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事件 |
令和
2年
(ワ)
7486号
特許権移転登録手続等請求事件
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5 原告 P1 同訴訟代理人弁護士 長友慶徳 同復代理人弁護士 千葉康平 10 被告 P2 同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 同 弓削田博 同 藤沼光太 同補佐人弁理士 広瀬文彦 15 同 末岡秀文 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2022/02/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の主位的請求をいずれも棄却する。 2 被告は、原告に対し、別紙特許権目録記載の特許権につき、特許法74条1項を原因として、被告の持分2分の1の移転登録手続をせよ。 20 3 訴訟費用は、これを13分し、その9を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 主位的請求25 (1) 被告は、原告に対し、別紙特許権目録記載の特許権につき、特許法74条1 項を原因とする移転登録手続をせよ。 (2) 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成30年1月29日か ら支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 上記1(1)の予備的請求 主文2項と同旨 5 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告に対し、別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特 許権」といい、これに係る特許を「本件特許」という。)につき、被告の冒認出願 (主位的請求)又は共同出願違反(予備的請求)により設定登録されたとして、主 位的請求においては持分全部、予備的請求においては持分2分の1の限度で、特許10 法74条1項に基づく移転登録手続をすることを求めると共に、被告のこのような 特許出願(以下「本件出願」という。)は不法行為を構成するとして、民法709 条に基づき、弁護士費用相当額100万円の損害賠償及びこれに対する不法行為の 日(出願日)である平成30年1月29日から支払済みまで平成29年法律第44 号による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案で15 ある。 2 前提事実(争いのない事実又は証拠(後掲のもの)もしくは弁論の全趣旨に より容易に認められる事実) (1) 当事者 原告は、水産会社に勤務し、活魚の処理業務を日常的に行っている者である(甲20 30〜33、37、原告本人)。 被告は、バーテンダーとしての勤務を契機に魚の処理に興味を持ち、これを研究 していた者である(乙9、被告本人)。 (2) 本件出願及び本件特許権の設定登録 ア 被告は、平成30年1月29日、被告のみを発明者として、本件特許権に係25 る発明(以下、別紙特許公報の特許請求の範囲請求項1〜3記載の各発明をそれぞ れ「本件発明1」などといい、これらを「本件各発明」と総称する。)の特許出願を し(本件出願。願書添付の明細書及び図面を「本件明細書」という。)、令和元年 12月20日、その設定登録を受けた。 イ 本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は、それぞれ、以下のとおりである。 【請求項1】(本件発明1) 5 魚(10)の切断された尾部(12)より血液弓門(14)内に液体(20)を圧力を掛けて噴射する ことにより魚を生き締め(活〆)する魚体内の血液の瞬間除去装置(1)が、 液体に圧力を掛けて送出する加圧装置(100)と、該加圧装置から送出される圧力の 掛かった液体(20)を送るためのホース(200)と、該ホースに接続される前記液体の流路 の開閉を行うバルブ(300)と、該バルブに接続されるバルブが開状態の時に前記液体10 を噴射するノズル(400)と、からなり、 前記バルブ(300)は、ボタン(310)の押下げ乃至引上げによって流路(320)の開閉を行 うとともに、前記ノズル(400)は、あらゆる大きさからなる魚の血液弓門の開口を密 着封止しながらノズル先端部を挿入するとともに液体噴射中に魚が動くことによる ノズル先端部の折れ、曲がり、破損を防止するため、太径の元部(410)から先端部(420)15 に向かって外形を先細のテーパ状に形成し、かつ、先端部中央の穴径を前記元部(410) の穴径より狭く形成した事を特徴とする高圧水の弓門内噴射による魚体内の血液の 瞬間除去装置。 【請求項2】(本件発明2) 魚の切断された尾部より血液弓門内に圧力の掛かった液体を噴射することによっ20 て魚を生き締め(活〆)するための魚体内の血液の瞬間除去方法(2)が、 魚の延髄部を切断開口する頭部切断工程(500)と、 魚の尾部を切断して脊椎と血液弓門を露出する尾部切断工程(600)と、 前記尾部切断工程によって露出した魚の血液弓門に先端部の穴径を元部の穴径よ り狭く形成したあらゆる大きさからなる魚の血液弓門の開口を密着封止しながらノ25 ズル先端部を挿入するとともに液体噴射中に魚が動くことによるノズル先端部の折 れ、曲がり、破損を防止するための外形が先細のテーパ状のノズルを挿入し、加圧 装置によって圧力を掛けられた液体を噴射する血抜き工程(700)と、 からなることを特徴とする高圧水の弓門内噴射による魚体内の血液の瞬間除去方 法。 【請求項3】(本件発明3) 5 魚(10)の切断された尾部(12)より血液弓門(14)内に液体(20)を圧力を掛けて噴射する ことにより魚を生き締め(活〆)する魚体内の血液の瞬間除去装置(1)が、 水道配管から供給される圧力の掛かった液体(20)を流通させるためのホース(200) と、該ホースに接続される前記液体の流路の開閉を行うバルブ(300)と、該バルブに 接続されるバルブが開状態の時に前記液体を噴射するノズル(400)と、からなり、 10 前記バルブ(300)は、ボタン(310)の押下げ乃至引上げによって流路(320)の開閉を行 うとともに、前記ノズル(400)は、あらゆる大きさからなる魚の血液弓門の開口を密 着封止しながらノズル先端部を挿入するとともに液体噴射中に魚が動くことによる ノズル先端部の折れ、曲がり、破損を防止するため、太径の元部(410)から先端部(420) に向かって外形を先細のテーパ状に形成し、かつ、先端部中央の穴径を前記元部(410)15 の穴径より狭く形成した事を特徴とする高圧水の弓門内噴射による魚体内の血液の 瞬間除去装置。 3 争点 (1) 原告の発明者性(争点1) (2) 本件出願の不法行為該当性等(争点2)20 第3 当事者の主張 1 原告の発明者性(争点1) (原告の主張) (1) 本件各発明の特徴的部分 魚の生き締めに係る本件各発明の従来技術においては、確実かつ完全に血の排除25 ができず、十分な洗浄を追求するためには水洗い又は水中に浸ける等の余分な工程 が必要であり、あらゆるサイズの魚に対応するオールマイティーな除洗ができない こと、液体の噴射中に魚が暴れて動くことにより弓門に挿入する針(ノズル先端部) が曲がったり折れたりすることという技術的課題があった。 本件各発明は、このような技術的課題を解決するため、他の除血洗浄工程を必要 としない、あらゆる大きさの魚に対応するための血液弓門の密着封止構造からなる 5 と共に、ノズルの折れ等の破損を抑制した魚の血抜き生き締め(活〆)のための魚 体内の血液の瞬間除去装置及びその方法を提供することを目的とするものである。 その課題解決手段である本件各発明は、魚の切断された尾部より血液弓門内に液 体を圧力を掛けて噴射するという手段により、誰にでも簡単に動脈又は静脈を含む 血管内の血液が確実に排出され、洗浄や水浸けのような血抜き工程を経ることなく、 10 簡潔に血管内の洗浄を行うことを可能にすると共に、ノズルの形状を太径の元部か ら先端部に向かって外形を先細のテーパ状に形成するという手段により、あらゆる 大きさの弓門に挿入可能となり、かつ、液体噴射中に魚が動くことによるノズル先 端部の折れ、曲がり、破損を防止・抑制する血抜き生き締め装置の提供を可能にし たというものである。 15 以上の本件各発明における課題、目的及び課題解決手段に照らすと、本件各発明 における特徴的部分は、魚の切断された尾部より血液弓門内に液体を圧力を掛けて 噴射して魚の生き締めを行う装置又は方法であること(以下「特徴的部分 A」とい う。)、本件各発明に係る瞬間除去装置のノズル先端部の形状が先細のテーパ状に なっていること(以下「特徴的部分 B」という。)である。 20 (2) 本件各発明の特徴的部分に対する原告の関与 原告は、原告の実施する血抜き方法がテレビ番組や新聞、雑誌等で紹介され、単 著で血抜き方法に関する本を出版するなど、魚の捌き方、血抜き方法等では相当著 名な者であり、国内有数の大学水産学部の教授と共同研究を行うほど、魚の血抜き 方法等について深い知見を有している。このような原告の見識から、原告が、被告25 に対し、本件各発明に係る着想及び具体化について助言等を行うことは容易であっ たところ、原告は、次のとおり、本件各発明の特徴的部分 A 及び B の着想及び具体 化に関与した。 ア 特徴的部分 A について 原告は、平成29年8月1日、被告に対し、「それなら神経まで潰せるし、逆か ら骨の血も抜けますよ」、「全て切った尾びれの付け根から処理できますよ」とい 5 うメッセージを送り、尾部を切断して脊椎と血液弓門を露出させ、液体を噴射して 血を抜くという方法を助言した。これに対し、被告は、「それもありですが...鱗を一 枚剥がして神経抜きワイヤーを刺す明石浦漁港のやり方があり…それにこのやり方 を合わせれば魚の傷を減らせます」などというメッセージを送り、原告の助言に対 して否定的な発言をした。なお、「明石浦漁港のやり方」とは、神経の抜き方につ10 いては背骨に針金を通すという方法であり、尾部の切断はせず、血抜きについても、 魚の背骨をエラから包丁を入れて断ち切り、水に浸けて血を抜くという方法である。 また、同月10日、被告が、原告に対し、ドリルを使って魚の脳天を開けて血抜 きをする方法を示したのに対し、原告は、ドリルを使うのは面倒で危険である旨の 回答をした。このことは、この時点で、尾部を切断し、そこから血抜きをするとい15 う方法について被告が着想していないことを示す。 これに続き、原告は、被告に対し、「ケツを切り」、「水を送り」、「ケツから大 動脈の血を抜くといった感じで捉えています。」などと、尾部を切断して血液弓門 を露出させ、露出した魚の血液弓門に液体を噴射して血抜きをするという助言をし た。しかし、被告は、このような助言に対して何ら反応をせず、「あえて少し血を20 残す…その方がイイ…という結果の感想も持ってます」などというメッセージを送 るなどした。本件明細書には「完全な除血」が必要である旨の記載があるところ、 血を残してもよいとの構想は、この認識とは異なる。 このように、被告は、平成29年8月1日及び同月10日の各時点において、尾 部の切断や尾部からの血抜きの着想や具体化をしておらず、原告の助言により、特25 徴的部分 A が着想され具体化したものである。 イ 特徴的部分 B について 被告は、平成29年7月11日、原告に対し、「極細ノズル」、「極細ノズル針」 等の表現を含むメッセージ及びノズルの形状が針状の装置の写真を送付するなどし ており、この時点では、ノズルの形状につき、テーパ状ではなく「極細」又は「針」 の形状を構想していた。 5 また、原告は、同年10月14日頃から本件各発明に係る装置の実験を行うこと となったが、その際に使用した装置のノズルの形状は針状である。同月24日の実 験で原告が使用した装置のノズルの形状も針状である。この実験の結果、原告は、 「針」又は「極細」の形状のノズルでは、活魚の場合、魚が暴れるため針が折れて しまい血抜き等の処理が不可能又は著しく困難であることを理解した。そこで、原10 告は、同年11月1日、被告に対し、テーパ状の形状のシャープペンシルなどを示 し、「これのテーパーバージョンが作れるか今聞いてるとこ。」、「あれより折れに くいわねぇ。」などというメッセージを送るなどして、活魚の処理中に折れてしま うという針状ノズルの課題を解決するために、テーパ状にして、折れにくいノズル にすべきであると助言をした。これに対し、被告は、当初、「テーパーは、一から造15 るのは難しいですよ...精密ですからね。出来てもコストが...」などとして、ノズルを テーパ状にすることに繰り返し難色を示したものの、その後、原告からの提案等を 受け入れてテーパ状のノズルを検討するようになった。 このように、原告は、特徴的部分 B の着想及び具体化に関与したといえる。 (3) 以上から、原告は、本件各発明の発明者であり、又は少なくとも被告との共20 同発明者である。 (被告の主張) (1) 被告は、遅くとも原告の助言を受ける前である平成29年7月11日時点に おいて、本件各発明を完成させていた。 (2) 本件明細書の記載及び従来技術を考慮すると、本件各発明の特徴的部分は、 25 圧縮空気やガスではなく、水道配管から供給される圧力の掛かった液体を用いる構 成とした点(以下「特徴的部分a」という。)、加圧された液体の流路の開閉を行 うバルブを設けた点(以下「特徴的部分b」という。)、ノズルの形状を太径の元 部から先端部に向かって外形を先細のテーパ状に形成し、かつ、先端部中央の穴径 を元部の穴径より狭く形成した点(以下「特徴的部分c」という。)である。これ らの特徴的部分a〜cの完成について、原告は創作的に寄与していない。 5 すなわち、これまで魚の神経抜きにエアダスターが使用されていたところ、被告 は、動画(乙5。以下「乙5動画」という。)で使用されたエアダスターの気圧と水 道の水圧が同程度であることに気付き、エアダスターのような器具を用いて水圧を 使って血抜き等ができないかという、これまでにない器具の着想に至ったのであり、 単独で特徴的部分aを完成させた。また、加圧された液体の流路の開閉を行うバル10 ブは、従来エアダスターのノズルに備えられていた流量調節が可能なレバー又はボ タンを流用したものであるところ、この特徴的部分bに対し、原告は何らの助言も 行っていない。さらに、特徴的部分cについては、元部から先端部に向かってノズ ルの外形を先細のテーパ状に形成したエアダスターは本件出願日より前から販売さ れていたところ、被告は、乙5動画による上記着想と併せ、原告から助言をもらう15 前に、ノズルを上記形状に形成したエアダスターを用いて、水圧を使って血抜き及 び神経抜きをするという着想及び具体化に至った。加えて、ノズルにつき先端部中 央の穴径を元部の穴径より狭く形成したという点について、原告からの助言はない。 (3) 原告の主張について ア 特徴的部分 A について20 魚の尾部を切断し、尾部の血液弓門に圧力をかけて血抜きをすることは公知の技 術であり、本件各発明の特徴的部分ではない。 仮に、この点が本件各発明の特徴的部分であるとしても、原告の助言を受ける前 から、被告はこの点について着想していた。すなわち、従来から、魚の尾部を切断 するなどした上で、ノズルの先端が針状のエアダスターを使用して尾部に空気を噴25 出し、魚の神経抜きを行うという技術はあったが、使用時に魚が暴れることでノズ ルの先端が破損するという課題が存在した。もっとも、ノズルの先端が針状でなく とも神経抜きが可能であることは乙5動画で公開されており、また、尾部からの神 経抜きの際に液体を使用することや、尾部の血液弓門に先端が鋭くとがったエアノ ズルを刺し圧力を掛けて血液を抜くという技術は、原告と被告とが連絡を取り合う 前に公知であった。さらに、尾部からの神経抜きをする際に使用する神経弓門と血 5 抜きにおいて使用する血液弓門が脊椎を中心に比較的同じような形状で上下に配置 されていることも、公知の事実であった。加えて、被告は、原告の助言より前に、 神経抜きをした際に同時に血が抜けることに気が付いていた。このため、原告の助 言がなくとも、被告が魚の尾部から血抜きを行うことを想到することには十分な動 機付けがあり、被告は、特徴的部分 A についての着想を得ていた。 10 イ 特徴的部分 B について 前記のとおり、先端部の外形が先細りのテーパ状であるノズルは、原告の助言前 から存在しており、魚の尾部の血液弓門に先端が鋭くとがったエアノズルを刺して 圧力をかけて血抜きをする技術は公知であった。 このため、原告の助言より前に、公知の技術から先端部を先細りのテーパ状にし15 たノズルを用いて血抜きを行うことは容易に想到可能であり、魚の形状に合うよう に細くすることは、当業者であれば当然に考え付くアイディアに過ぎない。 2 本件出願の不法行為該当性等(争点2) (原告の主張) 本件各発明は、原告の単独発明又は原告と被告の共同発明であるにもかかわらず、 20 被告は、被告の単独発明として本件出願を行い、本件特許権を取得した。したがっ て、本件出願は冒認出願又は共同出願違反であり、不法行為を構成する。 原告は、被告が本件特許権を取得したことに対して本件訴えを提起し、弁護士費 用を支出した。したがって、原告が支出した弁護士費用100万円は、被告の不法 行為と相当因果関係のある損害に含まれる。 25 (被告の主張) 否認ないし争う。 |
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当裁判所の判断
1 原告の発明者性(争点1)について (1) 発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者、す なわち、当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものと 5 して構成するための創作に関与した者を指すというべきである。発明者となるため には、一人の者が全ての過程に関与することが必要なわけではなく、共同で関与す ることでも足りるというべきであるが、複数の者が共同発明者となるためには、課 題を解決するための着想及びその具体化の過程において、発明の特徴的部分の完成 に創作的に寄与したことを要する。発明の特徴的部分とは、特許請求の範囲に記載10 された発明の構成のうち、従来技術には見られない部分、すなわち、当該発明特有 の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解すべきである。 (2) 本件各発明の特徴的部分 ア 本件明細書には、次の記載がある。 (ア) 技術分野15 「本発明は、魚の生き締め(活〆)の装置およびその方法に関し、特に、血液弓 門を密着封止する構造を用いて魚の動脈または静脈に含まれる血管内の血液を圧力 を掛けた液体によって噴射排出することにより、瞬時にして簡潔に血抜きを行うと ともに、血管内の血の完全除血を行うことを可能とし、他の保存処理工程等を必要 とせずに生き締め(活〆)後の魚の鮮度を長期間に渡って保つことを可能とした 、 20 あらゆる大きさの魚に対応するための血液弓門の密着封止構造からなるノズルの折 れ等の破損を抑制した魚体内の血液の瞬間除去(除血)のための装置およびその方 法に関する。」(【0001】) (イ) 背景技術 「魚を締める目的は、乳酸等の蓄積による味の劣化の防止、死後硬直を遅らせる25 ことによる腐敗の抑制、残存血液内での細菌の繁殖の抑制、残留血液の酸化による 残留血液自体の腐敗の防止、魚が暴れることによる体内の ATP 消費の防止、魚が暴 れて打撲することにより生じた鬱血部分からの腐敗の防止等が挙げられる。 【0002】 ( 」 ) 「魚を締める方法として、従来より、まず第一工程としてピアノ線等を用いて神 経を破壊する方法が用いられている。すなわち、ピアノ線等の細長い器具を魚の脊 髄に沿って突き通すことにより、神経を破壊し死後硬直を遅らせて鮮度を保ってい 5 る。この方法によると、魚が暴れて ATP が消費されることや乳酸等が蓄積すること による味の劣化を防止したり、死後硬直を遅らせることによる腐敗の抑制が可能と なる。」(【0003】) 「しかしながら、細い線材を魚の脊髄に挿入するのは熟練した技術が必要となり、 容易かつ効率的に魚を締めるのが困難であることや、脊髄の除去の他に血抜きが完10 全確実に行われないと残余の血で細菌が繁殖することとなり、満足な食感を維持す る生き締め(活〆)を行う事が出来ないという問題点があった。」(【0004】) 「このような問題点を解消するための技術として、特開 2000-166459 号公報が存 在する。ここでは、魚の生きしめと神経抜き及び血抜きを同時に行うための技術と して、魚の尾ヒレの付け根近傍に刃物を突刺すと同時に、神経弓門に圧縮空気また15 はガスを噴出し、神経抜きと血抜きを行う技術が開示されている。神経弓門に圧縮 空気またはガスを噴出することにより、神経が瞬間的に破壊されて、予め切断して ある頭部側の脊椎体より噴出し、これと同時に尾ヒレの付け根近傍の脊椎体と静脈、 動脈も切断されるため、血抜きが行われる旨が開示されている。」(【0005】) 「確かに、この技術によれば、神経抜き及び血抜きを同時に行う事が可能となる20 が、圧縮空気またはガスを神経弓門に噴出する方法であるため、血管内の血液は強 烈に吹き飛ばされるだけで周囲に残存する可能性があり、確実かつ完全に血の排除 をするという点では充分とは言えなかった。すなわち、液体を用いていないため洗 浄が不十分となり、残余の血液中で細菌の繁殖の可能性がある等、衛生面でも十分 とは言えないという問題点があった。また、充分な洗浄を追求して水洗い若しくは25 水中に浸ける等の余分な工程が必要であった。また、魚の大きさに応じて弓門の大 きさも異なるため、あらゆるサイズの魚に対応するオールマイティーな除洗という 観点からは、全ての魚に対応したものではなく、利便性に欠けるという問題点も内 在していた。更に、噴射中に魚が暴れることにより弓門に挿入する針(ノズル先端 部)が曲がったり折れたりするという問題点も存在していた。」(【0006】) 「魚の鮮度は、血抜きが確実でかつ食感に耐えるだけ満足のいく程度に除血され 5 ているかどうかによって、かなり出来映えが左右されることになる。従って、完全 な血の洗浄を担保する方法が種々考案されているが、どの方法も手間のかかるもの であった。そこで、どのような大きさの魚であっても、簡潔確実かつ効率よく血抜 きが容易にできる装置およびその方法の開発が望まれていた。」(【0007】) (ウ) 発明が解決しようとする課題10 「本発明は上記問題を解決するために、魚の生き締め(活〆)の装置およびその 方法であって、特に、従来とは異なり、魚の尾部の血液弓門から動脈または静脈を 含む血管内に圧力を掛けた高圧液体を、血液弓門に挿入して密着封止する構造を用 いて瞬間噴出することによって、該血管内の血液を頭部方向へ噴射排出させること により瞬時にして簡潔に血抜きを行うとともに、血管内の完全除血を行うことを可15 能としたもので、従来と異なり、他の除血洗浄工程を必要としない、あらゆる大き さの魚に対応するための血液弓門の密着封止構造からなるとともに、ノズルの折れ 等の破損を抑制した魚の血抜き生き締め(活〆)のための魚体内の血液の瞬間除去 装置およびその方法を提供することを目的とする。」(【0008】) (エ) 発明の効果20 「本発明は、…以下のような効果がある。 1.加圧された液体の流路の開閉を行うバルブを設けたため、所望する時間、魚 の尾部の血液弓門から圧力の掛けられた液体を噴射して確実に単一の操作だけで血 液を充分満足できる程度まで排出(除血)することが可能となる。また、ノズルの 形状を太径の元部から先端部に向かって外形を先細のテーパ状に形成したため、あ25 らゆる大きさの弓門に挿入可能となり、確実に密封密着した状態で除血するので、 様々な種類や大きさの魚に対応した血抜き生き締め(活〆)装置を提供することが 可能となる。更に、液体の噴射中に魚が暴れて動くことによるノズルの折れ等の破 損を防止することが可能となる。」(【0012】) 「2.魚の切断された尾部より血液弓門内に液体を圧力を掛けて噴射する方法で あるため、誰にでも簡単に動脈または静脈を含む血管内の血液が確実に排出される 5 とともに、洗浄や水浸けのような血抜き工程を経ることなく、簡潔に血管内の洗浄 を行う事が可能となる。 3.水道配管から供給される圧力の掛かった液体を用いる構成としたため、加圧 装置がない場合であっても充分な水圧を得ることが出来、魚体内の血液を充分満足 できる程度まで排出(除血)することが可能となる。」(【0013】)10 (オ) 発明を実施するための最良の形態 「本発明に係る魚体内の血液の瞬間除去装置を用いて血液の瞬間除去(除血)を 行う魚 10 は、予め、尾部 12 を切断した状態としておく。尾部 12 には、…血液弓門 14 が開口した状態となっている。この切断された尾部 12 より血液弓門 14 内に、液 体 20 を圧力の掛かった状態で噴射することにより動脈または静脈を含む血管から血15 液を瞬間的に排出(除去)して魚を生き締めする構成である。専ら血を抜くためだ けの洗浄工程等を一切必要としない画期的でかつ簡潔な生き締め(活〆)を実現し ており、このような血液除去(除血・奪血)は従来の除洗には見られなかった。 」 (【0016】) 「魚の背骨は頭部から尾部に掛けて先細りとなるような形状をしており、頭部側20 から神経弓門や血液弓門に圧力に係った液体を噴射すると尾部側の組織を破壊して しまう虞があるため、尾部 12 側の血液弓門 14 内に液体 20 を圧力の掛かった状態で 尾部から頭部方向へ噴射することにより完全な除血または奪血を実現している。」 (【0017】) 「ノズル 400 は、 10 の血液弓門 14 を密着封止して挿入するとともにバルブ 300 魚25 が開状態の時に液体 20 を噴射するための部材であり、…太径の元部 410 から先端部 420 に向かって外形を先細のテーパ状に形成するとともに、先端部 420 の穴径を元 部 410 の穴径より狭く形成した構成となっている。」(【0024】) 「この構成とすることにより、あらゆる大きさの血液弓門 14 に挿入することが可 能となり、ノズルや針を交換することなく一つの器具で様々な種類や大きさの魚 10 の血液弓門 14 に挿入したうえで密着封止して対応した魚体内の血液の瞬間除去装置 5 を提供することが可能となった。また、加圧された液体に更に圧力を掛けて先端中 央の開口から噴射することが可能となり、確実かつ素早い血抜きおよび動脈または 静脈を含む血管内の血液除去(除血)を行う事が可能となった。また、この形状に よりノズル 400 が血液弓門 14 を密封することとなるため、加圧された液体が漏れず に確実に動脈または静脈を含む血管内の血液を瞬間的に除去することが可能となっ10 た。更に、魚が暴れた場合であっても、血液弓門に挿入するノズル 400 が曲がった り折れたりすることがなくなり、交換の必要がなく、耐久性・経済性・利便性に富 んだノズルを有する魚体内の血液の瞬間除去装置を提供することが可能となった。」 (【0025】) イ 本件各発明の内容及び特徴15 (ア) 本件各発明に係る特許請求の範囲の各記載及び本件明細書の記載によれば、 本件各発明は、以下のとおりのものと認められる。 すなわち、魚を締める目的は、残存血液内での細菌の繁殖の抑制、残留血液の酸 化による残留血液自体の腐敗の防止等が挙げられる(【0002】)。従来より、魚を 締める方法として、ピアノ線等の細長い器具を魚の脊髄に沿って突き通すことによ20 り、神経を破壊し死後硬直を遅らせて鮮度を保つ方法があるが、細い線材を魚の脊 髄に挿入するのは熟練した技術が必要となり、容易かつ効率的に魚を締めるのが困 難であることや、脊髄の除去の他に血抜きが完全確実に行われないと残余の血で細 菌が繁殖することとなり、満足な食感を維持することができないという問題点があっ た(【0003】、【0004】)。このような問題点を解消する技術として、魚の尾ヒレの25 付け根近傍に刃物を突き刺すと同時に、神経弓門に圧縮空気又はガスを噴出し、神 経抜きと血抜きを行う技術が開示されているが、液体を用いていないため洗浄が不 十分となり、残余の血液中で細菌の繁殖の可能性がある等、衛生面で十分とはいえ ず、十分な洗浄を追求して水洗い等の余分な工程が必要であった。また、魚の大き さに応じて弓門の大きさも異なるため、全ての魚に対応したものではなく、利便性 に欠けるという問題点や、噴射中に魚が暴れることにより弓門に挿入するノズルの 5 先端部が曲がったり折れたりするという問題点も存在していた 【0005】【0006】 。 ( 、 ) このため、どのような大きさの魚であっても、簡潔確実かつ効率よく血抜きが容易 にできる装置及びその方法の開発が望まれていた(【0007】)。 本件各発明は、こうした問題を解決するための魚の生き締めの装置及びその方法 であって、特に、従来とは異なり、魚の尾部の血液弓門から動脈又は静脈を含む血10 管内に圧力を掛けた高圧液体を、血液弓門に挿入して密着封止する構造を用いて瞬 間噴出することによって、該血管内の血液を頭部方向へ噴射排出させることにより 瞬時にして簡潔に血抜きを行うとともに、血管内の完全除血を行うことを可能とし たもので、従来と異なり、他の除血洗浄工程を必要とせず、あらゆる大きさの魚に 対応するための血液弓門の密着封止構造からなると共に、ノズルの折れ等の破損を15 抑制した魚の血抜き生き締めのための魚体内の血液の瞬間除去装置及びその方法を 提供することを目的とし(【0008】)、特許請求の範囲の各記載のとおりの構成を 採用したものである。こうした構成によって、本件各発明は、所望する時間、魚の 尾部の血液弓門から圧力の掛けられた液体を噴射して確実に単一の操作だけで血液 を十分満足できる程度まで排出(除血)することが可能となると共に、ノズルの形20 状を太径の元部から先端部に向かって外形を先細のテーパ状に形成したため、あら ゆる大きさの弓門に挿入可能となり、確実に密封密着した状態で除血するので、様々 な種類や大きさの魚に対応した血抜き生き締め(活〆)装置を提供することや、液 体の噴射中に魚が暴れて動くことによるノズルの折れ等の破損を防止することが可 能となるなどの効果を奏する(【0012】、【0013】、【0016】、【0017】、【0024】、 25 【0025】)。 (イ) このような本件各発明の解決すべき課題、課題解決手段及び効果に照らすと、 本件各発明は、どのような大きさの魚であっても、瞬時にして簡潔確実に血抜きが できる魚の生き締めの装置及びその方法を内容とするものであり、@魚の尾部の血 液弓門から動脈又は静脈を含む血管内に圧力を掛けた高圧液体を噴射して魚の血抜 きをすること(以下「特徴的部分@」という。)、Aあらゆる大きさの魚に対応する 5 ための血液弓門の密着封止構造を実現すると共に、ノズル先端部の破損を抑制する ため、ノズルの先端部分の形状をテーパ状にすること(以下「特徴的部分A」とい う。)を特徴とする魚の血抜き装置及びその方法であると認められる。 (ウ) これに対し、被告は、本件各発明の特徴的部分は特徴的部分a〜cであって、 切断した魚の尾部の血液弓門に圧力をかけて血抜きをすることは公知の技術である10 こと、先端部を先細りのテーパ状にしたノズルを用いて血抜きを行うことは、魚の 尾部の血液弓門に先端が鋭くとがったエアノズルを刺して圧力をかけて血抜きをす るという公知の技術から容易に想到可能であることから、いずれも本件各発明の特 徴的部分ではない旨を主張する。 しかし、特徴的部分aに関しては、エアダスターのような器具の使用を前提とし15 た場合、エアダスターという器具自体、流体をノズルから噴出する構造を備えてい ることから、その噴出させる流体を空気とするか液体とするかは、当該器具の使用 目的等に応じて当業者が適宜選択し得る事項にとどまると思われる。したがって、 これをもって本件各発明の特徴的部分とはいえない。特徴的部分bについても、エ アダスターにおいて加圧された流体の流量調整をバルブにより行うことは公知の技20 術であること(乙2、弁論の全趣旨)に鑑みると、ボタンの押下げないし引上げに よって流路の開閉を行うことは、同様に当業者が適宜行い得る事項にとどまり、本 件各発明の特徴的部分とはいえない。特徴的部分cについては、ノズルの形状を太 径の元部から先端部に向かって外形を先細のテーパ状に形成することは特徴的部分 Aに相当する。他方、先端部中央の穴径を元部の穴径より狭く形成した点は、本件25 各発明に係る特許請求の範囲の記載において発明特定事項とされてはいるものの、 本件明細書においては実施例として示されているにとどまり(【0024】、【0029】)、 その技術的意義は明示されておらず、これをうかがわせる記載も見当たらない。む しろ、ノズルの外形の形状をテーパ状とすることを選択することに伴い、その穴径 についても同様にテーパ状とすることは、当業者が適宜行い得る事項に過ぎないと 思われる。 5 また、切断した魚の尾部の血液弓門に圧力をかけて血抜きをすることが公知の技 術であることを示す証拠とされる特開 2008-212050 号公報(平成20年9月18日 公開。乙10)に開示された発明は、鋼棒及びエアノズルで神経弓門及び血液弓門 に圧力を掛け、血液及び神経を押し抜くことを特徴とするものであるところ、魚の 血抜きにエアノズルから噴出するエアを用いる点で、血液弓門に高圧の液体を噴出10 することによって血抜きを行う本件各発明とは技術的思想を異にする。したがって、 当該発明を踏まえても、前記認定は左右されない。 その他縷々被告が主張する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用 できない。 (3) 本件各発明に至る経緯15 前提事実に加え、証拠(後掲のもの(枝番を含む。)のほか、甲37、乙9、原告 本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 原告は、水産会社に28年間勤務し、日常的に業務として魚を捌いている中 で、魚を新鮮な状態で保つ捌き方を模索していた。その一環として、原告は、魚の エラを切り、先端が鋭利な器具で脳を刺して脳死させ、尾部を切断し、その切断部20 分から魚の神経を抜き、水道ホースでエラに水を流して血抜きをする方法を着想し、 遅くとも平成28年6月3日頃、養殖真鯛でこれを実演する動画を動画投稿サイト 「YouTube」にアップロードした。その後も、原告は、頭部や尾部を切断し、水を利 用して動脈から血抜きを行うことを様々な魚で実演する動画を同サイトに投稿した (甲7〜10)。 25 イ 原告と被告とのやり取り等 本件各発明に関連する原告と被告とのやり取り(主としてソーシャルネットワー キングサービスを通じて行われたもの。)等は、以下のとおりである。 (ア) 平成29年7月11日 a 被告は、原告と連絡を取り、「YouTube から拝見させて頂きましたが...P1さ んはP3さんに並ぶ衝撃を与えてくれました。もう名を遺すの決定の方だなぁ...と敬 5 服しておりやす。」などと述べた。これに対し、原告は、「P3さん?たぶん...その 方の放血の動画は見ましたが、それこそ20年以上前に同じ事しましたよ。絞め師 なら誰でも気づきます。しかし、余りに時間がかかるのと、魚が可哀想で...殺すなら 一撃で殺してやりたい...だから一番絞める事にこだわりました。」などと答えた。こ れを受けて、被告は、「いや...マジで凄いです。世界の魚を《P1式》が変える。言10 われたら解ることでも想いもつかなかった事ばっか。確かに死後硬直してなければ まだ血は抜けるんですね...でも自分では気づきませんでした。」などと述べた。 b この際、被告は、原告が使用しているホースの外径を尋ねると共に、道具の 製作をしており、ホースの径が気になっている旨や、道具が完成したら原告に試し てもらおうかと考えている旨のほか、「そいつを併用したら更に《P1式》が仕上15 がると想ってます。」などと述べた。これに対して原告が原告の処理方法には鬱血 を広げてしまうという欠点が1つだけある旨を述べたところ、被告は、既にできて いるプロトタイプの器具の使用状況を撮影した動画を送信した。この動画は、水が 入ったペットボトル、足踏み式の加圧機及び先端の形状がテーパ状のノズルをホー スで接続した器具(以下「足踏み式試作品」という。)を使用して水を噴射してい20 るものであり、被告は、これを釣り人用と説明した。これに対し、原告は、「これや と神経も抜けますね。 、 」「市場はこれを酸素ボンベに繋いで神経抜きをしてます。 、 」 「確かに船の上では役立ちますわ。神経から抜けますから。ただ、圧迫がない分、 大動脈の血はぬけますが、骨全体はどうかな?やってみたいですね!」などと感想 を述べると共に、完璧に血抜きができた骨と血抜きしていない骨の写真を送信した。 25 さらに、被告は、「面白いことに脳髄を吹き飛ばすと動脈の血もなぜか抜けます。 圧力が拮抗しているのか...?」などと述べた上、「これ視ると判り易いです。」とし て、乙5動画を送信した。乙5動画は、フレンチレストランのシェフが、魚の頭部 を半分切断した後に尾部を切断し、ノズルの形状がテーパ状のエアダスターを使用 して尾部から空気を流し込み、魚の神経を抜いている模様を撮影したものである。 その上で、被告は、 「継手屋さんに水道とエアガンの継手造ってもらう相談中です。」 5 と伝えた。 その後、被告が「魚の神経を空気で飛ばすエアガン」(エア・シュート。乙4)に 関する動画を送信し、それを踏まえたやり取りを原告と被告とで重ねた上、乙5動 画について、被告は、「シェフが7気圧に設定してるのには訳があると想います… が、それってだいたい水道の圧と同じなんです。」と述べた。 10 (以上につき、甲11〜14、21の1、乙5、6の1〜6の10) (イ) 同月12日 被告は、ノズルの形状がテーパ状のエアダスターに水道ホースとの継手を取り付 けた器具の写真を送信し、これは失敗作であると説明した。 その後、被告は、ノズルの形状が針状のエアダスターに水道ホースとの継手を取15 り付けた器具の写真を送信した上で、小さいが用途は十分に果たす旨、エアガンで あるため水道ホースとの継手は存在せず、継手を作る旨を説明すると共に、「エア ガンでないと極細ノズルが付けられないので。」、「魚によっては極細ノズルは要 らないかもです…しかし、特に血管の方までやるなら…極細は要ると思います。 な 」 どと述べた。 20 (甲21の2、乙6の11、12。なお、甲21の2につき、原告は平成29年 7月11日作成とするが、乙6の12から、同月12日作成と認める。)。 (ウ) 同年8月1日 被告は、足踏み式試作品の継手を改良したとする器具の写真を送信し、その構成、 効果や製作費用等について説明した。原告が「水の出るところはもっと細くなりま25 せんか?注射針より大きめで。」と尋ねたのに対しては、被告は、「エアーノズル の先端を砥石で研いでしまえば簡単に針に出来ます。鱗を1枚剥がして針を刺しま す♪」と回答した。これを受けて、原告は、「それなら神経まで潰せるし、逆から骨 の血も抜けますよ」、「全て切った尾びれの付け根から処理できますよ。」と意見 を述べた。これに対し、被告は、「それもありですが...鱗を1枚剥がして神経抜きワ イヤーを刺す明石浦漁港のやり方があり...それにこのやり方を合わせれば魚の傷は減 5 らせます。」と答えた。「明石浦漁港のやり方」とは、血抜きについては、脳死して 動かなくなった魚の背骨を、エラから包丁を入れて断ち切り、水に浸けて血を抜き、 神経抜きに関しては、魚の背骨上側に沿う脊髄神経に針金を通し、神経を破壊して 抜くという手法である。 また、被告は、ノズルの形状が針状のエアダスターに水道ホースを接続した器具10 (以下「針状試作品」という。)の写真を送信すると共に、「こっちは水産加工業 者用。水道ホース用です。」、「残念ながら径の太さが足りず圧力に負けて抜けて しまうので造り直しです。」などと説明し、また、どこの鱗を剥がすのかとの原告 の質問に対しては、「背の尾のなるべく後部の鱗を1枚剥がしてそこから神経を刺 します。」、「腹側の尾のなるべく後部から血管に刺すのは出来ます。」、「しかし15 ちょっと難しい…」などと答えた。これに対し、原告は、「魚を刺すってのは、色ん な魚がいるわけで、絶対素人には無理ですよ。僕のコンセプト簡単に!です。その 道具なら簡単に後ろから処理出来ると見ました!」と述べた上、被告の送信した針 状試作品の写真を自ら改めて送信し、「これは凄いとおもうよ。エアーコンプレッ サー無しで、水圧で神経か出せるなら、スーパーでも使えますよ!」などと感想を20 述べた。 (以上につき、甲16、21の3、21の4、27、乙6の13〜6の18。な お、甲21の3及び21の4につき、原告は平成29年7月11日作成とするが、 乙6の17及び6の18から、同年8月1日作成と認める。) (エ) 同月10日25 被告は、魚の脳髄を抜くと血も抜けるシステムにつき、魚の内圧も関係あるかも しれない、不思議に思っているなどと述べた。原告がこれに対して「1回ホースで やって見ましたか?脳髄は、別に抜いてませんよ。 と尋ねたところ、 」 被告は、 「ホー スのとは別です。逆にP1さんは脳髄抜きによる放血効果をまだ試されていないの では...?合わさるとすごいかもです。」などと答えた。さらに、被告が脳髄抜きに関 連してドリルの使用に言及したところ、原告は、「ドリルは面倒ですよ。」、「ドリ 5 ルするまでに大型の魚なら抑えるのが大変ですよ?絶対危険ですし。僕のやる急所 刺しが1番手取りばやく、エアーコンプレッサー使えばその穴から脳髄から神経か ら飛びでますよ。」などと述べた。被告が、これを受けて「ドリルのことは解りまし た。」などと述べたところ、原告は、「僕の期待してるのは、絞めて、ケツを切り、 そこからあの細いノズルでエアーコンプレッサーの代わりに水を送り、神経を飛ば10 して、なおかつケツから大動脈の血を抜くといった感じで捉えています。エラから の場合はどうしても圧力を加えないと大動脈からは出にくいです。」、「僕的に神 経はすればいいけどしなくてもって答えなんですよ。血を回さない為の神経抜きや と感じてます。」などと意見を述べた。これに対し、被告は、北日本神経〆師会は あえて少し血を残すという実験をしており、その方がいいという結果の感想を持っ15 ていること、「K値」と「熟成」からの観点だと血の回りだけでなく神経〆に意味 がある旨を述べた。これを受けて、原告は、骨の血はない方がよいと思う旨の意見 を述べた。 (以上につき、甲17、28。なお、甲17につき、原告は平成29年8月1日 作成とするが、甲28から、同月10日作成と認める。)20 (オ) 同年9月25日及び同月26日 原告は、同年9月25日、被告と宮崎県内で会い、一緒に血抜きの実験をしたり、 被告から針状試作品を受け取るなどした。(甲18) 同月26日、被告が、針状試作品のノズルの形状について「必要の長さがあれば イイだけ。長いから折れちゃう事故が無くなる。逆にもっと長いヤツも造ろうと思25 えば出来る…」、「コストの問題だけです。理論上は不可能ではないです。」などと 述べたところ、原告は、 「一番は水圧を抑えられたらやけど、これは難しいよね?」、 「手元で。」と尋ねた。これに対し、被告は、「手元の圧力調整ですね?了解しま した。午後に行ってきますので話して来ます。」と答えた。また、この際、被告は、 「むしろP1さんから改善点の案が出てくると想ってました...想う事はドンドン御提 案ください。可能か如何か探るのが私の役目です。」、「元々のエアロケットの先 5 端には流量調節がある訳ですから...流量調節+極細ノズルは理論上は可能です。」、 「魚屋でもなければ経験のストックがない私がP1さんを通り越して勝手に作って 売ってく事にはなんのメリットも無い。プロデュースはP1さん...手配人が私...私が 個人的に勝手に動くことはありません。」などと述べた。(甲19) (カ) 同月28日10 被告は、同月28日、原告に対し、「先端の調整エラロケットと極細ノズルセッ ト」の元売業者に問い合わせたところ、直販はやらないとの返答であった旨などを 伝えた。これに対し、原告は、「やっぱり無いと厳しいよね…その課題をクリアーし てください。僕はこれのテストに開けくれます。」などと答えた。(甲38) (キ) 同年10月頃15 a 被告は、同年10月4日、「ゴツくてもイイなら手元での流量調節器具は既 存製品のヤツが加えられます。その分のコストも上がってしまいますが。しかしエ ラ膜を切らずに従来の通り腹を少し開けてからアレを使う方法なら腹腔内がパンパ ンになることはない訳ですから流量調節器具はそんなに要らないのではと想います けど…エラと内臓はその血抜きの後にやる…試してみてください。もちろん引き継20 ぎ先端開発は考えます。」などと述べた。また、同日、被告は、原告に対し、「本体 作製について継手メーカーより返答が参りました。」、「本体はおろか先端加工す ら何度が高そうです。」などと伝えた。(甲35、41) b 被告は、同月11日、原告に対し、「ブロアー先端加工の相談はメーカーと してます。しかしその分コストはかなり上がります。なるべく低コストで手元流量25 調節の実現を考えてはおりますが…」、「秋刀魚で血抜きテストしてみました。」、 「エラと内臓除去をしてからノズル射ちしてみました。抜けますね。」、「完全に 内臓除去で腹空っぽ状態にしてから血抜きは施せます。このやり方ですと流量調節 は要らないです。」などと伝えた。(甲36) c 原告は、同月14日、YouTube に「釣り場に持っていけるP1式血抜きマシー ン(テスト)編 vol.36」と題する動画(甲22)をアップロードした。この動画内で 5 切断された魚の尾部に血抜きのために刺された器具のノズルは、針状の極細ノズル である。 また、原告は、同月24日、YouTube に「P1式工具の質問に答えてみた編 vol.38」 と題する動画(甲23)をアップロードした。この動画内で示された器具のノズル は、針状の極細ノズルである。 10 こうした針状試作品を使用した実験を通じて、原告は、針状試作品では、魚が暴 れた際等に極細ノズルが簡単に曲がるなど変形してそのままでは使用できなくなり、 元の形状に戻そうとして折れてしまうなどの不具合があると結論付けた。 (ク) 同年11月以降 a かねてより、原告と被告との間で、先端加工について、シャープペンシルの15 先端の取付け等が話題に上っていたところ、同年11月1日頃、原告は、製造業者 にテーパ状のものの製造について打診している旨を伝え、ノズルの形状をテーパ状 にすることを提案した。これに対し、被告は、「テーパーは一から造るのは難しい ですよ…精密ですからね。出来てもコストが…」、「テーパーなんて削るだけのこと だろ?…って我々は思いますが技術者達にとっては精密な事ですからね。」などと20 答えた。(甲25の3、25の4) その後、原告は、被告に対し、製造業者からテーパ状のノズルの製作は比較的簡 単である旨の回答があったことを伝えると共に、「あれより折れにくいわねぇ。」、 「やっぱり折れるのわかってるから足踏み状態よ…」(末尾には、意気消沈した気 分を示すものと見られるマークが付されている。)などと述べた。(甲25の5)25 b この頃、被告は、原告に対し、「テーパー型の噴出力は針とは違うかもです。 やってみないと判りません。」、「テーパー型だとスプレー式に噴出するかと…」、 「広がりつつ圧す感じなので針とは違う感じだと想います。」、「テーパー試して みてダメだったら針ノズルで行くしかない。その想定もしておきます。」などと伝 えた。これに対し、原告が「テーパーだけでは多分厳しそ。しっかり1〜2pは骨 の中で固定しないと暴れて手元くるって身に水が入ったら最悪よ。」と応じたとこ 5 ろ、被告は、「テーパーでも当てるというよりある程度刺せるとは想います。」、 「1〜2oなら。」と意見を述べた。しかし、原告は、「短すぎ...」、「せめて1p」 と述べた。これに対し、被告が、 「ならテーパー型はもう要らんということですか?」 と尋ねたところ、原告は、「いや、それからテーパーに繋がるように。」、「こんな 感じで、テーパーがまだ細いの。」などと、画像も送信した上で説明した。(甲2510 の7、48) また、この頃、スプレー式に否定的な意見を述べる原告に対し、被告は、「圧さ え確保出来れば反ってスプレー式の方が1個で活躍してくれることも想像しますが …」、「スプレー式でも神経弓門や血管門の内で圧の逃場が無ければ押してくれる と想いますけどね。」などと意見を述べた。しかし、原告は、「スプレー式なら僕は15 無理。」、「一度やってみた?」と答えた。これに対し、被告は、「テーパー型に先 端ノズルの後付けが無理だということでテーパー型のみで考えてましたが…アカン ですか…」などと答えた。(甲25の8、49) c 被告は、同年12月23日、「針ノズルのカットあの長さで切ったのはあれ なら曲がらないし折れないからです。でもP1さんが違うと思われるならコレって20 いう手本をみなさんに示すしかない。」などと述べた。(甲26) (4) 検討 ア 特徴的部分@について 前記各認定によれば、被告は、少なくとも平成29年8月10日頃までは、魚の 神経抜き及び血抜きにあたってはあえて少し血を残す方が良く、魚の熟成等の観点25 からは血の回りだけでなく神経絞めに意味があると考えており、このような考えに 基づき、脳髄や神経を抜くことで血抜きをするという発想を持っていたことがうか がわれる。また、被告は、この頃、「明石浦漁港のやり方」すなわち背骨上側に沿う 脊髄神経に針金を通し神経を破壊する方法に加えて水圧を使うことを提案している ことに鑑みると、尾部を切断することやそれによって血液弓門を露出させ、血液弓 門から水圧を掛けて血抜きをすることは、必ずしも想到していなかったものと推察 5 される。他方、原告は、早く確実に作業することが可能なことや骨全体まで完全に 血抜きをすることを重視し、神経抜きはすればよいがしなくてもよく、血を回さな いための神経抜きであると考えていた。原告は、当時実施していた方法はエラに水 圧を掛けて血抜きをするものであったが、この方法では鬱血を広げてしまうという 欠点があるとしていたところ、足踏み式試作品を見て、水が噴出されるノズルの先10 端部分の形状をより細くすれば十分に加圧することが可能となり、「全て切った尾 びれの付け根から処理でき」る、すなわち、尾部を切断して血液弓門を露出させ、 そこに先端を細くしたノズルを刺して水圧を掛け、神経抜きと血抜きを行う方法を 着想したことがうかがわれる。 その後の原告と被告とのやり取りは、原告が着想した上記方法を念頭に、ノズル15 の形状や流量調節器具に関する具体的検討を進めたものと理解される。 したがって、本件各発明の特徴的部分@は、被告が製作した足踏み式試作品に接 したことを契機とするものの、長年の水産会社勤務、とりわけ魚の生き締めに関す る実地での経験等を背景とした原告の着想及び具体化に基づくものといってよい。 したがって、本件各発明の特徴的部分@の完成については、被告のみならず原告も20 創作的に寄与したものというべきである。 イ 特徴的部分Aについて 前記各認定によれば、本件各発明の特徴的部分Aに関する原告と被告とのやり取 りは、以下のような経過をたどったものと理解される。 すなわち、被告は、原告とのやり取りを開始した平成29年7月11日までには25 既にノズルの先端の形状がテーパ状である足踏み式試作品を試作していたが、同月 12日には、ノズルの形状が針状のエアダスターにつき、十分に用途を果たすこと、 エアガンでないと極細ノズルが付けられないこと、魚によっては極細ノズルは要ら ないかもしれないが、特に血管の方までやるなら極細ノズルは必要と考えることな どの意見を述べた。また、原告は、同年8月1日、被告に対し、足踏み式試作品に ついて、先端部分をもっと細くすることができるかを尋ね、被告が簡単にできる旨 5 を回答すると、それであれば神経まで潰せるし、逆から骨の血も抜ける、全て切っ た尾ヒレの付け根から処理できるとの考えを示した。さらに、同日、原告は、針状 試作品について、これを用いれば簡単に後ろから処理できる、水圧で神経が出せる なら、スーパーでも使えるなどと感想を述べた。その後の同年9月の間のやり取り においても、原告と被告は、ノズルの形状については針状の極細ノズルとすること10 を念頭に検討を進めていたことがうかがわれる。 もっとも、原告は、針状試作品では魚が暴れた際等にノズルが変形等してしまう などの不具合があると結論付け、同年11月1日、被告に対し、ノズルの形状をテー パ状にすることを提案した。これに対し、被告は、当初、テーパ状とすると製造に あたって精密さが求められ、コストが掛かることなどを指摘し、消極的な態度を示15 したが、原告が製造業者からテーパ状のノズルの製作は比較的簡単である旨の回答 を得たこともあって、ノズルの形状をテーパ状とすることも検討することとした。 しかるに、原告は、その後、ノズルの形状をテーパ状とするだけでは十分ではな く、せめて先端の1p程度を針状にして魚の骨の中で固定することが必要であると し、当該針状の部位からそのままテーパ状の部位につながるノズルの形状を提案し20 た。これに対し、被告は、スプレー式に噴出するテーパ状のノズルであっても、圧 力の逃げ場がないように神経弓門や血液弓門に刺すなどすることができるのではな いか、との意見を述べたが、原告は、これに否定的な態度を示した。 このような経緯を経て、本件各発明は、あらゆる大きさの魚に対応するための血 液弓門の密着封止構造を実現すると共に、ノズル先端部の破損を抑制するため、ノ25 ズルの先端部分の形状をテーパ状にすること(特徴的部分A)をその特徴的部分の 1つとするものとして完成するに至ったものといえる。このことに鑑みると、特徴 的部分Aにつき、最終的には被告の考えに基づき発明として完成したものの、課題 を解決するための着想及びその具体化の過程においては、被告のみならず原告も創 作的に寄与したものというべきである。 ウ したがって、原告と被告は、共に本件各発明の特徴的部分@及びAの完成に 5 創作的に寄与したものといえ、原告と被告は、本件各発明の共同発明者と認められ る。これに反する原告の主張は採用できない。 エ 被告の主張について 被告は、原告の助言を受ける前に既に本件各発明を完成させていた旨を主張し、 これに沿う供述等をする。 10 しかし、着想としてであれ被告が原告とのやり取りとかかわりなく単独で本件各 発明を完成させていたことをうかがわせる検討メモその他の客観的な資料は見当た らない。その点を措くとしても、前記認定に係る本件各発明に至る経緯を見る限り、 被告は、とりわけ本件各発明の特徴的部分Aについて、原告の意見を踏まえて方針 を変更したことがうかがわれる。この方針変更は、特徴的部分Aに関わるものであ15 る以上、単に本件各発明を商品化する上で必要となったという程度にとどまるもの とはいえない。また、本件各発明を商品化した商品の販売促進につき原告の協力を 得るという被告の意図の存在は、前記認定に係る本件各発明に至る経緯からもうか がわれるものの、本件各発明の構成を具体的に示すなどして原告との議論を誘導す るなどした形跡はうかがわれず、むしろ上記のとおり原告の意見を踏まえて方針変20 更をしたことなどを踏まえると、そのような意図のみに基づくものとまでは認めら れない。 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用 できない。 (5) 小括25 以上より、本件特許は、特許法38条に違反してされたものであるから、同法1 23条1項2号所定の要件に該当すると共に、原告は本件特許に係る発明である本 件各発明について特許を受ける権利を有する者であることから、原告は、特許権者 である被告に対し、同法74条1項に基づき、その持分の移転請求権を有する。 2 本件出願の不法行為該当性等(争点2)について 不法行為の被害者が自己の権利擁護のため訴えを提起することを余儀なくされ 、 5 訴訟追行を弁護士に委任した場合、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容 された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り 、 不法行為と相当因果関係に立つものというべきである(最高裁昭和44年2月27 日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)。 しかし、本件において、原告は、冒認出願又は共同出願違反による損害として、 10 本件訴訟追行に要した弁護士費用以外の損害の主張をしていないことから、弁護士 費用以外の損害を認めることはできない。そうである以上、原告が、冒認出願等の 被害者として、本件出願により生じた損害につき本件訴えを提起することを余儀な くされたとは認められない。そうすると、原告が本件訴訟追行に要した弁護士費用 は、冒認出願等と相当因果関係のある損害とはいえない。 15 したがって、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の成立は認め られない。これに反する原告の主張は採用できない。 |
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結論
以上より、原告の主位的請求はいずれも理由がないからこれらをいずれも棄却し、 予備的請求は理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。 20 |