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関連審決 不服2020-12119
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事件 令和 3年 (行ケ) 10096号 審決取消請求事件

原告三星電子株式会社
同訴訟代理人弁理士 荒木一秀 松平亜希子 山下悠 岩井優子
同訴訟復代理人弁護士 小林幸夫 平田慎二
被告特許庁長官
同 指定代理人井上徹 山村浩 吉野三寛 小島寛史 山田啓之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/06/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2020-12119号事件について令和3年3月30日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は、手続補正後の請求項1に係る特許発明進歩性の有無及び手続違背の有無である。
1 特許庁における手続の経緯等 原告は、平成27年12月28日、発明の名称を「光源、光源を含むバックライトユニットおよび液晶表示装置」とする特許出願(特願2015-256933号。
以下「本件出願」という。優先権主張(大韓民国)平成26年12月29日(以下「本件優先日」という。))をしたが、令和2年4月22日付けで拒絶査定(以下「本件拒絶査定」という。)を受けた。そこで、原告は、同年8月28日、本件拒絶査定に対する不服審判の請求(不服2020-12119号)をするとともに、
手続補正書を提出した(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」といい、本件出願に係る願書に添付された明細書(甲7。本件補正前の補正を含め、補正による明細書の変更はない。)を「本願明細書」という。)。
特許庁は、令和3年3月30日、本件補正を却下した上、「本件審判の請求は、
成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年4月20日、原告に送達された(出訴のための附加期間は90日)。
原告は、令和3年8月17日、本件訴えを提起した。
2 本件出願に係る本件補正前の発明の要旨(甲7、10) 本件出願に係る本件補正前の特許請求の範囲(請求項の数は27)のうち請求項1に係る記載は、次のとおりである(以下、本件補正前の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
【請求項1】 青色光を放出する発光素子と、
前記青色光を緑色光及び赤色光に変換する量子ドット材料、樹脂および散乱剤を含み、前記発光素子が放出する前記青色光を白色光に変換して放出する光変換層と、
を含み、
前記散乱剤は、前記光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれており、
下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす光源: (1)前記白色光は、ピーク波長が518nm〜550nmの間にあり、半値幅は90nm未満である前記緑色光成分と、ピーク波長が620nm以上である領域にあり、半値幅が49nm以下である前記赤色光成分とを含む; (2)前記白色光の色座標において、赤色頂点は0.65 3 本件出願に係る本件補正後の発明の要旨(甲7、10、13) 本件出願に係る本件補正後の特許請求の範囲(請求項の数は27)のうち請求項1に係る記載は、次のとおりである(下線部は、補正箇所である。以下、本件補正後の請求項1に係る発明を「本件補正発明」という。)。
【請求項1】 青色光を放出する発光素子と、
前記青色光を緑色光及び赤色光に変換する量子ドット材料、樹脂および散乱剤を含み、前記発光素子が放出する前記青色光を白色光に変換して放出する光変換層と、
を含み、
前記散乱剤は、前記光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれており、
下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす光源: (1)前記白色光は、ピーク波長が518nm〜550nmの間にあり、半値幅は90nm未満である前記緑色光成分と、ピーク波長が620nm以上である領域にあり、半値幅が42nm以上49nm以下である前記赤色光成分とを含む; (2)前記白色光の色座標において、赤色頂点は0.65 4 本件審決の理由の要旨(1) 本件補正について ア 甲2の1ないし3及び乙18(米国特許出願公開第2011/0241044号明細書。以下「引用文献」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)の認定 「青色LED光源を含む白色発光ダイオードであって、
LED光源からの入射光を白色光に変換する光変換層を備え、
光変換層12は、青色LED光源10上に、複数の緑色発光半導体ナノ結晶14と複数の赤色発光半導体ナノ結晶16及びエポキシ樹脂を含み、
緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり、
白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である、
白色発光ダイオード。」 イ 本件補正発明と引用発明との対比 本件補正発明と引用発明は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
(一致点) 「青色光を放出する発光素子と、
前記青色光を緑色光及び赤色光に変換する量子ドット材料および樹脂を含み、前記発光素子が放出する前記青色光を白色光に変換して放出する光変換層と、
を含み、
下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす光源: (1)前記白色光は、ピーク波長が518nm〜550nmの間にあり、半値幅は90nm未満である前記緑色光成分と、ピーク波長が620nm以上である領域にある前記赤色光成分とを含む; (2)前記白色光の色座標において、赤色頂点は0.65前記光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれて」いるのに対し、引用発明は、「散乱剤」の有無は不明である点。
ウ 相違点についての判断(ア) 蛍光体を含む波長変換部材(光変換層)に、波長変換あるいは混色化の促進のために「散乱剤」を添加することは、周知技術(例えば、下記周知文献1〜2参照)であり、その添加量は、散乱剤の機能が必要十分に生じ得る程度に設計されるものであるところ、「10重量%以下」との添加量は、通常、添加される程度の量(周知文献1にも例示されている。)にすぎないものである。
そして、引用発明の「光変換層12」は、「複数の緑色発光半導体ナノ結晶14」及び「複数の赤色発光半導体ナノ結晶16」を含む、波長変換を行う層であるから、
上記「波長変換あるいは混色化の促進」との要請を内包していることは、当業者には明らかである。
したがって、引用発明の「光変換層12」に、光変換層12の全体重量に対して「10重量%以下」の「散乱剤」を添加することは、当業者が容易になし得た事項といえる。
(イ) 周知技術を示す文献 a 甲3(特表2010-533976号公報。以下「周知文献1」という。) b 甲4(特表2013-544018号公報。以下「周知文献2」という。) (ウ) 本件補正発明の効果について 本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
エ 結論 したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
オ 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
(2) 本願発明について ア 判断 本願発明は、本件補正発明から、赤色光成分の「半値幅」につき、「42nm以上49nm以下」との限定事項を「49nm以下」と、その限定事項を一部削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記(1)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、
引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について (1) 本件審決が認定した引用発明中の「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成は、引用文献の段落[0013]の記載に基づくものである。この記載は、発明の上位概念に関する記載であり、実施例に関する記載ではない。他方、本件審決が認定した引用発明中の「白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である」との構成は、引用文献における実施例である表2の上から3つ目のLED(以下「本件第3LED」という。)の記載に基づくものである。
上記のような引用発明の認定は、引用文献に記載された一まとまりの構成ないし技術的思想を把握するものではなく、引用文献の各所に記載された別々の構成要素を都合よく組み合わせたものにすぎないから、このような引用発明の認定方法は、
恣意的であり、引用文献の内容から引用発明を正しく認定するものではない。
したがって、本件審決がした引用発明の認定は誤りである。
(2) 本件補正発明にいう白色光は、散乱剤及び量子ドット材料を含む光変換層が発する白色光であるのに対し、引用発明は、その光変換層に散乱剤を含むものではないから、引用発明が発する白色光は、本件補正発明が発する白色光とは異なるものであり、引用文献には、本件補正発明における白色光を前提とする色座標の開示はない。したがって、引用発明における白色光と本件補正発明における白色光とが同義のものであることを前提として本件審決がした引用発明の認定(「白色光は、
赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である」との部分)は誤りである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 本件審決は、相違点に係る本件補正発明の構成は引用発明並びに周知文献1及び2により認定される周知技術(「蛍光体を含む波長変換部材(光変換層)に、波長 変換あるいは混色化の促進のために「散乱剤」を添加すること」。以下「本件技術」という。)に基づいて当業者が容易になし得たと判断した。しかしながら、以下のとおり、本件審決の上記判断は誤りである。
(1) 引用発明は、液晶表示装置のバックライトとして使用する光源に関するものであり、既存の方法と同様の効率と色純度性能を維持しながら、製造コストを削減し、デバイスの構築の簡素化を図るものである。これに対し、周知文献1に開示された技術は、安定した演色性を得ることを目的とした作業用照明等の照明、すなわち、空間を照らす照明に関するものである。
このように、周知文献1に開示された技術が属する技術分野は、引用発明が属する技術分野とは異なっているから、周知文献1は、引用発明が属する技術分野において一般的に知られた技術を示すものではない。したがって、周知文献1は、周知文献としての適格性を有しないから、周知文献1に基づいて本件技術を周知技術と認定することはできない。
(2) 特許庁の審査基準(甲16)にも記載されているとおり、ただ1つの文献の特定の記載を根拠として周知技術を認定することは許されないから、仮に周知文献2が周知文献としての適格性を有しているとしても、これのみをもって本件技術を周知技術と認定することはできない。
また、仮に周知文献1及び2が共に周知文献としての適格性を有しているとしても、ただ2つの文献の特定の記載を根拠として本件技術を周知技術と認定することは、周知技術を不当に広く解釈するものとして許されない。
(3)ア 引用文献には、所定の緑色半導体ナノ結晶及び赤色半導体ナノ結晶を用いることにより優れた色再現性及び輝度が得られることが記載されている(段落[0087]〜[0092]、表1及び2)。これに対し、周知文献2に記載された本件技術は、ディスプレイでの理想的な白色点及び輝度の増加を目的として、散乱粒子(散乱剤)をQDフィルムに混合するものであるところ(段落【0147】、
【0148】、【0151】、【0158】)、白色点の座標が色再現性と深く関 連することは、技術常識である(甲17の段落【0006】〜【0013】)。
以上によると、引用発明と周知文献2に記載された本件技術とは、いずれもバックライトの色再現性(理想的な白色点)及び輝度の向上という同一の目的のため、
互いに異なる方法を採用したものといえる。そうすると、引用発明により既に色再現性及び輝度の向上という目的が達成されるのであるから、引用発明に対し、当業者が更に周知文献2に記載された本件技術を組み合わせることはあり得ない。
イ 被告は、引用発明に接した当業者は低コスト化を図るため量子ドット材料の使用量を少なくしつつ十分に波長変換がされるようにするとの要請を実現しようとする動機を持つと主張するが、引用文献には、そのような示唆等は全くない。
また、被告は、当業者は本件第3LEDにおける赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値をそのまま維持しようと構成するのが当然であり、そのために引用発明に散乱剤を添加する動機付けがある旨主張するが、引用文献の段落[0087]及び[0092]は、特定の赤色頂点及び緑色頂点の色座標により色再現性及び相対輝度が優れているとするものではない。また、引用文献には、問題となる色座標が本件補正発明の特定する色座標の範囲外にある場合であっても実施例(好ましい態様)として記載されているものがある一方、本件補正発明の特定する色座標の範囲内に入っている場合であっても比較例(好ましくない態様)として記載されているものがあり、引用文献には、赤色頂点及び緑色頂点の色座標の数値範囲を本件第3LEDのものに収めようという技術的思想は一切開示されていない。そうすると、引用発明に接した当業者は、赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値を本件第3LEDのものに維持するよう動機付けられるものではない。
(4) 当業者は、引用発明に散乱剤を添加すると、白色座標が変化し、その結果、
赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値が変化することを理解する(周知文献2の段落【0158】、引用文献の段落[0087]、甲21、22)。この点に関し、被告は、本件第3LEDは相対色再現性及び相対輝度に優れており、これらの特性は各色の頂点の色座標によって得られるものであると主張するが、そうであるならば、
上記のとおり、引用発明に散乱剤を添加すると、赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値は変化してしまうのであるから、引用発明の上記優位性を損なうことになり、引用発明の目的を達することができなくなる(いかなる方法によっても、赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値が維持できると合理的に予測することはできない。)。したがって、引用発明に散乱剤を添加することには、阻害要因がある。また、引用発明に散乱剤を添加すると、白色座標が増加し、赤色頂点及び緑色頂点の色座標について、本件補正発明の数値範囲から外れるおそれがある。
(5)ア 周知文献2には、QDフィルムに含まれる散乱粒子の量とディスプレイから得られる光の白色点及び輝度との関係を示唆する記載はないから、周知文献2に記載された本件技術は、QDフィルムに含まれる散乱粒子の量を最適化するとの技術的思想を想起させるものではない。なお、周知文献1には、散乱剤の添加量が記載されているものの、前記(1)のとおり、周知文献1に記載された技術が属する技術分野は、引用発明が属する技術分野とは異なる。
そうすると、引用発明において散乱剤の添加量の最適化を図ることは、単なる設計的事項ではないから、引用発明の「光変換層12」に光変換層12の全体重量に対して「10重量%以下」の「散乱剤」を添加することは、当業者が容易になし得たことではない。
イ 被告は、散乱剤の含有量を10重量%以下とすることにつき特段の技術的意義は認められないと主張する。しかしながら、本願明細書には、散乱剤の含有量につき、「10重量%以下であることが好ましい。」などの記載がある(段落【0036】、【0055】、【0129】)。また、本願明細書の表11ないし13においては、散乱剤の含有量が10重量%以下の場合の実施例が開示されており、特に表12については、「散乱剤の含量を調節することによってバックライトユニットが発する白色光の輝度と白色座標を調節することができる。」との記載がある(段落【0137】)。より詳細には、光変換層中の散乱剤の含有量が増加するに連れて、あるところまでは輝度及び白色座標(色再現性)が向上し、更に増加する と、白色座標は向上するものの輝度は低下し始める(本願明細書の表2、甲9の表1、甲18、19)。このように、本件補正発明は、光変換層中の散乱剤を10重量%以下とすることにより、輝度及び白色座標の良好なバランスが維持されるとの作用効果を奏するのであり、10重量%以下との散乱剤の量は、光変換層中の散乱剤の量と白色光の輝度及び白色座標のバランスとの関連性を新たに見いだすことにより得られた技術的意義を有する値である(なお、引用文献又は周知文献1若しくは2のいずれにも、散乱剤の含有量を10重量%以下に設定して輝度が低下することを防ぐとの記載はない。)。
また、被告は、光変換層における散乱剤の添加量としての10重量%以下との値は通常採用される程度の値にすぎないと主張するが、仮にそうであったとしても、
光変換層中の散乱剤の含有量と本件補正発明の上記作用効果との関連が公知又は周知の事項として知られていなければ、当業者は、当該含有量をどの程度に設定すべきかとの着想を得られない。
さらに、被告は、「…散乱剤の含量を調節することによってバックライトユニットが発する白色光の輝度と白色座標を調節することができる」との本件補正発明の作用効果につき、引用発明及び本件技術に基づいて当業者が予測し得たことであると主張するが、被告が主張する散乱剤による散乱の作用によると、光変換層中に少しでも散乱剤が含まれていれば輝度が減少するはずであるから、本件補正発明の上記作用効果は、引用発明及び本件技術に基づいて当業者が予測し得たものではない。
3 取消事由3(手続違背)について (1) 拒絶理由通知書(甲8)の記載によると、審査官は、本件拒絶査定において、引用発明を「発光素子(10)と、量子ドット材料および樹脂を含み前記発光素子が放出する光を白色光に変換して放出する光変換層(34、36)と、を含み、
前記白色光は、ピーク波長が518nm〜550nmの間にあり半値幅は90nm未満である緑色光成分(図8)と、ピーク波長が620nm以上である領域にある赤色光成分(図8)とを含み、前記白色光の色座標において、赤色頂点、緑色頂点 は、段落[0091]のTABLE2の範囲を満たす、光源、バックライトユニット及び液晶表示装置」(これは、引用文献の図8に基づいて認定した光源等及び引用文献の表2に基づいて認定した光源等のいずれをも備えた光源等である。)と認定したものと推測される。
本件拒絶査定が認定した引用発明と本件審決が認定した引用発明とを比較すると、
少なくとも、@緑色光成分及び赤色光成分のピーク波長、A半値幅(半値全幅)並びにB白色光の色座標の構成が異なっているから、本件拒絶査定が認定した引用発明と本件審決が認定した引用発明は、互いに異なるものであるところ、審判合議体が本件拒絶査定の段階で認定された引用発明とは異なる発明を引用発明として本件補正発明の進歩性を否定する判断をするのであれば、これは、本件拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由を発見した場合に当たるから、審判合議体は、特許法159条2項前段において準用する同法50条本文に従い、原告に対し、改めて拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならなかったところ、審判合議体は、この手続に違背し、原告に対して改めて拒絶の理由を通知するなどすることなく、本件審決をした。
(2) 原告は、令和2年10月30日付けで、本件補正発明を更に補正する案を記載した上申書(甲15)を提出したところ、上記上申書に記載された補正案の請求項1に係る発明は、進歩性を有するものであるから、上記(1)の手続違背は、本件審決の結論に影響するものである。
被告の主張
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について (1)ア 引用発明は、引用文献に記載された本件第3LEDに該当する白色発光ダイオードである。そして、本件第3LEDは、引用文献における請求項12に係る発明の実施例に該当するものであるところ、同請求項の記載は、引用文献の段落[0013]の記載と実質的に一致しているから、当業者は、本件第3LEDが引用文献の段落[0013]に基づく構成(「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半 導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成)を備えていることを理解することができる。
したがって、本件審決が実施例に係る本件第3LEDの記載と引用文献の段落[0013]の記載に基づいて引用発明を認定した点に誤りはない。
イ なお、仮に、本件審決が引用発明に関し引用文献の段落[0013]に基づいて「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成を認定したことが誤りであるとしても、この点は、本件補正発明と引用発明の相違点の認定に影響しないから、仮に原告が前記第3の1(1)において主張するような引用発明の認定の誤りがあったとしても、本件審決の結論に影響するものではない。
(2)ア 原告は、引用文献には本件補正発明(光変換層に散乱剤及び量子ドット材料を含むもの)における白色光を前提とする色座標の開示がない旨の主張をするが、本件第3LEDは、青色光成分、緑色光成分及び赤色光成分を同時に含む光を発する以上、白色光を発するのであるから、本件審決がした引用発明の認定(「白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である」との部分)に誤りはない。
イ 原告の主張は、引用発明の「白色光」が本件補正発明の「前記白色光」に相当することを前提に両発明の対比判断を行った本件審決に誤りがあることをいうものとも解される。
しかしながら、本件補正発明の「前記白色光」も、青色光成分、緑色光成分及び赤色光成分を同時に含む光である以上、引用発明の「白色光」と同じであることに変わりはない。そうすると、本件審決がした本件補正発明と引用発明の対比判断に誤りはなく、本件補正発明と引用発明との間に、本件審決が認定した相違点とは異なる新たな相違点(赤色頂点及び緑色頂点の色座標に係るもの)が生じることはな い。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 以下のとおりであるから、相違点に係る本件補正発明の構成は引用発明並びに周知文献1及び2により認定される本件技術(周知技術)に基づいて当業者が容易になし得たとした本件審決の判断に誤りはない。
(1) 引用発明は、液晶表示装置のバックライトとして使用する光源に白色発光ダイオードを用いるものであり(引用文献の段落[0003]、[0005]、
[0006])、白色発光ダイオード(白色LED)は、LEDを用いた白色光源の一種であるから、引用発明は、LEDを用いた白色光源の技術分野に属するということができる(LEDを用いて白色光を得ること自体に需要が存在していたことから、本件優先日当時、LEDを用いた白色光源の技術分野が存在していたものである(乙4〜7)。)。これに対し、周知文献1に記載された本件技術は、「蛍光体を含む波長変換部材(光変換層)に、波長変換あるいは混色化の促進のために「散乱剤」を添加すること」であるところ、このような技術が記載された周知文献1の記載(段落【0002】、【0005】、【0017】、【0198】)によると、周知文献1に記載された本件技術も、LEDを用いた白色光源の技術分野に属する技術であるといえる。
このように、引用発明が属する技術分野及び周知文献1に記載された本件技術が属する技術分野は同一であるし、引用発明と周知文献1に記載された本件技術は、
共に量子ドット材料の使用量が少なくても十分に波長変換がされるようにするという点で、課題及び目的を共通にする。
以上によれば、周知文献1は、周知文献としての適格性を有するから、周知文献1に基づいて本件技術を周知技術と認定することに誤りはない。
(2) 前記(1)のとおり、周知文献1は、周知文献としての適格性を有するから、
本件審決は、ただ1つの文献の記載を根拠として本件技術を周知技術と認定したわけではない。
また、多くの事業者は、本件優先日前、自己を出願人とする特許出願において、
周知文献2又はそのパテントファミリーたる文献を引用しているのであるから(乙8〜13)、周知文献2は、本件優先日前に広く知られていたものである。
加えて、乙14(特表2013-539598号公報。以下「乙14公報」という。)にも、液晶表示装置のバックライトとして使用する光源に関し、本件審決が認定した本件技術が開示されている(段落【0002】、【0069】等)。
以上からすると、本件技術を周知技術と認定した本件審決に誤りはない。
(3)ア 引用発明の「光変換層12」は、「緑色発光半導体ナノ結晶」及び「赤色発光半導体ナノ結晶」を含んでいるところ、これらは、いわゆる量子ドット材料であって、一般に高価である(周知文献2の段落【0033】参照)。そして、低コスト化は、一般的な技術的課題であって、その実現のために高価な部材の使用量を少なくすることは常套手段であるところ、量子ドット材料の使用量を少なくするためには、量子ドットによる波長変換の効率を高くすること、すなわち、量子ドット材料の使用量が少なくても十分に波長変換がされるようにすればよいことは自明である。このように、引用発明に接した当業者は、低コスト化を図るために、引用発明の光変換層に含まれる量子ドット材料の使用量を少なくしつつ十分に波長変換がされるようにするとの要請を認識し、その要請を実現しようとする動機を持つ。
そして、本件技術は、LEDを用いた白色光源の技術分野において、量子ドット材料の使用量が少なくても十分に波長変換がされるようにするために、散乱剤を添加するというものである。
そうすると、当業者にとって、引用発明に本件技術を適用する動機付けは、十分に認められるというべきである。
イ また、本件第3LEDは、相対色再現性及び相対輝度に優れており、これらの特性は、各色の頂点の色座標によって得られるものであるから(引用文献の段落[0087]、[0092])、当業者は、本件第3LEDにおける赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値をそのまま維持しようと構成するのが当然である。したがっ て、この点でも、当業者には、引用発明に本件技術を適用して散乱剤を添加する動機付けがある。
(4)ア 原告は、周知文献2にQDフィルムに含まれる散乱粒子の量とディスプレイから得られる光の白色点及び輝度との関係を示唆する記載がないと主張するが、
前記(3)アのとおり、散乱剤を添加するとの本件技術は、量子ドット材料の使用量が少なくても十分に波長変換がされるようにするために適用されるものであるから、
周知文献2に散乱粒子の量と光の白色点及び輝度との関係を示唆する記載があるか否かは、本件審決の判断を左右するものではない。
イ 原告は、周知文献1に記載された本件技術の属する技術分野が引用発明の属する技術分野と異なると主張するが、その主張が失当であることは、前記(1)のとおりである。
ウ 本願明細書の段落【0136】の表12は、散乱剤の含有量を10重量%以下の範囲内で増加させているものであるが、色座標及び輝度とも、散乱剤の含有量の増加と共に、一旦増加してから減少している。また、本願明細書には、比較例として、散乱剤の含有量が10重量%を超える範囲とした場合の実験結果は示されてない。さらに、本願明細書(段落【0036】、【0055】、【0129】)には、散乱剤の含有量の上限を10重量%としたことについて、単に好ましい旨記載されているのみであり、その技術的意義についての記載はない。したがって、散乱剤の含有量を10重量%以下とすることについて、特段の技術的意義は認められない。
また、光変換層における散乱剤の添加量としての10重量%以下との値は、通常採用される程度の値にすぎない(周知文献1の段落【0043】、【0116】、
周知文献2の段落【0155】、乙14公報の段落【0063】、【0067】、
【0068】、【表1】〜【表4】参照)。
なお、波長変換部材(光変換層)における量子ドット材料の使用量が少なくても十分に波長変換がされるようにするため散乱剤を添加した場合に生じる現象は、青 色光、緑色光及び赤色光の割合が変動するとともに、出射する光の量が変動することであるが、そのような効果は、当業者が予測し得たものであるから、本願明細書の段落【0137】に記載された「…散乱剤の含量を調節することによってバックライトユニットが発する白色光の輝度と白色座標を調節することができる」との効果は、引用発明及び本件技術に基づいて当業者が予測し得たことである。
3 取消事由3(手続違背)について 本件拒絶査定が認定した引用発明(甲8、11)は、「…前記白色光は、ピーク波長が…(図8)と、…(図8)とを含み、前記白色光の色座標において、…TABLE2の範囲を満たす、光源…」であるから、引用文献の図8に基づいて認定した光源等又は引用文献の表2に基づいて認定した光源等のいずれか一方の光源等に係るものである。これに対し、本件審決が認定した引用発明は、引用文献の表2に記載された本件第3LEDに該当する白色発光ダイオードである。
このように、本件拒絶査定が認定した引用発明は、引用文献の表2にも基づくものである一方、本件審決が認定した引用発明は、引用文献の表2に記載された本件第3LEDに基づくものであるから、後者は、前者に完全に包含される関係にあり、
両者は、本件第3LEDに基づくものである点で一致する。したがって、本件拒絶査定が認定した引用発明と本件審決が認定した引用発明は、互いに異ならないから、
両者の間には、原告が主張するような構成の相違もない。審判合議体が特許法159条2項前段において準用する同法50条本文に定める措置を執らなかったことに手続上の違法はない。
当裁判所の判断
1 本件補正発明の概要(1) 本願明細書の記載 本願明細書には、次の記載がある。
【技術分野】 【0001】 本発明は、光源、光源を含むバックライトユニットおよび液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】 【0002】 受光素子である液晶表示装置には、光源としてバックライトユニット(backlight unit)が使用される。バックライトユニットは、光を発生する発光素子を含む。バックライトユニットの発光素子として、従来はCCFL(cold cathode fluorescent light)が主に使用されていたが、近年は発光ダイオードを使用することが一般化している。
【0003】 特許文献1および特許文献2で開示されている半導体を用いた発光ダイオードは、
寿命が長く、小型化が可能であり、消費電力が少なく、水銀などを含まない環境親和的な特性によって従来の発光素子を代替できる次世代発光素子の一つとして脚光を浴びている。
発明の概要】【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、発光ダイオードをバックライトの発光素子として使用することによって、液晶表示装置が表現できる色領域が拡張されたが、現段階においてはsRGBやAdobe RGBを基準にして一定程度の色領域を表現できることに留まっており、DCI(Digital Cinema Initiative)標準を基準とした色領域を十分に表現できる液晶表示装置やこれを支援する光源は開発されていない。
【0006】 したがって、本発明の目的は、DCI標準の一定面積以上の色領域を表現できる液晶表示装置とその光源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意検討した結果、以下の構成を有する光源によって達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】 発光素子と、
量子ドット材料および樹脂を含み、前記発光素子が放出する光を白色光に変換して放出する光変換層と、
を含み、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす光源: (1)前記白色光は、ピーク波長が518nm〜550nmの間にあり、半値幅は90nm未満である緑色光成分と、ピーク波長が620nm以上である領域にある赤色光成分とを含む; (2)前記白色光の色座標において、赤色頂点は0.65 【0009】 本発明の一実施形態に係る光源は、発光素子と、量子ドット材料および樹脂を含み、前記発光素子が放出する光を白色光に変換して放出する光変換層とを含む。
【発明の効果】 【0013】 本発明によれば、DCI標準の75%以上の色領域を表現できる液晶表示装置と、
このような液晶表示装置を実現するために必要な光源またはバックライトユニットが提供される。
【発明を実施するための形態】 【0036】 導光板1は、一側辺から対向側辺に行くほど厚さが次第に減少する透明な楔型四 角形板であって、線光を面光に変換する役割を果たす。光拡散板2は、導光板1が放出する面光を散乱させて均一に撒き散らす役割を果たす。発光素子5は一列に配列された複数の青色発光ダイオードであってもよい。光変換層3、4は、量子ドット材料を含み、青色発光ダイオードが放出する青色光を受けその一部を緑色光と赤色光にそれぞれ変換して放出することによって白色光を生成する。二つの光変換層3、4は、一つが青色光を緑色光に変換し、他の一つが青色光を赤色光に変換するように分離して形成してもよく、二つの光変換層3、4それぞれが青色光を緑色光に変換する量子ドット材料(以下、緑色量子ドット材料とも称する)と青色光を赤色光に変換する量子ドット材料(以下、赤色量子ドット材料とも称する)を全て含んでもよい。また、二つの光変換層3、4を付着して一体に形成してもよく、青色光を緑色光に変換する量子ドット材料と青色光を赤色光に変換する量子ドット材料を全て含む単層に光変換層を形成してもよい。光変換層3、4は量子ドット材料を樹脂に混合して形成したフィルムであってもよく、その他シリカなどの散乱剤や光学的特性を向上するための補助成分を含んでもよい。すなわち、本発明の一実施形態に係るバックライトユニットは、発光素子が青色発光ダイオードであり、光変換層は青色発光ダイオードとは別途に作製されたフィルムである。量子ドット材料としては、後述のものを使用することができる。量子ドット材料は光変換層3、4の全体重量に対して0.1重量%以上5重量%以下で含まれてもよい。樹脂としてはシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂など公知の樹脂を使用してもよい。
散乱剤としてはZnO、Al 2O3、ZrO2が好ましく、散乱剤は光変換層3、4の全体重量に対して10重量%以下で含まれてもよい。
【0043】 <光源> 本発明に係る光源は、発光素子と、量子ドット材料および樹脂を含み、前記発光素子が放出する光を白色光に変換して放出する光変換層と、を含み、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす光源である: (1)前記白色光は、ピーク波長が518nm〜550nmの間にあり、半値幅は90nm未満である緑色光成分と、ピーク波長が620nm以上である領域にある赤色光成分とを含む; (2)前記白色光の色座標において、赤色頂点は0.65 【0046】 図5に示すように、一実施形態による白色光源は、青色光を放出する発光ダイオードチップ51と、発光ダイオードチップ51を覆っている光変換層52とを含む。
光変換層52は、青色光を緑色光に変換する量子ドット材料54と青色光を赤色光に変換する量子ドット材料56を樹脂に混合して塗布したものであってもよく、その他ZnOなどの散乱剤や光学的特性を向上するための補助成分を含んでもよい。
【0047】 [量子ドット材料] 量子ドットは、量子孤立効果(quantum confinement effect)を有する所定サイズの半導体粒子をいう。係る量子ドットの粒径(直径)は、1nm〜10nmの範囲にあってもよく、量子ドットの粒径を調節することにより、所望の波長の発光を得ることができる。
【0048】 量子ドット材料としては、Si系ナノ結晶、長周期型周期表のII-VI族系化合物半導体ナノ結晶、III-V族系化合物半導体ナノ結晶、IV-VI族系化合物半導体ナノ結晶およびこれらの混合物からなる群より選択されるナノ結晶などを使用してもよい。
【0051】 量子ドット材料は、光変換層52の全体重量に対して、0.1重量%以上5重量%以下で含まれることが好ましく、1重量%以上3重量%以下含まれることがより好ましい。なお、光変換層に複数の量子ドット材料が含まれる場合、上記含有量は各量子ドット材料の合計量を指す。
【0052】 本発明に係る光源の光変換層には、赤色量子ドット材料および緑色量子ドット材料が含まれることが好ましい。赤色量子ドット材料は、光変換層の全体重量に対して、0.05重量%以上2.5重量%以下含まれることが好ましく、0.2重量%以上1.5重量%以下含まれることが好ましい。同様に、緑色量子ドット材料は、
光変換層の全体重量に対して、0.05重量%以上2.5重量%以下含まれることが好ましく、0.2重量%以上1.5重量%以下含まれることが好ましい。
【0055】 [散乱剤] 散乱剤としては、ZnO、Al 2O3およびZrO2から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、特にZnOを含むことが好ましい。散乱剤は、光変換層52の全体重量に対して10重量%以下含まれることが好ましく、1重量%以上5重量%以下含まれることがより好ましい。散乱剤の平均粒径は、10nm〜1000nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましい。なお、
当該平均粒径(直径)は、動的光散乱法により求めた値である。
実施例】 【0060】 (実施例1) 赤色量子ドット材料(InP/ZnSeS、平均粒径10nm;青色光をピーク波長631nm、半値幅48nmの赤色光に変換)0.13重量部、緑色量子ドット材料(InP/ZnSeS、平均粒径8nm;青色光をピーク波長530nm、
半値幅39nmの緑色光に変換)0.87重量部、光硬化性アクリル樹脂に分散・溶解させ、光変換層形成用塗布液100重量部を調製した。当該液を用いてフィルム形態の光変換層を作製し、導光板と光学フィルムとの間に配置して、図3に示すバックライトユニットを作製した。また、緑色量子ドット材料の粒径を変更して、
緑色光成分のピーク波長が2nm単位で異なるバックライトユニットを同様に作製した。
【0129】 実施形態に係るバックライトユニット(光源)に使用される光変換層は、量子ドット材料と一緒に散乱剤を含んでもよい。散乱剤としてはZnO、Al 2 O 3 、ZrO2などを使用してもよく、散乱剤を添加することによって輝度を向上することができる。散乱剤の含有量は、光変換層の全体重量に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0130】 (実施例8) 実施例1において、散乱剤としてAl 2O 3、ZnOまたはZrO 2を光変換層の全体重量に対して表11に記載の含有量で光変換層に含有させた以外は、実施例1と同様にして、バックライトユニット#6-1〜#6-3を作製した。
【0131】 表11は散乱剤の種類によった輝度と白色座標の色座標(Cx、Cy)の変化を測定したデータである。
【0132】 【表11】 【0133】 表11に示すように、散乱剤としてZnOを使用する時、最も大きい輝度向上効果を得ることができる。
【0134】 (実施例9) 実施例1において、散乱剤ZnOを光変換層の全体重量に対して表12に記載の含有量で光変換層に含有させた以外は、実施例1と同様にして、バックライトユニット#7-1〜#7-3を作製した。
【0135】 表12は、散乱剤としてZnOを異なる含量で光変換層に含有させた光源における、白色光の輝度と白色座標の色座標(Cx、Cy)の変化を測定したデータである。
【0136】 【表12】 【0137】 表12に示すように、散乱剤の含量を調節することによってバックライトユニットが発する白色光の輝度と白色座標を調節することができる。
【0138】 (実施例10) 実施例1において、赤色量子ドット材料、緑色量子ドット材料および散乱剤の重量部を表13のように変更した以外は、実施例1と同様にして、バックライトユニット#8-1〜#8-10を作製した。
【0139】 表13は、光源#8-1〜#8-10について白色色座標による白色光の色温度変化を示したものである。白色光座標は、散乱剤および赤色量子ドット材料、緑色量子ドット材料の含量比を調節することによって調節可能であり、好ましくは表13の範囲内に存在する。
【0140】 【表13】(2) 本件補正発明の概要 上記(1)の記載によると、本件補正発明の概要は、次のとおりであると認められる。すなわち、本件補正発明は、光源、光源を含むバックライトユニット及び液晶表示装置に関する発明である。従来から、発光ダイオードをバックライトの発光素子として使用することにより液晶表示装置の表現できる色領域が拡張されてきたが、
現段階においては、いまだsRGBやAdobe RGBを基準にして一定程度の色領域を表現できるにとどまっており、DCI標準を基準とした色領域を十分に表現できる液晶表示装置やこれを支援する光源は開発されていないという課題がある。
本件補正発明は、かかる課題を解決し、DCI標準の一定面積以上の色領域を表現できる液晶表示装置とその光源を提供することを目的として、本件補正後の請求項1の構成(前記第2の3)を備えるようにしたものである。これにより、本件補正発明は、DCI標準の75%以上の色領域を表現できる液晶表示装置及びそのような液晶表示装置を実現するために必要な光源又はバックライトユニットを提供できるとの効果を奏する。
2 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について(1) 引用文献の記載 引用文献には、次の記載がある(全訳文(乙18)に従った。)。
発明の背景[0002]1.分野[0003]本発明は、白色発光ダイオードを備えた液晶ディスプレイ装置を提供する。
発明の概要[0011]本発明は、高い色再現性および発光効率を発現する一方で、白色光を安定的に維持できる白色発光ダイオード(「LED」)を備えた、液晶ディスプレイ(「LCD」)装置を提供する。
[0012]本発明は、白色発光ダイオードと白色光を用いて画像を実現させる色フィルタとを備えた液晶ディスプレイ装置を提供する。当該白色発光ダイオードは、
青色LED光源と、当該LED光源からの入射光を白色光に変換する光変換層とを備える。当該光変換層は、緑色発光半導体ナノ結晶と、赤色発光半導体ナノ結晶とを備える。当該緑色発光半導体ナノ結晶のピーク波長は、約520ナノメートル(nm)またはそれ以上であり、当該赤色半導体ナノ結晶のピーク波長は、約610nmまたはそれ以上であり、当該緑色発光半導体ナノ結晶および当該赤色発光半導体ナノ結晶それぞれの発光ピークのFWHM(半値全幅)は、約45nmまたはそれ以下である。さらに、当該緑色発光半導体ナノ結晶の発光スペクトルの緑色フィルタ透過率は、約90パーセントまたはそれ以上であり、当該緑色発光半導体ナノ結晶の発光スペクトルの赤色フィルタ透過率は、約10パーセント未満である。
当該赤色発光半導体ナノ結晶の発光スペクトルの赤色フィルタ透過率は、約90パーセントまたはそれ以上であり、当該赤色発光半導体ナノ結晶の発光スペクトルの緑色フィルタ透過率は、約10パーセント未満である。
[0013]本発明は、青色LED光源と、当該LED光源からの入射光を白色光 に変換する光変換層とを備える白色発光ダイオードを提供する。緑色発光半導体ナノ結晶のピーク波長は、約520nmまたはそれ以上であり、赤色半導体ナノ結晶のピーク波長は、約610nmまたはそれ以上であり、当該緑色発光半導体ナノ結晶および当該赤色発光半導体ナノ結晶それぞれの発光ピークのFWHM(半値全幅)は、約45nmまたはそれ以下であり、国際照明委員会(「CIE」)1931色空間座標に関する米国テレビジョンシステム委員会(「NTSC」)の色座標規格と比較して、当該白色発光ダイオードの色再現性は約90パーセントまたはそれ以上、また、ある実施形態においては100パーセントまたはそれ以上である。
[0015]当該緑色発光半導体ナノ結晶および当該赤色発光半導体ナノ結晶それぞれの発光ピークのFWHM(半値全幅)は、約45nmまたはそれ以下であってもよい。
[0016]当該青色LED光源のピーク波長は、約440nmから約470nmであってもよく、当該緑色発光半導体ナノ結晶のピーク波長は、約520nmから約550nmであってもよく、当該赤色発光半導体ナノ結晶のピーク波長は、約620nmから約640nmであってもよい。
発明の詳細な説明[0091]次の表2では、ピーク波長に対応した半導体ナノ結晶の色再現性および相対輝度の測定結果が示される。
(注TABLE 2:表2Red:赤、Green:緑、Blue:青、Red color coordinate:赤色座標、Green colorcoordinate : 緑 色 座 標 、 Blue color coordinate : 青 色 座 標 、 Colorreproducibility:色再現性、Relative luminance:相対輝度Semiconductor nanocrystal:半導体ナノ結晶)[0092]上記の表2を見ると、緑色半導体ナノ結晶および赤色半導体ナノ結晶の各ピーク波長が、それぞれ、約530nmから約540nmおよび約620nmから約640nmの範囲にある際、色再現性も相対輝度も優れている。
(2) 本件審決が認定した引用発明中の「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成について 引用文献の段落[0012]、[0013]及び[0015]には、緑色発光半導体ナノ結晶及び赤色発光半導体ナノ結晶のそれぞれの発光ピークのFWHM(半値全幅)が約45nm以下であること又は45nm以下であってもよいことが開示されているところ、引用文献の前後の文脈に照らすと、これらの開示は、引用文献 が開示する発明一般に当てはまるものと解される。また、引用文献を精査しても、
引用発明において「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成を採用すると、本件審決が認定した「白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である」との構成が採用できなくなるとの記載又は示唆はみられない。
そうすると、本件審決が認定した引用発明中の後者の構成(「白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、
緑色頂点は(0.239,0.691)である」)が引用文献中の実施例に記載された本件第3LEDに基づくものであり(当事者間に争いがない。)、他方、前者の構成(「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」)が引用文献中の実施例よりも前の部分(発明の概要)に置かれた上記各段落の記載に基づくものであるとしても、一まとまりの技術的思想に基づく単一の発明中に両者の構成を併存させることは十分に可能であるから、前者の構成を含むものとして引用発明を認定した本件審決に誤りはない。
(3) 本件審決が認定した引用発明中の「白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である」との構成について ア 本件補正発明の光変換層には散乱剤が含まれるのに対し、引用発明の光変換層に散乱剤が含まれないことは、当事者間に争いがない。しかしながら、引用文献の表2によると、本件第3LEDは、赤色光成分、緑色光成分及び青色光成分を同時に含む光を発するLEDであると認められるから、引用文献に開示された本件第 3LEDに基づき、引用発明が白色光を発するものとした上、当該白色光の色座標における赤色頂点及び緑色頂点の値を具体的に認定するなどした本件審決に誤りはない。
イ 散乱剤を含む光変換層を透過した白色光と散乱剤を含まない光変換層を透過した白色光は異なるから、本件補正発明にいう白色光と引用発明にいう白色光は異なるとの原告の主張は、本件補正発明と引用発明が青色光を白色光に変換して放出する光変換層を含むなどの点で一致するなどとした本件審決の対比判断が誤りである旨をいうものとも解される。
しかしながら、光変換層が散乱剤を含むか否かにかかわらず、いずれの発明においても、青色LED光源からの青色光は、少なくとも量子ドット材料(青色光を緑色光又は赤色光に変換するもの)を含む光変換層を透過することにより白色光に変換されるのであるから(当事者間に争いがない。)、引用発明にいう「白色光」は、
本件補正発明にいう「白色光」に相当するものである。したがって、本件補正発明と引用発明が青色光を白色光に変換して放出する光変換層を含むなどの点で一致するとし、当該白色光の色座標における赤色頂点及び緑色頂点の値等に係る相違点を認定しなかった本件審決の対比判断にも誤りはない。
(4) 小括 よって、取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について(1) 周知技術の認定の可否 ア 周知文献1の記載 周知文献1には、次の記載がある。
【技術分野】【0002】 本発明は、照明用途に有用な量子ドット含有フィルム、量子ドット含有部品、およびこれらを含むデバイスの技術分野に関するものである。
発明の概要】【0005】 ある実施形態において、ダウンコンバージョン材料を含む機構はディザリングされた配列で配列され、機構それぞれに含まれるダウンコンバージョン材料は、光学部品が光源に光学的に結合されるときに光学部品が事前に選択された色の光を放出することが可能であるように、所定の波長を有する光を放出可能である量子ドットを含むように選択される。ある実施形態において、光学部品は白色光を放出することが可能である。ある実施形態において、このような光は拡散白色光である。
【0006】 本発明の別の態様により、量子ドットを含むダウンコンバージョン材料および固体ホスト材料を含む光学的に透明な基板導波管を備えた光学部品が提供され、ダウンコンバージョン材料は基板の表面の所定の領域に所定の配列で配置されており、
導波管は光源に光学的に結合されるように適合されている。
【0017】 本開示によって考慮される本発明のある好ましい態様および実施形態において、
光源はLEDを備える。
【発明を実施するための形態】【0102】 本発明の別の実施形態により、導波管の表面に量子ドットを含む1つ以上のダウンコンバージョン材料を含む導波管、および導波管に光学的に結合可能である光源を備えた固体照明デバイスが提供され、1つ以上のダウンコンバージョン材料は導波管表面に別個の層として配置される。ある実施形態において、ダウンコンバージョン材料を含む各層は、ダウンコンバージョン材料を含む他の層の波長とは異なる波長で光を放出することが可能である。ある実施形態において、ダウンコンバージョン材料を含む層は、導波管表面からの波長を低下させるために配列されている。
例えば、最も高い波長で光を放出することが可能である量子ドットを含むダウンコ ンバージョン材料を含む層は、導波管表面の最も近くに配置され、層状配列の最も低い波長で光を放出することが可能である量子ドットを含むダウンコンバージョン材料を含む層は、導波管表面から最も遠くに配置される。
【0105】 青色発光源を含むある実施形態において、ダウンコンバージョン材料を含む層状配列は、散乱体を含む第1層、緑色光を放出可能である量子ドットを含む第2層、
赤色光を放出可能である量子ドットを含む第3層を含む。ある実施形態において、
光源は450nm波長で青色光を放出可能であるLEDを備える。
【0113】 上述のように、本発明の一実施形態は、導波管の表面の少なくとも一部に配置された量子ドット(QD)を含むダウンコンバージョン材料で構成される1つ以上のフィルムまたは層、および導波管に光学的に結合された1つ以上のLEDを含む、
量子ドットベースの光シートに関するものである。フィルムまたは層は、連続または不連続であることが可能である。フィルムまたは層に含まれるダウンコンバージョン材料は、量子ドットが分散されているホスト材料を場合によりさらに含むことが可能である。
【0114】 ある実施形態において、量子ドットベースの光シートは散乱体をさらに含むことが可能である。ある実施形態において、散乱体はダウンコンバージョン材料に含まれることが可能である。ある実施形態において、散乱体は別個の層に含まれることが可能である。ある実施形態において、ダウンコンバージョン材料を含むフィルムまたは層は機構を含む所定の配列に配置することが可能であり、機構の一部は散乱体を含むが、ダウンコンバージョン材料を含まない。このような実施形態において、
ダウンコンバージョン材料を含む機構は、場合により散乱体も含むことが可能である。
【0115】 本開示によって考慮される本発明の実施形態および態様で使用することが可能である散乱体(光散乱粒子とも呼ばれる。)の例は、限定されるわけではないが、金属または金属酸化物粒子、気泡、ならびにガラスおよびポリマービーズ(中実または中空)を含む。他の散乱体は、当業者によって容易に識別可能である。ある実施形態において、散乱体は球形状を有する。散乱粒子の好ましい例は、TiO2、SiO2、BaTiO3、BaSO4、およびZnOを含むが、これらに限定されない。
ホスト材料と非反応性である、およびホスト材料における励起光の吸収パス長を延長することが可能である、他の材料の粒子が使用可能である。さらに、ダウンコンバートされた光の取り出しを補助する散乱体が使用され得る。この散乱体は、吸収パス長を延長するのに使用される散乱体と同じでも、同じでなくてもよい。ある実施形態において、散乱体は高屈折率(例えばTiO 2 、BaSO 4 など)または低屈折率(気泡)を有し得る。好ましくは、散乱体はルミネセントではない。
【0116】 散乱体のサイズおよびサイズ分布の選択は、当業者によってただちに決定可能である。サイズおよびサイズ分布は、散乱粒子および散乱体が分散されるホスト材料の屈折率のミスマッチ、およびレイリー散乱理論に従って散乱される事前に選択した波長とに好ましくは基づいている。散乱粒子の表面は、ホスト材料における分散性および安定性を改善するためにさらに処理され得る。一実施形態において、散乱粒子は、約0.001から約20重量%の範囲内の濃度の、粒径0.2μmのTiO2(DuPontによるR902+)で構成される。ある好ましい実施形態において、散乱体の濃度範囲は0.1から10重量%である。あるさらに好ましい実施形態において、組成物は散乱体(好ましくはTiO2で構成される。)を、約0.1から約5重量%の、最も好ましくは約0.3から約3重量%の範囲内の濃度で含む。
【0164】 本発明のQDLSは、固体照明用途に有用である。ある実施形態において、本発 明によるQDLSは、大きい面積の高効率照明用途での使用に好適である。ある実施形態において、本発明によるQDLSは、例えば限定されるわけではないが作業照明用途に所望であり得る、安定な演色指数(CRI)を提供することが可能である。
【0196】 ある実施形態において、量子ドット光シートはソースLEDからの青色光を高CRI白色にダウンコンバートする。ある実施形態において、量子ドットフィルムの印刷層は、市販の成形光導体の頂部に被着される。
【0198】 ある実施形態において、QDフィルムは、フィルムにおける青色励起光のパス長を延長して発光の増強および量子ドットの濃度の最低化を生じるために、0.2□m(判決注:原文ママ) TiO2などの散乱粒子をさらに含み得る。さらなる情報については、2007年7月12日に出願された米国特許出願60/9493,06も参照されたい、この開示はこの全体が参照によりに本明細書に組み入れられている。
イ 周知文献1が開示する技術 上記アによると、周知文献1には、白色光を放出する照明用途に有用な量子ドット含有フィルム等において、発光の増強及び量子ドットの濃度の最低化を図るため、
LEDから放出された青色光を変換する量子ドットを含むダウンコンバージョン材料に、散乱体(光散乱粒子)を含ませるとの技術が開示されていると認められる。
ウ 周知文献1の周知文献としての適格性 周知文献1の段落【0164】によると、周知文献1に記載されたQDLS(量子ドットベースの光シート)は、ある実施形態においては作業用照明用途に所望であり得る安定な演色指数を提供することができるが、上記QDLSの用途が作業用照明に限定されるわけではなく、上記QDLSは、固体照明用途一般に有用であると認められる。また、乙4(平成9年5月1日発行の赤崎勇編「青色発光デバイス の魅力」)、乙5(平成21年4月30日発行の田口常正編「白色LED照明技術のすべて」)、乙6(平成24年8月1日発行の長谷川竜生ほか著「図解入門よくわかる最新LEDの基本と仕組み」)及び乙7(平成12年1月5日発行の株式会社東レリサーチセンター調査研究部門編「青色固体発光デバイスの新展開」)によると、本件優先日当時、LEDを用いて白色光を得、これを照明光源として利用するとの技術分野が存在していたと認められる。したがって、周知文献1に記載された上記イの技術は、LEDを用いて白色光を得、これを照明光源として利用するとの技術分野に属するといえる。
これに対し、引用発明がLEDを用いて得た白色光を照明光源として利用するものであることは、その構成自体から明らかである。
そうすると、引用発明が属する技術分野と周知文献1に記載された上記イの技術が属する技術分野は互いに共通するといえるから、周知文献1は、引用発明が属する技術分野における周知技術を認定するに当たって適格性を有するものであると認めるのが相当である。
エ 周知文献2の記載 周知文献2には、次の記載がある。
【技術分野】【0002】 本発明は、量子ドット(QD)蛍光体フィルム、QD照明装置、および関連方法に関する。
【0007】 一実施形態において、本発明は、量子ドット(QD)フィルムバックライトユニット(BLU)を提供する。QD BLUは、好適には、青色発光ダイオード(LED)およびQDフィルムを備え、QDフィルムは、好適には、QD蛍光体材料層の上部側面および底部側面のそれぞれの上のバリア層の間に配置される、QD蛍光体材料のフィルムまたは層を含む。好適には、LEDは、導光パネル(LGP)に 結合され、QDフィルムは、LGPと液晶ディスプレイ(LCD)パネルの光学フィルムとの間に配置される。LGPとLCDの光学フィルムとの間にQDフィルムを配置することにより、青色光の効率的な再利用、およびQDに対する青色光の光路距離の増加を可能にし、それによって、QD照明装置における十分な輝度の達成に必要なQD濃度の大幅な低下を可能にする。
【0008】 好適なバリア層には、プラスチックまたはガラス板が含まれる。好適には、発光性QDは、青色LEDからの青色の一次光がQDによって放出される二次光へ下方変換される時に、緑色光および赤色光を放出する。好ましい実施形態において、BLUは、白色発光BLUである。好ましい実施形態は、赤色の二次光を放出する第1のQD集団および緑色の二次光を放出する第2の量子ドット集団を含み、最も好ましくは、赤色および緑色の発光QD集団は、青色の一次光によって励起され、白色光をもたらす。好適な実施形態は、励起時に、青色の二次光を放出する第3の量子ドット集団をさらに含む。赤色光、緑色光、および青色光のそれぞれの部分は、
その装置によって放出される白色光に望ましい白色点を達成するように、制御することができる。BLU装置に使用するための例示的なQDは、CdSeまたはZnSを含む。好適なQDには、CdSe/ZnS、InP/ZnS、PbSe/PbS、CdSe/CdS、CdTe/CdS、またはCdTe/ZnSを含む、コア/シェル発光性ナノ結晶が挙げられる。例示的な実施形態において、発光性ナノ結晶は、外側リガンドコーティングを含み、ポリマーマトリックス内に分散される。
本発明はまた、QD BLUを備えるディスプレイシステムを提供する。
【0010】 さらなる実施形態において、本発明は、一次光源(好ましくは、青色LED)からの一次光の散乱を促進し、QDフィルム内のQDに対する一次光の光路距離を増加させ、それによって、QD BLUの効率を高め、システム内のQD数を減少させるための、散乱特徴部を有するQD BLUを提供する。好適な散乱特徴部には、
QDフィルム内の散乱ビーズ、ホストマトリックス内の散乱ドメイン、および/またはバリア層もしくはLGP上に形成される特徴部が挙げられる。
【発明を実施するための形態】【0033】QD蛍光体数の減少 大変驚いたことに、LCDの特定の層の間へのQDフィルムの配置は、QDによって放出される二次光の輝度に、驚異的な、極めて予想外の改善をもたらし、非常に高い光学密度の減少(すなわち、QD数の減少)を可能にする。所望のレベルの輝度および白色点を達成するために必要なQDがより少ないことで、QD蛍光体材料の光学密度(またはQD濃度)を、QR照明装置と比較して、大幅に低下させることができ(例えば、15倍または25倍もの減少)、したがって、より少ないQDを使用して、より大きなディスプレイ表面積を達成することができ、費用が、QD数の減少に比例して、大幅に減少する。QDを、ディスプレイのBEF601とLGP606との間に配置することにより、QD蛍光体材料に対する一次光の有効経路距離が、大幅に増加する。図6Bに示されるように、一次光614は、本質的に、LGPの底部で、BEF601および反射フィルム608によって再利用され、
同様に、反射および散乱が、拡散特徴部または層等の追加の特徴部、ならびにディスプレイ層およびQDフィルムの屈折率の差によってもたらされる。この再利用は、
一次光614を、一次光の一部分が最終的にBLUから出るまで、種々の角度で、
QDフィルム602を繰り返し通過させる。QD蛍光体材料内の一次光614の経路距離は、高角度の光線が、QD蛍光体材料を通じて伝送されるために増加し、QDフィルム内でのさらなるQD吸収(および再放出)をもたらす。
【0150】 本発明の好ましい実施形態において、一次光を選択的に散乱させて、一次光の方向性を変化させ、結果として、QD励起および二次光放出の可能性を増加させ、したがって、さらに、QDによって吸収されることなくリモート蛍光体材料を通過す る一次光の量を減少させる。好ましい分類の実施形態において、散乱特徴部は、散乱特徴部とホストマトリックス材料との間の界面に、ホストマトリックス材料のものとは異なる屈折率を有する1つ以上の散乱特徴部を含む。例えば、散乱特徴部は、
図13Bに示されるように、散乱ドメイン1330bを含む。散乱ドメインは、別のマトリックス材料のものとは異なる屈折率を有する材料を含む空間領域であり、
それによって、一次光は、QD蛍光体材料内で、方向転換される。好ましい実施形態において、図27Cに示されるように、散乱特徴部は、QD蛍光体材料2704全体にわたって分散される、散乱粒子2740を含む。QD蛍光体材料に入ると、
一次光2714aは、リモート蛍光体材料を完全に通って伝送する、1つ以上の散乱粒子によって散乱される、および/またはQD2713によって吸収され、二次光放出2716をもたらす、のいずれかである。このようにして、入来する一次光の方向性を変化させることが、QD吸収の可能性を増加させるため、所望の二次放出を達成するために必要なQDが、より少ない。さらなる実施形態において、散乱特徴部は、QD蛍光体材料内の気泡または間隙等の、散乱空隙を含んでもよい。さらに他の実施形態において、1つ以上のバリア層は、バリア層および図15B〜15Iに関して上で述べたように、QD蛍光体材料内での散乱を増加させるための散乱特徴部を含んでもよい。好適には、QDフィルムは、QD蛍光体材料の下に配置される、少なくとも1つのバリア層を含み、少なくとも1つのバリア層は、散乱特徴部1550を備え、それによって、散乱特徴部が、QD蛍光体材料内に伝送された一次光を散乱させる。さらに別の分類の実施形態において、QDフィルムは、一次発光蛍光体、例えば、青色光等の追加の一次光を放出する少なくとも1つのQD集団を、QDフィルム内に含み、その結果、QDによって放出される等方的な一次青色光は、QDフィルム内で、二次発光QDによって吸収されるようになる。1つの例示の実施形態において、散乱特徴部は、QD蛍光体材料内で分散された青色発光QDを含む。青色発光QDは、QD蛍光体材料全体にわたって均等に分散してもよく、青色QDは、QD蛍光体材料内で二次発光QDの下に配置されてもよく、ま たは、青色QDの少なくとも一部分は、二次発光QD(例えば、赤色および緑色発光QD)の少なくとも一部分の下に配置されてもよい。
【0158】1つの実験的な実施例において、QDフィルムを、不活性環境においてLoctite(商標)エポキシE-30CLを使用して形成し、それによって、APS粒子内に埋め込まれたQDを、エポキシに混合し、QD-APS-エポキシエマルジョンの硬化時に、透明な2相系を、光学密度0.05を有する250μmのフィルムに形成した。フィルムを、携帯電話ディスプレイ内の導光部の上部に設置し、緑色または赤色の光はほとんど検出されなかった。もう1つの同一な成形物を作製し、
5体積%で2μmのシリカビーズを添加した。エポキシ(1.52)とシリカビーズ(1.42)との間の大きな屈折率の差のため、QDフィルムを用いたディスプレイは、理想的な白色点および輝度の増加を示した。
【0167】 QDフィルムは、図26Aに示されるように、1つのQD蛍光体材料層を有し得る。好ましい実施形態において、QDフィルムは、図26Bに示される層2604aおよび2604b等、2つ以上の層を有するQD蛍光体材料を含む。好ましい実施形態において、QD蛍光体材料は、図26B〜26Gに示されるように、複数の層を含み、QD2613および/または散乱特徴部(例えば、散乱粒子)2640は、複数のQD蛍光体材料層のうち1つ以上のQD蛍光体材料内に分散されてもよい。異なるQD蛍光体材料層は、QDおよび/または散乱特徴部と同じもしくは異なる配設または特性を有してもよい。例えば、異なるQD蛍光体層は、1つ以上の異なるQD蛍光体材料層に異なるQD特性、例えば、異なるQD放出色、濃度、寸 法、材料、勾配、または配設を有してもよい。追加または代替として、異なるQD蛍光体層は、異なる散乱粒子の寸法、材料、屈折率、密度、数、勾配、または配設等、異なる散乱粒子特性を有してもよい。例えば、複数のQD蛍光体層は、図23、
24、および25に関して上で述べた、異なる層の任意の組み合わせを含み得る。
例えば、1つ以上のQD蛍光体材料層において、図23B〜23H、図24B〜24H、および図25B〜25Iに示されるように、QD2313、2513、および/または散乱ビーズ2440、2540は、QD蛍光体材料2304、2504の特定の領域、例えば、QD蛍光体材料の上部付近、中間、底部、もしくは端部、
またはこれらの任意の好適な組み合わせに、より優勢に配置されてもよい。QDおよび/または散乱粒子は、一次光の入射表面により近いか、または離れていてもよい。QDおよび/または散乱粒子は、QD蛍光体材料内で、上部から底部へ、底部から上部へ、1つ以上の端部、または任意の他の位置で、増加または減少する、勾配密度を有してもよい。複数のQD蛍光体材料層を有する好ましい実施形態において、QD2613、2613a、2613bは、図26F〜26Gに示されるように、複数のQD蛍光体材料層2604a、2604b、2604cのうち1つ以上のQD蛍光体材料内に分散されるか、または複数のこのような層の間に分散されてもよい。散乱粒子は、図26D〜26Fに示されるように、1つ以上のマトリックス材料に埋め込まれるか、または図26Gに示されるように、マトリックス材料なしで被着されてもよい。異なるQD蛍光体層は、異なる散乱粒子配設または特性を有し得る。例えば、異なるQD蛍光体層は、異なる散乱粒子特性を有してもよい。
例えば、QD集団2613aおよび2613bは、図26C、26D、26F、および26Gに示されるように、異なる放出色、濃度、寸法、材料、勾配、配設、またはこれらの任意の組み合わせを有してもよい。好ましい実施形態において、散乱粒子2640、2640a、2640bは、QDを含む各QDリモート蛍光体層内の一次光の多方向分散を最大化し、したがって、QDによる一次光吸収の可能性を最大化するように、各QD層と同じ層内に配置される。1つ、2つ、または3つの QD蛍光体材料のみが、図26に示されるが、QDフィルムは、任意の好適な数のQD蛍光体材料層を含むことができる。複数の層は、互いに別々であってもよく、
または単一のQD蛍光体材料層として統合されてもよい。複数のQD蛍光体材料層を形成するための方法は、各層を、次の層を適用する前に適用および硬化すること、
または同時に複数の層を適用して複数の層を硬化することを含んでもよい。
オ 周知文献2が開示する技術 上記エによると、周知文献2には、白色光を発する量子ドット(QD)蛍光体フィルム等において、十分な輝度の達成に必要なQDの濃度の大幅な低下を図るため、
LEDから放出された青色光(一次光)を緑色光及び赤色光(二次光)に変換するQD集団を含むQD蛍光体材料の全体に、散乱粒子を分散させるとの技術が開示されていると認められる。
周知技術の認定 前記説示のとおり引用発明が属する技術分野における周知文献としての適格性を有する周知文献1に前記イの技術が開示されていること、周知文献2に上記オの技術が開示されていること、乙8(国際公開第2015/098906号)の段落[0005]、乙9(国際公開第2016/104401号)の段落[0004]、
乙11(国際公開第2016/043141号)の段落[0010]、乙12(国際公開第2015/152396号)の段落[0076]及び乙13(特開2016-46262号公報)の段落【0005】には、いずれも先行技術文献として周知文献2が引用され、また、乙10(特表2017-518604号公報)の段落【0002】にも、先行技術文献として周知文献2に相当する米国特許出願公開第2012/113672号明細書(乙11参照)が引用されており、周知文献2は、
本件優先日当時、当業者に広く知られた文献であったと認められること、周知文献1及び2のほか、乙14公報(【請求項1】、【請求項6】、段落【0002】、
【0009】、【0063】、【0067】〜【0069】等)にも、白色光を発生するLED光源において、緑色光を放出することが可能な量子ドット及び赤色光 を放出することが可能な量子ドットを含む光学材料に、光散乱体(光散乱粒子)を含ませる技術が開示されていることを併せ考慮すると、本件技術は、本件優先日当時、当業者にとって周知の技術であったと認めるのが相当である。
(2) 引用発明に本件技術を適用する動機付けの有無 ア 引用発明は、その構成から明らかなとおり、光変換層内に複数の緑色発光半導体ナノ結晶及び赤色発光半導体ナノ結晶(量子ドット材料)を含むものであるところ、周知文献2の段落【0033】には、量子ドット材料の濃度を大幅に低下させることができると、ディスプレイの製作費用も量子ドット材料の数の減少に比例して大幅に減少させることができる旨の記載がある。そして、一般に、低コスト化は、多くの技術分野に共通する技術的課題であるところ、量子ドット材料の濃度を減少させることにより低コスト化を図れるのであれば、当業者としては、できる限り量子ドット材料の濃度を減少させるよう動機付けられるのが通常である。
ここで、引用発明の内容からも明らかなとおり、量子ドット材料は、光変換層内にあって、LED光源から入射される青色光を緑色光又は赤色光に波長変換するものであるところ、光変換層内の量子ドット材料の濃度を減少させつつ減少前と同等の波長変換を実現するために、量子ドット材料の波長変換の効率を高める必要があることは、当業者にとって自明の事柄である。そうすると、引用発明においてコストの低下を追求する当業者にとっては、量子ドット材料の波長変換の促進のため、
散乱剤を添加するとの本件技術を適用する動機付けが十分にあると認めるのが相当である。
イ 原告は、当業者はディスプレイでの理想的な白色点及び輝度の増加を目的として散乱剤を添加するものであるとして、当該目的を既に達成している引用発明に本件技術を適用する動機付けはない旨の主張をするが、引用発明に本件技術を適用する目的は上記アにおいて説示したとおりであるから、原告の上記主張は、前提を誤るものとして失当である。
また、原告は、引用文献には、当業者において低コスト化を図るために量子ドッ ト材料の使用量を少なくしつつ十分に波長変換がされるようにしようとする旨の示唆等は全くないと主張するが、低コスト化が多くの技術分野に共通する技術的課題であることは、引用文献を始めとする刊行物等に明示の記載や示唆がなくても自明のこととして認められる事柄であるから、原告の上記主張を採用することはできない。
さらに、原告は、引用発明に接した当業者は白色光の赤色頂点及び緑色頂点の色座標につき従前の値(引用発明(本件第3LED)の値)を維持しようとは動機付けられないから、当業者にとって引用発明に本件技術を適用する動機付けはないと主張する。しかしながら、引用文献(表2、段落[0092])によると、本件第3LEDは、色再現性及び相対輝度に優れているのであるから、低コスト化を図ろうとする当業者としても、引用発明(本件第3LED)の上記効果を維持しつつ、
量子ドット材料の濃度を減少させる、すなわち、光変換層に散乱剤を添加するとの本件技術を適用しようとするのが通常であると認められる(なお、量子ドット材料と散乱剤の濃度の調節により、白色光の赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値を調節し得ることは、後記(3)において説示するとおりである。)。したがって、原告の上記主張も、採用することはできない。
(3) 引用発明に本件技術を適用することについての阻害要因の有無 原告は、引用発明に本件技術を適用して散乱剤を添加すると白色光の赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値が変化してしまい、引用発明の優位性が損なわれ、その目的を達することができなくなるから、引用発明に本件技術を適用することには阻害要因があると主張する。
確かに、原告が依拠する周知文献2の段落【0158】、甲21(原告従業員作成の陳述書)及び甲22(同)によると、光変換層(QDフィルム)に一定量の散乱剤(シリカビーズ)を添加すると、得られる白色光の色座標が変化し、白色光の色座標が変化すると、その赤色頂点及び緑色頂点の色座標も変化することになるものと認められる。
しかしながら、周知文献2の段落【0158】の記載によると、同段落に記載された散乱剤の添加は、光変換層内の量子ドット材料の含有量を変えずにされたものと認められるところ、前記(2)において説示したとおり、引用発明に本件技術を適用する目的は、低コスト化の実現のため、光変換層内の量子ドット材料の濃度を減少させることにあり、散乱剤は、量子ドット材料の濃度を減少させつつ減少前と同等の波長変換を実現するために添加されるものである。そうすると、原告が依拠する周知文献2の段落【0158】の記載等によっても、引用発明に本件技術を適用すると白色光の赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値が変化してしまい、引用発明の目的を達することができなくなると認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから(なお、本願明細書の段落【0139】によると、
散乱剤、赤色量子ドット材料及び緑色量子ドット材料の含量比を調節することにより、白色光の色座標の値を調節することは可能であると認められる。)、引用発明に本件技術を適用することについて阻害要因があると認めることはできない。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 「散乱剤が光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれている」との構成について ア 本願明細書の段落【0136】(【表12】)によると、散乱剤(ZnO)の含有量は、1重量%、3重量%又は5重量%とされているところ、白色光の輝度は、散乱剤の含有量が3重量%の場合が最も高いとされている。また、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合の臨界的意義に関し、本願明細書には、単に、
「10重量%以下で含まれてもよい。」(段落【0036】)、「10重量%以下含まれることが好ましく、1重量%以上5重量%以下含まれることがより好ましい。」(段落【0055】)、「10重量%以下であることが好ましい。」(段落【0129】)などの記載があるのみである。しかも、上記段落【0136】に記載された実施例を含め、本件補正発明の実施例として記載されている同含有割合の最大値は、6重量%(段落【0140】(【表13】))にすぎず、本願明細書に は、同含有割合が10重量%を超える場合の実験結果についての記載は全くみられない(なお、甲19(A作成の平成30年10月18日付け宣言書)には、同含有割合が10重量%を超える場合の実験結果についての記載がある。しかしながら、
散乱剤として5重量%のZnOを用いた場合の輝度及び色座標につき、甲19の表に記載された値と本願明細書の段落【0132】(【表11】)及び段落【0136】(【表12】)に記載された値とは一致せず、また、散乱剤として5重量%のZrO2を用いた場合の輝度及び色座標についても、甲19の表に記載された値と本願明細書の上記【表11】に記載された値とは一致しないから、甲19の実験において用いられた光変換層は、本件補正発明の光変換層と異なるものである可能性がある。したがって、甲19に記載された実験結果をそのまま採用することはできない。)。
以上によると、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合を10重量%以下とすることには、特段の臨界的意義はないものといわざるを得ない。
加えて、前記(3)において説示したとおり、光変換層内の散乱剤、赤色量子ドット材料及び緑色量子ドット材料の含量比を調節することにより、白色光の色座標を調節することは可能であり、また、本願明細書の段落【0137】によると、散乱剤の含量を調節することにより、白色光の輝度等を調節することも可能であると認められ、周知文献1の段落【0116】に「ある好ましい実施形態において、散乱体の濃度範囲は0.1から10重量%である。」との記載があることも併せ考慮すると、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合は、当業者において、光変換層により得られる白色光をどのようなものにするかに応じ適宜設計することのできたものである。
イ 原告は、散乱剤についての上記「10重量%以下」との値は光変換層中の散乱剤の量と白色光の輝度及び白色座標のバランスとの関連性を新たに見いだすことにより得られたものであって技術的意義を有するから、単なる設計的事項ではないと主張する。しかしながら、上記アにおいて説示したとおり、白色光の輝度及び色 座標については、散乱剤及び量子ドット材料の含有比を調節することによって適切な値を得ることができるのであるし、周知文献1の段落【0116】にも記載があるとおり、散乱剤についての上記「10重量%以下」との値は、当業者において通常は到達し得ないような特殊な値でもないから、散乱剤の含有割合を上記「10重量%以下」とすることは、当業者が適宜設計し得たというべきである。したがって、
原告の上記主張は、採用することができない。
(5) 小括 以上のとおりであるから、相違点に係る本件補正発明の構成は引用発明及び本件技術(周知技術)に基づいて当業者が容易になし得たとした本件審決の判断に誤りはない。取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(手続違背)について (1) 本件拒絶査定に係る拒絶理由通知書(甲8)及び本件拒絶査定(甲11)によると、審査官が本件拒絶査定において認定した引用発明(以下「査定引用発明」という。)は、次のとおりであると認められる。
「発光素子(10)と、
量子ドット材料および樹脂を含み前記発光素子が放出する光を白色光に変換して放出する光変換層(34、36)と、
を含み、
前記白色光は、ピーク波長が518nm〜550nmの間にあり半値幅は90nm未満である緑色光成分(図8)と、ピーク波長が620nm以上である領域にある赤色光成分(図8)とを含み、
前記白色光の色座標において、赤色頂点、緑色頂点は、段落[0091]のTABLE2の範囲を満たす、
光源、バックライトユニット及び液晶表示装置」 (2) 原告は、査定引用発明と本件審決が認定した引用発明(以下「審決引用発明」という。)とは@緑色光成分及び赤色光成分のピーク波長、A半値幅(半値全 幅)並びにB白色光の色座標の構成が異なっているから、査定引用発明と審決引用発明は互いに異なるものであるところ、審判合議体が審決引用発明を引用発明として本件補正発明の進歩性を否定する判断をするのであれば、これは特許法159条2項前段にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当すると主張する。
しかしながら、上記@の点についてみると、査定引用発明における緑色光成分及び赤色光成分のピーク波長は、それぞれ518nm〜550nm及び620nm以上であるのに対し、審決引用発明におけるこれらのピーク波長は、それぞれ540nm及び630nmであるから、後者は、いずれも前者の数値範囲に含まれている。
また、上記Aの点についてみると、査定引用発明における半値幅(半値全幅)は、
緑色光成分につき90nm未満であり、赤色光成分につき限定がないのに対し、審決引用発明におけるこれらの半値幅(半値全幅)は、いずれも約45nm以下であるから、後者は、いずれも前者の数値範囲に含まれている。さらに、上記Bの点についてみると、査定引用発明における白色光の色座標は、赤色頂点及び緑色頂点につき引用文献の段落[0091]の表2の範囲を満たすものであるのに対し、審決引用発明における白色光の色座標は、赤色頂点につき(0.671,0.307)、
緑色頂点につき(0.239,0.691)(いずれも上記表2に記載された値)であるから、後者は、いずれも前者の数値範囲に含まれている。
以上のとおり、審決引用発明におけるピーク波長等は、いずれも査定引用発明におけるピーク波長等の数値範囲に含まれるものであるから、本件においては、審判合議体は、審査官が本件拒絶査定をするに当たって根拠とした引用発明(査定引用発明)に含まれる引用発明(審決引用発明)に基づいて本件審決をしたものと認めるのが相当である。そうすると、審判合議体が審決引用発明を引用発明として本件補正発明の進歩性を否定する判断をするに当たり、これが特許法159条2項前段にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当するということはできない。
(3) 小括したがって、本件審決に手続違背はない。取消事由3は理由がない。
5 結論以上の次第であるから、原告の請求は理由がない。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
裁判官 中島朋宏