• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ10524特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成17ワ11037特許権侵害差止請求権不存在確認請求事件 判例 特許
平成16ワ11060職務発明の対価請求事件 判例 特許
平成15ワ25968特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成19ワ12631特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  協議 /  黙示の合意 /  製造方法 /  共同研究 /  共同発明 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  共同出願 /  分割出願 /  共有 /  債務不履行 /  実施料相当額 /  製造承認 /  対象製品 /  技術的意義 /  均等 /  均等論 /  置き換え /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  信義則 /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  権原 /  加工 /  構成要件 /  業として /  侵害 /  損害額 /  算定方法 /  実施料 /  共同発明者 /  同意 /  実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  73条2項 /  対価 /  請求の範囲 /  変更 /  不実施 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (ワ) 5238号 損害賠償請求事件
原告 株式会社ビーエムジー
訴訟代理人弁護士 竹内隆夫
同 清水聖子
訴訟復代理人弁護士 細見孝次
被告 タキロン株式会社
訴訟代理人弁護士 芹田幸子
同 小野昌延
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/03/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、原告に対し、1312万1221円及びこれに対する平成12年5月30日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを8分し、その1を被告の、その余を原告の各負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、1億円及びこれに対する平成12年5月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「生体内分解吸収性外科用材料及びその製造法」に関する発明について被告と共同で特許出願して特許登録を得た原告が、原被告間には、原告が上記発明を実施しない代わりに、被告が当該発明を実施した際には、別途協議して定める対価を原告に支払う旨の合意があり、被告が当該発明を実施しているにもかかわらず、その対価を支払わないと主張して、債務不履行に基づき、その対価相当額の損害賠償を請求した事案である。
1 前提となる事実(特に明示した部分以外は当事者間に争いがない。) (1) 原告は、高分子製造技術の開発及び販売、医療用具及び医薬品の製造販売等を目的として昭和58年に設立された株式会社である。原告の商号は、設立時は株式会社バイオマテリアルユニバースであったが、平成7年12月1日に現商号に変更された。
原告の設立時の代表者はAであり、同人は、京都大学医用高分子研究センターで研究活動をしていた工学博士であるが、同人が同大学助教授に就任するに当たって、平成9年10月に原告の代表取締役を辞任した。現在の原告の代表取締役は、Aの妻である(証人Aの証言、甲第28、第29号証、弁論の全趣旨)。
被告は、合成樹脂及び同製品並びに合成樹脂被覆金属製品の製造、医薬品、医薬部外品、医療用具、動物用医療薬品及び動物用医療部外品の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
(2) 原告と被告は、昭和62年12月28日、発明の名称「生体内分解吸収性外科用材料及びその製造法」なる発明(願書に記載された発明者はB、C、A、D及びEの5名。以下「本件原発明」という。)について、共同で特許出願した(出願番号特願昭62-333333号。以下「本件出願」という。)。
本件出願は、出願公開(特開平1-198553号。甲第2号証)後、
「生体内分解吸収性の外科用材料」の発明と、「生体内分解吸収性の外科用材料の製造法」の発明に分割された(後者につき、出願番号特願平7-268998号。
以下「本件分割出願」という。その特許請求の範囲は別紙公開特許公報の該当欄記載のとおり。)。
前者の発明(以下「本件発明」という。)については、平成8年12月5日に特許権設定登録がされた(特許番号第2587664号。以下「本件特許権」という。その特許請求の範囲は別紙特許公報の該当欄記載のとおり。)。
(3) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説できる。
A 粘度平均分子量が30万〜60万の B ポリ乳酸又は乳酸-グリコール酸共重合体のみからなる生体内分解吸収性材料の C 溶融成形され延伸された成形物であって D その圧縮曲げ強度が1.6×103kg/cm2以上、圧縮曲げ弾性率が5.0×102kg/mm2以上、溶融成形後の粘度平均分子量が20万以上であることを特徴とする E 強靱で耐加水分解性に優れた外科用材料。
(4) 原告と被告は、昭和63年1月10日ころ、本件原発明に関し、「特許共同出願契約書」(甲第5号証)を作成して、特許共同出願契約(以下「本件契約」という。)を締結した。その第1条及び第2条の規定は、以下のとおりである(なお、条項中、「甲」は被告を、「乙」は原告を、「本発明」は本件原発明を、それぞれ指す。)。
第1条 本発明の特許出願の手続,登録までの諸手続及び登録された場合の権利の維持保全に関する手続は、甲が行い、乙はこれに協力する。
2 前項の手続に要する費用は原則として甲が負担する。
第2条 乙は、本発明を実施しないものとする。甲が本発明を実施するときは、甲は乙に、別途協議して定める対価を支払うものとする。
(5) 被告は、平成6年7月以降、整形外科用吸収性骨片接合材「フィクソーブ」を、平成9年7月以降、口腔外科用吸収性骨片接合材「フィクソーブMX」を製造販売している(以下、これらを合わせて「被告製品」という。)。
被告製品のうち、少なくとも、平成9年7月まで販売されていたフィクソーブ及び平成11年9月まで販売されていたフィクソーブMX(以下、これらを合わせて「被告旧製品」という。)は、いずれも本件発明を実施したものであった(その後、その実施が終了しているか否かについては、後記のとおり争いがある。)。
(6) 原告は、被告に対し、本件契約第2条に基づく対価を定めるための協議を申し入れたが、協議が調わなかったため、工業所有権仲裁センターの調停での話合いがなされたが、成立には至らなかった。
2 争点 (1) 被告による本件発明の実施は終了しているか否か。
(2) 被告が原告に支払うべき「対価」の算定
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告による本件発明の実施は終了しているか否か)について 〔被告の主張〕 (1) 被告は、フィクソーブについては平成8年10月以降、フィクソーブMXについては平成11年1月以降、その製法を変更した(被告が主張する製法変更後の被告製品を、以下「被告新製品」という。)。そして、フィクソーブについては平成9年8月以降、フィクソーブMXについては平成11年10月以降、被告新製品のみを販売している。
被告新製品の製法は、被告が有する特許番号第3215046号の特許権(その特許公報が乙第68号証。以下「被告特許権」という。)に係る発明(以下「被告発明」という。)を実施したものである。その結果、被告新製品の構成は、
以下のとおりのものとなっている。
a 粘度平均分子量が30万〜60万の b ポリ乳酸のみからなる生体内分解吸収性材料の c 重合体の一部が結晶化し押し込み加圧(鍛造)により得られた配向成形体であることを特徴とする重合体の成形体であり d 曲げ強度が200〜260MPa、曲げ弾性率が6〜9GPaであることを特徴とする e 高曲げ強度・高密度の骨接合材 (2) 上記被告新製品の構成は、本件発明の構成要件A、B、D、Eを充足するが、構成要件Cを充足しない。
すなわち、構成要件Cは、長軸(一軸)方向への引張延伸のみを意味するところ、被告新製品の構成cは、有底の型の中に間欠的にたたき込み加圧して押し込む「鍛造」の方法によるものであるから、配向も多軸となり、その構成は全く異なるものである。
(3) 原告は、被告新製品の構成は本件発明と均等である旨主張するが、次のとおり、均等の要件を欠く。
ア まず、本件発明の実施品のような一軸延伸をした骨接合材では、分子が長軸方向にのみ配向しているので、この長軸方向に対して直角の方向である横方向との分子配向の異方性が大きい。そのため、横方向への引裂強度や横方向からの剪断強度が弱く、長軸の廻りの捩り強度も弱い。これに対し、被告新製品は、本件発明の実施品と異なり、強度的に異方性が少なく、しかも一軸配向の材料よりも大きな強度を有しており、このため、本件発明の実施品と異なり、生体内で種々の力が作用しても容易に破損することがなく、骨の融合に必要な期間、必要な強度を維持することができるものである。このように、本件発明の実施品とは作用効果上顕著な差異がある。
イ しかも、本件発明は、構成要件Cの部分に進歩性が認められて特許登録がされたものであるから、当該部分は発明の本質的部分というべきものである。ところが、構成cは、上記のとおり構成要件Cと技術的発想を全く異にするものであるから、本質的部分を異にするものである。
ウ さらに、Aは、他の5名と共同で発明を行い、これは本件出願の約4年後である平成3年12月25日に特許出願されているが(特許権者はグンゼ株式会社〔以下「グンゼ」という。〕及び工業技術院長)、その明細書には、「従来技術には生分解性ポリマーの生成物に静水圧押出法を適用した報告はなされておらず、
勿論これにより得られる成形物の特性もまた生体内における強度保持性も報告されていない」と記されている。しかるに、本件訴訟において、製法変更後の被告新製品を静水圧押出と均等であると主張するのは、禁反言の原則に反する。
(4) 以上のとおり、被告新製品は本件発明の実施品ではなく、被告が本件発明の実施品である被告旧製品を販売していたのは、フィクソーブについては平成9年7月まで、フィクソーブMXについては平成11年9月までであり、被告による本件発明の実施は同時点で終了した。
〔原告の主張〕 (1) 被告新製品の構成は、本件発明の構成要件A、B、D、Eを充足するだけではなく、構成要件Cも充足する。
すなわち、構成要件Cの「延伸」とは、配向技術一般を表わす用語であり、被告が「鍛造」と名付ける押出法の一種の技術もこれに含まれる。
したがって、被告新製品の構成cが構成要件Cを充足することは明らかである。
(2) 仮に、構成要件Cの「延伸」を狭い意味に解し、「鍛造」がこれに含まれないとしても、均等論によれば、被告新製品も、本件発明の実施品であるということができる。
すなわち、いわゆる均等の五要件に即していえば、@ 本件発明は、外科用材料という物に関する発明であるところ、「延伸」と「鍛造」との違いは、製造方法に関する違いであり、これによって、物性に当然に差異が生ずるものではない。しかも、製造方法としての「延伸」と「鍛造」は、いずれも一定の高分子材料の分子を配向させるための加工法を施すという点で共通であり、本質的な技術思想を共通にするものであって、この相違は本質的な部分の相違ではない。A 「延伸」によっても、「鍛造」によっても、一定の曲げ強度、曲げ弾性率のある外科材料を製造することができ、物として同一の作用効果を奏している。B 「延伸」を狭義の「引張延伸」のみを指すものと理解し、「鍛造」がこれに含まれないものとして理解するとき、高分子材料を扱う当業者としては、高分子の配向技術の中に種々に分類される技術があることは周知であるから、「延伸」で製造するものを「鍛造」で製造すれば、同じような効果を奏することができることは、当業者にとって容易に想到できる。C 被告新製品が、本件出願時の公知技術でないこと、当業者が容易に推考できたものでないことは明らかである。D 本件出願の経過において、「鍛造」による製品を除外していないことも明らかである。
以上のとおり、被告新製品も、均等の五要件をすべて充足するものであるから、これは本件発明の実施品であるというべきである。被告は、本件特許の実施品と被告新製品では、作用効果上顕著な差があると主張するが、その立証はされていない。
(3) なお、被告は、被告新製品について、その分子配向から「鍛造」によって製造されたものである旨主張するが、分子配向は、「引張延伸」か「鍛造」かという製造法によってだけではなく、具体的な加圧方法や熱処理その他の製造条件によっても変化するものであるから、当該被告主張についての立証はされていない。
(4) したがって、被告新製品である「フィクソーブ」及び「フィクソーブMX」は、本件発明の実施品というべきものであるから、被告による本件発明の実施は終了していない。
2 争点(2)(被告が原告に支払うべき「対価」の算定)について 〔原告の主張〕 (1) 本件契約に基づき被告が原告に支払うべき対価は、被告が本件発明を独占的に実施することの対価であるから、本件発明の実施料相当額である。
本件発明は、医療分野に属するものであるから、その実施料率は、売上高の8パーセントとするのが相当である。
また、本件発明の持分については、その割合について原被告間に特段の合意が存在しないから、それぞれ2分の1ずつである。
したがって、被告が原告に対して支払うべき対価は、以下の計算式で算出される。
対価=被告製品の売上高×0.08×0.5 しかして、平成6年7月から平成12年3月までの被告製品であるフィクソーブ及びフィクソーブMXの売上高は、67億3450万6000円を下らない。
したがって、被告が原告に支払うべき対価は、2億6938万0240円を下らない。
本件では、このうち1億円を請求する。
(2) なお、被告の主張(2)イに対して反論すると、本件発明の研究過程において、中心的な役割を果たしたのはAであった。
また、被告の主張(2)ウに対して反論すると、グンゼの特許出願が先願としてあったことは以前から明らかなことであった。加えて、Aらとグンゼとの間の共同研究が先行していたからこそ、Aらと被告との共同研究は短期間のうちに成果を挙げ、本件出願に至ることができたものであるから、論難されるいわれはない。
その後のグンゼとの共同研究と特許出願についても、これによって被告の本件特許権に基づく権利が侵害されたわけでもなく、信義則に反するものでもない。
〔被告の主張〕 (1) 原被告が本件契約第2条において対価に関する取決めをした趣旨は、原告が本件発明を実施しないことを約し、一方で被告が、共同発明者であるAの本件発明に対する寄与に応じて不実施契約料及び不実施補償料を支払うことにあり、そこでいう対価は、出願のお礼程度の金員を出るものではない。
本件原発明に至る共同研究における原告(A)の貢献度や共同研究の期間を考慮すると、上記対価の額は、年間200万円の3年分で、600万円が相当である。
(2) 仮に、原告が主張するように、対価実施料を基準として算出するとしても、以下のとおりの減額要素として勘案すべき事情があるから、その割合は売上高の1パーセントを超えるものではない。
ア 民法250条は、共有持分について均等と推定する規定であるところ、
本件発明については、本件契約によって別段の定めがされているから、上記推定が覆されている。
イ 本件発明の研究過程において、その発明への寄与度は、大きいものから、被告、C(京都大学医用高分子研究センター教授)、Aの順であった。Aの寄与は、本件発明に向けての研究のうち、ごく一部分であるところの原材料の供給についてのみであった。
また、特許出願の手続や費用はすべて被告が負担し、製品として製造販売するための厚生大臣の承認を得るに至るまでの手続や費用もすべて被告が負担した。
本件特許権の共有者の持分については、上記過程における各共有者の寄与度の割合に応じてその持分を定めるとの黙示の合意があった。
ウ 原告が主張するように、本件契約に基づき被告が原告に支払うべき対価が、被告が本件発明を独占的に実施することの対価であるとするならば、被告は、
そのような対価を支払う必要はない。
なぜならば、被告は、元々本件特許権の共有者として、原告に何らの対価を支払うことなく自ら本件発明を実施することができるからである。
しかも、C、Aとグンゼとの共同研究に基づき、グンゼから、被告商品の競合品としてネオフィックスが製造販売されているため、被告は、原告の不実施により本件発明を独占的に実施することによる利益を実質的に失っているからである。
さらに、本件特許自体が、先願のグンゼの「骨接合ピン」の発明に関する特許(特許番号第1956794号。その特許公報は乙第17号証。以下、この発明を「グンゼ特許発明」という。)と利用関係になるおそれがあったため、被告は平成8年5月1日にグンゼとの間でグンゼ特許発明通常実施権設定契約を締結し、平成9年3月10日にグンゼ特許発明について通常実施権の許諾を受けるに至ったという経緯があるところ、グンゼ特許発明発明者7名には、C、Aが含まれている。加えて、Aは、その後も、グンゼとの共同研究を続け、同分野での特許出願に至っている。このような背信的行為を行ったAから特許を受ける権利承継した原告が、被告に対して本件発明を独占的に実施することの対価として、実施料相当額の2分の1を原告に請求することは許されない。
(3) また、被告は本件特許権の共有特許権者であるから、被告による本件発明の実施は、特許権の侵害ではない。したがって、その実施料の算定に当たっては、
特許庁作成の国有特許権実施契約書及び実施料算定方法(昭和47年2月9日付け特総第88号特許庁長官通牒)によるのが相当である。
これによれば、実施料の率は基準率に利用率、増減率及び開拓率を乗じて算出することとされている。
そして、本件発明の実施においては、基準率は3パーセント、利用率は100パーセント、増減率は上記(2)ウ記載のとおりの事情があることから50パーセント、開拓率は上記(2)イ記載のとおりの事情があることから50パーセントがそれぞれ相当である。
これによれば、本件発明における実施料率は、0.75パーセントとなる。
(4) なお、本件発明の実施品である被告製品(その販売時期は、上記1の被告の主張のとおり、フィクソーブについては平成9年7月まで、フィクソーブMXについては平成11年9月までである。)の販売額は、フィクソーブについては5億6270万6439円、フィクソーブMXについては2億3403万1250円である。
当裁判所の判断
1 争点(1)(本件発明の実施は終了しているか否か)について (1) 本件発明における「延伸」の意義について検討する。
ア 本件発明の特許請求の範囲には、「延伸」の意義については明確に記載されていない。これは、本件分割出願の明細書の特許請求の範囲の記載も同様である。
イ そこで、本件特許権に係る明細書の発明の詳細な説明をみるに、これには次のような記載があることが認められる(甲第4号証)。なお、本件分割出願の明細書の発明の詳細な説明にも、同様の記載がある(甲第3号証)。
(ア) 発明の属する技術分野、発明が解決しようとする課題の項 本発明は、ポリ乳酸又は乳酸-グリコール酸共重合体の生体内分解吸収性材料からなる、強靱で耐加水分解性に優れた新規な延伸成形物の外科用材料、
特に骨接合材に関する。本発明は、従来公知のポリ乳酸系骨接合材の圧縮曲げ強度と圧縮曲げ弾性率等の機械的特性と耐加水分解性を大きく上回る、高い圧縮曲げ強度並びに圧縮曲げ弾性率を有しており且つ耐加水分解性に優れたポリ乳酸系の生体内分解吸収性の延伸成形物の外科用材料を提供することを目的とする。(1欄11行ないし14行、3欄46行ないし4段1行) (イ) 課題を解決するための手段の項 「本発明の外科用材料は、上記特定範囲内の粘度平均分子量を有するポリ乳酸系ポリマーを出発原料とし、これをロッド又は帯状(プレート状)など所定の形状に溶融成形、例えば押出成形、プレス成形した後、更に長軸方向に一軸に延伸することによって得られる。」「溶融成形によって得られた成形物は、粘度平均分子量が20万以上に保たれているので、かなりの圧縮曲げ強度、圧縮曲げ弾性率を有するが、まだ目的とする(骨に匹敵する)値には及ばない。そこで、本発明は、上記溶融成形物をさらに流動パラフィン、油等の熱媒体中で長軸方向(押出方向)に一軸延伸することにより、ポリマー分子を配向させて圧縮曲げ強度、圧縮曲げ弾性率を向上させている。」「また、延伸倍率は2倍又はそれ以上とするのが望ましい。2倍より小さい延伸倍率では分子配向が不十分となり、満足に圧縮曲げ強度、圧縮曲げ弾性率を向上させることが困難となるからである。」「本発明の新規な外科用材料では、……溶融成形後の粘度平均分子量を20万以上としたポリ乳酸系材料をガラス転移点付近(60℃)〜融点付近(180℃)の温度、好ましくはそのガラス転移点に近い温度(100℃程度)で一軸延伸することにより、初めて高強度で耐加水分解性に優れた外科用材料を提供できる点に技術的意義を有する。」「本発明の新規な外科用材料では、溶融成形時の分子量低下を最小限に抑えて溶融成形後の粘度平均分子量を20万以上に保ち、更に延伸によって分子配向及び結晶配向を与えているため、その圧縮曲げ強度が1.6×103kg/cm2以上、圧縮曲げ弾性率が5.0×102kg/mm2以上と、従来のポリ乳酸系外科用材料では到達できなかった高い圧縮曲げ強度、高い圧縮曲げ弾性率を示し、また、
耐加水分解性も向上(する)……効果がある。」(5欄4行ないし8行、37行ないし44行、6欄4行ないし7行、12行ないし22行、38行ないし48行) ウ 以上のような明細書の記載によれば、本件発明における「延伸」とは、
分子配向及び結晶配向を与えるために長軸方向に一軸延伸することを意味するものであると解される。そして、本件発明の中心課題は、ポリ乳酸系の生体内分解吸収性の延伸成形物の外科用材料において、高い圧縮曲げ強度並びに圧縮曲げ弾性率を有しており、かつ耐加水分解性に優れたものを提供することであり、この課題を、
ポリ乳酸系材料の溶融成形後の粘度平均分子量を20万以上に保ち、これを長軸方向に一軸延伸することによって解決したことが本件発明の特徴、すなわち本件発明特有の課題解決手段を基礎付ける点であると解される。
エ この点につき、原告は、本件発明における「延伸」とは、配向技術一般を表わす用語であると主張し、これに沿う証拠として甲第41ないし第47号証(それぞれ枝番号を含む。)がある。しかしながら、上記証拠は、本件発明の明細書の記載と関係なく一般論を述べるにすぎず、一般論としては、「延伸」が配向技術一般を表わすことがあるとしても、本件発明の明細書においては、上記のとおり、「延伸」とはもっぱら長軸方向への一軸延伸を表わす語として用いられているのであるから、本件発明における「延伸」の意義としても、長軸方向への一軸延伸のみを意味するものと解するほかない。原告の当該主張は、本件発明の明細書の記載に基づかない主張であって、採用することができない。
(2) (1)の検討を前提として、被告が被告新製品の製法として主張する製造方法による製品が、本件発明の技術的範囲に属するか検討する。
被告は、この点につき、被告新製品は被告発明の実施品であり、その「押し込み加圧(鍛造)により得られた配向成形体であること」との構成が、本件発明の「延伸された成形物」との構成を満たさないと主張するので、以下、被告発明における「押し込み加圧(鍛造)により得られた配向成形体であること」の意義について検討する。
ア 乙第68号証によれば、被告発明の特許請求の範囲には、請求項1として、「生体内分解吸収性である結晶性の熱可塑性高分子材料からなる成形体であって、その分子鎖あるいは結晶が一軸配向せずに成形体の力学的な芯となる軸及び/又は該軸の連続した面に向かって傾斜した複数の基準軸に沿って平行に配向していることを特徴とする、高曲げ強度・高密度の骨接合材。」との記載があり、請求項3として、「生体内分解吸収性である結晶性の熱可塑性高分子材料からなる成形体であって、その分子鎖あるいは結晶が一軸配向せずに本質的に複数の基準軸に平行に配向し、且つ成形体の密度が1.25〜1.27g/cm3であることを特徴とする、高曲げ強度・高密度の骨接合材。」との記載があり、請求項10として、「上記成形体が下端が閉鎖された型への押し込み加圧配向によって得られた配向成形体であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の高曲げ強度・高密度の骨接合材。」との記載があることが認められる(なお、請求項2、4ないし8は、
いずれも請求項1又は3をその一部とするものである。)。
イ また、被告特許権に係る明細書の発明の詳細な説明をみるに、これには次のような記載があることが認められる(乙第68号証)。
(ア) 発明の属する技術分野、従来の技術、発明が解決しようとする課題の項 本発明は、特に押し込め加圧配向により得られた高曲げ強度、高密度、高曲げ弾性率、捩り強度、高表面硬度である、物理的強度の優れた生体内分解吸収性の骨接合材に関する。骨接合材として使用するポリ乳酸又は乳酸-グリコール酸共重合体の強度を上げるために、ハイドロキシアパタイトの少量を含むポリ乳酸等の生体内分解吸収性の高分子材料を成形し、次いで長軸方向に加熱化に延伸する骨接合ピンの製造方法(特開昭63-68155号公報)が提案された。また、
溶融成形後の粘度平均分子量が20万以上のポリ乳酸又は乳酸-グリコール酸共重合体の成形体を延伸した高強度骨接合材(特開平1-198553号公報〔本件原発明の公開特許公報〕)が提案された。これらの方法によって得られるピン又は骨接合材は、本質的に高分子材料の結晶軸(分子鎖軸)が基準軸である長軸方向に平行に一軸配向しているため、曲げ強度や長軸方向の引張強度は向上する。特に、後者の骨接合材のように溶融成形後のポリ乳酸等の粘度平均分子量が20万以上であると、強度が更に向上する。けれども、長軸方向にのみ延伸した骨接合材では、分子が分子鎖軸である長軸方向[延伸軸である機械方向]にのみ配向しているので、
この長軸方向に対して直角の方向である横方向との分子配向の異方性が大きい。そのために、長軸方向からの引裂強度や横方向からの剪断強度が弱く、長軸の廻りの捩り強度も弱い。本発明の目的は、強度的に異方性が少なく、しかも長軸(一軸)延伸によって得られた一軸配向の材料よりも大きな強度を有し、その結晶が本質的に複数の基準軸に平行に配向された生体内分解吸収性の骨接合材を提供することにある。(段落【0001】、【0004】ないし【0008】) (イ) 課題を解決するための手段の項 「本発明の骨接合材は、基本的に1)生体内分解吸収性である結晶性の熱可塑性高分子材料(以下、単に高分子材料と略称する)からなる成形体であって、2)その成形体を構成する分子鎖あるいは結晶が一軸配向せずに本質的に複数の基準軸に平行に配向している点に特徴を有する。この場合、基準軸が多くなるほど成形体の強度的な異方性が少なくなり、破壊が生じ難くなる。特に、下記の押し込み圧縮配向により得られた骨接合材では、成形体の力学的な芯となる軸及び/又は該軸の連続した面に向かって傾斜した基準軸に沿って配向している点に特徴を有する。」「押し込み加圧配向(例えば押し込み圧縮配向又は押し込み鍛造配向)によって得られた配向成形体について;本発明における骨接合材は押し込み加圧配向によって得られた質的に緻密な配向成形体である。この場合に、分子結晶配向による結晶形態の異方性の低下に加え、成形体が加圧方向に押し込み加圧されて質的に緻密になるため、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引裂強度、捩り強度、表面硬度などの力学的性質が飛躍的に向上する。」「このような成形体は、その結晶の形態が長軸方向に延伸する方式で得られるような分子(結晶)が一軸配向するような配向をせずに、本質的に複数の基準軸に沿った配向をする。そして、得られた骨接合材は、成形体が加圧方向に押し込み加圧されて質的に緻密になるため、表面硬度や曲げ強度、曲げ弾性率、剪断強度、破壊時の引張強度その他の力学的性質が全般的に大きく向上する。この点が従来の延伸による配向によって得た成形体等と比較して優れた特徴である。」「単に押出し、引抜き或いは延伸による成形材料から離れる方向に力を作用させて機械方向に配向させる従来の方法は、横方向(側面)は力学的にフリーであり、側面から力が加わらないので自由幅に変形する。例えば、
長軸方向に延伸する過程で側面からは外力がかからず細くなる。そのため一軸(長軸)方向に軸配向した一軸配向の成形体となるのであるが、このとき配向軸方向に成形体が延伸するために質的に希薄になる。このため、多軸に配向した本発明の成形物よりも異方性が大きく、機械的強度もまた総じて小さい。」(段落【0013】、【0022】、【0028】、【0038】) ウ 以上のような明細書の特許請求の範囲発明の詳細な説明の記載によれば、被告発明における「押し込み加圧(鍛造)により得られた配向成形体」とは、
長軸方向への一軸延伸によって得られる配向成形体は、一軸配向しているためにこの長軸方向に対して直角の方向である横方向との分子配向の異方性が大きく、そのために、長軸方向からの引裂強度や横方向からの剪断強度が弱く、長軸の廻りの捩り強度も弱いものであるところ、その課題を解消するため、下端が閉鎖された型への押し込み加圧配向を行い、これによって分子(結晶)が一軸配向するような配向をせずに、本質的に複数の基準軸に沿った配向が得られ、かつ、成形体が質的に緻密になるため、より高い曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引裂強度、捩り強度、
表面硬度などが得られる成形体をいうものと解される。
してみれば、被告発明における「押し込み加圧(鍛造)により得られた配向成形体」は、長軸方向に一軸延伸することによって得られる、本件発明の「延伸された成形物」とは異なる構成であることが明らかである。
(3) 原告は、被告新製品の製法である「鍛造」が本件発明の「延伸」に含まれないとしても、均等論によれば、被告新製品も、本件発明の実施品であるということができる旨主張する。
一般に、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、@ 当該部分が特許発明の本質的部分ではなく、A 当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、B このように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、C 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、D 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。
これを本件について検討するに、前記(1)ウのとおり、本件発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分は、ポリ乳酸系材料の溶融成形後の粘度平均分子量を20万以上に保ち、これを長軸方向に一軸延伸することによって、高い圧縮曲げ強度及び圧縮曲げ弾性を実現することにあると解されるから、このうちの配向方法としての長軸方向への一軸延伸も、本件発明の本質的部分であるというべきである。
したがって、被告発明の実施品は、均等成立のための前記要件@を満たさないというべきであり、他の要件について検討するまでもなく、本件発明の構成と均等であるということはできない。
(4) 続いて、被告新製品が、被告主張のとおり、長軸方向への一軸延伸ではなく、鍛造によって製造されたものであるか否かについて検討する。
上記(3)で検討したところによれば、長軸方向への一軸延伸によって製造されたものは、分子配向が一軸となり、鍛造によって製造されたものは、分子配向が多軸になるものと考えられる。
この点につき、原告は、具体的製品の分子配向は、その製造法だけではなく、具体的な加圧方法や熱処理その他の製造条件によっても変化すると主張し、これに沿う証拠として、甲第41号証(東京理科大学理学部応用化学科教授F作成の意見書)がある。
確かに、甲第41号証には、延伸された棒状の配向資料の側面から熱風を送り、一方の側面を加熱した資料において、分子の配向性が一種の傾斜構造を有していることが記載されている。
しかしながら、本件発明がその対象とする骨接合材の製造過程において、
通常そのような側面からの加熱をするものとは考えがたい。また、本件特許権に係る明細書において、前記(1)イ(イ)のとおり、その製造法として、「溶融成形後の粘度平均分子量を20万以上としたポリ乳酸系材料をガラス転移点付近(60℃)〜融点付近(180℃)の温度、好ましくはそのガラス転移点に近い温度(100℃程度)で一軸延伸する」と記載され、本件分割出願においても、その明細書における発明の詳細な説明の段落【0015】に本件特許権に係る明細書の上記記載と同様の記載がある(甲第3号証)ことに照らせば、本件発明においては、ほぼ一定の温度下で長軸方向に一軸延伸することが予定されているものと解される。
しかも、甲第41号証によれば、上記のように延伸された棒状の配向試料の側面から熱風を送り、一方の側面を加熱した試料と、そのような熱処理をしない試料との間で、特段の物性の差はないというのであるから、被告において、その製品の製造に当たって、そのような熱処理をする合理的理由は見当たらない。したがって、被告において、長軸方向への一軸延伸によって製造した被告製品を、更に一方の側面から加熱するような処理をしている蓋然性は極めて低いというべきである。
そして、他に、本件発明を実施して製造した製品において、分子配向が一軸にならず、多軸になる可能性を示した証拠はない。
以上検討したところに照らせば、被告製品のうち、その分子配向が一軸ではなくなっているもの、すなわち多軸となっているものは、本件発明の実施品ではないと認めることができる。
(5) そこで、具体的に、被告製品の分子配向がある時期以降において一軸ではなく多軸となっているか否か、一軸ではなく多軸となった時期があればその時期はいつであるかについて検討する。
被告製品を検査した結果を記載した証拠としては、甲第33号証(A作成の「試験報告書」)、第38号証(A作成の「広角X線回折像による結晶配向評価」。甲第39号証は甲第38号証の検査に用いた検査試料のロット番号等が記載された検査試料の外箱の写しである。)、乙第53号証(被告メディカル事業部B外1名作成「ポリ乳酸成形体の製造方法と成形体内部歪の関係」。乙第51、第52号証は乙第53号証中に用いられている写真である。)、第56、第57号証(乙第56号証は上記B外1名作成「X線分析結果」。乙第57号証は乙第56号証を補足するものである。)、第67号証(上記B外1名作成「フィクソーブ-MXの広角X線回折」)、乙第72号証(株式会社東レリサーチセンター作成の「結果報告書」)がある。そして、甲第38号証の記載内容に対する被告役員(本件原発明の発明者の一人)の評価及び反論を記載した書面として乙第55号証(B作成「意見書」)が、甲第38号証及び乙第56、第57号証の内容の評価を記載した書面として乙第62号証(株式会社三井化学分析センター作成の「X線分析結果の評価書」。乙第63号証は乙第62号証の評価対象を特定したものである。)が、
乙第72号証の内容について被告が新たに実施した検査結果による評価を記載した書面として乙第71号証(上記B外1名作成「X線回折試験結果報告書」)がある。
もっとも、これらのうち甲第33号証は、その検査試料として用いた被告製品のロット番号等が明らかでなく、その製造時期も明らかでないから、被告製品の分子配向がある時期以降において多軸となっているか否かの検討に資するものとはいえない。したがって、これを除いた上記証拠によって検討を進めることとする。
ア 甲第38号証は、A作成に係る、フィクソーブのX線回折の結果を記した書面である。
その内容としては、X線回折装置RU-3Hを用い、フィクソーブ(スクリュー)の中心部、左側部及び右側部の3点につき、広角X線回折写真を撮影したところ、その写真からは、いずれも同じ結晶配向性を示しており、それぞれ長軸方向に高度な一軸結晶配向を示していることを読み取ることができ、仮に結晶が一軸配向せずに本質的に複数の基準軸に平行に配向しているならば現れるべき、長軸に対して約45度傾斜した像は現れていないから、検査試料の分子配向は長軸方向の一軸配向であると結論付けている。
しかしながら、乙第62号証(三井化学分析センター作成に係るX線分析結果の評価書)に記載されているとおり、甲第38号証の上記X線回折には、@ 検査試料が円形ロッド状であることから、X線の透過行路がフィクソーブの中心部、左側部及び右側部で異なる、A 中心部は直径方向の測定であり、試料の手前と奥側で配向の傾きがあっても相殺されてしまう、B 試料の両端はスクリューの先端であって尖っているから、安定に測定するためには多少中心によった部分での測定が不可避となるが、上記Aの理由で実際の配向よりも弱く評価される、C 試料の左側部と右側部の検査位置に関する記載がなく不明確で、精度に問題がある、
D RU-3Hというラウエカメラで撮影したラウエ写真での比較であり、数値的な比較がない、といった問題点が存在するところ、甲第38号証を作成した証人Aの証言によってもこれらの問題点は解消されず、この他にこれらの点について補充し、あるいは明確化する証拠も主張もないから、甲第38号証をもって、検査試料の分子配向が一軸配向であると断じることはできない。
イ 乙第53号証は、被告の役員及び従業員の作成に係る、フィクソーブの内部歪の検査結果を記した書面である。
その内容としては、簡易歪検査器を用い、フィクソーブ(ロッド)の中心を通った直径部から切り出し、鏡面研磨処理したフィルムの歪像を撮影したところ、その写真には、ロッドの円周部から中心にかけて傾斜した鱗状の彩色縞模様が一定間隔で現れ、これと対照するために、一軸延伸によって製造された成形体も同様に歪像を撮影したところ、その写真には、長軸方向にすじ状の模様が現れており、このことから検査試料のフィクソーブは一軸延伸ではなく鍛造によって製造されたものと結論付けている。
内部歪は、被告も自認するように、分子配向を示すものではないが、成型方法によって成形体内部の緻密さが変化することは前記(2)イ(イ)の記載からもうかがわれるところであるから、上記検査結果は、その検査試料であるフィクソーブが一軸延伸ではなく鍛造によって製造されたことを示しているといえる。そして、
上記乙第53号証の検査方法や検査結果に対し、その相当性を疑わせる特段の事情も証拠もない。
ウ 乙第56、第57号証は、被告の役員及び従業員の作成に係る、フィクソーブのX線分析の結果を記した書面である。
その内容としては、湾曲IP X線回折装置RINT RAPIDを用い、フィクソーブ(ロッド)の中心部、その外側1ミリメートル部分、更にその外側1ミリメートル部分からそれぞれ切り出したフィルムを作成し、それぞれ透過法で測定し、2θ=15度のピークをβ-I変換し、中心部からのβ(面内)方向の傾き角度をプロファイルのピークから算出して2点の中心に対する差の平均を得たところ、中心部から外側1ミリメートル部分では6.305度、更にその外側1ミリメートル部分では8.943度の結晶の傾斜配向という結果が得られ、これと対照するために、一軸延伸によって製造された試料で同様の検査を行い、中心部からのβ(面内)方向の傾き角度をプロファイルのピークから算出して2点の中心に対する差の平均を得たところ、いずれも結晶の傾斜配向は0.24度を下回っており、このことから検査試料のフィクソーブの分子配向は一軸配向ではなく、多軸配向であると結論付けている。
上記の乙第56号証の検査内容とその結果については、その内容を評価した乙第62号証(三井化学分析センター作成に係るX線分析結果の評価書)が存在するところ、その中では、配向の測定は精度が高いものとして評価されており、
検査の結果得られたデータによれば、検査試料のフィクソーブの分子配向は多軸配向であり、これと対照された一軸延伸によって製造された試料の分子配向は一軸配向であると判断されている。そして、上記乙第56号証の検査方法や検査結果、乙第62号証の評価や判断に対して、その相当性を疑わせる特段の事情も証拠もない。
エ 乙第67号証は、被告の役員及び従業員の作成に係る、フィクソーブMXの広角X線回折の結果を記した書面である。
その内容としては、X線回折装置RINT RAPIDを用い、製造時期の異なる2個のフィクソーブMX(プレート)について、X線入射方向を変えた5点(プレート表面に対して垂直のもの2点、プレート側面に対して垂直のもの2点、プレートの長軸方向に対して平行のもの1点)を測定し、2θ=15.5ないし17.5度を円周方向に切り開いてβ-I変換し、プロファイルを得たところ、
平成10年11月に製造された製品では、プレート表面に対して垂直にX線を入射した測定点及びプレート側面に対して垂直にX線を入射した測定点において、X線回折像としていずれも2つに分離・分布した画像が得られ、プロファイルに2つのピークが得られたが、プレートの長軸方向に対して平行にX線を入射した測定点において、X線回折像としてリング状の画像が得られ、プロファイルにピークが得られなかったのに対し、平成13年6月に製造された製品では、X線回折像として、
いずれの測定点においてもリング状の画像が得られ、プロファイルのピークについては、プレート表面に対して垂直にX線を入射した測定点において4つの、プレート側面に対して垂直にX線を入射した測定点において6つの、プレートの長軸方向に対して平行にX線を入射した測定点において2つのピークが得られたことから、
平成10年11月に製造された製品は一軸延伸によって、平成13年6月に製造された製品は鍛造によって製造されたものであると結論付けている。
上記の検査方法や検査結果については、その相当性を疑わせる特段の事情も証拠もない。そして、上記検査結果は、平成10年11月に製造された製品と平成13年に製造された製品の製造方法が異なることを示すものであり、平成13年6月に製造された製品の分子配向が一軸配向ではないことを示すものである。
オ 乙第72号証は、株式会社東レリサーチセンターの作成に係る、フィクソーブ及びフィクソーブMXの広角X線回折の結果を記した書面である。
その内容としては、フィクソーブについては、3検体について、いずれも長手方向に沿って、ほぼ中心線を通る位置から約0.5ミリメートルの厚さでスライスし、幅方向の中心点、そこから両外側に各1ミリメートルの点、更にそこから両外側に各1ミリメートルの点の5点で測定し、試料長手方向の2θ=32度付近に観測される回折ピーク(0010)と、その垂直方向に観測される2θ=16度付近の回折ピーク(200)を用い、それぞれの軸方向に対する傾きを求めて配向角とし、測定位置に対する変化を調べたところ、回折ピーク(200)では、配向角の平均値は、検体1は測定点のうち幅方向の中心点を中心に-5.8度から3.7度まで変化し、検体2も測定点のうち幅方向の中心点を中心に-6.9度から2.4度まで変化しているが、検体3は-0.9度から0.8度までの変化しかない上その変化も一定の傾向のものではなく、また、回折ピーク(0010)では、配向角の平均値は、検体1は測定点のうち幅方向の中心点を中心に-5.5度から3.5度まで変化し、検体2も測定点のうち幅方向の中心点を中心に-6.7度から2.4度まで変化しているが、検体3は-0.7度から1.0度までの変化しかない上その変化も一定の傾向のものではないという結果が得られ、この結果から、検体1及び2の分子配向は傾斜配向、検体3の分子配向は一軸配向と判断されるが、これが試料間でのばらつきであるのか、試料内の測定位置によるばらつきであるかについては判断できないと結論付けている。
また、フィクソーブMXについては、これも3検体について、そのままの状態で、幅方向のほぼ中心線上で、長さ方向の中央付近及びそのやや上部の2点で測定し、フィクソーブと同様の方法で回折ピークを観測し、このうち明確に観測された(200)回折ピークを用いて方位角方向に平均化した一次元プロファイルを得たところ、試料幅方向に相当するβ=90及び270度付近に明瞭な回折ピークが観測されているほか、その中間にもピークが観測されており、これはフィクソーブについての同様の回折結果には見られない大きな特徴であることから、分子鎖の配向の決定には至らないものの、少なくとも一軸配向や傾斜配向とは異なる配向様式をしていると判断されると結論付けている。
上記の乙第72号証については、その内容と判断について被告が新たに実施した検査結果による評価を記載した書面として乙第71号証が存在するところ、その内容は、X線回折装置RINT RAPIDを用い、検査試料としてフィクソーブ(ピン・直径4.5ミリメートル)を10本用意し、それぞれ、ピンの両端から15ミリメートルの位置で、厚さ0.5ミリメートル、長さ10ミリメートルのフィルム2枚を、片面がピンの中心を通る面になるように切り出し(これによって検体数は20体となる。)、幅方向の中心点、そこから両外側に各1ミリメートルの点、更にそこから両外側に各1ミリメートルの点の5点で測定し、測定で得られた二次元データ(広角X線像)を、円周方向(β)に対して、2θ=15ないし18度の範囲で平均化し、プロファイルを得て、これにあるピーク位置を算出し、
基準軸の角度をβ=90度及び270度として、それに対する角度の差を結晶配向角度としたところ、配向角の平均値は、20検体のうち19検体は、測定点のうち、幅方向の中心点を中心に変化しているが(その具体的な数値は、乙第71号証の記載順に、@-3.3度から6.5度まで、A-5.8度から7.6度まで、B-4.7度から5.8度まで、C-5.1度から3.2度まで、D-6.8度から5.6度まで、E-3.9度から2.8度まで、F-5.9度から8.1度まで、
G-2.6度から6.2度まで、H-4.2度から7.0度まで、I-6.6度から5.6度まで、J-6.5度から7.6度まで、K-8.4度から4.5度まで、L-6.2度から7.7度まで、M-8.4度から5.3度まで、N-3.4度から5.9度まで、O-7.0度から6.5度まで、P-6.0度から5.2度まで、Q-6.8度から7.2度まで、R-6.3度から4.0度までである。)、1検体は-1.9度から1.8度までの変化しかなく、その変化も一定の傾向のものではない(測定位置依存性がない)ものの、この検体と同一のピンから作成した検体(上記J)では中心から外側に進むにつれて配向角度が大きくなる典型的な傾斜配向のパターンを示したことから、上記の測定位置依存性がない検査結果は、フィクソーブの傾斜配向に含まれている希に見られる局所的な配向の例であるといえるとし、上記乙第72号証の検体3は、フィクソーブの傾斜配向のばらつきの中で、きわめて希に存在する部分に過ぎないと結論付けている。
そして、上記乙第71、第72号証の検査方法や検査結果に対して、その相当性を疑わせる特段の事情も証拠もない。
なお、上記の乙第72号証に関し、前提甲第41号証には、「(株)東レリサーチセンターから2002年9月12日付で提出された報告書によれば、
『フィクソープ3検体のうち、2検体には実験誤差を超えた軽度の傾斜配向が認められるが、残りの1検体は典型的な一軸配向である』との結果が報告されている。
さらに報告書は『今回の解析結果から、フィクソープが傾斜配向を有する物であるか、あるいは一軸配向物であるかを断言することはできない』と結論している。このように、(1)フィクソープは検体により幾分異なる配向特性を有しており、弱い傾斜配向を有する試料も、典型的な一軸配向を有する試料も存在している。」との記載がある。しかしながら、上記記載の報告書の引用部分のうち、前者の引用が、乙第72号証の記載にない「軽度の」や「典型的な」といった引用者による評価を加えた不正確なものであることはともかくとしても、後者の引用は、その結論を導く理由である、検査結果の原因が、「試料間でのばらつきであるのか、試料内の測定位置によるばらつきであるかについては、今回の一連の測定からは判断できない」という乙第72号証の記述をあえて引用せずに無視しているものである。したがって、上記記載のうち、「フィクソープは検体により幾分異なる配向特性を有しており、弱い傾斜配向を有する試料も、典型的な一軸配向を有する試料も存在している。」という結論は、乙第72号証の記載を曲解するものといわざるを得ず、
上記乙第71、第72号証の評価に影響を与えるものではない。
(6) 以上検討したように、被告新製品の分子配向が一軸配向であるとする甲第38号証は、その内容の相当性に疑問がある(上記(5)ア)。これに対して、乙第56、第57、第67、第71、第72号証については、その内容の相当性を疑わせる事情も証拠もないところ(上記(5)ウないしオ)、乙第72号証において、フィクソーブの3検体のうち1検体について分子配向が一軸配向であると判断されていることについても、乙第71号証によれば、試料間でのばらつきではなく、試料内の測定位置によるばらつきによるものであるとして整合的に理解することができる。
したがって、上記各乙号証を総合すれば、そこで検査試料となった被告製品(ただし、乙第67号証中、被告旧製品である平成10年製造のフィクソーブMXを除く)の分子配向は、一軸配向ではなく、多軸配向であると認めることができる。そして、乙第53号証の内容(上記(5)イ)も、上記認定に合致するものである。
以上のとおりであるから、被告製品の分子配向は、ある時期以降において一軸ではなくなり、多軸となっていると認められる。
(7) 進んで、被告製品の分子配向が一軸ではなくなり、多軸となった時期(鍛造による被告新製品への製法切替時期)がいつであるかについて検討する。
被告は、フィクソーブについては平成8年10月以降、フィクソーブMXについては平成11年1月以降、その製法を鍛造に変更したと主張する。
これに関し、上記(5)で検討した各証拠のうち、その検査に用いた被告製品の製造年月が明らかであるものは乙第67号証のみであり、そこには、フィクソーブMXについて、平成10年11月に製造されたものは一軸延伸法により、平成13年6月に製造されたものは鍛造法により製造されたと記載されており、上記(5)エのとおり、試験結果もこれに沿うものとなっている。
また、乙第54号証によれば、被告において、平成8年10月ころ、医療用具製造のために圧縮成形設備を新設したことを兵庫県県民生活部健康福祉局薬務課長宛に届け出たことが認められ、さらに、甲第8号証及び乙第76号証によれば、被告が、フィクソーブMXについて、平成10年12月8日付で、厚生大臣から医療用具の製造の承認事項の一部変更の承認を受けていることが認められる。
そして、乙第80号証添付の資料6のうち被告におけるフィクソーブ製造工程の作業指図書の記載を検討するに、平成8年9月25日までの日付のもの(最終の番号が644)は、その表題は「乾燥、押出し、延伸工程作業指図書」とされ、その内容として「延伸日」の記載欄があるのに対し、平成8年10月1日以降の日付のもの(最初の番号が645)は、その表題は「乾燥、押出し、配向化指図書」(ただし、平成8年12月5日以降の日付のものは「フィクソーブ製造指示書2 配向化工程」)とされ、その内容として「配向化工程」の欄(ただし、平成8年12月5日以降の日付のものについては「配向化」の欄)があり、欄中に「延伸・圧縮成形」と不動文字で記載され、いずれの指図書も、このうちの「圧縮成形」の部分に丸印が付されていることが認められる。
また、同号証添付の資料7のうち被告におけるフィクソーブMX製造工程の作業指図書の記載を検討するに、その表題は「フィクソーブ製造指示書2 配向化工程」、「フィクソーブMX製造指示書2 配向化工程」、「FIXSORB FIXSORB MX FIXSORB ボタン 製造指示書2 配向化工程」又は「製造指示書2 配向化工程・中間製品試験(1)サンプル加工工程」とされ、その内容として「配向化」の欄があり、平成10年6月1日の日付のもの(表題は「フィクソーブMX製造指示書2 配向化工程」)は欄中に「延伸」と不動文字で記載され、これ以外(その日付は平成11年1月の前後にわたる)は、上記表題のうち前3者については、欄中に「延伸・圧縮成形」と不動文字で記載され、いずれの指図書も、このうちの「圧縮成形」の部分に丸印が付されており、最後の表題の指図書については、欄中に「圧縮」と手書きで記載されていることが認められる。
以上の各証拠によれば、被告の上記主張事実は優にこれを認めることができ、これに反する証拠はない。
そして、上記乙第80号証添付の資料6が、同号証本文及び同資料自体の記載から、被告が平成9年4月に出荷したフィクソーブすべてについてのものであること、同号証添付の資料7が、これも同号証本文及び同資料自体の記載から、被告が平成11年5月に出荷したフィクソーブMXすべてについてのものであることがそれぞれ認められ、これに、上記で認定した、フィクソーブについては平成8年10月以降、フィクソーブMXについては平成11年1月以降、その製法を鍛造に変更したという事実を合わせれば、その製造後販売前の在庫期間を考慮しても、被告が主張するように、被告が製法変更前の被告製品(本件発明の実施品)を販売したのは、フィクソーブについては平成9年7月まで、フィクソーブMXについては平成11年9月までであることもまた、認めることができるものであり、これに反する証拠はない。
(8) 以上をまとめると、被告が本件発明の実施品である被告製品を製造販売していたのは、フィクソーブについては製造が平成8年9月まで、販売が平成9年7月まで、フィクソーブMXについては製造が平成10年12月まで、販売が平成11年9月までであり、その後は本件発明を実施していないものと認められる。
2 争点(2)(「対価」の算定)について (1) まず、本件契約に基づいて被告が原告に支払うべき対価の性質について検討する。
この対価につき、原告は、被告が本件発明を独占的に実施することの対価であると主張し、被告は、原告において本件発明を実施しないという約定に対し、
共同発明者であり原告の代表者であったAの本件発明に対する寄与に応じて支払うべき不実施契約料及び不実施補償料であると主張する。
そこで、本件契約において対価について規定する「特許共同出願契約書」(甲第5号証)の第2条の文言を検討するに、当該条項は、前記「前提となる事実」(4)記載のとおり、「乙〔原告〕は、本発明〔本件原発明〕を実施しないものとする。甲〔被告〕が本発明〔本件原発明〕を実施するときは、甲〔被告〕は乙〔原告〕に、別途協議して定める対価を支払うものとする。」と規定している。
このように、上記条項において、対価が、原告が本件原発明を実施しないことを約する文言に続いて規定されていること、対価が、被告による本件原発明の実施時に支払われるべきものとされていることに照らせば、本件契約の第2条は、
法律上は共有特許権者として他の共有者の同意を要しないで自ら本件原発明を実施することができる(特許法73条2項)原告が、自らはこれを実施しないことを約することによって、被告のみに本件原発明を実施する権利を専有させようとするものであるから、同条の定める「対価」とは、他の共有者である被告との競業という条件下で、仮に自ら本件原発明を実施すれば得られたであろう利益を得られなくなることに対する代償であると解するのが相当である。
(2) そして、上記のような対価の性質に照らせば、対価の額を具体的に算定する(本件契約第2条によれば、額の算定は、一次的には当事者間の協議に委ねられているが、当事者間の協議が整わないときも、その性質上、相当額を請求できることは明らかである。)に当たっては、本件出願に基づき特許権設定登録のされた本件発明の実施につき第三者に実施権を設定する際の実施料を基礎としつつ、 純然たる第三者ではなく、共有者としての地位を有する被告において、本件発明を実施する権原を本来的に有していること、 医療用具としての製造販売に伴う種々のリスクを被告のみが負担し、原告においてこれを一切負担せず、対価を享受し得ること等、 本件における種々の要素を勘案して相当な割合を定め、これを本件原発明(本件発明)の実施品である被告製品の被告における総売上額に乗じて算定するのが相当である。
(3) そこで、上記(2)で判示した、本件発明の実施品である被告製品の総売上額に乗じるべき相当な割合について検討する。
ア 原告は、本件発明が医療分野に属するものであるから、その実施料率は売上高の8パーセントとするのが相当であると主張するが、一般的な医療分野に属する発明が、8パーセント前後で実施を許諾されていることを認めるに足りる証拠はない。しかし、甲第4号証によれば、本件発明は、従来のポリ乳酸系外科用材料では得られなかった高い圧縮曲げ強度、圧縮曲げ弾性率を具備する高強度の材料であり、かつ耐加水分解性にも優れたものであるため、整形外科、口腔外科又は胸部外科等の広い領域において、骨接合用のプレート、スクリュー、ピン又はビス等としてすこぶる好適に使用することができるという作用効果を奏するものであることが認められ、本件発明の実施品である被告製品は、高い価値を有するものであると考えられることや、実際上も、後記のように、被告による本件発明の実施品につき相応の販売実績が認められること等に照らすと、その実施料率はある程度高率のものになると考えられる。
これに対し、被告は、特許庁作成の国有特許権についての実施料算定方法によるのが相当であると主張するところ、乙第81号証の1ないし3によれば、
国有特許権についての実施料算定に当たっては、実施価値に応じて販売価格の2ないし4パーセントを基準率とし、これに利用率、増減率、開拓率を乗じて実施料を算定することとされているが、この算定方法は、その対象が国有特許権という特殊性を有するものであるから、これをそのまま本件に適用するのは相当ではないけれども、一つの資料として参考にはなるものと考えられる。
イ ところで、被告は、本件発明自体が、グンゼ特許発明と利用関係になるおそれがあったため、被告はその通常実施権設定契約を締結し、平成9年3月10日にその通常実施権設定登録を受けるに至ったという事実があるから、相当な実施料率を得るに際しても減額をすべきであると主張する。
そこで検討するに、上記のとおり、被告がグンゼからグンゼ特許発明について通常実施権の許諾を受けていることは、乙第16、第17号証によって認められるところ、乙第17号証によれば、グンゼ特許発明の特許請求の範囲第1項は、「生体内分解吸収性の熱可塑性高分子材料を成形して次いで長軸方向に加熱下に延伸することを特徴とする骨接合ピンの製造法。」というものであり、同じく第6項は、「特許請求の範囲第1〜5項記載の何れかの方法で得た骨接合ピン。」というものであることが認められる。これを本件発明と対比するに、本件発明の特許請求の範囲は、「粘度平均分子量が30万〜60万のポリ乳酸又は乳酸-グリコール酸共重合体のみからなる生体内分解吸収性材料の溶融成形され延伸された成形物であって、その圧縮曲げ強度が1.6×103kg/cm2以上、圧縮曲げ弾性率が5.0×102kg/mm2以上、溶融成形後の粘度平均分子量が20万以上であることを特徴とする、強靱で耐加水分解性に優れた外科用材料。」というもの、また本件分割出願に係る発明の特許請求の範囲は、「粘度平均分子量が30万〜60万のポリ乳酸又は乳酸-グリコール酸共重合体を、その融点220℃以下の温度条件下で溶融成形し、更に60〜180℃の温度条件下で延伸することを特徴とする、
強靱で耐加水分解性に優れた外科用材料の製造法。」というものであり、ここでいう「延伸」とは、前記1で述べたとおり、長軸方向への一軸延伸を指すものと解されるから、ここでいう「外科用材料」のうち「骨接合ピン」については、本件発明がグンゼ特許発明を利用する関係に立つことは明らかである。したがって、「外科用材料」のうち「骨接合ピン」に関して本件発明を実施するためには、本件発明について実施許諾を受けるだけではなく、グンゼからグンゼ特許発明についても実施許諾を受ける必要がある。そして、甲第7号証によれば、フィクソーブの形態としては、スクリューとピンが存在することが認められる。以上のような事情は、実施料率を認定するに当たって、減額要素として考慮すべきである。
もっとも、被告製品のうちフィクソーブMXについては、被告がこれを販売したのは平成9年7月以降であるところ、被告自身の主張として、本件発明の実施品であるフィクソーブMXを平成11年9月まで販売していたが、これは「骨接合ピン」に該当しないことから、グンゼ特許発明の上記通常実施権設定契約に基づいてグンゼに実施料を支払ったのは平成9年7月までであると主張していることに照らすと、被告は、フィクソーブMXについてはグンゼ特許発明実施料を支払っていないと推認される。そして、甲第8号証によれば、フィクソーブMXの形態としては、プレートとスクリューが存在し、ピンは存在しないことが認められる。
したがって、グンゼ特許発明の存在は、被告製品のうちフィクソーブMXについての実施料率については、特段これを減ずる理由とはならない。
ウ 原告は、本件特許権の共有者であるから、本件契約を締結しなかったとすれば本件発明を自ら実施する権利を有しているものであるが、その実施の能力についても検討する必要がある。
この点について、元原告の代表取締役であったAは、その証人尋問において、原告には本件発明を自ら実施する能力があると証言する。しかしながら、同人は、同時に、@ 原告は、研究開発をメインにするような会社として設立された、A 本件契約の締結当時、原告の従業員は7、8名であった、B 証人尋問当時(平成12年)、原告の従業員は約10名で、そのうち3、4名が医療用材料の製造を担当し、6、7名が研究開発を担当している、C 原告が製造している医療用材料は、大学の研究室程度の規模でできるから、製造所と研究開発室と別に何室かある、旨も証言している。このような原告の企業としての体制及び規模に照らせば、本件契約締結時の原告において、外部委託をすることなく、医療用具としての製造承認を受けた上で製品として市場に参入する形で本件発明を実施することは、
相当に困難であったと推認される。
したがって、被告製品の総売上に相当な実施料率を乗じた金額のうち、
原告が本件発明を実施しなかったことによる損失が占める割合は、本件特許権についての原告の共有持分である2分の1よりも小さいといわなければならない。
エ なお、被告は、本件特許権についての原告の共有持分について、本件契約によって別段の定めがされており、民法250条の推定が覆されていると主張するが、当該別段の定めの具体的内容となる原告の共有持分の割合について何ら主張していないし、本件契約の条項を被告主張のように解釈することもできない。また、被告は、本件特許権の共有者の持分については、本件発明の研究過程における各共同発明者の寄与度の割合に応じてその持分を定めるとの黙示の合意があったとも主張するが、これも具体的な原告の共有持分の割合について何ら主張しておらず、そのような黙示の合意があったことを認めるに足りる証拠もない。したがって、被告の上記各主張はいずれも採用することができない。
オ また、前記「前提となる事実」(4)記載の本件契約第1条の文言と、証人A及び同Bの各証言によれば、本件発明について、特許出願に関する手続及びその費用、本件特許権登録及びその維持に関する手続及びその費用は、すべて被告が負担したこと、被告製品の開発、その医療用具としての行政庁の承認を得るまでの手続及びその費用も、すべて被告が負担したことが認められ、このうち、特許出願に要した費用に限っても、外国特許の出願にかかる費用も含めれば、1000万円を超えたものと認められる。
本件発明は医療用具に関する発明であるから、これを現実に実施するに当たっては、医療用具としての製造承認を受けた上で製造販売する必要があることが明らかであり、実施者となり得る被告においては、そのための相当の労力及び費用と、最終的に商品化に失敗するという危険を負担することになる一方、実施しないことを約する原告においてはそのような労力及び費用や危険を負担することはないのであるから、原告の損失に対応して被告において得られた利益そのものを対価として原告に支払うのは明らかに合理性を欠くものになるというべきである。
このような事情も、本件発明の実施品である被告製品の売上額に乗じるべき割合を求めるに当たって、その割合を減ずる要素として考慮すべきである。
(4) 以上の事実を総合的に考慮すると、本件発明の実施品である被告製品の総売上額に乗じるべきものとして相当な割合としては、被告製品のうちフィクソーブについては1.5パーセント、フィクソーブMXについては2パーセントをもって相当であると認める。
すなわち、被告が本件発明を実施して製造した被告製品の総売上高に対し、フィクソーブについては1.5パーセントを、フィクソーブMXについては2パーセントをそれぞれ乗じて得られた額をもって、本件契約に基づいて被告が原告に対して支払うべき対価の額とすべきである。
(5) 前記1で認定したとおり、被告が、本件発明を実施して製造した被告製品を販売していたのは、フィクソーブについては平成9年7月まで、フィクソーブMXについては平成11年9月までであると認められる。
これら本件発明の実施品である被告製品の販売総額について、被告は、フィクソーブについては5億6270万6439円、フィクソーブMXについては2億3403万1250円であると主張するところ、これを裏付けるものとして乙第79、第80号証が存在し、これらの証拠の信用性を疑わせる特段の証拠も事情もなく、また、上記被告の主張に反する特段の証拠も事情もないから、上記被告の主張をもって事実と認めるべきである。
この点について、原告は、被告によるフィクソーブ及びフィクソーブMXの売上高として、平成6年度から平成8年度までの分として合計31億5714万1000円、平成9年度分として11億4922万3000円の売上があったと主張するが、この主張に対応する証拠としては被告の当該年度分の有価証券報告書総覧(甲第9ないし第12号証)の他になく、これらの記載によってもフィクソーブ及びフィクソーブMXの売上高を算出することはできないから、原告の上記主張を採用することはできない。
したがって、本件契約に基づき、被告が原告に支払うべき対価の額は、以下のとおりであると認められる(1円未満切捨て)。
@ フィクソーブについて 562,706,439×0.015= 8,440,596 A フィクソーブMXについて 234,031,250×0.02 = 4,680,625 B @とAの合計 8,440,596+4,680,625=13,121,221 3 結論 以上のとおり、被告が本件契約に基づき原告に支払うべき対価の額は、1312万1221円と認められるから、原告は、被告の債務不履行により同額の損害を被ったものというべきである。
よって、原告の請求は、上記損害額1312万1221円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成12年5月30日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 田中秀幸
裁判官 守山修生
  • この表をプリントする