 回 動 可 能 に 設 置 さ れ た 支 持 杆 (55)と 作 動 部 材 (56)に よ っ て 連 結 さ れ る 作 動 棒(53)(53)の一端をそれぞれ対向設置し、ベース(6)の上記支持杆(55)の対向側には、 軸(55a)を介在して支持杆(55)と連動する接点具(58)を設置してリミットスイッチ(57)と接離されるようにしたスクリーン傾斜調節装置(5)と;下部両側に別途の支持板(61)を設置するものの、ヒンジ(62)で上記支持板(61)を前面側の下部に結合し20 てなるベース(6)と;で構成されることを特徴とする直立昇下降式スクリーン装置。 (イ) 請求項2第1項において、上記スクリーン支持装置(2)の昇下降台(2)(2)を x 字に結合する昇降案内具(22)は、内部に上記昇下降台(2)(2)の上下面と接触する多数の案内ベアリング(23)…を設置した二個の本体(22a)(22b)を互いに結合してなることを特徴25 とする直立昇下降式スクリーン装置。 イ 発明の詳細な説明59「本発明は、直立昇下降式スクリーン装置に関することであり、さらに詳細には、 任意の像を投影させるためのスクリーンを有線・無線の遠隔操作によって下部から上部に直立昇下降するようにしたスクリーン装置を舞台や講演場などの床部に設置して必要時にスクリーンが上に直立上昇されて設置されるようにすることによって5 スクリーンを必要に応じてその都度、場所に捕らわれることなく簡便に使用できるようにしたものである。」「…従来のスクリーンのうち天井に設置される前者のスクリーンの場合は、スクリーン設置のための天井埋め込み工事が必要となるだけでなく、また天井工事の特性上、スクリーンの設置作業が非常に難しくてスクリーンの設置にともなう費用が10 多く所要されるだけでなく、事後のアフターサービス面でも多くの問題があり、支持台によって懸垂されて必要時毎に移動していき、使用可能な後者のスクリーンの場合は、スクリーン使用する時毎に支持台の設置のために畳んだり、広げたりする煩わしさと併せてこれもやはりロール式に巻き取られた状態で上部から下部に垂れ下がった状態でスクリーンとして使用されるものであり、電動スクリーンの場合は、 15 固定式でのみ使用可能であるに過ぎず、移動式では使用することができないものだった。」「このように従来のロール式のスクリーンは、一様に上部から下部に垂れ下がって懸垂される方式によりスクリーンとして形成されるものなので、スクリーン面の屈曲を無くせるように常にピンと張るように引っ張られるようにするためにスクリ20 ーン下端に重量体としての棒が設置されなければならず、それさえも重量体として棒が設置されるにしても、これは、スクリーンがその裏面にいかなる支持物も無しに単純に上から下に垂れ下がった状態で重量体によってのみスクリーン面がピンと張るように引っ張られるようにするものなので、室内外の微細な風にもスクリーンが前後に動くようになって瞬間的にスクリーン面に折れ曲がりができるようになる25 ので、スクリーン面に投影される像が歪んだり変形したりする像の歪曲現象が発生して良質の画像を得るのが困難な問題もまた有しているのである。」60「したがって、本発明は、上記したとおりの従来のスクリーンが有する諸般の問題点を勘案して、運搬および設置が簡便であると同時に上部から下部に垂れ下がる懸垂方式ではないスクリーンが下部から上部に上昇しながら、スクリーン面を形成する直立式になっていて場所に捕らわれることなく有線・無線の遠隔操作で簡便に5 使用できると同時にテンション装置によってスクリーンに緊張力を付与してスクリーン面を常にピンと張るように維持できるようにすることによりスクリーン面に投影される像の歪曲現象を効果的に防止できる遠隔操作が可能な直立昇下降式スクリーン装置を提供することをその目的とするものであって、添付図面を参考にして詳細に説明すると、次のとおりである。」10 「本発明は、大きく分けて、スクリーン(1)、このスクリーン(1)を支持するスクリーン支持装置(2)、このスクリーン支持装置(2)を昇下降させるスクリーン昇下降装置(3)、スクリーン(1)が広げられたり、巻き取られたりする際にスクリーン(1)に緊張力を付与するスクリーンテンション装置(4)、スクリーン(1)が直立設置された状態から前方への傾き程度を調節するための傾斜調節装置(5)、および上記装置が15 設置されるベース(6)で構成されている。」「上記スクリーン(1)は、スクリーン支持装置(2)によって支持固定されて昇下降するもので、上記スクリーン支持装置(2)は、一端が上記スクリーン昇下降装置(3)をなす減速機(31)(31)にそれぞれ回動可能に軸結合されて内部に多数の案内ベアリング(23)…が設置される二つの本体(22a)(22b)をそれぞれ結合してなる昇降案内具20 (22)によって誘導可能にx字に結合される昇下降台(21)(21)と、一端が上記昇下降台(21)(21)の他端にそれぞれリンク結合されて、やはりx字に交差されるように設置され、他端はスクリーン(1)上部の固定枠(25)に固定結合される支持台(24)(24)と、 一側がベース(6)にターンバックル式でそれぞれ連結固定され、他側は上記支持台(24)(24)の一端に形成される折曲部(24a)(24a)に引張スプリング(27)(27)によって25 連結されて上記スクリーン支持装置(2)全体の昇下降をより円滑にするテンションバー(26)とで構成される。 このとき、上記引張スプリング(27)(27)は、スクリーン61上昇駆動時、すなわちスタート駆動時に支持台(24)(24)の一端を通じて力を分散させることにより昇下降台(21)(21)が一定の速度で上昇するようにすると同時に第1駆動モータ(M1)に無理がいくのを防止する。」「上記スクリーン昇下降装置(3)は、上記スクリーン支持装置(2)をなす両昇降台5 (21)(21)の一端が回動可能に軸結合される減速機(31)(31)を両側に設置し、そのうち一側の減速機(31)上には駆動源として第1駆動モータ(M1)を設置して駆動軸(32)によって相対の減速機(31)に駆動力が伝達されるようにする一方、外筒(41)に適当な緊張を維持したまま上記スクリーン(1)が巻き取られたり、送り出されるようにするテンション装置(4)の一側を一方の減速機(31)の一側に回転可能に連結して構10 成される。」「また、スクリーン支持装置(2)の最大上昇および下降範囲を限定するためのリミットスイッチ(33)がスクリーン支持装置(2)の昇降台(21)(21)と接離されるように適当な位置に多数設置される。」「上記第1 駆動モ ー タ (M1)からの回転 力 は、多数の ギア (8)を介在して 減速機15 (31)(31)に伝えられて最終的にスクリーン(1)を昇下降させ得るようになるものである。」「上記スクリーンテンション装置(4)は、ブラケット(45)によって回転可能に支持されて外面にスクリーン(1)が巻き取られる外筒(41)の内部に、この外筒(41)と固定されて中央に中空のスプリング巻取軸(42)が固定設置される固定具(43)と、こ20 の固定具(43)に一端が固定され、他端は上記スプリング巻取軸(42)の内部中空部に一定長さ嵌められて設置される減速機(31)の回転軸(31a)に連結されて上記スプリング巻取軸(42)に外嵌されるテンションスプリング(44)とをそれぞれ設置して構成される。」「上記傾斜調節装置(5)は、ベース(6)の内部中央に設置される第2駆動モータ(M2)25 の駆動ギア(52)と歯合する作動ギア(51)の両側に作動棒(53)(53)の一端をそれぞれ対向設置し、上記作動棒(53)(53)の他端には、ベース(6)に回動可能に軸設された支62持杆(55)に転がりローラ(54)を間に置いて軸結合される作動部材(56)をそれぞれ設置し、ベース(6)の上記支持杆(55)の対向側には軸(55a)によってそれぞれ上記支持杆(55)の回動により運動する接点具(56)を設置してベース(6)に設置されたリミットスイッチ(57)と接離されるように構成される。」5 「上記ベース(6)の下側両端には、別途の支持板(61)を設置するものの、ベース(6)の前面部を支持板(61)とヒンジ(62)で結合して上記傾斜調節装置(5)の作動によるベース(6)の前方への角度変位を可能なようにしている。」「上記正逆回転が可能な第1および第2の駆動性モータ(M1)(M2)の駆動動作は、 別途のコントロールボックス(図示省略)によって有線・無線で遠隔操作の制御が10 可能なように構成されている。」「まず、第1図および第2図に図示したように外筒(41)に巻き取られている状態でスクリーン(1)を使用するためにスクリーン(1)を上昇させようとする場合、外部操作で第1駆動モータ(M1)を駆動させるようになると、第1駆動モータ(M1)の回転力 は 、 ギ ア (8) お よ び 駆 動 軸 (32) に よ っ て ベ ー ス (6) 上 に 設 置 さ れ た 両 減 速 機15 (31)(31)に伝達されて一定比率に減速された状態でテンション装置(4)と連結される回転軸(31a)を回転させるようになると同時に減速機(31)の内部においてベベルギアによってその回転方向が90°変わるようになってスクリーン支持装置(2)の昇下降台(21)を微細回動させて両昇下降台(21)(21)により徐々に上に立てられるようにしている。このとき、上記テンション装置(4)をなす外筒(41)は、単純にスクリ20 ーン(1)を巻き取ったり、送り出したりする役割以外に、第9図に図示したようにその内部に設置されるテンションスプリング(44)によってスクリーン(1)に常に適正な緊張力を付与するようにするものであるところ、これは、減速機(31)からの回転力が回転軸(31a)に伝達され、この回転軸(31a)に一端が固定連結されたテンションスプリング(44)を巻くようになり、結局はテンションスプリング(44)に伝達された25 回転力によってその力はスプリング(44)の他端が連結固定された固定具(43)に伝達されて外筒(41)がある程度回転するようになる。このとき、テンションスプリング63(44)が外面に巻き取られたスプリング巻取軸(42)は、回転軸(31a)とスリップ(slip)状態になっているので、回転軸(31a)からの回転力は、専らテンションスプリング(44)によって外筒(41)に伝達されるに過ぎず、回転軸(31a)による回転力はスプリング巻取軸(42)に直接伝達されないようになっている。」5 「このようにテンションスプリング(44)が最大限巻き取られて回転軸(31a)の回転力が外筒に伝達され始めると同時に昇下降台(21)の上昇動作(広げる)が始まるようになるものであるところ、両昇下降台(21)は、減速機(31)の回転力を受けて第3図に図示したとおりx字に交差された状態で徐々に両終端を起こして立てるようになり、それと一端が連結された支持台(24)(24)をやはり上に押すようになり、支10 持台(24)(24)は、両折曲部(24a)(24a)においてベース(6)と連結されているテンションバー(26)(26)の引張スプリング(27)(27)によって引っ張られながら、両支持台(24)(24)はハサミを扱う形態で窄むようになって、結局は支持台(24)(24)の他端に設置される固定枠(25)を上に押し上げるようになるので、スクリーン(1)は、最終的に広がって直立設置された状態を維持するようになるのである。」15 「この状態で広げられたスクリーン(1)を外筒(41)に再び巻き戻す場合には、やはり外部操作によって第1駆動モータ(M1)を先ほどとは(広げる時とは)反対方向に駆動させるようになると、第1駆動モータ(M1)の回転力は、スクリーン昇下降装置(3)の両減速機(31)(31)に伝達されてスクリーン支持装置(2)を広げる時とは反対方向に作動させてスクリーン(1)を本来の状態、すなわち外筒(41)の外周に巻き取ら20 れた状態を維持するようになる。」「上記スクリーン支持装置(2)の昇下降台(21)(21)が、それぞれ両減速機(31)(31)を軸にして回動動作するのは、第4図に図示しているように両上下降台(21)(21)を広がらないようにx字に交差された状態で両本体(22a)(22b)で結合させる昇降案内具(22)によって、より円滑になされるのであり、これは、昇下降台(21)(21)の上下25 面 と 接 触 す る 多 数 の 案 内 ベ ア リ ン グ (23) … を 昇 降 案 内 具 (22) を な す 両 本 体(22a)(22b)の内面に設置して昇下降台(21)(21)の両面と接触するようにすることに64より第4図の(b)に図示したように両昇下降台(21)(21)がx字に交差結合された状態でも減速機(31)を軸にして確実で、滑らかなすべり運動効果を得ることができるようになるのである。」(2) 乙101公報の特許請求の範囲請求項1及び2や発明の詳細な説明、図15 及び図3(別紙「乙101公報抜粋」参照)から、乙101公報は、次の構成の乙101発明を開示しているものと認められる。 ア ベース(6)に、スクリーン(1)を巻き取るために一端が連結された外筒(41)が内部のテンションスプリング(44)で巻き取り付勢した状態で取り付けられていること10 イ スクリーン(1)の他端が連結された固定枠(25)と、ベース(6)とが、スクリーン昇下降装置(3)をなす減速機(31)(31)にそれぞれ回動可能に軸結合され、モータ駆動により動作する左右の昇下降台(21)(21)と、これにリンク結合された左右の支持台(24)(24)とから構成された左右の機構により、スクリーン(1)の左右両側に振り分けられた状態で結合されていること15 ウ スクリーン(1)の左右幅方向左側に配置された支持台(24)と同一側に配置された昇下降台(21)の枢支連結部が固定枠(25)の左右中心部に対して右側に配置されていることエ スクリーン(1)の左右幅方向右側に配置された支持台(24)と同一側に配置された昇下降台(21)の枢支連結部が固定枠(25)の左右中心部に対して左側に配置され20 ていることオ 支持台(24)(24)を下方へ引っ張るための引張スプリング(27)(27)を有するテンションバー(26)(26)が、支持台(24)(24)の折曲部(24a)(24a)とベース(6)との間に設けられていることカ 左右の昇下降台(21)(21)には、内部に多数の案内ベアリングが設置された二25 つの本体(22a)(22b)をそれぞれ結合してなる昇降案内具(22)が取り付けられていること65キ 昇降案内具(22)は、スクリーン(1)の左右中心点を通る垂線上に位置すること(3) 本件訂正後発明1の進歩性についてア 相違点について5 (ア) 本件訂正後発明1と乙101発明とを比較すると、少なくとも、次の相違点を認めることができる。 a 相違点@本件訂正後発明1は、左右の上部側アーム及び左右の下部側アームのうちの少なくとも一方に取り付けられ、相対回転自在に連結されたそれぞれの「スライド部材」10 について、断面形状が矩形状で軸方向に長い筒状部からなり、断面形状が矩形状のアーム外周面状にスライド自在に外嵌されるスライド部材が取り付けられているのに対し、乙101発明では、内部に多数の案内ベアリングが設置された二つの本体(22a)(22b)をそれぞれ結合してなる昇降案内具(22)が取り付けられており、スライド部材を備えていない点15 b 相違点A本件訂正後発明1は、上端支持部材とベース部材がリンク機構で枢支連結された自立式手動昇降スクリーンであるのに対し、乙101発明は、上端支持部材とベース(6)に設置された減速機(31)がリンク機構で枢支連結された、駆動モータにより昇降させるスクリーンである点20 c 相違点B本件訂正後発明1は、下部側アームを上方へ移動付勢する付勢手段が、下部側アームとベース部材の間に設けられているのに対し、乙101発明は、支持台(24)(24)を引っ張る引張スプリング(27)(27)が折曲部(24a)(24a)とベース(6)との間に設けられている点25 (イ) 被告の主張について被告は、前記相違点@につき、スライド部材と昇降案内具の目的や作用効果が共66通しており、断面が矩形のアームを通してそれをスライドさせ、中心を軸に回転することは同じであることを指摘して、スライド部材と昇降案内具は一致する旨を主張する。 しかし、乙101発明は、従来の上部から下部に垂れ下がる懸垂方式のスクリー5 ンが有していた課題に対し、運搬及び設置が簡便であると同時に、場所に捕らわれることなく有線・無線の遠隔操作で簡便に使用することが可能で、下部から上部に上昇しながらスクリーン面を形成する直立式のスクリーンであって、テンション装置によってスクリーン面を常にピンと張ることを維持できるようにすることにより、 スクリーン面に投影される像の歪曲現象を効果的に防止できるスクリーン装置を提10 供することを目的とするものである。また、乙101発明は、第1駆動モータ(M1)の回転力が、ギア(8)及び駆動軸(32)によってベース(6)上に設置された両減速機(31)(31)に伝達されて一定比率に減速された状態でテンション装置(4)と連結される回転軸(31a)を回転させるようになると同時に減速機(31)の内部においてベベルギアによってその回転方向が90°変わるようになってスクリーン支持装置(2)の15 昇下降台(21)(21)を微細回動させて両昇下降台(21)(21)により徐々に上に立てられるようになるものである。このような乙101発明の目的やスクリーンの昇下降動作に照らすと、乙101発明は、遠隔操作をして、一つの駆動源(M1)によって、 左右両側の昇下降台を同時に駆動させ、スクリーンを上下動させるものであり、両側の昇下降台は、同一の角度で回転動作するものと認められる。昇降案内具は、 昇20 下降台の上下面と接触する部分に多数の案内ベアリングを設置し、また、両昇下降台が広がらないように、これらをx字に交差された状態で結合させることで、減速機を軸にして、確実でより滑らかなすべり運動効果を得るとの役割を果たすものである。 一方、前記2(3)のとおり、本件各訂正後発明は、構成を簡素にしつつ、上端支持25 部材の中央付近に力が加えられる通常の使用態様のほか、左右両端部の一方に力が加えられた場合においても、上端支持部材が押される側が先に大きく下降あるいは67上昇した傾斜姿勢になることを防ぎ、リンク機構の変形や損傷等のトラブル発生を防止するものであり、スライド部材は、通常の使用態様のほか、左右両端部の一方に力が加えられた場合においても、上端支持部材が押される側が先に大きく下降あるいは上昇して傾斜姿勢になることを防止する役割を果たすものである。 5 したがって、乙101発明の昇降案内具と本件訂正後発明1のスライド部材は、 その目的や作用効果を異にしていることから、これらが一致しているとは認められない。被告の前記主張は採用できない。 イ 容易想到性について(ア) 相違点@について10 被告は、装置全体が大型化してしまう乙101発明の昇降案内具の代わりに、コンパクトなスライド部材を設けることは、なんら特別な技術的意味もなく、設計事項にすぎない旨、公開実用新案公報等(乙113〜118)によれば、アーム相当部分の外周面上を取り囲むようにしてスライド部材を設置することは周知技術であった旨を指摘して、乙101発明の構成にスライド部材を適用することは、当業者15 が容易に想到し得ると主張する。 しかし、前記ア(イ)のとおり、乙101発明は、遠隔操作をして、一つの駆動源(M1)によって、左右両側の昇下降台を同時に同一の角度で回転動作させることによりスクリーンを上下動させるものであり、スクリーンに対して、左右両端部の一方にのみ力が加えられることはそもそも想定されていない。また、乙101発明の昇降案20 内具は、昇降下降台の上下面と接触する部分に多数の案内ベアリングを設置することで、確実でより滑らかなすべり運動効果を得るとの役割を果たすものであるのに対し、本件訂正後発明1のスライド部材は、断面形状が矩形上で軸方向に長い筒状部からなるもので、上端支持部材の左右両端部の一方が先に大きく下降あるいは上昇して傾斜姿勢になることを防止する役割を果たすものであり、両者の役割は、滑25 らかなすべり運動効果を得ることと左右両端部の一方の下降あるいは上昇の抑制という点で相反するものである。したがって、乙101発明において、相違点@に係68るスライド部材の構成を採用する動機付けは認められず、むしろ阻害要因があるといえる。 また、被告が指摘する公開実用新案公報等は、折り畳み式前キャリア(乙113)、 折り畳み自転車用フレーム体(乙114)、面状物体運搬具(乙115)、折り畳5 み椅子(乙116、117)、改良された移動式座席構成(乙118)に関する発明であり、いずれも本件訂正後発明1及び乙101発明とは技術分野を異にするものである。加えて、これらの発明で開示されているスライド部材は、いずれも一本の棒状体に沿って移動するものであり(乙113〜118)、交差する左右のアームに相対回転自在に連結した本件訂正後発明1のスライド部材とは構成や作用効果10 を異にするものである。 したがって、乙101発明において、相違点@に係るスライド部材を採用することは、当業者が容易に想到し得るとは認められない。被告の前記主張は採用できない。 (イ) 以上から、その余の相違点について判断するまでもなく、本件訂正後発明115 には進歩性が認められる。 (4) 本件訂正後発明2及び3の進歩性について本件訂正後発明2及び3は、本件訂正後発明1の請求項を引用する発明であるから、同様に、本件訂正後発明2及び3にも進歩性が認められる。 6 明確性要件違反の有無(争点2−2)について20 (1) 当該発明が明確性要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から検討されるべきである。 前記2(3)イ及び同(5)アのとおり、本件各訂正後発明に係る特許請求の範囲の記25 載のほか、本件明細書の記載に照らすと、「上下の垂線上で相対回転自在に」(構成要件 G)とは、いかなる場合であっても、常にスライド部材が上下の垂線上に存69在することを意味するものではなく、通常の使用態様では左右のスライド部材が上下の垂線上を移動し、左右の両端部の一方に力が加えられた場合においても、スライド部材に対し、上下の垂線上の位置を維持して移動するような規制力あるいは復元力が働くようスライド部材が連結されていることを意味すると解される。 5 (2) 被告は、本件訂正後発明1の発明特定事項である構成要件 G や本件明細書の記載等から、本件各訂正後発明が常に同じ動作をすること、すなわち、限定連鎖であることを前提として、スライド部材が常に本件明細書記載の作用効果を奏することの技術的内容が明らかでなく、また、発明特定事項が不足していると主張する(なお、原告は、被告の発明特定事項が不足しているとの主張が、時機に後れたも10 のであり、却下されるべきである旨を主張するが、これにより訴訟の完結を遅延させることとなるとも認められないから、採用できない。)。 しかし、前記4(2)のとおり、本件各訂正後発明は、簡素な構成により、従来技術の課題を解決することを目的とする発明であり、いかなる場合であっても、常に同じ動作をすることを要するものではないから、被告の主張はその前提を欠き採用で15 きない。また、当業者の出願時における技術常識を基礎とすると、左右のリンク機構やスライド部材の規制力(摩擦力)によって本件明細書記載の作用効果を奏することを理解できるものと解される。 (3) 以上から、構成要件 G は明確であるといえ、その記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 20 7 サポート要件違反の有無(争点2−3)について(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明25 に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 70前記2(3)イ(ウ)のとおり、本件明細書によれば、本件各訂正後発明は、スクリーンの上げ下げを長期間に渡って変形や損傷等のトラブル発生のない状態で行うことができると共に、そのための構成を簡素にすることができる自立式手動昇降スクリーンを提供することを目的としている(【0005】)。そして、本件各訂正後発明は、 5 ベース部材に、スクリーンを巻き取るために一端が連結された巻き取り部材を巻き取り付勢した状態で取り付け、前記スクリーンの他端が連結された上端支持部材と前記ベース部材とを、上部側アームと下部側アームとが枢支連結されてなるリンク機構にてスクリーン左右幅方向ほぼ中央を挟んで左右両側に振り分けた状態でそれぞれ枢支連結し、前記スクリーン左右幅方向左側に配置された上部側アームと同一10 側に配置された下部側アームの枢支連結部を前記上端支持部材の左右中心部に対して右側に配置し、かつ、前記スクリーン左右幅方向右側に配置された上部側アームと同一側に配置された下部側アームの枢支連結部を前記上端支持部材の左右中心部に対して左側に配置し、前記下部側アームを上方へ移動付勢するための付勢手段を該下部側アームと前記ベース部材との間に設け、前記左右の上部側アーム及び前記15 左右の下部側アームのうちの少なくとも一方にスライド自在なスライド部材を取り付け、それら左右のスライド部材を前記スクリーンの前記スクリーン左右幅方向ほぼ中央に位置する上下の垂線上で相対回転自在に連結する構成を 採用することで(【0006】)、スクリーンをスムーズかつ安定良く支持すること、従来のように一方のリンク機構のみが大きく伸縮作動されて変形や損傷等のトラブル発生を招くこ20 とがなく長期間に渡って良好に使用すること、左右のリンク機構を一体的に連動させた状態でスムーズかつ安定良く伸縮させることを可能としている(【0022】)。 本件訂正後発明1は、構成要件 B、C、D 及び F の構成によって、上端支持部材、 ベース部材、上部側アーム、下部側アーム及びスライド部材の接続関係を特定し、 構成要件 A 及び E の構成によって、前記接続関係に、巻き取り部材による巻き取り25 付勢力、付勢手段による上方への付勢力が加えられ、さらに構成要件 G の構成によって、上端支持部材に力が加えられた際に、スライド部材が、相対回転しながら、 71取り付けられている左右の上部側アーム及び下部側アームに対し、スライド部材の水平方向の位置が上下の垂線上を維持するような力が働くことを特定している。本件明細書の前記記載によれば、本件明細書には、本件訂正後発明1の発明特定事項である前記各構成要件の構成が記載されており、かかる構成によって、当業者は、 5 本件訂正後発明1の課題を解決できるものと認識することができるといえる。被告の主張は構成要件 G に関し、上記と異なる作用効果を前提とするものであり採用できない。 (2) 以上から、本件各訂正後発明は、当業者が本件明細書に記載された課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件を満たす。 10 8 実施可能要件違反の有無(争点2−4)について(1) 明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かを検討して判断すべきである。 15 本件明細書には実施例が具体的に記載されていることに加え、前記7のとおり、 本件明細書には、本件訂正後発明1の発明特定事項である各構成要件の構成が記載されていること等に照らすと、当業者が本件訂正後発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載があるといえる。これに反する被告の主張は採用できない。 20 (2) 以上から、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施ができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえ、実施可能要件を満たす。 9 原告の損害額等(争点3)について(1) 特許法102条2項に基づく主張についてア 推定される損害額25 特許法102条2項は、特許権を侵害した者がその侵害行為により利益を受けているときは、その利益の額は特許権者が受けた損害の額と推定すると定めるところ、 72特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、同項の適用が認められる。 原告は、平成27年11月25日から原告製品を販売しているところ(当事者間に争いがない)、原告は同日より前には市場において被告製品と競合する製品を販5 売することができなかったものと認められる(原告も、この点につき特に争っていない。ただし、原告は、平成21年からポール式スクリーンを販売していたと主張するが、後記のとおり、当該製品は競合品とは認められない。)から、同日より前には上記事情は認められない。そこで、同項による損害の額の推定が及ぶのは、同日から被告が被告製品の販売を中止した令和元年7月(弁論の全趣旨)までに被告10 が受けた利益であり、この期間の被告製品の売上は3億3613万9283円であり、限界利益の額は1億8449万0622円である(当事者間に争いがない)。 イ 推定覆滅について(ア) 特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠15 けることを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。 (イ) 推定覆滅事由a 本件各訂正後発明の効果、貢献の程度前記1(6)のとおり、@本件訂正後発明1の効果は、簡素な構成により、スクリーンをスムーズかつ安定良く支持することが可能となり、従来のように一方のリンク20 機構のみが大きく伸縮作動されて変形や損傷等のトラブル発生を招くことがなく長期間に渡って良好に使用することが可能となること、A本件訂正後発明2の効果は、 収納姿勢から使用姿勢にスクリーンを切り換える場合に、スライド部材を位置調節することが不要となること、B本件訂正後発明3の効果は、部材点数の削減化を図ることが可能となることにある(【0024】)。 25 被告製品は、本件各訂正後発明の技術的範囲に属すると認められるところ、本件各訂正後発明は、可搬式の自立式手動昇降スクリーンに関する発明であり、同スク73リーンを選択する需要者にとって、本件各訂正後発明の効果は、同スクリーン選択の動機となり得るものである。特に、@は、設置、収納及び使用(映写)のいずれの場面においても寄与する、手動昇降スクリーンにとって基本的な機能に関わるものであって、需要者に対して相当程度の顧客誘引力を生じさせるものといえる。 5 これに対し、被告は、本件特許の果たすべき機能は極めて低い旨を主張するが採用できない。 b 市場の同一性及び市場における競合品(a) 証拠(甲24、25、31〜35、41、乙35、36)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、ダイワボウ情報システム株式会社、株式会社大塚商会等の商社10 を通した販売ルート、原告のグループ会社が運営するウェブサイトのほか、アマゾンや楽天市場等のECサイトでの販売ルート、さらに、家電量販店の販売ルート 等において、原告製品を含むスクリーン製品を販売しており、被告は、カンパニー制を採用し、各カンパニーは、アマゾン等のECサイトでの販売ルート、ダイワボウ情報システム株式会社、株式会社大塚商会等の商社を通した販売ルート、アスクル15 及びジョインテックスカンパニーが行うカタログ販売ルート、オフィスを構える法人等への販売ルート等において、被告製品を販売していることが認められる。このように、原告製品と被告製品は、少なくともECサイトや商社を通した販売ルートが共通している。 これに対し、被告は、アスクル及びジョインテックスカンパニーに登録したユー20 ザーは、そのカタログに掲載された商品を検討するのみで、他の商品を比較検討することはないところ、同カタログには原告製品が掲載されていなかった旨主張する。 しかし、原告製品や競合品の価格や大きさ、耐久性等に照らすと、日常的に使用する消耗品とは異なり、アスクル等のユーザーが、原告製品や競合品のようなスクリーンを購入する場合、必ずカタログに掲載された商品のみから購入する商品を選択25 するとは認め難く、相当数のユーザーは、ECサイト等で他の商品と比較検討するなどして、商品を選択し購入すると考えるのが相当である。したがって、被告独自74の販売ルートの点については、侵害行為と原告の損害との相当因果関係に全く関係がないとまではいえないものの、その影響は相当程度限定的に解すべきである。 (b) また、原告は、●(省略)●(甲42,43)、これらの侵害品は競合品に該当するものと認められる。加えて、証拠(乙47の4、49の3、49の7、55 2の3、57の1の1、57の2の1、57の2の2、57の2の4、77等)及び弁論の全趣旨によれば、現在、可搬式で自立式の手動昇降スクリーンのうちパンタグラフ式(2本のアームが上端支持部材に2点で連結されたもの、1点で連結されたもの、アームの本数や形状が不明のものが含まれる。)のものが市場に流通していることが認められるところ、平成27年頃から令和元年頃において状況が大き10 く異なっていたことをうかがわせる事情はない上、他のサイズではパンタグラフ式のスクリーンが平成27年頃以降流通していたとの事情も認められること(乙36の3の4〜36の3の11)からすると、平成27年から令和元年の間において、 原告製品又は被告製品のほかに、可搬式自立式手動昇降スクリーンであってパンタグラフ式の商品が市場に一定数流通していたことが推認される。そうであるところ、 15 アマゾンでは、原告製品もパンタグラフ式と表記されて販売されているなど(乙57の1の2)、パンタグラフ式のうち2本のアームが上端支持部材に2点で連結されているか1点で連結されているかについては商品販売の表記上明確に区別されていないことに照らすと、前記パンタグラフ式のスクリーンのうち少なくとも2本のアームで枢支連結されているものは、被告製品の競合品に該当するといえる。した20 がって、これらの競合品の存在は覆滅事由に該当するというべきである。なお、可搬式で自立式の手動昇降スクリーンの中には、三脚式やポール式のものが存在するところ、三脚式のものは、原告製品や被告製品と外観を異にするし、三脚式及びポール式のものは、いずれもスクリーンを上下動させるための機構が全く異なり、本件各訂正後発明の効果を奏するとは認めるに足りず、また、商品の表示上も明確に25 区別され、価格帯にも相違があること(乙36の3の4〜36の3の11)に照らすと、三脚式やポール式のものは、競合品であるとは認めるに足りない。 75被告は、市場には可搬性があり脚で支える映写用スクリーンや被告製品と正面外観が類似するといった被告製品と競合するスクリーンがかなり多く存在する旨主張し、多数の証拠(乙43〜52、57、62、75〜77等)を提出する。これらの証拠からは、可搬式自立式のパンタグラフ式手動昇降スクリーン(パンタグラフ5 の形状が明らかでないものを含む。 であって三脚式でないものを販売する業者は、 )原告及び被告以外にも複数社存在することが認められるものの、商品数が多いとまではいえず、しかも、それらのスクリーンのうち少なくとも2本のアームで枢支連結されているパンタグラフを有するものの数はさらに限定されると解されるから、 競合品が多数存在するとまでは認められない。 10 c 被告の営業努力(ブランド力、宣伝広告)被告は、被告の社会的イメージは被告製品の売上に間違いなく貢献しており、被告の営業努力(ブランド力)は顕著なものがある旨を主張する。 証拠(甲22、23、乙64〜70)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、総合文房具メーカーとして我が国第2位であることや多種多様なメディアに取り上げら15 れていることが認められる一方で、原告のビジネスユーズのスクリーン(文教ユーズのスクリーンを含むがこれに限られない)の国内シェアは16.7%であり、国内トップ4の企業であることが認められる。そうすると、少なくともスクリーンの販売に関しては、通常の範囲を超える被告の営業努力は認められず、これが覆滅事由に該当するとは認めるに足りない。 20 (ウ) 推定覆滅の程度以上の事情を総合的に考慮すれば、一定数の競合品の存在による推定覆滅がなされるものの、一方で、競合品に該当する商品数が多いとはいえないこと、被告製品の売上に対する本件各訂正後発明の貢献の程度は大きいと認められること、被告独自の販売ルートの点は限定的な影響に留まり、その他に推定を覆滅すべき具体的な25 事情は見当たらないことから、本件においては2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものと解するのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採76用できない。 ウ 以上から、特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は、1億4759万2498円(≒184,490,622 円×0.8)となる。 (2) 特許法102条3項に基づく主張について5 ア 被告製品の売上原告製品の販売開始前である平成25年から平成27年11月24日までの被告製品の売上は合計1億3814万3836円である(当事者間に争いがない)。 イ 実施料率本件において、本件各訂正後発明の実施許諾契約の存在を認めるに足りず、証拠10 (乙26)及び弁論の全趣旨によれば、平成22年8月31日に発行された「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」において、光学機器及び家具、ゲームの技術分野における正味販売高に 対する実施料率は、光学機器については、平均が3.5%、最大値が9.5%、最小値が0.5%、標準偏差が1.9%であり、家具及びゲームについては、平均が2.15 5%、最大値が4.5%、最小値が0.5%、標準偏差が1.5%であることが認められる。これらに、原告と被告は競業関係にあること、前記(1)イのとおり、本件各訂正後発明の貢献の程度その他本件に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件における実施に対して受けるべき料率としては6%が相当であると認める。 原告は、他社との和解内容等を考慮して、被告製品1台あたり1万円(実施料率20 23.6%)が妥当である旨を主張する。しかし、種々の事情を総合的に考慮して和解に至ることが通常であり、和解内容を実施許諾契約と同様に考えるのは相当でないことに加え、証拠(甲42、43)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、和解契約等において、相手方が、原告に対し、原告が実施料相当額であると主張している金員を支払う他に金員を支払う条項は存在しないことが認められ、特許法10225 条3項及び同条2項の適用により損害の額を算定する本件とは条件を異にするというべきである。 77ウ 以上から、特許法102条3項に基づき推定される損害額は、828万8630円(≒138,143,836×0.06)となる。 (3) 特許法102条2項の推定覆滅と同条3項の適用について特許法102条2項の推定が覆滅された部分について、特許侵害行為と被告の受5 けた利益との相当因果関係が認められないとしても、当該部分について、特許権者は、特許権侵害の際に請求し得る最低限度の損害額として同条3項の適用により算定される損害額の賠償請求をし得るものと解される(この点につき被告も争っていない。)。 平成27年11月25日から令和元年7月までの被告製品の売上は3億361310 万9283円であるところ(当事者間に争いがない)、前記(1)及び(2)のとおり、 特許法102条2項の推定は2割覆滅され、同条3項の実施料率は6%である。 したがって、特許法102条2項の推定が覆滅された部分について同条3項が適用されることによる損害額は、403万3671円(≒336,139,283×0.2×0.06)となる。 15 (4) 弁護士費用前記(1)〜(3)の合計額は1億5991万4799円であるところ、本件と相当因果関係の弁護士費用は、1599万1479円をもって相当と認める。 10 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点4)について前提事実(5)のとおり、被告は、令和元年12月3日、被告製品を全て廃棄したと20 ころ、現在、被告が被告製品を保有していることを認めるに足りる証拠はないことから、被告製品の廃棄請求については理由がない。 一方で、被告は、本件において、本件各訂正後発明の技術的範囲への属否や本件特許の有効性について争っていることを踏まえると、現在、被告製品を保有していないことを考慮しても、なお本件特許権を侵害するおそれがあるというべきである。 25 したがって、被告製品の製造、販売、輸入、又は譲渡若しくは貸渡しのための展示の差止請求については理由がある。 7811 謝罪広告掲載の必要性の有無(争点5)について原告は、謝罪広告の掲載を求める必要性等について具体的な主張をしておらず、 その他、本件に現れた一切の事情を考慮しても、その必要性を認めるに足りない。 したがって、謝罪広告掲載に係る請求については理由がない。 5 12 結論以上から、原告の請求のうち、特許法100条1項に基づき、被告製品の製造、 販売等の差止めを求める部分、不法行為に基づく損害賠償1億7590万6278円及びこれに対する不法行為の日の後(訴状送達の日の翌日)である令和元年11月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理10 由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部15裁判長裁判官武 宮 英 子20裁判官杉 浦 一 輝2579裁判官峯 健 一 郎80(別紙特許公報省略)(別紙)被 告 製 品 目 録5 商品名 プロジェクタースクリーン(自立式)型式番号 FS シリーズ(fs60、fs80、fs100、fs80v、fs100v)以上81(別紙)謝 罪 広 告 目 録第1 謝罪文の内容5 1 見出し株式会社オーエス様の特許権侵害に関するお詫び2 本文当社は、貴社製の自立式のプロジェクタースクリーン「SMS-P1」と酷似する自立式のプロジェクター用スクリーンを輸入及び販売し、貴社特許権を侵害するととも10 に、貴社の業界における多年の信用をも傷つけ、多大なご迷惑をお掛けいたしました。 つきましては、当社の自立式のプロジェクタースクリーンが株式会社オーエス様の特許権を侵害すること、及び、速やかに販売を中止することを明言するとともに、 ご迷惑をお掛けした株式会社オーエス様に心よりお詫び申し上げます。 15 令和 年 月 日東京都港区虎ノ門四丁目1番28号虎ノ門タワーズオフィス12階プラス株式会社代表取締役社長 今 泉 公 二20第2 掲載条件1 使用する文字(1) 表題及び原被告の各商号 4号活字(2) 本文 8ポイント活字25 2 掲載場所記事下広告部とする。 823 謝罪広告を掲載する新聞は以下のとおりとする。 (1) 朝日新聞全国版(2) 読売新聞全国版(3) 毎日新聞全国版5 以上83 |
事実及び理由 | |
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全容
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